以下、図面を参照しつつ、本実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
[各実施の形態の基礎となる構成]
<全体構成>
図1は、電力変換装置100の構成例を示す図である。図1を参照して、電力変換装置100は、交流系統2と直流回路4との間に接続されている。直流回路4は、電力変換器6の直流端子に接続された蓄電要素を含む。蓄電要素は、例えば、電気二重層コンデンサ、あるいはリチウムイオン電池等の蓄電池を含む蓄電装置である。あるいは、直流回路4は、電力変換器6の直流端子に接続された他の電力変換器の直流端子を含む。この場合、2台の電力変換器を連結することによって定格周波数などが異なる交流電力系統間を接続するためのBTB(Back To Back)システムが構成される。
電力変換装置100は、自励式の電力変換器6と、電力変換器6を制御するための制御装置5とを含む。典型的には、電力変換器6は、互いに直列接続された複数の変換器セル(図1中の「セル」に対応)1を含むモジュラーマルチレベル変換器によって構成される。「変換器セル」は、「サブモジュール(sub module)」あるいは「単位変換器」とも称される。
電力変換器6は、直流回路4に接続されており、直流回路4と交流系統2との間で電力変換を行なう電力変換器である。具体的には、電力変換器6は、直流回路4から出力される直流電力を交流電力に変換して、当該交流電力を変圧器3を介して交流系統2に出力する。また、電力変換器6は、交流系統2からの交流電力を直流電力に変換して、当該直流電力を直流回路4に出力する。
図1の例では、電力変換器6は、交流系統2の相ごとに複数のアームを含む。具体的には、電力変換器6は、正極直流端子(すなわち、高電位側直流端子)Npと、負極直流端子(すなわち、低電位側直流端子)Nnとの間に互いに並列に接続された複数のレグ回路8u,8v,8w(以下、総称する場合または任意のものを示す場合、「レグ回路8」と記載する)を含む。
レグ回路8は、交流を構成する複数相の各々に設けられる。レグ回路8は、交流系統2と直流回路4との間に接続され、両回路間で電力変換を行なう。図1には交流系統2が三相交流の場合が示されており、U相、V相、W相にそれぞれ対応して3個のレグ回路8u,8v,8wが設けられる。
レグ回路8u,8v,8wにそれぞれ設けられた交流端子Nu,Nv,Nwは、変圧器3を介して交流系統2に接続される。交流系統2は、例えば、交流電源などを含む三相交流電力系統である。図1では、図解を容易にするために、交流端子Nv,Nwと変圧器3との接続は図示していない。各レグ回路8に共通に設けられた直流端子(すなわち、正極直流端子Np,負極直流端子Nn)は、直流回路4に接続される。
図1の変圧器3を用いる代わりに、レグ回路8u,8v,8wは、連系リアクトルを介して交流系統2に接続した構成としてもよい。さらに、交流端子Nu,Nv,Nwに代えてレグ回路8u,8v,8wにそれぞれ一次巻線を設け、この一次巻線と磁気結合する二次巻線を介してレグ回路8u,8v,8wが変圧器3または連系リアクトルに交流的に接続するようにしてもよい。この場合、一次巻線を下記のリアクトル7a,7bとしてもよい。すなわち、レグ回路8は、交流端子Nu,Nv,Nwまたは上記の一次巻線など、各レグ回路8u,8v,8wに設けられた接続部を介して電気的(すなわち、直流的または交流的)に交流系統2に接続される。
レグ回路8uは、正極直流端子Npから交流端子Nuまでの正側アーム13puと、負極直流端子Nnから交流端子Nuまでの負側アーム13nuとを含む。正側アーム13puと負側アーム13nuとの接続点が、交流端子Nuとして変圧器3と接続される。正極直流端子Npおよび負極直流端子Nnが直流回路4に接続される。レグ回路8vは正側アーム13pvと負側アーム13nvとを含み、レグ回路8wは正側アーム13pwと負側アーム13nwとを含む。
以下では、正側アーム13pu,13pv,13pwについて、総称する場合または任意のものを示す場合、「正側アーム13p」と記載する。負側アーム13nu,13nv,13nwについて、総称する場合または任意のものを示す場合、「負側アーム13n」と記載する。正側アーム13pu,13pv,13pwおよび負側アーム13nu,13nv,13nwについて、総称する場合または任意のものを示す場合、「アーム13」と記載する。
レグ回路8v,8wはレグ回路8uと同様の構成を有しているので、以下、レグ回路8uを代表として説明する。レグ回路8uにおいて、正側アーム13puは、互いにカスケード接続された複数の変換器セル1_1~1_Mと、リアクトル7aとを含む。複数の変換器セル1とリアクトル7aとは互いに直列接続されている。負側アーム13nuは、互いにカスケード接続された複数の変換器セル1_1~1_Mと、リアクトル7bとを含む。複数の変換器セル1とリアクトル7bとは互いに直列接続されている。
本実施の形態では、例えば、各アーム13に含まれる変換器セルの数をMとする。ただし、M≧2とする。また、変換器セル1_1~1_Mを総称して、変換器セル1と記載する場合もある。変換器セル1_1~1_Mにおけるアンダーバーの後の値および変数は変換器セル1のインデックスを示す。インデックスiを用いて任意の変換器セル1を「変換器セル1_i」と示す場合もある。ただし、インデックスiは、変換器セル1の物理的な配置とは関係しない。
リアクトル7aが挿入される位置は、正側アーム13puのいずれの位置であってもよく、リアクトル7bが挿入される位置は、負側アーム13nuのいずれの位置であってもよい。リアクトル7a,7bはそれぞれ複数個あってもよい。各リアクトルのインダクタンス値は互いに異なっていてもよい。さらに、正側アーム13puのリアクトル7aのみ、もしくは、負側アーム13nuのリアクトル7bのみを設けてもよい。
電力変換装置100は、さらに、交流電圧検出器10と、交流電流検出器15と、直流電圧検出器11a,11bと、各レグ回路8に設けられたアーム電流検出器9a,9bとを含む。これらの検出器は、電力変換装置100の制御に使用される電気量(すなわち、電流、電圧)を計測する。これらの検出器によって検出された信号は、制御装置5に入力される。
交流電圧検出器10は、交流系統2のU相の交流電圧Vacu、V相の交流電圧Vacv、W相の交流電圧Vacw(以下、「交流電圧Vac」とも総称する。)を検出する。交流電流検出器15は、交流系統2のU相の交流電流実測値Isysu、V相の交流電流実測値Isysv、W相の交流電流実測値Isyswを検出する。直流電圧検出器11aは、直流回路4に接続された正極直流端子Npの直流電圧Vdcpを検出する。直流電圧検出器11bは、直流回路4に接続された負極直流端子Nnの直流電圧Vdcnを検出する。
U相用のレグ回路8uに設けられたアーム電流検出器9a,9bは、正側アーム13puに流れる正側アーム電流Ipuおよび負側アーム13nuに流れる負側アーム電流Inuをそれぞれ検出する。V相用のレグ回路8vに設けられたアーム電流検出器9a,9bは、正側アーム電流Ipvおよび負側アーム電流Invをそれぞれ検出する。W相用のレグ回路8wに設けられたアーム電流検出器9a,9bは、正側アーム電流Ipwおよび負側アーム電流Inwをそれぞれ検出する。
以下の説明では、正側アーム電流Ipu、Ipv、Ipwを総称して正側アーム電流Iarmpと記載する。負側アーム電流Inu、Inv、Inwを総称して負側アーム電流Iarmnと記載する。正側アーム電流Iarmpと負側アーム電流Iarmnとを総称してアーム電流Iarmと記載する。
図1に示すように、レグ回路8uの正側アーム13puと負側アーム13nuとの接続点である交流端子Nuは、変圧器3に接続されている。したがって、交流端子Nuから変圧器3に向かって流れる交流電流Iacuは、正側アーム電流Ipuから負側アーム電流Inuを減算した電流値となる。交流電流Iacv,Iacwについても同様である。そのため、以下の式(1)~(3)が成立する。
Iacu=Ipu-Inu …(1)
Iacv=Ipv-Inv …(2)
Iacw=Ipw-Inw …(3)
正側アーム電流Ipuと負側アーム電流Inuとの平均値を、正側アーム13puおよび負側アーム13nuに流れる共通の電流とすると、この電流はレグ回路8uの直流端子を流れるレグ電流Icomu(=(Ipu+Inu)/2)である。この電流はレグ回路8v,8wのレグ電流Icomv,Icomwについても同様である。
各相のレグ回路8u,8v,8wの正極の直流端子は正極直流端子Npとして共通に接続され、負極の直流端子は負極直流端子Nnとして共通に接続されている。この構成から、各相のレグ電流Icomu,Icomv,Icomwを加算した電流値は、直流回路4の正側端子から流れ込み、負側端子を介して直流回路4に帰還する直流電流Idcとなる。したがって、直流電流Idcは、式(4)のように表される。
Idc=(Ipu+Ipv+Ipw+Inu+Inv+Inw)/2…(4)
レグ電流に含まれる直流電流成分は、各相で均等に分担するとセルの電流容量を均等にすることができる。このことを考慮すると、レグ電流と直流電流値の1/3との差分が、直流回路4に流れないが各相のレグ間に流れる循環電流の電流値として演算できる。そのため、U相、V相、W相の循環電流Izu,Izv,Izwは、それぞれ以下の式(5),(6),(7)のように表される。
Izu=(Ipu+Inu)/2-Idc/3 …(5)
Izv=(Ipv+Inv)/2-Idc/3 …(6)
Izw=(Ipw+Inw)/2-Idc/3 …(7)
<変換器セルの構成例>
図2は、変換器セル1の一例を示す回路図である。図2(a)に示す変換器セル1は、ハーフブリッジ構成と呼ばれる回路構成を有する。この変換器セル1は、2つのスイッチング素子31p、31nを直列接続して形成した直列体と、蓄電素子としてのコンデンサ32と、電圧検出器33と、バイパススイッチ34とを含む。直列体とコンデンサ32とは並列接続される。電圧検出器33は、コンデンサ32の両端の電圧であるコンデンサ電圧Vcを検出する。
図2(b)に示す変換器セル1は、フルブリッジ構成と呼ばれる回路構成を有する。この変換器セル1は、2つのスイッチング素子31p1,31n1を直列接続して形成された第1の直列体と、2つのスイッチング素子31p2,31n2を直列接続して形成された第2の直列体と、コンデンサ32と、電圧検出器33と、バイパススイッチ34とを含む。第1の直列体と、第2の直列体と、コンデンサ32とが並列接続される。電圧検出器33は、コンデンサ電圧Vcを検出する。コンデンサ電圧Vcは、制御装置5へ入力される。
図2(a)における2つのスイッチング素子31p、31nと、図2(b)における4つのスイッチング素子31p1、31n1、31p2、31n2とは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)、GCT(Gate Commutated Turn-off)サイリスタなどの自己消弧型の半導体スイッチング素子に還流ダイオードが逆並列に接続されて構成される。また、図2(a)および図2(b)において、コンデンサ32には、フィルムコンデンサ等が主に用いられる。
以下では、U相の正側アーム13puにおけるi番目の変換器セル1_iに含まれるコンデンサ32_iの電圧をVcpu_iと記載する。U相の負側アーム13nuにおけるi番目の変換器セル1_iに含まれるコンデンサ32_iの電圧をVcnu_iと記載する。V相およびW相についても同様である。コンデンサ電圧を総称する場合にはVcとも称され、任意のコンデンサ電圧はVc_iとも称される。
以下の説明では、スイッチング素子31p,31n,31p1,31n1,31p2,31n2をスイッチング素子31とも総称する。また、スイッチング素子31内の半導体スイッチング素子のオンオフを、単に「スイッチング素子31のオンオフ」と記載する。
図2(a)を参照して、スイッチング素子31nの両端子を入出力端子G1,G2とする。スイッチング素子31p、31nのスイッチング動作によりコンデンサ32の両端電圧、および零電圧を出力する。例えば、スイッチング素子31pがオン、かつスイッチング素子31nがオフとなったときに、コンデンサ32の両端電圧が出力される。スイッチング素子31pがオフ、かつスイッチング素子31nがオンとなったときに、零電圧が出力される。
バイパススイッチ34は、入出力端子G1,G2間に接続される。図2(a)では、バイパススイッチ34は、スイッチング素子31nと並列に接続される。バイパススイッチ34をオンにすることによって、変換器セル1が短絡される。例えば、バイパススイッチ34は、変換器セル1の各素子が故障した場合に、当該変換器セル1を短絡させる際に利用される。これにより、任意の変換器セル1が故障しても、他の変換器セル1を利用することにより電力変換器6の運転継続が可能となる。
次に、図2(b)を参照して、スイッチング素子31p1とスイッチング素子31n1との中点と、スイッチング素子31p2とスイッチング素子31n2との中点とをそれぞれ変換器セル1の入出力端子G1,G2とする。図2(b)に示す変換器セル1は、スイッチング素子31n2をオンとし、スイッチング素子31p2をオフとし、スイッチング素子31p1,31n1を交互にオン状態とすることによって、正電圧または零電圧を出力する。また、図2(b)に示す変換器セル1は、スイッチング素子31n2をオフし、スイッチング素子31p2をオンし、スイッチング素子31p1,31n1を交互にオン状態にすることによって、零電圧または負電圧を出力できる。
バイパススイッチ34は、入出力端子G1,G2間に接続される。なお、バイパススイッチ34は、スイッチング素子31n1,31n2の直列体と並列に接続される。バイパススイッチ34をオンにすることによって、変換器セル1が短絡される。
本実施の形態では、変換器セル1を図2(a)に示すハーフブリッジセルの構成としてもよいし、図2(b)に示すフルブリッジ構成としてもよい。また、上記で示した構成以外の変換器セル、例えば、クランプトダブルセルと呼ばれる回路構成などを適用した変換器セルを用いてもよく、スイッチング素子およびエネルギー蓄積要素も上記のものに限定するものではない。
<制御装置のハードウェア構成例>
図3は、制御装置5のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図3の場合の制御装置5は、コンピュータに基づいて構成される。図3を参照して、制御装置5は、1つ以上の入力変換器70と、1つ以上のサンプルホールド(S/H)回路71と、マルチプレクサ(MUX:multiplexer)72と、A/D変換器73とを含む。さらに、制御装置5は、1つ以上のCPU(Central Processing Unit)74と、RAM(Random Access Memory)75と、ROM(Read Only Memory)76とを含む。さらに、制御装置5は、1つ以上の入出力インターフェイス77と、補助記憶装置78と、上記の構成要素間を相互に接続するバス79とを含む。
入力変換器70は、入力チャンネルごとに補助変成器を備える。各補助変成器は、図1の各電気量検出器による検出信号を、後続する信号処理に適した電圧レベルの信号に変換する。
サンプルホールド回路71は、入力変換器70ごとに設けられる。サンプルホールド回路71は、対応の入力変換器70から受けた電気量を表す信号を規定のサンプリング周波数でサンプリングして保持する。
マルチプレクサ72は、複数のサンプルホールド回路71に保持された信号を順次選択する。A/D変換器73は、マルチプレクサ72によって選択された信号をデジタル値に変換する。なお、複数のA/D変換器73を設けることによって、複数の入力チャンネルの検出信号に対して並列的にA/D変換を実行するようにしてもよい。
CPU74は、制御装置5の全体を制御し、プログラムに従って演算処理を実行する。揮発性メモリとしてのRAM75および不揮発性メモリとしてのROM76は、CPU74の主記憶として用いられる。ROM76は、プログラムおよび信号処理用の設定値などを収納する。補助記憶装置78は、ROM76に比べて大容量の不揮発性メモリであり、プログラムおよび電気量検出値のデータなどを格納する。
入出力インターフェイス77は、CPU74と外部装置との間で通信する際のインターフェイス回路である。
なお、制御装置5の少なくとも一部をFPGA(Field Programmable Gate Array)およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの回路を用いて構成してもよい。もしくは、制御装置5の少なくとも一部は、アナログ回路によって構成することもできる。
以下、各実施の形態について具体的に説明する。
実施の形態1.
<制御装置の機能構成>
図4は、実施の形態1に従う制御装置5の内部構成を表わす図である。図4を参照して、制御装置5は、基本制御部502と、アーム制御部503とを含む。基本制御部502は、U相基本制御部502uと、V相基本制御部502vと、W相基本制御部502wとを含む。アーム制御部503は、U相の正側アーム制御部503puおよび負側アーム制御部503nuと、V相の正側アーム制御部503pvおよび負側アーム制御部503nvと、W相の正側アーム制御部503pwおよび負側アーム制御部503nwとを含む。
基本制御部502およびアーム制御部503の構成は、例えば、処理回路により実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいし、制御装置5の内部メモリに格納されるプログラムを実行するCPU74であってもよい。処理回路が専用のハードウェアである場合、処理回路は、例えば、FPGA、ASIC、またはこれらを組み合わせたもの等で構成される。
基本制御部502は、上記の各検出器により計測された電気量を用いて、各相の正側アーム13pおよび負側アーム13n用の2つのアーム電圧指令値Varmp*,Varmn*と、各相の正側アーム13pのコンデンサ電圧指令値Vcp*と、各相の負側アーム13nのコンデンサ電圧指令値Vcn*とを生成する。以下の説明において、各相の各アームのうちのいずれのアームであるかを特定しない場合には、単にアーム電圧指令値Varm*、コンデンサ電圧指令値Vc*と記載する。さらに、基本制御部502は、各アーム電圧指令値Varm*に対して、各アーム13における複数の変換器セル1の各々が電圧を出力するための変調信号Karm*を生成する。
アーム制御部503は、各変調信号Karm*およびコンデンサ電圧指令値Vc*に基づいて、アームを構成する各変換器セル1に設けられたスイッチング素子31p,31nのオンおよびオフを制御するためのゲート制御信号GPを生成し、当該ゲート制御信号GPを各変換器セル1に出力する。
図5は、実施の形態1に従う基本制御部502の機能構成の一部を示す図である。図5を参照して、基本制御部502は、電気量算出部401と、平均値算出部402と、最大値検出部403と、最小値検出部404と、規格化部405と、コンデンサ電圧指令生成部406とを含む。
電気量算出部401は、直流電圧Vdcp,Vdcnと、正側アーム電流Ipu、Ipv、Ipwおよび負側アーム電流Inu、Inv、Inwの入力を受け付ける。電気量算出部401は、直流電圧Vdcpと直流電圧Vdcnとの差(すなわち、Vdcp-Vdcn)を直流電圧Vdcとして算出する。電気量算出部401は、上述した式(1)~(3)を用いて交流電流Iacu,Iacv,Iacwを算出する。電気量算出部401は、上述した式(4)を用いて直流電流Idcを算出する。電気量算出部401は、上述した式(5)~(7)を用いて循環電流Izu,Izv,Izwを算出する。
平均値算出部402は、電力変換器6に含まれる全ての変換器セル1(例えば、「6×M」個の変換器セル1)のコンデンサ電圧Vcに基づいて、各アームのコンデンサ電圧Vcの平均値を算出する。
具体的には、平均値算出部402は、U相について、正側アーム13puに含まれる各変換器セル1のコンデンサ電圧Vcの合計電圧値VcpuS(例えば、“Vcpu_1+・・・+Vcpu_M”)を算出し、正側アーム13puにおけるコンデンサ電圧平均値Vcpua(例えば、VcpuS/M)を算出する。また、平均値算出部402は、負側アーム13nuに含まれる各変換器セル1のコンデンサ電圧Vcの合計電圧値VcnuS(例えば、“Vcnu_1+・・・+Vcnu_M”)を算出し、負側アーム13nuにおけるコンデンサ電圧平均値Vcnua(例えば、VcnuS/M)を算出する。
同様に、平均値算出部402は、V相について、正側アーム13pvにおけるコンデンサ電圧平均値Vcpvaと、負側アーム13nvにおけるコンデンサ電圧平均値Vcnvaとを算出する。平均値算出部402は、W相について、正側アーム13pwにおけるコンデンサ電圧平均値Vcpwaと、負側アーム13nwにおけるコンデンサ電圧平均値Vcnwaとを算出する。
なお、平均値算出部402は、実際に検出された各コンデンサ電圧Vcではなく、電力変換器6から出力される有効電力あるいは無効電力等から各コンデンサ電圧平均値を算出してもよい。
最大値検出部403は、電力変換器6に含まれる全ての変換器セル1のコンデンサ電圧Vcのうちの最大値を、コンデンサ電圧最大値Vcmaxとして検出する。最小値検出部404は、電力変換器6に含まれる全ての変換器セル1のコンデンサ電圧Vcのうちの最小値を、コンデンサ電圧最小値Vcminとして検出する。
なお、「電力変換器6に含まれる全ての変換器セル1」には、故障した変換器セル1を含めないものとする。例えば、「故障した変換器セル1」とは、バイパススイッチ34がオンになっている変換器セル1である。
規格化部405は、入力された各算出値および各検出値を、対応する基準値(例えば、定格値)を用いて規格化した値を出力する。具体的には、規格化部405は、交流電圧Vacu,Vacv,Vacwを定格値で除算した値を規格化された交流電圧Vacu_pu,Vacv_pu,Vacw_pu(以下、「交流電圧Vac_pu」とも総称する。)として出力する。
規格化部405は、直流電圧Vdcを定格値で除算した値を、規格化された直流電圧Vdc_puとして出力する。規格化部405は、交流電流Iacu,Iacv,Iacwを定格値で除算した値を、規格化された交流電流Iacu_pu,Iacv_pu,Iacw_pu(以下、「交流電流Iac_pu」とも総称する。)として出力する。規格化部405は、循環電流Izu,Izv,Izwを定格値で除算した値を、規格化された循環電流Izu_pu,Izv_pu,Izw_pu(以下、「循環電流Iz_pu」とも総称する。)として出力する。
規格化部405は、コンデンサ電圧平均値Vcpua,Vcpva,Vcpwa,Vcnua,Vcnva,Vcnwaを定格値で除算した値を、それぞれ規格化されたコンデンサ電圧平均値Vcpua_pu,Vcpva_pu,Vcpwa_pu,Vcnua_pu,Vcnva_pu,Vcnwa_pu(以下、「コンデンサ電圧平均値Vca_pu」とも総称する。)として出力する。規格化部405は、コンデンサ電圧最大値Vcmaxを定格値で除算した値を、規格化されたコンデンサ電圧最大値Vcmax_puとして出力する。規格化部405は、コンデンサ電圧最小値Vcminを定格値で除算した値を、規格化されたコンデンサ電圧最小値Vcmin_puとして出力する。
コンデンサ電圧指令生成部406は、各相の正側アーム13pに含まれる各変換器セル1のコンデンサ32のコンデンサ電圧指令値Vcp*を算出する。コンデンサ電圧指令生成部406は、各相の負側アーム13nに含まれる各変換器セル1のコンデンサ32のコンデンサ電圧指令値Vcn*を算出する。例えば、各相のコンデンサ電圧指令値Vcp*は、各相の正側アーム13p内の各変換器セル1のコンデンサ32の平均電圧値である。各相のコンデンサ電圧指令値Vcn*は、各相の負側アーム13n内の各変換器セル1のコンデンサ32の平均電圧値である。
図6は、実施の形態1に従う基本制御部502の機能構成の他の部分を示す図である。図6を参照して、基本制御部502は、全コンデンサ電圧制御部411と、直流制御部413と、交流電流制御部415と、第1循環電流指令生成部417と、第2循環電流指令生成部419と、循環電流制御部421と、零相電圧指令生成部423と、電圧指令生成部425と、変調指令生成部427とをさらに含む。
全コンデンサ電圧制御部411は、6つのコンデンサ電圧平均値Vca_pu(すなわち、Vcpua_pu~Vcnwa_pu)の平均値を算出し、当該平均値が全コンデンサ電圧指令値Vcall*に追従するように(例えば、当該平均値と全コンデンサ電圧指令値Vcall*との偏差が0になるように)交流電流補正指令値ΔIac*を生成する。全コンデンサ電圧指令値Vcall*は、電力変換器6に含まれる全コンデンサの電圧平均値について与えられた指令値である。なお、全コンデンサ電圧制御部411は、交流電流補正指令値ΔIac*ではなく直流電流指令値Idc*を補正するための補正指令値を生成してもよいし、当該補正指令値と交流電流補正指令値ΔIac*の両方を生成してもよい。
直流制御部413は、直流電流Idc_puを直流電流指令値Idc*に追従させる直流電流制御を行なう。典型的には、直流制御部413は、直流電流Idc_puが直流電流指令値Idc*に追従するように(例えば、直流電流Idc_puと直流電流指令値Idc*との偏差が0になるように)直流制御指令値Varmdc*を生成する。
あるいは、直流制御部413は、直流電圧Vdcを直流電圧指令値Vdc*に追従させる直流電圧制御を基本とし、直流電流が予め定められた上限値を超えた場合に、直流電流制御をするように構成されてもよい。典型的には、直流電圧指令値Vdc*と直流電圧Vdcとの偏差を0にするように直流制御指令値Varmdc*を生成するとともに、直流電流が上限値を超えた場合には上記の直流電流制御を実行する。直流電流指令値Idc*および直流電圧指令値Vdc*は、例えば、系統運用者等により予め設定される。なお、直流電圧指令値Vdc*は、直流電圧Vdc_puに基づいて演算されてもよい。
交流電流制御部415は、各相の交流電流指令値Iac*を各相の交流電流補正指令値ΔIac*で補正した指令値(例えば、Iac*+ΔIac*)を算出する。交流電流制御部415は、当該指令値と交流電流Iac_puとの偏差0にするためのフィードバック制御と、交流電圧Vac_puのフィードフォワード制御とにより、各相の交流制御指令値Varmac*を生成する。なお、各相の交流電圧Vac_puのフィードフォワード制御を実行しない構成であってもよい。
第1循環電流指令生成部417は、各アーム13間でのコンデンサ32の電圧のバランスを制御するための第1循環電流指令値Iz1*を生成する。具体的には、第1循環電流指令生成部417は、各コンデンサ電圧平均値Vcpua_pu~Vcnwa_puがバランスするように第1循環電流指令値Iz1*を生成する。例えば、第1循環電流指令生成部417は、相間バランス電圧制御および正負アーム間バランス電圧制御を実行する。
第1循環電流指令生成部417は、U相について、レグ回路8uに含まれる各コンデンサ32のコンデンサ電圧平均値(例えば、Vcpua_puおよびVcnua_puの平均値)を相間バランス電圧指令値に追従させるためのフィードバック制御を実行する。V相およびW相についても同様の制御が行なわれる。当該制御は、相(例えば、U相)に含まれる全てのコンデンサの電圧平均値を指令値に一致させる相間バランス電圧制御に相当する。
また、第1循環電流指令生成部417は、U相について、負側アーム13nのコンデンサ電圧平均値Vcnua_puを正側アーム13pのコンデンサ電圧平均値Vcpua_puに追従させるためのフィードバック制御を実行することにより、正負アーム間でのコンデンサ32の電圧のバランスを制御する。第1循環電流指令生成部417は、コンデンサ電圧平均値Vcpua_puをコンデンサ電圧平均値Vcnua_puに追従させるためのフィードバック制御を実行してもよい。V相およびW相についても同様の制御が行なわれる。当該制御は、相(例えば、U相)の一方のアーム(例えば、負側アーム)に含まれる全てのコンデンサの電圧平均値を指令値(例えば、正側アームのコンデンサ電圧平均値)に一致させる正負アーム間バランス電圧制御に相当する。
第1循環電流指令生成部417は、相間バランス電圧制御によるフィードバック演算結果と正負バランス電圧制御によるフィードバック演算結果とを加算することによって、第1循環電流指令値Iz1*を生成する。
第2循環電流指令生成部419は、直流電流Idc_puと、交流電流Iac_puと、各コンデンサ電圧平均値Vca_puと、コンデンサ電圧最大値Vcmax_puと、コンデンサ電圧最小値Vcmin_puと、直流制御指令値Varmdc*と、交流制御指令値Varmac*と、各アーム電圧指令値Varm*とに基づいて、交流系統2の基本波周波数の偶数倍の周波数成分を有する第2循環電流指令値Iz2*を生成する。第2循環電流指令生成部419の詳細な構成については後述する。
循環電流制御部421は、第1循環電流指令値Iz1*と第2循環電流指令値Iz2*とに基づく循環電流指令値Iz*に、電力変換器6内を循環する循環電流Iz_puが追従するように(例えば、循環電流指令値Iz*と循環電流Iz_puとの偏差が0になるように)循環電圧指令値Vz*を生成する。典型的には、循環電流指令値Iz*は、第1循環電流指令値Iz1*と第2循環電流指令値Iz2*との加算値である。
零相電圧指令生成部423は、各相の交流制御指令値Varmac*のゼロクロスを合わせた後、交流制御指令値Varmac*の3倍の周波数を有する零相電圧指令値V0*を生成する。
電圧指令生成部425は、直流制御指令値Varmdc*と、交流制御指令値Varmac*と、零相電圧指令値V0*と、循環電圧指令値Vz*とに基づいて、各アームの出力電圧の指令値であるアーム電圧指令値Varm*を生成する。例えば、U相の正側アーム13puのアーム電圧指令値Varmpu*は、“Varmdc*-Varmac*+Vz*-V0”で表わされる。U相の負側アーム13nuのアーム電圧指令値Varmnu*は、“Varmdc*+Varmac*+Vz*+V0”で表わされる。V相の正側アーム13pvのアーム電圧指令値Varmpv*、負側アーム13nvのアーム電圧指令値Varmnv*、W相の正側アーム13pwのアーム電圧指令値Varmpw*、負側アーム13nwのアーム電圧指令値Varmnw*についても同様である。
変調指令生成部427は、各アーム電圧指令値Varm*に対して、各アーム13における複数の変換器セル1の各々が電圧を出力するための変調信号Karm*(例えば、Karmpu*、Karmnu*、Karmpv*、Karmnv*、Karmpw*、Karmnw*)を生成する。変調信号Karm*は、例えば、あるアーム13のアーム電圧指令値Varm*を、当該アーム13に対応するコンデンサ32の電圧合計値と変換器セル1の数とで除算することにより算出される。これにより、各アーム13のコンデンサ電圧の脈動分の影響を小さくすることができる。実際に各アーム13から出力される電圧は、各アーム13の出力電圧指令値に基準値(例えば、定格値)を掛けて電圧次元に戻した値と近い値となる。
<第2循環電流指令生成部>
第2循環電流指令生成部419による第2循環電流指令値Iz2*の算出方式と、第2循環電流指令生成部419の具体的な機能構成について説明する。
(第2循環電流指令値の算出方式)
第2循環電流指令生成部419は、コンデンサ32の電圧脈動を小さくするための第2循環電流指令値Iz2*を算出する。MMCにおいて交流側の電圧の周波数を基本波周波数とした場合、コンデンサ32の電圧脈動には基本波周波数の1倍および2倍の周波数成分が含まれる。この周波数成分は、アーム13内においては共通の成分であり、アーム13に流入する電力に基づいている。
したがって、アーム13に流入する電力の基本波周波数の1倍、または2倍の周波数成分の脈動を小さくすることによって、コンデンサ32の電圧脈動を小さくすることができる。本実施の形態では、例えば、アーム13に流入する電力の基本波周波数の1倍成分を低減するための第2循環電流指令値Iz2*を算出するものとする。
代表的に、U相の正側アーム13puのコンデンサ電圧平均値Vcpuaで発生する電圧脈動について考える。正側アーム13puの出力電圧Vpuは以下の式(8)で表わされ、正側アーム電流Ipuは以下の式(9)で表わされる。なお、以下の数式中では表示の簡素化の観点からIpu等のように、下付き文字の形式で示すものとする。例えば、「数式中のIpu」は「本文中および図面中のIpu」と同一である。
Varmdcは正側アーム13puの出力電圧Vpuの直流成分、Varmacpは正側アーム13puの出力電圧Vpuの基本波周波数成分の振幅を示す。Iarmdcは正側アーム13puの正側アーム電流Ipuの直流成分、Iarmacpは正側アーム13puの正側アーム電流Ipuの基本波周波数成分の振幅を示す。ωは交流系統2の角周波数、tは時間、Larmはリアクトル7aのインダクタンス値、Iz2ampは第2循環電流指令値Iz2*の振幅を示す。θは、交流系統2の交流電圧の位相(以下、「基準位相」とも称する。)と、出力電圧Vpuの基本波周波数成分の位相との位相差を示す。αは、基準位相と、第2循環電流指令値Iz2*の位相との位相差を示す。φは、基準位相と、正側アーム電流Ipuの基本波周波数成分の位相との位相差を示す。
式(8)および式(9)の各交流成分を、sin成分とcos成分とに分解する。具体的には、出力電圧Vpuの基本波周波数成分のsin成分およびcos成分の振幅を、それぞれVarmacSおよびVarmacCとする。第2循環電流指令値Iz2*のsin成分およびcos成分の振幅を、それぞれIz2SおよびIz2Cとする。正側アーム電流Ipuの基本波周波数成分のsin成分およびcos成分の振幅を、それぞれIarmacSおよびIarmacCとする。この場合、以下の式(10)~(15)が成立する。
式(10)~(15)を用いて、式(8)および式(9)を変形すると、出力電圧Vpuは以下の式(16)で表わされ、正側アーム電流Ipuは以下の式(17)で表わされる。
交流系統2の基本波周波数成分における正側アーム13puに流入する電力をPpu1fとし、当該電力のsin成分をPpu1fS、cos成分をPpu1fCとする。この場合、以下の式(18)~(20)が成立する。
ここで、変数AS、AC、kS、kCをそれぞれ以下の式(21)~(24)のように定義する。
式(21)~(24)を式(18)~(20)に適用すると、電力Ppu1fは以下の式(25)のように表される。
正の数Kを用いると、変数kS,kCはそれぞれ式(26),(27)のように表される。
式(25)~(27)により、正の数Kを増大することにより、電力Ppu1fの脈動を低減することができる。また、大きさB、角度θBを有するベクトルを以下の式(28)および式(29)のように定義する。
式(28),(29)を、式(23),(24)に適用すると、以下の式(30)に示す行列式が成立する。
また、式(26)の右辺をKcosθA、式(27)式の右辺をKsinθAと置き、“Iz2amp=K/B”とすると、式(30)から、Iz2SおよびIz2Cは以下の式(31)で表わされる。
なお、sinθA、cosθA、sinθB、cosθBは、それぞれ以下の式(32)、(33)、(34)、(35)で表わされる。
KおよびBは、大きさを表す値(すなわち、正の値)であるため、式(31)の右辺において、Iz2ampは正であり、右辺の残りは単位ベクトルとなる。したがって、式(31)~(35)から単位ベクトル成分を導出し、任意の正の値のIz2ampを加えることにより、コンデンサ32の電圧脈動の基本波周波数の1倍の周波数成分を低減することができる。なお、式(31)の右辺の単位ベクトルに関して、行列部分は回転行列を示している。また、式(31)と、式(12)および式(13)とから、“α=θA-θB”である。したがって、第2循環電流指令値Iz2*は、以下の式(36)で表わされる。
(第2循環電流指令生成部の機能構成)
上述した第2循環電流指令値Iz2*を算出するための第2循環電流指令生成部419の具体的な機能構成について説明する。
図7は、実施の形態1に従う第2循環電流指令生成部の機能構成の一例を示す図である。第2循環電流指令生成部419は、振幅制御部452と、位相調整部454と、生成部456とを含む。
振幅制御部452は、6つのアーム電圧指令値Varm*と、6つのコンデンサ電圧平均値Vca_puと、コンデンサ電圧最大値Vcmax_puと、コンデンサ電圧最小値Vcmin_puとの入力を受け付ける。振幅制御部452は、入力された各値に基づいて、第2循環電流指令値Iz2*の振幅Iz2ampを生成する。振幅制御部452の詳細については後述する。
位相調整部454は、コンデンサ32の電圧の基本周波数成分が小さくなるように第2循環電流指令値Iz2*の位相θ2を調整する。具体的には、位相調整部454は、アーム電圧指令値の交流成分である交流制御指令値Varmac*と、その直流成分である直流制御指令値Varmdc*と、交流電流Iac_puと、直流電流Idc_puとの入力を受け付ける。
位相調整部454は、受け付けた各パラメータと、リアクトルのインダクタンス値Larmと、交流系統2の交流電圧の角周波数ωと、式(32)~(35)とを用いて、第2循環電流指令値Iz2*の位相θ2(=θA-θB)を算出する。なお、交流電流Iac_puおよび直流電流Idc_puは、予め設定された指令値であってもよく、角周波数ωは、PLL(Phase Locked Loop)等から得られた角周波数であってもよいし、定格値であってもよい。
生成部456は、振幅制御部452から出力された振幅Iz2ampと、位相調整部454から出力された位相θ2と、式(36)とに基づいて、各相の第2循環電流指令値Iz2*を生成する。
図8は、実施の形態1に従う振幅制御部452の具体的な構成例を示す図である。図8を参照して、振幅制御部452は、演算器471と、最小値検出部472と、減算器473,474,475と、最小値検出部476と、フィルタ部477と、極性反転部478と、振幅調整部480とを含む。振幅調整部480は、積分器482と、リミッタ484とを含む。
演算器471は、各アーム13について、当該アームに含まれる各コンデンサ32の電圧の平均値(すなわち、コンデンサ電圧平均値)と、アーム電圧指令値を個数M(すなわち、アーム13に含まれる変換器セル1の数)で除算した値との偏差を算出する。アーム電圧指令値を個数Mで除算した値は、アーム13に含まれる複数の変換器セル1の各々の出力電圧の指令値に相当する。
具体的には、演算器471は、正側アーム13puについて、コンデンサ電圧平均値Vcpua_puと、アーム電圧指令値Varmpu*の1/M倍(すなわち、Varmpu*/M)との偏差σpu(=Vcpua_pu-Varmpu*/M)を算出する。同様に、演算器471は、コンデンサ電圧平均値Vcpva_puとアーム電圧指令値Varmpv*の1/M倍との偏差σpv、コンデンサ電圧平均値Vcpwa_puとアーム電圧指令値Varmpw*の1/M倍との偏差σpw、コンデンサ電圧平均値Vcnua_puとアーム電圧指令値Varmnu*の1/M倍との偏差σnu、コンデンサ電圧平均値Vcnva_puとアーム電圧指令値Varmnv*の1/M倍との偏差σnv、コンデンサ電圧平均値Vcnwa_puとアーム電圧指令値Varmnw*の1/M倍との偏差σnwを算出する。
偏差σpu,σpv,σpw,σnu,σnv,σnwは、偏差σsとも総称する。この場合、偏差σsは、アーム13のアーム電圧指令値を個数Mで除算した値(すなわち、各変換器セル1の出力電圧指令値)に対して、当該アーム13に含まれる複数のコンデンサ32の出力電圧の平均値にどれだけ余裕があるかを示す上側の制御余裕を示す。
例えば、U相の正側アーム13puについて、偏差σpuが負になる場合(すなわち、コンデンサ電圧平均値Vcpua_puよりもアーム電圧指令値Varmpu*の1/M倍の方が大きい場合)を考える。この場合、正側アーム13puに含まれる各変換器セル1の出力電圧の上限値が“コンデンサ電圧平均値Vcpua_pu”に相当するため、所望の電圧を出力できない過変調状態を意味する。過変調状態が定常的に起こる場合、余分な高調波の流入出が発生する可能性がある。したがって、各偏差σsは定常的に0以上の値に保たれる必要がある。すなわち、各偏差σsのうちの最小値を0以上に保つ必要がある。
最小値検出部472は、偏差σpu,σpv,σpw,σnu,σnv,σnwのうちの最小値σmin1(すなわち、各偏差σsのうちの最小値)を検出する。
減算器473は、コンデンサ32の上限電圧値VcHlimとコンデンサ電圧最大値Vcmax_puとの偏差σvH(=VcHlim-Vcmax_pu)を算出する。偏差σvHは、コンデンサ電圧の最大側の制御余裕を示す。減算器474は、コンデンサ32の下限電圧値VcLlimとコンデンサ電圧最小値Vcmin_puとの偏差σvL(=Vcmin_pu-VcLlim)を算出する。偏差σvLは、コンデンサ電圧の最小側の制御余裕を示す。
なお、上限電圧値VcHlimは、例えば、コンデンサに印加可能な電圧、半導体素子の定格電圧、および他のコンポーネントの定格電圧、絶縁電圧等から定められる。下限電圧値VcLlimは、電力変換器6が定常的に動作可能なコンデンサ電圧の下限値から定められる。
減算器475は、最小値σmin1と、制御余裕下限値σLlimとの偏差σcL(=σmin1-σLlim)を算出する。偏差σcLは、上側の制御余裕の最小値である。なお、制御余裕下限値σLlimは0、または非常に小さい正の値に設定する。
コンデンサ電圧の脈動が小さくなると、偏差σcL、偏差σvHおよび偏差σvLは大きくなる。第2循環電流指令値Iz2*の位相θ2(=θA-θB)が式(32)~(36)を満たす場合、振幅Iz2ampを大きくすることにより、偏差σcL、偏差σvHおよび偏差σvLを大きくすることができる。偏差σcL、偏差σvHおよび偏差σvLが負の値になる場合には振幅Iz2ampを増大させ、これらが正の値の場合には振幅Iz2ampを減少させることにより、できるだけ小さい第2循環電流指令値Iz2*で制御余裕を0以上にすることができる。
最小値検出部476は、偏差σcL、偏差σvHおよび偏差σvLのうちの最小値σmin2(すなわち、最も制御余裕度が小さい値)を検出する。最小値σmin2は、フィルタ部477への入力値として入力される。最小値σmin2は、偏差σcL、偏差σvHおよび偏差σvLのすべてを考慮した場合の最小の制御余裕である。
フィルタ部477は、最小値σmin2を入力値として受け付け、当該入力値をフィルタ処理して出力値を出力する。当該入力値は、各アーム13の出力電圧の制御余裕度の最小値であるため、瞬時的には脈動を有する。
ある時間幅(例えば、交流系統2の電圧の1周期)における当該最小値に基づいて、第2循環電流指令値Iz2*を算出する必要がある。そのため、フィルタ部477は、当該最小値を検出する機能を有している。
ある局面では、フィルタ部477は、当該検出機能を有しており、今回の制御周期においてフィルタ部477に入力された入力値(以下、「今回の入力値」とも称する。)が、前回の制御周期においてフィルタ部477から出力された出力値(以下、「前回の出力値」とも称する。)未満である場合、今回の入力値と同一の値を今回の出力値(すなわち、今回の制御周期においてフィルタ部477から出力される出力値)として出力する。
また、フィルタ部477は、今回の入力値が前回の出力値以上である場合、今回の入力値以下かつ前回の出力値以上である値を今回の出力値として出力する。この場合、例えば、フィルタ部477は、徐々に出力値を増大させる。
図9は、フィルタ部の機能の一例を説明するための図である。図9を参照して、フィルタ部477は、各制御周期ごとに、今回の入力値と前回の出力値との大小比較を実行する。図9の例では、フィルタ部477は、時刻t0~時刻t1の期間では、今回の入力値が前回の出力値以上であると判断し、今回の入力値以下かつ前回の出力値以上である値を今回の出力値として出力する。そのため、フィルタ部477は、出力値を徐々に増大させる。
一方、フィルタ部477は、時刻t1~時刻t2の期間では、今回の入力値が前回の出力値未満であると判断する。そのため、フィルタ部477は、今回の入力値と同一の値を今回の出力値として出力する。その後、フィルタ部477は、時刻t2以降の期間では、今回の入力値が前回の出力値未満であると判断し、出力値を徐々に増大させる。
他の局面では、フィルタ部477は、n回目(nは1以上の整数)の更新タイミングから規定期間内に入力値がn回目の更新タイミングにおける出力値未満とならなかった場合、n回目の更新タイミングから規定期間経過後のタイミングを(n+1)回目の更新タイミングとして設定する。この場合、フィルタ部477は、n回目の更新タイミングから規定期間内における入力値の最小値を(n+1)回目の更新タイミングにおける出力値として出力する。
一方、フィルタ部477は、n回目の更新タイミングから規定期間内に入力値がn回目の更新タイミングにおける出力値未満となった場合、入力値がn回目の更新タイミングにおける出力値未満となった第1タイミングを(n+1)回目の更新タイミングとして設定し、第1タイミング以降において、今回の入力値が前回の出力値以上となるまで今回の入力値と同一の値を今回の出力値として出力する。
図10は、フィルタ部の機能の他の例を説明するための図である。図10を参照して、フィルタ部477は、基本的には、予め定められた更新周期ごとに出力値を更新する。例えば、時刻tnにn回目の更新タイミングが設定され、当該更新タイミングにおける出力値がXaであるとする。フィルタ部477は、n回目の更新タイミングから規定期間(すなわち、更新周期)内に入力値が出力値Xa未満となるか否かを判断する。
図10の例では、n回目の更新タイミングから規定期間内に入力値が出力値Xa未満となっていないため、フィルタ部477は、n回目の更新タイミングから規定期間経過後のタイミングである時刻t(n+1)を、(n+1)回目の更新タイミングとして設定する。また、フィルタ部477は、n回目の更新タイミングから規定期間内における入力値の最小値であるXbを(n+1)回目の更新タイミングにおける出力値として出力する。
同様に、フィルタ部477は、時刻t(n+2)を(n+2)回目の更新タイミングとして設定し、(n+1)回目の更新タイミングから規定期間内における入力値の最小値であるXcを(n+2)回目の更新タイミングにおける出力値として出力する。
一方、時刻t(n+3)において、(n+2)回目の更新タイミングから規定期間内に入力値が出力値Xc未満となっている。この場合、フィルタ部477は、時刻t(n+3)を(n+3)回目の更新タイミングとして設定する。また、フィルタ部477は、時刻t(n+3)以降において、今回の入力値が前回の出力値以上となるまで(例えば、図10の時刻t(n+3)から時間Ta経過後まで)、今回の入力値と同一の値を今回の出力値として出力する。
時刻t(n+3)から時間Ta経過後においては、入力値が出力値Xd以上となっているため、フィルタ部477は、出力値Xdを出力し続ける。続いて、フィルタ部477は、時刻t(n+3)から時間Ta経過後のタイミングから規定期間経過後のタイミングである時刻t(n+4)を、(n+4)回目の更新タイミングとして設定する。また、フィルタ部477は、t(n+4)回目の更新タイミングから規定期間内における入力値の最小値であるXdを(n+4)回目の更新タイミングにおける出力値として出力する。
上記のフィルタ部477の構成により、入力値が小さくなる方向に対しては感度が高くなるフィルタを形成できるため、偏差σcL、偏差σvHおよび偏差σvLのうちのいずれかが小さくなった場合に、素早く第2循環電流指令値Iz2*の振幅Iz2ampを大きくして、制御余裕度を大きくすることができる。また、入力値が大きくなる方向に対しては出力値を徐々に大きくすることにより、制御周期単位の脈動検出を抑制し、振幅Iz2ampに脈動を生じさせない。
再び、図8を参照して、極性反転部478は、フィルタ部477の出力値の極性を反転した値(すなわち、出力値に“-1”を掛けた値)を出力する。なお、極性反転部478は、フィルタ部477よりも前段に設けられていてもよく、積分器482よりも後段に設けられてもよい。その場合、値の正負、大小の整合性をとる必要がある。例えば、フィルタ部477の前段に極性反転部478を設ける場合、フィルタ部477は前回の出力値よりも今回の入力値が大きくなる場合に感度を高くするような構成となる。
振幅調整部480は、フィルタ部477の出力値に基づいて、第2循環電流指令値Iz2*の振幅Iz2ampを調整する。具体的には、振幅調整部480の積分器482は、極性反転部478からフィルタ部477の出力値の極性を反転した値の入力を受け付け、当該値を時間積分した値を出力する。
リミッタ484は、規定のリミット値(例えば、上限リミット値および下限リミット値)を用いて積分器482の出力値を制限した値を第2循環電流指令値Iz2*の振幅Iz2ampとして出力する。具体的には、積分器482の出力値を下限リミット値以上かつ上限リミット値以下に制限した値を振幅Iz2ampとして出力する。例えば、下限リミット値は0に設定され、上限リミット値はIz2maxに設定される。すなわち、振幅Iz2ampは0以上かつIz2max以下に制限される。
なお、振幅Iz2ampの下限値を0に制限しない場合、偏差σcL、偏差σvHおよび偏差σvLが大きい場合に、これらのいずれかの最小値が0になるように負の振幅Iz2ampを有する第2循環電流指令値Iz2*に従う循環電流が流れることによりコンデンサ32の電圧脈動が大きくなる。この場合、電力損失が増大し、不必要にコンデンサ32の電圧脈動が大きくなる。そのため、リミッタ484によって、振幅Iz2ampを負にしないようにする必要がある。
なお、図8の例では、偏差σcL、偏差σvHおよび偏差σvLのうちの最小値σmin2に基づいて、振幅Iz2ampを算出する構成について説明したが、当該構成に限られない。第2循環電流指令生成部419(具体的には、振幅制御部452)は、偏差σcL、偏差σvHおよび偏差σvLのうちのいずれか1つ、または2つを用いて振幅Iz2ampを算出する構成であってもよい。
具体的には、振幅制御部452は、各コンデンサ32の電圧の1以上の代表値と、1以上の代表値にそれぞれ対応する1以上の代表指令値とに基づく制御余裕を算出し、少なくとも1つの制御余裕に基づいて、振幅Iz2ampを制御してもよい。
一例では、代表値は、偏差σpu~σnwのうちの最小値σmin1である。当該代表値に対応する代表指令値は、制御余裕下限値σLlimである。この場合、振幅制御部452は、最小値σmin1から制御余裕下限値σLlimを減算した偏差σcLを制御余裕として算出し、当該制御余裕に基づいて振幅Iz2ampを制御する。当該制御余裕は、フィルタ部477の入力値として入力される。なお、この場合、上限電圧値VcHlim、下限電圧値VcLlimを設定する必要はなく、コンデンサ電圧最大値Vcmax_puおよびコンデンサ電圧最小値Vcmin_puは、振幅制御部452に入力されなくてもよい。
他の例では、代表値は、コンデンサ電圧最大値Vcmax_puである。当該代表値に対応する代表指令値は、コンデンサ32の上限電圧値VcHlimである。この場合、振幅制御部452は、上限電圧値VcHlimからコンデンサ電圧最大値Vcmax_puを減算した偏差σvHを制御余裕として算出し、当該制御余裕に基づいて振幅Iz2ampを制御する。
さらに他の例では、代表値は、コンデンサ電圧最小値Vcmin_puである。当該代表値に対応する代表指令値は、コンデンサ32の下限電圧値VcLlimである。この場合、振幅制御部452は、コンデンサ電圧最小値Vcmin_puから下限電圧値VcLlimからを減算した偏差σvLを制御余裕として算出し、当該制御余裕に基づいて振幅Iz2ampを制御する。
なお、振幅制御部452は、偏差σpu~σnwのうちの2つを選択し、当該2つのうちの最小値を用いて振幅Iz2ampを算出する構成であってもよい。
<利点>
実施の形態1によると、電力変換器6の定常運転時において、変換器セル1のコンデンサ32における電圧脈動を低減しつつ、電力損失の増大をできるだけ抑制することが可能となる。
実施の形態2.
実施の形態1では、第2循環電流指令値Iz2*の振幅Iz2ampを制御することにより制御余裕を調整する構成について説明した。一方、零相電圧指令値V0*の位相を調整する制御を行なうことより、制御余裕を調整することもできる。しかしながら、振幅Iz2ampの振幅制御および零相電圧指令値V0*の位相調整制御を同時に実行すると、制御余裕が適切に調整できない可能性がある。そこで、実施の形態2では、必要に応じて、振幅制御および位相調整制御のうちの一方の制御を停止する構成について説明する。
<制御装置の機能構成>
実施の形態2に従う制御装置5の内部構成は図4と同様である。実施の形態2に従う基本制御部502Aは、図5に示す電気量算出部401、平均値算出部402、最大値検出部403、最小値検出部404、規格化部405、およびコンデンサ電圧指令生成部406に加えて、以下で説明する図11に示す機能構成を有する。なお、基本制御部502Aは、実施の形態1に従う基本制御部502との区別のため、便宜上“A”との符号を付している。
図11は、実施の形態2に従う基本制御部502Aの一部の機能構成を示す図である。図11に示す基本制御部502Aの構成は、図6に示す第2循環電流指令生成部419および零相電圧指令生成部423を、それぞれ第2循環電流指令生成部419Aおよび零相電圧指令生成部423Aに置き換えたものに相当する。
第2循環電流指令生成部419Aは、直流電流Idc_puと、交流電流Iac_puと、各コンデンサ電圧平均値Vca_puと、コンデンサ電圧最大値Vcmax_puと、コンデンサ電圧最小値Vcmin_puと、直流制御指令値Varmdc*と、交流制御指令値Varmac*と、各アーム電圧指令値Varm*と、零相電圧の調整位相θv0とに基づいて、第2循環電流指令値Iz2*を生成する。第2循環電流指令生成部419Aの詳細な構成については後述する。
零相電圧指令生成部423Aは、零相電圧指令値V0*を生成するとともに、零相電圧指令値V0*の位相を調整するための調整位相θv0を生成する。
(零相電圧指令生成部)
図12は、実施の形態2に従う零相電圧指令生成部の機能構成を示す図である。図12を参照して、零相電圧指令生成部423Aは、基準位相生成部611と、位相制御部613と、零相電圧生成部615とを含む。
基準位相生成部611は、各相の交流制御指令値Varmac*に基づいて、基準位相θvを生成する。例えば、U相の交流制御指令値VarmacU*が、U相の交流電圧の振幅VacUとなるときの位相を基準位相θvとして生成する。この場合、交流制御指令値VarmacU*は式(37)のように表される。
位相制御部613は、電力変換器2の零相電圧指令値V0*の位相を制御する。位相制御部613は、基準位相θvと、各コンデンサ電圧平均値Vca_puと、各アーム電圧指令値Varm*とに基づいて、調整位相θv0を生成する。位相制御部613の具体的な構成については後述する。
零相電圧生成部615は、各相の交流制御指令値Varmac*と、基準位相θvと、調整位相θv0とに基づいて、零相電圧指令値V0*を生成する。具体的には、零相電圧生成部615は、以下の式(38)を用いて、零相電圧指令値V0*を生成する。なお、βは定数であり、例えば、1/6である。
零相電圧指令値V0*の位相の調整制御方式について説明する。
図13は、実施の形態2に従う位相制御部の機能構成を示す図である。図13を参照して、位相制御部613は、複数のアームの各々について、当該アームに含まれる各コンデンサ32の電圧と、当該アームのアーム電圧指令値とに基づく制御余裕を算出し、各制御余裕に基づいて、零相電圧指令値V0*の位相を調整するための調整位相θv0を算出する。具体的には、位相制御部613は、演算器621と、加算器623と、位相状態検出部625と、最小値検出部627,629,631と、減算器633と、比例器635と、加算器637と、保持部639とを含む。
演算器621は、各アーム13について、当該アームに含まれる各コンデンサ32の電圧の平均値(すなわち、コンデンサ電圧平均値)と、アーム電圧指令値を個数Mで除算した値との偏差を算出する。具体的には、演算器621は、コンデンサ電圧平均値Vcpua_puと、アーム電圧指令値Varmpu*の1/M倍との偏差(=Vcpua_pu-Varmpu*/M)である上側制御余裕σpuUを出力する。偏差σpuUは、図8で説明した偏差σpuに相当する。同様に、演算器621は、図8で説明した偏差σpv,σpw,σnu,σnv,σnwを、それぞれ上側制御余裕σpvU,σpwU,σnuU,σnvU,σnwUとして出力する。以下、上側制御余裕を単に「上余裕」とも称する。
演算器621は、Varmpu*/M、Varmpv*/M、Varmpw*/M、Varmnu*/M、Varmnv*/M、Varmnw*/Mを、それぞれ下側制御余裕σpuL、σpvL,σpwL,σnuL,σnvL,σnwLとして出力する。以下、下側制御余裕を単に「下余裕」とも称する。
加算器623は、基準位相θvと調整位相θv0とを加算して位相θaを算出する。
位相状態検出部625は、交流系統2の一周期を6つの区間に分割し、位相θaに対応する区間Ph(例えば、Ph=0~5)を出力する。具体的には、0°<θa≦60°の場合にはPh=0、60°<θa≦120°の場合にはPh=1、120°<θa≦180°の場合にはPh=2、180°<θa≦240°の場合にはPh=3、240°<θa≦300°の場合にはPh=4、300°<θa≦360°の場合にはPh=5である。
最小値検出部627は、各区間Ph(Ph=0~5)において設定された上余裕および下余裕を監視して、第1上余裕最小値σU1min、第2上余裕最小値σU2min、第1下余裕最小値σL1min、および第2下余裕最小値σL2minとを算出する。
図14は、各区間において監視される上側制御余裕および下側制御余裕を示す図である。図14を参照して、テーブル700には、各区間Phにおいて最小値になり得る上余裕および下余裕とが示されている。例えば、Ph=0においては、上余裕σpwU、下余裕σnwL、上余裕σnuU、および下余裕σpuLが、それぞれ、第1上余裕最小値σU1min、第1下余裕最小値σL1min、第2上余裕最小値σU2min、第2下余裕最小値σL2minとなり得る。
最小値検出部627は、各区間Phについて、今回の区間Ph(例えば、Ph=0)から次の区間Ph(例えば、Ph=1)へ切り替わる直前のタイミングで、今回の区間Phにおける、第1上余裕最小値σU1minと、第1下余裕最小値σL1minと、第2上余裕最小値σU2minと、第2下余裕最小値σL2minとを算出する。例えば、Ph=0においては、最小値検出部627は、上余裕σpwUの最小値を第1上余裕最小値σU1minとして算出し、下余裕σnwLの最小値を第1下余裕最小値σL1minとして算出し、上余裕σnuUの最小値を第2上余裕最小値σU2minとして算出し、下余裕σpuLの最小値を第2下余裕最小値σL2minとして算出する。
再び、図13を参照して、最小値検出部629は、第1上余裕最小値σU1minおよび第1下余裕最小値σL1minのうちの小さい方を検出する。最小値検出部631は、第2上余裕最小値σU2minおよび第2下余裕最小値σL2minのうちの小さい方を検出する。減算器633は、最小値検出部631により検出された値から最小値検出部629により検出された値を減算した差分Δσを出力する。
比例器635は、差分ΔσとゲインKdegとの乗算値“Δσ×Kdeg”を、調整位相θv0の変化分Δθv0として出力する。加算器637は、変化分Δθv0と保持部639の出力値との加算値を調整位相θv0として出力する。保持部639では、前回の区間Phにおいて加算器637から出力された調整位相θv0を保持している。したがって、今回の区間Phにおいて加算器637から出力される調整位相θv0は、前回の区間Phにおける調整位相θv0と、今回の区間Phにおいて算出された変化分Δθv0とを加算したものに相当する。
図12に示す零相電圧生成部615は、各相の交流制御指令値Varmac*と、基準位相θvと、上記のように算出された調整位相θv0とに基づいて、零相電圧指令値V0*を生成する。このように生成された零相電圧指令値V0*によって、制御余裕がどのように変化するのかを具体的に説明する。
図15は、零相電圧指令値の位相調整前の各区間における各種波形図である。図15には、コンデンサ電圧平均値Vcnua_pu、アーム電圧指令値Varmnu*の1/M倍(以下、単に電圧指令値VnuM*とも称する。)、上余裕σnuU、下余裕σnuL、および零相電圧指令値V0*が示されている。ここでは、一例として、負側アーム13nuについて説明する。これは、以下の図16および図17でも同様である。
負側アーム13nuに着目して図14のテーブル700を参照すると、上余裕σnuUは、Ph=5の場合に第1上余裕最小値σU1minとなり、Ph=0の場合に第2上余裕最小値σU2minとなり得る。これは、図15において、Ph=5の区間における上余裕σnuUの最小値が第1上余裕最小値σU1minとして示され、Ph=0の区間における上余裕σnuUの最小値が第2上余裕最小値σU2minとして示されていることと整合する。
同様に、図14のテーブル700を参照すると、下余裕σnuLは、Ph=2の場合に第1下余裕最小値σL1minとなり、Ph=3の場合に第2下余裕最小値σL2minとなり得る。これは、図15において、Ph=2の区間における下余裕σnuLの最小値が第1下余裕最小値σL1minとして示され、Ph=3の区間における下余裕σnuLの最小値が第2上余裕最小値σL2minとして示されることと整合する。
図15によると、零相電圧指令値V0*の位相調整前においては、第1上余裕最小値σU1minが特に小さいことが理解される。
図16は、零相電圧指令値の位相調整後の各区間における各種波形図の一例である。図16を参照すると、調整位相θv0に基づいて零相電圧指令値V0*の位相が調整された場合、図15に示す零相電圧指令値V0*の位相調整前と比較して、第1上余裕最小値σU1minが大きくなっていることがわかる。具体的には、第1上余裕最小値σU1minが第2下余裕最小値σL2minと同じになっている。
図17は、零相電圧指令値の位相調整後の各区間における各種波形図の他の例である。図17を参照すると、図15に示す零相電圧指令値V0*の位相調整前と比較して、第1上余裕最小値σU1minが大きくなっていることがわかる。具体的には、第1上余裕最小値σU1minが第2上余裕最小値σU2minと同じになっている。
このように、零相電圧指令値V0*の位相が調整されることによって、電力変換装置100全体として、出力電圧範囲に対する電圧指令値の制御余裕を大きくすることができる。
(第2循環電流指令生成部)
次に、実施の形態2に従う第2循環電流指令生成部419Aの具体的な構成について説明する。
図18は、実施の形態2に従う第2循環電流指令生成部の機能構成の一例を示す図である。図18を参照して、第2循環電流指令生成部419Aは、振幅制御部452Aと、位相調整部454と、生成部456とを含む。位相調整部454および生成部456の構成は、図7で説明した構成と同様である。振幅制御部452Aは、調整位相θv0を用いて、第2循環電流指令値Iz2*の振幅Iz2ampを生成する点において、実施の形態1に従う振幅制御部452と異なる。
図19は、実施の形態2に従う振幅制御部の具体的な構成例を示す図である。図19を参照して、振幅制御部452Aは、図8の振幅制御部452に、微分器491と、絶対値算出部492と、比較器493と、乗算器494とを追加した構成を有する。
微分器491は、調整位相θv0を時間微分する。絶対値算出部492は、調整位相θv0を時間微分値の絶対値γ1を算出する。絶対値γ1は、調整位相θv0の時間変化の大きさを示す。比較器493は、絶対値γ1が閾値Th1以下である(すなわち、γ1≦Th1)場合には値“1”を出力する。比較器493は、絶対値γ1が閾値Th1よりも大きい(すなわち、γ1>Th1)場合には値“0”を出力する。
乗算器494は、極性反転部478の出力値と比較器493の出力値との乗算値を算出する。具体的には、乗算器494は、γ1≦Th1である場合には極性反転部478の出力値を積分器482に出力し、γ1>Th1である場合には値“0”を積分器482に出力する。
これにより、調整位相θv0の時間変化が小さい(例えば、γ1≦Th1)場合には、実施の形態1と同様な方式により、制御余裕に基づいて振幅Iz2ampが制御される。一方、調整位相θv0の時間変化が大きい(例えば、γ1>Th1)場合には、積分器482への入力値が“0”となる。この場合、積分器482は、前回の制御周期で算出した振幅Iz2ampをリミッタ484に出力する。このように、振幅Iz2ampは更新されず、前回の値に固定される。
上記のように、零相電圧指令値V0*の調整位相θv0の時間変化の大きさが閾値Th1よりも大きい場合、振幅制御部452は、制御余裕を用いた振幅Iz2ampの更新制御を停止する。これは、調整位相θv0の時間変化が大きい場合には上余裕が大きく変化することから、同時に振幅Iz2ampの制御を実行すると、当該制御が不安定になるためである。一方、零相電圧指令値V0*の調整位相θv0の時間変化が小さい場合には、振幅Iz2ampの更新制御を停止しなくてもよい。
同様の考え方により、振幅Iz2ampの変化が大きい場合に、零相電圧指令値V0*の調整位相θv0の更新を停止する構成であってもよい。
図20は、実施の形態2の変形例に従う位相制御部の機能構成を示す図である。図20を参照して、位相制御部613Aは、図13の位相制御部613に、微分器641と、絶対値算出部642と、比較器643と、乗算器644とを追加した構成を有する。
微分器641は、振幅Iz2ampを時間微分する。絶対値算出部642は、振幅Iz2ampの時間微分値の絶対値γ2を算出する。絶対値γ2は、振幅Iz2ampの時間変化の大きさを示す。比較器643は、絶対値γ2が閾値Th2以下である(すなわち、γ2≦Th2)場合には値“1”を出力する。比較器643は、絶対値γ2が閾値Th2よりも大きい(すなわち、γ2>Th2)場合には値“0”を出力する。
乗算器644は、比例器635の出力値と比較器643の出力値との乗算値を算出する。具体的には、乗算器644は、γ2≦Th2である場合には比例器635の出力値を加算器637に出力し、γ2>Th2である場合には値“0”を加算器637に出力する。
これにより、振幅Iz2ampの時間変化が小さい(例えば、γ2≦Th2)場合には、図13で説明した方式により、調整位相θv0が更新される。一方、振幅Iz2ampの時間変化が大きい(例えば、γ2>Th2)場合には、加算器637への入力値が“0”となる。この場合、加算器637は、保持部639の出力値(すなわち、前回の区間Phで算出した調整位相θv0)を、今回の区間Phでの調整位相θv0として出力する。これにより、調整位相θv0は更新されず、前回の値に固定される。
上記のように、振幅Iz2ampの時間変化の大きさが閾値Th2よりも大きい場合、位相制御部613は、前回の調整位相θv0を、今回の調整位相θv0として算出する。すなわち、零相電圧指令値V0*の調整位相θv0の更新制御が停止される。一方、振幅Iz2ampの時間変化が小さい場合には、零相電圧指令値V0*の調整位相θv0の更新制御を停止しなくてもよい。
<利点>
実施の形態2によると、第2循環電流指令値の振幅制御と零相電圧指令値の位相制御とを同時に実行することによって制御が不安定になる事態を防止することができる。
その他の実施の形態.
上述の実施の形態として例示した構成は、本開示の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。また、上述した実施の形態において、他の実施の形態で説明した処理および構成を適宜採用して実施する場合であってもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。