WO2011004893A1

WO2011004893A1 - 粉末状大豆素材及びこれを用いた小麦粉製品

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Publication number: WO2011004893A1
Application number: PCT/JP2010/061702
Authority: WO
Inventors: 裕齋藤; 靖中村
Original assignee: 不二製油株式会社
Priority date: 2009-07-09
Filing date: 2010-07-09
Publication date: 2011-01-13
Also published as: JPWO2011004893A1

Abstract

　本発明は小麦粉製品、特に天ぷら、から揚げなどの揚げ物用衣材に関し、優れた食感を付与し、しかもその食感を長時間維持する衣に改良することが可能であり、またベーカリー製品においても生地の物性を阻害することなく蛋白質を強化することが可能な、新規な粉末状大豆素材を提供することを課題とする。　粗蛋白質含量が乾燥固形分換算で５０～６５重量％、不溶性食物繊維が２～１０重量％、窒素溶解指数（ＮＳＩ）が５０以下であることを特徴とする、粉末状大豆素材。

Description

粉末状大豆素材及びこれを用いた小麦粉製品

　本発明は粉末状大豆素材及びこれを用いた小麦粉製品に関する。

　小麦粉は揚げ物用の衣材、ベーカリー製品、麺類等の様々な小麦粉製品に加工され、広く食されている。
　小麦粉製品のうち、衣材（バッター）で内材を被覆させた揚げ物は、一般にサクサク感やクリスピー感が好まれる。更に近年ではこれらの食感に加え、ソフトで口当たりの良いことが求められている。そしてこれらの食感が長時間維持されることは、食品産業において長年の課題となっている。一方、調理後の時間経過によって、好ましいとされるサクサク感やクリスピー感は失われ、湿気感の強いベタついた衣になってしまう。特に近年求められているソフトで口当たりの良い衣は、加熱調理後の食感の経時変化がより早く起こり、クリスピー感が失われて歯切れが悪くなる傾向にある（いわゆる「へたり」現象）。

　また、フライ済みの冷凍食品においても、電子レンジなどで調理した場合に、衣の品質が低下している場合がある。これは、フライ調理後に冷凍工程を経て内材の水分が衣部分に移行すること、およびレンジ加熱により内材からの蒸気を含む水分の移行が起こり、衣部分の食感がべたつき、クリスピー感が喪失してしまうことによる。

　揚げ物の食感改善には、従来から分離大豆蛋白や豆乳粉末等が広く利用されている。これらの素材を使用することで、特に加熱調理後の経時変化（へたり）が抑えられ、サクサク感やクリスピー感が維持される。例えば、特許文献１には水溶性で耐熱性ゲルを形成する大豆蛋白質を衣に配合した油ちょう食品が開示されている。更に特許文献２では、アルカリ土類金属結合大豆蛋白を衣材に利用する技術を開示している。また、特許文献３では、脱脂大豆から得られる脱脂豆乳粉末を衣材に利用し、従来の分離大豆蛋白よりも安価な素材としての利用技術を開示している。

　しかし、これらはいずれも、サクサク感やクリスピー感を得るという観点で、一定のレベルは充足するものの、さらにソフトで口当たりの良い食感を得るという観点に欠けており、当該食感が充分満足されるには至っていない。特に天ぷらや唐揚げ等の非パン粉付け揚げ物においてその傾向が顕著である。

　一方、別の小麦粉製品であるベーカリー製品としては、ビスケット、クッキー、クラッカー、栄養バー、ケーキ、パン等があり、最近では栄養的付加価値を高めるために、蛋白質、食物繊維、ミネラル等を配合した焼き菓子が開発されている。そして大豆蛋白質も近年その栄養的価値、抗コレステロール作用等の健康価値が認められ、ベーカリー製品における利用がより進みつつある。

　しかし、大豆蛋白質は保水性、吸水性が強く、これを配合した生地は小麦粉或いは米粉主体の生地に比べると、伸展性に劣り、経時的に硬くなったり、焼成時の火抜けが悪くなったりする等の作業性に問題を抱えている。そのため大豆蛋白をベーカリー製品に利用するにはこれらの作業性の問題をクリアし、さらに焼き菓子本来のサクサクとした食感を損ねないことが重要である。

　ベーカリー製品への大豆蛋白素材の利用については、特許文献４にはアルカリ土類金属結合大豆蛋白を配合する焼き菓子類が開示されている。該大豆蛋白により焼き菓子への大豆蛋白素材の利用の可能性が広がったものの、焼き菓子本来の食感を損ねずに大豆蛋白質をより多く添加するにはさらなる改良の余地があった。

特開平６－１４１７８７号公報特開平８－２６６２３９号公報特開２００２－６５１９４号公報特開平９－８４５１１号公報特開２００３－２３９８６号公報特開２００３－１３５０１４号公報

　そこで本発明は小麦粉製品、特に天ぷら、から揚げなどの揚げ物用衣材に関し、優れた食感を付与し、しかもその食感を長時間維持する衣に改良することが可能であり、またベーカリー製品においても生地の物性を阻害することなく蛋白質を強化することが可能な、新規な粉末状大豆素材を提供することを課題とする。

　本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究するなかで、蛋白質及び不溶性食物繊維が特定量含まれ、なおかつ窒素溶解指数（ＮＳＩ）が特定の範囲に調整された粉末状大豆素材を調製し、これを小麦粉製品に使用したところ、前記課題を解決するに到った。そして様々な小麦粉製品の品質改良に適した新規な粉末状大豆素材を見出した。
　なお、特許文献５（特開２００３－２３９８６号公報）には大豆素材とオカラをそれぞれ添加した揚げ物用衣材が開示されているが、この衣材は特定の粒径の小麦粉を必須に用いることを特徴とするものである。また特許文献６（特開２００３－１３５０１４号公報）には、大豆素材を含む衣材を具材に付着させた後、水不溶性多糖類を含むブレダー用ミックス粉を付着させるという、２段階の衣付け工程による冷凍揚げ物の製法が開示されている。しかしながらいずれも本発明のような特定の組成及び性質を有する大豆素材を衣材に使用するという技術思想のものではない。

　即ち本発明は、
（１）粗蛋白質含量が乾燥固形分換算で５０～６５重量％、不溶性食物繊維が２～１０重量％、窒素溶解指数（ＮＳＩ）が５０以下であることを特徴とする、粉末状大豆素材、
（２）カルシウム含量又はマグネシウム含量が、乾燥固形分換算で０．６重量％以上１重量％未満である前記（１）記載の粉末状大豆素材、
（３）可溶性糖質が乾燥固形分換算で２～２５重量％含まれる前記（１）記載の粉末状大豆素材、
（４）前記（１）記載の粉末状大豆素材を含む小麦粉製品、
（５）揚げ物用衣材である、前記（４）記載の小麦粉製品、
（６）ベーカリー製品である、前記（４）記載の小麦粉製品、である。

　本発明の粉末状大豆素材を小麦粉製品に用いることにより、従来の大豆素材では提供できなかった品質改良効果を付与することができる。
　具体的には、天ぷら、から揚げなどの揚げ物用衣材においては、サクサク感やクリスピー感に優れ、なおかつソフトで口当たりの良好な食感を付与することができ、しかも経時的な食感の変化（へたり）が抑えられ、その優れた食感を長時間維持することが可能となる。
　またベーカリー製品においても大豆蛋白質の添加による生地の伸展性の阻害を抑制することができ、焼成時の火抜けが容易であるなど、作業性が良好であり、蛋白質を強化しても本来の良好な食感を有するベーカリー製品を得ることが可能である。

　本発明の粉末状大豆素材は、粗蛋白質含量（ＣＰ）が乾燥固形分換算で５０～６５重量％、不溶性食物繊維が２～１０重量％、窒素溶解指数（ＮＳＩ）が５０以下であることが特徴である。以下、本発明の粉末状大豆素材について具体的に説明する。

（粗蛋白質含量）
　本発明の粉末状大豆素材の粗蛋白質含量（以下、「ＣＰ」とも称する。）は、乾燥固形分換算で５０～６５重量％、好ましくは５０重量％以上６０重量％未満であることが特徴である。従来の分離大豆蛋白（ＣＰ約９０重量％）や濃縮大豆蛋白（ＣＰ約７０～７５重量％）と比べると低く、かつ、全脂大豆よりは高いことが特徴である。
　ＣＰがかかる範囲より低いと、蛋白質のゲル化力が必要以上に低いものとなり、揚げ物類においてサクサク感やクリスピー感が劣り、経時変化（へたり）が早い傾向となる。また、ＣＰが高すぎると、ゲル化力が必要以上に高まるため、食感が硬く仕上がりソフトで口当たりの良い食感を得難くなる。
　なお、粗蛋白質含量はケルダール法に基づき窒素含量を求め、係数6.25を乗じて粗蛋白量とし、無水換算して示す。

（ＮＳＩ）
　「ＮＳＩ」とはNitrogen Solubility Index（窒素溶解度指数）のことであり、蛋白質の水に対する溶解性の指標となるものである。
　本発明の粉末状大豆素材は、その蛋白質のＮＳＩが５０以下、好ましくは４０以下、より好ましくは２５以下と溶解性が非常に低い状態にあることが特徴である。蛋白質素材は低変性の場合、ＮＳＩは８０以上を示すが、ＮＳＩが５０を超えるようになると蛋白質の保水力が高まるため、揚げ物類においてサクサク感やクリスピー感が劣るものとなり、経時変化（へたり）が早い傾向となる。
　なお、ＮＳＩはAOCS（American Oil Chemists Society）の公式分析法BA-11-65 NSIに基づいて測定するものとし、たん白素材3.5gを秤量し、100mlの水を加えてプロペラ撹拌（500rpm）を10分間して、No.5A濾紙で濾過した濾液中の窒素（ケルダール法による測定）をサンプリングした蛋白素材中の窒素に対する百分率で表す。

　蛋白質のＮＳＩを低下させるには、粉末状大豆素材の原料である大豆や脱脂大豆を予め加熱処理したり、粉末状大豆素材の製造工程中における加熱処理や乾燥された粉末状大豆素材をその後２次加熱処理をしたりすることにより可能である。蛋白質のＮＳＩの低下は、粉末状大豆素材の水溶液のｐＨにより変化が見られ、ｐＨが低い程低下は大きくなる。但しｐＨが低い場合は、粉末状大豆素材の風味等への影響も生じてくるため、ｐＨ６～７程度が適当である。また、過度な加熱処理は、粉末状大豆素材の色や風味低下に繋がるため、避けることが好ましい。

　この場合、粉末状大豆素材は、カルシウム含量又はマグネシウム含量のいずれかがそれぞれ元来含まれる量よりも高い範囲に調整することにより、加熱処理による蛋白質のＮＳＩの低下効果が高まるため、加熱処理と組み合わせる方法として好適である。該含量が少なすぎると、加熱処理との組合せによるＮＳＩの低下促進効果が十分ではなくなり、該含量が多すぎても得られる効果はほぼ一定となる。そのため、乾燥固形分換算でカルシウム含量又はマグネシウム含量の何れかが０．６重量％以上１重量％未満であることが好適である。カルシウム又はマグネシウム源としては、塩化物、炭酸塩、リン酸塩等の酸の塩の他、水酸化物や酸化物も利用できる。
　このように、カルシウム又はマグネシウムを添加することによって、蛋白質のＮＳＩを目的とする範囲にコントロールすることが非常に容易になり、本発明の粉末状大豆素材の調製が容易となる。カルシウムとマグネシウムのＮＳＩの低下促進効果はカルシウムの方がより優れており好適である。

（不溶性食物繊維）
　本発明の粉末状大豆素材は固形分あたり不溶性食物繊維を２～１０重量％含むことが重要であり、４～１０重量％が好ましく、特に５～１０重量％含むことが好ましい。これにより大豆素材の加熱による骨格の形成を補強することができる。具体的には大豆由来の不溶性食物繊維（オカラ）や、果実・じゃがいも・パルプ・小麦ふすま・ビート・コーン・キノコ等に含まれる不溶性食物繊維が該当し、ヘミセルロース、セルロース、不溶性ペクチン、リグニン、グルカンなどがその成分として挙げられる。特にオカラが好ましい。
　豆乳のように不溶性食物繊維が少ない場合では、揚げ物類において加熱調理直後はクリスピー感が強くても、経時変化（へたり）が早い傾向があり、サクサク感やクリスピー感が長時間維持されなくなる傾向となる。また、不溶性食物繊維含量が多すぎる場合、保水力が高くなりすぎ、揚げ物類においてサクサク感やクリスピー感が劣るものとなり、また焼き菓子においても生地の伸展性および焼成時の火抜けが劣るとともに食感が重いものとなる。また不溶性食物繊維含量が低いと、揚げ物類において加熱調理直後はクリスピー感が強くても、経時変化（へたり）が早い傾向があり、サクサク感やクリスピー感が長時間維持されなくなる傾向がみられる。
　なお、不溶性食物繊維の含量はプロスキー変法（科学技術庁資源調査会食品成分部会編（1997）五訂日本食品標準成分表分析マニュアル. （社）資源協会: 31-34）により測定することができる。

（可溶性糖質含量）
　本発明の粉末状大豆素材は、必須の成分ではないものの、可溶性糖質が乾燥固形分換算で２～２５重量％、好ましくは５～２４重量％、さらに好ましくは１０～２３重量％含まれることが適当である。これにより、揚げ物類においてサクサク感やクリスピー感の保持力が増強され、さらに風味や色合いもより良好なものとなる。この場合の可溶性糖質としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシロース等の単糖，シュクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース、マンノビオース等の二糖，大豆オリゴ糖、マルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンノオリゴ糖、キシロオリゴ糖等のオリゴ糖，マルチトール、ラクチトール、キシリトール、エリスリトール、還元水飴等の糖アルコール，マルトデキストリン、サイクロデキストリン等のデキストリン類などに相当するものが該当し、可溶性糖質を粉末状大豆素材の製造過程中で添加することができるが、粉末状大豆素材の原料となる大豆由来の大豆オリゴ糖をそのまま製造工程で利用することがコスト面から適当である。可溶性糖質の量が多すぎる場合、相対的に粗蛋白質含量が下がるため必要以上にゲル化力が乏しくなり、風味や色合いへの影響が生じうる。

（脂質）
　本発明の粉末状大豆素材の脂質含量（エーテル抽出油分）は２重量％以下である。通常脱脂大豆を原料とする場合には脱脂工程を要することなくかかる範囲の脂質含量となる。

（粉末状大豆素材の製造例）
　次いで本発明の粉末状大豆素材の製造態様について説明する。
　本発明の粉末状大豆素材の原料としては、脱脂大豆粉や分離大豆蛋白を使用することができる。分離大豆蛋白から調製する場合は、蛋白質以外の不溶性食物繊維や可溶性糖類は別途の材料として組み合わせて配合する必要はあるが、風味面では有利である。一方、脱脂大豆の場合は、大豆由来の成分で不溶性食物繊維や可溶性糖質を補える点で利点を有する。

　脱脂大豆の場合で説明すると脱脂大豆中にはもともと食物繊維分が１２～１３重量％程度含まれており、大豆由来の食物繊維で本発明の２～１０重量％の範囲の含量とするには、含まれる一部を除去する必要がある。調製法としては、脱脂大豆１に対して７～１２倍程度の加水を行って脱脂大豆スラリーとし、遠心分離機等で可溶性画分（脱脂豆乳）と不溶性画分（オカラ）に分離し、その後に不溶性食物繊維が２～１０重量％含量になるよう必要量のオカラを再度脱脂豆乳に戻すことで不溶性食物繊維量の調整が可能である。また、上記脱脂大豆スラリーに別途調製した豆乳を加え調整することもできる。あるいは遠心分離機等の分離条件を調整してオカラを一部だけを不溶画分として分離し、不溶性食物繊維が２～１０重量％残存するよう可溶性画分を調整してもよい。

　次いでＮＳＩの調製は、オカラを含んだ脱脂豆乳あるいはオカラを戻す前の脱脂豆乳に直接加熱処理や間接加熱処理等を施し、蛋白質を加熱変性させ不溶化を促進させることで可能である。この際に上述の通りカルシウム含量又はマグネシウム含量が脱脂豆乳の固形分に対して０．６重量％以上１重量％未満となるようカルシウム化合物又はマグネシウム化合物を加えることでより短時間の加熱処理にて目的とするＮＳＩの調整が可能である。ＮＳＩを低下させた脱脂豆乳液は、必要により殺菌を行った後、噴霧乾燥や凍結乾燥により粉末状大豆素材とする。

　分離大豆蛋白から調製する場合は、脱脂豆乳から酸を用いて等電点沈殿させた酸沈殿カードを用いるか、酸沈殿カードを中和して乾燥した粉末状大豆素材が使用できる。前者の場合では加水し、アルカリを用いて中和した溶液に対して、また後者の場合では水に溶解させた溶液に対して、前述したような不溶性食物繊維と可溶性糖質を必要量添加する。

　次いで加熱処理を行いＮＳＩの低下を行うが、脱脂大豆の場合と同様カルシウムを添加することで効率良くＮＳＩを低下させることが可能となる。加熱処理後、必要により殺菌を行った後、噴霧乾燥や凍結乾燥により粉末状大豆素材とする。
　なおＮＳＩの低下は、乾燥した粉末状大豆素材の状態でも可能である。この場合、乾燥前にカルシウムを必ずしも添加しておく必要はなく、無添加のままでもＮＳＩの調整は可能である。具体的には、乾燥した粉末を７０℃以上の高温条件で放置することで蛋白質の不溶化が起こり、ＮＳＩを低下させることが可能である。この場合、脱脂大豆から得られる粉末は比較的短時間の加熱でＮＳＩの低下が生じてくるが、分離大豆蛋白から得られる粉末は不溶化が進むまでには長時間を必要とする。何れも加熱処理により粉体に変色が生じやすくなるため、色調が重視される場合には粉末化した後にＮＳＩを低下させる方法はあまり適さない。変色を抑えるためには非還元性の糖類を使用し、メイラード反応を抑える工夫をすることが良い。

　以上の通り、本発明により特定された粉末状大豆素材は、従来の粉末状大豆素材に比べて保水性、吸水性、ゲル化性が極めて小さい点に特徴を有する。このような物性は、揚げ物用の衣材や焼き菓子等の小麦粉製品において、食感、経時変化、生地物性の面で極めて有利に作用するものである。したがって、かかる素材は小麦粉製品用の品質改良剤の用途として提供することが可能である。

（小麦粉製品への応用）
　本発明の粉末状大豆素材は、種々の小麦粉製品の品質改良剤として使用することができる。例えば揚げ物用衣材や、焼き菓子，ケーキ，パン等のベーカリー製品などに使用することができる。

（揚げ物用衣材）
　次に本発明の粉末状大豆素材を含む、揚げ物用衣材について説明する。
　本発明の粉末状大豆素材は衣材の粉体原料中に１～３０重量％、より好ましくは３～２０重量％、さらに好ましくは５～１５重量％が適当である。これにより、揚げ物用衣材にサクサク感やクリスピー食感を付与できる。さらにそのような食感でありながらソフトで口当たりの良い食感をも付与でき、これらの食感を長時間維持することができる。
　衣材における粉末状大豆素材の含有量が少ないと、揚げ物類においてサクサク感やクリスピー感が劣り、経時変化（へたり）が早い傾向がみられる。含有量が多すぎると、揚げ物類において食感が硬くなり、また大豆特有の風味が強くなる。衣材の小麦粉は強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉などを用いることができるが、グルテン含有量が少ない薄力粉は好適である。

　本発明の揚げ物用衣材には通常使用される澱粉類を用いることができ、例えば小麦、コーン、ワキシーコーン、米などの穀物澱粉、馬鈴薯、タピオカなどの芋類澱粉、小豆、いんげん豆、そら豆、及びその他の豆類等に由来する澱粉の他、サゴ澱粉などを用いることができる。またこれらを原料とする焙焼デキストリン、酵素変性澱粉、酸分解澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、架橋澱粉、アルファ化澱粉、湿熱処理澱粉などの加工澱粉も用いることができる。

　本発明の揚げ物用衣材は、原料に適当な粘度になるように加水して得られる。その際、粘度を調節するためにガム質などの増粘剤などを使用することができ、風味付けのために既知の調味料を添加することも可能である。更には、着色料、着香料、乳化剤、その他の食品添加物を添加することも可能である。
　また必要に応じて衣材に油脂を使用することもできる。油脂は、食用に適するものであれば特に制限はなく、パーム油、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、ひまわり油、ヤシ油、シア油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、魚油、乳脂などの動物性油脂等が列挙でき、上記油脂単独、又は混合油脂、あるいはそれらの水素添加、分別、エステル交換などの加工を施した油脂などを利用することができるし、これらを粉末化した油脂であっても構わない。油脂の添加量は、衣材全体の１０～２５重量％が適当である。油脂を添加することで、衣の食感が軽くなりクリスピー感が増す効果がある。

　本発明の揚げ物用衣材を好適に使用できる揚げ物は、鳥獣肉類、魚介類、野菜類等の食品素材を具材とし、これに衣材であるバッターを付着させ、油ちょうしたものをいう。例えばエビ天ぷら，魚天ぷら，野菜天ぷら等の天ぷら類、フリッター類、唐揚げ類、ナゲット類、チキンカツ，トンカツ，メンチカツ，ビーフカツ等のフライ・カツ類等が含まれる。衣はバッターのみでもよいし、さらにバッターにパン粉等を付着させたものでもよい。特にパン粉付けしない揚げ物への使用が食感の改良効果がより高く好適である。

（ベーカリー製品）
　次に本発明の粉末状大豆素材を含む、ベーカリー製品について説明する。
本発明におけるベーカリー製品とは、小麦粉、油脂原料を主成分とした生地を調製し、成形・焼成したものをいう。例えば焼き菓子、ケーキ、パン等が含まれる。焼き菓子としては、例えばビスケット（ビスコッティを含む）、クッキー、ワッフル、クラッカー（乾パン、プレッチェルを含む）、ラスク、ウエハース等が挙げられ、栄養バーのようなバー状などの形状の新規な焼成食品も挙げることができる。
　かかるベーカリー製品において本発明の粉末状大豆素材を焼菓子の乾燥固形分中７～６０重量％、好ましくは１０～６０重量％、更に好ましくは１５～３０重量％含有することが適当である。これにより、製造時の作業性や、ベーカリー製品本来の食感（焼き菓子の場合はサクサク感など）を損ねることなく、大豆蛋白質という栄養的付加価値をベーカリー製品に付与することができる。
　大豆蛋白質の含有量が少なすぎると栄養的付加価値が小さくなり、また多すぎると生地の作製及び成形等の作業性が低下する。

　以下、実施例により本発明の実施態様を説明するが、これにより限定されるものではない。なお、実施例中の「％」は特記しない限り「重量％」を示す。

（製造例）　－粉末状大豆素材の調製－
　低変性脱脂大豆（ＮＳＩ８３、エーテル抽出油分０．６％）を粉砕機で８０メッシュパスまで微粉砕を行った後、この１０重量部に１０倍の水を加えて脱脂大豆スラリーを調製した。次いで遠心分離機を用いて脱脂豆乳液とオカラとに分けた。分離したオカラの水分含量は８５％であった。このオカラを脱脂豆乳液の固形分に対して固形分量で５％、１０％になるようそれぞれ添加して均一化し、一部オカラが混じった脱脂豆乳液を調製した。
　調製した脱脂豆乳液のｐＨは６．６であり、その固形分に対してオカラ分を５％添加した実施例１については、カルシウム量として０．５％量を含む塩化カルシウムを加え、オカラ分を１０％添加した実施例２についてはカルシウム量として０．４％量を含む塩化カルシウムを加え１５０℃で１０秒加熱処理を行い蛋白の不溶化を促進した後、スプレードライヤーを用いて粉末状大豆素材を各調製した。
　オカラ分を５％添加した実施例１の粉末状大豆素材サンプルは、粗蛋白含量が６０％、不溶性食物繊維含量が５％、ＮＳＩが２０、カルシウム量は０．７５％、可溶性糖質は、２０％であった。
　一方のオカラ分を１０％添加した実施例２の粉末状大豆素材サンプルは、粗蛋白含量が５５％、不溶性食物繊維含量が８％、ＮＳＩが３５、カルシウム量は０．７５％、可溶性糖質は、２２％であった。

（試験例）
　表１に示した各種の粉末状大豆素材を選択し、表２に示すバッター液の配合により、次の方法で鶏もも唐揚げ及びかき揚げ天ぷらを製造し、前記比較例１～５、実施例１～２各種粉末状大豆素材の添加が食感等に及ぼす影響、特にへたりについての効果を調べた。

（表１）

（鶏もも唐揚げ製造工程）
　鶏もも肉２５ｇに対し、下記配合のバッター液１２ｇを付け、１７５℃で５分間フライした。粗熱がとれた時点で、急速冷凍を行った。冷凍状態の唐揚げをレンジ加熱し、室温に２時間放置し、下記基準に従って食感を評価した。その結果を表３に示す。

（かき揚げ天ぷら製造工程）
　野菜類（千切り玉ねぎ、千切り人参、みじん切りホウレン草）を混ぜ合わせ、打ち粉を塗布する。次に、下記配合のバッター液を付け、１６５℃で１分３０秒フライし、粗熱がとれた時点で急速冷凍を行った。冷凍状態のかき揚げを、１７０℃で１分１５秒フライし、３０分後の食感を評価した。その結果を表４に示す。

（表２）バッター液の配合組成

（表３）鶏から揚げ

（表４）かき揚げ天ぷら

（実施例３）ベーカリー製品
　以下の配合および製法により、粉末状大豆素材含量の高い焼き菓子を製造し、実施例１，２及び比較例１～５の各種粉末状大豆素材の添加が食感等に及ぼす影響を調べた。乾燥固形分として、小麦粉41％、粉末状大豆素材19％、ショートニング15％、デキストリン14％、砂糖5％、全卵3％、卵殻カルシウム1％、重炭酸アンモニウム1％、食塩0.5％、重曹0.5％、を使用し、シュガーバッター法で混練して生地を作成、７mm厚に延ばし、型抜き成型を行い、焼成180℃・20分の条件で製造した。

（表５）

　実施例１，２については、鶏から揚げとかき揚げ天ぷらでは、レンジ加熱し２時間放置した後においても口溶けは良いままに、クリスピー感も良好に維持されており、特に実施例１が非常に優れていた。また焼き菓子でもサクサク感があってほぐれやすい（口溶けの良い）食感で優れた品質であり、特に実施例１が非常に優れていた。
　逆に比較例１～４については、全体として実施例１，２に比べて歯切れが悪くクリスピー感に欠けており、品質が劣っていた。
　比較例４，５は比較例１～３と比べると全体として普通以上の品質であった。しかし、製造した物によっては食感に硬さが出て、特に軽い食感で口溶けに優れる実施例１とは品質に差があった。

Claims

粗蛋白質含量が乾燥固形分換算で５０～６５重量％、不溶性食物繊維が２～１０重量％、窒素溶解指数（ＮＳＩ）が５０以下であることを特徴とする、粉末状大豆素材。
カルシウム含量又はマグネシウム含量が、乾燥固形分換算で０．６重量％以上１重量％未満である請求項１記載の粉末状大豆素材。
可溶性糖質が乾燥固形分換算で２～２５重量％含まれる請求項１記載の粉末状大豆素材。
請求項１記載の粉末状大豆素材を含む小麦粉製品。
揚げ物用衣材である、請求項４記載の小麦粉製品。
ベーカリー製品である、請求項４記載の小麦粉製品。