以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。以下の説明において、上下方向とは、原則として、マウント中心軸方向である図1中の上下方向を言う。
第一の取付部材12は、金属等によって形成された高剛性の部材であって、円形断面で上下方向に延びている。第一の取付部材12は、上端部において外周へ向けて突出するフランジ状部を備えていると共に、下部の外周面が下方へ向けて小径となるテーパ面とされている。第一の取付部材12は、中心軸上を上下方向に貫通する液注入路18が形成されていると共に、液注入路18を途中で遮断する球状の栓部材20が液注入路18に嵌め入れられている。
第二の取付部材14は、第一の取付部材12と同様に高剛性の部材とされており、薄肉大径の略円筒形状とされている。第二の取付部材14は、上下方向の途中に段差状部22を備えており、段差状部22よりも上側が大径筒部24とされていると共に、段差状部22よりも下側が小径筒部26とされている。
第一の取付部材12が第二の取付部材14の上開口部に略同一中心軸上で配されて、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、全体として略円錐台形状とされており、小径側の端部である上端部が第一の取付部材12に加硫接着されていると共に、大径側の端部である下端部の外周面が第二の取付部材14に加硫接着されている。
本体ゴム弾性体16は、下端面に開口する大径凹所28を備えている。大径凹所28は、底部である上端から開口側である下側へ向けて大径となっていると共に、開口部分において略一定の内径寸法で上下に延びている。大径凹所28の底部には、第一の取付部材12の液注入路18に連通される連通孔30が形成されており、液注入路18が連通孔30を通じて大径凹所28に連通されている。
本体ゴム弾性体16の外周端部から下方へ向けて延び出すシールゴム層32が設けられている。シールゴム層32は、薄肉大径の略円筒状とされており、本体ゴム弾性体16と一体形成されている。シールゴム層32は、第二の取付部材14の小径筒部26の内周面を覆っている。
第二の取付部材14には、ダイヤフラム34が取り付けられている。ダイヤフラム34は、図2,図3にも示すように、薄肉のゴム膜で形成されており、外周形状が略円形とされている。ダイヤフラム34は、可撓性を有しており、ある程度の伸縮性も有していることが望ましい。
ダイヤフラム34は、溝状部36を備えている。溝状部36は、上方へ向けて開口する凹形状とされており、図4にも示すように、本実施形態では周方向に連続する環状とされている。溝状部36は、一対の側壁38a,38bと、それら側壁38a,38bの下端部を相互につなぐ底壁40とを、一体的に備えている。なお、以下の説明において、外周側の側壁38aと内周側の側壁38bとを区別する必要がない場合には、側壁38と称する場合がある。
側壁38は、溝状部36の深さ方向(上下方向)に延びる略円筒形状とされている。外周側の側壁38aが内周側の側壁38bよりも大径とされており、それら側壁38aと側壁38bが径方向で相互に対向している。
外周側の側壁38aには、突条部42が設けられている。突条部42は、側壁38aと一体形成されており、側壁38aの内面から溝状部36の内部へ向けて突出している。突条部42は、略山状の断面形状で溝状部36の深さ方向である上下方向に延びている。突条部42は、ダイヤフラム34の成形時の型抜きを考慮して、上下方向に直線的に延びていることが望ましく、好適には周方向に傾斜していない。突条部42の突出高さ寸法は、ダイヤフラム34の剛性等を考慮して適宜に設定されるが、好適にはダイヤフラム34の厚さ寸法に対して1/4倍以上且つ1倍以下とされる。これにより、ダイヤフラム34の可撓性を確保しながら、後述する側壁38aと側壁38bの密着を有効に防ぐことができる。突条部42は、本実施形態では側壁38aの上下方向の全長にわたって設けられているが、例えば上下方向において側壁38aに部分的に設けられていてもよい。本実施形態では、複数の突条部42が側壁38aの周方向において相互に離隔して配されており、複数の突条部42が周方向で略等間隔に並んで配されている。
底壁40は、下方に向けて凸となる半円弧状断面を有しており、両端部が一対の側壁38a,38bの各一方と一体でつながっている。また、ダイヤフラム34における溝状部36よりも内周側は、略円板形状の中央部44とされており、中央部44の外周端部が内周側の側壁38bと一体でつながっている。
ダイヤフラム34の外周端部には、固定部材46が固着されている。固定部材46は、金属等によって形成された高剛性の部材であって、略円環形状とされている。固定部材46は、第二の取付部材14の下端部に挿入されており、第二の取付部材14に八方絞り等の縮径加工が施されることによって、第二の取付部材14に固定されている。これにより、ダイヤフラム34が第二の取付部材14に取り付けられて、第二の取付部材14の下開口がダイヤフラム34によって塞がされている。なお、シールゴム層32が第二の取付部材14と固定部材46の間に介在されており、第二の取付部材14と固定部材46の重ね合わせ面間がシールゴム層32によって流体密に封止されている。
本体ゴム弾性体16とダイヤフラム34の上下方向間には、仕切部材48が配されている。仕切部材48は、図1及び図5~図7に示すように、全体として略円板形状とされている。仕切部材48は、第一の仕切板50と第二の仕切板52とが、上下方向で重ね合わされた構造を有している。
第一の仕切板50は、略円板形状とされており、例えば金属や合成樹脂等で形成された硬質の部材とされている。第一の仕切板50の径方向中央部分には、上面に開口する凹状部54が形成されている。凹状部54の底壁部には、上下方向に貫通する第一の上透孔56と第二の上透孔58が形成されている。第一の上透孔56は、略円形断面とされており、第一の仕切板50の径方向中央を上下方向に貫通している。第二の上透孔58は、第一の上透孔56よりも外周側に設けられており、周方向に複数の第二の上透孔58が並んで配置されている。
凹状部54の底壁部は、第一の上透孔56と複数の第二の上透孔58が形成されていることによって、第一の上透孔56と第二の上透孔58の径方向間及び周方向で隣り合う第二の上透孔58,58の間をそれぞれ延びる上側桟状部分60とされている。上側桟状部分60は、第一の上透孔56の周囲を延びる環状延伸部分と、環状延伸部分から外周へ向けて放射状に延び出して第二の上透孔58,58間を延びる放射状延伸部分とを、備えている。上側桟状部分60は、上部が上側へ向けて幅狭となっており、第一,第二の上透孔56,58の上部が上側へ向けて拡開している。
第一の仕切板50の径方向中央部分には、下面に開口する収容凹所62が形成されている。収容凹所62は、略円形の凹所であって、外周端部が凹状部54よりも外周まで達している。第一の上透孔56及び第二の上透孔58は、凹状部54と収容凹所62をつないでいる。
第一の仕切板50の外周部分には、外周面に開口して周方向に1周に満たない長さで延びる周溝64が設けられている。周溝64は、凹状部54及び収容凹所62よりも外周側に設けられている。
第二の仕切板52は、第一の仕切板50よりも薄肉の略円板形状とされており、第一の仕切板50と同様に硬質の部材とされている。第二の仕切板52には、上下方向に貫通する第一の下透孔66と第二の下透孔68が形成されている。第一の下透孔66は、略円形断面とされており、第二の仕切板52の径方向中央を上下方向に貫通している。第二の下透孔68は、第一の下透孔66よりも外周側に設けられており、周方向に複数の第二の下透孔68が並んで配置されている。
第二の仕切板52の内周部分は、第一の下透孔66と複数の第二の下透孔68が形成されていることによって、第一の下透孔66と第二の下透孔68の径方向間及び周方向で隣り合う第二の下透孔68,68の間をそれぞれ延びる桟状部分としての下側桟状部分70とされている。下側桟状部分70は、第一の下透孔66の周囲を延びる環状延伸部分と、環状延伸部分から外周へ向けて放射状に延び出して第二の下透孔68,68間を延びる放射状延伸部分とを、備えている。下側桟状部分70は、下部が下側へ向けて幅狭となっており、第一,第二の下透孔66,68の下部が下側へ向けて拡開している。本実施形態では、第一の下透孔66が第一の上透孔56に対して略同一断面とされ、第二の下透孔68が第二の上透孔58に対して略同一断面とされており、上側桟状部分60と下側桟状部分70が互いに略同じ形状とされている。
下側桟状部分70には、凹凸としての突起72が設けられている。突起72は、略半球状とされており、図6,図7に示すように、下側桟状部分70の下面に突出している。突起72は、第二の仕切板52に一体形成されている。突起72は、突出高さ寸法が基端部の径寸法に対して1/2倍以上とされていることが望ましく、より好適には2/3倍以上且つ2倍以下とされる。これにより、後述するダイヤフラム34の張り付きを防止して、第二の隙間98(後述)を確実に形成することができる。また、突起72の突出先端が鋭くなり過ぎるのを防ぐことで、突起72の耐久性の低下や、ダイヤフラム34の接触時の損傷等を回避することができる。また、突起72は、複数が設けられている。複数の突起72は、第一の下透孔66の開口周辺(環状延伸部分)に全周にわたって略等間隔に設けられていると共に、第二の下透孔68の開口周辺(放射状延伸部分)に略全長にわたって設けられている。隣り合う突起72,72間の距離は、ダイヤフラム34の入り込みを制限し、十分な大きさの第二の隙間98が形成され得るように設定され、例えば2mm以上且つ10mm以下とされる。
第一の仕切板50と第二の仕切板52は、上下方向において相互に重ね合わされている。第一の仕切板50の下面に第二の仕切板52が重ね合わされることによって、第一の仕切板50の収容凹所62の開口が第二の仕切板52によって覆われており、第一の仕切板50と第二の仕切板52の間に収容空所74が形成されている。収容空所74の上側の壁部に第一,第二の上透孔56,58が形成されていると共に、収容空所74の下側の壁部に第一,第二の下透孔66,68が形成されており、第一,第二の上透孔56,58と第一,第二の下透孔66,68とがそれぞれ収容空所74に連通されている。
収容空所74には、可動部材としての可動膜76が配されている。可動膜76は、ゴムや樹脂エラストマー等の弾性材によって形成されており、略円形の外周形状を有する膜状とされている。可動膜76は、外周端部が厚肉の挟持部78とされている。可動膜76は、収容空所74に収容されており、挟持部78が第一の仕切板50と第二の仕切板52の対向間で全周にわたって上下方向に挟持されている。挟持部78は、第一,第二の仕切板50,52に対して液密に重ね合わされていると共に、上下方向に締め代を有することから、通常振動の入力による可動膜76の変形に際して、挟持部78と第一,第二の仕切板50,52の重ね合わせ面間の液密性が維持される。
収容空所74に配された可動膜76は、第一,第二の上透孔56,58の上下方向の延長上に位置していると共に、第一,第二の下透孔66,68の上下方向の延長上に位置している。これにより、第一,第二の上透孔56,58と第一,第二の下透孔66,68は、直接的に連通されることなく、可動膜76によって隔てられている。
可動膜76を備える仕切部材48は、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム34の間に配されて、第二の取付部材14に取り付けられている。仕切部材48は、軸直角方向に広がっており、外周面が第二の取付部材14の内周面を覆うシールゴム層32に押し当てられることにより、第二の取付部材14に対して固定されている。第二の取付部材14の内周面と仕切部材48の外周面との間にシールゴム層32が介在することにより、第二の取付部材14と仕切部材48の重ね合わせ面間が液密に封止されている。なお、仕切部材48は、例えば、ダイヤフラム34を第二の取付部材14へ取り付ける際の第二の取付部材14の縮径加工によって、第二の取付部材14に取り付けられる。また、ダイヤフラム34と仕切部材48を第二の取付部材14へ取り付ける際の第二の取付部材14の縮径加工によって、本体ゴム弾性体16に予圧縮が施され、成形後の収縮に起因する本体ゴム弾性体16の引張応力が低減されて、本体ゴム弾性体16の耐久性の向上が図られる。
本体ゴム弾性体16とダイヤフラム34の間に仕切部材48が配されることにより、仕切部材48の上下両側に受圧室80と平衡室82が形成されている。即ち、仕切部材48の上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16によって構成されて、振動入力時に本体ゴム弾性体16の弾性変形による内圧変動が惹起される受圧室80が形成されている。仕切部材48の下側には、壁部の一部がダイヤフラム34によって構成されて、ダイヤフラム34の変形によって容積変化が許容される平衡室82が形成されている。
仕切部材48の周溝64の外周開口が、第二の取付部材14によって流体密に覆われることにより、仕切部材48の外周端部には、周方向に延びるトンネル状の流路が形成される。そして、当該流路の一方の端部が上連通口84を通じて受圧室80に連通されると共に、他方の端部が下連通口86を通じて平衡室82に連通されることにより、受圧室80と平衡室82を連通するオリフィス通路88が形成されている。オリフィス通路88は、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が、例えばエンジンシェイクに相当する低周波に設定されている。
第一,第二の上透孔56,58が受圧室80に開口しており、第一,第二の上透孔56,58を通じて受圧室80の液圧が可動膜76の上面に及ぼされている。また、第一,第二の下透孔66,68が平衡室82に開口しており、第一,第二の下透孔66,68を通じて平衡室82の液圧が可動膜76の下面に及ぼされている。このように、可動膜76の各一方の面に受圧室80と平衡室82の液圧を及ぼす複数の透孔90が、第一,第二の上透孔56,58と第一,第二の下透孔66,68とによって構成されている。第一,第二の上透孔56,58と第一,第二の下透孔66,68は、可動膜76によって隔てられて直接的には連通されていないが、可動膜76の弾性変形による液圧の伝達作用によって、第一,第二の上透孔56,58と第一,第二の下透孔66,68が実質的な連通状態とされ得る。
ところで、受圧室80と平衡室82は、外部から液密に隔てられており、内部に液体が封入されている。受圧室80と平衡室82に封入される液体は、非圧縮性であることが望ましく、例えば、水、エチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、それらの混合液等が好適に採用され得る。また、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を効率的に得るために、封入される液体は、粘性率が0.1Pa・s以下とされた低粘性流体であることが望ましい。
受圧室80と平衡室82に対する液体の封入は、例えば、第一の取付部材12の液注入路18を通じた液体の注入によって実現される。即ち、栓部材20が嵌め込まれる前の連通状態の液注入路18に図示しない液体供給用ノズルをセットし、液体供給用ノズルから液注入路18へ液体を注ぐことにより受圧室80及び平衡室82へ液体が充填される。液体の充填完了後に、栓部材20を液注入路18へ嵌め込んで液注入路18を液密に封止することにより、受圧室80と平衡室82に液体が封入される。
また、受圧室80と平衡室82は、液体が注入される前に、予め真空引きされる。即ち、液注入路18にセットされる図示しない吸引用ノズルによって、受圧室80と平衡室82から空気が吸い出されて外部へ排出されることで、受圧室80と平衡室82が略真空状態とされる。そして、空気が排出された受圧室80と平衡室82に液体供給用ノズルから液体が注入されることにより、受圧室80と平衡室82が液体で満たされる。
真空引きによって受圧室80と平衡室82から空気を排出すると、ダイヤフラム34における溝状部36の側壁38a,38bが、平衡室82の圧力低下によって相互に接近し、相互に密着する場合がある。この場合に、側壁38aの壁内面に突出する突条部42が設けられていることにより、図8に示すように、突条部42が側壁38bの壁内面に当接し、少なくとも突条部42の両側には、側壁38aと側壁38bとの間に第一の隙間92が形成される。第一の隙間92は、上下方向に延びる突条部42に沿って上下方向に延びて形成され、側壁38aと側壁38bの密着が生じ易い上下方向の中間部分を上下に貫通するように形成される。これにより、平衡室82において側壁38aと側壁38bの密着部分に対する上側の領域94と下側の領域96が、第一の隙間92を通じて相互に連通された状態に保持されて、それら上側の領域94と下側の領域96が液密に分断されることがない。従って、側壁38aと側壁38bの密着部分に対する下側の領域96に空気が残留するのを防いで、受圧室80と平衡室82を液体で満たすことができる。
また、真空引きによって受圧室80と平衡室82の空気を排出する際に、吸引されたダイヤフラム34が仕切部材48の平衡室82側の面(下面)に密着する場合がある。ダイヤフラム34が第一,第二の下透孔66,68の平衡室82への開口周辺に密着して、第一,第二の下透孔66,68の下開口がダイヤフラム34で塞がれると、可動膜76とダイヤフラム34の間で第一,第二の下透孔66,68に空気が残留し易くなる。この場合に、ダイヤフラム34が当接する仕切部材48の下面において、第一,第二の下透孔66,68の開口周辺に突起72が設けられていることにより、図9に示すように、第一,第二の下透孔66,68の開口周辺において、仕切部材48の下面に対するダイヤフラム34の張り付きが防止される。そして、隣接して配された突起72,72間に第二の隙間98が形成されて、空気が第二の隙間98を通じて排出可能とされ、第一,第二の下透孔66,68内への空気の残留が防止される。
以上のように、本実施形態のエンジンマウント10は、受圧室80と平衡室82への液体の封入時に、ダイヤフラム34の側壁38a,38b間への空気の残留と、仕切部材48の第一,第二の下透孔66,68内への空気の残留とが、それぞれ防止されて、受圧室80と平衡室82を液体で満たすことができる。それゆえ、後述する振動入力時において、受圧室80と平衡室82の相対的な圧力変動が、液中に気泡として残留する空気の圧縮性によって吸収されるのを防いで、目的とする防振性能を安定して得ることができる。また、液中への空気の混入を防ぐことにより、振動入力によって気泡が押し潰される際の異音を防止することができる。
このような構造とされたエンジンマウント10は、第一の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットと車両ボデーを防振連結する車両装着状態とされる。
エンジンマウント10の車両への装着状態において、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間にエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されて、受圧室80と平衡室82の間に相対的な圧力変動が惹起されると、オリフィス通路88を通じた流体流動が生じる。オリフィス通路88は、エンジンシェイクにチューニングされていることから、流体流動が共振状態で積極的に生じて、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮される。
低周波大振幅振動の入力時には、可動膜76の弾性変形が入力振動に追従しきれず、可動膜76が実質的な拘束状態となる。これにより、受圧室80の内圧が可動膜76の液圧伝達作用によって平衡室82へ逃げるのが防止されて、受圧室80と平衡室82の相対的な圧力差が大きく確保されることから、オリフィス通路88による防振効果(振動減衰作用)が効率的に発揮される。
平衡室82は、溝状部36を備えることによって容積が大きく確保されており、オリフィス通路88を通じた流体流動が、平衡室82の容積不足によって制限されることなく有効に生じて、目的とする防振性能を安定して得ることができる。特に、溝状部36が周方向に延びて設けられていることから、溝状部36の長さを優れたスペース効率で長くすることができて、平衡室82の容積を大きく得ることができる。なお、溝状部36の長さが長くなると、側壁38a,38bの密着が生じ易くなるが、側壁38a,38bの密着は、突条部42によって防止されることから、目的とする防振性能や静粛性能を得ることができる。
ダイヤフラム34が円形の外周形状を有していることから、ダイヤフラム34の変形剛性が周方向で部分的に大きく或いは小さくなるのを防いで、ダイヤフラム34の歪な変形を防ぐことができると共に、ダイヤフラム34全体を変形させることで容積変化を効率的に生じさせることができる。なお、溝状部36がダイヤフラム34の周方向に延びる円環状とされていることから、溝状部36の全周にわたって側壁38a,38bの張り付きが生じ得るが、突条部42が設けられていることによって側壁38a,38bの張り付きは問題にならない。
ダイヤフラム34の突条部42は、外周側の側壁38aに設けられており、底壁40や内周側の側壁38bには設けられていない。このように、ダイヤフラム34において変形が生じやすい内周部分には突条部42が設けられておらず、ダイヤフラム34の内周部分の変形剛性が小さくされていることから、平衡室82の容積変化による液圧補償作用が効果的に発揮されて、防振性能の向上が図られる。
また、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間にアイドリング振動やこもり音などのエンジンシェイクよりも高周波の振動が入力されると、オリフィス通路88は、反共振によって実質的な遮断状態とされて、流体流動による防振効果が発揮されなくなる。
可動膜76は、厚さ方向の弾性変形によって、受圧室80の液圧を平衡室82へ伝達する液圧伝達作用を発揮する。これにより、オリフィス通路88が実質的に遮断された状態において、受圧室80の密閉化が回避されて、低動ばね化による防振効果(振動絶縁作用)が発揮される。
本実施形態では、可動膜76の両面に受圧室80と平衡室82の各一方の液圧を及ぼす透孔90が、上下の第一の透孔56,66によって構成される中央の透孔90と、上下の第二の透孔58,68によって構成される外周の透孔90とによって、複数設けられている。これにより、透孔90の孔断面積の総計を大きく確保して、受圧室80と平衡室82の液圧を可動膜76に有効に及ぼしつつ、上下の桟状部分60,70によって可動膜76の過大な変形を防ぐことができる。
このように、エンジンマウント10は、周波数の異なる振動に対して、オリフィス通路88と可動膜76による防振効果がそれぞれ発揮され、優れた防振性能を得ることができる。
ところで、例えば大荷重の入力等によって受圧室80の内圧が大幅に低下すると、平衡室82の容積が小さくなる際にダイヤフラム34の側壁38a,38bが溝状部36の開口部付近で相互に接近して密着する場合がある。この場合に、側壁38aに突条部42が設けられていることによって、図8に示すように、側壁38a,38bの間には第一の隙間92が形成されて、平衡室82において側壁38a,38bの密着部分に対する上側の領域94と下側の領域96とが液密に分断されて溝状部36の底部40内が閉鎖領域とされることがない。それゆえ、下側の領域96が密閉されることによる平衡室82の容積の実質的な減少が回避されて、平衡室82の容積変化による液圧補償作用が有効に発揮されることから、目的とする防振性能を安定して得ることができる。
また、例えば大荷重の入力等によって受圧室80の内圧が大幅に低下すると、ダイヤフラム34が仕切部材48の下面に接近して透孔90の下開口周辺に密着する場合がある。この場合に、透孔90の下開口周辺に突起72が設けられていることから、図9に示すように、突起72,72の間において、ダイヤフラム34と仕切部材48の下面との間に第二の隙間98が形成されて、第二の隙間98によって透孔90内と平衡室82の連通状態が保持される。これにより、透孔90を通じた液圧の伝達による防振効果や液圧補償作用がダイヤフラム34の仕切部材48への張り付きによって阻害されるのを防ぐことができる。例えば大振幅振動入力時にもダイヤフラム34の仕切部材48への張り付きが防止されて、同時に入力される走行こもり音等の小振幅振動に対しても可動膜76による液圧吸収作用を安定して享受することが可能になる。
本実施形態では、ダイヤフラム34の仕切部材48への張り付きを防止する凹凸が突起72によって構成されている。これにより、下側桟状部分70の強度を低下させることなく凹凸を設けることができて、下側桟状部分70によって可動膜76の変形量を制限しながら、下側桟状部分70に対するダイヤフラム34の張り付きを防ぐことができる。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、弾性変形によって液圧伝達作用を発揮する可動膜76を可動部材として示したが、可動部材は、収容空所74内での微小変位によって液圧伝達作用を発揮する可動板によって構成することもできる。
ダイヤフラム34における側壁38a,38bの張り付きを防ぐ突条部42が設けられ、仕切部材48の下面に対するダイヤフラム34の張り付きを防ぐ突起72が設けられていない構造を採用することもできる。この場合には、可動部材76や透孔90は必須ではない。また、突起72が設けられ、突条部42が設けられていない構造を採用することもできる。この場合には、ダイヤフラム34の溝状部36は必須ではない。
突条部42は、ダイヤフラム34の内周側の側壁38bに設けられていてもよい。突条部42が側壁38bに設けられる場合に、側壁38aは突条部42が設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。また、突条部42は、底壁40に達していてもよく、例えば、側壁38aと底壁40と側壁38bにわたって連続的に設けられ得る。尤も、溝状部36の変形による平衡室82の容積可変性をより効率的に得るためには、底壁40の内面を両側壁38a,38b間に亘って連続して延びるような突状部42を設けることは避けることが望ましく、突状部42は底壁40において不連続又は形成されていないことが望ましい。
突起72の形状は、前記実施形態で例示した半球状に限定されない。突起72は、例えば、下側桟状部分70を横断するように延びる突条形状等であってもよい。
突起72に代えて仕切部材48の下面に開口する凹部を凹凸として設けることによっても、仕切部材48の下面に対するダイヤフラム34の張り付きを防ぐことができる。凹部は、下側桟状部分70を横断する溝状が望ましいが、開口形状が円形、多角形、異形等のスポット的な凹みであってもよい。
前記実施形態では、受圧室80と平衡室82の形成後に液注入路18を通じて液体を注入する例を示したが、例えば、ダイヤフラム34の第二の取付部材14への組付けを液中で行うことによって、受圧室80と平衡室82の形成時に液体が封入されるようにしてもよい。この場合には、液注入路18や栓部材20はなくてよい。また、前記実施形態では、第一の取付部材12を貫通する液注入路18を例示したが、例えば、第二の取付部材14と本体ゴム弾性体16を貫通する液流入路を設けることもできる。
オリフィス通路は、複数が設けられていてもよい。例えば、低周波にチューニングされた第一のオリフィス通路と、第一のオリフィス通路よりも高周波にチューニングされた第二のオリフィス通路とを設けて、異なる周波数の振動に対して第一,第二のオリフィス通路による防振効果を得ることもできる。