以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1.発振モジュール
1-1.発振モジュールの構造
図1は、本実施形態の発振モジュール1の構造の一例を示す図であり、発振モジュール1の斜視図である。また、図2は発振モジュール1を図1のA-A’で切断した断面図であり、図3は発振モジュール1を図1のB-B’で切断した断面図である。なお、図1~図3では、リッド(蓋)が無い状態の発振モジュール1が図示されているが、実際には、パッケージ4の開口が不図示のリッド(蓋)で覆われて発振モジュール1が構成されている。
図1に示すように、本実施形態の発振モジュール1は、SAW(Surface Acoustic Wave)発振器であり、SAWフィルター(表面弾性波フィルター)2、集積回路(IC:Integrated Circuit)3及びパッケージ4を含んで構成されている。
パッケージ4は、例えば、セラミックパッケージ等の積層パッケージであり、SAWフィルター2と集積回路3とを同一空間内に収容する。具体的には、パッケージ4の上部には開口部が設けられており、当該開口部を不図示のリッド(蓋)で覆うことにより収容室が形成され、当該収容室に、SAWフィルター2及び集積回路3が収容されている。
図2に示すように、集積回路3は、その下面がパッケージ4の第1層4Aの上面に接着固定されている。そして、集積回路3の上面に設けられている各電極(パッド)3Bとパッケージ4の第2層4Bの上面に設けられている各電極6Bとがそれぞれワイヤー5Bによりボンディングされている。
SAWフィルター2は、一方の端部がパッケージ4に固着されている。より具体的には、SAWフィルター2は、長手方向の一方の端部(第1端部)2Aの下面が、接着剤7によりパッケージ4の第3層4Cの上面に接着固定されている。また、SAWフィルター2の長手方向の他方の端部(第2端部)2Bは固定されておらず、かつ、第2端部2Bとパッケージ4の内面との間に間隙が設けられている。すなわち、SAWフィルター2は片持ちでパッケージ4に固定されている。
図1に示すように、SAWフィルター2の上面には、第1端部2Aにおいて第1の入力
ポートIP1、第2の入力ポートIP2、第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2として機能する4つの電極が設けられている。そして、図1及び図3に示すように、SAWフィルター2の第1の入力ポートIP1、第2の入力ポートIP2、第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2とパッケージ4の第3層4Cの上面に設けられている4つの電極6Aとがそれぞれワイヤー5Aによりボンディングされている。
パッケージ4の内部には、4つの電極6Aと所定の4つの電極6Bとをそれぞれ電気的に接続するための不図示の配線が設けられている。すなわち、SAWフィルター2の第1の入力ポートIP1、第2の入力ポートIP2、第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2は、ワイヤー5A、ワイヤー5B及びパッケージ4の内部配線を介して、集積回路3の互いに異なる4つの電極(パッド)3Bとそれぞれ接続されている。
また、パッケージ4の表面(外面)には、電源端子、接地端子あるいは出力端子として機能する不図示の複数の外部電極が設けられており、パッケージ4の内部には、当該複数の外部電極の各々と所定の複数の電極6Bの各々とをそれぞれ電気的に接続するための不図示の配線も設けられている。
図4は、図1の発振モジュール1をその上面から平面視したときのSAWフィルター2及び集積回路3の平面図である。
図4に示すように、SAWフィルター2は、圧電基板200の表面に設けられた、第1のIDT(Interdigital Transducer)201と、第2のIDT202と、第1の反射器203と、第2の反射器204とを有している。
圧電基板200は、例えば、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、四ほう酸リチウム(Li2B4O7, LBO)等の単結晶材料や、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)等の圧電性薄膜、圧電性セラミックス材料などを用いて製造することができる。
第1のIDT201と第2のIDT202は、第1の反射器203と第2の反射器204との間にあり、それぞれ、一定間隔で設けられた複数の電極指を有する櫛状の2つの電極が、互いに間挿し合うように対向して配置されている。そして、図2に示すように、第1のIDT201の電極指ピッチ及び第2のIDT202の電極指ピッチはともに一定値d1になっている。
また、SAWフィルター2は、圧電基板200の表面に設けられた、第1のIDT201と接続されている第1の入力ポートIP1と、第1のIDT201と接続されている第2の入力ポートIP2と、第2のIDT202と接続されている第1の出力ポートOP1と、第2のIDT202と接続されている第2の出力ポートOP2とを有している。
具体的には、圧電基板200の表面には、第1の配線205と第2の配線206とが設けられており、第1の入力ポートIP1は、第1の配線205によって第1のIDT201の一方の電極(図4では上側の電極)と接続され、第2の入力ポートIP2は、第2の配線206によって第1のIDT201の他方の電極(図4では下側の電極)と接続されている。また、圧電基板200の表面には、第3の配線207と第4の配線208とが設けられており、第1の出力ポートOP1は、第3の配線207によって第2のIDT202の一方の電極(図4では上側の電極)と接続され、第2の出力ポートOP2は、第4の配線208によって第2のIDT202の他方の電極(図4では下側の電極)と接続されている。
このように構成されたSAWフィルター2において、第1の入力ポートIP1及び第2の入力ポートIP2からf=v/(2d1)(vは表面弾性波が圧電基板200の表面を伝搬する速度)付近の周波数を有する電気信号が入力されると、第1のIDT201により1波長が2d1に等しい表面弾性波が励起される。そして、第1のIDT201により励起された表面弾性波は、第1の反射器203と第2の反射器204の間で反射されて定在波となる。この定在波は、第2のIDT202において電気信号に変換され、第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2から出力される。すなわち、SAWフィルター2は、中心周波数をf=v/(2d1)とする狭帯域のバンドパスフィルターとして機能する。
本実施形態では、図4に示すように、平面視で、SAWフィルター2の少なくとも一部が集積回路3と重なっている。また、平面視で、SAWフィルター2の第1端部2A(図4において斜線を施した部分)は集積回路3と重なっていない。このように、本実施形態では、SAWフィルター2を、その第1端部2Aをパッケージ4に固定して片持ちにし、SAWフィルター2の下方に形成される空間に集積回路3を配置することによって、発振モジュール1の小型化を実現している。
また、本実施形態の発振モジュール1によれば、SAWフィルター2の全面ではなく、その一部である第1端部2Aがパッケージ4に固着されているので、固着される部分の面積が小さく、パッケージ4から加わる応力により変形しやすい部分が少ない。従って、本実施形態の発振モジュール1によれば、SAWフィルター2に加わる応力による発振信号の劣化を低減させることができる。
また、SAWフィルター2の第1端部2Aにおける圧電基板200の裏面は、接着剤7によってパッケージ4に固定されるため、第1端部2Aは接着剤7の収縮によっても変形しやすい。そこで、本実施形態では、図4に示すように、第1のIDT201、第2のIDT202、第1の反射器203及び第2の反射器204は、第1端部2Aにおける圧電基板200の表面に設けられていない。これにより、第1のIDT201及び第2のIDT202の変形が大きく緩和される。従って、本実施形態によれば、接着剤7の収縮による応力に起因する第1のIDT201や第2のIDT202の変形によって生じる電極指ピッチd1の目標値に対する誤差を小さくすることができるので、高い周波数精度の発振モジュール1を実現することができる。
また、本実施形態では、SAWフィルター2を片持ちにすることで、自由端である第2端部2Bにパッケージ4との接触による応力が加わらない。従って、本実施形態によれば、パッケージ4との接触による応力に起因する第1のIDT201や第2のIDT202の変形が生じないので、高い周波数精度の発振モジュール1を実現することができる。
また、本実施形態では、変形によって特性が変化しない第1の入力ポートIP1、第2の入力ポートIP2、第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2は、SAWフィルター2の第1端部2Aにおける圧電基板200の表面に設けられている。これにより、SAWフィルター2が不要に大きくなることを回避し、発振モジュール1の小型化を可能としている。
また、本実施形態では、図4に示すように、SAWフィルター2は長辺2Xと短辺2Yを有する矩形状であり、平面視で、第1の入力ポートIP1、第2の入力ポートIP2、第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2は、SAWフィルター2の長辺2Xに沿って並んでいる。従って、本実施形態によれば、図1に示したように、SAWフィルター2の外部において、第1の入力ポートIP1、第2の入力ポートIP2、第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2のそれぞれに接続される4つのワイヤー5Aを
すべて長辺2X側に設けることができるので、パッケージ4の内部におけるSAWフィルター2の長辺側の空間を効率よく利用し、短辺側の空間を小さくすることができるので、発振モジュール1の小型化が可能である。
また、本実施形態では、図4に示すように、平面視で、第1の入力ポートIP1と第2の入力ポートIP2とが長辺2Xから等距離に配置され、かつ、第1の出力ポートOP1と第2の出力ポートOP2とが長辺2Xから等距離に配置されている。従って、本実施形態によれば、第1の入力ポートIP1に接続される配線(ワイヤー5A及び基板配線)の長さと第2の入力ポートIP2に接続される配線の長さとを揃えやすく、第1の出力ポートOP1に接続される配線の長さと第2の出力ポートOP2に接続される配線の長さとを揃えやすく、SAWフィルター2に入力又は出力される差動信号の位相差の180°からのずれを小さくすることができる。
さらに、本実施形態では、図4に示すように、平面視で、第1の入力ポートIP1、第2の入力ポートIP2、第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2が長辺2Xから等距離に配置されている。従って、第1の入力ポートIP1、第2の入力ポートIP2、第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2のそれぞれに接続される4つのワイヤー5Aの高さを揃えやすい。特に、本実施形態では、第1の入力ポートIP1、第2の入力ポートIP2、第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2が、長辺2Xに沿って長辺2Xに近い位置に設けられているため、図5の左側の断面図(図3の一部を図示した断面図)に示すように、SAWフィルター2の上面からワイヤー5Aの最高部までの高さH1を小さくすることができる。図5の右側には、仮に、第1の入力ポートIP1、第2の入力ポートIP2、第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2を長辺2Xからより遠い位置に設けた場合の断面図が示されており、SAWフィルター2の上面からワイヤー5Aの最高部までの高さH2はH1よりも大きい。このように、本実施形態によれば、ワイヤー5Aを低くすることができるので、パッケージ4の高さ方向のサイズを小さくすることが可能となり、発振モジュール1の小型化を実現することができる。
また、本実施形態では、図4に示すように、平面視で、長辺2Xに沿う方向に、第1の入力ポートIP1、第1の出力ポートOP1、第2の出力ポートOP2、第2の入力ポートIP2の順に並んでいる。これにより、第1のIDT201と第2のIDT202とを長辺2Xに沿う方向に並べた場合に、第1の配線205、第2の配線206、第3の配線207及び第4の配線208とを互いに交差せずに設けることが容易となり、これら配線の長さを短くすることができる。
なお、SAWフィルター2は、図4の構成に限らず、例えば、反射器を有さず、入力用のIDTと出力用のIDTの間を表面弾性波が伝搬するトランスバーサル型SAWフィルターであってもよい。
1-2.発振モジュールの機能構成
図6は、本実施形態の発振モジュール1の機能構成の一例を示すブロック図である。図6に示すように、本実施形態の発振モジュール1は、SAWフィルター2、位相シフト回路10、差動増幅器20(第1の差動増幅器)、コンデンサー32、コンデンサー34、差動増幅器40(第2の差動増幅器)、コンデンサー52、コンデンサー54、逓倍回路60、ハイパスフィルター70(フィルター回路)、出力回路80を含んで構成されている。なお、本実施形態の発振モジュール1は、適宜、これらの要素の一部を省略又は変更し、あるいは他の要素を追加した構成としてもよい。
位相シフト回路10、差動増幅器20、コンデンサー32、コンデンサー34、差動増
幅器40、コンデンサー52、コンデンサー54、逓倍回路60、ハイパスフィルター70及び出力回路80は、集積回路3に含まれている。すなわち、これらの各回路は集積回路3の一部である。
SAWフィルター2の第1の出力ポートOP1は、集積回路3の入力端子T1と接続されている。また、SAWフィルター2の第2の出力ポートOP2は、集積回路3の入力端子T2と接続されている。また、SAWフィルター2の第1の入力ポートIP1は、集積回路3の出力端子T3と接続されている。また、SAWフィルター2の第2の入力ポートIP2は、集積回路3の出力端子T4と接続されている。
集積回路3の電源端子T7は、発振モジュール1の外部端子(パッケージ4の表面に設けられた外部電極)であるVDD端子と接続されており、電源端子T7にはVDD端子を介して所望の電源電位が供給される。また、集積回路3の接地端子T8は、発振モジュール1の外部端子であるVSS端子と接続されており、接地端子T8にはVSS端子を介して接地電位(0V)が供給される。そして、位相シフト回路10、差動増幅器20、コンデンサー32、コンデンサー34、差動増幅器40、コンデンサー52、コンデンサー54、逓倍回路60、ハイパスフィルター70及び出力回路80は、電源端子T7と接地端子T8との間の電位差を電源電圧として動作する。なお、差動増幅器20、差動増幅器40、逓倍回路60、ハイパスフィルター70及び出力回路80の各電源端子及び各接地端子は、電源端子T7及び接地端子T8とそれぞれ接続されているが、図6では図示が省略されている。
位相シフト回路10及び差動増幅器20は、SAWフィルター2の第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2から第1の入力ポートIP1及び第2の入力ポートIP2に至る帰還経路上に設けられている。
位相シフト回路10は、コイル11(第1のコイル)と、コイル12(第2のコイル)と、可変容量素子13とを有している。コイル11のインダクタンスとコイル12のインダクタンスは同じ(製造ばらつきによる差は許容される)あるいは同程度であってもよい。
コイル11の一端は、集積回路3の入力端子T1と接続され、コイル11の他端は、可変容量素子13の一端及び差動増幅器20の非反転入力端子と接続されている。また、コイル12の一端は、集積回路3の入力端子T2と接続され、コイル12の他端は、可変容量素子13の他端及び差動増幅器20の反転入力端子と接続されている。
可変容量素子13は、例えば、印加される電圧に応じて容量値が変化するバラクター(バリキャップ、あるいは可変容量ダイオードともいう)であってもよいし、複数のコンデンサーと、複数のコンデンサーの少なくとも一部を選択するための複数のスイッチとを含み、選択信号に応じて複数のスイッチが開閉することで選択されたコンデンサーに応じて容量値が切り替わる回路であってもよい。
差動増幅器20は、非反転入力端子と反転入力端子とに入力される1対の信号を、その電位差を増幅して非反転出力端子と反転出力端子とから出力する。差動増幅器20の非反転出力端子は、集積回路3の出力端子T3及びコンデンサー32の一端と接続されている。また、差動増幅器20の反転出力端子は、集積回路3の出力端子T4及びコンデンサー34の一端と接続されている。
図7は、差動増幅器20の回路構成の一例を示す図である。図7の例では、差動増幅器20は、抵抗21、抵抗22、NMOS(Negative-channel Metal Oxide Semiconductor
)トランジスター23、NMOSトランジスター24、定電流源25、NMOSトランジスター26、NMOSトランジスター27、抵抗28及び抵抗29を含んで構成されている。図7では、例えば、入力端子IP20が非反転入力端子であり、入力端子IN20が反転入力端子である。また、出力端子OP20が非反転出力端子であり、出力端子ON20が反転出力端子である。
NMOSトランジスター23は、ゲート端子が入力端子IP20と接続され、ソース端子が定電流源25の一端と接続され、ドレイン端子が抵抗21を介して電源端子T7(図6参照)と接続されている。
NMOSトランジスター24は、ゲート端子が入力端子IN20と接続され、ソース端子が定電流源25の一端と接続され、ドレイン端子が抵抗22を介して電源端子T7(図6参照)と接続されている。
定電流源25の他端は、接地端子T8(図6参照)と接続されている。
NMOSトランジスター26は、ゲート端子がNMOSトランジスター23のドレイン端子と接続され、ソース端子が抵抗28を介して接地端子T8(図6参照)と接続され、ドレイン端子が電源端子T7(図6参照)と接続されている。
NMOSトランジスター27は、ゲート端子がNMOSトランジスター24のドレイン端子と接続され、ソース端子が抵抗29を介して接地端子T8(図6参照)と接続され、ドレイン端子が電源端子T7(図6参照)と接続されている。
また、NMOSトランジスター26のソース端子は出力端子OP20と接続され、NMOSトランジスター27のソース端子は出力端子ON20と接続されている。
このように構成されている差動増幅器20は、入力端子IP20と入力端子IN20とに入力される1対の信号を非反転増幅して出力端子OP20と出力端子ON20とから出力する。
図6に戻り、本実施形態では、SAWフィルター2、位相シフト回路10及び差動増幅器20により、SAWフィルター2の第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2から第1の入力ポートIP1及び第2の入力ポートIP2に至る信号経路上を1対の信号が伝搬して正帰還の閉ループが構成され、当該1対の信号が発振信号となる。すなわち、SAWフィルター2、位相シフト回路10及び差動増幅器20により、発振回路100が構成される。なお、発振回路100は、適宜、これらの要素の一部を省略又は変更し、あるいは他の要素を追加した構成としてもよい。
図8の上段に、SAWフィルター2の第1の出力ポートOP1から出力される信号(周波数f0)の波形を実線で示し、SAWフィルター2の第2の出力ポートOP2から出力される信号(周波数f0)の波形を破線で示す。また、図8の下段に、SAWフィルター2の第1の入力ポートIP1に入力される信号(周波数f0)の波形を実線で示し、SAWフィルター2の第2の入力ポートIP2に入力される信号(周波数f0)の波形を破線で示す。
図8に示すように、SAWフィルター2の第1の出力ポートOP1から第1の入力ポートIP1に伝搬する信号(実線)と、SAWフィルター2の第2の出力ポートOP2から第2の入力ポートIP2に伝搬する信号(破線)とは互いに逆相である。ここで、「互いに逆相」とは、位相差が正確に180°の場合だけでなく、例えば、SAWフィルター2
の第1の出力ポートOP1から第1の入力ポートIP1に至る帰還経路の配線と、SAWフィルター2の第1の出力ポートOP1から第1の入力ポートIP1に至る帰還経路の配線との、長さ、抵抗及び容量の差や製造誤差に起因して生じる差動増幅器20が有する素子の特性の差等の分だけ、位相差が180°と異なる場合も含む概念である。
このように、本実施形態の発振回路100は、SAWフィルター2の第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2から出力される差動信号(互いに逆相の1対の信号)を差動増幅器20で増幅してSAWフィルター2の第1の入力ポートIP1及び第2の入力ポートIP2に帰還させることで閉ループの帰還経路を構成して発振する。すなわち、発振回路100は、差動で動作し、第1のIDT201及び第2のIDT202の電極指ピッチd1に応じた周波数f0で発振する。
そして、SAWフィルター2の第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2から第1の入力ポートIP1及び第2の入力ポートIP2に至る帰還経路上を伝搬する差動信号に電源ラインを介して重畳される電源ノイズは、コモンモードノイズであるため、差動増幅器20により大きく低減する。従って、発振回路100によれば、電源ノイズの影響による発振信号の劣化を低減させ、発振信号の周波数精度やS/Nを向上させることができる。
また、本実施形態の発振回路100は、位相シフト回路10の可変容量素子13の容量値を変化させることで、SAWフィルター2の通過帯域内において、コイル11のインダクタンス及びコイル12のインダクタンスに応じた可変幅で発振信号の周波数f0を変化させることができる。コイル11のインダクタンス及びコイル12のインダクタンスが大きいほど周波数f0の可変幅が大きい。
また、本実施形態の発振回路100は、コイル11とコイル12には、互いに逆相の電流が流れる。従って、コイル11が発生させる磁界の向きとコイル12が発生させる磁界の向きが逆となって互いに弱め合うため、磁界の影響による発振信号の劣化を低減させることができる。
さらに、SAW共振子はリアクタンスに対する周波数特性が急峻であるのに対して、SAWフィルター2は、リアクタンスに対する周波数特性が直線的(穏やか)であるため、本実施形態の発振回路100は、SAW共振子を用いた発振回路と比較して、周波数f0の可変範囲の制御が容易であるという利点を有する。
図6に戻り、発振モジュール1は、発振回路100よりも後段に、コンデンサー32、コンデンサー34、差動増幅器40、コンデンサー52、コンデンサー54、逓倍回路60、ハイパスフィルター70及び出力回路80が設けられている。
コンデンサー32は、一端が差動増幅器20の非反転出力端子(図7の出力端子OP20)と接続され、他端が差動増幅器40の非反転入力端子と接続されている。また、コンデンサー34は、一端が差動増幅器20の反転出力端子(図7の出力端子ON20)と接続され、他端が差動増幅器40の反転入力端子と接続されている。このコンデンサー32及びコンデンサー34は、DCカット用のコンデンサーとして機能し、差動増幅器20の非反転出力端子(図7の出力端子OP20)及び反転出力端子(図7の出力端子ON20)から出力される各信号のDC成分を除去する。
差動増幅器40は、発振回路100から逓倍回路60に至る信号経路上に設けられている。差動増幅器40は、非反転入力端子と反転入力端子とに入力される差動信号を増幅した差動信号を非反転出力端子と反転出力端子とから出力する。
図9は、差動増幅器40の回路構成の一例を示す図である。図9の例では、差動増幅器40は、抵抗41、抵抗42、NMOSトランジスター43、NMOSトランジスター44及び定電流源45を含んで構成されている。図9では、例えば、入力端子IP40が非反転入力端子であり、入力端子IN40が反転入力端子である。また、出力端子OP40が非反転出力端子であり、出力端子ON40が反転出力端子である。
NMOSトランジスター43は、ゲート端子が入力端子IP40と接続され、ソース端子が定電流源45の一端と接続され、ドレイン端子が抵抗41を介して電源端子T7(図6参照)と接続されている。
NMOSトランジスター44は、ゲート端子が入力端子IN40と接続され、ソース端子が定電流源45の一端と接続され、ドレイン端子が抵抗42を介して電源端子T7(図6参照)と接続されている。
定電流源45の他端は、接地端子T8(図6参照)と接続されている。
また、NMOSトランジスター43のドレイン端子は出力端子OP40と接続され、NMOSトランジスター44のドレイン端子は出力端子ON40と接続されている。
このように構成されている差動増幅器40は、入力端子IP40と入力端子IN40とに入力される差動信号を反転増幅し、増幅した差動信号を出力端子OP40と出力端子ON40とから出力する。
図6に戻り、コンデンサー52は、一端が差動増幅器40の非反転出力端子(図9の出力端子OP40)と接続され、他端が逓倍回路60の非反転入力端子と接続されている。また、コンデンサー54は、一端が差動増幅器40の反転出力端子(図9の出力端子ON40)と接続され、他端が逓倍回路60の反転入力端子と接続されている。このコンデンサー52及びコンデンサー54は、DCカット用のコンデンサーとして機能し、差動増幅器40の非反転出力端子(図9の出力端子OP40)及び反転出力端子(図9の出力端子ON40)から出力される各信号のDC成分を除去する。
逓倍回路60は、差動で動作し、非反転入力端子と反転入力端子とに入力される差動信号の周波数f0を逓倍した差動信号を非反転出力端子と反転出力端子とから出力する。
図10は、逓倍回路60の回路構成の一例を示す図である。図10の例では、逓倍回路60は、抵抗61、抵抗62、NMOSトランジスター63、NMOSトランジスター64、NMOSトランジスター65、NMOSトランジスター66、NMOSトランジスター67、NMOSトランジスター68及び定電流源69を含んで構成されている。図10では、例えば、入力端子IP60が非反転入力端子であり、入力端子IN60が反転入力端子である。また、出力端子OP60が非反転出力端子であり、出力端子ON60が反転出力端子である。
NMOSトランジスター63は、ゲート端子が入力端子IP60と接続され、ソース端子がNMOSトランジスター65のドレイン端子と接続され、ドレイン端子が抵抗61を介して電源端子T7(図6参照)と接続されている。
NMOSトランジスター64は、ゲート端子が入力端子IN60と接続され、ソース端子がNMOSトランジスター65のドレイン端子と接続され、ドレイン端子が抵抗62を介して電源端子T7(図6参照)と接続されている。
NMOSトランジスター65は、ゲート端子が入力端子IP60と接続され、ソース端子が定電流源69の一端と接続され、ドレイン端子がNMOSトランジスター63のソース端子及びNMOSトランジスター64のソース端子と接続されている。
NMOSトランジスター66は、ゲート端子が入力端子IN60と接続され、ソース端子がNMOSトランジスター68のドレイン端子と接続され、ドレイン端子が抵抗61を介して電源端子T7(図6参照)と接続されている。
NMOSトランジスター67は、ゲート端子が入力端子IP60と接続され、ソース端子がNMOSトランジスター68のドレイン端子と接続され、ドレイン端子が抵抗62を介して電源端子T7(図6参照)と接続されている。
NMOSトランジスター68は、ゲート端子が入力端子IN60と接続され、ソース端子が定電流源69の一端と接続され、ドレイン端子がNMOSトランジスター66のソース端子及びNMOSトランジスター67のソース端子と接続されている。
定電流源69の他端は、接地端子T8(図6参照)と接続されている。
また、NMOSトランジスター63のドレイン端子及びNMOSトランジスター66のドレイン端子は出力端子OP60と接続され、NMOSトランジスター64のドレイン端子及びNMOSトランジスター67のドレイン端子は出力端子ON60と接続されている。
このように構成されている逓倍回路60は、入力端子IP60と入力端子IN60とに入力される差動信号の周波数f0の2倍の周波数2f0の差動信号を生成し、出力端子OP60と出力端子ON60とから出力する。特に、逓倍回路60は、平衡変調回路であり、原理的には、入力端子IP60と入力端子IN60とに入力される差動信号(f0の信号)が出力端子OP60と出力端子ON60とから出力されない構成である。この逓倍回路60によれば、各NMOSトランジスターや各抵抗の製造ばらつきを考慮しても、出力端子OP60と出力端子ON60とから出力されるf0の信号成分を小さくすることができ、純度の高い(周波数精度の高い)2f0の差動信号が得られ、かつ、回路面積も比較的小さい。
図6に戻り、逓倍回路60の非反転出力端子(図10の出力端子OP60)はハイパスフィルター70の非反転入力端子と接続されている。また、逓倍回路60の反転出力端子(図10の出力端子ON60)はハイパスフィルター70の反転入力端子と接続されている。
ハイパスフィルター70は、逓倍回路60から出力回路80に至る信号経路上に設けられている。ハイパスフィルター70は、差動で動作し、非反転入力端子と反転入力端子とに入力される差動信号から低周波成分が減衰された差動信号を非反転出力端子と反転出力端子とから出力する。
図11は、ハイパスフィルター70の回路構成の一例を示す図である。図11の例では、ハイパスフィルター70は、抵抗71、コンデンサー72、コンデンサー73、コイル74(第3のコイル)、コンデンサー75、コンデンサー76及び抵抗77を含んで構成されている。図11では、例えば、入力端子IP70が非反転入力端子であり、入力端子IN70が反転入力端子である。また、出力端子OP70が非反転出力端子であり、出力端子ON70が反転出力端子である。
抵抗71は、一端が入力端子IP70及びコンデンサー72の一端と接続され、他端が入力端子IN70及びコンデンサー73の一端と接続されている。
コンデンサー72は、一端が入力端子IP70及び抵抗71の一端と接続され、他端がコイル74の一端及びコンデンサー75の一端と接続されている。
コンデンサー73は、一端が入力端子IN70及び抵抗71の他端と接続され、他端がコイル74の他端及びコンデンサー76の一端と接続されている。
コイル74は、一端がコンデンサー72の他端及びコンデンサー75の一端と接続され、他端がコンデンサー73の他端及びコンデンサー76の一端と接続されている。
コンデンサー75は、一端がコンデンサー72の他端及びコイル74の一端と接続され、他端が抵抗77の一端と接続されている。
コンデンサー76は、一端がコンデンサー73の他端及びコイル74の他端と接続され、他端が抵抗77の他端と接続されている。
抵抗77は、一端がコンデンサー75の他端と接続され、他端がコンデンサー76の他端と接続されている。
また、コンデンサー75の他端及び抵抗77の一端は出力端子OP70と接続され、コンデンサー76の他端及び抵抗77の他端は出力端子ON70と接続されている。
このように構成されているハイパスフィルター70は、入力端子IP70と入力端子IN70とに入力される差動信号から低周波成分を減衰させた差動信号を生成し、出力端子OP70と出力端子ON70とから出力する。
図12は、ハイパスフィルター70の周波数特性の一例を示す図である。図12には、ハイパスフィルター70の入力信号である逓倍回路60の出力信号の周波数スペクトルも破線で図示されている。図12において、横軸は周波数であり、縦軸はゲイン(ハイパスフィルター70の周波数特性の場合)又はパワー(逓倍回路60の出力信号の周波数スペクトルの場合)である。図12に示すように、ハイパスフィルター70のカットオフ周波数fcはf0と2f0の間になるように、各抵抗の抵抗値、各コンデンサーの容量値及びコイル74のインダクタンス値が設定されている。前述したように、逓倍回路60は、f0の信号成分が小さく純度の高い(周波数精度の高い)2f0の差動信号を出力するが、図12に示すように、ハイパスフィルター70により、そのカットオフ周波数fcよりも低いf0の信号成分は減衰するため、さらに純度の高い(周波数精度の高い)2f0の差動信号が得られる。
図6に戻り、ハイパスフィルター70の非反転出力端子(図11の出力端子OP70)は出力回路80の非反転入力端子と接続されている。また、ハイパスフィルター70の反転出力端子(図11の出力端子ON70)は出力回路80の反転入力端子と接続されている。
出力回路80は、逓倍回路60及びハイパスフィルター70の後段に設けられている。出力回路80は、差動で動作し、非反転入力端子と反転入力端子とに入力される差動信号を所望の電圧レベル(あるいは電流レベル)の信号に変換した差動信号を生成し、非反転出力端子と反転出力端子とから出力する。出力回路80の非反転出力端子は集積回路3の
出力端子T5と接続され、出力回路80の反転出力端子は集積回路3の出力端子T6と接続されている。集積回路3の出力端子T5は、発振モジュール1の外部端子であるCP端子と接続されており、集積回路3の出力端子T6は、発振モジュール1の外部端子であるCN端子と接続されている。そして、出力回路80が変換した差動信号(発振信号)は、集積回路3の出力端子T5及び出力端子T6を経由して、発振モジュール1のCP端子及びCN端子から外部に出力される。
図13は、出力回路80の回路構成の一例を示す図である。図13の例では、出力回路80は、差動増幅器81、NPNトランジスター82及びNPNトランジスター83を含んで構成されている。図13では、例えば、入力端子IP80が非反転入力端子であり、入力端子IN80が反転入力端子である。また、出力端子OP80が非反転出力端子であり、出力端子ON80が反転出力端子である。
差動増幅器81は、非反転入力端子が入力端子IP80と接続され、反転入力端子が入力端子IN80と接続され、非反転出力端子がNPNトランジスター82のベース端子と接続され、反転出力端子がNPNトランジスター83のベース端子と接続され、電源端子T7(図6参照)と接地端子T8とから供給される電源電圧VDDで動作する。
NPNトランジスター82は、ベース端子が差動増幅器81の非反転出力端子と接続され、コレクター端子が電源端子T7(図6参照)と接続され、エミッター端子が出力端子OP80と接続されている。
NPNトランジスター83は、ベース端子が差動増幅器81の反転出力端子と接続され、コレクター端子が電源端子T7(図6参照)と接続され、エミッター端子が出力端子ON80と接続されている。
このように構成されている出力回路80は、PECL(Positive Emitter Coupled Logic)回路あるいはLV-PECL(Low-Voltage Positive Emitter Coupled Logic)回路であり、出力端子OP80及び出力端子ON80を所定の電位V1にプルダウンすることで、入力端子IP80と入力端子IN80とから入力される差動信号を、ハイレベルをVDD-VCE、ローレベルをV1とする差動信号に変換して、出力端子OP80と出力端子ON80とから出力する。なお、VCEは、NPNトランジスター82あるいはNPNトランジスター83のコレクター-エミッター間電圧である。
以上に説明した本実施形態の発振モジュール1によれば、発振回路100の動作に起因して、発振回路100よりも後段の各回路(差動増幅器40、逓倍回路60、ハイパスフィルター70、出力回路80)に供給される電源にノイズが重畳しても、当該各回路がすべて差動で動作するため、各回路が出力する差動信号(発振信号)に重畳される電源ノイズはコモンモードノイズとなる。従って、本実施形態の発振モジュール1によれば、発振回路100の動作により発生する電源ノイズの影響による劣化を低減させた発振信号を出力することができる。
また、本実施形態の発振モジュール1によれば、発振回路100よりも後段に逓倍回路60が設けられているので、発振回路100が出力する発振信号の周波数が逓倍された周波数の発振信号を出力することができる。
また、本実施形態の発振モジュール1によれば、発振回路100が差動で動作するため、発振回路100における帰還経路上を伝搬する差動信号(発振信号)にコモンモードノイズとして重畳される電源ノイズは大きく低減される。従って、本実施形態の発振モジュール1によれば、発振信号の周波数精度やS/Nを向上させることができる。
また、本実施形態の発振モジュール1によれば、逓倍回路60が平衡変調回路であるので、原理的には、逓倍回路60に入力される信号と同じ周波数の信号は逓倍回路60から出力されない(入力される信号の周波数を逓倍した信号のみが出力される)。従って、本実施形態の発振モジュール1によれば、周波数精度の高い逓倍周波数の発振信号が得られる。
また、本実施形態の発振モジュール1では、発振回路100は、差動信号を出力し、発振回路100から出力回路80に至る信号経路上にある回路(差動増幅器40、逓倍回路60及びハイパスフィルター70)は差動で動作する。発振回路100の動作により発生する電源ノイズは、電源ラインを介して、当該各回路に入力される差動信号にコモンモードノイズとして重畳するので、当該各回路は、差動で動作することで電源ノイズが大きく低減された差動信号を出力することができる。電源ラインを介して出力回路80の入力信号に重畳される電源ノイズ(コモンモードノイズ)も同様に、出力回路80が差動で動作することで大きく低減される。このように、本実施形態の発振モジュール1は、発振回路100の動作により発生する電源ノイズの影響による劣化を低減させた周波数精度の高い発振信号を出力することができる。
また、本実施形態の発振モジュール1によれば、発振回路100に設けられた差動増幅器20の増幅率と、発振回路100よりも後段に設けられた差動増幅器40の増幅率を適切に選択することにより、発振信号の周波数精度を最適に設計可能である。また、本実施形態の発振モジュール1によれば、逓倍回路60が出力する発振信号に含まれる不要な周波数成分の信号をハイパスフィルター70により低減させることができるので、発振信号の周波数精度を向上させることができる。
1-3.集積回路のレイアウト
本実施形態の発振モジュール1では、集積回路3から出力される差動信号の周波数精度を向上させるために、集積回路3のレイアウトを工夫している。図14は、集積回路3に含まれる各回路(一部を除く)のレイアウト配置の一例を示す図である。図14は、集積回路3を、半導体基板上の、各種の素子(トランジスターや抵抗など)が積層されている面と直交する方向から平面視した図である。また、図15は、図14のレイアウト配置図のうち、入力端子T1、入力端子T2、位相シフト回路10、差動増幅器20及びハイパスフィルター70の部分を拡大した図である。図15には、位相シフト回路10に含まれるコイル11、コイル12、可変容量素子13及びハイパスフィルター70に含まれるコイル74のレイアウト配置や一部の配線パターンも図示されている。
図15において、仮想直線VLは、コイル11の中心O1とコイル12の中心O2との中点Pを通り、コイル11の中心O1とコイル12の中心O2を結ぶ線分Lと直交する直線、換言すれば、コイル11の中心O1とコイル12の中心O2とから等距離にある直線である。
本実施形態では、図15に示すように、集積回路3の平面視で、コイル74は、コイル11の中心O1とコイル12の中心O2とから等距離にある仮想直線VLと交差するように配置されている。図15に示すように、コイル74は、その中心O3が仮想直線VL上になるように配置されていてもよい。コイル11の配線パターンとコイル12の配線パターンが同じであるとすると、コイル11に流れる電流I1とコイル12に流れる電流I2とは互いに逆向き(逆相)になる。すなわち、コイル11に時計回りの電流I1が流れるときはコイル12に反時計回りの電流I2が流れ、コイル11に反時計回りの電流I1が流れるときはコイル12に時計回りの電流I2が流れる。従って、仮想直線VL上では、コイル11が発生させる磁界の向きとコイル12が発生させる磁界の向きが逆になって互
いに弱め合う。そして、コイル11の配線パターンとコイル12の配線パターンが同じであれば、理想的には、コイル11のインダクタンスとコイル12のインダクタンスは同じであり、かつ、電流I1と電流I2も等しい。実際には、配線や各種の素子の製造ばらつきなどを考慮しても、コイル11のインダクタンスとコイル12のインダクタンスとの差や電流I1と電流I2との差は小さいので、仮想直線VL上では、コイル11が発生させる磁界の強度とコイル12が発生させる磁界の強度とがほぼ等しく、ほとんど打ち消し合うことになる。従って、仮想直線VLと交差するように配置されているコイル74とコイル11及びコイル12との磁界結合により、ハイパスフィルター70が出力する2f0の信号に重畳されるf0の信号のレベルを小さくすることができ、発振モジュール1は、周波数精度の高い発振信号を出力することができる。
また、本実施形態では、図15に示すように、集積回路3の平面視で、可変容量素子13は、コイル11とコイル12との間に配置されている。このように、コイル11及びコイル12に近く、コイル11が発生する磁界やコイル12が発生する磁界の影響を受けやすい、コイル11とコイル12との間に、磁界の影響を受けにくい可変容量素子13が配置されることにより、レイアウト面積の不要な増加を抑えることができる。また、コイル11の他端と可変容量素子13の一端とを接続する配線と、コイル12の他端と可変容量素子13の他端とを接続する配線とがともに短くなるため、レイアウト面積を縮小することができるとともに、これらの配線の寄生容量や寄生抵抗を小さくすることができる。
また、本実施形態では、図15に示すように、集積回路3の平面視で、差動増幅器20は、可変容量素子13とコイル74との間に配置されている。このようなレイアウト配置により、レイアウト面積の不要な増加を抑えながら、コイル11とコイル74との距離やコイル12とコイル74との距離を差動増幅器20の分だけ長くすることができるので、コイル74が受ける、コイル11からの磁界の強度とコイル12からの磁界の強度がより小さくなる。従って、ハイパスフィルター70が出力する2f0の信号に、コイル11及びコイル12とコイル74との磁界結合によって重畳されるf0の信号のレベルをさらに小さくすることができ、発振モジュール1は、さらに周波数精度の高い発振信号を出力することができる。
さらに、可変容量素子13と差動増幅器20との距離を短くすることで、結果的に、コイル11の他端と差動増幅器20の非反転入力端子とを接続する配線と、コイル12の他端と差動増幅器20の反転入力端子とを接続する配線とがともに短くなる。従って、レイアウト面積を縮小することができるとともに、コイル11の他端から差動増幅器20の非反転入力端子に至る信号経路の寄生容量や寄生抵抗とコイル12の他端から差動増幅器20の反転入力端子に至る信号経路の寄生容量や寄生抵抗がともに小さくなり、これら2つの信号経路を伝搬する差動信号の位相差の180°からのずれや当該差動信号に重畳されるノイズレベルを小さくすることができる。
また、本実施形態では、図15に示すように、コイル11と、コイル11と配線で接続されている入力端子T1(第1のパッド)との距離(例えば、中心間距離)は、コイル74と入力端子T1との距離(例えば、中心間距離)よりも短い。また、コイル12と、コイル12と配線で接続されている入力端子T2(第2のパッド)との距離(例えば、中心間距離)は、コイル74と入力端子T2との距離(例えば、中心間距離)よりも短い。このようなレイアウト配置により、入力端子T1とコイル11とを接続する配線や入力端子T2とコイル12とを接続する配線が短くなるので、レイアウト面積を縮小することができるとともに、これらの配線の寄生容量や寄生抵抗を小さくすることができる。従って、入力端子T1からコイル11の一端に至る信号経路の寄生容量や寄生抵抗と入力端子T2からコイル12の一端に至る信号経路の寄生容量や寄生抵抗がともに小さくなり、これら2つの信号経路を伝搬する差動信号の位相差の180°からのずれや当該差動信号に重畳
されるノイズレベルを小さくすることができる。
また、このようなレイアウト配置により、入力端子T1とコイル74との距離や入力端子T2とコイル74との距離(換言すれば、ハイパスフィルター70の出力端子との距離)が長くなる。従って、コイル11やコイル12に流れる電流の周波数成分f0が、入力端子T1や入力端子T2を介してコイル74を流れる周波数2f0の電流にカップリングされるおそれを低減させることができる。すなわち、入力端子T1や入力端子T2に入力されるf0の信号が、ハイパスフィルター70が出力する2f0の信号に重畳されにくく、発振モジュール1は、周波数精度の高い発振信号を出力することができる。
また、本実施形態では、図15に示すように、集積回路3の平面視で、差動増幅器20及び可変容量素子13は、コイル11の中心O1とコイル12の中心O2とから等距離にある仮想直線VLと交差するように配置されている。このようなレイアウト配置により、コイル11の他端と差動増幅器20の非反転入力端子とを接続する配線の長さと、コイル12の他端と差動増幅器20の反転入力端子とを接続する配線の長さとの差を小さくすることができる。同様に、可変容量素子13の一端と差動増幅器20の非反転入力端子とを接続する配線の長さと、可変容量素子13の他端と差動増幅器20の反転入力端子とを接続する配線の長さとの差を小さくすることができる。そのため、コイル11の他端から差動増幅器20の非反転入力端子に至る信号経路とコイル12の他端から差動増幅器20の反転入力端子に至る信号経路との寄生容量や寄生抵抗の差が小さくなり、これら2つの信号経路を伝搬する差動信号の位相差の180°からのずれや当該差動信号に重畳されるノイズレベルの差を小さくすることができる。従って、発振回路100が出力する発振信号の周波数精度やS/Nを向上させることができる。
また、本実施形態では、図14に示すように、差動増幅器20の近くに差動増幅器40が設けられ、差動増幅器40とハイパスフィルター70の両方に近い位置に逓倍回路60が設けられ、ハイパスフィルター70の近くに出力回路80が設けられ、出力回路80の近くに出力端子T5と出力端子T6が設けられている。このようなレイアウト配置により、各回路を接続する配線をそれぞれ短くすることができる。従って、集積回路3のレイアウト面積を縮小することができるとともに、入力端子T1及び入力端子T2から出力端子T5及び出力端子T6に伝搬する差動信号の位相差の180°からのずれや当該差動信号に重畳されるノイズレベルを小さくすることができる。
以上に説明したように、本実施形態の発振モジュール1によれば、図14及び図15に示すレイアウト配置を採用したことにより、集積回路3のレイアウト面積の縮小(サイズの縮小)と周波数精度の高い差動信号の出力とを両立することができる。
1-4.変形例
上記の実施形態では、図15に示したように、コイル74は、その中心O3が仮想直線VL上になるように配置されているが、コイル74は仮想直線VLと交差するように配置されていればよく、図16や図17に示すように、中心O3が仮想直線VL上になくてもよい。
また、上記の実施形態では、SAWフィルター2の第1の出力ポートOP1及び第2の出力ポートOP2から第1の入力ポートIP1及び第2の入力ポートIP2に至る帰還経路上に、インダクタンスを有する部材としてのコイル11及びコイル12を設けることで、発振周波数の可変幅を広げている。これに対して、当該帰還経路上に、コイル11及びコイル12に代えて、あるいは、コイル11及びコイル12とともに、他のインダクタンスを有する部材を設けてもよい。コイル以外のインダクタンスを有する部材としては、例えば、ボンディングワイヤーや基板配線があり、発振回路100は、ボンディングワイヤ
ーや基板配線のインダクタンス値に応じた可変幅で発振周波数を変化させることができる。
また、本実施形態の発振モジュール1は、逓倍回路60の後段に、カットオフ周波数fcが周波数f0よりも高く、かつ、周波数2f0を通過帯域に含むハイパスフィルター70が設けられているが、低域側のカットオフ周波数が周波数f0よりも高く、かつ、周波数2f0を通過帯域に含むバンドパスフィルターに置き換えてもよい。
2.電子機器
図18は、本実施形態の電子機器の構成の一例を示す機能ブロック図である。本実施形態の電子機器300は、発振モジュール310、CPU(Central Processing Unit)320、操作部330、ROM(Read Only Memory)340、RAM(Random Access Memory)350、通信部360、表示部370を含んで構成されている。なお、本実施形態の電子機器は、図18の構成要素(各部)の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。
発振モジュール310は、発振回路312を備えている。発振回路312は、不図示のSAWフィルターを備えており、SAWフィルターの共振周波数に基づく周波数の発振信号を発生させる。
また、発振モジュール310は、発振回路312よりも後段にある逓倍回路314や出力回路316を備えていてもよい。逓倍回路314は、発振回路312が発生させた発振信号の周波数を逓倍した発振信号を発生させる。また、出力回路316は、逓倍回路314が発生させた発振信号あるいは発振回路312が発生させた発振信号をCPU320に出力する。発振回路312、逓倍回路314及び出力回路316は、それぞれ差動で動作してもよい。
CPU320は、ROM340等に記憶されているプログラムに従い、発振モジュール310から入力される発振信号をクロック信号として各種の計算処理や制御処理を行う。具体的には、CPU320は、操作部330からの操作信号に応じた各種の処理、外部装置とデータ通信を行うために通信部360を制御する処理、表示部370に各種の情報を表示させるための表示信号を送信する処理等を行う。
操作部330は、操作キーやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、ユーザーによる操作に応じた操作信号をCPU320に出力する。
ROM340は、CPU320が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。
RAM350は、CPU320の作業領域として用いられ、ROM340から読み出されたプログラムやデータ、操作部330から入力されたデータ、CPU320が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。
通信部360は、CPU320と外部装置との間のデータ通信を成立させるための各種制御を行う。
表示部370は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成される表示装置であり、CPU320から入力される表示信号に基づいて各種の情報を表示する。表示部370には操作部330として機能するタッチパネルが設けられていてもよい。
発振回路312として例えば上述した実施形態の発振回路100を適用し、又は、発振モジュール310として例えば上述した実施形態の発振モジュール1を適用することにより、信頼性の高い電子機器を実現することができる。
このような電子機器300としては種々の電子機器が考えられ、例えば、光ファイバー等を用いた光伝送装置等のネットワーク機器、放送機器、人工衛星や基地局で利用される通信機器、GPS(Global Positioning System)モジュール、パーソナルコンピューター(例えば、モバイル型パーソナルコンピューター、ラップトップ型パーソナルコンピューター、タブレット型パーソナルコンピューター)、スマートフォンや携帯電話機などの移動体端末、ディジタルカメラ、インクジェット式吐出装置(例えば、インクジェットプリンター)、ルーターやスイッチなどのストレージエリアネットワーク機器、ローカルエリアネットワーク機器、移動体端末基地局用機器、テレビ、ビデオカメラ、ビデオレコーダー、カーナビゲーション装置、リアルタイムクロック装置、ページャー、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ゲーム用コントローラー、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS(Point Of Sale)端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシミュレーター、ヘッドマウントディスプレイ、モーショントレース、モーショントラッキング、モーションコントローラー、PDR(歩行者位置方位計測)等が挙げられる。
本実施形態の電子機器300の一例として、上述した発振モジュール310を基準信号源として用いて、例えば、端末と有線または無線で通信を行う端末基地局用装置等として機能する伝送装置が挙げられる。発振モジュール310として、例えば、上記の実施形態の発振モジュール1を適用することにより、例えば通信基地局などに利用可能な、従来よりも周波数精度の高い、高性能、高信頼性を所望される電子機器300を実現することも可能である。
また、本実施形態の電子機器300の他の一例として、通信部360が外部クロック信号を受信し、CPU320(処理部)が、当該外部クロック信号と発振モジュール310の出力信号とに基づいて、発振モジュール310の周波数を制御する周波数制御部と、を含む、通信装置であってもよい。
3.移動体
図19は、本実施形態の移動体の一例を示す図(上面図)である。図19に示す移動体400は、発振モジュール410、エンジンシステム、ブレーキシステム、キーレスエントリーシステム等の各種の制御を行うコントローラー420,430,440、バッテリー450、バックアップ用バッテリー460を含んで構成されている。なお、本実施形態の移動体は、図19の構成要素(各部)の一部を省略し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。
発振モジュール410は、不図示のSAWフィルターを備えた発振回路(不図示)を備えており、SAWフィルターの共振周波数に基づく周波数の発振信号を発生させる。
また、発振モジュール410は、発振回路よりも後段にある逓倍回路や出力回路を備えていてもよい。逓倍回路は、発振回路が発生させた発振信号の周波数を逓倍した発振信号を発生させる。また、出力回路は、逓倍回路が発生させた発振信号あるいは発振回路が発生させた発振信号を出力する。発振回路、逓倍回路及び出力回路は、それぞれ差動で動作してもよい。
発振モジュール410が出力する発振信号は、コントローラー420,430,440に供給され、例えばクロック信号として用いられる。
バッテリー450は、発振モジュール410及びコントローラー420,430,440に電力を供給する。バックアップ用バッテリー460は、バッテリー450の出力電圧が閾値よりも低下した時、発振モジュール410及びコントローラー420,430,440に電力を供給する。
発振モジュール410が備える発振回路として例えば上述した各実施形態の発振回路100を適用し、又は、発振モジュール410として例えば上述した各実施形態の発振モジュール1を適用することにより、信頼性の高い移動体を実現することができる。
このような移動体400としては種々の移動体が考えられ、例えば、自動車(電気自動車も含む)、ジェット機やヘリコプター等の航空機、船舶、ロケット、人工衛星等が挙げられる。
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。