JP2004311316A - 質量分析装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】イオントラップ内に蓄積されたイオンが排出前にそれぞれ持つ運動エネルギーのばらつきによる飛行時間の変動を軽減し、質量分解能を改善する。
【解決手段】イオントラップ2内にイオンを蓄積してクーリングを行った後、イオンを排出するまでの間に、電極21、22、23への印加電圧を零としてイオンを自由運動させる期間を設ける。この自由運動期間中に各イオンはそれぞれが有する運動エネルギーに応じて広がり、イオン排出時にはイオンの存在位置に依存してそれぞれ異なる運動エネルギーを付与される。その結果、同一質量数のイオンの初期速度が揃い、検出器31にもほぼ同時に到達する。
【選択図】 図1
【解決手段】イオントラップ2内にイオンを蓄積してクーリングを行った後、イオンを排出するまでの間に、電極21、22、23への印加電圧を零としてイオンを自由運動させる期間を設ける。この自由運動期間中に各イオンはそれぞれが有する運動エネルギーに応じて広がり、イオン排出時にはイオンの存在位置に依存してそれぞれ異なる運動エネルギーを付与される。その結果、同一質量数のイオンの初期速度が揃い、検出器31にもほぼ同時に到達する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電場によりイオンを捕捉して蓄積するイオントラップと、該イオントラップから排出されたイオンの質量数を分析する飛行時間型質量分析器とを備える質量分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的な質量分析装置は、イオン発生源において生成したイオンを四重極質量フィルタや飛行時間型質量分析器などの質量分析器に導入し、イオンを質量数(質量/電荷)毎に分離して検出する構成を備えている。こうした質量分析装置において、近年、イオン発生源と質量分析器との間にイオントラップを設け、イオン発生源で生成された各種イオンをイオントラップに一旦蓄積し、その後に、それらイオンを適宜選別して又は逐次イオントラップから排出させて質量分析器に導入する、という構成のものが開発されている。また、イオントラップの内部で目的分子をイオン化したり、或いは、イオントラップそれ自身が質量数に応じたイオンの選別機能を有することを利用して、後段の質量分析器を実質的に検出器のみとして用いたりする場合もある。
【0003】
こうしたイオントラップでは、基本的にイオントラップを構成する複数の電極に印加される電圧によって形成される四重極電場によってイオンを捕捉し、その捕捉空間内にイオンを閉じ込める。イオントラップに捕捉されたイオンが或る程度大きな運動エネルギーを有している場合、電場のみでは充分な捕捉効果を得ることが難しい。そこで、イオントラップ内にクーリングガスと呼ばれる不活性ガスを導入し、そのガス分子にイオンを衝突させることによってイオンの運動エネルギーを徐々に減少させる、クーリングと呼ばれる行程を設けることが多い(例えば特許文献1など参照)。こうしたクーリングによってイオンは飛行軌道を変え、イオントラップ内で旋回するような軌道に収束する。
【0004】
【特許文献1】
特開平9−189681号公報(段落0009など)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述のようにイオントラップでのイオン蓄積動作の際にクーリングを行うと、イオンの運動エネルギーは或る程度減少し、イオンはイオントラップ内で空間的に収束する。しかしながら、こうしたイオンの収束も本質的にはイオンの振動を利用した封じ込めであるため、各イオンが持つ運動エネルギーが零になるわけではない。質量分析器として飛行時間型質量分析器を用いる場合、各イオンが同一の初期条件で以て飛行空間に導入されないと、たとえ同一質量数であっても初期条件の相違が飛行時間の相違に帰着する。即ち、上記のようにイオントラップをイオンの出発点として質量分析する場合には、イオントラップからのイオン排出直前に各イオンがもともと持っている運動エネルギーの影響で飛行時間が変動してしまい、その結果、質量分解能が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明はかかる課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、イオントラップからイオンを排出して質量分析を行う前に、もともとイオンが持っている運動エネルギーの影響を軽減することによって質量分析による質量分解能を向上させることができる質量分析装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段、及び効果】
上記課題を解決するために成された本発明は、イオンを蓄積するためのイオントラップと、該イオントラップから排出されたイオンの質量数を分析する飛行時間型質量分析器とから成る質量分析装置において、
a)前記イオントラップを構成する複数の電極に所定の電圧を印加する電圧印加手段と、
b)前記イオントラップの内部にイオン捕捉用電場を形成するための捕捉用電圧を印加した後、該イオントラップから外側にイオンを排出するための排出用電圧を前記電極に印加するまでの間に、所定時間だけイオントラップ内部でイオンを自由運動させるべく前記電極への電圧印加を停止する又はイオンの運動を拘束しない程度の電圧を印加するように前記電圧印加手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0008】
質量分析に際してイオントラップから排出されるイオンが有する初期的な運動エネルギーは、排出用電圧印加直前に各イオンがもともと持つ運動エネルギーのうちの飛行時間型質量分析器の飛行空間に向かう方向(以下、これを正方向という)の成分と、排出用電圧の印加によってイオンに付与される運動エネルギーとを加算したものとなる。従って、同一質量数のイオンがイオントラップから排出される際に持つ運動エネルギーを揃えるには、上記前者の成分が大きいほど後者の運動エネルギーを小さくすればよいことになる。
【0009】
本発明に係る質量分析装置において、自由運動期間中にはイオントラップ内のイオンは電場による拘束を受けないので、各イオンがそれぞれ有する運動エネルギーに応じて、その直前にイオンが収束しているごく狭い空間から飛び出してその周囲に広がった状態になる。そのため、もともと持つ運動エネルギーが大きなイオンほど、或る時間が経過した時点ではイオントラップ内の中央付近のイオン収束空間から離れた位置まで移動する。一方、イオントラップを構成する電極に排出用電圧を印加したときにイオントラップ内に発生する電場によって各イオンが獲得する運動エネルギーは、排出の直前にイオントラップ内でイオンが存在している位置に依存している。従って、各イオンがもともと持つ運動エネルギーのうちの正方向の成分が大きいイオンであるほど、上記のように排出時に付与される運動エネルギーが小さくなる位置までイオンを移動させるようにする。具体的には、電極へ印加する排出用電圧の値、電極の位置、検出器までの距離などによって適宜の自由運動期間を設定することにより、イオントラップ内でのイオンの広がりを制御することができる。
【0010】
このようにして本発明に係る質量分析装置では、例えばクーリング終了時点で同一質量数を有するイオンが持つ運動エネルギーがばらついている場合でも、イオントラップからの排出時に付与する運動エネルギーの大きさを調整することによって各イオンの飛行時間を揃え、同一質量数を有するイオンがほぼ同時に飛行時間型質量分析器の検出器に到達するようにすることができる。これにより、質量分解能が向上し、例えば質量走査を行って質量スペクトルを作成する際に各イオンに対するピークの分離を良好に行うことができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施例による質量分析装置について、図1〜図4を参照して説明する。図1は本実施例の質量分析装置の要部の構成図、図2は本実施例の質量分析装置の動作を説明するためのタイミング図、図3は本実施例の質量分析装置の動作を説明するためのイオントラップ内部の状態の概念図、図4は本実施例の質量分析装置の動作説明図である。
【0012】
図1において、図示しない真空室の内部には、イオン源1、イオントラップ2、及び飛行時間型質量分析器(以下、TOFMS(=Time Of Flight Mass Spectrometer)という)3が配設されている。イオントラップ2は、1つのリング電極21と2つの互いに対向するエンドキャップ電極22、23により構成されている。リング電極21には電圧発生部27より高周波高電圧が印加され、リング電極21と一対のエンドキャップ電極22、23とで囲まれる空間内に形成される四重極電場によってイオン捕捉空間24を形成し、そこにイオンを捕捉する。また、エンドキャップ電極22、23にはそのときの分析モードに応じて適宜の補助交流電圧が電圧発生部27より印加される。
【0013】
また、イオントラップ2の内部にはガス供給源28からクーリングガスを導入するためのガス配管29が接続されている。通常、クーリングガスとしては、測定対象であるイオンと衝突してもそれ自身がイオン化せず又は開裂もしない安定したガス、例えばヘリウム、アルゴン、窒素などが利用される。イオン源1、TOFMS3、電圧発生部27、ガス供給源28等の動作はCPUを中心に構成される制御部4により制御される。
【0014】
上記質量分析装置の基本的な動作は次の通りである。イオン源1では目的試料の成分分子又は原子を所定のイオン化法によりイオン化する。発生したイオンはイオン入射孔25を通してイオントラップ2内に導入され、イオン捕捉空間24に捕捉されて蓄積される。通常、イオントラップ2へのイオン導入時には、入射するイオンの運動エネルギーを減衰させるような電圧V1が電圧発生部27によりエンドキャップ電極22、23に印加される。そして、全てのイオンを一旦イオン捕捉空間24内に閉じ込めた後、それらイオンをイオン出射孔26から排出してTOFMS3に導入し、そこで各イオンを質量数に応じて分離して検出器31で検出する。その検出信号はデータ処理部5へと送られ、所定のデータ処理が行われて、例えば横軸を質量数、縦軸を強度信号にとった質量スペクトルが作成されると共に、定性分析、定量分析等が行われる。
【0015】
イオンはイオン源1から或る程度の大きな運動エネルギーを持ってイオントラップ2内に飛び込むため、電極21、22、23に印加された電圧V1によって形成される四重極電場の作用によってのみでは充分にイオンを捕捉することが難しく、エンドキャップ電極23に衝突してしまったり或いはそのまま出射孔26から飛び出してしまったりするイオンが数多く発生する。そこで、イオントラップ2内に飛び込んだイオンの運動エネルギーを減少させて電場により捕捉され易くするために、クーリングガスが機能する。即ち、ガス配管29を介して供給されるクーリングガスのガス分子がイオントラップ2内に適度な密度で存在すると、イオントラップ2内に入り込んで飛行するイオンは適度にそのガス分子に衝突し、運動エネルギーを奪われて軌道が収束する。これによって、イオン捕捉空間24内にイオンを効率良く保持することができる。そのためには、クーリング動作期間(又はその一部期間)では、ガス供給源28は制御部4の制御によりクーリングガスを所定流量でイオントラップ2内に供給し続け、イオントラップ2内のガス圧を高めに維持する。
【0016】
クーリング期間が終了したならば、クーリングガスの供給を停止するとともに、各電極21、22、23への印加電圧を零にする。これにより、イオントラップ2内には電場が全く存在せず、イオントラップ2内に蓄積されているイオンはそれぞれ自由運動をする。即ち、図3に示すように、各イオンはその直前に持っている運動エネルギーの方向にほぼ直線的に勝手に移動する。このときに各イオンが持つ運動エネルギーの大きさはたとえ質量数が同一であってもばらばらであるから、イオンは当初、図3中のA1で示すような狭い範囲に収束していたものが、その範囲から飛び出して周囲に広がってゆく。このときの移動距離は運動エネルギーの大きさに比例し、自由運動の開始から或る所定時間τが経過したときにはイオンの最大広がり範囲はA2のように膨らんだ状態にある。
【0017】
いま、イオン出射孔26から出てTOFMS3の飛行空間に飛び込む方向(正方向)と全く反対方向に向いて座標Sをとり、説明を簡単にするためにこのs軸に平行な成分のみを考えるものとする。すると、同じような運動エネルギーを持って自由運動したイオンでも、正方向に向かって進行したイオンが持つ運動エネルギーと逆方向に向かって進行したイオンが持つ運動エネルギーとは全く異なる意味を持つ。即ち、前者はイオン排出時にイオンを加速するように作用し、逆に後者はイオン排出時にイオンを減速するように作用する。本実施例の質量分析装置では、こうした運動エネルギーの影響を軽減するように排出時に各イオンに運動エネルギーを付与する。
【0018】
S座標上の或る位置sに在るイオンが初期速度v0(方向は不定)を有してイオントラップ2から排出された際の飛行時間のばらつきは、次の(1)式で表すことができる。
|T(v0,s)−T(−v0,s)|=2mv0/qEs …(1)
ここで、Tはイオンがイオントラップ2を出発してから検出器31に到達するまでの飛行時間、mはイオンの質量、qは電荷量、Esはイオントラップ2内の正方向の電場強度である。
【0019】
制御部4はイオンをイオントラップ2から排出する際には電圧V2を電極22、23間に印加する。これによって、イオントラップ2の中心Cを通るS軸上の電界勾配は図4に示すようにイオン出射孔26から入射孔25側に向かって登り勾配になる。即ち、もともとの運動エネルギーの正方向成分が大きなイオンほど、電場によって付与される運動エネルギーは小さくなる。
【0020】
具体的には、イオンを時間τだけ自由運動させた後にそのときのイオンの移動距離に応じて排出時に運動エネルギーを付与したとき、同一質量数のイオンが検出器31に到達するまでの飛行時間をほぼ同一に揃える条件は、次の(2)式で表すようになる。
(dT/ds)v0・τ+mv0/qEs =0 …(2)
この条件を満たすように各パラメータを設定することにより、同一質量数の各イオンに対してイオン排出時に適宜の運動エネルギーを付与し、飛行空間に突入する際の速度が揃う。それによって、同一質量数のイオンがイオントラップ2からの排出される直前にもともと持っている運動エネルギーに拘わらず、検出器31に到達する時間をほぼ揃えることができる。なお、従来より使用されているイオントラップ型質量分析装置に本発明を適用する場合、τの値はマイクロ秒のオーダである。また、厳密には排出時にイオントラップ2内のどの位置からイオンが出発するのかによって飛行距離は相違するが、一般に、その相違はTOFMSの飛行空間の長さに比較して無視できる程度であるので問題とならない。
【0021】
上記実施例は本発明の単に一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正を行えることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例による質量分析装置の要部の構成図。
【図2】本実施例の質量分析装置の動作を説明するためのタイミング図。
【図3】本実施例の質量分析装置の動作を説明するためのイオントラップ内部の状態の概念図。
【図4】本実施例の質量分析装置の動作説明図。
【符号の説明】
1…イオン源
2…イオントラップ
21…リング電極
22、23…エンドキャップ電極
24…イオン捕捉空間
25…イオン入射孔
26…イオン出射孔
27…電圧発生部
28…ガス供給源
29…ガス配管
3…TOFMS
31…検出器
4…制御部
【発明の属する技術分野】
本発明は、電場によりイオンを捕捉して蓄積するイオントラップと、該イオントラップから排出されたイオンの質量数を分析する飛行時間型質量分析器とを備える質量分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的な質量分析装置は、イオン発生源において生成したイオンを四重極質量フィルタや飛行時間型質量分析器などの質量分析器に導入し、イオンを質量数(質量/電荷)毎に分離して検出する構成を備えている。こうした質量分析装置において、近年、イオン発生源と質量分析器との間にイオントラップを設け、イオン発生源で生成された各種イオンをイオントラップに一旦蓄積し、その後に、それらイオンを適宜選別して又は逐次イオントラップから排出させて質量分析器に導入する、という構成のものが開発されている。また、イオントラップの内部で目的分子をイオン化したり、或いは、イオントラップそれ自身が質量数に応じたイオンの選別機能を有することを利用して、後段の質量分析器を実質的に検出器のみとして用いたりする場合もある。
【0003】
こうしたイオントラップでは、基本的にイオントラップを構成する複数の電極に印加される電圧によって形成される四重極電場によってイオンを捕捉し、その捕捉空間内にイオンを閉じ込める。イオントラップに捕捉されたイオンが或る程度大きな運動エネルギーを有している場合、電場のみでは充分な捕捉効果を得ることが難しい。そこで、イオントラップ内にクーリングガスと呼ばれる不活性ガスを導入し、そのガス分子にイオンを衝突させることによってイオンの運動エネルギーを徐々に減少させる、クーリングと呼ばれる行程を設けることが多い(例えば特許文献1など参照)。こうしたクーリングによってイオンは飛行軌道を変え、イオントラップ内で旋回するような軌道に収束する。
【0004】
【特許文献1】
特開平9−189681号公報(段落0009など)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述のようにイオントラップでのイオン蓄積動作の際にクーリングを行うと、イオンの運動エネルギーは或る程度減少し、イオンはイオントラップ内で空間的に収束する。しかしながら、こうしたイオンの収束も本質的にはイオンの振動を利用した封じ込めであるため、各イオンが持つ運動エネルギーが零になるわけではない。質量分析器として飛行時間型質量分析器を用いる場合、各イオンが同一の初期条件で以て飛行空間に導入されないと、たとえ同一質量数であっても初期条件の相違が飛行時間の相違に帰着する。即ち、上記のようにイオントラップをイオンの出発点として質量分析する場合には、イオントラップからのイオン排出直前に各イオンがもともと持っている運動エネルギーの影響で飛行時間が変動してしまい、その結果、質量分解能が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明はかかる課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、イオントラップからイオンを排出して質量分析を行う前に、もともとイオンが持っている運動エネルギーの影響を軽減することによって質量分析による質量分解能を向上させることができる質量分析装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段、及び効果】
上記課題を解決するために成された本発明は、イオンを蓄積するためのイオントラップと、該イオントラップから排出されたイオンの質量数を分析する飛行時間型質量分析器とから成る質量分析装置において、
a)前記イオントラップを構成する複数の電極に所定の電圧を印加する電圧印加手段と、
b)前記イオントラップの内部にイオン捕捉用電場を形成するための捕捉用電圧を印加した後、該イオントラップから外側にイオンを排出するための排出用電圧を前記電極に印加するまでの間に、所定時間だけイオントラップ内部でイオンを自由運動させるべく前記電極への電圧印加を停止する又はイオンの運動を拘束しない程度の電圧を印加するように前記電圧印加手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0008】
質量分析に際してイオントラップから排出されるイオンが有する初期的な運動エネルギーは、排出用電圧印加直前に各イオンがもともと持つ運動エネルギーのうちの飛行時間型質量分析器の飛行空間に向かう方向(以下、これを正方向という)の成分と、排出用電圧の印加によってイオンに付与される運動エネルギーとを加算したものとなる。従って、同一質量数のイオンがイオントラップから排出される際に持つ運動エネルギーを揃えるには、上記前者の成分が大きいほど後者の運動エネルギーを小さくすればよいことになる。
【0009】
本発明に係る質量分析装置において、自由運動期間中にはイオントラップ内のイオンは電場による拘束を受けないので、各イオンがそれぞれ有する運動エネルギーに応じて、その直前にイオンが収束しているごく狭い空間から飛び出してその周囲に広がった状態になる。そのため、もともと持つ運動エネルギーが大きなイオンほど、或る時間が経過した時点ではイオントラップ内の中央付近のイオン収束空間から離れた位置まで移動する。一方、イオントラップを構成する電極に排出用電圧を印加したときにイオントラップ内に発生する電場によって各イオンが獲得する運動エネルギーは、排出の直前にイオントラップ内でイオンが存在している位置に依存している。従って、各イオンがもともと持つ運動エネルギーのうちの正方向の成分が大きいイオンであるほど、上記のように排出時に付与される運動エネルギーが小さくなる位置までイオンを移動させるようにする。具体的には、電極へ印加する排出用電圧の値、電極の位置、検出器までの距離などによって適宜の自由運動期間を設定することにより、イオントラップ内でのイオンの広がりを制御することができる。
【0010】
このようにして本発明に係る質量分析装置では、例えばクーリング終了時点で同一質量数を有するイオンが持つ運動エネルギーがばらついている場合でも、イオントラップからの排出時に付与する運動エネルギーの大きさを調整することによって各イオンの飛行時間を揃え、同一質量数を有するイオンがほぼ同時に飛行時間型質量分析器の検出器に到達するようにすることができる。これにより、質量分解能が向上し、例えば質量走査を行って質量スペクトルを作成する際に各イオンに対するピークの分離を良好に行うことができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施例による質量分析装置について、図1〜図4を参照して説明する。図1は本実施例の質量分析装置の要部の構成図、図2は本実施例の質量分析装置の動作を説明するためのタイミング図、図3は本実施例の質量分析装置の動作を説明するためのイオントラップ内部の状態の概念図、図4は本実施例の質量分析装置の動作説明図である。
【0012】
図1において、図示しない真空室の内部には、イオン源1、イオントラップ2、及び飛行時間型質量分析器(以下、TOFMS(=Time Of Flight Mass Spectrometer)という)3が配設されている。イオントラップ2は、1つのリング電極21と2つの互いに対向するエンドキャップ電極22、23により構成されている。リング電極21には電圧発生部27より高周波高電圧が印加され、リング電極21と一対のエンドキャップ電極22、23とで囲まれる空間内に形成される四重極電場によってイオン捕捉空間24を形成し、そこにイオンを捕捉する。また、エンドキャップ電極22、23にはそのときの分析モードに応じて適宜の補助交流電圧が電圧発生部27より印加される。
【0013】
また、イオントラップ2の内部にはガス供給源28からクーリングガスを導入するためのガス配管29が接続されている。通常、クーリングガスとしては、測定対象であるイオンと衝突してもそれ自身がイオン化せず又は開裂もしない安定したガス、例えばヘリウム、アルゴン、窒素などが利用される。イオン源1、TOFMS3、電圧発生部27、ガス供給源28等の動作はCPUを中心に構成される制御部4により制御される。
【0014】
上記質量分析装置の基本的な動作は次の通りである。イオン源1では目的試料の成分分子又は原子を所定のイオン化法によりイオン化する。発生したイオンはイオン入射孔25を通してイオントラップ2内に導入され、イオン捕捉空間24に捕捉されて蓄積される。通常、イオントラップ2へのイオン導入時には、入射するイオンの運動エネルギーを減衰させるような電圧V1が電圧発生部27によりエンドキャップ電極22、23に印加される。そして、全てのイオンを一旦イオン捕捉空間24内に閉じ込めた後、それらイオンをイオン出射孔26から排出してTOFMS3に導入し、そこで各イオンを質量数に応じて分離して検出器31で検出する。その検出信号はデータ処理部5へと送られ、所定のデータ処理が行われて、例えば横軸を質量数、縦軸を強度信号にとった質量スペクトルが作成されると共に、定性分析、定量分析等が行われる。
【0015】
イオンはイオン源1から或る程度の大きな運動エネルギーを持ってイオントラップ2内に飛び込むため、電極21、22、23に印加された電圧V1によって形成される四重極電場の作用によってのみでは充分にイオンを捕捉することが難しく、エンドキャップ電極23に衝突してしまったり或いはそのまま出射孔26から飛び出してしまったりするイオンが数多く発生する。そこで、イオントラップ2内に飛び込んだイオンの運動エネルギーを減少させて電場により捕捉され易くするために、クーリングガスが機能する。即ち、ガス配管29を介して供給されるクーリングガスのガス分子がイオントラップ2内に適度な密度で存在すると、イオントラップ2内に入り込んで飛行するイオンは適度にそのガス分子に衝突し、運動エネルギーを奪われて軌道が収束する。これによって、イオン捕捉空間24内にイオンを効率良く保持することができる。そのためには、クーリング動作期間(又はその一部期間)では、ガス供給源28は制御部4の制御によりクーリングガスを所定流量でイオントラップ2内に供給し続け、イオントラップ2内のガス圧を高めに維持する。
【0016】
クーリング期間が終了したならば、クーリングガスの供給を停止するとともに、各電極21、22、23への印加電圧を零にする。これにより、イオントラップ2内には電場が全く存在せず、イオントラップ2内に蓄積されているイオンはそれぞれ自由運動をする。即ち、図3に示すように、各イオンはその直前に持っている運動エネルギーの方向にほぼ直線的に勝手に移動する。このときに各イオンが持つ運動エネルギーの大きさはたとえ質量数が同一であってもばらばらであるから、イオンは当初、図3中のA1で示すような狭い範囲に収束していたものが、その範囲から飛び出して周囲に広がってゆく。このときの移動距離は運動エネルギーの大きさに比例し、自由運動の開始から或る所定時間τが経過したときにはイオンの最大広がり範囲はA2のように膨らんだ状態にある。
【0017】
いま、イオン出射孔26から出てTOFMS3の飛行空間に飛び込む方向(正方向)と全く反対方向に向いて座標Sをとり、説明を簡単にするためにこのs軸に平行な成分のみを考えるものとする。すると、同じような運動エネルギーを持って自由運動したイオンでも、正方向に向かって進行したイオンが持つ運動エネルギーと逆方向に向かって進行したイオンが持つ運動エネルギーとは全く異なる意味を持つ。即ち、前者はイオン排出時にイオンを加速するように作用し、逆に後者はイオン排出時にイオンを減速するように作用する。本実施例の質量分析装置では、こうした運動エネルギーの影響を軽減するように排出時に各イオンに運動エネルギーを付与する。
【0018】
S座標上の或る位置sに在るイオンが初期速度v0(方向は不定)を有してイオントラップ2から排出された際の飛行時間のばらつきは、次の(1)式で表すことができる。
|T(v0,s)−T(−v0,s)|=2mv0/qEs …(1)
ここで、Tはイオンがイオントラップ2を出発してから検出器31に到達するまでの飛行時間、mはイオンの質量、qは電荷量、Esはイオントラップ2内の正方向の電場強度である。
【0019】
制御部4はイオンをイオントラップ2から排出する際には電圧V2を電極22、23間に印加する。これによって、イオントラップ2の中心Cを通るS軸上の電界勾配は図4に示すようにイオン出射孔26から入射孔25側に向かって登り勾配になる。即ち、もともとの運動エネルギーの正方向成分が大きなイオンほど、電場によって付与される運動エネルギーは小さくなる。
【0020】
具体的には、イオンを時間τだけ自由運動させた後にそのときのイオンの移動距離に応じて排出時に運動エネルギーを付与したとき、同一質量数のイオンが検出器31に到達するまでの飛行時間をほぼ同一に揃える条件は、次の(2)式で表すようになる。
(dT/ds)v0・τ+mv0/qEs =0 …(2)
この条件を満たすように各パラメータを設定することにより、同一質量数の各イオンに対してイオン排出時に適宜の運動エネルギーを付与し、飛行空間に突入する際の速度が揃う。それによって、同一質量数のイオンがイオントラップ2からの排出される直前にもともと持っている運動エネルギーに拘わらず、検出器31に到達する時間をほぼ揃えることができる。なお、従来より使用されているイオントラップ型質量分析装置に本発明を適用する場合、τの値はマイクロ秒のオーダである。また、厳密には排出時にイオントラップ2内のどの位置からイオンが出発するのかによって飛行距離は相違するが、一般に、その相違はTOFMSの飛行空間の長さに比較して無視できる程度であるので問題とならない。
【0021】
上記実施例は本発明の単に一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正を行えることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例による質量分析装置の要部の構成図。
【図2】本実施例の質量分析装置の動作を説明するためのタイミング図。
【図3】本実施例の質量分析装置の動作を説明するためのイオントラップ内部の状態の概念図。
【図4】本実施例の質量分析装置の動作説明図。
【符号の説明】
1…イオン源
2…イオントラップ
21…リング電極
22、23…エンドキャップ電極
24…イオン捕捉空間
25…イオン入射孔
26…イオン出射孔
27…電圧発生部
28…ガス供給源
29…ガス配管
3…TOFMS
31…検出器
4…制御部
Claims (1)
- イオンを蓄積するためのイオントラップと、該イオントラップから排出されたイオンの質量数を分析する飛行時間型質量分析器とから成る質量分析装置において、
a)前記イオントラップを構成する複数の電極に所定の電圧を印加する電圧印加手段と、
b)前記イオントラップの内部にイオン捕捉用電場を形成するための捕捉用電圧を印加した後、該イオントラップから外側にイオンを排出するための排出用電圧を前記電極に印加するまでの間に、所定時間だけイオントラップ内部でイオンを自由運動させるべく前記電極への電圧印加を停止する又はイオンの運動を拘束しない程度の電圧を印加するように前記電圧印加手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする質量分析装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003105940A JP2004311316A (ja) | 2003-04-10 | 2003-04-10 | 質量分析装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2003105940A JP2004311316A (ja) | 2003-04-10 | 2003-04-10 | 質量分析装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004311316A true JP2004311316A (ja) | 2004-11-04 |
Family
ID=33468274
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003105940A Pending JP2004311316A (ja) | 2003-04-10 | 2003-04-10 | 質量分析装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
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JP (1) | JP2004311316A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2006098086A1 (ja) * | 2005-03-17 | 2006-09-21 | National Institute Of Advanced Industrial Science And Technology | 飛行時間質量分析計 |
JP2011511400A (ja) * | 2008-01-31 | 2011-04-07 | ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド | 線形イオントラップにおけるイオン冷却の方法 |
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2003
- 2003-04-10 JP JP2003105940A patent/JP2004311316A/ja active Pending
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JP2011511400A (ja) * | 2008-01-31 | 2011-04-07 | ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド | 線形イオントラップにおけるイオン冷却の方法 |
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