以下に、本発明に係る表面欠陥検出装置、表面欠陥検出方法、鋼板の製造方法、鋼板の品質管理方法、及び、鋼板の製造設備の実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
図1は、実施形態に係る表面欠陥検出装置1の概略構成を示す模式図である。本実施形態においては、表面欠陥検出装置1によって表面欠陥を検出する検出対象である物体を平板状物体3として説明する。平板状物体3としては、帯状物体、紙製品、樹脂シート、金属板等があげられる。ここで金属板とは、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、チタン板及びチタン合金板等が挙げられる。また、本実施形態において前記物体としては、平板状物体3に限定されるものではなく、例えば、管状物体やコイル状物体などの平板状とは異なる形状の物体であってもよい。
実施形態に係る表面欠陥検出装置1は、光源4、スクリーン5、撮像装置6、コンピュータ7、及び、表示装置8などを主な構成要素として備えている。実施形態に係る表面欠陥検出装置1は、搬送ロール2によって図1中の矢印A方向に搬送される平板状物体3の表面における凹凸欠陥を検出するものである。具体的には、表面欠陥検出装置1において、光源4から出射され、平板状物体3に入射する入射光ILは、平板状物体3上の検査位置IPにおいて反射し、反射光RLとしてスクリーン5に投影される。スクリーン5は、投影された反射光RLを透過させる透過性を有している。さらに、スクリーン5は、反射光RLを透過光TLとして透過させるだけではなく、透過した透過光TLを所定の角度の範囲内に拡散させる透過特性を有している。つまり、スクリーン5は、投影された反射光RLの一部を透過させて透過光TLを所定の角度の範囲内で拡散させる材質によって構成されている。この透過特性については、後程、詳細に説明する。さて、スクリーン5を透過して拡散された透過光TLは、撮像装置6の受光位置SPで受光される。コンピュータ7は、受光した透過光TLに応じて撮像装置6から伝送される像に基づき、スクリーン5上に投影された反射光RLの位置である投影位置を計測し、その投影位置から平板状物体3の基準面に対する傾きに関する情報を検出する。そして、検出された傾きに関する情報に基づき平板状物体3の表面における凹凸欠陥を検出する。例えば、前記傾きに関する情報から、基準面に対して傾いているとされた平板状物体3の表面上の検査位置IPに、凹凸欠陥があると検出することができる。そして、このような検査を、搬送ロール2によって搬送される平板状物体3の表面に対して搬送方向(図1中の矢印A方向)に沿って連続的に行うことにより、平板状物体3の表面の縞状の凹凸欠陥を検出することができる。また、前記縞状の凹凸欠陥の検出結果を、表示装置8に例えば画像として表示させることにより、前記縞状の凹凸欠陥を作業者が容易に把握することができる。
なお、平板状物体3上の検査位置IPにおける、光源4からの入射光ILの入射角は、80[°]以上であることが好ましい。86[°]以上であれば、より好ましい。なお、光源4からの入射光ILの入射角は、検査位置IPにおける平板状物体3の法線と光源4からの入射光ILとのなす角度と定義する。この入射角度が好ましい理由は、入射角を大きくすることで、表面粗さがある程度ある表面においても鏡面反射率が高くなり、十分な反射光量を確保できるためである。ここで、粗さがある程度ある表面の例としては、算術平均表面粗さRaが数[μm]から十数[μm]のもので、特に、金属板の表面があげられる。より具体的には、鉄板、鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、チタン板及びチタン合金板の表面等、があげられる。
なお、実施形態に係る表面欠陥検出装置1では、撮像装置6が、スクリーン5によって所定の角度の範囲内に拡散された透過光TLを受光して、スクリーン5に反射光RLが投影された投影位置PPを計測する投影位置検出手段として機能している。また、実施形態に係る表面欠陥検出装置1では、投影位置PPから、予め設定された基準面に対する平板状物体3の表面の傾きに関する情報を検出する傾き検出手段が、撮像装置6及びコンピュータ7によって構成されている。また、実施形態に係る表面欠陥検出装置1では、コンピュータ7が、前記傾き検出手段によって検出された前記傾きに関する情報に基づいて、平板状物体3の表面の凹凸欠陥を検出する欠陥検出手段としても機能している。
ここで、本発明による平板状物体3の表面の傾き情報検出方法について説明する。図2(a)は、平板状物体3の表面3a,3bのそれぞれに対する、光源4からの入射光ILと平板状物体3とがなす角及び反射光RL1,RL2の反射方向γの変動量の関係を示した図である。なお、図2(a)を含めて、以下の説明では、図面を見やすくするために、平板状物体3の表面3a,3bだけを線で描き、平板状物体3の厚み方向のその他の部分の図示は省略する。図2(b)は、平板状物体3の表面3a,3b上の検査位置IPで反射した反射光RL1,RL2のスクリーン5上における投影位置PP1,PP2の変動量の関係を示した図である。図2(c)は、反射光RL1に対する反射光RL2の変位をずれ量Δを用いて示した図である。
図2(a)に示した平板状物体3の表面3aは、傾きを持たない状態のものである。一方、平板状物体3の表面3bは、検査位置IPにおいて平板状物体3の表面3aに対し、スクリーン5側が光源4側よりも上に位置するように傾いた、微小な傾きの角度αを有した状態となったものである。そして、図2(a)に示すように、平板状物体3の表面3a上の検査位置IPに光源4から入射した入射光ILと、平板状物体3の表面3aと、がなす角度をβとする。一方、平板状物体3の表面3b上の検査位置IPに入射した入射光ILと、平板状物体3の表面3bとがなす角は(β+α)となる。つまり、平板状物体3の表面3b上で反射した反射光RL2と、平板状物体3の表面3bとがなす角も(β+α)となる。また、平板状物体3の表面3aを基準面とした場合、平板状物体3の表面3bが表面3aに対して角度αだけ傾いていることから、検査位置IPにおいて、平板状物体3の表面3aと反射光RL2とのなす角度γは(β+2α)となる。この角度γを、反射光RLの反射方向とする。
以上から、平板状物体3の表面上の検査位置IPで反射した反射光RLの反射方向γは、下記数式(1)のように表すことができる。
したがって、上記数式(1)からわかるように、平板状物体3の表面が角度αで傾いていることにより、反射光RLの反射方向γは、平板状物体3の表面の傾きがない場合に対して角度2αだけ変動する。すなわち、図2(b)に示すように、平板状物体3の表面3b上の検査位置IPで反射した反射光RL2の進行方向は、平板状物体3の表面3a上の検査位置IPで反射した反射光RL1の進行方向に対して角度2αだけ変動する。そのため、検査位置IPからスクリーン5までの反射光RL1の光路長をDとしたとき、検査位置IPから光路長Dの位置では、反射光RL1に対して反射光RL2が、反射光RL2に直交する方向にDsin2αだけ変位する。
一方で、反射光RL1とスクリーン5とのなす角度をΨ0とし、スクリーン5上での反射光RL1の投影位置PP1を基準として、投影位置PP1に対する反射光RL2の投影位置PP2のずれ量をΔとする。そして、前記Dsin2αの変位は、ずれ量Δを用いて、図2(c)に示すように、Δcos(90[°]+2α-Ψ0)と表すことができ、下記数式(2)のように書き換えることができる。
上記数式(2)においては、|α|<<1であることから、sin2α≒2α、及び、cos2α≒1と近似される。したがって、上記数式(2)は下記数式(3)のように書き換えることができる。
上記数式(3)において、特にΨ0≒90[°]の場合には、上記数式(3)を下記数式(4)のように書き換えることができる。
そして、上記数式(4)に基づいて下記数式(5)により、スクリーン5上の投影位置PP1に対する投影位置P2のずれ量Δから、検査位置IPにおける平板状物体3の表面3bの傾きの角度αを算出することができる。
このように、基準面に対する平板状物体3の表面の傾き情報として、角度αを検出することができる。以上が、本発明における傾き検出の原理である。
続いて、本実施形態における撮像装置6の配置方法の例について説明する。スクリーン5における透過光TLの透過率は、あらゆる条件で必ずしも一様ではなく、各機材の配置によって変動する。例えば、反射光RLとスクリーンのなす角や、反射光RLの投影位置PPに対する撮像装置6の配置によって変動する。反射光RLの強度が必ずしも十分ではない条件下では、撮像装置6の配置を最適化することは、耐ノイズ性が高く確実な計測を行う上でより好ましい。
図3は、スクリーン5における透過光TLの挙動の詳細を示した図である。反射光RLは、スクリーン5に対し入射角Φをもって入射する。なお、入射角Φは、スクリーン5上の投影位置PPにおいて、投影位置PPでの法線Nと反射光RLとのなす角度と定義する。反射光RLは、スクリーン5上の投影位置PPに投影され、スクリーン5の裏側、すなわち撮像装置6側に向かって透過する。スクリーン5を透過した透過光は、スクリーン5の裏側において、投影位置PPを中心に拡散される。
ここで、図3に示すように、スクリーン5で拡散された透過光のうち、投影位置PPから撮像装置6の受光位置SPに向かう透過光TLの方向角をθとする。この方向角θは、スクリーン5の撮像装置6側における、スクリーン5上の投影位置PPでの法線Nと透過光TLとのなす角度と定義する。また、ここでは、説明の簡便化のために、反射光RL及び透過光TLは、全て紙面内に含まれており、紙面奥行き方向の傾きはないものとする。
スクリーン5が等方性を持つと仮定すると、撮像装置6で受光される透過光TLの強度Itは、反射光RLの入射角Φと透過光TLの方向角θとによって決まる関数f(Φ,θ)、及び、反射光RLの強度Irを用いて、下記数式(6)のように決定される。
関数f(Φ,θ)は、入射角Φ及び方向角θに対する、反射光RLの強度Irと透過光TLの強度Itとの比であり、その関数形はスクリーン5の材質や表面性状によって決まる。反射光RLの一部が透過した透過光TLが、所定の角度(すなわち、透過光TLの方向角θ)の範囲内で拡散する状態は、この関数f(Φ,θ)で示される。以下、f(Φ,θ)をスクリーン5の透過特性と呼ぶ。
次に、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)の例と、それぞれの場合の特徴について説明する。図4(a)及び図4(b)は、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)の例を示した図である。以下、説明の簡便化のために、入射角Φを0[°]と仮定する。図4(a)では、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)の値が、方向角θによって変化しない。したがって、方向角θによらず透過光TLの強度Itは均一となる。一方、図4(b)では、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)の値が、方向角θによって変化し、θ=0[°]に近いほど、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)の値が高く、θ=0[°]から遠ざかるにしたがって、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)の値が低下する。これは、反射光RLの延長線上ほど透過光TLの強度Itが高くなり、反射光RLの延長線上から離れるにしたがって透過光TLの強度Itが低くなることを意味する。スクリーン5上の投影位置PPにおいて、透過拡散する光のエネルギーが等しいとき、エネルギー保存を考慮すると、図4(a)のように、あらゆる方向角θに対して均一な光量比を持つ場合に比べ、図4(b)のように、特定の方向のみに光量比が高い場合のほうが、ピーク付近における光量比が増大する。
図4(a)の透過特性f(Φ,θ)を有するスクリーンを使用した場合は、全方向に透過光を拡散させるため、撮像装置6の配置に対する制約が緩和される。一方で、入射光ILのエネルギーを撮像装置6以外の方向へも拡散することから、撮像装置6が得られる光量の向上という点では、図4(b)の透過特性f(Φ,θ)よりも不利になりやすい。
一方、図4(b)の透過特性f(Φ,θ)を有するスクリーン5を使用した場合は、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)の値が高くなる方向角θに撮像装置6を配置することで、撮像装置6に入射する透過光TLの強度Itを高くすることができる。また、図4(b)の透過特性f(Φ,θ)を有するスクリーン5を用いた場合、透過光TLの強度Itが高くなる方向が限定されることになる。この場合、計測中に反射光RLの反射方向が変動し、スクリーン5上の投影位置PPが変動すると、透過光TLの強度変動が、図4(a)の場合と比べて顕著になる傾向にある。図4(b)の透過特性f(Φ,θ)のスクリーン5を使用した場合に、透過光TLの強度変動への対応について、以下に詳しく説明する。
図5(a)は、図4(b)の透過特性f(Φ,θ)を有するスクリーン5を使用した場合に、反射光RLの反射方向の変動による透過光TLの強度変動の原理を示した図である。図5(a)において、反射光RL1は、図2(a)に示した平板状物体3の表面3aと同様に、平板状物体3の表面に傾きがない場合での反射光を表している。また、反射光RL2は、図2(b)に示した図2(b)に示した平板状物体3の表面3bと同様に、平板状物体3の表面に傾きがある場合での反射光を表している。すなわち、図5(a)では、計測中に平板状物体3の表面が、表面3aの状態から表面3bの状態に変化し、反射光RL1から反射光RL2に反射方向γが変動した場合についての透過光TLの強度変動について説明する。
図5(a)では、反射光RL1がスクリーン5上の投影位置PP1に投影され、透過反射光TL1として撮像装置6に入射される。なお、投影位置PP1は、平板状物体3の表面に傾きがない場合に反射光RL1が投影される位置であることから、以下、投影位置PP1を基準点とも言う。また、図5(a)では、反射光RL2がスクリーン5上の投影位置PP2に投影され、透過光TL2として撮像装置6に入射される。
ここで、図5(a)中に示すように、スクリーン5に沿って座標軸としてY軸をとり、スクリーン5上における投影位置PP1を原点としたとき、スクリーン5上における投影位置PP2の位置をY=Δとする。
図5(b)は、反射光RL1,RL2のそれぞれにおけるスクリーン5の透過特性f(Φ,θ)を示したグラフである。反射光RL1,RL2のそれぞれにおいて、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)は、図5(b)に示すグラフのように与えられるとする。また、図5(a)からわかるように、透過光TL1の方向角θは0[°]であり、透過光TL2の方向角θはθ0[°](0<θ0<90)である。そのため、図5(b)に示すように、透過光TL1が撮像装置6に入射する場合に比べて、透過光TL2が撮像装置6に入射する場合のほうが、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)の値が半分になるため、透過光TL2の強度Itが透過光TL1の強度Itの半分に低下することがわかる。
透過光TLの強度Itが小さすぎると、撮像装置6によって透過光TLが検出できず、投影位置PPの計測ができなくなる。以上のことから、図4(b)の透過特性f(Φ,θ)のスクリーン5を使用し、平板状物体3の表面欠陥を検出するには、投影位置PPの変動する範囲に対し、撮像装置6が特定の位置に配置されることが好ましい。
なお、スクリーン5を除去し、反射光RLを撮像装置6の受光素子に直接入光させて、反射光RLの変動を直接検出することで、同様の計測を行うことも原理的には可能である。しかし、この場合は、反射光RLの反射光の太さと撮像素子のサイズの関係が問題となる。一般に、平板状物体3の表面は表面粗さを持ち、反射光RLの線の太さは検査位置IPにおける線の太さよりも増大する。撮像装置6の配置から、検査位置IPにおける線の太さの下限は0.1[mm]程度である。しかし、反射光RLの線の太さは、平板状物体3の表面粗さに応じて最大数[mm]程度に拡大される。そのため、撮像素子のサイズと同程度となり、計測が困難となる。このような場合には、撮像装置6の前にレンズ(図示せず)を配置して、反射光RLの線の太さを絞ることが考えられる。この場合は、反射光RLをレンズに直接照射する必要がある。しかし、本発明による傾き計測では、反射光RLの投影位置PPは光学系の設計によっては50[mm]以上変動する可能性があるため、それと同程度の径を持つレンズを使用しなければならず、そのようなレンズの入手や作成が困難である。また、撮像装置6を平板状物体3に近接させて配置すれば反射光RLの線を細くすることはできるが、撮像装置6と平板状物体3とが接触する可能性があるため、好ましくない。
一方で、透過特性f(Φ,θ)を有するスクリーン5を配置した場合には、撮像装置6の光学系を変更する、すなわち、レンズを変更することで、撮像素子のサイズによらず、上記検出が可能となる。この場合は、反射光RLをレンズに直接照射する必要がないため、レンズ自体の径について特段の注意を払う必要がなくなる。
以上の説明を踏まえ、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)、平板状物体3からの反射光RLの強度と、スクリーン5における背景の輝度である背景輝度Ibと、投影位置PPの変動する範囲とから、撮像装置6によって透過光TLの検出が可能となるような、撮像装置6の配置の条件、すなわち、スクリーン5と撮像装置6との距離Lを算出する方法について説明する。
背景輝度Ibは、撮像装置6によって撮影されたスクリーン5の画像のうち、投影位置PPに投影された反射光RLを除く部分の輝度である。背景輝度Ibは、撮像装置6の暗電流、すなわち、受光素子信号の増幅回路で発生するノイズや撮像装置6の周辺から入り込む環境光等に起因する。撮像装置6でスクリーン5を撮影したとき、スクリーン5に投影された反射光RLの像の位置における輝度が、背景輝度Ibに比べて同程度、または、小さい場合は、撮像装置6により投影位置PPを特定することが難しくなることがある。その結果、表面欠陥検出装置1による欠陥を検査することが難しくなることがある。したがって、スクリーン5に投影された反射光RLの像の輝度が、背景輝度Ibに比べて十分に大きくなるような表面欠陥検出装置または表面欠陥検出方法としておくことが非常に好ましい。
まず、(A)スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)を導出する。具体的な導出方法としては、実験的に行ったり、理論的に推定したり、製品データを利用したりするなどの手法がある。
次に、(B)撮像装置6によってスクリーン5上の投影位置PPの計測ができるように、背景輝度Ibを導出する。背景輝度Ibは、実験的または理論的に決定される。背景輝度Ibの測定方法の例の一つとしては、光源4から光が出射されない状態にして、撮像装置6によりスクリーン5の表面を撮影し、得られた画像の輝度値を背景輝度Ibとすればよい。また、背景輝度Ibの測定方法の別の例としては、撮像装置6の受光部を遮蔽して完全に光が入らないようにして撮影し、得られた画像の輝度値を背景輝度Ibとしてもよい。
続いて、(C)計測中での反射光RLの反射方向の変動に伴う、反射光RLの強度変化、入射角Φ、方向角θ、スクリーン5上の投影位置PPの位置Δ、及び、スクリーン5と撮像装置6との距離Lとの間に成り立つ関係を整理する。これらの関係は、光学系の設計に依存するため、方法論を一概に述べることはできないが、多くの場合でスクリーン5上の投影位置PPの位置がY=Δであるときの、入射光ILに対する反射光RLの強度変化、及び、入射角Φ、方向角θの各量と投影位置座標Δ、及び、スクリーン5と撮像装置6との距離Lとの関係式を導出すればよい。
最後に、(D)上記(C)で導出した関係式から、透過光TLの強度Itが上記(B)で決定した背景輝度Ib以上となるようなスクリーン5と撮像装置6との距離Lの条件を求める。すなわち、反射光RLの強度変化率k(Δ)と入射角Φ(Δ)と方向角θ(Δ,L)との関係式を用いて、下記数式(7)の不等式を満たすスクリーン5と撮像装置6との距離Lの範囲を求める。ただし、I0は入射光ILの光量である。
ここで、強度変化率kとは、入射光ILの強度に対する反射光RLの強度の比であり、下記数式(8)の関係が成立する。
なお、強度変化率kは、入射光ILの入射角に依存するため、平板状物体3の表面の傾きの角度αの関数であるが、上記数式(5)により角度αは位置Δで表すことができるため、強度変化率kも位置Δの関数として記述することができる。
また、このとき撮影位置座標Δは計測対象の表面傾きによって変化し得るが、その場合は、とり得る全ての撮影位置座標Δに対して上記数式(7)が満たされるようにスクリーン5と撮像装置6との距離Lを設定する。
図6に示した例と図4(a)の透過特性f(Φ,θ)を有するスクリーン5を用いて、具体的に上記数式(7)の適用方法を示す。図6は、計測対象の表面傾き変化に伴う各物理量の変化の一例を示した図である。
図6では、表面に傾きがない平板状物体3の表面3a上の検査位置IPで反射した反射光RL1の光路と、角度αだけ傾きがある平板状物体3の表面3b上の検査位置IPで反射した反射光RL2の光路とを示している。反射光RL1に対する反射光RL2の反射方向の変動により、反射光RL1のスクリーン5上の投影位置PP1に対して反射光RL2のスクリーン5上の投影位置PP2が変動する。
平板状物体3の表面3aと表面3bとでは、それぞれ異なる入射角及び反射角で反射を起こしている。平板状物体3の表面3aに対して表面3bが角度αで傾いている場合、平板状物体3の表面3b上の検査位置IPにおける入射光ILの入射角及び反射光RL2の反射角は、ともに、平板状物体3の表面3a上における検査位置IPにおける入射光ILの入射角及び反射光RL1の反射角に対して角度αだけ変化する。したがって、物理モデルに基づく反射光RLの強度変化を、実験的または理論的に求める。図6の場合は、平板状物体3の表面3bの傾きの角度αは、数ミリ[rad]程度であることから、k(Δ)は一定値をとると考えられる。したがって、Δによらず、反射光RLの強度Irは一定値をとる。
次に、図6に示した、スクリーン5に対する反射光RL2の入射角Φは、反射光RL2の反射方向の変動に伴い変化する。ここで、図2(a)を用いて説明したように、平板状物体3の表面3aに対して表面3bが角度αで傾いている場合には、反射光RL2の反射方向は、反射光RL1の反射方向に対して角度2αだけ変動する。そのため、反射光RL2の入射角Φは、Φ=2αとなる。角度αが極めて小さいことから、スクリーン5上の位置Δにかかわらず、Φ=0[°]と近似して透過特性f(Φ,θ)は変化しないと近似する。
次に、透過光TLの方向角θは、スクリーン5上の位置Δにより変化し、スクリーン5と撮像装置6との距離Lを用いて、θ=arctan(Δ/L)の関係がある。
以上をまとめると、図6の場合は、k(Δ)は一定、Φ(Δ)≒0、θ(Δ,L)=arctan(Δ/L)である。スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)が、Φ=0[°]において、図4(a)の透過特性f(Φ,θ)のように方向角θに依存しない一様な分布で表せるとすると、上記数式(7)は下記数式(9)のように書き換えることができる。ただし、下記数式(9)中、Cは一様分布のとる値(定数値)を示す。
上記数式(9)はΔに依存しないことから、反射光RLの強度Ir、及び、一様分布の定数値Cが上記数式(9)を満たせば、スクリーン5と撮像装置6との距離Lによらず反射光量をとらえることができる。ただし、前提条件として、表面3bの傾きの角度αは、数ミリ[rad]程度である点に注意する。
以上から、図4(a)に示すスクリーン5の透過特性f(Φ,θ)、反射光RLの強度Ir、スクリーン5上における投影位置PPの位置Δの範囲、及び、スクリーン5における背景輝度Ibから、スクリーン5と撮像装置6との距離Lの範囲を決定することができる。
次に、図6に示した例と図4(b)の透過特性f(Φ,θ)を有するスクリーン5とを用いて、具体的に上記数式(7)の適用方法を示す。
まず、反射光RLの強度について考察する。上記の段落[0060]に記載したのと同様に、k(Δ)=1であり、反射光RLの強度Irの変動はほぼないと考えられる。
次に、透過特性f(Φ,θ)について考察する。上記の段落[0061]に記載したのと同様に、スクリーン5上の位置Δにかかわらず、透過特性f(Φ,θ)は、Φ=0[°]の場合の透過特性f(0[°],θ)で近似できる。
次に、透過光TLの方向角θについて考察する。上記の段落[0062]に記載したのと同様に、θ=arctan(Δ/L)の関係がある。
以上をまとめると、図6の場合は、k(Δ)は一定、Φ(Δ)≒0、θ(Δ,L)=arctan(Δ/L)である。スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)が、Φ=0[°]において、方向角θのガウス分布で表せるとすると、上記数式(7)は下記数式(10)のように書き換えることができる。ただし、下記数式(10)中、A及びσは、透過特性を表現するガウス分布のパラメータである。
上記数式(10)をLについて解くと、下記数式(11)のようになる。
以上から、図4(b)に示すスクリーン5の透過特性f(Φ,θ)、反射光RLの強度Ir、スクリーン5上における投影位置PPの位置Δの範囲、及び、スクリーン5における背景輝度Ibから、スクリーン5と撮像装置6との距離Lの範囲を決定することができる。
また、同様の検討を平板状物体3の板厚変動に適用することも可能である。
図7では、平板状物体3の板厚が変動する場合を示しており、通常の板厚の平板状物体3の表面3a上の検査位置IP1で反射した反射光RL1の光路と、板厚がΔhだけ厚くなった平板状物体3の表面3b上の検査位置IP2で反射した反射光RL2の光路を示している。
図4(a)の透過特性f(Φ,θ)を有するスクリーン5を用いた場合、図7に示した板厚変動に伴う各物理量の変化の一例について説明する。
平板状物体3の板厚がΔhだけ厚くなることにより、同じ光路の入射光ILでは、平板状物体3の表面3a上における検査位置IP1よりも、平板状物体3の表面3b上における検査位置IP2が、光源4側に距離xだけ変位する。そのため、反射光RL1のスクリーン5上の投影位置PP1に対して、反射光RL2のスクリーン5上の投影位置PP2が変動する。ここで、図7中に示すように、スクリーン5に沿って座標軸としてY軸をとり、反射光RL1のスクリーン5上の投影位置PP1を原点としたとき、反射光RL2のスクリーン5上の投影位置PP2の位置をY=Δとする。
このとき、反射光RL2の強度変化率k(Δ)、入射角Φ(Δ)、方向角θ(Δ,L)について考察すると、以下のようになる。
まず、反射光RLの強度Irは、入射角及び反射角が変化しないため一定である。すなわち、k(Δ)は一定である。
次に、反射光RLのスクリーン5に対する入射角Φは、板厚変化にかかわらず一定である。したがって、スクリーン5上の位置Δにかかわらず、Φ=0[°]と近似して、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)は変化しないと近似する。
次に、方向角θは、スクリーン5上の位置Δにより変化し、θ=arctan(Δ/L)の関係がある。
以上をまとめると、図7の場合は、k(Δ)は一定、Φ(Δ)=0、θ(Δ,L)=arctan(Δ/L)である。これは、図6の場合と同一の条件であることから、スクリーン5と撮像装置6との距離Lの範囲は、上記数式(9)で得ることができる。
図4(b)の透過特性f(Φ,θ)を有するスクリーン5を用いた場合、上記の段落[0079]から段落[0084]に記載したのと同様に、図6の場合と同じ条件、すなわち、k(Δ)は一定、Φ(Δ)=0、θ(Δ,L)=arctan(Δ/L)が得られることから、スクリーン5と撮像装置6との距離Lの範囲は、上記数式(11)で得ることができる。
なお、理論的な解析が困難な場合は、コンピュータ等によって上記数式(7)を用いたシミュレーションを実施し、スクリーン5と撮像装置6との距離Lの範囲を求めてもよい。
また、説明の簡便化を図るために、上述した議論は、2次元平面内に全ての光路が含まれる前提で行ったが、3次元空間内に光路が含まれるように拡張して適用することも可能である。
以上の考察は、スクリーン5と撮像装置6との距離Lを決定するためだけではなく、スクリーン5と撮像装置6との距離L、及び、投影位置PPの座標Δの範囲が得られたとき、透過光TLを捉えるのに必要な撮像装置6の台数を見積もるのに利用することもできる。
図8は、実施形態に係る表面欠陥検出装置1Aの他例の概略構成を示した模式図である。図8に示した表面欠陥検出装置1Aは、図1に示した表面欠陥検出装置1に対して、2つの撮像装置6a,6b、及び、演算部9を備えている。演算部9は、後述するように、2つの撮像装置6a,6bがそれぞれ計測した投影位置PPを統合して、前記傾きに関する情報を算出する演算手段である。演算部9で算出された前記傾きに関する情報は、コンピュータ7に送信される。撮像装置6aは、スクリーン5を透過して拡散された透過光TLaを受光し、撮像装置6bは、スクリーン5を透過して拡散された透過光TLbを受光する。
本発明の構成によれば、計測中に投影位置PPの座標Δの変動する範囲は、計測対象の表面の傾きの角度αによって変動する。これは、上記数式(3)を変形して得られる下記数式(12)に基づき説明することができる。
上記数式(12)によれば、計測中の投影位置PPの座標Δは、平板状物体3の表面における微小な傾きの角度α、検査位置IPからスクリーン5までの反射光RL1の光路長D、反射光RL1とスクリーン5とのなす角度Ψ0によって決定される。計測中に変化する量は微小な傾きの角度αのみであり、光路長D及び角度Ψ0は設計時に決定される。したがって、平板状物体3の表面における微小な傾きの角度αのα1≦α≦α2の変動に伴って投影位置PPの座標Δが変動し、その範囲がΔ1’≦Δ≦Δ2’であるとする。
一方で、各撮像装置6で計測可能な範囲は、上記数式(7)をLではなくΔについて解くことで、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)、反射光RLの強度Ir、スクリーン5と撮像装置6との距離L、及び、背景輝度Ibが与えられたときに、計測可能な投影位置PPの座標Δの範囲Δ1≦Δ≦Δ2を算出することができる。
例えば、上記数式(10)をΔについて解くと、下記数式(13)のようになる。
上記数式(13)は、図4(b)に示すスクリーン5の透過特性f(Φ,θ)、反射光RLの強度Ir、スクリーン5と撮像装置6との距離L、及び、背景輝度Ibから、撮像装置6で計測が実現できるようなスクリーン5上における投影位置PPの位置Δの範囲が決定できることを示している。
一方で、図9は、2つの撮像装置6a,6bのそれぞれでスクリーン5上の投影位置PPを計測可能な範囲を示した図である。表面欠陥検出装置1Aが備える2つの撮像装置6a,6bのうち、下側に位置する撮像装置6aで計測可能なスクリーン5上の投影位置PPの領域F1は、スクリーン5に沿ったY軸方向で、下端位置をΔ11とし、上端位置をΔ12とすると、Δ11≦Y≦Δ12の範囲内である。また、撮像装置6aの上方に位置する撮像装置6bで計測可能なスクリーン5上の投影位置PPの領域F2は、前記Y軸方向で、下端位置をΔ21とし、上端位置をΔ22とすると、Δ21≦Y≦Δ22の範囲内である。
このとき、図9に示すように、Δ21<Δ12であれば、撮像装置6aの領域F1と撮像装置6bの領域F2とは、互いに重複する重複領域F3を持つ。このとき、計測中のスクリーン5上の投影位置PPの座標Δの変動の範囲Δ1’≦Δ≦Δ2’が、Δ11≦Y≦Δ22の範囲内に含まれる場合は、計測中を通じて2つの撮像装置6a,6bのうち、少なくとも一方によって投影位置PPの計測が可能となる。
具体的には、撮像装置6a,6bよる計測可否情報と、計測された投影位置PPの位置情報とを、撮像装置6a,6bから演算部9に送信する。そして、撮像装置6aまたは撮像装置6bの一方のみで投影位置PPの計測が可能だった場合には、その計測値に基づいて平板状物体3の表面の傾きを算出する処理を演算部9が行う。また、両方の撮像装置6a,6bによって投影位置PPの計測が可能だった場合には、撮像装置6a,6bの両方の計測値の位置合わせを行って、投影位置PPの位置を決定し、その決定した計測値に基づいて平板状物体3の表面の傾きを算出する処理を演算部9が行う。また、いずれの撮像装置6a,6bでも投影位置PPを計測できない場合には、投影位置PPの計測不可とする処理を演算部9が行う。
なお、計測中のスクリーン5上の投影位置PPの座標Δの変動の範囲Δ1’≦Δ≦Δ2’が、Δ11≦Y≦Δ22の範囲内に含まれない場合は、3つ以上の撮像装置6を設置することで投影位置PPの計測範囲を拡大すればよい。すなわち、図8では、表面欠陥検出装置1Aが2つの撮像装置6a,6bを備えた場合について説明したが、3つの以上の撮像装置6を備えた場合も同様に、前記Y軸方向で、互いの計測可能な領域を重なるように各撮像装置6の配置を行うことによって、投影位置PPの計測範囲を拡大することができる。
[実施例1]
本実施例では、本発明を用いることによって、スクリーン5上の投影位置PPの変動に対して、撮像装置6の受光位置SPの許容範囲を決定する例を示す。なお、以下の実験では、平板状物体3の板厚変動に対する透過光TLの強度変動を算出した。
図10は、本実施例で使用した実験装置の概略構成を示した模式図である。図11は、実験装置におけるスクリーン5から撮像装置6までの配置の詳細を示した図である。本実施例では、平板状物体3として、厚さ5[mm]以下、一辺300[mm]程度のサイズに切り出した鋼板片を使用した。そして、平板状物体3をリニアステージ10上に載せて、図10中の矢印B方向に平板状物体3を移動させた。そして、平板状物体3を矢印B方向に移動させながら、光源4からの入射光ILを平板状物体3の表面上の検査位置IPで反射させ、反射光RLがスクリーン5を透過して拡散された透過光TLを、撮像装置6で受光した。スクリーン5としては、図4(b)に示した透過特性f(Φ,θ)を持つ拡散板を使用した。また、撮像装置6には、モノクロエリアカメラを使用した。また、反射光RLは、スクリーン5に対して垂直に入射させ、スクリーン5と撮像装置6との距離Lは、L=300[mm]とし、スクリーン5と撮像装置6とが正対するように配置した。また、透過光TLの強度Itは、撮像装置6でスクリーン5を撮影して得られた像の輝度値Icを用いて評価した。
本実施例では、鋼板の厚み変動を模擬して、平板状物体3の入射光ILが入射される表面である上面の高さを2水準で変えて、スクリーン5上の2つの投影位置PP1,PP2を、スクリーン5に沿ったY軸方向で上下に変化させた。なお、図11中に示したように、スクリーン5に沿って座標軸としてY軸をとり、反射光RL1のスクリーン5上の投影位置PP1を原点としたとき、反射光RL2のスクリーン5上の投影位置PP2の位置をY=Δとする。その上で、撮像装置6を用いてスクリーン5を撮影し、スクリーン5に投影された像を撮影した。最後に、撮像装置6で撮影した像の輝度値Ic(透過光TLの強度Itに相当する)が、平板状物体3の上面の高さに対してどのように変化するかを調べた。
続いて、上記数式(7)に基づいて透過光TLの強度変化を計算する。図12は、本実施例の実験で使用したスクリーン5の透過特性f(Φ,θ)を示した図である。ただし、Φ=0[°]とした。
図12に使用したスクリーン5の透過特性f(Φ=0[°],θ)を示す。スクリーン5の透過特性f(Φ=0[°],θ)は、下記数式(14)で表され、方向角θが0[°]を中心とし、半値全幅が30[°]である正規分布をなす。ただし、A=1、σ=18.05であった。
次に、上述した実施形態に記載の方法に従って、平板状物体3の表面の高さと投影位置PPの位置Δとの関係を導出する。
平板状物体3の厚みが変動しても、反射光RL1及び反射光RL2のそれぞれのスクリーン5への入射角Φは変動しないことから、スクリーン5上の投影位置PP1,PP2にかかわらず、反射光RL1,RL2の強度は変わらないと考えられる。なお、検査位置IPが、図10中で平板状物体3の移動方向の下流側及び上流側に変位することに伴う、反射光RL1,RL2の光量変動の影響は無視した。また、反射光RL1,RL2のスクリーン5への入射角Φは、常に変動せず、Φ=0[°]である。また、方向角θは、スクリーン5上の投影位置PPの位置Δと、撮像装置6との位置関係によって計算される。図11から、θ(Δ,L)=arctan(Δ/L)である。
以上から、本実施例での実験条件は、上述した実施形態の記載の条件と一致することがわかるため、スクリーン5上の投影位置PPの位置Δに対して、透過光TLの強度Itは上記数式(10)の左辺に一致する。
次に、平板状物体3の高さを変化させながら、反射光RLの投影位置Δと撮像装置6で計測された輝度値Icを計測し、両者の関係を調査した。平板状物体3の高さを変化させたとき、最も輝度値Icが大きくなるのは、Δ=0[mm]のときで、その値はIc0=16であった。以後、輝度値の評価は、計測された輝度値Icを前記Ic0で割った相対値で評価する。また、本実験において、反射光RLを検出するために必要な輝度値の下限IcLは12であった。このときの透過光TLの強度Itは、背景輝度Ibに等しい。
輝度値Icと、透過光TLの強度Itとは、比例すると考えられることから、下記数式(15)が成立する。
上記数式(15)を変形することにより、下記数式(16)、及び、下記数式(17)が得られる。
上記数式(16)より、輝度の相対値Ic/Ic0は、スクリーン5の透過特性f(Φ,θ)に一致することがわかる。
また、上記数式(17)を上記数式(13)に代入することで、計測可能なΔの満たす下記数式(18)の条件式を輝度値の値をもとに算出することができる。
図13は、本発明の実施例1にかかる実験結果を示した図である。図13に、投影位置PPの位置と輝度値の相対値Ic/Ic0との関係を表した実験結果を示す。図13では、上記数式(11)を用いて算出した投影位置Δに対する輝度値の相対値Ic/Ic0の変化を実線で示し、実験により得られた投影位置Δに対する輝度値の相対値Ic/Ic0のプロットを符号黒丸(●)で示す。図13より両者は同一の傾向を持ち、上記数式(14)の正当性が確認できた。
また、上記数式(18)に基づき、計測可能な投影位置PP2の座標Δの範囲を求めると、|Δ|<51.2[mm]であった。このことから投影位置PP2は、カメラの正面から51.2[mm]以上ずれると計測ができなくなることが計算される。図13に点線でその範囲を示す。実際、図13に示した計測点Aは、Δ=-85[mm]であり、このときの輝度値は6であった。
以上、実施形態に係る表面欠陥検出装置1では、上記数式(10)に基づく解析により、表面傾きが計測可能であるためのΔの範囲を計算することが可能である。
[実施例2]
次に、実施例1で得られた許容される角度範囲内で測定した場合と、そうでない場合とで、得られる像を比較した。
図10は、本実施例で使用した実験装置の概略構成を示した模式図である。図11は、実験装置におけるスクリーン5から撮像装置6までの配置の詳細を示した図である。本実施例では、平板状物体3として、厚さ5[mm]以下、一辺300[mm]程度のサイズに切り出した鋼板片を使用した。鋼板片として表面に腰折れが生じたものを使用した。そして、平板状物体3をリニアステージ10上に載せて、図10中の矢印B方向に平板状物体3を移動させた。そして、平板状物体3を矢印B方向に移動させながら、光源4からの入射光ILを平板状物体3の表面上の検査位置IPで反射させ、反射光RLがスクリーン5を透過して拡散された透過光TLを、撮像装置6で受光した。スクリーン5としては、図4(b)に示した透過特性f(Φ,θ)を持つ拡散板を使用した。また、撮像装置6には、モノクロエリアカメラを使用した。また、反射光RLは、スクリーン5に対して垂直に入射させ、スクリーン5と撮像装置6との距離Lは、L=300[mm]とし、スクリーン5と撮像装置6とが正対するように配置した。
本実施例では、鋼板の厚み変動を模擬して、平板状物体3の入射光ILが入射される表面である上面の高さを複数変化させ、スクリーン5上の投影位置PP2を、スクリーン5に沿ったY軸方向で上下に変化させた。なお、図11中に示したように、スクリーン5に沿って座標軸としてY軸をとり、反射光RL1のスクリーン5上の投影位置PP1を原点としたとき、反射光RL2のスクリーン5上の投影位置PP2の位置をY=Δとする。その上で、撮像装置6を用いてスクリーン5を撮影し、スクリーン5に投影された像を撮影した。最後に、上記数式(5)に基づいて平板状物体3の角度αを算出し、投影位置PP2の位置Y=Δの変化とともに、角度αの算出結果がどのように変化するかを調べた。
図14は、本発明の実施例2にかかる実験結果の一例目を示した図である。図14に、本実施例の実験結果である、表面傾き計測の結果を示す。図14には、3種類のΔの値に対する結果を示している。濃淡は計測された表面傾きを表しており、図中上下方向が、リニアステージの移動方向Bに対応する。また、黒は反射光を計測できないことに起因するデータ抜けを意味する。図14からわかるように、図14(a)及び図14(b)の場合には、上記数式(14)により得られた条件|Δ|<51.2[mm]を満たしており、データ抜けは見られず表面傾きが計測されているのがわかる。一方で、図14(c)の場合は、上記数式(14)による条件の境界に近い値、すなわち、|Δ|≒51.2[mm]をとっており、多くの領域でデータ抜けを起こしていることがわかる。
以上から、上記数式(10)に基づく解析により得られたΔの条件内では、好ましい計測結果が得られたのに対し、Δの条件外では、データ抜けのある計測結果が得られることがわかった。
次に、スクリーン5として、図4(a)に示した透過特性f(Φ,θ)を持つ拡散板を使用して同様の実験を行った。上記数式(9)によると、この場合は、投影位置Δによらず、スクリーンの透過特性の定数値Cによって、計測の可否が決定される。パワーメータを用いた光量比の調査により、実験に使用したスクリーンの透過特性の定数値はC=0.35であった。
図15は、本発明の実施例2にかかる実験結果の二例目を示した図である。図15に、本実施例の実験結果である、表面傾き計測の結果を示す。図15(a)、図15(b)、及び、図15(c)には、2種類のΔにおける計測結果が示されている。図15(a)及び図15(b)では、入射光ILの光量を標準の値に設定して実験を実施し、図15(c)及び図15(d)では、入射光ILの光量を標準の値の2倍に設定して実験を実施した。濃淡は、計測された表面傾きを表しており、図中上下方向が、リニアステージの移動方向Bに対応する。また、黒は反射光を計測できないことに起因するデータ抜けを意味する。図15(a)及び図15(b)からわかるように、Δの値が変化してもデータ抜けの程度は変化しなかった。また、図15(c)及び図15(d)では、データ抜けの領域が減少し、Δの変化によらず受光光量が背景輝度Ibを下回っていることから、完全に抜けのないデータ取得はできていない。言い換えれば、入射光ILの光量がデータ抜けを起こさない程度に十分ある場合は、Δの値に関わらず、安定した計測が可能となる。
以上、実施形態に係る表面欠陥検出装置1では、上記数式(7)に基づく解析により、表面傾きが計測可能であるためのΔの範囲を計算することが可能であることがわかる。
以上のように、実施形態に係る表面欠陥検出装置1,1A及び表面欠陥検出方法では、反射光RLのスクリーン5上の投影位置PPを用いて、平板状物体3の入射光ILの検査位置IPにおける基準平面に対する傾き情報を検出し、平板状物体3の位置毎に傾き情報を取得する。平板状物体3からの反射光RLは、透過性を持つ半透明のスクリーン5を介して撮像装置6に入射する。スクリーン5を透過した透過光TLは、投影位置PPを中心として限られた角度範囲に散逸しながら撮像装置6に入射する。したがって、反射光RLのエネルギーを全方位に散逸させる不透明のスクリーンに比べ、前述の特徴を備えた半透明のスクリーン5を用いたほうが、透過光TLのエネルギーを撮像装置6に集中させることができ、高効率な反射光RLの検出が可能である。
また、本発明を鋼板の製造設備を構成する検査装置として適用してもよい。すなわち、本発明に係る表面欠陥検出装置1,1Aによって、公知または既存の製造設備によって製造された鋼板の表面を検査するようにしてもよい。
また、本発明を鋼板の製造方法に含まれる検査ステップとして適用してもよい。すなわち、公知または既存の製造ステップにおいて製造された鋼板の表面を検査するようにしてもよい。このような鋼板の製造設備及び鋼板の製造方法によれば、鋼板を歩留りよく製造することができる。
さらに、本発明を鋼板の品質管理方法に適用し、鋼板の表面を検査することにより、鋼板の品質管理を行うようにしてもよい。具体的には、本発明で鋼板の表面欠陥の有無を検出ステップで判定し、検査ステップで得られた判定結果から、鋼板の品質管理を行うことができる。検査ステップでは、本発明を用いて鋼板の表面を検査し、鋼板の表面欠陥の有無についての結果を得る。次に続く品質管理ステップでは、検査ステップにより得られた、鋼板の表面欠陥の有無に関する結果に基づき、製造された鋼板が予め指定された基準を満たしているかどうかを判定し、鋼板の品質を管理する。このような鋼板の品質管理方法によれば、高品質の鋼板を提供することができる。