従来、高電圧や大電流を制御するパワー半導体装置の構成材料として、シリコン(Si)が用いられている。パワー半導体装置は、バイポーラトランジスタやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)など複数種類あり、これらは用途に合わせて使い分けられている。
例えば、バイポーラトランジスタやIGBTは、MOSFETに比べて電流密度は高く大電流化が可能であるが、高速にスイッチングさせることができない。具体的には、バイポーラトランジスタは数kHz程度のスイッチング周波数での使用が限界であり、IGBTは数十kHz程度のスイッチング周波数での使用が限界である。一方、パワーMOSFETは、バイポーラトランジスタやIGBTに比べて電流密度が低く大電流化が難しいが、数MHz程度までの高速スイッチング動作が可能である。
しかしながら、市場では大電流と高速性とを兼ね備えたパワー半導体装置への要求が強く、IGBTやパワーMOSFETはその改良に力が注がれ、現在ではほぼ材料限界に近いところまで開発が進んでいる。パワー半導体装置の観点からシリコンに代わる半導体材料が検討されており、低オン電圧、高速特性、高温特性に優れた次世代のパワー半導体装置を作製(製造)可能な半導体材料として炭化珪素(SiC)が注目を集めている。
その理由は、SiCは化学的に非常に安定な材料であり、バンドギャップが3eVと広く、高温でも半導体として極めて安定的に使用できるためである。また、最大電界強度もシリコンより1桁以上大きいからである。SiCはシリコンにおける材料限界を超える可能性大であることからパワー半導体用途、特にMOSFETでは今後の伸長が大きく期待される。特にそのオン抵抗が小さいことが期待されているが高耐圧特性を維持したままより一層の低オン抵抗を有する縦型SiC-MOSFETが期待できる。
図13は、従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図13は、炭化珪素半導体ウェハ上に形成され、個別化される前の炭化珪素半導体装置の構造を示す。図13に示すように、炭化珪素からなる半導体基体(以下、炭化珪素基体とする)のおもて面(p型炭化珪素エピタキシャル層103側の面)側に一般的なトレンチゲート構造のMOSゲートを備える。炭化珪素基体(半導体チップ)は、炭化珪素からなるn+型支持基板(以下、n+型炭化珪素基板とする)101上にn型炭化珪素エピタキシャル層102、電流拡散領域であるn型高濃度領域106およびp型炭化珪素エピタキシャル層103となる各炭化珪素層を順にエピタキシャル成長させてなる。
n型高濃度領域106には、隣り合うトレンチ118間(メサ部)に、第1p+型ベース領域104が選択的に設けられている。また、n型高濃度領域106には、トレンチ118の底面を部分的に覆う第2p+型ベース領域105が選択的に設けられている。第2p+型ベース領域105は、n型炭化珪素エピタキシャル層102に達しない深さで設けられている。第2p+型ベース領域105と第1p+型ベース領域104は同時に形成されてもかまわない。第1p+型ベース領域104は、p型炭化珪素エピタキシャル層103に接するように設けられている。
符号107~111、113は、それぞれn+型ソース領域、p++型コンタクト領域、ゲート絶縁膜、ゲート電極、層間絶縁膜およびソース電極である。ここで、ソース電極上のソース電極パッド(不図示)は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム・シリコン合金(Al-Si)等のはんだと接合しにくい材料から構成されている。このため、ソース電極パッド上にめっき膜116が設けられる。また、n+型炭化珪素基板101の裏面側には裏面電極114が設けられる。またダイシング等により分割後、めっき膜116部分にはんだを介して外部端子電極が設けられる。
また、従来の炭化珪素半導体装置は、主電流が流れる活性領域130の外周部に、活性領域130の周囲を囲んで耐圧を保持するエッジ終端領域131が設けられ、エッジ終端領域131の外側にはダイシング領域132が設けられている。エッジ終端領域131には、JTE構造120とn+型半導体領域121が設けられている。ダイシング領域132を切断(ダイシング)することで、炭化珪素半導体装置が個別化される。エッジ終端領域131とダイシング領域132には、酸化膜122が設けられている。
ここで、図14は、炭化珪素半導体ウェハ上の炭化珪素半導体素子を示す上面図である。炭化珪素半導体装置は、炭化珪素半導体ウェハ150上に複数形成された炭化珪素半導体素子(炭化珪素半導体チップ)140を切断し、チップ化(個別化)することにより製造される。炭化珪素半導体ウェハ150からの切り出しは、ダイヤモンド製の円形回転刃のダイシングブレード、レーザーまたは超音波により例えば図14の点線の部分(ダイシングライン)に沿って切削することにより行われる。
例えば、所定のダイシングラインを含んでいる表面開口ダイシングライン領域を形成し、SiCウェハの裏面にオーミック電極及び裏面開口ダイシングライン領域を形成する工程を実行し、所定のダイシングラインで分割して複数の半導体チップを得ることで、ダイシング工程のスループットを向上させるとともに、ダイシングブレードの長寿命化にも寄与する技術がある(例えば、下記特許文献1参照)。
また、ダイシング領域に沿って電圧緩和層を形成し、さらに電圧緩和層を絶縁層で覆うことにより、半導体素子構造の電気特性の測定時、絶縁層および電圧緩和層の2段階で最大印加電圧(BV)を緩和することができ、ダイシング領域-表面電極間における大気中にかかる電圧の負担を軽くすることができる技術がある(例えば、下記特許文献2参照)。
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。+および-を含めたnやpの表記が同じ場合は近い濃度であることを示し濃度が同等とは限らない。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”は
その直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けること
で負の指数をあらわしている。
(実施の形態)
本発明にかかる半導体装置は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成される。実施の形態においては、ワイドバンドギャップ半導体として例えば炭化珪素(SiC)を用いて作製された炭化珪素半導体装置について、MOSFETを例に説明する。図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図1では、炭化珪素半導体ウェハ上に形成され、個別化される前の炭化珪素半導体装置の構造を示す。また、素子構造が形成されオン状態のときに基板の厚さ方向に主電流が流れる活性領域30の構成と、活性領域30の周囲を囲んで耐圧を保持するエッジ終端領域31とエッジ終端領域31の外側のダイシング領域32の構成を示す。ダイシング領域32は、炭化珪素半導体装置を個別化する際に切断される領域である。
図1に示すように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、n+型炭化珪素基板(第1導電型の半導体基板)1の第1主面(おもて面)、例えば(0001)面(Si面)、にn型炭化珪素エピタキシャル層2が堆積されている。
n+型炭化珪素基板1は、例えば窒素(N)がドーピングされた炭化珪素単結晶基板である。n型炭化珪素エピタキシャル層2は、n+型炭化珪素基板1よりも低い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている低濃度n型ドリフト層である。n型炭化珪素エピタキシャル層2の、n+型炭化珪素基板1側に対して反対側の表面は、n型高濃度領域6が形成されている。n型高濃度領域6は、n+型炭化珪素基板1よりも低くn型炭化珪素エピタキシャル層2よりも高い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている高濃度n型ドリフト層である。以下、n+型炭化珪素基板1とn型炭化珪素エピタキシャル層2と後述するp型炭化珪素エピタキシャル層3とを併せて炭化珪素半導体基体とする。
図1に示すように、n+型炭化珪素基板1の第2主面(裏面、すなわち炭化珪素半導体基体の裏面)には、裏面電極14が設けられている。裏面電極14は、ドレイン電極を構成する。裏面電極14の表面には、ドレイン電極パッド(不図示)が設けられている。
炭化珪素半導体基体の第1主面側(p型炭化珪素エピタキシャル層3側)には、トレンチ構造が形成されている。具体的には、トレンチ18は、p型炭化珪素エピタキシャル層3のn+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面からp型炭化珪素エピタキシャル層3を貫通してn型高濃度領域6に達する。トレンチ18の内壁に沿って、トレンチ18の底部および側壁にゲート絶縁膜9が形成されており、トレンチ18内のゲート絶縁膜9の内側にゲート電極10が形成されている。ゲート絶縁膜9によりゲート電極10が、n型炭化珪素エピタキシャル層2およびp型炭化珪素エピタキシャル層3と絶縁されている。ゲート電極10の一部は、トレンチ18の上方(ソース電極13側)からソース電極13側に突出していてもよい。
n型高濃度領域6のn+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面層には、第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5が選択的に設けられている。第2p+型ベース領域5はトレンチ18の下に形成されており、第2p+型ベース領域5の幅はトレンチ18の幅よりも広い。第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5は、例えばアルミニウム(Al)がドーピングされている。
第1p+型ベース領域4の一部をトレンチ18側に延在させることで第2p+型ベース領域5に接続した構造となっていてもよい。この場合、第1p+型ベース領域4の一部は、第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5とが並ぶ方向(以下、第1方向とする)Xと直交する方向(以下、第2方向とする)Yに、n型高濃度領域6と交互に繰り返し配置された平面レイアウトを有していてもよい。例えば、第1p+型ベース領域4の一部を第1方向Xの両側のトレンチ18側に延在し、第2p+型ベース領域5の一部と接続する構造を第2方向Yに周期的に配置してもよい。その理由は、第2p+型ベース領域5とn型炭化珪素エピタキシャル層2の接合部分でアバランシェ降伏が起こったときに発生するホールを効率よくソース電極13に退避させることでゲート絶縁膜9への負担を軽減し信頼性をあげるためである。
n型炭化珪素エピタキシャル層2の基体第1主面側には、p型炭化珪素エピタキシャル層3が設けられている。p型炭化珪素エピタキシャル層3の内部には、基体第1主面側にn+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8が選択的に設けられている。n+型ソース領域7はトレンチ18に接している。また、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8は互いに接する。また、n型炭化珪素エピタキシャル層2の基体第1主面側の表面層の第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5に挟まれた領域と、p型炭化珪素エピタキシャル層3と第2p+型ベース領域5に挟まれた領域にn型高濃度領域6が設けられている。
図1では、活性領域30に2つのトレンチMOS構造のみを図示しているが、さらに多くのトレンチ構造のMOSゲート(金属-酸化膜-半導体からなる絶縁ゲート)構造が並列に配置されていてもよい。
層間絶縁膜11は、炭化珪素半導体基体の第1主面側の全面に、トレンチ18に埋め込まれたゲート電極10を覆うように設けられている。ソース電極13は、層間絶縁膜11に開口されたコンタクトホールを介して、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8に接する。ソース電極13は、層間絶縁膜11によって、ゲート電極10と電気的に絶縁されている。ソース電極13上には、ソース電極パッド(不図示)が設けられている。ソース電極13と層間絶縁膜11との間に、例えばソース電極13からゲート電極10側への金属原子の拡散を防止するバリアメタル(不図示)が設けられていてもよい。
ソース電極パッドの上部には、めっき膜16が選択的に設けられている。必須ではないが、めっき膜16の表面側に、はんだが設けられる部分を除いて選択的に保護膜17を設けてもよい。
次に、エッジ終端領域31およびダイシング領域32について説明する。エッジ終端領域31には、電界を緩和または分散させることで高耐圧半導体装置全体の耐圧を向上させるため、接合終端(JTE:Junction Termination Extension)構造として、隣接して配置したJTE構造20が設けられている。JTE構造20の外側(ダイシング領域32側)に、チャネルストッパとして機能するn+型半導体領域21が設けられている。JTE構造20およびn+型半導体領域21の表面には、酸化膜22が設けられている。
実施の形態の炭化珪素半導体装置では、ダイシング領域32に、ダイシングブレード(ダイシングの刃)が接する部分に酸化膜22が設けられていない領域を有する。図1は、酸化膜22が設けられていない領域の部分の断面であり、領域Sの部分で、幅W1の領域に酸化膜22が設けられていない。酸化膜22が設けられていない領域の幅は、ダイシング領域32の幅以下で、ダイシングブレードの幅より広くする必要がある。例えば、ダイシングブレードの幅が20~30μmである場合、この幅より広くする必要がある。
図1の例では、酸化膜22が設けられていない領域の幅W1は、ダイシング領域32の幅と同程度である。例えば、ダイシング領域32の幅が100μm程度であると、幅W1も100μm程度である。
図2および図3は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の他の構造を示す断面図である。図2および図3は、酸化膜22が設けられていない領域の幅W2,W3が、図1の領域の幅W1より狭くなっている例である。図2の例では、領域Sの部分で、幅W2の領域に酸化膜22が設けられていない。この例では、ダイシング領域32の幅の80%程度の幅W2に酸化膜22が設けられていない。例えば、ダイシング領域32の幅が100μm程度であると、幅W2は80μm程度である。
また、図3の例では、領域Sの部分で、幅W3の領域に酸化膜22が設けられていない。この例では、ダイシング領域32の幅の60%程度の幅W3に酸化膜22が設けられていない。例えば、ダイシング領域32の幅が100μm程度であると、幅W3は60μm程度である。
このように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置では、ダイシング領域32において、ダイシングブレードが接する部分に酸化膜22が設けられていない領域がある。このため、酸化膜22が設けられていない領域のダイシングの際、ダイシングブレードが傾くことなくまっすぐに切断している場合は、ダイシングブレードが酸化膜22を削ることはない。一方、ダイシングブレードが傾き、斜めに切断していった場合は、ダイシングブレードが酸化膜22を削ることになる。酸化膜22が削れたことを検出した場合、ダイシングブレードの前進を停止して、ダイシングブレードの位置と傾きを修正して、前進を再開することで再度まっすぐに切断するようにできる。このため、ダイシング中にダイシングブレードが切断する面が傾くことにより発生する歪を抑制でき、長時間使用しても、信頼性が低下することがなくなる。例えば、酸化膜22が削れたことは、パターン認識または目視等で識別が可能である。また、酸化膜22が設けられていない領域の幅が狭いほどダイシングブレードの小さな傾きを検出できるようになる。
ここで、図4は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体ウェハ上の炭化珪素半導体素子を示す上面図である。図4において、一点鎖線がダイシングラインである。図4では、酸化膜22が設けられていない領域は、ダイシング領域32の一部にのみ設けられている。図4の例では、酸化膜非形成領域33内のダイシング領域32が、酸化膜22が設けられていない領域である。このため、図1~図3は、図4のA-A’部分の断面であり、図4のB-B’部分の断面は、ダイシング領域32において酸化膜22が形成されている領域であり、断面の構造は、従来の炭化珪素半導体装置と同様になる(図13参照)。この時、ダイシングライン上には、幅の異なる複数の酸化膜22が設けられていない領域が配置されていることが好ましい。これにより、ダイシングブレードの傾きの検出範囲を広くすることができる。より好ましくは、各ダイシングラインにおいて幅の異なる複数の酸化膜22が設けられていない領域が配置されているとよい。
また、図4では、DX-DX’等のダイシングラインには、酸化膜非形成領域33が記載されていないが、これは見やすくするためのものであり、実際には、すべてのダイシングライン上に酸化膜非形成領域33が設けられている。また、ダイシングライン上に複数の酸化膜非形成領域33が設けられていることが好ましく、図4の例では、1つのダイシングライン上に3つまたは4つの酸化膜非形成領域33が設けられている。
また、酸化膜22が設けられていない領域の幅は、ダイシングの開始位置(ダイシングラインの長さ方向における一方側)から終了位置(ダイシングラインの長さ方向における他方側)に行くにしたがい、広くなることが好ましい。例えば、AX-AX’のダイシングラインで、ダイシングがAXから始まる場合は、AXに近い酸化膜非形成領域33では、酸化膜22が設けられていない領域の幅は、図3のように狭く、AX’に近い酸化膜非形成領域33では、酸化膜22が設けられていない領域の幅は、図1のように広いことが好ましい。開始位置で傾きが小さくても、終了位置ではダイシングラインからのずれが大きくなるため、開始位置では領域の幅を狭くして、小さな傾きも検出できるようにするためである。また、終了位置では、開始位置より傾きが大きくなるため、領域の幅を広くすることが好ましい。
酸化膜非形成領域33は、図4のようにX方向のダイシングライン(例えばAX-AX’)とY方向のダイシングライン(例えばAY-AY’)が交わる位置に設けることが好ましい。このようにすることで1つの酸化膜非形成領域33でX方向のダイシングでのダイシングブレードの傾き、Y方向のダイシングでのダイシングブレードの傾きを検出することができる。
図5は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す上面図である。図5は図4の領域Bの部分の拡大図である。図5に、炭化珪素半導体装置の活性領域30とエッジ終端領域31が記載され、エッジ終端領域31の間がダイシング領域32となる。また、活性領域30には、ソースパッド領域213とゲートパッド領域212が記載されている。酸化膜非形成領域33は、酸化膜非形成領域33AのようにX方向のダイシングライン上に設けてもよいし、酸化膜非形成領域33BのようにY方向のダイシングライン上に設けてもよい。X方向のダイシングラインまたはY方向のダイシングラインのいずれかに設けてもよいし、両方に設けてもよい。片側のみに設ける場合、炭化珪素半導体装置がストライプ状の素子構造を有する場合、ストライプと同方向のダイシングラインに設けることが好ましい。例えば、図1の炭化珪素半導体装置は、トレンチの奥行き方向(Y方向)にストライプ状の素子構造を有し、図5ではトレンチの奥行き方向はX方向であるため、X方向のダイシングラインに酸化膜非形成領域33を有することが好ましい。これは、ストライプと同方向の方が、この方向と直交する方向より、ダイシングブレードが傾きやすいためである。
また、上記の例では、ダイシングブレードの傾きを検出するための膜として、酸化膜22を例に説明してきたが、この膜は、ポリシリコン膜や金属膜であってもかまわない。ダイシングブレードが入ったことが検出できれば、他の材料であってもかまわない。ただし、ダイシングブレードが傾いた際に金属膜を削るとダイシングブレードへのダメージが大きいため、ポリシリコン膜のような柔らかい膜の方が好ましい。
(実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。図6~図12は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
まず、n型の炭化珪素でできたn+型炭化珪素基板1を用意する。そして、このn+型炭化珪素基板1の第1主面上に、n型の不純物、例えば窒素原子をドーピングしながら炭化珪素でできた第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aを、例えば30μm程度の厚さまでエピタキシャル成長させる。この第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aは、n型炭化珪素エピタキシャル層2となる。ここまでの状態が図6に示されている。
次に、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度の下部第1p+型ベース領域4aを形成する。下部第1p+型ベース領域4aと同時に、トレンチ18の底部となる第2p+型ベース領域5を形成してもよい。隣り合う下部第1p+型ベース領域4aと第2p+型ベース領域5との距離が1.5μm程度となるよう形成する。下部第1p+型ベース領域4aおよび第2p+型ベース領域5の不純物濃度を例えば5×1018/cm3程度に設定する。ここまでの状態が図7に示されている。
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の下部n型高濃度領域6aを設ける。下部n型高濃度領域6aの不純物濃度を例えば1×1017/cm3程度に設定する。
次に、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、窒素等のn型の不純物をドーピングした第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bを、0.5μm程度の厚さで形成する。第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bの不純物濃度が3×1015/cm3程度となるように設定する。以降、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aと第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bを合わせて、n型炭化珪素エピタキシャル層2となる。
次に、第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bの表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度の上部第1p+型ベース領域4bを、下部第1p+型ベース領域4aに重なるように形成する。下部第1p+型ベース領域4aと上部第1p+型ベース領域4bは連続した領域を形成し、第1p+型ベース領域4となる。上部第1p+型ベース領域4bの不純物濃度を例えば5×1018/cm3程度となるように設定する。
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bの表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の上部n型高濃度領域6bを設ける。上部n型高濃度領域6bの不純物濃度を例えば1×1017/cm3程度に設定する。この上部n型高濃度領域6bと下部n型高濃度領域6aは少なくとも一部が接するように形成され、n型高濃度領域6を形成する。ただし、このn型高濃度領域6が基板全面に形成される場合と、形成されない場合がある。ここまでの状態が図8に示されている。
次に、n型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、アルミニウム等のp型不純物をドーピングしたp型炭化珪素エピタキシャル層3を1.3μm程度の厚さで形成する。p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度は4×1017/cm3程度に設定する。
次に、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。この開口部にリン(P)等のn型の不純物をイオン注入し、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面の一部にn+型ソース領域7を形成する。n+型ソース領域7の不純物濃度は、p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度より高くなるように設定する。次に、n+型ソース領域7の形成に用いたイオン注入用マスクを除去し、同様の方法で、所定の開口部を有するイオン注入用マスクを形成し、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面の一部にアルミニウム等のp型の不純物をイオン注入し、p++型コンタクト領域8を設ける。p++型コンタクト領域8の不純物濃度は、p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度より高くなるように設定する。
次に、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面上に、厚さ1.5μmの酸化膜を堆積し、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。この開口部にアルミニウム等のp型の不純物をイオン注入し、露出したn型炭化珪素エピタキシャル層2の表面の低不純物濃度のJTE構造20を形成する。同様の方法で、所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成し、n型炭化珪素エピタキシャル層2の表面の一部にn型の不純物をイオン注入し、n+型半導体領域21を形成する。ここまでの状態が図9に示されている。
次に、1700℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理(アニール)を行い、第1p+型ベース領域4、第2p+型ベース領域5、n+型ソース領域7、p++型コンタクト領域8、JTE構造20、n+型半導体領域21の活性化処理を実施する。なお、上述したように1回の熱処理によって各イオン注入領域をまとめて活性化させてもよいし、イオン注入を行うたびに熱処理を行って活性化させてもよい。
次に、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するトレンチ形成用マスクを例えば酸化膜で形成する。次に、ドライエッチングによってp型炭化珪素エピタキシャル層3を貫通し、n型高濃度領域6に達するトレンチ18を形成する。トレンチ18の底部はn型高濃度領域6に形成された第1p+型ベース領域4に達してもよい。次に、トレンチ形成用マスクを除去する。ここまでの状態が図10に示されている。
次に、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面上に、トレンチ18の底部および側壁と、に沿って酸化膜を形成する。n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8の表面と、トレンチ18の底部および側壁に形成された酸化膜によりゲート絶縁膜9が形成される。エッジ終端領域31上に形成された酸化膜により酸化膜22が形成される。また、ダイシング領域23において、酸化膜を部分的に除去することより、ダイシングブレードが接する位置に膜が設けられていない領域を形成する。この酸化膜は、酸素雰囲気中において1000℃程度の温度の熱処理によって熱酸化によって形成してもよい。また、このゲート絶縁膜9は高温酸化(High Temperature Oxide:HTO)等のような化学反応によって堆積する方法で形成してもよい。
次に、ゲート絶縁膜9上に、例えばリン原子がドーピングされた多結晶シリコン層を設ける。この多結晶シリコン層はトレンチ18内を埋めるように形成してもよい。この多結晶シリコン層をフォトリソグラフィによりパターニングし、トレンチ18内部に残すことによって、ゲート電極10を設ける。ゲート電極10の一部はトレンチ18外部に突出していてもよい。ここまでの状態が図11に示されている。
次に、ゲート絶縁膜9およびゲート電極10を覆うように、例えばリンガラスを1μm程度の厚さで成膜し、層間絶縁膜11を設ける。次に、層間絶縁膜11を覆うように、チタン(Ti)または窒化チタン(TiN)からなるバリアメタル(不図示)を形成してもよい。層間絶縁膜11およびゲート絶縁膜9をフォトリソグラフィによりパターニングしn+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8を露出させたコンタクトホールを形成する。その後、熱処理(リフロー)を行って層間絶縁膜11を平坦化する。ここまでの状態が図12に示されている。
次に、コンタクトホール内および層間絶縁膜11の上にソース電極13となるニッケル(Ni)等の導電性の膜を設ける。この導電性の膜をフォトリソグラフィによりパターニングし、コンタクトホール内にのみソース電極13を残す。
次に、n+型炭化珪素基板1の第2主面上に、ニッケル等の裏面電極14を設ける。この後、1000℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理を行って、n+型ソース領域7、p++型コンタクト領域8およびn+型炭化珪素基板1とオーミック接合するソース電極13および裏面電極14を形成する。
次に、n+型炭化珪素基板1の第1主面上に、スパッタ法によって5μm程度の厚さのアルミニウム膜を堆積し、フォトリソグラフィによりソース電極13および層間絶縁膜11を覆うようにアルミニウムを除去し、ソース電極パッドを形成する。
次に、裏面電極14の表面に、例えばチタン(Ti)、ニッケルおよび金(Au)を順に積層することによって、ドレイン電極パッド(不図示)を形成する。次に、ソース電極13の上部に、めっき膜16を選択的に形成する。以上のようにして、図1~図3に示す炭化珪素半導体装置が完成する。
その後、炭化珪素半導体ウェハ150をチップ状に切断(ダイシング)して個片化することで、炭化珪素半導体素子140が完成する。このダイシングの際、ダイシングブレードが酸化膜22に接することに応じてダイシングの方向を校正する。
以上、説明したように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置によれば、ダイシング領域において、ダイシングブレードが接する領域に酸化膜が形成されていない領域がある。このため、この領域のダイシングの際、ダイシングブレードが傾き、斜めに切断していった場合は、ダイシングブレードが酸化膜を削ることになる。酸化膜が削れたことを検出した場合、ダイシングブレードの前進を停止して、ダイシングブレードの位置と傾きを修正して、再度まっすぐに切断するようにできる。このため、ダイシング中にダイシングブレードが切断する面が傾くことにより発生する歪を抑制でき、長時間使用しても、信頼性が低下することがなくなる。
以上において本発明では、炭化珪素でできた炭化珪素基板の主面を(0001)面とし当該(0001)面上にMOSを構成した場合を例に説明したが、これに限らず、ワイドバンドギャップ半導体、基板主面の面方位などを種々変更可能である。また、上述した各実施の形態では、トレンチ型の炭化珪素半導体装置を例に説明してきたが、プレーナ型の炭化珪素半導体装置にも適用可能で、同様の効果を有する。
また、本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、上述した実施の形態では、ワイドバンドギャップ半導体として炭化珪素を用いた場合を例に説明しているが、炭化珪素以外の例えば窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンドなどのワイドバンドギャップ半導体にも適用可能である。また、実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。