本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
本発明者らは、従来の光スキャンデバイスには、装置の構成を複雑にすることなく、光で空間をスキャンすることが困難であるという課題があることを見出した。
例えば、特許文献1に開示されている技術では、ミラーを回転させる駆動装置が必要である。このため、装置の構成が複雑になり、振動に対してロバストでないという課題がある。
特許文献2に記載の光フェーズドアレイでは、光を分岐して複数の列導波路および複数の行導波路に導入し、2次元的に配列された複数のアンテナ素子に光を誘導する必要がある。このため、光を誘導するための導波路の配線が非常に複雑になる。また、2次元スキャンの範囲を大きくすることができない。さらに、遠視野における出射光の振幅分布を2次元的に変化させるためには、2次元的に配列された複数のアンテナ素子の各々に位相シフタを接続し、位相シフタに位相制御用の配線を取り付ける必要がある。これにより、2次元的に配列された複数のアンテナ素子に入射する光の位相をそれぞれ異なる量変化させる。このため、素子の構成が非常に複雑になる。
本発明者らは、従来技術における上記の課題に着目し、これらの課題を解決するための構成を検討した。本発明者らは、対向する一対のミラーと、それらのミラーに挟まれた光導波層とを有する導波路素子を用いることにより、上記の課題を解決し得ることを見出した。導波路素子における一対のミラーの一方は、他方に比べて高い光透過率を有し、光導波層を伝搬する光の一部を外部に出射させる。出射した光の方向(または出射角度)は、後述するように、光導波層の屈折率もしくは厚さ、または光導波層に入力される光の波長を調整することにより、変化させることができる。より具体的には、屈折率、厚さ、または波長を変化させることにより、出射光の波数ベクトル(wave vector)の、光導波層の長手方向に沿った方向の成分を変化させることができる。これにより、1次元的なスキャンが実現される。
さらに、複数の導波路素子のアレイを用いた場合には、2次元的なスキャンを実現することもできる。より具体的には、複数の導波路素子に供給する光に適切な位相差を与え、その位相差を調整することにより、複数の導波路素子から出射する光が強め合う方向を変化させることができる。位相差の変化により、出射光の波数ベクトルの、光導波層の長手方向に沿った方向に交差する方向の成分が変化する。これにより、2次元的なスキャンを実現することができる。なお、2次元的なスキャンを行う場合でも、複数の光導波層の屈折率、厚さ、または光の波長を異なる量変化させる必要はない。すなわち、複数の光導波層に供給する光に適切な位相差を与え、かつ、複数の光導波層の屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つを同期して同量変化させることにより、2次元的なスキャンを行うことができる。このように、本開示の実施形態によれば、比較的簡単な構成で、光による2次元スキャンを実現することができる。
本明細書において、「屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つ」とは、光導波層の屈折率、光導波層の厚さ、および光導波層に入力される光の波長からなる群から選択される少なくとも1つを意味する。光の出射方向を変化させるために、屈折率、厚さ、および波長のいずれか1つを単独で制御してもよい。あるいは、これらの3つのうちの任意の2つまたは全てを制御して光の出射方向を変化させてもよい。以下の説明では、主に光導波層の屈折率または厚さを制御する形態を説明する。以下の各実施形態において、屈折率または厚さの制御に代えて、または加えて、光導波層に入力される光の波長を制御してもよい。
以上の基本原理は、光を出射する用途だけでなく、光信号を受信する用途にも同様に適用できる。屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つを変化させることにより、受信できる光の方向を1次元的に変化させることができる。さらに、一方向に配列された複数の導波路素子にそれぞれ接続された複数の位相シフタによって光の位相差を変化させれば、受信できる光の方向を2次元的に変化させることができる。
本開示の実施形態による光スキャンデバイスおよび光受信デバイスは、例えば、LiDAR(Light Detection and Ranging)システムなどの光検出システムにおけるアンテナとして用いられ得る。LiDARシステムは、ミリ波などの電波を用いたレーダシステムと比較して、短波長の電磁波(可視光、赤外線、または紫外線)を用いるため、高い分解能で物体の距離分布を検出することができる。そのようなLiDARシステムは、例えば自動車、UAV(Unmanned Aerial Vehicle、所謂ドローン)、AGV(Automated Guided Vehicle)などの移動体に搭載され、衝突回避技術の1つとして使用され得る。本明細書において、光スキャンデバイスと光受信デバイスを「光デバイス」と総称することがある。また、光スキャンデバイスまたは光受信デバイスに使用されるデバイスについても「光デバイス」と称することがある。
<光スキャンデバイスの構成例>
以下、一例として、2次元スキャンを行う光スキャンデバイスの構成を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複する説明を省略することがある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素については、同じ参照符号を付している。
本開示において、「光」とは、可視光(波長が約400nmから約700nm)だけでなく、紫外線(波長が約10nmから約400nm)および赤外線(波長が約700nmから約1mm)を含む電磁波を意味する。本明細書において、紫外線を「紫外光」と称し、赤外線を「赤外光」と称することがある。
本開示において、光による「スキャン」とは、光の方向を変化させることを意味する。「1次元スキャン」とは、光の方向を、当該方向に交差する方向に沿って直線的に変化させることを意味する。「2次元スキャン」とは、光の方向を、当該方向に交差する平面に沿って2次元的に変化させることを意味する。
本明細書において、2つの方向が「平行」とは、厳密に平行であることのみならず、両者のなす角度が15度以下である形態を含む。本明細書において、2つの方向が「垂直」とは、厳密に垂直であることを意味せず、両者のなす角度が75度以上105度以下である形態を含む。
図1は、本開示の例示的な実施形態における光スキャンデバイス100の構成を模式的に示す斜視図である。光スキャンデバイス100は、複数の導波路素子10を含む導波路アレイを備える。複数の導波路素子10の各々は、第1の方向(図1におけるX方向)に延びた形状を有する。複数の導波路素子10は、第1の方向に交差する第2の方向(図1におけるY方向)に規則的に配列されている。複数の導波路素子10は、第1の方向に光を伝搬させながら、第1および第2の方向に平行な仮想的な平面に交差する第3の方向D3に光を出射させる。本実施形態では、第1の方向(X方向)と第2の方向(Y方向)とが直交しているが、両者が直交していなくてもよい。本実施形態では、複数の導波路素子10がY方向に等間隔で並んでいるが、必ずしも等間隔に並んでいる必要はない。
なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
複数の導波路素子10のそれぞれは、互いに対向する第1のミラー30および第2のミラー40(以下、それぞれを単に「ミラー」と呼ぶ場合がある)と、ミラー30とミラー40の間に位置する光導波層20とを有する。ミラー30およびミラー40の各々は、第3の方向D3に交差する反射面を、光導波層20との界面に有する。ミラー30およびミラー40、ならびに光導波層20は、第1の方向(X方向)に延びた形状を有している。
なお、後述するように、複数の導波路素子10の複数の第1のミラー30は、一体に構成された第3のミラーの複数の部分であってもよい。また、複数の導波路素子10の複数の第2のミラー40は、一体に構成された第4のミラーの複数の部分であってもよい。さらに、複数の導波路素子10の複数の光導波層20は、一体に構成された光導波層の複数の部分であってもよい。少なくとも、(1)各第1のミラー30が他の第1のミラー30と別体に構成されているか、(2)各第2のミラー40が他の第2のミラー40と別体に構成されているか、(3)各光導波層20が他の光導波層20と別体に構成されていることにより、複数の導波路を形成することができる。「別体に構成されている」とは、物理的に空間を設けることのみならず、間に屈折率が異なる材料を挟み、分離することも含む。
第1のミラー30の反射面と第2のミラー40の反射面とは略平行に対向している。ミラー30およびミラー40のうち、少なくとも第1のミラー30は、光導波層20を伝搬する光の一部を透過させる特性を有する。言い換えれば、第1のミラー30は、当該光について、第2のミラー40よりも高い光透過率を有する。このため、光導波層20を伝搬する光の一部は、第1のミラー30から外部に出射される。このようなミラー30およびミラー40は、例えば誘電体による多層膜(「多層反射膜」と称することもある。)によって形成される多層膜ミラーであり得る。
それぞれの導波路素子10に入力する光の位相を制御し、さらに、これらの導波路素子10における光導波層20の屈折率もしくは厚さ、または光導波層20に入力される光の波長を同期して同時に変化させることで、光による2次元スキャンを実現することができる。
本発明者らは、そのような2次元スキャンを実現するために、導波路素子10の動作原理について詳しく分析を行った。その結果に基づき、複数の導波路素子10を同期して駆動することで、光による2次元スキャンを実現することに成功した。
図1に示されるように、各導波路素子10に光を入力すると、各導波路素子10の出射面から光が出射される。出射面は、第1のミラー30の反射面の反対側に位置する。その出射光の方向D3は、光導波層の屈折率、厚さ、および光の波長に依存する。本実施形態では、各導波路素子10から出射される光が概ね同じ方向になるように、各光導波層の屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つが同期して制御される。これにより、複数の導波路素子10から出射される光の波数ベクトルのX方向の成分を変化させることができる。言い換えれば、出射光の方向D3を、図1に示される方向101に沿って変化させることができる。
さらに、複数の導波路素子10から出射される光は同じ方向を向いているので、出射光は互いに干渉する。それぞれの導波路素子10から出射される光の位相を制御することにより、干渉によって光が強め合う方向を変化させることができる。例えば、同じサイズの複数の導波路素子10がY方向に等間隔で並んでいる場合、複数の導波路素子10には、一定量ずつ位相の異なる光が入力される。その位相差を変化させることにより、出射光の波数ベクトルの、Y方向の成分を変化させることができる。言い換えれば、複数の導波路素子10に導入される光の位相差をそれぞれ変化させることにより、干渉によって出射光が強め合う方向D3を、図1に示される方向102に沿って変化させることができる。これにより、光による2次元スキャンを実現することができる。
以下、光スキャンデバイス100の動作原理をより詳細に説明する。
<導波路素子の動作原理>
図2は、1つの導波路素子10の断面の構造および伝搬する光の例を模式的に示す図である。図2では、図1に示すX方向およびY方向に垂直な方向をZ方向とし、導波路素子10のXZ面に平行な断面が模式的に示されている。導波路素子10において、一対のミラー30とミラー40が光導波層20を挟むように配置されている。光導波層20のX方向における一端から導入された光22は、光導波層20の上面(図2における上側の表面)に設けられた第1のミラー30および下面(図2における下側の表面)に設けられた第2のミラー40によって反射を繰り返しながら光導波層20内を伝搬する。第1のミラー30の光透過率は第2のミラー40の光透過率よりも高い。このため、主に第1のミラー30から光の一部を出力することができる。
通常の光ファイバーなどの導波路では、全反射を繰り返しながら光が導波路に沿って伝搬する。これに対して、本実施形態における導波路素子10では、光は光導波層20の上下に配置されたミラー30およびミラー40によって反射を繰り返しながら伝搬する。このため、光の伝搬角度に制約がない。ここで光の伝搬角度とは、ミラー30またはミラー40と光導波層20との界面への入射角度を意味する。ミラー30またはミラー40に対して、より垂直に近い角度で入射する光も伝搬できる。すなわち、全反射の臨界角よりも小さい角度で界面に入射する光も伝搬できる。このため、光の伝搬方向における光の群速度は自由空間における光速に比べて大きく低下する。これにより、導波路素子10は、光の波長、光導波層20の厚さ、および光導波層20の屈折率の変化に対して光の伝搬条件が大きく変化するという性質を持つ。このような導波路を、「反射型導波路」または「スローライト導波路」と呼ぶ。
導波路素子10の光の伝搬について、より詳しく説明する。光導波層20の屈折率をn
w、光導波層20の厚さをdとする。ここで、光導波層20の厚さdは、ミラー30またはミラー40の反射面の法線方向における光導波層20のサイズである。光の干渉条件を考慮すると、波長λの光の伝搬角度θ
wは、以下の式(1)を満たす。
mはモード次数である。式(1)は、光導波層20内の光が厚さ方向に定在波を形成する条件に相当する。光導波層20内の波長λgがλ/nwのとき、光導波層20の厚さ方向における波長λg’はλ/(nwcosθw)であると考えることができる。光導波層20の厚さdが、光導波層20の厚さ方向における波長λg’の半分λ/(2nwcosθw)の整数倍と等しいとき、定在波が形成される。この条件から式(1)が得られる。なお、式(1)におけるmは定在波の腹(anti-node)の数を表す。
ミラー30およびミラー40が多層膜ミラーである場合、反射時にミラー内部にも光が侵入する。このため、厳密には、光が侵入した分の光路長に対応する項を式(1)の左辺に付け加える必要がある。しかし、ミラー内部への光の侵入の影響よりも光導波層20の屈折率nwおよび厚さdの影響の方が遥かに大きいため、式(1)によって基本的な動作を説明できる。
光導波層20内を伝搬する光が、第1のミラー30を通じて外部(典型的には空気)に出射されるときの出射角度θは、スネルの法則にしたがって以下の式(2)のように記述できる。
式(2)は、光の出射面において、空気側の光の面方向における波長λ/sinθと、導波路素子10側の光の伝搬方向の波長λ/(nwsinθw)とが等しいという条件から得られる。
式(1)および式(2)より、出射角度θは、以下の式(3)のように記述できる。
式(3)からわかるように、光の波長λ、光導波層20の屈折率nwおよび光導波層20の厚さdのいずれかを変えることで光の出射方向を変えることができる。
例えば、nw=2、d=387nm、λ=1550nm、m=1の場合、出射角度は0°である。この状態から、屈折率をnw=2.2に変化させると、出射角度は約66°に変化する。一方、屈折率を変えずに厚さをd=420nmに変化させると、出射角度は約51°に変化する。屈折率も厚さも変化させずに波長をλ=1500nmに変化させると、出射角度は約30°に変化する。このように、光の波長λ、光導波層20の屈折率nw、および光導波層20の厚さdのいずれかを変えることにより、光の出射方向を大きく変えることができる。
そこで、本開示の実施形態における光スキャンデバイス100は、光導波層20に入力される光の波長λ、光導波層20の屈折率nw、および光導波層20の厚さdの少なくとも1つを制御することで、光の出射方向を制御する。光の波長λは、動作中に変化させず、一定に維持されてもよい。その場合、よりシンプルな構成で光のスキャンを実現できる。波長λは、特に限定されない。例えば、波長λは、一般的なシリコン(Si)により光を吸収することで光を検出するフォトディテクタまたはイメージセンサで高い検出感度が得られる400nmから1100nm(可視光から近赤外光)の波長域に含まれ得る。他の例では、波長λは、光ファイバーまたはSi導波路において伝送損失の比較的小さい1260nmから1625nmの近赤外光の波長域に含まれ得る。なお、これらの波長範囲は一例である。使用される光の波長域は、可視光または赤外光の波長域に限定されず、例えば紫外光の波長域であってもよい。
本発明者らは、上記のような特定方向への光の出射が実際に可能であるかを光学解析によって検証した。光学解析は、サイバネット社のDiffractMODを用いた計算によって行った。これは、厳密結合波解析(RCWA:Rigorous Coupled-Wave Analysis)に基づいたシミュレーションであり、波動光学の効果を正確に計算することができる。
図3は、本シミュレーションにおいて用いた計算モデルを模式的に示す図である。この計算モデルでは、基板50上に、第2のミラー40と、光導波層20と、第1のミラー30とが、この順に積層されている。第1のミラー30および第2のミラー40は、いずれも誘電体多層膜を含む多層膜ミラーである。第2のミラー40は、相対的に屈折率の低い低屈折率層42および相対的に屈折率の高い高屈折率層44を交互に6層ずつ(計12層)積層した構造を有する。第1のミラー30は、低屈折率層42および高屈折率層44を交互に2層ずつ(すなわち、計4層)積層した構造を有する。ミラー30とミラー40の間に光導波層20が配置されている。導波路素子10および基板50以外の媒質は空気である。
このモデルを用いて、光の入射角度を変化させながら入射光に対する光学応答を調べた。これは、空気からの入射光と光導波層20とが、どの程度結合するかを調べることに対応している。入射光が光導波層20と結合する条件では、光導波層20を伝搬した光が外部に出射されるという逆の過程も起きる。よって、入射光が光導波層20と結合する場合の入射角度を求めることは、光導波層20を伝搬した光が外部に出射する際の出射角度を求めることに相当する。入射光が光導波層20と結合すると、光導波層20内において光の吸収および散乱によるロスが生じる。つまり、大きなロスが生じる条件では、入射光が光導波層20に強く結合しているということになる。吸収などによる光のロスがなければ、光の透過率および反射率の合計が1になる。しかし、ロスがあれば、透過率および反射率の合計は1よりも小さくなる。本計算では、光の吸収の影響を取り入れるために、光導波層20の屈折率に虚部を導入し、1から透過率および反射率の合計を引いた値をロスの大きさとして計算した。
本シミュレーションでは、基板50はSi、低屈折率層42はSiO2(厚さ267nm)、高屈折率層44はSi(厚さ108nm)であるものとした。波長λ=1.55μmの光を、角度を様々に変えて入射したときのロスの大きさを計算した。
図4Aは、光導波層20の厚さdが704nmの場合における光導波層20の屈折率nwと、モード次数m=1の光の出射角度θとの関係を計算した結果を示している。白い線はロスが大きいことを表している。図4Aに示されているように、nw=2.2付近でモード次数m=1の光の出射角度がθ=0°となる。nw=2.2に近い屈折率をもつ物質には、例えばニオブ酸リチウムがある。
図4Bは、光導波層20の厚さdが446nmの場合における光導波層20の屈折率nwと、モード次数m=1の光の出射角度θとの関係を計算した結果を示している。図4Bに示されているように、nw=3.45付近でモード次数m=1の光の出射角度がθ=0°となる。nw=3.45に近い屈折率をもつ物質には、例えばシリコン(Si)が挙げられる。
このように、光導波層20の厚さdを調整することにより、特定の光導波層20の屈折率nwに対して、特定のモード次数(例えばm=1)の光の出射角度θが0°となるように設計できる。
図4Aおよび図4Bに示すように、屈折率の変化に応じて、出射角度θが大きく変わることが確認できた。後述するように、屈折率は、例えばキャリア注入、電気光学効果、および熱光学効果などの様々な方法によって変化させることができる。そのような方法による屈折率の変化は0.1程度とあまり大きくない。そのため、これまでは、そのような小さな屈折率の変化では出射角度はそれほど大きく変化しないと考えられていた。しかし、図4Aおよび図4Bに示すように、出射角度がθ=0°となる屈折率付近では、屈折率が0.1増加すると出射角度θが0°から約30°にまで変化することがわかった。このように、本実施形態における導波路素子10では、小さい屈折率変化であっても、出射角度を大きく調整することが可能である。
同様に、図4Aおよび図4Bの比較からわかるように、光導波層20の厚さdの変化に応じて、出射角度θが大きく変わることが確認できた。後述するように、厚さdは、例えば2つのミラーの少なくとも一方に接続されたアクチュエータによって変化させることができる。厚さdの変化が小さくても、出射角度を大きく調整することができる。
このように、光導波層20の屈折率nwおよび/または厚さdを変化させることにより、導波路素子10から出射される光の方向を変えることができる。同様に、光導波層20に入力する光の波長を変化させることによっても、導波路素子10から出射される光の方向を変えることができる。出射光の方向を変化させるために、光スキャンデバイス100は、各導波路素子10における光導波層20の屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つを変化させる第1調整素子を備え得る。第1調整素子の構成例については、後述する。
以上のように、導波路素子10を用いれば、光導波層20の屈折率nw、厚さd、および波長λの少なくとも1つを変化させることで、光の出射方向を大きく変えることができる。これにより、ミラー30から出射される光の出射角度を、導波路素子10に沿った方向に変化させることができる。1つ以上の導波路素子10を用いることにより、このような1次元のスキャンを実現することができる。
図5は、単一の導波路素子10によって1次元スキャンを実現する光スキャンデバイス100の例を模式的に示す図である。この例では、Y方向に広がりのあるビームスポットが形成される。光導波層20の屈折率、厚さ、波長の少なくとも1つを変化させることにより、ビームスポットをX方向に沿って移動させることができる。これにより、1次元スキャンが実現される。ビームスポットがY方向に広がりをもつため、一軸方向のスキャンであっても、2次元的に拡がる比較的広いエリアをスキャンすることができる。2次元スキャンが不要な用途では、図5に示すような構成も採用し得る。
2次元スキャンを実現する場合には、図1に示すように、複数の導波路素子10が配列された導波路アレイが用いられる。複数の導波路素子10内を伝搬する光の位相が特定の条件を満たすとき、光は特定の方向に出射する。その位相の条件が変化すると、光の出射方向が導波路アレイの配列方向にも変化する。すなわち、導波路アレイを用いることにより、2次元スキャンを実現することができる。2次元スキャンを実現するためのより具体的な構成の例については後述する。
以上のように、1つ以上の導波路素子10を用いて、導波路素子10における光導波層20の屈折率、光導波層20の厚さ、および波長の少なくとも1つを変化させることにより、光の出射方向を変化させることができる。本開示の実施形態における導波路素子10は、光の全反射を利用する一般的な全反射導波路とは異なり、光導波層が一対のミラーに挟まれた反射型導波路の構造を備える。このような反射型導波路への光の結合については、これまでに十分に検討されてこなかった。本発明者らは、光導波層20に光を効率的に導入するための構造についても検討した。
図6Aは、空気およびミラー30を介して間接的に光が光導波層20に入力される構成の例を模式的に示す断面図である。この例では、反射型導波路である導波路素子10の光導波層20に対して、外部から空気およびミラー30を介して間接的に伝播光が導入される。光導波層20に光を導入するためには、光導波層20の内部における導波光の反射角θwに対して、スネルの法則(ninsinθin=nwsinθw)を満たす必要がある。ここで、ninは外部媒質の屈折率、θinは伝播光の入射角、nwは光導波層20の屈折率である。この条件を考慮して入射角θinを調整することにより、光の結合効率を最大化することができる。さらに、この例では、第1のミラー30の一部に多層反射膜の膜数を減らした部分が設けられている。その部分から光が入力されることで結合効率を高めることができる。しかし、このような構成では、光導波層20の伝搬定数の変化に起因するθwavの変化に応じて、光導波層20への光の入射角θinを変化させる必要が生じる。
光導波層20の伝搬定数の変化が生じても、光が常に導波路に結合できる状態を保つために、多層反射膜の膜数を減らした部分に角度広がりのあるビームを入射する方法がある。図6Bは、そのような方法の一例を示している。この例では、導波路素子10に、ミラー30の法線方向に対して角度θinだけ傾けて配置された光ファイバー7から角度広がりのある光が導入される。このような構成によって、外部から空気およびミラー30を介して間接的に光を入射した場合の結合効率について検討する。
簡単のため光を光線として考える。通常のシングルモードファイバーの開口数(NA)は0.14程度である。これは角度に換算すると約±8度である。導波路に結合する光の入射角度の範囲は、導波路から出射される光の広がり角と同程度である。出射光の広がり角θ
divは、以下の式(4)で表される。
ここでLは伝搬長、λは光の波長、θoutは光の出射角である。Lを10μm以上とすると、θdivは大きくても1度以下である。したがって、光ファイバー7からの光の結合効率は、1/16×100%(すなわち、約6.3%)以下である。さらに、光の入射角θinを固定し、導波路の屈折率nwを変化させることによって光の出射角θoutを変化させたときの結合効率の変化を計算した結果を図7に示す。結合効率は、入射光のエネルギーに対する導波光のエネルギーの比を表す。図7に示す結果は、入射角θinを30°、導波路膜厚を1.125μm、波長を1.55μmとして、結合効率を計算することによって得られた。この計算では、屈折率nwを1.44から1.78の範囲で変化させることにより、出射角θoutを10°から65°の範囲で変化させた。図7に示すように、このような構成では、結合効率は最大でも7%に満たない。また、出射角θoutを、結合効率がピークになる出射角から20°以上変化させると、結合効率はさらに半分以下に低下する。
このように、光スキャンのために導波路の屈折率等を変化させることによって伝搬定数を変化させると、結合効率はさらに低下する。結合効率を維持するためには、伝搬定数の変化に応じて光の入射角θinを変化させる必要がある。しかし、光の入射角θinを変化させる機構を導入すると、装置構成の複雑化を招く。
本発明者らは、屈折率等を変化させる導波路を有する領域の前段に、屈折率が一定に維持される導波路を有する領域を設けることにより、光入射角を固定する事ができることを見出した。さらに、本発明者らは、それらの2種類の導波路を接続して高い光結合効率を実現する方法についても検討した。
異なる2つの導波路における導波光の結合を考える際に要因が2点ある。1つ目は、伝搬光の伝搬定数であり、2つ目はモードの電場強度分布である。これらが2つの導波路において近いほど結合効率は高くなる。導波路における伝搬光の伝搬定数βは、簡単のため幾何光学的に考えると、β=k・sinθw=(2πnwsinθw)/λで表される。波数をk、導波角度をθw、光導波層の屈折率をnwとする。全反射型の導波路では、全反射を用いて導波光を導波層に閉じ込めるため、全反射条件であるnwsinθw>1を満たす。一方、スローライト導波路では、導波路の上下に存在する多層反射膜により光を導波路に閉じ込め、導波光の一部を多層反射膜を通して射出するため、nwsinθw<1となる。全反射型導波路と、導波光の一部を射出するスローライト導波路とでは、伝搬定数は等しくなり得ない。図8Aに示すような全反射導波路の電場強度分布は、図8Bに示すように、ピークを導波路内に持ち、導波路外では単調減少する。他方、図8Cに示すようなスローライト導波路は、図8Dに示すような電場強度分布を持つ。導波路内にピークを持つ事は変わらないが、図8Cに示すスローライト導波路では、導波光が誘電多層膜内において光の干渉により反射する。このため、図8Dに示すように電場強度は誘電多層膜に深く染み出し、かつ振動的に変化する。
以上のように、全反射型導波路とスローライト導波路とでは、導波光の伝搬定数、電場強度分布共に大きく異なる。よって、全反射型導波路とスローライト導波路とを直接的に繋げることは従来考えられていなかった。本発明者らは、可変の屈折率および/または厚さを有する光導波層に、直接的に全反射導波路を繋げることができることを発見した。
さらに、本発明者らは、そのような2種類の導波路を、共通の基板上に配置することにより、光スキャンデバイスの作製を容易にできることも見出した。すなわち、一体に形成された一つの基板上に2種類の導波路を配置してもよい。一般的な導波路は、半導体プロセスを用いて、基板上に作製される。例えば、蒸着またはスパッタリングなどによる成膜と、リソグラフィーまたはエッチングなどによる微細加工とを組み合わせた製法が用いられ得る。そのような製法によって、基板の上に導波路の構造を作製することができる。基板の材料として、例えばSi、SiO2、GaAs、またはGaNが用いられ得る。
反射型導波路も、同様の半導体プロセスを用いて作製され得る。反射型導波路では、光導波層を挟む一対のミラーのうち、一方のミラーから光を透過させることよって、光を出射させる。ミラーは、例えば低コストで入手可能なガラス基板の上に作製され得る。ガラス基板の代わりに、例えばSi、SiO2、GaAs、GaNなどの基板を用いてもよい。
反射型導波路に別の導波路を接続することによって、光を反射型導波路に導入することができる。以下、そのような構造の例を説明する。
図9は、基板50Aの上に作製された複数の第1の導波路1と、別の基板50Bの上に作製された複数の第2の導波路10との接続を模式的に示す図である。基板50Aおよび基板50Bは、XY平面に平行に配置されている。複数の第1の導波路1および複数の第2の導波路10は、X方向に延び、Y方向に配列されている。第1の導波路1は、例えば、光の全反射を利用する一般的な導波路である。第2の導波路10は、反射型導波路である。別々の基板50Aおよび基板50Bの上にそれぞれ配置された第1の導波路1および第2の導波路10を位置合わせして接続することによって、第1の導波路1から第2の導波路10に光を導入することができる。
第1の導波路1から第2の導波路10に効率よく光を導入するためには、10nmオーダーの極めて高精度の位置合わせが望まれる。また、高精度の位置合わせができたとしても、基板50Aおよび基板50Bの熱膨張係数が異なる場合、温度変化により、位置合わせがずれるおそれがある。例えば、Si、SiO2、GaAsおよびGaNの熱膨張係数は、それぞれおよそ4、0.5、6および5(×10―6/K)であり、ガラス基材としてよく使われるBK7の熱膨張係数は、9(×10―6/K)である。別々の基材としてどの材料を組み合わせても、1×10―6/K以上の熱膨張係数の違いが生じる。例えば、複数の第1の導波路1および複数の第2の導波路10の配列方向(図中ではY方向)における基板50Aおよび基板50Bのサイズが1mmである場合、1℃の温度変化によって、基板50Aおよび基板50Bの位置合わせは、1nmずれる。さらに、数十℃の温度変化によって、基板50Aおよび基板50Bの位置合わせは、数十から百nmのオーダーで大きくずれる。
同じ基板の上に第1の導波路および第2の導波路を配置すれば、上記の課題を解決できる。共通の基板上にこれらの導波路を配置することにより、第1の導波路および第2の導波路の位置合わせが容易になる。さらに、熱膨張による第1の導波路および第2の導波路の位置合わせのずれが抑制される。その結果、第1の導波路から第2の導波路にさらに効率よく光を導入することができる。
上記態様における「第2の導波路」は、前述の実施形態における「導波路素子」に相当する。本開示のある実施形態では、第2の導波路の前段に、屈折率も厚さも一定に維持される第1の導波路が設けられ、第1の導波路に光が入力される。第1の導波路は、入力された光を伝搬させ、第2の導波路の端面から入力する。第1の導波路と第2の導波路とは、端面同士が直接接続されていてもよいし、例えば、端面間にギャップがあってもよい。
上記構成によれば、第1の導波路を第2の導波路(すなわち導波路素子)の前段に設けることにより、第1の導波路に入射する光の入射角を一定に維持しても、スキャンによる結合効率の低下(すなわちエネルギーのロス)を抑制することができる。
同じ基板の上に第1の導波路および第2の導波路を配置した場合には、第1の導波路および第2の導波路の位置合わせが容易になる。さらに、熱膨張による第1および第2の導波路の位置合わせのずれが抑制される。その結果、第1の導波路から第2の導波路へ効率よく光を導入することができる。
<グレーティングを介した導波光結合>
本発明者らは、図9に示す構成を改良することにより、光の結合効率をさらに向上させることができることを見出した。
図10は、本開示の例示的な実施形態における光デバイスを模式的に示す断面図である。本実施形態および後述する本実施形態の変形例の全反射導波路1およびスローライト導波路10は、本開示の何れ光デバイスに適用してもよい。
本実施形態では、全反射導波路である第1の導波路1の先端部は、スローライト導波路である第2の導波路10における光導波層20の内部にある。以下、第1の導波路1を「全反射導波路1」と称し、第2の導波路10を「スローライト導波路10」と称することがある。Z方向からみたとき、全反射導波路1およびスローライト導波路10が重なる領域101において、全反射導波路1は、X方向に沿って屈折率が周期pで変化するグレーティング15を備える。図10に示すグレーティング15は、X方向に並ぶ複数の凹部を有する。図10には4つの凹部が例示されているが、実際にはさらに多数の凹部が設けられ得る。複数の凹部に代えて、複数の凸部が設けられていてもよい。グレーティング15におけるX方向に並ぶ凹部または凸部の個数は、例えば4以上が望ましい。また、凹部または凸部の個数は、4以上64以下であり得る。ある例では、凹部または凸部の個数は、8以上32以下であり得る。ある例では、凹部または凸部の個数は、8以上16以下であり得る。凹部または凸部の個数は、各凹部または凸部の回折効率に応じて調整され得る。各凹部または凸部の回折効率は、その深さまたは高さ、および幅などの寸法条件に依存する。したがって、グレーティング15全体として良好な特性が得られるように、各凹部または凸部の寸法に応じて、それらの個数は調整される。
全反射導波路1は、領域101において、ミラー30の反射面に対向する第1の表面1s1、およびミラー40の反射面に対向する第2の表面1s2を有する。図10に示す例では、グレーティング15は、全反射導波路1の第1の表面1s1に設けられている。グレーティング15は、第2の表面1s2に設けられていてもよい。グレーティング15は、全反射導波路1の第1の表面1s1および第2の表面1s2の少なくとも一方に設けられ得る。
グレーティング15は、全反射導波路1とスローライト導波路10との界面に限らず、他の位置に設けられていてもよい。また、複数のグレーティングが設けられていてもよい。ミラー30の反射面に垂直な方向から見て導波路1および導波路10が重なる領域101において、導波路1および導波路10の少なくとも一部は、1つ以上のグレーティングを含み得る。各グレーティングは、導波路1および導波路10が延びるX方向に沿って屈折率が周期的に変化する。
全反射導波路1のうち、光導波層20の外部に位置する部分は、他の誘電体層によって支持されてもよいし、2つの誘電体層によって挟まれていてもよい。
領域101のX方向における寸法は、例えば、4μmから50μm程度であり得る。そのような大きさの領域101の内部に、8周期から32周期程度のグレーティング15が形成され得る。スローライト導波路10のうち領域101以外の領域102のX方向における寸法は、例えば、100μmから5mm程度であり得る。領域101のX方向における寸法は、例えば領域102の寸法の数百分の1から数十分の1程度であり得る。ただし、この寸法に限定されず、必要な特性に応じて各部材の寸法は決定される。
領域101において、第1のミラー30は、第2のミラー40よりも高い透過率を有していなくてもよい。領域102においても、領域101に近い領域では、第1のミラー30は、第2のミラー40よりも高い透過率を有していなくてもよい。領域101は、光の結合効率を高めるために設けられる。このため、領域101の近傍では、スローライト導波路10は、必ずしも光を出射する必要はない。
全反射導波路1における導波モードの伝搬定数をβ1=2πne1/λとし、スローライト導波路10における導波モードの伝搬定数をβ2=2πne2/λとする。λは、空気中における光の波長である。ne1およびne2は、それぞれ全反射導波路1およびスローライト導波路10における実効屈折率(等価屈折率とも称する)である。全反射導波路1内を伝搬する光は、外部の空気とは結合しない。そのような導波モードの実効屈折率は、ne1>1である。一方、スローライト導波路10における光導波層20を伝搬する光の一部は、外部の空気に出射される。そのような導波モードの実効屈折率は、0<ne2<1である。したがって、β1とβ2とは大きく異なる。そのため、一般に、全反射導波路1からスローライト導波路10への導波光の結合効率は低い。
領域101において、全反射導波路1がグレーティング15を備える場合、グレーティング15に起因する回折が生じる。その場合、全反射導波路1における導波モードの伝搬定数β
1は、逆格子2π/pの整数倍だけシフトする。例えば-1次回折によってβ
1がβ
1-(2π/p)にシフトする場合、pを適切に設定すれば、β
1-(2π/p)=β
2が成り立つようにすることができる。その場合、領域101における2つの伝搬定数が一致するため、導波光は全反射導波路1からスローライト導波路10に高い効率で結合する。β
1-(2π/p)=β
2から、周期pは以下の式(5)によって表される。
0<n
e2<1であるため、周期pは、以下の式(6)を満たす。
スローライト導波路10において、領域101と、それ以外の領域102とでは、同じ導波モードであることから、導波光は高い効率で結合する。
図11は、グレーティングを介した全反射導波路からスローライト導波路に光を伝搬させたときの電場分布の計算例を示す図である。計算には、Synopsys社のModePROPを用いた。図11に示すように、全反射導波路1を伝搬する光は、グレーティング15を介してスローライト導波路10に効率よく伝搬する。
図11に示す例における計算条件は、以下の通りである。
全反射導波路1において、屈折率はnw1=1.88であり、Z方向の厚さはd1=300nmである。スローライト導波路10において、屈折率はnw2=1.6であり、Z方向の厚さはd2=2.1μmである。グレーティングにおける凹部の数は16である。グレーティングの周期はp=800nmである。各凹部の深さは200nmである。全反射導波路1およびスローライト導波路10を伝搬する光は、空気中において波長λ=940nmを有する。全反射導波路1における伝搬モードの光の実効屈折率ne1は1.69であり、領域101におけるスローライト導波路10における伝搬モードの光の実効屈折率ne2は0.528であった。
この例では、全反射導波路1からスローライト導波路10への導波光の結合効率は、61.4%であった。グレーティング15が存在しない構成、および全反射導波路1の端面とスローライト導波路10の端面とが直接接続された構成と比較して、結合効率が大幅に向上することが確認された。
比較のため、図12に示すように、グレーティングが存在しない構成においても同様の計算を行った。計算条件は、グレーティングが存在しないことを除けば、上記の条件と同じである。この場合、結合効率は1.8%であった。また、全反射導波路1の端面とスローライト導波路10の端面とが直接接続された構成においても、結合効率が例えば数%程度に留まることが確認されている。
次に、全反射導波路1および導波路10における導波モードを説明する。
図13Aは、全反射導波路1における導波モードの電場強度分布の例を示す図である。図13Bは、スローライト導波路10における高次の導波モードの電場強度分布の例を示す図である。図13Aおよび図13Bに示す例では、YZ平面における電界強度分布が示されている。図13Bに示す例では、第1のミラー30と第2のミラー40との間において、光導波層20は、2つの非導波領域73の間にある。
図13Aに示す全反射導波路1における導波モードはシングルモードである。図13Bに示すスローライト導波路10における導波モードは、式(3)におけるm=7の高次モードである。全反射導波路1における実効屈折率はne1=1.69であり、スローライト導波路10における実効屈折率はne2=0.528である。
図13Aおよび図13Bに示すように導波モードの分布が大きく異なっていても、グレーティング15を介すことにより、導波光の結合効率は高くなる。
スローライト導波路10における高次モードには、以下の利点がある。スローライト導波路10では、全体の電界強度分布に対する光導波層20での電界強度分布の占める比率は、高次モードの方が、低次モードよりも高い。すなわち、高次モードでは、光導波層20に閉じ込められる光の量がより多い。そのため、光導波層20の屈折率の変化に対して、スローライト導波路10から出射される光の出射角度は大きく変化する。
当然、スローライト導波路10における導波モードは、式(3)におけるm=7の高次モードに限定されない。式(5)におけるpを調整することにより、スローライト導波路10において他の導波モードを励起させることも可能である。
図10および図11に示す例において、領域101における全反射導波路1と各ミラーとの距離が近ければ、以下の現象が生じ得る。第1のミラー30および/または第2のミラー40が全反射導波路1よりも高い屈折率を有する場合、全反射導波路1におけるエバネッセント光は、第1のミラー30および/または第2のミラー40に移る傾向にある。その結果、全反射導波路1を伝搬する光は、第1のミラー30および/または第2のミラー40を介して外部に漏れ得る。そのため、領域101における全反射導波路1と各ミラーとの距離は、λ/4以上離れている。これにより、全反射導波路1からスローライト導波路10への導波光の結合効率の低下を抑制できる。
図14は、グレーティング15における各凹部の深さと、導波光の結合効率との関係の例を示す図である。この例では、光の波長は940nmである。全反射導波路1の屈折率nw1は1.88である。全反射導波路1の厚さd1は300nmである。スローライト導波路10の屈折率nw2は1.68である。スローライト導波路の厚さd2は2.1μmである。グレーティング15の周期pは800nmである。グレーティング15における凹部の数は32である。
図14に示す例では、結合効率は、凹部の深さが0から0.13μmの範囲では、当該深さの増加とともに単調に増加する。凹部の深さが0.13μmよりも大きい範囲では、凹部の深さを増加させると、結合効率が低下し、その後振動する。
図14に示す例では、凹部の深さが0.13μmのとき、結合効率は約50%になり、最大になる。この例では、グレーティング15における各凹部の深さが、全反射導波路1の厚さd1の3分の1以上15分の8以下の場合に、特に高い結合効率が実現される。
図14に示す結果は、以下のように説明できる。全反射導波路1のモードとスローライト導波路10のモードとの結合効率は、グレーティング15の構造に依存する。結合効率は、グレーティング15が存在する領域における全反射導波路1の規格化電界分布と、スローライト導波路10の規格化電界分布との重なり積分に比例する。このため、グレーティング15における凹部の深さが増加すると、一般に光結合効率は高くなる。しかし、結合効率が高くなりすぎると、一度スローライトモードに変換された導波光が再度、全反射導波路のモードに変換される。このため、光結合効率は低下する。さらに凹部が深くなると、再び結合効率が増加し、以後、振動する。
図15は、図14に示す例における凹部の深さが0.2μmである場合の電界強度分布を示す図である。図示されるように、この条件では、スローライトモードに変換される導波光の割合は高くない。
図16は、グレーティング15における凹部の個数に対する結合効率の依存性の例を示す図である。たとえ凹部の深さを膜厚d1と同程度にしても、グレーティング構造の個数が少なすぎると導波光の変換効率は低くなる。結合効率をある程度高くするため、凹部または凸部の個数は、例えば4個以上に設定され得る。
上記の例では、グレーティングにおける、1周期当たりの凹部のX方向の長さ、すなわちデューティ比を50%として計算したが、50%に限定されない。グレーティングのデューティ比は、グレーティングの凹部の深さおよび数によって適宜変更してもよい。導波光の結合効率の最大値は、グレーティングの凹部の深さ、数、およびデューティ比によって決定され得る。
次に、グレーティング15を介した全反射導波路およびスローライト導波路の接続の変形例を説明する。
図17Aから図17Cは、図10に示す例の変形例を模式的に示す断面図である。図17Aから図17Cに示す例では、全反射導波路1は、誘電体層51によって支持されており、誘電体層51は、第2のミラー40によって支持されている。全反射導波路1およびスローライト導波路10では、第2のミラー40が共通に用いられている。誘電体層51は、例えばSiO2から形成される。誘電体層51の屈折率nsubは、全反射導波路1の屈折率nw1よりも小さい。したがって、全反射導波路1を伝搬する光は、誘電体層51には漏れない。誘電体層51は、第2のミラー40によって支持されていなくてもよい。領域101および領域102以外の領域では、第2のミラー40を、誘電体層51と同じ材料の構造に置き換えてもよい。
図17Aに示す例では、全反射導波路1は、第1の表面1s1において、グレーティング15を備える。図17Bに示す例では、全反射導波路1は、第2の表面1s2において、グレーティング15を備える。図17Cに示す例では、全反射導波路1は、第1の表面1s1および第2の表面1s2の両方において、グレーティング15を備える。
このように、全反射導波路1は、第1の表面1s1および第2の表面1s2の少なくとも一方において、グレーティング15を備えてもよい。
図18Aおよび図18Bは、図10に示す例の他の変形例を模式的に示す断面図である。図18Aおよび図18Bに示す例では、図17Aから図17Cに示す例と同様に、全反射導波路1は、誘電体層51によって支持されており、誘電体層51は、第2のミラー40によって支持されている。
図18Aおよび図18Bの例では、全反射導波路1ではなく、第1のミラー30および/または第2のミラー40の反射面にグレーティング15が設けられている。図18Aに示す例では、スローライト導波路10は、第1のミラー30における反射面において、グレーティング15を備える。図18Bに示す例では、スローライト導波路10は、第2のミラー40における反射面において、グレーティング15を備える。
図18Aおよび図18Bに示す例では、全反射導波路1と、第1のミラー30および/または第2のミラー40とのZ方向の距離は比較的近い。これにより、全反射導波路1におけるエバネッセント光は、グレーティング15によって回折される。その結果、前述の例と同様、全反射導波路1からスローライト導波路10に導波光の結合効率を高めることができる。
このように、スローライト導波路10は、第1のミラー30における反射面および第2のミラー40における反射面の少なくとも一方において、グレーティング15を備えてもよい。さらに、図10および17A~17Cに示す例の何れか一つと図18Aまたは18Bに示す例とを組み合わせてもよい。すなわち、全反射導波路1は、第1の表面1s1および第2の表面1s2の少なくとも一方において、グレーティング15を備え、且つ、スローライト導波路10は、第1のミラー30における反射面および第2のミラー40における反射面の少なくとも一方において、グレーティング15を備えてもよい。
次に、スローライト導波路10の内部における、全反射導波路1のY方向の幅と、光導波層20のY方向の幅との関係を説明する。
図19Aから図19Dは、YZ平面における全反射導波路1およびスローライト導波路10の配置関係の例を模式的に示す断面図である。図19Aから図19Dは、全反射導波路1およびスローライト導波路10を全反射導波路1側からX方向にみたときの構造を示している。図19Aから図19Dに示す例では、2つの非導波領域73は、第1のミラー30と、第2のミラー40とに挟まれており、光導波層20は、2つの非導波領域73の間にある。光導波層20の平均屈折率は、各非導波領域73の平均屈折率よりも高い。これにより、光は非導波領域73に漏れることなく、光導波層20内を伝搬することができる。
図19Aに示す例では、全反射導波路1は、誘電体層51によって支持されていない。全反射導波路1のY方向の幅は、光導波層20のY方向の幅よりも狭い。
図19Bに示す例では、全反射導波路1は、誘電体層51によって支持されている。全反射導波路1のY方向の幅は、光導波層20のY方向の幅よりも狭い。誘電体層51のY方向の幅は、全反射導波路1のY方向の幅と同じである。
図19Cに示す例では、全反射導波路1は、誘電体層51によって支持されている。全反射導波路1のY方向の幅は、光導波層20のY方向の幅よりも狭い。誘電体層51のY方向の幅は、光導波層20のY方向の幅と同じである。
図19Dに示す例では、全反射導波路1は、誘電体層51によって支持されている。全反射導波路1のY方向の幅は、光導波層20のY方向の幅と同じである。誘電体層51のY方向の幅は、全反射導波路1のY方向の幅と同じである。
全反射導波路1からスローライト導波路10に導波光が結合するときの光散乱ロスは、図19Aおよび19Bに示す例よりも、図19Cおよび図19Dに示す例の方が小さい。図19Aに示す例において、光散乱ロスは最も大きく、図19Dに示す例において、光散乱ロスは最も小さい。図19Dに示す例では、全反射導波路1のY方向の幅は、光導波層20のY方向の幅と同じである。これにより、スローライト導波路10の導波モードにおいて、領域101内のYZ平面における電界強度分布は、領域102内のYZ平面における電界強度分布と広範囲に重なる。そのため、光散乱ロスは最も小さい。
図19Cおよび図19Dに示すように、誘電体層51のY方向の幅が光導波層20のY方向の幅と同じであれば、光散乱ロスを有効に低減させることができる。
図20は、スローライト導波路10の他の変形例を模式的に示す断面図である。図20に示す例では、領域102における断面図が示されている。図20に示すように、各非導波領域73は、2つ以上の屈折率が異なる部材を含んでもよい。図20に示す例では、光導波層20および2つの非導波領域73は、共通の材料45によって構成される領域を含む。各非導波領域73は、部材46と、共通の材料45とを含む。光導波層20の平均屈折率が、各非導波領域73の平均屈折率よりも高ければ、光は各非導波領域73に漏れることなく、光導波層20内を伝搬することができる。
次に、全反射導波路1のうち、光導波層20の外側に位置する部分の構造の例を説明する。
図21は、全反射導波路およびスローライト導波路の接続の例を模式的に示す図である。
図21に示す例では、全反射導波路1のうち、光導波層20の外側において、全反射導波路1は、スローライト導波路10に近づくにつれて、幅すなわちY方向の寸法が単調に増加する部分を含む。すなわち、全反射導波路1の一部は、テーパー構造1tを有する。光導波層20から遠い部分における全反射導波路1の幅wwは、結合部である領域101における全反射導波路1の幅wcよりも狭い。wwはwcの、例えば100分の1から2分の1程度であり得る。全反射導波路1のうち、幅の狭い導波路部分1wと、幅の広い導波路部分1cとの間にテーパー構造1tが存在する。このような構造を採用すれば、幅の狭い導波路部分1wを伝搬する光が、幅の広い導波路部分1cに入射するときの反射を抑制することができる。
光導波層20の少なくとも一部は、屈折率および/または厚さを調整することが可能な構造を有していてもよい。屈折率および/または厚さを調整することにより、第1のミラー30から出射される光の方向のうち、X方向の成分が変化する。
光導波層20の少なくとも一部の屈折率を調整するために、光導波層20は、液晶材料または電気光学材料を含んでいてもよい。光導波層20は、一対の電極によって挟まれ得る。一対の電極に電圧を印加することにより、光導波層20の屈折率を変化させることができる。
光導波層20のうち、領域101における屈折率と、領域102における屈折率とを同時に調整してもよい。しかし、領域101における屈折率を調整すると、式(5)の条件が変化し得る。その結果、全反射導波路1からスローライト導波路10への導波光の結合効率が低下し得る。そこで、領域101における屈折率を一定に維持し、領域102における屈折率のみを調整できるようにしてもよい。領域101および領域102における屈折率が異なっても、領域101と領域102との界面において生じる導波光の反射の影響は小さい。
その場合、上記の一対の電極(「第1の一対の電極」と称する)は、光導波層20のうち、第1のミラーにおける反射面に垂直な方向から見て第1の導波路に重なる部分とは異なる部分を間に挟む。不図示の制御回路が一対の電極に電圧を印加することにより、領域102における光導波層20の上記少なくとも一部の屈折率を調整することができる。
設計通りに式(5)の条件が満たされていればよいが、実際には、製造誤差に起因して、式(5)の条件が完全に満たされない場合がある。そのような場合の補償のために、領域102における屈折率の調整とは別に、領域101に屈折率を調整する機能を光デバイスに付与してもよい。
その場合、上記第1の一対の電極に加えて、第2の一対の電極が設けられ得る。第2の一対の電極は、光導波層20のうち、第1のミラーの反射面に垂直な方向から見て第1の導波路に重なる部分の少なくとも一部を間に挟む。制御回路は、第1および第2の一対の電極に独立して電圧を印加することにより、第1の一対の電極の間に位置する光導波層の部分の屈折率と、第2の一対の電極の間に位置する光導波層の部分の屈折率とを独立して調整することができる。
光導波層20の厚さを調整するために、例えば、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方に1つ以上のアクチュエータが接続されてもよい。制御回路は、1つ以上のアクチュエータを制御して第1のミラー30と第2のミラー40との距離を変化させることにより、光導波層20の厚さを変化させることができる。光導波層20が液体から形成されていれば、光導波層20の厚さは容易に変化し得る。
上記1つ以上のアクチュエータは、領域102における第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方に接続され得る。アクチュエータによって、領域102における光導波層20の厚さを変化させることができる。このとき、式(5)の条件は変化しない。
上記1つ以上のアクチュエータは、2つのアクチュエ―タであってもよい。一方のアクチュエータは、領域101における第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方に接続され得る。他方のアクチュエータは、領域102における第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方に接続され得る。2つのアクチュエータによって、領域101における光導波層20の厚さと、領域102における光導波層20の厚さとを別々に変化させることができる。これにより、設計通りに式(5)の条件が満たされていない場合の補償が可能である。
光導波層20の屈折率および/または厚さを調整する具体的な構成の例については、後述する。
製造誤差に起因して、光導波層20の厚さなどの寸法が設計値からずれることがある。光導波層20の寸法が設計値からずれると、式(5)における実効屈折率ne2にも誤差が生じる。その場合、導波光の結合効率が低下するという課題がある。以下、導波光の結合効率が光導波層20の厚さにどのように依存するかを説明する。
図22は、図17Aに示す例における、光導波層の厚さと、導波光の結合効率との関係を示す図である。横軸は光導波層20の厚さd2を表し、縦軸は、導波光の結合効率を最大値によって規格化した値を表している。図22に示す例における計算条件は、以下の通りである。
全反射導波路1において、屈折率はnw1=2.0であり、Z方向の厚さはd1=300nmである。誘電体層51において、屈折率はnsub=1.44である。スローライト導波路10において、屈折率はnw2=1.61である。グレーティングにおける凹部の数は16である。グレーティングの周期はp=795nmである。各凹部の深さは85nmである。全反射導波路1およびスローライト導波路10を伝搬する光は、空気中において波長λ=940nmを有する。
図22に示すように、結合効率は1つのピークを有する。上記の条件では、結合効率はd2=2.15μmのとき最大になる。光導波層20の厚さがd2=2.15μmからずれると、結合効率が低下する。
製造誤差に起因する結合効率の低下を抑制するために、領域101において、周期の異なる複数のグレーティングを設けてもよい。そのような複数のグレーティングを設けることにより、光導波層20の厚さd2の製造誤差を補償することができる。
以下の実施形態において、複数のグレーティングの屈折率は、X方向に沿って周期的に変化する。複数のグレーティングのうちの少なくとも2つのグレーティングの周期は互いに異なる。複数のグレーティングの各々の周期は、式(6)の範囲内にある。複数のグレーティングの各々は、上記のいずれかの例におけるグレーティングと同じ構造を備え得る。本実施形態および後述する本実施形態の変形例の全反射導波路1およびスローライト導波路10は、本開示の何れの光デバイスに適用してもよい。
図23Aは、図17Aに示す例において、2つのグレーティングを有する光デバイスを模式的に示す図である。図23Bは、図23Aに示す例における、光導波層の厚さと、導波光の結合効率との関係を示す図である。
図23Aに示す例において、グレーティング15aおよびグレーティング15bは、X軸方向に沿って並んでいる。図23Bに示す例における計算条件は、以下の通りである。
グレーティング15aおよびグレーティング15bにおける凹部の数は、共に16である。グレーティング15aの周期はp1=795nmであり、グレーティング15bの周期はp2=610nmである。各凹部の深さは85nmである。その他の計算条件は、図22に示す例における計算条件と同じである。
図23Bに示すように、結合効率は、1.95μm<d2<2.0μmにおいて幅の狭い第1のピークを有し、2.1μm<d2<2.2μmにおいて平均して幅の広い第2のピークを有する。第1のピークの幅が狭いのは、d2の変化によってne2が大きく変化するからである。第1および第2のピークは、それぞれ周期p2=610nmのグレーティング15bおよび周期p1=795nmのグレーティング15aに起因する。
図23Cは、図23Aに示す例における、光導波層の厚さおよび領域101の屈折率と、導波光の結合効率との関係を示す他の図である。複数の周期と、前述の領域101において屈折率を調整する機能とを適切に組み合わせることができる。これにより、図23Cに示すように、導波光が結合可能なd2の範囲を、途切れることなく広くすることができる。
図23Cに示す例では、周期p2=610nmおよび周期p1=710nmである。図23Cに示すように、周期p2=610nmに対応する導波光が結合可能なd2の範囲は1.92μm<d2<2.03μmであり、周期p1=710nmに対応する導波光が結合可能なd2の範囲は2.01μm<d2<2.12μmである。すなわち、2つの導波光が結合可能なd2の範囲は、1.92μm<d2<2.12μmであり、各導波光が結合可能なd2の範囲よりも広くなる。図23Cに示す計算条件において、領域101の屈折率を1.52から1.68まで変化させた。その他の計算条件は、図23Bに示す例における計算条件と同じである。
図23Dは、図23Aに示す例における、光導波層の厚さと、導波光の結合効率との関係を示す他の図である。図23Dに示す例における計算条件は、以下の通りである。
黒丸は、周期が610nmの一種類のみの場合である。その他の計算条件は、図22に示す例における計算条件と同じである。白い三角印は、グレーティング15aの周期p1=630nmであり、グレーティング15bの周期p2=610nmの場合である。その他の計算条件は、図23Bに示す例における計算条件と同じである。
図23Bに示す例において、p1を徐々にp2に近づけると、第2のピークは、第1のピークに近づく。これにより、領域101における屈折率を一定に維持した場合においても、図23Dに示す白い三角印のように、2つのピークが混在し、広いピークが得られる。その結果、導波光が結合可能なd2の範囲は広くなる。
以上のように、領域101において複数のグレーティングがあれば、光導波層20の厚さd2に製造誤差があっても、導波光の結合効率の低下を抑制することができる。
図23Aでは、2つの互いに周期が異なるグレーティング15aおよびグレーティング15bが示されているが、3つ以上の互いに周期が異なるグレーティングであってもよい。
次に、周期の異なる複数のグレーティングを有する光デバイスの変形例を説明する。
図24Aから24Dは、図23Aに示す例の変形例を模式的に示す断面図である。
図24Aに示す例では、全反射導波路1は、第2の表面1s2において、グレーティング15aおよびグレーティング15bを備える。図24Bに示す例では、全反射導波路1は、第1の表面1s1および第2の表面1s2の両方において、グレーティング15aおよびグレーティング15bを備える。図24Cに示す例では、スローライト導波路10は、第1のミラー30における反射面において、グレーティング15aおよびグレーティング15bを備える。図24Dに示す例では、スローライト導波路10は、第2のミラー40における反射面において、グレーティング15aおよびグレーティング15bを備える。
本開示の実施形態では、全反射導波路の第1の表面1s1および第2の表面1s2の少なくとも一方、または、第1のミラー30および第2のミラー40の反射面の少なくとも一方が、複数のグレーティングを含み得る。さらに、図23A、24Aおよび24Bに示す例の何れか一つと図24Cまたは24Dとを組み合わせてもよい。すなわち、本開示の実施形態では、全反射導波路の第1の表面1s1および第2の表面1s2の少なくとも一方、ならびに、第1のミラー30および第2のミラー40の反射面の少なくとも一方が、複数のグレーティングを含み得る。
上記の各例では、複数のグレーティングが、X方向に並ぶ2つ以上のグレーティングを含む。そのような形態に限らず、複数のグレーティングは、Y方向において隣接する2つ以上のグレーティングを含んでもよい。ここで、「隣接する2つ以上のグレーティング」は、Y方向において接していてもよいし、間隔を空けて隣り合っていてもよい。
図25Aは、2つのグレーティングがY方向に並んでいる例を模式的に示す図である。
図25Aに示す例では、グレーティング15aおよびグレーティング15bの各々のY方向の幅はwc/2である。Y方向の幅が短い代わりに、X方向において、グレーティング15aおよびグレーティング15bの各々の凹部の数を増やしてもよい。これにより、図23Aに示す例と同様の効果を期待することができる。図23Aに示す例では、各々のY方向の幅がwcである2つのグレーティング15aおよびグレーティング15bがX方向に沿って並んでいる。
「複数のグレーティングがY方向において隣接する」場合には、X方向に沿ったグレーティングの周期が、Y方向における位置の変化に伴って連続的に変化する場合も含まれる。
図25Bは、グレーティングの周期が、Y方向における位置の変化に伴ってp2からp1に連続的に変化する例を模式的に示す図である。ここで、p1はp2よりも大きい。
図25Bに示す例では、全反射導波路1における導波モードの伝搬定数β1は、グレーティング15cによる-1次回折により、β1-(2π/p2)からβ1-(2π/p1)まで連続的にシフトする。したがって、光導波層20の厚さd2に製造誤差があっても、β1-(2π/p2)≦β2≦β1-(2π/p1)であれば、導波光は、全反射導波路1からスローライト導波路10に高い効率で結合する。
複数のグレーティングは、空間的に分離している必要はない。グレーティングは、複数の周期成分を含んでいてもよい。本明細書では、そのような場合でも、「周期の異なる複数のグレーティング」が設けられているものと解釈する。当該グレーティングの屈折率は、X方向に沿って変化する。複数の周期成分の各周期は、式(6)を満たす。
図26は、2つの周期成分を含むグレーティングが混在している例を模式的に示す図である。図26に示す例では、グレーティング15mにおいて2つの異なる周期がランダムに混在している。
グレーティング15mが複数の周期成分を含むことは、グレーティング15mの屈折率の空間変化をフーリエ変換することによって知ることができる。屈折率の空間変化n(x)をフーリエ変換すると、N(k)=∫n(x)exp(‐ikx)dxのフーリエ成分が得られる。例えば、周期p1および周期p2の2つの周期成分が混在している場合、フーリエ成分N(k)は、k=(2π/p1)m1およびk=(2π/p2)m2においてピークを有する。m1、m2は整数である。
領域101において複数のグレーティングがある場合でも、前述したように、光導波層20の少なくとも一部は、屈折率および/または厚さを調整することが可能な構造を有していてもよい。また、複数のグレーティングを有する光デバイスは、図19Aから図21に示す各構造を備えていてもよい。
全反射導波路1およびスローライト導波路10の組を複数組備える光デバイスを構成することにより、2次元の光スキャンも可能である。そのような光スキャンデバイスは、Y方向に配列された複数の導波路ユニットを備える。各導波路ユニットは、上記の全反射導波路1およびスローライト導波路10を備える。当該光スキャンデバイスでは、複数の位相シフタが、複数の導波路ユニットにそれぞれ接続される。複数の位相シフタは、それぞれ、複数の導波路ユニットの対応する1つにおける全反射導波路1に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含む。複数の位相シフタを通過する光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、光スキャンデバイスから出射される光の方向のうち、Y方向の成分を変化させることができる。同様の構造によって光受信デバイスを構成することもできる。
図27Aは、第1のミラー30と第2のミラー40の間に位置する光導波層20の両隣に、非導波領域73(以下、「スペーサ73」とも称する)が配置されている構成例を模式的に示す、YZ平面における導波路素子10の断面図である。スペーサ73の屈折率nlowは、光導波層の屈折率nwよりも低い(nlow<nw)。スペーサ73は、例えば、空気でもよい。スペーサ73は、光導波層よりも低い屈折率を有する限り、例えば、TiO2、Ta2O5、SiN、AlN、SiO2などであってもよい。
図27Bは、図27Aにおける導波路素子10をY方向に配列した導波路アレイ10Aの構成例を模式的に示す、YZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。図27Bの構成例では、Y方向において、第1のミラー30の幅は、光導波層20の幅と同じである。第1のミラー30の幅は、光導波層20の幅よりも広い場合、第1のミラー30が存在しない領域から導波光が漏れることを低減することができる。従来では、複数の反射型導波路も含め、複数の導波路素子10をアレイ化する際に、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方の幅を光導波層20の幅よりも長くすることにより、導波光の漏れを防ぐという発想はなかった。
光スキャンの性能を向上させるためには、導波路アレイ10Aにおける各導波路素子10を、細線化することが望ましい。この場合、導波光が漏れるという課題はより顕著になる。
図28は、光導波層20内において、導波光がX方向に伝搬することを模式的に示す図である。nw>nlowであることから、導波光は、±Y方向において全反射により閉じ込められながら、X方向に伝搬する。しかし、実際には、光導波層20のY方向における端面から外側へ染み出すエバネッセント光が存在する。また、図2に示すように、導波光は、±Z方向において第1のミラー30および第2のミラー40によって反射されながら、全反射角θinよりも小さい角度で、X方向に伝搬する。このとき、図27Bに示す第1のミラー30が存在しない領域では、エバネッセント光は、反射されず、外に漏れ出る。この意図しない光ロスにより、光スキャンに用いられる光量は低下し得る。
複数の導波路素子10の配列方向において、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方の幅を、光導波層20の幅よりも長くすることにより、上記の課題を解決できる。これにより、上記の意図しない光ロスを低減することができる。その結果、光スキャンに用いられる光量の低下は抑制される。
図29Aから図29Cは、第1の導波路1に光が入力される構成において、第1の導波路1への光の入力方法の例を示す図である。図29Aは、第1の導波路1の表面に設けられたグレーティング5を介して第1の導波路1に光が導入される例を示している。図29Bは、第1の導波路1の端面から光が入力される例を示している。図29Cは、第1の導波路1の表面に設けられたレーザー光源6から、当該表面を介して光が入力される例を示している。図29Cのような構成は、例えば、M. Lamponi et al., “Low-Threshold Heterogeneously Integrated InP/SOI Lasers With a Double Adiabatic Taper Coupler”, IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL. 24, NO. 1, JANUARY 1, 2012, pp 76-78.に開示されている。この文献の開示内容全体を本願明細書に援用する。以上の構成によれば、効率よく光を導波路1に入射させることができる。
次に、本実施形態における第1の導波路1および第2の導波路10の組み合わせ(本明細書において、「導波路ユニット」と称する。)を複数組用いて、2次元的な光のスキャンを実現する構成を説明する。2次元スキャンを実行可能な光スキャンデバイスは、第1の方向に配列された複数の導波路ユニットと、各導波路ユニットを制御する調整素子(例えばアクチュエータおよび制御回路の組み合わせ)を備える。調整素子は、各導波路ユニットにおける第2の導波路10における光導波層20の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させる。これにより、各第2の導波路10から出射される光の方向を変化させることができる。また、複数の導波路ユニットにおける第2の導波路10に、適切に位相差が調整された光が入力されることにより、図1を参照して説明したように、光の2次元スキャンが可能となる。以下、2次元スキャンを実現するための実施形態をより詳細に説明する。
<2次元スキャンの動作原理>
複数の導波路素子(すなわち、第2の導波路)10が一方向に配列された導波路アレイにおいて、それぞれの導波路素子10から出射される光の干渉により、光の出射方向は変化する。各導波路素子10に供給する光の位相を調整することにより、光の出射方向を変化させることができる。以下、その原理を説明する。
図30Aは、導波路アレイの出射面に垂直な方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。図30Aには、各導波路素子10を伝搬する光の位相シフト量も記載されている。ここで、位相シフト量は、左端の導波路素子10を伝搬する光の位相を基準にした値である。本実施形態における導波路アレイは、等間隔に配列された複数の導波路素子10を含んでいる。図30Aにおいて、破線の円弧は、各導波路素子10から出射される光の波面を示している。直線は、光の干渉によって形成される波面を示している。矢印は、導波路アレイから出射される光の方向(すなわち、波数ベクトルの方向)を示している。図30Aの例では、各導波路素子10における光導波層20を伝搬する光の位相はいずれも同じである。この場合、光は導波路素子10の配列方向(Y方向)および光導波層20が延びる方向(X方向)の両方に垂直な方向(Z方向)に出射される。
図30Bは、導波路アレイの出射面に垂直な方向とは異なる方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。図30Bの例では、複数の導波路素子10における光導波層20を伝搬する光の位相が、配列方向に一定量(Δφ)ずつ異なっている。この場合、光は、Z方向とは異なる方向に出射される。このΔφを変化させることにより、光の波数ベクトルのY方向の成分を変化させることができる。
導波路アレイから外部(ここでは空気とする。)へ出射される光の方向は、以下のように定量的に議論できる。
図31は、3次元空間における導波路アレイを模式的に示す斜視図である。互いに直交するX、YおよびZ方向で定義される3次元空間において、光が空気に出射される領域と、導波路アレイとの境界面をZ=z
0とする。この境界面は、複数の導波路素子10のそれぞれの出射面を含む。Z<z
0では、Y方向に複数の導波路素子10が等間隔に配列され、複数の導波路素子10のそれぞれはX方向に延びている。Z>z
0において、空気へ出射される光の電場ベクトルE(x、y、z)は、以下の式(7)で表される。
ただしE
0は電場の振幅ベクトルであり、k
x、k
yおよびk
zはそれぞれX、YおよびZ方向における波数(wave number)であり、jは虚数単位である。この場合、空気へ出射される光の方向は、図31において太い矢印で表される波数ベクトル(k
x、k
y、k
z)に平行となる。波数ベクトルの大きさは、以下の式(8)で表される。
Z=z
0における電界の境界条件から、境界面に平行な波数ベクトル成分k
xおよびk
yは、それぞれ導波路アレイにおける光のX方向およびY方向における波数に一致する。これは、式(2)のスネルの法則と同様に、境界面において、空気側の光が有する面方向の波長と、導波路アレイ側の光が有する面方向の波長とが一致する条件に相当する。
k
xは、X方向に延びた導波路素子10の光導波層20を伝搬する光の波数に等しい。上述した図2に示される導波路素子10では、k
xは、式(2)および式(3)を用いて、以下の式(9)で表される。
k
yは、隣接する2つの導波路素子10の間の光の位相差から導出される。Y方向に等間隔に配列されたN本の導波路素子10のそれぞれのY方向の中心をy
q(q=0、1、2、・・・、N-1)とし、隣接する2つの導波路素子10の間の距離(中心間距離)をpとする。そのとき、空気へ出射される光の電場ベクトル(式(7))は、境界面内(Z=z
0)のy
qおよびy
q+1において、式(10)の関係を満たす。
任意の隣接する2つの導波路素子10の位相差がΔφ=k
yp(一定)となるように設定した場合、k
yは、以下の式(11)の関係を満たす。
この場合、yqにおける光の位相はφq=φ0+qΔφとなる(φq+1-φq=Δφ)。つまり、位相φqは、Y方向に沿って、一定(Δφ=0)か、比例して増加(Δφ>0)または減少(Δφ<0)する。Y方向に配列された導波路素子10が等間隔でない場合は、例えば、所望のkyに対して、yqおよびyq+1での位相差がΔφq=φq+1-φq=ky(yq+1-yq)となるように設定する。この場合、yqにおける光の位相はφq=φ0+ky(yq-y0)となる。式(10)および式(11)からそれぞれ得られるkxおよびkyを用いれば、式(8)からkzが導出される。これにより、光の出射方向(すなわち、波数ベクトルの方向)が得られる。
例えば、図31に示すように、出射光の波数ベクトル(k
x、k
y、k
z)と、その波数ベクトルをYZ平面に射影したベクトル(0、k
y、k
z)とがなす角度をθとする。θは、波数ベクトルとYZ平面とがなす角度である。θは、式(8)および式(9)を用いて、以下の式(12)で表される。
式(12)は、出射光がXZ平面に平行な場合に限定したときの式(3)と全く同じである。式(12)からわかるように、波数ベクトルのX成分は、光の波長、光導波層20の屈折率、および光導波層20の厚さに依存して変化する。
同様に、図31に示すように、出射光(0次光)の波数ベクトル(k
x、k
y、k
z)と、その波数ベクトルをXZ平面に射影したベクトル(k
x、0、k
z)とがなす角度をα
0とする。α
0は、波数ベクトルとXZ平面とがなす角度である。α
0は、式(8)および式(9)を用いて、以下の式(13)で表される。
式(13)からわかるように、光の波数ベクトルのY成分は、光の位相差Δφによって変化する。
このように、波数ベクトル(kx、ky、kz)の代わりに、式(12)および式(13)からそれぞれ得られるθおよびα0を用いて光の出射方向を特定することもできる。その場合、光の出射方向を表す単位ベクトルは、(sinθ、sinα0、(1-sin2α0-sin2θ)1/2)と表すことができる。光出射においてこれらのベクトル成分はすべて実数でなければならないので、sin2α0+sin2θ≦1が満たされる。sin2α0≦1-sin2θ=cos2θから、出射光は-cosθ≦sinα0≦cosθを満たす角度範囲で変化することがわかる。-1≦sinα0≦1から、θ=0oでは、出射光は-90o≦α0≦90oの角度範囲で変化する。しかし、θが増加するとcosθは小さくなるので、α0の角度範囲は狭くなる。θ=90o(cosθ=0)では、α0=0oのときのみしか光は出射されない。
本実施形態における光による2次元スキャンは、導波路素子10が少なくとも2本あれば実現できる。しかし、導波路素子10の本数が少ない場合、上記のα0の広がり角度Δαが大きくなる。導波路素子10の本数が増加するとΔαは小さくなる。このことは、以下のようにして説明できる。簡単のために、図31においてθ=0oの場合を考える。つまり、光の出射方向がYZ平面に平行な場合を考える。
N本(Nは2以上の整数)の導波路素子10のそれぞれから、同じ出射強度および上述した位相φ
qを有する光が出射されるとする。そのとき、N本の導波路素子10から出射される合計の光(電場)の振幅分布の絶対値は、遠視野において、以下の式(14)で表されるF(u)に比例する。
αは、YZ平面において、観測点および原点を結ぶ直線と、Z軸とがなす角度である。α
0は、式(13)を満たす。式(14)のF(u)は、u=0(α=α
0)でN(最大)となり、u=±2π/Nで0となる。u=-2π/Nおよび2π/Nを満たす角度をそれぞれα
1およびα
2とすると(α
1<α
0<α
2)、α
0の広がり角度はΔα=α
2-α
1となる。-2π/N<u<2π/N(α
1<α<α
2)の範囲のピークは、一般にメインローブと呼ばれる。メインローブの両側にはサイドローブと呼ばれる複数の小さいピークが存在する。メインローブの幅Δu=4π/Nと、式(15)から得られるΔu=2πpΔ(sinα)/λとを比較すると、Δ(sinα)=2λ/(Np)となる。Δαが小さければ、Δ(sinα)=sinα
2-sinα
1=[(sinα
2-sinα
1)/(α
2-α
1)]Δα≒[d(sinα)/dα]
α=α0Δα=cosα
0Δαとなる。このため、広がり角度は、以下の式(16)で表される。
したがって、導波路素子10の本数が多いほど、広がり角度Δαを小さくすることができ、遠方においても高精細な光スキャンが実現できる。同様の議論は、図31においてθ≠0oの場合にも適用できる。
<導波路アレイから出射される回折光>
導波路アレイからは0次光のほかに高次の回折光も出射され得る。簡単のために、図31においてθ=0oの場合を考える。つまり、回折光の出射方向はYZ平面に平行である。
図32Aは、pがλよりも大きい場合において、導波路アレイから回折光が出射される様子を示す模式図である。この場合、位相シフトがなければ(α0=0o)、図32Aに示す実線矢印の方向に0次光および±1次光が出射される(pの大きさによっては、さらに高次の回折光も出射され得る)。この状態から位相シフトを与えると(α0≠0o)、図32Aに示す破線矢印のように、0次光および±1次光の出射角度が同じ回転方向に変化する。±1次光のような高次光を用いてビームスキャンを行うことも可能であるが、よりシンプルにデバイスを構成する場合、0次光のみが用いられる。0次光の利得が低減することを回避するために、隣接する2つの導波路素子10の間の距離pをλよりも小さくすることによって高次光の出射を抑制してもよい。p>λであっても、高次光を物理的に遮断することによって0次光のみを用いることも可能である。
図32Bは、pがλよりも小さい場合において、導波路アレイから回折光が出射される様子を示す模式図である。この場合、位相シフトがなければ(α0=0o)、高次の回折光は、回折角度が90度を超えるため存在せず、前方には0次光だけが出射する。ただし、pがλに近い値の場合、位相シフトを与えると(α0≠0o)、出射角度の変化に伴って±1次光が出射される場合がある。
図32Cは、p≒λ/2の場合において、導波路アレイから回折光が出射される様子を示す模式図である。この場合、位相シフトを与えても(α0≠0o)±1次光は出射しない、あるいは出射したとしてもかなり大きな角度で出射する。p<λ/2の場合は、位相シフトを与えても高次の光が出射することはない。しかし、pをこれ以上小さくすることによるメリットも特にない。よって、pは、例えばλ/2以上に設定され得る。
図32Aから図32Cにおける空気へ出射される0次光および±1次光の関係は、以下のように定量的に説明できる。式(14)のF(u)は、F(u)=F(u+2π)であることから、2πの周期関数である。u=±2mπのとき、F(u)=N(最大)となる。そのとき、u=±2mπを満たす出射角度αで±m次光が出射される。u=±2mπ(m≠0)付近のピーク(ピーク幅はΔu=4π/N)をグレーティングローブと呼ぶ。
高次光のうち、±1次光のみを考えると(u=±2π)、±1次光の出射角度α±は、以下の式(17)を満たす。
+1次光が出射されない条件sinα+>1から、p<λ/(1―sinα0)が得られる。同様に、-1次光が出射されない条件sinα-<-1から、p<λ/(1+sinα0)が得られる。
出射角度α0(>0)の0次光に対して±1次光が出射されるか否かの条件は、以下のように分類される。p≧λ/(1―sinα0)の場合、±1次光の両方が出射される。λ/(1+sinα0)≦p<λ/(1―sinα0)の場合、+1次光は出射されないが-1次光は出射される。p<λ/(1+sinα0)の場合、±1次光はいずれも出射されない。特に、p<λ/(1+sinα0)を満たせば、図31においてθ≠0oの場合でも±1次光は出射されない。例えば、±1次光が出射されない場合において片側10度以上のスキャンを達成するため、α0=10°として、pは、p≦λ/(1+sin10°)≒0.85λの関係を満たす。例えば、この式と、pに関する前述の下限についての条件と組み合わせれば、pは、λ/2≦p≦λ/(1+sin10°)を満たす。
しかし、±1次光が出射されない条件を満たすためには、pを非常に小さくする必要がある。これは、導波路アレイの作製を困難にする。そこで、±1次光の有無に関わらず、0次光を0°<α0<αmaxの角度範囲でスキャンすることを考える。ただし、±1次光はこの角度範囲には存在しないとする。この条件を満たすためには、α0=0°において、+1次光の出射角度はα+≧αmaxでなければならず(すなわち、sinα+=(λ/p)≧sinαmax)、α0=αmaxにおいて、-1次光の出射角度はα-≦0でなければならない(すなわち、sinα-=sinαmax-(λ/p)≦0)。これらの制限から、p≦λ/sinαmaxが得られる。
上記の議論から、±1次光がスキャンの角度範囲に存在しない場合における0次光の出射角度α
0の最大値α
maxは、以下の式(18)を満たす。
例えば、±1次光がスキャンの角度範囲に存在しない場合において片側10度以上のスキャンを達成するため、αmax=10°とし、p≦λ/sin10°≒5.76λを満たす。例えば、今式と、pに関する前述の下限についての条件とを組み合わせれば、pは、λ/2≦p≦λ/sin10°を満たす。このpの上限(p≒5.76λ)は±1次光が出射されない場合における上限(p≒0.85λ)と比べて十分大きいので、導波路アレイの作製は比較的容易である。ここで、使用される光が単一波長の光ではない場合、使用される光の中心波長をλとする。
以上のことから、より広い角度範囲をスキャンするためには、導波路間の距離pを小さくする必要がある。一方、pが小さい場合に式(16)における出射光の広がり角度Δαを小さくするためには、アレイにおける導波路の本数を増やす必要がある。アレイにおける導波路の本数は、用途および要求される性能に応じて適宜決定される。アレイにおける導波路の本数は、例えば16本以上、用途によっては100本以上であり得る。
<導波路アレイに導入する光の位相制御>
それぞれの導波路素子10から出射される光の位相を制御するために、例えば、導波路素子10に光を導入する前段に、光の位相を変化させる位相シフタが設けられ得る。本実施形態における光スキャンデバイス100は、複数の導波路素子10のそれぞれに接続された複数の位相シフタと、各位相シフタを伝搬する光の位相を調整する第2調整素子とを備える。各位相シフタは、複数の導波路素子10の対応する1つにおける光導波層20に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含む。第2調整素子は、複数の位相シフタから複数の導波路素子10へ伝搬する光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、複数の導波路素子10から出射される光の方向(すなわち、第3の方向D3)を変化させる。以下の説明では、導波路アレイと同様に、配列された複数の位相シフタを「位相シフタアレイ」と呼ぶことがある。
図33は、位相シフタ80が導波路素子10に直接的に接続されている構成の例を示す模式図である。図33において、破線枠で囲まれた部分が位相シフタ80に該当する。この位相シフタ80は、前述の全反射導波路1と、全反射導波路1の近傍に配置されたヒーター68とを含む。ヒーター68は、外部の制御回路からの制御によって発熱し、導波路1内の屈折率を変化させる。これにより、導波路1内を伝搬する光の位相を変化させる。この例では、位相シフタ80が、前述の「第1の導波路」を含む。このように、「第1の導波路」は、位相シフタとして機能してもよい。
位相シフタ80は、図33の構成に限定されない。位相シフタ80は、導波路1に接続された屈折率が可変な他の導波路を含んでいてもよい。その場合、当該他の導波路内の屈折率を変調させることにより、位相シフトを生じさせることができる。当該他の導波路は、導波路素子10と同様のスローライト導波路であってもよい。導波路素子10と同様の方法により、屈折率の変調を生じさせることができる。
図34は、導波路アレイ10Aおよび位相シフタアレイ80Aを、光出射面の法線方向(Z方向)から見た模式図である。図34に示される例では、全ての位相シフタ80が同じ伝搬特性を有し、全ての導波路素子10が同じ伝搬特性を有する。それぞれの位相シフタ80およびそれぞれの導波路素子10は同じ長さであってもよいし、長さが異なっていても良い。それぞれの位相シフタ80の長さが等しい場合は、例えば、駆動電圧によってそれぞれの位相シフト量を調整することができる。また、それぞれの位相シフタ80の長さを等ステップで変化させた構造にすることで、同じ駆動電圧で等ステップの位相シフトを与えることもできる。さらに、この光スキャンデバイス100は、複数の位相シフタ80に光を分岐して供給する光分岐器90と、各導波路素子10を駆動する第1駆動回路110と、各位相シフタ80を駆動する第2駆動回路210とをさらに備えている。図34における直線の矢印は光の入力を示している。別々に設けられた第1駆動回路110と第2駆動回路210とをそれぞれ独立に制御することにより、2次元スキャンを実現できる。この例では、第1駆動回路110は、第1調整素子の1つの要素として機能し、第2駆動回路210は、第2調整素子の1つの要素として機能する。
第1駆動回路110は、後述するように、各導波路素子10における光導波層20の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させることにより、光導波層20から出射する光の角度を変化させる。第2駆動回路210は、後述するように、各位相シフタ80における導波路20aの屈折率を変化させることにより、導波路20aの内部を伝搬する光の位相を変化させる。光分岐器90は、全反射によって光が伝搬する導波路で構成してもよいし、導波路素子10と同様の反射型導波路で構成してもよい。
なお、光分岐器90で分岐したそれぞれの光に対して位相を制御した後に、それぞれの光を位相シフタ80に導入してもよい。この位相制御には、例えば、位相シフタ80に至るまでの導波路の長さを調整することによるパッシブな位相制御構造を用いることができる。あるいは、位相シフタ80と同様の機能を有する電気信号で制御可能な位相シフタを用いても良い。このような方法により、例えば、全ての位相シフタ80に等位相の光が供給されるように、位相シフタ80に導入される前に位相を調整してもよい。そのような調整により、第2駆動回路210による各位相シフタ80の制御をシンプルにすることができる。
図35は、位相シフタ80における導波路が、導波路素子10における光導波層20と、他の導波路85を介して繋がる構成の例を模式的に示す図である。他の導波路85は、上述した何れかの第1の導波路1であってもよい。各位相シフタ80は、図33に示す位相シフタ80と同じ構成を有していてもよいし、異なる構成を有していてもよい。図35では、位相シフタ80を、位相シフト量を表す記号φ0からφ5を用いて、簡易的に表現している。以降の図でも同様の表現を用いることがある。位相シフタ80には、全反射を利用して光を伝搬させる導波路を利用することができる。
図36は、光分岐器90にカスケード状に並ぶ複数の位相シフタ80を挿入した構成例を示す図である。この例では、光分岐器90の経路の途中に、複数の位相シフタ80が接続されている。各位相シフタ80は、伝搬する光に一定の位相シフト量φを与える。それぞれの位相シフタ80が伝搬光に与える位相シフト量を一定にすることで、隣接する2つの導波路素子10の間の位相差が等しくなる。したがって、第2調整素子は、全ての位相シフタ80に共通の位相制御信号を送ることができる。このため、構成が容易になるという利点がある。
光分岐器90、位相シフタ80および導波路素子10などの間で、光を効率的に伝搬させるために、導波路を利用することができる。導波路には、周囲の材料よりも高い屈折率を有する、光の吸収が少ない光学材料を用いることができる。例えば、Si、GaAs、GaN、SiO2、TiO2、Ta2O5、AlN、SiNなどの材料が用いられ得る。また、光分岐器90から導波路素子10に光を伝搬させるために、上述した何れかの第1の導波路1を用いてもよい。
位相シフタ80では、光に位相差を与えるために光路長を変える機構が必要である。光路長を変えるために、本実施形態では、位相シフタ80における導波路の屈折率が変調される。これにより、隣接する2つの位相シフタ80から導波路素子10に供給される光の位相差を調整することができる。より具体的には、位相シフタ80が有する導波路内の位相シフト材料の屈折率変調を行うことで、位相シフトを与えることができる。屈折率変調を行う構成の具体例については、後述する。
<第1調整素子の例>
次に、導波路素子10における光導波層20の屈折率および厚さの少なくとも一方を調整する第1調整素子の構成例を説明する。
まず、屈折率を調整する場合の構成例を説明する。
図37Aは、第1調整素子60(以下、単に調整素子と呼ぶことがある)の構成の一例を模式的に示す斜視図である。図37Aに示される例では、一対の電極62を有する調整素子60が導波路素子10に組み込まれている。光導波層20は、一対の電極62に挟まれている。光導波層20および一対の電極62は、第1のミラー30と第2のミラー40との間に設けられている。光導波層20の側面(XZ面に平行な表面)の全体が、電極62に接触している。光導波層20は、電圧が印加された場合に、光導波層20を伝搬する光に対する屈折率が変化する屈折率変調材料を含む。調整素子60は、一対の電極62から引き出された配線64と、配線64に接続された電源66とをさらに有している。電源66をオンにして配線64を通じて一対の電極62に電圧を印加することで、光導波層20の屈折率を変調することができる。このため、調整素子60を屈折率変調素子と呼ぶこともできる。
図37Bは、第1調整素子60の他の構成例を模式的に示す斜視図である。この例では、光導波層20の側面の一部のみが電極62に接触している。それ以外の点は、図37Aに示す構成と同じである。このように、光導波層20の屈折率を部分的に変化させる構成であっても、出射光の方向を変化させることができる。
図37Cは、調整素子60のさらに他の構成例を模式的に示す斜視図である。この例では、一対の電極62は、ミラー30およびミラー40の反射面に略平行な層状の形状を有する。一方の電極62は、第1のミラー30と光導波層20との間に挟まれている。他方の電極62は、第2のミラー40と光導波層20との間に挟まれている。このような構成を採用する場合、電極62には、透明電極が用いられ得る。このような構成によれば、製造が比較的容易であるという利点がある。
図37Aから図37Cに示す例では、各導波路素子10における光導波層20は、電圧が印加された場合に、光導波層20を伝搬する光に対する屈折率が変化する材料を含む。第1調整素子60は、光導波層20を挟む一対の電極62を有し、一対の電極62に電圧を印加することにより、光導波層20の屈折率を変化させる。電圧の印加は、前述の第1駆動回路110(図34参照)によって行われ得る。
ここで、各構成要素に用いられ得る材料の例を説明する。
ミラー30、ミラー40、ミラー30a、およびミラー40aの材料には、例えば誘電体による多層膜を用いることができる。多層膜を用いたミラーは、例えば、各々が1/4波長の光学厚さを有する、屈折率の異なる複数の膜を周期的に形成することによって作製できる。このような多層膜ミラーによれば、高い反射率を得ることができる。膜の材料として、例えばSiO2、TiO2、Ta2O5、Si、SiNなどを用いることができる。各ミラーは、多層膜ミラーに限らず、Ag、Alなどの金属で形成されていてもよい。
電極62および配線64には、導電性を有する様々な材料を利用することができる。例えば、Ag、Cu、Au、Al、Pt、Ta、W、Ti、Rh、Ru、Ni、Mo、Cr、Pdなどの金属材料、またはITO、酸化錫、酸化亜鉛、IZO(登録商標)、SROなどの無機化合物、またはPEDOT、ポリアニリンなどの導電性高分子などの導電性材料を用いることができる。
光導波層20の材料には、誘電体、半導体、電気光学材料、液晶分子などの様々な透光性の材料を利用することができる。誘電体としては、例えばSiO 2、TiO 2、Ta 2O 5、SiN、AlNが挙げられる。半導体材料としては、例えば、Si系、GaAs系、GaN系の材料が挙げられる。電気光学材料としては、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO 3)、チタン酸バリウム(BaTiO
3)、タンタル酸リチウム(LiTaO 3)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN)などが挙げられる。
光導波層20の屈折率を変調する方法には、例えば、キャリア注入効果、電気光学効果、複屈折効果、または熱光学効果を利用した方法がある。以下、各方法の例を説明する。
キャリア注入効果を利用した方法は、半導体のpin接合を利用した構成によって実現され得る。この方法では、ドープ濃度の低い半導体材料をp型半導体およびn型半導体で挟み込んだ構造が用いられ、半導体にキャリアを注入することによって屈折率が変調される。この構成では、各導波路素子10における光導波層20は、半導体材料を含む。一対の電極62の一方はp型半導体を含み、他方はn型半導体を含み得る。第1調整素子60は、一対の電極62に電圧を印加することにより、半導体材料にキャリアを注入し、光導波層20の屈折率を変化させる。光導波層20をノンドープまたは低ドープ濃度の半導体で作製し、これに接するようにp型半導体およびn型半導体を設ければ良い。低ドープ濃度の半導体にp型半導体およびn型半導体が接するように配置し、さらにp型半導体およびn型半導体に導電性材料が接するような複合的な構成にしてもよい。例えば、Siに1020cm-3程度のキャリアを注入すると、Siの屈折率が0.1程度変化する(例えば、“Free charge carrier induced refractive index modulation of crystalline Silicon” 7th IEEE International Conference on Group IV Photonics, P102 ‐ 104, 1-3 Sept. 2010を参照)。この方法を採用する場合、図37Aから図37Cにおける一対の電極62の材料として、p型半導体およびn型半導体が用いられ得る。あるいは、一対の電極62は金属で構成し、電極62と光導波層20との間の層、または、光導波層20自体にp型またはn型半導体を含ませてもよい。
電気光学効果を利用した方法は、電気光学材料を含む光導波層20に電場をかけることで実現され得る。特に、電気光学材料としてKTNを用いれば、大きな電気光学効果を得ることができる。KTNは正方晶から立方晶への相転移温度よりも少し高い温度で比誘電率が著しく上昇するため、この効果を利用することができる。例えば、“Low-Driving-Voltage Electro-Optic Modulator With Novel KTa1-xNbxO3 Crystal Waveguides” Jpn. J. Appl. Phys., Vol.43, No. 8B (2004)によれば、波長1.55μmの光に対して電気光学定数g=4.8×10-15m2/V2が得られる。よって、例えば2kV/mmの電場をかけると、屈折率が0.1(=gn3E3/2)程度変化する。このように、電気光学効果を利用した構成では、各導波路素子10における光導波層20は、KTNなどの電気光学材料を含む。第1調整素子60は、一対の電極62に電圧を印加することにより、電気光学材料の屈折率を変化させる。
液晶による複屈折効果を利用した方法では、液晶材料を含む光導波層20を電極62で駆動することで、液晶の屈折率異方性を変化させることができる。これにより、光導波層20を伝搬する光に対する屈折率を変調することができる。液晶は一般に0.1から0.2程度の複屈折率差を有するので、液晶の配向方向を電場で変えることで複屈折率差と同等の屈折率変化が得られる。このように、液晶の複屈折効果を利用した構成では、各導波路素子10における光導波層20は、液晶材料を含む。第1調整素子60は、一対の電極62に電圧を印加することにより、液晶材料の屈折率異方性を変化させ、光導波層20の屈折率を変化させる。
熱光学効果は、材料の温度変化に伴って屈折率が変化する効果である。熱光学効果による駆動を行うために、熱光学材料を含む光導波層20を加熱することで屈折率を変調してもよい。
図38は、高い電気抵抗を有する材料によって構成されるヒーター68を含む調整素子60と導波路素子10とを組み合わせた構成の例を示す図である。ヒーター68は、光導波層20の近傍に配置され得る。電源66をオンにして導電性材料を含む配線64を通じてヒーター68に電圧をかけることにより、加熱することができる。ヒーター68を光導波層20に接触させてもよい。本構成例では、各導波路素子10における光導波層20は、温度変化に伴って屈折率が変化する熱光学材料を含む。第1調整素子60は、光導波層20に接触してまたは光導波層20の近傍に配置されたヒーター68を有する。第1調整素子60は、ヒーター68によって熱光学材料を加熱することにより、光導波層20の屈折率を変化させる。
光導波層20自体を高電気抵抗材料で作製し、光導波層20を直接一対の電極62で挟み電圧を印加することで加熱してもよい。その場合、第1調整素子60は、光導波層20を挟む一対の電極62を有する。第1調整素子60は、一対の電極62に電圧を印加して光導波層20における熱光学材料(例えば、高電気抵抗材料)を加熱することにより、光導波層20の屈折率を変化させる。
ヒーター68または光導波層20に用いられる高電気抵抗材料として、半導体または抵抗率の大きい金属材料を用いることができる。半導体としては、例えば、Si、GaAs、またはGaNなどを用いることができる。また、抵抗率の高い金属としては、鉄、ニッケル、銅、マンガン、クロム、アルミニウム、銀、金、プラチナ、またはこれら複数の材料を組み合わせた合金などが用いられ得る。例えば、波長1500nmの光に対するSiの屈折率の温度依存性dn/dTは1.87×10-4(K-1)である(“Temperature-dependent refractive index of silicon and germanium”, Proc. SPIE 6273, Optomechanical Technologies for Astronomy, 62732Jを参照)。したがって、温度を500℃変えると屈折率を0.1程度変化させることができる。光導波層20の近傍にヒーター68を設け局所的に加熱すれば、500℃という大きい温度変化でも比較的高速に行うことができる。
キャリア注入による屈折率変化の応答速度は、キャリアの寿命によって決まる。一般に、キャリア寿命はナノ秒(ns)のオーダーであるため100MHzから1GHz程度の応答速度が得られる。
電気光学材料を用いた場合、電場をかけて電子の分極を誘起することで屈折率変化が生じる。分極を誘起する速度は一般的に極めて高速で、LiNbO3、LiTaO3などの材料では応答時間はフェムト秒(fs)オーダーであるため、1GHzを越えた高速駆動が可能である。
熱光学材料を用いた場合、温度昇降の速度で屈折率変化の応答速度が決まる。局所的に導波路近傍のみ加熱することで急激な温度上昇が得られる。また、局所的に温度が上がった状態でヒーターを切ると周辺に放熱することで急激に温度を下げることができる。速いものでは100KHz程度の応答速度が得られる。
以上の例では、第1調整素子60は、各光導波層20の屈折率を同時に一定の値だけ変化させることにより、出射光の波数ベクトルのX成分を変化させる。屈折率変調において、その変調量は材料の特性に依存し、大きな変調量を得るためには、高い電界を印加したり、液晶を配向させたりする必要がある。一方、導波路素子10から出射される光の方向は、ミラー30とミラー40の間の距離にも依存する。したがって、ミラー30とミラー40の間の距離を変えることによって光導波層20の厚さを変化させてもよい。以下、光導波層20の厚さを変化させる構成の例を説明する。
光導波層20の厚さを変えるためには、光導波層20は、例えば気体または液体などの容易に変形する材料で構成され得る。光導波層20を挟むミラー30およびミラー40の少なくとも一方を移動させることにより、光導波層20の厚さを変化させることができる。この際、上下のミラー30とミラー40の間の平行度を保つために、ミラー30またはミラー40の変形を最小限にするような構成が採用され得る。
図39は、変形し易い材料で構成された支持部材70でミラー30が保持された構成例を示す図である。支持部材70は、ミラー30よりも相対的に変形しやすい厚さの薄い部材または細いフレームを含み得る。この例では、第1調整素子は、各導波路素子10における第1のミラー30に接続されたアクチュエータを有する。アクチュエータは、第1のミラー30と第2のミラー40との距離を変化させることにより、光導波層20の厚さを変化させる。なお、アクチュエータは、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方に接続され得る。ミラー30を駆動するアクチュエータとして、例えば、静電気力、電磁誘導、圧電材料、形状記憶合金、または熱を利用した種々のアクチュエータを用いることができる。
静電気力を利用した構成では、第1調整素子におけるアクチュエータは、静電気力によって発生する電極間の引力または斥力を用いてミラー30および/または40を移動させる。以下、そのような構成のいくつかの例を説明する。
図40は、電極間に発生する静電気力によってミラー30および/またはミラー40を移動させる構成の一例を示す図である。この例では、ミラー30と光導波層20との間、およびミラー40と光導波層20との間に、透光性を有する電極62(例えば透明電極)が設けられている。ミラー30の両側に配置された支持部材70の各々は、一端がミラー30に固定され、他端が不図示の筐体に固定されている。一対の電極62に正負の電圧を印加することで、引力が生じ、ミラー30とミラー40の間の距離が縮小する。電圧の印加を止めると、ミラーを保持する支持部材70の復元力が生じ、ミラー30とミラー40の間の距離が元の長さに戻る。このような引力を生じさせる電極62は、ミラー全面に設けられている必要はない。この例におけるアクチュエータは、一対の電極62を有し、一対の電極62の一方は第1のミラー30に固定され、一対の電極62の他方は第2のミラー40に固定されている。アクチュエータは、一対の電極62に電圧を印加することにより、電極間に静電気力を発生させ、第1のミラー30と第2のミラー40との距離を変化させる。なお、電極62への電圧の印加は、前述の第1駆動回路110(例えば図34)によって行われる。
図41は、引力を生じさせる電極62を、光の伝搬を妨げない位置に配置した構成例を示す図である。この例では、電極62を透明にする必要はない。図示されているように、ミラー30およびミラー40のそれぞれに固定された電極62は単一である必要はなく、分割されていてもよい。分割された電極の一部の静電容量を計測することで、ミラー30とミラー40の間の距離を計測し、ミラー30とミラー40の平行度を調整するなどのフィードバック制御を行うことができる。
電極間の静電気力を利用する代わりに、コイル内の磁性体に引力または斥力を生じさせる電磁誘導を利用してミラー30および/または40を駆動してもよい。
圧電材料、形状記憶合金、または熱による変形を利用したアクチュエータでは、外部から加えられたエネルギーによって材料が変形する現象が利用される。例えば、代表的な圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は、電界を分極方向に印加することによって伸縮する。この圧電材料によってミラー30とミラー40の間の距離を直接変化させることができる。しかし、PZTの圧電定数は100pm/V程度であるため、例えば1V/μmの電界を印加しても変位量は0.01%程度と微小である。このため、このような圧電材料を用いた場合には、十分なミラーの移動距離を得ることができない。そこで、ユニモルフまたはバイモルフと呼ばれる構成を用いて、変化量を増加させることができる。
図42は、圧電材料を含む圧電素子72の例を示す図である。矢印は、圧電素子72の変位方向を示し、その矢印の大きさは変位量を示す。図42に示すように、圧電素子72の変位量は材料の長さに依存するため、面方向の変位量は厚さ方向の変位量よりも大きい。
図43Aは、図42に示す圧電素子72を用いたユニモルフの構造を有する支持部材74aの構成例を示す図である。この支持部材74aは、1層の圧電素子72と、1層の非圧電素子71とが積層された構造を有する。このような支持部材74aをミラー30およびミラー40の少なくとも一方に固定し、変形させることにより、ミラー30とミラー40の間の距離を変化させることができる。
図43Bは、圧電素子72に電圧を印加することによって支持部材74aが変形した状態の例を示す図である。圧電素子72に電圧が印加されると、圧電素子72のみが面方向に伸びるため、支持部材74a全体がたわむ。このため、非圧電素子71が無い場合と比較して、変位量を増加させることができる。
図44Aは、図42に示す圧電素子72を用いたバイモルフの構造を有する支持部材74bの構成例を示す図である。この支持部材74bは、2層の圧電素子72と、その間の1層の非圧電素子71とが積層された構造を有する。このような支持部材74bをミラー30およびミラー40の少なくとも一方に固定し、変形させることにより、ミラー30とミラー40の間の距離を変化させることができる。
図44Bは、両側の圧電素子72に電圧を印加することによって支持部材74aが変形した状態の例を示す図である。バイモルフでは、上下の圧電素子72において変位方向が反対になる。そのため、バイモルフの構成を用いた場合、ユニモルフの構成よりもさらに変位量を増加させることができる。
図45は、図43Aに示す支持部材74aをミラー30の両側に配置したアクチュエータの例を示す図である。このような圧電アクチュエータによって梁をたわませるように支持部材74aを変形させることにより、ミラー30とミラー40の間の距離を変化させることができる。図43Aに示す支持部材74aに代えて、図44Aに示す支持部材74bを用いてもよい。
なお、ユニモルフ型のアクチュエータは、円弧状に変形するため、図46Aに示すように、固定されていない側の先端には傾きが生じる。そのため、ミラー30の剛性が低いと、ミラー30とミラー40を平行に保持することが困難である。そこで、図46Bに示すように、伸縮する方向の異なる2つのユニモルフ型の支持部材74aを直列に繋ぎ合わせてもよい。図46Bの例では、支持部材74aにおいて、伸縮する領域と伸展する領域とで、たわむ方向が反対になる。その結果、固定されていない側の先端に傾きを生じさせないようにすることができる。このような支持部材74aを用いることにより、ミラー30およびミラー40が傾くことを抑制することができる。
上記と同様に、熱膨張係数の異なる材料を貼り合わせることによっても、たわみ変形する梁構造を実現することができる。さらに、梁構造を形状記憶合金で実現することもできる。いずれも、ミラー30とミラー40の距離の調整に利用され得る。
また、光導波層20を密閉空間とし、内部の空気または液体を小型ポンプなどで出し入れして光導波層20の体積を変化させることによってミラー30とミラー40の間の距離を変えることも可能である。
以上のように、第1調整素子におけるアクチュエータは、多様な構造によって光導波層20の厚さを変化させることができる。このような厚さの変化は、複数の導波路素子10のそれぞれについて個別に行ってもよいし、全ての導波路素子10について一律に行ってもよい。特に、複数の導波路素子10の構造が全て同じである場合、各導波路素子10におけるミラー30とミラー40の間の距離が一定に制御される。このため、1つのアクチュエータが、全ての導波路素子10を一括して駆動することができる。
図47は、支持部材(すなわち、補助基板)52に保持された複数の第1のミラー30をアクチュエータで一括して駆動する構成の例を示す図である。図47では、第2のミラー40は1つのプレート状のミラーである。ミラー40は、前述の実施形態のように、複数のミラーに分割されていてもよい。支持部材52は、透光性を有する材料で構成され、両側にユニモルフ型の圧電アクチュエータが設けられている。
図48は、複数の導波路素子10における第1のミラー30が1つのプレート状のミラーである構成例を示す図である。この例では、第2のミラー40は、導波路素子10ごとに分割されている。図47および図48の例のように、各導波路素子10におけるミラー30およびミラー40の少なくとも一方が、1つのプレート状のミラーの部分であってもよい。アクチュエータは、当該プレート状のミラーを移動させることにより、ミラー30とミラー40の間の距離を変化させてもよい。
<液晶材料を用いた構成の具体例>
次に、光導波層20に液晶材料を用いた構成の具体例を説明する。
前述のように、液晶による複屈折効果を利用した方法では、液晶材料を含む光導波層20を電極62で駆動することで、液晶の屈折率異方性を変化させることができる。これにより、光導波層20を伝搬する光に対する屈折率を変調することができる。液晶は一般に0.1から0.2程度の複屈折率差を有するので、液晶の配向方向を電場で変えることで複屈折率差と同等の屈折率変化が得られる。このように、液晶の複屈折効果を利用した構成では、各導波路素子10における光導波層20は、液晶材料を含む。第1調整素子60における駆動回路は、一対の電極62に電圧を印加することにより、液晶材料の屈折率異方性を変化させ、光導波層20の屈折率を変化させることができる。
電圧印加時に屈折率の変化を大きくするためには、一対の電極62の配置と、液晶材料の配向方向すなわち液晶分子の長手方向とが適切な関係にあることが望まれる。さらに、光導波層20に入力する光として、直線偏光を用い、その偏光方向を適切な方向に設定することが望まれる。
液晶の複屈折差は、液晶分子の長手方向の誘電率と短手方向の誘電率とが異なることに起因する。このため、光導波層20内の液晶分子の配向方向を入射光の偏光方向に応じて適切に制御することで、より効果的に屈折率を変化させることができる。
図49Aおよび図49Bは、光導波層20に液晶材料75を用いた構成の第1の例を示している。図49Aおよび図49Bには、一対の電極62に挟まれた光導波層20と、一対の電極62に電圧を印加する駆動回路110とが示されている。この例における駆動回路110は、駆動電源111と、スイッチング素子112(以下、スイッチ112とも称する)とを備えている。図49Aはスイッチ112がOFFの状態を示し、図49Bはスイッチ112がONの状態を示している。
一対の電極62は、透明電極である。一対の電極62は、図示されていない第1および第2のミラーに平行に配置されている。すなわち、一対の電極62は、電圧が印加されたとき、各ミラーの法線方向であるZ方向に電場を発生させるように配置されている。図49Aに示されるように、液晶分子76の長手方向は、一対の電極62に電圧が印加されていない状態において、光導波層20が延びる方向(X方向)に平行である。
図49Aおよび図49Bにおける実線矢印は光の進行方向を示し、破線矢印は偏光方向を示している。この例においては、光導波層20にはP偏光が入力される。P偏光は、光の入射面に平行に電場が振動する直線偏光である。光の入射面は、各ミラーの反射面に入射する光の方向と反射される光の方向とで形成される面である。本実施形態では、光の入射面はXZ面にほぼ平行である。各ミラーの反射面における光の入射角および反射角をθとするとき、P偏光の光の電場の振動方向は、XZ面内においてX方向から角度θだけ傾斜した方向である。しかし、図49A、図49B、および以降の図では、S偏光との区別をわかり易くするために、θが十分に小さいものとして、P偏光の偏光方向を示す破線矢印を、X方向に平行に示している。
光導波層20のZ方向のサイズ(高さ)は、例えば0.1μmから10μmの範囲内の値、より望ましくは0.2μmから3μmの範囲内の値に設定され得る。光導波層20のY方向のサイズ(幅)は、例えば1μmから100μmの範囲内の値、より望ましくは1μmから30μmの範囲内の値に設定され得る。光導波層20のX方向のサイズ(長さ)は、例えば100μmから100mmの範囲内の値、より望ましくは1mmから30mmの範囲内の値に設定され得る。
液晶材料は、例えばネマチック液晶であり得る。ネマチック液晶の分子構造は、以下のとおりである。
R1-Ph1-R2-Ph2-R3
ここで、R1は、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、アミン基、ニトロ基、ニトリル基、およびアルキル鎖からなる群から選択されるいずれか1つを表す。R3は、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、アミン基、ニトロ基、ニトリル基、およびアルキル鎖からなる群から選択されるいずれか一つを表す。Ph1は、フェニル基またはビフェニル基等の芳香族基を表す。Ph2は、フェニル基またはビフェニル基等の芳香族基を表す。R2は、ビニル基、カルボニル基、カルボキシル基、ジアゾ基、およびアゾキシ基からなる群から選択されるいずれか1つを表す。
液晶は、ネマチック液晶に限定されない。例えば、スメクチック液晶を用いてもよい。液晶は、スメクチック液晶の中でも、例えばスメクチックC相(SmC相)であってもよい。スメクチック液晶は、スメクチックC相(SmC相)の中でも、例えば液晶分子内にキラル中心(例えば、不斉炭素)を有し強誘電性液晶であるカイラルスメクチック相(SmC*相)あってもよい。
R1、R4は、それぞれ独立して、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、アミン基、ニトロ基、ニトリル基、およびアルキル鎖からなる群から選択されるいずれか1つである。Ph1は、フェニル基またはビフェニル基等の芳香族基である。Ph2は、フェニル基またはビフェニル基等の芳香族基である。R2は、ビニル基、カルボニル基、カルボキシル基、ジアゾ基、およびアゾキシ基からなる群から選択されるいずれか1つである。Ch*はキラル中心を表す。キラル中心は典型的には炭素(C*)である。R3は、水素、メチル基、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、アミン基、ニトロ基、ニトリル基、およびアルキル鎖からなる群から選択されるいずれか1つである。R5は、水素、メチル基、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、アミン基、ニトロ基、ニトリル基、およびアルキル鎖からなる群から選択されるいずれか一つである。R3、R4、およびR5は、互いに異なる官能基である。
液晶材料は、組成の異なる複数の液晶分子の混合物であってもよい。例えば、ネマチック液晶分子と、スメクチック液晶分子との混合物を光導波層20の材料として用いてもよい。
一般に、液晶セル内に液晶材料を注入する際には、液晶セルの温度を上げ、液晶材料の流動性を増した状態で液晶セル内に液晶材料を注入する。このため、注入時の流れに沿った方向に液晶分子が配向する傾向が高いことが知られている。図49Aに示す光導波層20に液晶を注入する場合には、光導波層20のYZ面に平行な端面から液晶材料を注入すると、液晶分子76は、光導波層20の長手方向(X方向)に平行に配向する。
図49Aに示すように、駆動回路110のスイッチング素子112がOFF、すなわち光導波層20に駆動電圧が印加されない状態では、伝搬する光の偏光方向と液晶分子の長手方向とが平行に近くなる。厳密には、偏光方向と液晶分子の長手方向とは、前述のとおり角度θで交差する。この状態では、光導波層20は、伝搬する光に対して比較的高い屈折率をもつ。この際の液晶の屈折率n∥は、一般的な液晶材料を使用した場合、概ね1.6から1.7程度である。この状態では、光導波層20から出射する光の出射角は、比較的大きくなる。
他方、図49Bに示すように、駆動回路110のスイッチング素子112をON、すなわち光導波層20に駆動電圧を印加すると、液晶分子76が透明電極62に対して垂直に立ち上がるように配向する。このため、伝搬する光の偏光方向と液晶分子の長手方向とがなす角度が90度に近くなる。厳密には、偏光方向と液晶分子の長手方向とは、角度(90°-θ)で交差する。この状態では、光導波層20は、伝搬する光に対して比較的低い屈折率をもつ。この際の液晶の屈折率n ⊥は、一般的な液晶材料を使用した場合、概ね1.4から1.5程度である。この状態では、光導波層20から出射する光の出射角は、比較的小さくなる。
なお、図49Bは、図中の下側の電極62と光導波層20との間に配向膜がある例を示している。配向膜があるため、図中の下側の液晶分子76は立ち上がりにくくなっている。このような配光膜は、上側の電極62に設けられていてもよい。配向膜は設けられていなくてもよい。
このように、光導波層20に液晶材料を用いることで、印加電圧のON/OFFによって屈折率を0.1から0.2程度変化させることができる。これにより、光導波層20から出射する光の出射角を変化させることができる。
なお、この例では、駆動回路110が駆動電源111とスイッチング素子112とを有しているが、このような構成に限定されない。例えば、駆動回路110は、スイッチング素子112の代わりに電圧アンプ(voltage amplifier)のような電圧制御回路を用いてもよい。そのような構成を用いることで、液晶分子76の配向を連続的に変化することが可能となり、任意の出射角度に制御することができる。
図50は、光導波層20に光を入力する光入力装置113の構成例を模式的に示す断面図である。この例における光入力装置113は、光源130と、光源130から出射された光を伝搬して光導波層20に入力する導波路1とを有している。この例における導波路1は、図33に示す構成と同様の位相シフタ80であるが、他の構造をもつ導波路であってもよい。
光源130は、図50におけるXZ面内で振動する電場をもつ直線偏光を出射する。光源130から出射された直線偏光は、位相シフタ80を介して光導波層20に入射し、P偏光として伝搬する。このように、光スキャンデバイスは、光導波層20にP偏光を入力する光入力装置113を備えていてもよい。後述する例のように、光導波層20にS偏光、すなわち、Y方向に振動する電場をもつ直線偏光を入力する場合には、光源130もS偏光を出射するように構成され得る。
図51Aおよび図51Bは、光導波層20に液晶材料を用いた構成の第2の例を示している。第2の例が第1の例と異なる点は、入射光の偏光がS偏光であり、一対の電極62に電圧が印加されていない状態において、液晶分子76の配向方向が、光導波層20が延びる方向(X方向)および各ミラーの法線方向(Z方向)の両方に垂直な方向(Y方向)である点にある。入射光がS偏光であるため、その電場の方向は入射面に垂直なY方向である。
液晶分子76の配向方向は、液晶を挿入する前に予め液晶セルとなる上下の電極62の表面をラビングすることで配向方向を制御することができる。また、上下の電極62の表面にポリイミド等の配向層(配向膜)を塗布形成することで配向方向を制御することができる。
図51Aに示すように、駆動回路110のスイッチング素子112がOFF、すなわち光導波層20に駆動電圧が印加されない状態では、伝搬する光の偏光方向と液晶分子の長手方向とがほぼ平行である。この状態では、光導波層20は、伝搬する光に対して比較的高い屈折率をもつ。この際の液晶の屈折率n∥は、一般的な液晶材料を使用した場合、概ね1.6から1.7程度である。この状態では、光導波層20から出射する光の出射角は、比較的大きくなる。
他方、図51Bに示すように、駆動回路110のスイッチング素子112をON、すなわち光導波層20に駆動電圧を印加すると、液晶分子76が透明電極62に対して垂直に立ち上がるように配向する。このため、伝搬する光の偏光方向と液晶分子の長手方向とがなす角度はほぼ直角になる。この状態では、光導波層20は、伝搬する光に対して比較的低い屈折率をもつ。この際の液晶の屈折率n ⊥は、一般的な液晶材料を使用した場合、概ね1.4から1.5程度である。この状態では、光導波層20から出射する光の出射角は、比較的小さくなる。
図51Aおよび図51Bに示す構成では、電圧が印加されていない状態では偏光方向と液晶分子76の配向方向とが一致し、高い電圧が印加されている状態では偏光方向と液晶分子76の配向方向とが直交する。このため、図49Aおよび図49Bに示す構成と比較して、同一の電圧の印加に対して屈折率をより大きく変化させることができる。したがって、光の出射角度をより大きく変化させることができる。他方、図49Aおよび図49Bに示す構成は、製造し易いという利点がある。
図52Aおよび図52Bは、光導波層20に液晶材料を用いた構成の第3の例を示している。第3の例が第1の例と異なる点は、入射光の偏光がS偏光であり、一対の電極62が、光導波層20を間に挟んで、XZ面に平行に配置されている点にある。この例における一対の電極62は、第1のミラー30および第2のミラー40の各々にほぼ垂直に配置されている。一対の電極62は、電圧が印加されたとき、光導波層20が延びる方向(X方向)および各ミラーの法線方向(Z方向)の両方に垂直なY方向に電場を発生させる。第1の例と同様、一対の電極に電圧が印加されていない状態において、液晶材料の配向方向は光導波層20が延びる方向に平行である。
図52Aに示すように、駆動回路110のスイッチング素子112がOFF、すなわち光導波層20に駆動電圧が印加されない状態では、伝搬する光の偏光方向と液晶分子の長手方向とがほぼ垂直になる。この状態では、光導波層20は、伝搬する光に対して比較的低い屈折率をもつ。この際の液晶の屈折率n⊥は、一般的な液晶材料を使用した場合、概ね1.4から1.5程度である。この状態では、光導波層20から出射する光の出射角は、比較的小さくなる。
他方、図52Bに示すように、駆動回路110のスイッチング素子112をON、すなわち光導波層20に駆動電圧を印加すると、液晶分子76の長手方向が、光導波層20が延びる方向(X方向)ならびにミラー30およびミラー40の各々の法線方向(Z方向)の両方に垂直な方向(Y方向)になる。このため、伝搬する光の偏光方向と液晶分子の長手方向とがほぼ平行になる。この状態では、光導波層20は、伝搬する光に対して比較的高い屈折率をもつ。この際の液晶の屈折率n ∥は、一般的な液晶材料を使用した場合、概ね1.6から1.7程度である。この状態では、光導波層20から出射する光の出射角は、比較的大きくなる。
図53Aおよび図53Bは、光導波層20に液晶材料を用いた構成の第4の例を示している。第4の例が第3の例と異なる点は、入射光の偏光がP偏光である点にある。
図53Aに示すように、駆動回路110のスイッチング素子112がOFF、すなわち光導波層20に駆動電圧が印加されない状態では、伝搬する光の偏光方向と液晶分子の長手方向とが平行に近くなる。厳密には、偏光方向と液晶分子の長手方向とは、前述のとおり角度θで交差する。この状態では、光導波層20は、伝搬する光に対して比較的高い屈折率をもつ。この際の液晶の屈折率n∥は、一般的な液晶材料を使用した場合、概ね1.6から1.7程度である。この状態では、光導波層20から出射する光の出射角は、比較的大きくなる。
他方、図53Bに示すように、駆動回路110のスイッチング素子112をON、すなわち光導波層20に駆動電圧を印加すると、液晶分子76が、透明電極62に対して垂直に配向する。このため、伝搬する光の偏光方向が液晶分子の長手方向にほぼ垂直になる。この状態では、光導波層20は、伝搬する光に対して比較的低い屈折率をもつ。この際の液晶の屈折率n ⊥は、一般的な液晶材料を使用した場合、概ね1.4から1.5程度である。この状態では、光導波層20から出射する光の出射角は、比較的小さくなる。
以上のように、光導波層20に液晶材料を使用した例では、光の偏光方向、液晶分子76の配向方向、および一対の電極62の配置を適切に設定することにより、出射光の方向を制御することができる。入射光の偏光方向がP偏光であってもS偏光であっても、駆動電圧に応じて出射角度を変化させ光線の方向を制御することができる。
図54は、光導波層20に液晶材料を使用した構成における、光の射出角度の印加電圧依存性を示すグラフである。このグラフは、図49Aおよび図49Bに示す構成を用いて、印加電圧を変化させながら光導波層20から出射する光の射出角度を測定した実験の結果を示している。図55は、本実験で用いた導波路素子の構成を示す断面図である。この導波路素子では、電極62b、多層反射膜である第2のミラー40、液晶層である光導波層20、多層反射膜である第1のミラー30、および透明電極62aが、この順で積層されている。光導波層20の両側には、SiO2の層が形成されている。
本実験では、液晶材料として、5CB(4-Cyano-4’-pentylbiphenyl)が用いられている。0V時の液晶の配向方向は、光導波層20が延びる方向に平行、すなわち、図55の紙面垂直方向である。光導波層20の厚さは1μm、光導波層20の幅は20μmである。測定に使用した光は1.47μmの波長をもつTM偏光(P偏光)である。電極62bは、第2のミラー40における多層反射膜と、図示されていない基板との間に成膜した。この実験では、2つの多層反射膜が電極62aと電極62bとの間に配置されているため、比較的高い電圧を印加した。
図54に示されているように、電圧の印加により、射出角度を約15°変化させることができた。この実験では、図49Aおよび図49Bに示す構成を用いているが、他の構成でも同等以上の効果を得ることができる。
<電気光学材料を用いた構成の具体例>
次に、光導波層20に電気光学材料を用いた構成の具体例を説明する。
光導波層20が電気光学材料を含む光スキャンデバイスにおいては、電気光学材料の分極軸の方向が、一対の電極62に電圧を印加したときに発生する電場の方向に一致するように光導波層20が構成される。そのように構成により、一対の電極62に電圧を印加することで生じる電気光学材料の屈折率の変化を大きくすることができる。
図56は、光導波層20に電気光学材料77を用いた構成の第1の例を示している。この例では、一対の電極62は、電圧が印加されたときに一対の電極62間に発生する電場の方向が、光導波層20が延びる方向(X方向)および各ミラーの法線方向(Z方向)の両方に垂直な方向(Y方向)に一致する態様で配置されている。この例における電気光学材料の分極軸の方向は、光導波層20が延びる方向および各ミラーの法線方向の両方に垂直なY方向である。駆動回路110は、一対の電極62に電圧を印加することにより、電気光学材料の、光導波層20を伝搬する光に対する屈折率を変化させる。
電気光学材料の分極軸の方向は、電場を与えたときに屈折率の変化が最大になる方向を指す。分極軸を光学軸と呼ぶこともある。図56において、分極軸の方向は、実線両矢印で示されている。分極軸に沿った方向における屈折率neは、印加される電圧に応じて変化する。
本実施形態において使用され得る電気光学材料は、例えば、KTa1-xNbxO3、またはK1-yAyTa1-xNbxO3(Aはアルカリ金属であり、典型的にはLiまたはNa)で表される化合物であり得る。xはNbのモル比を表し、yはAのモル比を表す。xおよびyは、それぞれ独立して、0よりも大きく1よりも小さい実数である。
電気光学材料は、以下の化合物のいずれかであってもよい。
・KDP(KH2PO4)型結晶・・・例えば、KDP、ADP(NH4H2PO4)、KDA(KH2AsO4)、RDA(RbH2PO4)、またはADA(NH4H2AsO4)
・立方晶系材料・・・例えば、KTN、BaTiO3、SrTiO3Pb3MgNb2O9、GaAs、CdTe、またはInAs
・正方晶系材料・・・例えば、LiNbO3またはLiTaO3
・せん亜鉛鉱型材料・・・例えば、ZnS、ZnSe、ZnTe、GaAs、またはCuCl
・タングステンブロンズ型材料・・・KLiNbO3、SrBaNb2O6、KSrNbO、BaNaNbO、Ca2Nb2O7
図56に示すように、電気光学材料の分極軸を一対の電極62に垂直な方向に揃え、一対の電極62に印加する電圧を駆動回路110によって変化させることで屈折率を変化させることができる。この際、入射光をS偏光とすることで偏光面と電気光学材料の分極軸が平行となる。このため、電圧による屈折率変化が最も効果的に入射光に反映され、光の出射角度の変化を大きくすることができる。
図57は、光導波層20に電気光学材料77を用いた構成の第2の例を示している。図56の構成との違いは、一対の電極62が、図示されていない第1のミラーおよび第2のミラーに平行に配置されていることである。この例では、電圧印加時に電極62間に発生する電場の方向、すなわち各電極62の法線方向はZ方向であるため、電気光学材料の分極軸の方向もその方向に揃えられている。この例では、入射光をP偏光とすることにより、偏光面と電気光学材料の分極軸とが平行となる。このため、電圧による屈折率変化が入射光に反映され、光の出射角度の変化を大きくすることができる。
このように、光導波層20に電気光学材料を使用し、光の偏光方向、および、電気光学材料の分極軸を電極62と垂直方向に揃え、印加する駆動電圧を制御することで、光の出射角度を変化させ、光線の方向を制御することができる。
図58Aおよび図58Bは、ミラー30およびミラー40の各々に垂直な一対の電極62の配置の他の例を示している。図58Aの例では、一対の電極62は、第2のミラー40の近傍にのみ配置されている。図58Bの例では、一対の電極62は、第1のミラー30の近傍にのみ配置されている。これらの例のように、一対の電極62は、光導波層20の一部の両側にのみ設けられていてもよい。これらの電極62は、第2のミラー40を支持する基板、または第1のミラー30を支持する基板のいずれかに設けられていてもよい。図58Aおよび図58Bのような構成は、光導波層20の材料が液晶材料および電気光学材料のいずれの場合にも適用され得る。
以上のように、図49Aから図58Bに示す光スキャンデバイスにおける光導波層20は、液晶材料または電気光学材料を含む。液晶材料の配向方向または電気光学材料の分極軸の方向は、一対の電極62に電圧が印加されていない状態において、光導波層20が延びる方向に平行または垂直である。駆動回路110は、一対の電極62に電圧を印加することにより、光導波層20を伝搬する光に対する液晶材料または電気光学材料の屈折率を変化させることで、光導波層20から出射される光の方向を変化させる。これにより、入射光の偏光方向を適切に設定することで、光導波層20の屈折率の変化を大きくし、光の出射角度の変化を大きくすることができる。
なお、前述のように、2つの方向が「平行」または「一致する」とは、厳密に平行である、または一致することのみならず、両者のなす角度が15度以下であることを含む。また、2つの方向が「垂直」とは、厳密に垂直であることを意味せず、両者のなす角度が75度以上105度以下であることを含む。
<位相シフトのための屈折率変調>
次に、第2調整素子による複数の位相シフタ80における位相の調整のための構成を説明する。複数の位相シフタ80における位相の調整は、位相シフタ80における導波路20aの屈折率を変化させることによって実現され得る。この屈折率の調整は、既に説明した、各導波路素子10における光導波層20の屈折率を調整する方法と全く同じ方法によって実現することができる。例えば、図37Aから図38を参照しながら説明した屈折率変調の構成および方法をそのまま適用することができる。図37Aから図38に関する説明において、導波路素子10を位相シフタ80と読み替え、第1調整素子60を第2調整素子と読み替え、光導波層20を導波路20aと読み替え、第1駆動回路110を第2駆動回路210と読み替える。このため、位相シフタ80における屈折率変調についての詳細な説明は省略する。
各位相シフタ80における導波路20aは、電圧の印加または温度変化に応じて屈折率が変化する材料を含む。第2調整素子は、各位相シフタ80における導波路20aに電圧を印加する、または導波路20aの温度を変化させることにより、導波路20a内の屈折率を変化させる。これにより、第2調整素子は、複数の位相シフタ80から複数の導波路素子10に伝搬する光の位相の差をそれぞれ変化させることができる。
各位相シフタ80は、光が通過するまでの間に、少なくとも2πの位相シフトが可能なように構成され得る。位相シフタ80における導波路20aの単位長さあたりの屈折率の変化量が小さい場合には、導波路20aの長さを大きくしてもよい。例えば、位相シフタ80の大きさは、数百マイクロメートル(μm)から数ミリメートル(mm)、場合によってはそれ以上であってもよい。これに対し、各導波路素子10の長さは、例えば数十μmから数十mm程度の値であり得る。
<同期駆動のための構成>
本実施形態では、第1調整素子は、複数の導波路素子10から出射される光の方向が揃うように、各導波路素子10を駆動する。複数の導波路素子10から出射される光の方向を揃えるために、例えば、各導波路素子10に個別に駆動部を設け、これらの駆動部を同期駆動する。
図59は、それぞれの導波路素子10の電極62から配線64を共通に取り出す構成の例を示す図である。図60は、一部の電極62および配線64を共通にした構成の例を示す図である。図61は、複数の導波路素子10に対して共通の電極62を配置した構成の例を示す図である。図59から図61において、直線の矢印は光の入力を示している。これらの図に示すような構成にすることで、導波路アレイ10Aを駆動するための配線をシンプルにすることができる。
本実施形態の構成によれば、シンプルなデバイス構成で2次元的に光をスキャンすることが可能である。例えば、N本の導波路素子10で構成された導波路アレイを同期駆動する場合、それぞれ独立の駆動回路を設けると、N個の駆動回路が必要である。しかし、上記のように電極または配線を共通にする工夫を行えば1つの駆動回路で動作させることができる。
導波路アレイ10Aの前段に位相シフタアレイ80Aを設けた場合、それぞれの位相シフタ80を独立に動かすためには、さらにN個の駆動回路が必要である。しかし、図36の例のように位相シフタ80をカスケード状に配置することにより、1つの駆動回路でも動作させることができる。すなわち、本開示の構成では、2個ないし2N個の駆動回路で、2次元的に光をスキャンさせる動作を実現できる。また、導波路アレイ10Aおよび位相シフタアレイ80Aをそれぞれ独立して動作させてもよいため、互いの配線が干渉することなく容易に引き出すことができる。
<製造方法>
導波路アレイ、位相シフタアレイ80A、およびこれらをつなぐ導波路は、半導体プロセス、3Dプリンター、自己組織化、ナノインプリントなど、高精度の微細加工が可能なプロセスによって製造することができる。これらのプロセスにより、小さい領域に必要な要素を集積することが可能である。
特に、半導体プロセスを利用すれば、加工精度が極めて高く、量産性も高いという利点がある。半導体プロセスを利用する場合、基板上に蒸着、スパッタ、CVD、塗布などによって様々な材料を成膜することができる。さらに、フォトリソグラフィーとエッチングプロセスにより、微細加工が可能である。基板の材料として、例えばSi、SiO2、Al2O3、AlN、SiC、GaAs、GaNなどを用いることができる。
<変形例>
続いて、本実施形態の変形例を説明する。
図62は、位相シフタアレイ80Aを配置する領域を大きく確保して、導波路アレイを小さく集積した構成の例を模式的に示す図である。このような構成によれば、位相シフタ80の導波路を構成する材料において小さな屈折率変化しか生じない場合でも、十分な位相シフト量を確保することができる。また、位相シフタ80を熱で駆動する場合、間隔を広く取れるため、隣の位相シフタ80に与える影響を小さくすることができる。
図63は、位相シフタアレイ80Aaおよび位相シフタアレイ80Abが、導波路アレイ10Aの両側にそれぞれ配置された構成例を示す図である。この例では、光スキャンデバイス100は、光分岐器90aおよび光分岐器90b、ならびに位相シフタアレイ80Aaおよび位相シフタアレイ80Abを、導波路アレイ10Aの両側に有している。図63において点線で示されている直線の矢印は、光分岐器90aおよび光分岐器90b、ならびに位相シフタ80aおよび位相シフタ80bを伝搬する光を示している。位相シフタアレイ80Aaおよび光分岐器90aは、導波路アレイ10Aの一方の側に接続され、位相シフタアレイ80Abおよび光分岐器90bは、導波路アレイ10Aの他方の側に設けられている。光スキャンデバイス100は、さらに、光分岐器90aへの光の供給と光分岐器90bへの光の供給を切り替える光スイッチ92を備えている。光スイッチ92を切り替えることにより、図63における左側から導波路アレイ10Aに光を入力する状態と、図63における右側から導波路アレイ10Aに光を入力する状態とを切り替えることができる。
本変形例の構成によれば、導波路アレイ10Aから出射される光のX方向についてのスキャン範囲を拡大できるという利点がある。導波路アレイ10Aに片側から光を入力する構成においては、各導波路素子10の駆動によって、光の方向を、正面方向(すなわち、+Z方向)から、+X方向または-X方向のいずれかの方向に沿ってスキャンすることができる。これに対して、本変形例では、図63における左側の光分岐器90aから光を入力した場合、正面方向から+X方向に沿って光をスキャンすることができる。一方、右側の光分岐器90bから光を入力した場合、正面方向から-X方向に光をスキャンすることができる。つまり、図63の構成では、正面から見て図63における左右両方向に光をスキャンすることができる。このため、片側から光を入力する構成に比べて、スキャンの角度範囲を広くすることができる。光スイッチ92は、不図示の制御回路(例えば、マイクロコントローラユニット)から電気信号で制御される。本構成例によれば、全ての素子の駆動を電気信号によって制御することができる。
以上の説明では、導波路素子10の配列方向および導波路素子10が延びる方向が直交している導波路アレイのみを扱ってきた。しかし、これらの方向が直交している必要はない。例えば、図64Aに示すような構成を用いてもよい。図64Aは、導波路素子10の配列方向d1および導波路素子10が延びる方向d2が直交していない導波路アレイの構成例を示している。この例において、各導波路素子10の光出射面は、同一平面内になくてもよい。このような構成であっても、各導波路素子10および各位相シフタを適切に制御することにより、光の出射方向d3を2次元的に変化させることができる。
図64Bは、導波路素子10の配列間隔が一定でない導波路アレイの構成例を示している。このような構成を採用する場合であっても、各位相シフタによる位相シフト量を適切に設定することにより、2次元スキャンを行うことができる。図64Bの構成においても、導波路アレイの配列方向d1と、各導波路素子10の延びる方向d2とが直交していなくてもよい。
<基板上に第1および第2の導波路が配置された実施形態>
次に、基板上に第1および第2の導波路が配置された光スキャンデバイスの実施形態を説明する。
本実施形態における光スキャンデバイスは、第1の導波路と、第1の導波路に繋がる第2の導波路と、第1および第2の導波路を支持する基板とを備える。より具体的には、光スキャンデバイスは、第1の方向に配列された複数の導波路ユニットと、これらの複数の導波路ユニットを支持する基板とを備える。複数の導波路ユニットの各々は、第1の導波路と、第2の導波路とを備える。第2の導波路は、第1の導波路に繋がり、第1の方向に交差する第2の方向に光を伝搬させる。基板は、各導波路ユニットにおける第1の導波路および第2の導波路を支持する。
第2の導波路は、前述の実施形態における反射型導波路に相当する。すなわち、第2の導波路は、多層反射膜を有する第1のミラーと、第1のミラーの前記多層反射膜に対向する多層反射膜を有する第2のミラーと、第1のミラーと第2のミラーの間に位置し、前記第1の導波路に入力され第1の導波路を伝搬した光を伝搬させる光導波層と、を有する。第1のミラーは、第2のミラーよりも高い光透過率を有し、光導波層内を伝搬する光の一部を、光導波層の外部に出射する。光スキャンデバイスは、第2の導波路における光導波層の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させることにより、第2の導波路から出射される光の方向を変化させる調整素子をさらに備える。
本実施形態によれば、1つの基板の上に第1および第2の導波路を配置することにより、第1の導波路1および第2の導波路10の位置合わせが容易になる。さらに、熱膨張による第1および第2の導波路の位置のずれが抑制される。その結果、第1の導波路から第2の導波路へ効率よく光を導入することができる。
光導波層は、例えば電圧が印加された場合に、光導波層を伝搬する光に対する屈折率が変化する材料を含み得る。その場合、調整素子は、光導波層に電圧を印加することにより、光導波層の屈折率を変化させる。これにより、調整素子は、第2の導波路から出射される光の方向を変化させる。
第1の導波路の少なくとも一部は、前述の位相シフタとしての機能を有していてもよい。その場合、第1の導波路には、例えば屈折率を変調させる機構が組み込まれる。光スキャンデバイスは、第1の導波路の少なくとも一部の領域の屈折率を変調させる第2調整素子を備えていてもよい。第2調整素子は、例えば、第1の導波路の近傍に配置されたヒーターであり得る。ヒーターから発する熱によって第1の導波路の少なくとも一部の領域の屈折率を変化させることができる。これにより、第1の導波路から第2の導波路に入力される光の位相が調整される。第1の導波路から第2の導波路に入力される光の位相を調整するための構成は、前述のとおり多様である。それらのいずれの構成を採用してもよい。
位相シフタは、第1の導波路の外部に設けられていてもよい。その場合、第1の導波路は、外部の位相シフタと、導波路素子(第2の導波路)との間に位置する。位相シフタと、第1の導波路との間には明確な境界がなくてもよい。例えば、位相シフタと、第1の導波路とが、導波路および基板等の構成要素を共用していてもよい。
第1の導波路は、光の全反射を利用する一般的な導波路であってもよいし、反射型導波路であってもよい。位相が変調された光は、第1の導波路を経て、第2の導波路に導入される。
以下、基板上に第1および第2の導波路が配置された光スキャンデバイスの実施形態をより詳細に説明する。以下の説明においては、光スキャンデバイスが複数の導波路ユニットを備えているものとする。光スキャンデバイスは、単一の導波路ユニットを備えていてもよい。すなわち、第1の導波路および第2の導波路の組み合わせを1つだけ備える光スキャンデバイスも、本開示の範囲に含まれる。
図65Aは、本実施形態における光スキャンデバイスを模式的に示す図である。この光スキャンデバイスは、Y方向に配列された複数の導波路ユニットと、複数の導波路ユニットを支持する基板50とを備えている。各導波路ユニットは、第1の導波路1と、第2の導波路10とを備えている。基板50は、各導波路ユニットにおける第1の導波路1および第2の導波路10を支持している。
基板50は、XY平面に沿って拡がっている。基板50の上面および下面は、XY平面に略平行に配置されている。基板50は、例えば、ガラス、Si、SiO2、GaAs、GaNなどの材料を用いて構成され得る。
第1の導波路アレイ1Aは、Y方向に配列された複数の第1の導波路1を含む。第1の導波路1の各々は、X方向に延びた構造を有する。第2の導波路アレイ10Aは、Y方向に配列された複数の第2の導波路10を含む。第2の導波路10の各々は、X方向に延びた構造を有する。
図65Bは、図65Aにおける一方の破線で示されたXZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。基板50の上に、第1の導波路1および第2の導波路10が配置されている。第2のミラー40は、光導波層20と基板50との間、および第1の導波路1と基板50との間の領域に拡がっている。第1の導波路1は、例えば、光の全反射を利用する一般的な導波路である。当該導波路1は、例えば、SiまたはGaAsなどの半導体の導波路を含む。第2の導波路10は、光導波層20と、第1のミラー30および第2のミラー40とを有する。光導波層20は、対向する第1のミラー30と第2のミラー40の間に位置する。光導波層20は、第1の導波路に入力され第1の導波路1を伝搬した光を伝搬させる。
本実施形態における光導波層20は、電圧が印加された場合に、光導波層20を伝搬する光に対する屈折率が変化する材料を含んでいる。調整素子は、一対の電極を有する。一対の電極は、下部電極62aと上部電極62bとを含む。下部電極62aは、光導波層20と第2のミラー40との間に配置されている。上部電極62bは、光導波層20と第1のミラー30との間に配置されている。本実施形態における調整素子は、一対の電極62aおよび電極62bに電圧を印加することにより、光導波層20の屈折率を変化させる。これにより、調整素子は、第2の導波路10から出射される光の方向を変化させる。一対の電極62aおよび電極62bの各々は、図示されるように光導波層20に接触していてもよいし、接触していなくてもよい。
図65Bの構成例では、積層された基板50および第2のミラー40を有する共通の支持体の上に、他の構造物が配置される。すなわち、一体に形成された一つの支持体の上に、第1の導波路1と、第1の電極62a、光導波層20、第2の電極62b、および第1のミラー30の積層体とが作製される。共通の支持体を用いているため、第1の導波路1および光導波層20の作製時の位置合わせが容易になる。さらに、熱膨張による第1の導波路1および光導波層20の接続部分の位置のずれが抑制される。支持体は、例えば、支持基板である。
図65Cは、図65Aにおける他方の破線で示されたYZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。この例では、第2のミラー40は、複数の第2の導波路10によって共用されている。すなわち、複数の第2の導波路10における第2のミラー40は互いに分離されていない。同様に、下部電極62aも、複数の第2の導波路10によって共用されている。これにより、製造プロセスが簡素化される。
一方、複数の第2の導波路10における光導波層20、上部電極62b、および第1のミラー30は、互いに分離して配置されている。これにより、各光導波層20は、光をX方向に伝搬させることができる。上部電極62bおよび第1のミラー30は、分離していなくてもよい。
以下に、本実施形態における光スキャンデバイスの変形例を説明する。以下の変形例において、重複する構成要素の説明は、省略されている。
図66Aは、第2のミラー40と導波路1との間に誘電体層51が配置された構成例を示す図である。この例における光スキャンデバイスは、第2のミラー40と第1の導波路1との間に拡がる誘電体層51をさらに備えている。この誘電体層51は、第1の導波路1と光導波層20との高さのレベルを合わせる調整層として機能する。以下、誘電体層51を調整層51と称する。Z方向における調整層51の厚さを調整することにより、第1の導波路1から光導波層20への光の結合効率を高めることができる。さらに、調整層51は、第1の導波路1における導波光が第2のミラー40によって吸収、散乱または反射されることを防ぐスペーサの役割を果たす。第1の導波路1は、全反射により光を伝搬させる。そのため、調整層51は、第1の導波路1の屈折率よりも低い屈折率を有する透明材料によって構成される。例えば、調整層51は、SiO2などの誘電体材料で形成され得る。
第1の導波路1の上に、他の誘電体層を保護層としてさらに配置してもよい。
図66Bは、第1の導波路1の上に第2の誘電体層61がさらに配置された構成例を示す図である。このように、光スキャンデバイスは、第1の導波路1の少なくとも一部を覆う第2の誘電体層61をさらに備えていてもよい。第2の誘電体層61は、第1の導波路1に接し、第1の導波路1の屈折率よりも低い屈折率を有する透明材料によって構成されている。第2の誘電体層61は、第1の導波路1の上にパーティクルまたはごみが付着することを防ぐ保護層として機能する。これにより、第1の導波路1における導波光のロスを抑制することができる。以下、第2の誘電体層61を保護層61と称する。
図66Bに示す第1の導波路1は、位相シフタとして機能する。光スキャンデバイスは、第1の導波路1の屈折率を変調させることによって光導波層20に導入される光の位相を変化させる第2調整素子をさらに備える。第1の導波路1が熱光学材料を含む場合、第2調整素子は、ヒーター68を含む。第2調整素子は、ヒーター68から発する熱によって第1の導波路1の屈折率を変調させる。
ヒーター68に含まれる金属などの配線材料は、光を吸収、散乱または反射し得る。保護層61は、第1の導波路1とヒーター68とを遠ざけることによって、第1の導波路1における導波光のロスを抑制する。
保護層61は、調整層51と同じ材料(例えばSiO2)で形成されてもよい。保護層61は、第1の導波路1だけでなく、第2の導波路10の少なくとも一部を覆っていてもよい。その場合、第1のミラー30の少なくとも一部が保護層61で覆われる。保護層61は、第2の導波路10のみを覆っていてもよい。保護層61が透明材料であれば、第2の導波路10から出射される光は、保護層61を透過する。このため、光の損失を小さく抑えることができる。
図67は、第2のミラー40が第1の導波路1と基板50との間の領域に配置されていない構成例を示す図である。この例における調整層51は、第1の導波路1と基板50との間に拡がっている。調整層51は、第1の導波路1および基板50に接している。第2のミラー40が第1の導波路1の下にないため、第1の導波路1における導波光は、第2のミラー40の影響を受けない。
図68は、図66Bの構成例と比較して、第2のミラー40が第1の導波路1と基板50との間において薄くなっている構成例を示す図である。この例のように、第2のミラー40は、第1の導波路1と基板50との間において、第2の導波路10と基板50との間における第2のミラー40の厚さよりも薄い箇所を有していてもよい。第1の導波路1と第2のミラー40との間には、調整層51が配置されている。このような構造により、第1の導波路1における導波光は、第2のミラー40の影響を受けにくくなる。図68の例では、図67の例と比較して、第1の導波路1と光導波層20との接続箇所において第2のミラー40によって生じる段差が小さい。したがって、加工がより容易である。
第2のミラー40の厚さは、導波路1に沿って変化していてもよい。以下、そのような例を説明する。
図69Aは、第2のミラー40の厚さが段階的に変化する構成例を示す図である。第1の導波路1と基板50との間において、第2のミラー40の厚さは、第1の導波路1に沿って変化している。
図69Aの例では、第1の導波路1の左の部分の下には、第2のミラー40が存在しない。第1の導波路1の左の部分は、光導波層20よりも低い位置にある。一方、第1の導波路1の右の部分、すなわち光導波層20に接続される部分の下には、第2のミラー40が存在する。第1の導波路1の右の部分は、光導波層20と同程度の高さに位置する。保護層61の厚さを調整することにより、保護層61の上面を平らにすることができる。
図69Aの構成例では、保護層61の上に配置されたヒーター68は、第1の導波路1から十分に離れている。したがって、第1の導波路1における導波光は、ヒーター68の配線による影響を受けにくい。このため、第1の導波路1における導波光のロスは抑制される。
図69Bは、上部電極62b、第1のミラー30、および第2の基板50Cが、第1の導波路1における保護層61と、第2の導波路10における光導波層20との上に跨って配置されている構成例を示す図である。図69Cは、図69Bの構成例の製造過程の一部を示す図である。
図69Bの例において、上部電極62b、第1のミラー30、および第2の基板50Cを含む構造体(以下、「上部構造体」と称する。)と、上部電極62bよりも下の構造体(以下、「下部構造体」と称する。)とは、別々に製造される。
下部構造体の製造については、まず、第1の基板50の上に、傾斜を有する第2のミラー40が形成される。第2のミラー40における傾斜を含む部分に、調整層51、導波路1の層、および保護層61がこの順に形成される。第2のミラー40における平らな部分に、下部電極62aおよび光導波層20が形成される。
上部構造体は、第2の基板50Cの上に、第1のミラー30および上部電極62bをこの順で積層することによって作製される。上部構造体は、図69Cに示すように、上下を反転させ、下部構造体の上に貼り付けられる。以上の製造方法によれば、第1の導波路1および第2の導波路10の精密な位置合わせを不要にできる。
保護層61の上面、すなわち、第1の導波路1に接する表面とは反対側の表面は、第2の導波路10における光導波層20の上面よりも低い。第1の導波路1におけるヒーター68の上面は、第2の導波路10における光導波層20の上面と、ほぼ同じ高さである。この場合、上部構造体と下部構造体とを、段差なく貼り合わせることができる。上部構造体は、蒸着またはスパッタリングなどの方法によって形成してもよい。
図70は、図69Bに示す構造を有する光スキャンデバイスにおける複数の第2の導波路10のYZ面断面を示す図である。この例では、第1のミラー30および第2のミラー40、ならびに電極62aおよび電極62bは、複数の第2の導波路10によって共用されている。共通の電極62aおよび電極62bの間に、複数の光導波層20が配置されている。複数の光導波層20の間の領域は、スペーサ73である。スペーサ73は、例えば、空気(または、真空)、SiO2、TiO2、Ta2O5、SiNまたはAlNなどの透明材料である。スペーサ73が固体材料であれば、上部構造体を蒸着またはスパッタリングなどの方法によって形成することができる。スペーサ73は、隣接する光導波層20の両方に直接接触していてもよい。
第1の導波路1は、光の全反射を利用する一般的な導波路である必要はない。例えば、第1の導波路1は、第2の導波路10と同様の反射型導波路であってもよい。
図71は、第1の導波路1および第2の導波路10が、反射型導波路である構成例を示す図である。第1の導波路1は、対向する多層反射膜3および多層反射膜40に挟まれている。第1の導波路1は、第2の導波路10と同じ原理で、光を伝搬させる。多層反射膜3の厚さが十分に大きければ、第1の導波路1から光は出射しない。
図71の構成例では、図20および図21などを参照して説明したように、2つの反射型導波路の接続条件を最適化することで、光の結合効率を高くすることができる。そのような最適化により、第1の導波路1から第2の導波路10へ効率よく光を導入することができる。
次に、一対の電極62aおよび電極62bの配置の変形例を説明する。図65Aから図71の例では、一対の電極62aおよび電極62bは、第2の導波路10における光導波層20に接触している。図65Cおよび図70の例では、電極62aおよび電極62bの一方または両方が、複数の第2の導波路10によって共用されている。電極62aおよび電極62bの構成は、このような構成に限定されない。
図72は、上部電極62bが第1のミラー30の上に配置されており、下部電極62aが第2のミラー40の下に配置されている構成例を示す図である。第1のミラー30は、上部電極62bと光導波層20との間に配置されている。第2のミラー40は、下部電極62aと光導波層20との間に配置されている。この例のように、一対の電極62aおよび電極62bは、光導波層20を、第1のミラー30および第2のミラー40を介して、間接的に挟んでいてもよい。
図72の例において、下部電極62aは、第1の導波路1の側にまで延びている。下部電極62aから配線を取り出すときに、第1の導波路1の下のスペースを用いることができる。よって配線の設計の自由度が増す。
この例では、一対の電極62aおよび電極62bは、光導波層20に接触していない。光導波層20における導波光は、一対の電極62aおよび電極62bによる吸収、散乱または反射などの影響を受けにくい。このため、光導波層20における導波光のロスが抑制される。
図73は、さらに他の変形例を示す断面図である。この例では、第1の導波路1は、第1の部分1aと第2の部分1bとに分離されている。第1の部分1aは、相対的に低い位置にあり、第2の導波路10から離れている。第2の部分1bは、相対的に高い位置にあり、第2の導波路10の光導波層20に繋がっている。第1の部分1aおよび第2の部分1bは、+Z方向から見たときに重なる部分を有する。第1の部分1aおよび第2の部分1bは、X方向に略平行に延びている。この例では、調整層51も、部分51aおよび部分51bに分離されている。調整層の第1の部分51aは、第1の導波路の第1の部分1aと下部電極62aとの間に配置されている。調整層の第2の部分51bは、第1の導波路の第2の部分1bと第2のミラー40との間に配置されている。保護層61は、第1の導波路の第1の部分1aおよび第2の部分1bの上に配置されている。第1の導波路の第1の部分1aの一部と、第1の導波路の第2の部分1bの一部とが、保護層61を介して対向している。電極62aおよび電極62bの配置は、図72における配置と同様である。
図73に示す構成では、第1の導波路の第1の部分1aおよび第2の部分1bの間隔、すなわちZ方向における距離は、導波路内での光の波長以下である。この場合、エバネッセント結合により、第1の部分1aから第2の部分1bへ光を伝搬させることができる。この例では、図69Aの例とは異なり、第2のミラー40の厚さを第1の導波路の第1の部分1aおよび第2の部分1bに沿って変化させる必要はない。
図74は、電極62が、隣り合う2つの光導波層20の間に配置されている構成例を示す図である。この例における調整素子は、複数の電極62を有し、これらの電極62に正負(図中では+および-で表示)の電圧を交互に印加する。これにより、各光導波層20の内部に、図74における左右方向の電場を発生させることができる。
図74の例では、Y方向において隣り合う2つの電極62は、その間の光導波層20の少なくとも一部に接触している。光導波層20と電極62との接触領域の面積は小さい。したがって、電極62が光を吸収、散乱または反射する材料であっても、光導波層20における導波光のロスを抑制することができる。
図65Aから図74の構成例では、スキャンに用いられる光は、第1のミラー30を通して出射される。スキャンに用いられる光は、第2のミラー40を通して出射されてもよい。
図75は、第1のミラー30が厚く、第2のミラー40が薄い構成の例を示す図である。図75の例では、光は第2のミラー40を透過して基板50の側から出射される。この例における基板50は、透光性を有する材料によって構成される。基板50から出射される光をスキャンに用いることにより、光スキャンデバイスの設計の自由度が増す。
<ミラーの幅に関する検討>
図76は、本実施形態おける、複数の導波路素子10をY方向に配列した導波路アレイ10Aの構成例を模式的に示す、YZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。図76の構成例では、Y方向において、第1のミラー30の幅は、光導波層20の幅よりも長い。第2のミラー40は、複数の導波路素子10によって共用されている。言い換えれば、各導波路素子10における第2のミラー40は、1つの繋がったミラーの一部である。第1のミラー30、光導波層20の端面からY方向に突出する部分を有する。Y方向における当該突出する部分の寸法を、y1とする。Y方向における、光導波層20の端面からの距離を、yとする。y=0は、光導波層20の端面に相当する。
導波光が光導波層20内をX方向に伝搬するとき、Y方向において、光導波層20からエバネッセント光が染み出す。Y方向における当該エバネッセント光の光強度Iは、以下の式で表される。
ただし、光導波層20からのエバネッセント光の光強度が、光導波層20の端面における光導波層20からのエバネッセント光の光強度の1/eになる位置の、光導波層20の端面からのY方向における距離を、y
dとするとき、y
dは以下の式を満たす。
I0は、y=0における、当該エバネッセント光の光強度である。全反射角θinは、図28に示されている。y=ydにおいて、当該エバネッセント光の光強度Iは、I0の1/eになる。eは、自然対数の底である。
簡単のため、図28に示すように、光導波層20内における導波光を、光線として近似する。図76の構成例に示すように、第1のミラー30がy>y
1において存在しない場合、y=0における導波光の1回の反射による光の漏れまたは光ロス(L
loss)は、以下の式で表される。
式(4)に示すように、導波路素子10からの出射光の広がり角θ
divを、0.1°以下にするためには、導波路素子10のX方向における伝搬長Lは、1mm以上であることが望ましい。このとき、Y方向における光導波層20の幅をaとすると、図28において、±Y方向における全反射の回数は、1000/(a・tanθ
in)以上である。a=1μmおよびθ
in=45°においては、全反射の回数は1000回以上である。1回の反射における光ロスを表す式(21)を用いると、β回の反射における光ロスは、以下の式で表される。
図77は、β=1000の場合における、光ロス(L(β)
loss)の割合およびy1の関係を示す図である。縦軸は、光ロスの割合であり、横軸はy1である。図77に示すように、光ロスの割合を50%以下にするために、例えば、y1≧7ydが満たされる。同様に、光ロスの割合を10%以下にするため、例えば、y1≧9ydが満たされる。光ロスの割合を1%以下にするために、例えば、y1≧11ydが満たされる。
式(21)に示すように、原理的には、y1を大きくすることで、光ロスを低減することができる。しかし、光ロスは、ゼロではない。
図78は、本実施形態おける、導波路素子10をY方向に配列した導波路アレイ10Aの別の構成例を模式的に示す、YZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。図78の構成例では、第1のミラー30および第2のミラー40は、複数の導波路素子10によって共用されている。言い換えれば、各導波路素子10における第1のミラー30は、1つの繋がったミラーの一部であり、各導波路素子10における第2のミラー40は、1つの繋がった他のミラーの一部である。これにより、原理的に光ロスを最小化することができる。
次に、図27Bおよび図78の構成例における光導波層20からのエバネッセント光の漏れ出しを、数値計算を用いて比較する。
図79Aは、図27Bの構成例における、電場強度分布の計算結果を示す図である。図79Bは、図78の構成例における、電場強度分布の計算結果を示す図である。数値計算には、Synopsys社のFemSimを用いた。図79Aおよび図79Bにおいて、Y方向における光導波層20の幅は、1.5μmであり、Z方向における光導波層20の厚さは、1μmであり、光の波長は、1.55μmであり、nw=1.68およびnlow=1.44である。nwおよびnlowのこの組み合わせは、例えば、光導波層20に含まれる液晶材料を、SiO2のスペーサ73によって閉じ込める場合に相当する。
図79Aに示すように、図27Bの構成例では、第1のミラー30が存在しない領域から、エバネッセント光が漏れ出ることがわかる。一方、図79Bに示すように、図78の構成例では、そのようなエバネッセント光の漏れ出しは無視することができる。図79Aおよび図79Bにおいて、導波光がX方向に伝搬する際、第1のミラー30からの光出射およびエバネッセント光の漏れ出しにより、導波光の光強度は減少する。当該導波光の光強度が1/eになる、X方向における光の伝搬長を計算すると、当該光の伝搬長は、図79Aおよび図79Bにおいて、それぞれ7.8μmおよび132μmである。
本実施形態において、スペーサ73は、2つ以上の異なる媒質で構成されてもよい。
図80は、本実施形態において、スペーサ73が、異なる屈折率を有するスペーサ73a、73bを含む構成例を模式的に示す、YZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。図80の構成例において、光導波層20に隣接するスペーサ73aの屈折率nlow1は、光導波層20に隣接しないスペーサ73bの屈折率nlow2よりも高い(nlow1>nlow2)。例えば、光導波層20が液晶材料を含む場合、液晶材料を閉じ込めるために、スペーサ73aとして、SiO2を用いてもよい。スペーサ73bは、空気であってもよい。スペーサ73bの屈折率nlow2が低ければ、光導波層20からのエバネッセント光の染み出しを抑制することができる。
図81は、本実施形態の変形例における、導波路素子10の構成例を模式的に示す、YZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。図81の構成例では、光導波層20は、YZ平面において台形の断面を有する。第1のミラー30は、光導波層20の、上辺の上だけでなく、左右の辺の上にも配置される。これにより、光導波層20の左右の辺からの光の漏れを抑制することができる。
次に、光導波層20およびスペーサ73の材料を説明する。
図76、図78および図80の構成例において、光導波層20の屈折率nwとスペーサ73の屈折率nlowとは、nw>nlowの関係を満たす。すなわち、スペーサ73は、光導波層20よりも屈折率が低い材料を含む。例えば、光導波層20が電気光学材料を含む場合、スペーサ73は、SiO2、TiO2、Ta2O5、SiN、AlNまたは空気などの透明材料を含んでもよい。光導波層20が液晶材料を含む場合、スペーサ73は、SiO2または空気などを含んでもよい。光導波層20を一対の電極で挟み、電圧を印加することにより、電気光学材料または液晶材料を含む光導波層20の屈折率を変化させることができる。これにより、第1のミラー30から出射される光の出射角度を変化させることができる。光導波層20が液晶材料または電気光学材料を含む場合における、光スキャンデバイスの詳細な駆動方法などは、前述の通りである。
図78および図80の構成例を、第1のミラー30と、それ以外の構成とを貼り合わせることによって形成してもよい。これにより、製造が容易になる。また、スペーサ73が固体材料であれば、第1のミラー30を蒸着またはスパッタリングなどの方法によって形成してもよい。
図76、図78および図80の構成例において、第2のミラー40が複数の導波路素子10によって共用されていることを前提に、第1のミラー30の構成を説明した。当然、上記の議論は、第2のミラー40にも適用できる。すなわち、Y方向において、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方の幅が、光導波層20の幅よりも長ければ、光導波層20からのエバネッセント光の漏れ出しを抑制することができる。その結果、光スキャンに用いられる光量の低下は抑制される。
<光導波層およびスペーサに関する検討>
次に、第1のミラー30と第2のミラー40の間における、光導波層20(以下、「光導波領域20」とも称する。)およびスペーサ73(以下、「非導波領域73」とも称する。)の構成が導波モードに与える影響を詳しく説明する。以下の説明において、「幅」とはY方向の寸法を意味し、「厚さ」とはZ方向の寸法を意味する。
図78に示す構成例を導波モードの計算モデルとする。計算に用いたパラメータは以下の通りである。第1のミラー30は、屈折率が2.1の材料と、屈折率が1.45の材料とを交互に12ペア積層した多層反射膜であり、第2のミラー40は、同じ2つの材料を17ペア積層した多層反射膜である。光導波領域20の厚さはh=0.65μmであり、光導波領域20の屈折率は1.6である。非導波領域73の厚さはh=0.65μmであり、非導波領域73の屈折率は1.45である。光の波長はλ=940nmである。
非導波領域73の幅を光導波領域20の幅よりも十分大きくし、光導波領域20の幅を変えたときの導波モードの電界分布を計算した。これにより、図79Aおよび図79Bに示すようなY方向およびZ方向に依存する電界分布が得られる。Y方向およびZ方向に依存する電界分布をZ方向に積分することによって、Y方向における電界分布が得られる。Y方向における電界分布の分散σを計算するために、ガウス関数を用いたフィッティングを行った。ガウス関数では、-3σ≦Y≦3σの範囲に99.73%の成分が存在する。そこで、6σがY方向における電界分布の広がりに相当するとして、分析を行った。以下、「電界の広がり」とは、Y方向における6σの電界の広がりを意味する。
図82は、光導波領域20の幅と電界の広がりとの関係を示す図である。図82に示すように、光導波領域20の幅がw=3μm以上では、導波モードの電界の広がりは光導波領域20の幅より小さい。光導波領域20の幅がw=3μm以下では、導波モードの電界の広がりは光導波領域20の幅より大きく、非導波領域73に染み出す。
次に、非導波領域73が複数の部材を含む構成例を説明する。
図83は、本実施形態における、光導波領域20および非導波領域73の構成例を模式的に示す光スキャンデバイスの断面図である。
本実施形態における光スキャンデバイスは、第1のミラー30と、第2のミラー40と、2つの非導波領域73と、光導波領域20とを備える。
第1のミラー30は、光透過性を有し、第2のミラー40は、第1のミラー30に対向する。
2つの非導波領域73は、第1のミラー30と第2のミラー40との間において、Y方向に間隙を空けて並ぶ。Y方向は、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方の反射面に平行である。
光導波領域20は、第1のミラー30と第2のミラー40との間で、且つ、2つの非導波領域73の間に位置する。光導波領域20は、非導波領域73の平均屈折率よりも高い平均屈折率を有する。光導波領域20は、X方向に沿って光を伝搬させる。X方向は、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方の反射面に平行で、且つ、Y方向に垂直である。
光導波領域20および2つの非導波領域73の各々は、共通の材料45によって構成される領域を含む。光導波領域20または2つの非導波領域73の各々は、共通の材料45とは異なる屈折率を有する1つ以上の部材46をさらに含む。図示されるように、当該1つ以上の部材46は、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方に接していてもよい。
第1のミラー30は、第2のミラー40よりも高い光透過率を有する。第1のミラー30は、光導波領域20内を伝搬する光の一部を、光導波領域20から、XY平面に交差す方向に出射する。XY平面は、X方向およびY方向によって形成される平面である。外部の調整素子は、光導波領域20の屈折率および/または厚さを変化させる。これにより、光導波領域20から出射される光の方向が変化する。より具体的には、調整素子により、出射される光の波数ベクトルのX成分が変化する。
図83に示す例では、光導波領域20および2つの非導波領域73の各々は、共通の材料45を含み、2つの非導波領域73の各々は、部材46を含む。部材46は第2のミラー40に接する。部材46の屈折率n1が共通の材料45の屈折率n2よりも低いとき、光導波領域20の平均屈折率は、非導波領域73の平均屈折率よりも高い。これにより、光は、光導波領域20を伝搬することができる。共通の材料45および部材46の各々は、例えば、SiO、TaO、TiO、AlO、SiN、AlN、およびZnOからなる群から選択される一種類の材料であり得る。Z方向において、部材46の寸法が、第1のミラー30と第2のミラー40の間の距離(以下、「ミラー間距離」と称する。)のr倍(0≦r≦1)であるとき、非導波領域73の平均屈折率は、nave=n1×r+n2×(1-r)である。以下、「部材の寸法」とは、Z方向における部材の寸法を意味する。
図83に示す例において、導波モードをさらに詳しく分析した。第1のミラー30および第2のミラー40の構成は、図82に示す計算に用いた構成と同じである。計算に用いた屈折率は、n1=1.45およびn2=1.6である。光導波領域20の幅はw=6μmである。光導波領域20の幅は、2つの離れた非導波領域73の距離でもある。光導波領域20の厚さは、h=0.65μmまたは2.15μmである。0.65μmおよび2.15μmの厚さは、それぞれ式(9)における2次(m=2)および7次(m=7)のモードに対応する。非導波領域73の厚さは、光導波領域20の厚さと同じである。ミラー間距離に対する部材46の寸法の比rによって導波モードの電界の広がりがどのように変化するか調べた結果を以下に示す。
図84Aは、r=0.1およびh=2.15μmでの導波モードの電界分布の計算結果を示す図である。図84Bは、r=0.5およびh=2.15μmでの導波モードの電界分布の計算結果を示す図である。いずれにおいても、図79Bに示す導波モードと同様の導波モードが存在することが確認できる。図84Aに示すr=0.1のときの方が、図84Bに示すr=0.5のときよりも、電界分布がY方向により広がることがわかる。
図85は、光導波領域20の幅がw=6.0μmでの、ミラー間距離に対する部材46の寸法の比rと電界の広がりとの関係を示す図である。光導波領域20の厚さは、h=0.65μm(m=2、図中の実線)またはh=2.15μm(m=7、図中の点線)である。図85に示すように、rを小さくする、すなわち、部材46の寸法を小さくするほど、電界の広がりが大きくなることがわかる。2次および7次の導波モードにおいて、電界の広がりはほとんど同じ振舞いを示す。特に、r≦0.2では、電界の広がりが急激に大きくなり、光導波領域20の幅(w=6.0μm)を超えることがわかる。
図86は、図85に示す例における、ミラー間距離に対する部材46の寸法の比rと導波モードの消衰係数との関係を示す図である。図86に示すように、rを変化させても、消衰係数のオーダー(10-5)はほとんど同じである。すなわち、消衰係数はrにほとんど依存しない。しかし、電界が非導波領域73まで広がると、様々な要因で散乱または吸収が増大し得る。例えば、非導波領域73の端が平滑でないとき、非導波領域73にパーティクルが存在するとき、または、非導波領域73自体が光吸収するときには、光導波領域20を伝搬する光に損失が生じる。したがって、電界の広がりが非導波領域73に染み出さない条件であるr≧0.2が望ましい。
次に、光導波領域20の幅、すなわち、2つの離れた非導波領域73の距離がw=3μmである構成例を分析した。これは、r=1である図82に示すように、電界の広がりがちょうど光導波領域20の幅と同程度である条件である。
図87は、光導波領域20の幅がw=3.0μmでの、ミラー間距離に対する部材46の寸法の比rと電界の広がりとの関係を示す図である。図85に示す例と同様に、r≦0.2では、電界の広がりが急激に大きくなることがわかる。r<0.1では、電界の広がりは6μmを超える。
たとえ導波モードの電界が過度に広がっても、単体の光導波領域20を用いて光スキャンデバイスを構成するときには問題ない。しかし、光導波領域20をアレイ化した光スキャンデバイスでは、導波モードの電界の過度な広がりは避けた方がよい。当該光スキャンデバイスにおいて、2つの光導波領域20に挟まれた非導波領域73の幅が3μm以下の場合、光導波領域20の導波モードの電界は、隣の光導波領域20の導波モードの電界と非導波領域73において重なり合う。その結果、光導波領域20を伝搬する光の少なくとも一部が、隣の光導波領域20に伝わるというクロストーク現象が生じ得る。クロストーク現象は、複数の光導波領域20から出射される光の干渉効果に影響を及ぼすおそれがある。
上記の理由から、本実施形態においては、例えばr≧0.1に設定される。さらに、r≧0.2であれば、ほとんどの電界が光導波領域20の内部に分布することができる。r<0.1であっても、非導波領域73の幅が光導波領域20の幅よりも大きければ、クロストーク現象を回避することができる。すなわち、他の実施形態における光スキャンデバイスにおいては、r<0.1にすることも可能である。
本実施形態における光スキャンデバイスでは、共通の材料45にコストの安い材料を用いることにより製造コストを下げることができる。
<変形例>
図88は、本実施形態の変形例における、光導波領域20および非導波領域73の構成を模式的に示す光スキャンデバイスの断面図である。図88に示す例では、光導波領域20および2つの非導波領域73の各々は、共通の材料45を含み、光導波領域20は、部材46を含む。部材46は、第2のミラー40に接する。部材46の屈折率n1が共通の材料45の屈折率n2よりも高いとき、光導波領域20の平均屈折率は、非導波領域73の平均屈折率よりも高い。これにより、光は光導波領域20を伝搬することができる。この構成では、共通の材料45および部材46の各々は、例えば、SiO、TaO、TiO、AlO、SiN、AlN、およびZnOからなる群から選択される一種類の材料であり得る。共通の材料45として空気などの気体または液体を用いてもよい。その場合には、厚さを容易に変化させることができる。つまり、図88に示す構成は、厚さを変調する方式に有利である。
図89は、図88に示す例における、ミラー間距離に対する部材46の寸法の比rと電界の広がりとの関係を示す図である。計算に用いた屈折率はn1=1.6およびn2=1.45である。光導波領域20の幅はw=3.0μmであり、光導波領域20の厚さはh=0.65μm(m=2)である。図89からわかるように、本変形例においても、図85および図87に示す例と同様に、r≦0.2において電界の広がりは急激に大きくなる。
第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方の反射面に段差を設けることによっても、光導波領域20または非導波領域73を形成することができる。当該段差を設けることによって生じる凸部は、共通の材料45とは異なる屈折率を有する部材46に相当する。
図90Aは、第2のミラー40の反射面の一部に、他の部分から盛り上がった凸部が設けられた例を示す断面図である。この例では、凸部が、前述の例における部材46に相当する。このため、以下の説明では、凸部を「部材46」と称する。この例における凸部、すなわち部材46は、第2のミラー40と同一の材料から形成されている。部材46は、第2のミラー40の一部であるともいえる。図90Aに示す例では、共通の材料45の屈折率n 2が、部材46の平均屈折率よりも低い。この例では、Z方向から見たときに、部材46を含む領域が光導波領域20に相当し、部材46を含まない領域が非導波領域73に相当する。
図90Bは、第2のミラー40の反射面の一部に凸部が設けられた他の例を模式的に示す断面図である。図90Bに示す例では、共通の材料45の屈折率n 2が、凸部46の平均屈折率よりも高い。この例では、Z方向から見たときに、凸部、すなわち部材46を含まない領域が光導波領域20に相当し、部材46を含む領域が非導波領域73に相当する。
図90Aおよび図90Bに示すように、共通の材料45の屈折率と部材46の屈折率との大小関係により、光導波領域20および非導波領域73が決まる。
図91は、第1のミラー30と第2のミラー40との間において、第1のミラー30側に2つの部材46が離れて配置されている構成例を模式的に示す断面図である。図92は、第1のミラー30と第2のミラー40との間において、第1のミラー30および第2のミラー40の両側の各々に2つの部材46が離れて配置されている構成例を模式的に示す光スキャンデバイスの断面図である。図91に示す例において、2つの部材46は第1のミラー30に接し、図92に示す例において、上の2つの部材46は第1のミラー30に接し、下の2つの部材46は第2のミラーに接する。部材46の屈折率はn1であり、共通の材料45の屈折率はn2である。n1<n2では、Z方向から見たときに、部材46を含まない領域が光導波領域20に相当し、部材46を含む領域が非導波領域73に相当する。n1>n2では、Z方向から見たときに、部材46を含む領域が光導波領域20に相当し、部材46を含まない領域が非導波領域73に相当する。
図93は、第1のミラー30と第2のミラー40の間において、第1のミラー30側に2つの部材46が離れて配置され、第2のミラー40側に他の部材47が配置されている構成例を模式的に示す断面図である。図93に示す例において、2つの部材46は第1のミラー30に接し、他の部材47は第2のミラー40に接する。Z方向から見たときに、部材46と他の部材47とは重なり合わない。共通の材料45の屈折率はn2であり、部材46の屈折率はn1であり、他の部材47の屈折率はn3である。部材46と他の部材47において、屈折率および寸法の少なくとも1つは異なっていてもよい。
Z方向から見たときに、部材46を含む領域の平均屈折率が他の部材47を含む領域の平均屈折率よりも大きいとき、部材46を含む領域が光導波領域20に相当し、他の部材47を含む領域が非導波領域73に相当する。Z方向から見たときに、部材46を含む領域の平均屈折率が他の部材47を含む領域の平均屈折率よりも小さいとき、他の部材47を含む領域が光導波領域20に相当し、部材46を含む領域が非導波領域73に相当する。
例えば、部材46の屈折率n1が共通の材料45の屈折率n2よりも低く、他の部材47の屈折率n3が共通の材料45の屈折率n2よりも高い構成(n1<n2<n3)を想定する。この構成では、Z方向から見たときに、他の部材47を含む領域が光導波領域20に相当し、部材46を含む領域が非導波領域73に相当する。光導波領域20が共通の材料45の屈折率n2よりも高い屈折率n3を有する1つ以上の他の部材47を含むことにより、光導波領域20の平均屈折率と非導波領域73の平均屈折率との差が大きくなる。これにより、光導波領域20の導波モードの非導波領域73への染み出しを抑制することができる。
図94は、第1のミラー30と第2のミラー40の間において、第2のミラー40側に2つの部材46が離れて配置されている例を模式的に示す光スキャンデバイスの断面図である。図94に示す例では、光スキャンデバイスは、第1のミラー30と第2のミラー40との距離を固定する2つの支持部材74をさらに備える。2つの支持部材74は、2つの非導波領域の外側に位置する。
図95は、第1のミラー30と第2のミラー40の間において、第1のミラー30および第2のミラー40の両側の各々に部材46が配置されている構成例を示す断面図である。Z方向から見たときに、上下の2つの部材46は重なり合う。共通の材料45が空気であれば、Z方向から見たときに、部材46を含む領域が光導波領域20に相当し、部材46を含まない領域が非導波領域73に相当する。
光スキャンデバイスにおいて、調整素子は、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方に接続されたアクチュエータ78を備えてもよい。アクチュエータ78は、第1のミラー30と第2のミラー40との距離を変化させることにより、光導波領域20の厚さを変化させることができる。
アクチュエータ78は、圧電部材を含み、圧電部材を変形させることにより、第1のミラー30と第2のミラー40との距離を変化させてもよい。これにより、光導波領域20から出射される光の方向を変化させることができる。圧電部材の材料は、図42から48を参照して説明した通りである。
また、図83、88、90A,90Bおよび91から95に示す共通の材料45は液晶であり得る。その場合、調整素子は、光導波領域20を間に挟む一対の電極を備え得る。調整素子は、当該一対の電極に電圧を印加する。これにより、光導波領域20の屈折率が変化する。その結果、光導波領域20から出射される光の方向が変化する。
上記の光導波領域20および2つの非導波領域73をアレイ化して光スキャンデバイスを構成してもよい。当該光スキャンデバイスは、上記の光導波領域20を含む複数の光導波領域と、上記の2つの非導波領域73を含む複数の非導波領域とを備える。複数の光導波領域の各々の平均屈折率は、複数の非導波領域の各々の平均屈折率よりも高い。複数の光導波領域および複数の非導波領域は、第1のミラー30と第2のミラー40の間においてY方向に交互に並ぶ。
当該光スキャンデバイスは、複数の光導波領域にそれぞれ接続された複数の位相シフタをさらに備えてもよい。複数の位相シフタのそれぞれは、複数の光導波領域の対応する1つにおける光導波領域20に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含む。
各位相シフタにおける導波路は、電圧の印加または温度変化に応じて屈折率が変化する材料を含んでもよい。上記調整素子を、第1調整素子とする。第1調整素子と異なる第2調整素子は、各位相シフタにおける導波路に電圧を印加する、または導波路の温度を変化させる。これにより、導波路内の屈折率が変化し、複数の位相シフタから複数の光導波領域に伝搬する光の位相の差がそれぞれ変化する。その結果、複数の光導波領域から出射される光の方向が変化する。より具体的には、第2調整素子により、出射される光の波数ベクトルのY成分が変化する。
<光学素子による光スキャンの範囲の変更>
前述したように、光スキャンデバイスにおいて、光スキャンの範囲は、光導波層20の厚さおよび/または屈折率などの構造パラメータによって決定される。したがって、通常、光スキャンの範囲を変更するために、構造パラメータが調整される。しかし、構造パラメータの調整では、光スキャンの範囲は、それほど大きく変更されない。
本発明者らは、光スキャンの範囲を比較的容易に変更する光デバイスの構成を検討した。その結果、以下の各実施形態の構成に想到した。
第1の項目に係る光デバイスは、第1の方向および前記第1の方向に垂直な第2の方向に拡がる第1の反射面を有する第1のミラーと、前記第1の反射面に対向する第2の反射面を有する第2のミラーと、前記第1のミラーと前記第2のミラーとの間の領域の一部に位置し、光を前記第1の方向に沿って伝搬させる光導波層と、前記第1のミラーの前記第1の反射面とは反対の側に位置する光学素子であって、入射した光を、屈折および/または回折により、入射方向とは異なる方向に出射させる光学素子と、を備える。前記第1のミラーにおける前記光の透過率は、前記第2のミラーにおける前記光の透過率よりも高い。前記光導波層は、屈折率および/または厚さを調整することが可能な構造を有する。前記光導波層の屈折率および/または厚さを調整することにより、前記光導波層から前記第1のミラーおよび前記光学素子を介して出射される光の方向、または前記光学素子および前記第1のミラーを介して前記光導波層内に取り込まれる光の入射方向が変化する。
この光デバイスでは、光学素子は、第1のミラーの第1の反射面とは反対の側に位置する。当該光学素子がある場合とない場合とでは、第1のミラーから外部に出射される光の方向が異なる。したがって、当該光学素子により、出射光を所望の方向に変更することが可能になる。光学素子は、屈折および/または回折により、(1)光導波層から第1のミラーを介して入射した光を、当該入射方向よりも第1の方向の成分が小さくなる方向に出射してもよく、あるいは(2)当該光デバイスの外部から入射した光を、当該入射方向よりも第1の方向の成分が大きくなる方向に出射してもよい。入射方向よりも第1の方向の成分が小さい方向は、負の第1の方向の成分を有する方向であってもよい。また、外部からの光の入射方向は、負の第1の方向の成分を有していてもよい。光導波層から出射される光の方向の変化の範囲、または、光導波層内に取り込まれる光の入射方向の変化の範囲は、第1の反射面に垂直な方向を含んでいてもよい。
第2の項目に係る光デバイスは、第1の項目に係る光デバイスにおいて、前記光学素子が、前記光導波層の屈折率および/または厚さが変化したときの、前記光導波層から出射される前記光の前記方向の変化、または、前記光導波層内に取り込まれる前記光の前記入射方向の変化を拡大させる。
この光デバイスでは、光導波層の屈折率および/または厚さの変化のおける光の出射角度または入射角度の変化は、光学素子がない場合よりも、ある場合の方が大きく変化する。
第3の項目に係る光デバイスは、第1または第2の項目に係る光デバイスにおいて、前記光学素子が、プリズムを含む。
この光デバイスでは、プリズムを含む光学素子により、第1または第2の項目に係る光デバイスの効果を実現することができる。
第4の項目に係る光デバイスは、第3の項目に係る光デバイスにおいて、前記プリズムが、前記第1のミラーに対向する第1の面と、前記第1の面とは反対の側に位置する第2の面とを有する。前記第1の面は、前記第1の反射面に平行であるか、または交差する。前記第2の面は、前記第1の反射面と交差する。
この光デバイスでは、上記の具体的な構造を有するプリズムにより、第1または第2の項目に係る光デバイスの効果を実現することができる。
第5の項目に係る光デバイスは、第1から第4の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記光学素子が、回折格子を含む。
この光デバイスでは、回折格子を含む光学素子により、第1または第2の項目に係る光デバイスの効果を実現することができる。
第6の項目に係る光デバイスは、第5の項目に係る光デバイスにおいて、前記回折格子が、前記第1の方向に沿って屈折率が変化する複数の凹部を有する。
この光デバイスでは、上記の具体的な構造を有する回折格子により、第1または第2の項目に係る光デバイスの効果を実現することができる。
第7の項目に係る光デバイスは、第1から第6の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記光導波層に接続され、実効屈折率がne1である導波モードの光を前記第1の方向に沿って伝搬させる導波路をさらに備える。前記導波路の先端部は、前記光導波層の内部にある。前記第1の反射面に垂直な方向から見て前記導波路および前記光導波層が重なる領域において、前記導波路および前記光導波層の少なくとも一部は、前記第1の方向に沿って屈折率が周期pで変化する少なくとも1つのグレーティングを含む。さらに、λ/ne1<p<λ/(ne1-1)が満たされる。
この光デバイスでは、導波路を伝搬する光は、グレーティングを介して、スローライト導波路である光導波層に高い効率で伝搬することができる。これにより、導波光の高い結合効率を実現することができる。
第8の項目に係る光デバイスは、第1から第6の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、複数の導波路ユニットを備える。各導波路ユニットは、前記第1および第2のミラー、前記光導波層、および前記光学素子を含む。前記複数の導波路ユニットは、前記第2の方向に配列されている。
この光デバイスでは、第1の項目に係る光デバイスがアレイ化されている。このアレイ化された光デバイスでも、第1の項目に係る光デバイスの効果を得ることができる。
第9の項目に係る光デバイスは、第8の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記複数の導波路ユニットにそれぞれ接続された複数の位相シフタであって、それぞれが、前記複数の導波路ユニットの対応する1つにおける前記光導波層に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含む複数の位相シフタをさらに備える。前記複数の位相シフタを通過する光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、前記第1のミラーから出射する前記光の方向、または、前記第1のミラーを介して前記光導波層に取り込まれる前記光の入射方向が変化する。
この光デバイスでは、位相シフタによって光スキャンおよび光受信の方向を変化させることができる。
第10の項目に係る光デバイスは、第7の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、複数の導波路ユニットを備える。各導波路ユニットは、前記第1および第2のミラー、前記光導波層、前記光学素子、および前記導波路を含む。前記複数の導波路ユニットは、前記第2の方向に配列されている。
この光デバイスでは、少なくとも1つのグレーティングを含む導波路をさらに備える第1の項目に係る光デバイスが、アレイ化されている。このアレイ化された光デバイスでも、第1の項目に係る光デバイスの効果を得ることができる。
第11の項目に係る光デバイスは、第10の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記複数の導波路ユニットにそれぞれ接続された複数の位相シフタであって、それぞれが、前記複数の導波路ユニットの対応する1つにおける前記導波路に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる第2の導波路を含む複数の位相シフタをさらに備える。前記複数の位相シフタを通過する光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、前記第1のミラーから出射する前記光の方向、または、前記第1のミラーを介して前記光導波層に取り込まれる前記光の入射方向が変化する。
この光デバイスでは、位相シフタによって光スキャンおよび光受信の方向を変化させることができる。
第12の項目に係る光デバイスは、第8から第11の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、共通の光学素子を備える。各導波路ユニットにおける前記光学素子は、前記共通の光学素子の一部である。
この光デバイスでは、複数の導波路ユニットは、共通の光学素子で覆われている。共通の光学素子により、第1の項目に係る光デバイスの効果を得ることができる。
第13の項目に係る光デバイスは、第12の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、複数の導波路アレイと、基板とを備える。各導波路アレイは、前記複数の導波路ユニットを含む。前記複数の導波路アレイは、前記基板上に設けられている。
この光デバイスでは、各々が複数の導波路ユニットを含む複数の導波路アレイが、同一基板上に設けられている。共通の光学素子により、各導波路アレイから出射される光の方向が変更される。
第14の項目に係る光デバイスは、第13の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、光学基板を備える。各導波路アレイにおける前記共通の光学素子は、前記光学基板の一部である。
この光デバイスでは、共通の光学素子は、光学基板の一部である。当該共通の光学素子により、各導波路アレイから出射される光の方向が変更される。
第15の項目に係る光デバイスは、第14の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記複数の導波路アレイにおける前記共通の光学素子が、すべて同じ構造を備える。
この光デバイスでは、複数の導波路アレイから出射される光の方向は、すべて同じである。
第16の項目に係る光デバイスは、第14の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記複数の導波路アレイにおける前記共通の光学素子の少なくとも2つが、異なる構造を備える。
この光デバイスでは、複数の導波路アレイから出射される光の方向のうち少なくとも2つは、互いに異なる。
第17の項目に係る光デバイスは、第14の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記複数の導波路アレイにおける前記共通の光学素子が、すべて異なる構造を備える。
この光デバイスでは、複数の導波路アレイから出射される光の方向は、すべて互いに異なる。
第18の項目に係る光検出システムは、第1から第17の項目のいずれかに記載の光デバイスと、前記光デバイスから出射され、対象物から反射された光を検出する光検出器と、前記光検出器の出力に基づいて、距離分布データを生成する信号処理回路と、を備える。
この光検出システムでは、対象物から反射された光が戻ってくる時間を計測することにより、対象物の距離分布データを得ることができる。
以下に、プリズムによる光偏向の原理を説明する。
図96は、本開示の実施形態における光デバイスの一例を模式的に示す図である。
本実施形態における光デバイスは、第1のミラー30および第2のミラー40と、光導波層20と、光学素子32とを備える。
第1のミラー30および第2のミラー40、ならびに光導波層20の詳細については、前述した通りである。
光学素子32は、第1のミラー30の反射面とは反対の側に位置する。光学素子32は、光学素子32に入射した光を、屈折および/または回折により、入射方向とは異なる方向に出射させる。光学素子32は、入射した光を、屈折および/または回折により、入射方向よりも第1の方向の成分が小さい方向に出射させてもよい。図96に示す例では、光学素子32は、媒質32s、およびプリズム32p含む。媒質32sは、第1のミラー30上に設けられている。プリズム32pは、媒質32s上に設けられている。光学素子32は、プリズム32pおよび媒質32sの両方を含む必要はなく、少なくとも一方だけを含んでいてもよい。
プリズム32pは、第1のミラー30に対向する下面32plと、下面32plとは反対の側に位置する上面32puとを有する。プリズム32pの下面32plは、第1のミラー30の反射面に平行であるか、または交差する。プリズム32pの下面32plが第1のミラー30の反射面に平行である場合、プリズム32pの上面32puは、第1のミラー30の反射面に交差する。プリズム32pの下面32plが第1のミラー30の反射面に交差するある場合、プリズム32pの上面32puは、第1のミラー30の反射面に平行であるか、または交差する。
光導波層20を伝搬する光の一部は、第1のミラー30および光学素子32を介して、外部に出射される。屈折率および/または厚さを調整することにより、外部に出射される光の方向が変化する。
図96に示す例において、以下のようにパラメータが設定されている。プリズム32pの屈折率をn
pとし、媒質32sの屈折率をn
sとする。プリズム32pの下面32plとXY平面とがなす角度をθ
p1とし、プリズム32pの上面32puとXY平面とがなす角度をθ
p2とする。第1のミラー30から出射され、媒質32s内を伝搬する光の方向と、Z方向とがなす角度を、θ
1とする。プリズム32pから外部に出射される光の方向と、Z方向とがなす角度を、θ
2とする。スネルの法則から、θ
2は、以下の式(23)によって表される。
なお、媒質32sと第1のミラー30との界面における境界条件から、nssinθ1は、式(3)における右辺の式と等しい。光学素子32の設計パラメータnp、ns、θp1、θp2を調整することにより、θ1の範囲に応じてθ2を任意に選択することができる。光導波領域20を伝搬する光の方向を正とするとき、第一のミラー30から射出される光の角度は波数ベクトルのX成分が正の領域に限定されるが、上記設計パラメータnp、ns、θp1、θp2の調整により出射光の波数ベクトルを0°を含む負の領域まで拡大あるいは変更することもできる。図96に示す例では、光の伝搬方向は、XZ平面に平行であるが、平行でなくてもよい。プリズム32pの上面32puおよび下面32plの少なくとも一方に反射防止膜を設けることにより、光反射などによる損失を低減させることも可能である。
次に、光学素子32がある場合における出射角度の変化の計算例を説明する。
図97は、計算に用いられる光デバイスの一例を模式的に示す図である。第1のミラー30と媒質32sとの間、および/または媒質32sとプリズム32pとの間に、空間が存在してもよい。
図97に示す例における計算条件は、以下の通りである。計算の簡単のために、θp1=0°である。プリズム32pおよび媒質32sは、同じ屈折率np=ns=1.451を有する。したがって、プリズム32pおよび媒質32s内における光の伝搬方向は同じである。
図98は、図97に示す例における、光学素子がない場合の光の出射角度と、光学素子がある場合の光の出射角度との関係を示す図である。丸印はθp2=-10°のプリズム32pを表し、四角印はθp2=-45°のプリズム32pを表し、三角印はθp2=10°のプリズム32pを表す。なお、丸印の例では、光が光導波領域20を正のX方向に進み、四角印および三角印の例では、光が光導波領域20を負のX方向に進む。θp2が負の値になる場合は、図112に示すように、プリズム32pの上面32puの法線ベクトルが負のX成分を有する。
光学素子32がない場合、光の出射角度の範囲は、-25°から-5°の負の範囲と、5°から25°の正の範囲とである。本実施形態の構成によれば、図63に示すように光導波層20内における光の伝搬方向を逆転させることによって構造を複雑に変更することなく、光の出射角度を正負の範囲において変化させることができる。
光学素子32がある場合、θp2=-10°では、光の出射角度の範囲は、光学素子32がない場合における5°から25°の範囲から、12°から45°の範囲に変換される。この場合、出射角度の変化量は、光学素子32がない場合における20°から、33°に増加する。
同様に、θp2=-45°では、光の出射角度の範囲は、光学素子32がない場合における-25°から-5°の範囲から、-15°から24°の範囲に変換される(図112参照)。この場合、出射角度の変化量は、光学素子32がない場合における20°から、39°に増加する。すなわち、光の伝搬方向を逆転させることなく、光の出射角度を正負の範囲において変化させることができる。
同様に、θp2=10°では、光の出射角度の範囲は、光学素子がない場合の-25°から-5°の範囲から、-45°から-12°の範囲に変換される。この場合、出射角度の変化量は、光学素子32がない場合における20°から、33°に増加する。
図98に示すように、光学素子32におけるプリズム32pの角度θp2を変化させることにより、光の出射角度の変化を増加させることができる。言い換えれば、光学素子32により、光導波層20から出射される光の方向の変化が拡大する。
同一基板上に設けられた同じ3つのスローライド導波路10上に、それぞれθp2=-10°、-45°、10°のプリズム32pを含む光学素子32を設ければ、図98に示すように、-45°から45°の範囲を光スキャンすることができる。
図99は、本実施形態における光デバイスの一例を模式的に示す図である。図99に示す例では、透明基板である光学素子32が、第1のミラー30上に設けられている。光学素子32は、透明基板の一部を削って形成された斜面を有するプリズム32pを含む。図99に示す光デバイスでも、図96および図97に示す光デバイスと同じ効果を期待することができる。
次に、回折格子による光偏向の原理を説明する。
図100は、本実施形態における光デバイスの一例を模式的に示す図である。図100に示す例では、第1のミラー30上に、回折格子32gを含む光学素子32が設けられている。回折格子32gは、光学素子32の上面において、X方向に沿って屈折率が変化する複数の凹部を有する。
図100に示す例において、以下のようにパラメータが設定されている。第1のミラー30から出射され、光学素子32内を伝搬する光の方向と、Z方向とがなす角度を、θ1とする。光学素子32から出射される光の方向と、Z方向とがなす角度を、θ2とする。光学素子32の屈折率をnsとする。回折格子32gは、周期pの凹部を有するとする。光導波層20を伝搬する光の空気中における波長をλとする。
光学素子32と外部との界面において、光の波数ベクトルのX成分は保存する。光学素子32内を伝搬する光の波数ベクトルのX成分は、2πn
ssinθ
1/λである。回折格子32gの近傍では、光の波数ベクトルのX成分は、逆格子(2π/p)の整数倍だけシフトする。したがって、回折格子32gの近傍における光の波数ベクトルのX成分は、2πn
ssinθ
1/λ-(2π/p)mである。mは回折光の次数である。一方、外部に出射される光の波数ベクトルのX成分は、2πsinθ
2/λである。2πn
ssinθ
1/λ-(2π/p)m=2πsinθ
2/λから、以下の式(24)が得られる。
なお、光学素子32と第1のミラー30との界面における境界条件から、nssinθ1は、式(3)における右辺の式と等しい。0次光では、m=0および式(24)から、スネルの法則nssinθ1=sinθ2が成り立つ。すなわち、θ2は、式(3)におけるθと同じである。±1次以上の高次光の出射角度θ2は、周期pに応じて変化する。すなわち、周期pを適切に調整することにより、出射角度θ2を任意に選択することができる。
図101は、図100に示す例における、光学素子がない場合の光の出射角度と、光学素子がある場合の光の出射角度との関係を示す図である。図101に示す例における計算条件は、波長λ=940nmであり、周期p=3μmである。
光学素子32がない場合、光の出射角度は、5°から25°の範囲において変化する。
光学素子32がある場合、0次光の出射角度の範囲は、前述したように、光学素子32がない場合における5°から25°の範囲と同じである。
光学素子32がある場合、-1次光の出射角度の範囲は、-13°から6°の範囲である。同様に、1次光の出射角度の範囲は、23°から47°の範囲である。
0次光および±1次光を用いることにより、光スキャンの範囲を-13°から47°まで変化させることができる。
回折格子32gは、図100に示す例に限られない。
図102は、本実施形態における光デバイスの一例を模式的に示す図である。図102に示す例では、光学素子32は、透過型ブレーズド回折格子32gを含む。ブレーズド回折格子32gは、ノコギリ状のプリズムが周期的に配列された構造である。ブレーズド回折格子32gに入射し、屈曲されて出射される光は、式(23)および式(24)の両方を満たす偏向方向に強く回折される。
図100および102に示す例では、第1のミラー30上に、回折格子32gを含む光学素子32が設けられているが、これに限られない。第1のミラー30に回折格子32gを直接形成してもよい。
次に、図96、97、99、100および102に示す光デバイスをY方向にアレイ化した例を説明する。
本実施形態における光デバイスは、Y方向に配列された複数の導波路ユニットを備える。各導波路ユニットは、第1のミラー30および第2のミラー40と、光導波層20と、光学素子32と、を含む。各導波路ユニットは、前述した少なくとも1つのグレーティングを備える導波路をさらに含んでもよい。
本実施形態における光デバイスは、共通の光学素子32を備えてもよい。その場合、各導波路ユニットにおける光学素子は、共通の光学素子32の一部である。言い換えれば、共通の光学素子32は、複数の導波路ユニットを覆っている。以下では、「共通の光学素子32」を、単に「光学素子32」と称することがある。
本実施形態における光デバイスは、複数の導波路ユニットにそれぞれ接続された複数の位相シフタをさらに備えてもよい。
各導波路ユニットが、前述した少なくとも1つのグレーティングを備える導波路を含まない場合、複数の位相シフタのそれぞれは、複数の導波路ユニットの対応する1つにおける光導波層20に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含む。
各導波路ユニットが、前述した少なくとも1つのグレーティングを備える導波路を含む場合、複数の位相シフタのそれぞれは、複数の導波路ユニットの対応する1つにおける前述した少なくとも1つのグレーティングを備える導波路に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる第2の導波路を含む。
アレイ化された光デバイスは、2次元方向の光スキャンを可能にする。
次に、Y方向にアレイ化された複数の導波路ユニットを1つの導波路アレイとし、同一基板上に複数の導波路アレイを設ける例を説明する。
図103は、本実施形態における光デバイスの一例を模式的に示す図である。図103に示すように、各導波路アレイ10Aは、方向101および方向102に沿って出射光を変化させることができる。
本実施形態における光デバイスは、複数の導波路アレイ10Aと、基板50とを備える。複数の導波路アレイ10Aは、同一基板50上に設けられている。複数の導波路アレイ10A上には、それぞれ、複数の光学素子32が設けられている。各光学素子32は、プリズム32pを含む。図103に示す例において、3つの導波路アレイ10A上に、それぞれθp2=-10°、-45°、10°の図97に示すプリズム32pを設ければ、図98に示すように、-45°から45°の範囲を光スキャンすることができる。
図104は、本実施形態における光デバイスの一例を模式的に示す図である。
本実施形態における光デバイスは、透明な光学基板33を備える。図104に示す例では、複数の導波路アレイ10A上に光学基板33が設けられている。光学基板33は、複数の光学素子32を含む。各光学素子32は、図99に示すプリズム32pを含む。複数の光学素子32は、それぞれ複数の導波路アレイ10A上に位置する。図104に示す光学基板33により、複数の導波路アレイ10A上にそれぞれ複数の光学素子32を設けることが容易になる。複数の光学素子32は、すべて同じ構造を備えてもよい。この場合、複数の導波路アレイ10Aから出射される光の方向は、すべて同じである。複数の光学素子32の少なくとも2つは、互いに異なる構造を備えてもよい。この場合、複数の導波路アレイ10Aから出射される光の方向の少なくとも2つは、異なる。複数の光学素子32は、すべて互いに異なる構造を備えてもよい。この場合、複数の導波路アレイ10Aから出射される光の方向は、すべて互いに異なる。
図105は、本実施形態における光デバイスの一例を模式的に示す図である。図105に示す例では、複数の導波路アレイ10A上に光学素子32が設けられている。光学素子32は、複数の導波路アレイ10Aを覆う1つのプリズム32pを含む。これにより、図103および104に示す例と比較して、光デバイスの作製が容易になる。
図103および104に示す例では、同一基板50上に、複数の同じ導波路アレイ10Aが設けられている。光学素子32がなければ、複数の導波路アレイ10Aから出射される光の方向は、すべて同じである。複数の導波路アレイ10A上にそれぞれ複数の光学素子32を設けることにより、複数の導波路アレイ10Aから出射される光の方向を、別々に制御することができる。これにより、比較的容易に、光スキャンの範囲を広げることができる。
図103から105に示す例では、光学素子32は、プリズム32pの代わりに回折格子32gを含んでもよい。光学素子32は、プリズム32pおよび回折格子32gの両方を含んでもよい。
本実施形態における光デバイスは、光受信デバイスとしても機能する。その場合、外部からの光は、光学素子32および第1のミラー30を介して光導波層20内に取り込まれる。光導波層20の屈折率および/または厚さを調整することにより、外部から取り込まれる光の方向が変化する。
<応用例>
図106は、回路基板(たとえば、チップ)上に光分岐器90、導波路アレイ10A、位相シフタアレイ80A、および光源130などの素子を集積した光スキャンデバイス100の構成例を示す図である。光源130は、例えば、半導体レーザーなどの発光素子であり得る。この例における光源130は、自由空間における波長がλである単一波長の光を出射する。光分岐器90は、光源130からの光を分岐して複数の位相シフタにおける導波路に導入する。図106の構成例において、チップ上には電極62aと、複数の電極62bとが設けられている。導波路アレイ10Aには、電極62aから制御信号が供給される。位相シフタアレイ80Aにおける複数の位相シフタ80には、複数の電極62bから制御信号がそれぞれ送られる。電極62aおよび電極62bは、上記の制御信号を生成する不図示の制御回路に接続され得る。制御回路は、図106に示すチップ上に設けられていてもよいし、光スキャンデバイス100における他のチップに設けられていてもよい。
図106に示すように、全てのコンポーネントをチップ上に集積することで、小型のデバイスで広範囲の光スキャンが実現できる。例えば2mm×1mm程度のチップに、図106に示される全てのコンポーネントを集積することができる。
図107は、光スキャンデバイス100から遠方にレーザーなどの光ビームを照射して2次元スキャンを実行している様子を示す模式図である。2次元スキャンは、ビームスポット310を水平および垂直方向に移動させることによって実行される。例えば、公知のTOF(Time Of Flight)法と組み合わせることで、2次元の測距画像を取得することができる。TOF法は、レーザーを照射して対象物からの反射光を観測することで、光の飛行時間を算出し、距離を求める方法である。
図108は、そのような測距画像を生成することが可能な光検出システムの一例であるLiDARシステム300の構成例を示すブロック図である。LiDARシステム300は、光スキャンデバイス100と、光検出器400と、信号処理回路600と、制御回路500とを備えている。光検出器400は、光スキャンデバイス100から出射され、対象物から反射された光を検出する。光検出器400は、例えば光スキャンデバイス100から出射される光の波長λに感度を有するイメージセンサ、またはフォトダイオードなどの受光素子を含むフォトディテクタであり得る。光検出器400は、受光した光の量に応じた電気信号を出力する。信号処理回路600は、光検出器400から出力された電気信号に基づいて、対象物までの距離を計算し、距離分布データを生成する。距離分布データは、距離の2次元分布を示すデータ(すなわち、測距画像)である。制御回路500は、光スキャンデバイス100、光検出器400、および信号処理回路600を制御するプロセッサである。制御回路500は、光スキャンデバイス100からの光ビームの照射のタイミングおよび光検出器400の露光および信号読出しのタイミングを制御し、信号処理回路600に、測距画像の生成を指示する。
2次元スキャンにおいて、測距画像を取得するフレームレートとして、例えば一般的に動画でよく使われる60fps、50fps、30fps、25fps、24fpsなどから選択することができる。また、車載システムへの応用を考慮すると、フレームレートが大きいほど測距画像を取得する頻度が上がり、精度よく障害物を検知できる。例えば、60km/hでの走行時において、60fpsのフレームレートでは車が約28cm移動するごとに画像を取得することができる。120fpsのフレームレートでは、車が約14cm移動するごとに画像を取得することができる。180fpsのフレームレートでは車が、約9.3cm移動するごとに、画像を取得することができる。
1つの測距画像を取得するために必要な時間は、ビームスキャンの速度に依存する。例えば、解像点数が100×100のイメージを60fpsで取得するためには1点につき1.67μs以下でビームスキャンをする必要がある。この場合、制御回路500は、600kHzの動作速度で、光スキャンデバイス100による光ビームの出射、および光検出器400による信号蓄積・読出しを制御する。
<リニアセンサアレイによる視差の低減>
本開示のLiDARシステム300では、光スキャンデバイス100と光検出器400とは、同軸上に存在しない。これは、MEMSなどを含む従来の光スキャンデバイスを用いた場合と異なる。そのため、光スキャンデバイス100から出射され、物体によって反射された光を光検出器400によって検出する場合、視差を補正することによって物体の位置が特定される。しかし、光検出器400としてリニアセンサアレイを用いれば、視差の補正が不要になる。以下の説明では、光検出器400を、リニアセンサアレイとする。
図109は、LiDARシステムの構成例を模式的に示す図である。図109に示す例では、リニアセンサアレイ400は、X方向に配列された複数の受光素子400aを含む。リニアセンサアレイ400は、光スキャンデバイス100から出射される光の波長λに感度を有する。各受光素子400a上には、不図示の光学系または光学素子が設けられていてもよい。光学系または光学素子して、例えばアナモルフィックレンズ、マイクロレンズアレイ、またはホログラフィック回折素子を用いることができる。これにより、各受光素子400aは、Y方向に広い視野400dを有する。
LiDARシステム300において、光スキャンデバイス100は、X方向に直線状に延びる光310をY方向にスキャンする。光スキャンデバイス100は、例えばY方向に延びる1つのスローライト導波路10である。光310と、各受光素子400aの視野400dとが重なる領域が、測距画像を取得することができる範囲である。
LiDARシステム300では、光スキャンデバイス100から出射される光の出射角度から、物体のY方向の角度が得られる。リニアセンサアレイ400上の受光位置から、物体のX方向の角度が算出される。TOF動作により、光スキャンデバイス100から出射され、物体によって反射され、リニアセンサアレイ400に到達するまでの光の飛行距離が算出される。このようにして得られたX方向およびY方向の角度と、光の飛行距離とから、3次元空間における物体の位置を特定することができる。
以下において、3次元空間における物体の位置を特定する原理を説明する。
図110Aは、光スキャンデバイスと、リニアセンサアレイの焦点との位置関係を模式的に示す図である。図110Bは、物体と、リニアセンサアレイと、リニアセンサアレイの焦点との位置関係を模式的に示す図である。
図110Aに示す例では、光スキャンデバイス100は、センサアレイ400の焦点400FとはY方向に距離ΔYだけ離れた位置に配置されている。光スキャンデバイス100の中心のX座標は、リニアセンサアレイ400の中心のX座標と一致している。
前述したように、本構成例では、以下のパラメータを得ることができる。光スキャンデバイス100から、光のY方向の出射角度θ
Yを得ることができる。リニアセンサアレイ400の受光位置から、X方向の反射光の角度θ
Xを得ることができる。TOF動作により、光スキャンデバイス100から出射され、物体によって反射され、リニアセンサアレイ400に到達するまでの光の総距離Z
aを得ることができる。これらのパラメータを用いて、リニアセンサアレイ400から見た物体のY方向の角度θ
Y’は、以下の式(25)によって表される。
光スキャンデバイス100と物体350との間の距離Z
1、および物体350と、リニアセンサアレイ400の焦点400Fとの間の距離Z
2は、それぞれ以下の式(26)および式(27)によって表される。
本実施例において、リニアセンサアレイ400における各受光素子400aの視野400dと、光スキャンデバイス100の光310による光スキャン領域とが重なる範囲では、視差の影響のない測距画像を取得することができる。測距画像を取得することができる範囲は、前述したように、光スキャンデバイス100から出射され、物体350によって反射された光がリニアセンサアレイ400に到達する領域である。
図111は、光スキャンの範囲と、リニアセンサアレイにおける各受光素子の視野との位置関係を模式的に示す図である。図111に示すように、光310による光スキャンの範囲と、各受光素子400aの視野400dとのずれは、測距距離に関係なく、光スキャンデバイス100とリニアセンサアレイ400との位置のずれΔYと同じである。
本構成の他の例では、光スキャンデバイス100として、X方向をスキャンの主軸とする2次元の光スキャンデバイスを用いることができる。この場合、リニアセンサアレイ400の中心のX座標は、光スキャンデバイス100の中心のX座標と一致するように配置され得る。これにより、視差の影響のない測距画像を取得することができる。
<光受信デバイスへの応用例>
本開示の前述の各実施形態における光スキャンデバイスは、ほぼ同一の構成で、光受信デバイスとしても用いることができる。光受信デバイスは、光スキャンデバイスと同一の導波路アレイ10Aと、受信可能な光の方向を調整する第1調整素子60とを備える。導波路アレイ10Aの各第1のミラー30は、第3の方向から第1の反射面の反対側に入射する光を透過させる。導波路アレイ10Aの各光導波層20は、第2の方向に第1のミラー30を透過した光を伝搬させる。第1調整素子60が各導波路素子10における前記光導波層20の屈折率および厚さ、ならびに光の波長の少なくとも1つを変化させることにより、受信可能な光の方向を変化させることができる。さらに、光受信デバイスが、光スキャンデバイスと同一の複数の位相シフタ80、または位相シフタ80aおよび位相シフタ80bと、複数の導波路素子10から複数の位相シフタ80、または位相シフタ80aおよび位相シフタ80bを通過して出力される光の位相の差をそれぞれ変化させる第2調整素子を備えている場合には、受信可能な光の方向を2次元的に変化させることができる。
例えば図106に示す光スキャンデバイス100における光源130を受信回路に置換した光受信デバイスを構成することができる。導波路アレイ10Aに波長λの光が入射すると、その光は位相シフタアレイ80Aを通じて光分岐器90へ送られ、最終的に一箇所に集められ、受信回路に送られる。その一箇所に集められた光の強度は、光受信デバイスの感度を表すといえる。光受信デバイスの感度は、導波路アレイおよび位相シフタアレイ80Aに別々に組み込まれた調整素子によって調整することができる。光受信デバイスでは、例えば図31において、波数ベクトル(図中の太い矢印)の方向が反対になる。入射光は、導波路素子10が延びる方向(図中のX方向)の光成分と、導波路素子10の配列方向(図中のY方向)の光成分とを有している。X方向の光成分の感度は、導波路アレイ10Aに組み込まれた調整素子によって調整できる。一方、導波路素子10の配列方向の光成分の感度は、位相シフタアレイ80Aに組み込まれた調整素子によって調整できる。光受信デバイスの感度が最大になるときの光の位相差Δφ、光導波層20の屈折率nwおよび厚さdから、θおよびα0(式(12)および式(13))がわかる。このため、光の入射方向を特定することができる。
上述した実施形態および変形例は、適宜、組み合わせることができる。例えば、図10から図26を参照して説明した光デバイスの構成は、他の何れの実施形態におけるアレイ構造と組み合わせてもよい。