JP2004262987A - アクリロニトリル含有共重合体の製造方法及び樹脂組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】アクリロニトリル含有率が比較的高い共重合体を製造するときに、成形品の黄色味が極めて少なく、かつ、透明性などの外観品質に優れる樹脂組成物を得る。
【解決手段】アクリロニトリル単量体25〜60重量%、芳香族ビニル系単量体40〜75重量%及び、他の共重合可能なビニル化合物単量体0〜35重量%の単量体混合液100重量部と、反応に不活性な有機溶剤0〜50重量部、重合開始剤との混合物からなる原料液を、反応槽の上部気相部へスプレーノズル等を用いて散布し、強制攪拌反応槽へ連続的に供給して重合せしめ、外部凝縮器を通して反応槽内の単量体等蒸気を凝縮させ、該凝縮液を原料単量体又は原料液の一部と混合して連続的に反応槽へ供給するに際し、該反応槽の底部から重合体液面レベルの1/3以下の高さ範囲で、少なくとも1ヶ所以上の注入口から供給することを特徴とするアクリロニトリル含有共重合体の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】アクリロニトリル単量体25〜60重量%、芳香族ビニル系単量体40〜75重量%及び、他の共重合可能なビニル化合物単量体0〜35重量%の単量体混合液100重量部と、反応に不活性な有機溶剤0〜50重量部、重合開始剤との混合物からなる原料液を、反応槽の上部気相部へスプレーノズル等を用いて散布し、強制攪拌反応槽へ連続的に供給して重合せしめ、外部凝縮器を通して反応槽内の単量体等蒸気を凝縮させ、該凝縮液を原料単量体又は原料液の一部と混合して連続的に反応槽へ供給するに際し、該反応槽の底部から重合体液面レベルの1/3以下の高さ範囲で、少なくとも1ヶ所以上の注入口から供給することを特徴とするアクリロニトリル含有共重合体の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はアクリロニトリル含有共重合体の改良された連続塊状又は溶液重合方法、及び成形加工時の黄色味が従来製法による同じアクリロニトリル含有率の共重合体と比べて極めて少なく、かつ透明性等の外観特性に優れる樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、アクリロニトリル含有共重合体を製造するに際し、反応槽内で発生する重合熱や攪拌混合熱を重合体液の蒸発潜熱等により効率的に除去するプロセスにおいて、反応槽内で発生する蒸発ガスを反応槽外の熱交換器で凝縮し、該凝縮液を反応槽下部液相へ戻すに際して、該反応槽の最低部から重合体液面レベルの1/3以下の高さ範囲で、少なくとも1ヶ所以上の注入口から供給することによって、強制攪拌条件下で重合体液中にアクリロニトリル単量体が一様に分散している条件下で反応せしめ、該共重合体中のアクリロニトリル組成分布を均一化し、成形加工時の黄色味が少なく、かつ、透明性等の外観特性に優れる熱可塑性樹脂の製造方法、並びに熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
スチレン−アクリロニトリルを主成分とする共重合体、いわゆるSAN樹脂は、その優れた耐薬品性、剛性、成形性などの諸性質を有することから、幅広い分野で使用されている。これらの共重合体の製造方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合等の各種の重合方法によって製造することができる。しかしながら、乳化重合の場合は乳化剤を使用するために、重合生成物の透明性、着色変色の点で外観品質上の問題があり、また、アクリロニトリルが水に溶解し易いために均一な組成の重合生成物を得ることが困難である。懸濁重合の場合にも、分散剤等を使用して水系で重合を行う為に上記と同様の問題が発生する。さらに水系を媒体とするために、重合反応温度の制御は優れているが、連続的に重合することが容易ではなく、そのために非水系重合方法に比べ生産性に劣る。また、これらの重合方法では、設備から排出される排水などによる水質汚濁などの問題もあり、近年では、環境問題、製造コストなどの観点から、連続塊状、溶液重合が注目されている。
【0003】
塊状、溶液重合の場合は、原料単量体単独または原料単量体を有機溶剤に溶解して重合を行うが、重合後において溶媒や未反応単量体を除去して重合体を得るため、分散剤などによる重合生成物の着色変色や透明性の問題や、アクリロニトリルが水に溶解し易いため均一な組成の重合生成物が得られないという問題点が発生しない。また、回収される溶剤や単量体は、再利用するために排出することがない利点がある。従って、スチレン−アクリロニトリル系共重合体の工業的製造には、塊状重合、溶液重合が採用され、しかも、連続的に実施されることが多い。
【0004】
しかしながら、工業的生産規模で連続的に塊状重合または溶液重合を行う場合には、高転化速度で重合を行うと、反応熱、攪拌熱などの発生熱の除去が困難になり生産性に制約を受ける。また、SAN樹脂の重合において、アクリロニトリルの含有量が多いアゼオトロープ組成を大きく超える組成では、均一組成での重合が困難になり、樹脂製品の色調や透明性等の外観品質に優れる樹脂を得ることが難しくなる。これらの問題点を解決するため、単量体と溶剤などの蒸発潜熱を利用する重合方法(例えば、特許文献1、特許文献2)が開示されている。更に、SAN樹脂を連続塊状又は溶液重合で製造する場合に、反応熱等を単量体の蒸発潜熱で除去し、かつ、アクリロニトリル/スチレン組成比一定の重合体を得る方法(例えば、特許文献3)や強制攪拌反応槽を用いた重合法が提案されている。
【0005】
蒸発潜熱を利用する方法では、気相部と重合体液の気液界面からの蒸発による除熱、または必要に応じて、蒸発した溶剤と未反応単量体を反応槽外部の凝縮器で冷却し、反応槽内へ環流することにより効率的に除熱できるため、高転化速度での重合が可能になるので工業的生産規模の重合法として好ましい。
このような蒸発潜熱を利用した除熱の場合、重合体液中の各成分の蒸気圧差により、蒸発ガス中には原料液より低沸点成分が多く含まれ、凝縮液と重合体液との間に組成差が発生する。例えば、スチレン−アクリロニトリル単量体と芳香族系有機溶剤からなる原料液では、反応槽内で発生する蒸発ガス中のアクリロニトリル濃度が必然的に原料液中のアクリロニトリル濃度より高くなる。従って、蒸発ガスを凝縮してアクリロニトリル濃度の高い凝縮液を反応槽に戻すと均一組成での重合が困難になり、スチレン−アクリロニトリル系共重合体のアクリロニトリル組成分布が広くなる。
【0006】
特に、アゼオトロープ組成近傍若しくはそれ以上のアクリロニトリル含有濃度の高いスチレン−アクリロニトリル系共重合体を製造する場合、該凝縮液中のアクリロニトリル濃度は原料液に比べて著しく高くなり、反応槽に戻すと均一組成での重合が益々困難になる。更に具体的には、高アクリロニトリル含有凝縮液を反応槽中に戻して重合すると、スチレン−アクリロニトリル系共重合体のアクリロニトリル組成分布において、分布が広がり、かつ、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増える。(「アクリロニトリル含有量の高い側に分布が広がる」とは、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増えるということである。傾向が強くなって、それによって得られた共重合体を成形加工した時に黄色味が少なく、かつ、透明性等の外観品質に優れる樹脂製品が得られなかった。
【0007】
従来、スチレン−アクリロニトリル系共重合体の製造方法において、反応槽の液面から発生する単量体蒸気をコンデンサーで凝縮、液化させつつ反応器内に還流する際、凝縮液中に原料液の一部又は芳香族ビニル系単量体を追加補充することにより、アクリロニトリル含有比をさげて重合体液の組成を均一化する方法(例えば、特許文献4)が開示されているが、この方法では重合転化速度を30重量%/hr以内に保持させるという制限条件があり生産性において必ずしも充分でなかった。
【0008】
また、重合器のコンデンサーから環流する凝縮液を、大気圧における沸点が120℃以下である凝縮液成分の濃度が合計65重量%以上になるように調整して、これを重合器の気相部にスプレーして戻す方法(例えば、特許文献5)が開示されているが、この方法では蒸発潜熱による除熱能力は良いものの、気相部のアクリロニトリル濃度が極めて高くなり、外観品質に優れる樹脂製品が得られなかった。
【0009】
【特許文献1】
特開昭48−17584号公報
【特許文献2】
特開昭49−7393号公報
【特許文献3】
特開昭58−29807号公報
【特許文献4】
特開平5−255448号公報
【特許文献5】
特開2000−226417号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
アゼオトロープ組成近傍若しくはそれ以上の比較的アクリロニトリル含有率の高い、アクリロニトリル含有共重合体を製造するに際しては、反応槽内で発生する重合熱や攪拌熱を重合体液の蒸発潜熱等によって除去し、かつ、反応槽内で発生する蒸発ガスを反応槽外部の熱交換器で凝縮し該凝縮液を反応槽に戻すプロセスにおいて、重合体液と該凝縮液との混合によって生じるアクリロニトリル含有率差(組成差)が均一組成での重合を困難にし、スチレン−アクリロニトリル系重合体のアクリロニトリル組成分布が広がり、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増え、得られた共重合体を成形加工したときの黄色度が増加し、かつ、透明性等の外観品質も劣化し製品価値が著しく損なわれた。すなわち、本発明の課題は、アクリロニトリル含有共重合体の製造方法により、アクリロニトリル含有率が比較的高い共重合体を製造するときに、成形品の黄色味が極めて少なく、かつ、透明性などの外観品質に優れる樹脂組成物を得ることにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、成形加工したときの黄色度が増加し、かつ、透明性等の外観品質が劣化する要因は、重合体液の組成差、更に具体的には、重合体液中におけるアクリロニトリル含有率(濃度)の不均一性によるものであり、次の方法により、上記課題が解決されることを見出した。即ち、本発明は、
1.アクリロニトリル単量体25〜60重量%、芳香族ビニル系単量体40〜75重量%及び、他の共重合可能なビニル化合物単量体0〜35重量%(単量体合計で100重量%とする)の単量体混合液100重量部と反応に不活性な有機溶剤0〜50重量部、重合開始剤からなる原料液を、反応槽の上部気相部へスプレーノズル等を用いて散布し、反応槽の攪拌軸に取り付けたトルク計と回転数から計測される攪拌動力(KW)を、攪拌を受ける反応槽内の重合体液の容量(m3)で除して得られる攪拌所要動力が2〜20KW/m3である強制攪拌反応槽へ連続的に供給して重合せしめ、反応槽上部の気相空間部に開口する配管から外部凝縮器を通して反応槽内の単量体等蒸気を凝縮させ、該凝縮液を原料単量体又は原料液の一部と混合して連続的に反応槽へ供給するに際し、該反応槽の底部から重合体液面レベルの1/3以下の高さ範囲で、少なくとも1ヶ所以上の注入口から供給することを特徴とするアクリロニトリル含有共重合体の製造方法。
【0012】
2.アクリロニトリル含有共重合体において、液体クロマトグラフ測定による、下記の式(I)で定義されるアクリロニトリル組成分布を示すW値が、下記の式(II)を満足する範囲であることを特徴とする請求項1記載のアクリロニトリル含有共重合体の製造方法。
W=A/h (I)
式(I)中、Aは液体クロマトグラフによる溶出曲線上アクリロニトリル組成分布積算面積、hは同分布のピーク高さを示す。
W<0.92×AN+14 (II)
式(II)中のANは、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)を示す。
【0013】
3.芳香族ビニル単量体がスチレンであり、他の共重合可能なビニル単量体がアルキルアクリレートであることを特徴とする、請求項1〜2何れか記載のアクリロニトリル含有共重合体の製造方法。
4.請求項1〜3の製造方法で得られたアクリロニトリル含有共重合体。
5.請求項1〜3の製造方法で得たれたアクリロニトリル含有率が25重量%以上のアクリロニトリル含有共重合体において、成形加工された製品プレートにおける黄色度、即ちYI値(合計厚みが10mm以上となるよう製品プレートを重ねて、日本工業規格;K7105−1981に準拠したイエローインデックス測定値;YI値)が、下記の式(III)を満足する範囲であることを特徴とするアクリロニトリル含有共重合体。
YI <0.0064×AN1.994 +2 (III)
式(III)中のANは、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)を示す。
【0014】
以下、本発明を更に詳細に説明する。本発明におけるアクリロニトリルの使用量は、単量体合計中25重量%〜60重量%、好ましくは30重量%〜60重量%である。アクリロニトリルが60重量%を越えると得られる共重合体の黄色味が著しく強くなり、かつ、透明性等の外観品質が悪くなり商品価値が低下する。アクリロニトリルが25重量%未満の場合は、黄色味や外観品質が低下することは少ない。
【0015】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、4−メトキシスチレン、2−ヒドロキシスチレンなどの置換基を有する置換スチレン、α−ブロムスチレン、2,4−ジクロロスチレンなどのハロゲン化スチレン、1−ビニルナフタレンなどが挙げられ、一般的にはスチレンを用いるが、2種以上を混合して用いることもできる。
これらの芳香族ビニル単量体の使用量は、単量体合計中40重量%から75重量%、好ましくは、40重量%〜70重量%である。芳香族ビニル単量体が40重量%未満であると、得られる共重合体の黄色味が著しく強くなり、かつ、透明性等の外観品質が悪くなり商品価値が低下する。芳香族ビニル単量体が75重量%を越えると、黄色味や外観品質が低下することは少ない。
【0016】
アクリロニトリルと芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクルレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート(BA)などのアクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸またはその無水物、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド化合物などが挙げられ、特にエチルアクリレート、ブチルアクリレートが好ましく、これらの2種以上を混合して用いることもできる。これらのビニル化合物の使用量は、単量体合計中0重量%〜35重量%、好ましくは、0重量%〜30重量%である。35重量%を越えると、得られる共重合体の熱的特性や力学特性が低下する。
【0017】
溶液重合の場合、用いられる有機溶剤は、反応に不活性である有機溶剤であり、反応槽内における未反応単量体及び/又は、重合し生成する共重合体と有機溶剤とが重合温度の反応槽内の組成において均一相となる有機溶剤であればいずれの有機溶剤でも使用できる。
この有機溶剤としては、例えば、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、その他、クロロホルム、ジクロルメチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジプロピルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセチルアセトン等のケトン類、その他、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。好ましくは、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類である。また、これらは単独または2種以上の混合物として使用できる。有機溶剤の使用量は、通常、単量体混合物の総量100重量部に対して、0〜50重量部が好ましい。有機溶剤の使用量が50重量部を越えると、得られる共重合体の収率が低下し、製造コストが高くなって好ましくない。
【0018】
本発明において必要に応じて添加する重合開始剤には、公知の重合開始剤が使用でき、例えば、t−ブチルパーオキシ3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等のパーオキシエステル類、ジ−オクタノイルパーオキサイド、ジ−ラウロイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類などの有機過酸化物、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2−(カルバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)などのアゾ系重合開始剤があげられる。
【0019】
本発明における、連続重合を行わせる重合装置は、強制攪拌型反応槽であり、反応系ができる限り均一に近い状態にするため攪拌翼をもちいるが、その攪拌翼は通常、パドル型翼、ピッチパドル型攪拌翼、ヘリカル型攪拌翼、ダブルヘリカル型攪拌翼、リボン型攪拌翼、タービン型攪拌翼、スクリュー型攪拌翼、錨型攪拌翼、マックスブレンド型攪拌翼、フルゾーン型攪拌翼等が用いられる。
さらに、該反応槽に設置される攪拌軸に取り付けられるトルク計と回転数から計算される攪拌動力(KW)を、攪拌を受ける反応槽内の重合体液の容量(m3)で除して得られる攪拌強度を用いて反応液内の攪拌の目安とする。反応系内での強制攪拌による重合体液の組成均一化は、少なくとも攪拌強度2KW/m3以上で攪拌することが必要である。また、20KW/m3を越えると攪拌熱で温度制御が困難になり好ましくない。
【0020】
以下に図面を示して本発明を更に詳細に説明する。図1は、本発明の実施に用いる反応槽とその付属品の一例を示す概念図である。1は反応槽であり、攪拌翼による渦の発生を抑えるためにその壁面に邪魔板がついてもよく、2は単量体と有機溶剤の混合物である原料液の入口配管、3は反応槽上部の気相部への原料液散布用スプレー、4は蒸気抜き出し量調節弁であり、反応槽内部の圧力を一定に保ち、結果として重合温度を一定に保つ、5は反応槽の外部に設置された凝縮器であり、反応槽より抜き出された蒸気を凝縮させる。6は原料液の一部を凝縮液に加えるための配管、7は原料液と凝縮液を均一混合する混合器、8は凝縮液及び加えられた供給液を反応槽に戻すポンプ、9は反応槽下部の液相部への供給配管、10a〜10cはストップ弁、11は攪拌機の攪拌翼、12は攪拌機モーター、13は重合体液の出口配管、14は気相部、15は重合体液、16は重合体液の液面レベルを示す。
【0021】
本発明において、反応槽内で発生する蒸発ガスを反応槽外の熱交換器で凝縮し、重合体液中の未反応原料液よりもアクリロニトリル濃度の高い凝縮液を、反応槽下部液相へ戻す時に、当該凝縮液を原料液の一部と混合してアクリロニトリル濃度を下げてから、反応槽底部から重合体液面レベルの1/3以下の高さ範囲で、少なくとも1ヶ所以上の注入口から反応槽内の重合体液中に戻す。
重合体液面レベルの1/3を越えた高さ範囲で当該混合液を重合体液へ戻して重合すると、得られる共重合体中のアクリロニトリル組成分布が広がり、かつ、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増えて好ましくない。原料液の一部と混ぜて凝縮液を戻す時の混合液中におけるアクリロニトリル濃度は、原料液のアクリロニトリル濃度以上であり、原料液と凝縮液における2液のアクリロニトリル濃度の中間濃度以下が好ましい。中間濃度を超えて当該混合液を反応槽内の重合体液に戻すと、得られる共重合体中のアクリロニトリル組成分布が広がり、かつ、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増えて好ましくない。
【0022】
反応槽内の液相最上部、即ち気液界面は、蒸発ガスの気相部壁面での凝縮により、高濃度のアクリロニトリル含有凝縮液が壁面を伝って滴下し、常時、液相中で最もアクリロニトリル濃度が高い状態となっている。気液界面におけるアクリロニトリルの高濃度化を抑制するために、通常、原料液を反応槽上部の気相部壁面へスプレー散布したり、攪拌翼を使用して反応槽内の重合体液を強制攪拌して、アクリロニトリル濃度の均一化を施しているが、これだけでは充分ではない。
【0023】
従来製法より成形加工時の黄色味が少なく、かつ、透明性等の外観特性に優れるアクリロニトリル含有共重合体を得るためには、強制攪拌条件下において反応槽内の気液界面のアクリロニトリル濃度と気液界面以外の反応液中のアクリロニトリル濃度とがバランスするよう、凝縮液を原料液の一部と混ぜてアクリロニトリル濃度を調整し、反応槽液相の最底部から重合体液面レベルの1/3以下の高さ範囲で、少なくとも1ヶ所以上の注入口から供給することが必要である。具体的には、製造する該共重合体のアクリロニトリル含有率に応じて、蒸気凝縮液器5で発生した凝縮液と原料液との混合液を供給配管9に通じて、反応槽に設置されたストップ弁10a〜10cの開閉によって、所定の注入位置から供給することによって達成される。
本発明において、反応槽から抜き出される重合体液から、未反応単量体、有機溶剤を除去して共重合体を回収する方法としては、反応液を予熱して減圧下でフラッシングする方法が好ましい。
【0024】
【実施例】
以下に実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。尚、本発明はこれらの実施例などにより何ら限定されるものではない。最初に本発明で用いた分析および評価方法について説明する。
〔ポリマー中アクリロニトリル含有率の測定〕
装置:熱分解ガスクロマトグラフ GC−17A(島津製作所製)
熱分解装置 PYR−2A(島津製作所)
カラム:溶融シリカキャピラリーカラム DB−17
検出器:水素炎イオン化検出器
方法:ポリマー試料0.6〜0.8mg秤量し、熱分解炉にて加熱分解処理。
その後、気化物質をガスクロマトグラフに導入してアクリロニトリル含有量を測定した。
【0025】
〔アクリロニトリル組成分布の分析〕
装置:高速液体クロマトグラフ LC−6A(島津製作所製)
カラム:ZORBAX CN(移動相;THF)
検出器:254nm 出力;0.4V/AU
方法:樹脂ペレット0.5gをTHF40gに溶解し、20μl注入。クロマトグラフによる溶出曲線から、アクリロニトリル組成分布の積算面積をAとし、同分布のピーク高さをhとして、アクリロニトリル組成分布を表すW値;
W=A/h (I)
を算出した。式(I)より得られたW値を共重合体中のアクリロニトリル組成分布の指標とすると、同じアクリロニトリル含有量(重量%)でW値がより小さければ、共重合体中のアクリロニトリル組成分布幅が狭いことを示す。
【0026】
実験結果から得られた共重合体のアクリロニトリル含有量(重量%)とW値の関係を図2に示す。図2に示される様に、共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)が増すと一定の比率でW値が増加し、アクリロニトリル組成分布幅が広がり、かつ、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増えることが明らかになった。更に、本発明により、従来法では得られない、下記の式(II)を満足するようなアクリロニトリル組成分布幅の狭い、アクリロニトリル含有共重合体を得ることができた。
W<0.92×AN+14 (II)
式(II)中のANは、共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)を示す。実験結果を表1,2にまとめた。
【0027】
〔イエローインデックスの評価方法〕
規格:日本工業規格 K7105−1981準拠
方法:型締力30トン−射出成形機(名機製作所製)、肉厚1/8インチの平板プレート金型を用いて、成形温度220℃で平板プレートを成形。得られた平板プレートを4枚重ねてイエローインデックスを測定した。
測定装置:スペクトラフラッシュ500(データーカラーインターナショナル社製)
YI(イエローインデックス)値の換算方法
YI=〔100(1.28X−1.06Z)〕/Y
YI:黄色度(YI値が大きいほど、樹脂成形品の黄色味が強くなる。)
X,Y,Z:標準C光源における3刺激値(赤,緑,青)
【0028】
実験結果から得られた共重合体のアクリロニトリル含有量(重量%)とYI値の関係を図3に示す。図3に示される様に、共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)が増すと一定の比率でYI値が増加することが明らかになった。更に、本発明により、従来法では得られない、下記の式(III)を満足するような、成形加工された時に黄色味の少ないアクリロニトリル含有共重合体を得ることができた。
YI<0.0064×AN1.994+2 (III)
式(III)中のANは、共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)を示す。
実験結果を表1,2にまとめた。
【0029】
〔くもり度(Haze)の評価方法〕
規格:ASTM D1746
方法:イエローインデックスと同様の方法で得られた平板プレート1枚をサンプルとし、須賀試験器(株)製のSM−3にて、くもり度(Haze,透過散乱光の強度)を測定した。
【0030】
【実施例1】
〔反応槽〕図1に示す
・反応槽容量 190l
・攪拌翼:マックスブレンド攪拌翼
〔反応条件〕
・原料液中の単量体組成 ST/AN=75/25 重量%
(ST;スチレン AN;アクリロニトリル)
・溶剤量(エチルベンゼン) 20 重量部
・重合開始剤(2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)) 0.05 重量部
・重合温度 140℃
【0031】
原料液は、反応槽上部気相部へスプレー散布する配管2と蒸気凝縮器5で発生する凝縮液と混合するための配管6に分けて反応槽へ供給した。更に該凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10cを開けて残りの10aと10bは閉止した。表1に原料フィード組成とフィード流量、反応槽内での重合温度、蒸発ガスの凝縮器出口での組成、並びに、原料液と凝縮液の混合液を反応槽液相部へ戻す際の供給弁と供給する混合液の組成他を重合条件として示した。
重合運転中は反応槽容量に対する重合体液の充填率が55〜65容積%の範囲を維持するようにし、原料液供給量と同量の重合体液を連続的に抜き出した。重合時の反応槽内における攪拌機の攪拌所要動力、並びに、重合転化速度を表2に示した。反応槽から抜き出した重合体液を、揮発分を除去するため予め230℃に加温されたプレート式熱交換器を通じつつ、1.5kPaの高真空タンク中にフラッシング処理した。
【0032】
得られたポリマーを液体クロマトグラフによって、アクリロニトリル組成分布を測定したところ、W値が33であった。更に、射出成形機において成形温度220℃で成形した平板プレートにてイエローインデックスを測定したところ、YI値が4.1であり黄色味が非常に少ないものであった。また、該平板プレートの透明性はHaze=1%未満で非常に良好であった。高い重合転化率でかつロスが少なく効率よく得られた。結果を表2にまとめた。
【0033】
【実施例2】
凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10bを開けて残りの10aと10cは閉止し、それ以外は全て実施例1と同一条件で重合運転を実施した。その結果、得られたポリマーのW値は34、成形加工された平板プレートの黄色度を示すYI値は4.8であり黄色味が少なく、透明性もHaze=1%未満で非常に良好であった。
【0034】
【比較例1】
凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10aを開けて残りの10bと10cは閉止し、それ以外は全て実施例1と同一条件で重合運転を実施した。その結果、得られたポリマーのW値は40であり、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量25重量%での式(II)より算出されるW値37を超えていた。そして、成形加工された平板プレートのYI値は6.5であり実施例1,2に比べ黄色度が強く、透明性もHaze=3%となり、実施例1,2に比べ悪化した。
【0035】
【実施例3,4】
原料液中の単量体組成をST/AN=69/31(重量%)として、実施例1,2と同様に重合運転を実施した。実施例3では凝縮液と原料液の混合液をストップ弁10cから、実施例4ではストップ弁10bから反応槽下部液相へ供給した。その結果、表2に示したように得られたポリマーはW値が低い、アクリロニトリル組成分布が狭いポリマーであった。更に、成形加工された平板プレートでの黄色味が少なく、透明性もHaze=1%未満で非常に良好であった。
【0036】
【比較例2】
凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10aを開けて残りの10bと10cは閉止し、それ以外は全て実施例3,4と同一条件で重合運転を実施した。その結果、得られたポリマーのW値は45であり、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量30重量%での式(II)より算出されるW値41.6を超えていた。そして、成形加工された平板プレートのYI値は8.2であり実施例3,4に比べ黄色度が強く、透明性もHaze=5%となり、実施例3,4に比べ悪化した。
【0037】
【実施例5,6】
原料液中の単量体組成をST/AN=50/50(重量%)として、実施例1,2と同様に重合運転を実施した。実施例5では凝縮液と原料液の混合液をストップ弁10cから、実施例6ではストップ弁10bから反応槽下部液相へ供給した。その結果、表2に示したように得られたポリマーはW値が低い、アクリロニトリル組成分布が狭いポリマーであった。更に、成形加工された平板プレートでの黄色味が少なく、透明性もHaze=1%未満で非常に良好であった。
【0038】
【比較例3】
凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10aを開けて残りの10bと10cは閉止し、それ以外は全て実施例5,6と同一条件で重合運転を実施した。その結果、得られたポリマーのW値は60であり、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量40重量%での式(II)より算出されるW値50.8を超えていた。そして、成形加工された平板プレートのYI値は15.5であり実施例5,6に比べ黄色度が強く、透明性もHaze=8%となり、実施例5,6に比べ悪化した。
【0039】
【実施例7,8】
原料液中の単量体組成をST/AN/BA=45/45/10(重量%)として、実施例1,2と同様に重合運転を実施した。実施例7では凝縮液と原料液の混合液をストップ弁10cから、実施例8ではストップ弁10bから反応槽下部液相へ供給した。その結果、表2に示したように得られたポリマーはW値が低い、アクリロニトリル組成分布が狭いポリマーであった。更に、成形加工された平板プレートでの黄色味が少なく、透明性もHaze=1%未満で非常に良好であった。
【0040】
【比較例4】
凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10aを開けて残りの10bと10cは閉止し、それ以外は全て実施例7,8と同一条件で重合運転を実施した。その結果、得られたポリマーのW値は56であり、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量40重量%での式(II)より算出されるW値50.8を超えていた。そして、成形加工された平板プレートのYI値は14.5であり実施例7,8に比べ黄色度が強く、透明性もHaze=7%となり、実施例7,8に比べ悪化した。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【発明の効果】
本発明のアクリロニトリル含有共重合体の製造方法によれば、アクリロニトリル含有率が比較的高い共重合体を製造するときに、成形品の黄色味が極めて少なく、かつ、透明性などの外観品質に優れる樹脂組成物が、高い重合転化率でかつロスが少なく効率良く得られることとなり、その工業的意義が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の反応槽等の概略図。
【図2】実施例、比較例より得られる、ANとW値との相関図。
【図3】実施例、比較例より得られる、ANとYI値との相関図。
【符号の説明】
1:反応槽
2:単量体と溶媒の混合物である原料液の入口配管
3:反応槽上部の気相部への原料液散布用スプレー
4:蒸気抜出し量調節弁
5:蒸気凝縮器
6:原料液の一部を凝縮液に加えるための配管
7:混合装置
8:凝縮液及び加えられた原料液を反応槽に戻すポンプ
9:反応槽下部の液相部への供給配管
10a:ストップ弁
10b:ストップ弁
10c:ストップ弁
11:攪拌機の攪拌翼
12:攪拌機モーター
13:重合体液出口配管
14:気相部
15:重合体液
16:重合体液面レベル;h
【発明の属する技術分野】
本発明はアクリロニトリル含有共重合体の改良された連続塊状又は溶液重合方法、及び成形加工時の黄色味が従来製法による同じアクリロニトリル含有率の共重合体と比べて極めて少なく、かつ透明性等の外観特性に優れる樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、アクリロニトリル含有共重合体を製造するに際し、反応槽内で発生する重合熱や攪拌混合熱を重合体液の蒸発潜熱等により効率的に除去するプロセスにおいて、反応槽内で発生する蒸発ガスを反応槽外の熱交換器で凝縮し、該凝縮液を反応槽下部液相へ戻すに際して、該反応槽の最低部から重合体液面レベルの1/3以下の高さ範囲で、少なくとも1ヶ所以上の注入口から供給することによって、強制攪拌条件下で重合体液中にアクリロニトリル単量体が一様に分散している条件下で反応せしめ、該共重合体中のアクリロニトリル組成分布を均一化し、成形加工時の黄色味が少なく、かつ、透明性等の外観特性に優れる熱可塑性樹脂の製造方法、並びに熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
スチレン−アクリロニトリルを主成分とする共重合体、いわゆるSAN樹脂は、その優れた耐薬品性、剛性、成形性などの諸性質を有することから、幅広い分野で使用されている。これらの共重合体の製造方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合等の各種の重合方法によって製造することができる。しかしながら、乳化重合の場合は乳化剤を使用するために、重合生成物の透明性、着色変色の点で外観品質上の問題があり、また、アクリロニトリルが水に溶解し易いために均一な組成の重合生成物を得ることが困難である。懸濁重合の場合にも、分散剤等を使用して水系で重合を行う為に上記と同様の問題が発生する。さらに水系を媒体とするために、重合反応温度の制御は優れているが、連続的に重合することが容易ではなく、そのために非水系重合方法に比べ生産性に劣る。また、これらの重合方法では、設備から排出される排水などによる水質汚濁などの問題もあり、近年では、環境問題、製造コストなどの観点から、連続塊状、溶液重合が注目されている。
【0003】
塊状、溶液重合の場合は、原料単量体単独または原料単量体を有機溶剤に溶解して重合を行うが、重合後において溶媒や未反応単量体を除去して重合体を得るため、分散剤などによる重合生成物の着色変色や透明性の問題や、アクリロニトリルが水に溶解し易いため均一な組成の重合生成物が得られないという問題点が発生しない。また、回収される溶剤や単量体は、再利用するために排出することがない利点がある。従って、スチレン−アクリロニトリル系共重合体の工業的製造には、塊状重合、溶液重合が採用され、しかも、連続的に実施されることが多い。
【0004】
しかしながら、工業的生産規模で連続的に塊状重合または溶液重合を行う場合には、高転化速度で重合を行うと、反応熱、攪拌熱などの発生熱の除去が困難になり生産性に制約を受ける。また、SAN樹脂の重合において、アクリロニトリルの含有量が多いアゼオトロープ組成を大きく超える組成では、均一組成での重合が困難になり、樹脂製品の色調や透明性等の外観品質に優れる樹脂を得ることが難しくなる。これらの問題点を解決するため、単量体と溶剤などの蒸発潜熱を利用する重合方法(例えば、特許文献1、特許文献2)が開示されている。更に、SAN樹脂を連続塊状又は溶液重合で製造する場合に、反応熱等を単量体の蒸発潜熱で除去し、かつ、アクリロニトリル/スチレン組成比一定の重合体を得る方法(例えば、特許文献3)や強制攪拌反応槽を用いた重合法が提案されている。
【0005】
蒸発潜熱を利用する方法では、気相部と重合体液の気液界面からの蒸発による除熱、または必要に応じて、蒸発した溶剤と未反応単量体を反応槽外部の凝縮器で冷却し、反応槽内へ環流することにより効率的に除熱できるため、高転化速度での重合が可能になるので工業的生産規模の重合法として好ましい。
このような蒸発潜熱を利用した除熱の場合、重合体液中の各成分の蒸気圧差により、蒸発ガス中には原料液より低沸点成分が多く含まれ、凝縮液と重合体液との間に組成差が発生する。例えば、スチレン−アクリロニトリル単量体と芳香族系有機溶剤からなる原料液では、反応槽内で発生する蒸発ガス中のアクリロニトリル濃度が必然的に原料液中のアクリロニトリル濃度より高くなる。従って、蒸発ガスを凝縮してアクリロニトリル濃度の高い凝縮液を反応槽に戻すと均一組成での重合が困難になり、スチレン−アクリロニトリル系共重合体のアクリロニトリル組成分布が広くなる。
【0006】
特に、アゼオトロープ組成近傍若しくはそれ以上のアクリロニトリル含有濃度の高いスチレン−アクリロニトリル系共重合体を製造する場合、該凝縮液中のアクリロニトリル濃度は原料液に比べて著しく高くなり、反応槽に戻すと均一組成での重合が益々困難になる。更に具体的には、高アクリロニトリル含有凝縮液を反応槽中に戻して重合すると、スチレン−アクリロニトリル系共重合体のアクリロニトリル組成分布において、分布が広がり、かつ、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増える。(「アクリロニトリル含有量の高い側に分布が広がる」とは、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増えるということである。傾向が強くなって、それによって得られた共重合体を成形加工した時に黄色味が少なく、かつ、透明性等の外観品質に優れる樹脂製品が得られなかった。
【0007】
従来、スチレン−アクリロニトリル系共重合体の製造方法において、反応槽の液面から発生する単量体蒸気をコンデンサーで凝縮、液化させつつ反応器内に還流する際、凝縮液中に原料液の一部又は芳香族ビニル系単量体を追加補充することにより、アクリロニトリル含有比をさげて重合体液の組成を均一化する方法(例えば、特許文献4)が開示されているが、この方法では重合転化速度を30重量%/hr以内に保持させるという制限条件があり生産性において必ずしも充分でなかった。
【0008】
また、重合器のコンデンサーから環流する凝縮液を、大気圧における沸点が120℃以下である凝縮液成分の濃度が合計65重量%以上になるように調整して、これを重合器の気相部にスプレーして戻す方法(例えば、特許文献5)が開示されているが、この方法では蒸発潜熱による除熱能力は良いものの、気相部のアクリロニトリル濃度が極めて高くなり、外観品質に優れる樹脂製品が得られなかった。
【0009】
【特許文献1】
特開昭48−17584号公報
【特許文献2】
特開昭49−7393号公報
【特許文献3】
特開昭58−29807号公報
【特許文献4】
特開平5−255448号公報
【特許文献5】
特開2000−226417号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
アゼオトロープ組成近傍若しくはそれ以上の比較的アクリロニトリル含有率の高い、アクリロニトリル含有共重合体を製造するに際しては、反応槽内で発生する重合熱や攪拌熱を重合体液の蒸発潜熱等によって除去し、かつ、反応槽内で発生する蒸発ガスを反応槽外部の熱交換器で凝縮し該凝縮液を反応槽に戻すプロセスにおいて、重合体液と該凝縮液との混合によって生じるアクリロニトリル含有率差(組成差)が均一組成での重合を困難にし、スチレン−アクリロニトリル系重合体のアクリロニトリル組成分布が広がり、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増え、得られた共重合体を成形加工したときの黄色度が増加し、かつ、透明性等の外観品質も劣化し製品価値が著しく損なわれた。すなわち、本発明の課題は、アクリロニトリル含有共重合体の製造方法により、アクリロニトリル含有率が比較的高い共重合体を製造するときに、成形品の黄色味が極めて少なく、かつ、透明性などの外観品質に優れる樹脂組成物を得ることにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、成形加工したときの黄色度が増加し、かつ、透明性等の外観品質が劣化する要因は、重合体液の組成差、更に具体的には、重合体液中におけるアクリロニトリル含有率(濃度)の不均一性によるものであり、次の方法により、上記課題が解決されることを見出した。即ち、本発明は、
1.アクリロニトリル単量体25〜60重量%、芳香族ビニル系単量体40〜75重量%及び、他の共重合可能なビニル化合物単量体0〜35重量%(単量体合計で100重量%とする)の単量体混合液100重量部と反応に不活性な有機溶剤0〜50重量部、重合開始剤からなる原料液を、反応槽の上部気相部へスプレーノズル等を用いて散布し、反応槽の攪拌軸に取り付けたトルク計と回転数から計測される攪拌動力(KW)を、攪拌を受ける反応槽内の重合体液の容量(m3)で除して得られる攪拌所要動力が2〜20KW/m3である強制攪拌反応槽へ連続的に供給して重合せしめ、反応槽上部の気相空間部に開口する配管から外部凝縮器を通して反応槽内の単量体等蒸気を凝縮させ、該凝縮液を原料単量体又は原料液の一部と混合して連続的に反応槽へ供給するに際し、該反応槽の底部から重合体液面レベルの1/3以下の高さ範囲で、少なくとも1ヶ所以上の注入口から供給することを特徴とするアクリロニトリル含有共重合体の製造方法。
【0012】
2.アクリロニトリル含有共重合体において、液体クロマトグラフ測定による、下記の式(I)で定義されるアクリロニトリル組成分布を示すW値が、下記の式(II)を満足する範囲であることを特徴とする請求項1記載のアクリロニトリル含有共重合体の製造方法。
W=A/h (I)
式(I)中、Aは液体クロマトグラフによる溶出曲線上アクリロニトリル組成分布積算面積、hは同分布のピーク高さを示す。
W<0.92×AN+14 (II)
式(II)中のANは、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)を示す。
【0013】
3.芳香族ビニル単量体がスチレンであり、他の共重合可能なビニル単量体がアルキルアクリレートであることを特徴とする、請求項1〜2何れか記載のアクリロニトリル含有共重合体の製造方法。
4.請求項1〜3の製造方法で得られたアクリロニトリル含有共重合体。
5.請求項1〜3の製造方法で得たれたアクリロニトリル含有率が25重量%以上のアクリロニトリル含有共重合体において、成形加工された製品プレートにおける黄色度、即ちYI値(合計厚みが10mm以上となるよう製品プレートを重ねて、日本工業規格;K7105−1981に準拠したイエローインデックス測定値;YI値)が、下記の式(III)を満足する範囲であることを特徴とするアクリロニトリル含有共重合体。
YI <0.0064×AN1.994 +2 (III)
式(III)中のANは、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)を示す。
【0014】
以下、本発明を更に詳細に説明する。本発明におけるアクリロニトリルの使用量は、単量体合計中25重量%〜60重量%、好ましくは30重量%〜60重量%である。アクリロニトリルが60重量%を越えると得られる共重合体の黄色味が著しく強くなり、かつ、透明性等の外観品質が悪くなり商品価値が低下する。アクリロニトリルが25重量%未満の場合は、黄色味や外観品質が低下することは少ない。
【0015】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、4−メトキシスチレン、2−ヒドロキシスチレンなどの置換基を有する置換スチレン、α−ブロムスチレン、2,4−ジクロロスチレンなどのハロゲン化スチレン、1−ビニルナフタレンなどが挙げられ、一般的にはスチレンを用いるが、2種以上を混合して用いることもできる。
これらの芳香族ビニル単量体の使用量は、単量体合計中40重量%から75重量%、好ましくは、40重量%〜70重量%である。芳香族ビニル単量体が40重量%未満であると、得られる共重合体の黄色味が著しく強くなり、かつ、透明性等の外観品質が悪くなり商品価値が低下する。芳香族ビニル単量体が75重量%を越えると、黄色味や外観品質が低下することは少ない。
【0016】
アクリロニトリルと芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクルレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート(BA)などのアクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸またはその無水物、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド化合物などが挙げられ、特にエチルアクリレート、ブチルアクリレートが好ましく、これらの2種以上を混合して用いることもできる。これらのビニル化合物の使用量は、単量体合計中0重量%〜35重量%、好ましくは、0重量%〜30重量%である。35重量%を越えると、得られる共重合体の熱的特性や力学特性が低下する。
【0017】
溶液重合の場合、用いられる有機溶剤は、反応に不活性である有機溶剤であり、反応槽内における未反応単量体及び/又は、重合し生成する共重合体と有機溶剤とが重合温度の反応槽内の組成において均一相となる有機溶剤であればいずれの有機溶剤でも使用できる。
この有機溶剤としては、例えば、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、その他、クロロホルム、ジクロルメチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジプロピルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセチルアセトン等のケトン類、その他、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。好ましくは、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類である。また、これらは単独または2種以上の混合物として使用できる。有機溶剤の使用量は、通常、単量体混合物の総量100重量部に対して、0〜50重量部が好ましい。有機溶剤の使用量が50重量部を越えると、得られる共重合体の収率が低下し、製造コストが高くなって好ましくない。
【0018】
本発明において必要に応じて添加する重合開始剤には、公知の重合開始剤が使用でき、例えば、t−ブチルパーオキシ3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等のパーオキシエステル類、ジ−オクタノイルパーオキサイド、ジ−ラウロイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類などの有機過酸化物、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2−(カルバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)などのアゾ系重合開始剤があげられる。
【0019】
本発明における、連続重合を行わせる重合装置は、強制攪拌型反応槽であり、反応系ができる限り均一に近い状態にするため攪拌翼をもちいるが、その攪拌翼は通常、パドル型翼、ピッチパドル型攪拌翼、ヘリカル型攪拌翼、ダブルヘリカル型攪拌翼、リボン型攪拌翼、タービン型攪拌翼、スクリュー型攪拌翼、錨型攪拌翼、マックスブレンド型攪拌翼、フルゾーン型攪拌翼等が用いられる。
さらに、該反応槽に設置される攪拌軸に取り付けられるトルク計と回転数から計算される攪拌動力(KW)を、攪拌を受ける反応槽内の重合体液の容量(m3)で除して得られる攪拌強度を用いて反応液内の攪拌の目安とする。反応系内での強制攪拌による重合体液の組成均一化は、少なくとも攪拌強度2KW/m3以上で攪拌することが必要である。また、20KW/m3を越えると攪拌熱で温度制御が困難になり好ましくない。
【0020】
以下に図面を示して本発明を更に詳細に説明する。図1は、本発明の実施に用いる反応槽とその付属品の一例を示す概念図である。1は反応槽であり、攪拌翼による渦の発生を抑えるためにその壁面に邪魔板がついてもよく、2は単量体と有機溶剤の混合物である原料液の入口配管、3は反応槽上部の気相部への原料液散布用スプレー、4は蒸気抜き出し量調節弁であり、反応槽内部の圧力を一定に保ち、結果として重合温度を一定に保つ、5は反応槽の外部に設置された凝縮器であり、反応槽より抜き出された蒸気を凝縮させる。6は原料液の一部を凝縮液に加えるための配管、7は原料液と凝縮液を均一混合する混合器、8は凝縮液及び加えられた供給液を反応槽に戻すポンプ、9は反応槽下部の液相部への供給配管、10a〜10cはストップ弁、11は攪拌機の攪拌翼、12は攪拌機モーター、13は重合体液の出口配管、14は気相部、15は重合体液、16は重合体液の液面レベルを示す。
【0021】
本発明において、反応槽内で発生する蒸発ガスを反応槽外の熱交換器で凝縮し、重合体液中の未反応原料液よりもアクリロニトリル濃度の高い凝縮液を、反応槽下部液相へ戻す時に、当該凝縮液を原料液の一部と混合してアクリロニトリル濃度を下げてから、反応槽底部から重合体液面レベルの1/3以下の高さ範囲で、少なくとも1ヶ所以上の注入口から反応槽内の重合体液中に戻す。
重合体液面レベルの1/3を越えた高さ範囲で当該混合液を重合体液へ戻して重合すると、得られる共重合体中のアクリロニトリル組成分布が広がり、かつ、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増えて好ましくない。原料液の一部と混ぜて凝縮液を戻す時の混合液中におけるアクリロニトリル濃度は、原料液のアクリロニトリル濃度以上であり、原料液と凝縮液における2液のアクリロニトリル濃度の中間濃度以下が好ましい。中間濃度を超えて当該混合液を反応槽内の重合体液に戻すと、得られる共重合体中のアクリロニトリル組成分布が広がり、かつ、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増えて好ましくない。
【0022】
反応槽内の液相最上部、即ち気液界面は、蒸発ガスの気相部壁面での凝縮により、高濃度のアクリロニトリル含有凝縮液が壁面を伝って滴下し、常時、液相中で最もアクリロニトリル濃度が高い状態となっている。気液界面におけるアクリロニトリルの高濃度化を抑制するために、通常、原料液を反応槽上部の気相部壁面へスプレー散布したり、攪拌翼を使用して反応槽内の重合体液を強制攪拌して、アクリロニトリル濃度の均一化を施しているが、これだけでは充分ではない。
【0023】
従来製法より成形加工時の黄色味が少なく、かつ、透明性等の外観特性に優れるアクリロニトリル含有共重合体を得るためには、強制攪拌条件下において反応槽内の気液界面のアクリロニトリル濃度と気液界面以外の反応液中のアクリロニトリル濃度とがバランスするよう、凝縮液を原料液の一部と混ぜてアクリロニトリル濃度を調整し、反応槽液相の最底部から重合体液面レベルの1/3以下の高さ範囲で、少なくとも1ヶ所以上の注入口から供給することが必要である。具体的には、製造する該共重合体のアクリロニトリル含有率に応じて、蒸気凝縮液器5で発生した凝縮液と原料液との混合液を供給配管9に通じて、反応槽に設置されたストップ弁10a〜10cの開閉によって、所定の注入位置から供給することによって達成される。
本発明において、反応槽から抜き出される重合体液から、未反応単量体、有機溶剤を除去して共重合体を回収する方法としては、反応液を予熱して減圧下でフラッシングする方法が好ましい。
【0024】
【実施例】
以下に実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。尚、本発明はこれらの実施例などにより何ら限定されるものではない。最初に本発明で用いた分析および評価方法について説明する。
〔ポリマー中アクリロニトリル含有率の測定〕
装置:熱分解ガスクロマトグラフ GC−17A(島津製作所製)
熱分解装置 PYR−2A(島津製作所)
カラム:溶融シリカキャピラリーカラム DB−17
検出器:水素炎イオン化検出器
方法:ポリマー試料0.6〜0.8mg秤量し、熱分解炉にて加熱分解処理。
その後、気化物質をガスクロマトグラフに導入してアクリロニトリル含有量を測定した。
【0025】
〔アクリロニトリル組成分布の分析〕
装置:高速液体クロマトグラフ LC−6A(島津製作所製)
カラム:ZORBAX CN(移動相;THF)
検出器:254nm 出力;0.4V/AU
方法:樹脂ペレット0.5gをTHF40gに溶解し、20μl注入。クロマトグラフによる溶出曲線から、アクリロニトリル組成分布の積算面積をAとし、同分布のピーク高さをhとして、アクリロニトリル組成分布を表すW値;
W=A/h (I)
を算出した。式(I)より得られたW値を共重合体中のアクリロニトリル組成分布の指標とすると、同じアクリロニトリル含有量(重量%)でW値がより小さければ、共重合体中のアクリロニトリル組成分布幅が狭いことを示す。
【0026】
実験結果から得られた共重合体のアクリロニトリル含有量(重量%)とW値の関係を図2に示す。図2に示される様に、共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)が増すと一定の比率でW値が増加し、アクリロニトリル組成分布幅が広がり、かつ、アクリロニトリル含有量の高い共重合体の割合が増えることが明らかになった。更に、本発明により、従来法では得られない、下記の式(II)を満足するようなアクリロニトリル組成分布幅の狭い、アクリロニトリル含有共重合体を得ることができた。
W<0.92×AN+14 (II)
式(II)中のANは、共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)を示す。実験結果を表1,2にまとめた。
【0027】
〔イエローインデックスの評価方法〕
規格:日本工業規格 K7105−1981準拠
方法:型締力30トン−射出成形機(名機製作所製)、肉厚1/8インチの平板プレート金型を用いて、成形温度220℃で平板プレートを成形。得られた平板プレートを4枚重ねてイエローインデックスを測定した。
測定装置:スペクトラフラッシュ500(データーカラーインターナショナル社製)
YI(イエローインデックス)値の換算方法
YI=〔100(1.28X−1.06Z)〕/Y
YI:黄色度(YI値が大きいほど、樹脂成形品の黄色味が強くなる。)
X,Y,Z:標準C光源における3刺激値(赤,緑,青)
【0028】
実験結果から得られた共重合体のアクリロニトリル含有量(重量%)とYI値の関係を図3に示す。図3に示される様に、共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)が増すと一定の比率でYI値が増加することが明らかになった。更に、本発明により、従来法では得られない、下記の式(III)を満足するような、成形加工された時に黄色味の少ないアクリロニトリル含有共重合体を得ることができた。
YI<0.0064×AN1.994+2 (III)
式(III)中のANは、共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)を示す。
実験結果を表1,2にまとめた。
【0029】
〔くもり度(Haze)の評価方法〕
規格:ASTM D1746
方法:イエローインデックスと同様の方法で得られた平板プレート1枚をサンプルとし、須賀試験器(株)製のSM−3にて、くもり度(Haze,透過散乱光の強度)を測定した。
【0030】
【実施例1】
〔反応槽〕図1に示す
・反応槽容量 190l
・攪拌翼:マックスブレンド攪拌翼
〔反応条件〕
・原料液中の単量体組成 ST/AN=75/25 重量%
(ST;スチレン AN;アクリロニトリル)
・溶剤量(エチルベンゼン) 20 重量部
・重合開始剤(2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)) 0.05 重量部
・重合温度 140℃
【0031】
原料液は、反応槽上部気相部へスプレー散布する配管2と蒸気凝縮器5で発生する凝縮液と混合するための配管6に分けて反応槽へ供給した。更に該凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10cを開けて残りの10aと10bは閉止した。表1に原料フィード組成とフィード流量、反応槽内での重合温度、蒸発ガスの凝縮器出口での組成、並びに、原料液と凝縮液の混合液を反応槽液相部へ戻す際の供給弁と供給する混合液の組成他を重合条件として示した。
重合運転中は反応槽容量に対する重合体液の充填率が55〜65容積%の範囲を維持するようにし、原料液供給量と同量の重合体液を連続的に抜き出した。重合時の反応槽内における攪拌機の攪拌所要動力、並びに、重合転化速度を表2に示した。反応槽から抜き出した重合体液を、揮発分を除去するため予め230℃に加温されたプレート式熱交換器を通じつつ、1.5kPaの高真空タンク中にフラッシング処理した。
【0032】
得られたポリマーを液体クロマトグラフによって、アクリロニトリル組成分布を測定したところ、W値が33であった。更に、射出成形機において成形温度220℃で成形した平板プレートにてイエローインデックスを測定したところ、YI値が4.1であり黄色味が非常に少ないものであった。また、該平板プレートの透明性はHaze=1%未満で非常に良好であった。高い重合転化率でかつロスが少なく効率よく得られた。結果を表2にまとめた。
【0033】
【実施例2】
凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10bを開けて残りの10aと10cは閉止し、それ以外は全て実施例1と同一条件で重合運転を実施した。その結果、得られたポリマーのW値は34、成形加工された平板プレートの黄色度を示すYI値は4.8であり黄色味が少なく、透明性もHaze=1%未満で非常に良好であった。
【0034】
【比較例1】
凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10aを開けて残りの10bと10cは閉止し、それ以外は全て実施例1と同一条件で重合運転を実施した。その結果、得られたポリマーのW値は40であり、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量25重量%での式(II)より算出されるW値37を超えていた。そして、成形加工された平板プレートのYI値は6.5であり実施例1,2に比べ黄色度が強く、透明性もHaze=3%となり、実施例1,2に比べ悪化した。
【0035】
【実施例3,4】
原料液中の単量体組成をST/AN=69/31(重量%)として、実施例1,2と同様に重合運転を実施した。実施例3では凝縮液と原料液の混合液をストップ弁10cから、実施例4ではストップ弁10bから反応槽下部液相へ供給した。その結果、表2に示したように得られたポリマーはW値が低い、アクリロニトリル組成分布が狭いポリマーであった。更に、成形加工された平板プレートでの黄色味が少なく、透明性もHaze=1%未満で非常に良好であった。
【0036】
【比較例2】
凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10aを開けて残りの10bと10cは閉止し、それ以外は全て実施例3,4と同一条件で重合運転を実施した。その結果、得られたポリマーのW値は45であり、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量30重量%での式(II)より算出されるW値41.6を超えていた。そして、成形加工された平板プレートのYI値は8.2であり実施例3,4に比べ黄色度が強く、透明性もHaze=5%となり、実施例3,4に比べ悪化した。
【0037】
【実施例5,6】
原料液中の単量体組成をST/AN=50/50(重量%)として、実施例1,2と同様に重合運転を実施した。実施例5では凝縮液と原料液の混合液をストップ弁10cから、実施例6ではストップ弁10bから反応槽下部液相へ供給した。その結果、表2に示したように得られたポリマーはW値が低い、アクリロニトリル組成分布が狭いポリマーであった。更に、成形加工された平板プレートでの黄色味が少なく、透明性もHaze=1%未満で非常に良好であった。
【0038】
【比較例3】
凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10aを開けて残りの10bと10cは閉止し、それ以外は全て実施例5,6と同一条件で重合運転を実施した。その結果、得られたポリマーのW値は60であり、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量40重量%での式(II)より算出されるW値50.8を超えていた。そして、成形加工された平板プレートのYI値は15.5であり実施例5,6に比べ黄色度が強く、透明性もHaze=8%となり、実施例5,6に比べ悪化した。
【0039】
【実施例7,8】
原料液中の単量体組成をST/AN/BA=45/45/10(重量%)として、実施例1,2と同様に重合運転を実施した。実施例7では凝縮液と原料液の混合液をストップ弁10cから、実施例8ではストップ弁10bから反応槽下部液相へ供給した。その結果、表2に示したように得られたポリマーはW値が低い、アクリロニトリル組成分布が狭いポリマーであった。更に、成形加工された平板プレートでの黄色味が少なく、透明性もHaze=1%未満で非常に良好であった。
【0040】
【比較例4】
凝縮液と原料液の混合液を反応槽下部液相へ供給するために、ストップ弁10aを開けて残りの10bと10cは閉止し、それ以外は全て実施例7,8と同一条件で重合運転を実施した。その結果、得られたポリマーのW値は56であり、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量40重量%での式(II)より算出されるW値50.8を超えていた。そして、成形加工された平板プレートのYI値は14.5であり実施例7,8に比べ黄色度が強く、透明性もHaze=7%となり、実施例7,8に比べ悪化した。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【発明の効果】
本発明のアクリロニトリル含有共重合体の製造方法によれば、アクリロニトリル含有率が比較的高い共重合体を製造するときに、成形品の黄色味が極めて少なく、かつ、透明性などの外観品質に優れる樹脂組成物が、高い重合転化率でかつロスが少なく効率良く得られることとなり、その工業的意義が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の反応槽等の概略図。
【図2】実施例、比較例より得られる、ANとW値との相関図。
【図3】実施例、比較例より得られる、ANとYI値との相関図。
【符号の説明】
1:反応槽
2:単量体と溶媒の混合物である原料液の入口配管
3:反応槽上部の気相部への原料液散布用スプレー
4:蒸気抜出し量調節弁
5:蒸気凝縮器
6:原料液の一部を凝縮液に加えるための配管
7:混合装置
8:凝縮液及び加えられた原料液を反応槽に戻すポンプ
9:反応槽下部の液相部への供給配管
10a:ストップ弁
10b:ストップ弁
10c:ストップ弁
11:攪拌機の攪拌翼
12:攪拌機モーター
13:重合体液出口配管
14:気相部
15:重合体液
16:重合体液面レベル;h
Claims (5)
- アクリロニトリル単量体25〜60重量%、芳香族ビニル系単量体40〜75重量%及び、他の共重合可能なビニル化合物単量体0〜35重量%(単量体合計で100重量%とする)の単量体混合液100重量部と、反応に不活性な有機溶剤0〜50重量部、重合開始剤との混合物からなる原料液を、反応槽の上部気相部へスプレーノズル等を用いて散布し、反応槽の攪拌軸に取り付けたトルク計と回転数から計測される攪拌動力(KW)を、攪拌を受ける反応槽内の重合体液の容量(m3)で除して得られる攪拌所要動力が2〜20KW/m3である強制攪拌反応槽へ連続的に供給して重合せしめ、反応槽上部の気相空間部に開口する配管から外部凝縮器を通して反応槽内の単量体等蒸気を凝縮させ、該凝縮液を原料単量体又は原料液の一部と混合して連続的に反応槽へ供給するに際し、該反応槽の底部から重合体液面レベルの1/3以下の高さ範囲で、少なくとも1ヶ所以上の注入口から供給することを特徴とするアクリロニトリル含有共重合体の製造方法。
- アクリロニトリル含有共重合体において、液体クロマトグラフ測定による、下記の式(I)で定義されるアクリロニトリル組成分布を示すW値が、下記の式(II)を満足する範囲であることを特徴とする請求項1記載のアクリロニトリル含有共重合体の製造方法。
W=A/h (I)
式(I)中、Aは液体クロマトグラフによる溶出曲線上アクリロニトリル組成分布積算面積hは同分布のピーク高さを示す。
W<0.92×AN+14 (II)
式(II)中のANは、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)を示す。 - 芳香族ビニル単量体がスチレンであり、他の共重合可能なビニル単量体がアルキルアクリレートであることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載のアクリロニトリル含有共重合体の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法で得られたアクリロニトリル含有共重合体。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法で得られたアクリロニトリル含有率が25重量%以上のアクリロニトリル含有共重合体において、成形加工された製品プレートにおける黄色度、即ちYI値(合計厚みが10mm以上となるよう製品プレートを重ねて、日本工業規格;K7105−1981に準拠したイエローインデックス測定値;YI値)が、下記の式(III)を満足する範囲であることを特徴とするアクリロニトリル含有共重合体。
YI < 0.0064×AN1.994 +2 (III)
式(III)中のANは、アクリロニトリル含有共重合体中のアクリロニトリル含有量(重量%)を示す。
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JP2008222932A (ja) * | 2007-03-14 | 2008-09-25 | Asahi Kasei Chemicals Corp | 熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂組成物、及び光学部品 |
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2003
- 2003-02-28 JP JP2003052415A patent/JP2004262987A/ja active Pending
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