以下、本発明の一態様である組成物及び方法の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測や理論は、本発明者らのこれまでの知見や経験によってなされたものであることから、本発明の技術的範囲はこのような推測や理論のみによって拘泥されるものではない。
「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の物質が組み合わさってなる物であり、具体的には、有効成分と別の物質とが組み合わさってなるもの、有効成分の2種以上が組み合わさってなるものなどが挙げられ、より具体的には、有効成分の1種以上と固形担体又は溶媒の1種以上とが組み合わさってなる固形組成物及び液性組成物などが挙げられる。
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
「及び/又は」は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「含有量」は、濃度と同義であり、組成物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0質量%~100質量%」は、0質量%以上であり、かつ、100質量%以下である範囲を意味する。
特定の成分を「実質的に含有しない」は、不可避的に混入される場合を除き、意図的に含有させないことを意味する。したがって、「実質的に含有しない」は、全く含まれないか、仮に含まれていても極微量であることをいう。
「下部尿路症状」との用語は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、日本泌尿器科学会編、「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン」(2017年4月20日 発行)の「3 定義と解説」において定義されているとおりの意味のものである。下部尿路症状には、適当な検査の結果として判明する客観的な症状に加えて、自覚的な主観的な症状が含まれる。
本明細書では、下部尿路症状をLUTSと略す場合がある。LUTSには、昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿失禁、膀胱知覚といった蓄尿相にみられる症状である畜尿症状;尿勢低下、尿線分割・尿線散乱、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、終末滴下といった排尿相にみられる症状である排尿症状;残尿感、排尿後尿滴下といった排尿直後にみられる症状である排尿後症状;膀胱痛症候群、過活動膀胱(OAB)、膀胱出口部閉塞といった症状症候群などが含まれる。
畜尿症状のうち、昼間頻尿は、例えば、日中の排尿回数が多過ぎるという愁訴であるといえる。例えば、1日の排尿回数が8回以上の場合は頻尿と診断され得る。夜間頻尿は、例えば、夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという愁訴であるといえる。尿意切迫感は、例えば、急に起こる、抑えられない強い尿意で、我慢することが困難であるという愁訴であるといえる。徐々に強くなる通常の「強い尿意」ではなく、予測困難で「急に起こる強い尿意」の場合に用いられる。尿失禁は、例えば、尿が不随意に漏れるという愁訴であるといえる。尿失禁のうち、夜尿症は、例えば、睡眠中に不随意に尿が漏れるという愁訴であるといえる。尿失禁には、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、溢流性尿失禁、反射性尿失禁、真性尿失禁などが含まれる。膀胱知覚は、例えば、膀胱充満感はわかるが、明らかな尿意を感じない「低下」や膀胱充満感や尿意がない「欠如」などの5つに分類される。
排尿症状のうち、尿勢低下は、例えば、尿の勢いが弱いという愁訴であるといえる。尿勢低下によって排尿時間が長くなる傾向にある。尿線分割及び尿線散乱は、例えば、尿線が排尿中に分割及び散乱することがあるという愁訴であるといえる。尿線途絶は、例えば、尿線が排尿中に1回以上途切れるという愁訴であるといえる。排尿遅延は、例えば、排尿開始が困難で、排尿準備ができてから排尿開始までに時間がかかるという愁訴であるといえる。腹圧排尿は、例えば、排尿の開始、尿線の維持又は改善のために、腹圧(いきみ)を要するという愁訴であるといえる。終末滴下は、例えば、排尿の終了が延長し尿が滴下する程度まで尿流が低下するという愁訴であるといえる。
排尿後症状のうち、残尿感は、例えば、排尿後に完全に膀胱が空になっていない感じがするという愁訴であるといえる。残尿感は、実際的な残尿の有無に関係なく生じ得る。排尿後尿滴下は、例えば、排尿直後に不随意的に尿が出てくるという愁訴であるといえる。
LUTSの原因となる疾患や病態は限定されず、例えば、畜尿障害や排尿障害を含む下部尿路障害などの下部尿路の疾患及び病態、前立腺の疾患及び病態、神経系の疾患及び病態、薬剤性、多尿、睡眠障害、心因性といったその他の疾患及び病態などが挙げられる。
下部尿路の疾患及び病態としては、例えば、膀胱炎、間質性膀胱炎、膀胱癌、膀胱結石、膀胱憩室、週活動膀胱、低活動膀胱などの膀胱の疾患及び病態;尿道炎、尿道狭窄、尿道憩室といった尿道の疾患などが含まれる。前立腺の疾患及び病態としては、例えば、前立腺肥大症、前立腺炎、前立腺癌などが含まれる。神経系の疾患及び病態としては、脳血管障害、認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、正常圧水頭症、進行性核上性麻痩、大脳白質病変などの脳の疾患;脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄腫瘍、脊椎変性疾患(脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア)、脊髄血管障害、二分脊椎などの脊髄の疾患;糖尿病、骨盤内手術後などの末梢神経の疾患及び病態などが挙げられる。
「症状改善作用」との用語は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、症状が出ている状態を症状が出ていない状態へ向かう作用に加えて、症状が出ている状態を悪化させない作用、症状が出ていない状態を維持する作用、症状が出ていない状態から症状が出ている状態へ向かうことを妨げる作用などが含まれる。具体的には、「症状改善作用」には、症状の発生の防止及び遅延並びに発生の危険性の低下;症状及び状態の好転;症状及び状態の悪化の防止及び遅延;症状をもたらす機能の維持並びに悪化の防止及び遅延などを包含するが、これに限定されない。
本発明の一態様の組成物は、産地が鹿児島県屋久島より南方の地域である長命草(以下、「屋久島以南産長命草」とよぶ。)の抽出物及び該抽出物に含まれる成分からなる群から選ばれる少なくとも1種の有効成分を少なくとも含有する。ここで、屋久島以南産長命草の抽出物に含まれる成分は、1種又は複数種の成分である。本発明の一態様の組成物は、これらの有効成分を含有することにより、下部尿路症状改善作用を有する。
長命草は、学名がPeucedanum japonicum又はPeucedanum japonicum Thunb.であり、ボタンボウフウ、チョーメイソウ、チョーメイグサ、チョミーフサ、ボーフー、サクナ、ウプバーサフナ、チョーミーグサ、牡丹防風などとも呼ばれる。長命草は、日本本州西部、四国、九州、沖縄、台湾、中国、フィリピンなどで自生する多年草である。本発明において用いられる長命草の採取場所は鹿児島県屋久島より南方の地域であれば特に限定されないが、好ましくは産地が北緯30°及び赤道の間にある地域であり、より好ましくは産地が北緯30°及び赤道の間にある日本国内の地域であり、さらに好ましくは沖縄県本島(沖縄島)、宮古島、与那国島、石垣島、鹿児島県喜界島などであり、なおさらに好ましくは沖縄県本島及び宮古島である。
屋久島以南産長命草は、鹿児島県屋久島より南方の地域で採取できる長命草であれば、自生しているものでも、栽培したものでも、どちらでもよい。屋久島以南産長命草の栽培方法は特に限定されないが、例えば、当業者に知られる方法により、プランターや畑などにおいて、屋久島以南産長命草の種子や株を肥沃な土に植えて葉が十分に生い茂るように育成する方法などが挙げられる。
屋久島以南産長命草は、下記に示すとおりの式(A)~(F)の化合物を含有することに特徴がある。さらに、屋久島以南産長命草を用いて、後述する実際例に記載の方法によって、下記に示すとおりの式(X)のイソサミジンを測定すると、検出下限未満である。このような屋久島以南産長命草を用いて得られる抽出物は、イソサミジンを実質的に含有しない。なお、式(A)、式D)及び式(E)の化合物については、3’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して手前側に位置し、4’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して奥側に位置する構造をとるが、これらは逆である構造、すなわち、3’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して奥側に位置し、4’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して手前側に位置する構造であってもよい。
(A)
(B)
(C)
(D)
(E)
(F)
(X)
後述する実施例に記載があるとおり、式(A)~(F)の化合物はイソサミジンと同程度の、又はそれよりも優れた膀胱収縮抑制作用を有する。特に、式(F)の化合物は、イソサミジンよりも優れた膀胱収縮抑制作用を有する。
屋久島以南産長命草の使用部位は、式(A)~(F)の化合物を含む部位であれば特に限定されず、例えば、葉、茎、根、花などが挙げられるが、好ましくは式(F)の化合物を多く含む葉及び茎である。屋久島以南産長命草は、葉及び茎に加えて、根、花などの他の部位が混入したものであってもよい。
屋久島以南産長命草は、採取したままの状態のもの(生葉)でもよく、採取した後に細断や乾燥などの加工処理に供した状態のものでもよいが、保存性や加工性の観点から乾燥細断物及び乾燥粉末の形態にあるものを用いることが好ましい。また、屋久島以南産長命草を採取した後、加工処理までに時間を要する場合、屋久島以南産長命草の変質を防ぐために低温貯蔵などの当業者が通常用いる貯蔵手段により貯蔵することが好ましい。
屋久島以南産長命草は、用いる屋久島以南産長命草の部位によっては水分を多く含み、抽出処理の効率が低下するおそれがあることから、乾燥処理に供したものであることが好ましい。乾燥処理の方法は特に限定されず、例えば、屋久島以南産長命草の乾燥後の質量(乾燥質量)が、乾燥前の質量(湿質量)に対して9/10~1/10程度になるように乾燥する処理などが挙げられる。乾燥処理は、例えば、熱風乾燥、高圧蒸気乾燥、電磁波乾燥、凍結乾燥、風乾などの当業者に公知の任意の方法により行われ得る。加熱による乾燥は、例えば、30℃~100℃、24時間~72時間にて加温により屋久島以南産長命草や式(A)~(F)の化合物が変質又は分解しない温度及び時間で行われ得る。
屋久島以南産長命草は、溶媒との接触面積を上げて抽出処理を効率的に行うという観点からは、細断、破砕、粉砕又はすり潰した状態のものであることが好ましい。屋久島以南産長命草の細断、破砕、粉砕又はすり潰しの方法は特に限定されないが、例えば、カッター、スライサー、裁断機、クラッシャー、ブレンダー、ミキサー、ミル、グラインダー、ニーダー、乳鉢、石臼などを用いる方法などを挙げることができる。
屋久島以南産長命草は、抽出処理の効率をより良くするために、屋久島以南産長命草の乾燥粉末であることが好ましい。屋久島以南産長命草の乾燥粉末を得るに際して、乾燥処理と粉砕処理とは同時に行ってもよく、又はいずれか一方の処理を先に行ってから、他方の処理を行ってもよいが、作業の簡便性から乾燥処理を先に行った後に粉砕処理を行うことが好ましい。屋久島以南産長命草の乾燥粉末を得るに際して、粉砕処理を行う前に、屋久島以南産長命草の細断処理を実施してもよい。
屋久島以南産長命草の抽出物は、屋久島以南産長命草を圧搾処理に供すること、又は屋久島以南産長命草を抽出処理に供することにより得ることができる。
圧搾処理の方法は、植物を用いて搾汁液を得るために用いられる方法であれば特に限定されないが、例えば、屋久島以南産長命草を搾汁機、ジューサーなどの機械的圧搾手段を用いて搾汁し、必要に応じて、篩別、ろ過などの手段によって粗固形分を除去することにより搾汁液を得る方法などが挙げられる。搾汁液は、必要に応じて濃縮処理に供してもよい。濃縮処理は、液体を減容化する通常知られる処理であれば特に限定されず、例えば、減圧下で常温に置くこと、加熱することなどが挙げられる。濃縮の程度は特に限定されないが、例えば、1/2~1/10程度にまで減容化すればよく、乾固状態になるまで液体成分を揮散させてもよい。搾汁液は、必要に応じて、凍結乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥などの乾燥処理に供して、乾燥物、具体的には乾燥粉末としてもよい。
抽出処理の方法は、植物に含まれる所望の成分を抽出するために用いられる方法であれば特に限定されないが、例えば、屋久島以南産長命草に含まれる式(A)~(F)の化合物を、該化合物に対して可溶性である溶媒中に溶解して抽出液を得る方法などが挙げられる。
抽出溶媒として、式(A)~(F)の化合物に対して可溶性である溶媒は、例えば、水、有機溶媒及び水と有機溶媒との混合溶媒などが挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどの低級アルコール;酢酸エチル、酢酸メチルなどの低級エステル;ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、ヘキサン、グリセリン、プロピレングリコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。有機溶媒は、上記したものなどを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中における有機溶媒の含有量は、20体積%~99体積%が好ましく、抽出効率に加えて、安全性及び工業化の観点から、40体積%~95体積%がより好ましく、50体積%~90体積%がさらに好ましく、60体積%~90体積%がなおさらに好ましい。混合溶媒中における有機溶媒の含有量が20体積%未満の場合、式(A)~(F)の化合物を効率的に抽出することが困難になるおそれがある。なお、有機溶媒としては、低級アルコールが好ましく、エタノール及びメタノールがより好ましい。したがって、抽出溶媒の好ましい具体的態様は、60体積%~90体積%の含水エタノール及び含水メタノールである。
抽出条件としては、屋久島以南産長命草中の式(A)~(F)の化合物が抽出溶媒に溶解するのに適した条件であれば特に限定されず、屋久島以南産長命草の状態や使用量に応じて、抽出溶媒の種類や使用量は適宜設定できるが、例えば、屋久島以南産長命草に対して1倍容量~20倍容量、好ましくは5倍容量~10倍容量の抽出溶媒中に原料である屋久島以南産長命草を所定時間浸漬させることなどが挙げられる。こうした抽出操作においては、抽出効率を高めるべく、必要に応じて撹拌操作、加温などを行ってもよい。また、原料から抽出される夾雑物を削減すべく、抽出操作に先だって、別途水抽出操作又は熱水抽出操作を行ってもよい。式(A)~(F)の化合物は、水に対して不溶の成分であるため、屋久島以南産長命草を熱湯で煮沸することなどで、不必要な夾雑物を抽出操作に先立って除去し得る可能性がある。
抽出処理の具体的条件としては、屋久島以南産長命草に対して5~10倍容量の60体積%~90体積%の含水エタノールを用いて、10℃~80℃、好ましくは室温で、数時間~数日間、好ましくは10時間~3日間の条件で実施できるが、これに限定されない。
抽出処理の後に固液分離処理を行うことで、抽出液と原料の屋久島以南産長命草の残渣とを分離することができる。固液分離手段は特に限定されないが、例えば、ろ過、遠心分離などの公知の固液分離手段を利用することができる。
抽出液は、搾汁液と同様に、必要に応じて濃縮処理に供してもよいし、乾燥処理に供してもよい。
抽出処理は1回であってもよいが、2回以上であってもよい。例えば、屋久島以南産長命草を1回目の抽出処理、固液分離処理及び濃縮処理に供して、第1の屋久島以南産長命草の抽出物濃縮物を得て、次いで第1の屋久島以南産長命草の抽出物濃縮物に水及び有機溶媒を用いて液-液抽出処理及び濃縮処理に供して、第2の屋久島以南産長命草の抽出物濃縮物を得るように抽出処理を実施してもよい。この際、1回目の抽出処理で用いる溶媒と2回目以降の抽出処理で用いる溶媒とは、同一のものでも別のものであっても、どちらでもよい。例えば、後述する実施例では、1回目の抽出処理では含水エタノールを用い、2回目の抽出処理では酢酸エチル及び水を用い、3回目の抽出処理では含水メタノール及びヘキサンを用いている。
屋久島以南産長命草の抽出物における式(A)~(F)の化合物の含有量は特に限定されないが、例えば、抽出物の濃縮後質量あたり、式(A)~(F)の化合物の含有量の総量として、0.5質量%以上であり、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは1.5質量%以上であり、さらに好ましくは2.0質量%以上である。また、屋久島以南産長命草の乾燥物における式(A)~(F)の化合物の含有量は特に限定されないが、例えば、乾燥物の質量あたり、式(A)~(F)の化合物の含有量の総量として、0.1質量%以上であり、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上であり、さらに好ましくは0.4質量%以上であり、なおさらに好ましくは0.5質量%以上である。
屋久島以南産長命草の抽出物における式(A)の化合物の含有量は、例えば、抽出物の濃縮後質量あたり、0.1質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは0.7質量%以上である。屋久島以南産長命草の抽出物における式(B)の化合物及び式(C)の化合物の含有量の総量は、例えば、抽出物の濃縮後質量あたり、0.05質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上である。屋久島以南産長命草の抽出物における式(D)の化合物及び式(E)の化合物の含有量の総量は、例えば、抽出物の濃縮後質量あたり、0.1質量%以上であり、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上である。屋久島以南産長命草の抽出物における式(F)の化合物の含有量は、例えば、抽出物の濃縮後質量あたり、0.2質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上である。
屋久島以南産長命草の乾燥物における式(A)の化合物の含有量は、例えば、乾燥物の質量あたり、0.05質量%以上であり、好ましくは0.10質量%以上であり、より好ましくは0.15質量%以上である。屋久島以南産長命草の乾燥物における式(B)の化合物及び式(C)の化合物の含有量の総量は、例えば、乾燥物の質量あたり、0.01質量%以上であり、好ましくは0.03質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上である。屋久島以南産長命草の乾燥物における式(D)の化合物及び式(E)の化合物の含有量の総量は、例えば、乾燥物の質量あたり、0.02質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.06質量%以上である。屋久島以南産長命草の乾燥物における式(F)の化合物の含有量は、例えば、乾燥物の質量あたり、0.1質量%以上であり、好ましくは0.15質量%以上であり、より好ましくは0.20質量%以上である。
屋久島以南産長命草の抽出物及び屋久島以南産長命草の乾燥物に含まれる式(A)~(F)の化合物の分離、確認及び定量は、後述する実施例に記載の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行うことができる。ただし、式(A)の化合物及び式(F)の化合物はそれぞれ単独のものとして定量することができるが、式(B)の化合物及び式(C)の化合物はこれらの合計物として、並びに式(D)の化合物及び式(E)の化合物はこれらの合計物として、分離及び定量される。
以下に、屋久島以南産長命草を原料として、式(A)~(F)の化合物を含有する屋久島以南産長命草の抽出物を製造する具体的方法を説明するが、屋久島以南産長命草の抽出物の製造方法としては以下のものに限定されない。
沖縄県本島で栽培した長命草の葉及び茎(茎葉)を採取した後、日干しにして、充分に乾燥させる。乾燥した屋久島以南産長命草の茎葉を粉砕して、所定量を秤量したものに、屋久島以南産長命草の茎葉の質量に対して5倍容量~10倍容量の70体積%~90体積%の含水エタノールを加えて、室温で24時間~3日間静置して、抽出処理を実施する。得られた抽出液をろ過して屋久島以南産長命草の残渣を取り除き、得られたろ液を減圧濃縮に供することによって、屋久島以南産長命草の抽出物を得る。
本発明の一態様の組成物は、有効成分として、屋久島以南産長命草の抽出物に代えて、又は屋久島以南産長命草の抽出物とともに、屋久島以南産長命草の抽出物に含まれる成分を使用することができる。屋久島以南産長命草の抽出物に含まれる成分は、膀胱収縮抑制作用を示すものであれば特に限定されないが、イソサミジンと同程度の、又はそれよりも優れた膀胱収縮抑制作用を有するという観点から、式(A)~(F)の化合物が好ましく、イソサミジンよりも優れた膀胱収縮抑制作用を有するという観点から式(F)の化合物がより好ましい。屋久島以南産長命草の抽出物に含まれる成分としては、式(A)~(F)の化合物に加えて、他の成分が含まれていてもよい。ただし、屋久島以南産長命草の抽出物に含まれる成分は、イソサミジンとは異なる成分である。
本発明の組成物の別の態様は、有効成分として、下記に示すとおりの一般式(1)及び一般式(2)の化合物の少なくとも1種を含有する。ただし、一般式(1)の化合物からはイソサミジンは除外される。これらの一般式(1)及び一般式(2)の化合物は、一般的にケルラクトン(Khellactone)と総称される。
(1)
(式中、R11、R12及びR13は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す)
(2)
(式中、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す)
一般式(1)及び一般式(2)の化合物の具体例が、一般式(I)、一般式(II)及び一般式(III)の化合物である。ただし、一般式(I)の化合物からはイソサミジンは除外される。以下では、一般式(1)~(2)の化合物について、一般式(I)~(III)の化合物を代表例として挙げて説明するが、一般式(1)及び一般式(2)の化合物はこれらに限定されるものではない。また、一般式(II)の化合物については、3’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して手前側に位置し、4’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して奥側に位置する構造をとるが、これらは逆である構造、すなわち、3’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して奥側に位置し、4’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して手前側に位置する構造であってもよい。一般式(I)及び一般式(III)の化合物については、3’位及び4’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して奥側に位置する構造をとるが、これらは逆である構造、すなわち、3’位及び4’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して手前側に位置する構造であってもよい。
(I)
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す)
(II)
(式中、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す)
(III)
(式中、R7、R8及びR9は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す)
一般式(I)の化合物の典型的な例は、R1がメチル基、R2が水素原子及びR3がメチル基である式(C)の化合物;R1が水素原子、R2がメチル基及びR3がメチル基である式(F)の化合物である。一般式(II)の化合物の典型的な例は、R4がメチル基、R5が水素原子及びR6がメチル基である式(A)の化合物;R4がメチル基、R5がメチル基及びR6が水素原子である式(D)の化合物;R4が水素原子、R5がメチル基及びR6がメチル基である式(E)の化合物である。一般式(III)の化合物の典型的な例は、R7がメチル基、R8がメチル基及びR9が水素原子である式(B)の化合物である。
一般式(I)~(III)の化合物は、構造が類似していることから、いずれの化合物であっても膀胱収縮抑制作用を有する高い蓋然性がある。その中でも、驚くべきことに、式(F)の化合物は、格別顕著な膀胱収縮抑制作用を有する。
一般式(I)~(III)の化合物は、その入手方法について特に限定されず、天然物に由来するものでも、合成したものでも、市販されているものでも、いずれのものでもよい。一般式(I)~(III)の化合物の合成方法としては、例えば、特開2018-145120号公報に記載の方法などを挙げることができる。式(A)~(F)の化合物は、屋久島以南産長命草及びその抽出物から、HPLCや吸着樹脂などを用いた分画などによって得てもよい。なお、一般式(I)~(III)の化合物の純度は特に限定されず、例えば、50%以上である。
本発明の一態様の組成物が有する下部尿路症状改善作用は、膀胱収縮抑制作用を通じて、下部尿路症状の少なくともいずれか1種の症状を改善する作用であれば特に限定されないが、例えば、畜尿症状、排尿症状、排尿後症状及び過活動膀胱などが挙げられ、好ましくは頻尿、昼間頻尿、夜間頻尿及び尿意切迫感;尿勢低下及び尿線途絶;残尿感;前立腺肥大並びに過活動膀胱であり、より好ましくは過活動膀胱である。
下部尿路症状改善作用は、本発明の一態様の組成物を服用する個体に対して、服用前と一定期間の服用後に、下部尿路症状に関する聴取又は質問票による回答により、確認及び評価することができる。聴取する際の質問事項としては日中及び夜間の排尿回数、質問票としては過活動膀胱症状スコア(OABSS)質問票、国際前立腺症状スコア(IPSS)及びIPSS-QOLスコア質問票を含めることが好ましい。各質問票については、日本泌尿器科学会編、「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン」(2017年4月20日 発行)に記載のものを用いることができる。本発明の一態様の組成物が有する下部尿路症状改善作用の程度は特に限定されないが、例えば、イソサミジンが有する下部尿路症状改善作用と同程度又はそれよりも大きい程度である。
膀胱収縮抑制作用は、後述する実施例に記載のある方法によって、確認及び評価することができる。本発明の一態様の組成物が有する膀胱収縮抑制作用は、アセチルコリンによって惹起される膀胱の収縮を抑制する作用であることが好ましい。本発明の一態様の組成物が有する膀胱収縮抑制作用の程度は特に限定されないが、例えば、イソサミジンが有する膀胱収縮抑制作用と同程度又はそれよりも大きい程度である。
本発明の一態様の組成物は、膀胱収縮抑制作用及び下部尿路症状改善作用を有することによって、安眠効果、体力増強効果、尿不安解消効果などの様々な効果を奏することが期待されるものであることから、睡眠促進用組成物、安眠用組成物、体力増強用組成物、尿不安解消用組成物、QOL(Quality of life)改善用組成物といった態様をとり得る。
長命草は長期にわたりヒトに摂取されてきた実績があり安全性が高いことから、本発明の一態様の組成物は、実用性が高く、そのままで、又は加工することにより、種々の用途に適用可能である。
本発明の一態様の組成物は、その摂取方法について特に限定されず、例えば、経口的又は非経口的に適用され得る。非経口的な適用としては、皮内、皮下、静脈内、筋肉内投与などによる注射及び注入;経皮;鼻、咽頭などの粘膜からの吸入などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の一態様の組成物の摂取個体は特に限定されず、例えば、動物、中でも哺乳類が挙げられ、哺乳類としてはヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジなどが挙げられ、これらの中でもヒトであることが好ましい。摂取個体は、健常な個体であってもよいが、下部尿路症状の改善又は予防が望まれる個体であることが好ましい。
本発明の一態様の組成物は、通常用いられる形態であれば特に限定されず、例えば、固形状、液状、ゲル状、懸濁液状、クリーム状、シート状、スティック状、粉状、粒状、顆粒状、錠状、棒状、板状、ブロック状、ペースト状、カプセル状、カプレット状などの各形態を採り得る。
本発明の一態様の組成物は、下部尿路症状改善作用を有する限り、有効成分と他の成分とを組み合わせて含有し得る。すなわち、本発明の一態様の組成物は、本発明の目的を達成し得る限り、有効成分に加えて、他の成分として種々のものを含有し得る。
他の成分としては、例えば、糖質甘味料、安定化剤、乳化剤、澱粉、澱粉加工物、澱粉分解物、食塩、着香料、着色料、酸味料、風味原料、栄養素、果汁、卵などの動植物性食材、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、香油、保存剤、緩衝剤、光沢剤などの通常の食品加工や医薬品加工に使用される添加物などを挙げることができる。他の成分の使用量は、本発明の課題の解決を妨げない限り特に限定されず、適宜設定され得る。
賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、デキストリン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末などを挙げることができる。結合剤としては、例えば、デンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースなどを挙げることができる。崩壊剤としては、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、炭酸カルシウム、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースなどを挙げることができる。滑沢剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウムなどを挙げることができる。着色剤としては、飲食品や経口用医薬品に添加することが許容されているものなどを使用することができ、特に限定されない。
錠剤や顆粒剤とする場合には、所望により、白糖、ゼラチン、精製セラック、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸重合体などを用いてコーティングしてもよく、複数層でコーティングすることもできる。さらに顆粒剤や粉剤をエチルセルロースやゼラチンのようなカプセルに詰めてカプセル剤とすることもできる。
本発明の一態様の組成物における有効成分の含有量は、膀胱収縮抑制作用及び/又は下部尿路症状改善作用が認められる量であれば特に限定されないが、経口用組成物としては、例えば、1回の摂取量として、0.1mg~10,000mg、好ましくは1mg~1,000mg、より好ましくは10mg~500mg、さらに好ましくは20mg~100mgになるような量であり;組成物の全体量に対して、0.1質量%~99.9質量%、好ましくは0.5質量%~99質量%、より好ましくは1質量%~90質量%、さらに好ましくは5質量%~90質量%、なおさらに好ましくは10質量%~90質量%である。
本発明の一態様の組成物の摂取量は特に限定されず、摂取個体の年齢、体格、症状などの摂取個体の特性;摂取方法;適用部位などに合わせて適宜設定することができる。本発明の一態様の組成物の摂取量は、例えば、一般成人(体重:65kg)に対して、1mg/日~20,000mg/日であり、好ましくは0.1g/日~5g/日である。
本発明の一態様の組成物の摂取回数は特に限定されないが、例えば、1日1~3回であり、使用個体の膀胱収縮の頻度、下部尿路症状の程度及び1回当たりの摂取量に応じて適宜回数を増減することができる。本発明の一態様の組成物の摂取期間は、一定期間、すなわち3日以上、好ましくは1週間以上、より好ましくは3週間以上、さらに好ましくは6週間以上、なおさらに好ましくは6ヶ月以上にわたって継続的に投与する。本発明の一態様の組成物の摂取は、毎日行うことが好ましいが、期間中継続的に摂取する限り、毎日摂取しなくてもよい。
本発明の一態様の組成物は、該組成物を単独で、又は該組成物を配合する飲食品用組成物や医薬品用組成物などの形態をとり得る。したがって、本発明の具体的な一態様は、有効成分を含有する、又は本発明の一態様の組成物を含有する、飲食品用組成物、医薬品用組成物、医薬部外品用組成物、化粧品用組成物、動物飼料用組成物などである。
本発明の一態様の組成物が飲食品用組成物である場合は、あらゆる飲食品の形態をとり得るが、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、ゼリー、ペーストなどの剤状食品;果汁飲料、野菜ジュース、果物野菜ジュース、茶飲料、コーヒー飲料、スポーツドリンク、清涼飲料、健康飲料などの飲料;ヨーグルトやチーズなどの乳製品;スープ、麺、プリン、ジャムなどの加工飲食品;チューインガム、キャンディー、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケット、スナックなどの菓子;アイスクリーム、シャーベット、氷菓などの冷菓;せんべいなどの米菓;羊羹その他の大豆を原料とする菓子などに添加して一般的な飲食品の形態とすることができる。
飲食品用組成物の具体的な一態様は、例えば、生体に対して一定の機能性を有する飲食品である機能性飲食品である。機能性飲食品は、例えば、特定保健用飲食品、機能性表示飲食品、栄養機能飲食品、保健機能飲食品、特別用途飲食品、栄養補助飲食品、健康補助飲食品、サプリメント、美容飲食品などのいわゆる健康飲食品に加えて、乳児用飲食品、妊産婦用飲食品、高齢者用飲食品などの特定者用飲食品を包含する。さらに機能性飲食品は、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康飲食品を包含する。
飲食品用組成物の包装形態は特に限定されず、適用される形態などに応じて適宜選択できるが、例えば、コーティング紙、PETやPTPなどのプラスチック、アルミなどの金属、ガラスなどを素材とするパック、瓶、缶、パウチ、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋などが挙げられる。
本発明の一態様の組成物が医薬品用組成物である場合は、あらゆる医薬品の形態をとり得るが、例えば、注射剤(筋肉、皮下、皮内)、経口製剤、点鼻製剤などが例示される。医薬品用組成物は、本発明の目的を達成し得る限り、有効成分に加えて、下部尿路症状改善を有する他の生理活性物質を配合してもよい。また、本発明の一態様の医薬品用組成物は、他の生理活性物質を有効成分として含有する他の医薬品と併用してもよい。かかる医薬品としては、例えば、抗コリン剤、α1阻害薬、アドレナリン受容体作動薬(ミラベグロン、TAK259など)、ポリ硫酸ペントサン、塩酸ヒアルロン酸ナトリウム、フラボキサート、セルニチンポーレンエキス、β3受容体刺激薬などが挙げられるが、これらに限定されない。
医薬品用組成物は、膀胱炎、間質性膀胱炎、膀胱癌、膀胱結石、膀胱憩室、週活動膀胱、低活動膀胱、尿道炎、尿道狭窄、尿道憩室、前立腺肥大症、前立腺炎、前立腺癌、脳血管障害、認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、正常圧水頭症、進行性核上性麻痩、大脳白質病変、脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄腫瘍、脊椎変性疾患(脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア)、脊髄血管障害、二分脊椎、糖尿病、骨盤内手術後などの疾患を治療及び/又は予防するための医薬品用組成物という態様をとり得る。
本発明の一態様の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、有効成分と、任意に他の成分とを混合して、所望の剤形に成形する方法などが挙げられる。
本発明の一態様の組成物の使用方法は特に限定されないが、例えば、本発明の一態様の組成物が経口用組成物である場合は、経口用組成物をそのまま、若しくは水などとともに、又は水などで希釈するなどして、飲食することにより経口摂取することができる。使用個体の好みなどに応じて、本発明の一態様の組成物と他の固体物や液状物とを混ぜて経口摂取してもよい。本発明の一態様の組成物を口腔崩壊剤形とした場合は、水なしで経口摂取することができる。
本発明の別の一態様は、本発明の一態様の組成物を個体に投与することにより、該個体の下部尿路症状を改善する工程を含む、下部尿路症状、好ましくは過活動膀胱の改善方法である。本発明の別の一態様は、本発明の一態様の組成物を個体に投与することにより、該個体の膀胱収縮を抑制する工程を含む、膀胱収縮の抑制方法である。投与方法や個体の下部尿路症状の改善効果の確認方法などは、上記項目を適宜参照できる。また、本発明の一態様の方法は、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
以下の実施例において、含水エタノール及び含水メタノールの濃度は「体積%」を示す。
[例1.沖縄県本島産長命草抽出物の解析]
沖縄県本島で採取した長命草の葉及び茎 174.1g(湿重量)を80%含水エタノール 1.5Lに浸漬することにより2日間抽出処理に供した。長命草の残渣を除くために吸引ろ過して得られた粗抽出物を減圧濃縮した。得られた濃縮物に水 60mL及び酢酸エチル 60mLを加えて、液-液分配に供した。酢酸エチル層を回収し、残った水層に酢酸エチル 60mLを加えて液-液分配に供することを2回繰り返した。
回収した酢酸エチル層に90%含水メタノール 60mL及びヘキサン 60mLを加えて、液-液分配に供した。ヘキサン層を回収し、残った90%含水メタノール層にヘキサン 60mLを加えて液-液分配に供することを2回繰り返した。回収した90%含水メタノール層及びヘキサン層を減圧濃縮して得られた濃縮物は、それぞれ821.9mg及び432.2mgであった。
90%含水メタノール層の濃縮物を少量のメタノールに溶解して、ODSゲル 8.0gを充填したカラムに通液した。次いで溶離液として60%含水メタノール 40mL、80%含水メタノール 40mL及びメタノール 40mLを順次通液し、得られたそれぞれの画分を減圧濃縮して、60%含水メタノール画分濃縮物 142.1mg、80%含水メタノール画分濃縮物 318.5mg及びメタノール画分濃縮物 263.4mgを得た。
80%含水メタノール画分濃縮物の全量を少量のメタノールに溶解し、分取HPLC(ODS-HL(20×250)、70%メタノール、UV215nm、5mL/min)により、ピーク成分を分画した。このときのクロマトグラムを図1に示す。得られた各画分を減圧濃縮したところ、Fr.2画分濃縮物 132.1mg、長命草D・E画分濃縮物 17.2mg及び長命草F画分濃縮物 105.6mgを得た。
Fr.2画分濃縮物の全量を少量のメタノールに溶解し、分取HPLC(PBr(20×250)、85%メタノール、UV215nm、5mL/min)により、ピーク成分を分画した。このときのクロマトグラムを図2に示す。得られた各画分を減圧濃縮したところ、長命草A画分濃縮物 96.6mg及び長命草B・C画分濃縮物 30.2mgを得た。
上記のようにして得た画分濃縮物を、NMR及びMSにより分析した結果、長命草A画分濃縮物は長命草Aを含有し、長命草B・C画分濃縮物は長命草B及び長命草Cを含有し(含有比率は、概ね1:1)、長命草D・E画分濃縮物は長命草D及び長命草Eを含有し(含有比率は、概ね1:1)、並びに長命草F画分濃縮物は長命草Fを含有することがわかった。長命草A~Fについて、イソサミジンとともに下記の化合物集合(Z)に示す。なお、長命草A、長命草D及び長命草Eについては、式(Z)においては3’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して手前側に位置し、4’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して奥側に位置するが、これらは逆である可能性、すなわち、3’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して奥側に位置し、4’位の炭素に結合する官能基が紙面に対して手前側に位置する可能性がある(例えば、IH-SHENG CHENらの文献(IH-SHENG CHEN et al., Phytochemistry, Vol. 41, No.2, pp.525-530, 1996)を参照)。
(Z)
長命草A画分濃縮物を長命草Aの標準物質として、長命草B・C画分濃縮物を長命草B及び長命草Cの標準物質として、長命草D・E画分濃縮物を長命草D及び長命草Eの標準物質として、及び長命草F画分濃縮物を長命草Fの標準物質として用いた。これらの標準物質を用いて、HPLCでUV吸収スペクトル強度を測定し、検量線を作成することにより、定量の用に供した。
[例2.沖縄県本島産長命草の成分分析]
沖縄県本島で採取した長命草の葉及び茎の乾燥処理物、該乾燥処理物 10.0g及び該乾燥処理物を80%含水エタノールに浸漬する抽出処理に供して得られた80%エタノール抽出物の濃縮物に含まれる長命草A、長命草B・C、長命草D・E及び長命草Fの含有量を表1に示す。
表1に示すとおり、沖縄県本島産長命草は、長命草Fを最も多く含有していることがわかった。
[例3.沖縄県本島産長命草におけるイソサミジンの検出]
沖縄県本島で採取した長命草の葉及び茎の乾燥処理を80%含水エタノールに浸漬する抽出処理に供して得られた80%エタノール抽出物の濃縮物を以下の条件のHPLCに供した。
カラム:Inertsil ODS-HL(4.6×250mm)
展開溶媒:60% CH3CN
検出UV:215nm
流速:1mL/min
リテンション・タイム:長命草F(16.8min)、イソサミジン(17.3min)
同様に、長命草F、イソサミジン及び80%エタノール抽出物の濃縮物とイソサミジンとの混合物(共打ち)について、上記条件のHPLCに供した。各HPLCのクロマトグラムを図3に示す。
図3に示すとおり、上記条件のHPLCでは、長命草Fとイソサミジンとはリテンション・タイムが相違し、さらに沖縄県本島産長命草にはイソサミジンが含まれていないことがわかった。
同様にして、産地が沖縄県本島糸満市産、沖縄県与那国島産及び鹿児島県喜界島産である長命草は、長命草A、長命草B・C、長命草D・E及び長命草Fを含有するが、イソサミジンを含有しないことがわかった。
[例4.沖縄県西原町産長命草抽出物による排尿障害改善評価]
沖縄県西原町産長命草抽出物の摘出ラット膀胱の収縮に対する作用を評価した。
SD系雄性ラットからイソフルラン麻酔下で膀胱を摘出し、摘出膀胱より短冊形切片を作成し、95%O2/5%CO2で通気したKrebs-Henseleit溶液で満たしたマグヌス装置に懸垂した。1gの静止張力を掛けて安定化を行った。
80mM KCl溶液で収縮を惹起し、controlの収縮とした。その後、例1で得られた長命草A、長命草B・C、長命草D・E及び長命草F(それぞれ30μg/mL)、イソサミジン(30μg/mL)及びVehicle(DMSO 30μL)をマグヌス槽に添加し、5分後に1mM アセチルコリン(ACh)で収縮を惹起した。結果は、KClによるcontrol収縮を100%として相対評価とした。8~10回の試験で得られた値の平均±S.E.を算出した。結果を図4に示す。なお、図中の「*」は Vehicleの値に対する有意差(P<0.001)を示す。また、「+」は、長命草A、長命草B・C、長命草D・E及びイソサミジンに対する有意差(P<0.001)を示す。
図4が示すとおり、長命草A、長命草B・C、長命草D・E及び長命草F並びにイソサミジンはそれぞれ1mM ACh収縮を有意に抑制した。驚くべきことに、長命草A、長命草B・C及び長命草Fは、イソサミジンに比べて強く収縮を抑制した。さらに驚くべきことに、長命草Fは、他の被験物質に比べて、顕著かつ有意に膀胱収縮を抑制した。
したがって、沖縄県本島産長命草の抽出物に加えて、産地が沖縄県本島糸満市産、沖縄県与那国島産及び鹿児島県喜界島産である長命草の抽出物は、長命草A、長命草B・C、長命草D・E及び長命草Fを含有することから、膀胱収縮及びそれに関連する排尿障害を改善する作用をすることがわかった。