研究領域

　浴用剤成分について、皮膚への効果面からみると、温熱効果(無機塩類、炭酸ガス、薬用植物類)、皮膚清浄効果(アルカリ塩類、蛋白分解酵素)、皮膚柔軟化効果(水溶性、油溶性成分、薬用植物類、アルカリ塩類)、皮膚保湿効果(水溶性、油溶性成分、薬用植物類)、抗炎症・抗アレルギー・抗菌(薬用植物類)に分けられます。浴用剤の特徴としては、一度の入浴で全身のケアが可能であり、皮膚角質層の水分吸収、および吸収後の体積増加による構成成分の外用剤的な作用が低濃度で期待されるということであると考えられます。

　今回は、入浴と塩素、入浴による皮膚状態の変化、清浄効果、保湿効果、かゆみ、おむつかぶれへの影響、美容効果について、それぞれ解説します。

入浴と塩素

　「入浴」は温熱作用や清浄作用など様々な効果が期待できるメリットがある半面、水道水中の遊離残留塩素による肌ダメージや入浴後の皮膚の乾燥などのデメリットもあります。入浴剤の利用により、これらデメリットを解決することができます。
　水道水は衛生上、遊離残留塩素を保持するように決められています。入浴剤には遊離残留塩素と反応し結合残留塩素（クロラミン）を作るアミノ酸塩などを配合します。
　結合残留塩素は遊離残留塩素より殺菌力が弱（数10分の１）くなりますが、遊離残留塩素による肌ダメージを軽減できるものと考えられます。

皮膚に対する残留塩素の影響

　残留塩素の皮膚への影響を検証するために、次亜塩素酸ソーダ液にアミノ酸を加え、生成されたクロラミン溶液を線維芽細胞に接触させ、生存率を測定しました。（Table1）

入浴剤開発におけるアミノ酸の製品への応用．FRAGRANCE JOURNAL 7-2004

アミノ酸による塩素除去効果は、残留塩素による皮膚への刺激緩和に有効であることが示唆されました。

入浴による皮膚状態の変化

ぬるめのお湯（38℃）での入浴は、熱めのお湯（42℃）での入浴と比較して、入浴後の角層水分量の減少を抑制し、角層水分蒸散量*も抑制しました。このことは、ぬるめのお湯での入浴は、スキンケアを考慮した入浴の条件と考えられました。

*水分蒸散量：皮膚の水分保持と関連し、高いと水分保持など皮膚のバリア機能が低下した状態であるとされます。

　湯温の違いによる皮膚の乾燥状態を実証：ニュースリリース2010年

入浴と清浄

　入浴における清浄作用は、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウム等の成分で効果が増します。しかし、過剰な清浄作用は皮膚の乾燥などが懸念されるために、注意も必要です。
　重曹泉の成分である炭酸水素ナトリウムの入浴効果（41℃5分入浴）について、さら湯浴との比較で検討した結果、清浄効果が認められました。
炭酸水素ナトリウムを30ｇ、60ｇ、90ｇ/200Ｌ濃度で浴湯中に均一に溶解したものと、さら湯浴を比較して、炭酸水素ナトリウムの清浄効果について、セブメーター法（油分測定法）を用いた検討を行いました。その結果、清浄作用については、浴前値に比較して浴後は、人工皮脂量が平均値で減少する結果が得られました。炭酸水素ナトリウム30 g浴、60 g浴、90ｇ浴群においては、さら湯浴の人工皮脂量に比して、1％危険率で有意な減少が見られました。

浴用剤の皮膚への効果．FRAGRANCE JOURNAL 2-1993

入浴と保湿

　入浴剤による角層水分量の変化
ホホバ油配合入浴剤(30g/200L)による入浴（41℃5分全身浴）は、さら湯浴と比較して、浴後の角層水分量が高く、保湿効果が認められました。

浴用剤の保湿性に関する研究．日本温泉気候物理医学会誌52(2)1989

入浴とかゆみ

　従来のアトピー性皮膚炎に対する入浴剤の知見としては、洗浄、保湿、抗炎症、抗アレルギー等の作用によりかゆみを軽減することが分かってきており、洗浄時の擦すりすぎによる刺激を避けるなどの注意を促してきました。また、アトピー性皮膚炎患者においては、汗をかき過ぎない、汗をかいたら洗い流す等の対策が行われています。そのため入浴時には、過度の発汗と刺激を伴う高温浴は避ける必要がありますが、入浴自体は皮膚を清潔に保ち、有効成分を全身に直接作用させる絶好の機会でもあります。

生薬「五倍子」からとれるタンニン酸を配合した入浴剤の使用により、日常の入浴を通して手軽にアトピー性皮膚炎のかゆみを抑制することができれば、掻きむしりによる皮膚のダメージが抑えられ、薬剤の治療効果が高まるとともに、アトピー性皮膚炎患者のQOLを少しでも高めることが期待できます。

アトピー性皮膚炎患者を対象に、「タンニン酸配合入浴剤」と「タンニン酸を配合しない入浴剤」を各々2週間ずつ使用した場合の痒みに対する効果をランダム化二重盲検クロスオーバー試験で実施しました。

各々の入浴剤使用前後における痒みの自覚症状をVAS(Visual Analogue Scale)で午前・午後・夜間に分けて評価しました。その結果、「タンニン酸配合入浴剤」の使用により、午後および夜間の痒みが有意に低下しました。また、医師における「紅斑・丘疹・苔癬化・落屑・湿潤」の臨床症状評価の結果、症状スコアで有意に低下しました。

アトピー性皮膚炎に対する「タンニン酸配合入浴剤」の効果：ニュースリリース2021年

入浴とおむつかぶれ

　乳幼児の主な肌トラブルである「おむつかぶれ」の予防、改善については、入浴液による沐浴や清拭が有効であることが実証されています。
「おむつかぶれ」の原因は、抵抗性が低下した皮膚へ糞や尿が接触することによりおこる肌のpH変化、蒸れによる炎症、おむつ交換時に行う「拭き取り」でおこる「摩擦」による傷等の化学的、物理的、微生物的刺激と推測できます。

　軽度のおむつかぶれ症状のある乳幼児を対象に、おむつ交換時の清拭と沐浴に入浴液を使用してもらいました。使用方法は、清拭（お湯2Lに対して入浴液8mLを入れ、タオル、ガーゼ等を浸しよく絞った後、軽く清拭する）、入浴（お湯20Lに対して入浴液8mLの割合で入れよくかき混ぜて入浴する）を7日間の使用期間と未使用期間の計14日間行い、使用前、使用後、試験後に医師によるおむつかぶれ（紅斑、発疹、範囲）を評価しCASE CARDに記録しました。その結果、ビタミンＢ６とシメン－5－オール配合の入浴剤を用いることにより、お湯で行われる沐浴や清拭に比べ、肌の保湿、拭き取り時の肌へのやさしさ、抗菌効果等で皮膚を清潔に保つことが可能となり、「おむつかぶれ」の予防、改善に効果があると考えられました。

入浴液のおむつかぶれに対する改善効果　ニュースリリース：2009年

　また、大人のおむつかぶれに対する有効性についても確認を行いました。おむつ使用の入院患者14 名（男性5名,51.6±15.4歳、女性9名,51.9±11.7歳）を対象に、入浴液を、おむつ交換時の清拭剤として使用、入浴として使用した結果、使用期間の角層水分量が有意に上昇し、主観的なかゆみ、かさつきが軽減しました。

大人のおむつかぶれに対する入浴液の改善効果：ニュースリリース2016年

入浴と美容

　血行促進を有する成分と香り揮散性の高いスキンケア系入浴剤の有効性
　普段シャワー浴のみで浴槽浴習慣のない健常な女子大学生（16 名）を対象に、血行促進効果の認められた成分を配合した香り揮散性の高いスキンケア系入浴剤(40g/200L)浴を1週間行いました。対照はさら湯浴とし、1週間行いました。
　浴槽浴により、肌水分は入浴後に高まり、主観的評価において、浴槽浴により、入浴後に肌のハリ、肌ツヤ、顔色のすっきりさが改善しました。肌のハリとツヤは就床前、起床後も入浴前よりも高い状態で、特に顔のすっきりさは、入浴剤浴の方が、さら湯浴に比べ入浴後に有意に良好でした。浴槽浴後に肌のハリとツヤが改善することが示されたとともに、顔色のすっきりさにみられたように、入浴剤浴が起床後の見た目印象も良好化する可能性が示唆されました。
　以上より、香り揮散性で血行促進作用のある入浴剤浴は、気分および深部温のメリハリにより入眠準備状態を促し、睡眠と肌状態の改善に有効であると考えられました。

入浴方法の違いが就寝前の気分, 睡眠, 肌健康に与える影響：ニュースリリース2017年

まとめ

　入浴における皮膚への作用は、水道水の残留塩素による影響や、熱すぎや長すぎる入浴での皮膚の乾燥を招くこともありますが、全身をケアする絶好の機会でもあります。温浴によるターンオーバーの正常化やリラックス作用、保湿剤によるスキンケア効果など、内面からと外面からの作用に期待できます。