以下に、実施の形態にかかるレーザ加工ヘッド、レーザ加工装置および金属製製造物の製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
実施の形態1にかかるレーザ加工装置についての説明に先立ち、実施の形態1における横収差の定義について説明する。ここで説明する横収差の定義は、実施の形態1と後述する実施の形態2および3との各々において共通であるものとする。
図1は、実施の形態1における横収差の定義について説明するための第1の図である。図1には、光源から出射される光線がコリメート光学系および集光光学系を通過して集光する様子を模式的に示す。図1において、光源は点光源111である。図1の(A)および(B)では、互いに異なる発散角の光線が点光源111から出射される場合における光線の振る舞いの違いを表す。図1の(A)には、発散角θ1の光線が点光源111から出射される場合の様子を示す。図1の(B)には、発散角θ2の光線が点光源111から出射される場合の様子を示す。ただし、θ1>θ2>0とする。発散角は、半角により表す。
以下の説明では、コリメート光学系は、単レンズであるコリメートレンズ112とする。集光光学系は、単レンズである集光レンズ113とする。コリメートレンズ112は、収差を生じさせないレンズとする。コリメートレンズ112は、無視できるほどに小さい収差を生じさせるレンズでも良い。集光レンズ113は、球面収差を生じる球面レンズとする。コリメートレンズ112は、点光源111からの距離がfcである位置に配置される。距離fcは、コリメートレンズ112の焦点距離である。距離ffは、集光レンズ113の焦点距離である。z方向は、コリメート光学系および集光光学系の各々の中心軸の方向とする。レーザ光の光軸は、中心軸と重なる。r方向は、中心軸に垂直な方向の1つであって、コリメートレンズ112および集光レンズ113の各々の径方向とする。
光線121は、点光源111から発散角θ1で出射する光線とする。光線122は、点光源111から発散角θ2で出射する光線とする。コリメートレンズ112を通過した光線121は、平行化により、光軸からの高さがh1である光線となる。コリメートレンズ112を通過した光線122は、平行化により、光軸からの高さがh2である光線となる。hi=fctanθi(i=1,2)が成り立つ。θiが十分に小さく、tanθi≒θiの近似が成り立つ場合、hi≒fcθiが成り立つ。なお、以下の説明では、光軸からの光線の高さを、光線高さと称する。
平行化された光線121,122は、集光レンズ113によって集光される。発散角θ1の場合、平行化された光線121が集光レンズ113によって集光され、近軸焦点117において横収差ΔY1を生じる。発散角θ2の場合、平行化された光線122が集光レンズ113によって集光され、近軸焦点117において横収差ΔY2を生じる。
図2は、実施の形態1における横収差の定義について説明するための第2の図である。図2には、横収差ΔYと光線高さhとの関係を表すグラフを示す。球面収差によって生じる横収差ΔYiは、光線高さhiの3乗に比例する(ΔYi∝hi
3)。tanθi≒θiの近似が成り立つ場合、hi≒fcθiにより、横収差ΔYiは、発散角θiの3乗に比例する(ΔYi∝θi
3)。
図1において、発散角θiが正であるときにおける光線高さhiが正であるように、径方向であるr方向が定義される。図1に示されるΔYiは、rの負方向に生じることから、負の横収差である。この結果から、θ1>θ2であるとき、ΔY1<ΔY2であって、かつ、|ΔY1|>|ΔY2|が成り立つ。以下、rの負方向に生じる横収差を負の横収差、rの正方向に生じる横収差を正の横収差と定義する。
なお、図1では、横収差と発散角との関係を簡易的に説明するため、点光源111から発散角θ1で出射する光線121と、点光源111から発散角θ2で出射する光線122とを説明に用いた。以下の各実施の形態では、光ファイバの出射端といった出射部から出射するレーザ光のうち発散角に相当する角度で出射する光線についてレーザ光の横収差を定義し、当該光線について定義した横収差を、点光源111の場合と同様に横収差と称する。
次に、実施の形態1にかかるレーザ加工装置の構成について説明する。実施の形態1では、3つの構成例を説明する。図3は、実施の形態1の第1の例にかかるレーザ加工装置21の構成を示す図である。レーザ加工装置21は、レーザ光の照射により加工対象物を局所的に溶融させて加工対象物を加工する。レーザ加工装置21は、切断、溶接、または熱処理といったレーザ加工を行う。
レーザ加工装置21は、光源であるレーザ発振器141と、レーザ光144の伝送路である光ファイバ142と、レーザ加工ヘッド116とを備える。レーザ加工ヘッド116は、レーザ光が伝搬するコリメートレンズ112および集光レンズ113を備える。以下、コリメートレンズ112および集光レンズ113で構成される光学系を、加工光学系114と称する。
レーザ発振器141は、ファイバレーザ、YAGレーザ、またはDDLといった、近赤外領域のレーザ光144を出力するレーザである。YAGレーザは、ディスク状の媒体を用いたディスクレーザであっても良い。レーザ発振器141は、例えば、金属等を加工できるキロワット級の出力を有する。レーザ発振器141のレーザ出力は、典型的には1kWであって、厚い金属等を加工する場合は4kW以上が望ましい。レーザ発振器141のレーザ出力は、10kW以上でも良い。
レーザ発振器141から出力されたレーザ光144は、光ファイバ142を伝搬する。光ファイバ142は、例えば、キロワット級のレーザ光144が伝搬可能な光ファイバである。光ファイバ142の出射端におけるビームの強度分布は、例えばトップハット状である。光ファイバ142のコア直径φ0は、例えば、50μm、100μm、150μm、200μm、または300μm等である。プロファイル118は、光ファイバ142の出射端におけるレーザ光144のビームプロファイルである。プロファイル119は、加工対象物143へ入射するレーザ光144のビームプロファイルである。
光ファイバ142から出射したレーザ光144は、発散する。レーザ光144の発散角θとビームウェスト半径ω0とによって、ビームパラメータ積(Beam Parameter Products:BPP)は、ω0θと表される。光ファイバ142の出射端におけるビームプロファイルがトップハット状であるとき、ビームウェスト半径ω0はφ0/2である。したがって、BPP=φ0θ/2と表せる。
光ファイバ142から出力されるレーザ光144のBPPは、レーザ発振器141の種類ごとに異なる場合がある。また、光ファイバ142から出力されるレーザ光144のBPPは、同じ種類のレーザ発振器141であっても、レーザ発振器141の個体ごとに異なる場合がある。コア直径φ0が100μmである場合、BPPは、例えば、2.5mm・mradから5.5mm・mrad程度である。コア直径φ0が200μmである場合、BPPは、例えば、5.0mm・mradから11.0mm・mrad程度である。これらのBPPの範囲は、50mradから110mradの発散角θに対応する。
図3に示す加工光学系114は、収差を生じる。コリメートレンズ112は、光ファイバ142の出射端からの距離がfcである位置に配置される。コリメートレンズ112を通過したレーザ光144は、集光レンズ113を通過し、加工対象物143にて集光される。
コリメートレンズ112の焦点距離である距離fc、および集光レンズ113の焦点距離である距離ffの各々は、例えば、50mmから600mm程度である。かかる距離fcおよび距離ffを焦点距離の逆数である屈折力に換算すると、コリメートレンズ112の屈折力および集光レンズ113の屈折力の各々は、1.67Dから20D程度である。Dは、屈折力の単位であるディオプトリであり、SI基本単位で表すとm-1である。例えば、距離fcが200mmであって、かつ距離ffが200mmである場合、光学倍率が1倍である加工光学系114が構成される。距離fcが200mmであって、かつ距離ffが400mmである場合、光学倍率が2倍である加工光学系114が構成される。さらに、コリメートレンズ112の焦点距離と集光レンズ113の焦点距離との組み合わせを変えることで、その他の光学倍率の加工光学系114も構成できる。
なお、コリメートレンズ112と集光レンズ113との各々は、単レンズに限られず、2つ以上のレンズで構成されても良い。この場合、コリメートレンズ112の焦点距離は、2つ以上のレンズの組み合わせの合成焦点距離である。集光レンズ113の焦点距離は、2つ以上のレンズの組み合わせの合成焦点距離である。
加工対象物143は、例えば、軟鋼、銅、アルミニウム、ステンレス、または亜鉛メッキ鋼といった金属を材料とする金属製製造物である。金属製製造物は、金属製の部品であっても良く、金属板等であっても良い。レーザ溶接を行うレーザ加工装置21は、例えば、第1の金属製製造物と第2の金属製製造物との各々にレーザ光144を照射し、突合せ溶接、隅肉溶接、または重ね溶接といった既存の溶接継手によってレーザ溶接を行っても良い。第1の金属製製造物と第2の金属製製造物との各々は、レーザ溶接における加工対象物143である。レーザ加工装置21は、第1の金属製製造物と第2の金属製製造物とのレーザ溶接によって、第1の金属製製造物と第2の金属製製造物とが接合された第3の金属製製造物を製造できる。
次に、実施の形態1におけるレーザ加工の様子と収差との関係について説明する。図4は、実施の形態1におけるレーザ加工の様子と収差との関係について説明するための第1の図である。図5は、実施の形態1におけるレーザ加工の様子と収差との関係について説明するための第2の図である。図6は、実施の形態1におけるレーザ加工の様子と収差との関係について説明するための第3の図である。
図4から図6では、加工対象物143へのレーザ光144の照射によって加工対象物143の加工が行われている様子を模式的に表す。図4には、収差を生じない加工光学系114を用いてレーザ光144を集光する場合の例を示す。加工光学系114は、無視できるほどに小さい収差を生じる光学系でも良い。図5および図6には、収差を生じる加工光学系114を用いてレーザ光144を集光する場合の例を示す。図6には、図5に示す状態と比べて横収差の絶対値が小さい場合の状態を示す。なお、図4から図6では、加工光学系114の図示を省略する。x方向およびy方向は、互いに垂直な方向であって、かつz方向に垂直な方向とする。進行方向120は、加工対象物143における加工の進行方向とする。進行方向120は、加工対象物143におけるレーザ光144の走査方向ともいえる。図4から図6において、進行方向120は、x方向である。
図4に示すように、収差を生じない加工光学系114を用いる場合、加工対象物143のうちレーザ光144の照射位置におけるプロファイル119は、光ファイバ142の出射端におけるプロファイル118を光学倍率M=ff/fcで拡大したトップハット状のプロファイル145である。
図7は、図4に示すレーザ光144のビーム形状を示す図である。図7に示すビーム形状は、加工対象物143へ入射するレーザ光144のビーム形状であって、xy面におけるビーム形状である。加工対象物143へ入射するレーザ光144のビーム形状は、図7に示すように円形である。
トップハット状のプロファイル145を持つレーザ光144の強度Iが例えば200kW/cm2以上のとき、照射したレーザ光144によって加工対象物143が溶融され、加工対象物143にキーホール147が形成される。このとき、キーホール147の前壁148および後壁149の各々は、キーホール147の底部152から加工対象物143の表面153における開口部155まで、基準面154に対して垂直に近い状態となる。前壁148は、キーホール147のうち進行方向120における前方の壁である。後壁149は、キーホール147のうち進行方向120における後方の壁である。表面153は、加工対象物143のうちレーザ光144が入射する表面である。基準面154は、加工光学系114の中心軸に垂直な面であって、例えば、加工対象物143が置かれる面である。基準面154に加工対象物143が置かれた状態において、表面153は、基準面154と平行であるものとする。
図4において、溶融金属151の流れである溶融金属流150は、底部152から開口部155の方へ、後壁149に沿って速い速度で上昇する。かかる溶融金属流150によって、溶融金属151の一部は、スパッタ146となって飛散する。このため、図4に示すように、収差を生じない加工光学系114を用いる場合、スパッタ146の発生によって加工が不安定となり得る。
図5に示すように、収差を生じる加工光学系114を用いる場合、加工対象物143のうちレーザ光144の照射位置におけるプロファイル119は、中心部の主ビーム160と、主ビーム160を取り囲む周辺ビーム161とを有するウィッチハット状のプロファイル165である。
図8は、図5に示すレーザ光144のビーム形状を示す図である。図8に示すビーム形状は、加工対象物143へ入射するレーザ光144のビーム形状であって、xy面におけるビーム形状である。加工対象物143へ入射するレーザ光144のビーム形状は、主ビーム160の円形と周辺ビーム161の円形との同心円である。周辺ビーム幅166は、周辺ビーム161の円形と主ビーム160の円形との間の幅とする。
図5に示す場合において、加工光学系114を通過したレーザ光144の近軸焦点117において生じる横収差の絶対値は、例えば、0.2mm以上である。以下の説明では、加工光学系114を通過したレーザ光144の近軸焦点117を、単に、加工光学系114の近軸焦点117と称する。レーザ加工ヘッド116を通過したレーザ光144の近軸焦点117を、単に、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117と称する。
ウィッチハット状のプロファイル165を持つレーザ光144の強度Iが例えば200kW/cm2以上のとき、照射した主ビーム160によって加工対象物143が溶融され、加工対象物143にキーホール147が形成される。この場合において、周辺ビーム161の強度Iは、例えば、50kW/cm2から200kW/cm2程度である。なお、周辺ビーム161の強度Iは、キーホール147を形成しない程度の強度であれば良い。
周辺ビーム161の照射によって溶融金属151の表面から溶融金属151が蒸発することで、金属蒸気163が発生する。金属蒸気163の発生による蒸発反力162は、キーホール147の開口部155において、溶融金属151の表面から加工対象物143の内部へ向けて作用する。蒸発反力162の作用によって、進行方向120における後方において、後壁149を上昇する溶融金属流150は、表面153に垂直な方向から表面153に平行な方向へ変化する。溶融金属流150のこのような変化によって、開口部155がホーン状に拡げられる。開口部155がホーン状に拡げられることによって、溶融金属流150は、表面153から加工対象物143の内部へ向けられる。かかる溶融金属流150によって、キーホール147が安定化され、かつ、溶融金属151の一部がスパッタ146となって飛散することが低減される。
また、開口部155がホーン状に拡げられることによって、キーホール147では前壁148から開口部155へ金属蒸気163が逃げ易くなる。金属蒸気163が逃げ易くなることによって、キーホール147が安定化され、かつ、溶融金属151の一部がスパッタ146となって飛散することが低減される。このようにして、図5に示す加工の場合、キーホール147の安定化とスパッタ146の低減とによって、安定した加工が可能となる。
図6に示す場合では、収差を生じる加工光学系114を用いるが、生じる横収差の絶対値が、図5に示す場合に比べて小さい。加工対象物143のうちレーザ光144の照射位置におけるプロファイル119は、中心部の主ビーム160と、主ビーム160を取り囲む周辺ビーム161とを有するウィッチハット状のプロファイル167である。
図9は、図6に示すレーザ光144のビーム形状を示す図である。図9に示すビーム形状は、加工対象物143へ入射するレーザ光144のビーム形状であって、xy面におけるビーム形状である。加工対象物143へ入射するレーザ光144のビーム形状は、主ビーム160の円形と周辺ビーム161の円形との同心円である。図9に示す周辺ビーム幅166は、図8に示す周辺ビーム幅166に比べて小さい。
図6に示す場合において、加工光学系114を通過したレーザ光144の近軸焦点117において生じる横収差の絶対値は、例えば、0.2mmよりも小さい。図6に示すウィッチハット状のプロファイル167を持つレーザ光144では、図5に示す場合に比べて周辺ビーム幅166が小さいため、開口部155をホーン状に拡げることができない。このため、図6に示す場合では、加工光学系114によって収差が生じて周辺ビーム161が形成されるものの、図5に示す場合と比べてスパッタ146の飛散を低減させることができない。このように、図6に示すように、生じる横収差の絶対値が図5に示す場合に比べて小さい場合、スパッタ146の発生によって加工が不安定となり得る。
図4から図6を参照して説明するように、加工光学系114によって生じる収差の量が変化すると、照射位置におけるレーザ光144のビーム形状が変化することによって、加工の安定性が変化し得る。したがって、一定の量の収差を生じさせることが可能であれば、ビーム形状が安定し、安定した加工を実現することが可能となる。
上述するように、光ファイバ142の出射端におけるレーザ光144の発散角は、例えば、50mradから100mradである。また、レーザ光144の発散角は、レーザ発振器141の種類ごとに異なる場合があり、同じ種類のレーザ発振器141であっても個体ごとに異なる場合がある。図1に示すように、球面収差に起因する横収差は、レーザ光144の発散角によって変化する。このため、同じ加工光学系114を用いても、レーザ発振器141の種類ごとに、またはレーザ発振器141の個体ごとに横収差が変化することによって、照射位置におけるビーム形状が変化してしまう場合がある。このようなビーム形状の変化によって、レーザ加工装置21の加工状態が変化し、さらにレーザ加工装置21の加工品質も変化する場合がある。
図10は、実施の形態1の第2の例にかかるレーザ加工装置31の構成を示す図である。レーザ加工装置31は、図3に示すレーザ加工装置21と同様の構成に加えて、収差を生じさせる収差光学系を備える。第2の例では、収差光学系は、単レンズである収差レンズ171とする。収差レンズ171は、非球面である凸面を有する凸レンズである。
レーザ加工ヘッド116は、収差レンズ171、コリメートレンズ112、および集光レンズ113を備える。また、レーザ加工ヘッド116は、光軸の方向へ収差レンズ171を移動させる可動機構172を備える。レーザ加工装置31は、可動機構172を制御する制御装置を備える。第2の例において、加工光学系114は、収差を生じない光学系である。加工光学系114は、無視できるほどに小さい収差を生じる光学系でも良い。なお、図10では、加工対象物143と制御装置との図示を省略する。
収差レンズ171は、光ファイバ142の出射端とコリメートレンズ112との間におけるレーザ光144の光路上に配置される。収差レンズ171は、加工対象物143へ向けて照射させるレーザ光144の伝搬方向、すなわち加工対象物143へ近づく方向へ向かってレーザ光144が拡がる範囲内の位置に配置される。収差レンズ171は、横収差を生じさせる。
図10の(A)および(B)では、互いに異なる発散角のレーザ光144が光ファイバ142の出射端から出射される場合におけるレーザ光144の振る舞いの違いを表す。図10の(B)には、光ファイバ142の出射端から出射されるレーザ光144の発散角が図10の(A)に示す場合に比べて小さい場合における様子を示す。レーザ加工装置31は、図10の(B)に示す状態では、図10の(A)に示す状態のときよりも、加工対象物143へ近づく方向へ移動量dだけ収差レンズ171を移動させている。
レーザ加工装置31は、レーザ光144の発散角が変化する場合に、z方向における収差レンズ171の位置を変化させることによって、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117において生じる横収差を一定の横収差ΔY2に維持させることができる。レーザ加工装置31は、横収差を維持させることによって、レーザ発振器141の種類ごとまたはレーザ発振器141の個体ごとの、照射位置におけるビーム形状の変化を低減させる。これにより、レーザ加工装置31は、安定した加工を実現できる。
図11は、実施の形態1の第2の例において収差レンズ171を移動させることによる横収差の変化について説明するための図である。図11には、横収差ΔYと発散角θとの関係を表すグラフを示す。図11において、破線である線190は、図10の(A)に示す場合における横収差と発散角との関係を表す。図11において、実線である線191は、図10の(B)に示す場合における横収差と発散角との関係を表す。
図10の(A)に示す場合において、光ファイバ142の出射端から出射されるレーザ光144の発散角θはθ1であるものとする。図10の(B)に示す場合において、光ファイバ142の出射端から出射されるレーザ光144の発散角θはθ2であるものとする。ただし、θ1>θ2とする。図10の(A)に示す場合と図10の(B)に示す場合との双方において発生する横収差ΔYはΔY2である。
図2を参照して説明したように、横収差ΔYは、発散角θの3乗に比例する。比例定数をα1として、ΔY=α1θ3が成り立つ。つまり、収差レンズ171によって発生する横収差ΔYの発散角θに対する依存性は、球面収差の場合と同様である。光軸の方向において収差レンズ171を移動させることによって、比例定数α1が変化する。比例定数α1が変化することによって、発散角θがθ1およびθ2のいずれである場合も、横収差ΔYは同じΔY2となる。すなわち、発散角θがθ1からθ2へ変化しても、横収差ΔYはΔY2のまま維持される。
図10に示すレーザ加工ヘッド116では、光ファイバ142の出射端から出射したレーザ光144が発散している光路上に収差レンズ171が配置される。コリメートレンズ112は、収差レンズ171を通過したレーザ光144の光路上に配置される。集光レンズ113は、コリメートレンズ112を通過したレーザ光144の光路上に配置される。
収差レンズ171は、光ファイバ142の出射端とコリメートレンズ112との間の、レーザ光144が発散している光路上に配置されるものに限られない。収差レンズ171は、集光レンズ113と加工対象物143との間の、レーザ光144が集光される光路上に配置されるものであっても良い。この場合、コリメートレンズ112は、光ファイバ142の出射端から出射したレーザ光144が発散している光路上に配置される。集光レンズ113は、コリメートレンズ112を通過したレーザ光144の光路上に配置される。収差レンズ171は、集光レンズ113を通過したレーザ光144の光路上に配置される。
レーザ加工ヘッド116は、発散または集光されているレーザ光144の光路上において光軸の方向に収差レンズ171を移動させることで、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117における横収差を変化させることができる。ここで、発散とは、レーザ光144が伝搬するに従ってビーム径が拡大することを指す。集光とは、レーザ光144が伝搬するに従ってビーム径が縮小することを指す。
図10に示すようにレーザ光144が発散している光路上に収差レンズ171が配置されることによって、収差レンズ171の位置はレーザ光144の照射位置から離される。収差レンズ171の位置がレーザ光144の照射位置から離されることによって、加工対象物143からスパッタ146が飛散する場合において収差レンズ171へのスパッタ146の付着が防がれる。これにより、レーザ加工装置31は、スパッタ146が付着した収差レンズ171をレーザ光144が通過することによって収差レンズ171が損傷するといった事態を防ぐことができる。
レーザ加工装置31には、スパッタ146の付着による損傷から加工光学系114および収差レンズ171を保護するための保護板が備えられても良い。保護板は、集光レンズ113と加工対象物143との間におけるレーザ光144の光路上に配置される。保護板は、レーザ光144に対して透明な材料により作られ、レーザ光144を通過させる。また、加工光学系114および収差レンズ171の保護のために、光ファイバ142の出射端と収差レンズ171との間におけるレーザ光144の光路上に保護板が配置されても良い。
収差レンズ171は、例えば、非球面であって凸面である第1の面181と平面である第2の面182とを有する平凸非球面レンズである。図10に示すレーザ加工装置31では、第1の面181はレーザ光144が入射する入射面であって、第2の面182はレーザ光144が出射する出射面である。または、第1の面181がレーザ光144の出射面であって、第2の面182がレーザ光144の入射面であっても良い。
一般に、非球面の形状は、レンズの中心軸の方向の切削量であるサグ量により定義される。サグ量z(r)は、次の式(1)により表される。
C0は中心軸上での曲率C、kはコーニック定数、Ajは非球面係数とする。jは4以上の偶数とする。曲率Cは、次の式(2)により定義される。
ただし、z’(r)=dz/dr、およびz’’(r)=d2z/dr2が成り立つ。C0は、r=0の場合における曲率Cである。第1の面181が、ゼロ以外の値であるC0を持つ非球面であって、かつ第2の面182が平面である場合、光軸の方向における収差レンズ171の移動に伴って、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置も光軸の方向において移動する。そこで、収差レンズ171の第1の面181は、C0=0である非球面としても良い。式(1)より、C0=0である場合のサグ量z(r)は、次の式(3)により表される。
第1の面181を、C0=0であって式(3)に示される形状の非球面とし、かつ、第2の面182を平面とすれば、光軸の方向において収差レンズ171を移動させても、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置は移動しない。レーザ加工装置31は、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置が移動しないことによって、レーザ光144の照射位置を一定に保つことができる。また、例えば、式(3)において6次以上の非球面形状をゼロとし、式(3)の左辺には4次の項であるA4の項までを使用する場合、収差レンズ171における非球面係数A4の値は正の値となる。
図12は、実施の形態1の第3の例にかかるレーザ加工装置41の構成を示す図である。レーザ加工ヘッド116は、収差レンズ173、コリメートレンズ112、および集光レンズ113を備える。また、レーザ加工ヘッド116は、光軸の方向へ収差レンズ173を移動させる可動機構172を備える。レーザ加工装置41は、可動機構172を制御する制御装置を備える。なお、図12では、加工対象物143と制御装置との図示を省略する。
レーザ加工装置41は、収差レンズ171に代えて収差レンズ173が設けられている点が、図10に示すレーザ加工装置31とは異なる。かかる点以外は、レーザ加工装置41は、レーザ加工装置31と同様であるものとする。第3の例では、収差光学系は、単レンズである収差レンズ173とする。収差レンズ173は、非球面である凹面を有する凹レンズである。例えば、式(3)において6次以上の非球面形状をゼロとし、式(3)の左辺には4次の項であるA4の項までを使用する場合、収差レンズ173におけるA4の値は負の値となる。
図12の(A)および(B)では、互いに異なる発散角のレーザ光144が光ファイバ142の出射端から出射される場合におけるレーザ光144の振る舞いの違いを表す。図12の(B)には、光ファイバ142の出射端から出射されるレーザ光144の発散角が図12の(A)に示す場合に比べて小さい場合における様子を示す。レーザ加工装置41は、図12の(B)に示す状態では、図12の(A)に示す状態のときよりも、加工対象物143から遠ざかる方向へ移動量dだけ収差レンズ173が移動されている。
レーザ加工装置41は、レーザ光144の発散角が変化する場合に、z方向における収差レンズ173の位置を変化させることによって、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117において生じる横収差を一定の横収差ΔY’2に維持させることができる。レーザ加工装置41は、横収差を維持させることによって、レーザ発振器141の種類ごとまたはレーザ発振器141の個体ごとの、照射位置におけるビーム形状の変化を低減させる。これにより、レーザ加工装置41は、安定した加工を実現できる。
なお、図10に示す第2の例のレーザ加工装置31は、発散角が大きくなる場合に光ファイバ142の出射端の方へ収差レンズ171を移動させ、発散角が小さくなる場合にコリメートレンズ112の方へ収差レンズ171を移動させる。これに対し、図12に示す第3の例のレーザ加工装置41は、発散角が大きくなる場合にコリメートレンズ112の方へ収差レンズ173を移動させ、発散角が小さくなる場合に光ファイバ142の出射端の方へ収差レンズ173を移動させる。このように、第3の例において収差レンズ173を移動させる方向は、第2の例において収差レンズ171を移動させる方向とは逆となる。
図13は、実施の形態1の第3の例において収差レンズ173を移動させることによる横収差の変化について説明するための図である。図13には、横収差ΔYと発散角θとの関係を表すグラフを示す。図13において、破線である線192は、図12の(A)に示す場合における横収差と発散角との関係を表す。図13において、実線である線193は、図12の(B)に示す場合における横収差と発散角との関係を表す。
図12の(A)に示す場合において、光ファイバ142の出射端から出射されるレーザ光144の発散角θはθ1であるものとする。図12の(B)に示す場合において、光ファイバ142の出射端から出射されるレーザ光144の発散角θはθ2であるものとする。ただし、θ1>θ2とする。図12の(A)に示す場合と図12の(B)に示す場合との両方において、発生する横収差ΔYはΔY’2である。発散角θがθ1からθ2へ変化しても、光軸の方向において収差レンズ173を移動させることによって、横収差ΔYはΔY’2のまま維持される。
図12に示すレーザ加工ヘッド116では、光ファイバ142の出射端から出射したレーザ光144が発散している光路上に収差レンズ173が配置される。なお、収差レンズ173は、集光レンズ113と加工対象物143との間の、レーザ光144が集光される光路上に配置されるものであっても良い。収差レンズ173の位置がレーザ光144の照射位置から離されることによって、収差レンズ173へのスパッタ146の付着が防がれる。これにより、レーザ加工装置41は、スパッタ146が付着した収差レンズ173をレーザ光144が通過することによって収差レンズ173が損傷するといった事態を防ぐことができる。また、レーザ加工装置41には、スパッタ146の付着による損傷から加工光学系114および収差レンズ171を保護するための保護板が備えられても良い。レーザ加工装置41には、光ファイバ142の出射端と収差レンズ171との間におけるレーザ光144の光路上に保護板が配置されても良い。
収差レンズ173は、例えば、非球面であって凹面である第1の面183と平面である第2の面184とを有する平凹非球面レンズである。図12に示すレーザ加工装置41では、第1の面183はレーザ光144の入射面であって、第2の面184はレーザ光144の出射面である。または、第1の面183がレーザ光144の出射面であって、第2の面184がレーザ光144の入射面であっても良い。
図14は、実施の形態1における収差光学系の構成について説明するための図である。図14の(A),(B)では、収差光学系である収差レンズ171,173の形状と、収差レンズ171,173における非球面の曲率Cと、収差レンズ171,173の焦点位置zfとの例を示す。図14において、収差レンズの形状は、r方向とz方向とを含む断面の形状を示す。曲率Cについては、r方向位置と曲率Cとの関係を表すグラフを示す。焦点位置zfについては、r方向位置と焦点位置zfとの関係を表すグラフを示す。なお、中心軸の位置を基準とするr座標により、r方向位置を表すものとする。また、r座標を、単に「r」と称する。
焦点位置zfは、中心軸の方向へ進行した光線が、z=0の位置に配置された収差レンズに入射した場合において、収差レンズで折り曲げられた光線と中心軸とが交わるz方向位置とする。例えば、凸レンズである焦点距離fの薄肉レンズをz=0の位置に配置した場合、zf=fである。凹レンズである焦点距離-fの薄肉レンズをz=0の位置に配置した場合、zf=-fである。収差を生じさせるレンズでは、焦点位置zfは、中心軸に平行な光線と中心軸との間の距離によって変化する。収差を生じさせるレンズの焦点位置zfは、中心軸の方向の光線と中心軸との間の距離によって変化する。図14では、焦点位置zfについて、中心軸の方向の光線が入射する位置をr方向において変化させた場合における焦点位置zfの変化の例を示す。
図14の(A)では、図10に示す収差レンズ171についての形状、曲率C、および焦点位置zfの例を示す。図14の(B)では、図12に示す収差レンズ173についての形状、曲率C、および焦点位置zfの例を示す。図14の(C)では、収差レンズ171との比較のために、平凸球面レンズ180についての形状、曲率C、および焦点位置zfの例を示す。平凸球面レンズ180の曲率Cは、rに依らず一定である。これに対し、収差レンズ171の曲率Cは、rの絶対値が大きくなるにつれて単調に増加する。収差レンズ173の曲率Cは、rの絶対値が大きくなるにつれて単調に減少する。すなわち、収差レンズ171では、径方向において中心軸から遠ざかるに従って曲率Cが単調に増加する。収差レンズ173では、径方向において中心軸から遠ざかるに従って曲率Cが単調に減少する。
収差レンズ171の焦点位置zfは、rの絶対値が小さくなるにつれて大きくなる。収差レンズ171において、中心軸上の光線についての焦点位置zfは、正の無限大となる。すなわち、収差レンズ171は、中心軸上の光線に対する屈折力を有しない。収差レンズ173の焦点位置zfは、rの絶対値が小さくなるにつれて小さくなる。収差レンズ173において、中心軸上の光線についての焦点位置zfは、負の無限大となる。すなわち、収差レンズ173は、中心軸上の光線に対する屈折力を有しない。なお、中心軸上の光線に対する屈折力を有しないとは、中心軸上の光線に対する屈折力が無視し得るほどに小さいことを含むものとする。
上記内容をまとめると、各収差レンズ171,173では、rの絶対値|r|が大きくなるにつれて、焦点位置zfの絶対値である|zf|は小さくなる。|zf|は、収差レンズ171と焦点との間の距離、または、収差レンズ173と焦点との間の距離である。|r|は、中心軸と中心軸に平行な光線との間の距離を表す。換言すると、収差レンズ171,173は、中心軸に平行な光線を収差レンズ171,173へ入射させた場合において中心軸から離れた位置の光線ほど収差レンズ171,173と焦点との間の距離が短い集光特性を有する。これにより、収差レンズ171,173は、収差を生じさせる。
平凸球面レンズ180では、|r|が大きくなるにつれて|zf|が小さくなる。ただし、平凸球面レンズ180は、中心軸上の光線についての焦点位置zfが有限であることが、収差レンズ171とは異なる。平凸球面レンズ180の焦点位置zfは、例えば、rの2次関数となる。
収差レンズ171,173を実際に作製する場合は、中心軸上における屈折力を完全にゼロにすることはできない。このため、収差レンズ171,173は、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置が大きく変化しない範囲で、中心軸上における屈折力を有しても良い。収差レンズ171,173の中心軸上における屈折力の絶対値は、例えば、コリメートレンズ112の屈折力の10分の1以下である。収差レンズ171,173の中心軸上における屈折力の絶対値は、コリメートレンズ112の屈折力の100分の1以下であっても良い。
コリメートレンズ112の焦点距離fcを200mmとするとコリメートレンズ112の屈折力は5Dに相当するため、収差レンズ171,173の中心軸上における屈折力の絶対値は、例えば、5Dの10分の1以下に相当する0.5D以下である。収差レンズ171,173の中心軸上における屈折力の絶対値は、コリメートレンズ112の屈折力の100分の1以下に相当する0.05D以下であっても良い。
このように、収差レンズ171,173の中心軸上の位置は、屈折力を持たないか、あるいは、屈折力の絶対値がコリメートレンズ112の屈折力の10分の1以下または100分の1以下である。収差レンズ171,173は、中心軸上の位置においてはレーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置を大きく変化させないようにできる。
図14の(D)では、収差レンズ174についての形状、曲率C、および焦点位置zfの例を示す。収差レンズ174は、中心領域185の曲率がゼロである非球面を有する点が、収差レンズ171とは異なる。かかる点以外は、収差レンズ174は、収差レンズ171と同様であるものとする。図10に示すレーザ加工装置31には、収差レンズ171に代えて収差レンズ174が設けられても良い。収差レンズ174は、レーザ加工ヘッド116に備わる収差光学系であって、単レンズとする。
収差レンズ174において、中心領域185は、中心軸上の位置を含む領域である。周辺領域186は、中心領域185を取り囲む領域である。収差レンズ174のレンズ半径をrd、中心領域185と周辺領域186との境界を示すrを境界値r0とする。r0は正の実数とする。中心領域185は、中心軸に垂直な方向において-r0≦r≦r0の範囲の領域である。周辺領域186は、中心軸に垂直な方向において-rd≦r<-r0またはr0<r≦rdの範囲の領域である。すなわち、中心領域185は、中心軸からの距離が境界値r0以下の領域である。周辺領域186は、中心軸からの距離が境界値r0を超える領域である。
図14の(A)に示す収差レンズ171では中心軸上の位置において曲率がゼロであるのに対し、収差レンズ174では-r0≦r≦r0の中心領域185において曲率がゼロである。収差レンズ174は、中心領域185の曲率をゼロとすること、すなわち中心領域185を平面とすることによって、容易に作成することができる。周辺領域186の曲率は、rの絶対値|r|が大きくなるにつれて単調に増加する。すなわち、周辺領域186では、径方向において中心軸から遠ざかるに従って曲率が単調に増加する。
境界値r0は、例えば、レンズ半径rdの50%以下の値である。境界値r0は、レンズ半径rdの40%以下の値、または、レンズ半径rdの30%以下の値であっても良い。収差レンズ174は、収差レンズ171の中心領域を、曲率がゼロである中心領域185に置き換えたものである。収差レンズ174は、中心領域185では屈折力を持たず、周辺領域186では|r|が大きくなるにつれて|zf|が小さくなる。なお、収差レンズ174は、図14の(B)に示す収差レンズ173の中心領域を、曲率がゼロである中心領域185に置き換えたものであっても良い。
収差レンズ174を実際に作製する場合は、中心領域185における屈折力を完全にゼロにすることはできない。このため、収差レンズ174は、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置が大きく変化しない範囲で、中心領域185における屈折力を有しても良い。収差レンズ174の中心領域185における屈折力の絶対値は、例えば、コリメートレンズ112の屈折力の10分の1以下である。収差レンズ174の中心領域185における屈折力の絶対値は、コリメートレンズ112の屈折力の100分の1以下であっても良い。
コリメートレンズ112の焦点距離fcを200mmとするとコリメートレンズ112の屈折力は5Dに相当するため、収差レンズ174の中心領域185における屈折力の絶対値は、例えば、5Dの10分の1以下に相当する0.5D以下である。収差レンズ174の中心領域185における屈折力の絶対値は、コリメートレンズ112の屈折力の100分の1以下に相当する0.05D以下であっても良い。
このように、収差レンズ174のうち中心領域185は、屈折力を持たないか、あるいは、屈折力の絶対値がコリメートレンズ112の屈折力の10分の1以下または100分の1以下である。収差レンズ174は、中心領域185においてはレーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置を大きく変化させないようにすることができる。
収差レンズ174のうち周辺領域186は、中心軸に平行な光線を周辺領域186へ入射させた場合において中心軸から離れた位置の光線ほど収差レンズ174と光線の焦点との間の距離が短い集光特性を有する。収差レンズ174は、周辺領域186により収差を生じさせることができる。なお、収差レンズ171の非球面についての説明は、収差レンズ174の入射面または出射面のうち周辺領域186の部分についても同様であるものとする。
ここまで、収差レンズ174は、曲率がゼロである中心領域185を備えるように収差レンズ171を変形したものとした。収差レンズ174は、曲率がゼロである中心領域185を備えるように収差レンズ173を変形したものであっても良い。この場合、収差レンズ174は、中心領域185の曲率がゼロである非球面を有する点が、収差レンズ173とは異なる。かかる点以外は、収差レンズ174は、収差レンズ173と同様であるものとする。なお、収差レンズ173の非球面についての説明は、収差レンズ174の入射面または出射面のうち周辺領域186の部分についても同様であるものとする。周辺領域186では、径方向において中心軸から遠ざかるに従って曲率が単調に減少する。
可動機構172は、例えば、レーザ光144の光軸の方向に移動可能な可動ステージである。可動ステージの移動を高精度に制御するため、可動機構172には、例えば、サーボモータ、ステッピングモータ等が搭載されても良い。可動機構172は、レーザ光144の光軸の方向に移動可能な機構であれば良く、可動ステージに限られない。可動機構172は、回転ヘリコイド構造、直進ヘリコイド構造、またはカム構造等であっても良い。
レーザ加工装置31,41は、可動機構172によって収差レンズ171,173,174を移動させるものに限られない。レーザ加工装置31,41は、レーザ光144の発散角に応じてレーザ光144の光軸上の適切な位置に収差レンズ171,173,174が配置されることによってレーザ加工ヘッド116の近軸焦点117における横収差ΔYが一定とされたものであっても良い。
収差レンズ171,173の非球面、または収差レンズ174のうち周辺領域186の部分を式(2)で示す形状とし、かつ、発散角θ1,θ2においてレーザ加工ヘッド116の近軸焦点117での横収差ΔYが同じ値となるように、式(2)の非球面係数が決定される。これにより、レーザ加工装置31,41は、光軸の方向へ収差レンズ171,173,174を移動させることによって、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置を維持したまま、横収差ΔYの発散角に対する依存性だけを変化させることができる。発散角θ1のレーザ光144が入射したときには光軸の方向へ収差レンズ171,174が移動することによって、収差レンズ171,174は、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117で生じさせる横収差ΔYをΔY2からΔY1へ変化させることができる。発散角θ1のレーザ光144が入射したときには光軸の方向へ収差レンズ173が移動することによって、収差レンズ173は、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117で生じさせる横収差ΔYをΔY’2からΔY’1へ変化させることができる。
レーザ加工装置31,41は、かかる性質を利用して、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117で生じる横収差を、例えば加工対象物143に応じて変化させても良い。例えば、レーザ発振器141の波長領域における吸収率が低い加工対象物143を加工する場合に、レーザ加工装置31,41は、収差レンズ171,173,174をレーザ光144の光軸の方向へ移動させ、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117における横収差をより大きくしても良い。近赤外領域のレーザ光144の吸収率が低い材料としては、例えば、銅またはアルミニウム等が挙げられる。レーザ加工装置31,41は、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117における横収差を大きくすることによって、レーザ光144の吸収率が低い加工対象物143を加工する場合であってもスパッタ146を低減できる。これにより、レーザ加工装置31,41は、高品質な加工を実現することができる。
図15は、実施の形態1において収差レンズ171の非球面形状を変化させる場合における横収差と発散角との関係の変化について説明するための図である。図15には、横収差ΔYと発散角θとの関係を表すグラフを示す。非球面形状は、例えば、式(1)の非球面係数Ajを変化させることによって、変化させることができる。図15において、実線である線191は、発散角θの3乗に比例する横収差ΔYを生じさせる非球面形状を適用する場合を表す。すなわち、線191で示される関係において、収差レンズ171は、球面収差の場合と同様の横収差を生じさせる。図15において、破線である線194は、横収差ΔYの発散角に対する依存性が線191の場合とは異なる非球面形状を適用する場合の例を表す。線194により示される、横収差ΔYの発散角に対する依存性は、次の式(4)により表される。α2は定数、βは正の実数とする。
α2=α1,β=3のとき、式(4)はΔY=α1θ3となる。すなわち、横収差ΔYは発散角θの3乗に比例する。以下、横収差ΔYの発散角に対する依存性とは、式(4)により表される関係とする。横収差ΔYの発散角に対する依存性とは、横収差ΔYが発散角θのβ乗に比例すること、より一般的には、横収差ΔYが発散角θのべき乗に比例すること、といえる。以下、α2は比例定数、βはべき指数とする。線194は、線191の場合におけるべき指数βの値である3よりもべき指数βの値が小さい場合における、横収差ΔYの発散角に対する依存性の例を示す。このように、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117における横収差ΔYは、レーザ光144の発散角θのべき乗に比例する。
図15では、発散角θがθ1である場合において線191と線194とが交わる。すなわち、発散角θがθ1であるとき、横収差ΔYが同じ横収差ΔY1となる。発散角θがθ1よりも小さいθ2であるとき、線194で示される横収差ΔY3は、線191で示される横収差ΔY2よりも小さくなる。
図16は、実施の形態1において収差レンズ171の非球面形状を変化させる場合におけるビームプロファイルの変化について説明するための図である。図16には、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117におけるレーザ光144のビームプロファイルを示す。
図16では、図15において線191により示される関係の場合におけるビームプロファイルに、図15において線194により示される関係の場合におけるビームプロファイルが重ね合わせられている。図16において実線で示すプロファイル195は、図15において線191により示される関係の場合におけるビームプロファイルである。図16において破線で示すプロファイル196は、図15において線194により示される関係の場合におけるビームプロファイルである。すなわち、プロファイル195は、べき指数βの値が3である場合におけるビームプロファイルである。プロファイル196は、べき指数βの値が3よりも小さい場合におけるビームプロファイルである。
各プロファイル195,196は、ウィッチハット状のビームプロファイルである。また、図16では、各プロファイル195,196の違いを分かり易くするため、各プロファイル195,196のうち周辺ビーム161に相当する部分を拡大して示す。
プロファイル195とプロファイル196との大きな違いは、プロファイル196の方がプロファイル195よりも周辺ビーム161の強度が高いことである。この結果、プロファイル196の場合の方がプロファイル195の場合よりも、図8に示す周辺ビーム幅166が広がる。プロファイル196の場合、例えば図6のキーホール147の開口部155を、より大きくベルマウス状に拡げることができる。したがって、レーザ加工装置31,41は、スパッタ146のより高い低減効果を得ることができ、高品質な加工を実現することができる。
上記のベルマウス状という表現について、図6を参照して説明する。図6に示す前壁148の形状、および図6に示す後壁149の形状は、底部152から開口部155に近づくに従って広がっている。前壁148のうち開口部155の近辺の急激に広がる部分の形状と、後壁149のうち開口部155の近辺の急激に広がる部分の形状とを、周知の構造に強いて例えるとすれば、ベルマウスを挙げることができる。なお、ベルマウス状という表現は、キーホール147の形状を限定するものではない。また、底部152から開口部155までの前壁148の全体の形状と、底部152から開口部155までの後壁149の全体の形状とを、周知の物に強いて例えるとすれば、広がりが緩やかな筒状の部分と筒状の部分に比べて急激に広がる端部とを有する、ホーンまたはラッパなどを挙げることができる。そのため、キーホール147の全体を例えるとすれば、ホーン状、またはラッパ状といった言葉を使うこともできる。この場合も、ホーン状、またはラッパ状という言葉は、キーホール147の形状を限定するものではない。
以上をまとめると、レーザ加工装置31,41は、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117における横収差をレーザ光144の発散角のべき乗に比例させ、べき指数βの値を3より小さい値とすることで、球面収差よりも大きな収差を与えることができる。これにより、レーザ加工装置31,41は、スパッタ146のより高い低減効果を得ることができ、高品質な加工を実現することができる。
式(3)において、より高次の非球面係数Ajを使用することで、非球面係数としてA4のみを使用する場合と比べて、横収差ΔYを発散角θのβ乗に比例させることが容易となる。非球面係数Ajを使用して、横収差ΔYを発散角θのβ乗に比例させ易くすることができるべき指数βの値の範囲は、例えば、2.5≦β≦3.5である。したがって、例えば、べき指数βの値が2.5以上かつ3よりも小さいとき、スパッタ146のより高い低減効果を得ることができ、より高品質な加工を実現することができる。
図15では、べき指数βの値が3である場合、および、べき指数βの値が3よりも小さい場合について説明したが、加工対象物143に応じた最適な周辺ビーム161の強度を得るため、べき指数βの値を3よりも大きくしても良い。したがって、例えば、べき指数βの値が3よりも大きくかつ3.5以下であるとき、加工対象物143に応じた最適な周辺ビーム161の強度を得ることができる。べき指数βの値を3とする場合は、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117にて球面収差の場合と同様の横収差を生じさせることができる。
図17は、実施の形態1における非球面係数と横収差との関係の例を示す図である。図17には、式(3)における4次の非球面係数であるA4と、発散角θを一定のθ2としたときのレーザ加工ヘッド116の近軸焦点117での横収差ΔYとの関係を表すグラフを示す。図17において、実線である線197は、加工光学系114の光学倍率M=ff/fcを1倍とした場合における非球面係数A4と横収差ΔYとの関係を表す。破線である線198は、光学倍率Mを2倍とした場合における非球面係数A4と横収差ΔYとの関係を表す。一点鎖線である線199は、光学倍率Mを4倍とした場合における非球面係数A4と横収差ΔYとの関係を表す。
図18は、図17に示す関係である特性を有する収差レンズ171,173についてのパラメータの例を示す図である。パラメータは、収差レンズ171,173の非球面係数A4,Akと、加工光学系114により生じる収差であるΔYOと、横収差ΔYとする。kは6以上の偶数とする。横収差ΔYは、収差レンズ171,173および加工光学系114をレーザ光144が通過した後に、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117で生じる横収差とする。
図18では、単純な例による説明とするために、非球面係数Akがゼロであって、かつΔYOがゼロであるものとする。ΔYOがゼロであるとは、加工光学系114により収差が生じないか、または、加工光学系114により生じる収差が無視できるほどに小さいことを指す。収差レンズ171における非球面係数A4の値は正の値である。収差レンズ171を使用する場合における横収差ΔYは、負の横収差である。収差レンズ173における非球面係数A4の値は負の値である。収差レンズ173を使用する場合における横収差ΔYは、正の横収差である。
図17に示すように、非球面係数A4と横収差ΔYとには比例関係が成り立つ。また、光学倍率Mを変化させることによって、非球面係数A4と横収差ΔYとの関係を表すグラフの傾きが変化する。グラフの傾きと光学倍率Mの逆数とには比例関係が成り立つ。非球面係数A4と横収差ΔYとの関係は、次の式(5)により表される。
次に、加工光学系114により収差が生じ得る場合、すなわちΔYOがゼロ以外の値である場合について説明する。図19は、実施の形態1において凸状の収差レンズ171を使用する場合における、加工光学系114により生じる収差ΔYOと非球面係数A4との関係の例を示す図である。図20は、実施の形態1において凸状の収差レンズ171を使用する場合における、加工光学系114により生じる収差ΔYOと収差レンズ171の移動量dとの関係の例を示す図である。図21は、実施の形態1において凸状の収差レンズ171を使用する場合における、非球面係数A4と収差レンズ171の移動量dとの関係の例を示す図である。図22は、実施の形態1において凹状の収差レンズ173を使用する場合における、加工光学系114により生じる収差ΔYOと非球面係数A4との関係の例を示す図である。図23は、実施の形態1において凹状の収差レンズ173を使用する場合における、加工光学系114により生じる収差ΔYOと収差レンズ173の移動量dとの関係の例を示す図である。図24は、実施の形態1において凹状の収差レンズ173を使用する場合における、非球面係数A4と収差レンズ173の移動量dとの関係の例を示す図である。図25は、図19から図21に示す関係である特性を有する収差レンズ171と、図22から図24に示す関係である特性を有する収差レンズ173とについてのパラメータの例を示す図である。
図25に示す例では、図18の場合と同様に、非球面係数Akはゼロとする。図25において、加工光学系114により生じる収差であるΔYOは、変数であるものとする。収差レンズ171を使用する場合における横収差ΔYは、負の値である一定値とする。収差レンズ173を使用する場合における横収差ΔYは、正の値である一定値とする。
図19および図22には、加工光学系114により生じる収差ΔYOと非球面係数A4との関係を表すグラフを示す。図19に示すように、非球面係数A4がゼロであるとき、収差レンズ171による収差は生じず、ΔYO=ΔYとなる。図22に示すように、非球面係数A4がゼロであるとき、収差レンズ173による収差は生じず、ΔYO=ΔYとなる。つまり、非球面係数A4がゼロであるとき、加工光学系114により生じる収差ΔYOは、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117での横収差ΔYに等しい。
図19に示すように、加工光学系114により生じる収差ΔYOが大きくなるに従い、収差レンズ171における非球面係数A4は大きくなる。図22に示すように、加工光学系114により生じる収差ΔYOが大きくなるに従い、収差レンズ173における非球面係数A4は大きくなる。
図20および図23には、加工光学系114により生じる収差ΔYOと収差レンズ171,173の移動量dとの関係を表すグラフを示す。ここで、発散角θがθ1であって、かつ光軸上における収差レンズ171,173の位置がP1であるときと、発散角θがθ2であって、かつ光軸上における収差レンズ171,173の位置がP2であるときとにおいて、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117における横収差ΔYが等しいとする。この場合において、移動量dは、位置P1と位置P2との間の距離である。すなわち、d=|P1-P2|が成り立つ。
図20に示すように、加工光学系114により生じる収差ΔYOの値が横収差ΔYの値に近づくに従い、移動量dは大きくなる。図23に示すように、加工光学系114により生じる収差ΔYOの値が横収差ΔYの値に近づくに従い、移動量dは大きくなる。また、図20に示すように横収差ΔYが負の横収差である場合、加工光学系114により生じる収差ΔYOを大きくするほど、移動量dを小さくすることができる。図23に示すように横収差ΔYが正の横収差である場合、加工光学系114により生じる収差ΔYOを小さくするほど、移動量dを小さくすることができる。移動量dが小さいほど、可動機構172の可動範囲を小さくすることができ、可動機構172を小型にすることができる。
一般的な加工光学系114は、収差ΔYOをゼロ、または、収差ΔYOを無視できるほどに小さくする。これに対し、図20および図23に示す関係の場合、加工光学系114により生じる収差ΔYOの符号を、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117における横収差ΔYの符号とは逆とすることによって、移動量dを小さくすることができる。すなわち、横収差ΔYが正の値である場合は収差ΔYOを負の値とし、横収差ΔYが負の値である場合は収差ΔYOを正の値とすれば良い。
図21および図24には、非球面係数A4と収差レンズ171,173の移動量dとの関係を表すグラフを示す。図21に示す関係は、図19に示す関係および図20に示す関係から導き出される。図24に示す関係は、図22に示す関係および図23に示す関係から導き出される。
図21に示すように、正の値である非球面係数A4が大きくなるに従い、移動量dは小さくなる。図24に示すように、負の値である非球面係数A4が小さくなるに従い、移動量dは小さくなる。すなわち、図21および図24によると、非球面係数A4の絶対値が大きくなるに従い、移動量dは小さくなる。したがって、非球面係数A4の絶対値を大きくすることによって、可動機構172の可動範囲を小さくすることができ、可動機構172を小型にすることができる。
図17から図25では、単純な例による説明とするために非球面係数Akをゼロとしたが、実施の形態1において、非球面係数Akはゼロ以外の値でも良い。非球面係数Akがゼロ以外の値であることによって、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117における横収差ΔYが等しくなる発散角θ1,θ2を、より広い発散角範囲θr=θ1-θ2で実現可能となる。非球面係数Akがゼロ以外の値である収差レンズ171,173を光軸の方向へ移動させることによって、より広い発散角範囲θrにおいて、レーザ光144の照射位置でのビーム形状を同じにすることができる。その結果、レーザ加工装置31,41は、より広い発散角範囲θrにおいて安定した加工を実現できる。発散角範囲θrは、例えば、光ファイバ142から出射するレーザ光144の発散角範囲と同じであっても良い。例えば、レーザ光144の発散角範囲が50mradから110mradのとき、発散角範囲θr=110mrad-50mrad=60mradとしても良い。
実施の形態1では、収差光学系を、単レンズである収差レンズ171,173,174をとしたが、これに限られない。収差光学系は、複数のレンズにより構成されても良い。または、収差光学系は、レンズ以外の光学素子を含む光学系であっても良い。
実施の形態2.
実施の形態2では、レーザ加工装置の3つの構成例を説明する。実施の形態2では、上記の実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1とは異なる構成について主に説明する。
図26は、実施の形態2の第1の例にかかるレーザ加工装置51の構成を示す図である。レーザ加工装置51は、収差レンズ171に代えて収差レンズ175が設けられている点が、図10に示すレーザ加工装置31とは異なる。かかる点以外は、レーザ加工装置51は、レーザ加工装置31と同様であるものとする。実施の形態2の第1の例では、収差光学系は、単レンズである収差レンズ175とする。収差レンズ175は、球面である凸面を有する凸レンズである。
レーザ加工ヘッド116は、光軸の方向へ収差レンズ175を移動させる可動機構172を備える。レーザ加工装置51は、可動機構172を制御する制御装置を備える。可動機構172による収差レンズ175の動作は、収差レンズ171の場合と同様とする。球面を備える収差レンズ175は、非球面を備えるレンズに比べて容易に作成することができる。第1の例において、加工光学系114は、収差を生じない光学系である。加工光学系114は、無視できるほどに小さい収差を生じる光学系でも良い。なお、図26では、加工対象物143と制御装置との図示を省略する。
収差レンズ175は、例えば、球面であって凸面である第1の面201と球面であって凸面である第2の面202とを有する。第1の面201と第2の面202とは、互いに異なる曲率Cを有する。収差レンズ175は、中心軸上の光線に対する屈折力を有しない。収差レンズ175の中心軸は、収差レンズ175を通過するレーザ光144の光軸と重なり合う。図26に示すレーザ加工装置51では、第1の面201はレーザ光144が入射する入射面であって、第2の面202はレーザ光144が出射する出射面である。なお、中心軸上の光線に対する屈折力を有しないとは、中心軸上の光線に対する屈折力が無視し得るほどに小さいことを含むものとする。
収差レンズ175が中心軸上の光線に対する屈折力を有しないことで、可動機構172により収差レンズ175を移動させても、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置の変化は小さい。これにより、レーザ加工装置51は、レーザ光144の照射位置を安定させることができる。
第1の面201の曲率をC1、第2の面202の曲率をC2、収差レンズ175の中心厚をt、収差レンズ175の屈折率をnとすると、中心軸上の光線に対する屈折力を有しないときにおける曲率C1,C2の関係は、次の式(6)により表される。なお、C1≠0、C2≠0とする。
曲率C1,C2の組み合わせは、式(6)を満足し、かつ、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117で所望の横収差を得られるように選択できる。
図27は、実施の形態2における収差光学系の構成について説明するための図である。図27では、収差光学系である収差レンズ175の形状と、曲率C1,C2との例を示す。曲率C1,C2の各々は、rに依らず一定である。また、式(6)からも分かるように、C1<C2が成り立つ。図26および図27では、曲率C1と曲率C2との各々が正の値である例を示したが、曲率C1と曲率C2との各々は、負の値であっても良い。
可動機構172によって光軸の方向へ収差レンズ175を移動させることによって、レーザ加工装置51は、互いに異なる発散角θのレーザ光144に対し、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117で同じ横収差ΔY2を生じさせることができる。これにより、レーザ加工装置51は、照射位置におけるビーム形状の変化を低減させることができ、安定した加工を実現できる。
収差レンズ175は、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置が大きく変化しない範囲で、中心軸上における屈折力を有しても良い。または、収差レンズ175は、図14の(D)に示す収差レンズ174と同様に、中心領域185における屈折力を有しても良い。中心領域185における屈折力を有する場合、収差レンズ175の中心領域185における屈折力の絶対値は、例えば、コリメートレンズ112の屈折力の10分の1以下である。収差レンズ175の中心領域185における屈折力の絶対値は、コリメートレンズ112の屈折力の100分の1以下であっても良い。
コリメートレンズ112の焦点距離fcを200mmとするとコリメートレンズ112の屈折力は5Dに相当するため、収差レンズ175の中心領域185における屈折力の絶対値は、例えば、5Dの10分の1以下に相当する0.5D以下である。収差レンズ175の中心領域185における屈折力の絶対値は、コリメートレンズ112の屈折力の100分の1以下に相当する0.05D以下であっても良い。
第1の面201の曲率C1および第2の面202の曲率C2は、収差レンズ175とコリメートレンズ112との組み合わせの合成焦点距離feが、コリメートレンズ112の焦点距離fcと等しくなるように設定されても良い。以下、収差光学系とコリメート光学系との組み合わせを、組合せコリメート光学系と称する。ここでは、組合せコリメート光学系は、収差レンズ175とコリメートレンズ112との組み合わせである組合せコリメートレンズとする。
合成焦点距離feは、光ファイバ142の出射端から組合せコリメートレンズを通過するまでについての光線追跡行列Feを求め、光線追跡行列Feの2行1列成分の逆数に-1を乗じることによって求まる。光線追跡行列Feは、次の式(7)により表される。
式(7)では、コリメートレンズ112を、焦点距離fcの薄肉レンズと仮定する。d0は、光ファイバ142の出射端と収差レンズ175の第1の面201との間の距離とする。d1は、収差レンズ175の第2の面202とコリメートレンズ112との間の距離とする。
組合せコリメートレンズの合成焦点距離feがコリメートレンズ112の焦点距離fcと等しくなるとき、曲率C1,C2は、次の式(8)を満足する。なお、C1≠0、C2≠0とする。
この場合において、距離d1と焦点距離fcとの各々を、所望の値としても良い。レーザ加工装置51は、fe=fcを満足する組合せコリメート光学系を備えることによって、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117において所望の収差を得ることができ、安定した加工を実現できる。なお、上記説明ではコリメートレンズ112を薄肉レンズと仮定したが、コリメートレンズ112を、例えば、平凸レンズ、または球面収差を最小化したレンズと仮定しても良い。
図26には、第1の面201と第2の面202との両方が球面である収差レンズ175を例として示したが、収差レンズ175は、第1の面201と第2の面202との両方が球面であるものに限られない。収差レンズ175は、第1の面201または第2の面202が、式(1)で表される非球面に置き換えられたものであっても良い。例えば、収差レンズ175が、非球面に置き換えられた第1の面201と球面である第2の面202とを備える場合、第1の面201の曲率が、曲率C1から、式(1)で表される曲率C0に置き換えられる。この場合も、レーザ加工装置51は、可動機構172により収差レンズ175を移動させたときにおける、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置の変化を小さくすることができ、レーザ光144の照射位置を安定させることができる。
また、第1の面201または第2の面202が非球面に置き換えられることによって、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117において所望の収差を容易に得ることができる。例えば、第1の面201と第2の面202との両方が球面である場合、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117における横収差の絶対値を大きくしようとすると、曲率C1,C2の絶対値が大きくなる。これに対し、第1の面201と第2の面202との一方が非球面に置き換えられることによって、曲率C1,C2の絶対値が大きくなることが防がれ、所望の収差を容易に得ることが可能となる。
図28は、実施の形態2の第2の例にかかるレーザ加工装置61の構成を示す図である。レーザ加工装置61は、収差レンズ175に代えて収差レンズ176が設けられている点が、図26に示すレーザ加工装置51とは異なる。かかる点以外は、レーザ加工装置61は、レーザ加工装置51と同様であるものとする。収差レンズ176は、複数の球面レンズで構成される収差光学系である。
図28に示す収差レンズ176は、第1のレンズ211と第2のレンズ212とを備える。第1のレンズ211は、球面であって凹面である入射面と平面である出射面とを有する平凹球面レンズである。第2のレンズ212は、球面であって凸面である入射面と平面である出射面とを有する平凸球面レンズである。第2の例では、汎用性が高い平凹球面レンズと平凸球面レンズとが収差レンズ176に使用されることによって、レーザ加工ヘッド116の光学系を容易に構築することができる。
レーザ加工ヘッド116は、光軸の方向へ収差レンズ176を移動させる可動機構172を備える。レーザ加工装置61は、可動機構172を制御する制御装置を備える。可動機構172による収差レンズ176の動作は、収差レンズ171の場合と同様とする。第2の例において、加工光学系114は、収差を生じない光学系である。加工光学系114は、無視できるほどに小さい収差を生じる光学系でも良い。なお、図28では、加工対象物143と制御装置との図示を省略する。
第1のレンズ211の入射面の曲率をC3、第2のレンズ212の入射面の曲率をC4として、中心軸上の光線に対する屈折力を有しないときにおける曲率C3,C4の関係は、次の式(9)により表される。中心軸上の光線に対する屈折力を有しないとは、中心軸上の光線に対する屈折力が無視し得るほどに小さいことを含むものとする。なお、C3≠0、C4≠0とする。
ただし、t3は第1のレンズ211の中心厚、d2は第1のレンズ211の出射面と第2のレンズ212との間の距離とする。曲率C3,C4の組み合わせは、式(9)を満足し、かつ、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117で所望の横収差を得られるように選択できる。
収差レンズ176が中心軸上の光線に対する屈折力を有しないことで、可動機構172により収差レンズ176を移動させても、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置の変化は小さい。これにより、レーザ加工装置61は、レーザ光144の照射位置を安定させることができる。レーザ加工装置61は、距離d2を一定に保ちながら収差レンズ176を光軸の方向に移動させることによって、中心軸上の光線に対する屈折力を有しない状態を維持しながら収差レンズ176を移動させることができる。レーザ加工装置61は、照射位置におけるビーム形状の変化を低減させることができ、安定した加工を実現できる。
第1のレンズ211の入射面の曲率C3および第2のレンズ212の入射面の曲率C4は、収差レンズ176とコリメートレンズ112との組み合わせの合成焦点距離fe2が、コリメートレンズ112の焦点距離fcと等しくなるように設定されても良い。第2の例では、組合せコリメート光学系は、収差レンズ176とコリメートレンズ112との組み合わせである組合せコリメートレンズとする。
合成焦点距離fe2は、光ファイバ142の出射端から組合せコリメートレンズを通過するまでについての光線追跡行列Fe2を求め、光線追跡行列Fe2の2行1列成分の逆数に-1を乗じることによって求まる。光線追跡行列Fe2は、式(7)に示される光線追跡行列Feと同様に求めることができる。ここでは、光線追跡行列Fe2を求める方法についての説明は省略する。
レーザ加工装置61は、fe=fcとする場合も、距離d2を一定に保ちながら収差レンズ176を光軸の方向に移動させることによって、中心軸上の光線に対する屈折力を有しない状態を維持しながら収差レンズ176を移動させることができる。レーザ加工装置61は、fe=fcを満足する組合せコリメート光学系を備えることによって、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117において所望の収差を得ることができ、安定した加工を実現できる。
図28には、凹面である入射面を有する第1のレンズ211と凸面である入射面を有する第2のレンズ212とを有する収差レンズ176を例として示したが、第2の例における収差レンズ176の構成はこれに限られない。第1のレンズ211の出射面が凸面であって、かつ、第2のレンズ212の出射面が凹面であっても良い。
図29は、実施の形態2の第3の例にかかるレーザ加工装置71の構成を示す図である。レーザ加工装置71は、収差レンズ175に代えて収差レンズ177が設けられている点が、図26に示すレーザ加工装置51とは異なる。かかる点以外は、レーザ加工装置71は、レーザ加工装置51と同様であるものとする。収差レンズ177は、複数の球面レンズで構成される収差光学系である。
図29に示す収差レンズ177は、第1のレンズ213と第2のレンズ214とを備える。第1のレンズ213は、平面である入射面と球面であって凹面である出射面とを有する平凹球面レンズである。第2のレンズ214は、平面である入射面と球面であって凸面である出射面とを有する平凸球面レンズである。第3の例では、汎用性が高い平凹球面レンズと平凸球面レンズとが収差レンズ177に使用されることによって、レーザ加工ヘッド116の光学系を容易に構築することができる。
レーザ加工ヘッド116は、光軸の方向へ収差レンズ177を移動させる可動機構172を備える。レーザ加工装置71は、可動機構172を制御する制御装置を備える。可動機構172による収差レンズ177の動作は、収差レンズ171の場合と同様とする。第3の例において、加工光学系114は、収差を生じない光学系である。加工光学系114は、無視できるほどに小さい収差を生じる光学系でも良い。なお、図29では、加工対象物143と制御装置との図示を省略する。
レーザ加工装置71は、図28に示すレーザ加工装置61の場合と同様に、レーザ光144の照射位置を安定させることができる。レーザ加工装置71は、照射位置におけるビーム形状の変化を低減させることができ、安定した加工を実現できる。
図29には、凹面である出射面を有する第1のレンズ213と凸面である出射面を有する第2のレンズ214とを有する収差レンズ177を例として示したが、第3の例における収差レンズ177の構成はこれに限られない。第1のレンズ213の入射面が凸面であって、かつ、第2のレンズ214の入射面が凹面であっても良い。
図28および図29では、収差レンズ176,177の各々を2つの球面レンズで構成した例を示したが、収差レンズ176,177の各々は、3つ以上の球面レンズで構成されたものであっても良い。収差レンズ176,177を構成するレンズは、平凹球面レンズまたは平凸球面レンズに限られない。収差レンズ176,177を構成するレンズは、球面レンズは、両凸球面レンズ、両凹球面レンズ、凸メニスカスレンズ、または凹メニスカスレンズであっても良い。
第1のレンズ211,213の曲率および第2のレンズ212,214の曲率は、第1のレンズ211,213の入射面から第2のレンズ212,214の出射面までの光線追跡行列Fe3に基づいて求めても良い。この場合、光線追跡行列Fe3が求められ、光線追跡行列Fe3の2行1列成分がゼロ、かつ、光線追跡行列Fe3の2行2列成分が1となるように、第1のレンズ211,213の曲率および第2のレンズ212,214の曲率が決定される。
光線追跡行列Fe3の2行1列成分がゼロ、かつ、光線追跡行列Fe3の2行2列成分が1であることによって、可動機構172によって光軸の方向へ収差レンズ176,177を移動させてもレーザ加工ヘッド116の近軸焦点117の位置が変化せず、安定した加工を実現できる。例えば、第1のレンズ211,213または第2のレンズ212,214を、凸メニスカスレンズまたは凹メニスカスレンズとすることによって、光線追跡行列Fe3の2行1列成分をゼロ、かつ、光線追跡行列Fe3の2行2列成分を1とすることができる。
実施の形態3.
実施の形態3では、レーザ加工装置の2つの構成例を説明する。実施の形態3では、上記の実施の形態1または2と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1または2とは異なる構成について主に説明する。
図30は、実施の形態3の第1の例にかかるレーザ加工装置81の構成を示す図である。レーザ加工装置81のレーザ加工ヘッド116は、図10に示すレーザ加工装置31のレーザ加工ヘッド116と同様の構成に加えて、第1のベンドミラー301と、第2のベンドミラー302と、モニタ用レンズ303と、光検出部304とを備える。第1のベンドミラー301と、第2のベンドミラー302と、モニタ用レンズ303と、光検出部304とがレーザ加工ヘッド116に備えられることによって、加工対象物143の状態と溶融金属151の状態との観察が可能となる。なお、図30では、加工対象物143と、可動機構172を制御する制御装置との図示を省略する。
第1のベンドミラー301および第2のベンドミラー302は、コリメートレンズ112と集光レンズ113との間の光路上に配置されている。第1のベンドミラー301は、コリメートレンズ112を通過したレーザ光144を第2のベンドミラー302の方へ反射する。第2のベンドミラー302は、第1のベンドミラー301から入射するレーザ光144を集光レンズ113の方へ反射する。集光レンズ113には、第2のベンドミラー302で反射したレーザ光144が入射する。
第2のベンドミラー302の反射面には、例えば、レーザ光144を反射し、かつ、加工対象物143からレーザ加工ヘッド116へ入射する光305を透過するコーティングが施されている。第2のベンドミラー302は、例えば、ダイクロイックミラーである。加工対象物143からレーザ加工ヘッド116へ入射し、集光レンズ113を通過した光305は、第2のベンドミラー302へ入射する。第2のベンドミラー302を通過した光305は、モニタ用レンズ303によって光検出部304にて集光される。
光検出部304は、例えば、撮像装置である。撮像装置は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを備えるカメラである。撮像装置により加工対象物143を撮像することによって、加工対象物143の状態と溶融金属151の状態とを観察できる。光検出部304は、フォトダイオードといった光検出器でも良い。
集光レンズ113は、例えば、収差を生じないか、または、無視できるほどに小さい収差を生じる。光検出部304が撮像装置である場合、集光レンズ113の収差を無くすことによって、撮像装置へ収差無く光305を集光できる。これにより、撮像装置によってぼけまたは歪みの無い画像を得ることができる。この場合、レーザ加工ヘッド116の近軸焦点117において生じる横収差ΔY2は、コリメートレンズ112または収差レンズ171、あるいは、コリメートレンズ112および収差レンズ171の両方によって生じさせる。
図30では、レーザ加工ヘッド116に収差レンズ171が備えられる例を示したが、レーザ加工ヘッド116には、収差レンズ171に代えて、上記の収差レンズ173,174,175,176,177のいずれが備えられても良い。
レーザ加工装置81には、加工対象物143を照明する照明光源が備えられても良い。照明光源には、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)またはレーザダイオード(Laser Diode:LD)といった光源を使用できる。照明光源によって加工対象物143を照明することで、加工対象物143の状態、または溶融金属151の状態をより分かり易く観察することができる。
図31は、実施の形態3の第2の例にかかるレーザ加工装置91の構成を示す図である。レーザ加工装置91の制御装置310は、可動機構172を制御する。光検出部304が撮像装置である場合、制御装置310は、撮像装置から出力される画像を解析し、解析結果に基づいて可動機構172を制御する。制御装置310は、可動機構172を制御することによって、収差レンズ171を光軸上の最適な位置へ移動させる。光検出部304が光検出器である場合、制御装置310は、光検出器により検出された光信号に基づいて可動機構172を制御する。光信号に基づく制御方法としては、例えば、フィードバック制御を用いても良い。また、制御装置310は、フィードフォワード制御等が組み合わせられた制御方法によって可動機構172を制御しても良い。レーザ加工装置91は、制御装置310によって光軸上の最適な位置へ収差レンズ171を移動させる制御を続けることで、安定した加工を維持することができる。
図31では、レーザ加工ヘッド116に収差レンズ171が備えられる例を示したが、レーザ加工ヘッド116には、収差レンズ171に代えて、上記の収差レンズ173,174,175,176,177のいずれが備えられても良い。図31では、レーザ光144と同軸上に光検出部304が配置される例を示したが、光検出部304は、レーザ光144とは非同軸に配置されても良い。レーザ光144とは非同軸に光検出部304が配置される場合、例えば、光検出部304である複数の光検出器が非同軸に配置されても良い。この場合、レーザ加工装置91は、複数の光検出器からの光信号に基づいて可動機構172を制御する。
次に、実施の形態3にかかる制御装置310を実現するハードウェアについて説明する。制御装置310は、処理回路により実現される。処理回路は、プロセッサがソフトウェアを実行する回路であっても良いし、専用の回路であっても良い。
処理回路がソフトウェアにより実現される場合、処理回路は、例えば、図32に示す制御回路である。図32は、実施の形態3にかかる制御回路320の構成例を示す図である。制御回路320は、入力部321、プロセッサ322、メモリ323および出力部324を備える。入力部321は、制御回路320の外部から入力されたデータを受信してプロセッサ322に与えるインターフェース回路である。出力部324は、プロセッサ322またはメモリ323からのデータを制御回路320の外部に送るインターフェース回路である。
処理回路が図32に示す制御回路320である場合、制御装置310は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ323に格納される。処理回路では、メモリ323に記憶されたプログラムをプロセッサ322が読み出して実行することにより、各機能を実現する。すなわち、処理回路は、制御装置310の処理が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ323を備える。また、これらのプログラムは、制御装置310の手順および方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
プロセッサ322は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、またはDSP(Digital Signal Processor)ともいう)である。メモリ323は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスクまたはDVD(Digital Versatile Disc)等が該当する。
図32は、汎用のプロセッサ322およびメモリ323により各構成要素を実現する場合のハードウェアの例であるが、各構成要素は、専用のハードウェア回路により実現されても良い。図33は、実施の形態3にかかる専用のハードウェア回路325の構成例を示す図である。
専用のハードウェア回路325は、入力部321、出力部324および処理回路326を備える。処理回路326は、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせた回路である。制御装置310の各機能を機能別に処理回路326で実現しても良いし、各機能をまとめて処理回路326で実現しても良い。なお、制御装置310は、制御回路320とハードウェア回路325とが組み合わされて実現されても良い。
以上の各実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものである。各実施の形態の構成は、別の公知の技術と組み合わせることが可能である。各実施の形態の構成同士が適宜組み合わせられても良い。本開示の要旨を逸脱しない範囲で、各実施の形態の構成の一部を省略または変更することが可能である。