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JP7396322B2 - 鋼板 - Google Patents

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JP7396322B2
JP7396322B2 JP2021065738A JP2021065738A JP7396322B2 JP 7396322 B2 JP7396322 B2 JP 7396322B2 JP 2021065738 A JP2021065738 A JP 2021065738A JP 2021065738 A JP2021065738 A JP 2021065738A JP 7396322 B2 JP7396322 B2 JP 7396322B2
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Description

本発明は、鋼板、特に、大入熱溶接に適用可能な鋼板および該鋼板を製造する方法に関する。より具体的には、本発明は、優れた脆性亀裂伝播停止特性と、大入熱溶接後の継手における優れた靱性及び強度とを両立できる、鋼板およびその製造方法に関する。本発明は、船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、建築・土木構造物等の大型構造物に好適に用いることができる。
船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、建築・土木構造物等の大型構造物は、脆性破壊に伴う事故が起きた場合に社会経済及び環境に及ぼす影響が大きい。そのため、大型構造物には安全性の向上が常に求められており、大型構造物に使用される鋼材には、特に、使用温度における靭性及び強度、並びに、脆性亀裂が伝播することを防止する脆性亀裂伝播停止特性(アレスト性能)が高いレベルで要求されている。
例えば、コンテナ船及びバルクキャリアー等の船舶は、一般的な甲板を設けずにハッチカバー上にまで積載する、大きな荷重のかかる波を受けながら海洋を走行するといった構造上及び使用上の理由から、大きな繰り返し曲げ応力を受ける。したがって、船体外板には、この曲げ応力に耐え得る高強度かつ厚肉な鋼板母材を使用することが常であり、近年では、船体の大型化に伴って、鋼板の高強度厚肉化が一層進んでいる。しかし、一般に、鋼板は、高強度又は厚肉となるほど脆性亀裂伝播停止特性に劣る傾向があるため、コンテナ船等に使用される鋼板が有する脆性亀裂伝播停止特性への要求は一段と高まっている。
一方、このようなコンテナ船を造る際は、通常、厚肉の鋼板を、船体の長手方向に連続して接合させなければならないため、作業効率の観点から、エレクトロガスアーク溶接に代表される、1パスによる大入熱溶接を採用することが多い。しかし、この大入熱溶接を施した場合、鋼板の溶接熱影響部(Heat Affected Zone, HAZ)に伝わる大きな熱を通じて、HAZの特性が損なわれてしまうおそれがある。一例として、大入熱溶接時に融点直下の高温に晒されたHAZでは、オーステナイト結晶粒が粗大化し易く、その後の冷却によって靭性に劣る島状マルテンサイトを含んだ上部ベイナイト組織に変態するため、結果としてHAZの靭性が低下することがある。
また、近年では、コンテナ船等の安全性の観点から、大入熱溶接によって得られた、HAZを含む継手においても高い強度を発揮させることの重要性が高まっている。このように、HAZにおける高い靭性及び強度も同時に要求される。
例えば、特許文献1~2には、脆性亀裂伝播停止特性とHAZの靱性とを両立させる技術が提案されている。特許文献1では、(211)面X線強度比を1.0以上として脆性亀裂伝播停止特性を高めるとともに、C,Si,Mn,Al,P,S,Nb,Ti,N,Ca,Bを必須とする化学成分においてCa、S、O量を調整することにより、溶接部におけるフェライトへの変態を促進させてHAZの靭性を向上させている。
また、特許文献2では、{211}集合組織を発達させて脆性亀裂伝播停止特性を高めるとともに、C,Si,Mn,Al,Nb,V,Mo,B,Ti,Nを必須とする組成において、Cを低減させつつNbとMoとの量のバランスを調整することにより、HAZの靭性を向上させている。
一方、特許文献3では、C,Si,Mn,Al,Ti,Nb,B,P,Sを必須とする組成において、Cを低減させてベイナイト単相組織とすることにより、板厚25mmの鋼板母材において、高い引張強度と脆性亀裂伝播停止性能とを両立させている。
特開2013-151743号公報 特開2005-97683号公報 特開2005-97694号公報
ここで、上述したように、大入熱溶接で得られた継手においても高い強度が求められるところ、上述した特許文献1~3のいずれも、溶接継手の強度に着目して検討することはなかった。むしろ、例えば、特許文献1では、HAZの微細組織にフェライトの生成を促進させていることから、溶接継手の強度に劣ることが懸念される。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた脆性亀裂伝播停止特性を発揮しつつ、大入熱溶接後の継手において優れた靱性及び強度をも発揮可能な、鋼板を提供することを目的とする。また、本発明は、このような鋼板を製造可能な方法を提供することを目的とする。
なお、継手の靱性及び強度を向上させるには、当該継手を構成するHAZの靱性及び強度を向上させればよい。
ここで、本明細書において、「大入熱溶接」とは入熱量が150kJ/cmを超える溶接を指し、具体的にはエレクトロガスアーク溶接が挙げられる。
本発明者らは、一般にコンテナ船のハッチサイドコーミング部に用いられる程度の高強度鋼に関して、一般にコンテナ船が使用される程度の低温環境下にて、母材の脆性亀裂伝播停止特性、並びに、大入熱溶接を施した際のHAZにおける靭性及び強度を向上すべく鋭意検討を行い、以下の新たな知見を得た。
なお、一例として、上記検討に際して用いた高強度鋼の引張強度は590N/mm2以上であり、大入熱溶接の入熱量は300kJ/cmであり、使用環境は-10~-20℃の低温環境下を想定した。
(1)大入熱溶接によるHAZの強度を高めるためには、鋼板において、少なくとも0.01%以上のC及び0.50%以上のMnを添加したうえで、後述する式(1)で示される炭素当量(Ceq)を0.37以上に制御すること、並びに、HAZの微細組織がベイナイトとなるようにすることが有効である。
ここで、「HAZの微細組織がベイナイトである」とは、HAZの微細組織においてベイナイトが占める体積率が90%以上であることをいう。
(2)大入熱溶接によるHAZにおいて靱性を向上させるためには、上述のとおりベイナイトとしたHAZの微細組織において、島状マルテンサイト(MA)をほとんど生成させないことにより、靭性の劣化を阻止することが有効である。そして、HAZにおいてMAをほとんど生成させないためには、鋼板が含有するCの含有量を0.03%未満とすることが重要である。
ここで、「MAをほとんど生成させない」とは、HAZの微細組織においてMAが占める体積率が10%以下であることをいう。
(3)上述したHAZの優れた特性を発揮させつつ、鋼板の脆性亀裂伝播停止特性を更に両立させるためには、C、Mnを所定量以上で添加すること、Ceqを所定以上に制御することに加え、鋼板において、板厚の1/2の深さにおける(211)面X線強度が1.8以上となる集合組織とすること、旧オーステナイトの粒径を50μm以下とすることが有効である。また、(211)面X線強度を上記のとおり高めるためには、鋼板におけるベイナイトの体積率を90%以上とすることが有効である。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
1.質量%で、
C: 0.01%以上0.03%未満、
Si:0.50%以下、
Mn:0.50%以上3.00%以下、
P: 0.020%以下、
S: 0.010%以下、
Al:0.060%以下、
N: 0.0100%以下および
O: 0.0100%以下
を含み、下記式(1)で示される炭素当量(Ceq)が0.37以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有し、
板厚の1/2の深さにおける、
(211)面X線強度比が1.8以上であり、
旧オーステナイトの粒径が50μm以下かつベイナイトの体積率が90%以上である微細組織を有する、鋼板。

Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5 (1)
ここで、前記式(1)中、各元素記号は該元素の含有量(質量%)を表し、含有されない元素については0とする。
なお、上述した本発明において、(211)面X線強度比、旧オーステナイトの粒径およびベイナイトの体積率は、それぞれ、後述する実施例に記載の手法に従って測定できる。
2.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cu: 2.00%以下、
Ni: 2.00%以下、
Cr: 2.00%以下、
Mo: 1.00%以下、
V: 1.00%以下、
W: 1.00%以下、
Co: 1.00%以下、
Nb: 0.100%以下、
Ti: 0.100以下、
B: 0.0100%以下、
Ca: 0.0200%以下、
Mg: 0.0200%以下および
REM:0.0200%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有する、上記1に記載の鋼板。
3.質量%で、
C: 0.01%以上0.03%未満、
Si:0.50%以下、
Mn:0.50%以上3.00%以下、
P: 0.020%以下、
S: 0.010%以下、
Al:0.060%以下、
N: 0.0100%以下および
O: 0.0100%以下
を含み、下記式(1)で示される炭素当量(Ceq)が0.37以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有する鋼素材を、
950℃以上1250℃以下の温度に加熱し、
その後、圧延開始温度がAr3点+100℃以上であり、未再結晶領域における1パスあたりの圧下率が5.0%以上及び累計圧下率が50%以上であり、かつ圧延終了温度がAr3点以上である、熱間圧延を施し、
その後、冷却開始温度がAr3点以上であり、板厚の1/2の深さにおける温度が500℃以下になるまでの平均冷却速度が1.0℃/s以上である、冷却を施す、鋼板の製造方法。

Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5 (1)
ここで、前記式(1)中、各元素記号は該元素の含有量(質量%)を表し、含有されない元素については0とする。
4.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cu: 2.00%以下、
Ni: 2.00%以下、
Cr: 2.00%以下、
Mo: 1.00%以下、
V: 1.00%以下、
W: 1.00%以下、
Co: 1.00%以下、
Nb: 0.100%以下、
Ti: 0.100以下、
B: 0.0100%以下、
Ca: 0.0200%以下、
Mg: 0.0200%以下および
REM:0.0200%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有する、上記3に記載の製造方法。
本発明によれば、優れた脆性亀裂伝播停止特性と、大入熱溶接後の継手における優れた靱性及び強度とを両立した鋼板及びその製造方法を提供することができる。
本発明で得られる鋼板は、例えば、コンテナ船の建造の際の施工性に優れた大入熱溶接に好適に適用可能であるため、産業上格段の効果を奏する。
次に、本発明の実施形態について、具体的に説明する。以下の実施形態は、本発明の好適な一例を示すものであり、これらの例によって何ら限定されるものではない。
(鋼板)
本発明の鋼板は、所定の成分組成と所定の微細組織とを有する。本発明の鋼板が有する成分組成では、C,Si,Mn,P,S,Al,NおよびOの各元素の含有量を規定するとともに、所定の式(1)に従うCeqを規定する。また、本発明の鋼板が有する微細組織では、(211)面X線強度比、旧オーステナイトの粒径、およびベイナイトの体積率をそれぞれ規定する。
本発明の鋼板は、脆性亀裂伝播停止特性に優れ、大入熱溶接した後の継手に優れた靱性及び強度を発揮させることができるので、コンテナ船等の大型構造物に好適に使用可能であり、とりわけ、コンテナ船のハッチサイドコーミング部に好適に使用可能である。本発明の鋼板は、好ましくは大入熱溶接用鋼板である。
そして、本発明の鋼板は、例えば、本発明の製造方法によって得ることができる。
[成分組成]
まず、本発明において鋼板の成分組成を限定する理由を説明する。
なお、成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
C:0.01%以上0.03%未満
Cは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、母材、及び、大入熱溶接によるHAZにおいて所望の強度を達成するために必要である。また、Cは、鋼の集合組織の発達にも影響し、(211)面X線強度を高めて所望の脆性亀裂伝播停止特性を達成するためにも、重要な元素の1つである。前記効果を得るためには、C含有量を0.01%以上とし、0.010%以上とすることができる。また、他の合金元素の含有量を少なくして、より低コストで鋼板を製造するという観点からは、C含有量は0.012%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が多いと、母材及びHAZにおける靭性が低下する。特に、HAZについては、C含有量が多いと、大入熱溶接に起因してオーステナイトが粗大化して変態したり、MAが生成したりすることにより、靭性が大幅に低下する。また、靭性の大幅な低下に伴い、かえってHAZにおいて脆性亀裂伝播し易くなる。これらの観点から、C含有量は0.03%未満とし、0.030%未満とすることができる。また、靱性の低下を更に抑制する観点、溶接性の低下を抑制する観点からは、C含有量を0.028%以下とすることが好ましい。
Si:0.50%以下
Siは、脱酸剤として作用する元素であるが、一方で靭性及び溶接性の低下を招く元素である。そのため、高い靭性及び溶接性を確保するために、Siの含有量をできる限り低くすることが望ましいが、0.50%以下であれば許容できる。なお、鋼の脱酸はAl及び/又はTiなどでも十分可能であることから、Si含有量の下限は特に限定されず、0%であってよく、製造容易性の観点からは0%超とすることができる。靭性及び溶接性をより良好にする観点からは、Si含有量を0.40%以下とすることが好ましく、0.30%以下とすることがより好ましい。
Mn:0.50%以上3.00%以下
Mnは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、母材、及び、大入熱溶接によるHAZにおける高強度を満足させるために必要である。また、Mnは、鋼の集合組織の発達にも影響し、(211)面X線強度を高めて所望の脆性亀裂伝播停止特性を達成するためにも、重要な元素の1つである。前記効果を得るためには、Mn含有量を0.50%以上とする。また、他の合金元素の含有量を少なくして、より低コストで鋼板を製造するという観点からは、Mn含有量は0.70%以上とすることが好ましく、0.90%以上とすることがより好ましい。一方、Mn含有量が多いと、靭性及び溶接性が低下することに加え、合金コストが過度に高くなってしまう。これらの観点から、Mn含有量は3.00%以下とする。また、靭性及び溶接性の低下を更に抑制する観点、コストを更に抑制する観点からは、Mn含有量を2.80%以下とすることが好ましく、2.60%以下とすることがより好ましい。
P:0.020%以下
Pは、粒界に偏析することによって靱性及び溶接性を低下させるといった悪影響を及ぼす。そのため、できる限りP含有量を低くすることが望ましいが、0.020%以下であれば許容できる。一方、P含有量の下限は特に限定されず、0%であってよい。通常、Pは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってもよい。また、Pを過剰に低減することは精錬コストの高騰を招くため、コストの観点からは、P含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。
S:0.010%以下
Sは、MnS等の硫化物系介在物として鋼中に存在し、靭性を低下させる、脆性破壊の発生起点となるといった悪影響を及ぼす。そのため、できる限りS含有量を低くすることが望ましいが、0.010%以下であれば許容できる。一方、S含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。通常、Sは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってもよい。また、Sを過剰に低減することは精錬コストの高騰を招くため、コストの観点からは、S含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。
Al:0.060%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、結晶粒を微細化する作用を有する元素である。これらの効果を得るためには、Al含有量を0.010%以上とすることが好ましい。一方、Al含有量が0.060%を超えると、酸化物系介在物が増加して清浄度が低下する。そのため、Al含有量は0.060%以下とする。Al含有量は0.050%以下とすることが好ましく、0.040%以下とすることがより好ましい。
N:0.0100%以下
Nは不可避的不純物として含有される元素であるが、特に低減すべき元素であるため、その含有量を規定する。Nは、窒化物を形成し、脆性破壊の発生起点となるといった悪影響を及ぼす。そのため、N含有量を0.0100%以下に制限する。N含有量は、0.0080%以下とすることが好ましく、0.0060%以下とすることがより好ましい。一方、N含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。通常、Nは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。また、Nを過剰に低減することは精錬コストの高騰を招くため、コストの観点からは、N含有量を0.0020%以上とすることが好ましい。
O:0.0100%以下
Oは不可避的不純物として含有され得る元素であるが、特に低減すべき元素であるため、その含有量を規定する。Oは、酸化物を形成し、脆性破壊の発生起点となるため、とりわけHAZの靭性に対して悪影響を及ぼす。O含有量が0.0100%超ではHAZの靭性を十分に高めることができない。したがって、O含有量を0.0100%以下に制限する。O含有量は、0.0050%以下とすることが好ましく、0.0030%以下とすることがより好ましい。一方、O含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。通常、Oは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。また、Oを過剰に低減することは精錬コストの高騰を招くため、コストの観点からは、O含有量を0.0020%以上とすることが好ましい。
0.37≦Ceq
鋼板における優れた脆性亀裂伝播停止特性、及び、大入熱溶接によるHAZにおける優れた強度を両立するために、Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5の式(1)で定義される炭素当量を0.37以上とすることが肝要である。また、0.37以上と十分に高いCeqは、鋼板母材の強度を高める観点からも有効である。上記の効果を得るためには、Ceqは0.38以上であることが好ましく、0.39以上であることがより好ましく、0.40以上であることがさらに好ましい。
一方、Ceqの上限は特に限定されない。通常の炭素鋼であれば、Ceqが高いほど母材及びHAZの強度は高まるものの、比較的多量のCに起因して粗大化ベイナイトの間にMAが生成し、靭性が大幅に低下する。しかし、本発明の鋼板が含有するCは比較的少量であるため、強度を過度に高めずに、良好な靭性を確保することができる。しかしながら、合金コストが過度に高くなってしまうことを避けるため、すなわちコストの観点からは、Ceqを0.60以下とすることが好ましく、0.55以下とすることがより好ましい。
本発明の鋼板における基本的な成分組成は、以上に説明した含有量の各元素を含み、残部がFeおよび他の不可避的不純物である。この基本成分組成は、更なる特性の向上、特には強度又は靭性の向上を目的として、任意に、Cu:2.00%以下、Ni:2.00%以下、Cr:2.00%以下、Mo:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下、Co:1.00%以下、Nb:0.100%以下、Ti:0.100%以下、B:0.0100%以下、Ca:0.0200%以下、Mg:0.0200%以下、および、REM:0.0200%以下のうちから選ばれる1種以上をさらに含有することができる。
Cu:2.00%以下
Cuは、鋼の焼入れ性を増加させて鋼板の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。Cuを添加する場合、前記効果を得るためにCu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cu含有量が2.00%を超えると、靭性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Cuを添加する場合、Cu含有量を2.00%以下とすることが好ましい。Cu含有量は、0.20%以上がより好ましく、1.00%以下がより好ましい。
Ni:2.00%以下
Niは、Cuと同様に鋼板の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。Niを添加する場合、前記効果を得るためにNi含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Ni含有量が2.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Niを添加する場合、Ni含有量を2.00%以下とすることが好ましい。Ni含有量は、0.20%以上がより好ましく、1.00%以下がより好ましい。
Cr:2.00%以下
Crは、Cuと同様に鋼板の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにCr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cr含有量が2.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Crを添加する場合、Cr含有量を2.00%以下とする。Cr含有量は、0.05%以上がより好ましく、1.00%以下がより好ましく、0.50%以下が更に好ましい。
Mo:1.00%以下
Moは、Cuと同様に鋼板の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにMo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Mo含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Moを添加する場合、Mo含有量を1.00%以下とすることが好ましい。Mo含有量は、0.05%以上がより好ましく、0.50%以下がより好ましい。
V:1.00%以下
Vは、Cuと同様に鋼板の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにV含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、V含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Vを添加する場合、V含有量を1.00%以下とすることが好ましい。V含有量は、0.05%以上がより好ましく、0.50%以下がより好ましい。
W:1.00%以下
Wは、Cuと同様に鋼板の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにW含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、W含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Wを添加する場合、W含有量を1.00%以下とすることが好ましい。W含有量は、0.05%以上がより好ましく、0.50%以下がより好ましい。
Co:1.00%以下
Coは、Cuと同様に鋼板の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにCo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Co含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Coを添加する場合、Co含有量を1.00%以下とすることが好ましい。Co含有量は、0.05%以上がより好ましく、0.50%以下がより好ましい。
Nb:0.100%以下
Nbは、炭窒化物として鋼中に析出することで旧オーステナイト粒径を小さくし、鋼板及び溶接継手における靭性を向上させる効果を有する元素である。Nbを添加する場合、前記効果を得るために、Nb含有量を0.005%以上とすることが好ましく、0.007%以上とすることがより好ましい。一方、Nb含有量が0.100%を超えると、NbCが鋼中に多量に析出し、かえって鋼の靭性が低下する。そのため、Nbを添加する場合、Nb含有量を0.100%以下とすることが好ましく、0.080%以下とすることがより好ましく、0.060%以下とすることが更に好ましく、0.045%以下とすることが一層好ましい。また、高合金化を回避してコストを抑制する観点からも、Nbを添加する場合、Nb含有量の上限を上記のとおりとすることが好ましい。
なお、鋼板において良好な靭性を確保するためには、Nbを必須成分とすることが通常であるが、本発明では、Nbを含有せずとも、HAZにおいて良好な靭性を発揮させることができる。
Ti:0.100%以下
Tiは、窒化物の形成傾向が強く、Nを固定して固溶Nを低減する作用を有する元素である。そのため、Tiの添加により、母材及び溶接継手における靭性を向上させることができる。この効果を得るためには、Ti含有量を0.005%以上とすることが好ましく、0.010%以上とすることがより好ましく、0.012%以上とすることが更に好ましい。一方、Ti含有量が0.100%を超えると、かえって靭性が低下する。そのため、Ti含有量は0.100%以下とすることが好ましく、0.090%以下とすることがより好ましく、0.080%以下とすることが更に好ましい。
B:0.0100%以下
Bは、微量の添加でも焼入れ性を著しく向上させる作用を有する元素である。したがって、鋼板の強度を向上させることができる。前記効果を得るために、Bを添加する場合、B含有量を0.0001%以上とすることが好ましく、0.0005%以上とすることがより好ましく、0.0010%以上とすることが更に好ましい。一方、B含有量が0.0100%を超えると溶接性が低下する。そのため、Bを添加する場合、B含有量を0.0100%以下とすることが好ましく、0.0050%以下とすることがより好ましく、0.0030%以下とすることが更に好ましい。また、高合金化を回避してコストを抑制する観点からも、Bを添加する場合、B含有量の上限を上記のとおりとすることが好ましい。
なお、鋼板において良好な強度を確保するためには、Bを必須成分とすることが通常であるが、本発明では、Bを含有せずとも、HAZにおいて良好な強度を発揮させることができる。
Ca:0.0200%以下
Caは、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Caを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接継手等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Caを添加する場合、Ca含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0020%以上とすることがより好ましい。一方、Ca含有量が0.0200%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状が劣化と、曲げ加工性の低下とを招く。そのため、Caを添加する場合、Ca含有量を0.0200%以下とすることが好ましく、0.0100%以下とすることがより好ましく、0.0050%以下とすることが更に好ましい。
Mg:0.0200%以下
Mgは、Caと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Mgを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接継手等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0020%以上とすることがより好ましい。一方、Mg含有量が0.0200%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状の劣化と、曲げ加工性の低下とを招く。そのため、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0200%以下とすることが好ましく、0.0100%以下とすることがより好ましく、0.0050%以下とすることが更に好ましい。
REM:0.0200%以下
REM(希土類金属)は、CaやMgと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、REMを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接継手等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、REMを添加する場合、REM含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0015%以上とすることがより好ましい。一方、REM含有量が0.0200%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状の劣化と、曲げ加工性の低下とを招く。そのため、REMを添加する場合、REM含有量を0.0200%以下とすることが好ましく、0.0100%以下とすることがより好ましく、0.0080%以下とすることが更に好ましく、0.0050%以下とすることが一層好ましい。
なお、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称であり、これらの元素のうちの1種または2種以上を含有させることができる。また、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
次いで、本発明の鋼板における集合組織および微細組織について説明する。
[集合組織]
板厚の1/2の深さにおける(211)面X線強度比:1.8以上
本発明の鋼板では、板厚方向に貫通しながら圧延方向に直角な方向(板幅方向)を伝播する亀裂に対する脆性亀裂伝播停止特性を向上させるために、板厚tの中央である1/2tに位置する、鋼板表面(板面)に平行な面における(211)面X線強度比を1.8以上に規定する。板厚中央部1/2tにおいて上記板面と平行な圧延面に(211)面を発達させた集合組織にすれば、亀裂の優先伝播の方向である(001)面が板幅方向に対して角度を有し、脆性亀裂が伝播する径路をジグザグにして伝播エネルギーを吸収できるため、脆性亀裂伝播停止特性の向上に有効である。上記の観点から、1/2tにおける(211)面X線強度比は1.9以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。また、1/2tにおける(211)面X線強度比は、通常3.0以下である。
ここで、(211)面X線強度比とは、対象材の(211)結晶面の集積度を表す数値であり、対象材の(211)反射のX線回折強度(I(211))と、集合組織のないランダムな標準試料の(211)反射のX線回折強度(I0(211))との比(I(211)/I0(211))として算出される。
[微細組織]
1/2tにおけるベイナイトの体積率:90%以上
鋼板表面と平行な圧延面における(211)面は、圧延時に加工されたオーステナイト組織がフェライト及び/又はベイナイト組織に変態することにより発達する。しかしながら、フェライト-セメンタイト組織に変態した場合は、微細組織の形成機構の違いにより、(211)面が揃った集合組織に発達しづらい。したがって、変態後の微細組織をベイナイト組織とすることが、高い(211)面X線強度比を実現するために有効である。この観点から、本発明の鋼板では、板厚中心部1/2tにおけるベイナイトの体積率を90%以上と規定とし、95%以下であることが好ましく、勿論100%であっても構わない。ベイナイトの体積率を上記の範囲とすることにより、鋼板母材の脆性亀裂伝播停止特性を向上させることができる。
また、ベイナイトの体積率が上記の範囲を満たす限り、残りの微細組織には、フェライト、パーライト等のベイナイト以外が存在していてもよい。
1/2tにおける旧オーステナイト粒径:50μm以下
脆性亀裂伝播特性を高めて亀裂の進行を抑制する前提として、鋼板の靭性を良好にすることが有効である。ここで、鋼板の微細組織がベイナイトである場合、靭性は旧オーステナイト粒径に律速され、旧オーステナイト粒径が細かいほど靭性は良好になる。そこで、鋼板の靱性を良好にし、鋼板に優れた脆性亀裂伝播停止性能を発揮させるために、ベイナイト組織に変態する前の旧オーステナイト粒径を50μm以下とする必要がある。旧オーステナイト粒径は、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることが更に好ましい。また、上記旧オーステナイト粒径は、通常10μm以上である。
板厚
本発明の鋼板の板厚は特に限定されないが、例えば、コンテナ船におけるハッチサイドコーミング部に適用される場合、50mm以上であることが好ましく、65mm以上であることがより好ましく、100mm以下であることが好ましく、80mm以下であることがより好ましい。鋼板の板厚が上記下限を下回ると、例えば、コンテナ船におけるハッチカバー上部にまで貨物を積載することが困難となる。また、鋼板の板厚が上記上限を上回ると、所望の強度を出すことが困難となる。
(鋼板の製造方法)
本発明の製造方法では、所定の成分組成を有する鋼素材に対し、所定の条件にて、加熱、熱間圧延、および冷却を行って、鋼板、好ましくは大入熱溶接用鋼板を得る。本発明の製造方法に供する鋼素材は、鋼板について上述した成分組成と同様の特徴を有する。また、本発明の製造方法における加熱工程では加熱温度を規定し;熱間圧延工程では圧延開始温度、未再結晶領域における1パスあたりの圧下率及び累計圧下率、並びに圧延終了温度を規定し;冷却工程では冷却開始温度及び平均冷却速度を規定する。
本発明の製造方法によって得られる鋼板は、脆性亀裂伝播停止特性に優れ、大入熱溶接後のHAZに優れた靱性及び強度を発揮させることができる。したがって、本発明の製造方法は、コンテナ船等の大型構造物の製造に好適に使用可能である。
なお、鋼素材の製造条件は、鋼素材が所定の成分組成を有する限り、特には限定されない。鋼素材は、例えば、上述した成分組成を有する溶鋼を、転炉等の公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の公知の鋳造方法にて、所望の寸法を有するスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。なお、造塊-分解圧延法により、所望の寸法を有するスラブ等の鋼素材としても何ら問題はない。
これより詳述する製造工程における温度は、別段の記載がない限り、各鋼材の板厚中央部(1/2t)における温度とする。
[加熱工程]
鋼素材の加熱温度:950℃以上1250℃以下
鋼素材の加熱温度は950℃以上1250℃以下である必要がある。加熱温度が950℃未満では、加熱温度が低すぎて変形抵抗が高くなり、熱間圧延機への負荷が増大するので、後に続く熱間圧延が困難になる。一方、加熱温度が1250℃を超える高温では、オーステナイト粒が粗大化して、鋼板母材及び大入熱溶接によるHAZにおける靭性の低下を招くばかりか、酸化が著しくなって酸化ロスが増大し、歩留りが低下するおそれがある。加熱温度は、1000℃以上が好ましく、1150℃以下が好ましい。
[熱間圧延工程]
圧延開始温度:Ar3点+100℃以上
上述のとおり加熱された鋼素材を熱間圧延するに際し、圧延を開始する温度がAr3点+100℃未満では、熱間圧延された熱延板において再結晶が十分に起こらないため、オーステナイト粒径が細かくならない。オーステナイト粒径が十分に微細化されなかった熱延板を用いて鋼板を製造しても、鋼板の靱性が低下するため、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。そのため、圧延開始温度はAr3点+100℃以上とする。後述の未再結晶領域において圧延を行う時間を確保する観点からは、圧延開始温度はAr3点+150℃以上とするのが好ましく、Ar3点+200℃以上とするのがより好ましい。また、圧延開始温度の上限は、通常、上述した鋼素材の加熱温度に従えばよい。
なお、Ar3点(℃)は以下の式(2)にしたがって求めることができる。
Ar3
=910-273C-74Mn-57Ni-16Cr-9Mo-5Cu (2)
ここで、式(2)中、各元素記号は該元素の鋼中含有量(質量%)を表し、含有されない元素については0とする。
未再結晶領域における圧下率/パス:5.0%以上かつ累計圧下率:50%以上
未再結晶領域(本明細書においては、Ar3点+50℃以下とすることができる)において、1パスあたりの圧下率が5.0%未満、又は、累積圧下率が50%未満であると、オーステナイトに対する十分な加工の効果が得られない。オーステナイトが十分に加工されないと、後述する冷却工程後の(211)面X線強度比が低下し、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。そのため、未再結晶領域において、1パスあたりの圧下率を5.0%以上かつ累計圧下率を50%以上に規定する。
(211)面X線強度比を更に高めて、脆性亀裂伝播停止特性を更に向上させる観点からは、未再結晶領域での圧下率/パスを8.0%以上とすることが好ましく、10%以上とすることがより好ましく、12%以上とすることが更に好ましい。一方、圧延機への負荷が大きくなりすぎる観点からは、未再結晶領域での圧下率/パスを20%以下とするのが好ましい。
未再結晶領域での累積圧下率は、脆性亀裂伝播停止特性を更に向上させる観点から、55%以上とするのが好ましく、60%以上とするのがより好ましい。一方、未再結晶領域での累積圧下率が70%を超えることは、再結晶領域の累計圧下率が十分に確保できないことに繋がるため、オーステナイト粒径が十分に微細化されない。オーステナイト粒径が十分に微細化されないと、鋼板の靱性が低下し、脆性亀裂伝播停止特性がかえって悪化するため、未再結晶領域での累積圧下率は70%未満とするのが好ましい。
なお、1パスあたりの圧下率は、パスを複数回行う場合は、各パスの圧下率のうち最低圧下率が上記範囲内となるように(換言すれば、全てのパスが上記下限を満たすように)制御すればよい。
圧延終了温度:Ar3点以上
熱間圧延工程は、Ar3変態点以上の温度で終了する必要がある。熱間圧延に際して温度がAr3変態点未満となると、鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイト体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、低温ほど変形抵抗が増加するため、熱間圧延機への負荷が大きくなる。熱間圧延温度は、Ar3点+20℃以上であることが好ましい。また、圧延終了温度の上限は、通常、上述した圧延開始温度に従えばよい。
[冷却工程]
冷却開始温度:Ar3点以上
上述のとおり熱間圧延を経て得られた熱延板に対し、Ar3変態点以上の温度にて冷却を開始する必要がある。冷却開始温度がAr3変態点を下回ると、鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイト体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。そのため、冷却開始温度はAr3変態点以上とする。
1/2tにおける温度が500℃以下になるまでの平均冷却速度:1.0℃/s以上
平均冷却速度が1.0℃/s未満であると、徐冷により鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイト体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。そのため、板厚tの1/2の深さ1/2tにおける平均冷却速度は1.0℃/s以上とし、好ましくは3.0℃/s以上とする。一方、平均冷却速度の上限は特に限定されないが、過度の急冷による冷却コストの増大を回避するため、20℃/s以下とすることが好ましい。
ここで、鋼素材に含有されるC量が低い場合、通常、冷却工程後の微細組織はフェライトになり易い。この点に関し、従来は、例えば、Bを添加することでベイナイト組織化を図っていた。しかし、本発明の製造方法によれば、鋼素材の成分組成としてBを添加せずとも、Ceqを所定の高い範囲に制御してベイナイトへの変態点を下げるとともに、熱延板の冷却速度を上記のとおりある程度急冷とすることにより、鋼板の微細組織を所望のベイナイトとすることに成功している。そして、この鋼板を大入熱溶接した後のHAZにおいても、その微細組織をベイナイトとして、フェライト及び島状マルテンサイトの生成を防止することにより、HAZに優れた靭性と強度とを実現させている。
上記の冷却工程は、1/2tにおける温度が500℃以下になるまで、換言すれば、冷却停止温度:500℃以下で行う必要がある。冷却停止温度が500℃を超えると、鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイト体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。一方、冷却停止温度の下限は限定されないが、冷却停止温度が低すぎると鋼板の形状が悪くなるため、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは300℃以上である。
上述した成分組成を有する鋼素材に対し、上述した製造工程を施すことにより、上述した微細組織を有する鋼板を得ることができる。かくして得られる鋼板は優れた脆性亀裂伝播停止特性を備える。また、かくして得られる鋼板を大入熱溶接したHAZは優れた強度特性及び靭性を兼ね備えるので、該HAZを含む溶接継手も優れた強度特性及び靭性を兼ね備える。ここで、本明細書において、実施例で詳述する、-10℃におけるKca値(Kca(-10℃)):6000N/mm3/2以上である場合を優れた脆性亀裂伝播停止特性とし、引張強度(TS):570MPa以上である場合を優れた強度特性とし、-20℃における吸収エネルギー(vE-20℃):47J以上である場合を優れた靭性とする。
また、本発明の鋼板は、通常の炭素鋼と比較して炭素量が低く抑えられた成分組成をもって製造されている。したがって、大入熱溶接された際のHAZにおいて、通常の炭素鋼の場合よりも、オーステナイトの粗大化、並びに、フェライト及び島状マルテンサイトの生成を回避することができ、HAZにおいて高いTS及び高いvE-20℃を両立することができる。そして、該HAZを含む溶接継手においても高いTS及び高いvE-20℃を両立することができる。このように、本発明の鋼板及びその製造方法は、高い脆性亀裂伝播停止特性に加え、大入熱溶接による継手で亀裂伝播し易いという従来の問題を解消するものであり、大入熱溶接に好適に適用可能である。
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。また、以下の実施例は、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、そのような態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に示す成分組成の溶鋼を溶製し、鋼素材(スラブ)とした。これらの鋼素材に、表2に示す条件で、加熱、熱間圧延および冷却を施して、鋼板を得た。
得られた各鋼板について、表面から板厚の1/2深さ(板厚中心部、表中には1/2tと記す)における、(211)面X線強度比、ベイナイトの体積率および旧オーステナイトの粒径を測定した。また、当該鋼板について、母材特性として、引張強度TS及び脆性亀裂伝播停止特性Kca値を評価した。
さらに、当該鋼板それぞれから採取した継手用試験板に、V開先加工を施し、市販の低温用鋼用溶接用ワイヤを使用して溶接入熱300kJ/cmのエレクトロガスアーク溶接を行い、大入熱溶接による継手を作製した。そして、得られた継手を用いて、引張強度TS及び靭性vE-20℃を評価した。各試験方法は、次のとおりである。なお、このように、得られた継手を用いて評価した特性をHAZ特性とした。
[1/2tでの(211)面X線強度比]
鋼板の板厚中央部を板厚中心として板厚1mmのサンプルを採取し、サンプルの表面に平行な面を機械研磨及び電解研磨することにより、X線回折用の試験片を用意した。この試験片を用いて、Mo線源を用いてX線回折装置を使用して、X線回折測定を実施し、(211)面X線強度比を求めた。
[1/2tでのベイナイトの体積率]
鋼板から、板厚中心部が観察面となるように、サンプルを採取した。採取したサンプルの表面を鏡面研磨し、更にナイタール腐食した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10mm×10mmの範囲を撮影した。撮影された像について画像解析装置を用いて解析することによりベイナイト組織の分率を求め、その値を体積率とした。
いずれの場合も、微細組織の分率を求める際のベイナイト組織の判別は、次のとおりに行った。すなわち、サンプルの表面を鏡面研磨し、ナイタールエッチングして組織を現出させたうえで500~3000倍に拡大してSEMで観察した。SEM像において、細長く成長したラス状のフェライト組織を有し、円相当径で0.05μm以上の炭化物を含む組織をベイナイト組織と判別した。
[1/2tでの旧オーステナイトの粒径]
鋼板から、板厚中心部が観察面となるように、サンプルを採取した。採取したサンプルの表面を鏡面研磨し、さらにピクリン酸で腐食した後、光学顕微鏡を用いて10mm×10mmの範囲を撮影した。撮影された像について画像解析装置を用いて解析することにより旧オーステナイト粒径の面積を求め、円相当直径として算出した。
[母材の引張強度]
鋼板の板厚中心部から、圧延方向に直角の方向に、当該板厚中心部が試験片の中心となるようにJIS Z 2201の14A号試験片を採取した。採取した試験片について、JIS Z 2241の要領で引張試験を行い、引張強度TS(単位:MPa)を測定した。
[母材の脆性亀裂伝播停止特性]
鋼板について、温度勾配型ESSO試験を行い、脆性亀裂伝播停止特性として、-10℃におけるKca値(Kca(-10℃))(単位:N/mm3/2)を測定した。
[HAZでのベイナイトの体積率]
大入熱溶接により得られた継手から、HAZ部が観察面となるように、サンプルを採取した。採取したサンプルの表面を鏡面研磨し、更にナイタール腐食した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて溶接線方向に沿って10mm×10mmとなる範囲を撮影した。撮影された像について画像解析装置を用いて解析することによりベイナイト組織の分率を求め、その値を体積率とした。
ベイナイト組織の判別は、上述した手法に従った。
[HAZでのMAの体積率]
大入熱溶接により得られた継手から、HAZ部が観察面となるように、サンプルを採取した。採取したサンプルの表面を鏡面研磨し、更にナイタール腐食した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて溶接線方向に沿って10mm×10mmとなる範囲を撮影した。撮影された像について画像解析装置を用いて解析することによりMAの分率を求め、その値を体積率とした。
島状マルテンサイト組織の判別は、次のとおりに行った。サンプルの表面を鏡面研磨し、ナイタールエッチングして組織を現出させたうえで500~3000倍に拡大してSEMで観察した。SEM像において、細長く成長したラス状のフェライト組織(すなわちベイナイト組織)に囲まれる、炭化物を含まない組織を島状マルテンサイト組織と判別した。
[HAZの引張強度]
大入熱溶接により得られた継手から、溶接方向と垂直の方向にNK U2A号試験片を採取した。採取した試験片について、JIS Z 2241の要領で引張試験を行い、引張強さTS(単位:MPa)を測定した。
[HAZの靭性]
大入熱溶接により得られた継手の表面から深さ1mmを試験片表層とし、HAZ部を切欠位置とするようなNK U4号衝撃試験片を採取した。採取した試験片について、試験温度-20℃でシャルピー衝撃試験を実施し、同一条件で実施した試験片3本の吸収エネルギーの平均値vE-20℃(単位:J)を、靭性として求めた。
かくして得られた評価結果を表2に併記する。
Figure 0007396322000001
Figure 0007396322000002
Figure 0007396322000003
表1及び2から分かるように、発明例はいずれも、母材のKca値が6000N/mm3/2以上の高い脆性亀裂伝播停止特性を発揮するとともに、大入熱溶接によるHAZのTS及びvE-20℃がそれぞれ570MPa以上及び47J以上と、高い強度及び靭性を両立していた。このように、発明例の鋼板は、大入熱溶接に適用可能であることがわかる。
一方、比較例に相当する鋼板No.10~18は、板厚中心部の(211)面X線強度比、ベイナイトの体積率、及び旧オーステナイトの粒径のうち少なくともいずれかが本発明の条件を満たしておらず、結果として、母材の脆性亀裂伝播停止特性に劣っている。また、比較例に相当する鋼板No.30~40、42は、鋼素材の成分組成が本発明の条件を満たしていない。具体的には、鋼板No.30は、炭素量が低過ぎるために所望の集合組織への発達程度が低く、母材の脆性亀裂伝播停止特性及びHAZの強度に劣っている。鋼板No.31は、炭素量が高過ぎるために所望の集合組織への発達程度及びベイナイト組織分率が低く、母材の脆性亀裂伝播停止特性及びHAZの靱性に劣っている。鋼板No.32、34~40は、種々の元素の添加量が本発明で規定する上限を上回っており、HAZの靱性に劣っている。鋼板No.33、42は、それぞれマンガン量又はCeqが本発明で規定する下限を下回っており、所望の集合組織への発達程度及びベイナイト組織分率が低く、母材の脆性亀裂伝播停止特性及びHAZの強度に劣っている。
本発明によれば、母材における優れた脆性亀裂伝播停止特性と、大入熱溶接後の継手における優れた靱性及び強度とを両立した鋼板及びその製造方法を提供可能である。

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C: 0.01%以上0.03%未満、
    Si:0.50%以下、
    Mn:0.50%以上3.00%以下、
    P: 0.020%以下、
    S: 0.010%以下、
    Al:0.060%以下、
    N: 0.0100%以下および
    O: 0.0100%以下
    を含み、下記式(1)で示される炭素当量Ceqが0.37以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有し、
    板厚の1/2の深さにおける、
    (211)面X線強度比が1.8以上であり、
    旧オーステナイトの円相当直径が50μm以下かつベイナイトの体積率が90%以上である微細組織を有する、鋼板。

    Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5 (1)
    ここで、前記式(1)中、各元素記号は該元素の質量%での含有量を表し、含有されない元素については0とする。
  2. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Cu: 2.00%以下、
    Ni: 2.00%以下、
    Cr: 2.00%以下、
    Mo: 1.00%以下、
    V: 1.00%以下、
    W: 1.00%以下、
    Co: 1.00%以下、
    Nb: 0.100%以下、
    Ti: 0.100以下、
    Ca: 0.0200%以下、
    Mg: 0.0200%以下および
    REM:0.0200%以下
    のうちから選ばれる1種以上を含有する、請求項1に記載の鋼板。
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