以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものまたは実質的に同一のものが含まれる。
本実施形態では、トロイダル式無段変速機を備える車両は、動力発生装置として、内燃機関を備えるものとして説明する。内燃機関は、例えば、ガソリン内燃機関、ディーゼル内燃機関、LPG内燃機関である。但し、動力発生装置は、内燃機関に限定されず、電動機も含まれる。また、動力発生装置は、内燃機関と電動機とが組み合わされたものでもよい。
(実施形態1)
図1は、トロイダル式無段変速機を備える車両の構成を示す概略図である。図1に示すように、車両CAは、内燃機関100から取り出された動力を車輪160へ伝えるための装置として、例えば、トルクコンバーター110と、前後進切換機構120と、トロイダル式無段変速機1と、動力伝達機構130と、ディファレンシャルギヤ140と、ドライブシャフト150とを備える。
また、車両CAには、トロイダル式無段変速機の変速比を調節するための装置である変速制御装置2が搭載される。変速制御装置2は、第1制御装置としてのエンジンECU170と、第2制御装置としてのトランスミッションECU60とを含んで構成される。また、本実施形態では、変速制御装置2は、エンジンECU170及びトランスミッションECU60以外にも、パワーマネジメントECU70も含まれて構成される。
エンジンECU170は、主に、内燃機関100の動作を制御して内燃機関100から取り出されるトルクを調節する。トランスミッションECU60は、主に、トロイダル式無段変速機1の動作を制御して、トロイダル式無段変速機1の変速比を調節する。トランスミッションECU60は、エンジンECU170とは別個に電力が供給される。パワーマネジメントECU70は、主に、エンジンECU170へ電力を供給するか否かを制御したり、トランスミッションECU60へ電力を供給するか否かを制御したりする。また、パワーマネジメントECU70は、後述する不具合対処方法を実行して、エンジンECU170に不具合が発生していないかを判定したり、エンジンECU170に不具合が発生した場合は、所定の手順を実行したりもする。
内燃機関100は、車両CAを走行させるための動力や、車両CAに搭載される各種装置を稼動させるための動力を発生させる。内燃機関100は、エンジンECU170と電気的に接続されて、エンジンECU170により動作が制御される。これにより、内燃機関100は、エンジンECU170によって、取り出されるトルクが調節される。内燃機関100から取り出されたトルクは、クランクシャフト101を介してトルクコンバーター110に伝えられる。
トルクコンバーター110は、流体の力学的作用を用いて入力側から出力側に回転を伝えると共に、入力側と出力側の回転差によりトルクを増幅させる装置である。トルクコンバーター110は、ポンプ111と、タービン112と、ロックアップクラッチ113とを含んで構成される。ポンプ111は、クランクシャフト101と連結される。タービン112は、前後進切換機構120に連結される。ポンプ111とタービン112との間には、オイルが介在される。トルクコンバーター110は、クランクシャフト101からポンプ111に伝えられるトルクを、ポンプ111とタービン112との間に介在するオイルを介して、タービン112に伝える。また、トルクコンバーター110は、車輪160側からタービン112に伝えられるトルクを、ポンプ111とタービン112との間に介在するオイルを介して、ポンプ111に伝える。
ロックアップクラッチ113は、タービン112に連結される。また、ロックアップクラッチ113は、ポンプ111に係合できるように設けられる。トルクコンバーター110は、ロックアップクラッチ113がポンプ111に係合することで、ポンプ111とタービン112との間で、オイルを介さず直接トルクを伝達する。なお、車両CAは、オイルを加圧するための装置として、オイルポンプを備える。前記オイルポンプは、内燃機関100とトルクコンバーター110との間で伝達されるトルクの一部を動力として稼動する。前記オイルポンプは、オイルを加圧して油圧制御装置50にオイルを供給したり、潤滑用のオイルを循環させたりする。
前後進切換機構120は、トルクコンバーター110とトロイダル式無段変速機1の入力ディスク10との間でトルクを伝達する。前後進切換機構120は、例えば、遊星歯車装置121と、フォワードクラッチ122と、リバースブレーキ123とを含んで構成される。フォワードクラッチ122は、油圧制御装置50から供給された作動油により、トルクの入力側と、トルクの出力側との係合の動作が制御される。以下、フォワードクラッチ122の入力側と出力側とが係合することを、フォワードクラッチ122が係合するという。
フォワードクラッチ122が係合する場合には、前後進切換機構120は、遊星歯車装置121のリングギヤとサンギヤと各ピニオンとが互いに相対回転することなく、トルクの入力側と、トルクの出力側との間でトルクが直接伝達される。つまり、フォワードクラッチ122が係合する場合には、内燃機関100からのトルクは、サンギヤに直接伝えられる。一方、フォワードクラッチ122が係合しない場合には、内燃機関100からのトルクは、リングギヤに伝えられる。
リバースブレーキ123は、油圧制御装置50からブレーキピストンに供給される作動油により、切替用キャリアとの係合の動作が制御される。リバースブレーキ123が切替用キャリアと係合する場合には、遊星歯車装置121の各ピニオンがサンギヤの周囲を公転できなくなる。一方、リバースブレーキ123が切替用キャリアと係合しない場合には、切替用キャリアが解放され、各ピニオンがサンギヤの周囲を公転できる状態となる。前後進切換機構120は、油圧制御装置50と電気的に接続されるトランスミッションECU60によりフォワードクラッチ122と、リバースブレーキ123との動作が制御されることにより、トルクの回転方向を切り替える。
トロイダル式無段変速機1は、バリエーターとして、入力ディスク10と、出力ディスク20と、パワーローラー30と、トラニオン31と、油圧サーボ機構32と、ローラー押圧機構40とを備える。また、トロイダル式無段変速機1は、油圧制御装置50を備える。トロイダル式無段変速機1は、本実施形態では、対向する2つの入力ディスク10と、出力ディスク20との間に、キャビティC1とキャビティC2との2つのキャビティが形成される。トロイダル式無段変速機1は、キャビティC1、キャビティC2に、それぞれ2つのパワーローラー30が配置される。つまり、トロイダル式無段変速機1は、2つの入力ディスク10と、1つの出力ディスク20と、4つのパワーローラー30とを備える。
入力ディスク10は、前後進切換機構120の出力軸である入力軸11と連結される。各入力ディスク10は、回転できるように入力軸11に支持される。各入力ディスク10は、出力ディスク20を挟んで入力軸11の軸方向で対向して配置される。各入力ディスク10の出力ディスク20と対向する面には、各キャビティC1、キャビティC2の各パワーローラー30にそれぞれ接触する接触面12が形成される。ここで、前後進切換機構120側と反対側の入力ディスク10bは、入力軸11に対して軸方向に移動できる。以下、前後進切換機構120側の入力ディスク10を入力ディスク10aとし、前後進切換機構120側と反対側の入力ディスク10を入力ディスク10bとする。
出力ディスク20は、動力伝達機構130と連結される。トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30を介して入力ディスク10と出力ディスク20との間でトルクを伝達する。これにより、出力ディスク20に伝えられるトルクは、動力伝達機構130、ディファレンシャルギヤ140、ドライブシャフト150を介して車輪160に伝えられる。
出力ディスク20は、入力軸11に対して回転できるように入力軸11に支持される。出力ディスク20は、2つの入力ディスク10の間に配置される。出力ディスク20の各入力ディスク10と対向する面には、各キャビティC1、キャビティC2の各パワーローラー30にそれぞれ接触する接触面21が形成される。ここで、出力ディスク20は、入力軸11に対して軸方向に移動できる。
パワーローラー30は、ローラー押圧機構40により、各入力ディスク10と、出力ディスク20とに押圧される。パワーローラー30は、この状態で転動することで、各入力ディスク10と出力ディスク20との間でトルクを伝達する。パワーローラー30は、トロイダル式無段変速機1に供給されるトラクションオイルにより、パワーローラー30と入力ディスク10の接触面12との間、及び、パワーローラー30と出力ディスク20の接触面21との間に油膜が形成される。トロイダル式無段変速機1は、この油膜のせん断力を用いて入力ディスク10と出力ディスク20との間でトルクを伝達する。
トラニオン31は、4つ設けられて、それぞれがパワーローラー30を1つずつ支持する。トラニオン31は、パワーローラー30を回転できるように支持する。また、トラニオン31は、パワーローラー30を入力ディスク10及び出力ディスク20に対して傾転できるように支持する。また、トラニオン31は、パワーローラー30を入力ディスク10及び出力ディスク20に対して入力軸11と直交する方向に移動できるように支持する。
油圧サーボ機構32は、油圧制御装置50から作動油が供給され、前記作動油の圧力によりパワーローラー30を中立位置から移動させる。すなわち、油圧サーボ機構32は、パワーローラー30を中立位置からオフセットさせるものである。油圧サーボ機構32は、回転する入力ディスク10及び出力ディスク20にパワーローラー30が接触した状態で、パワーローラー30を中立位置からオフセットすることで、パワーローラー30に傾転力を作用させる。これにより、パワーローラー30は、入力ディスク10及び出力ディスク20に対して傾転する。
ローラー押圧機構40は、ローラー押圧力を発生する。これにより、ローラー押圧機構40は、入力ディスク10及び出力ディスク20にパワーローラー30を押圧させる。ローラー押圧機構40は、本実施形態では、油圧制御装置50から作動油が供給され、前記作動油の圧力によって、ローラー押圧力を発生させる。ローラー押圧機構40は、ローラー押圧用油圧室構成部材41と、ローラー押圧用油圧室42とを有する。ローラー押圧用油圧室42は、入力ディスク10bと、ローラー押圧用油圧室構成部材41との間に形成される。
ローラー押圧機構40は、入力ディスク10bと対向するように設けられ、ローラー押圧用油圧室42の油圧により前後進切換機構120側に向かって、入力ディスク10bを押圧する。これにより、入力ディスク10bが出力ディスク20側に向かって押圧されると、ローラー押圧機構40は、入力ディスク10bと入力ディスク10aとにより、パワーローラー30及び出力ディスク20を挟み込む。これにより、ローラー押圧機構40は、ローラー押圧力を発生させる。
油圧制御装置50は、油圧サーボ機構32の作動油の圧力、及び、ローラー押圧機構40の作動油の圧力を調節する。また、油圧制御装置50は、トランスミッションの各部に潤滑油としてオイルを供給する。
トロイダル式無段変速機1は、センサー類として、例えば、傾転角センサー201と、ストロークセンサー202と、入力回転速度センサー203と、出力回転速度センサー204と、油温センサー205とを備える。傾転角センサー201は、パワーローラー30の傾転角θを検出する。傾転角センサー201は、変速制御装置2に電気的に接続される。これにより、例えばトランスミッションECU60は、傾転角センサー201により検出された傾転角である検出傾転角θrを傾転角センサー201から取得する。
ストロークセンサー202は、パワーローラー30の基準中立位置Obからのオフセット量Xを検出する。ストロークセンサー202は、変速制御装置2に電気的に接続される。これにより、例えばトランスミッションECU60は、ストロークセンサー202により検出されたオフセット量である検出オフセット量Xrをストロークセンサー202から取得する。入力回転速度センサー203は、入力ディスク10の回転速度を入力回転速度Ninとして検出する。入力回転速度センサー203は、変速制御装置2に電気的に接続される。これにより、例えばトランスミッションECU60は、入力回転速度センサー203により検出された入力回転速度Ninを入力回転速度センサー203から取得する。
出力回転速度センサー204は、出力ディスク20の回転速度を出力回転速度Noutとして検出する。出力回転速度センサー204は、変速制御装置2に電気的に接続される。これにより、例えばトランスミッションECU60は、出力回転速度センサー204により検出された出力回転速度Noutを出力回転速度センサー204から取得する。油温センサー205は、トランスミッションのオイルの温度である油温Toを検出する。油温センサー205は、変速制御装置2に電気的に接続される。これにより、例えばトランスミッションECU60は、油温センサー205により検出された油温Toを油温センサー205から取得する。
車両CAは、上記のセンサー以外に、例えば、アクセル開度センサー206と、車速センサー207と、機関回転速度センサー208とを備える。アクセル開度センサー206は、ドライバーによって操作されるアクセルペダルの操作量であるアクセル開度PAPを検出する。アクセル開度センサー206は、変速制御装置2に電気的に接続される。これにより、例えばエンジンECU170は、アクセル開度センサー206により検出されたアクセル開度PAPをアクセル開度センサー206から取得する。
車速センサー207は、車両CAが走行する速度Vを検出する。車速センサー207は、変速制御装置2に電気的に接続される。これにより、例えばパワーマネジメントECU70は、車速センサー207により検出された速度Vを車速センサー207から取得する。なお、実際には、車速センサー207は、例えば、車輪160に設けられて車輪160の回転速度を検出する。そして、トロイダル式無段変速機1は、変速制御装置2が車輪160の回転速度に基づいて速度Vを算出する。
機関回転速度センサー208は、内燃機関100のクランクシャフト101の回転速度である機関回転速度Neを検出する。機関回転速度センサー208は、変速制御装置2に電気的に接続される。これにより、例えばパワーマネジメントECU70は、機関回転速度センサー208により検出された機関回転速度Neを機関回転速度センサー208から取得する。
ここで、エンジンECU170と、トランスミッションECU60と、パワーマネジメントECU70とは、互いに電気的に接続される。具体的には、エンジンECU170と、トランスミッションECU60と、パワーマネジメントECU70とは、一つの電子基盤に実装されたり、別々の電子基盤に実装されてそれぞれの電子基盤が配線材によって電気的に接続されたりする。よって、エンジンECU170と、トランスミッションECU60と、パワーマネジメントECU70とは、それぞれが各センサーから取得した情報を互いに共有して、それぞれの制御対象の制御に前記情報を用いることができる。
トランスミッションECU60は、トロイダル式無段変速機1の変速比γを調節する。具体的には、トランスミッションECU60は、油圧制御装置50から油圧サーボ機構32に供給される作動油の圧力を調節することでトロイダル式無段変速機1の変速比γを調節する。以下に、トランスミッションECU60が変速比γを調節する方法を説明する。
トランスミッションECU60は、設定された目標変速比γoと、実変速比γrとの偏差に基づいて設定される目標オフセット量Xoと、実オフセット量Xyとの偏差に基づいて、目標オフセット指令値Ixを算出する。ここで、実変速比γrは、入力回転速度センサー203によって検出された入力回転速度Ninと、出力回転速度センサー204によって検出された出力回転速度Noutとの比である。
より具体的には、トランスミッションECU60は、本実施形態では、設定された目標変速比γoに基づいて設定されたパワーローラー30の目標傾転角θoと、実傾転角θyとの偏差である傾転角偏差Δθとに基づいて目標オフセット量Xoを設定する。そして、トランスミッションECU60は、設定された目標オフセット量Xoと実オフセット量Xyとの偏差であるオフセット量偏差ΔXに基づいて目標オフセット指令値Ixを設定する。次に、トランスミッションECU60は、設定された目標オフセット指令値Ixに基づいて変速比γをフィードバック制御する。ここで、実オフセット量Xyは、後述する実偏差オフセット量ΔXrまたは後述する推定オフセット量Xsである。
トランスミッションECU60は、パワーローラー30の実際の傾転角を実傾転角θyとして設定する。トランスミッションECU60は、本実施形態では、傾転角センサー201から取得した検出傾転角θrを実傾転角θyとして設定する。なお、実傾転角θyは、検出傾転角θrに基づいて設定されるのみではなく、設定傾転角θsに基づいて設定されてもよい。ここで、設定傾転角θsは、実変速比γrに基づいて設定されるパワーローラー30の傾転角θである。なお、実傾転角θyは、検出傾転角θrと設定傾転角θsとに基づいて設定されてもよい。
また、トランスミッションECU60は、基準中立位置Obと、パワーローラー30の実際の中立位置である実中立位置Orとの偏差である中立位置偏差ΔOを設定する。中立位置偏差ΔOを設定する理由は、トラニオン31の変形や、トロイダル式無段変速機1が格納されるトランスミッションケースの変形により、パワーローラー30の実中立位置Orが基準中立位置Obからずれることがあるためである。そこで、トランスミッションECU60は、トロイダル式無段変速機1に入力される入力トルク(トルクに基づいたトルク)Tinと、入力回転速度Ninと、実変速比γrと、油温センサー205によって検出されたトロイダル式無段変速機1のオイルの油温Toとに基づいて中立位置偏差ΔOを設定する。
トランスミッションECU60は、あらかじめ設定されている中立位置偏差ΔOマップに基づいて中立位置偏差ΔOを設定する。ここで、中立位置偏差ΔOマップは、入力トルクTinと、入力回転速度Ninと、実変速比γrと、油温Toと、中立位置偏差ΔOとの関係を記したものである。なお、中立位置偏差ΔOの設定は、上記に限定されるものではなく、パワーローラー30と入力ディスク10及び出力ディスク20との接線力(トルク)及び法線力(押圧力)とに基づいて設定されてもよい。
トランスミッションECU60は、ストロークセンサー202から取得した検出オフセット量Xrと設定された中立位置偏差ΔOとの偏差である実偏差オフセット量ΔXrを、実オフセット量Xyとして設定する(Xy=ΔXr=Xr−ΔO)。
または、トランスミッションECU60は、設定された実傾転角θyに基づいて推定される推定オフセット量Xsを、実オフセット量Xyとして設定する(Xy=Xs)。以下に、推定オフセット量Xsの推定方法を説明する。トランスミッションECU60は、本実施形態では、傾転角センサー201から取得した検出傾転角θrの微分値を実傾転角速度δθrとして算出し、算出された実傾転角速度δθrと、下記の式(1)とに基づいて、なまし実傾転角速度δθrnを算出する。ここで、Knは、なまし定数である。また、δθrn(i)は、今回の制御周期で算出されたなまし実傾転角速度δθrnである。また、δθr(i)は、今回の制御周期で算出された実傾転角速度δθrである。また、δθrn(i−1)は、前回の制御周期で算出されたなまし実傾転角速度δθrnである。
δθrn(i)=δθrn(i−1)+(δθr(i)−δθrn(i−1))×Kn…(1)
そして、トランスミッションECU60は、算出されたなまし実傾転角速度δθrn(i)と、下記の式(2)とに基づいて、推定オフセット量Xsを算出し、推定オフセット量Xsを実オフセット量Xyとして設定する。つまり、トランスミッションECU60は、実傾転角速度δθrに基づいたなまし実傾転角速度δθrnに基づいて、推定オフセット量Xsを算出する。ここで、ωoは、出力ディスク20の角速度であり、出力回転速度Noutに基づいて設定される。また、Θは、パワーローラー30の半頂角であり、あらかじめ設定される。また、R0は、キャビティC1、キャビティC2の半径であり、あらかじめ設定される。また、1+K0は、入力ディスク10の回転中心からパワーローラー30の揺動中心までの距離をR0で除算した値である。
Xs=((1+K0)×R0)/((1+K0−cos(2Θ−θr))×ωo)×δθrn…(2)
このようにして、トランスミッションECU60は、トラニオン31やケーシングが変形することに起因する実中立位置Orの基準中立位置Obからのずれを補正するように、目標オフセット指令値Ixを設定する。トランスミッションECU60は、目標オフセット指令値Ixで油圧制御装置50を制御してパワーローラー30をストロークさせる。これにより、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30の傾転角θが変化して変速する。
以上のように、トランスミッションECU60は、目標にする目標変速比と、実際の変速比である実変速比との偏差に基づいて、前記パワーローラーの前記オフセット量の目標値である目標オフセット量を求め、前記オフセット量検出手段から取得した前記実オフセット量と、前記目標オフセット量と、の偏差に基づいて、目標オフセット指令値を求め、前記パワーローラーの実際の中立位置である実中立位置と、基準中立位置と、の差に基づいて前記目標オフセット指令値を補正し、補正された前記目標オフセット指令値で前記パワーローラーをオフセットさせることで前記目標変速比に近づけるように前記変速比を調節する。
次に、エンジンECU170に不具合が生じた場合に、この不具合に対処するための不具合対処方向を説明する。なお、エンジンECU170は、不具合が生じないように設計されると共に製造される。しかしながら、より確実に車両CAの動作、特にトランスミッションの動作を制御するためには、エンジンECU170に不具合が生じた場合を想定しておく必要がある。そこで、本実施形態の1は、エンジンECU170に不具合が生じた場合、以下に説明する不具合対処方法を例えばパワーマネジメントECU70が実行する。以下に、前記不具合対処方法を説明する。
図2は、本実施形態の不具合対処方法を示すフローチャートである。ステップST101で、パワーマネジメントECU70は、エンジンECU170に不具合が生じているか否かを判定する。ここで、エンジンECU170が正常であると判定すると(ステップST101、No)、パワーマネジメントECU70は、不具合対処方法の制御周期の1周を終了し、スタートに戻る。エンジンECU170に不具合が生じていると判定すると(ステップST101、Yes)、パワーマネジメントECU70は、ステップST102に進む。
ステップST102で、パワーマネジメントECU70は、車速センサー207から速度Vを取得し、速度Vが0よりも大きいか否かを判定する。つまり、パワーマネジメントECU70は、車両CAが走行中であるか否かを判定する。速度Vが0よりも大きい場合(ステップST102、Yes)、パワーマネジメントECU70は、ステップST103へ進む。
ステップST103で、パワーマネジメントECU70は、トランスミッションECU60への電力の供給を維持する。なお、ステップST101でエンジンECU170に不具合が生じると、エンジンECU170への電力の供給の停止を要求する信号と共に、トランスミッションECU60への電力の供給の停止を要求する信号をパワーマネジメントECU70が取得する。よって、実際には、ステップST103で、パワーマネジメントECU70は、トランスミッションECU60への電力の供給を停止する要求を拒否することになる。
パワーマネジメントECU70は、ステップST103を実行すると、不具合対処方法の制御周期の1周を終了し、スタートに戻る。ここで、速度Vが0の場合(ステップST102、No)、パワーマネジメントECU70は、ステップST103を実行せずに不具合対処方法の制御周期の1周を終了し、スタートに戻る。つまり、パワーマネジメントECU70は、トランスミッションECU60への電力の供給を停止する要求を承諾し、トランスミッションECU60への電力の供給を停止する。
以上が実施形態1の不具合対処方法である。以上の不具合対処方法をパワーマネジメントECU70が実行することにより、変速制御装置2は、トロイダル式無段変速機1に伝えられるトルクを発生させる内燃機関100の動作を制御するエンジンECU170と、エンジンECU170とは別個に電力が供給されてトロイダル式無段変速機1の変速比γを調節し、エンジンECU170に不具合が生じた場合でも電力が供給されるトランスミッションECU60を備えることができる。これにより、変速制御装置2は、エンジンECU170に不具合が生じた場合であっても、トランスミッションECU60に電力が供給されているため、車両CAが停車するまで変速比を調節できる。
ここで、一般的なトロイダル式無段変速機の場合、トランスミッションECU60への電力の供給が停止されると、ローラー押圧用油圧室42に供給される作動油や、フォワードクラッチ122に供給される作動油の圧力が最大となる。よって、車両CAが走行中にトランスミッションECU60への電力が停止されると、パワーローラー30に接線力が働くため、このようなトロイダル式無段変速機では変速比が減少する。すると、バリエーターと傾転ストッパーとが接触して、バリエーターにグロスリップが生じる。これにより、このようなトロイダル式無段変速機では、バリエーターの耐久性が低下するおそれがある。
しかしながら、本実施形態のトランスミッションECU60は、車両CAが停止するまで、変速比を調節できる。よって、変速制御装置2は、トロイダル式無段変速機1の変速比の減少を抑制できる。結果として、変速制御装置2は、トロイダル式無段変速機1のバリエーターの耐久性が低下するおそれを抑制できる。
ここで、変速制御装置2は、パワーマネジメントECU70が上記の不具合対処方法を実行するものとして説明したが、例えば、変速制御装置2は、トランスミッションECU60が上記の不具合対処方法を実行してもよい。この場合、トランスミッションECU60は、速度Vが0になってから自身に供給される電力を自身で遮断する。このようなトランスミッションECU60を備える場合、変速制御装置2は、パワーマネジメントECU70を備えなくてもよい。
(実施形態2)
図3は、実施形態2の不具合対処方法を示すフローチャートである。実施形態2の不具合対処方法は、トランスミッションECU60が変速比γを調節できる期間を、図2に示す実施形態1の不具合対処方法よりも延長できる点に特徴がある。なお、図3に示すステップST201は図2に示すステップST101と同一であり、図3に示すステップST203は図2に示すステップST103と同一である。
ステップST202で、パワーマネジメントECU70は、車速センサー207から速度Vを取得し、速度Vが所定速度V1よりも大きいか否かを判定する。所定速度V1は、セカンダリ圧クラック回転速度に基づいて設定される車両CAの速度である。ここで、セカンダリ圧クラック回転速度について説明する。
トロイダル式無段変速機1は、少なくとも2系統の油圧回路を有する。本実施形態では、トロイダル式無段変速機1は、圧力が「ライン圧」のオイルが流れる油圧回路と、圧力が「セカンダリ圧」のオイルが流れる油圧回路とを有する。圧力が「ライン圧」のオイルは、前後進切換機構120のフォワードクラッチ122を動作させるための作動油や、パワーローラー30を入力ディスク10と出力ディスク20とで押圧するための作動油などである。圧力が「セカンダリ圧」のオイルは、ロックアップクラッチ113を動作させるための作動油や、トロイダル式無段変速機1の各部に供給される潤滑油などである。
クラック回転速度は、オイルポンプの性能を示す値の一つである。前記オイルポンプに入力される回転の速度が、クラック回転速度以下となると、前記オイルポンプは、オイルを必要な圧力まで加圧できなったり、オイルを必要な流量分吐出できなったりする。つまり、セカンダリ圧クラック回転速度は、機関回転速度Neがその回転速度以下になると、セカンダリ圧が必要な圧力よりも小さくなると共に、オイルポンプが必要な流量のオイルを吐出できなくなる回転速度のことである。
速度Vが所定速度V1以下の場合、セカンダリ圧のオイルの圧力が不足するため、ロックアップクラッチ113の係合が不十分になる。また、速度Vが所定速度V1以下の場合、セカンダリ圧のオイルの流量が不足するため、トロイダル式無段変速機1の各部に潤滑油を十分に供給できなくなる。よって、速度Vが所定速度V1以下の場合(ステップST202、No)、ロックアップクラッチ113を係合させるために必要な油圧を確保できないため、パワーマネジメントECU70は、ステップST203以降の手順を実行せずに、不具合対処方法の制御周期の1周を終了し、スタートに戻る。
速度Vが所定速度V1よりも大きい場合(ステップST202、Yes)、パワーマネジメントECU70は、ステップST203へ進む。この時、トロイダル式無段変速機1は、ロックアップクラッチ113を係合させておくために必要なセカンダリ圧を十分に確保できている。ステップST203で、パワーマネジメントECU70は、トランスミッションECU60への電力の供給を維持する。実際には、ステップST203で、パワーマネジメントECU70は、トランスミッションECU60への電力の供給を停止する要求を拒否する。
次に、パワーマネジメントECU70は、ステップST204へ進む。ステップST204で、パワーマネジメントECU70は、ロックアップクラッチ113の係合を強制的に維持させる。つまり、例えば、トランスミッションECU60にロックアップクラッチ113の係合を解除させる要求があった場合でも、ロックアップクラッチ113の係合を維持する。これにより、パワーマネジメントECU70は、トランスミッションECU60が変速比γを調節できる期間を延長できる。以下にその理由を説明する。
図4は、実施形態2の不具合対処方法を実行した場合の機関回転速度の変化と、実施形態2の不具合対処方法を実行しない場合の機関回転速度の変化とを比較するグラフである。図4の横軸は時間の経過を示す。また、図4では、機関回転速度Ne以外にも、エンジンECU170に不具合が生じたタイミングと、アクセル開度の変化、スロットル開度の変化、速度Vの変化、入力ディスク10に入力される入力回転速度の変化、機関回転速度Neの回転速度の変化を同じ時間軸で示す。なお、実線で示す機関回転速度Neは、実施形態2の不具合対処方法を実行した場合の機関回転速度であり、破線で示す機関回転速度Neが実施形態2の不具合対処方法を実行しない場合の機関回転速度である。
ロックアップクラッチ113の係合が解除されると、内燃機関100は、図4に示すように、機関回転速度Neが急低下する。これは、エンジンECU170に不具合が生じると、内燃機関100は、車輪160から内燃機関100に向かって伝わる被駆動トルクによってクランクシャフト101が回転しているためである。この状態で、ロックアップクラッチ113の係合が解除されると、内燃機関100に被駆動トルクが伝達されないため、仮に速度Vが一定であっても機関回転速度Neが低下する。機関回転速度Neが低下すると、ライン圧を発生させるオイルポンプへ入力される回転の速度も低下する。これにより、トロイダル式無段変速機は、ローラー押圧機構40が発生させるローラー押圧力が不足しやすくなる。また、トロイダル式無段変速機は、油圧サーボ機構32へ供給される作動油の圧力も不足しやすくなる。
しかしながら、本実施形態のトロイダル式無段変速機1は、速度Vが所定速度V1よりも大きい場合(ステップST202、Yes)、つまり、ロックアップクラッチ113が十分に係合できる場合、ロックアップクラッチ113の係合が強制的に維持される。これにより、内燃機関100は、ロックアップクラッチ113が係合されている間、クランクシャフト101が車輪160側から伝わる被駆動トルクによって回転させられる。
これにより、トロイダル式無段変速機1は、図4に実線で示すように機関回転速度Neの低下が抑制される。よって、トロイダル式無段変速機1は、ローラー押圧機構40が発生させるローラー押圧力が不足し難くなる。また、トロイダル式無段変速機1は、油圧サーボ機構32へ供給される作動油の圧力の不足も抑制できる。これにより、トランスミッションECU60は、トロイダル式無段変速機1の変速比γをより長い時間調節できる。結果として、変速制御装置2は、トロイダル式無段変速機1のバリエーターの耐久性が低下するおそれをさらに好適に抑制できる。
図3に示すステップST204を実行した後、パワーマネジメントECU70は、ステップST205へ進む。ステップST205で、パワーマネジメントECU70は、機関回転速度センサー208から機関回転速度Neを取得し、機関回転速度Neが急低下しているか否かを判定する。具体的には、パワーマネジメントECU70は、機関回転速度Neの変化率を算出し、前記変化率が所定変化率よりも大きいか否かを判定する。前記所定変化率は、例えば、図4に示すように内燃機関100がストールすると思われる機関回転速度Neの変化率である。
機関回転速度Neが急低下すると(ステップST205、Yes)、図4に示すように機関回転速度Neが仮にライン圧クラック回転速度よりも低い場合であっても、遠心油圧によってパワーローラー30がグロスリップするおそれがある。そこで、パワーマネジメントECU70は、機関回転速度Neが急低下している場合(ステップST205、Yes)、ステップST206でフォワードクラッチ122の係合を解除する。これにより、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30に接線力が働かなくなるため、バリエーターとしてのパワーローラー30がグロスリップするおそれを抑制できる。パワーマネジメントECU70は、ステップST206を実行すると、不具合対処方法の制御周期の1周を終了し、スタートに戻る。
機関回転速度Neが急低下していない場合(ステップST205、No)、フォワードクラッチ122を動作させるための圧力の作動油をフォワードクラッチ122に供給できるため、パワーマネジメントECU70は、ステップST206を実行せずに、トランスミッションECU60への電力の供給を維持すると共に、ロックアップクラッチ113を強制的に係合させた状態で不具合対処方法の制御周期の1周を終了し、スタートに戻る。
以上が実施形態2の不具合対処方法である。以上の不具合対処方法をパワーマネジメントECU70が実行することにより、変速制御装置2は、エンジンECU170に不具合が生じると、ロックアップクラッチ113を係合させ、内燃機関100の機関回転速度Neが減少する際の変化率が所定変化率よりも大きくなった場合にフォワードクラッチ122の係合を解除できる。以上により、変速制御装置2は、トランスミッションECU60が変速比γを調節できる期間を延長できると共に、バリエーターがグロスリップするおそれを抑制できる。
ここで、変速制御装置2は、パワーマネジメントECU70が上記の不具合対処方法を実行するものとして説明したが、例えば、変速制御装置2は、トランスミッションECU60が上記の不具合対処方法を実行してもよい。この場合、トランスミッションECU60は、速度Vが0になってから自身に供給される電力を自身で遮断すると共に、ロックアップクラッチ113の動作と、フォワードクラッチ122の動作とを制御する。このようなトランスミッションECU60を備える場合、変速制御装置2は、パワーマネジメントECU70を備えなくてもよい。