(第1実施形態)
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る膨張機一体型圧縮機の縦断面図である。膨張機一体型圧縮機100は、内部空間24を有する密閉容器1と、内部空間24の上側に配置されたスクロール型の圧縮機構2と、内部空間24の下側に配置された2段ロータリ型の膨張機構3と、圧縮機構2と膨張機構3との間に配置された電動機4と、電動機4と膨張機構3との間に配置されたオイルポンプ6と、オイルポンプ6と電動機4との間に配置された隔壁32と、圧縮機構2、膨張機構3および電動機4を連結するシャフト5とを備えている。電動機4がシャフト5を回転駆動することにより、圧縮機構2が作動する。膨張機構3は、作動流体(冷媒)が膨張する際の膨張力をトルクに変換してシャフト5に与え、電動機4によるシャフト5の回転駆動をアシストする。冷媒の膨張エネルギーをいったん電気エネルギーに変換することなく圧縮機構2に直接伝達するこの仕組みにより、高いエネルギー回収効率を見込める。
なお、本実施形態の膨張機一体型圧縮機100は、密閉容器1を垂直に立てた状態で使用することを想定しているので、シャフト5の軸方向に平行な方向を上下方向とし、圧縮機構2が配置されている側を上側、膨張機構3が配置されている側を下側と考える。ただし、圧縮機構2と膨張機構3の位置は、本実施形態と逆であっても構わない。すなわち、圧縮機構2が下側に位置し、膨張機構3が上側に位置するといった実施形態も考えうる。また、本実施形態では、スクロール型の圧縮機構2とロータリ型の膨張機構3を採用しているが、各機構の型式はこれらに限定されない。例えば、圧縮機構と膨張機構の双方をロータリ型またはスクロール型にすることが可能である。さらには、レシプロ型の機構を採用することも考えうる。
密閉容器1の底部は、オイル26を貯留するオイル溜り25となっている。オイル26は、圧縮機構2および膨張機構3の各摺動部分における潤滑性とシール性を確保するために使用される。オイル溜り25に貯留されたオイル26の量は、密閉容器1を立てた状態、つまり、シャフト5の軸方向が鉛直方向に平行となるように密閉容器1の姿勢を定めた状態で、隔壁32よりも上に油面26pが位置する範囲内に調整されている。より詳しくいえば、オイル26の量は、膨張機構3の周囲が当該オイル26で充たされ、かつ圧縮機構2および電動機4が油面26pよりも上に位置する範囲内に調整されている。オイル26の量をこのような範囲内に調整し、圧縮機構2および電動機4がオイル26に漬からないようにしてやれば、膨張機一体型圧縮機100を用いたヒートポンプ装置の運転中に、圧縮機構2や電動機4からオイル26に熱が直接伝達することを防止できる。また、電動機4の回転子22がオイル溜り25に貯留されたオイル26を撹拌することによる、電動機効率の低下や冷媒回路へのオイル吐出量の増加を防止することができる。特に、電動機4の回転子22が油面26pから離れていることが望ましい。そのようにすれば、オイル26が電動機4の負荷を増大させずに済む。
オイルポンプ6は、圧縮機構2に、膨張機構3が漬かっているオイル26を汲み上げて供給する。シャフト5の内部には、油面26pよりも上に位置する圧縮機構2の摺動部分に通ずる給油路29が軸方向に延びるように形成されている。オイルポンプ6から吐出されたオイル26は、その給油路29に送り込まれ、膨張機構3を経由することなく、圧縮機構2の各摺動部分に供給される。このようにすれば、圧縮機構2に向かうオイル26が膨張機構3で冷却されることがないので、オイル26を介した圧縮機構2から膨張機構3への熱の移動を抑制することができる。また、シャフト5の内部に給油路29を形成すれば、部品点数の増加やレイアウトの問題が新たに生じないので好適である。
隔壁32は、シャフト5を貫通させるための第1貫通孔32gが中央部に開いている円板状の形態を有し、密閉容器1の内部空間24を、シャフト5の軸方向に沿って、圧縮機構2が電動機4とともに配置された上側空間24aと、膨張機構3がオイルポンプ6とともに配置された下側空間24bとに仕切り、上側空間24aと下側空間24bとの間のオイル26の往来を制限する役割を担う。図3の半断面斜視図から分かるように、隔壁32は、ネジやボルト等の締結部品で密閉容器1に固定された外周部が、密閉容器1の一部をなす形となっている。また、隔壁32の第1貫通孔32gの開口周縁部に、オイルポンプ6がネジやボルトで固定され、第1貫通孔32gがオイルポンプ6によって下から塞がれている。つまり、オイルポンプ6および膨張機構3は、隔壁32にぶら下がるような形で密閉容器1内に位置決めされている。また、隔壁32には、上側空間24aと下側空間24bとの間のオイル26の移動が許容されるように、上側空間24aと下側空間24bとを連通する連通路として第2貫通孔32hが形成されている。第2貫通孔32hは、中央部の第1貫通孔32gに比べると小さい孔であり、シャフト5の周りの複数箇所に等角度間隔で形成されている。
隔壁32は、上側空間24aと下側空間24bとの間のオイル26の往来を制限することにより、上側空間24aと下側空間24bとを断熱する作用と、オイル26の流動を抑制する作用とをもたらす。隔壁32による断熱作用および流動抑制作用に起因して、密閉容器1内に貯留されているオイル26には、シャフト5の軸方向に沿って温度勾配が生ずる。つまり、圧縮機構2に供給するためにオイルポンプ6が吸入するオイル26は比較的高温でありながら、膨張機構3の周囲に滞留するオイル26は比較的低温という、冷凍サイクルにとって好都合な状況を意図的に作り出すことが可能となる。
本実施形態の膨張機一体型圧縮機100を用いたヒートポンプ装置の停止中や通常の運転中において、油面26pは、隔壁32の上面32pより上に位置する。ヒートポンプ装置の運転が開始されると、電動機4が巻き起こす旋回流の影響で、油面26pは激しく波立った状態となる。仮に、電動機4の回転子22がオイル26に漬かっていると、オイル26が回転子22によって直接撹拌されるため、隔壁32による断熱効果や流動抑制効果が半減してしまう。その意味においても、電動機4の回転子22は、密閉容器1の大幅な寸法拡大を招かない範囲内で、油面26pから極力離間していることが好ましい。
上記のような隔壁32を構成する材料は、金属、樹脂またはセラミック等を例示できるが、通常は密閉容器1が金属製なので、隔壁32も密閉容器1と同一の金属材料にて構成するのが好ましい。ただし、断熱性を向上させる目的や油面26pの波立ちを緩衝する目的で、当該隔壁32の材料よりも熱伝導率が小さい被膜、例えば、樹脂被膜を上面32pに形成したり、上面32pに凹凸を設けるといった表面加工を行ったりしてもよい。
なお、圧縮機構2と膨張機構3との間にオイルポンプ6を配置し、このオイルポンプ6により、膨張機構3内を経由しないように圧縮機構2にオイル26を供給する構成は、隔壁32の有無によらない。オイルポンプ6に吸入され、吐出されたオイル26が膨張機構3を経由することなく圧縮機構2に供給されるならば、オイル26を介した熱の移動を抑制する効果は得られる。
次に、圧縮機構2および膨張機構3について簡単に説明する。
スクロール型の圧縮機構2は、旋回スクロール7と、固定スクロール8と、オルダムリング11と、軸受部材10と、マフラー16と、吸入管13と、吐出管15とを備えている。シャフト5の偏心軸5aに嵌合され、かつ、オルダムリング11により自転運動を拘束された旋回スクロール7は、渦巻き形状のラップ7aが、固定スクロール8のラップ8aと噛み合いながら、シャフト5の回転に伴って旋回運動を行い、ラップ7a,8aの間に形成される三日月形状の作動室12が外側から内側に移動しながら容積を縮小することにより、吸入管13から吸入された作動流体を圧縮する。圧縮された作動流体は、リード弁14を押し開き、固定スクロール8の中央部に形成された吐出孔8b、マフラー16の内部空間16a、ならびに固定スクロール8および軸受部材10を貫通する流路17をこの順に経由して、密閉容器1の内部空間24に吐出される。シャフト5の給油路29を通ってこの圧縮機構2に到達したオイル26は、旋回スクロール7と偏心軸5aとの摺動面や、旋回スクロール7と固定スクロール8との摺動面を潤滑する。密閉容器1の内部空間24に吐出された作動流体は、その内部空間24に滞留する間に、重力や遠心力によってオイル26と分離され、その後、吐出管15からガスクーラに向けて吐出される。
シャフト5を介して圧縮機構2を駆動する電動機4は、密閉容器1に固定された固定子21と、シャフト5に固定された回転子22とを含む。密閉容器1の上部に配置されたターミナル9から電動機4に電力が供給される。電動機4は、同期機および誘導機のいずれであってもよく、圧縮機構2から吐出された作動流体およびオイル26によって冷却される。
シャフト5は、圧縮機構2に接続する圧縮機構側シャフト5sと、膨張機構3に接続する膨張機構側シャフト5tとから構成されている。圧縮機構側シャフト5sと膨張機構側シャフト5tは、連結器63で連結されることにより、同期回転する。圧縮機構側シャフト5sおよび膨張機構側シャフト5tのように、複数部品に分かれているものを1本に連結して使用する場合、両シャフト5s,5tの連結箇所に若干の遊びが生ずる。このような遊びがある場合、圧縮機構2の回転中心と膨張機構3の回転中心が多少ずれていたとしても、両機構2,3をスムーズに作動させることが可能となり、ひいては騒音や振動を低減できる。もちろん、単一のシャフトを用いることも可能である。
図2に膨張機一体型圧縮機の部分拡大断面図、図3に半断面斜視図を示す。図2および図3に示すごとく、2段ロータリ型の膨張機構3は、下軸受部材41、第1シリンダ42、中板43、第2シリンダ44、上軸受部材45、第1ローラ46(第1ピストン)、第2ローラ47(第2ピストン)、第1ベーン48、第2ベーン49、第1バネ50および第2バネ51を備えている。
第1シリンダ42は、シャフト5を支持する下軸受部材41の上部に固定されている。第1シリンダ42の上部には、中板43が固定されており、その中板43の上部に第2シリンダ44が固定されている。第1ローラ46は、第1シリンダ42内に配置されており、回転可能な状態でシャフト5の第1偏心部5cに嵌合している。第2ローラ47は、第2シリンダ44内に配置されており、回転可能な状態でシャフト5の第2偏心部5dに嵌合している。第1ベーン48は、第1シリンダ42に形成されたベーン溝にスライド可能な状態で配置されている。第2ベーン49は、第2シリンダ44のベーン溝にスライド可能な状態で配置されている。第1ベーン48は、第1バネ50によって第1ローラ46に押し付けられ、第1シリンダ42と第1ローラ46との間の空間を吸入側空間と吐出側空間とに仕切る。第2ベーン49は、第2バネ51によって第2ローラ47に押し付けられ、第2シリンダ44と第2ローラ47との間の空間を吸入側空間と吐出側空間とに仕切る。中板43には、第1シリンダ42の吐出側空間と、第2シリンダ44の吸入側空間とを連通して、両空間による膨張室を形成する連通孔が形成されている。
吸入管52から膨張機構3に吸入された作動流体は、下軸受部材41に形成された連通路41hを経由して、第1シリンダ42の吸入側空間に案内される。第1シリンダ42の吸入側空間は、シャフト5の回転にともなって、下軸受部材41の連通路41hとの連通が遮断され、吐出側空間へと変化する。シャフト5がさらに回転すると、第1シリンダ42の吐出側空間に移動した作動流体は、中板43の連通孔を経由して、第2シリンダ44の吸入側空間に案内される。シャフト5がさらに回転すると、第2シリンダ44の吸入側空間の容積が増加し、第1シリンダ42の吐出側空間の容積が減少するが、第2シリンダ44の吸入側空間の容積増加量が、第1シリンダ42の吐出側空間の容積減少量よりも大きいので、作動流体は膨張する。そしてこの際、作動流体の膨張力がシャフト5に加わるので、電動機4の負荷が軽減される。シャフト5がさらに回転すると、第1シリンダ42の吐出側空間と第2シリンダ44の吸入側空間との連通が遮断され、第2シリンダ44の吸入側空間は、吐出側空間へと変化する。第2シリンダ44の吐出側空間に移動した作動流体は、上軸受部材45に形成された連通路45hを経由して、吐出管53から吐出される。
ところで、圧縮機構2および膨張機構3のうち、下側空間24bに配置されて周囲がオイル26で充たされている機構がロータリ型である場合には、シャフト5(本実施形態では膨張機構側シャフト5t)が、そのロータリ型の機構を軸方向に貫通するので、シャフト5の下端部5wがオイル26に直接接触する構造を採用できる。この場合、図6Aに示すごとく、下端部5wから膨張機構3のシリンダ42,44に向かって延びるように、シャフト5の外周面に溝5kを形成することにより膨張機構3の潤滑を行える。オイル溜り25に貯まっている最中のオイル26に懸かっている圧力は、シリンダ42,44とピストン46,47とを潤滑中のオイル26に懸かっている圧力よりも大きい。したがって、オイル溜り25に貯まっている最中のオイル26は、オイルポンプの助けを借りなくても、溝5kを伝って膨張機構3のシリンダ42,44に供給される。
もちろん、図6Bに示すごとく、膨張機構側シャフト5tの下端部5wに第2のオイルポンプ70を取り付け、その第2のオイルポンプ70で膨張機構3の摺動部分にオイル26を供給するようにしてもよい。図6Bの例では、膨張機構側シャフト5tの内部に、膨張機構3のシリンダ42,44に向かって延びる第2の給油路71が形成されており、第2のオイルポンプ70から吐出されたオイル26が、その第2の給油路71を通じて膨張機構3の摺動部分に供給される。第2の給油路71は、上軸受部材45に形成されたオイル逃がし溝72に連通しており、第2のオイルポンプ70から余剰に吐出されたオイル26は、このオイル逃がし溝72を通じてオイル溜り25に戻される。このようにすれば、圧縮機構2と膨張機構3とをオイル26が循環することを回避できる。なお、第2のオイルポンプ70としては、オイルポンプ6と同様のものを好適に採用できる。
また、ロータリ型の機構(圧縮機構または膨張機構)は、その構造上、シリンダ内の空間を2つに仕切るベーンの潤滑が不可欠となるが、機構全体がオイル26に漬かっている場合には、ベーンが配置されているベーン溝の後端を密閉容器1内に露出させるという極めて単純な方法により、ベーンを潤滑することができる。本実施形態においても、そのような方法でベーン48,49の潤滑を行っている。
ところで、圧縮機構および膨張機構の少なくとも一方にロータリ型を採用し、そのロータリ型の機構がオイルに漬からないレイアウトを採用する場合、ベーンの潤滑は少々厄介である。まず、ロータリ型の機構の要潤滑部品のうち、ピストンとシリンダは、シャフトの内部に形成された給油路を使えば比較的簡単に潤滑できる。しかしながら、ベーンに関してはそうはいかない。ベーンはシャフトから相当離れているので、シャフト内の給油路からベーン溝にオイルを直接供給することはできず、シャフトの上端部から吐出させたオイルをベーン溝に送り込むための何らかの工夫が必須となる。そのような工夫は、例えば、シリンダの外側に給油管を別途設けることであり、部品点数の増加や構造の複雑化を免れない。
これに対し、スクロール型の機構の場合にはそうした工夫が本質的に不要であり、潤滑が必要な全ての部分に比較的簡単にオイルを行き渡らせることが可能である。このような諸事情を鑑みると、ロータリ型の機構がオイルに漬かり、スクロール型の機構が油面よりも上に位置するというレイアウトは、最も優れたレイアウトの1つであるといえる。本実施形態は、そのようなレイアウトを実現するべく、圧縮機構2をスクロール型、膨張機構3をロータリ型とし、そのロータリ型の膨張機構3が直接オイル26に漬かるように、シャフト5の軸方向に沿って、圧縮機構2、電動機4、オイルポンプ6および膨張機構3をこの順番で配置している。
次に、オイルポンプ6について詳しく説明する。図2および図3に示すごとく、オイルポンプ6は、ポンプ本体61とポンプハウジング62とから構成されている。ポンプ本体61は、シャフト5の回転に伴う作動室の容積の増減によりオイル26を圧送するように構成されている。ポンプハウジング62は、ポンプ本体61に隣接して配置され、ポンプ本体61を回転可能に支持するとともに、ポンプ本体61から吐出されたオイル26を一時的に収容するオイルチャンバ62hを内部に有する。そして、そのオイルチャンバ62hにシャフト5の一部が露出することにより、当該シャフト5の内部に形成された給油路29に、ポンプ本体61から吐出されたオイル26が送り込まれる仕組みになっている。このように、オイルポンプ6の中にシャフト5を通すことにより、別途の給油管を設けずとも、オイル26を漏れなく給油路29に送り込むことができる。
オイルポンプ6の種類は特に限定されないが、図4に示すごとく本実施形態では、シャフト5に取り付けられたインナーロータ611と、インナーロータ611との間に作動室61hを形成するアウターロータ612とを有するロータリ型のポンプ本体61を含むオイルポンプを採用している。このオイルポンプ6は、トロコイドポンプ(日本オイルポンプ社の登録商標)と呼ばれるものである。インナーロータ611の中心とアウターロータ612の中心は偏心しており、歯数もインナーロータ611の方がアウターロータ612よりも少ないので、シャフト5の回転に伴って作動室61hの容積が拡大/縮小する。この容積変化により、オイル26は吸入口61aから作動室61hに吸入され、吐出口61bから吐出される。このようなロータリ型のオイルポンプ6は、シャフト5の回転運動をカム機構等で他の運動に変換することなく、オイル26を圧送する運動に直接利用するので、機械ロスが小さいという利点がある。また、比較的単純な構造によるので、信頼性も高い。
図2に示すごとく、ポンプハウジング62は、内部空間をシャフト5の軸方向に沿って、ポンプ本体61を配置する空間とオイルチャンバ62hとに区画する内壁部64を含む。本実施形態では、内壁部64の上の空間にポンプ本体61が配置され、この内壁部64によってポンプ本体61が直接支持されている。内壁部64には、一端がポンプ本体61の吐出口61b(図4参照)をなし、他端がオイルチャンバ62hに開口する連通孔64hが形成されている。ポンプ本体61とオイルチャンバ62hとが隣接するこのような構造によれば、ポンプ本体61から吐出されたオイル26は、連通孔64hをスムーズに流通してオイルチャンバ62hに移動する。
さらに、ポンプハウジング62には、一端がポンプ本体61の吸入口61aをなし、他端が密閉容器1の下側空間24bに開口するオイル吸入路62qが、当該ポンプハウジング62の外周面からポンプ本体61の収容されている空間に向かって延びるように形成されている。オイル吸入路62qが下側空間24bに開口しているので、油面26pが一時的に低下した場合であっても、オイル26を安定してポンプ本体61に吸入させることが可能となる。
また、ポンプハウジング62は、膨張機構3の上軸受部材に兼用された端板45によってオイルチャンバ62hが閉塞される一方、ポンプ本体61を挟んでオイルチャンバ62hとは反対の上側に、圧縮機構側シャフト5sのスラスト荷重を受ける軸受部621を有する。図5に示すごとく、軸受部621は、第1貫通孔32gを貫通して隔壁32の上面32pよりも上に突出している。圧縮機構側シャフト5sは、軸受部621からポンプハウジング62に挿入されている部分が、電動機4に近い上側に位置する径大部551sと、ポンプ本体61が取り付けられた径小部552sとからなり、その径大部551sがポンプハウジング62の軸受部621の段付き面621p(スラスト面)に着座している。このような軸受構造により、圧縮機構側シャフト5sのスムーズな回転を可能としている。
また、2本(複数本)に分かれている圧縮機構側シャフト5sと膨張機構側シャフト5tとは、ポンプハウジング62のオイルチャンバ62hにおいて連結されている。このようにすれば、ポンプ本体61から吐出されたオイル26を、圧縮機構側シャフト5sの内部に形成されている給油路29に容易に案内することが可能である。
具体的に、本実施形態では、連結器63を用いて圧縮機構側シャフト5sと膨張機構側シャフト5tとを連結している。この連結器63は、ポンプハウジング62のオイルチャンバ62hに配置されている。このように、ポンプハウジング62のオイルチャンバ62hは、ポンプ本体61と圧縮機構側シャフト5sとを中継する役割と、連結器63の設置スペースを提供する役割との双方を担っている。図3に示すごとく、圧縮機構側シャフト5sおよび膨張機構側シャフト5tには、それぞれ、外周面に連結用の歯が切ってあり、その歯が連結器63に係合することにより両者が連結されている。膨張機構側シャフト5tのトルクは、連結器63を介して圧縮機構側シャフト5sに伝達される。
圧縮機構側シャフト5sと膨張機構側シャフト5tとを連結器63で連結する場合、ポンプ本体61から吐出されたオイル26を給油路29に送り込む経路をどのようにして確保するのかが問題となるが、本実施形態では次のようにしてこの問題を解消している。すなわち、図2に示すごとく、連結器63には、ポンプハウジング62のオイルチャンバ62hに開口するとともに圧縮機構側シャフト5sおよび膨張機構側シャフト5tの回転中心に向かって延びるオイル送出路63hが形成されている。ポンプ本体61からポンプハウジング62のオイルチャンバ62hに吐出されたオイル26は、このオイル送出路63hを流通して圧縮機構側シャフト5sの給油路29に送り込まれる。
給油路29は、圧縮機構側シャフト5sの端面に開口しており、連結器63は、圧縮機構側シャフト5sと膨張機構側シャフト5tとの間にオイル26を案内可能な隙間65が形成された状態で両者を連結し、その隙間65にオイル送出路63hが連通している。このようにすれば、連結器63がシャフト5s,5tとともに回転した場合でも、ポンプ本体61から吐出されたオイル26が間断なく給油路29に送り込まれるため、圧縮機構2の摺動部分を安定して潤滑することが可能となる。
また、連結器を使用しない態様も考えうる。例えば、図7に示すごとく、圧縮機構側シャフト75sと膨張機構側シャフト75tとを雌雄結合により連結するシャフト75を好適に採用することができる。圧縮機構側シャフト75sの内部に形成されている給油路29への入口29pは、圧縮機構側シャフト75sの外周面に設けられている。給油路29への入口29pを含む連結部分をポンプハウジング62のオイルチャンバ62hに位置させることにより、ポンプ本体61から吐出されたオイル26を給油路29に送り込むことが可能である。このような連結構造は、圧縮機構側シャフト75sの給油路29にオイルをスムーズに送り込むという観点からいえば、連結器63を用いる本実施形態よりも劣る可能性があるが、連結器63を省略する分だけ部品点数の低減を図ることが可能である。なお、図7の例では、圧縮機構側シャフト75sが雄、膨張機構側シャフト75tが雌であるが、この逆であっても構わない。
さらに、図8に示すごとく、単一のシャフト85で圧縮機構2と膨張機構3とを連結する場合にも、連結器63が不要である。シャフト85の内部に形成された給油路29への入口は、ポンプハウジング62のオイルチャンバ62hにおいて、シャフト85の外周面に開口している。したがって、ポンプ本体61から吐出されたオイル26は、給油路29にスムーズに送り込まれる。図8に示す膨張機一体型圧縮機101は、圧縮機構2の中心と膨張機構3の中心とを厳密に一致させる調整を必要とするが、図1に示す膨張機一体型圧縮機100よりも部品点数が少なく済む。
ところで、図1等に示す本実施形態の一つの大きな特徴として、圧縮機構側シャフト5sと膨張機構側シャフト5tの連結部分が、オイルポンプ6から吐出されたオイル26を給油路29に送り込むための入口に兼用されている点を挙げることができる。
複数部品からなるシャフト5s,5tを1本に連結して使用する場合、圧縮機構2と膨張機構3の中心合わせに余裕が生まれるので好ましいということは先に説明したが、単純にそうしただけでは新たな弊害が生ずる。その最も顕著な弊害は、連結部分からのオイル漏れである。図17で説明したように、従来の膨張機一体型圧縮機では、シャフトの下端部からオイルを汲み上げる構造になっている。したがって、必然的に給油路の経路上に連結部分が位置することになり、その連結部分からオイル漏れが起こる可能性がある。このオイル漏れは、効率的な給油を妨げる。これに対し、本実施形態のように、圧縮機構側シャフト5sと膨張機構側シャフト5tとの連結部分を給油路29への入口として利用すれば、連結部分でのオイル漏れという問題が本質的に存在しないことになるので好ましい。
また、図7の変形例に示すように、給油路29の入口29pが連結部分よりも上に位置し、その入口29pがオイルチャンバ62hに露出するような設計を採用すれば、連結部分でのオイル漏れの問題は同様に存在しないことになる。さらに、雌雄結合による連結部分をオイルチャンバ62hに露出させることにより、その連結部分をオイル26で十分に潤滑できるようになるため、シャフト75s,75tの角が摩耗することを防止できる。これにより、遊びが過大となって振動が大きくなることを防止できる。
(第2実施形態)
第2実施形態の膨張機一体型圧縮機の縦断面図を図9に、半断面斜視図を図10に示す。本実施形態の膨張機一体型圧縮機102は、リザーブタンク67をさらに備えるという点で、第1実施形態の膨張機一体型圧縮機100と相違する。その他の部分は、共通である。
リザーブタンク67は、オイルポンプ6を周方向に取り囲む環状の形態を有し、隔壁32に隣接して下側空間24bに配置されており、隔壁32の第2貫通孔32hを流通して上側空間24aから下側空間24bに移動したオイル26を受け止めて蓄積する。リザーブタンク67とオイルポンプ6との間には、リザーブタンク67に蓄積されたオイル26が流れ込む隙間67hが形成されている。オイル吸入路62qがその隙間67hに開口しているので、オイルポンプ6は、その隙間67hに流れ込むオイル26を吸入することができる。リザーブタンク67は隔壁32に隣接しているが、その上面が隔壁32によって完全に閉じられているわけではなく、わずかな隙間が確保されている。さらに、リザーブタンク67と密閉容器1との間にも隙間が確保されている。リザーブタンク67から溢れたオイル26は、それらの隙間を通じて、オイル溜り25に戻ることができる。
また、図10および図11に示すように、リザーブタンク67の内周側の壁には、孔67p(または切り欠き)が形成されており、リザーブタンク67に受け止められたオイル26は、その孔67p(または切り欠き)を通じて隙間67hに流れ込む。孔67pや切り欠きを形成する代わりに、内周側の壁の高さを低くし、その内周側の壁をオーバーフローしたオイル26が隙間67hに流れ込むようにしてもよい。
このようなリザーブタンク67は、オイル26の循環経路を制限することにより、断熱効果を発揮する。すなわち、圧縮機構2を潤滑し終えたオイル26は、まず、隔壁32の上に貯まり、その後、第2貫通孔32hを流通して上側空間24aから下側空間24bに移動する。ところが、移動先の下側空間24bにもリザーブタンク67が待ち受けているので、上側空間24aから下側空間24bに移動したオイル26の全量のうち、膨張機構3の周囲に滞留しているオイル26と混ざる画分は少量であり、大部分は、速やかにオイルポンプ6に吸入される。この結果、オイルポンプ6に吸入されるオイル26は比較的高温でありながらも、膨張機構3の周囲に滞留するオイル26は比較的低温という、冷凍サイクルにとって好都合な状況が作り出される。
また、図11の分解斜視図から分かるように、リザーブタンク67は、オイル吸入路62qが開口している位置に向かって深さが連続的または段階的に大きくなるように、シャフト5の軸方向に関する寸法調整(深さ調整)が行われている。このようにすれば、万が一、隔壁32の下まで油面26pが低下するような状況が発生しても、第2貫通孔32hを通じて下側空間24bに落ちてくるオイル26の全量がいったんリザーブタンク67に蓄積されるので、リザーブタンク67の深い位置には、しばらくの間、十分な量のオイル26が蓄積され続けることになる。そして、オイル26が十分に蓄積されているそのような位置にオイル吸入路62qが開口している限り、少しばかり油面26pが低下したとしても、オイルポンプ6はオイル26の吸入を継続できる。この結果、当面の間、圧縮機構2に潤滑不良は起こらない。このように、リザーブタンク67は、油面26pが低下した場合の安全網としての機能も有する。想定される油面26pの低下は一時的な期間に限られるので、そうした期間のみ乗り切ることができれば、安全網としての機能は十分である。
なお、リザーブタンク67を構成する材料は特に限定されず、隔壁32と同様、金属、樹脂またはセラミック、もしくはそれらの組み合わせを例示できる。
(第3実施形態)
図12に示す膨張機一体型圧縮機104は、緩衝部材68をさらに備えるという点で、第2実施形態の膨張機一体型圧縮機102(図9参照)と相違する。その他の部分は、共通である。
図12に示すごとく、緩衝部材68は、電動機4と隔壁32との間に配置され、電動機4の回転駆動に伴う油面26pの波立ちを緩衝し、オイル26の流動を抑制する。そのため、電動機4が巻き起こす旋回流によって、下側空間24bを充たすオイル26が撹拌されにくくなり、オイル26に軸方向の温度勾配が生じやすくなる。この結果、オイルポンプ6に吸入されるオイル26は比較的高温でありながら、膨張機構3の周囲に滞留するオイル26は比較的低温という、冷凍サイクルにとって好都合な状況が作り出される。
緩衝部材68は、油面26pの波立ちを緩衝できればよいので、金属メッシュのような部材や、隔壁32の上面32pに配置された一または複数の邪魔板のような部材とすることができる。図13に示すごとく、本実施形態では、隔壁32と同様、貫通孔68hが形成された金属製の円板を使用している。
緩衝部材68の貫通孔68hと、隔壁32の貫通孔32hとは、シャフト5の軸方向に直交する面内で重なり合わない位置関係となっており、緩衝部材68の貫通孔68hに流れ込んだオイル26は、まっすぐ下側空間24bに向かうことができないようになっている。オイル26は、隔壁32によっていったん堰き止められ、隔壁32の上面32p上を流れた後、下側空間24bに移動する。
オイル26の流れを具体的に詳しく説明する。上側空間24aにあるオイル26は、貫通孔68hを通じて、まず、緩衝部材68と仕切り板32との間に案内される。緩衝部材68の下面側には、貫通孔68hからシャフト5に向かって延びる浅い誘導溝68kが形成されている。この誘導溝68kは、隔壁32の第1貫通孔32gに通じている。オイル26は、隔壁32の上面32pと上記誘導溝68kとによって形成される流路を流通し、隔壁32の第1貫通孔32gに到達する。
一方、第1貫通孔32gにはポンプハウジング62の一部が露出している。図14の半断面斜視図に示すごとく、第1貫通孔32gに露出している部分には、シャフト5の半径方向に関する外向きに延びる溝62kが形成されている。その溝62kは、オイルポンプ6の周囲に配置されているリザーブタンク67に連通している。したがって、隔壁32の第1貫通孔32gに到達したオイル26は、その第1貫通孔32g内に流れ込んだのち、ポンプハウジング62に形成されている溝62kを経由して下側空間24bに配置されたリザーブタンク67に流れ込む。この場合、第1貫通孔32gとポンプハウジング62の溝62kとにより、上側空間24aと下側空間24bとを連通する連通路が形成されていることになる。オイル26をシャフト5の径方向および/または周方向に沿って流通させてから、下側空間24bに移動させることにより、電動機4の回転駆動に伴う油面26pの波立ちが緩衝される。オイル26のこのような流通経路は、電動機4による撹拌作用が下側空間24bのオイル26に伝搬することをより強く抑制する。
また、図13に示すごとく、緩衝部材68は、貫通孔68hの開口周りに設けられたカラー681を含む。カラー681は、電動機4の影響により緩衝部材68の上面に沿ってオイル26が滑らかに回流する(図13の例では時計回り)ことを邪魔し、貫通孔68hに流入するオイル26の流速を落とす。
なお、緩衝部材68に形成されている浅い誘導溝68kは、隔壁32側に形成されていてもよい。また、緩衝部材68は、隔壁32に接触している必要はない。例えば、隔壁32との間にオイル26の層が形成されるように、隔壁32と平行に緩衝部材68を配置してもよい。
さらに、緩衝部材68と隔壁32とを1つの構造体で構成することも可能である。つまり、緩衝部材68の役割を隔壁32に兼任させることが可能である。そのような隔壁は、上側空間24aにあるオイル26を内部に形成された連通路に招き入れ、シャフト5の径方向および/または周方向に沿って流通させた後に下側空間24bに移動させることにより、電動機4の回転駆動に伴う油面26pの波立ちを緩衝する緩衝構造を含むものとして構成することができる。
(第4実施形態)
第1〜第3実施形態の膨張機一体型圧縮機は、下側空間24bにオイル吸入路62qが開口しているが、このことは必須ではない。つまり、図15に示すように、隔壁32の上面32pより上に貯まっているオイル26を、直接ポンプ本体61に吸入させるようにしてもよい。
隔壁32は、第1実施形態で既に説明したものであり、シャフト5を貫通させるための第1貫通孔32gが中央部に形成され、上側空間24aと下側空間24bとの間のオイル26の流通を許容する第2貫通孔32hが周縁部に形成されている。ただし、その第2貫通孔32hには、隔壁32の上面32pを底面として所定量のオイル26を貯留することが可能となるように、オーバーフロー管90が取り付けられている。隔壁32の上に貯まったオイル26は、オーバーフロー管90に流れ込むことによってのみ下側空間24bに移動できるようになっている。また、隔壁32の上面32pと、オーバーフロー管90の上端との間には、油面26pの波立ちを緩衝する緩衝部材91が配置されている。この緩衝部材91と隔壁32との間には、流動が抑制されたオイル26の層が形成される。緩衝部材91は、オイル26の流通を許容する貫通孔が形成された板材やメッシュ材である。
一方、オイルポンプ60のポンプハウジング62には、一端がポンプ本体61の吸入口61a(図15参照)をなし、他端が上側空間24aに開口するオイル吸入路620qが形成されている。オイル吸入路620qは、隔壁32の第1貫通孔32g内に開口しているので、ポンプ本体61は、隔壁32の上に貯まったオイル26に限り吸入可能である。なお、隔壁32に別途貫通孔を形成し、その貫通孔とオイル吸入路620qとが連通することにより、ポンプ本体61が上側空間24aのオイル26を吸入できるようにしてもよい。
このようにオーバーフロー管90の働きにより、隔壁32の上にオイル26を貯留することが可能となっており、これら隔壁32とオーバーフロー管90との組み合わせは、第2実施形態で説明したリザーブタンクのような役割を果たす。ヒートポンプ装置の通常の運転において、油面26pはオーバーフロー管90の上端よりもやや上に位置する。油面26pが一時的に低下したとしても、隔壁32の上には十分な量のオイル26が貯留されているので、当面の間、オイルポンプ60はオイル26を吸入し続けることができる。
以上、本発明の膨張機一体型圧縮機は、例えば、空気調和機、給湯機、各種乾燥機または冷凍冷蔵庫のヒートポンプ装置に好適に採用できる。図16に示すように、ヒートポンプ装置110は、本発明の膨張機一体型圧縮機100(,101,102,104,106)と、圧縮機構2で圧縮された冷媒を放熱させる放熱器112と、膨張機構3で膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器114とを備えている。圧縮機構2、放熱器112、膨張機構3および蒸発器114が配管によって接続され、冷媒回路が形成されている。