【発明の詳細な説明】
P.Multocida によるパスツレラ症に対する感染防御剤
[技術分野]
Pasteurella multocidaは種々の家畜及び野生の哺乳動物及び鳥類の病気の発
病において重要な家畜病原菌とみなされている。たとえば、P.multocidaは豚の
萎縮性鼻炎や肺炎及び牛の地方性肺炎に関連している。P.multocidaはまた鳥類
においては鶏コレラの病因である。P.multocidaによる疾病は養豚、養牛及び家
禽産業において重大な経済的損失を招いている。
七面鳥におけるパスツレラ症やコレラは伝染性が高く、超急性、急性または慢
性の症状としてあらわれる。異なる蕎膜型及び血清型を有するPasteurella mult ocida
は鶏コレラの病原菌である。超急性及び急性症は敗血症、肺、肝臓及び脾
臓における不治の障害としてあらわれ、P.multocidaのエンドトキシンにより死
に至ることもある。慢性の場合は罹病率が高く、保菌状態となる。
米国における七面鳥産業は260ドルの家禽産業の一部であり、1988年に2億4247
万羽から49億ポンドの生鳥、額にして19億5千万ドルが生産された。1960年にお
いて6.1ポンドであった一人当たりの七面鳥肉の消費量は1990年には17.9ポンド
に増加した。米国七面鳥産業において病死が主な経済的損失である。1988年(統
計が集計されている最新の年度)において、米国七面鳥産業は病気のために見積
もり額で2億2200万ドルを損失し、その病気の50%は呼吸器疾患であった。国立七
面鳥連合及びアメリカ鳥類病理学者協会は鳥類のパスツレラ症、または別名鶏コ
レラ、を致死率の上昇、不良産物との認定及び治療費の観点から米国七面鳥産業
に多大な経済的損失を与えている三大疾病の一つと位置づけている。
Carpenter等、Avian Dis.、31:16-23(1988)参照。
種々の動物病へのP.multocidaの関与が明らかになるにつれて、この疾病を市
販のバクテリンや弱毒化ワクチンの予防接種により防ごうという努力がなされて
いる。Bierer等、Poult.Sci.、51:408-416(1972)参照。しかし、これらのワ
クチンはその効果及び疫学的データから、この疾病の予防において全面的に有効
であるとはいえない。in vitroにおいて人口培地上に生育させた菌株より調製し
たバクテリンはその親菌株と同じ血清型に対してのみ防御機構、すなわち、血清
型特異的免疫、を惹起することがわかっている。Heddleston、Avian Dis.、6:31
5-321(1962),Heddleston等、Avian Dis.、14:626-635(1970)参照。血清型
特異的免疫に応答する免疫原はリポ多糖と同定されているが、交差防御免疫を惹
起する免疫原は交差防御因子(CPF)免疫原と呼ばれる膜関連タンパク質であ
る。Heddleston等、Poult.Sci.、54:217-221(1974)参照。
生ワクチンは多数のP.multocidaの血清型とのチャレンジに対して交差防御免
疫を惹起する。上記Bierer等参照。生ワクチンにより起こる重大な欠点は、すで
に感染している七面鳥を全身感染及び死に至らしめることである。Hofacre等、N ational Turkey Federation Pasteurellosis Symposium
、pages 12-16(1989)
参照。別の重要な欠点はバクテリンと生ワクチンの両方によって誘発される免疫
持続期間が短いことである。防御期間は4週間以上は持続しないのである。国立
七面鳥連合後援による最近の鶏コレラに関するシンポジウムにおいて、数人の講
演者が研究者に安全でかつP.multocidaの16種類の血清型すべてに対して広い防
御スペクトラムを示す新世代の優れたワクチンを開発するよう求めた。
このように、簡単に投与でき、宿主に悪影響を及ぼすことなく交差防御免疫を
長時間持続させるパスツレラ症に特異的なワクチンが求められ
ている。また、経口投与できる鶏コレラに対する高い抗原性の無毒化生ワクチン
が求められている。
[発明の開示]
本発明は動物をパスツレラ症を起こすP.multocidaから防御するワクチン及び
方法を提供する。本発明のワクチンは無毒液体担体に有効量の安定な無毒の抗原
性P.multocida突然変異体または遺伝子組換え技術により製造されたP.multoci da
有毒因子を含有してなる。無毒な抗原性変異体はトランスポゾン突然変異体ま
たは少なくとも遺伝子的に改変したP.multocidaゲノムの9.4 kb EcorV断片上に
位置する有毒遺伝子を有する突然変異体である。本発明の方法は無毒な抗原性変
異体を製造し、動物をパスツレラ症から防御するために有効量の当該変異体を投
与する工程からなる。
トランスポゾン変異体はトランスポゾン挿入または欠損変異体である。当該変
異体はトランスポゾンをインテグレートしやすい条件下でP.multocidaの有毒株
のゲノムにトランスポゾンを導入することによって製造される。好適なトランス
ポゾンはTn1、Tn3、Tn5、TnphoA、Tn7、Tn9、Tn10及びこれらの機能的断片であ
る。トランスポゾン挿入変異体は無毒性及びパスツレラ症に対して免疫を誘起す
る能力を指標に選択できる。特に好ましい変異体はパスツレラ症に対して長期間
持続する交差防御免疫を惹起できるものである。
遺伝子的に改変したP.multocidaゲノムの9.4 kb EcorV断片上に位置する有毒
遺伝子を有する無毒化変異体は通常の突然変異誘発法により製造できる。有毒遺
伝子はトランスポゾン挿入または欠損突然変異、化学的突然変異、制限エンドヌ
クレアーゼ及エキソヌクレアーゼ突然変異、及びポリメラーゼ連鎖反応による突
然変異により遺伝子的に改変できる。
このように製造された変異体は無毒性及びパスツレラ症に対する防御力を指標に
選択できる。選択された変異体の9 kb EcorV断片上に位置する有毒遺伝子の遺伝
子改変は、制限酵素マッピングのような常法により確認できる。
9.4 kb EcorV断片上の有毒因子をコードする遺伝子を適当な宿主中にサブクロ
ーニングし、形質転換することにより組換え有毒因子を作製することができる。
有毒遺伝子は適当な転写及び翻訳領域の制御下でサブクローニングでき、有毒因
子の高度発現が達成できる。有毒因子は常法により同定及び精製できる。その後
、有毒因子は動物の免疫に用いられ、パスツレラ症に対する防御力を付与する。
本発明の方法は動物にパスツレラ症に対する防衛力を付与するために、有効量
の無毒化抗原性P.multocida変異体を投与することよりなる。変異体はいくつか
の経路、たとえば、非経口、点鼻、エアロゾル、好ましくは飲料水に入れて投与
できる。有効量とはパスツレラ症に対する防御力を誘起する変異体の量であり、
好ましくは約108 CFU/mlから約109 CFU/mlである。本発明の方法により、多種類
の動物、たとえば、牛、豚、あひる、七面鳥及び鶏、を免疫することができる。
好ましい動物は七面鳥である。
[図面の簡単な説明]
第1図はTnphoAの制限酵素マップを示す。
第2図はP.multocidaの無毒化トランスポゾン挿入変異体のDNA消化物のサザ
ーンブロット解析を示す。
[発明の詳細な説明]
本発明は動物を鶏コレラを含むパスツレラ症から防御するワクチン及び方法を
提供する。ワクチンはパスツレラ症を起こすP.multocidaに対
して免疫を惹起できる無毒の抗原性P.multocida変異体からなる。または遺伝子
組換え技術により製造されたP.multocida因子からなり、有毒因子は好ましくはP.multocida
ゲノムの9.4 kb EcorV断片上にコードされる遺伝子産物である。製
造された無毒性変異体または組換え有毒因子は、鶏コレラを含むパスツレラ症に
対して免疫を惹起するために動物にワクチンとして有効量が投与される。
A.ワクチン
ワクチンの有効成分として用いられる抗原性細菌はP.multocidaに対して免疫
を惹起する安定な生きている無毒の抗原性変異体である。変異体は動物に病気を
起こしたり死にいたらしめることなく投与され、好ましくは長期間持続する交差
防御免疫を誘起する。抗原性細菌はトランスポゾン変異体または少なくとも遺伝
子的に改変したP.multocidaゲノムの9.4 kb EcorV断片上に位置する有毒遺伝子
を有する変異体である。有効量の本発明の抗原性無毒菌変異体または組換え有毒
因子を生理的に許容される無毒の液体担体と混合し、ワクチンを調製する。
ここで用いられる「安定な」とは変異体が多数回動物を経由しても、また成長
し多数回世代を重ねても所望の特徴を維持することを意味する。好ましくは、変
異体は復帰変異率約10-5から約10-10以下、さらに好ましくは約10-6から約10-8
である。
ここで用いられる「交差防御免疫」とは無毒抗原性変異体が免疫された動物を
多数の有毒血清型のP.multocidaによる感染から保護する能力を指し、好ましく
は抗原性変異体はすべての有毒血清型に対して防御力を有する。
ここで用いられる「長期間持続する免疫」とは抗原性変異体が免疫応答を惹起
する能力を指し、少なくとも約6週間から約20週間持続するこ
とが好ましく、さらには動物の一生涯持続することが好ましい。
ここで用いられる「有効量」とはパスツレラ症を起こすP.multocidaに対して
免疫された動物を防御できる抗原性無毒変異体または有毒因子の量を意味する。
ここで用いられる「トランスポゾン」とはゲノム中をあちこち移動できるDNA
配列であり、その移動に際して、トランスポゾンと挿入部位間に広範なDNA配列
の相同性は必要なく、また古典的な相同乗換えに必要な結合酵素も不要である。
抗原性無毒菌変異体はトランスポゾン変異体であってもよい。トランスポゾン
変異体とは、P.multocidaの有毒菌株のゲノムにトランスポゾンが挿入または欠
損している変異体である。トランスポゾン挿入変異体は少なくともひとつのトラ
ンスポゾンまたはその機能的断片がゲノムのひとつまたは複数の部位に挿入され
た変異体である。トランスポゾンはゲノム中にランダムに挿入されることが好ま
しい。トランスポゾン挿入変異体はトランスポゾンをコードする遺伝子の存在を
確認することにより選択される。次いで、無毒性で、動物においてパスツレラ症
を起こすP.multocidaに対して免疫を惹起できるものが選択される。トランスポ
ゾン欠損変異体は、無毒トランスポゾン挿入変異体の中から、トランスポゾンを
コードする遺伝子が欠落しており、にもかかわらず無毒であり動物をパスツレラ
症を起こすP.multocidaから防御する能力を保持している変異体を選択すること
により得られる。
トランスポゾン変異体はトランスポゾンまたはその機能的断片をP.multocida
に導入し、無毒なトランスポゾン挿入変異体を選択することにより製造できる。
好適なトランスポゾンはTn1、Tn3、Tn5、TnphoA、Tn7、Tn9、Tn10またはこれら
の機能的断片を含むマーカー遺伝子をコードす
るものである。特に好ましいトランスポゾンはTnphoAである。
また、無毒抗原性変異体は少なくとも遺伝子的に改変したP.multocidaゲノム
の9.4 kb EcorV断片上に位置する有毒遺伝子を有する変異体であってもよい。有
毒遺伝子はトランスポゾン変異誘発により同定及びマッピングできる。有毒遺伝
子は本質的に機能しないか、または無毒性変異体において本質的に機能しない遺
伝子産物を生産するが、P.multocidaの有毒性菌株において機能するものである
。本質的に機能しない遺伝子とは、変異体に有毒性など遺伝子に関わる機能を誘
発するのに十分な程度は発現しないか、及び/または発現しても機能しない遺伝
子産物を生産するものであってもよい。本質的に機能しない有毒遺伝子は遺伝子
産物の有毒性などの機能を調べることにより同定でき、好ましくは、少なくとも
約10倍から約1000倍機能低下している遺伝子産物が本質的に機能しないといえる
。または、本質的に機能しない有毒遺伝子にコードされる遺伝子産物は分子量、
等電点、アミノ酸組成などの遺伝子産物の物理的性質の変化によって同定するこ
ともできる。好ましい変異体はP.multocidaゲノムの9 kb EcorV断片上にコード
される本質的に機能しない有毒遺伝子を有するものである。
同定された、P.multocidaの有毒性菌株中の有毒遺伝子は、トランスポゾン突
然変異、化学的突然変異、制限酵素及び/またはエキソヌクレアーゼ突然変異な
どの当業者に公知の常法による突然変異誘発法または遺伝子改変により機能を欠
失させることができる。少なくともひとつの遺伝子的に改変された有毒遺伝子を
有するP.multocida変異体は、P.multocidaの有毒性菌株が無毒性菌株へ変化し
たこと及び動物においてパスツレラ症に対する防御力を有することを指標にスク
リーニングすることにより選択できる。
本発明の無毒性変異体の具体例としては無毒性トランスポゾン挿入P.multoci
da変異体、PmTn-294及びPmTn-396が挙げられる。これらの変異体は両方とも、ア
ルカリフォスファターゼ活性を示し、補体による殺菌作用に対する耐性がなく、
七面鳥において有毒性を喪失しているという特徴を有する。本発明の好ましい変
異体としては1993年2月17日からMaryland州RockvilleのAmerican Type Culture
Collectionに寄託されているATCC No.55394の特徴を有する変異体及び同日、同
寄託機関に寄託されたATCC No.55395の特徴を有する変異体が挙げられる。
本発明のワクチンはまた無毒な液体担体に少なくともひとつの遺伝子組換え技
術により製造されたP.multocida由来の有毒因子を有効量含むものであってもよ
い。有毒因子は無毒性菌株において本質的に機能せず、P.multocidaの有毒性菌
株において機能する遺伝子産物であってもよい。有毒因子はP.multocidaの有毒
遺伝子の遺伝子産物として、in vitro転写、翻訳系などの当業者に公知の方法に
より同定することができる。もしくは、有毒因子は有毒性などの機能分析、また
は発病や病気による障害の誘発から同定することもできる。無毒性変異体におい
て本質的に機能しない有毒因子は少なくとも約10倍から約1000倍の機能低下を示
す。また、有毒因子は有毒性変異体と無毒性変異体の同因子を比較したときの物
理的性質の変化により同定することもできる。組換え有毒因子を作製するために
、Sambrook等、Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor
Laboratory,Cold Spring,NY(1989)に記載されているような常法により、P .multocida
の有毒性菌株から有毒遺伝子を適当な宿主体にクローニングし、遺
伝子組換え技術により製造された有毒因子を発現させる。有毒因子は好ましくは
動物におけるパスツレラ症に対する長期間持続する交差防御免疫を惹起できるも
のが選択される。
組換え有毒因子の有効量はパスツレラ症に対する防御を十分に誘起できる量であ
り、好ましくは約5 mg/kgから約10 mg/kgである。好ましい遺伝子組換え技術に
より製造された有毒因子はP.multocidaゲノムの9.4 kb EcorV断片上の遺伝子に
コードされる遺伝子産物である。
本発明の変異体をワクチンとして用いるには、変異体細胞を適当な生理的に許
容される無毒性の液体担体と混合する。適当な無毒性の液体担体の具体例として
は塩緩衝液、0.85%生理食塩水、好ましくは飲料水が挙げられる。ワクチンの投
与形態単位に含まれる細胞の量は動物の年令、体重及び体調のような要因により
大きく変化する。このような要因は、動物モデルや他の当業者に公知の試験系を
用いている臨床医や獣医により容易に決定できる。好ましくは、変異体の有効量
は約1×106から1×1011 cfu/ml、さらに好ましくは約1×107から1×1010 cfu/ml
の範囲であろう。単位投与量のワクチンは非経口的、例えば、皮下または筋肉内
注射によっても投与できるが、経口またはエアロゾルによる投与が好ましい。好
ましいワクチンは変異体を飲料水に混合し、動物が摂取可能な状態にすることに
より投与できる。もしくは、鼻内滴下、またはエアロゾルにより鼻内投与するこ
ともできる。好ましい態様において、ATCC No.55394またはATCC No.55395の特
徴を有する変異体を107 cfu/ml含むワクチンを七面鳥の飲料水に加えて投与する
。
ワクチンはパスツレラ症から保護するために、種々の動物、たとえば、牛、豚
、あひる、七面鳥及び鶏に投与できる。特に好ましい動物は七面鳥である。
B.P.multocidaの無毒性トランスポゾンの製造方法及びパスツレラ症に対し て動物を免疫する方法
本発明はまたP.multocidaの安定な無毒の抗原性トランスポゾン変異
体を用いてパスツレラ症に対して動物を免疫する方法を提供する。この方法は安
定な無毒の抗原性トランスポゾン変異体を製造し、パスツレラ症を起こすP.mul tocida
に対して動物に免疫を誘起するのに有効な量の変異体を投与する工程から
なる。
好ましいP.multocidaの安定な無毒の抗原性トランスポゾン変異体はトランス
ポゾン突然変異誘発により製造できる。トランスポゾン変異体は細菌のゲノムに
トランスポゾンが挿入された、いわゆる挿入変異体、及びトランスポゾンが挿入
された後、細菌遺伝子の一部とともに切り出され、復帰突然変異体でない欠損変
異体として創製されたものを含む。トランスポゾン変異体は無毒性でパスツレラ
症に対する防御能力、好ましくは安定性を有するものが選択される。
P.multocidaのトランスポゾン挿人変異体は当業者に公知でTaylor等、J.Bac teriology
,171:1870(1989)に記載されているような常法により製造すること
ができる。簡単に説明すると、適当なベクター中のトランスポゾンをP.multoci da
に、好ましくはその有毒株に、トランスポゾンが細菌のゲノムに挿入されやす
い条件下で導入される。たとえば、トランスポゾンを自殺ベクターに挿入しても
よい。自殺ベクターは種々の細菌に導入することができるが、ある種の細菌にお
いてのみ複製できる。複製できない自殺ベクターはゲノムにトランスポゾンが挿
入された細菌を選択するのに好適である。ベクターは好ましくはP.multocidaに
トランスコンジュゲーションによって導入されるが、エレクトロポレーションや
リン酸カルシウム沈殿法のような当業者に公知の他の方法によって導入すること
もできる。P.multocidaに導入後、トランスポゾン挿入変異体はマーカー遺伝子
にコードされたトランスポゾンの存在を確認することによって、さらに動物に対
する無毒性、パスツレラ症に対する防御
能力及び安定性を有するものが選択される。
ここで用いられている「トランスポゾン」とは、広範なDNA配列の相同性や結
合酵素を必要としない方法によりDNA分子中の異なる場所へ移動できるDNA断片で
ある。トランスポゾンは抗生物質に対する耐性や転移酵素をコードするマーカー
遺伝子を含んでいてもよく、典型的にはトランスポゾンのDNAへの挿入に関わるD
NA配列領域、すなわち挿入配列、が結合している。たとえば、Tn5トランスポゾ
ンの挿入配列50の末端のDNA配列は、Berg等、Biotechnology,1(5):417(1983 7
月)で報告されているように、
である。トランスポゾンはDNAへ挿入できる機能を有する限り、当業者に公知の
方法により改変してもよい。いくつかの改変トランスポゾンが挿入配列として知
られている。トランスポゾンの全部または一部が細菌のゲノムのひとつまたはそ
れ以上の箇所に挿入でき、ある遺伝子内に挿入すれば、典型的にはその遺伝子に
関わる機能をもはや有しない変異体が形成される。好適なトランスポゾンとして
は、Tn1、Tn3、Tn5、TnphoA、Tn7、Tn9、Tn10またはこれらの機能的断片が挙げ
られる。特に好ましいトランスポゾンはTnphoAであり、これはアルカリフォスフ
ァターゼ遺伝子のようなマーカー遺伝子またはカナマイシン耐性遺伝子やテトラ
サイクリン耐性遺伝子のような抗生物質耐性遺伝子をコードする遺伝子に結合し
たTn5の左挿入配列を含む。
トランスポゾンをP.multocidaに導入するのに適したベクターはトラ
ンスポゾンが細菌のゲノムにインテグレートするのに都合のよいベクターである
。具体例としては結合するがP.multocidaでは複製しない自殺プラスミドが挙げ
られる。もしくは、P.multocidaをトランスポゾンを含むプラスミドと同種の不
適合型のプラスミドで同時に形質転換し、細胞内でプラスミドが複製しないよう
にすることもできる。好ましいプラスミドはトランスコンジュゲートするが、P .multocida
において複製せず、TnphoAトランスポゾンを有するpRT733のような
自殺ベクターである。
トランスポゾンがインテグレートされたP.multocida変異体は少なくともひと
つのトランスポゾンにコードされる選択可能なマーカー遺伝子を有する菌株を同
定することにより選択される。選択可能なマーカー遺伝子はカナマイシン耐性遺
伝子やテトラサイクリン耐性遺伝子などのような抗生物質耐性遺伝子であっても
よい。他のマーカー遺伝子としては、クロラムフェニコールアセチルトランスフ
ェラーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子、b-ガラクトシダーゼ遺伝子
などのようなレポーター遺伝子が挙げられる。特に好ましいマーカー遺伝子はア
ルカリフォスファターゼ遺伝子であり、このマーカー遺伝子により膜をコードす
る改変遺伝子または分泌された膜を有する変異体の選択が可能である。アルカリ
フォスファターゼは分泌された酵素として検出され、アルカリフォスファターゼ
を分泌する変異体は膜または分泌された遺伝子産物をコードする遺伝子にトラン
スポゾンが挿入されていると考えられる。
トランスポゾン挿入変異体はさらに無毒性のものが選択される。無毒性変異体
はin vitroまたはin vivoどちらかの方法によって同定される。無毒性変異体はi n vivo
の有毒性と関連するin vitroの分析により同定することもできる。好適な
例としては、補体による溶菌分析法が挙げられる。P.multocidaの有毒株は補体
による溶菌に対して耐性を示すが、
無毒株は補体による溶菌を受けやすい。もしくは、無毒性変異体は常法により動
物において致死または発病誘発を示さないことを確認することによって同定及び
選択できる。
本発明の無毒性変異体は、さらに、パスツレラ症に対して動物を防御する能力
を指標にして選択することもできる。動物に異なる量の無毒性変異体を投与し、
約2週間後、ELISA試験により抗体を検出するなどの常法により、P.multocidaに
特異的に防御する免疫があるかどうか調べてもよい。また、少なくとも一種のP .multocida
の有毒株で動物に対してチャレンジを行なってもよい。有毒性のP. multocida
によって起こるパスツレラ症を防御する無毒性変異体が同定されるだ
けでなく、その病気を防御する能力を誘起する変異体の有効量も決定できる。パ
スツレラ症を防御する能力は、チャレンジの後、死亡または発病した非免疫動物
の割合と無毒性変異体で免疫した動物のそれを比較することにより決定できる。
各動物種におけるP.multocidaによって起こる病気の症状は当業者にはよく知ら
れている。致死または発病から90-100%の動物を保護することのできる無毒性変
異体が好ましい。
特に好ましい無毒性変異体はパスツレラ症に対して長期間持続する交差防御免
疫を惹起するものである。無毒性変異体の交差防御免疫誘発能力は、無毒性変異
体で免疫した動物に対してすべての有毒血清型とチャレンジを行ない、P.multo cida
のいくつかまたはすべての有毒血清型に対して防御能力を誘起する無毒性変
異体を同定することにより選択できる。長期間の免疫持続性は、無毒性変異体で
免疫した動物を約2週間から約20週間の異なる一定期間の後、チャレンジを行な
うことにより、評価できる。無毒性変異体は少なくとも約6週間から約20週間、
パスツレラ症に対する免疫を持続できることが好ましい。特に、パスツレラ症に
対する免疫を動物の一生涯持続できることが好ましい。
また、P.multocidaの無毒性変異体は安定な変異体であることが好ましい。変
異体の安定性は、無毒性やパスツレラ症に対する防御力など所望の特性を損なう
ことなく、約10から50世代にわたって変異体を生育できることを確認することに
より同定できる。復帰率も当業者に公知の常法により安定性を調べることにより
測定できる。本発明の安定な無毒性変異体は、好ましくは10-5から10-10以下の
、さらに好ましくは約10-6から約10-8の復帰率を示す。もしくは、変異体を動物
に約10回から20回通過させ、無毒性やパスツレラ症に対する防御力の所望の特性
の損失率を調べてもよい。安定な変異体は10回から20回動物に通過させることが
でき、その後も所望の特性を維持している。
本発明のトランスポゾン変異体はトランスポゾン欠損変異体であってもよい。
トランスポゾン欠損変異体は上記のように製造および選択されたトランスポゾン
挿入変異体から選択、単離できる。トランスポゾン挿入変異体は、抗生物質耐性
遺伝子やアルカリフォスファターゼ遺伝子のようなトランスポゾンによってコー
ドされるマーカー遺伝子を選択しないような条件において生育させることができ
る。これらのマーカー遺伝子が欠落した菌株は無毒性を維持しているものについ
てスクリーニングされる。10-8以下の非常に低い割合で、トランスポゾンは細菌
のゲノムから切除され、この切除が完全でなければ、トランスポゾンが最初に挿
入された遺伝子由来のあるDNA配列を有すると思われる。このようにしてトラン
スポゾンが切除されると、トランスポゾン欠損変異体が創製される。トランスポ
ゾンによりコードされるマーカー遺伝子が欠落しており、無毒性を維持している
変異体をスクリーニングすることにより、トランスポゾン欠損変異体が同定、単
離される。同定されたトランスポゾ
ン欠損変異体は、上記のように、さらに安定性及びパスツレラ症に対して長期間
持続する交差防御免疫を誘起する能力についての選択が行なわれる。
好ましい態様において、P.multocidaのトランスポゾン変異体が製造される。
TnphoAトランスポゾンをコードする自殺ベクターがトランスコンジュゲーション
によりP.multocidaの有毒株に導入される。ゲノムに挿入されたTnphoAトランス
ポゾンとのトランスコンジュゲートはまず抗生物質耐性及びアルカリフォスファ
ターゼの分泌について、スクリーニングによる選択に付される。抗生物質に耐性
であり、アルカリフォスファターゼを分泌する変異体はin vivo及びin vitroの
無毒性について、スクリーニングされる。アルカリフォスファターゼを分泌する
無毒性変異体は、ここに記載されているように単離され、1993年2月17日付でATC
Cに受託番号55394として寄託されている。別のアルカリフォスファターゼを分泌
する無毒性変異体は、ここに記載されているように単離され、1993年2月17日付
でATCCに受託番号55395として寄託されている。変異体はさらに動物におけるパ
スツレラ症に対する防御を誘起する能力についてスクリーニングされる。この無
毒性変異体もまた安定で、パスツレラ症に対する長期間持続する交差防御免疫を
惹起できることが好ましい。
製造された本発明のトランスポゾン介在変異体は、動物に投与される。投与は
非経口、点鼻、エアロゾルとして及び/または飲料水に加えて行なうことができ
る。各変異体の有効投与量は上記のように決定できるが、約108から109 cfu/ml
が好ましい。変異体は牛、豚、あひる、鶏及び七面鳥など種々の動物に投与する
ことができるが、好ましくは七面鳥に投与される。
C.少なくともひとつの遺伝子的に改変した有毒遺伝子を有する無毒の 抗原性変異体の製造法及び動物をパスツレラ症に対して免疫する方法
本発明はパスツレラ症を起こすP.multocidaに対して動物を、P.multocidaの
ゲノムの9.4 kb EcorV 断片に位置する少なくともひとつの遺伝子的に改変され
た有毒遺伝子を有する安定な無毒の抗原性変異体で免疫する方法を提供する。こ
の方法は遺伝子的に改変された有毒遺伝子を有する安定な無毒の抗原性変異体を
製造する工程及び動物にパスツレラ症に対する免疫を惹起するのに有効な量の変
異体を投与する工程からなる。
無毒の抗原性変異体はまず有毒遺伝子を同定し、P.multocidaのゲノムの9.4
kb EcorV 断片に位置する有毒遺伝子を遺伝子的に改変することにより製造でき
る。P.multocidaの有毒遺伝子は、トランスポゾン挿入変異体の同定及びP.mul tocida
の有毒遺伝子の位置のマッピングによって同定できる。遺伝子へトランス
ポゾンを挿入することにより、その遺伝子が不活化される。有毒性を喪失したト
ランスポゾン挿入変異体においては、有毒性に必要な遺伝子にトランスポゾンが
挿入されている。無毒性変異体におけるトランスポゾンの挿入位置はサザーンブ
ロットハイブリダイゼーションやDNA配列決定などの常法により検出及びマッピ
ングできる。
同定及びマッピングされた、有毒遺伝子は当業者に公知の常法により遺伝子的
に改変できる。有毒遺伝子は遺伝子的に改変することにより無毒表現型の変異体
となる。有毒遺伝子は、有毒性を示すのに必要な量より低い発現量となるように
遺伝子的に改変されるか、または、本質的に機能しない遺伝子産物を生産するよ
う改変される。
遺伝子的に改変された有毒遺伝子は常法の突然変異誘発法により製造できる。
好適な方法としては、トランスポゾン突然変異(挿入または欠
失)、化学的突然変異、制限酵素またはエキソヌクレアーゼによる突然変異、及
びポリメラーゼ連鎖反応による突然変異が挙げられる。好ましい変異体の生成方
法はトランスポゾン突然変異誘発法である。本発明の好ましい変異体はP.multo cida
のゲノムの9.4 kb EcorV 断片に位置する遺伝子的に改変した有毒遺伝子を
有する変異体である。
遺伝子的に改変された有毒遺伝子は当業者に公知の種々の常法により検出でき
る。遺伝子改変は制限酵素マップ、リボゾームRNAの性質の変化、または直接DNA
配列決定により検出される変化によって検出できる。もしくは、遺伝子的に改変
された有毒遺伝子は有毒遺伝子産物の機能分析により検出できる。遺伝子的に改
変された有毒遺伝子は好ましくは無毒性変異体において本質的に機能しない遺伝
子産物を発現する。本質的に機能しないとは遺伝子産物機能の活性が少なくとも
約10倍から1000倍低下していることを意味する。遺伝子的に改変された有毒遺伝
子は、分子量、等電点、またはアミノ酸組成などのような物理化学的性質の変化
により同定してもよい。
遺伝子的に改変された有毒遺伝子を有する変異体もまた、ここに記載されてい
るように、無毒性及びパスツレラ症に対する防御能力についてさらに選択される
。また、好ましい変異体はここに記載されているように長期間持続する交差防御
免疫について選択される。
好ましい態様において、ここに記載されているように製造される無毒性トラン
スポゾン(TnphoA)挿入変異体はP.multocidaの有毒遺伝子の同定及び位置の確
認のために用いられる。P.multocidaの有毒遺伝子はTnphoA配列にハイブリダイ
ズするプローブを用いたサザーンブロットハイブリダイゼーションにより同定で
きる。P.multocidaの有毒株の9.4 kb EcorV 断片に位置する有毒遺伝子は制限
酵素法によってマッピング
され、直接DNA配列決定によって配列される。P.multocidaの有毒株の9.4 kb Ec
orV 断片に位置する有毒遺伝子は、無毒性変異体とするために、点変異により遺
伝子的に改変される。変異体は無毒性及びパスツレラ症に対する防御能力につい
て選択される。9.4 kb EcorV 断片に位置する有毒遺伝子の遺伝子改変は制限酵
素マップやDNA配列決定などの常法により確認できる。
製造された、少なくともひとつの遺伝子的に改変された有毒遺伝子を有するP .multocida
の無毒性変異体はパスツレラ症に対する防御力を誘起するために動
物に投与される。変異体は非経口経路、点鼻、エアロゾルとして及び好ましくは
飲料水に加えて投与することができる。異なる量の変異体を動物に注射して、病
気を防御する最小量を調べることによって有効量を決定することができる。有効
投与量は、約108から109 cfu/mlが好ましい。P.multocida変異体は牛、豚、あ
ひる、七面鳥及び鶏などの動物に投与することができる。好ましい動物は七面鳥
である。
D.P.multocidaの有毒遺伝子のクローニング方法及び遺伝子組換えにより製造 された有毒因子の精製方法
本発明はP.multocidaの9.4 kb EcorV 断片にコードされる組換えP.multocid a
有毒因子を含むワクチンを提供する。Sambrook等に記載されているような常法
により、有毒遺伝子をコードする遺伝子を適当な宿主にクローニングすることに
より、組換え有毒因子を製造することができる。遺伝子組換えにより製造された
有毒因子は宿主細胞より同定及び精製することができる。
たとえば、ここに記載されているように単離された、9.4 kb EcorV 断片上に
位置する有毒遺伝子をプラスミドpBR322のようなベクターにサブクローニングし
てもよい。有毒遺伝子は好ましくは、適当な転写及び
翻訳調節領域の制御下に宿主細胞で高度遺伝子発現を達成できるようなpBR322の
箇所にサブクローニングされる。サブクローニングされた有毒遺伝子はE.coli
のような適当な宿主に導入され、サブクローニングされた有毒遺伝子の発現はパ
スツレラ症罹病血清のような抗体を用いるウエスタンブロットなどの常法により
追跡できる。組換え有毒因子はアフィニティ、分子ふるい、及び/またはHPLCク
ロマトグラフィーなどの常法によりE.coli細胞抽出物から単離精製できる。
有毒因子はその後、動物を異なる量の精製された組換え有毒因子で免疫するこ
とによって、パスツレラ症に対する防御力が調べられる。ELISAのような常法に
より、免疫された動物において、防御抗体反応が惹起されたかどうか分析される
。また、有毒因子がパスツレラ症に対する防御免疫を誘起したかどうかを確認す
るために、免疫された動物は少なくともひとつのP.multocidaの有毒血清型に対
するチャレンジに付される。本発明の有毒因子はパスツレラ症に対する防御を誘
起し、好ましくは長期間持続する交差防御免疫を惹起する。
[発明の好ましい実施例]
実施例1Pasteurella multocidaのTnphoAの変異体の生成
トランスポゾン変異誘発によりPasteurella multocidaの変異体を作製した。
トランスポゾンは、アルカリフォスファターゼの天然プロモーターまたはシグナ
ル配列を含まないアルカリフォスファターゼ遺伝子と結合したTn5の左挿入配列
を有する修飾Tn5(TnphoA)を用いた。このトランスポゾンは、TnphoA及びカナ
マイシン耐性遺伝子を有するpGM703.1の誘導体であり、ハーバード医科大学、微
生物学および分子遺伝学部のJ.Mekalanosより入手可能な、プラスミドpRT733に
存在する。プラスミ
ドpRT733は広範な宿主に用いられる自殺ベクターである。このプラスミドは種々
の細菌と結合できるが、λ-pir変換ファージを担持する菌株においてのみ複製で
きる。このプラスミドはλ-pir変換ファージにコードされるタンパク質がないと
複製できない。細菌のゲノムにトランスポゾンと共に挿入されるアルカリフォス
ファターゼ遺伝子は、分泌、排泄された膜結合タンパク質をコードする遺伝子の
マーカーとなる。アルカリフォスファターゼは排泄された時のみ活性を有し、ま
た融合タンパクとして活性を示す。
プラスミドpRT733は有毒で、補体耐性、ストレプトマイシン耐性P.multocida
の受容菌であるPm-p1059(SmR)に導入され、置換変異体は一回の工程で選択さ
れた。λ-pirを担持するpRT733によって溶菌化したE.coli K12SM10 をPm-p105
9(SmR)とLBプレート上で一晩37℃において接触させた。Pm-p1059(SmR)挿入
変異体をストレプトマイシン(100 mg/ml)及びカナマイシン(225 mg/ml)を含
むLBプレート上で選択した。選択されたコロニーは上記抗生物質及び5−ブロモ
−4−クロロ−3−インドリルーフォスフェート−P−トルイジン(XP)(20 mg/m
l)を含むLBプレートで18-24時間培養した。XPはアルカリフォスファターゼの発
色性基質で、変異体により分泌されたアルカリフォスファターゼの存在を示す。
青色のコロニーによりアルカリフォスファターゼを分泌する挿入変異体であるこ
とが示された。
42個のTnphoA挿入変異体が単離された。TnphoA変異体は、アルカリフォスファ
ターゼ活性、融合タンパク質の発現、鉄調節外膜タンパク質の発現、補体耐性の
喪失、及び七面鳥における有毒性の喪失について、スクリーニングされた。融合
タンパク質としてのアルカリフォスファターゼ活性は発色性基質XPまたはPーニ
トロフェノールを用いて、Taylor等、J.Bacteriol.
,171:1870(1989)に記載のように測定された。分子量94 kDa、8
4kDa及び76 kDaの鉄調節外膜タンパク質は、これらの鉄調節膜タンパク質に特異
的な抗血清を用いて、通常のウエスタンブロット法により検出された。
PmTn-294及びPmTn-396と命名された2つの変異体はアルカリフォスファターゼ
活性、融合タンパク質及び鉄調節外膜タンパク質の発現において陽性であった。
これらの2つの変異体はさらに七面鳥における有毒性について調べられた。
実施例2無毒性TnphoA変異体の同定
トランスポゾン挿入変異体、PmTn-294及びPmTn-396について、補体による溶菌
に対する耐性及び七面鳥における有毒性に関してスクリーニングを行なった。補
体による溶菌に対する耐性はin vivoの有毒性と相関している。P-1059親野生株
、Pm-P1059及びPm-P1059(SmR)は補体による溶菌に対して耐性を有するが、18
時間以内に七面鳥を100%病死させる。
PmTn-294及びPmTn-396は共に補体による溶菌に対して感受性である。
5 mlの補体を含む七面鳥血漿と共に約1×108個/mlのPmTn-294とPmTn-396の細
胞を1時間40℃で培養した。培養後、PmTn-294とPmTn-396の細胞試料を連続的に
希釈し、プレートした。24時間培養し、補体を含む七面鳥血漿で処理した後の生
菌数を平板法により測定した。コントロールの補体耐性株Pm-P1059に比べ、PmTn
-294及びPmTn-396は共に、補体処理後、生菌数が3倍減少した。
in vivoの有毒性を調べるため、1群5羽の1週令の七面鳥に、5×104コロニー形
成単位(CFU)のトランスポゾン挿入変異体または有毒性株Pm-P1059を静脈内投
与した。発病の有無について8週間観察した。死亡した七
面鳥はすべて検死及び細菌検査を行ない、パスツレラ症罹病の有無を調べた。有
毒株Pm-P1059に感染した鳥の100%が死亡し、100%が死亡前に病気の症状を呈した
。しかし、PmTn-294またはPmTn-396に感染した鳥においては死亡も発病も観察さ
れなかった。次いで、無毒性変異体におけるトランスポゾン挿入部位をサザーン
ハイブリダイゼーションにより確認した。
実施例3P.multocidaの有毒遺伝子の位置の同定
TnphoAトランスポゾンの挿入により不活化した有毒遺伝子の位置を調べるため
及び2つの挿入変異体におけるTnphoAトランスポゾンの存在を調べるため、通常
のサザーンブロットハイブリダイゼーションによってゲノムDNAの解析を行なっ
た。
P.multocida野生有毒株Pm-P1059、ストレプトマイシン耐性P.multocida受容
株1059(Pm-P1059 SmR)、pRT733(TnphoAトランスポゾン)担持E.coli株、PmT
n-294(TnphoA挿入変異体)及びPmTn-396(TnphoA挿入変異体)からDNAを取得し
、KpnIまたはEcorVで消化した。DNA消化断片をゲル電気泳動で分離し、pRT733の
EcorI-XhoI消化1.3 kb断片またはDraI-HpaI消化7 kb断片を用いてプロービング
した。第1図にTnphoAトランスポゾンの制限酵素マップを示す。1.3 kbのプロー
ブは2箇所のTnphoAトランスポゾンの左挿入配列50の間に位置するDNA配列を有す
るEcorI-XhoI断片である。7 kbのプローブは左挿入配列、右挿入配列及びカナマ
イシン耐性遺伝子領域をコードするDraI-HpaIプローブである。
サザーンブロットハイブリダイゼーションの結果を第2図に示す。KpnIで消化
した、Pm-P1059、Pm-P1059 SmR受容菌及びPmTn-294由来のDNAは1.3 kbのプロー
ブとハイブリダイズしなかった。しかし、pRT733担
持E.coli株及びPmTn-396由来のDNA消化物は1.3 kbのプローブとハイブリダイズ
する同一の断片を有していた。EcorVで消化した、Pm-P1059及びPm-P1059 SmR受
容菌由来のDNAもまた1.3 kbのプローブとハイブリダイズしなかった。一方、Eco
rVで消化したトランスコンジュガントPmTn-396からは、1.3 kbのプローブとハイ
ブリダイズする10.9 kb及び9.4 kbの2つのバンドを検出した。PmTn-294由来の9.
4 kbのバンドも1.3 kbのプローブとハイブリダイズした。pRT733担持菌のDNAのE
corV消化物はこのプローブとハイブリダイズするPmTn-396のDNA消化物と同一の
断片を有していた。消化物をpRT733のDraI-HpaI消化7 kb断片を用いてプロービ
ングした場合も同様の結果が得られた。
この結果はP.multocidaのゲノムDNAの9.4 kb EcorV 断片にTnphoAの全部また
は一部が挿入されていることと無毒化が相関していることを示している。有毒遺
伝子またはこの領域に位置し、この挿入によって不活化されている遺伝子はさら
に制限酵素で消化することによりマッピングされ、上記のSambrookらに記載のよ
うな常法により配列決定されうる。
ここに引用されているすべての特許及び文献は参考として含まれる。本発明は
好ましい態様に関して記載されているが、多くの改変が可能であることは当業者
には明白であり、この出願が本発明の応用及び変更をも含むことが理解されるで
あろう。本発明がクレーム及びその均等範囲によってのみ限定されることは明ら
かである。
配列表
(1) 一般的情報
(i) 出願人: Regents of the University of Minnesota
Morrill Hall
100 Church Street S.E.
Minneapolis,MN 55455
U.S.A.
(ii) 発明の名称:P.multocidaによるパスツレラ症に対する感染防御剤
(iii) 配列の数:1
(iv) 連絡住所:
(A) 受信人:Merchant & Gould
(B) 街: 3100 Norwest Center
(C) 都市: Minneapolis
(D) 州: MN
(E) 国: USA
(F) 郵便番号:55402
(v) 読込み可能コンピューター形式:
(A) 媒体:フロッピーディスク
(B) コンピューター:IBM PC 互換性
(C) 操作システム:PC-DOS/MS-DOS
(D) ソフトウエア:PatentIn Release #1.0,Version #1.25
(vi) 現出願データ:
(A) 出願番号:
(B) 出願日:
(C) 分類:
(vii) 先願データ:
(A) 出願番号:US 07/973,070
(B) 出願日:06-NOV-1992
(C) 分類:
(viii) 弁理士/代理人情報:
(A) 氏名:Woessner,Warren D.
(B) 登録番号:30,440
(C) 整理番号:600.256-WO-01
(ix) 電話連絡情報:
(A) 電話番号:612-332-5300
(B) Fax番号:612-332-9081
(2) 配列番号1の情報
(i) 配列の特徴:
(A) 配列の長さ:64
(B) 配列の型:核酸
(C) 鎖の数:二本鎖
(D) トポロジー:直鎖状
(ii) 配列の種類:DNA(ゲノム)
(vii) 直接の起源:
(B) クローン:Tn5トランスポゾンの挿入配列50の末端
(ix) 配列:
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1994年10月19日
【補正内容】
本発明の無毒性変異体の具体例としては無毒性トランスポゾン挿入P.multoci da
変異体、PmTn-294及びPmTn-396が挙げられる。これらの変異体は両方とも、ア
ルカリフォスファターゼ活性を示し、補体による殺菌作用に対する耐性がなく、
七面鳥において有毒性を喪失しているという特徴を有する。本発明の好ましい変
異体としてはATCC No.55394の特徴を有する変異体が挙げられ、この変異体は19
93年2月17日からMaryland州RockvilleのAmerican Type Culture Collectionに寄
託されているまたATCC No.55395の特徴を有する変異体が挙げられ、この変異体
は同日、同寄託機関に寄託されている。
本発明のワクチンはまた無毒な液体担体に少なくともひとつの遺伝子組換え技
術により製造されたP.multocida由来の有毒因子を有効量含むものであってもよ
い。有毒因子は無毒性菌株において本質的に機能せず、P.multocidaの有毒性菌
株において機能する遺伝子産物であってもよい。有毒因子はP.multocidaの有毒
遺伝子の遺伝子産物として、in vitro転写、翻訳系などの当業者に公知の方法に
より同定することができる。もしくは、有毒因子は有毒性などの機能分析、また
は発病や病気による障害の誘発から同定することもできる。無毒性変異体におい
て本質的に機能しない有毒因子は少なくとも約10倍から約1000倍の機能低下を示
す。また、有毒因子は有毒性変異体と無毒性変異体の同因子を比較したときの物
理的性質の変化により同定することもできる。組換え有毒因子を作製するために
、Sambrook等、Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor
Laboratory,Cold Spring,NY(1989)に記載されているような常法により、P .multocida
の有毒性菌株から有毒遺伝子を適当な宿主体にクローニングし、遺
伝子組換え技術により製造された有毒因子を発現させる。有毒因子は好ましくは
動物におけるパスツレラ症に対する長期間持続する交差防御免疫を惹起できるも
のが選択される。
請求の範囲
1.P.multocidaの安定で無毒な抗原性トランスポゾン変異体を作製し、動物に
有効量のその安定な無毒の変異体を投与し、パスツレラ症に対する免疫を誘起さ
せることを特徴とする、パスツレラ症に対して動物を免疫する方法。
2.P.multocidaの安定で無毒な変異体がATCC No.55394であることを特徴とす
る請求の範囲第1項に記載の方法。
3.P.multocida変異体がPmTn-396であることを特徴とする請求の範囲第1項に
記載の方法。
4.P.multocidaの安定で無毒な変異体が経口投与されることを特徴とする請求
の範囲第1項に記載の記載方法。
5.安定で無毒な抗原性トランスポゾン変異体を作製する工程において、そのト
ランスポゾン変異体がTn1、Tn3、Tn5、TnphoA、Tn7、Tn9及びTn10よりなる群か
ら選ばれるトランスポゾンを挿入することによって作製されることを特徴とする
請求の範囲第1項に記載の方法。
6.安定で無毒な抗原性トランスポゾン変異体を作製する工程において、その変
異体がアルカリフォスファターゼ遺伝子に結合したTn5の左挿入配列をコードす
るプラスミドを用いて作製されることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の方
法。
7.動物が七面鳥であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
8.P.multocidaの安定で無毒な抗原性であって、P.multocidaのゲノムの9.4
kb EcorV断片に位置する少なくともひとつの遺伝子的に改変され変異体を作製し
、動物に有効量のその安定な無毒の変異体を投与し、パスツレラ症に対する免疫
を誘起させることを特徴とする、パスツレラ
症に対して動物を免疫する方法。
9.有効量のP.multocidaの安定で無毒な抗原性トランスポゾン変異体及び薬学
的に許容される担体を含有する動物をパスツレラ症から防御するためのワクチン
。
10.安定で無毒な変異体がATCC No.55394であることを特徴とする請求の範囲
第9項に記載のワクチン。
11.薬学的に許容される担体が水であることを特徴とする請求の範囲第9項に
記載のワクチン。
12.ATCC No.55395である無毒な抗原性変異体。
13.P.multocidaの安定で無毒な抗原性変異体であって、P.multocidaのゲノ
ムの9.4 kb EcorV断片に位置する少なくともひとつの遺伝子的に改変された変異
体の有効量及び薬学的に許容される担体を含有する、動物をパスツレラ症から防
御するためのワクチン。
14.遺伝子組換え技術により製造されたP.multocida由来の有毒因子であって
、動物をパスツレラ症から防御するためのワクチン。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI
(C12P 21/02
C12R 1:19)