以下、図面を参照して、第一及び第二の実施形態の多針ミシン(以下、単にミシンという)1を順に説明する。図1及び図2を参照して、第一及び第二実施形態に共通するミシン1、及び刺繍枠5の物理的構成について説明する。以下の説明では、図1の上側、下側、左斜め下側、右斜め上側、左斜め上側、右斜め下側を各々、ミシン1及び刺繍枠5の上側、下側、前側、後ろ側、左側、右側とする。
図1及び図2に示すように、ミシン1は、支持部2と、脚柱部3と、アーム部4とを備える。支持部2は、ミシン1全体を支持する。脚柱部3は、支持部2の後端部から上方へ立設されている。アーム部4は、脚柱部3の上端部から前方に延びる。アーム部4の先端部46には、針棒ケース21が左右方向に移動可能に装着されている。針棒ケース21の内部には、上下方向に伸びる10本の針棒31が左右方向に等間隔で配置されている。各針棒31には、個々の針棒31を識別するための針棒番号が付与されている。本実施形態では、ミシン1の右側から順に針棒番号1番から10番が付与されている。10本の針棒31のうち、駆動位置にある1本の針棒(駆動針棒)が、針棒駆動機構32(図4参照)によって上下動される。針棒31の下端には、縫針35が装着可能である。押え足24は、押え棒の下端に装着され、後述の針板27の上方に位置する。押え足24は、押え棒とともに、押え足24が被縫製物C(図6参照)を押える下降位置と、下降位置から上方に退避した(被縫製物Cから離れた)上昇位置との間で移動可能である。押え足24は、針棒31の上下動と連動して、間欠的に被縫製物Cを下方へ押圧する。被縫製物Cは、例えば、加工布である。針棒ケース21の右側面下部には、カバー37が設けられている。カバー37の内側には、撮影装置39(図4参照)が取り付けられている。撮影装置39は、周知のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサである。撮影装置39のレンズは、カバー37の下方に向けられている。
アーム部4の下方には、脚柱部3の下端部から前方へ延びる筒状のシリンダベッド10が設けられている。シリンダベッド10の先端部の内部には、釜(図示略)が設けられている。釜は、下糸(図示略)が巻回されたボビン(図示略)を収納する。シリンダベッド10の内部には、釜駆動機構(図示略)がある。釜駆動機構は、釜を回転駆動する。シリンダベッド10の上面には、平面視矩形の針板27がある。針板27には、縫針35(図2参照)が挿通する針穴16が設けられている。10本の針棒31のうち、針穴16の直上である駆動位置に位置している針棒31が駆動針棒である。
アーム部4の下方には、移動機構11(図4参照)のYキャリッジ26が設けられている。移動機構11は、ホルダ25、Xモータ132(図4参照)、Yモータ134(図4参照)、Yキャリッジ26、及びXキャリッジ(図示略)を備える。ホルダ25は、刺繍枠5を含む複数種類の刺繍枠の内の一つを取り外し可能に支持する。移動機構11は、Xモータ132及びYモータ134を駆動源として、ホルダ25に装着された刺繍枠5を、固有のXY座標系(刺繍座標系)で示される位置に移動可能である。刺繍座標系のX方向、Y方向は各々、左右方向、前後方向に対応する。
刺繍枠5は、被縫製物Cを保持する。刺繍枠5は、枠部材51と、左右一対の取付部材52、前後一対の取付部材53、前後一対の取付部材54、及び前後一対の取付部材55とで被縫製物Cを上下に挟んで磁力で保持する。枠部材51は上面に磁性体を有し、左右方向に長い矩形枠状である。枠部材51は、枠部材51の後辺部の、左右方向の中心部に装着部56を備える。装着部56は、ミシン1のホルダ25に取り外し可能に装着される。左右一対の取付部材52、前後一対の取付部材53、前後一対の取付部材54、及び前後一対の取付部材55は各々磁石を有する。左右一対の取付部材53は各々、枠部材51の左辺部及び右辺部に取り付けられる。前後一対の取付部材53は各々、枠部材51の前辺左側部及び後辺左側部に取り付けられる。前後一対の取付部材54は各々、枠部材51の前辺中央部及び後辺中央部に取り付けられる。前後一対の取付部材55は各々、枠部材51の前辺右側部及び後辺右側部に取り付けられる。
図1に示すように、アーム部4には、操作部6が設けられる。操作部6は、LCD7、タッチパネル8、及びスタート/ストップスイッチ9を備える。タッチパネル8は、LCD7の表面に設けられる。ユーザは、指又はスタイラスペンを用いてタッチパネル8の押圧操作を行う(以下、この操作を「パネル操作」と言う)。ミシン1では、タッチパネル8により検知される押圧位置に対応して、どの項目が選択されたかが認識される。ユーザは、タッチパネル8を用いて、LCD7に表示された処理を実行する指示の入力、模様の選択、及び各種パラメータの設定等を行うことができる。スタート/ストップスイッチ9は、縫製の開始又は停止を指示する際に使用される。アーム部4の上面の背面側には、左右一対の糸駒台12が設けられる。各糸駒台12には、複数の糸立棒14が設けられる。糸立棒14は、糸駒13を支持する。上糸15は、糸駒台12に設置された糸駒13から供給される。上糸15は、糸道経路を経由して、針棒31の下端に装着された各縫針の目孔38(図2参照)に供給される。糸道経路は、糸案内17と、糸調子器18と、天秤19とを含む。
図4を参照して、ミシン1の制御全般を司る電気的構成について説明する。図4に示すように、ミシン1は、検出器34と、撮影装置39と、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、制御部80とを備える。
縫針駆動部120は、駆動回路121、123と、主軸モータ122と、針棒ケース用モータ45と、エンコーダ28とを備える。主軸モータ122は、針棒駆動機構32を駆動し、駆動針棒を上下方向に往復移動させる。駆動回路121は、制御部80からの制御信号に従って主軸モータ122を駆動する。針棒ケース用モータ45は、針棒ケース21を左右方向に移動させる。駆動回路123は、制御部80からの制御信号に従って針棒ケース用モータ45を駆動する。エンコーダ28は針穴16に対する針棒ケース21の位置に応じた検出結果を制御部80に出力する。
縫製対象駆動部130は、駆動回路131、133と、Xモータ132と、Yモータ134とを備える。Xモータ132は、移動機構11のホルダ25を左右方向に移動させる。駆動回路131は、制御部80からの制御信号に従ってXモータ132を駆動する。Yモータ134は、移動機構11のホルダ25を前後方向に移動させる。駆動回路133は、制御部80からの制御信号に従ってYモータ134を駆動する。操作部6は、タッチパネル8と、駆動回路135と、LCD7と、スタート/ストップスイッチ9を備える。駆動回路135は、制御部80からの制御信号に従ってLCD7を駆動する。
制御部80は、CPU81と、ROM82と、RAM83と、フラッシュメモリ84と、入出力インターフェイス(I/O)86とを備え、これらはバス85によって相互に接続されている。I/O86には更に、検出器34と、撮影装置39と、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6とが接続されている。CPU81は、ミシン1の主制御を司る。CPU81は、ROM82のプログラム記憶エリア(図示略)に記憶された各種プログラムに従って、縫製に関わる各種演算及び処理を実行する。ROM82は、図示しないが、プログラム記憶エリアと、模様記憶エリアとを含む複数の記憶エリアを備える。プログラム記憶エリアには、メインプログラムを含む、ミシン1を動作させるための各種プログラムが記憶されている。メインプログラムは、後述するメイン処理を実行するためのプログラムである。模様記憶エリアには、刺繍データが記憶されている。RAM83は、任意に読み書き可能な記憶素子である。RAM83は、CPU81が演算処理した演算結果等を収容する記憶エリアを必要に応じて備える。フラッシュメモリ84は、読み書き可能な記憶素子である。フラッシュメモリ84は、テーブル87を含む各種設定値を記憶する。
テーブル87は刺繍枠の種類、大きさ、撮影位置X座標、退避Y座標、及び退避X座標を対応付けて記憶する。刺繍枠の種類は、ホルダ25に装着可能な刺繍枠の種類を識別する情報である。大きさは、刺繍枠の内側に設定される縫製領域の大きさを刺繍座標系のX方向長さ、Y方向長さで表す。撮影位置X座標は、針棒ケース21の左右方向の位置が撮影位置である場合の、刺繍座標系で表される退避位置のX座標である。退避位置は、ユーザが刺繍枠に関わる作業を行うのに適した刺繍座標系で表されるホルダ25の位置である。撮影位置は、針穴16の上方に撮影装置39が配置される位置である。本例の制御部80は、撮影装置39が針穴16の上方に位置した撮影位置にある期間に撮影装置39に撮影を実行させ、撮影装置39が撮影位置以外の位置にある期間には撮影装置39に撮影を実行させない。退避Y座標は、刺繍座標系で表される退避位置のY座標である。退避X座標は、刺繍座標系で表される退避位置のX座標である。退避X座標が記憶されていない刺繍枠は、針棒ケース21の左右方向の位置に応じて退避X座標が設定される特定種類の刺繍枠である。
図1から図3を参照して、刺繍枠5に保持された被縫製物Cに縫目を形成する動作について説明する。被縫製物Cを保持した刺繍枠5は、移動機構11のホルダ25に支持される。針棒ケース21が左右に移動することで、10本の針棒31のうち1本が駆動針棒として選択される。移動機構11によって、刺繍枠5が所定の位置に移動される。針棒駆動機構32及び天秤駆動機構は、主軸モータ122を駆動源として、選択された針棒31及びそれに対応する天秤19が上下駆動される。また釜駆動機構は、主軸モータ122を駆動源として駆動され、釜が回転駆動される。このように、縫針35と天秤19と釜とが同期して駆動され、被縫製物Cに縫目が形成される。
図5から図9を参照して、第一実施形態のメイン処理について説明する。メイン処理は、ミシン1の電源がONにされた場合に起動される。メイン処理では、ユーザが入力した指示に従い、刺繍枠5が保持する被縫製物Cに刺繍模様を縫製する処理が実行される。図5のフローチャートに示す各処理を実行させるプログラムは、図4に示すROM82に記憶されており、CPU81が実行する。
図5に示すように、CPU81は初期化処理を行う(S1)。CPU81は、初期化処理で、例えば針棒ケース用モータ45を駆動し、針棒ケース21を針棒ケース21の原点位置に移動する。針棒ケース21の原点位置は、例えば針棒番号1番が駆動針棒となる位置であり、CPU81は針棒ケース21を針棒ケース21の原点位置に移動後、並設方向における基準に対する針棒ケース21の位置に駆動針棒の針棒番号である1を設定し、RAM83に記憶する。並設方向は、複数の針棒31が並設された方向であり、本例では左右方向である。基準は、ミシン1が有する部材の内、針棒ケース21と共に移動しない部材の中から適宜選択される。本例の基準は、針穴16である。CPU81は、例えば、針穴16に対する針棒ケース21の位置が、針穴16の上方に針棒31が配置された位置である場合、駆動針棒31の針棒番号を特定することで、並設方向における基準に対する針棒ケース21の位置を特定する。CPU81は選択画面をLCD7に表示させる(S2)。選択画面は、ミシン1に実行可能な処理の一覧を表示する。処理の一覧は、例えば、枠模様の縫製処理、撮影処理、撮影終了処理、枠退避処理、及びその他の処理を含む。枠模様は、矩形状のパッチワークキルトの外周に配置される矩形枠状の縁部に施される矩形枠状の刺繍模様である。枠模様を縫製するための刺繍データは予めフラッシュメモリ84等の記憶装置に記憶されていてもよいし、ユーザの指示に従い生成されてもよいし、外部機器から取得されてもよい。撮影処理は、撮影装置39を撮影位置に配置し、刺繍枠5が保持する被縫製物Cを撮影する処理である。撮影終了処理は、撮影処理を終了する処理である。枠退避処理は、刺繍枠5を退避位置に移動させる処理である。本例のCPU81は刺繍枠5の種類に応じて退避位置の設定方法を変更する。その他の処理は、例えば、枠模様以外の刺繍模様の縫製処理を含む。ユーザはS2で表示された選択画面の中から所望の処理を選択し、パネル操作により当該処理を実行するための指示を入力する。
CPU81は枠模様の縫製処理を開始する枠模様縫製指示を検出したかを判断する(S3)。枠模様縫製指示が検出されていない場合(S3:NO)、CPU81は撮影処理を開始する撮影指示を検出したかを判断する(S12)。撮影指示が検出された場合(S12:YES)、CPU81は針棒ケース用モータ45を駆動して針棒ケース21を撮影位置に移動する(S13)。CPU81は基準に対する針棒ケース21の位置に撮影位置を設定し、RAM83に記憶する。CPU81は撮影装置39を制御して、撮影装置39による撮影を開始させる(S14)。CPU81は撮影装置39から出力される画像データに基づき、被縫製物Cを表す画像をLCD7に表示してもよい。CPU81は、撮影を開始した後、撮影終了処理を実行する撮影終了指示を検出したかを判断する(S15)。CPU81は撮影終了指示を検出する迄S15の処理を継続する(S15:NO)。撮影終了指示が検出された場合(S15:YES)、CPU81は撮影装置39を制御して、S14で開始した撮影処理を終了させる(S16)。撮影指示が検出されない場合(S12:NO)、CPU81は枠退避処理を実行する退避指示を検出したかを判断する(S17)。退避指示が検出された時(S17:YES)、CPU81は枠退避処理を実行する(S18)。
図7に示すように、CPU81はホルダ25に装着された刺繍枠5の情報を取得する(S31)。ホルダ25に装着された刺繍枠5の情報は、例えば、刺繍枠の種類、刺繍枠の大きさ、及び刺繍枠の内側に設定される縫製領域の大きさの少なくとも何れかである。刺繍枠5の情報は、検出器34の検出結果に基づき取得されてもよいし、ユーザからの入力結果に基づき取得されてもよい。第一実施形態の刺繍枠の情報は刺繍枠の種類であり、具体例では刺繍枠5の種類としてF1が取得される。CPU81はS31で取得された刺繍枠の情報に基づき、刺繍枠が特定種類の刺繍枠かを判断する(S32)。CPU81は例えば図4のテーブル87の退避X座標に座標が記憶されていない場合に特定種類の刺繍枠と判断し、退避X座標が記憶されている場合特定種類の刺繍枠ではないと判断する。例えば、ホルダ25に装着された刺繍枠の種類がF2である場合、CPU81はホルダ25に装着された刺繍枠は特定種類の刺繍枠ではないと判断し(S32:NO)、フラッシュメモリ84のテーブル87を参照し、S31で取得された刺繍枠の種類に応じた位置(x2,Y2)を退避位置に設定し(S37)、後述のS38の処理を行う。
具体例では、CPU81は、ホルダ25に装着された刺繍枠5の種類はF1であり、特定種類の刺繍枠であると判断し(S32:YES)、並設方向における針棒ケース21の位置を特定する(S33)。CPU81は並設方向における基準に対する針棒ケース21の位置を特定する。CPU81は、針穴16に対する針棒ケース21の位置が、針穴16の上方に撮影装置39が配置された位置である場合、並設方向における基準に対する針棒ケース21の位置として、例えば、エンコーダ28の出力に基づき設定され、RAM83に記憶された撮影位置を特定する。
CPU81はS33で特定された針棒ケース21の位置が撮影位置かを判断する(S34)。図8(B)に示すように、S33で特定された針棒ケース21の位置が撮影位置である時(S34:YES)、CPU81は退避位置に針穴16に対して並設中心側にホルダ中心M2が配置される所定位置(X1,Y1)を設定する(S35)。並設中心側は、並設方向の内、並設方向の一方側であり、具体的には、針穴16に対して並設中心M1が位置する側である。並設中心M1は、針穴16に対して複数の針棒31の内の並設方向の両端の二つの針棒31の間隔の中心である。図8では並設方向における針穴16の位置を仮想線Zで示す。図8(B)の例では並設中心側は左側である。本例の所定位置は、並設方向において、並設中心M1と、ホルダ中心M2及び枠中心M3とが一致する位置であり、所定位置のX座標、Y座標は各々、テーブル87が記憶する撮影位置X座標、退避Y座標である。ホルダ中心M2はホルダ25の並設方向の延設範囲の中心である。枠中心M3はホルダ25に装着された刺繍枠5の並設方向の延設範囲の中心である。本例ではホルダ中心M2と枠中心M3とは一致するが、両者は互いに異なっていても良い。
図8(A)、図8(C)、図8(D)に示すように、S33で特定された針棒ケース21の位置が撮影位置ではない時(S34:NO)、CPU81はS33で特定された並設方向における針棒ケース21の位置に基づき、ホルダ25の退避位置を設定する(S36)。本例のCPU81は以下の四条件を全て満たす位置を、退避位置として設定する。一つ目の条件は、針穴16に対して並設中心側にホルダ25の並設方向の中心であるホルダ中心M2が配置される位置を退避位置として設定する条件である。図8(A)、図8(D)に示す例では、並設中心側は、右方である。図8(C)に示す例では、並設中心側は、左方である。二つ目の条件は、針穴16に対して並設中心側にホルダ中心M2が位置し、且つ並設方向において、針穴16と並設中心M1との距離が長くなるほど、針穴16とホルダ中心M2との距離が長い距離となる位置を退避位置として設定する条件である。三つ目の条件は、針穴16に対して並設中心側にホルダ25に装着された刺繍枠5の並設方向の中心である枠中心M3が配置される位置を退避位置に設定する条件である。四つ目の条件は、ホルダ25に装着された刺繍枠5の並設中心側の端部が、複数の針棒31の内の最も並設中心側の針棒31よりも、並設中心側となる位置を退避位置として設定する条件である。退避位置は刺繍座標系の座標で表される。CPU81は計算により、退避位置のX座標を設定し、テーブル87を参照し刺繍枠の種類に応じた退避位置のY座標を設定する。S33で特定された駆動針棒の針棒番号をK、隣合う針棒31との間隔に応じた定数をCとする時、CPU81は、例えば、((K-5)×C,Y1)を退避位置に設定する。((K-5)×C,Y1)で表される位置は、並設方向において、並設中心M1と、ホルダ中心M2及び枠中心M3とが一致する位置である。
CPU81は針棒ケース21の現在位置を移動位置に設定し、RAM83に記憶する(S38)。移動位置は、退避位置移動後に移動指示が検出された場合にホルダ25を移動させる位置である。移動位置は、例えば刺繍座標系の座標で表される。CPU81はXモータ132、Yモータ134を駆動し、ホルダ25をS35、S36又はS37で設定された退避位置に移動させる(S39)。図8(A)から図8(D)に示す例では各々、CPU81は、刺繍枠5を図8(E)から図8(H)に示す位置に移動する。図8(E)から図8(H)で示される退避位置は互いに異なる位置である。図8(E)から図8(H)で示す退避位置は、上記四条件を全て満たす。刺繍枠5が図8(E)から図8(H)で示す退避位置に配置された場合、ホルダ中心M2(枠中心M3)の並設方向の位置は針穴16の並設方向の位置と一致せず、並設方向において、刺繍枠5の並設中心側(並設方向の一方側)の端部と針穴16との距離V1は、刺繍枠5の並設中心側とは反対側(並設方向の他方側)の端部と針穴16との距離V2よりも長い。同様に、退避位置は、ホルダ25の並設中心側の端部と針穴16との距離は、ホルダ25の並設中心側とは反対側の端部と針穴16との距離よりも長い。
CPU81は、ホルダ25を退避位置に移動する処理が完了したことを報知する(S40)。CPU81は例えば、退避位置に移動する処理が完了したことを示し、刺繍枠5に関する作業を行うことをユーザに促すメッセージをLCD7に表示する。CPU81は移動指示を検出したかを判断する(S41)。ユーザはS38で設定された移動位置に移動させる時、パネル操作により移動指示を入力する。CPU81は移動指示が検出されるまでS41の処理を継続する(S41:NO)。移動指示が検出された場合(S41:YES)、CPU81はXモータ132、Yモータ134を駆動し、ホルダ25をS38で設定された移動位置まで移動させる(S42)。CPU81は以上で枠退避処理を終了し、処理をS5のメイン処理に戻す。
退避指示が検出されない場合(S17:NO)、CPU81はその他の処理を実行するためのその他の指示を検出したかを判断する(S19)。その他の指示が検出された場合(S19:YES)、CPU81は検出された指示に応じた処理を実行する(S20)。その他の指示が検出されない場合(S19:NO)、又はS16、S18、若しくはS20の次に、CPU81はメイン処理を終了する終了指示を検出したかを判断する(S21)。終了指示が検出されない場合(S21:NO)、CPU81は処理をS2に戻す。終了指示が検出された場合(S21:YES)、CPU81は以上でメイン処理を終了する。
枠模様縫製指示が検出された場合(S3:YES)、CPU81は、ホルダ25に装着された刺繍枠5の種類及び刺繍枠5の種類に応じて刺繍枠5の内側に設定される縫製領域Rの大きさを取得する(S4)。CPU81は、例えば、検出器34の出力値に基づき刺繍枠5の種類を取得し、取得された刺繍枠5の種類とフラッシュメモリ84に記憶された刺繍枠5の種類及び縫製領域Rの大きさとの対応とに基づき、縫製領域Rの大きさを取得する。刺繍枠5の種類及び縫製領域Rの大きさの取得方法は適宜変更されてよく、例えばユーザが入力した値が取得されてもよい。図6に示す刺繍枠5の縫製領域Rは刺繍座標系のX方向及びY方向に延びる辺を有する矩形状であり、縫製領域Rの大きさは、刺繍座標系のX方向の長さL1と、Y方向の長さW1とで表される。
CPU81はユーザが指定した枠模様を縫製するための刺繍データを取得する(S5)。具体例ではCPU81は枠模様60を縫製するための刺繍データEを取得する。枠模様60は、四つの辺部61を有する矩形枠状の模様であり、枠模様60を構成する四つの辺部61の各々において模様Z1からZ3を平面視時計回りに順に繋げた、全体として一本の連続した線で表される模様である。刺繍データEは太線で示す模様Z1の模様データ、点線で示す模様Z2の模様データ、模様Z1よりも細い線で示す模様Z3の模様データを、辺部61の数に応じた数、即ち四組含む。枠模様60は縫製領域Rよりも大きく、模様Z1からZ3は縫製領域Rよりも小さい。ミシン1は、各辺部61の模様Z1からZ3に対して被縫製物Cに対する刺繍枠5の位置が互いに異なる縫製領域R1からR12を設定し、図6において、枠模様60の右上の模様Z1の点SPを縫製開始点とし、平面視時計回りに各辺部61の模様Z1からZ3を順に縫製することで、枠模様60を縫製する。
CPU81は刺繍データEに含まれる模様データを縫製順に読み出すための変数Nに1を設定する(S6)。CPU81はN番目の模様の縫製を開始する開始指示を検出したかを判断する(S7)。ユーザは刺繍枠5に対する被縫製物Cの配置をN番目の模様に対応する位置に設定したことを確認後、スタート/ストップスイッチ9を操作して縫製開始の開始指示を入力する。CPU81は開始指示を検出する迄S7の処理を継続する(S7:NO)。開始指示が検出された場合(S7:YES)、CPU81は縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130とを駆動して、模様データによって指示される色の糸が装着された針棒31を駆動針棒として被縫製物CにN番目の模様を縫製し、糸切断機構(図示略)を駆動して糸を切断する(S8)。CPU81はN番目の模様がS5で取得された刺繍データEによって縫製される縫製順序が最後の模様であるかを判断する(S9)。N番目の模様が縫製順序が最後の模様ではない場合(S9:NO)、CPU81は枠退避処理を実行する(S10)。CPU81は S10での枠退避処理で、ユーザが刺繍枠5に対する被縫製物Cの配置を変更する作業を行うことを考慮し、刺繍枠5を退避位置に移動させる処理を実行する。
S10で実行される枠退避処理は、S18で実行される枠退避処理と一部処理が異なる。図7に示すように、CPU81はホルダ25に装着された刺繍枠5の情報を取得する(S31)。S4で既に刺繍枠5の情報が取得されている場合、S31の処理は適宜省略してよい。CPU81はS31で取得された情報に基づき、刺繍枠5が特定種類の刺繍枠かを判断する(S32)。CPU81は、ホルダ25に装着された刺繍枠5は、特定種類の刺繍枠であると判断し(S32:YES)、並設方向における針棒ケース21の位置を特定する(S33)。
図8(A)、図8(C)、図8(D)の何れかに示すように、複数の針棒31の内の何れかが針穴16の上方に配置され、S33で特定された針棒ケース21の位置が撮影位置ではない時(S34:NO)、CPU81は刺繍座標系の座標((K-5)×C,Y1)で表される位置を設定する(S36)。S10で実行される枠退避処理ではCPU81は針棒ケース21の縫製順序が次の模様の模様データによって示される縫製開始位置を移動位置として設定し、RAM83に記憶する(S38)。CPU81はXモータ132、Yモータ134を駆動し、ホルダ25をS35、S36又はS37で設定された退避位置に移動させる(S39)。
S10で実行される枠退避処理では、CPU81は、刺繍枠5に対する被縫製物Cの配置を変更することを促すメッセージをLCD7に表示させる(S40)。変数Nが1である場合の模様Z1を縫製後にS10の処理が実行された場合、CPU81は例えば、図9に示す画面70をLCD7に表示させる。画面70は、欄71から73、図形74、キー75を含む。欄71は、刺繍枠5に対する被縫製物Cの配置を変更することを促すメッセージを表示する。欄72は、刺繍枠5に対する被縫製物Cの配置を変更する前の刺繍枠5に対する被縫製物Cの配置を示す図を表示する。欄73は、刺繍枠5に対する被縫製物Cの配置を変更した後の刺繍枠5に対する被縫製物Cの配置を示す図を表示する。図形74は、刺繍枠5に対する被縫製物Cの移動方向を矢印で示す。キー75は、刺繍枠5に対する被縫製物Cの配置を変更する作業後、刺繍枠5をS38で設定された移動位置に移動させる移動指示を入力する場合に操作される。ユーザはLCD7に表示されたメッセージを参照し、例えば、以下の手順で刺繍枠5に対する被縫製物Cの配置を変更する作業を行う。ユーザは、取付部材52から54を取り外し、取付部材55は取り付けたまま被縫製物Cを図形74で示される左方へスライドさせる。ユーザは、取付部材55が刺繍枠5の左側部に取り付けられていた取付部材53の位置まで被縫製物Cをスライドさせた状態で、取付部材52から54を枠部材51に取り付ける。この場合、取付部材52、54は、枠部材51に対する被縫製物Cの位置が変更される前に取り付けられていた位置に取り付けられ、取付部材53は、枠部材51に対する被縫製物Cの位置が変更される前に取付部材55が取り付けられていた位置に取り付けられる。枠模様60の一の辺部61に縫製される模様Z1からZ3の内、縫製順序が最後の模様Z3を縫製した後、縫製順序が次の辺部61に縫製される模様Z1からZ3の内、縫製順序が最初の模様Z1を縫製する前に実行される枠退避処理では、CPU81はS40で次のような画面を表示してもよい。CPU81は刺繍枠5に対し被縫製物Cを回転、移動させて、刺繍枠5に対する被縫製物Cの配置を変更するための画面をLCD7に表示する。ユーザは表示された画面を参照し、ユーザは、取付部材52から55を取り外し、被縫製物Cを回転、移動させ、取付部材52から55を枠部材51に取り付ける。
CPU81は移動指示を検出したかを判断する(S41)。ユーザは移動位置に移動させる時、パネル操作によりキー75を選択し、移動指示を入力する。CPU81は移動指示が検出される迄S41の処理を継続する(S41:NO)。移動指示が検出された場合(S41:YES)、CPU81はXモータ132、Yモータ134を駆動し、ホルダ25をS38で設定された移動位置まで移動させる(S42)。CPU81は以上で枠退避処理を終了し、処理をS5のメイン処理に戻す。CPU81は変数Nに1を加算し(S11)、処理をS7に戻す。N番目の模様が縫製順序が最後の模様である場合(S9:YES)、CPU81は終了指示を検出したかを判断する(S21)。終了指示が検出されていない場合(S21:NO)、CPU81は処理をS2に戻す。終了指示が検出された場合(S21:YES)、CPU81は以上でメイン処理を終了する。
図10及び図11を参照し、第二実施形態のメイン処理を説明する。第二実施形態のメイン処理は、S10及びS18で実行される枠退避処理において第一実施形態のメイン処理と異なり、S10及びS18以外の処理は第一実施形態のメイン処理と同様である。図10に示す第二実施形態の枠退避処理において、図7に示す第一実施形態の枠退避処理の処理と同様の処理には、同じステップ番号を付与している。第二実施形態の枠退避処理では、刺繍枠の種類が特定種類であるかによらず、同じ計算式を用いて計算により退避X座標を算出する。退避Y座標は、刺繍枠の種類に応じた座標が設定される。図10に示すように、第二実施形態の枠退避処理では、S31において、刺繍枠の情報として縫製領域Rの大きさを取得し、S32及びS37の処理を省略し、S36とS38との間にS51、S52の処理を行う点で第一実施形態の枠退避処理と互いに異なり、S31、S33からS36、及びS38からS42の処理は互いに同じである。第一実施形態の枠退避処理と同様の処理については説明を省略し、第一実施形態の枠退避処理と互いに異なる処理を説明する。CPU81は、S51では、S31で取得した縫製領域Rの大きさに基づき、S36で設定された退避位置に移動した場合、S33で特定された針棒ケース21の並設方向の位置に応じた駆動針棒の針落ち位置が縫製領域R内となるかを判断する(S51)。針落ち位置は、縫針35は被縫製物Cに刺さる被縫製物C上の位置である。針落ち位置は、並設方向において針穴16の位置と言い換えることもできる。駆動針棒の針落ち位置が縫製領域R内にない場合(S51:NO)、CPU81は刺繍枠5が退避位置に移動した場合の駆動針棒の針落ち点が縫製領域R内に収まる位置となるように退避X座標を変更する(S52)。CPU81は例えば、並設方向における退避位置を、駆動針棒31の針落ち位置が縫製領域Rの内の針穴16に対し並設中心側とは反対側の端部となる位置に設定する。駆動針棒の針落ち点が縫製領域R内にある場合(S51:YES)、又はS52の次に、CPU81は第一実施形態の枠退避処理と同様のS38の処理を実行する。
上記第一、第二実施形態のミシン1において、複数の針棒31、針板27、針穴16、針棒ケース21、針棒駆動機構32、針棒ケース移動機構33、ホルダ25、移動機構11及びCPU81は各々、本発明の複数の針棒、針板、針穴、針棒ケース、針棒駆動機構、針棒ケース移動機構、装着部、枠移動機構及び制御部の一例である。アーム部4、先端部46、操作部6、フラッシュメモリ84、撮影装置39は各々、本発明のアーム部、先端部、操作部、記憶装置、撮影装置の一例である。S33の処理は、本発明の特定処理の一例である。S35、S36の処理は、本発明の設定処理の一例である。S39の処理は、本発明の移動処理の一例である。S31の処理は、本発明の領域特定処理、種類取得処理の一例である。
上記第一、第二実施形態のミシン1は、複数の針棒31、針板27、針棒ケース21、針棒駆動機構32、針棒ケース移動機構33、ホルダ25、移動機構11及び制御部80を備える。複数の針棒31は、下端部に縫針35を装着可能であり、上下方向に交差する並設方向に並設される。針板27は、縫針35を挿通可能な針穴16を有する。針棒ケース21は、複数の針棒31を上下動可能に支持する。針棒駆動機構32は、複数の針棒31の内の、針穴16の上方の駆動位置に配置した駆動針棒31を上下動させる。針棒ケース移動機構33は、針穴16に対し針棒ケース21を並設方向に沿って移動させ、複数の針棒31の中の所定の針棒31を駆動位置に配置する。ホルダ25は、被縫製物Cを保持可能な刺繍枠5を取り外し可能に装着する。移動機構11は、ホルダ25を、上下方向と交差する前後方向、左右方向へ移動させる。制御部80は、針棒駆動機構32と、針棒ケース移動機構33と、移動機構11とを制御可能に構成される。CPU81は、ホルダ25を退避位置に移動させる退避指示を検出したことに応じて、並設方向における針棒ケース21の位置を特定する(S33)。CPU81は、特定された並設方向における針棒ケース21の位置に基づき、ホルダ25の退避位置を設定する(S35、S36)。CPU81は、移動機構11を制御し、設定された退避位置にホルダ25を移動させる(S39)。故にミシン1は、並設方向における針棒ケース21の位置に基づき、ホルダ25の退避位置を設定できる。ミシン1は並設方向における針棒ケース21の位置によらず所定位置を退避位置として設定する従来のミシンよりも、ホルダ25に装着された刺繍枠5に関わる作業を容易に行うことができる。
CPU81はS35、S36において、並設方向の内、針穴16に対して複数の針棒31の内の並設方向の両端の二つの針棒31の間隔の並設中心M1が位置する並設中心側に、針穴16に対してホルダ25の並設方向の中心であるホルダ中心M2が配置される位置を退避位置として設定する。故に多針ミシン1は、針穴16に対して並設中心側にホルダ中心M2が配置されない場合に比べ、針棒ケース21がホルダ25に装着された刺繍枠5に関わる作業の妨げとなる可能性を低減できる。
CPU81はS35、S36において、針穴16に対して並設中心側にホルダ中心M2が位置し、且つ並設方向において、針穴16と並設中心M1との距離が長くなるほど、針穴16とホルダ中心M2との距離が長い距離となる位置を退避位置として設定する。ミシン1は、並設方向における針穴16と並設中心M1との距離を考慮して、退避位置を設定できる。故にミシン1は、図8(C)、図8(D)に示すように、針棒ケース21が並設方向の並設中心側の端部にあるような場合でも、針棒ケース21がホルダ25に装着された刺繍枠5に関わる作業の妨げとなる可能性を従来に比べ低減できる。
CPU81はS35、S36において、並設方向の内、針穴16に対して複数の針棒31の内の並設方向の両端の二つの針棒31の間隔の中心M1が位置する並設中心側に、針穴16に対してホルダ25に装着された刺繍枠5の並設方向の中心である枠中心M3が配置される位置を退避位置として設定する。ミシン1は、針穴16に対する針棒ケース21の位置に基づき、針穴16に対して並設中心側に、針穴16に対して枠中心M3が配置される位置を退避位置として設定できる。故に多針ミシン1は、針棒ケース21がホルダ25に装着された刺繍枠5に関わる作業の妨げとなる可能性を従来に比べ低減できる。
CPU81はS35、S36において、並設方向において、ホルダ25に装着された刺繍枠5の並設中心側の端部が、複数の針棒31の内の最も並設中心側の針棒31よりも、並設中心側となる位置を退避位置として設定する。ミシン1は、並設方向における針穴16と並設中心との距離を考慮して、退避位置を設定できる。故に多針ミシン1は、針棒ケース21が並設方向の並設中心側の端部にあるような場合でも、針棒ケース21がホルダ25に装着された刺繍枠5に関わる作業の妨げとなる可能性を従来に比べ低減できる。
ミシン1は針棒ケース21に支持され、並設方向において複数の針棒31に隣接して配置された撮影装置39を備える。CPU81は、針棒ケース移動機構33を制御することで、撮影装置39を針穴16の上方に配置可能である(S13)。CPU81は、S31で特定された針穴16に対する針棒ケース21の位置が撮影装置39が針穴16の上方に配置された撮影位置である場合(S34:YES)、針穴16に対して並設中心側にホルダ中心M2が配置される所定位置を退避位置として設定する(S35)。ミシン1は、S33で特定された針穴16に対する針棒ケース21の位置が撮影装置が針穴16の上方に配置された位置である場合にも、針穴16に対する針棒ケース21の位置を考慮して退避位置を設定できる。ミシン1は、S33で特定された針穴16に対する針棒ケース21の位置が撮影位置である場合の退避位置を計算して設定する場合に比べ、退避位置を設定する処理を簡単にできる。
第二実施形態のミシン1は、刺繍枠5の種類と縫製可能な縫製領域Rとの対応関係を記憶するフラッシュメモリ84を備える。CPU81は、ホルダ25に装着された刺繍枠5に対応する縫製領域Rを取得する(S31)。CPU81は、S35又はS36で設定された退避位置にホルダ25を移動させた場合、駆動針棒31の針落ち位置が、取得された縫製領域Rに含まれるか判断する(S51)。CPU81は、駆動針棒31の針落ち位置が縫製領域Rに含まれないと判断された場合(S51:NO)、退避位置を、駆動針棒31の針落ち位置が縫製領域Rの内の針穴16に対し並設中心側とは反対側の端部となる位置に設定する(S52)。故にミシン1は、駆動針棒31の針落ち位置が縫製領域R内に含まれる位置を退避位置として設定できる。多針ミシン1は、駆動針棒31の針落ち位置が縫製領域R内に含まれない位置が退避位置として設定される場合に比べ、ホルダ25に装着された刺繍枠5に関わる作業時に、駆動針棒31が刺繍枠5を傷つける可能性を低減できる。
第一、第二実施形態のミシン1は、ユーザからの操作を受け付ける操作部6を備える。退避指示は、操作部6を介して入力される(S17)。故にミシン1は、操作部6を介してユーザからの退避指示が入力された場合に、針穴16に対する針棒ケース21の位置に応じた退避位置に移動できる。
第一、第二実施形態のミシン1は、複数の模様を縫製するための刺繍データに含まれる、次に縫製する模様があることを示す情報を退避指示として検出し(S9:NO)、枠退避処理を行う(S10)。ミシン1は、刺繍データに含まれる、次に縫製する模様があることを示す情報が読み出された場合に、針穴16に対する針棒ケース21の位置に応じた退避位置に移動できる。多針ミシン1は、刺繍枠5に対する被縫製物Cの位置を変更する作業を行うために、ユーザがミシン1に退避指示を入力する手間を省くことができる。
ミシン1は、刺繍枠5の種類と並設方向と上下方向とに直交する方向における退避位置との対応関係を記憶するフラッシュメモリ84を備える。CPU81は、ホルダ25に装着された刺繍枠5の種類を取得する(S31)。CPU81は、S31で取得された刺繍枠5の種類に応じて、並設方向と上下方向とに直交する前後方向における退避位置を設定する(S35、S36)。ミシン1は、ホルダ25に装着された刺繍枠5の大きさに応じて、並設方向と上下方向とに直交する前後方向における退避位置を設定できる。
本発明の多針ミシンは、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更が加えられてもよい。例えば、以下の変形が適宜加えられてもよい。
(A)ミシン1の構成は適宜変更してよい。ミシン1が備える針棒31の数、構成、及び配置は、適宜変更されてよい。ミシン1は、撮影装置39及び操作部6の少なくとも何れかを備えなくてもよいし、形状、配置、構成等は適宜変更されてよい。例えば、操作部6は、タッチパネル8の他、各種スイッチを備え、スイッチの操作に応じた指示を入力可能でもよい。
(B)図5のメイン処理を実行させるための指令を含むプログラムは、CPU81がプログラムを実行するまでに、ミシン1の記憶装置に記憶されればよい。従って、プログラムの取得方法、取得経路及びプログラムを記憶する機器の各々は、適宜変更してもよい。CPU81が実行するプログラムは、ケーブル又は無線通信を介して、他の装置から受信し、フラッシュメモリ等の記憶装置に記憶されてもよい。他の装置は、例えば、PC、及びネットワーク網を介して接続されるサーバを含む。
(C)ミシン1のメイン処理の各ステップは、制御部80によって実行される例に限定されず、一部又は全部が他の電子機器(例えば、ASIC)によって実行されてもよい。メイン処理の各ステップは、複数の電子機器(例えば、複数のCPU)によって分散処理されてもよい。メイン処理の各ステップは、必要に応じて順序の変更、ステップの省略、及び追加が可能である。ミシン1上で稼動しているオペレーティングシステム(OS)等が、CPU81からの指令に基づきメイン処理の一部又は全部を行う態様も、本開示の範囲に含まれる。例えば、メイン処理に以下の(C-1)から(C-4)の変更が適宜加えられてもよい。
(C-1)ミシン1は、針棒ケース21の並設方向の位置に応じて計算によりホルダ25の退避位置を算出してもよいし、針棒ケース21が移動可能な並設方向の複数の位置の各々について、ホルダ25の退避位置を記憶し、記憶された退避位置の中からS33で特定された針棒ケース21の位置に対応する退避位置を設定してもよい。この場合ミシン1は、テーブル87に替えて図11のテーブル88をフラッシュメモリ84に記憶しておき、CPU81はS33で針棒ケース21の位置として、駆動針棒を特定してもよい。テーブル88は針棒ケース21が移動可能な並設方向の複数の位置の各々について、ホルダ25の退避位置を記憶する。退避位置のX座標は、駆動針棒で示される針棒ケース21の位置に応じて記憶され、退避位置のY座標は、刺繍枠の種類に応じた座標が記憶される。CPU81は、駆動針棒と対応付けられた位置を退避位置として設定する(S36)。変形例のミシン1は、針穴16に対する針棒ケース21の位置に基づき、退避位置を計算する場合に比べ、退避位置を設定する処理を簡単にできる。
(C-2)退避位置の設定方法は適宜変更されてよい。退避位置は、並設中心M1と、ホルダ中心M2(枠中心M3)とが一致する位置でなくてもよい。ミシン1は、針棒ケース21を支持するアーム部4の先端部46の大きさを考慮して、退避位置を設定してもよい。アーム部4は、並設方向と上下方向とに直交する前後方向に延設され、内部に針棒ケース移動機構33と針棒駆動機構32とを有し、前後方向の先端部46に針棒ケース21を並設方向に移動可能に支持する。ホルダ25には刺繍枠5に比べ並設方向の長さが短い刺繍枠50が装着されている。この場合図7に示す枠退避処理では、CPU81は、ホルダ25に装着された刺繍枠50の大きさを取得し(S31)、針棒ケース21の位置が、図12(A)に示す、針棒番号が1の針棒が駆動針棒である位置として特定された場合(S33、S34:NO)、図12(B)に示すように、S31で取得された刺繍枠50の大きさに基づき、並設方向において、ホルダ25に装着された刺繍枠50の並設中心側とは反対側の端部が、アーム部4の延設方向の先端部46の並設中心側とは反対側の端部47よりも、並設中心側とは反対側となる位置を退避位置として設定してもよい(S36)。図12(B)の退避位置では、並設方向において、針穴16に対し並設中心側にホルダ中心M2及び枠中心M4があるが、並設中心M1と、ホルダ中心M2及び枠中心M4とは一致しない。このようにした場合、ミシン1は、アーム部4の延設方向の先端部46が、ホルダ25に装着された刺繍枠50に関わる作業の妨げとなる可能性を従来に比べ低減できる。
(C-3)CPU81は並設方向において針穴16とホルダ中心M2との距離と、針穴16と並設中心M1との距離とによらず、退避位置を設定してもよい。例えば、刺繍枠の並列方向の長さが針棒ケース21下端部の並設方向の長さに対して比較的小さい場合、枠中心M3と並設中心M1とが一致する位置が退避位置として設定されると、刺繍枠の並設方向の両端が針棒ケース21の並設方向の延設範囲に含まれる場合がある。このような場合、CPU81は図12(B)に示すように、S31で取得された刺繍枠50の大きさに基づき、並設方向において、ホルダ25に装着された刺繍枠50の並設中心側とは反対側の端部が、複数の針棒31の内の最も並設中心側とは反対側の針棒31よりも、並設中心側とは反対側となる位置を退避位置として設定してもよい(S36)。このようにした場合、ミシン1は、刺繍枠50の並設方向の少なくとも並設中心側とは反対側を操作しやすい位置を退避位置として設定でき、刺繍枠50に関わる作業の妨げとなる可能性を従来に比べ低減できる。
(C-4)ミシン1はS10、S18の何れかのみを実行してもよい。ミシン1は下糸切れ等の所定のエラー検出時に枠退避処理を実行してもよい。並設方向と直交する方向(Y方向、前後方向)の退避位置は、刺繍枠の種類に応じて設定されてもよいし、刺繍枠の種類によらず同じ位置が設定されてもよいし、退避位置に移動する前の現在位置が設定されてもよいし、針棒ケース21の位置に応じて異なる値が設定されてもよい。CPU81は、特定された並設方向における針棒ケース21の位置に基づき、装着部の退避位置を設定すればよい。CPU81は上記四条件の少なくとも何れかを満たす位置を退避位置として設定してもよいし、S33で特定された並設方向における針棒ケース21の位置に基づき、上記四条件とは別の条件を満たす位置を退避位置として設定してもよい。CPU81は並設方向における針棒ケース21の位置が所定条件を満たす場合のみ、上記四条件の少なくとも何れかを満たす位置を退避位置として設定し、所定条件を満たさない場合は、S37の処理と同様に刺繍枠の種類に応じた所定位置を設定してもよい。所定条件は、例えばS33で特定された並設方向における針棒ケース21の位置が並設中心M1に位置する針棒及び並設中心M1に隣接する針棒31が駆動針棒ではない位置である。CPU81は、枠退避処理が実行される条件に応じて退避位置の設定条件を変更してもよいし、ユーザが退避位置の条件を適宜設定できてもよい。CPU81は並設方向における針棒ケース21の位置が撮影位置である場合に、計算により退避位置を設定してもよい。