JP2004230515A - 高機能加工用工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】高速度鋼、超硬合金の母材上にSiの含有量が10%を越えてもTiAlSiN系膜の耐酸化性を充分に発揮することのでき、工具基体である被覆母材と硬質被膜との密着性と硬度が確保された膜構造の高機能加工用工具を提供。
【解決手段】アーク放電イオンプレーティング法により硬質被膜の成分が、
(Tix Al1-x-y Siy )(CzN1-z)、ただし、金属元素の原子分率で
0.3≦x≦0.45,0.1<y≦0.3, 0≦z≦0.4 で示される化学組成からなるa層と、(Tix Al1-x )(CzN1-z)、ただし、金属元素の原子分率で 0.3≦x≦0.7, 0≦z≦0.2 で示される化学組成からなるb層と、がそれぞれ1層以上交互に被覆されたものであり、かつ、b層が被覆母材表面上にある。
【選択図】図1
【解決手段】アーク放電イオンプレーティング法により硬質被膜の成分が、
(Tix Al1-x-y Siy )(CzN1-z)、ただし、金属元素の原子分率で
0.3≦x≦0.45,0.1<y≦0.3, 0≦z≦0.4 で示される化学組成からなるa層と、(Tix Al1-x )(CzN1-z)、ただし、金属元素の原子分率で 0.3≦x≦0.7, 0≦z≦0.2 で示される化学組成からなるb層と、がそれぞれ1層以上交互に被覆されたものであり、かつ、b層が被覆母材表面上にある。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複層コーティングを施した金属材料などのフライス加工、切削加工、穿孔加工用の加工工具に関し、特に高能率加工でき高温下での耐酸化性、耐摩耗性及び密着性に優れた硬質被膜を被覆した工具に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の硬質被膜を被覆した工具として、TiN、TiC、TiCNなどなどのセラミックスを単層又は複層にコーティングしたものが開発され、実用に供されてきた。これらの硬質被膜では切削工具の寿命延長を図る目的で耐摩耗性に優れた高硬度の硬質被膜が求められてきた。そして金属加工の高能率化と共に切削工具に要求される機能も従来の工具寿命から高能率加工時の刃先保護へと変化して来た。高能率加工では切削速度の増加に従って加工時の発熱量も増大しており、それに伴って硬質被膜も従来のTiC、TiCN被膜から例えば特開平2−194159号公報に開示するような耐熱性に優れたTiAlN被膜へと変遷して来た。ところが、近年の加工機械の能力向上に伴って切削速度がさらに向上し、TiAlN被膜でも耐熱性が不十分になってきた。これに対してTiAlN膜の耐熱性を向上させる添加元素についての研究が行われ、特許文献1に記述されているSiの添加が耐熱性の向上に対して有効であることが分かった。しかしながら、金属元素の原子分率でSiの含有量が10%を越えると耐熱性自身は向上するものの被膜自身の密着性が低下し、かつ被膜の硬度が低下するため、十分な耐摩耗性が得られなかった。このためSiの含有量が10%を越えても被膜の密着性と硬度が確保されている硬質被膜の開発が期待されていた。
【0003】
【特許文献1】特許2793773 請求項1、〔0010〕
【特許文献2】特許3089262 請求項2、〔0014〕表1
【特許文献3】特開2002−96205 請求項1、〔0029〕表3
【特許文献4】特開2002−337002 請求項1、〔0018〕表1
【特許文献5】特開2002−337006 請求項1、〔0022〕表1
【0004】
この他にも金属加工の高能率化を目的としてTiAlN被膜にSiを添加した例がいくつかあるが、それぞれ次の様な問題があった。特許文献2ではTiAlSi合金をターゲット材料として用いスパッタリング法によりTiAlSiN膜を成膜しているが、スパッタリング法ではターゲット材料に用いている材 料元素のスパッタ収率の相違により成分が継続的に変化しやすいため、この変化を見込んだ組成のターゲットを要する。また、被膜の密着性が必ずしも良好でなく、複雑な形状の基材を被覆する場合の生産性も低い。さらにスパッタ粒子のイオン化率が低いため、基板に突入するイオンの量が少なく、従って十分な膜硬さが得られないという欠点があった。さらに成膜速度が遅く量産化が困難である。
【0005】
さらに、特許文献3では、工具基体に直接にTi、Al、Siからなる金属元素と、B、C、N、Oから選択される少なくとも1種以上の元素から構成される硬質層を1層以上被覆した硬質被覆工具において、該硬質層にSiの窒化物層を介在させたものが開示され、その〔0029〕表3では、TiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものが開示されている。しかしながら工具基体に直接にTiAlSiN膜、又はTiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものでは、工具基体とTiAlSiN膜との密着性が悪く、硬質被膜の硬度が低下するため、十分な耐摩耗性が得られなかった。
【0006】
また、特許文献4では、工具基体表面に直接にTi、Al、Siからなる金属元素と、B、C、N、Oから選択される少なくとも1種以上の元素から構成される硬質層を1層以上被覆した硬質被覆工具において、該硬質層にSiを含有し、相対的にSiに富みアモルファスであるTiとAlとSiとC、N、O、B、から選択されるすくなくとも1種以上の化合物相と、相対的にSiに乏しい結晶質のTiとAlとSiとC、N、O、B、から選択されるすくなくとも1種以上の化合物相と、から構成されたものが開示され、その〔0018〕表1では、Siに富む化合物相とSiに乏しい化合物相とから構成されたTiAlSiN膜と、比較例として被覆条件により均一な(TiAlSi)N固溶体被膜であるTiAlSiN膜と、かかる各TiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものが開示されている。相対的にSiに富む化合物相と相対的にSiに乏しい化合物相とから構成されたTiAlSiN膜は製造が複雑で極めて厳格な工程管理を行なわないと所望の構成の被膜を形成することが難しく、多くの手間とコストを要するだけでなく、工具基体に直接にTiAlSiN膜、又はTiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものでは、工具基体とTiAlSiN膜との密着性が悪く、硬質被膜の硬度が低下するため、十分な耐摩耗性が得られなかった。
【0007】
同様に、特許文献5では、その〔0022〕表1では特許文献4と同様な、Siに富む化合物相とSiに乏しい化合物相とから構成されたTiAlSiN膜と、かかるTiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものが開示されている。相対的にSiに富む化合物相と相対的にSiに乏しい化合物相とから構成されたTiAlSiN膜は製造が複雑で極めて厳格な工程管理を行なわないと所望の構成の被膜を形成することが難しく、多くの手間とコストを要するだけでなく、工具基体に直接にTiAlSiN膜、又はTiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものでは、工具基体とTiAlSiN膜との密着性が悪く、硬質被膜の硬度が低下するため、十分な耐摩耗性が得られなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、TiAlSiN系膜の優れた耐酸化性に注目し、金属元素の原子分率でSiの含有量が10%を越えてもTiAlSiN系膜の耐酸化性を充分に発揮することのでき、工具基体である被覆母材と硬質被膜との密着性と硬度が確保された膜構造を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】このため本発明は、高速度鋼、超硬合金のいずれかを母材質とし、アーク放電イオンプレーティング法により硬質被膜を被覆してなる工具であって、前記硬質被膜の成分が、
(Tix Al1−x−y Siy )(Cz N1−z )、ただし金属元素の原子分率で
0.3≦x≦0.45,0.1<y≦0.3, 0≦z≦0.4 で示される化学組成からなるa層と、
(Tix Al1−x )(Cz N1−z )、ただし金属元素の原子分率で、
0.3≦x≦1.0,0≦z≦0.2 で示される化学組成からなるb層と、
がそれぞれ1層以上交互に被覆されたものであり、
かつ、b層が被覆母材表面上にあることを特徴とする高機能加工工具を提供することによって上述した課題を解決した。
【0010】
より望ましくは、前記a層のx、y、zは金属元素の原子分率で、
0.31≦x≦0.39,0.11<y≦0.21,0≦z≦0.4,そして
前記b層のx、y、zは金属元素の原子分率で、 0.4≦x≦0.6,
0≦z≦0.2 である
【0011】
【発明の効果】本発明者らはTiAlSiN系膜の耐熱性をより一層向上させることを目的として大気中での耐酸化性を向上させることのできるSi添加量の範囲を調査した。その結果表1に示す様にSiの添加量が金属元素の原子分率で10%を越えた場合に耐酸化性向上の効果が高くSi添加量の増加に伴ってその効果が高くなることを見出した。しかしながら、特許文献1にも記載があるようにSi添加量の増加は結晶系が立方晶から六法晶に変化してしまい、被膜硬さが低下して十分な耐摩耗性を得ることが出来なくなる。一般に物理気相蒸着法により成膜された被覆膜は成膜される下地の結晶構造および結晶方位の影響を受け、結晶構造が等しく格子定数が近い結晶系では特にその傾向は顕著になることが一般的に知られている。本発明者らは気相合成法のこのような特性を利用し、上述した本発明の構成の、被覆母材とTiAlSiN系膜との界面に結晶学的に格子定数が近い立方晶系のTiAlN被膜を被覆することで、被覆母材上に直接にTiAlSiN膜、又はTiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものに比べて、工具基体である被覆母材とTiAlN膜との密着性を良くし、TiAlN膜の上に被覆されたTiAlSiN膜とTiAlN膜との密着性を良くし、被覆母材上の硬質被膜の硬度の低下を防止して、TiAlN膜よりも優れた硬度と高い密着性を有する硬質被膜を得た。本発明における硬質被膜の構成を図1に示す。
【0012】
【表1】
【0013】
本発明の硬質被膜a層を構成する金属元素中のTiの原子比率は、図2に示した膜硬度の測定結果から、金属元素の原子分率で30%以上、45%以下、より望ましくは31%以上、39%以下を満足することが必要である。図2において左端のものは比較例である。同じく硬質被膜a層におけるSiの添加量は、耐酸化性の観点から金属元素の原子分率で10%以上で多ければ多いほど効果が高いが、30%を越えると密着性が低下し、切削に耐えることが出来ない。より望ましくは11%以上、21%以下である。
【0014】
本発明において硬質被膜a層の密着性を向上し、被膜の硬度低下を抑制する下地の硬質被膜b層TiAlCN膜としてはa層と結晶構造の等しいTiAlN系の被膜である必要がある。従って硬質被膜b層における金属元素中のTiの原子比率は金属元素の原子分率で70%以下を満足する必要があり、0%、すなわちTiNでもかまわないが、より望ましくは同40%以上60%以下である。
【0015】
又、本発明では硬質被膜a層およびb層の窒素の一部を炭素で置き換えることが可能であるが、硬質被膜a層においては炭素の添加量が増えると耐酸化性が低下することから金属元素の原子分率で40%以下、より望ましくは20%以下である必要があり、硬質被膜b層においては炭素の添加量が増えると密着性が低下するため20%以下である必要がある。
【0016】
切削工具としての適用する場合の硬質被膜a層の厚さとしては0.3μm以上10μm以下、より望ましくは2.1μm以上3.2μm以下であることが望ましいく、硬質被膜b層の厚さとしては0.2μm以上5μm以下、より望ましくは0.3μm以上0.6μm以下であることが望ましく、それぞれ下限値未満では膜自体の強度が不足し、また上限値以上では切削時の衝撃によって被膜にきれつが生じ、膜厚が薄い場合と同様に母材を保護することができない。そして全体の硬質被膜の厚さとしては0.5μm以上10μm以下、より望ましくは2.4μm以上3.7μm以下であることが望ましく、膜の厚さが0.5μm未満であると膜自体の強度が不足し、被膜に容易に亀裂が入るため、母材を発熱から保護することができない。また、被膜の厚さが10μmを越えると切削時の衝撃によって被膜にきれつが生じ、膜厚が薄い場合と同様に母材を保護することができない。
【0017】
【発明の実施の形態】〔実施例1〕図3に示すアーク方式イオンプレーティング装置に、12.7mm角の超硬合金チップ素材を装着して真空ポンプにて0.133Pa以下まで排気し、ヒータにより400〜500℃に加熱した。所定の温度に達した後、アルゴンガスによってイオンボンバードを施した上、0.666〜0.4Paの窒素ガスを導入して硬質被膜b層としてTiN膜又はTiCN膜を0.3μm成膜した。その後、硬質被膜b層の上にTi0.4 Al0.4 Si0.2 ,Ti0.3 Al0.5 Si0.2 またはTi0.5 Al0.5 ターゲットを組み合わせて、基板電圧50Vを印加して、表1に示す金属元素の原子分率で示す種々の組成の硬質被膜a層を得た。電子プローブマイクロアナリシスにより得られた硬質被膜bの金属成分の構成比とマイクロビッカース硬度計で測定した被膜の硬度を表1に示す。表1からSiの添加により膜硬度が向上していること、ならびにSi含有量が10%を越えた場合においても被膜の硬度低下が生じていないことがわかる。
【0018】
〔実施例2〕実施例1で作製した被覆超硬チップを大気中で1000℃、1時間加熱保持し、鋼球による擦過痕を利用したカロテスト法により酸化物層の膜厚を測定した結果を表1中に併記した。従来例1,2,3及び比較例2ではSi含有量が10%より少ないために耐酸化性が本発明品よりも劣っていた。
【0019】
〔実施例3〕実施例1に示したコーティング条件にて超硬製のエンドミルφ10に、表2に示す金属元素の原子分率で示す当該硬質被膜を被覆し、下記の切削条件にて切削試験を実施した。切削試験結果を表2に示す。
【0020】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の膜構成を示す説明図。
【図2】本発明の実施例1によって得られた被膜の硬度分布を示すグラフ。
【図3】本発明の実施例実施例1〜3に使用したアーク方式イオンプレーティング装置のブロック図。
【符号の説明】
1・・真空装置 2・・電子銃 3・・工具取り付け治具
4・・アノード 5・・金属蒸発源 6・・アルゴンガス導入口
7・・窒素ガス導入口 8・・金属蒸発源用直流電源 9・・電子銃用直流電源
10・・基板用直流電源 11・・真空排気口 12・・加熱用ヒータ
【発明の属する技術分野】本発明は、複層コーティングを施した金属材料などのフライス加工、切削加工、穿孔加工用の加工工具に関し、特に高能率加工でき高温下での耐酸化性、耐摩耗性及び密着性に優れた硬質被膜を被覆した工具に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の硬質被膜を被覆した工具として、TiN、TiC、TiCNなどなどのセラミックスを単層又は複層にコーティングしたものが開発され、実用に供されてきた。これらの硬質被膜では切削工具の寿命延長を図る目的で耐摩耗性に優れた高硬度の硬質被膜が求められてきた。そして金属加工の高能率化と共に切削工具に要求される機能も従来の工具寿命から高能率加工時の刃先保護へと変化して来た。高能率加工では切削速度の増加に従って加工時の発熱量も増大しており、それに伴って硬質被膜も従来のTiC、TiCN被膜から例えば特開平2−194159号公報に開示するような耐熱性に優れたTiAlN被膜へと変遷して来た。ところが、近年の加工機械の能力向上に伴って切削速度がさらに向上し、TiAlN被膜でも耐熱性が不十分になってきた。これに対してTiAlN膜の耐熱性を向上させる添加元素についての研究が行われ、特許文献1に記述されているSiの添加が耐熱性の向上に対して有効であることが分かった。しかしながら、金属元素の原子分率でSiの含有量が10%を越えると耐熱性自身は向上するものの被膜自身の密着性が低下し、かつ被膜の硬度が低下するため、十分な耐摩耗性が得られなかった。このためSiの含有量が10%を越えても被膜の密着性と硬度が確保されている硬質被膜の開発が期待されていた。
【0003】
【特許文献1】特許2793773 請求項1、〔0010〕
【特許文献2】特許3089262 請求項2、〔0014〕表1
【特許文献3】特開2002−96205 請求項1、〔0029〕表3
【特許文献4】特開2002−337002 請求項1、〔0018〕表1
【特許文献5】特開2002−337006 請求項1、〔0022〕表1
【0004】
この他にも金属加工の高能率化を目的としてTiAlN被膜にSiを添加した例がいくつかあるが、それぞれ次の様な問題があった。特許文献2ではTiAlSi合金をターゲット材料として用いスパッタリング法によりTiAlSiN膜を成膜しているが、スパッタリング法ではターゲット材料に用いている材 料元素のスパッタ収率の相違により成分が継続的に変化しやすいため、この変化を見込んだ組成のターゲットを要する。また、被膜の密着性が必ずしも良好でなく、複雑な形状の基材を被覆する場合の生産性も低い。さらにスパッタ粒子のイオン化率が低いため、基板に突入するイオンの量が少なく、従って十分な膜硬さが得られないという欠点があった。さらに成膜速度が遅く量産化が困難である。
【0005】
さらに、特許文献3では、工具基体に直接にTi、Al、Siからなる金属元素と、B、C、N、Oから選択される少なくとも1種以上の元素から構成される硬質層を1層以上被覆した硬質被覆工具において、該硬質層にSiの窒化物層を介在させたものが開示され、その〔0029〕表3では、TiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものが開示されている。しかしながら工具基体に直接にTiAlSiN膜、又はTiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものでは、工具基体とTiAlSiN膜との密着性が悪く、硬質被膜の硬度が低下するため、十分な耐摩耗性が得られなかった。
【0006】
また、特許文献4では、工具基体表面に直接にTi、Al、Siからなる金属元素と、B、C、N、Oから選択される少なくとも1種以上の元素から構成される硬質層を1層以上被覆した硬質被覆工具において、該硬質層にSiを含有し、相対的にSiに富みアモルファスであるTiとAlとSiとC、N、O、B、から選択されるすくなくとも1種以上の化合物相と、相対的にSiに乏しい結晶質のTiとAlとSiとC、N、O、B、から選択されるすくなくとも1種以上の化合物相と、から構成されたものが開示され、その〔0018〕表1では、Siに富む化合物相とSiに乏しい化合物相とから構成されたTiAlSiN膜と、比較例として被覆条件により均一な(TiAlSi)N固溶体被膜であるTiAlSiN膜と、かかる各TiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものが開示されている。相対的にSiに富む化合物相と相対的にSiに乏しい化合物相とから構成されたTiAlSiN膜は製造が複雑で極めて厳格な工程管理を行なわないと所望の構成の被膜を形成することが難しく、多くの手間とコストを要するだけでなく、工具基体に直接にTiAlSiN膜、又はTiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものでは、工具基体とTiAlSiN膜との密着性が悪く、硬質被膜の硬度が低下するため、十分な耐摩耗性が得られなかった。
【0007】
同様に、特許文献5では、その〔0022〕表1では特許文献4と同様な、Siに富む化合物相とSiに乏しい化合物相とから構成されたTiAlSiN膜と、かかるTiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものが開示されている。相対的にSiに富む化合物相と相対的にSiに乏しい化合物相とから構成されたTiAlSiN膜は製造が複雑で極めて厳格な工程管理を行なわないと所望の構成の被膜を形成することが難しく、多くの手間とコストを要するだけでなく、工具基体に直接にTiAlSiN膜、又はTiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものでは、工具基体とTiAlSiN膜との密着性が悪く、硬質被膜の硬度が低下するため、十分な耐摩耗性が得られなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、TiAlSiN系膜の優れた耐酸化性に注目し、金属元素の原子分率でSiの含有量が10%を越えてもTiAlSiN系膜の耐酸化性を充分に発揮することのでき、工具基体である被覆母材と硬質被膜との密着性と硬度が確保された膜構造を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】このため本発明は、高速度鋼、超硬合金のいずれかを母材質とし、アーク放電イオンプレーティング法により硬質被膜を被覆してなる工具であって、前記硬質被膜の成分が、
(Tix Al1−x−y Siy )(Cz N1−z )、ただし金属元素の原子分率で
0.3≦x≦0.45,0.1<y≦0.3, 0≦z≦0.4 で示される化学組成からなるa層と、
(Tix Al1−x )(Cz N1−z )、ただし金属元素の原子分率で、
0.3≦x≦1.0,0≦z≦0.2 で示される化学組成からなるb層と、
がそれぞれ1層以上交互に被覆されたものであり、
かつ、b層が被覆母材表面上にあることを特徴とする高機能加工工具を提供することによって上述した課題を解決した。
【0010】
より望ましくは、前記a層のx、y、zは金属元素の原子分率で、
0.31≦x≦0.39,0.11<y≦0.21,0≦z≦0.4,そして
前記b層のx、y、zは金属元素の原子分率で、 0.4≦x≦0.6,
0≦z≦0.2 である
【0011】
【発明の効果】本発明者らはTiAlSiN系膜の耐熱性をより一層向上させることを目的として大気中での耐酸化性を向上させることのできるSi添加量の範囲を調査した。その結果表1に示す様にSiの添加量が金属元素の原子分率で10%を越えた場合に耐酸化性向上の効果が高くSi添加量の増加に伴ってその効果が高くなることを見出した。しかしながら、特許文献1にも記載があるようにSi添加量の増加は結晶系が立方晶から六法晶に変化してしまい、被膜硬さが低下して十分な耐摩耗性を得ることが出来なくなる。一般に物理気相蒸着法により成膜された被覆膜は成膜される下地の結晶構造および結晶方位の影響を受け、結晶構造が等しく格子定数が近い結晶系では特にその傾向は顕著になることが一般的に知られている。本発明者らは気相合成法のこのような特性を利用し、上述した本発明の構成の、被覆母材とTiAlSiN系膜との界面に結晶学的に格子定数が近い立方晶系のTiAlN被膜を被覆することで、被覆母材上に直接にTiAlSiN膜、又はTiAlSiN膜の上にTiAlN膜を被覆したものに比べて、工具基体である被覆母材とTiAlN膜との密着性を良くし、TiAlN膜の上に被覆されたTiAlSiN膜とTiAlN膜との密着性を良くし、被覆母材上の硬質被膜の硬度の低下を防止して、TiAlN膜よりも優れた硬度と高い密着性を有する硬質被膜を得た。本発明における硬質被膜の構成を図1に示す。
【0012】
【表1】
【0013】
本発明の硬質被膜a層を構成する金属元素中のTiの原子比率は、図2に示した膜硬度の測定結果から、金属元素の原子分率で30%以上、45%以下、より望ましくは31%以上、39%以下を満足することが必要である。図2において左端のものは比較例である。同じく硬質被膜a層におけるSiの添加量は、耐酸化性の観点から金属元素の原子分率で10%以上で多ければ多いほど効果が高いが、30%を越えると密着性が低下し、切削に耐えることが出来ない。より望ましくは11%以上、21%以下である。
【0014】
本発明において硬質被膜a層の密着性を向上し、被膜の硬度低下を抑制する下地の硬質被膜b層TiAlCN膜としてはa層と結晶構造の等しいTiAlN系の被膜である必要がある。従って硬質被膜b層における金属元素中のTiの原子比率は金属元素の原子分率で70%以下を満足する必要があり、0%、すなわちTiNでもかまわないが、より望ましくは同40%以上60%以下である。
【0015】
又、本発明では硬質被膜a層およびb層の窒素の一部を炭素で置き換えることが可能であるが、硬質被膜a層においては炭素の添加量が増えると耐酸化性が低下することから金属元素の原子分率で40%以下、より望ましくは20%以下である必要があり、硬質被膜b層においては炭素の添加量が増えると密着性が低下するため20%以下である必要がある。
【0016】
切削工具としての適用する場合の硬質被膜a層の厚さとしては0.3μm以上10μm以下、より望ましくは2.1μm以上3.2μm以下であることが望ましいく、硬質被膜b層の厚さとしては0.2μm以上5μm以下、より望ましくは0.3μm以上0.6μm以下であることが望ましく、それぞれ下限値未満では膜自体の強度が不足し、また上限値以上では切削時の衝撃によって被膜にきれつが生じ、膜厚が薄い場合と同様に母材を保護することができない。そして全体の硬質被膜の厚さとしては0.5μm以上10μm以下、より望ましくは2.4μm以上3.7μm以下であることが望ましく、膜の厚さが0.5μm未満であると膜自体の強度が不足し、被膜に容易に亀裂が入るため、母材を発熱から保護することができない。また、被膜の厚さが10μmを越えると切削時の衝撃によって被膜にきれつが生じ、膜厚が薄い場合と同様に母材を保護することができない。
【0017】
【発明の実施の形態】〔実施例1〕図3に示すアーク方式イオンプレーティング装置に、12.7mm角の超硬合金チップ素材を装着して真空ポンプにて0.133Pa以下まで排気し、ヒータにより400〜500℃に加熱した。所定の温度に達した後、アルゴンガスによってイオンボンバードを施した上、0.666〜0.4Paの窒素ガスを導入して硬質被膜b層としてTiN膜又はTiCN膜を0.3μm成膜した。その後、硬質被膜b層の上にTi0.4 Al0.4 Si0.2 ,Ti0.3 Al0.5 Si0.2 またはTi0.5 Al0.5 ターゲットを組み合わせて、基板電圧50Vを印加して、表1に示す金属元素の原子分率で示す種々の組成の硬質被膜a層を得た。電子プローブマイクロアナリシスにより得られた硬質被膜bの金属成分の構成比とマイクロビッカース硬度計で測定した被膜の硬度を表1に示す。表1からSiの添加により膜硬度が向上していること、ならびにSi含有量が10%を越えた場合においても被膜の硬度低下が生じていないことがわかる。
【0018】
〔実施例2〕実施例1で作製した被覆超硬チップを大気中で1000℃、1時間加熱保持し、鋼球による擦過痕を利用したカロテスト法により酸化物層の膜厚を測定した結果を表1中に併記した。従来例1,2,3及び比較例2ではSi含有量が10%より少ないために耐酸化性が本発明品よりも劣っていた。
【0019】
〔実施例3〕実施例1に示したコーティング条件にて超硬製のエンドミルφ10に、表2に示す金属元素の原子分率で示す当該硬質被膜を被覆し、下記の切削条件にて切削試験を実施した。切削試験結果を表2に示す。
【0020】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の膜構成を示す説明図。
【図2】本発明の実施例1によって得られた被膜の硬度分布を示すグラフ。
【図3】本発明の実施例実施例1〜3に使用したアーク方式イオンプレーティング装置のブロック図。
【符号の説明】
1・・真空装置 2・・電子銃 3・・工具取り付け治具
4・・アノード 5・・金属蒸発源 6・・アルゴンガス導入口
7・・窒素ガス導入口 8・・金属蒸発源用直流電源 9・・電子銃用直流電源
10・・基板用直流電源 11・・真空排気口 12・・加熱用ヒータ
Claims (8)
- 高速度鋼、超硬合金のいずれかを母材質とし、アーク放電イオンプレーティング法により硬質被膜を被覆してなる工具であって、前記硬質被膜の成分が、(Tix Al1−x−y Siy )(Cz N1−z )、ただし、金属元素の原子分率で0.3≦x≦0.45, 0.1<y≦0.3, 0≦z≦0.4
で示される化学組成からなるa層と、
(Tix Al1−x )(Cz N1−z )、ただし、金属元素の原子分率で
0.3≦x≦1.0,0≦z≦0.2 で示される化学組成からなるb層と、
がそれぞれ1層以上交互に被覆されたものであり、
かつ、b層が被覆母材表面上にあることを特徴とする高機能加工工具。 - 高速度鋼、超硬合金のいずれかを母材質とし、アーク放電イオンプレーティング法により硬質被膜を被覆してなる工具であって、前記硬質被膜の成分が、(Tix Al1−x−y Siy )(Cz N1−z )、ただし、金属元素の原子分率で0.31≦x≦0.39, 0.11<y≦0.21, 0≦z≦0.4で示される化学組成からなるa層と、
(Tix Al1−x )(Cz N1−z )、ただし、金属元素の原子分率で
0.4≦x≦0.6, 0≦z≦0.2 で示される化学組成からなるb層と、
がそれぞれ1層以上交互に被覆されたものであり、
かつ、b層が被覆母材表面上にあることを特徴とする高機能加工工具。 - 前記a層の膜厚が0.3〜5μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高機能加工工具。
- 前記b層の膜厚が0.3〜5μmであることを特徴とする請求項3記載の高機能加工工具。
- 前記a層の膜厚が2.1〜3.2μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高機能加工工具。
- 前記b層の膜厚が0.3〜0.6μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高機能加工工具。
- 前記a層及びb層を合わせた前記硬質被膜の膜厚が0.5〜10μmであることを特徴とする請求項3乃至請求項6のいずれか1に記載の高機能加工工具。
- 前記a層及びb層を合わせた前記硬質被膜の膜厚が2.4〜3.7μmであることを特徴とする請求項3乃至請求項6のいずれか1に記載の高機能加工工具。
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-
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- 2003-01-30 JP JP2003022734A patent/JP2004230515A/ja active Pending
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