【発明の詳細な説明】
火工品材料
本発明は、火工品材料(pyrotechnic material)、特に
単一もしくは多重導火線遅延システム、点火及び爆発トランスファーで使用する
のに適した火工品導火線、並びにその製造方法に関する。
従来の火工品は通常、所望の燃焼速度を得るべく選択し混合した物質の微細分
割粒子の均密混和物からなる、顆粒状火工品組成物で製造されている。遅延シス
テムは、典型的には、前述のような粒状組成物を鉛管に詰めることによって形成
する。次いで、これらの鉛管を細く延伸すれば、火工品導火線アセンブリに組み
込むのに適した遅延コードが得られる。
この種の方法は操作が複雑であり、コストが高く、潜在的危険性を有し、清潔
な部屋での組立てを必要とする。更に、顆粒状火工品組成物が、性能の変化を生
起する多くの問題、例えばバッチ毎のばらつき、吸湿、及び反応体粒子上に自然
に形成される表面酸化物層の存在に直面する。
英国特許第2224729号には、火工品組成物を同時
反応物質(coreactive material)の交互層の形態で基板に
蒸着することによって前述の問題を緩和する方法が開示されている。この方法で
製造した材料は改善された固有強度を有し、表面酸化物層が存在しないため、顆
粒状組成物を使用した場合より一定した反応速度が得られる。
しかしながら、この多層材料も火工品構成物質の不連続相を含む。反応はこれ
ら不連続相間の界面でしか生起しない。従って、粒状システムでも多層システム
でも、反応速度は界面への物質の拡散によって支配される。これが反応速度制御
因子であるため、反応が自動継続性を維持すべき場合には、個々の層の厚さに上
限を設けなければならない。
本発明の目的は、前述の欠点を緩和し、伝搬速度と材料を介する伝搬の継続性
とを既存の火工品システムより大きくすることを目指す火工品材料を提供するこ
とにある。
本発明の別の目的は、機械化が容易であり、火工品構成物質の相対的割合を容
易に制御することができ、且つ新しい火工品構成物質及び新しい発熱プロセスを
使用することができる、前述のような材料の製造方法を提供することにある。
従って本発明は、第一の実施態様で、同時発生的に蒸着して大部分不規則な単
相構造を形成する2種類以上の異なる物質を含み、前記2種類以上の異なる物質
が加熱時に協働して発熱プロセスを起こすことができ、その結果より規則的な構
造が形成される火工品材料を提供する。
材料の加熱は、構成物質の同時蒸着によって形成された大部分不規則な構造か
らより規則的な構造への転移に対する熱力学的障害を克服するのに必要な量のエ
ネルギーを供給し、それによって転移反応を開始させる。構成物質は、転移の発
熱性によって、転移の自動継続に十分な更に別の量のエネルギーが得られるよう
に選択する。適当な加熱手段は火工品当業者に多数知られており、例えば、電流
の適用、火炎もしくは第二の火工品材料での直接的加熱、レーザー加熱、摩擦、
衝撃、マクイロ波等が挙げられる。
本発明は、多くの一般的な火工品物質の組合わせ、即ち、加熱した時に2種類
以上の異なる物質が互いに協働して発熱化学反応を起こすことができる組合わせ
に適用できる。簡単に説明すれば、火工品材料は好ましくは2種類の異なる物質
を含み、これらの物質が火工品反応時にそれぞれ電子供与体物質及び電子受容体
物質として機能する。
同時蒸着プロセスは、限定された長距離秩序(limited long r
ange ordering)を示す半非晶質構造を有するものではあるが、単
相エネルギー層を形成することができ、該層では、2種類の反応性物質が原子ス
ケールで密着している。従って、先行技術の総てのシステムに共通しているよう
に反応部位までの材料のバルク拡散は必要とされず、反応は一度開始されると、
同等の組成を有する既存の材料より遥かに速い速度で続行する。反応は三次元で
伝搬できるため、火工品材料を介して進みながら確実に継続される。
本発明は、テルミット(金属/金属酸化物)類に属する火工品組成物には容易
に適用できない。なぜなら、これらの物質の同時蒸着は実施上の問題をかなり伴
うからである。この種の火工品組成物は、明確に区別された金属成分と金属酸化
物成分とを含む反応性構成物質を必要とし、これは材料中に二つの不連続相を保
持することによって極めて簡単に実現できる。しかしながら、これは特に、金属
間反応生成物(当業者には、電子受容体物質がホウ素、炭素、ケイ素又はゲルマ
ニウムである組成物を含むと理解されたい)を生成する物質に適用されるもので
ある。一具体例として
は、遷移金属を電子供与体として含み、第IIIB又は第IVB族の元素を電子受容
体として含む遷移金属タイプの組成物が挙げられる。この種の火工品組成物は、
発熱性が大きく実質的に無ガスの固体状態反応を生起して、金属間生成物を生成
する。
従って火工品材料の組成は、電子供与物質が遷移金属であり、電子受容物質が
周期表の第IIIB又は第IVB族に属する物質から選択したものである組成が好ま
しい。
本発明の利点は、自続性発熱化学反応が生起する一般的な火工品材料構成物質
に限定されないことにある。火工品材料は部分的に非晶質の不規則な構造で蒸着
されるため、本発明では、火工品のために構造の規則性を高める物理的プロセス
の発熱特性を利用することができる。例えば、2種類以上の元素を安定な合金組
成に対応する比率で蒸着させると、異なる構成物質が原子レベルで密着している
が真の固溶体状態にはない不安定な構造の層が形成される。加熱された時に、変
換を開始するためのエネルギーを発生させるこのような物質は、転移を継続させ
るエネルギーが特定組成物の溶解熱から得られる真の合金状態へ自動継続的に転
移し得る。
従って本発明は、第一の実施態様で、2種類以上の異なる物質が、加熱された
時に互い協働して、より規則的な格子構造への発熱物理的転移を生起することが
でき、特に2種類以上の異なる物質が、第一の物質と、第一の物質に固体状態で
溶解し得る別の1種類以上の物質とを含む火工品材料も提供する。
本発明の火工品材料は更に、2種類以上の異なる物質がその上に蒸着される基
板も含み得る。該基板は、不活性又は反応性材料からなり得る。基板の使用は、
適当な形態で基板上に蒸着した火工品層からなり得る火工品導火線に本発明を適
用する場合に特に適している。
本発明は別の実施態様で、前述のような火工品材料を含む火工品導火線を提供
する。従来の組成物で形成した導火線の100倍の伝搬速度が得られ、火工品導
火線の全長にわたる反応伝搬も一貫している。
本発明は更に別の実施態様で、前述の火工品材料の製造方法も提供する。該方
法は、加熱した時に互いに協働して発熱プロセスを生起することができる2種類
以上の異なる物質を選択し、これら2種類以上の異なる物質を基板上に同時蒸着
することからなる。2種類以上の異なる物質は、
不均衡マグネトロンスパッタリングで蒸着するのが好ましい。
本発明は更に別の実施態様で、火工品導火線の製造方法も提供する。該方法は
、前述の火工品材料の製造方法と、蒸着したエネルギー層を、該層の残部が基板
上で所望の形態の反応路を構成するように選択的にエッチングする別のステップ
とを含む。
あるいは、前述の火工品材料の製造方法と、マスキングを介して基板上に所望
の形態の反応路を形成するために、エネルギー層の蒸着の前に基板を選択的にマ
スキングする別のステップとを含む方法を提供する。
前述の方法はどちらも、単純又は複雑な形態の火工品導火線を簡単に短時間で
製造することができる。本発明の方法は、低コストの大量生産を可能にすべく機
械化することが容易である。
ここで、第1図〜第8図に基づき、非限定的具体例として、本発明の材料及び
製造方法を説明する。
第1図は、本発明の火工品材料からなるプレーナー型火工品遅延導火線の具体
例を示す平面図である。
第2図は、第1図の火工品材料の線A−Aに沿った横断
面図である。
第3図は、第2図の火工品材料からなるプレーナー型火工品多重導火線の具体
例を示す平面図である。
第4図は、第2図の火工品材料の火工品反応の前及び後のX線回折分析を示す
グラフである。
第5図は、同等の組成を有する先行技術の多重火工品材料の、火工品反応の前
及び後のX線回折分析を示すグラフである。
第6図は、本発明の火工品材料の別の具体例の横断面図である。
第7図は、本発明の火工品材料の別の具体例の平面図である。
第8図は、エネルギー層の蒸着に使用する装置の平面図である。
第9図は、第8図の装置の線B−Bに沿った横断面図である。
第1図は、基板フィルム4と、その上に蒸着させた火工品材料2とからなる火
工品遅延導火線を示している。火工品材料2は、2種類の同時反応性物質を、自
続性発熱化学反応を開始させることができるような適当な割合で混合し
た混合物を同時に蒸着したものからなり、同時反応性物質のうちの一方が電子供
与体として機能し、他方が電子受容体として機能する。この具体例では、火工品
反応は、末端6の間に電位差を適用することによって始まり、その後遅延導火線
に沿って進行する。該材料の一部分を切断した横断面図を第2図に示す。
適当な構成物質は当業者に多数知られており、以下はその非限定的具体例であ
る。遷移金属と第III又は第IV族の電子受容体物質とを含む組成物の利点に鑑み
て、Ti/C及びTi/Bを火工品の構成物質として使用することにより火工品
材料を製造した。チタン及びホウ素はより高度のエネルギー反応を生起させるが
、ホウ素のスパッタリング速度は極めて遅く、そのため同時蒸着層のスパッタリ
ング速度が必然的に制限される。炭素源を使用すればそれより大きいスパッタリ
ング速度を得ることができるため、許容し得るスパッタリング速度で高速エネル
ギー反応を与える具体例として、後述の火工品材料はチタンを電子供与体として
使用し、炭素を電子受容体として使用する。
火工品材料の2種類の構成物質を同時蒸着することにより、限定された長距離
秩序を示す高度に歪んだ格子形態を
有する単相構造を形成し得る。このようにすると、同時反応性構成物質が、同等
の組成を有する既存の火工品材料の場合より遥かに強く密着するため、熱の適用
によって一度反応が開始されると、極めて高速の反応が生起して、炭化チタンが
生成される。
第4図及び第5図は前述の相違を明らかにするものであり、第1図及び第2図
の材料並びに多層チタン/炭素材料の反応前(A)及び反応後(B)のX線回折
トレースをそれぞれ示している。いずれのグラフも、X線信号の強度(I)をB
ragg角に対してプロットしている。
第5図では、反応前に明確な強度ピーク21が見られる。これらのピークはチ
タンの特徴的ピークに対応し、多層材料のチタン層が極めて規則的な格子構造を
有することを示す。非晶質炭素層はX線回折トレースには全く関与していない。
反応後のX線回折トレースには、炭化チタンの規則的な面心立方格子に対応する
特徴的ピーク22が見られる。
これと対照的に、第4図では、反応前のトレース(A)に低強度の極めて広い
ピーク23が見られる。これらのピーク23は炭化チタンの特徴的反射に対応し
、ある程度の規則性を意味するが、幅の広さ及び低い強度は、エネルギ
ー層が高度に歪んだ半非晶質構造を有することを意味する。これは、チタンと炭
素が原子スケールで高度に混ざり合っているが、格子の規則性は比較的低いこと
を示すものであり、反応後の材料のX線回折トレース(B)上のピーク22によ
って示される高度に結晶質の炭化チタン構造と著しい対比をなしている。非反応
チタンが少量存在することを示す小ピーク24も存在する。
第3図は、火工品材料の別の使用例を示している。この図には、フィルム4と
、その上に載置された火工品材料2の反応進行路網とからなる多重導火線が示さ
れている。火工品材料2は同時蒸着したチタン及び炭素からなり、反応進行路網
は様々に連結しあいながら末端8〜12まで延びている。使用時には、末端の一
つ、例えば末端8にエネルギーを入力して(電気、外部加熱源、摩擦等)反応を
開始させると、反応が、火工品の反応速度によって決まる一定の速度で進行路に
沿って続行し、残りの末端9〜12に発火源を供給する。
第1図〜第3図に示す同時蒸着物質は反応性が高いことが判明した。例えば、
第1図に従って製造したコーティングは、末端6の間の二つの電極を介して8A
に15Vの電
位差を適用することにより容易に点火され、3ms-1の反応伝搬速度が得られる
。これは、チタン炭素粉末系について報告されている最大の伝搬速度である約3
cm-1と比較できる。長い導火線に沿って完全且つ一定の伝搬を得る上で多層材
料が遭遇し得る問題も、該エネルギー層の反応性の増加と単相特性とによって著
しく軽減することが判明した。
本発明の火工品材料の別の具体例を第6図に示す。この図には、ガラス又はセ
ラミックの基板30に同時蒸着したチタンと炭素との混合物からなる反応性フィ
ルム28が示されている。反応性フィルム28の付着性を高めるために、最初に
厚さ約0.5μmのチタン層32を基板に直接蒸着し、次いで該チタン層32上
に反応性フィルム28を蒸着した。この別の層は、高周波バイアス供給源を含ま
ない装置を火工品材料の製造に使用する時に特に有用である。なぜなら、その場
合は付着性が問題となり得るからである。該火工品材料は、側方熱損失に起因す
る反応の低下を最小にし、反応によって発生するエネルギーを反応進行方向に集
中させるために、更に別の熱伝導率の低いガラス又はセラミック層34でシール
されている。
第7図の具体例は、本発明の方法で製造した材料で得られる火工品エネルギー
を示すものである。同時蒸着したパラジウムとアルミニウムとの混合物38から
なる層が、該具体例では厚さが1mmのガラススライド36からなる基板上に4
μmの厚さで蒸着されている。この材料は、点火のために大量のエネルギーを必
要とすることが判明した。末端40に適用した交流プローブでは一定の継続した
伝搬を生起させることができないが、マイクロ波照射を行えば層38を首尾よく
点火し得る。この層はその後、ガラススライド36を粉砕するだけでなく、ガラ
スの厚さを貫通する局部的溶融を生起するのに十分な、極めて大きいエネルギー
の火工品反応を起こすことが判明した。
ここで第8図及び第9図に基づいて、本発明の火工品材料の製造方法、特に第
1図及び第3図の火工品導火線の製造方法を説明する。
5kW直流マグネトロン駆動装置によって作動する3個の直径150mmの不
均衡マグネトロン16をベースプレート15上に載置する。水冷式基板ホルダー
14をマグネトロン16の上方に配置する。第8図には基板ホルダーは図示され
ていないが、その位置が点線で示されている。各
マグネトロン16上に、蒸着すべき物質を供給する炭素17又はチタン18の標
的を載置する。これらの標的を導電性接着剤でマグネトロンに結合する。標的と
マグネトロンのベースプレートとの間の良好な導電がより大きい出力の使用を可
能にするため、蒸着速度が増加する。これは、スパッタリング速度が大半の金属
源より劣る炭素に関して特に重要なことである。しかしながら例えば、1.5k
Wマグネトロン出力で、このような導電的に結合された標的から約3μm/時の
炭素蒸着速度が得られることが判明した。これは、チタンよりは遅いが、同時蒸
着を可能にする大きさの速度である。このようにして形成した構造物全体を真空
チャンバ(図示せず)内に配置する。
まず基板4の面を清浄にして用意し、次いで基板4を基板ホルダー14上に配
置する。三つの標的17、18の総てから同時にスパッタリングし、これらの標
的の上方で基板ホルダー14を回転させることによって、同時蒸着層を形成する
。スパッタリングした物質は不均衡マグネトロン構造によって発生した磁場の影
響で基板ホルダーに送られる。これは第9図に磁場線20で示されている。チャ
ンバの圧力を2×10-3Paにし、次いでアルゴン雰囲気を0.
3Paで導入する。炭素に見られる遅いスパッタリング速度を許容するために、
2個の炭素標的17と1個のチタン標的18を使用する。蒸着元素の相対的割合
も、各標的に適用する出力の調整によって調整することができる。
第1図及び第3図に示すような火工品導火線を製造するために、該火工品導火
線の所望の進行路に対応する孔を備えた型板(template)を形成する。
この型板は、火工品材料が所望の進行路上にだけ蒸着されるように、蒸着プロセ
スの開始前に支持プレートをマスキングするのに使用する。あるいは、火工品材
料を基板全体に蒸着し、次いで所望の進行路網を耐酸性コーティングでマスキン
グしてもよい。次いで火工品の残りの部分を酸エッチングによって除去すれば、
所望の形態の火工品導火線が得られる。
当業者には明らかなように、前述の実施例とは異なる物質を選択し、それぞれ
の割合を調節すれば、起爆装置、点火装置、バッテリー及び類似の熱源を含む種
々の火工品用途及び装置に適用し得る火工品材料を、本発明の方法で製造するこ
とができる。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1995年4月21日
【補正内容】
火工品材料
本発明は、火工品材料(pyrotechnic material)、特に
単一もしくは多重導火線遅延システム、点火及び爆発トランスファーで使用する
のに適した火工品導火線、並びにその製造方法に関する。
従来の火工品は通常、所望の燃焼速度を得るべく選択し混合した物質の微細分
割粒子の均密混和物からなる、顆粒状火工品組成物で製造されている。遅延シス
テムは、典型的には、前述のような粒状組成物を鉛管に詰めることによって形成
する。次いで、これらの鉛管を細く延伸すれば、火工品導火線アセンブリに組み
込むのに適した遅延コードが得られる。
この種の方法は操作が複雑であり、コストが高く、潜在的危険性を有し、清潔
な部屋での組立てを必要とする。更に、顆粒状火工品組成物が、性能の変化を生
起する多くの問題、例えばバッチ毎のばらつき、吸湿、及び反応体粒子上に自然
に形成される表面酸化物層の存在に直面する。
英国特許第2224729号には、火工品組成物を同時
反応物質(coreactive material)の交互層の形態で基板に
蒸着することによって前述の問題を緩和する方法が開示されている。この方法で
製造した材料は改善された固有強度を有し、表面酸化物層が存在しないため、顆
粒状組成物を使用した場合より一定した反応速度が得られる。
しかしながら、この多層材料も火工品構成物質の不連続相を含む。反応はこれ
ら不連続相間の界面でしか生起しない。従って、粒状システムでも多層システム
でも、反応速度は界面への物質の拡散によって支配される。これが反応速度制御
因子であるため、反応が自続性を維持すべき場合には、個々の層の厚さに上限を
設けなければならない。
鉄又はチタンの部分的非晶質二元合金をマグネトロン同時スパッタリングによ
って蒸着する方法は公知であるが(Materials Letters,vo
l.6,no.8−9,1988年5月,Amsterdam,NL,311−
315ページ,Qing−Ming Chenら)、これが火工品組成物に適用
されたことはない。
本発明の目的は、前述の欠点を緩和し、伝搬速度と材料を介する伝搬の継続性
とを既存の火工品システムより大き
くすることを目指す火工品材料を提供することにある。
本発明の別の目的は、機械化が容易であり、火工品構成物質の相対的割合を容
易に制御することができ、且つ新しい火工品構成物質及び新しい発熱プロセスを
使用することができる、前述のような材料の製造方法を提供することにある。
従って本発明は、第一に、同時に蒸着して大部分不規則な単相構造を形成する
2種類以上の異なる物質を含み、前記2種類以上の異なる物質が加熱時に協働し
て自続性発熱プロセスを起こすことができ、その結果、より規則的な構造が形成
される火工品材料を提供する。
材料の加熱は、構成物質の同時蒸着によって形成された大部分不規則な構造か
らより規則的な構造への転移に対する熱力学的障害を克服するのに必要な量のエ
ネルギーを供給し、それによって転移反応を開始させる。構成物質は、転移の発
熱性によって、転移の自続性に十分な更に別の量のエネルギーが得られるように
選択する。適当な加熱手段は火工品当業者に多数知られており、例えば、電流の
適用、火炎もしくは第二の火工品材料での直接的加熱、レーザー加熱、摩擦、衝
撃、マクイロ波等が挙げられる。
本発明は、多くの一般的な火工品物質の組合わせ、即ち、加熱した時に2種類
以上の異なる物質が互いに協働して自続性発熱化学反応を起こすことができる組
合わせに適用できる。簡単に説明すれば、火工品材料は好ましくは2種類の異な
る物質を含み、これらの物質が火工品反応時にそれぞれ電子供与体物質及び電子
受容体物質として機能する。
同時蒸着プロセスは、限定された長距離秩序性を示す半非晶質構造を有するも
のではあるが、単相エネルギー層を形成することができ、該層では、2種類の反
応性物質が原子スケールで密着している。従って、先行技術の総てのシステムに
共通しているように反応部位までの材料のバルク拡散は必要とされず、反応は一
度開始されると、同等の組成を有する既存の材料より遥かに速い速度で続行する
。反応は三次元で伝搬できるため、火工品材料を介して進みながら確実に継続さ
れる。
本発明は、テルミット(金属/金属酸化物)類に属する火工品組成物には容易
に適用できない。なぜなら、これらの物質の同時蒸着は実施上かなり困難である
からである。この種の火工品組成物は、明確に区別された金属成分と金属酸化物
成分とを含む反応性構成物質を必要とし、これは
材料中に二つの不連続相を保持することによって極めて簡単に実現できる。しか
しながら、これは特に、金属間反応生成物(当業者には、電子受容体物質がホウ
素、炭素、ケイ素又はゲルマニウムである組成物を含むと理解されたい)を生成
する物質に適用されるものである。一具体例としては、遷移金属を電子供与体と
して含み、第IIIB又は第IVB族(IUPAC表記法)の元素を電子受容体とし
て含む遷移金属タイプの組成物が挙げられる。この種の火工品組成物は、発熱性
が大きく実質的に無ガスの固体状態反応を生起して、金属間生成物を生成する。
従って火工品材料の組成は、電子供与物質が遷移金属であり、電子受容物質が
周期表の第IIIB又は第IVB族(IUPAC表記法)に属する物質から選択した
ものである組成が好ましい。
本発明の利点は、自続性発熱化学反応が生起する一般的な火工品材料構成物質
に限定されないことにある。火工品材料は部分的に非晶質の不規則な構造で蒸着
されるため、本発明では、火工品のために構造の規則性を高める物理的プロセス
の発熱特性を利用することができる。例えば、2種類以上の元素を安定な合金組
成に対応する比率で蒸着さ
せると、異なる構成物質が原子レベルで密着しているが真の固溶体状態ではない
不安定な構造の層が形成される。加熱された時に、変換を開始するためのエネル
ギーを発生させるこのような物質は、転移を継続させるエネルギーが特定組成物
の溶解熱から得られる真の合金状態へ自続的に転移し得る。
従って本発明は、第一に、2種類以上の異なる物質が、加熱された時に互い協
働して、より規則的な格子構造への自続性発熱物理的転移を生起することができ
、特に2種類以上の異なる物質が、第一の物質と、第一の物質に固体状態で溶解
し得る別の1種類以上の物質とを含む火工品材料も提供する。
本発明の火工品材料は更に、2種類以上の異なる物質がその上に蒸着される基
板も含み得る。該基板は、不活性材料又は反応性材料からなり得る。基板の使用
は、適当な形態で基板上に蒸着した火工品層からなり得る火工品導火線に本発明
を適用する場合に特に適している。
本発明は別の態様で、前述のような火工品材料を含む火工品導火線を提供する
。従来の組成物で形成した導火線の100倍の伝搬速度が得られ、火工品導火線
の全長にわた
る反応伝搬も一貫している。
本発明は更に、前述の火工品材料の製造方法も提供する。該方法は、加熱した
時に互いに協働して自続性発熱プロセスを生起することができる2種類以上の異
なる物質を選択し、これら2種類以上の異なる物質を基板上に同時蒸着すること
からなる。2種類以上の異なる物質は、不均衡マグネトロンスパッタリングで蒸
着するのが好ましい。
本発明は更に別の実施態様で、火工品導火線の製造方法も提供する。該方法は
、前述の火工品材料の製造方法と、蒸着したエネルギー層を、該層の残部が基板
上で所望の形態の反応路を構成するように選択的にエッチングする別のステップ
とを含む。
あるいは、前述の火工品材料の製造方法と、マスキングを介して基板上に所望
の形態の反応路を形成するために、エネルギー層の蒸着の前に基板を選択的にマ
スキングする別のステップとを含む方法を提供する。
前述の方法はどちらも、単純又は複雑な形態の火工品導火線を簡単に短時間で
製造することができる。本発明の方法は、低コストの大量生産を可能にすべく機
械化することが容易である。
ここで、第1図〜第8図に基づき、非限定的具体例として、本発明の材料及び
製造方法を説明する。
第1図は、本発明の火工品材料からなるプレーナー型火工品遅延導火線の具体
例を示す平面図である。
第2図は、第1図の火工品材料の線A−Aに沿った横断面図である。
第3図は、第2図の火工品材料からなるプレーナー型火工品多重導火線の具体
例を示す平面図である。
第4図は、第2図の火工品材料の火工品反応の前及び後のX線回折分析を示す
グラフである。
第5図は、同等の組成を有する先行技術の多重火工品材料の、火工品反応の前
及び後のX線回折分析を示すグラフである。
第6図は、本発明の火工品材料の別の具体例の横断面図である。
請求の範囲
1. 2種類以上の異なる物質が加熱された時に、協働して自続性発熱プロセス
を起こすことができ、その結果より規則的な構造が形成されるような、大部分不
規則な単相構造を形成するために同時蒸着した2種類以上の異なる物質を含む火
工品材料。
2. 2種類以上の異なる物質が、加熱された時に、協働して自続性発熱化学反
応を起こすことができる請求項1に記載の火工品材料。
3. それぞれ電子供与物質及び電子受容物質として機能する2種類の異なる物
質を含む請求項2に記載の火工品材料。
4. 電子供与物質が遷移金属であり、電子受容物質が第IIIB及び第IVB族(
IUPAC表記法)の物質から選択したものである請求項3に記載の火工品材料
。
5. 2種類以上の異なる物質が、加熱された時に協働して、より規則的な格子
構造への自続性発熱物理的転移を起こすことができる請求項1に記載の火工品材
料。
6. 異なる物質が、第一の物質と、該第一の物質に固体
状態で溶解し得る1種類以上の別の物質とを含む請求項5に記載の火工品材料。
7. 2種類以上の異なる物質がその上に蒸着される基板も含む請求項1から6
のいずれか一項に記載の火工品材料。
8. 請求項7に記載の火工品材料からなる火工品導火線。
9. 加熱された時に協働して自続性発熱プロセスを起こすことができる2種類
以上の異なる物質を選択し、該2種類以上の異なる物質を基板上に同時蒸着する
ステップを含む請求項1に記載の火工品材料の製造方法。
10. 2種類以上の異なる物質を不均衡マグネトロンスパッタリングによって
蒸着する請求項9に記載の火工品材料の製造方法。
11. 蒸着した反応層を、該層の残部が基板上に所望の形態の反応路を形成す
るように選択的にエッチングするステップも含む請求項9又は10に記載の火工
品材料の製造方法。
12. マスキングを介して基板上に所望の形態の反応路を形成するように、反
応層の蒸着の前に、基板を選択的にマスキングするステップも含む請求項9又は
10に記載の火工品材料の製造方法。
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(72)発明者 テインストン,ステイーブン・フレデリツ
ク
イギリス国、ハンプシヤー・ジー・ユー・
14・6・テイ・デイ、フアーンボロー、デ
イフエンス・リサーチ・エージエンシー、
アール・69・ビルデイング、インテレクチ
ユアル・プロパテイー・デパートメント
(番地なし)
(72)発明者 ケリー,ピーター・ジエイムズ
イギリス国、ハンプシヤー・ジー・ユー・
14・6・テイ・デイ、フアーンボロー、デ
イフエンス・リサーチ・エージエンシー、
アール・69・ビルデイング、インテレクチ
ユアル・プロパテイー・デパートメント
(番地なし)
(72)発明者 ハマント,ブライアン・レスリー
イギリス国、ハンプシヤー・ジー・ユー・
14・6・テイ・デイ、フアーンボロー、デ
イフエンス・リサーチ・エージエンシー、
アール・69・ビルデイング、インテレクチ
ユアル・プロパテイー・デパートメント
(番地なし)
(72)発明者 プレイス,マルコム・ステユワート
イギリス国、ハンプシヤー・ジー・ユー・
14・6・テイ・デイ、フアーンボロー、デ
イフエンス・リサーチ・エージエンシー、
アール・69・ビルデイング、インテレクチ
ユアル・プロパテイー・デパートメント
(番地なし)