以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態に係るモータ駆動装置、電気掃除機及び手乾燥機について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、以下では、電気的な接続と物理的な接続とを区別せずに、単に「接続」と称して説明する。
実施の形態.
図1は、実施の形態に係るモータ駆動装置2を含むモータ駆動システム1の構成図である。図1に示すモータ駆動システム1は、単相モータ12と、モータ駆動装置2と、バッテリ10と、電圧センサ20とを備える。
モータ駆動装置2は、単相モータ12に交流電力を供給して単相モータ12を駆動する。バッテリ10は、モータ駆動装置2に直流電力を供給する直流電源である。電圧センサ20は、バッテリ10からモータ駆動装置2に出力される直流電圧Vdcを検出する。
単相モータ12は、不図示の電動送風機を回転させる回転電機として利用される。単相モータ12及び当該電動送風機は、電気掃除機及び手乾燥機といった装置に搭載される。
なお、本実施の形態では電圧センサ20が直流電圧Vdcを検出しているが、電圧センサ20の検出対象は、バッテリ10から出力される直流電圧Vdcに限定されない。電圧センサ20の検出対象は、インバータ11から出力される交流電圧であるインバータ出力電圧でもよい。「インバータ出力電圧」はモータ駆動装置2の出力電圧であり、後述する「モータ印加電圧」と同義である。
モータ駆動装置2は、インバータ11と、電流検出部22と、制御部25と、駆動信号生成部32とを備える。インバータ11は、バッテリ10から供給される直流電力を交流電力に変換して単相モータ12に供給することで、単相モータ12を駆動する。なお、インバータ11は、単相インバータを想定しているが、単相モータ12を駆動できるものであればよい。また、図1には図示しないが、バッテリ10とインバータ11の間に、電圧安定化のためのコンデンサを挿入してもよい。
電流検出部22は、モータ電流Imを復元するための電流信号Ima、及び保護信号Spsを生成して出力する。なお、電流信号Imaについては、電流信号と記載しているが、電圧値に変換された電圧信号を用いてもよい。
制御部25には、電圧振幅指令V*と、電圧センサ20により検出された直流電圧Vdcと、電流検出部22により検出された電流信号Imaと、保護信号Spsと、動作モード信号Smsとが入力される。電圧振幅指令V*は、後述する電圧指令Vmの振幅値である。制御部25は、電圧振幅指令V*及び直流電圧Vdcに基づいて、PWM信号Q1,Q2,Q3,Q4(以下、「Q1~Q4」と表記)を生成する。このPWM信号Q1~Q4によってインバータ出力電圧が制御され、単相モータ12に所望の電圧が印加される。また、制御部25は、保護信号Spsに基づいて、インバータ11のスイッチング素子の動作を停止するPWM信号Q1~Q4を生成する。このPWM信号Q1~Q4によってインバータ11は動作を停止し、単相モータ12への電力供給は遮断される。また、制御部25は、動作モード信号Smsに基づいて、制御部25の動作モードを切り替える。なお、動作モードの切替の詳細は、後述する。
駆動信号生成部32は、制御部25から出力されたPWM信号Q1~Q4を、インバータ11を駆動するための駆動信号S1,S2,S3,S4に変換して、インバータ11に出力する。
制御部25は、プロセッサ31、キャリア生成部33及びメモリ34を有する。プロセッサ31は、上述したPWM信号Q1~Q4を生成する。プロセッサ31は、PWM制御に関する演算処理に加え、進角制御に関する演算処理も行う。後述するキャリア比較部38、回転速度算出部42及び進角位相算出部44の各機能は、プロセッサ31によって実現される。プロセッサ31は、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、マイコン、マイクロコンピュータ又はDSP(Digital Signal Processor)と称されるものでもよい。
メモリ34には、プロセッサ31によって読みとられるプログラムが保存される。メモリ34は、プロセッサ31が演算処理を行う際の作業領域として使用される。メモリ34は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリが一般的である。キャリア生成部33の構成の詳細は後述する。
単相モータ12の一例は、ブラシレスモータである。単相モータ12がブラシレスモータである場合、単相モータ12のロータ12aには、図示しない複数個の永久磁石が周方向に配列される。これらの複数個の永久磁石は、着磁方向が周方向に交互に反転するように配置され、ロータ12aの複数個の磁極を形成する。単相モータ12のステータ12bには図示しない巻線が巻かれている。当該巻線には,モータ電流が流れる。なお、本実施の形態では、ロータ12aの磁極数は4極を想定するが、4極以外でもよい。
図2は、図1に示されるインバータ11の回路図である。インバータ11は、ブリッジ接続される複数のスイッチング素子51,52,53,54(以下、「51~54」と表記)を有する。
スイッチング素子51,52は、第1のレグであるレグ5Aを構成する。レグ5Aは、第1のスイッチング素子であるスイッチング素子51と、第2のスイッチング素子であるスイッチング素子52とが直列に接続された直列回路である。
スイッチング素子53,54は、第2のレグであるレグ5Bを構成する。レグ5Bは、第3のスイッチング素子であるスイッチング素子53と、第4のスイッチング素子であるスイッチング素子54とが直列に接続された直列回路である。
レグ5A,5Bは、高電位側の直流母線16aと低電位側の直流母線16bとの間に、互いに並列になるように接続される。これにより、レグ5A,5Bは、バッテリ10の両端に並列に接続される。
スイッチング素子51,53は、高電位側に位置し、スイッチング素子52,54は、低電位側に位置する。一般的に、インバータ回路では、高電位側は「上アーム」と称され、低電位側は「下アーム」と称される。よって、レグ5Aのスイッチング素子51を「上アームの第1のスイッチング素子」と呼び、レグ5Aのスイッチング素子52を「下アームの第2のスイッチング素子」と呼ぶ場合がある。同様に、レグ5Bのスイッチング素子53を「上アームの第3のスイッチング素子」と呼び、レグ5Bのスイッチング素子54を「下アームの第4のスイッチング素子」と呼ぶ場合がある。
スイッチング素子51とスイッチング素子52との接続点6Aと、スイッチング素子53とスイッチング素子54との接続点6Bとは、ブリッジ回路における交流端を構成する。接続点6Aと接続点6Bとの間には、単相モータ12が接続される。
スイッチング素子51~54のそれぞれには、金属酸化膜半導体電界効果型トランジスタであるMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)が使用される。MOSFETは、FET(Field-Effect Transistor)の一例である。
スイッチング素子51には、スイッチング素子51のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード51aが形成される。スイッチング素子52には、スイッチング素子52のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード52aが形成される。スイッチング素子53には、スイッチング素子53のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード53aが形成される。スイッチング素子54には、スイッチング素子54のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード54aが形成される。複数のボディダイオード51a,52a,53a,54aのそれぞれは、MOSFETの内部に形成される寄生ダイオードであり、還流ダイオードとして使用される。なお、別途の環流ダイオードを接続してもよい。また、MOSFETに代えて絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)を用いてもよい。
スイッチング素子51~54は、シリコン系材料により形成されたMOSFETに限定されず、炭化珪素、窒化ガリウム、酸化ガリウム又はダイヤモンドといったワイドバンドギャップ(Wide Band Gap:WBG)半導体により形成されたMOSFETでもよい。
一般的にWBG半導体はシリコン半導体に比べて耐電圧及び耐熱性が高い。そのため、複数のスイッチング素子51~54にWBG半導体を用いることにより、スイッチング素子の耐電圧性及び許容電流密度が高くなり、スイッチング素子を組み込んだ半導体モジュールを小型化できる。また、WBG半導体は、耐熱性も高いため、半導体モジュールで発生した熱を放熱するための放熱部の小型化が可能であり、また半導体モジュールで発生した熱を放熱する放熱構造の簡素化が可能である。
また、図2において、低電位側の直流母線16bには、シャント抵抗55が挿入されている。シャント抵抗55は、インバータ11と、図2では図示しないバッテリ10との間の経路に配置される。シャント抵抗55は、インバータ11とバッテリ10との間に流れる直流電流を検出するための検出器である。シャント抵抗55及び電流検出部22は、「電流検出手段」を構成する。また、シャント抵抗55は、電流検出手段における「電流検出器」を構成する。
なお、シャント抵抗55は、インバータ11とバッテリ10との間に流れる直流電流を検出できるものであればよく、図2のものに限定されない。シャント抵抗55は、直流母線16aに挿入されるものであってもよい。
図3は、図1に示される制御部25の機能部位のうちのPWM信号を生成する機能部位を示すブロック図である。
図3において、キャリア比較部38には、後述する電圧指令Vmを生成するときに用いる進角制御された進角位相θvと基準位相θeとが入力される。基準位相θeは、ロータ12aの基準位置からの角度であるロータ機械角θmを電気角に換算した位相である。なお、本実施の形態に係るモータ駆動装置は、位置センサからの位置センサ信号を用いない、いわゆる位置センサレス駆動の構成である。このため、ロータ機械角θm及び基準位相θeは、演算によって推定される。また、ここで言う「進角位相」とは、電圧指令の「進み角」である「進角」を位相で表したものである。更に、ここで言う「進み角」とは、ステータ12bの巻線に印加されるモータ印加電圧と、ステータ12bの巻線に誘起されるモータ誘起電圧との間の位相差である。なお、モータ印加電圧がモータ誘起電圧よりも進んでいるときに「進み角」は正の値をとる。
また、キャリア比較部38には、進角位相θvと基準位相θeとに加え、キャリア生成部33で生成されたキャリアと、直流電圧Vdcと、電圧指令Vmの振幅値である電圧振幅指令V*とが入力される。キャリア比較部38は、キャリア、進角位相θv、基準位相θe、直流電圧Vdc及び電圧振幅指令V*に基づいて、PWM信号Q1~Q4を生成する。
図4は、図3に示されるキャリア比較部38の一例を示すブロック図である。図4には、キャリア比較部38及びキャリア生成部33の詳細構成が示されている。
図4において、キャリア生成部33には、キャリアの周波数であるキャリア周波数fC[Hz]が設定される。キャリア周波数fCの矢印の先には、キャリア波形の一例として、“0”と“1”との間を上下する三角波キャリアが示される。インバータ11のPWM制御には、同期PWM制御と非同期PWM制御とがある。同期PWM制御の場合、進角位相θvにキャリアを同期させる必要がある。一方、非同期PWM制御の場合、進角位相θvにキャリアを同期させる必要はない。
キャリア比較部38は、図4に示されるように、絶対値演算部38a、除算部38b、乗算部38c、乗算部38k、加算部38m、加算部38n、比較部38g、比較部38h、出力反転部38i及び出力反転部38jを有する。
絶対値演算部38aでは、電圧振幅指令V*の絶対値|V*|が演算される。除算部38bでは、絶対値|V*|が、電圧センサ20で検出された直流電圧Vdcによって除算される。図4の構成では、除算部38bの出力が変調率となる。バッテリ10の出力電圧であるバッテリ電圧は、電流を流し続けることにより変動する。一方、絶対値|V*|を直流電圧Vdcで除算することにより、変調率の値を調整し、バッテリ電圧の低下によってモータ印加電圧が低下しないようにできる。
乗算部38cでは、基準位相θeに進角位相θvを加えた“θe+θv”の正弦値が演算される。演算された“θe+θv”の正弦値は、除算部38bの出力である変調率に乗算される。乗算部38kでは、乗算部38cの出力である電圧指令Vmに“-1”が乗算される。加算部38mでは、乗算部38cの出力である電圧指令Vmに“1”が加算される。加算部38nでは、乗算部38kの出力、即ち電圧指令Vmの反転出力に“1”が加算される。加算部38mの出力は、複数のスイッチング素子51~54のうち、上アームの2つのスイッチング素子51,53を駆動するための第1電圧指令Vm1として比較部38gに入力される。加算部38nの出力は、下アームの2つのスイッチング素子52,54を駆動するための第2電圧指令Vm2として比較部38hに入力される。
比較部38gでは、第1電圧指令Vm1と、キャリアの振幅とが比較される。比較部38gの出力を反転した出力反転部38iの出力は、スイッチング素子51へのPWM信号Q1となり、比較部38gの出力は、スイッチング素子52へのPWM信号Q2となる。同様に、比較部38hでは、第2電圧指令Vm2と、キャリアの振幅とが比較される。比較部38hの出力を反転した出力反転部38jの出力は、スイッチング素子53へのPWM信号Q3となり、比較部38hの出力は、スイッチング素子54へのPWM信号Q4となる。出力反転部38iにより、スイッチング素子51とスイッチング素子52とが同時にオンされることはなく、出力反転部38jにより、スイッチング素子53とスイッチング素子54とが同時にオンされることはない。
図5は、図4に示されるキャリア比較部38における要部の波形例を示すタイムチャートである。図5には、加算部38mから出力される第1電圧指令Vm1の波形と、加算部38nから出力される第2電圧指令Vm2の波形と、PWM信号Q1~Q4の波形と、インバータ出力電圧の波形とが示されている。なお、図5では、便宜的に、キャリアのピーク値よりも振幅値が大きくなる第1電圧指令Vm1の波形部分と、キャリアのピーク値よりも振幅値が大きくなる第2電圧指令Vm2の波形部分は、フラットな直線で表されている。
PWM信号Q1は、第1電圧指令Vm1がキャリアよりも大きいときに“ロー(Low)”となり、第1電圧指令Vm1がキャリアよりも小さいときに“ハイ(High)”となる。PWM信号Q2は、PWM信号Q1の反転信号である。PWM信号Q3は、第2電圧指令Vm2がキャリアよりも大きいときに“ロー(Low)”となり、第2電圧指令Vm2がキャリアよりも小さいときに“ハイ(High)”となる。PWM信号Q4は、PWM信号Q3の反転信号である。このように、図4に示される回路は、“ローアクティブ(Low Active)”で構成されているが、それぞれの信号が逆の値となる“ハイアクティブ(High Active)”で構成されていてもよい。
インバータ出力電圧の波形は、図5に示されるように、PWM信号Q1とPWM信号Q4との差電圧による電圧パルスと、PWM信号Q3とPWM信号Q2との差電圧による電圧パルスとが表れる。これらの電圧パルスが、モータ印加電圧として、単相モータ12に印加される。
図5に示される波形では、電圧指令Vmの1周期Tのうちの一方の半周期では、スイッチング素子51,52のスイッチング動作が休止し、電圧指令Vmの1周期Tのうちの他方の半周期では、スイッチング素子53,54のスイッチング動作が休止している。
また、図5に示される波形では、電圧指令Vmの1周期Tのうちの一方の半周期では、スイッチング素子52は常時オン状態となるように制御され、電圧指令Vmの1周期Tのうちの他方の半周期では、スイッチング素子54は常時オン状態となるように制御される。なお、図5は一例であり、一方の半周期では、スイッチング素子51が常時オン状態となるように制御され、他方の半周期では、スイッチング素子53が常時オン状態となるように制御される場合も有り得る。即ち、図5に示される波形には、電圧指令Vmの半周期において、スイッチング素子51~54のうちの少なくとも1つがオン状態となるように制御されるという特徴がある。
PWM信号Q1~Q4を生成する際に使用する変調方式としては、バイポーラ変調と、ユニポーラ変調とが知られている。バイポーラ変調は、電圧指令Vmの1周期ごとに正又は負の電位で変化する電圧パルスを出力する変調方式である。ユニポーラ変調は、電圧指令Vmの1周期ごとに3つの電位で変化する電圧パルス、すなわち正の電位と負の電位と零の電位とに変化する電圧パルスを出力する変調方式である。図5に示されるインバータ出力電圧の波形は、ユニポーラ変調によるものである。本実施の形態のモータ駆動装置2においては、何れの変調方式を用いてもよい。なお、モータ電流波形をより正弦波に制御する必要がある用途では、バイポーラ変調よりも、高調波含有率が少ないユニポーラ変調を採用することが好ましい。
次に、本実施の形態における進角制御について、図6から図8の図面を参照して説明する。図6は、図4に示されるキャリア比較部38へ入力される進角位相θvを算出するための機能構成を示すブロック図である。図7は、実施の形態における進角位相θvの算出方法の一例を示す図である。図8は、図4に示される電圧指令Vmと進角位相θvとの関係の説明に使用するタイムチャートである。
進角位相θvの算出機能は、図6に示されるように、回転速度算出部42と、進角位相算出部44とによって実現できる。回転速度算出部42は、電流検出部22によって検出された電流信号Imaに基づいて単相モータ12の回転速度ωを算出する。また、回転速度算出部42は、電流信号Imaに基づいて、ロータ12aの基準位置からの角度であるロータ機械角θmを算出すると共に、ロータ機械角θmを電気角に換算した基準位相θeを算出する。
ここで、図8の最上段部には、ロータ12aの位置が信号レベルで表されている。最上段部の波形において、信号が「H」から「L」に立ち下がるエッジの部分がロータ12aの基準位置とされており、この基準位置がロータ機械角θmの「0°」に設定されている。また、ロータ機械角θmを表す数値列の下部には、ロータ機械角θmを電気角に換算した位相である基準位相θeが示されている。進角位相算出部44は、回転速度算出部42が算出した回転速度ω及び基準位相θeに基づいて、進角位相θvを算出する。
図7の横軸には回転速度Nが示され、図7の縦軸には進角位相θvが示されている。図7に示されるように、進角位相θvは、回転速度Nの増加に対して進角位相θvが増加する関数を用いて決定することができる。図7の例では、1次の線形関数により進角位相θvを決定しているが、1次の線形関数に限定されない。回転速度Nの増加に応じて進角位相θvが同じか、もしくは大きくなる関係であれば、1次の線形関数以外の関数を用いてもよい。
図8の中段部には、「例1」及び「例2」として、2つの電圧指令Vmの波形例が示されている。また、図8の最下段部には、ロータ12aが時計方向に回転したときのロータ機械角θmが0°、45°、90°、135°及び180°である状態が示されている。単相モータ12のロータ12aには4つの磁石が設けられ、ロータ12aの外周には4つのティース12b1が設けられている。ロータ12aが時計方向に回転した場合、電流信号Imaに基づいてロータ機械角θmが推定され、推定されたロータ機械角θmに基づいて、電気角に換算した基準位相θeが算出される。
図8の中段部において、「例1」として示される電圧指令Vmは、進角位相θv=0の場合の電圧指令である。進角位相θv=0の場合、基準位相θeと同相の電圧指令Vmが出力される。なお、このときの電圧指令Vmの振幅は、前述した電圧振幅指令V*に基づいて決定される。
また、図8の中段部において、「例2」として示される電圧指令Vmは、進角位相θv=π/4の場合の電圧指令である。進角位相θv=π/4の場合、基準位相θeから進角位相θvの成分であるπ/4進めた電圧指令Vmが出力される。
次に、インバータ11の動作パターンについて、図9から図14の図面を参照して説明する。図9は、バッテリ10から単相モータ12へ電力が供給されるときの電流経路の1つを図2に示した図である。図10は、バッテリ10から単相モータ12へ電力が供給されるときの電流経路のもう1つを図2に示した図である。図11は、インバータ11がフライホイール動作するときの電流経路の1つを図2に示した図である。図12は、インバータ11がフライホイール動作するときの電流経路のもう1つを図2に示した図である。図13は、単相モータ12のエネルギーがバッテリ10に回生されるときの電流経路の1つを図2に示した図である。図14は、単相モータ12のエネルギーがバッテリ10に回生されるときの電流経路のもう1つを図2に示した図である。
まず、図9では、駆動信号S1,S4により、スイッチング素子51,54が導通し、スイッチング素子51、単相モータ12、スイッチング素子54、シャント抵抗55の順で電流が流れる。また、図10では、駆動信号S2,S3により、スイッチング素子52,53が導通し、スイッチング素子53、単相モータ12、スイッチング素子52、シャント抵抗55の順で電流が流れる。何れの場合も、バッテリ10から単相モータ12への電力供給が行われる。また、何れの場合も、シャント抵抗55に電流が流れる。
次に、図11及び図12について説明する。図11及び図12は、駆動信号S1,S3又は駆動信号S2,S4を同時にオンさせることで、還流(「フライホイール」とも言う)させるスイッチングパターンである。図11では、駆動信号S1,S3により、スイッチング素子51,53が導通し、単相モータ12から流れ出るフライホイール電流は、スイッチング素子51及びスイッチング素子53を経由して、単相モータ12に戻る。また、図12では、駆動信号S2,S4により、スイッチング素子52,54が導通し、単相モータ12から流れ出るフライホイール電流は、スイッチング素子54及びスイッチング素子52を経由して、単相モータ12に戻る。これらの動作において、特徴的なことは、図11及び図12のスイッチングパターン共に、シャント抵抗55には電流は流れないことである。
次に、図13及び図14について説明する。図13及び図14は、何れも単相モータ12のエネルギーがバッテリ10に回生されるときの動作である。図13では、駆動信号S1,S4により、スイッチング素子51,54が導通し、単相モータ12から流れ出る回生電流は、スイッチング素子51、図13では図示しないバッテリ10、シャント抵抗55及びスイッチング素子54を経由して、単相モータ12に戻る。また、図14では、駆動信号S2,S3により、スイッチング素子52,53が導通し、単相モータ12から流れ出る回生電流は、スイッチング素子53、図14では図示しないバッテリ10、シャント抵抗55及びスイッチング素子52を経由して、単相モータ12に戻る。何れの場合も、シャント抵抗55に電流が流れる。
以上の説明から明らかなように、図11及び図12のスイッチングパターンを除き、シャント抵抗55に電流が流れる。つまり、図11及び図12に示すスイッチングパターンが発生しないように、インバータ11を動作させることで、全ての期間においてモータ電流Imの検出が可能になることが分かる。
次に、本実施の形態における電流検出部について説明する。図15は、図1に示される電流検出部22の構成例を示す図である。図15において、電流検出部22は、増幅回路70と、レベルシフト回路71と、保護部74とを備える。また、保護部74は、比較器74aを備える。保護部74は、保護信号Spsを生成する構成部である。即ち、図15に示される電流検出部22には、保護機能が付加されている。
増幅回路70は、シャント抵抗55に流れるシャント電流Idcによって生じるシャント抵抗55の両端電圧を増幅する。シャント抵抗55は、シャント抵抗55に流れるシャント電流Idcを検出する電流検出器である。シャント抵抗55の出力値は、電圧値である。即ち、シャント抵抗55は、シャント抵抗55に流れるシャント電流Idcに相当する物理量を検出する検出器である。シャント抵抗55は、バッテリ10から単相モータ12の電流経路に配置されるため、損失及び発熱面を考慮して、微小な抵抗値であることが望ましい。そのため、シャント電流Idcが流れた際にシャント抵抗55の両端電圧は極めて低い値となる。そのため、図15に示すように増幅回路70を設けることが望ましい構成となる。
レベルシフト回路71は、レベルシフト回路71の出力信号がプロセッサ31に入力可能なレベルとなるように、増幅回路70の出力のレベルをシフトさせる。
プロセッサ31の典型的な例は、マイコンである。マイコンは、一般的に0~5V程度の正の電圧を検出するようにできており、5Vまでの負電圧には対応していない。一方、図9、図10、図13及び図14に示されるように、シャント抵抗55に流れる電流の向きは変化する。その結果、電流の極性次第で、負電圧が発生する可能性がある。そのため、例えばマイコンの出力電圧の最大値が5Vの場合には、2.5V程度のオフセットを持たせてゼロ点とする。そして、0~2.5Vまでを負電圧とし、2.5V~5Vまでを正電圧とする。この機能を担うのが、レベルシフト回路71である。レベルシフト回路71を設けることにより、プロセッサ31の図示しないAD入力端子に入力することが可能となる。また、プロセッサ31は、電圧値であるレベルシフト回路71の出力を電流値へ換算することにより、正及び負の電流を検出することが可能となる。なお、0~2.5Vまでを正電圧、2.5V~5Vまでを負電圧として、プロセッサ31で正負反転の処理を行ってもよい。
保護部74は、増幅回路70によって増幅された増幅信号に基づいて、保護信号Spsを生成して出力する。具体的に、保護部74は、比較器74aによって、増幅回路70から出力される増幅信号のレベルを保護閾値Vthと比較し、増幅信号のレベルが保護閾値Vthよりも大きければ、保護信号Spsを生成する。保護信号Spsは、プロセッサ31に入力される。プロセッサ31は、保護信号Spsを受信すると、インバータ11を保護するため、インバータ11の各スイッチング素子を駆動するための各PWM信号の生成を停止する。
次に、実施の形態における制御の要点、動作及び効果について説明する。図16は、実施の形態における制御の要点の説明に使用する数種の波形例を示す図である。
図16の上段部には、モータ電流Imの1周期分の波形が示されている。モータ電流Imは、電気半周期ごとに電流が流れる方向が反転している。即ち、電気半周期は、モータ電流Imが転流してから次に転流するまでの期間である。電気半周期は、「モータ電流の極性が同一である期間」と言い替えてもよい。電気半周期ごとのモータ電流Imは、インバータ11の各スイッチング素子の導通を小刻みに制御することで維持される。
図16の中段部には、上段部に示すモータ電流Imが流れるときのシャント電流Idcの波形が示されている。前述したように、図11及び図12のスイッチングパターンでは、シャント抵抗55に電流が流れない。このため、シャント電流Idcの波形は、図16に示すような、パルス状の波形が並ぶパルス列となる。ここで、モータ電流Imが立ち上がる部分、及び立ち下がる部分に見られる三角波もパルスに含める。そして、各パルスが立ち上がってから立ち下がるまでの区間を各パルスの「頂部区間」と定義する。
図16の下段部には、中段部に示すシャント電流Idcを時間で微分した電流変化率dI/dtの波形が示されている。なお、電流変化率dI/dtの値は、シャント電流Idcの各パルスにおいて、頂部区間が始まる開始点と頂部区間が終わる終了点との間を、便宜的に直線で近似することで算出した代表値である。
図16の下段部に示す電流変化率dI/dtの特徴的なところは、個々のパルスの頂部区間における電流変化率dI/dtの値が、一度減少した後に増加する傾向を示すことにある。この傾向は、モータ電流Imの電気半周期ごとに繰り返される。
図17は、実施の形態における効果の説明に使用する数種の波形例を示す図である。図17の上段部には、モータ印加電圧Vinの波形が示されている。図17の中上段部には、上段部に示すモータ印加電圧Vinが単相モータ12に印加されるときのモータ電流Imの波形が示されている。図17の中段部には、中上段部に示すモータ電流Imが流れるときのシャント電流Idcの波形が示されている。図17の中下段部には、上段部に示すモータ印加電圧Vinが単相モータ12に印加されるときに単相モータ12に誘起されるモータ誘起電圧Emの波形が示されている。図17の下段部には、モータ軸出力の波形が示されている。モータ軸出力は、モータ誘起電圧Emとモータ電流Imとの積である“Em×Im”の波形を表している。
前述したように、モータ軸出力は“Em×Im”で表される。このため、モータ軸出力の変動を小さくするためには、モータ誘起電圧Emのピーク値付近におけるモータ電流Imの変動を小さくすればよい。ここで、本実施の形態では、図16の下段部に示すように、電流変化率dI/dtが、一度減少した後に増加する傾向を示すようにインバータ11の各スイッチング素子を制御している。電流変化率dI/dtの値とモータ電流Imの変動とは等価の関係にある。また、電流変化率dI/dtが一度減少した後に増加する傾向を示すことは、モータ誘起電圧Emのピーク値付近におけるモータ電流Imの変動を小さくすることと等価である。このため、本実施の形態の制御を行えば、モータ誘起電圧Emのピーク値付近におけるモータ電流Imの変動を小さくできるので、モータ軸出力の変動を小さくすることが可能となる。
図18は、実施の形態における動作の説明に使用する動作曲線を示す図である。横軸は時間、縦軸は回転速度Nを表している。後述する電気掃除機、手乾燥機などの応用製品では、図18に示すように、起動後に回転速度Nを増加させる加速区間と、増加させた回転速度Nを維持する定常区間とを有する動作曲線に従って動作させることが一般的である。
図19は、実施の形態における動作の説明に使用する単相モータ12の等価回路を示す図である。図19の等価回路において、Vinはモータ印加電圧、Emはモータ誘起電圧、Rは単相モータ12のステータ巻線の抵抗、Lはステータ巻線のインダクタンスである。このとき、等価回路に流れる電流Iは、次式で表される。
I=(Vin-Em)/(R+sL) …(1)
上記(1)式において、sはラプラス演算子である。上記(1)式に示される電流Iは、モータ電流Imに対応する。
図20は、実施の形態における制御の要点及び効果の説明に使用する数種の波形例を示す第1の図である。図21は、実施の形態における制御の要点及び効果の説明に使用する数種の波形例を示す第2の図である。図20及び図21のそれぞれには、上段側から順に、モータ印加電圧Vin、モータ誘起電圧Em、モータ電流Im、電流変化率dI/dt及びモータ軸出力の波形が示されている。なお、これらの各図では、基本波の成分のみが示されている。
起動時及び起動直後の低速回転域では、回転速度が低いため、インダクタンスLの影響が小さい。このため、モータ誘起電圧Emとモータ電流Imとの間の位相差が小さくなる。図20には、モータ誘起電圧Emとモータ電流Imとの間の位相差が比較的に小さい場合の例が示されている。図20の軸出力の波形に着目すると、位相差に対応する部分は軸出力の値が負になっている。軸出力の値が正の部分が、有効な軸出力となる。このため、図20の例は、有効な軸出力が大きくなっている。
一方、起動後の加速中においては、回転速度Nの上昇に従ってインダクタンスLの影響が大きくなり、モータ誘起電圧Emとモータ電流Imとの間の位相差が大きくなる。図21には、モータ誘起電圧Emとモータ電流Imとの間の位相差が図20よりも大きい場合の例が示されている。位相差に対応する部分は軸出力の値が負となるので、図21の例は、有効な軸出力が小さくなっている。
従って、シャント電流Idcのパルスの頂部区間における電流変化率dI/dtの値を、減少した後に増加するように制御する際には、モータ誘起電圧Emとモータ電流Imとの間の位相差が小さくなるように、モータ印加電圧Vin、即ちインバータ出力電圧を制御することが肝要である。このようにすれば、回転速度の上昇に従って増大するインダクタンスの影響を相殺できるので、高速回転域で不足しがちな、モータ軸出力の確保に有効である。
以上説明したように、実施の形態に係るモータ駆動装置によれば、制御部は、電流検出器によって検出される物理量の波形が複数のパルスからなるパルス列となるように第1から第4のスイッチング素子の導通を制御する第1の制御を実施する。この第1の制御によって、単相モータに流れるモータ電流の極性が同一である期間における個々のパルスの頂部区間における電流変化率は、一度減少した後に増加する傾向を示すように制御される。これにより、単相モータの軸出力の変動を小さくできるので、振動及び騒音を抑制することができ、使用者に与える不快感を低減することができる。
上記第1の制御は、単相モータを加速動作させる動作区間の少なくとも一部において実施することができる。単相モータを加速動作させる区間では、単相モータの軸出力の変動が大きくなる。このため、単相モータを加速動作させる区間において、第1の制御を実施すれば、軸出力の変動を小さくできるので、振動及び騒音の抑制に有効である。
なお、上記第1の制御を実施する際には、単相モータに発生するモータ誘起電圧とモータ電流との間の位相差が小さくなるようにインバータの出力電圧を制御することが好ましい。このように制御すれば、有効な軸出力を得ることができる。これにより、定常回転速度までの時間の短縮化を図りつつ、振動及び騒音の抑制が可能となる。
次に、実施の形態に係るモータ駆動装置の適用例について説明する。図22は、実施の形態に係るモータ駆動装置2を備えた電気掃除機61の構成図である。電気掃除機61は、図1に示されるバッテリ10と、図1に示されるモータ駆動装置2と、図1に示される単相モータ12により駆動される電動送風機64と、集塵室65と、センサ68と、吸込口体63と、延長管62と、操作部66とを備える。
電気掃除機61を使用するユーザは、操作部66を持ち、電気掃除機61を操作する。電気掃除機61のモータ駆動装置2は、バッテリ10を電源として電動送風機64を駆動する。電動送風機64が駆動されることにより、吸込口体63からごみの吸込みが行われる。吸込まれたごみは、延長管62を介して集塵室65へ集められる。
電気掃除機61は、単相モータ12の回転速度が0[rpm]から10万[rpm]を超えて変動する製品である。このような単相モータ12が高速回転する製品を駆動する際には、高いキャリア周波数が必要となるため従来の電流検出方式ではA/D変換タイミングを調整することが難しく、スイッチング時間も短くなり検出がより困難となるため、前述した実施の形態に係る制御手法が好適である。
また、単相モータ12に電圧指令に基づく電圧を出力する際、制御部25は、電圧指令の周期のうちの一方の半周期では、上アームの第1のスイッチング素子と下アームの第2のスイッチング素子とのスイッチング動作を休止させ、電圧指令の周期のうちの他方の半周期では、上アームの第3のスイッチング素子と下アームの第4のスイッチング素子とのスイッチング動作を休止させる。これにより、スイッチング損失の増加が抑制され、効率のよい電気掃除機61を実現することができる。
また、実施の形態に係る電気掃除機61は、前述した放熱部品の簡素化により小型化及び軽量化することができる。更に、電気掃除機61は、電流を検出する電流センサが必要なく、高速なアナログディジタル変換器も必要ないので、設計コスト及び製造コストの増加が抑制された電気掃除機61を実現することができる。
図23は、実施の形態に係るモータ駆動装置2を備えた手乾燥機90の構成図である。手乾燥機90は、モータ駆動装置2と、ケーシング91と、手検知センサ92と、水受け部93と、ドレン容器94と、カバー96と、センサ97と、吸気口98と、電動送風機95とを備える。ここで、センサ97は、ジャイロセンサ及び人感センサの何れかである。手乾燥機90では、水受け部93の上部にある手挿入部99に手が挿入されることにより、電動送風機95による送風で水が吹き飛ばされ、吹き飛ばされた水は、水受け部93で集められた後、ドレン容器94に溜められる。
手乾燥機90は、図22に示す電気掃除機61と同様に、モータ回転数が0[rpm]から10万[rpm]を超えて変動する製品である。このため、手乾燥機90においても、前述した実施の形態に係る制御手法が好適であり、電気掃除機61と同様な効果を得ることができる。
また、電気掃除機61及び手乾燥機90は、快適性及び設置制約の関係から小型化及び高出力化が求められている。小型化及び高出力化のためには、バッテリ10からインバータ11に供給されるバッテリ電流を増加させる必要がある。一方、バッテリ電流の増加により、バッテリ10の内部のインピーダンスによる発熱が課題となる。このため、バッテリ10の内部のインピーダンスは、小さいものがより好まれる。また、バッテリ電流の増加によりモータ電流Imも増加する。このため、従来の方式では軸出力の変動が大きくなる。以上より、バッテリ10の内部のインピーダンスがより小さいものほど、本実施の形態の効果を得ることが可能となる。
なお、本実施の形態では、電気掃除機61及び手乾燥機90にモータ駆動装置2を適用した構成例を説明したが、この例に限定されない。モータ駆動装置2は、広くモータが搭載された電気機器に適用することができる。モータが搭載された電気機器の例は、焼却炉、粉砕機、乾燥機、集塵機、印刷機械、クリーニング機械、製菓機械、製茶機械、木工機械、プラスチック押出機、ダンボール機械、包装機械、熱風発生機、OA機器、及び電動送風機である。電動送風機は、物体輸送用、吸塵用、又は一般送排風用の送風手段である。
また、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
例えば図4及び図5では、キャリアとの比較でPWM信号Q1~Q4を生成しているが、この手法に限定されない。PWM信号Q1~Q4の生成を時間管理とし、プロセッサ31による演算処理によって、PWM信号Q1~Q4を生成してもよい。