上記の課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を重ね、その結果下記の知見を得た。
[3ロール式穿孔圧延機の基本構成]
図1~図4は、3ロール式穿孔圧延機の構成を示す図である。これらの図のうち、図1は、その穿孔圧延機をパスラインPLの出側から見たときの斜視図を示す。図2には、その穿孔圧延機をパスラインPLの入側からパスラインPLに沿って見たときの正面図を示す。図3は、その穿孔圧延機の上面図を示す。図4は、その穿孔圧延機の側面図を示す。図1では、プラグ2の図示は省略される。図3及び図4では、パスラインPLの鉛直方向上方に配置された1つの傾斜ロール1のみを示し、下方に配置された2つの傾斜ロール1の図示は省略される。図4では、被圧延材WPはパスラインPLを含む断面で示される。被圧延材WPは中実の丸ビレットである。本明細書において、3ロール式穿孔圧延機(3ロール式ピアサ)を単に穿孔圧延機と言う場合がある。
図1~図4を参照して、穿孔圧延機は、圧延工具として、プラグ2と3つの傾斜ロール1とを備える。3つの傾斜ロール1は、パスラインPLの周りに等間隔に配置される。つまり、3つの傾斜ロール1は、互いに120°の間隔で配置される。3つの傾斜ロール1のうちの1つの傾斜ロール1がパスラインPLの真上(鉛直方向上方)に配置される。ただし、3つの傾斜ロール1がパスラインPLの周りに等間隔に配置される限り、3つの傾斜ロール1の位置は限定されない。例えば、1つの傾斜ロール1がパスラインPLの真下(鉛直方向下方)に配置されてもよい。各傾斜ロール1の表面は、パスラインPLに沿って入側面1aと出側面1bに区分される。入側面1aと出側面1bとの境界がゴージ部Gである。
各傾斜ロール1の中心軸1cはパスラインPLに対して傾いている。つまり、各傾斜ロール1には傾斜角FAが与えられている(図3参照)。各傾斜ロールには交叉角CAが与えられている(図4参照)。傾斜角FA及び交叉角CAは調整可能である。また、各傾斜ロール1には、パスラインPLに対して開度が与えられている。このロール開度も調整可能である。
傾斜角FAとは、パスラインPLを中心とする周方向における傾斜ロール1の中心軸1cの振れ角を意味する。交叉角CAとは、パスラインPLを中心とする径方向における傾斜ロール1の中心軸1cの振れ角を意味する。
パスラインPLと入側面1aとの距離はパスラインPLの入側から出側に向かって漸減する。一方、パスラインPLと出側面1bとの距離はパスラインPLの入側から出側に向かって漸増する。このため、パスラインPLと傾斜ロール1の表面との距離は、ゴージ部Gの位置で最も小さい。入側面1aは、例えば一定の勾配を有するテーパ面である。出側面1bは、例えば一定の勾配を有するテーパ面である。
プラグ2は、傾斜ロール1同士の間のパスラインPL上に配置される。プラグ2は、パスラインPLに沿って延びる芯金3によって保持される。
このような穿孔圧延機を用いた穿孔圧延は次のように行われる。丸ビレットである被圧延材WPを加熱する。加熱された被圧延材WPがパスラインPL上に配置される。被圧延材WPは、プッシャによって、回転する傾斜ロール1同士の間に送られて、傾斜ロール1に噛み込む。そして、被圧延材WPは、パスラインPL上で自身の軸心回りに回転しながら前進して、傾斜ロール1とプラグ2によって穿孔圧延される。これにより、所定の肉厚と外径を有する穿孔材(素管、継目無金属管)が得られる。
[3ロール式穿孔圧延機の実用化への検討]
穿孔圧延機によって厚肉の穿孔材を製造する場合について検討する。厚肉の穿孔材とは、穿孔材の外径D(mm)に対する穿孔材の肉厚t(mm)の比率t/Dが15%~30%の範囲内である穿孔材を意味する。本明細書において、その比率t/Dを肉厚外径比t/Dと言う場合がある。
上記のとおり、穿孔圧延機によって厚肉の穿孔材を製造する場合、傾斜ロールの数が2つであるか3つであるかを問わず、プラグ詰まりが発生しやすい。これは以下の理由によると考えられる。厚肉の穿孔材を製造する場合、薄肉の穿孔材を製造する場合と比較して、穿孔圧延時に傾斜ロールとプラグとによる被圧延材の肉厚圧下量が小さい。このため、被圧延材の周方向の伸び(円周方向ひずみ=-肉厚方向ひずみ-長手方向ひずみ)が小さくなり、被圧延材の周長が不足する。これにより、プラグの最大径部において、被圧延材の内面とプラグとの間のクリアランスが小さくなる。このクリアランスが小さすぎれば、プラグ詰まりが発生する。本明細書において、そのクリアランスをプラグ最終クリアランスと言う場合がある。
特に、3ロール式ピアサによる穿孔圧延では、1つの傾斜ロールが負担する肉厚圧下量は、2ロール式ピアサによる穿孔圧延で1つの傾斜ロールが負担する肉厚圧下量の2/3になる。このため、3ロール式ピアサによる穿孔圧延では、2ロール式ピアサによる穿孔圧延と比較して、被圧延材の周長がより不足する傾向になる。これにより、プラグ最終クリアランスが過小になり、プラグ詰まりの発生がより懸念される。
そこで、本発明者らは、プラグ詰まりの発生を抑制するためにプラグ最終クリアランスを拡大する手法を検討した。鋭意検討の結果、下記の条件を満たせば、プラグ最終クリアランスを有効に拡大できることがわかった。
傾斜ロールとプラグとによる被圧延材の肉厚圧下量を実質的に増大させる。この肉厚圧下量の増大により、穿孔圧延時に被圧延材の周長が増加し、プラグ最終クリアランスが拡大する。
肉厚圧下量の増大を実現するために、第1の条件として、プラグを傾斜ロールの入側寄りに配置する。第2の条件として、傾斜ロールの入側面の領域(ゴージ部も含む)において、被圧延材の肉厚加工を完了させる。つまり、傾斜ロールの入側面の領域において、被圧延材の肉厚圧下量を高位に確保して、被圧延材の肉厚を穿孔材の肉厚(狙い肉厚)に加工する。この場合、穿孔材の外径Dは被圧延材の外径Dbよりも小さくなる。第3の条件として、傾斜ロールのゴージ部の位置において、被圧延材の肉厚圧下量を高位に確保する。
ただし、上記第1の条件を単純に満たそうとすれば、被圧延材の噛み込み不良が発生し得る。被圧延材の噛み込み不良とは、穿孔圧延の初期段階で被圧延材と傾斜ロールとが相対的に空回りし、穿孔圧延が不可能になるというトラブルである。上記第1の条件を満たそうとしてプラグを入側に過剰に寄せた場合、被圧延材が傾斜ロールに十分に噛み込む前に、被圧延材がプラグの先端に突き当たる。この場合、被圧延材の噛み込み不良が発生する。
被圧延材の噛み込み不良の発生を抑制するために、第4の条件として、プラグ先端ドラフト率PDを確保する。プラグ先端ドラフト率PDは、下記式(a)で示され、その単位は%である。
PD=(Db-ROp)/Db×100 (a)
式(a)中の各記号の意味は以下のとおりである、
ROp:プラグの先端の位置における傾斜ロールの開度(mm)、及び
Db:被圧延材(丸ビレット)の外径(mm)。
本明細書において、プラグの先端の位置における傾斜ロールの開度ROpを、プラグ先端ロール開度ROpと言う場合がある。
被圧延材の外径Dbに対してプラグ先端ロール開度ROpが十分に小さければ、被圧延材が傾斜ロールに噛み込んでからプラグの先端に到達するまでに、被圧延材は傾斜ロールによって十分に圧下されて、傾斜ロールに十分に噛み込む。この場合、被圧延材の噛み込み不良を抑制できる。この点、式(a)から明らかなように、プラグ先端ロール開度ROpが小さいほど、プラグ先端ドラフト率PDが大きくなる。したがって、プラグ先端ドラフト率PDが大きければ、プラグ先端ロール開度ROpが小さく、その結果として、被圧延材の噛み込み不良を抑制できる。
本発明の継目無金属管の製造方法は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
本発明の実施形態による継目無金属管の製造方法は、穿孔圧延機を用いて、外径D(mm)に対する肉厚t(mm)の比率t/Dが15%~30%である継目無金属管を製造する。穿孔圧延機は、プラグと、3つの傾斜ロールと、を備える。プラグは、パスライン上に配置される。3つの傾斜ロールは、パスラインの回りに等間隔に配置され、各々が入側面及び出側面を有する。パスラインと上記入側面との距離がパスラインの入側から出側に向かって漸減する。パスラインと上記出側面との距離がパスラインの入側から出側に向かって漸増する。
上記製造方法は、準備工程と、加熱工程と、穿孔圧延工程と、を含む。準備工程は、継目無金属管の外径Dよりも大きい外径Db(mm)を有する被圧延材を準備する。加熱工程は、被圧延材を加熱する。穿孔圧延工程は、穿孔圧延機によって、加熱された被圧延材を穿孔圧延する。穿孔圧延工程は、下記式(1)~式(4)の全てを満足するようにプラグ及び傾斜ロールの諸条件を設定する。
0.95×Dp≦Dpg≦Dp (1)
0.95×Dp+2×t≦ROg≦Dp+2×t (2)
0≦L2/L1≦0.25 (3)
1.0<(Db-ROp)/Db×100 (4)
式(1)~式(4)中の各記号の意味は以下のとおりである、
Dpg:傾斜ロールのゴージ部の位置におけるプラグの直径(mm)、
Dp:プラグの最大直径(mm)、
ROg:傾斜ロールのゴージ部の位置における傾斜ロールの開度(mm)、
L1:プラグの圧延部の長さ(mm)、
L2:プラグのリーリング部の長さ(mm)、及び
ROp:プラグの先端の位置における傾斜ロールの開度(mm)。
本実施形態の製造方法は、肉厚外径比t/Dが15%~30%である厚肉の穿孔材(継目無金属管)を製造する。本実施形態の製造方法では、被圧延材の外径Dbは穿孔材の外径Dよりも大きい。換言すれば、穿孔材の外径Dは被圧延材の外径Dbよりも小さい。別の観点では、被圧延材の外径Dbに対する穿孔材の外径Dの比D/Dbは1.0よりも小さい。したがって、この条件は、上記第2の条件に対応する。
式(1)は、プラグの最大直径Dpを指標として、傾斜ロールのゴージ部の位置におけるプラグの直径Dpgの範囲を表す。本明細書において、この直径Dpgをゴージ位置プラグ直径Dpgと言う場合がある。式(1)で表される条件のように、ゴージ位置プラグ直径Dpgがプラグの最大直径Dpと同じであるか、又はそれに近い値であれば、プラグが傾斜ロールの入側寄りに配置される。したがって、式(1)で表される条件は、上記第1の条件に対応する。
式(2)は、プラグの最大直径Dp及び穿孔材の肉厚tを指標として、傾斜ロールのゴージ部の位置における傾斜ロールの開度ROgの範囲を表す。本明細書において、傾斜ロールのゴージ部の位置における傾斜ロールの開度ROgを、ゴージ部ロール開度ROgと言う場合がある。式(2)で表される条件のように、ゴージ部ロール開度ROgが、プラグの最大直径Dpに穿孔材の肉厚tの2倍を足した値であるか、又はそれに近い値であれば、傾斜ロールの入側面の領域において、被圧延材の肉厚圧下量が高位に確保される。したがって、式(2)で表される条件は、上記第1の条件を満足するもとで、上記第2の条件に対応する。
式(3)は、プラグの圧延部の長さL1に対するプラグのリーリング部の長さL2の比L2/L1の範囲を表す。本明細書において、この比L2/L1をリーリング長さ比L2/L1と言う場合がある。式(3)で表される条件のように、リーリング長さ比L2/L1が0(ゼロ)であるか、又はそれに近い値であれば、プラグのリーリング部が存在しないか、又はプラグの圧延部に対してプラグのリーリング部が短い。この場合、傾斜ロールのゴージ部の位置において、被圧延材の肉厚圧下量が高位に確保される。したがって、式(3)で表される条件は、上記第1及び第2の条件を満足するもとで、上記第3の条件に対応する。
式(4)は、要するに、上記式(a)で示されるプラグ先端ドラフト率PDの範囲を表す。式(4)で表される条件のように、プラグ先端ドラフト率PDが1.0%を超える値であれば、プラグ先端ロール開度ROpが十分に小さい。この場合、被圧延材が傾斜ロールに噛み込んでからプラグの先端に到達するまでに、被圧延材は傾斜ロールによって十分に圧下されて、傾斜ロールに十分に噛み込む。したがって、式(4)で表される条件は、上記第1の条件を満足するもとで、上記第4の条件に対応する。
プラグ先端ドラフト率PDの上限は特に限定されない。これは以下の理由による。プラグ先端ドラフト率PDが過大になれば、プラグ先端ロール開度ROpが過小になる。この場合、傾斜ロールによる被圧延材の圧下量が過大になる。圧下量が過大になれば、2ロール式ピアサによる穿孔圧延ではマンネスマン破壊が過剰に発生する。ただし、3ロール式ピアサによる穿孔圧延ではマンネスマン破壊が生じない。このため、プラグ先端ドラフト率PDに上限はない。ただし、傾斜ロール同士の干渉を回避するために、プラグ先端ドラフト率PDの上限は50%程度となる。
本実施形態の製造方法によれば、3ロール式穿孔圧延機を用いて厚肉の穿孔材を製造する場合の穿孔圧延において、被圧延材の外径が穿孔材(継目無金属管)の外径よりも大きく、さらに式(1)~式(4)の全てを満足するようにプラグ及び傾斜ロールの諸条件が設定される。これにより、上記第1~第3の条件を満たすため、傾斜ロールとプラグとによる被圧延材の肉厚圧下量が実質的に増大する。この肉厚圧下量の増大により、穿孔圧延時に被圧延材の周長が増加し、プラグ最終クリアランスが拡大する。その結果として、プラグ詰まりの発生を抑制することができる。しかも、上記第4の条件を満たすため、被圧延材の噛み込み不良を抑制することができる。したがって、厚肉の継目無金属管の製造に3ロール式穿孔圧延機を実用化することができる。
なお、肉厚は、穿孔圧延後の狙い肉厚であって、実際に穿孔圧延された後の穿孔材の実肉厚の値とは若干異なる場合もある。
傾斜ロールの入側面の形状は、パスラインと入側面との距離がパスラインの入側から出側に向かって漸減する限り、特に限定されない。典型的な例では、入側面は、一定の勾配を有するテーパ面である。入側面は、凸の曲面であっても構わない。傾斜ロールの出側面の形状は、パスラインと出側面との距離がパスラインの入側から出側に向かって漸増する限り、特に限定されない。典型的な例では、出側面は、一定の勾配を有するテーパ面である。
3ロール式ピアサの場合、ゴージ部ロール開度ROgは、傾斜ロールのゴージ部とパスラインとの最短距離の2倍の値である。プラグ先端ロール開度ROpは、パスラインに垂直な面のうちプラグ先端の位置での面において、傾斜ロールの表面(例えば入側面)とパスラインとの最短距離の2倍の値である。プラグのリードは、パスライン上において、ゴージ部からプラグの先端までの距離を意味する。
一般に、穿孔圧延で得られた厚肉の継目無金属管(穿孔材)は、延伸圧延工程及び定径圧延工程を経ることにより、外径及び肉厚を調整される。定径圧延工程は、延伸圧延によって不整が生じた外径を縮めて真円に近づける工程でもある。そして、外径及び肉厚を調整された継目無金属管は、内面及び外面を切削する機械加工工程を経ることにより、所望の内径及び外径を有する製品管とされる場合がある。必要に応じて、機械加工工程の前に金属管を所定の長さに切断する場合もある。製品管は、例えば、カップリング用の金属管や大型構造物の支柱用の金属管である。製品管は、必要に応じて加工を施されて、最終的な製品となる。例えば、カップリング用の素管の場合、切断加工やねじ切り加工等が施される。
ここで、2ロール式ピアサによる穿孔圧延で得られた継目無金属管には、偏芯偏肉が発生する。偏芯偏肉とは、金属管の横断面において外周の中心(重心)と内周の中心(重心)とのずれによって生じる不均一な肉厚を意味する。本明細書において、偏芯偏肉を単に偏肉とも言う。偏芯偏肉の量は延伸圧延及び定径圧延によって低減できる。そのため、2ロール式ピアサによる穿孔圧延で得られた金属管に機械加工を施す場合、延伸圧延及び定径圧延の各工程で偏肉量を低減することが不可欠である。延伸圧延及び定径圧延を施さなければ、肉厚の過剰に大きい部分と肉厚の小さい部分が断面内に混在する。この場合、機械加工工程における加工代のバラツキが大きくなり、また旋盤等で回転加工をするときに、金属管の重心が安定しない。その結果、機械加工が不安定になる。
一方、本実施形態の製造方法のように3ロール式ピアサを用いた場合、穿孔圧延で得られた継目無金属管の偏芯偏肉は少ない。この場合、延伸圧延及び定径圧延を施さなくても、肉厚の過剰に大きい部分と肉厚の小さい部分が混在しないことから、機械加工工程における加工代のバラツキを低減でき、金属管の重心も安定する。そのため、延伸圧延及び定径圧延は必ずしも必要ではない。したがって、製品管を製造するにあたり、延伸圧延工程及び定径圧延工程を省略しても構わない。
そこで、本実施形態の製品管の製造方法は、上記製造方法の穿孔圧延工程によって得られた継目無金属管の内面及び外面のうちの少なくとも一方を切削する機械加工工程を含む。機械加工は、金属管の内面のみに施されてもよいし、金属管の外面のみに施されてもよいし、金属管の内面及び外面の両方に施されてもよい。この場合、被圧延材を穿孔圧延した後、得られた厚肉の穿孔材(継目無金属管)に対して機械加工が行われる。つまり、通常行われる延伸圧延及び定径圧延は省略される。したがって、製品管を得るまでの工数を削減することができる。その結果、製品管の生産効率が向上する。なお、穿孔圧延工程によって得られた継目無金属管を、機械加工工程を経ずに、製品管とすることもできる。
ただし、製品管の製造方法は、上記製造方法の穿孔圧延工程によって得られた継目無金属管を延伸圧延する延伸圧延工程と、延伸圧延された継目無金属管を定径圧延する定径圧延工程を含んでも構わない。この場合、定径圧延工程によって得られた継目無金属管に対して上記の機械加工が行われる。
以下に、図面を参照しながら、本実施形態の製造方法の具体例を説明する。図5は、本実施形態の継目無金属管の製造方法で用いられる3ロール式ピアサにおける傾斜ロール1の一例を示す図である。図6は、本実施形態の継目無金属管の製造方法で用いられる3ロール式ピアサにおけるプラグ2の一例を示す図である。
図5を参照して、入側面1aと出側面1bとの境界がゴージ部Gである。傾斜ロール1の入側面1aは、一定の勾配を有するテーパ面である。入側面1aは、入側面角θaを有する。入側面角θaは、パスラインを含む断面において、被圧延材と接触する範囲の入側面1aとパスラインとの成す角度のうちの最大の角度である。傾斜ロール1の出側面1bは、一定の勾配を有するテーパ面である。出側面1bは、出側面角θbを有する。出側面角θbは、パスラインを含む断面において、被圧延材と接触する範囲の出側面1bとパスラインとの成す角度のうちの最大の角度である。
図6を参照して、プラグ2の形状は一般的な砲弾形状である。プラグ2は、プラグ2の先端側から順に、圧延部2aと、リーリング部2bと、逃げ部2cと、を含む。圧延部2a及びリーリング部2bが穿孔圧延に寄与する。圧延部2aは、被圧延材に与える肉厚圧下の大部分を受け持つ。リーリング部2bは、被圧延材の肉厚を穿孔材の肉厚に仕上げる。
リーリング部2bの表面は、プラグ2の中心軸Pcに対して一定の勾配を有するテーパ面である。つまり、リーリング部2bを中心軸Pcに沿って切断したときに現れる線は、直線である。この直線と中心軸Pcとの成す角度θがテーパ面の勾配に相当する。本明細書では、この角度θをリーリング部2bの面角θと言う場合がある。
圧延部2aの表面は、凸の曲面である。圧延部2aをプラグ2の中心軸Pcに沿って切断したときに現れる線は、凸の曲線である。この凸曲線のうち、圧延部2aの先端部2aaに対応する部分の凸曲線は、例えば円弧である。残りの部分(以下、本体部2abと言う。)の凸曲線は、圧延部2aの先端部2aaの円弧と、リーリング部2bの直線と、を滑らかにつなぐ円弧である。この本体部2abの円弧は、リーリング部2bの直線と滑らかにつながるため、その曲率半径RLPは、圧延部2aの先端部2aaの円弧の曲率半径よりも大きい。圧延部2aの後端と本体部2abの円弧の中心とを結ぶ直線は、プラグ2の中心軸Pcに垂直な直線と所定の角度θRを成す。以下、この角度θRを圧延部基準角θRと言う場合がある。
本実施形態では、リーリング長さ比L2/L1、すなわち圧延部2aの長さL1に対するリーリング部2bの長さL2の比L2/L1は、上記式(3)で表される条件を満足する。具体的には、リーリング長さ比L2/L1は、0(ゼロ)以上、0.25以下である。つまり、リーリング長さ比L2/L1が0であるか、又はそれに近い値である。この場合、プラグ2において、圧延部2aが存在するもののリーリング部2bが存在しないか、又は圧延部2aに対してリーリング部2bが短い。プラグ2の最大直径Dpは、リーリング部2bの後端、すなわちリーリング部2bと逃げ部2cとの境界での直径である。リーリング部2bが存在しない場合、プラグ2の最大直径Dpは、圧延部2aの後端での直径である。
図7は、本実施形態の継目無金属管の製造方法を示すフロー図である。図8は、穿孔圧延時の状況の一例を示す模式図である。図8には、穿孔圧延機を側方から見たときの様子が示される。図8では、被圧延材WPはパスラインPLを含む断面で示され、芯金3の図示は省略される。
図7に示すように、本実施形態の製造方法は、準備工程(#5)と、加熱工程(#10)と、穿孔圧延工程(#15)と、を含む。本実施形態の製造方法では、図1~図6に示す3ロール式ピアサが用いられる。この製造方法によって、肉厚外径比t/Dが15%~30%である厚肉の穿孔材(継目無金属管)SPを製造する。以下、図7及び図8を参照して説明する。
[準備工程(#5)]
準備工程(#5)は、穿孔材SPの外径Dよりも大きい外径Db(mm)を有する被圧延材WPを準備する。被圧延材WPは丸ビレットである。被圧延材WPの寸法及び材質は、製造する継目無金属管(穿孔材)SPに要求される仕様に応じて決定される。被圧延材WPの材質は特に限定されない。例えば、被圧延材WPの材質は炭素鋼や合金鋼である。
[加熱工程(#10)]
加熱工程(#10)は、被圧延材WPを加熱する。その際、被圧延材WPは、加熱炉によって所定の温度に加熱される。被圧延材WPの加熱温度は、例えば1100~1250℃の範囲内である。
[穿孔圧延工程(#15)]
穿孔圧延工程(#15)は、3ロール式ピアサを用いて、加熱された被圧延材WPを穿孔圧延する。これにより、肉厚外径比t/Dが15%~30%である厚肉の継目無金属管(穿孔材)SPを製造する。その際、予め、上記式(1)~式(4)の全てを満足するようにプラグ2及び傾斜ロール1の諸条件を設定する。この設定条件のもとで、穿孔圧延を行う。
図8を参照して、穿孔材の外径Dは被圧延材の外径Dbよりも小さい。この条件は、上記第2の条件に対応する。
ゴージ位置プラグ直径Dpgは式(1)で表される条件を満足する。つまり、ゴージ位置プラグ直径Dpgがプラグ2の最大直径Dpと同じであるか、又はそれに近い値である。この場合、プラグ2が傾斜ロール1の入側寄りに配置される。この条件は、上記第1の条件に対応する。
ゴージ部ロール開度ROgは式(2)で表される条件を満足する。つまり、ゴージ部ロール開度ROgが、プラグ2の最大直径Dpに穿孔材SPの肉厚tの2倍を足した値であるか、又はそれに近い値である。この場合、傾斜ロール1の入側面1aの領域において、被圧延材WPの肉厚圧下量が高位に確保される。この条件は、上記第1の条件を満足するもとで、上記第2の条件に対応する。
リーリング長さ比L2/L1(図6参照)は式(3)で表される条件を満足する。つまり、リーリング長さ比L2/L1が0であるか、又はそれに近い値である。別の観点では、プラグ2のリーリング部2bが存在しないか、又はプラグ2の圧延部2aに対してプラグ2のリーリング部2bが短い。この場合、傾斜ロール1のゴージ部Gの位置において、被圧延材WPの肉厚圧下量が高位に確保される。この条件は、上記第1及び第2の条件を満足するもとで、上記第3の条件に対応する。
プラグ先端ドラフト率PD(=(Db-ROp)/Db×100)は式(4)で表される条件を満足する。つまり、プラグ先端ドラフト率PDが1.0%を超える値である。別の観点では、プラグ先端ロール開度ROpが十分に小さい。この場合、被圧延材WPが傾斜ロール1に噛み込んでからプラグ2の先端に到達するまでに、被圧延材WPは傾斜ロール1によって十分に圧下されて、傾斜ロール1に十分に噛み込む。この条件は、上記第1の条件を満足するもとで、上記第4の条件に対応する。
このように、3ロール式ピアサを用いて厚肉の穿孔材SPを製造する場合の穿孔圧延において、被圧延材WPの外径Dbが穿孔材SPの外径Dよりも大きく、さらに式(1)~式(4)の全てを満足するようにプラグ2及び傾斜ロール1の諸条件が設定される。これにより、上記第1~第3の条件を満たすため、傾斜ロール1とプラグ2とによる被圧延材WPの肉厚圧下量が実質的に増大する。この肉厚圧下量の増大により、穿孔圧延時に被圧延材WPの周長が増加し、プラグ最終クリアランスが拡大する。その結果として、プラグ詰まりの発生を抑制することができる。しかも、上記第4の条件を満たすため、被圧延材WPの噛み込み不良を抑制することができる。
続いて、図9~図12を参照して、被圧延材WPを穿孔圧延して得られた穿孔材(継目無金属管)SPの肉厚について検証する。より詳しくは、穿孔材SPの偏肉状況について検証する。本実施形態に係る製造方法で得られた穿孔材SPの偏肉状況を確認するために、図8に示す3ロール式ピアサと実質的に同じ形状の解析モデルを作成し、弾塑性3D-FEM解析を行った。比較のため、3ロール式ピアサの代わりに、2ロール式ピアサを用いた場合についても同様の解析を行った。
図9は、3ロール式ピアサによる穿孔圧延中の状況を示す横断面図である。図9には、パスラインPLに垂直な断面が示される。図9中の矢印は、傾斜ロール1及びプラグ2それぞれの回転方向を表す。図9を参照して、プラグ2は、パスラインPL上に配置される。3つの傾斜ロール1は、プラグ2の周りに等間隔に配置される。3つの傾斜ロールのうちの1つはプラグ2の真上(鉛直方向上方)に配置される。
図10は、2ロール式ピアサによる穿孔圧延中の状況を示す横断面図である。図10には、図9と同様に、パスラインPLに垂直な断面が示される。図10中の矢印は、図9と同様に、傾斜ロール1及びプラグ2それぞれの回転方向を表す。図10を参照して、プラグ2は、パスラインPL上に配置される。2つの傾斜ロール1は、プラグ2の真横(水平方向両側)に配置される。プラグ2の真上及び真下(鉛直方向両側)には、それぞれガイド工具としてディスクロール4が配置される。ディスクロール4は、穿孔圧延中、被圧延材WPが鉛直方向に張り出すのを抑える役割を担う。
図10を参照して、2ロール式ピアサを用いた場合、パスラインPLの周りに相互に180°間隔で配置された2つの傾斜ロール1によって、被圧延材WPは圧下される。この場合、プラグ2は、被圧延材WPを介して、2つの傾斜ロール1それぞれに向かう方向(水平方向(右方向及び左方向))への移動を制限される。一方、被圧延材WPは、傾斜ロール1が存在しない領域では圧下されない。このため、プラグ2は、隣接する傾斜ロール1同士の間に向けての移動を許容される。つまり、プラグ2は、ディスクロール4同士の向き合う方向(鉛直方向(上方向及び下方向))への移動を許容される。2つの傾斜ロール1によって、プラグ2の移動が2方向から制限されているにすぎないからである。
したがって、2ロール式ピアサを用いた場合、穿孔圧延中にプラグ2が鉛直方向に大きく変位することが予想される。穿孔圧延中のプラグ2の変位が大きいと、穿孔材SPには偏芯偏肉が発生する。傾斜ロール1とプラグ2とによる圧延によって、穿孔材SPの肉厚が定まるからである。
これに対して、図9を参照して、3ロール式ピアサを用いた場合、パスラインPLの周りに相互に120°間隔で配置された3つの傾斜ロール1によって、被圧延材WPは圧下される。この場合、プラグ2は、被圧延材WPを介して、3つの傾斜ロール1それぞれに向かう方向(上方向、右下方向及び左下方向)への移動を制限される。またこの場合、プラグ2は、隣接する傾斜ロール1同士の間に向けての移動を許容されるものの、その移動許容量は少ない。3つの傾斜ロール1によって、プラグ2の移動が3方向から制限されているからである。
したがって、3ロール式ピアサを用いた場合、穿孔圧延中のプラグ2の変位は小さいと予想される。穿孔圧延中のプラグ2の変位が小さいと、穿孔材SPは偏芯偏肉が少ない。
図11及び図12を参照して、FEM解析の結果を説明する。図11は、穿孔圧延中のプラグ2の重心(中心軸)の軌跡を示す図である。図11において、縦軸は、鉛直方向のプラグ2の重心位置の変位を示し、横軸は、水平方向のプラグ2の重心位置の変位を示す。図12は、穿孔圧延によって得られた穿孔材SPの肉厚分布を示す図である。図12において、縦軸は穿孔材SPの肉厚を示し、横軸は穿孔材SPの中心軸回りの角度を示す。
図11を参照して、2ロール式ピアサを用いて穿孔圧延を行った場合、穿孔圧延中のプラグ2の変位が全体的に大きい。特に、鉛直方向の変位が著しい。一方、3ロール式ピアサを用いて穿孔圧延を行った場合、穿孔圧延中のプラグ2の変位が小さい。
図12を参照して、3ロール式ピアサを用いた場合、穿孔材SPの肉厚は円周方向の全域にわたってほぼ5.5mmと一定である。つまり、偏肉が非常に小さい。それに対して、2ロール式ピアサを用いた場合、穿孔材SPの肉厚は角度に応じて大きく変動し、その最大肉厚は約6.1mmで、その最小肉厚は約4.9mmである。つまり、偏肉が大きい。
図11及び図12より、穿孔材SPの偏肉の程度は、穿孔圧延中のプラグ2の変位の大きさに依存する。2ロール式ピアサを用いれば、穿孔材SPの偏肉が大きく、3ロール式ピアサを用いれば、穿孔材SPの偏肉は小さい。
このように、3ロール式ピアサを用いて穿孔圧延を行うと、図7に示す穿孔圧延工程(#15)で得られる穿孔材SPの偏肉は小さい。そのため、穿孔材SPから製品管を製造するにあたり、穿孔材SPに対して偏肉量を低減する工程は必ずしも必要ではない。
図13は、製品管の一般的な製造方法を示す加工フロー図である。図13に示す製品管の製造方法は、本実施形態の製造方法の穿孔圧延工程で得られた穿孔材SPに適用することができる。図13では、図7に示す穿孔圧延工程(#15)で穿孔材SPを得た後、製品管を得るまでの工程を示す。
図13に示すように、製品管の製造方法は、穿孔圧延工程(#15)の次に、延伸圧延工程(#20)、定径圧延工程(#25)、及び機械加工工程(#30)を含む。延伸圧延工程(#20)は、穿孔圧延工程(#15)で得られた穿孔材SPを延伸圧延する。定径圧延工程(#25)は、延伸圧延された継目無金属管を定径圧延する。延伸圧延及び定径圧延によって、外径及び肉厚が調整される。その後、機械加工工程(#30)は、定径圧延後の継目無金属管の内面及び外面を切削する。機械加工工程(#30)の切削は、金属管の内面のみに施されてもよいし、金属管の外面のみに施されてもよいし、金属管の内面及び外面の両方に施されてもよい。これにより、所望の内径及び外径を有する製品管が得られる。延伸圧延工程(#20)では、例えばマンドレルミルが用いられ、定径圧延工程(#25)では、例えばサイザーが用いられる。製品管の製造方法は、必要に応じて、機械加工工程(#30)の前に金属管を所定の長さに切断する工程を含んでもよい。
図14は、製品管の他の製造方法を示す加工フロー図である。図14に示す製品管の製造方法は、本実施形態の製造方法の穿孔圧延工程で得られた穿孔材SPに適用することができる。図14では、図7に示す穿孔圧延工程(#15)で穿孔材SPを得た後、製品管を得るまでの工程を示す。
本実施形態の継目無金属管の製造方法によれば、穿孔圧延に3ロール式ピアサを用いるため、穿孔圧延工程(#15)で得られた穿孔材SPの偏肉は小さい。すなわち、穿孔材SPの肉厚はほとんど均一であり、機械加工工程(#30)における加工代のバラツキが少ない。したがって、穿孔材SPから製品管を製造するにあたり、穿孔材SPに対して外径及び肉厚を調整する必要がない。
このため、図14に示すように、製品管の製造方法は、穿孔圧延工程(#15)の次に、機械加工工程(#30)を含む。つまり、図13に示す延伸圧延工程(#20)及び定径圧延工程(#25)が省略される。この場合、機械加工工程(#30)は、穿孔圧延工程(#15)で得られた穿孔材SPに対して機械加工を施す。つまり、穿孔圧延された継目無金属管の内面及び外面を切削する。機械加工工程(#30)の切削は、金属管の内面のみに施されてもよいし、金属管の外面のみに施されてもよいし、金属管の内面及び外面の両方に施されてもよい。これにより、所望の内径及び外径を有する製品管が得られる。製品管の製造方法は、必要に応じて、機械加工工程(#30)の前に金属管を所定の長さに切断する工程を含んでもよい。
図14に示す製品管の製造方法では、延伸圧延工程(#20)及び定径圧延工程(#25)が省略されるため、製品管を得るまでの工数を削減することができる。その結果、図13に示す製品管の製造方法に比べて、製品管の生産効率が向上する。
穿孔圧延試験を実施し、プラグ詰まり及び被圧延材の噛み込み不良それぞれの発生有無を調査した。この穿孔圧延試験では、3ロール式ピアサを用いて、丸ビレット(被圧延材)を穿孔圧延し、厚肉の素管(継目無金属管、穿孔材)を製造した。下記の表1及び表2に、試験条件及び試験結果を示す。
共通する試験条件は以下のとおりであった。丸ビレットの材質は炭素鋼(JIS規格のS45C)であった。プラグの材質は、高温域での強度が高いモリブデン合金であった。丸ビレットの加熱温度は1250℃であった。傾斜ロールの入側面角θaは3.5°であった。
試験No.1の条件は、ゴージ位置プラグ直径Dpgが式(1)の下限を外れる条件であった。つまり、傾斜ロールに対するプラグの配置について、プラグを入側に寄せるのが不十分であった。さらに試験No.1の条件は、ゴージ部ロール開度ROgが式(2)の下限を外れる条件であった。つまり、傾斜ロールの入側面の領域において、被圧延材の肉厚圧下量の確保が不十分であった。このため、プラグ詰まりが発生した。
試験No.2の条件は、プラグ先端ドラフト率PDが式(4)の下限を外れる条件であった。つまり、被圧延材の外径Dbに対してプラグ先端ロール開度ROpが過大であった。このため、被圧延材の噛み込み不良が発生した。
試験No.4の条件は、リーリング長さ比L2/L1が式(3)の上限を外れる条件であった。つまり、傾斜ロールのゴージ部の位置において、被圧延材の肉厚圧下量の確保が不十分であった。このため、プラグ詰まりが発生した。
これらに対し、試験No.3及び5~8の各条件は、式(1)~式(4)の全てを満足する条件であった。このため、プラグ詰まり及び被圧延材の噛み込み不良のいずれも発生することなく、厚肉の穿孔材を製造することができた。特に、試験No.8のように、肉厚外径比t/Dが25.5%である厚肉の穿孔材を製造できることも確認できた。
その他、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることは言うまでもない。