JP7194814B2 - 介助装置 - Google Patents

Description

本明細書は、被介助者の起立動作を介助する介助装置に関する。

高齢化社会の進展に伴い、介助装置のニーズが増大している。介助装置は、一般的に、被介助者の身体の一部を支持した支持部材を動作させて介助を行う。介助装置の導入によって、介助者および被介助者の身体的な負担が軽減されるとともに、介助者の人手不足も緩和される。介助装置の一例として、被介助者の座位姿勢からの起立動作を介助する装置がある。この種の介助装置に関連する技術例が特許文献１、２に開示されている。

特許文献１の姿勢変換装置は、揺動するアームと、アームの先端に取り付けられて患者の両脇を支える支持部材と、患者の膝を支える膝パッドと、アームの先端に設けられて患者の胸を支える胸パッドと、支持部材の有効長さを調整する手段とを有し、患者の胸を胸パッドに預けさせた後に、アームを揺動させて患者の姿勢変換を行う。これによれば、患者に違和感を与えることなく、座位姿勢と起立姿勢との間で患者の姿勢を変えることができる、とされている。

また、特許文献２の移乗装置は、床面に設置される支持構造体と、移乗者の上体を受け入れる位置と上体を持ち上げる位置の間を揺動自在に支持構造体に装着された支持アームと、支持アームの先端部に取り付けられた上体支持部と、支持アームの両側に配設された膝当て支持部と、を備える。さらに、移乗者の体格に応じて、膝当て支持部の前後方向の位置調整が可能となっている。これによれば、移乗者を持ち上げて所要のとおりに移乗させることができる、とされている。

特開平９－５７０号公報 特開２０１３－７８４８２号公報

ところで、特許文献１、２の介助装置では、被介助者（患者、移乗者）の体格に応じて、膝当て部材（膝パッド、膝当て支持部）の前後方向の位置が調整される。しかしながら、介助の現場では、介助装置の膝当て部材の位置を調整しても、円滑な介助を行えないケースがときおり発生する。具体的な例で、着座姿勢を維持する力が弱い高齢者は、上体が後傾して仙骨に大きな体圧が加わる仙骨座りになっている場合がある。この場合、膝が膝当て部材に当接していても、上体は、後傾している分だけ支持部材（上体支持部）から遠く離れている。このため、被介助者の上体が支持部材に寄り付くことができず、起立動作の介助が困難となる。

本明細書では、被介助者の座位姿勢のばらつきに対応して、支持部材と膝当て部材との位置関係を調整可能とすることにより、確実に介助を行うことができる介助装置を提供することを課題とする。

本明細書は、被介助者の座位姿勢から起立姿勢への起立動作を介助する介助装置であって、基台と、前記基台に対して少なくとも上下方向に動作可能な動作部材と、前記動作部材に設けられ、前記被介助者の上体を前側または下側から支持する支持部材と、前記基台に設けられ、前記被介助者の膝が当接する膝当て部材と、前記座位姿勢のうち前記被介助者の上体が後傾して仙骨に大きな体圧が加わる仙骨座り、および前記被介助者の上体が概ね直立して坐骨に大きな体圧が加わる坐骨座りの両方において、前記被介助者の膝が前記膝当て部材に当接した状態で前記被介助者の上体が寄り付き可能な位置に前記支持部材を配置するように、前記支持部材と前記膝当て部材の水平離間距離を調整可能とした位置調整部と、を備える介助装置を開示する。

本明細書で開示する介助装置によれば、被介助者の仙骨座りおよび坐骨座りの両方において、位置調整部は、支持部材と膝当て部材の水平離間距離を調整して、被介助者の膝が膝当て部材に当接した状態で被介助者の上体が寄り付き可能な位置に支持部材を配置することができる。このため、被介助者の上体は、座位姿勢を問わず、確実に支持部材に寄り付くことができる。したがって、介助装置は、被介助者の座位姿勢のばらつきに対応して確実に介助を行うことができる。

実施形態の介助装置の初期状態を示す側面図である。 図１の矢印II方向から見た平面断面図であって、支持部材と膝当て部材の水平離間距離を示す図である。 被介助者の坐骨座りに対応して、水平離間距離が適正に調整された状態を示す側面図である。 被介助者が仙骨座りしているにも関わらず、坐骨座りに対応する不適正な水平離間距離に調整された状態を示す側面図である。 被介助者の仙骨座りに対応して、水平離間距離が適正に調整された状態を示す側面図である。

１．実施形態の介助装置１の構成
実施形態の介助装置１の構成について、図１および図２を参考にして説明する。介助装置１は、例えば、被介助者のベッドと車椅子と間の移乗や、車椅子と便座の間の移乗など、異なる二箇所の間の移乗に利用される。介助装置１は、被介助者の上体を支持して、座位姿勢から起立姿勢への起立動作、および起立姿勢から座位姿勢への着座動作を介助する。

ここで、起立姿勢は、臀部が座面から浮いて脚部が伸びた姿勢を意味し、立位姿勢および中腰姿勢を含む。つまり、起立姿勢は、上体が概ね直立した立位姿勢、および上体が前傾した中腰の前かがみの姿勢などを含む。また、介助装置１は、移乗する二箇所が離れている場合に、起立姿勢の被介助者を移送することができる。介助装置１は、基台２、動作部材３、支持部材４、アクチュエータ５、膝当て部材６、位置調整部７、および図略の制御部などで構成される。

基台２は、足載置台２１、基台ロッド２５、取り付け板２６、および前輪２８などで形成される。足載置台２１は、床面Ｆに近接して概ね水平に配置される。足載置台２１は、被介助者が足を載せる部位である。足載置台２１の上面の前側寄りに、アクチュエータ支持部２２が上向きに設けられる。左右一対の後輪２３は、足載置台２１の下面の後部の左右に設けられる。左右一対の中輪２４は、足載置台２１の下面の前側寄りの左右に設けられる。

左右一対の基台ロッド２５は、足載置台２１の前側の左右にそれぞれ設けられる。基台ロッド２５は、前方に延び、さらに上方へ向かって屈曲している。基台ロッド２５の屈曲した上部に、左右一対の取り付け板２６がそれぞれ垂直に設けられる。左右一対の取り付け板２６の上部の前側に、揺動支持座２７がそれぞれ設けられる。左右一対の取り付け板２６の下部の前側に、左右一対の前輪２８が設けられる。前輪２８および後輪２３の転舵機能により、介助装置１は、直進移動および旋回移動だけでなく、横移動および超信地旋回が可能となっている。さらに、前輪２８は、移動を規制するロック機能を備える。

左右一対の取り付け板２６の上方に、位置調整部７が配置される。位置調整部７は、被介助者の体格および着座姿勢に適合するように、膝当て部材６の前後方向の位置を調整する手動調整機構である。膝当て部材６は、被介助者の膝ＭＨが当接する部材である。膝当て部材６が膝ＭＨの位置を定めることにより、被介助者の起立動作や着座動作が安定化する。膝当て部材６は、ベースプレート６１、支持ロッド６２、硬質緩衝部材６３、および軟質緩衝部材６４などで形成される。

ベースプレート６１は、図１に示されるように、垂直方向よりも少しだけ前傾して配置される。また、ベースプレート６１は、図２に示されるように左右方向に延在し、左右両側が後向きに斜めに屈折している。ベースプレート６１の前面の左右に、前向き斜め下方向に延びる一対の支持ロッド６２が設けられる。ベースプレート６１および支持ロッド６２は、アルミなどの金属材料を用いて形成される。

硬質緩衝部材６３は、ベースプレート６１の後側に接して配置される。軟質緩衝部材６４は、硬質緩衝部材６３の後側に接して配置される。硬質緩衝部材６３および軟質緩衝部材６４は、ベースプレート６１と同様、左右両側が後向きに斜めに屈折している。硬質緩衝部材６３および軟質緩衝部材６４は、弾性変形可能な材料、例えばウレタンフォームを用いて形成される。ただし、軟質緩衝部材６４は、硬質緩衝部材６３と比較して低反発性であり、弾性変形しやすい。図２に示されるように、軟質緩衝部材６４の後面は、被介助者の両方の膝ＭＨが当接する接触面となる。硬質緩衝部材６３および軟質緩衝部材６４は、布製や皮製の保護カバー６５で覆われている。

位置調整部７は、左右一対のスライド支持部７１、スライド移動部７２、および位置決めピン７３で構成される。スライド支持部７１は、取り付け板２６の上方に固定される。スライド支持部７１は、前後方向に延びるとともに、後側に開口する金属製円筒状の部材である。スライド支持部７１の後部の上面に、ピン孔７４が穿孔されている。

スライド移動部７２は、膝当て部材６の支持ロッド６２の前側に固定されている。スライド移動部７２は、前後方向に延びる金属製丸棒状の部材である。スライド移動部７２の外径は、スライド支持部７１の円筒状の内径よりも小さい。したがって、スライド移動部７２は、スライド支持部７１の内部に入り込み、スライド支持部７１に沿って前後方向にスライド移動することができる。スライド移動部７２の上面には、前後方向に並ぶ複数の位置決め孔が設けられる。

位置決めピン７３は、スライド支持部７１のピン孔７４に抜き挿し可能に挿入され、さらに、スライド移動部７２のいずれかの位置決め孔に挿入される。これにより、膝当て部材６の前後方向の位置が定まる。介助者は、位置決めピン７３を一旦抜き取り、スライド移動部７２とともに膝当て部材６を移動させ、位置決めピン７３を再度挿入することにより、膝当て部材６の前後方向の位置を段階的に調整することができる。

動作部材３は、基台２に対して少なくとも上下方向に動作可能である。動作部材３は、図１に示されるように、側方から見て途中で屈折したアーム形状に形成される。動作部材３の下部に、左右一対の揺動軸３２が設けられる。揺動軸３２は、取り付け板２６の揺動支持座２７に揺動可能に支持される。動作部材３の揺動角度範囲を規制するために、図略のストッパ機構が揺動支持座２７の近傍に設けられる。

これにより、動作部材３は、基台２に対して上前方向および下後方向に揺動可能となっている。動作部材３の上前方向への揺動（図１における時計回りの揺動）は、被介助者の起立動作を介助する。また、動作部材３の下後方向への揺動は、被介助者の着座動作を介助する。動作部材３の内部には、図略のバッテリおよびリンク機構が収納される。バッテリは、アクチュエータ５および制御部の電源となる。なお、本願出願人は、リンク機構の詳細な構成例を国際公開第２０１８／１６７８５６号に開示している。動作部材３の上部の後側に、符号略の揺動支持部が設けられる。

支持部材４は、被介助者の上体を前側または下側から支持する。支持部材４は、上体支持部材４１および左右一対の脇支持部材４７を含んで形成される。上体支持部材４１は、動作部材３の揺動支持部に揺動可能に支持される。上体支持部材４１は、初期状態においてわずかに前傾している。支持部材４の全体は、揺動支持部を中心にして揺動する。支持部材４の前方への揺動（図１における時計回りの揺動）は、被介助者の起立動作を介助する。また、支持部材４の後方への揺動は、被介助者の着座動作を介助する。

図１および図２に示されるように、上体支持部材４１は、ベースプレート４２、硬質緩衝部材４３、および軟質緩衝部材４４などで形成される。ベースプレート４２は、金属製や樹脂製の剛性の大きな板材を用いて概ね矩形に形成される。硬質緩衝部材４３は、ベースプレート４２の後側に接して配置される。軟質緩衝部材４４は、硬質緩衝部材４３の後側に接して配置される。

硬質緩衝部材４３および軟質緩衝部材４４は、弾性変形可能な材料、例えば、ウレタンフォームを用いて形成される。ただし、軟質緩衝部材４４は、硬質緩衝部材４３と比較して低反発性であり、弾性変形しやすい。軟質緩衝部材４４の後面は、被介助者の上体ＭＪの一部である胸部から腹部の辺りに接触する接触面となる。

ベースプレート４２は、動作部材３の揺動支持部に取り付けられる取り付け部４５、およびハンドル４６を前面に有する。ハンドル４６は、概ね四角形の枠形状に形成され、動作部材３の上方に延在する。ハンドル４６は、被介助者が把持する部位であるとともに、介助装置１を移動させるために介助者が把持する部位でもある。

左右一対の脇支持部材４７は、上体支持部材４１の左右両側の胸部寄りに取り付けられる。脇支持部材４７は、鈍角に屈曲するＬ字状に形成される。脇支持部材４７は、図略の芯部材および外周部材などで形成される。芯部材は、例えば、金属製または硬質樹脂製の丸棒やパイプが屈曲されて形成される。外周部材は、クッション材を用いて、芯部材の外周を覆う筒状に形成される。脇支持部材４７の取り付け側の基端から屈曲位置までの短い直線状部分は肩受け部となり、屈曲位置から先端までの長い直線状部分は脇進入部となる。肩受け部は、被介助者の肩の前面を支持する。脇進入部は、被介助者の脇に進入して上体を支持する。上体支持部材４１および脇支持部材４７は、布製や皮製の保護カバーで覆われていてもよい。

アクチュエータ５は、伸縮アクチュエータであり、本体部５１、可動部５２、およびモータ５３などで構成される。本体部５１は、上下に長い太径の円筒状の部材であり、上方に開口する開口部を有する。本体部５１の下端は、基台２のアクチュエータ支持部２２に支持される。可動部５２は、上下に長い細径の丸棒状の部材である。可動部５２の上端は、動作部材３のリンク機構に接続される。可動部５２の下部は、本体部５１の開口部に嵌入している。

モータ５３は、本体部５１の下部の前側に取り付けられる。モータ５３は、図略の制御部によって流れる電流の方向が制御され、可動部５２の伸び動作および縮み動作を駆動する。モータ５３からの駆動により、可動部５２は、本体部５１に対して伸縮動作する。図１は、可動部５２が縮んでアクチュエータ５が短縮長さとなった初期状態を示している。なお、アクチュエータ５は、モータ５３に代えて油圧や空気圧を用いた圧力駆動源などの別種の駆動源を用いることができる。

アクチュエータ５は、短縮長さから所定の途中長さまで伸びる第一伸び動作、途中長さから伸長長さまで伸びる第二伸び動作、および、伸長長さから途中長さを経て短縮長さまで縮む縮み動作を行う。アクチュエータ５の第一伸び動作は、リンク機構を介して支持部材４に伝達される。これにより、支持部材４は、前方に揺動する。アクチュエータ５の第二伸び動作は、リンク機構を介して動作部材３に伝達される。これにより、動作部材３は、上前方向に揺動する。アクチュエータ５の縮み動作により、まず動作部材３が下後方向に揺動し、続いて支持部材４が後方に揺動する。

図略の制御部は、操作器および制御本体部などで構成される。操作器は、アクチュエータ５を操作する上昇ボタンおよび下降ボタンを有する。操作器は、介助者によって操作される。制御本体部は、ＣＰＵを有してソフトウェアで動作するコンピュータ装置を用いて構成される。制御本体部は、上昇ボタンおよび下降ボタンの操作情報に応じて、アクチュエータ５のモータ５３に流れる電流の有無、および流れる方向を制御する。これにより、アクチュエータ５の動作および停止、ならびに伸び動作と縮み動作の切り替えが制御される。

２．水平離間距離ＤＨ
次に、支持部材４と膝当て部材６の水平離間距離ＤＨについて説明する。図２に示されるように、水平離間距離ＤＨは、支持部材４の変形していない軟質緩衝部材４４の接触面と、膝当て部材６の変形していない軟質緩衝部材４４の接触面の相互離間距離で規定される。水平離間距離ＤＨは、位置調整部７によって調整可能となっている。

水平離間距離ＤＨは、被介助者の体格のばらつきに対応して調整される。具体的には、長身で大腿骨の長い被介助者に対して水平離間距離ＤＨは大きめに調整され、短身で大腿骨の短い被介助者に対して水平離間距離ＤＨは小さめに調整される。被介助者の体格のばらつきに対応する体格調整範囲として、水平離間距離ＤＨ＝１８０～２４０ｍｍの範囲が設定される。この体格調整範囲は、日本人の体格のばらつきを考慮して設定された値である。日本人の体格のばらつきは、例えば、「日本人の人体寸法データブック２００４－２００６」（一般社団法人人間生活工学研修センター発行）などに公表されている。

従来構成の各種の介助装置において、体格調整範囲を考慮した調整箇所が設けられている。そして、介助装置の大型化を避け、さらにはコストの増加を抑制するために、体格調整範囲を過大に設定することは好ましくないとされていた。さりながら、発明者は、被介助者の座位姿勢のばらつきに対応するため、とりわけ仙骨座りを考慮して水平離間距離ＤＨの調整範囲を延長すべきであることを見出した。すなわち、本実施形態において、水平離間距離ＤＨは、さらに被介助者の座位姿勢のばらつきに対応して調整される。

被介助者の座位姿勢には、仙骨座りおよび坐骨座りが含まれる。図３～図５において被介助者Ｍの骨格が透視して示されている。図３は、被介助者Ｍの坐骨座りの状態を示し、図４および図５は、被介助者Ｍの仙骨座りの状態を示している。仙骨座りは、被介助者Ｍの上体ＭＪが後傾して、仙骨ＳＢに大きな体圧が加わる座位姿勢である。一方、坐骨座りは、被介助者Ｍの上体ＭＪが概ね直立して、坐骨ＺＢに大きな体圧が加わる座位姿勢である。ただし、座位姿勢のばらつきは、連続的に変化し得るものである。したがって、仙骨座りにおける上体ＭＪの後傾の程度は、ケースバイケースとなる。

被介助者Ｍが仙骨座りしていると、膝ＭＨが膝当て部材に当接した状態において、上体ＭＪは、後傾している分だけ支持部材４から遠く離れてしまう。したがって、水平離間距離ＤＨを大きく調整して、支持部材４を被介助者Ｍの上体ＭＪに接近させることが好ましい。被介助者Ｍの姿勢のばらつきに対応する姿勢調整範囲として、水平離間距離ＤＨ＝２４０～３００ｍｍの範囲が設定される。最大値の３００ｍｍは、長身の被介助者Ｍが顕著な仙骨座りをしている場合を考慮して設定されている。

上述のように、水平離間距離ＤＨの調整範囲は、体格調整範囲と姿勢調整範囲の和になる。そして、姿勢調整範囲は、体格調整範囲の最大値から大きな側に６０ｍｍだけ設定される。介助装置１の使用に際して、６０ｍｍを超える姿勢調整範囲が必要となるケースは、極く稀である。６０ｍｍを超える姿勢調整範囲を設定した場合、水平離間距離ＤＨが３００ｍｍを超えて介助装置１が大型化し、コストも増加するというデメリットが発生する。逆に、６０ｍｍ未満の姿勢調整範囲を設定した場合、調整範囲が不足するケースの発生頻度が増加する。

３．実施形態の介助装置１の動作および作用
次に、実施形態の介助装置１の動作および作用について説明する。以降では、被介助者Ｍの座位姿勢からの起立動作を介助する場合について説明する。介助者は、まず、アクチュエータ５を短縮長さまで戻して、図１に示される初期状態とする。続いて、介助者は、ハンドル４６を把持して介助装置１を移動させ、座位姿勢の被介助者Ｍに接近させる。次に、介助者は、位置調整部７を操作し、被介助者Ｍの体格および着座姿勢に適合するように膝当て部材６を適正な位置に配置する。これにより、介助装置１を使用する準備が整う。

被介助者Ｍは、下半身を支持部材４の下方の領域に進入させ、両足を足載置台２１に載置する。被介助者Ｍは、膝ＭＨを膝当て部材６に当接させることで、安定した姿勢が得られる。続いて、被介助者Ｍは、上体ＭＪを上体支持部材４１に寄り付かせて面接触させるとともに、両脇で脇支持部材４７にもたれかかって、上体ＭＪを預ける。このとき、上体支持部材４１は起立した方向（図１の反時計回りの方向）に揺動しているので、上体ＭＪの前傾角度は小さくて済む。また、脇支持部材４７がほぼ水平か僅かに後下がりとなるので、被介助者Ｍは、脇支持部材４７に容易にもたれかかることができる。

続いて、介助者は、操作器の上昇ボタンを押して、介助動作を進める。アクチュエータ５が第一伸び動作を行うと、支持部材４は前方に揺動する。この動作は、アクチュエータ５が所定の途中長さまで伸びるまで継続される。このとき、脇支持部材４７が前下がりとなるので、被介助者Ｍは、後方への移動が規制されて支持部材４から脱落しない。

さらに、アクチュエータ５が第二伸び動作を行うと、動作部材３は、上前方向に揺動する。この動作は、動作部材３の揺動がストッパ機構によって規制される終期状態まで継続される。これにより、被介助者Ｍは、臀部が座面から大きく上昇して、脚部が伸びた起立姿勢となる。

ここで、被介助者Ｍが坐骨座りしていて、水平離間距離ＤＨが適正に調整されると、図３に示される状態となる。このときの水平離間距離ＤＨは、ＤＨ１である。図示されるように、被介助者Ｍの膝ＭＨが膝当て部材６に当接した状態で、支持部材４は、被介助者Ｍの上体ＭＪに接近して配置される。つまり、支持部材４は、被介助者Ｍの上体ＭＪが寄り付き可能な位置に配置される。このため、被介助者Ｍは、上体ＭＪをわずかに動かすだけで支持部材４に寄り付ついて、上体ＭＪを預けることができる。したがって、介助装置１は、確実に介助を行うことができる。

また、着座姿勢を維持する力が弱い高齢の被介助者Ｍや病弱の被介助者Ｍなどは、上体ＭＪが後傾して仙骨ＳＢに大きな体圧が加わる仙骨座りになっている場合がある。被介助者Ｍが仙骨座りしているにも関わらず、水平離間距離ＤＨが坐骨座りに対応する水平離間距離ＤＨ１に調整されると、図４に示される不適正な状態となる。不適正な状態は、介助者が被介助者Ｍの姿勢を観察しないで位置調整部７を操作すると生じ得る。また、特定の被介助者Ｍに対して予め適正な水平離間距離ＤＨ１が設定されていても、たまたま被介助者Ｍが極端な仙骨座りをした場合に、不適正な状態が生じる。

図４に示される不適正な状態において、被介助者Ｍの膝ＭＨが膝当て部材６に当接した状態で、支持部材４は、被介助者Ｍの上体ＭＪから離れて配置される。つまり、図３の坐骨座りと比較して、被介助者Ｍの上体ＭＪは、後傾している分だけ支持部材４から遠くに離れる。このため、被介助者Ｍは、上体ＭＪを大きく動かさないと支持部材４に寄り付つくことができず、上体ＭＪを預けることが難しい。このため、介助装置１は、介助を行えない場合が生じる。

位置調整部７が体格調整範囲のみを有して姿勢調整範囲を有さない従来の介助装置において、水平離間距離ＤＨを最大限まで調整しても、調整範囲の不足により図４の状態を解消できない場合がある。これに対比し、実施形態の介助装置１において、位置調整部７の調整範囲は、体格調整範囲に加えて姿勢調整範囲が設定されている。したがって、図５に示されるように、水平離間距離ＤＨ１をさらに大きく調整することができる。

図５において、図３および図４の水平離間距離ＤＨ１における膝当て部材６の位置が破線で示されている。実施形態の介助装置１は、従来の介助装置と比較して水平離間距離ＤＨの大きな調整範囲を有するので、被介助者Ｍの仙骨座りに対応して、水平離間距離ＤＨをＤＨ２まで大きくすることができる。これにより、支持部材４は、被介助者Ｍの上体ＭＪに接近して配置される。仙骨座りの被介助者Ｍは、上体ＭＪをわずかに動かすだけで支持部材４に寄り付ついて、上体ＭＪを預けることができる。したがって、介助装置１は、仙骨座りの被介助者Ｍに対しても、確実に介助を行うことができる。

実施形態の介助装置１によれば、被介助者Ｍの仙骨座りおよび坐骨座りの両方において、位置調整部７は、支持部材４と膝当て部材６の水平離間距離（ＤＨ、ＤＨ１、ＤＨ２）を調整して、被介助者Ｍの膝ＭＨが膝当て部材６に当接した状態で被介助者Ｍの上体ＭＪが寄り付き可能な位置に支持部材４を配置することができる。このため、被介助者Ｍの上体ＭＪは、座位姿勢を問わず、確実に支持部材４に寄り付くことができる。したがって、介助装置１は、被介助者Ｍの座位姿勢のばらつきに対応して確実に介助を行うことができる。

４．実施形態の変形および応用
なお、実施形態において、位置調整部７は、膝当て部材６の位置を段階的に調整するが、これに限定されない。例えば、スライド支持部７１のピン孔７４に代えてねじ孔を設け、位置決めピン７３に代わる位置決めねじの締め込みによりスライド移動部７２の長さ方向の任意の位置を係止して、膝当て部材６の位置を自在に調整することができる。また、動作部材３および支持部材４の動作は、説明した態様に限定されず、例えば、動作部材によって支持部材が単純に上下動するだけの態様でもよい。さらに、支持部材４および膝当て部材６の構造は変形可能であり、変形に応じて水平離間距離ＤＨの調整範囲を変更することが可能である。その他にも、本実施形態は、様々な変形や応用が可能である。

１：介助装置 ２：基台 ３：動作部材 ４：支持部材 ４１：上体支持部材 ４３：硬質緩衝部材 ４４：軟質緩衝部材 ５：アクチュエータ ６：膝当て部材 ６３：硬質緩衝部材 ６４：軟質緩衝部材 ７：位置調整部 ７１：スライド支持部 ７２：スライド移動部 ７３位置決めピン ＤＨ、ＤＨ１、ＤＨ２：水平離間距離 Ｍ：被介助者 ＭＪ：上体 ＭＨ：膝 ＳＢ：仙骨 ＺＢ：坐骨

Claims (5)

1. 被介助者の座位姿勢から起立姿勢への起立動作を介助する介助装置であって、
   基台と、
   前記基台に対して少なくとも上下方向に動作可能な動作部材と、
   前記動作部材に設けられ、前記被介助者の上体を前側から支持する上体支持部材および前記被介助者の脇を支持する一対の脇支持部材を有して前記被介助者の背面を支持せず、前記座位姿勢で寄り付いた前記被介助者を支持する支持部材と、
   前記基台に設けられ、前記被介助者の膝が当接する膝当て部材と、
   前記座位姿勢のうち前記被介助者の上体が後傾して仙骨に大きな体圧が加わる仙骨座り、および前記被介助者の上体が概ね直立して坐骨に大きな体圧が加わる坐骨座りの両方において、前記被介助者の膝が前記膝当て部材に当接した状態で前記被介助者の上体が寄り付き可能な位置に前記支持部材を配置するように、前記支持部材と前記膝当て部材の水平離間距離を調整可能とした位置調整部と、
   を備える介助装置。
2. 前記水平離間距離の調整範囲は、前記被介助者の体格のばらつきに対応する体格調整範囲と、前記被介助者の前記座位姿勢のばらつきに対応する姿勢調整範囲の和である、請求項１に記載の介助装置。
3. 前記姿勢調整範囲は、前記体格調整範囲の最大値から大きな側に６０ｍｍの範囲内で設定される、請求項２に記載の介助装置。
4. 前記位置調整部は、前記基台に設けられたスライド支持部と、前記膝当て部材に設けられ前記スライド支持部に沿って前後方向に移動可能なスライド移動部とを含む、請求項１～３のいずれか一項に記載の介助装置。
5. 前記支持部材および前記膝当て部材は、弾性変形可能で前記被介助者に接触する接触面をもつ緩衝部材を有し、
   前記水平離間距離は、変形していない前記緩衝部材の前記接触面の相互離間距離で規定される、
   請求項１～４のいずれか一項に記載の介助装置。

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