【発明の詳細な説明】
イソソルビド−5−モノナイトレートの使用
本発明は、医薬化合物における改良に関し、とくに新規な製剤および心臓薬の
ための使用に関する。
1980年代に開始され、なお継続されている調査研究により、単独収縮期高血圧
(ISH)には卒中のリスクの上昇を伴うことが明らかにされてきた。50〜79
歳の年齢群の男性および女性の両者で、ISH患者のリスクは正常血圧者の場合
の2〜4倍大きいことが見出されている。ISHは一般に、収縮期血圧(SBP)
160mmHg以上、拡張期血圧(DBP)95mmHg以下と定義される。
1991年における一つの研究では、SBPが 160〜219 の範囲でDBPが90未
満の60歳以上の患者について、抗高血圧処置は、非処置群に比べて処置群で非
致死的卒中のリスクを36%低下させたことを示している。
この種の研究に関連して、様々な年齢の対象における動脈圧と血流の関係が検
討され、各種サイズの動脈に対する血管拡張剤としてのニトログリセリンの効果
についての臨床試験が行われている。
ニトログリセリンによるこれらの臨床試験の目的の一つは、収縮期血圧の低下
が卒中のリスクの低下に有益であると考えられていたことから、収縮期血圧を選
択的に低下させることが可能かどうかであった。
ISHに罹患している患者でも、患者が睡眠中の夜間には、収縮期血圧は低下
することも知られている。したがって、原理的には、関連薬物のレベルを24時
間ベースで維持することはそれほど重要ではなく、これにより治療が単純化され
る可能性がある。しかしながら現在まで、ニトログリセリンの使用に基づくIS
Hの満足できる治療法は出現していない。
本発明者らは今回イソソルビド−5−モノナイトレートの使用により、ISH
の処置のために満足できる治療法を提供できることを発見した。イソソルビド−
5−モノナイトレート(以下、5−ISMNという)は狭心症の処置に臨床的に
繁用されているが、本発明者らは今回、5−ISMNの1日1回投与が、とくに
日中、収縮期血圧を選択的に低下させ、したがって、卒中のリスクが高い患者に
おいてそのリスクを軽減できることを発見した。
本発明は、ヒトおよび動物の単独収縮期高血圧の処置用医薬の製造における、
イソソルビド−5−モノナイトレートの使用を提供する。本発明はまた、単独収
縮期高血圧に罹患している患者に、収縮期血圧の選択的低下をもたらすのに十分
な量のイソソルビド−5−モノナイトレートを投与することによる、これらの患
者の卒中のリスクを低下させる方法を提供する。
本発明者らは、長時間放出型製剤の5−ISMNによる処置がISHの処置の
とくに満足できる治療形態であることを見出した。単位剤形あたり60mgの5−
ISMNを含有し、Imdurの登録商標名で販売されている市販の長時間放出型製
剤の一つが、ISHの1日1回処置にとくに適していることを見出したのである
。Imdurは経口投与用に設計され、通常60mgの5−ISMNの実質的にすべて
を約12時間を要して放出する。本発明者の臨床試験により、Imdur製剤は5−
ISMNを12〜16時間にわたり血流中への吸収に利用することを可能にし、
したがって、この治療方法は、通常朝覚醒直後における1日1回投与に理想的で
あることが指摘された。
5−ISMNの長時間放出型製剤としての使用による更なる利点は、5−IS
MNに対する耐性の発現が回避されることである。5−ISMNに
よる狭心症の処置は投与量20〜30mgの1日2〜3回の長期にわたる投与で薬
物耐性を招くこと、換言すれば、同一の治療効果を維持するためには投与量を絶
えず増量しなければならないことが、臨床試験により既に確立されている。1日
1回60mgの長時間放出型製剤の投与では、この耐性の問題が回避され、もちろ
ん、同時に患者のコンプライアンスも改善される。これらの利点は5−ISMN
をISHの処置に用いた場合にも観察される。
長時間放出型製剤による1日1回用量の5−ISMNの使用は、5−ISMN
の血漿濃度を投与直後の覚醒時に最高に、24時間サイクルの最終部分である睡
眠時間に最低になる傾向を示すというさらに他の利点を生じる。これはISHの
処置における要求にとくによく合致する。SBPの選択的な低下が必要な覚醒時
に高い血漿濃度を示し、SBPがともかく低下する傾向のある睡眠時間の間には
日中のレベルに比較して血漿濃度が低下するからである。
ISHの処置に使用する5−ISMNのソースとしては、市販品を入手できる
ことからImdur長時間放出型製剤がとくに便利であるが、技術的な観点からは他
の製剤も許容される。Imdurでは、活性成分の5−ISMNはパラフィンワック
スとケイ酸アルミニウムアルカリ金属塩をベースとした不活性な不溶性多孔性マ
トリックス内に含有されている。しかしながら、長時間放出型製剤は医薬工業に
おいて極めてよく知られていて、異なった比率のパラフィンワックスとケイ酸ア
ルミニウムナトリウム、異なった種類のパラフィンワックスとケイ酸アルミニウ
ムナトリウムをベースとして、または他の不活性な不溶性多孔性マトリックス形
成ポリマーを用いた他の種類の不活性な不溶性多孔性マトリックスを使用するこ
ともできる。
長時間放出型製剤のベースとしての不活性多孔性マトリックス系の使用
に代えて、ISHの処置用に、活性成分の5−ISMNのコアを放出速度調節用
のポリマー膜でコーティングした長時間放出型製剤中に5−ISMNを処方すること
もできる。このようなコーティングされたビーズは、胃内で溶解してコーティン
グされたビーズを放出するゼラチンカプセルに充填するか、またはコーティング
されたビーズを放出する急速の崩壊性の錠剤に、他の慣用の賦形剤とともに圧縮
することができる。コーティングされたビーズはそれぞれが、適当な時間にわた
って5−ISMNを放出する送達単位として働くことができる。放出速度はフィ
ルム形成ポリマーの適用量および/またはフィルム中の可溶性および不溶性ポリ
マーならびに他の成分の間の比を変動させることによって変化させることができ
る。たとえば、ビーズ自体は乳糖またはマンニトールとセルロースおよびデンプ
ンで処方された5−ISMNから構成することができる。このような製剤はコー
ティングしないでそのまま正常な放出製剤として実際に使用できる。正常な放出
製剤をついで水溶性および水不溶性セルロース誘導体の混合物を基剤とすること
ができる放出速度調節フィルムによりコーティングすることが可能である。本技
術分野でよく知られた操作に従い、これらは“Eudragit”の商品名で販売されて
いる様々な等級のポリマーの、インビボにおいて活性成分の所望の放出速度を与
えるように選ばれた比率での混合物とすることができる。
上述のように、1日1回用量の投与を可能にし、それによって耐性の発現およ
び患者の劣悪なコンプライアンスの問題を回避するために、長時間放出型製剤が
通常望ましいが、5−ISMNの即時放出が有用な一面もあり、このような製剤
は通常、たとえば慣用の錠剤用賦形剤を用いて錠剤の形態に調製される。たとえ
ば5−ISMNは充填材料として乳糖および/またはセルロース、崩壊剤として
デンプン、ならびに慣用の滑沢剤および
結合剤によって製剤化することができる。このような即時放出錠は通常、処方さ
れた薬物含量の80%以上を、インビトロ試験で30分以内に放出し、そのイン
ビボにおける挙動も同様である。
5−ISMNの量に関しては、インビボの放出率が最初の1時間以内に約40
%未満、最初の2時間以内に約55%未満、最初の6時間以内に約85%未満で
あり、実質的に全活性成分が12〜16時間以内に放出される長時間放出型製剤
による1日1回の投与ベースの利用を可能にする1日用量60mgの5−ISMN
がISHの処置に適当な薬物療法を提供することが見出された。より少量もしく
はより多量のたとえば30mg〜120mgの5−ISMNを含む製剤も使用できる
が、この場合5−ISMNの適当な血漿レベルの達成を考慮することが必要であ
る。
以下の実施例は本発明を例示するものである。実施例1
この実施例には即時放出型の錠剤を記載する。成分は以下の通りである。
5−ISMN 20 mg
乳糖(充填剤) 270 mg
微結晶セルロース(充填剤) 60 mg
トウモロコシデンプン(崩壊剤) 10 mg
ステアリン酸マグネシウム(滑沢剤) 3.6mg
ポリビニルピロリドン(結合剤) 3 mg
エタノール 適量実施例2
この実施例には、放出速度調節ポリマー膜でコーティングした即時放出ビーズ
を記載する。
5−ISMN 30重量%
乳糖またはマンニトール(充填剤) 25%w/w
微結晶セルロース(充填剤) 30%w/w
トウモロコシデンプン(崩壊剤) 15%w/w
水 適量
錠剤用の成分を水の補助により一緒に製剤化し、ついで成分を錠剤化したのち
水を蒸発させる。
得られた錠剤をついで、慣用方法により、50%w/wのエチルセルロースおよ
び50%w/wのEudragit RLのメチレンクロリド/イソプロピルアルコール溶液か
らなるフィルムでコーティングする。フィルムコーティングはインビトロにおけ
る5−ISMNの放出速度が、最初の1時間以内で40%未満、最初の2時間以
内で55%未満、最初の6時間以内で85%未満であり、12時間以内に実質的
に100%の活性成分が放出されるような厚さで適用される。実施例3
この実施例は、長時間放出型Imdur製剤を用いた臨床実験を記載する。収縮期
血圧(SBP)の有意な選択的低下が認められる。
この特定の試験は、70例の狭心症患者群から選択された11例の患者群につい
て実施された。11例の患者群は、ベースラインにおける座位または立位での日
中収縮期血圧が160mmHg以上の基準で選択された。試験はImdur製剤中の60m
g長時間放出型5−ISMNを用いて行った。試験はImdurまたはプラセボを患者
に1日1回覚醒直後に経口的に服用させる二重盲検交差試験によって実施した。
各処置期間は2週間継続し、2週間のプラセボ投与期間を先行させた。これらの
患者はすべて狭心症患者であり、試験中を通じて慢性的なβ−アドレナリン受容
体遮断療法による処置も継
続された。血圧はImdurまたはプラセボそれぞれの投与3時間後に測定した。収
縮期および拡張期血圧を、常法によりカフを用いて測定した。収縮期血圧は立位
または座位で測定した。
以下の結果が11例の患者群について得られた。収縮期血圧を表1に、拡張期
血圧を表2に示す。
プラセボに比較して、表1の収縮期血圧ではImdur処置時の低下は座位の患者
において20mm、標準偏差17mm、p<0.01であり、立位の測定での低下は
19mm、標準偏差16mm、p<0.01である。これらの結果は、Imdur投与後
3時間におけるこれらの高血圧患者の収縮期血圧の有意な低下を示している。
一方、表2ではこれらは、座位における差6mm、標準偏差10mm、p<0.0
5であり、立位の測定では低下3mm、標準偏差10mmを示している。比較の目的
のみで包含させた拡張期血圧の結果は、長期放出型Imdur製剤の投与3時間後に
測定した収縮期血圧の選択的な低下であることを示している。
上述の比較結果はImdur処置をプラセボと比較したものである。プラセボ群内
にも収縮期血圧のある程度の低下が見られるので、この患者群についてImdur処
置とベースライン測定値の間で比較を行えば、Imdur投与3時間後の収縮期血圧
の選択的な低下はさらに顕著である。
これらの結果は、収縮期血圧の低下が拡張期血圧を維持する交感神経性反応を
引き起こすという理論に合致する。ISHに罹患している高齢患者ならびに狭心
症患者では、これは、心臓への循環は拡張期血圧に依存し、拡張期血圧が下がり
すぎるとこの循環が障害されることから、有利である。これが多分、慣用の抗高
血圧薬、とくに血管系に作用する薬物が、収縮期血圧と同時に拡張期血圧も低下
させるために、ISHの処置にはあまり効果がない理由と思われる。実施例4
この実施例には、別の狭心症患者群に対して行われた類似の試験を記載する。
これらの患者の一部は試験期間を通じてβ−遮断剤の投与も受けていた。同時に
β−遮断剤治療を受けていた患者とβ−遮断剤治療を受けていなかった患者の間
で収縮期血圧の低下に有意な差は認められないことが見出された。
この試験は44例の狭心症患者群に対して行われ、これらの患者のほとんど大
部分は少なくとも160mmの収縮期血圧基礎値を示した。この試験は無作為二重
盲検、二重ダミー交差投与基準により、Imdur製剤中の5−ISMN 60mgおよ
びプラセボを用いて行った。薬剤は覚醒直後に1日1回投与した。2週間のプラ
セボ投与期間ののちに、2回の4週間の実薬投与期間を設けた。患者の年齢範囲
は50〜83歳であった。収縮期血圧は臥位で薬剤投与5分後に測定し、立位で
の収縮期血圧は薬剤投与6分後に測定した。血圧は通常の腕部カフによって測定
した。結果は以下の表3
に水銀柱mmで示す。
これらの結果は、臥位での収縮期血圧にはImdurは8mmの低下、14mmの標準
偏差、p=0.002をもたらし、一方、立位における測定ではImdur処置は7mmの低
下、標準偏差20mm、p<0.03をもたらした。
これらの結果は、上述の場合と同様に、Imdur処置による立位および臥位の両
測定での収縮期血圧の統計的に有意な低下を示している。
結果は上述の44例の患者を含む106例の患者群で実施した類似の臨床試験か
らも分析した。血圧はこの場合も、臥位では薬剤投与5分後、立位では薬剤投与
1分および6分後に測定した。得られた結果は以下の表4に水銀柱mmで示す。
これらの結果は、臥位および立位の両測定においてImdurに帰せられる収縮期
血圧の統計的に有意な低下を示し、また拡張期血圧に比較して収縮期血圧におけ
るはるかに著明な選択的性質の低下を指摘している。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1997年3月13日
【補正内容】
請求の範囲
1.単独収縮期高血圧の処置用の長時間放出型製剤としての医薬の製造のための
イソソルビド−5−モノナイトレート(5−ISMN)の使用。
2.単独収縮期高血圧患者の卒中のリスクを低下させる長時間放出型製剤として
の医薬の製造のためのイソソルビド−5−モノナイトレート(5−ISMN)の
使用。
3.ヒトまたは動物患者における単独収縮期高血圧の処置方法において、そのよ
うな処置を必要とする患者に長時間放出型製剤からイソソルビド−5−モノナイ
トレート(5−ISMN)の有効量を投与することからなる方法。
4.単独収縮期高血圧に罹患しているヒトまたは動物患者における卒中のリスク
を低下させる方法において、そのような処置を必要とする患者に長時間放出型製
剤からイソソルビド−5−モノナイトレート(5−ISMN)の有効量を投与す
ることからなる方法。
5.5−ISMNは24時間の間に1回だけ長時間放出型製剤から投与される請
求項1〜4のいずれかに記載の使用。
6.5−ISMNは経口的に投与される請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
7.長時間放出型製剤は単位用量あたり60mgの5−ISMNを含有する請求項
6記載の使用。
8.長時間放出型製剤は約12時間にわたって少なくとも60mgの5−ISMN
を放出する製剤である請求項6記載の使用。
9.長時間放出型製剤は、12〜16時間にわたって5−ISMNを血流中への
吸収に利用可能にする製剤である請求項6〜8のいずれかに記載の使用。
10.5−ISMNはパラフィンワックスとケイ酸アルミニウムアルカリ金属塩を
ベースとした不活性な不溶性多孔性マトリックスの長時間放出型製剤から経口的
に投与される請求項1〜9のいずれかに記載の使用。
11.5−ISMNは5−ISMNのコアが放出速度調節用のポリマー膜によって
コーティングされた長時間放出型製剤から経口的に投与される請求項1〜9のい
ずれかに記載の使用。
12.ポリマー膜は水溶性および水不溶性セルロース誘導体の混合物から構成され
る請求項11記載の使用。
13.5−ISMNは24時間の間に1回だけ、5−ISMNの最高血漿濃度が患
者の覚醒時間に、5−ISMNの最低血漿濃度が患者の睡眠時間に生じる時点で
投与される請求項1〜12のいずれかに記載の使用。
14.5−ISMNは、5−ISMNのインビボ放出率が最初の1時間以内で約4
0%未満、最初の2時間以内で約55%未満、最初の6時間以内で約85%未満
であり、12〜16時間以内に実質的にすべての5−ISMNが放出される長時
間放出型製剤から経口的に投与される請求項1〜13のいずれかに記載の使用。