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JP7277731B2 - 2相ステンレス鋼及び2相ステンレス鋼の製造方法 - Google Patents

2相ステンレス鋼及び2相ステンレス鋼の製造方法 Download PDF

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JP7277731B2 JP2019091684A JP2019091684A JP7277731B2 JP 7277731 B2 JP7277731 B2 JP 7277731B2 JP 2019091684 A JP2019091684 A JP 2019091684A JP 2019091684 A JP2019091684 A JP 2019091684A JP 7277731 B2 JP7277731 B2 JP 7277731B2
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Description

本発明は、2相ステンレス鋼及び2相ステンレス鋼の製造方法に関する。
フェライト相及びオーステナイト相の2相組織を有する2相ステンレス鋼は、優れた耐食性を有することが知られている。2相ステンレス鋼は特に、塩化物を含有する水溶液中で問題となる、孔食及び/又はすきま腐食に対する耐食性(以下、「耐孔食性」という)が優れる。そのため2相ステンレス鋼は、海水等の塩化物を含む湿潤環境で広く用いられている。塩化物を含む湿潤環境において2相ステンレス鋼は、たとえば、フローラインパイプ、アンビリカルチューブ、及び、熱交換器等に用いられる。
近年、2相ステンレス鋼の使用環境における腐食条件は、ますます厳しくなってきている。そのため、2相ステンレス鋼には、さらに優れた耐孔食性が求められてきている。そこで、2相ステンレス鋼の耐孔食性をさらに高めるために、様々な技術が提案されている。
国際公開第2013/191208号(特許文献1)は、質量%で、Ni:3~8%、Cr:20~35%、Mo:0.01~4.0%、N:0.05~0.60%を含有し、Re:2.0%以下、Ga:2.0%以下、及び、Ge:2.0%以下から選択される1種以上をさらに含有することを特徴とする2相ステンレス鋼を開示する。特許文献1では、Re、Ga、又は、Geを2相ステンレス鋼に含有させることによって、孔食が発生する臨界電位(孔食電位)を上昇させ、耐孔食性及び耐すき間腐食性を高めている。
国際公開第2010/082395号(特許文献2)は、質量%で、Cr:20~35%、Ni:3~10%、Mo:0~6%、W:0~6%、Cu:0~3%、N:0.15~0.60%を含有する2相ステンレス鋼材を、熱間加工によりあるいはさらに固溶化熱処理することにより冷間加工用素管を作製した後、冷間圧延によって2相ステンレス鋼管を製造する方法を開示する。特許文献2の2相ステンレス鋼管の製造方法は、最終の冷間圧延工程における断面減少率での加工度Rd(=exp[{In(MYS)-In(14.5×Cr+48.3×Mo+20.7×W+6.9×N)}/0.195])が10~80%の範囲内で冷間圧延し、758.3~965.2MPaの最低降伏強度を有する2相ステンレス鋼管の製造方法であることを特徴とする。これにより、例えば油井やガス井に使用できる、炭酸ガス腐食環境や応力腐食環境においても優れた耐食性を発揮するとともに高い強度をも兼ね備えた2相ステンレス鋼管が得られる、と特許文献2に記載されている。
国際公開第2013/191208号 国際公開第2010/082395号
上述のとおり、近年、2相ステンレス鋼の使用環境における腐食条件は、ますます厳しくなってきている。したがって、特許文献1及び2に記載の技術以外の手段によって、優れた耐孔食性を示す2相ステンレス鋼が得られてもよい。
また、たとえば、上述のアンビリカルチューブでは、水深1000m以上のいわゆる深海で用いられる場合がある。このような場合、2相ステンレス鋼には、優れた耐孔食性だけでなく、優れた低温靭性も求められる。しかしながら、上記特許文献1及び2には、2相ステンレス鋼における低温靭性について、記載がない。
本開示の目的は、優れた耐孔食性と、優れた低温靭性とを有する2相ステンレス鋼、及び、その2相ステンレス鋼の製造方法を提供することである。
本開示による2相ステンレス鋼は、質量%で、Cr:27.0~29.0%、Mo:2.50~3.50%、Ni:5.00~8.00%、W:4.00~6.00%、Cu:0.01~0.10%未満、Co:0.01~1.20%、N:0.400%超~0.600%、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.50%以下、sol.Al:0.040%以下、V:0.50%以下、O:0.010%以下、P:0.030%以下、S:0.0200%以下、Ag:0~0.50%、及び、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する。本開示による2相ステンレス鋼は、ミクロ組織において、フェライト相内に析出したCuの面積率が0.1%以下である。
本開示による2相ステンレス鋼の製造方法は、準備工程と、熱間加工工程と、冷却工程と、溶体化熱処理工程とを備える。準備工程では、上述の化学組成を有する素材を準備する。熱間加工工程では、素材を、850℃以上で熱間加工する。冷却工程では、熱間加工後の素材を5℃/秒以上で冷却する。溶体化熱処理工程では、冷却した素材を、1070℃以上で溶体化熱処理する。
本開示による2相ステンレス鋼は、優れた耐孔食性と、優れた低温靭性とを有する。本開示による2相ステンレス鋼の製造方法は、上述の2相ステンレス鋼を製造できる。
本発明者らは、2相ステンレス鋼の耐孔食性と、低温靭性とを高める手法について調査及び検討を行った。本発明者らは、まず2相ステンレス鋼の低温靭性を高める手法について、調査及び検討を行った。その結果、次の知見を得た。
コバルト(Co)は、鋼に固溶して、2相ステンレス鋼の低温靭性を高める。そこで本発明者らは、2相ステンレス鋼に、質量%で、Coを0.01~1.20%含有させて、2相ステンレス鋼の低温靭性を高めることについて検討した。
具体的に、本発明者らは、質量%で、Coを0.01~1.20%含有する2相ステンレス鋼を種々製造し、その低温靭性と耐孔食性とを調査した。その結果、Coを0.01~1.20%含有する2相ステンレス鋼においても、優れた低温靭性が得られない場合があることを、本発明者らは知見した。より具体的に、実施例を参照して説明する。
表1は、後述する実施例における、試験番号3及び10の試験片の化学組成と、シャルピー衝撃試験の結果と、孔食試験の結果とを示す表である。表1の化学組成は、後述する表3から、試験番号3及び10に対応する、鋼種C及びJの化学組成について抜粋し、2段に分けて記載したものである。表1の化学組成は質量%で記載されており、残部はFe及び不純物である。
Figure 0007277731000001
表1に記載の吸収エネルギー(J)は、後述する実施例において、低温靭性の指標としてシャルピー衝撃試験によって得られた吸収エネルギーを、表4から抜粋したものである。表1に記載の孔食試験(85℃)は、後述する実施例における孔食試験のうち、85℃における塩化第二鉄腐食試験の結果を、後述する表4から抜粋したものである。なお、孔食試験(85℃)において優れた耐孔食性を示したものを「E」(Excellent)と評価した。一方、孔食試験(85℃)において優れた耐孔食性を示さなかったものを「NA」(Not Acceptable)と評価した。
表1を参照して、試験番号3の試験片のCo含有量は、試験番号10の試験片のCo含有量よりも低かった。しかしながら、試験番号3の試験片の吸収エネルギーは、試験番号10の試験片の吸収エネルギーと比較して、高くなった。上述のとおり、吸収エネルギーは、低温靭性の指標である。すなわち、2相ステンレス鋼の低温靭性を高める効果を有するCo含有量が低い試験番号3の方が、Co含有量が高い試験番号10よりも、優れた低温靭性を示した。
一方、表1を参照して、優れた低温靭性を示した試験番号3の試験片のCu含有量は、優れた低温靭性を示さなかった試験番号10の試験片のCu含有量よりも低かった。すなわち、Coを0.01~1.20%含有する2相ステンレス鋼において、Cuは低温靭性を低下させる効果を有する可能性がある。したがって、Coを0.01~1.20%含有し、さらに、Cu含有量を低減すれば、2相ステンレス鋼の低温靭性を高められる可能性があることを、本発明者らは知見した。
表1を参照してさらに、Cu含有量を低減した試験番号3の試験片の孔食試験(85℃)では、優れた耐孔食性を示した(表1中の「E」)。一方、Cu含有量が高い試験番号10の試験片の孔食試験(85℃)では、優れた耐孔食性を示さなかった(表1中の「NA」)。すなわち、Coを0.01~1.20%含有し、さらに、Cu含有量を低減させることによって、2相ステンレス鋼の低温靭性だけでなく、2相ステンレス鋼の耐孔食性も高められる可能性があることを、本発明者らは知見した。
一方、従来、Cr、Mo及びCuは、2相ステンレス鋼の耐孔食性の向上に有効であると考えられてきた。そのため、従来2相ステンレス鋼において、Cr、Mo及びCuは、耐孔食性を高める目的で積極的に含有されてきた。具体的に、Cr、Mo及びCuのうち、Cr及びMoが2相ステンレス鋼の耐孔食性を高めるメカニズムは、次のように考えられてきた。
Crは、酸化物として2相ステンレス鋼の表面の不働態被膜の主成分となる。不働態被膜は、腐食因子と2相ステンレス鋼の表面との接触を抑制する。その結果、不働態被膜が表面に形成された2相ステンレス鋼は、耐孔食性が高まる。Moは、不働態被膜に含有され、不働態被膜の耐孔食性をさらに高める。
一方、Cuが2相ステンレス鋼の耐孔食性を高めるメカニズムは、次のように考えられてきた。孔食が生じるまでには、次の2つのステップが存在すると考えられている。最初のステップは、孔食の発生(初期段階)である。次のステップは、孔食の進展(進展段階)である。従来、Cuは、孔食の進展を抑制する効果があると考えられてきた。特に、酸性溶液中においては、2相ステンレス鋼の表面に溶解速度が速い活性サイトが形成される。Cuは、その活性サイトを被覆して、2相ステンレス鋼の溶解を抑制する。これにより、Cuは2相ステンレス鋼の孔食の進展を抑制すると考えられてきた。
しかしながら、表1を参照して、試験番号3の試験片は、試験番号10の試験片よりも、Cr、Mo及びCuの含有量が全て低い。すなわち、従来の知見に基づけば、Cr、Mo及びCuの含有量が高い試験番号10の試験片の方が、試験番号3の試験片よりも優れた耐孔食性を有することが予想できる。しかしながら、従来の知見に基づく予想に反して、Cr、Mo及びCuの含有量が全て低い試験番号3の試験片の方が、試験番号10の試験片よりも、優れた耐孔食性を示した。
そこで本発明者らは、試験番号3及び10の試験片のミクロ組織に着目し、耐孔食性に影響を与える要因について、さらに詳細に調査した。その結果、優れた耐孔食性を示さなかった試験番号10の試験片は、優れた耐孔食性を示した試験番号3の試験片よりも、フェライト相内に析出したCuの面積率(フェライト相内のCu面積率という)が高いことが明らかになった。
すなわち、フェライト相内のCu面積率が、Coを0.01~1.20%含有する2相ステンレス鋼の耐孔食性及び低温靭性に影響を与える可能性があると、本発明者らは考えた。そこで本発明者らはさらに、フェライト相内に析出したCuが2相ステンレス鋼の低温靭性と耐孔食性とに与える影響について、詳細に調査及び検討した。
具体的に、本発明者らは、質量%で、Cr:27.0~29.0%、Mo:2.50~3.50%、Ni:5.00~8.00%、W:4.00~6.00%、Cu:0.01~0.10%未満、Co:0.01~1.20%、N:0.400%超~0.600%、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.50%以下、sol.Al:0.040%以下、V:0.50%以下、O:0.010%以下、P:0.030%以下、S:0.0200%以下、Ag:0~0.50%、及び、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する2相ステンレス鋼について、フェライト相内に析出したCuと、低温靭性と、耐孔食性とについて詳細に調査した。
表2は、後述する実施例における、試験番号7及び11~13の試験片の鋼種と、フェライト相内のCu面積率と、シャルピー衝撃試験の結果と、孔食試験(85℃)の結果とを示す表である。表2を参照して、試験番号7及び11~13の鋼種は全て、後述する表3に示される鋼種Gである。
Figure 0007277731000002
表2に記載のフェライト相内のCu面積率は、対応する試験番号のフェライト相内のCu面積率を、後述する表4から抜粋したものである。表2に記載の吸収エネルギー(J)は、後述する実施例において、低温靭性の指標としてシャルピー衝撃試験によって得られた吸収エネルギーを、表4から抜粋したものである。
表2に記載の孔食試験(85℃)は、後述する実施例における孔食試験のうち、85℃における塩化第二鉄腐食試験の結果を、後述する表4から抜粋したものである。なお、表1と同様に、孔食試験(85℃)において優れた耐孔食性を示したものを「E」、孔食試験(85℃)において優れた耐孔食性を示さなかったものを「NA」と評価した。
表2を参照して、試験番号7及び試験番号11~13の試験片は、同一の鋼種Gを用いており、化学組成が同一であった。一方、試験番号7の試験片は、フェライト相内のCu面積率が、試験番号11~13の試験片のフェライト相内のCu面積率よりも、低かった。
その結果、表2を参照して、試験番号7の試験片の孔食試験(85℃)では、優れた耐孔食性を示した(表1中の「E」)。一方、試験番号11~13の試験片の孔食試験(85℃)では、優れた耐孔食性を示さなかった(表1中の「NA」)。すなわち、試験番号7の試験片では、フェライト相内のCuの析出が低減された結果、試験番号11~13の試験片よりも優れた耐孔食性を有していた。
上述のとおり、従来、Cr、Mo及びCuの含有量を高めれば、耐孔食性が高まると考えられてきた。しかしながら、Cr、Mo及びCuの中でCuは、むしろ耐孔食性を低下させる可能性があることを本発明者らは初めて知見した。本発明者らはさらに、フェライト相内のCuの析出量を低減すれば、耐孔食性を高めることができるという、従来全く知られていない知見を得た。
フェライト相内に析出したCuが、2相ステンレス鋼の耐孔食性を低下させる詳細な理由は明らかになっていない。しかしながら、本発明者らは次のように考えている。フェライト相内に析出したCuは、不働態被膜の均一な形成を阻害している可能性がある。そのため、フェライト相内に析出したCu量が多い場合、不働態被膜による、腐食因子と2相ステンレス鋼の表面との接触を抑制する効果を低下させる可能性がある。その結果、2相ステンレス鋼の表面において、孔食が発生すると考えている。
表2を参照してさらに、試験番号7の試験片の吸収エネルギーは、試験番号11~13の試験片の吸収エネルギーよりも、大きくなった。すなわち、Cu面積率が小さい試験番号7の試験片は、Cu面積率が大きい試験番号11~13の試験片よりも、優れた耐孔食性だけでなく、優れた低温靭性も示した。
フェライト相内に析出したCuが、2相ステンレス鋼の低温靭性を低下させる詳細な理由についても、明らかになっていない。しかしながら、本発明者らは次のように考えている。フェライト相内に析出したCuは、析出強化により、フェライトを強化する。そのため、Cu面積率が高まった2相ステンレス鋼は、強度が高い可能性がある。その結果、強度と引き換えに低温靭性が低下した可能性がある。
すなわち、本実施形態による2相ステンレス鋼は、上述の化学組成を有し、さらに、ミクロ組織においてフェライト相内のCuの面積率が0.1%以下である。その結果、本実施形態による2相ステンレス鋼は、優れた耐孔食性と優れた低温靭性とを両立することができる。
以上の知見に基づき完成した本実施形態による2相ステンレス鋼は、質量%で、Cr:27.0~29.0%、Mo:2.50~3.50%、Ni:5.00~8.00%、W:4.00~6.00%、Cu:0.01~0.10%未満、Co:0.01~1.20%、N:0.400%超~0.600%、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.50%以下、sol.Al:0.040%以下、V:0.50%以下、O:0.010%以下、P:0.030%以下、S:0.0200%以下、Ag:0~0.50%、及び、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する。本開示による2相ステンレス鋼は、ミクロ組織において、フェライト相内に析出したCuの面積率が0.1%以下である。
上記化学組成は、Ag:0.01~0.50%含有してもよい。
本実施形態による2相ステンレス鋼の製造方法は、準備工程と、熱間加工工程と、冷却工程と、溶体化熱処理工程とを備える。準備工程では、上述の化学組成を有する素材を準備する。熱間加工工程では、素材を、850℃以上で熱間加工する。冷却工程では、熱間加工後の素材を5℃/秒以上で冷却する。溶体化熱処理工程では、冷却した素材を、1070℃以上で溶体化熱処理する。
以下、本実施形態による2相ステンレス鋼について詳述する。
[化学組成]
本実施形態による2相ステンレス鋼の化学組成は、次の元素を含有する。なお、特に断りが無い限り、元素に関する%は質量%を意味する。
[必須元素]
本実施形態による2相ステンレス鋼の化学組成は、次の元素を必須に含有する。
Cr:27.0~29.0%
クロム(Cr)は、酸化物として2相ステンレス鋼の表面に不働態被膜を形成する。不働態被膜は、腐食因子と2相ステンレス鋼の表面との接触を抑制する。その結果、2相ステンレス鋼の孔食の発生が抑制される。Crはさらに、2相ステンレス鋼のフェライト組織を得るために必要な元素である。十分なフェライト組織を得ることで、安定した耐孔食性が得られる。Cr含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Cr含有量は27.0~29.0%である。Cr含有量の好ましい下限は27.0%超であり、より好ましくは27.5%であり、さらに好ましくは28.0%である。Cr含有量の好ましい上限は28.5%である。
Mo:2.50~3.50%
モリブデン(Mo)は、不働態被膜に含有され、不働態被膜の耐食性をさらに高める。その結果、2相ステンレス鋼の耐孔食性を高める。Mo含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Mo含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の低温靭性が低下する。Mo含有量が高すぎればさらに、2相ステンレス鋼からなる鋼管を組立等する場合の加工性が低下する。したがって、Mo含有量は2.50~3.50%である。Mo含有量の好ましい下限は2.80%であり、より好ましくは3.00%である。Mo含有量の好ましい上限は3.30%である。
Ni:5.00~8.00%
ニッケル(Ni)は、オーステナイト安定化元素であり、フェライト・オーステナイトの2相組織を得るために必要な元素である。Niはさらに、2相ステンレス鋼の低温靭性を高める。Ni含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、フェライト相とオーステナイト相とのバランスが得られない。この場合、安定して2相ステンレス鋼を得られない。したがって、Ni含有量は5.00~8.00%である。Ni含有量の好ましい下限は5.50%であり、より好ましくは6.00%である。Ni含有量の好ましい上限は7.50%である。
W:4.00~6.00%
タングステン(W)は、Moと同様に不働態被膜に含有され、不働態被膜の耐食性をさらに高める。その結果、2相ステンレス鋼の孔食の発生を抑制する。W含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、W含有量が高すぎれば、σ相が析出し易くなり、鋼の低温靱性が低下する。したがって、W含有量は4.00~6.00%である。W含有量の好ましい下限は4.50%である。W含有量の好ましい上限は5.50%である。
Cu:0.01~0.10%未満
銅(Cu)は、孔食の進展(進展段階)を抑制するのに有効な元素である。Cu含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Cr、Mo及びCuの中で、Cuは、孔食の発生(初期段階)においては、耐孔食性を低下させる。したがって、本実施形態の2相ステンレス鋼は、従来の2相ステンレス鋼よりもCu含有量を低減する。その結果、フェライト相内のCuの析出を抑制し、2相ステンレス鋼の孔食の発生(初期段階)を抑制する。フェライト相内のCuの析出が抑制されればさらに、2相ステンレス鋼の強度が過度に高まることを抑制できる。その結果、2相ステンレス鋼の低温靭性が高まる。
Cu含有量が高すぎれば、フェライト相内のCu面積率が高くなり過ぎる。この場合、2相ステンレス鋼の耐孔食性が低下する。この場合さらに、2相ステンレス鋼の低温靭性が低下する。したがって、Cu含有量は0.01~0.10%未満である。Cu含有量の好ましい上限は0.09%であり、より好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.06%である。Cu含有量の好ましい下限は、0.01%超であり、より好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Co:0.01~1.20%
コバルト(Co)は、オーステナイトを安定化させる。Coはさらに、鋼に固溶して2相ステンレス鋼の低温靭性を高める。Coはさらに、Cuの固溶限を高め、フェライト相内のCuの析出を抑制する。Co含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Co含有量が高すぎれば、かえって2相ステンレス鋼の低温靭性が低下する。したがって、Co含有量は0.01~1.20%である。Co含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%超であり、さらに好ましくは0.17%である。Co含有量の好ましい上限は1.15%であり、より好ましくは1.10%であり、さらに好ましくは1.00%であり、さらに好ましくは0.95%である。
N:0.400%超~0.600%
窒素(N)は、オーステナイト安定化元素であり、フェライト・オーステナイトの2相組織を得るために必要な元素である。Nはさらに、2相ステンレス鋼の耐孔食性を高める。N含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、N含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の低温靱性が低下する。N含有量が高すぎればさらに、熱間加工性が低下する。したがって、N含有量は0.400%超~0.600%である。N含有量の好ましい下限は0.420%である。N含有量の好ましい上限は0.500%である。
C:0.030%以下
炭素(C)は不可避に含有される。すなわち、C含有量は0%超である。Cは結晶粒界にCr炭化物を形成し、粒界での腐食感受性を増大させる。したがって、C含有量は0.030%以下である。C含有量の好ましい上限は0.025%であり、より好ましくは0.020%である。C含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、C含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、C含有量の好ましい下限は0.001%であり、より好ましくは0.005%である。
Si:1.00%以下
シリコン(Si)は鋼を脱酸する。Siを脱酸剤として用いる場合、Si含有量は0%超である。一方、Si含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は1.00%以下である。Si含有量の好ましい上限は0.80%であり、より好ましくは0.70%である。Si含有量の下限は特に限定されないが、たとえば0.20%である。
Mn:1.50%以下
マンガン(Mn)は鋼を脱酸する。Mnを脱酸剤として用いる場合、Mn含有量は0%超である。一方、Mn含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Mn含有量は1.50%以下である。Mn含有量の好ましい上限は1.25%であり、より好ましくは1.10%である。Mn含有量の下限は特に限定されないが、たとえば0.20%である。
sol.Al:0.040%以下
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。Alを脱酸剤として用いる場合、Al含有量は0%超である。一方、Al含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Al含有量は0.040%以下である。Al含有量の好ましい上限は0.030%であり、より好ましくは0.025%である。Al含有量の下限は特に限定されないが、たとえば0.005%である。本実施形態において、Al含有量とは、酸可溶性Al(sol.Al)含有量を指す。
V:0.50%以下
バナジウム(V)は不可避に含有される。すなわち、V含有量は0%超である。V含有量が高すぎれば、フェライト相が過度に増加し、2相ステンレス鋼の靱性及び耐食性の低下が生じる場合がある。したがって、V含有量は0.50%以下である。V含有量の好ましい上限は0.40%であり、より好ましくは0.30%である。V含有量の下限は特に限定されないが、たとえば0.05%である。
O:0.010%以下
酸素(O)は不純物である。すなわち、O含有量は0%超である。Oは2相ステンレス鋼の熱間加工性を低下させる。したがって、O含有量は0.010%以下である。O含有量の好ましい上限は0.007%であり、より好ましくは0.005%である。O含有量はなるべく低いほうが好ましい。しかしながら、O含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、O含有量の好ましい下限は0.0001%であり、より好ましくは0.0005%である。
P:0.030%以下
燐(P)は不純物である。すなわち、P含有量は0%超である。Pは2相ステンレス鋼の耐孔食性及び靱性を低下させる。したがって、P含有量は0.030%以下である。P含有量の好ましい上限は0.025%であり、より好ましくは0.020%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、より好ましくは0.005%である。
S:0.0200%以下
硫黄(S)は不純物である。すなわち、S含有量は0%超である。Sは2相ステンレス鋼の熱間加工性を低下させる。したがって、S含有量は0.0200%以下である。S含有量の好ましい上限は0.0100%であり、より好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0030%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、より好ましくは0.0005%である。
本実施形態の2相ステンレス鋼の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、2相ステンレス鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態による2相ステンレス鋼に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素]
本実施形態による2相ステンレス鋼の化学組成は、次の元素を任意に含有してもよい。
Ag:0~0.50%
銀(Ag)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ag含有量は0%であってもよい。含有される場合、Agは2相ステンレス鋼に固溶して、酸性溶液中で2相ステンレス鋼の表面に形成された、活性サイトを被覆する。その結果、2相ステンレス鋼の耐孔食性を高める。Agがわずかでも含有されれば、この効果はある程度得られる。一方、Ag含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の熱間加工性が低下する。Ag含有量が高すぎればさらに、2相ステンレス鋼の低温靭性が低下する。したがって、Ag含有量は0~0.50%である。Ag含有量の好ましい下限は0.01%であり、より好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Ag含有量の好ましい上限は0.45%であり、より好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
[ミクロ組織]
本実施形態による2相ステンレス鋼のミクロ組織は、フェライト及びオーステナイトからなる。フェライト及びオーステナイトの体積分率は、特に限定されない。しかしながら、フェライト相の体積率(以下、フェライト分率ともいう)、又は、オーステナイト相の体積率(以下、オーステナイト分率ともいう)が低すぎれば、適切に元素分配が行われず2相ステンレス鋼の特性が得られない場合がある。したがって、フェライト分率は、たとえば、35~65%未満である。この場合、オーステナイト分率は、たとえば、35~65%未満である。
[フェライト分率の測定方法]
本実施形態において、2相ステンレス鋼のフェライト分率を求める場合、次の方法で求めることができる。2相ステンレス鋼からミクロ組織観察用の試験片を採取する。2相ステンレス鋼が鋼板であれば、鋼板の板幅方向に垂直な断面(以下、観察面という)を研磨する。2相ステンレス鋼が鋼管であれば、鋼管の軸方向と肉厚方向とを含む断面(観察面)を研磨する。2相ステンレス鋼が棒鋼又は線材であれば、棒鋼又は線材の軸方向を含む断面(観察面)を研磨する。次に、王水とグリセリンとの混合液を用いて、研磨後の観察面をエッチングする。
エッチングされた観察面を光学顕微鏡で10視野観察する。視野面積は、たとえば、2000μm2(倍率500倍)である。各観察視野において、フェライトと、その他の相とはコントラストから区別できる。そのため、コントラストから各観察におけるフェライトを特定する。特定されたフェライトの面積率を、JIS G0555(2003)に準拠した点算法で測定する。測定された面積率は、体積分率に等しいとして、これをフェライト分率(体積%)と定義する。
[フェライト相内のCu面積率について]
本実施形態による2相ステンレス鋼のフェライト相内に析出したCuの面積率は、0.1%以下である。上述のとおり、2相ステンレス鋼に含まれるCuは、2相ステンレス鋼の孔食の進展を抑制させると考えられている。そのため、本実施形態による2相ステンレス鋼では、Cuを0.01~0.10%未満含有させる。一方、Cuを0.01~0.10%未満含有する2相ステンレス鋼では、フェライト相内に金属Cuが析出する場合がある。
上述のとおり、フェライト相内に析出したCuは、不働態被膜による孔食の発生を抑制する効果を、低下させることが明らかになった。フェライト相内に析出したCuはさらに、2相ステンレス鋼の強度を高め、2相ステンレス鋼の低温靭性を低下させる。すなわち、フェライト相内に析出した金属Cuは、2相ステンレス鋼の耐孔食性及び低温靭性を低下させる。
そこで、本実施形態による2相ステンレス鋼は、フェライト相内のCu面積率を0.1%以下に低下させる。そのため、2相ステンレス鋼の孔食の発生が抑制され、さらに、2相ステンレス鋼の低温靭性の低下が抑制される。フェライト相内のCu面積率は低い程好ましい。フェライト相内のCu面積率の上限は、好ましくは0.1%未満である。フェライト相内のCu面積率の下限は0.0%である。
[フェライト相内のCu面積率の測定方法]
本明細書において、フェライト相内のCu面積率とは、2相ステンレス鋼のミクロ組織のうち、フェライト相内に析出したCuの、フェライト相に対する面積率を意味する。本実施形態において、フェライト相内のCu面積率は次の方法で測定できる。FIB-マイクロサンプリング法にて透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)観察用の薄膜試料を作製する。薄膜試料の作製には、集束イオンビーム加工装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、MI4050)を用いる。2相ステンレス鋼の任意の部分から、TEM観察用の薄膜試料を作製する。薄膜試料の作製には、Mo製メッシュ、表面保護膜としてカーボンデポ膜を使用する。
TEM観察には電解放出型透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJEM-2100F)を用いる。観察倍率は10000倍としてTEM観察を行う。視野内のフェライト相及びオーステナイト相とは、コントラストが異なる。そこで、コントラストに基づいて、結晶粒界を特定する。各結晶粒界に囲まれた領域の相を、X線回折法(XRD:X‐Ray Diffraction)により特定する。各結晶粒界に囲まれた領域のうち、フェライト相と特定された領域の面積を、画像解析によって求める。
観察視野に対して、エネルギー分散型X線分析法(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometry)による元素分析を行い、元素マップを生成する。さらに、析出物は、コントラストから特定できる。したがって、XRDによって特定されたフェライト相内における、コントラストに基づいて特定した析出物が、金属Cuであることは、EDSによって特定することができる。
特定されたフェライト相内に析出したCuの面積を、画像解析によって求める。フェライト相内に析出したCuの面積の合計を、フェライト相の面積の合計で除す。このようにして、フェライト相内のCu面積率(%)を測定する。
本実施形態による2相ステンレス鋼は、上述の化学組成、及び、フェライト相内Cu面積率を含むミクロ組織のいずれも満たす。そのため、本実施形態による2相ステンレス鋼は、優れた耐孔食性を有する。
[2相ステンレス鋼の形状]
本実施形態による2相ステンレス鋼の形状は、特に限定されない。2相ステンレス鋼はたとえば、鋼管であってもよいし、鋼板であってもよいし、棒鋼であってもよいし、線材であってもよい。
[製造方法]
本実施形態の2相ステンレス鋼は、たとえば次の方法で製造できる。製造方法は、準備工程と、熱間加工工程と、冷却工程と、溶体化熱処理工程とを備える。
[準備工程]
準備工程では、上述の化学組成を有する素材を準備する。素材は、連続鋳造法(ラウンドCCを含む)により製造された鋳片であってもよいし、鋳片から製造された鋼片でもよい。また、造塊法により製造されたインゴットを熱間加工して製造された鋼片でもよい。
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、上述の準備工程によって準備された素材を熱間加工して鋼材を製造する。具体的には、素材を加熱炉又は均熱炉に装入して加熱する。素材を加熱する温度は特に限定されないが、たとえば、1150~1300℃である。加熱された素材に対して、熱間加工を実施する。
熱間加工は、熱間鍛造であってもよく、熱間押出であってもよく、熱間圧延であってもよい。熱間押出を実施する場合、たとえば、ユジーン・セジュルネ法、又は、エルハルトプッシュベンチ法を実施してもよい。熱間圧延を実施する場合、たとえば、マンネスマン法による穿孔圧延を実施してもよい。なお、熱間加工は、1回のみ実施してもよく、複数回実施してもよい。たとえば、素材に対して、上述の穿孔圧延を実施した後、上述の熱間押出を実施してもよい。
本実施形態において、熱間加工を実施する際の素材の温度は、850℃以上である。具体的には、熱間加工終了時点における、鋼材の表面温度が850℃以上である。熱間加工終了時点の鋼材の表面温度が850℃未満の場合、フェライト相内にCuが多量に析出する。その結果、後述する溶体化処理によってもフェライト相内のCu面積率を十分に低減できない場合がある。この場合、2相ステンレス鋼の耐孔食性及び低温靭性が低下する。
したがって、熱間加工終了時点の鋼材の表面温度は、850℃以上である。熱間加工を複数回実施する場合、最終の熱間加工終了時点の鋼材の表面温度が850℃以上であればよい。最終の熱間加工終了時点の鋼材の表面温度が850℃以上であれば、熱間加工終了時点において、フェライト相内にCuが析出するのを抑制することができる。熱間加工終了時点の鋼材の表面温度の上限は特に限定されないが、たとえば、1300℃である。なお、本明細書において熱間加工終了時点とは、熱間加工終了後3秒以内を意味する。
[冷却工程]
冷却工程では、上述の熱間加工工程によって製造された鋼材を冷却する。本実施形態による冷却工程において、鋼材を冷却する際の冷却速度は5℃/秒以上である。上述の化学組成を有する2相ステンレス鋼において、フェライト相内にCuが析出し始める温度は、850℃付近である。そのため、熱間加工後の冷却速度が遅すぎれば、フェライト相内にCuが多量に析出する。その結果、後述する溶体化処理によってもフェライト相内のCu面積率を十分に低減できない場合がある。この場合、2相ステンレス鋼の耐孔食性及び低温靭性が低下する。
したがって、本実施形態による2相ステンレス鋼の製造方法において、熱間加工後の冷却速度は5℃/秒以上である。ここで、熱間加工を複数回実施する場合には、熱間加工後とは、最終の熱間加工後をいう。すなわち、本実施形態においては、最終の熱間加工後の素材を5℃/以上で冷却する。冷却速度の上限は特に限定されない。冷却方法はたとえば、空冷、水冷、油冷等である。
[溶体化熱処理工程]
溶体化熱処理工程では、上述の冷却工程によって冷却された鋼材に対して、溶体化熱処理を実施する。本実施形態において、溶体化熱処理の温度は1070℃以上である。本実施形態では、溶体化熱処理によって、フェライト相内に析出したCuを固溶させる。
熱間加工終了時点及び冷却後におけるフェライト相内のCu析出が十分に抑制された鋼材を、1070℃以上で溶体化熱処理することで、フェライト相内のCu面積率を0.1%以下にできる。溶体化熱処理温度の上限は特に限定されないが、たとえば、1150℃である。溶体化熱処理の処理時間は特に限定されないが、たとえば、1~30分である。
以上の工程により、本実施形態による2相ステンレス鋼が製造できる。なお、上述の2相ステンレス鋼の製造方法は、本実施形態による2相ステンレス鋼を得るための製造方法の一例である。すなわち、本実施形態による2相ステンレス鋼は、上述の製造方法以外の製造方法によって、製造されてもよい。
表3に示す化学組成を有する合金を50kgの真空溶解炉で溶製し、得られたインゴットを1200℃で加熱し、熱間鍛造及び熱間圧延を実施して厚さ10mmの鋼板に加工した。各試験番号の鋼板について、熱間圧延終了時点の表面温度(圧延終了時温度(℃))は、表4に記載のとおりであった。熱間加工後の各試験番号の鋼板を、表4に記載の圧延後冷却速度(℃/秒)で冷却した。冷却後の各試験番号の鋼板を、表4に記載の温度(溶体化処理温度(℃))で溶体化処理して、各試験番号の試験片を得た。
Figure 0007277731000003
Figure 0007277731000004
[フェライト分率測定試験]
各試験番号の試験片に対して、上述の方法でフェライト分率(体積%)を求めた。なお、各試験番号の試験片のミクロ組織の残部は、オーステナイト相であった。
[フェライト相内のCu面積率測定試験]
各試験番号の試験片に対して、上述の方法でフェライト相内のCu面積率(%)を求めた。求めた各試験番号のフェライト相内のCu面積率(%)を表4に示す。
[シャルピー衝撃試験]
各試験番号の試験片に対して、JIS Z 2242(2005)に準拠したシャルピー衝撃試験を実施し、低温靭性を評価した。具体的には、各試験番号の試験片の任意の部分から、幅10mm、高さ10mm、長さ55mmのVノッチ試験片を3本ずつ採取した。Vノッチ試験片の長手方向は、試験片の圧延方向に平行であった。採取したVノッチ試験片を-10℃に冷却して、JIS Z 2242(2005)に準拠したシャルピー衝撃試験を実施し、吸収エネルギー(J)を求めた。求めた吸収エネルギーの算術平均値を、吸収エネルギー(J)と定義した。
求めた各試験番号の吸収エネルギー(J)を表4に示す。なお、吸収エネルギーが80.0J以上であれば、優れた低温靭性を示すと判断した。一方、吸収エネルギーが80.0J未満であれば、優れた低温靭性を示さないと判断した。
[孔食試験]
各試験番号の試験片に対して、孔食試験として、JIS G 0578(2013)に準拠した塩化第二鉄腐食試験を実施した。具体的には、各試験番号の試験片を機械加工して、幅25mm、高さ30mm、厚さ2mmの孔食試験片を2個ずつ採取した。採取した孔食試験片のうち一方を、70±1℃に加熱した塩酸酸性の6%FeCl3水溶液中に24時間浸漬した。採取した孔食試験片のうちもう一方を、85±1℃に加熱した塩酸酸性の6%FeCl3水溶液中に24時間浸漬した。
腐食試験後の孔食試験片の表面を光学顕微鏡で観察し、孔食の有無を確認した。25μm以上の深さの孔食が確認された場合、孔食が発生した(表4中の「NA」)と判断した。一方、25μm以上の深さの孔食が確認されなかった場合、孔食が発生しなかった(表4中の「E」)と判断した。各試験番号の評価結果を表4に示す。
[評価結果]
表3及び表4を参照して、試験番号1~7の試験片は、化学組成が適切であり、かつ、フェライト相内のCu面積率が0.1%以下であった。その結果、試験番号1~7の試験片の吸収エネルギーは80.0(J)以上となり、優れた低温靭性を示した。試験番号1~7の試験片は、70℃の孔食試験と、85℃の孔食試験との両方において、優れた耐孔食性を示した。
一方、試験番号8の試験片では、Co含有量が低すぎた。その結果、吸収エネルギーが80.0(J)未満となり、優れた低温靭性を示さなかった。その結果さらに、85℃の孔食試験において、優れた耐孔食性を示さなかった。
試験番号9の試験片では、Co含有量が高すぎた。その結果、吸収エネルギーが80.0(J)未満となり、優れた低温靭性を示さなかった。
試験番号10の試験片では、Cu含有量が高すぎた。その結果、フェライト相内のCu面積率が0.1%を超えた。その結果、吸収エネルギーが80.0(J)未満となり、優れた低温靭性を示さなかった。その結果さらに、70℃の孔食試験と、85℃の孔食試験との両方において、優れた耐孔食性を示さなかった。
試験番号11の試験片では、圧延終了時の温度が低すぎた。その結果、フェライト相内のCu面積率が0.1%を超えた。その結果、吸収エネルギーが80.0(J)未満となり、優れた低温靭性を示さなかった。その結果さらに、70℃の孔食試験と、85℃の孔食試験との両方において、優れた耐孔食性を示さなかった。
試験番号12の試験片では、圧延後冷却速度が遅すぎた。その結果、フェライト相内のCu面積率が0.1%を超えた。その結果、吸収エネルギーが80.0(J)未満となり、優れた低温靭性を示さなかった。その結果さらに、70℃の孔食試験、及び、85℃の孔食試験のいずれについても、優れた耐孔食性を示さなかった。
試験番号13の試験片では、溶体化温度が低すぎた。その結果、フェライト相内のCu面積率が0.1%を超えた。その結果、吸収エネルギーが80.0(J)未満となり、優れた低温靭性を示さなかった。その結果さらに、70℃の孔食試験と、85℃の孔食試験との両方において、優れた耐孔食性を示さなかった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    Cr:27.0~29.0%、
    Mo:2.50~3.50%、
    Ni:5.00~8.00%、
    W:4.00~6.00%、
    Cu:0.01~0.10%未満、
    Co:0.01~1.20%、
    N:0.400%超~0.600%、
    C:0.030%以下、
    Si:1.00%以下、
    Mn:1.50%以下、
    sol.Al:0.040%以下、
    V:0.50%以下、
    O:0.010%以下、
    P:0.030%以下、
    S:0.0200%以下、
    Ag:0~0.50%、及び、
    残部はFe及び不純物からなる化学組成を有し、
    ミクロ組織において、フェライト相内に析出したCuの面積率が0.1%以下である、2相ステンレス鋼。
  2. 請求項1に記載の2相ステンレス鋼であって、前記化学組成は、
    Ag:0.01~0.50%を含有する、2相ステンレス鋼。
  3. 質量%で、
    Cr:27.0~29.0%、
    Mo:2.50~3.50%、
    Ni:5.00~8.00%、
    W:4.00~6.00%、
    Cu:0.01~0.10%未満、
    Co:0.01~1.20%、
    N:0.400%超~0.600%、
    C:0.030%以下、
    Si:1.00%以下、
    Mn:1.50%以下、
    sol.Al:0.040%以下、
    V:0.50%以下、
    O:0.010%以下、
    P:0.030%以下、
    S:0.0200%以下、
    Ag:0~0.50%、及び、
    残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する素材を準備する工程と、
    前記素材を、850℃以上で熱間加工する工程と、
    前記熱間加工後の前記素材を5℃/秒以上で冷却する工程と、
    前記冷却した前記素材を、1070℃以上で溶体化熱処理する工程とを備える、請求項1に記載の2相ステンレス鋼の製造方法。
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