一般に、車両の旋回応答は運転者の操舵操作に対し遅れて発生し、また運転者の操舵操作の速さには限界があるため、ステアリングギヤ比が大きい場合には、走行路の蛇行が大きく運転者が速く操舵操作しなければならない状況に於いて、運転者は車両の旋回応答の遅れを感じ易く、車両の旋回応答性が低下したと感じる。そのため走行路幅に応じてステアリングギヤ比を制御する上述の如き従来の操舵制御装置に於いては、車両が大きく蛇行する狭路を走行するような状況に於いて、走行路幅が小さいことに対応してステアリングギヤ比が大きい値に制御されると、運転者は車両の旋回応答性が低下し運転操作をし難くなったと感じるという問題がある。
また上記問題を解消すべく、走行路幅に応じて制御されるステアリングギヤ比が小さい値に設定されると、車両が狭路を走行するような状況に於いて運転者が車両の旋回応答性が高すぎると感じ、走行路幅に応じたステアリングギヤ比の制御による車両の狭路走行性を効果的に向上させることができない。
本発明は、走行路幅に応じてステアリングギヤ比を制御する従来の操舵制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、走行路幅が小さくステアリングギヤ比が大きい値に制御されるときには走行路幅が大きくステステアリングギヤ比が小さい値に制御されるときに比して運転者の操舵操作量の変化に対する操舵輪の舵角変化の位相を進み側へ変化させることにより、走行路が直進走行路である場合のみならず蛇行走行路である場合についても、狭路走行時に運転者が感じる車両の旋回応答性を最適化することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
上述の主要な課題は、請求項1の構成、即ちステアリングギヤ比可変手段と、前記ステアリングギヤ比可変手段を制御することによりステアリングギヤ比を制御する制御手段と、走行路幅を検出する手段とを有し、前記制御手段は走行路幅が小さいときには走行路幅が大きいときに比して前記ステアリングギヤ比を大きくする車両の操舵制御装置に於いて、前記制御手段は走行路幅が小さいときには走行路幅が大きいときに比して操舵伝達比の微分ゲインを大きくすることを特徴とする車両の操舵制御装置によって達成される。
上記請求項1の構成によれば、走行路幅が小さいときには走行路幅が大きいときに比してステアリングギヤ比が大きくされるだけでなく、操舵伝達比の微分ゲインも大きくされるので、車両が大きく蛇行する狭路を走行するような状況に於いて、運転者により操舵速度が速い操舵操作が行われる場合には、操舵輪を応答性よく転舵することができ、これにより車両が狭路を実質的に直進走行する際に於ける車両の安定的な走行を確保しつつ、車両が蛇行走行路に沿って走行する際に運転者が車両の旋回応答性が低下し運転操作をし難くなったと感じることを防止することができ、従って走行路が直進走行路である場合のみならず蛇行走行路である場合についても、狭路走行時に運転者が感じる車両の旋回応答性を最適化することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記制御手段は車両の走行に伴い走行路幅が変動しても、運転者の操舵操作量の大きさが直進判定基準値以上であるときには、前記走行路幅に基づく前記ステアリングギヤ比及び前記微分ゲインの変更を行わないよう構成される(請求項2の構成)。
上記請求項2の構成によれば、車両の走行に伴い走行路幅が変動しても、運転者の操舵操作量の大きさが直進判定基準値以上であるときには、走行路幅に基づくステアリングギヤ比及び微分ゲインの変更が行われないので、運転者により操舵操作が行われている状況に於いてステアリングギヤ比及び微分ゲインが変化し車両の旋回特性が変化することに起因して運転者が違和感を覚えることを確実に防止することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記制御手段は運転者が進路変更の操舵操作をしているか否かを判定し、運転者が進路変更の操舵操作をしていると判定したときには、少なくとも前記ステアリングギヤ比を前記走行路幅に基づいて変更される値よりも小さい値に制御するよう構成される(請求項3の構成)。
上記請求項3の構成によれば、運転者が進路変更の操舵操作をしていると判定されたときには、少なくともステアリングギヤ比が走行路幅に基づいて制御される値よりも小さい値に制御されるので、運転者が進路変更の操舵操作をする状況に於いて、ステアリングギヤ比が大きいことに起因して車両の旋回応答性が不足することを防止し、容易に且つ確実に進路変更し得るようにすることができる。
また本発明によれば、上記請求項3の構成に於いて、前記制御手段は運転者の操舵操作量の変化率の大きさが進路変更判定基準値以上であるときに、運転者が進路変更の操舵操作をしていると判定するよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項4の構成によれば、運転者の操舵操作量の変化率の大きさが進路変更判定基準値以上であるときに、運転者が進路変更の操舵操作をしていると判定されるので、運転者が進路変更の操舵操作をしているときには、そのことを確実に判定し、少なくともステアリングギヤ比を走行路幅に基づいて制御される値よりも小さい値に制御することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記制御手段は車両が車両前方の障害物に衝突する虞れがあるか否かを判定し、車両が車両前方の障害物に衝突する虞れがあると判定したときには、少なくとも前記ステアリングギヤ比を前記走行路幅に基づいて変更される値よりも小さい値に制御するよう構成される(請求項5の構成)。
上記請求項5の構成によれば、車両が車両前方の障害物に衝突する虞れがあると判定されたときには、少なくともステアリングギヤ比が走行路幅に基づいて変更される値よりも小さい値に制御されるので、運転者が衝突回避のための進路変更の操舵操作を開始する際に、ステアリングギヤ比が大きいことに起因して車両の旋回応答性が不足することを防止し、容易に且つ確実に衝突回避のための進路変更し得るようにすることができる。
また本発明によれば、上記請求項1乃至5の何れかの構成に於いて、前記制御手段は運転者の操舵操作量の大きさが大きいときには運転者の操舵操作量の大きさが小さいときに比して、少なくとも前記ステアリングギヤ比を小さい値に制御するよう構成される(請求項6の構成)。
上記請求項6の構成によれば、運転者の操舵操作量の大きさが大きいときには運転者の操舵操作量の大きさが小さいときに比して、少なくともステアリングギヤ比が小さい値に制御されるので、運転者の進路変更の要求度合に応じて少なくともステアリングギヤ比を制御することができ、これにより運転者の進路変更の要求度合に応じて車両の旋回応答性を制御することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6の何れかの構成に於いて、制御手段は少なくとも車速に基づいて基本目標ステアリングギヤ比及び基本目標微分ゲインを演算し、走行路幅が小さいときには走行路幅が大きいときに比して目標ステアリングギヤ比演算用補正係数及び目標微分ゲイン演算用補正係数が大きくなるよう走行路幅に基づいて目標ステアリングギヤ比演算用補正係数及び目標微分ゲイン演算用補正係数を演算し、基本目標ステアリングギヤ比と目標ステアリングギヤ比演算用補正係数との積として目標ステアリングギヤ比を演算すると共に、基本目標微分ゲインと目標微分ゲイン演算用補正係数との積として目標微分ゲインを演算することにより、走行路幅が小さいときには走行路幅が大きいときに比してステアリングギヤ比及び微分ゲインを大きくするよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、制御手段は所定の時間毎に目標ステアリングギヤ比演算用補正係数及び目標微分ゲイン演算用補正係数を演算し、車両の走行に伴い走行路幅が変動しても、運転者の操舵操作量の大きさが直進判定基準値以上であるときには、目標ステアリングギヤ比演算用補正係数及び目標微分ゲイン演算用補正係数を前回値に維持することにより、走行路幅に基づくステアリングギヤ比及び微分ゲインの変更を行わないよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6の何れかの構成に於いて、制御手段は少なくとも車速に基づいて基本目標ステアリングギヤ比及び基本目標微分ゲインを演算し、走行路幅が小さいときには走行路幅が大きいときに比して第一の目標ステアリングギヤ比演算用補正係数及び目標微分ゲイン演算用補正係数が大きくなるよう走行路幅に基づいて第一の目標ステアリングギヤ比演算用補正係数及び目標微分ゲイン演算用補正係数を演算し、運転者の操舵操作量の大きさが大きいときには運転者の操舵操作量の大きさが小さいときに比して第二の目標ステアリングギヤ比演算用補正係数が小さくなるよう運転者の操舵操作量に基づいて第二の目標ステアリングギヤ比演算用補正係数を演算し、基本目標ステアリングギヤ比と第一の目標ステアリングギヤ比演算用補正係数と第二の目標ステアリングギヤ比演算用補正係数との積として目標ステアリングギヤ比を演算すると共に、基本目標微分ゲインと目標微分ゲイン演算用補正係数との積として目標微分ゲインを演算することにより、走行路幅が小さいときには走行路幅が大きいときに比してステアリングギヤ比及び微分ゲインを大きくし、運転者の操舵操作量が大きいときには運転者の操舵操作量が小さいときに比してステアリングギヤ比を小さくするよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3の構成に於いて、制御手段は所定の時間毎に第一及び第二の目標ステアリングギヤ比演算用補正係数及び目標微分ゲイン演算用補正係数を演算し、車両の走行に伴い走行路幅が変動しても、運転者の操舵操作量の大きさが直進判定基準値以上であるときには、第一及び第二の目標ステアリングギヤ比演算用補正係数及び目標微分ゲイン演算用補正係数を前回値に維持することにより、走行路幅に基づくステアリングギヤ比及び微分ゲインの変更を行わないよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3又は4の構成に於いて、制御手段は車速が低いときには車速が高いときに比して第二の目標ステアリングギヤ比演算用補正係数が小さくなるよう運転者の操舵操作量及び車速に基づいて第二の目標ステアリングギヤ比演算用補正係数を演算するよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1乃至5の何れかの構成に於いて、制御手段は走行路幅が基準値以上であるときには、目標ステアリングギヤ比を基本目標ステアリングギヤ比に設定すると共に、目標微分ゲインを基本目標微分ゲインに設定するよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3乃至5又は上記好ましい態様1乃至6の何れかの構成に於いて、制御手段はステアリングギヤ比及び微分ゲインを走行路幅に基づいて変更される値よりも小さい値に制御するよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6又は上記好ましい態様1乃至7の何れかの構成に於いて、制御手段はステアリングギヤ比及び微分ゲインを小さい値に制御するよう構成される(好ましい態様8)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6又は上記好ましい態様1乃至8の何れかの構成に於いて、車両は操舵アシストトルク制御手段を有し、制御手段はステアリングギヤ比及び操舵伝達比の微分ゲインを大きくするときには、操舵アシストトルク制御手段により発生される操舵アシストトルクを低減するよう構成される(好ましい態様9)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は電動式パワーステアリング装置が搭載された車両に適用された本発明による車両の操舵制御装置の一つの実施例を示す概略構成図である。
図1に於いて、操舵制御装置10は車両12に搭載され、転舵角可変装置14及びこれを制御する電子制御装置16を含んでいる。また図1に於いて、18FL及び18FRはそれぞれ車両12の操舵輪としての左右の前輪を示し、18RL及び18RRはそれぞれ左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪18FL及び18FRは運転者によるステアリングホイール20の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動式パワーステアリング装置22によりラックバー24及びタイロッド26L及び26Rを介して転舵される。
ステアリングホイール20はアッパステアリングシャフト28、転舵角可変装置14、ロアステアリングシャフト30、ユニバーサルジョイント32を介してパワーステアリング装置22のピニオンシャフト34に駆動接続されている。図示の実施例に於いては、転舵角可変装置14はハウジング14Aの側にてアッパステアリングシャフト28の下端に連結され、回転子14Bの側にてロアステアリングシャフト30の上端に連結された補助転舵駆動用の電動機36を含んでいる。
かくして転舵角可変装置14はアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を回転駆動することにより、左右の前輪18FL及び18FRをステアリングホイール20に対し相対的に補助転舵駆動することによりステアリングギヤ比を増減変化させるステアリングギヤ比可変手段として機能し、電子制御装置16の舵角制御部により制御される。
尚アッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を回転駆動することができない異常が転舵角可変装置14に発生すると、図1には示されていないロック装置が作動し、アッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30の相対回転角度が変化しないよう、ハウジング14A及び回転子14Bの相対回転が機械的に阻止される。
図示の実施例に於いては、電動式パワーステアリング装置22はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電動機38と、電動機38の回転トルクをラックバー24の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構40とを有する。電動式パワーステアリング装置22は電子制御装置16の電動式パワーステアリング装置(EPS)制御部によって制御され、ハウジング44に対し相対的にラックバー24を駆動する補助操舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する補助操舵アシスト力発生装置として機能する。尚補助操舵アシスト力発生装置は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
図示の実施例に於いては、アッパステアリングシャフト28には該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θとして検出する操舵角センサ50及び操舵トルクTsを検出する操舵トルクセンサ52が設けられており、操舵角θ及び操舵トルクTsを示す信号は電子制御装置16へ入力される。電子制御装置16には回転角度センサ54により検出された転舵角可変装置14の相対回転角度θre、即ちアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト30の相対回転角度を示す信号、車速センサ56により検出された車速Vを示す信号が入力される。
また車両12の前端部には車両の前方を撮影するCCDカメラ58及び60が設けられており、電子制御装置16にはCCDカメラ58及び60により撮影された車両前方の画像情報を示す信号が入力される。電子制御装置16はCCDカメラ58及び60より入力される車両前方の画像情報に基づきそれらの視差を利用して自車が走行路内にて横方向に移動可能な範囲として走行路幅Wdを演算する。例えば走行路幅Wdは、走行路が複数車線の道路である場合には複数車線全体の幅であり、走行路が片道一車線の走行路である場合にはその一車線の幅であり、走行路が中央分離線のない道路である場合にはその道路幅である。
更に車両12の前端部にはレーダセンサ62が設けられており、レーダセンサ62は例えば探知波としてのミリ波を車両前方へ放射するミリ波レーダであり、前方の車両や道路標識等の障害物を検出し、その障害物と車両12との相対距離Lre及び相対速度Vreを検出し、それらの検出値を信号として電子制御装置16へ送出するようになっている。電子制御装置16はレーダセンサ62及びCCDカメラ58、60よりの信号に基づき車両12の進行方向前方に障害物が存在するか否かを判定する。
そして電子制御装置16は車両前方に障害物が存在すると判定したときには、例えば相対距離Lreを相対速度Vreにて除算することにより、車両12が障害物に衝突する虞れがあるか否かを判定し、車両12が障害物に衝突する虞れがあると判定したときには、図1には示されていない制駆動力制御装置へ指令信号を出力することにより、車両を自動的に減速させる。
尚電子制御装置16の各制御部はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含むものであってよい。また操舵角センサ50、操舵トルクセンサ52、回転角度センサ54はそれぞれ車両の左旋回方向への操舵又は転舵の場合を正として操舵角θ、操舵トルクTs、相対回転角度θreを検出する。
後に詳細に説明する如く、電子制御装置16は、車速Vが高いほど大きくなるよう、車速Vに基づき所定の操舵特性を達成するための基本目標ステアリングギヤ比Rsbt及び操舵伝達比の基本目標微分ゲインGdbtを演算する。また電子制御装置16は、走行路幅Wdが小さいほど大きくなるよう、走行路幅Wdに基づいて目標ステアリングギヤ比についての狭路補正係数Ks及び目標微分ゲインについての狭路補正係数Kdを演算する。また電子制御装置16は、操舵角θの絶対値が大きいほど小さくなるよう、操舵角θの絶対値に基づいて目標ステアリングギヤ比についての補正係数Knを演算する。
そして電子制御装置16は、基本目標ステアリングギヤ比Rsbtと狭路補正係数Ksと補正係数Knとの積として目標ステアリングギヤ比Rstを演算すると共に、基本目標微分ゲインGdbtと狭路補正係数Kdとの積として目標微分ゲインGdtを演算する。更に電子制御装置16は、操舵角θを目標ステアリングギヤ比Rstにて除算した値と、目標微分ゲインGdtと操舵角速度θdとの積との和を目標ピニオン角θptとして演算し、目標ピニオン角θptと操舵角θとの偏差として転舵角可変装置14の目標相対回転角度θretを演算し、転舵角可変装置14の相対回転角度θreが目標相対回転角度θretになるよう転舵角可変装置14を制御する。
また電子制御装置16は、車両の走行に伴い走行路幅Wdが変化し、狭路補正係数Ks、補正係数Kn、狭路補正係数Kdを変更すべき状況であっても、車両が旋回状態にあるときには狭路補正係数Ks、補正係数Kn、狭路補正係数Kdを変更せず、これにより車両が旋回状態にある状況に於いて目標ステアリングギヤ比Rst及び操舵伝達比の目標微分ゲインGdtが変化し車両の旋回応答性が変化することを防止する。
また電子制御装置16は、車両12が前方の障害物に衝突する虞れがあるときや運転者が車線変更の操舵操作をしているときには、走行路幅Wdに基づく目標ステアリングギヤ比Rst及び操舵伝達比の目標微分ゲインGdtの補正や操舵角θの絶対値に基づく目標ステアリングギヤ比Rstの補正を行わず、目標ステアリングギヤ比Rst及び操舵伝達比の目標微分ゲインGdtをそれぞれ基本目標ステアリングギヤ比Rsbt及び基本目標微分ゲインGdbtに設定し、これにより運転者による衝突回避の進路変更や車線変更を行い易くする。
更に電子制御装置16は、操舵トルクTs及び車速Vに基いて操舵アシスト力を発生するための目標アシストトルクTaを演算し、アシストトルクが目標アシストトルクTaになるよう電動式パワーステアリング装置22を制御することにより運転者の操舵負担を軽減する。そして電子制御装置16は、走行路幅Wdに基づいて目標ステアリングギヤ比Rst及び操舵伝達比の目標微分ゲインGdtの増大補正するときには、電動式パワーステアリング装置22により発生される操舵アシストトルクを低減し、これにより車両が狭路を走行する際の操舵反力を相対的に高くして運転者が狭路に於いて車両を運転し易くする。
尚、上述の基本目標ステアリングギヤ比Rsbt及び基本目標微分ゲインGdbtの演算や。操舵アシスト力の制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、これらの制御は当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。
次に図2乃至図4に示されたフローチャートを参照して図示の実施例に於ける車両の操舵制御について説明する。尚図2は操舵制御のメインルーチンを示すフローチャートであり、図3は図2に示されたフローチャートのステップ300に於ける狭路補正係数Ks及びKdの演算ルーチンを示すフローチャートであり、図4は操舵アシストトルクの制御ルーチンを示すフローチャートである。また図2及び図4に示されれたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
図2に示された操舵制御のメインルーチンのステップ210に於いては、操舵角θを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ220に於いては車速Vに基づき図5に示されたマップより基本目標ステアリングギヤ比Rsbtが演算され、ステップ230に於いては車速Vに基づき図6に示されたマップより基本目標微分ゲインGdbtが演算される。
ステップ300に於いては図3に示されたフローチャートに従って後述の如く目標ステアリングギヤ比についての狭路補正係数Ks及び補正係数Knが演算されると共に、目標微分ゲインについての狭路補正係数Kdが演算され、ステップ510に於いては基本目標ステアリングギヤ比Rsbtと狭路補正係数Ksと補正係数Knとの積として目標ステアリングギヤ比Rstが演算され、ステップ520に於いては基本目標微分ゲインGdbtと狭路補正係数Kdとの積として目標微分ゲインGdtが演算される。
ステップ530に於いては操舵角θの時間微分値を操舵角速度θdとして、下記の式1に従って目標ピニオン角θptが演算されると共に、下記の式2に従って目標ピニオン角θptと操舵角θとの偏差として転舵角可変装置14の目標相対回転角度θretが演算され、ステップ540に於いては転舵角可変装置14の相対回転角度θreが目標相対回転角度θretになるよう転舵角可変装置14が制御されることにより、ステアリングギヤ比が制御される。
θpt=θ/Rst+Gdt・θd ……(1)
θret=θpt−θ ……(2)
図3に示された補正係数Ks、Kn、Kdの演算ルーチンのステップ310に於いては、車両12がその前方の障害物に衝突する虞れがあるか否かの判別、即ち運転者がその後衝突回避のための急激な進路変更の操舵操作をする虞れがあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときはステップ370へ進み、否定判別が行われたときにはステップ315へ進む。
ステップ315に於いては車速Vが高いほど小さくなるよう車速Vに基づいて運転者の急操舵判定の基準値θdsが演算されると共に、操舵角速度θdの絶対値が運転者の急操舵判定の基準値θds以上であるか否かの判別、即ち運転者が危険回避等のめにた急操舵による旋回を希望しているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときはステップ370へ進み、否定判別が行われたときにはステップ320へ進む。
ステップ320に於いては車速Vが高いほど大きくなるよう車速Vに基づいて狭路判定の基準値Wdoが演算されると共に、走行路幅Wdが狭路判定の基準値Wdo以下であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときはステップ360へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ325へ進む。
ステップ325に於いては車速Vが低速走行判定の基準値Vo(正の定数)以下であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときはステップ360へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ330へ進む。
ステップ330に於いてはフラグFが0であるか否かの判別、即ち目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtについて狭路補正が実行されていないか否かの判別が行われ、否定判別、即ち狭路補正が実行されている旨の判別が行われたときはステップ340へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ335へ進む。
ステップ335に於いては操舵角θの絶対値が車両の直進判定の基準値θo(θsよりも小さい正の定数)以下であるか否かの判別、即ちステアリングホイール20が実質的に直進位置にあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときはフラグF及び補正係数Ks、Kn、Kdが変更されることなく前回値に維持されたままステップ510へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ340に於いてフラグFが1にセットされる。
ステップ345に於いては走行路幅Wdに基づき図7に示されたマップより目標ステアリングギヤ比についての狭路補正係数Ksが演算され、ステップ350に於いては操舵角θ及び車速Vに基づき図8に示されたマップより目標ステアリングギヤ比についての補正係数Knが演算され、ステップ355に於いては走行路幅Wdに基づき図9に示されたマップより目標微分ゲインについての狭路補正係数Kdが演算され、しかる後ステップ510へ進む。
ステップ360に於いてはフラグFが1であるか否かの判別、即ち目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtについて狭路補正が実行されているか否かの判別が行われ、否定判別、即ち狭路補正が実行されていない旨の判別が行われたときはステップ370へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ365へ進む。
ステップ365に於いては上記ステップ335の場合と同様、操舵角θの絶対値が車両の直進判定の基準値θo以下であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときはフラグF及び補正係数Ks、Kn、Kdが変更されることなく前回値に維持されたままステップ510へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ370に於いてフラグFが0にリセットされ、ステップ375に於いて目標ステアリングギヤ比についての狭路補正係数Ks及び補正係数Kn、目標微分ゲインについての狭路補正係数Kdがそれぞれ1にセットされ、しかる後ステップ510へ進む。
図4に示された操舵アシストトルクの制御ルーチンのステップ410に於いては、操舵トルクTsを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ420に於いては操舵トルクTsに基づき図10に示されたグラフに対応するマップより基本アシストトルクTabが演算され、ステップ430に於いては車速Vに基づき図11に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvが演算される。
ステップ440に於いてはフラグFが1であるか否かの判別、即ち目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtについて狭路補正が実行されているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときはステップ450に於いて補正係数Ktが1に設定された後ステップ470へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ460に於いて走行路幅Wdに基づき図12に示されたマップより補正係数Ktが演算された後ステップ470へ進む。
ステップ470に於いては補正係数Ktと車速係数Kvと基本アシストトルクTabとの積として目標アシストトルクTaが演算され、ステップ480に於いては目標アシストトルクTaに対応する制御信号がモータ38へ出力され、これによりアシストトルクが目標アシストトルクTaになるようアシストトルクの制御が実行される。
次に上述の如く構成された実施例に於けるステアリングギヤ比及び操舵アシストトルクの制御を種々の場合について説明する。
(1)車両が幅の広い走行路を走行する場合
車両が幅の広い走行路を走行し、運転者の操舵操作の虞れがなく、運転者の操舵操作速度も小さい場合には、図3に示されたフローチャートのステップ310乃至320に於いて否定判別が行われ、またステップ360に於いて否定判別が行われ、ステップ375に於いて目標ステアリングギヤ比についての狭路補正係数Ks及び補正係数Kn、目標微分ゲインについての狭路補正係数Kdがそれぞれ1にセットされる。
また車両が幅の広い走行路を走行し、運転者の操舵操作の虞れがある場合又は運転者の操舵操作速度が大きい場合には、ステップ310又は315に於いて肯定判別が行われるので、この場合にもステップ375に於いて目標ステアリングギヤ比についての狭路補正係数Ks及び補正係数Kn、目標微分ゲインについての狭路補正係数Kdがそれぞれ1にセットされる。
従って車両が幅の広い走行路を走行する場合には、運転者により操舵操作が行われているか或いはその虞れがあるか否かに拘わらず、目標ステアリングギヤ比Rstは増大補正されることなく基本目標ステアリングギヤ比Rsbtと同一の値に設定され、目標微分ゲインGdtも増大補正されることなく基本目標微分ゲインGdbtと同一の値に設定される。
(2)車両が幅の狭い走行路を低速にて実質的に直進走行する場合
この場合には、ステップ310及び315に於いて否定判別が行われるが、ステップ320及び325に於いて肯定判別が行われ、まずステップ330及び335に於いて肯定判別が行われ、これによりステップ340に於いてフラグFが1にセットされ、ステップ345に於いて走行路幅Wdが小さいほど目標ステアリングギヤ比についての狭路補正係数Ksが大きくなるよう、走行路幅Wdに応じて狭路補正係数Ksが演算され、ステップ350に於いて操舵角θの絶対値が大きく車速Vが高いほど小さくなるよう、これらに応じて補正係数Knが演算され、ステップ355に於いて走行路幅Wdが小さいほど目標微分ゲインについての狭路補正係数Kdが大きくなるよう、走行路幅Wdに応じて狭路補正係数Kdが演算される。
またフラグFが一旦1にセットされると、ステップ330に於いて否定判別が行われ、ステップ335の判別が行われることなくステップ345及び355に於いてそれぞれ走行路幅Wdに応じて狭路補正係数Ks及びKdが演算され、ステップ350に於いて操舵角θの絶対値及び車速Vに応じて補正係数Knが演算される。
狭路補正係数Ks若しくは補正係数Knが大きい値に設定されると、目標ステアリングギヤ比Rstが大きくなり、ステアリングホイール20の回転角度に対する左右前輪の舵角の変化量の比が小さくなるので、運転者の操舵操作量に対する車両の横方向への移動量の比が小さくなり、運転者は幅が狭い走行路に沿って車両を走行させ易くなる。
また一般に、目標ステアリングギヤ比Rstが大きくなると、運転者の操舵操作量に対する車両の横方向への旋回移動量の比が小さくなるため、特に走行路が大きく蛇行しているような状況に於いて、速く大きく操舵しなければならなくなり、そのため運転者は車両の旋回応答性が低下したように感じる。
図示の実施例によれば、車両が幅の狭い走行路を低速にて実質的に直進走行した後、旋回又は蛇行走行する場合には、車両が幅の狭い走行路を低速にて実質的に直進走行する際にフラグFが1にセットされるので、その後車両が旋回又は蛇行走行するようになっても、狭路補正係数Ksが大きい値に設定されると共に、目標微分ゲインについての狭路補正係数Kdも大きくなるよう演算され、これにより目標ステアリングギヤ比Rstが大きくなるときには目標微分ゲインGdtも大きくされ、これによりステアリングホイール20の回転角度の変化に対する左右前輪の舵角の変化の位相が進められる。従って車両が直進走行した後に大きく蛇行する走行路を走行するような状況に於いて、運転者が車両の旋回応答性が低下したように感じることを防止することができる。
また目標ステアリングギヤ比Rstが増大補正されるときには目標微分ゲインGdtも同時に増大補正されるが、車両が実質的に直進走行する状態にあるときには、運転者により速い操舵速度にて操舵操作される訳ではないので、目標微分ゲインGdtが大きくされても、このことによって狭路に於ける車両の直進走行安定性が悪化されることはない。
(3)車両が幅の狭い走行路を低速にて走行路に沿って旋回又は蛇行走行する場合
この場合にもステップ310及び315に於いて否定判別が行われ、ステップ320乃至330に於いて肯定判別が行われるが、ステップ335に於いて否定判別が行われ、フラグFが0に維持されると共に、狭路補正係数Ks、Kd及び補正係数Knがそれぞれ1に維持される。
従って車両が幅の狭い走行路を低速にて走行していても、車両が旋回又は蛇行し操舵角θの大きさが大きい状況に於いては、補正係数Ks、Kn、Kdが変更されること及びこれにより目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtが増大補正されることを防止することができ、よって目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtが変化されることにより車両が旋回したり蛇行走行したりする際に車両の旋回特性が変化すること及びこれに起因して運転者が違和感を感じることを確実に防止することができる。
(4)車両が幅の狭い走行路を中高速にて走行する場合
一般に、走行路の幅が狭い場合には、車両が中高速にて走行することは困難である。従ってステップ320に於いて肯定判別が行われる場合にはステップ325に於いても肯定判別が行われるので、ステップ325は車両が幅の狭い走行路を走行しているか否かの判定を確実にするためのものである。
しかし車両が幅の狭い走行路を中高速にて走行する場合が全くない訳ではなく、この場合にはステップ310及び315に於いて否定判別が行われ、ステップ320に於いて肯定判別が行われるが、ステップ325に於いて否定判別が行われ、目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtの増大補正中でなければフラグFが0であるので、ステップ360に於いて否定判別が行われ、ステップ375に於いて狭路補正係数Ks、Kd及び補正係数Knがそれぞれ1に維持され、目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtは増大補正されない。
また目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtの増大補正中である場合には、まずステップ360に於いて肯定判別が行われるが、車両が旋回中でなければ、ステップ365に於いて肯定判別が行われ、ステップ375に於いて狭路補正係数Ks、Kd及び補正係数Knがそれぞれ1に戻され、これにより目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtの増大補正が終了する。
(5)車両が幅の狭い走行路より幅の広い走行路へ移動する場合
この場合にもステップ310及び315に於いて否定判別が行われるが、車両が幅の広い走行路へ出た段階でステップ320に於いて否定判別が行われ、ステップ360に於いて肯定判別が行われる。
車両が幅の狭い走行路より幅の広い走行路へ実質的に直進状態にて移動する場合には、ステップ365に於いて肯定判別が行われるので、ステップ375に於いて狭路補正係数Ks、Kd及び補正係数Knがそれぞれ1に戻され、これにより目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtの増大補正が終了する。
これに対し車両が幅の狭い走行路より幅の広い走行路へゆっくりと旋回しながら移動する場合には、ステップ365に於いて否定判別が行われるので、フラグF及び補正係数Ks、Kn、Kdは変更されることなく前回値に維持される。従って車両が幅の狭い走行路より幅の広い走行路へゆっくりと旋回しながら移動する場合に、補正係数Ks、Kn、Kdが変更されること及びこれにより目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtが低減補正されることを防止し、これにより幅の狭い走行路より幅の広い走行路へゆっくりと旋回しながら移動する際に車両の旋回特性が変化すること及びこれに起因して運転者が違和感を感じることを確実に防止することができる。
(6)車両が幅の広い走行路より幅の狭い走行路へ移動する場合
この場合にもステップ310及び315に於いて否定判別が行われるが、車両が幅の狭い走行路へ進入した段階でステップ320に於いて肯定判別が行われ、ステップ330に於いて肯定判別が行われる。
車両が幅の広い走行路より幅の狭い走行路へ実質的に直進状態にて移動する場合には、ステップ335に於いて肯定判別が行われるので、ステップ345及び355に於いてそれぞれ走行路幅Wdに応じて狭路補正係数Ks及びKdが演算され、ステップ350に於いて操舵角θの絶対値及び車速Vに応じて補正係数Knが演算され、これにより目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtの増大補正が開始される。
これに対し車両が幅の広い走行路より幅の狭い走行路へゆっくりと旋回しながら移動する場合には、ステップ335に於いて否定判別が行われるので、フラグFは0に維持され、補正係数Ks及びKdは変更されることなく前回値である1に維持される。従って車両が幅の広い走行路より幅の狭い走行路へゆっくりと旋回しながら移動する場合に、狭路補正係数Ks、Kn、Kdが変更されること及びこれにより目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtが増大補正されることを防止し、これにより幅の広い走行路より幅の狭い走行路へゆっくりと旋回しながら移動する際に車両の旋回特性が変化すること及びこれに起因して運転者が違和感を覚えることを確実に防止することができる。
(7)運転者が車両の進路を急激に変更する場合
運転者が車両前方の障害物との衝突を回避すべく急な操舵操作を行う場合の如く、運転者が車両の進路を急激に変更する場合には、ステアリングギヤ比及び操舵伝達比の微分ゲインは運転者による車両の進路変更を阻害しない値に制御されることが好ましい。
一般に、運転者が車両の進路を急激に変更する場合には、運転者の操舵操作が速い過渡的な操舵操作になり、走行路に沿って車両を走行させる場合よりも操舵操作速度の大きさが大きくなるので、走行路の幅の大小に関係なく、ステップ315に於いて肯定判別が行われ、ステップ370に於いてフラグFが0に維持されると共に、ステップ375に於いて補正係数Ks、Kn、Kdがそれぞれ1に維持され、これにより目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtの増大補正は行われない。
従って運転者が車両の進路を急激に変更する場合にはステアリングギヤ比及び微分ゲインが高くならないので、ステアリングギヤ比が大きいことにより運転者が車両の進路変更を行い難く感じたり、微分ゲインが高いことにより旋回応答性が高過ぎて車両の走行安定性が低下したように感じることを確実に防止することができる。
(8)運転者が車両の進路を穏やかに変更しようとする場合
車両が幅の狭い走行路を低速にて走行している状態(フラグFは1である)より運転者がその穏やかな操舵操作による左折や右折或いは車庫入れ等により車両の進路を穏やかに変更しようとする場合には、運転者の操舵操作が速い操舵操作にならないので、ステップ315に於いて否定判別が行われ、ステップ320〜330に於いてそれぞれ肯定判別が行われる。
しかし操舵角θの大きさが大きくなるので、ステップ350に於いて操舵角θの大きさが小さい場合に比して補正係数Knが小さい値に演算される。従って走行路の幅が狭く、補正係数Ksが大きい値であっても、目標ステアリングギヤ比Rstが小さくされるので、ステアリングギヤ比が大きいことにより運転者が車両の進路変更を行い難く感じることを確実に防止することができる。
(9)車両が前方障害物に衝突する虞れがある場合
車両が前方障害物に衝突する虞れがある場合には、その後運転者が衝突回避の操舵操作による急激な進路変更を行う可能性が高いので、ステアリングギヤ比及び操舵伝達比の微分ゲインは上記(7)の場合と同様に車両の進路変更を阻害しない値に制御されることが好ましい。
この場合には、走行路の幅の大小に関係なく、ステップ310に於いて肯定判別が行われるので、上記(7)の場合と同様、ステップ370に於いてフラグFが0に維持されると共に、ステップ375に於いて補正係数Ks、Kn、Kdがそれぞれ1に維持され、これにより目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtの増大補正は行われない。
従って運転者が衝突回避のために車両の進路変更を開始する際にステアリングギヤ比及び微分ゲインが高くならないので、ステアリングギヤ比が大きいことにより運転者が衝突回避のための車両の進路変更を効果的に開始することができなくなることを確実に防止することができる。
以上の説明より解る如く、図示の実施例によれば、車両が狭路を走行する場合には、ステアリングギヤ比が増大補正されることにより車両を走行路に沿って安定的に走行させることができるだけでなく、操舵伝達比の微分ゲインも増大補正されるので、車両が走行路に沿って旋回又は蛇行する場合に於ける車両の旋回応答性を向上させ、これにより運転者が車両の旋回応答性が低下したと感じることを防止し、従来に比して狭路走行時に於ける運転フィーリングを向上させることができる。
特に図示の実施例によれば、車両の走行に伴い走行路の幅が変化し、これにより目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtが増大変更されるべき状況であっても、運転者により操舵操作が行われ車両が旋回状態にあるときにはステップ335又は365に於いて否定判別が行われることにより、目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtは増大変更されないので、運転者が操舵操作を行っている途中で車両の旋回応答性が変化すること及びこれに起因して運転者が違和感を覚えることを確実に防止することができる。
尚運転者により操舵操作が行われ車両が旋回状態にあるときには目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtは増大変更されないが、ステップ220及び230に於いて基本目標ステアリングギヤ比Rsbt及び基本目標微分ゲインGdbtは車速Vに応じて可変設定されるので、車速Vに応じた操舵特性の最適化は継続される。
また図示の実施例によれば、車両が狭路を走行する場合であっても、運転者により急激な進路変更の操舵操作が行われているときには、ステップ315に於いて肯定判別が行われることにより、目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtは増大補正されないので、車両の旋回応答性が不足することを防止し、これにより衝突等の危険回避のための緊急操舵による隣接車線への車線変更等の進路変更を容易に且つ確実に行うことができる状況を確保することができる。
また図示の実施例によれば、車両が狭路を低速走行する状況に於いて運転者により穏やかな進路変更の操舵操作が行われているときには、ステップ350に於いて操舵角θの大きさが大きいほど小さくなり且つ車速Vが低いほど小さくなるよう目標ステアリングギヤ比についての補正係数Knが演算され、ステップ510に於いて基本目標ステアリングギヤ比Rsbtと狭路補正係数Ksと補正係数Knとの積として目標ステアリングギヤ比Rstが演算されるので、左折又は右折の走行路変更、車庫入れ、幅寄せの如き大舵角の操舵操作による車両の進路変更を容易に且つ確実に行うことができる状況を確保することができる。
また図示の実施例によれば、車両12がその前方の障害物に衝突する虞れがあるときには、ステップ310に於いて肯定判別が行われることにより、運転者により急激な進路変更の操舵操作が行われている場合と同様に、目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtは増大補正されないので、運転者が衝突回避のために車両の進路変更を開始する際にステアリングギヤ比及び微分ゲインが高くなることを防止し、これにより運転者が衝突回避のための車両の進路変更を確実に且つ効果的に開始し得ることを確保することができる。
また図示の実施例によれば、目標ステアリングギヤ比Rstが増大補正されるときには目標微分ゲインGdtも同時に増大補正されるので、目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtが互いに異なる条件にて増大補正される場合に比して、これらの増大補正の制御を単純化することができる。
また図示の実施例によれば、運転者により急激な進路変更の操舵操作が行われている場合及び車両12がその前方の障害物に衝突する虞れがある場合には、ステップ375に於いて狭路補正係数Ks及びKdの両者が1に設定され、目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtの両者が走行路幅に応じて増大補正される値よりも小さい値に制御されるので、例えば目標ステアリングギヤ比Rstのみが小さい値に制御される場合に比して運転者は容易に且つ確実に車両の進路変更を行うことができる。
また図示の実施例によれば、車両の狭路走行時に目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtが増大補正される場合には、電動式パワーステアリング装置22により発生される操舵アシストトルクが低減され、ステアリングホイール20の操舵反力が大きくなるので、このことによっても車両の狭路走行時に於ける走行安定性を向上させることができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例に於いては、目標微分ゲインGdtは操舵伝達比の微分ゲインであるが、目標微分ゲインはステアリングギヤ比の目標微分ゲインGstであってもよく、その場合には目標微分ゲインGstは走行路幅Wdが小さいほど小さくなるよう演算される。またその場合には上記式1は下記の式3に変更される。
θpt=θ/Rst+θd/Gst ……(3)
また上述の実施例に於いては、車両が狭路を走行している際に走行路幅が変化しても、車両が旋回状態にあるときには車速Vによる場合を除き目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtが変更されないようになっているが、目標微分ゲインGdtのみが変更されないよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、運転者により急激な進路変更の操舵操作が行われた場合や車両12がその前方の障害物に衝突する虞れがある場合には、目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtが増大補正されないようになっているが、目標ステアリングギヤ比Rstが増大補正されることなく目標微分ゲインGdtが増大補正され、これにより運転者が更に一層容易に且つ確実に進路変更し得るよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、運転者により穏やかな進路変更の操舵操作が行われる場合には、ステップ350に於いて操舵角θの大きさが大きいほど小さくなり且つ車速Vが低いほど小さくなるよう目標ステアリングギヤ比についての補正係数Knが演算されるようになっているが、目標微分ゲインGdtについての補正係数も演算されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、ステップ335及び365の判別が行われることにより、車両が狭路を走行していても車両が旋回状態にあるときには、目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtが増大補正されないようになっているが、ステップ330〜340及びステップ360〜370が省略されてもよい。
また上述の実施例に於いては、狭路補正係数Kdを演算するための図9に示されたマップの横軸は走行路幅Wdであるが、補正係数Kdは図13に示されている如く、狭路補正係数Ksに基づいて演算されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、走行路幅WdはCCDカメラ58及び60により撮影された車両の前方の画像情報に基づいて演算されるようになっているが、ナビゲーション装置よりの情報の如く当技術分野に於いて公知の任意の要領にて走行路幅Wdの情報が取得されてよい。
また上述の実施例に於いては、車両12には電動式パワーステアリング装置22が搭載され、車両の狭路走行時に目標ステアリングギヤ比Rst及び目標微分ゲインGdtが増大補正される場合には、電動式パワーステアリング装置22により発生される操舵アシストトルクが低減されるようになっているが、操舵アシストトルクの低減は省略されてもよく、また本発明の操舵制御装置は操舵アシストトルクが増減制御されない車両に適用されてもよい。
また上述の実施例に於いては、ステアリングギヤ比可変手段としての転舵角可変装置14はアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト30を回転させることにより運転者の操舵操作に依存せずに左右の前輪18FL及び18FRを自動的に転舵することによりステアリングギヤ比を増減させるようになっているが、ステアリングギヤ比可変手段は運転者の操舵操作とは独立に操舵輪を操舵し得る限り、例えばタイロッド26L及び26Rを伸縮させる型式の転舵角可変装置の如く当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
10…操舵制御装置、14…転舵角可変装置、16…電子制御装置、20…ステアリングホイール、22…電動式パワーステアリング装置、50…操舵角センサ、52…操舵トルクセンサ、54…回転角度センサ、56…車速センサ、58、60…CCDカメラ、62…レーダセンサ