以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
本発明の実施例に係る電子制御装置90を備える車両10の概略構成図であるとともに、車両10における各種制御のための制御機能の要部を表す機能ブロック図である。
車両10は、走行用駆動力源であるエンジン12及び電動機MGと、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備える。車両10は、ハイブリッド車両である。
エンジン12は、周知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTe[Nm]が制御される。
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、エンジン12側から順に、ダンパー42、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備える。動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備える。
動力伝達装置16は、エンジン12とダンパー42とを連結するエンジン連結軸34を備える。ダンパー42は、エンジン12の脈動を吸収しつつその回転を伝達する周知のダンパー装置、例えば振り子ダンパーである。
K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路のうちエンジン12と電動機MGとの間に配設されたクラッチである。電動機連結軸36は、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結している。K0クラッチ20は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される油圧式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるK0油圧PRk0[Pa]によりK0クラッチ20の伝達トルク容量(K0クラッチ20の係合力)であるK0トルクTk0[Nm]が変化させられることで、係合状態や解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。車両10において、K0クラッチ20が係合状態にある場合は、エンジン12とトルクコンバータ22とがダンパー42及びK0クラッチ20を介して動力伝達可能に連結される。一方、K0クラッチ20が解放状態にある場合は、エンジン12とトルクコンバータ22との間の動力伝達が遮断される。K0クラッチ20は、エンジン12と電動機MGとを断接するクラッチとして機能する。K0クラッチ20が係合状態にある場合には、電動機連結軸36は、その一端がダンパー42を介してエンジン12に連結されることでエンジン12により回転駆動させられる。なお、K0クラッチ20は、本発明における「クラッチ」に相当する。
トルクコンバータ22は、周知のトルクコンバータである。トルクコンバータ22は、電動機連結軸36に連結されたポンプ翼車22aと、自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38に連結されたタービン翼車22bと、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを直結するロックアップクラッチ40と、を備える。トルクコンバータ22は、走行用駆動力源(エンジン12、電動機MG)の各々からの走行用駆動力を流体を介して電動機連結軸36から変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20及びダンパー42を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられている。トルクコンバータ22及び自動変速機24は、各々、走行用駆動力源(エンジン12、電動機MG)と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成している。
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる電動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、後述するインバータ52を介して車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGの出力トルクである電動機トルクTm[Nm]が制御される。電動機トルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーも同意である。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、K0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。
自動変速機24は、走行用駆動力源(エンジン12及び電動機MG)と駆動輪14との間に配設され、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、複数の変速用係合装置CBと、を備える、公知の遊星歯車式の自動変速機である。変速用係合装置CBは、例えば公知の油圧式の摩擦係合装置である。変速用係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるCB油圧PRcb[Pa]によりそれぞれの伝達トルク容量であるCBトルクTcb[Nm]が変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
自動変速機24は、例えば変速用係合装置CBのうちの何れかの係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni[rpm]/AT出力回転速度No[rpm])が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、運転者のアクセル操作や車速V[km/h]等に応じて、変速用係合装置CBのうちの自動変速機24の変速に関与する係合装置である所定の係合装置の制御状態が切り替えられることで、形成されるギヤ段が切り替えられる。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Nt[rpm]と同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
例えば、自動変速機24の変速制御においては、変速用係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち変速用係合装置CBの係合状態と解放状態との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。ここで、クラッチツゥクラッチ変速において解放状態から係合状態へ切り替えられる変速用係合装置CBを「係合側係合装置CBcon」といい、クラッチツゥクラッチ変速において係合状態から解放状態へ切り替えられる変速用係合装置CBを「解放側係合装置CBdis」ということとする。また、係合側係合装置CBconの断接状態を制御する油圧アクチュエータに供給されるCB油圧PRcbを「係合側作動油圧Pcon[Pa]」といい、解放側係合装置CBdisの断接状態を制御する油圧アクチュエータに供給されるCB油圧PRcbを「解放側作動油圧Pdis[Pa]」ということとする。
油圧制御回路56は、機械式オイルポンプであるMOP58や電動オイルポンプであるEOP60から圧送されたオイル(作動油OIL)の油圧を元圧として、ケース18内の各部に必要な作動油OILを供給する。例えば、油圧制御回路56内には、K0クラッチ20の断接制御用であるK0用電磁弁SC、及び、自動変速機24の変速制御用である4つの変速用電磁弁SL1~SL4(以下、特に区別しない場合には、「変速用電磁弁SL」と記す。)が設けられている。これらK0用電磁弁SC,変速用電磁弁SLは、例えば周知のリニアソレノイド弁であって、ソレノイドに駆動電流を供給することにより電気エネルギーを駆動力に変換する装置である電磁部と、その電磁部の駆動により作動油OILを調圧して作動油圧を発生させる調圧部と、を備える。
K0用電磁弁SCの駆動電流が制御されることにより、K0クラッチ20の断接状態を制御する油圧アクチュエータに供給される作動油圧が調整されてK0クラッチ20の断接状態が制御される。例えば、K0用電磁弁SCの駆動電流がオフ(駆動電流が流れない状態)とされることでK0クラッチ20が解放状態とされ、K0用電磁弁SCの駆動電流がオン(駆動電流が流れる状態)とされることでK0クラッチ20が係合状態とされる。
変速用電磁弁SLの各駆動電流のオン/オフの組み合わせが制御されることにより、自動変速機24に設けられた変速用係合装置CBの断接状態を制御する各油圧アクチュエータに供給される作動油圧が調整される。これにより、自動変速機24は、ニュートラル状態にされたり所望の変速比γatが形成されたりする。変速用係合装置CBは、ブレーキやクラッチなどの例えば湿式多板型の油圧式摩擦係合装置である。
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態にかかわらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備える。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、走行用駆動力源(エンジン12、電動機MG)により回転駆動させられて動力伝達装置16で用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動するためのEOP専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又はEOP60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0などを供給する。
車両10は、電子制御装置90を備える。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。なお、電子制御装置90は、本発明における「制御装置」に相当する。
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、電動機回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、バッテリセンサ84など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne[rpm]、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度である電動機回転速度Nm[rpm]、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc[%]、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth[%]、バッテリ54のバッテリ温度THbat[℃]やバッテリ充放電電流Ibat[A]やバッテリ電圧Vbat[V]など)が、それぞれ入力される。
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御するためのエンジン制御信号Se、電動機MGを制御するための電動機制御信号Sm、変速用係合装置CBを制御するためのCB油圧制御信号ScbやK0クラッチ20を制御するためのK0油圧制御信号Sk0やロックアップクラッチ40を制御するためのLU油圧制御信号Slu、EOP60を制御するためのEOP制御信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
電子制御装置90は、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部92と、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部94と、変速制御手段すなわち変速制御部96と、を機能的に備える。
ハイブリッド制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aと、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bと、を機能的に備え、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
ハイブリッド制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、アクセル開度θacc及び車速Vと駆動要求量との間の関係が予め実験的に或いは設計的に求められて記憶されたマップである。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdem[Nm]である。要求駆動トルクTrdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。
ハイブリッド制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、バッテリ54の充電可能電力Win[W]や放電可能電力Wout[W]等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御信号Seと、電動機MGを制御する電動機制御信号Smと、を出力する。エンジン制御信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPe[W]の指令値である。電動機制御信号Smは、例えばそのときの電動機回転速度Nmにおける電動機トルクTmを出力する電動機MGの消費電力Wm[W]の指令値である。
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限を示している。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値(予め定められた満充電容量に対する実際に蓄電されている充電量の比)SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。
ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合には、走行モードをモータ走行(=EV走行)モードとする。ハイブリッド制御部92は、EV走行モードでは、K0クラッチ20の解放状態において、走行用駆動力源(エンジン12、電動機MG)のうちの電動機MGのみから走行用駆動力を出力して走行するEV走行を行う。一方で、ハイブリッド制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、走行モードをエンジン走行モードすなわちハイブリッド走行(=HV走行)モードとする。ハイブリッド制御部92は、HV走行モードでは、K0クラッチ20の係合状態において、走行用駆動力源(エンジン12、電動機MG)のうちの少なくともエンジン12から走行用駆動力を出力して走行するエンジン走行すなわちHV走行を行う。他方で、ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判定するための予め定められた閾値である。このように、ハイブリッド制御部92は、要求駆動トルクTrdem等に基づいて、HV走行中にエンジン12を自動停止したりそのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、EV走行中にエンジン12を始動したり、停車中にエンジン12を自動停止したりそのエンジン停止後にエンジン12を再始動したりして、EV走行モードとHV走行モードとを切り替える。
エンジン制御部92aは、車両10に対する駆動要求量を実現するようにエンジントルクTeを制御する。電動機制御部92bは、車両10に対する駆動要求量を実現するように電動機トルクTmを制御する。具体的には、EV走行モードにおいては、電動機制御部92bは、要求駆動トルクTrdemを実現するように電動機トルクTmを制御する。HV走行モードにおいては、エンジン制御部92aは、要求駆動トルクTrdemの全部又は一部を実現するようにエンジントルクTeを制御し、電動機制御部92bは、要求駆動トルクTrdemに対してエンジントルクTeでは不足するトルク分を補うように電動機トルクTmを制御する。
ハイブリッド制御部92は、エンジン12の始動判定を行う始動判定手段すなわち始動判定部92cと、エンジン12の始動制御を実行する始動制御手段すなわち始動制御部92dと、を機能的に更に備える。
始動判定部92cは、エンジン12の始動が要求されたか否かを判定する。つまり、始動判定部92cは、エンジン12の始動要求の有無を判定する。例えば、始動判定部92cは、EV走行モード時において、(a)要求駆動トルクTrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大した場合、(b)エンジン12等の暖機が必要である場合、又は、(c)バッテリ54の充電状態値SOCが前記エンジン始動閾値未満である場合には、エンジン12の始動要求が有ると判定する。
始動判定部92cによりエンジン12の始動が要求されたと判定された場合、クラッチ制御部94は、エンジン12の始動制御を実行するようにK0クラッチ20を制御する。例えば、クラッチ制御部94は、エンジン回転速度Neを引き上げるトルクであるクランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達するためのK0トルクTk0が得られるように、解放状態のK0クラッチ20を係合状態に向けて制御するためのK0油圧制御信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に際して、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えるようにアクチュエータを制御するためのK0油圧制御信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。
始動判定部92cによりエンジン12の始動が要求されたと判定された場合、始動制御部92dは、エンジン12の始動制御を実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する。例えば、始動制御部92dは、クラッチ制御部94によるK0クラッチ20の係合状態への切り替えに合わせて、電動機MGがクランキングトルクTcrを出力するための電動機制御信号Smをインバータ52へ出力する。つまり、始動制御部92dは、エンジン12の始動に際して、クランキングトルクTcrを電動機MGが出力するように電動機MGを制御するための電動機制御信号Smをインバータ52へ出力する。
始動判定部92cによりエンジン12の始動が要求されたと判定された場合、始動制御部92dは、K0クラッチ20及び電動機MGによるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給や点火などを開始するためのエンジン制御信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。つまり、始動制御部92dは、エンジン12の始動に際して、エンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御するためのエンジン制御信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。このように、始動制御部92dは、始動判定部92cによりエンジン12の始動が要求されたと判定された場合に、エンジン12の始動制御を実行する。
始動制御部92dは、EV走行中におけるエンジン12の始動の際には、EV走行用の電動機トルクTmつまり駆動トルクTrを生じさせる電動機トルクTmに加えて、クランキングトルクTcr分の電動機トルクTmを電動機MGから出力させる。
変速制御部96は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行するためのCB油圧制御信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断されるための変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
自動変速機24の変速フェーズ(変速段階)には、変速準備段階、トルク相、イナーシャ相の各フェーズがある。変速準備段階では、例えばトルク相に先立って、変速ショックを抑制するためにロックアップクラッチ40が係合状態から解放状態へ切り替えられる。トルク相とは、自動変速機24の変速期間(変速制御開始から変速制御終了までの期間)のうちで、自動変速機24の出力トルクが変化しているフェーズである。イナーシャ相とは、自動変速機24の変速期間のうちで、自動変速機24における入力側回転部材である変速機入力軸38の回転速度と同値であるタービン回転速度Ntが、理論上の変速前タービン回転速度Nt_pre(変速前の変速段における変速比γat及び車速Vから算出される理論上のタービン回転速度Nt)から理論上の変速後タービン回転速度Nt_post(変速後の変速段における変速比γat及び車速Vから算出される理論上のタービン回転速度Nt)へ変化しているフェーズである。トルク相は、係合側係合装置CBcon及び解放側係合装置CBdisの伝達トルク容量が変化している期間でもある。
EV走行中において自動変速機24の変速制御が実行されていない期間にエンジン12の始動要求が発生した場合には、上述したように始動制御部92dによりエンジン12の始動制御が実行される。また、EV走行中において始動制御部92dによるエンジン12の始動制御が実行されていない期間に自動変速機24の変速制御が実行される場合には、上述したように変速制御部96により変速制御が実行される。
ところで、EV走行中における自動変速機24の変速制御中(変速制御の実行中)にエンジン12の始動要求が発生する場合がある。
始動判定部92cによりエンジン12の始動が要求されたと判定された場合、進行度判定部98は、エンジン12の始動要求が発生した時点におけるトルク相進行度α[%]が所定の範囲内であるか否かを判定する。トルク相進行度αとは、変速フェーズにおけるトルク相の進み具合である。例えば、トルク相進行度αは、解放側係合装置CBdisにおける伝達トルク容量Tcb_disと係合側係合装置CBconの伝達トルク容量Tcb_conとの合計に対する伝達トルク容量Tcb_conの比{=Tcb_con/(Tcb_dis+Tcb_con)}で表される。解放側作動油圧Pdisと伝達トルク容量Tcb_disとの間の関係が実験的に或いは設計的に予め定められたマップに基づいて、伝達トルク容量Tcb_disが算出でき、係合側作動油圧Pconと伝達トルク容量Tcb_conとの間の関係が実験的に或いは設計的に予め定められたマップに基づいて、伝達トルク容量Tcb_conが算出できる。なお、変速フェーズが変速準備段階にある場合には、トルク相進行度αは0[%]であり、変速フェーズがイナーシャ相である場合には、トルク相進行度αは100[%]である。所定の範囲は、変速フェーズであるトルク相の進行を遅延させるとの判定をするために予め定められたトルク相進行度αの範囲であって、例えば自動変速機24における変速前後のギヤ段毎に予め定められた範囲である。例えば、所定の範囲の下限値及び上限値は、進行度判定部98による判定後にエンジン12のクランキングが開始されてもイナーシャ相の開始時点における自動変速機24の入力トルクの変動が少なく変速終了の遅延が許容範囲となるように設定される。例えば、変速前後のギヤ段が変速比γatが大きい低速側である場合に比較して、変速前後のギヤ段が変速比γatが小さい高速側である場合には、変速期間が短いため、変速終了が遅くなるヘジテーションへの影響が小さい。そのため、変速前後のギヤ段における変速比γatが小さい高速側ほど、所定の範囲が狭く設定される、すなわち所定の範囲の上限値が低く設定されたり、所定の範囲の下限値が高く設定されたりする。本実施例では、所定の範囲の下限値が0[%]と同等以上の値に定められ、所定の範囲の上限値が100[%]よりも少し低い値に定められている(図3参照)。「トルク相の進行」とは、トルク相において変速制御が進められることすなわちトルク相進行度を上昇させることである。なお、トルク相進行度αは、本発明における「トルク相の進行度」に相当する。
進行度判定部98によりエンジン12の始動要求が発生した時点におけるトルク相進行度αが所定の範囲内であると判定された場合、変速制御部96はトルク相の進行を遅延させ、且つ、始動制御部92dはエンジン12のクランキングを開始させる。具体的には、変速制御部96は、自動変速機24で一旦開始したトルク相の進行を中断して元に戻す、すなわち変速フェーズをトルク相の開始時点の状態に戻す。変速制御部96は、例えばトルク相の進行の遅延が開始される遅延開始時点におけるトルク相進行度α及び自動変速機24における変速前後のギヤ段と、トルク相の進行の遅延を解除する解除時点(=遅延開始時点+遅延期間)と、の間の関係が実験的に或いは設計的に予め定められたマップに基づいてトルク相の進行の遅延の解除時点を設定する。なお、遅延開始時点は、本発明における「トルク相の進行の遅延が開始される開始時点」に相当する。トルク相の進行の遅延の解除時点を経過すると、変速制御部96は、トルク相の進行の遅延を解除してトルク相を進行させて変速制御を再開させる。
進行度判定部98によりエンジン12の始動要求が発生した時点におけるトルク相進行度αが所定の範囲内ではないと判定された場合、変速制御部96はトルク相を進行させるなど変速制御を続行し、且つ、始動制御部92dはエンジン12のクランキングを開始する。
図2は、図1に示す電子制御装置90の制御作動を説明するフローチャートの一例である。図2のフローチャートは、EV走行中において自動変速機24の変速制御中に繰り返し実行される。
まず、始動判定部92cの機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、エンジン12の始動要求が発生したか否かが判定される。S10の判定が肯定された場合は、進行度判定部98の機能に対応するS20において、エンジン12の始動要求が発生した時点におけるトルク相進行度αが所定の範囲内であるか否かが判定される。S10の判定が否定された場合は、変速制御部96の機能に対応するS30において、自動変速機24の変速制御が続行され、そしてリターンとなる。
S20の判定が肯定された場合は、変速制御部96及び始動制御部92dの機能に対応するS40において、トルク相の進行が遅延させられつつエンジン12のクランキングが開始され、そしてS50が実行される。変速制御部96の機能に対応するS50において、トルク相の進行の遅延が解除されて変速制御が実行され、そしてリターンとなる。S20の判定が否定された場合は、変速制御部96及び始動制御部92dの機能に対応するS60において、自動変速機24の変速制御が続行され且つエンジン12のクランキングが開始され、そしてリターンとなる。
図3は、EV走行中において自動変速機24のパワーオンアップシフトの変速制御中において、図2のフローチャートが実行された場合におけるタイムチャートの一例である。図3の横軸は、時間t[ms]である。パワーオンアップシフトとは、運転者によるアクセル操作(例えばアクセルペダルの踏み込み操作)によりアクセル開度θaccが増加して実行されるアップシフトである。
図3において、エンジン作動信号はエンジン12の作動状態を制御する信号であって、オンはエンジン12を運転状態とする制御信号であり、オフはエンジン12を停止状態とする制御信号である。図3において、遅延期間設定信号は、オフからオンへ切り替わったタイミングがトルク相の進行の遅延開始時点を示すとともに、オフからオンへ切り替わったタイミングがトルク相の進行の遅延の解除時点を示す信号である。図3において、開始設定信号は、「設定されたトルク相の開始時点を表す信号」であって、オフからオンに切り替わったタイミングがトルク相開始時点を示し、終了設定信号は、「設定されたトルク相の終了時点を表す信号」であって、オフからオンに切り替わったタイミングがトルク相終了時点を示す。
図3に示すトルク相進行度α、電動機回転速度Nm及びタービン回転速度Nt、並びに係合側作動油圧Pcon及び解放側作動油圧Pdisでは、トルク相の進行を遅延させる本実施例が実線で示され、トルク相の進行を遅延させない比較例が一点鎖線で示されている。
以下、本実施例のタイムチャートについて説明する。
時刻t1以前において、EV走行中でロックアップクラッチ40が係合状態であり且つ運転者によるアクセル操作により電動機回転速度Nmが増加中である。時刻t1において、パワーオンアップシフトの変速制御における変速準備段階が開始される。変速準備段階としてロックアップクラッチ40が係合状態から解放状態へ切り替えられる。ロックアップクラッチ40の解放状態への切り替えにより電動機連結軸36と変速機入力軸38とが流体を介した連結となって、時刻t2(>t1)において、走行用駆動力源である電動機MGの電動機回転速度Nmがタービン回転速度Ntよりも高くなり始める。
ロックアップクラッチ40が解放状態へ切り替えられた後の時刻t3(>t2)において、開始設定信号がオフからオンに切り替えられる。この開始設定信号のオフからオンへの切り替えのタイミングに合わせて、解放側作動油圧Pdisを減少させる減少制御が開始されるとともに係合側作動油圧Pconを増加させる増加制御が開始されて、変速制御におけるトルク相が開始される。これにより、時刻t3からトルク相進行度αが次第に上昇する。
時刻t4(>t3)において、エンジン12の始動要求が発生してエンジン作動信号がオフ(停止)からオン(運転)へ切り替えられて、エンジン12のクランキングが開始される。このエンジン12の始動要求の発生時点である時刻t4は、トルク相進行度αが所定の範囲内となっている。そのため、時刻t4において、遅延期間設定信号がオフからオンに切り替えられてトルク相の進行の遅延が開始される。時刻t4は、遅延開始時点である。具体的には、解放側作動油圧Pdisが減少制御の開始時点における油圧に所定のレートで速やかに戻されるとともに係合側作動油圧Pconが増加制御の開始時点における油圧に所定のレートで速やかに戻される、すなわちトルク相の進行が遅延させられて変速フェーズがトルク相の開始時点の状態に戻される。
時刻t6(>t4)において、遅延期間設定信号がオンからオフに切り替えられてトルク相の進行の遅延が解除されてトルク相が進行させられる。なお、時刻t6は、本発明における「トルク相の進行の遅延を解除する解除時点」に相当する。また、時刻t7(>t6)において、終了設定信号がオフからオンに切り替えられる。この終了設定信号のオフからオンへの切り替えのタイミングに合わせて、解放側作動油圧Pdisの減少制御が終了させられるとともに係合側作動油圧Pconの増加制御が終了させられて、変速制御におけるトルク相が終了させられる。時刻t6から時刻t7(>t6)までの期間において、トルク相が進行させられてトルク相進行度αが0[%]から100[%]へ変化する。時刻t7からイナーシャ相が開始され、時刻t7から時刻t9(>t7)までの期間において車速Vに対応するタービン回転速度Ntが理論上の変速前タービン回転速度Nt_preから理論上の変速後タービン回転速度Nt_postへ向けて低くなっていき、時刻t9においてイナーシャ相が終了する。
時刻t9から時刻t10(>t9)までの期間において、ロックアップクラッチ40の解放状態から係合状態への切り替えが行われ、これにより走行用駆動力源である電動機MGの電動機回転速度Nmに向けてタービン回転速度Ntが上昇していく。
このように、エンジン12のクランキングの開始は、イナーシャ相が開始される時刻t7よりも前であり、好適にはエンジン12のクランキングの終了も、イナーシャ相が開始される時刻t7よりも前である。イナーシャ相が開始される時刻t7よりも前にエンジン12のクランキングが終了している場合には、イナーシャ相の開始時点において自動変速機24の入力トルクがエンジン12のクランキングの開始を含むエンジン12のクランキングに伴って変動することが抑制されるため、変速終了の遅延が抑制される。
以下、比較例のタイムチャートについて説明する。本比較例のタイムチャートは、前述の実施例のタイムチャートと略同じであるが、エンジン12の始動要求の発生時点である時刻t4でのトルク相進行度αが所定の範囲内となっていてもトルク相の進行を遅延させない点が異なる。そのため、実施例と異なる部分を中心に説明することとし、実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
比較例では、時刻t4において解放側作動油圧Pdisの減少制御が続行されるとともに係合側作動油圧Pconが増加制御が続行される、すなわちトルク相の進行が遅延させられない。これにより、時刻t4から時刻t5(>t4)までの期間において、トルク相が進行させられてトルク相進行度αが0[%]から100[%]へ変化する。時刻t5からイナーシャ相が開始され、時刻t5から時刻t8(>t5)までの期間において車速Vに対応するタービン回転速度Ntが理論上の変速前タービン回転速度Nt_preから理論上の変速後タービン回転速度Nt_postへ向けて低くなっていき、時刻t8においてイナーシャ相が終了する。
本比較例では、エンジン12のクランキングの終了時刻は、イナーシャ相が開始される時刻t5よりも後である。したがって、時刻t5においては、エンジン12のクランキングが開始されている。図3では、イナーシャ相の開始時点において自動変速機24の入力トルクがエンジン12のクランキングの開始(エンジン12の始動開始)に伴って変動して、例えば変速終了が遅くなるヘジテーションが発生することまでは図示していないが、ヘジテーションが発生するおそれがある。
本実施例によれば、自動変速機24の変速フェーズがトルク相を終了する前にエンジン12の始動要求が発生した場合には、トルク相の進行が遅延させられつつエンジン12のクランキングが開始された後に、トルク相の進行の遅延が解除されてトルク相が進行させられる。このように、自動変速機24での変速制御におけるトルク相の進行が遅延させられつつエンジン12のクランキングの開始が優先されるため、エンジン12の始動応答性の悪化が抑制される。また、変速制御のイナーシャ相の開始時点において、エンジン12のクランキングが開始された後であるため自動変速機24の入力トルクがエンジン12のクランキングの開始に伴って変動することが抑制され、変速終了の遅延が抑制される。このように、エンジン12の始動応答性と変速性能との両立が図られる。
本実施例によれば、エンジン12の始動要求が発生した時点がトルク相の進行中である場合には、トルク相の進行が中断されて変速フェーズがトルク相の開始時点の状態に戻されることでトルク相の進行が遅延させられる。このように、エンジン12の始動要求が発生した時点がトルク相の進行中である場合にはトルク相の進行が中断されて変速フェーズがトルク相の開始時点の状態に戻されるため、エンジン12の始動応答性の悪化の抑制と変速終了の遅延の抑制との両立が図られる。
本実施例によれば、エンジン12の始動要求が発生した時点におけるトルク相進行度αが自動変速機24における変速前後のギヤ段毎に予め定められた所定の範囲内である場合に、トルク相の進行が遅延させられる。このように、エンジン12の始動要求が発生した時点におけるトルク相進行度αが自動変速機24における変速前後のギヤ段毎に予め定められた所定の範囲内である場合には、トルク相の進行が遅延させられつつエンジン12のクランキングの開始が優先される。エンジン12の始動要求が発生した時点におけるトルク相進行度αに応じて、トルク相の進行を遅延するか否かが決められるため、エンジン12の始動応答性と変速性能との両立が図られやすい。
本実施例によれば、トルク相の進行の遅延が開始される開始時点におけるトルク相進行度αと、自動変速機24における変速前後のギヤ段と、に基づいて、トルク相の進行の遅延を解除する解除時点が設定される。このように、トルク相の進行の遅延が開始される開始時点におけるトルク相進行度αと、自動変速機24における変速前後のギヤ段と、に基づいて、トルク相の進行の遅延を解除する解除時点が設定されるため、解除時点が遅くなりすぎないように制御できる。
本実施例によれば、エンジン12の始動要求が発生した時点がトルク相の開始前の変速準備段階である場合には、トルク相の開始が遅らせられることでトルク相の進行が遅延させられる。このように、エンジン12の始動要求が発生した時点がトルク相の進行中である場合にはトルク相の開始が遅らせられるため、エンジン12の始動応答性の悪化の抑制と変速終了の遅延の抑制との両立が図られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
前述の実施例では、図3のタイムチャートにおいて自動変速機24の変速フェーズがトルク相の進行中においてエンジン12の始動要求が発生した場合が例示されていたが、本発明はこの例示に限らない。例えば、自動変速機24の変速フェーズが変速準備段階においてエンジン12の始動要求が発生した場合にも、本発明は適用可能である。この場合には、変速準備段階が終了してもトルク相の開始が遅延させられつつエンジン12のクランキングが開始された後に、トルク相が進行させられる。このように、本発明におけるトルク相の進行の「遅延」には、一旦開始したトルク相の進行を中断して元に戻す場合と、開始していないトルク相の開始を遅らせる場合と、の両方が含まれる。
前述の実施例では、エンジン12の始動要求が発生した時点におけるトルク相進行度αが自動変速機24における変速前後のギヤ段毎に予め定められた所定の範囲内である場合に、トルク相の進行が遅延させられる態様であったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、所定の範囲が設定されず、エンジン12の始動要求が発生した時点がトルク相の進行中である場合にはトルク相の進行が遅延させられる態様であっても良い。このような態様においても、自動変速機24での変速制御におけるトルク相の進行が遅延させられつつエンジン12のクランキングの開始が優先されるため、エンジン12の始動応答性の悪化が抑制される。また、変速制御のイナーシャ相の開始時点において自動変速機24の入力トルクがエンジン始動に伴って変動することが抑制されるため、変速終了の遅延が抑制される。このように、エンジン12の始動応答性と変速性能との両立が図られる。
前述の実施例では、トルク相の進行の遅延が開始される開始時点におけるトルク相進行度αと、自動変速機24における変速前後のギヤ段と、に基づいて、トルク相の進行の遅延を解除する解除時点が設定される態様であったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、解除時点は、イナーシャ相の開始時点においてエンジン12のクランキングが開始されないように設定されるのであれば、トルク相の進行の遅延が開始される開始時点におけるトルク相進行度αや自動変速機24における変速前後のギヤ段に無関係に、実験的に或いは設計的に予め定められる態様であっても良い。
前述の実施例では、自動変速機24は遊星歯車式であったが、本発明における自動変速機は、常時噛合型平行軸式など他の構成の有段変速機であっても良い。
前述の実施例では、図3のタイムチャートは自動変速機24のパワーオンアップシフトの変速制御中にエンジン12の始動要求が発生した場合であったが、本発明は、パワーオンアップシフトに限らず他の変速制御中にエンジン12の始動要求が発生した場合にも適用可能である。
前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、本発明はこの態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。また、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。