以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明において特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明はそれらの例示に限定されない。
本発明の実施形態によるクランク軸は、複数のジャーナル部と、複数のピン部と、複数のクランクアーム部と、1つ又は1つ以上のカウンターウエイト部と、を備える。複数のピン部は、各々が対応する複数のジャーナル部に対して偏心する。複数のクランクアーム部は、各々が対応するジャーナル部とピン部をつなぐ。1つ又は1つ以上のカウンターウエイト部は、各々が対応するクランクアーム部の1つ又は1つ以上と接続する。
カウンターウエイト部を有するクランクアーム部の少なくとも1つにおいて、クランクアーム部及びカウンターウエイト部をクランク軸の軸方向に沿って見たときに、ジャーナル部の中心とピン部の中心とを結ぶアーム中心線に対して、カウンターウエイト部の重心が一方向にずれている。クランクアーム部及びカウンターウエイト部は、フィン部と、凹部と、を備える。フィン部は、クランクアーム部の上記一方向側の側面から突出する。フィン部は、カウンターウエイト部に接続される。フィン部は、自己の厚さがクランクアーム部の厚さよりも薄い。フィン部は、自己のピン部側の表面がクランクアーム部のピン部側の表面と同一平面上にある。凹部は、フィン部のジャーナル部側の表面に形成される。凹部は、フィン部の縁に沿って延びる。
本明細書では、クランクアーム部を単に「アーム部」ともいう。カウンターウエイト部を単に「ウエイト部」ともいう。1つのピン部、このピン部につながる一組のアーム部(ウエイト部を含む)をまとめて「スロー」ともいう。
典型的な例では、ウエイト部はアーム部と一体で成形される。ただし、ウエイト部がアーム部と接続している限り、ウエイト部はアーム部と別体で成形されてもよい。また、ウエイト部の全体が一体で成形されてもよいし、ウエイト部の一部がウエイト部の残りの部分と別体で成形されてもよい。アーム部は、ピン部とジャーナル部とを接続する。
本発明の実施形態によるクランク軸は、上記凹部に代えて、フィン部の側面に形成された溝部であって、フィン部の縁に沿って延びる溝部を備える。また、本発明の実施形態によるクランク軸は、上記凹部及び上記溝部を備える。
本明細書において、上記凹部及び上記溝部のうちの上記凹部のみを備えるクランク軸は、実施形態1のクランク軸とも称される。上記凹部及び上記溝部のうちの上記溝部のみを備えるクランク軸は、実施形態2のクランク軸とも称される。上記凹部及び上記溝部の両方を備えるクランク軸は、実施形態3のクランク軸とも称される。
本実施形態のクランク軸では、フィン部がアーム部の1つの側面から突出してウエイト部に接続される。フィン部は薄くて、フィン部のピン部側の表面がアーム部のピン部側の表面と同一平面上にある。さらに、フィン部のジャーナル部側の表面に凹部が設けられる。凹部に代えて、又は凹部に加えて、フィン部の側面に溝部が設けられる。これにより、本実施形態のクランク軸は、高い剛性を維持しつつ、軽量化を実現できる。しかも、ウエイト部の重心位置の設計許容範囲の拡大を図ることが可能になる。
凹部及び溝部の断面形状は特に限定されないが、例えば矩形、U字型、及びV型である。凹部及び溝部の断面形状は、不定形であっても構わない。
凹部及び溝部がフィン部の縁に沿って延びる限り、凹部及び溝部の長さは、特に限定されない。ただし、より剛性を向上させるには、凹部及び溝部は長いこと、が好ましい。もっとも、凹部及び溝部は、フィン部の縁の全域にわたって形成されなくてもよい。
凹部及び/又は溝部を有するフィン部を備えたウエイト部付きアーム部の数は、特に限定されない。クランク軸が複数のウエイト部付きアーム部を有する場合、1つのウエイト部付きアーム部がフィン部を備えてもよいし、1つ以上のウエイト部付きアーム部がフィン部を備えてもよいし、全てのウエイト部付きアーム部がフィン部を備えてもよい。クランク軸の重量を最大限に低減しつつ、剛性を高める観点から、全てのウエイト部付きアーム部がフィン部を備えることが好ましい。
(1)基本的なクランク軸の技術
図1及び図2は、基本的なクランク軸の技術を説明するための模式図である。これらの図のうち、図1は、1つのスローを側方から見たときの断面図である。図2は、クランク軸のアーム部及びウエイト部をクランク軸の軸方向に沿ってジャーナル部側から見たときの正面図である。
図1及び図2を参照して、レシプロエンジンにおいて、クランク軸のピン部Pは、コネクティングロッドを介してピストンに連結される。クランク軸のジャーナル部Jは、軸受けを介してエンジンブロックに支持される。クランクアーム部Aは、ピン部Pとジャーナル部Jをつなぐ。アーム部Aは、アーム部Aと接続されたウエイト部Cを有する。図2を参照して、アーム部Aとウエイト部Cは、ジャーナル中心面Syで区分される。つまり、アーム部Aは、ジャーナル中心面Syよりピン部P側の部分である。ウエイト部Cは、ジャーナル中心面Syよりピン部Pとは反対側の部分である。
本明細書において、ジャーナル中心面Syは、アーム中心面Szに直交する面であって、ジャーナル部Jの軸心JAを含む面を意味する。アーム中心面Szは、ジャーナル部Jの軸心JAとピン部Pの軸心PAを含む面を意味する。アーム中心線Lzは、アーム中心面Szに含まれる直線であり、アーム部A及びウエイト部Cをクランク軸の軸方向に沿って見たときに現れるジャーナル部Jの中心Cjとピン部Pの中心Cpとを結ぶ直線である。
レシプロエンジンにおいて、シリンダ内で生じた燃料爆発に伴うピストンの往復運動(直線運動)は、クランク軸によって回転運動に変換される。その際、ピストンが受けた爆発荷重は、クランク軸のピン部Pに与えられる。ピン部Pに与えられた荷重は、アーム部Aを介してジャーナル部Jに伝達される。そのため、ピン部Pとジャーナル部Jをつなぐアーム部Aは、曲げ荷重及びねじり荷重を受ける。これにより、クランク軸は、各種の荷重に応じた弾性変形を繰り返しながら回転する。
ジャーナル部Jを支持する軸受けには潤滑油が存在する。軸受け内では、クランク軸の弾性変形に応じて、油膜圧力及び油膜厚さが変化し、軸受け荷重も変化する。これらの軸受け荷重等の変化は、金属摩耗、焼き付き、及び摩擦力の発生などといった燃費性能に影響する。また、上記の軸受け荷重等の変化は、クランク軸の弾性変形を助長し、軸受け内でのジャーナル部Jの回転中心のズレを生じさせる。これにより、軸受けでの打音、及びエンジン振動(マウント振動)が発生する。打音及び振動は、車体を通じて乗車室に伝播する。そのため、軸受け荷重等の変化は、乗り心地にも影響する。
(1-1)曲げ剛性とねじり剛性の考え方
エンジン性能を向上させるためには、クランク軸には剛性が高くて、変形し難いことが求められる。
図3A及び図3Bは、アーム部及びウエイト部のねじり剛性の評価法を説明するための模式図である。これらの図のうち、図3Aは1つのスローの側面図である。図3Bはそのスローのアーム部及びウエイト部をクランク軸の軸方向に沿ってジャーナル部側から見たときの正面図である。図3A及び図3Bを参照して、ねじりトルクTがアーム部Aに与えられる。クランク軸はジャーナル部Jを中心にして回転運動しているからである。
図4は、アーム部及びウエイト部の曲げ剛性の評価法を説明するための模式図である。図4は1つのスローの側面図である。図4を参照して、爆発荷重Fがピン部Pに作用する。これにより、曲げモーメントMがアーム部Aに与えられる。
上記のとおり、クランク軸のアーム部AにはねじりトルクT及び曲げモーメントMが与えられる。そのため、クランク軸のねじり剛性及び曲げ剛性を向上させるには、アーム部A及びウエイト部Cの形状設計が重要となる。
(1-2)アーム部とウエイト部との各種のバランスの考え方
クランク軸を設計する際、静バランス、動バランス及びバランス率が考慮される。
図2を参照して、静バランス及び動バランスには、すべてのアーム部A及びウエイト部Cそれぞれの質量が関与する。さらに、すべてのアーム部Aそれぞれの重心Caの半径Ra及び重心Caの角度が関与する。さらに、すべてのウエイト部Cそれぞれの重心Ccの半径Rc及び重心Ccの角度、すなわち重心位置が関与する。クランク軸全体で調和がとれるように、すなわち所定のバランス式が0(ゼロ)になるように、アーム部A及びウエイト部Cの形状が調整される。回転のスムーズさ、及び回転の安定性のため、クランク軸は、運動力学的な回転体として、静バランス及び動バランスを適切に確保されなければならない。
バランス率は、1つのスローにおけるアーム部Aとウエイト部Cの比率である。バランス率にも、アーム部A及びウエイト部Cそれぞれの質量、重心半径Ra、Rc及び重心角度が関与する。バランス率は振動などに影響する。そのため、バランス率がある望ましい範囲内に収まるように、アーム部A及びウエイト部Cの形状が調整される。
(2)本実施形態で対象とされるクランク軸
図5A及び図5Bは、本実施形態で対象とされるクランク軸の一例を示す模式図である。これらの図のうち、図5Aはクランク軸の側面図である。図5Bはクランク軸の斜視図である。図5A及び図5Bに示されるクランク軸は、直列3気筒エンジンのクランク軸である。これらの図において、黒塗り丸印はウエイト部を示す。なお、図5Bの点線内の黒塗り丸印は、クランク軸の回転中心軸に直交する1つの面に投影したウエイト部を示す。
図5A及び図5Bを参照して、直列3気筒エンジンのクランク軸は、3つのスロー(第1~第3のスロー)を備える。3つのスローそれぞれにピン部が含まれる。第1、第2及び第3のスローのアーム中心面は、ジャーナル部の軸心回りに相互に120°ずれる。つまり、3つのアーム中心面は、ジャーナル部の軸心の位置で相互に交差する。そのため、3つのピン部の軸心は、相互に交差して異なる3つの平面上にそれぞれ存在する。つまり、3つのピン部の軸心のすべてが同一の平面上に存在するわけではない。
このようなクランク軸は、非フラットプレーンのクランク軸と称される。非フラットプレーンのクランク軸としては、例えば直列6気筒エンジンのクランク軸が挙げられる。また、直列4気筒エンジンのクランク軸であっても、4つのピン部がジャーナル部の軸心周りに90°ずつずれて配置されたものは非フラットプレーン(クロスプレーン)のクランク軸である。これに対し、複数のピン部の軸心が1つの平面上に存在するクランク軸は、フラットプレーンのクランク軸と称される。後述するように、直列4気筒エンジンのクランク軸であっても、4つのピン部がジャーナル部の軸心周りに180°ずつずれて配置されたものはフラットプレーンのクランク軸である。
図6は、本実施形態で対象とされないクランク軸の一例の模式図である。図6はクランク軸の側面図である。図6に示されるクランク軸は、直列4気筒エンジンのクランク軸である。この図において、黒塗り丸印はウエイト部を示す。
図6を参照して、直列4気筒エンジンのクランク軸は、4つのスロー(第1~第4のスロー)を備える。4つのスローそれぞれにピン部が含まれる。第1、第2、第3及び第4のスローのアーム中心面は、ジャーナル部の軸心回りに相互に180°ずれる。つまり、4つのアーム中心面は同一である。そのため、4つのピン部の軸心は、同一の平面上に存在する。このクランク軸は、フラットプレーンのクランク軸である。
要するに、本実施形態で対象とされるクランク軸は、非フラットプレーンのクランク軸である。本実施形態では、非フラットプレーンのクランク軸である限り、気筒数は限定されない。本実施形態で対象とされるクランク軸は、例えば、直列3気筒、直列5気筒、直列6気筒、V型6気筒及びV型8気筒などのエンジンのクランク軸である。エンジンとしては、単純な内燃機関のレシプロエンジンのみならず、内燃機関と電気モータを複合してなるハイブリッドエンジンも含む。
図7A及び図7Bは、本実施形態で対象とされるクランク軸の一例を示す模式図である。これらの図のうち、図7Aはアーム部及びウエイト部をクランク軸の軸方向に沿って見たときの正面図である。図7Bは図7Aの線VIIB-VIIBにおける断面図である。図7Bに示される断面は、アーム部Aの断面であって、アーム中心面Szと直交する断面(ジャーナル中心面Syと平行な断面)である。
本実施形態で対象とされるクランク軸では、静バランス及び動バランスが確保されるように、ウエイト部Cの形状設計が行われる。図7A及び図7Bを参照して、ウエイト部Cの重心Ccの位置は、アーム部A及びウエイト部Cをクランク軸の軸方向に沿って見たときに、アーム中心線Lz(アーム中心面Sz)上ではなくて、アーム中心線Lz(アーム中心面Sz)からジャーナル部Jの軸心JA(中心Cj)回りにある程度の角度θcをずらして設定されなければならない。つまり、ジャーナル部Jの中心Cjとウエイト部Cの重心Ccとを結ぶ線がアーム中心線Lzとなす角度θcは、0(ゼロ)°でない。この場合、アーム中心線Lz(アーム中心面Sz)に対して、ウエイト部Cの重心が一方向にずれている。そのため、ウエイト部Cの形状はアーム中心線Lzに対して対称でない。
本実施形態で対象とされるクランク軸には不平衡偶力が発生する。ウエイト部Cの重心Ccをアーム中心線Lz(アーム中心面Sz)からずらす理由は、その不平衡偶力を相殺するためである。したがって、上記のとおり、本実施形態で対象とされるクランク軸では、ウエイト部Cの形状はアーム中心線Lzに対して対称ではない。そのため、このような非対称形状のウエイト部Cに接続される実質的なアーム部Aの形状も、アーム中心線Lzに対して対称ではない。アーム部Aは2つの側面Aa及びAbを有する。これらの側面Aa及びAbのうちで、ウエイト部Cの重心が配置される上記一方向側の側面Aaにフィン部10が設けられる。フィン部10はアーム部Aの側面Aaから突出する。フィン部10はウエイト部Cに接続される。簡便にはフィン部10の厚さはアーム部Aの厚さと同じである。
(2-1)フィン部の役割1
図7Aを参照して、ウエイト部Cの形状のみによってウエイト部Cの重心Ccの角度θcを大きくするには限界がある。そこで、アーム部Aにフィン部10が設けられる。フィン部10の重心Cf及びフィン部10の重量が追加されることより、ウエイト部C及びフィン部10の合成された重心Ccfの角度θcfを大きくできる。これにより、質量バランス設計が可能になり、静バランス及び動バランスに関する設計の自由度が増す。
つまり、下記の式(1)で表される条件が導かれる。
θcf > θc …(1)
これにより、静バランス及び動バランスを満足する3次元形状設計の実現が可能になる。つまり、形状諸元の設計許容範囲が広がる。
(2-2)フィン部の役割2
図7Aを参照して、フィン部10はアーム部A及びウエイト部Cと接続されている。フィン部10によって、ピン部Pからのねじりトルク及び曲げ荷重を、ウエイト部Cを経由して、ジャーナル部Jに伝達することができる。そのため、フィン部10は荷重伝達の補強部材として機能する。また、フィン部10は、ウエイト部Cの張り出し部を補強する役割も担う。すなわち、フィン部10は、ウエイト部Cの遠心力を支持し、ウエイト部Cの振動を抑制する役割を担う。
上記したフィン部10の役割1は、静バランス及び動バランスの達成の観点から、回転体であるクランク軸に必須の条件である。上記したフィン部10の役割2は、ねじり剛性及び曲げ剛性の観点から重要である。さらにその役割2は、軽量化の観点から重要である。
(3)本実施形態の目的
本実施形態のクランク軸におけるアーム部及びウエイト部は、アーム部の2つの側面のうちで、ウエイト部の重心が配置される一方向側の側面に、フィン部を備える。フィン部はウエイト部に接続される。さらに、フィン部の厚さはアーム部の厚さよりも薄い。フィン部の厚さはピン部側に片寄る。
ここで、実施形態1のクランク軸では、フィン部のジャーナル部側の表面に、フィン部の縁に沿って延びる凹部が形成される。実施形態2のクランク軸では、フィン部の側面に、フィン部の縁に沿って延びる溝部が形成される。実施形態3のクランク軸は、上記凹部及び上記溝部の両方を備える。本実施形態(実施形態1~3)の目的は、軽量化と高剛性化を達成することである。さらに本実施形態の目的は、ウエイト部の重心位置の設計許容範囲の拡大と同時に、アーム部の軽量化と高剛性化を、高度に達成するフィン部を備えたクランク軸を提供することである。以下に、典型的な例として、実施形態1~3のクランク軸について詳細に説明する。
(4)実施形態1のクランク軸
図8A及び図8Bは、実施形態1のクランク軸の一例を示す模式図である。これらの図のうち、図8Aはアーム部及びウエイト部をクランク軸の軸方向に沿って見たときの正面図である。図8Bは図8Aの線VIIIB-VIIIBにおける断面図である。図8Bに示される断面は、アーム部Aの断面であって、アーム中心面Szと直交する断面(ジャーナル中心面Syと平行な断面)である。
図8A及び図8Bを参照して、実施形態1のクランク軸におけるアーム部A及びウエイト部Cは、フィン部10と、凹部11と、を備える。フィン部10は、アーム部Aの2つの側面Aa、Abのうちで、ウエイト部Cの重心が配置される一方向側の側面Aaに設けられる。フィン部10はアーム部Aの側面Aaから突出する。フィン部10はウエイト部Cに接続される。フィン部10の厚さt2はアーム部Aの厚さt1よりも薄い。フィン部10の厚さt2はピン部P側に片寄る。つまり、フィン部10のピン部P側の表面10aが、アーム部Aのピン部P側の表面Acと同一平面上にある。
凹部11は、フィン部10のジャーナル部J側の表面10bに形成される。凹部11は、フィン部10の縁に沿って延びる。つまり、フィン部10の縁部の厚さt2は、フィン部10の凹部11での厚さt3よりも厚い。
このような構成により、実施形態1のクランク軸は、高い剛性を維持しつつ、軽量化を実現できる。さらに、実施形態1のクランク軸は、ウエイト部の重心位置の設計許容範囲を拡大できる。
(4-1)ねじり剛性の考察
実施形態1に関して、フィン部付きアーム部のねじり剛性(極2次モーメント)を材料力学に基づいて評価した。具体的には、フィン部を含むアーム部全体を簡単化した4つのモデル(PT、PT0、CT1及びCT2)を作成し、4つのモデルそれぞれで解析を実施した。モデルPTは実施形態1に対応する。モデルPT0、CT1及びCT2は比較例である。
図9A~図11Bは、実施形態1のねじり剛性の評価に用いたモデルの模式図である。これらの図のうち、図9Aは、実施形態1に対応するモデルPTの斜視図であり、図9Bは図9Aの線IXB-IXBにおける断面図である。図10Aは、比較例であるモデルCT1の斜視図であり、図10Bは図10Aの線XB-XBにおける断面図である。図11Aは、比較例であるモデルCT2の斜視図であり、図11Bは図11Aの線XIB-XIBにおける断面図である。
これらのモデルPT、PT0、CT1及びCT2において、アーム部Aは、直径B0で、厚さH0の円板と見なした。フィン部10は、その円板(アーム部A)の外周面から突出する扇形の部分と見なした。その扇形の部分(フィン部10)の中心角は45°とした。
図9A及び図9Bを参照して、モデルPTでは、フィン部10のジャーナル部側の表面10bに、幅Bgで深さ(H2-H1)の凹部11が形成される。ここで、フィン部10の凹部11での厚さはH1である。凹部11は、フィン部10の縁に沿って延びる。フィン部10の厚さH2はアーム部Aの厚さH0よりも薄い。フィン部10の厚さH2はピン部側に片寄る。つまり、フィン部10のピン部側の表面10aが、アーム部Aのピン部側の表面Acと同一平面上にある。図9Bを参照して、フィン部10を含むアーム部A全体の総合的な曲げ中心軸をXtとすると、アーム部Aの曲げ中心軸Xbは、曲げ中心軸Xtから距離αだけ離れる。フィン部10の曲げ中心軸Xfは、曲げ中心軸Xtから距離βだけ離れる。
モデルPT0は、モデルPTに準じる。つまり、モデルPT0におけるフィン部の形状は、モデルPTにおけるフィン部10の形状と同じである。ただし、モデルPT0では、図9Bを参照して、フィン部10の厚さH2がピン部側に片寄らない。つまり、距離α及びβが0(ゼロ)である。ねじり剛性(極2次モーメント)に関して言えば、モデルPTとモデルPT0は同じになる。
図10A~図11Bを参照して、モデルCT1及びCT2では、フィン部10に凹部が形成されない。図10A及び図10Bを参照して、モデルCT1では、フィン部10の厚さはアーム部Aの厚さH0と同じである。つまり、モデルCT1のフィン部10は厚い。これに対し、図11A及び図11Bを参照して、モデルCT2では、フィン部10の厚さは、モデルPTのフィン部10における凹部11での厚さH1と同じである。つまり、モデルCT2のフィン部10は薄い。
材料力学の理論によれば、下記の式(2)及び式(3)によって、ねじり剛性と極2次モーメントとの関係が表される。極2次モーメントが大きければ、ねじり剛性の向上を達成することができる。
ねじり剛性:G×I/H …(2)
極2次モーメント:I=π/32×H×B4 …(3)
上記式中の記号の意味は次のとおりである;G:横弾性率、B:丸棒の直径、及びH:丸棒の長さ。
モデルPT、PT0、CT1及びCT2において、フィン部10を除くアーム部A単体の形状は同じである。そのため、アーム部A単体の極2次モーメントI0は全てのモデルで共通する。その極2次モーメントI0は下記の式(4)で表される。
I0=π/32×H0×B04 …(4)
図9Bを参照して、モデルPTにおけるフィン部10の極2次モーメントIPTは、下記の式(5)で表される。式(5)中の定数「1/8」は見込み角ωの45°/360°の角度分率を表す。これは以下の式でも同様である。
IPT=1/8×π/32×[H2×{(B0+Bg+Bp)4-B04}-(H2-H1)×(B0+Bg)4] …(5)
フィン部10を含むアーム部A全体の極2次モーメントIPT-Tは、アーム部A単体の極2次モーメントI0と、フィン部10の極2次モーメントIPTの総和である。つまり、アーム部A全体の極2次モーメントIPT-Tは、下記の式(6)で表される。
IPT-T=I0+IPT …(6)
上記のとおり、アーム部A単体の極2次モーメントI0は、全てのモデルPT、PT0、CT1及びCT2で共通する。そのため、以下では、そのI0を除くフィン部10の極2次モーメントで比較を行う。
上記のとおり、モデルPT0におけるフィン部の形状は、モデルPTにおけるフィン部10の形状と同じである。そのため、モデルPT0におけるフィン部の極2次モーメントIPT0は、モデルPTにおけるフィン部の極2次モーメントIPTと同じである。
図10Bを参照して、モデルCT1におけるフィン部10の極2次モーメントICT1は、下記の式(7)で表される。
ICT1=1/8×π/32×H0×{(B0+B1)4-B04} …(7)
図11Bを参照して、モデルCT2におけるフィン部10の極2次モーメントICT2は、下記の式(8)で表される。
ICT2=1/8×π/32×H1×{(B0+B2)4-B04} …(8)
フィン部10を含むアーム部A全体の重量は、全てのモデルPT、PT0、CT1及びCT2で同じである。つまり、下記の式(9)で表される同一質量条件が満たされる。
H0×{(B0+B1)2-B02}
=H1×{(B0+Bg+Bp)2-B02}+(H2-H1)×{(B0+Bp)2-B02}
=H1×{(B0+B2)2-B02} …(9)
次に、例として、下記の(10)で表される具体的な寸法を上記の式に代入し、極2次モーメントの大小関係を示す。
B0=100mm、H0=20mm、H1=10mm、H2=15mm、Bg=10mm、及びBp=10mm …(10)
上記の式(9)に表される同一質量条件より、下記の(11)の寸法が算出される。
B1=13.02655mm、及びB2=24.69964mm …(11)
上記の式(4)より、共通するアーム部A単体の極2次モーメントI0は下記の式(12)で表される。
I0=1.96328×108 …(12)
上記の式(5)より、モデルPT及びPT0におけるフィン部の極2次モーメントIPT及びIPT0は下記の式(13)で表される。
IPT=IPT0=1.69131×107 …(13)
上記の式(7)より、モデルCT1におけるフィン部の極2次モーメントICT1は下記の式(14)で表される。
ICT1=1.55101×107 …(14)
上記の式(8)より、モデルCT2におけるフィン部の極2次モーメントICT2は下記の式(15)で表される。
ICT2=1.73999×107 …(15)
したがって、上記の式(13)~式(15)より、下記の式(16)で表される極2次モーメントの大小関係が導かれる。
ICT1 < IPT=IPT0 < ICT2 …(16)
上記の式(16)の関係から下記のことが示される。モデルCT2の極2次モーメントICT2が最も大きい。このモデルCT2では、フィン部10が薄いが、フィン部10の幅B2(=24.69964mm)が最も大きい。実施形態1に対応するモデルPTの極2次モーメントIPTが2番目に大きい。モデルCT1の極2次モーメントICT1が最も小さい。このモデルCT1では、フィン部10の厚さがアーム部Aの厚さH0(=20mm)と同じであり、フィン部10が最も厚い。ただし、フィン部10の幅B1(=13.02655mm)が最も小さい。
図12は、モデルPT、PT0、CT1及びCT2における極2次モーメントをまとめた図である。図12に示される結果から、上記した極2次モーメントの大小関係は一目瞭然である。ねじり剛性の大小関係は極2次モーメントの大小関係と一致する。
極2次モーメントが最も大きいモデルCT2は、軽量化の観点から最も有効であるかもしれない。しかし、モデルCT2では、フィン部10を含むアーム部A全体の幅が最も大きい(124.69964mm)。そのため、クランク軸の回転半径の寸法上の制約から、モデルCT2を採用できない場合がある。
これに対し、モデルCT1では、アーム部A全体の幅が最も小さい(113.02655mm)。実施形態1に対応するモデルPTでは、アーム部A全体の幅が小さい(120mm)。このようにアーム部A全体の幅が小さければ、クランク軸の回転半径の寸法上の制約に対して自由度が増す。そのため、モデルPTを採用できる場合がある。つまり、実施形態1に対応するモデルPTが好ましい場合がある。
要するに、モデルPTに対応する実施形態1のアーム部A及びウエイト部Cでは、ねじり中心であるジャーナル部の軸心から比較的近いところに、凹部が形成される。凹部からとりさられた肉(ボリューム)は、ジャーナル部の軸心から遠いところに配置されたと考えることができる。つまり、ジャーナル部の軸心から遠いフィン部10に質量が多く配置され、フィン部10の縁が厚くなっている。したがって、実施形態1のアーム部A及びウエイト部Cは、軽量で且つねじり剛性が高いといえる。
(4-2)曲げ剛性の考察
実施形態1に関して、フィン部付きアーム部の曲げ剛性(断面2次モーメント)を材料力学に基づいて評価した。具体的には、フィン部を含むアーム部全体を簡単化した4つのモデル(PM、PM0、CM1及びCM2)を作成し、4つのモデルそれぞれで解析を実施した。モデルPMは実施形態1に対応する。モデルPM0、CM1及びCM2は比較例である。
図13A~図15Bは、実施形態1の曲げ剛性の評価に用いたモデルの模式図である。これらの図のうち、図13Aは、実施形態1に対応するモデルPMの斜視図であり、図13Bは図13Aの線XIIIB-XIIIBにおける断面図である。図14Aは、比較例であるモデルCM1の斜視図であり、図14Bは図14Aの線XIVB-XIVBにおける断面図である。図15Aは、比較例であるモデルCM2の斜視図であり、図15Bは図15Aの線XVB-XVBにおける断面図である。
これらのモデルPM、PM0、CM1及びCM2において、アーム部Aは、幅B0で、厚さH0の矩形板と見なした。フィン部10は、その矩形板(アーム部A)の1つの側面から突出する部分と見なした。
図13A及び図13Bを参照して、モデルPMでは、フィン部10のジャーナル部側の表面10bに、幅Bgで深さ(H2-H1)の凹部11が形成される。ここで、フィン部10の凹部11での厚さはH1である。凹部11は、フィン部10の縁に沿って延びる。フィン部10の厚さH2はアーム部Aの厚さH0よりも薄い。フィン部10の厚さH2はピン部側に片寄る。つまり、フィン部10のピン部側の表面10aが、アーム部Aのピン部側の表面Acと同一平面上にある。図13Bを参照して、フィン部10を含むアーム部A全体の総合的な曲げ中心軸をXtとすると、アーム部Aの曲げ中心軸Xbは、曲げ中心軸Xtから距離αだけ離れる。フィン部10の曲げ中心軸Xfは、曲げ中心軸Xtから距離βだけ離れる。
モデルPM0は、モデルPMに準じる。つまり、モデルPM0におけるフィン部の形状は、モデルPMにおけるフィン部10の形状と同じである。ただし、モデルPM0では、図13Bを参照して、フィン部10の厚さH2がピン部側に片寄らない。つまり、距離α及びβが0(ゼロ)である。
図14A~図15Bを参照して、モデルCM1及びCM2では、フィン部10に凹部が形成されない。図14A及び図14Bを参照して、モデルCM1では、フィン部10の厚さは、モデルPMのフィン部10の厚さH2と同じである。つまり、モデルCM1のフィン部10は厚い。これに対し、図15A及び図15Bを参照して、モデルCM2では、フィン部10の厚さは、モデルPMのフィン部10における凹部11での厚さH1と同じである。つまり、モデルCM2のフィン部10は薄い。
モデルPM、PM0、CM1及びCM2において、フィン部10を除くアーム部A単体の形状は同じである。そのため、アーム部A単体の断面2次モーメントI0Mは全てのモデルで共通する。その断面2次モーメントI0Mは下記の式(17)で表される。
I0M=1/12×B0×H03 …(17)
説明の便宜上、まず、モデルPMに準じたモデルPM0について考える。つまり、図13Bを参照して、距離α及びβが0(ゼロ)である場合について考える。モデルPM0におけるフィン部10の断面2次モーメントIPM0は、下記の式(18)で表される。
IPM0={(Bg+Bp)×E23-Bg×H33+Bp×E13}/6
上記式中の記号の意味は次のとおりである;E2=(Bp×H22+Bg×H12)/2×(Bp×H2+Bg×H1)、E1=H2-E2、及びH3=E2-H1 …(18)
フィン部10を含むアーム部A全体の断面2次モーメントIPM0-Tは、アーム部A単体の断面2次モーメントI0Mと、フィン部10の断面2次モーメントIPM0の総和である。つまり、アーム部A全体の断面2次モーメントIPM0-Tは、下記の式(19)で表される。
IPM0-T=I0M+IPM0 …(19)
ここで、図13Bに示されるモデルPMの場合、距離α及びβが0でない(α≠0、β≠0)。この場合、曲げ中心のズレによる断面2次モーメントの増大効果IAXが生じる。また、モデルPMにおけるフィン部10単体の形状は、モデルPM0におけるフィン部10単体の形状と同じである。そのため、モデルPMにおけるフィン部10単体の断面2次モーメントIPM1は、モデルPM0におけるフィン部単体の断面2次モーメントIPM0と同じである。したがって、実際には、モデルPMにおけるフィン部10の断面2次モーメントIPMは、IPM1(=IPM0)とIAXの和である。
そのため、モデルPMにおけるアーム部A全体の断面2次モーメントIPM-Tは、下記の式(20)で表される。
IPM-T=I0M+IPM1+IAX =I0M+IPM0+IAX …(20)
IAXは、下記の式(21)で表される。
IAX=α2×Sb+β2×Sf …(21)
上記式中の記号の意味は次のとおりである;α:XbとXtの距離、β:XfとXtの距離、Sb:アーム本体の断面積、及びSf:フィンの断面積。
ここで示されるようにα、βの値が大きい方が、断面2次モーメントが大きくなり望ましい。
上記のとおり、アーム部A単体の断面2次モーメントI0Mは、全てのモデルPM、PM0、CM1及びCM2で共通する。そのため、以下では、そのI0Mを除くフィン部10の断面2次モーメントで比較を行う。
図14Bを参照して、モデルCM1におけるフィン部10の断面2次モーメントICM1は、下記の式(22)で表される。
ICM1=1/12×B3×H23 …(22)
図15Bを参照して、モデルCM2におけるフィン部10の断面2次モーメントICM2は、下記の式(23)で表される。
ICM2=1/12×B4×H13 …(23)
フィン部10を含むアーム部A全体の重量は、全てのモデルPM、PM0、CM1及びCM2で同じである。つまり、同一質量条件が満たされる。同一質量条件より、B3=16.666mm、及びB4=25mmが算出される。
上記の式(17)より、共通するアーム部A単体の断面2次モーメントI0Mは下記の式(24)で表される。
I0M=6.66667×104 …(24)
上記の式(18)、式(20)及び式(21)より、モデルPMにおけるフィン部の断面2次モーメントIPMは下記の式(25)で表される。
IPM=6.74306×103 …(25)
上記の式(18)より、モデルPM0におけるフィン部の断面2次モーメントIPM0は下記の式(26)で表される。
IPM0=IPM1=4.02083×103 …(26)
上記の式(22)より、モデルCM1におけるフィン部の断面2次モーメントICM1は下記の式(27)で表される。
ICM1=4.68748×103 …(27)
上記の式(23)より、モデルCM2におけるフィン部の断面2次モーメントICM2は下記の式(28)で表される。
ICM2=2.08333×103 …(28)
したがって、上記の式(25)~式(28)より、下記の式(29)で表される断面2次モーメントの大小関係が導かれる。
ICM2 < IPM0 < ICM1 <IPM …(29)
上記の式(26)の関係から下記のことが示される。実施形態1に対応するモデルPMの断面2次モーメントIPMが最も大きい。モデルPM0と比較して、フィン部が厚み方向で片寄ることによる効果が発現する。
図16は、モデルPM、PM0、CM1及びCM2における断面2次モーメントをまとめた図である。図16に示される結果から、上記した断面2次モーメントの大小関係は一目瞭然である。曲げ剛性の大小関係は断面2次モーメントの大小関係と一致する。
以上のように、フィン部の適切な形状を究明するため、ねじり剛性(極2次モーメント)と曲げ剛性(断面2次モーメント)を評価した。その結果、実施形態1に対応する、フィン部の表面に凹部が形成されたモデルPT及びPMでは、ねじり剛性が高く、曲げ剛性が最大である。また寸法的には、外形がコンパクトになる。
これに対し、比較例である、フィン部が厚いモデルCT1及びCM1では、曲げ剛性が高い反面、ねじり剛性が低い。比較例である、フィン部が薄いモデルCT2及びCM2では、ねじり剛性が高い反面、曲げ剛性が低い。要するに、いずれの比較例のモデルでも、ねじり剛性と曲げ剛性がトレードオフの関係にある。そのため、適切な設計を行い難い。結局、そのようなトレードオフをクリアするために、フィン部を拡大せざるを得ない。そのため、いずれの比較例のモデルも、軽量化しつつ、ねじり剛性及び曲げ剛性の両方を向上させるには不都合である。
簡単化したモデルPT及びPMについて、さらに説明を加える。図9Aを参照して、モデルPTでは、フィン部10に相当する扇形の部分(以下、「フィン部10」ともいう)がアーム部Aに設けられる。凹部11は、フィン部10に設けられる。凹部11は、ジャーナル部中心CPを通る境界線Syp(アーム部とウエイト部の境界)からアーム部側へ延びている。具体的には、凹部11は、ジャーナル部を中心とする見込み角ωが0°~45°の範囲内で、フィン部10の縁に沿って延びている。これは例であり、凹部11の見込み角ωが大きいほど効果が大きいため、凹部11の見込み角ωは大きいのが望ましい。フィン部10において、凹部11の部分、及び凹部11の外側でフィン部10の縁に相当する厚肉部分が極2次モーメントを大きくし、凹部11の肉抜きが軽量化に寄与している。
モデルPTでは、フィン部10が境界線Syp上でウエイト部と接続していない。しかし、材料力学により、フィン部10のような付加物のねじり極2次モーメントの増加分は、ウエイト部に接続しても接続していなくても同じ数値になる。よって、モデルPTは、フィン部10がウエイト部と接続したモデルと同等であり、アーム部Aを円形状に簡単化したあるモデルのねじり極2次モーメントを評価していると言える。
また、図13Aを参照して、モデルPMでは、フィン部10に相当する部分(以下、「フィン部10」ともいう)がアーム部Aに設けられる。凹部11は、フィン部10に設けられる。凹部11は、ジャーナル部中心CMを通る境界線Sym(アーム部とウエイト部の境界)から上方のアーム部側へ延びている。具体的には、凹部11は、フィン部10の縁に沿って延びている。凹部11の上下方向に延びる長さLdが長いほど効果が大きいため、凹部11の長さLdは長いのが望ましい。上記のとおり、フィン部10において、凹部11の部分、及び凹部11の外側でフィン部10の縁に相当する厚肉部分が断面2次モーメントを大きくし、凹部11の肉抜きが軽量化に寄与している。
特に、図13Aを参照して、曲げの方向は、中心線Lzmに沿った方向、すなわち、フィン部10の縁に沿った方向と一致する。この曲げの方向にフィン部10の縁に相当する厚肉部分が連続して延びている。このことも断面2次モーメントの向上に重要である。図8Aに示される実施形態1でも、凹部11の外側でフィン部10の縁に相当する厚肉部分が延びる方向は曲げの方向と近い。
境界線Symから下方のウエイト部は示していない。しかしここでは、フィン部10は境界線Symにて全面固定の境界条件でウエイト部と接続している。この条件で、曲げの断面2次モーメントを評価している。したがって、モデルPMは、ウエイト部に接続されているアーム部とフィン部を含むモデルを表現しており、アーム部Aを矩形状に簡単化したあるモデルの曲げの断面2次モーメントを評価していると言える。
モデルPT及びPMは実施形態1に対応する。したがって、実施形態1のアーム部及びウエイト部を有するクランク軸は、寸法制約の条件下で、軽量化と高剛性化に優れる。
図8Aに示される実施形態1では、フィン部10の重心は、図7Aに示される従来フィン部10の重心Cfよりも、凹部11の存在効果でジャーナル部中心から遠方に位置している。なお、図9B及び図10Bに示されるモデルの断面を比較すれば、実施形態1では、重心位置がジャーナル部中心から遠方に位置することが分かる。その結果、実施形態1におけるウエイト部とフィン部の合計の重心位置は、図7Aに示される重心位置よりもジャーナル部中心から遠方に位置する。さらに実施形態1では、ウエイト部及びフィン部の合成された重心の角度θcfも大きくなり、重量バランス設計のための自由度が増加する。
図8A及び図8Bに示される実施形態1において、凹部11の上端はフィン部10の高さに応じて設定される。例えば、凹部11の上端は、ピン中心軸の高さを超えても良いし、超えなくてもよい。凹部11の下端はウエイト部と接しても良いし、接しなくても良い。もっとも、上記のとおり、フィン部10内で、凹部11の見込み角ωは大きいのが望ましく、凹部11の長さLdは長いのが望ましい。
また、図9Aに示される角度ωに応じて、図9Bに示される断面の各種寸法が変化してもよい。図13Aに示される高さ(長さLd)に応じて、図13Bに示される断面の各種寸法が変化してもよい。例えば、実施形態1では、図8Aに示されるアーム部Aの断面高さの位置に応じて、図8Bに示される断面の各種寸法が変化してもよい。典型的には、図8Aに示されるアーム部Aの断面高さの位置が高くなるにつれて、図8Bに示されるアーム部Aの厚さt1が薄くなり、フィン部10の厚さt2も同様に薄くなって良い。また、凹部11の幅や深さも変化して良い。
図8Aに示される実施形態1では、フィン部10の外形を上向き凸型とし、また図9Aに示されるモデルPTでも、フィン部10の外形を上向き凸型の円弧とした。ただし、図8Aに示されるフィン部10は、アーム部Aとウエイト部CをR形状でつないだような、下向き円弧形状でもよい。このような形状のフィン部の場合、アーム部とウエイト部との接続部が滑らかにつながることになり、応力集中を下げるメリットがある。
(4-3)フィン部のジャーナル部側の表面に凹部が設けられることの意義
図17A~図17Cは、フィン部のジャーナル部側の表面に凹部を設ける理由を説明するための模式図である。これらの図のうち、図17Aはアーム部及びウエイト部をクランク軸の軸方向に沿って見たときの正面図である。図17Bは図17Aの線XVIIB-XVIIBにおける断面図である。図17Bに示される断面は、アーム部Aの断面であって、アーム中心面Szと直交する断面(ジャーナル中心面Syと平行な断面)である。図17Cは、フィン部のジャーナル部側の表面に凹部を設けた場合の図17Bに相当する断面図である。
図17Aを参照して、通常のクランク軸において、ピン部Pの直径は、ジャーナル部Jの直径よりも小さい。また、ピン部Pの位置でのアーム部Aの幅wpは、ジャーナル部Jの位置でのアーム部Aの幅wjよりも小さい。とりわけ、フィン部10の存在により、ピン部Pの位置でのアーム部Aの幅wpと、ジャーナル部Jの位置でのアーム部Aの幅wjとの差はより大きい。
ピン部Pとジャーナル部Jに負荷される曲げ荷重は、ピン部Pとアーム部Aとの間の連結部分と、ジャーナル部Jとアーム部Aとの間の連結部分で同じになる。つまり、アーム部Aは、相互に断面積の異なる連結部分で同じ大きさの荷重を支持する。そのため、アーム部において、ピン部Pに近い部分に発生する応力は、ジャーナル部Jに近い部分に発生する応力よりも高い。ピン部Pに近い部分のアーム部の断面積が、ジャーナル部Jに近い部分のアーム部の断面積よりも小さいからである。そうすると、アーム部Aにおいて、ピン部P付近に肉(ボリューム)が付加されれば、剛性が高まるといえる。つまり、アーム部Aのピン部P付近は、剛性に対する感度の高い部分といえる。そのため、剛性の観点から、アーム部Aのピン部P付近に肉を残すのがよい。
さらに、図17Bを参照して、アーム部Aにおけるピン部P側の表面Acとジャーナル部J側の表面Adについて考察する。図17Bには、濃淡によって、アーム部Aのピン部P付近に発生する応力分布が示される。図17Bにおいて、濃淡の濃い部分は応力が高いことを示す。具体的には、ピン部Pとアーム部Aとの間のコーナーに応力集中が生じる(図17B中の円参照)。そのため、アーム部Aのピン部P側の表面Acでは応力が高い。一方、アーム部Aのジャーナル部J側の表面Adでは応力が低い。このような応力分布の観点から、フィン部10が付加される場合、このフィン部10によってアーム部Aのピン部P側に肉(ボリューム)を残し、そのフィン部10のジャーナル部J側の表面10bから肉を削るのがよい。したがって、フィン部10のジャーナル部J側の表面10bに凹部11を形成するのがよい(図17C参照)。
したがって、フィン部10のジャーナル部J側の表面10bに凹部11が設けられることは、剛性の観点から技術的意義がある。
(4-4)フィン部が薄くて、フィン部のピン部側の表面がアーム部のピン部側の表面と同一平面上にあることの意義
図17A~図17Cを参照して、ピン部Pに負荷された荷重は、アーム部Aを介してジャーナル部Jに伝達される。フィン部10が存在する場合、その荷重の一部はフィン部10及びウエイト部Cを介してジャーナル部Jに伝達される。つまり、フィン部10は、荷重の一部を迂回させて伝達する経路となる。フィン部10が負担する荷重は、アーム部Aが負担する荷重よりも遙かに小さい。したがって、フィン部10の厚さt2は、アーム部Aの厚さt1より薄くても十分である。
フィン部10の厚さを薄くするとき、図17Bに示される応力分布により、フィン部10のピン部P側の表面10aから肉を削らずに、フィン部10のジャーナル部J側の表面10bから肉を削るのがよい。つまり、フィン部10のピン部P側の表面10aをアーム部Aのピン部P側の表面Acと同一平面上にする一方、フィン部10のジャーナル部J側の表面10bとアーム部Aのジャーナル部J側の表面Adとの間に段差をつけるのがよい(図17C参照)。これにより、フィン部10の厚さはピン部P側に片寄る。
この場合、上記のとおり、曲げ中心のズレによる断面2次モーメントの増大効果IAXが生じる。したがって、フィン部10が薄くて、フィン部10のピン部P側の表面10aがアーム部Aのピン部側の表面Acと同一平面上にあることは、曲げ剛性の観点から技術的意義がある。上記した実施形態1のクランク軸の優位性を下記の表1に示す。
(5)実施形態2のクランク軸
図18A及び図18Bは、実施形態2のクランク軸の一例を示す模式図である。これらの図のうち、図18Aはアーム部及びウエイト部をクランク軸の軸方向に沿って見たときの正面図である。図18Bは図18Aの線XVIIIB-XVIIIBにおける断面図である。図18Bに示される断面は、アーム部Aの断面であって、アーム中心面Szと直交する断面(ジャーナル中心面Syと平行な断面)である。
図18A及び図18Bを参照して、実施形態2のクランク軸におけるアーム部A及びウエイト部Cは、フィン部10と、溝部12と、を備える。実施形態1と同様に、フィン部10は、アーム部Aの、ウエイト部Cの重心が配置される一方向側の側面Aaに設けられる。フィン部10はアーム部Aの側面Aaから突出する。フィン部10はウエイト部Cに接続される。フィン部10の厚さt2はアーム部Aの厚さt1よりも薄い。フィン部10の厚さt2はピン部P側に片寄る。つまり、フィン部10のピン部P側の表面10aが、アーム部Aのピン部P側の表面Acと同一平面上にある。
溝部12は、フィン部10の側面10cに形成される。溝部12は、フィン部10の縁に沿って延びる。
このような構成により、実施形態2のクランク軸は、高い剛性を維持しつつ、軽量化を実現できる。さらに、実施形態2のクランク軸は、ウエイト部の重心位置の設計許容範囲を拡大できる。
(5-1)ねじり剛性の考察
実施形態2に関して、フィン部付きアーム部のねじり剛性(極2次モーメント)を材料力学に基づいて評価した。具体的には、フィン部を含むアーム部全体を簡単化した4つのモデル(PPT、PPT0、CCT1及びCCT2)を作成し、4つのモデルそれぞれで解析を実施した。モデルPPTは実施形態2に対応する。モデルPPT0、CCT1及びCCT2は比較例である。
図19A~図21Bは、実施形態2のねじり剛性の評価に用いたモデルの模式図である。これらの図のうち、図19Aは、実施形態2に対応するモデルPPTの斜視図であり、図19Bは図19Aの線XIXB-XIXBにおける断面図である。図20Aは、比較例であるモデルCCT1の斜視図であり、図20Bは図20Aの線XXB-XXBにおける断面図である。図21Aは、比較例であるモデルCCT2の斜視図であり、図21Bは図21Aの線XXIB-XXIBにおける断面図である。
これらのモデルPPT、PPT0、CCT1及びCCT2において、アーム部Aは、直径B0で、厚さH0の円板と見なした。フィン部10は、その円板(アーム部A)の外周面から突出する扇形の部分と見なした。その扇形の部分(フィン部10)の中心角は45°とした。
図19A及び図19Bを参照して、モデルPPTでは、フィン部10の側面10cに、幅H5で深さ(B5―B6)の溝部12が形成される。溝部12は、フィン部10の縁に沿って延びる。フィン部10の厚さ(2×H4+H5)はアーム部Aの厚さH0よりも薄い。フィン部10の厚さ(2×H4+H5)はピン部側に片寄る。つまり、フィン部10のピン部側の表面10aが、アーム部Aのピン部側の表面Acと同一平面上にある。図19Bを参照して、フィン部10を含むアーム部A全体の総合的な曲げ中心軸をXtとすると、アーム部Aの曲げ中心軸Xbは、曲げ中心軸Xtから距離γだけ離れる。フィン部10の曲げ中心軸Xfは、曲げ中心軸Xtから距離ηだけ離れる。
モデルPPT0は、モデルPPTに準じる。つまり、モデルPPT0におけるフィン部の形状は、モデルPPTにおけるフィン部10の形状と同じである。ただし、モデルPPT0では、図19Bを参照して、フィン部10の厚さ(2×H4+H5)がピン部側に片寄らない。つまり、距離γ及びηが0(ゼロ)である。ねじり剛性(極2次モーメント)に関して言えば、モデルPPTとモデルPPT0は同じになる。
図20A及び図20Bを参照して、モデルCCT1では、フィン部10に溝部が形成されない。モデルCCT1では、フィン部10の厚さH7は、アーム部Aの厚さH0よりも薄くて、モデルPPTのフィン部10の厚さ(2×H4+H5)よりも厚い。つまり、モデルCCT1のフィン部10は厚い。
図21A及び図21Bを参照して、モデルCCT2では、フィン部10のピン部側の縁に、幅H4で深さ(B9―B8)の切欠き13が形成される。さらに、フィン部10のジャーナル部側の縁に、幅H4で深さ(B9―B8)の切欠き13が形成される。これら2つの切欠き13は、フィン部10の縁に沿って延びる。つまり、モデルCCT2では、フィン部10の形状が凸状である。フィン部10の切欠き13を除く厚さは、モデルPPTのフィン部10の厚さ(2×H4+H5)と同じであり、アーム部Aの厚さH0よりも薄い。フィン部10の切欠き13での厚さは、モデルPPTの溝の幅H5と同じである。
モデルPPT、PPT0、CCT1及びCCT2において、フィン部10を除くアーム部A単体の形状は同じである。そのため、アーム部A単体の極2次モーメントI00は全てのモデルで共通する。その極2次モーメントI00は下記の式(30)で表される。
I00=π/32×H0×B04 …(30)
図19Bを参照して、モデルPPTにおけるフィン部10の極2次モーメントIPPTは、下記の式(31)で表される。式(31)中の定数「1/8」は見込み角ωの45°/360°の角度分率を表す。これは以下の式でも同様である。
IPPT=1/8×π/32×[2×H4×{(B0+B5)4-B04}+H5×{(B0+B6)4-B04}] …(31)
上記のとおり、アーム部A単体の極2次モーメントI00は、全てのモデルPPT、PPT0、CCT1及びCCT2で共通する。そのため、以下では、そのI00を除くフィン部10の極2次モーメントで比較を行う。
上記のとおり、モデルPPT0におけるフィン部の形状は、モデルPPTにおけるフィン部10の形状と同じである。そのため、モデルPPT0におけるフィン部の極2次モーメントIPPT0は、モデルPPTにおけるフィン部の極2次モーメントIPPTと同じである。
図20Bを参照して、モデルCCT1におけるフィン部10の極2次モーメントICCT1は、下記の式(32)で表される。
ICCT1=1/8×π/32×H7×{(B0+B7)4-B04} …(32)
図21Bを参照して、モデルCCT2におけるフィン部10の極2次モーメントICCT2は、下記の式(33)で表される。
ICCT2=1/8×π/32×[2×H4×{(B0+B8)4-B04}+H5×{(B0+B9)4-B04}] …(33)
フィン部10を含むアーム部A全体の重量は、全てのモデルPPT、PPT0、CCT1及びCCT2で同じである。つまり、下記の式(34)で表される同一質量条件が満たされる。
2×H4×{(B0+B5)2-B02}+H5×{(B0+B6)2-B02}
=H7×{(B0+B7)2-B02}
=2×H4×{(B0+B8)2-B02}+H5×{(B0+B9)2-B02} …(34)
次に、例として、下記の(35)で表される具体的な寸法を上記の式に代入し、極2次モーメントの大小関係を示す。
H0=20mm、B0=100mm、B5=B9=20mm、B6=15mm、H4=5mm、H5=5mm、及びH7=15mm …(35)
上記の式(34)に表される同一質量条件より、下記の(36)の寸法が算出される。
B7=18.35680mm、及びB8=17.52659mm …(36)
上記の式(30)より、共通するアーム部A単体の極2次モーメントI00は下記の式(37)で表される。
I00=1.964119×108 …(37)
上記の式(31)より、モデルPPT及びPPT0におけるフィン部の極2次モーメントIPPT及びIPPT0は下記の式(38)で表される。
IPPT=IPPT0=1.7777×107 …(38)
上記の式(32)より、モデルCCT1におけるフィン部の極2次モーメントICCT1は下記の式(39)で表される。
ICCT1=1.7713×107 …(39)
上記の式(33)より、モデルCCT2におけるフィン部の極2次モーメントICCT2は下記の式(40)で表される。
ICCT2=1.7727×107 …(40)
したがって、上記の式(38)~式(40)より、下記の式(41)で表される極2次モーメントの大小関係が導かれる。
ICCT1 < ICCT2 <IPPT=IPPT0 …(41)
上記の式(41)の関係から下記のことが示される。実施形態2に対応するモデルPPTの極2次モーメントIPPTが最も大きい。
図22は、モデルPPT、PPT0、CCT1及びCCT2における極2次モーメントをまとめた図である。図22に示される結果から、上記した極2次モーメントの大小関係は一目瞭然である。ねじり剛性の大小関係は極2次モーメントの大小関係と一致する。
(5-2)曲げ剛性の考察
実施形態2に関して、フィン部付きアーム部の曲げ剛性(断面2次モーメント)を材料力学に基づいて評価した。具体的には、フィン部を含むアーム部全体を簡単化した4つのモデル(PPM、PPM0、CCM1及びCCM2)を作成し、4つのモデルそれぞれで解析を実施した。モデルPPMは実施形態2に対応する。モデルPPM0、CCM1及びCCM2は比較例である。
図23A~図25Bは、実施形態2の曲げ剛性の評価に用いたモデルの模式図である。これらの図のうち、図23Aは、実施形態2に対応するモデルPPMの斜視図であり、図23Bは図23Aの線XXIIIB-XXIIIBにおける断面図である。図24Aは、比較例であるモデルCCM1の斜視図であり、図24Bは図24Aの線XXIVB-XXIVBにおける断面図である。図25Aは、比較例であるモデルCCM2の斜視図であり、図25Bは図25Aの線XXVB-XXVBにおける断面図である。
これらのモデルPPM、PPM0、CCM1及びCCM2において、アーム部Aは、幅B0で、厚さH0の矩形板と見なした。フィン部10は、その矩形板(アーム部A)の1つの側面から突出する部分と見なした。
図23A及び図23Bを参照して、モデルPPMでは、フィン部10の側面10cに、幅H5で深さ(B5―B6)の溝部12が形成される。溝部12は、フィン部10の縁に沿って延びる。フィン部10の厚さ(2×H4+H5)はアーム部Aの厚さH0よりも薄い。フィン部10の厚さ(2×H4+H5)はピン部側に片寄る。つまり、フィン部10のピン部側の表面10aが、アーム部Aのピン部側の表面Acと同一平面上にある。図23Bを参照して、フィン部10を含むアーム部A全体の総合的な曲げ中心軸をXtとすると、アーム部Aの曲げ中心軸Xbは、曲げ中心軸Xtから距離γだけ離れる。フィン部10の曲げ中心軸Xfは、曲げ中心軸Xtから距離ηだけ離れる。
モデルPPM0は、モデルPPMに準じる。つまり、モデルPPM0におけるフィン部の形状は、モデルPPMにおけるフィン部10の形状と同じである。ただし、モデルPPM0では、図23Bを参照して、フィン部10の厚さ(2×H4+H5)がピン部側に片寄らない。つまり、距離γ及びηが0(ゼロ)である。
図24A及び図24Bを参照して、モデルCCM1では、フィン部10に溝部が形成されない。モデルCCM1では、フィン部10の厚さH7は、アーム部Aの厚さH0よりも薄くて、モデルPPMのフィン部10の厚さ(2×H4+H5)よりも厚い。つまり、モデルCCM1のフィン部10は厚い。
図25A及び図25Bを参照して、モデルCCM2では、フィン部10のピン部側の縁に、幅H4で深さ(B9―B8)の切欠き13が形成される。さらに、フィン部10のジャーナル部側の縁に、幅H4で深さ(B9―B8)の切欠き13が形成される。これら2つの切欠き13は、フィン部10の縁に沿って延びる。つまり、モデルCCM2では、フィン部10の形状が凸状である。フィン部10の切欠き13を除く厚さは、モデルPPMのフィン部10の厚さ(2×H4+H5)と同じであり、アーム部Aの厚さH0よりも薄い。フィン部10の切欠き13での厚さは、モデルPPMの溝の幅H5と同じである。
モデルPPM、PPM0、CCM1及びCCM2において、フィン部10を除くアーム部A単体の形状は同じである。そのため、アーム部A単体の断面2次モーメントI00Mは全てのモデルで共通する。その断面2次モーメントI00Mは下記の式(42)で表される。
I00M=1/12×B0×H03 …(42)
説明の便宜上、まず、モデルPPMに準じたモデルPPM0について考える。つまり、図23Bを参照して、距離γ及びηが0(ゼロ)である場合について考える。モデルPPM0におけるフィン部10の断面2次モーメントIPPM0は、下記の式(43)で表される。
IPPM0=1/12×[B5×(2×H4+H5)3-(B5-B6)×H53] …(43)
フィン部10を含むアーム部A全体の断面2次モーメントIPPM0-Tは、アーム部A単体の断面2次モーメントI00Mと、フィン部10の断面2次モーメントIPPM0の総和である。つまり、アーム部A全体の断面2次モーメントIPPM0-Tは、下記の式(44)で表される。
IPPM0-T=I00M+IPPM0 …(44)
ここで、図23Bに示されるモデルPPMの場合、距離γ及びηが0でない(γ≠0、η≠0)。この場合、曲げ中心のズレによる断面2次モーメントの増大効果IBXが生じる。また、モデルPPMにおけるフィン部10単体の形状は、モデルPPM0におけるフィン部10単体の形状と同じである。そのため、モデルPPMにおけるフィン部10単体の断面2次モーメントIPPM1は、モデルPPM0におけるフィン部単体の断面2次モーメントIPPM0と同じである。したがって、実際には、モデルPPMにおけるフィン部10の断面2次モーメントIPPMは、IPPM1(=IPPM0)とIBXの和である。
そのため、モデルPPMにおけるアーム部A全体の断面2次モーメントIPPM-Tは、下記の式(45)で表される。
IPPM-T=I00M+IPPM1+IBX …(45)
IBXは、下記の式(46)で表される。
IBX=γ2×Sb+η2×Sf …(46)
上記式中の記号の意味は次のとおりである;γ:XbとXtの距離、η:XfとXtの距離、Sb:アーム本体の断面積、及びSf:フィンの断面積。
ここで示されるようにγ、ηの値が大きい方が、断面2次モーメントが大きくなり望ましい。
上記のとおり、アーム部A単体の断面2次モーメントI00Mは、全てのモデルPPM、PPM0、CCM1及びCCM2で共通する。そのため、以下では、そのI00Mを除くフィン部10の断面2次モーメントで比較を行う。
図24Bを参照して、モデルCCM1におけるフィン部10の断面2次モーメントICCM1は、下記の式(47)で表される。
ICCM1=1/12×B7×H73 …(47)
図25Bを参照して、モデルCCM2におけるフィン部10の断面2次モーメントICCM2は、下記の式(48)で表される。
ICCM2=1/12×[B8×(2×H4+H5)3+(B9-B8)×H53] …(48)
フィン部10を含むアーム部A全体の重量は、全てのモデルPPM、PPM0、CCM1及びCCM2で同じである。つまり、同一質量条件が満たされる。下記の式(49)で表される同一質量条件が満たされる。
2×H4×B5+H5×B6
=H7×B7
=2×H4×B8+H5×B9 …(49)
次に、例として、下記の(50)で表される具体的な寸法を上記の式に代入し、断面2次モーメントの大小関係を示す。
B0=100mm、H0=20mm、B5=20mm、B6=15mm、B9=20mm、H4=5mm、H5=5mm、及びH7=15mm …(50)
上記の式(49)に表される同一質量条件より、下記の(51)の寸法が算出される。
B7=18.3333mm、及びB8=17.5mm、 …(51)
となる。
上記の式(42)より、共通するアーム部A単体の断面2次モーメントI00Mは下記の式(52)で表される。
I00M=1.666667×106 …(52)
上記の式(43)、式(45)及び式(46)より、モデルPPMにおけるフィン部の断面2次モーメントIPPMは下記の式(53)で表される。
IPPM=7.083906×103 …(53)
上記の式(43)より、モデルPPM0におけるフィン部の断面2次モーメントIPPM0は下記の式(54)で表される。
IPPM0=5.572917×103 …(54)
上記の式(47)より、モデルCCM1におけるフィン部の断面2次モーメントICCM1は下記の式(55)で表される。
ICCM1=5.156250×103 …(55)
上記の式(48)より、モデルCCM2におけるフィン部の断面2次モーメントICCM2は下記の式(56)で表される。
ICCM2=4.947917×103 …(56)
したがって、上記の式(53)~式(56)より、下記の式(57)で表される断面2次モーメントの大小関係が導かれる。
ICCM2 < ICCM1 < IPPM0 < IPPM …(57)
上記の式(57)の関係から下記のことが示される。実施形態2に対応するモデルPPMの断面2次モーメントIPPMが最も大きい。モデルPPM0と比較して、フィン部が厚み方向で片寄ることによる効果が発現する。
図26は、モデルPPM、PPM0、CCM1及びCCM2における断面2次モーメントをまとめた図である。図26に示される結果から、上記した断面2次モーメントの大小関係は一目瞭然である。曲げ剛性の大小関係は断面2次モーメントの大小関係と一致する。
以上のように、フィン部の適切な形状を究明するため、ねじり剛性(極2次モーメント)と曲げ剛性(断面2次モーメント)を評価した。その結果、実施形態2に対応する、フィン部の側面に溝部が形成されたモデルPPT及びPPMでは、ねじり剛性及び曲げ剛性が最大である。
簡単化したモデルPPT及びPPMについて、さらに説明を加える。図19Aを参照して、モデルPPTでは、フィン部10に相当する扇形の部分(以下、「フィン部10」ともいう)がアーム部Aに設けられる。溝部12は、フィン部10に設けられる。溝部12は、ジャーナル部中心CPを通る境界線Syp(アーム部とウエイト部の境界)からアーム部側へ延びている。具体的には、溝部12は、ジャーナル部を中心とする見込み角ωが0°~45°の範囲内で、フィン部10の縁に沿って延びている。これは例であり、溝部12の見込み角ωが大きいほど効果が大きいため、溝部12の見込み角ωは大きいのが望ましい。フィン部10において、溝部12の前後外側の部分が極2次モーメントを大きくし、溝部12の肉抜きが軽量化に寄与している。
モデルPPTでは、フィン部10が境界線Syp上でウエイト部に接続していない。しかし、材料力学により、フィン部10のような付加物のねじり極2次モーメントの増加分は、ウエイト部に接続しても接続していなくても同じ数値になる。よって、モデルPPTは、フィン部10がウエイト部と接続したモデルと同等であり、アーム部Aを円形状に簡単化したあるモデルのねじり極2次モーメントを評価していると言える。
また、図23Aを参照して、モデルPPMでは、フィン部10に相当する部分(以下、「フィン部10」ともいう)がアーム部Aに設けられる。溝部12は、フィン部10に設けられる。溝部12は、ジャーナル部中心CMを通る境界線Sym(アーム部とウエイト部の境界)から上方のアーム部側へ延びている。具体的には、溝部12は、フィン部10の縁に沿って延びている。溝部12の上下方向に延びる長さLdが長いほど効果が大きいため、溝部12の長さLdは長いのが望ましい。上記のとおり、フィン部10において、溝部12の上下外側の部分が断面2次モーメントを大きくし、溝部12の肉抜きが軽量化に寄与している。
特に、図23Aを参照して、曲げの方向は、中心線Lzmに沿った方向、すなわち、フィン部10の縁に沿った方向と一致する。この曲げの方向にフィン部10の縁に相当する広幅部(溝部12の前後外側の部分)が連続して延びている。このことも断面2次モーメントの向上に重要である。図18Aに示される実施形態2でも、フィン部10における溝部12の前後外側の広幅部の延びる方向は曲げの方向と近い。
境界線Symから下方のウエイト部は示していない。しかしここでは、フィン部10は境界線Symにて全面固定の境界条件でウエイト部と接続している。この条件で、曲げの断面2次モーメントを評価している。したがって、モデルPPMはウエイト部に接続されているアーム部とフィン部を含むモデルを表現しており、アーム部Aを矩形状に簡単化したあるモデルの曲げの断面2次モーメントを評価していると言える。
モデルPPT及びPPMは実施形態2に対応する。したがって、実施形態2のアーム部及びウエイト部を有するクランク軸は、軽量化と高剛性化に優れる。
図18Aに示される実施形態2では、フィン部10の重心は、図7Aに示される従来フィン部10の重心Cfよりも、溝部12の存在効果でジャーナル部中心から遠方に位置している。その結果、実施形態2におけるウエイト部とフィン部の合計の重心位置は、図7Aに示される重心位置よりもジャーナル部中心から遠方に位置する。さらに実施形態2では、ウエイト部及びフィン部の合成された重心の角度θcfも大きくなり、重量バランス設計のための自由度が増加する。
なお、図19Bを参照して、フィン部10の外形が許容できる範囲内で質量が同一である場合、溝部12の深さ(B5-B6)が深いほど、フィン部10における溝部12の前後外側の広幅部の幅が広くなり、ねじり極2次モーメントが大きくなる。そのため、溝部12の深さ(B5-B6)は深いのが望ましい。
図23Bを参照して、溝部12の前後外側の2つの広幅部は、相互の幅(B5-B6)が同じで、相互の厚さH4が同じである。ただし、曲げ中心軸Xtから遠方に肉を配置するほうが断面2次モーメントを大きくできる。そのため、ピン部側(図23Bでは上側)の広幅部の幅や厚さを、ジャーナル部側(図23Bでは下側)の広幅部の幅や厚さよりも大きくすることが望ましい。
また、図19Aに示される角度ωに応じて、図19Bに示される断面の各種寸法が変化してもよい。図23Aに示される高さ(長さLd)に応じて、図23Bに示される断面の各種寸法が変化してもよい。例えば、実施形態2では、図18Aに示されるアーム部Aの断面高さの位置に応じて、図18Bに示される断面の各種寸法が変化してもよい。典型的には、図18Aに示されるアーム部Aの断面高さの位置が高くなるにつれて、図18Bに示されるアーム部Aの厚さt1が薄くなり、フィン部10の厚さt2も同様に薄くなって良い。また、溝部12の幅や深さも変化して良い。
図18Aに示される実施形態2では、フィン部10の外形を上向き凸型とし、また図19Aに示されるモデルPPTでも、フィン部10の外形を上向き凸型の円弧とした。ただし、図18Aに示されるフィン部10は、アーム部Aとウエイト部CをR形状でつないだような、下向き円弧形状でもよい。このような形状のフィン部の場合、アーム部とウエイト部との接続部が滑らかにつながることになり、応力集中を下げるメリットがある。
図18A及び図18Bに示される実施形態2において、溝部12の上端はフィン部10の高さに応じて設定される。例えば、溝部12の上端は、ピン中心軸の高さを超えても良いし、超えなくてもよい。溝部12の下端はウエイト部と接しても良いし、接しなくても良い。もっとも、上記のとおり、フィン部10内で、溝部12の見込み角ωは大きいのが望ましく、溝部12の長さLdは長いのが望ましい。
(5-3)フィン部が薄くて、フィン部のピン部側の表面がアーム部のピン部側の表面と同一平面上にあることの意義
図18A及び図18Bを参照して、上記(4-4)で述べたとおり、フィン部10の厚さt2は、アーム部Aの厚さt1より薄くても十分である。フィン部10の厚さを薄くするとき、フィン部10のピン部P側の表面10aをアーム部Aのピン部P側の表面Acと同一平面上にする一方、フィン部10のジャーナル部J側の表面10bとアーム部Aのジャーナル部J側の表面Adとの間に段差をつけるのがよい(図18B参照)。これにより、フィン部10の厚さはピン部P側に片寄る。
この場合、上記のとおり、曲げ中心のズレによる断面2次モーメントの増大効果IBXが生じる。したがって、フィン部10が薄くて、フィン部10のピン部P側の表面10aがアーム部Aのピン部側の表面Acと同一平面上にあることは、曲げ剛性の観点から技術的意義がある。上記した実施形態2のクランク軸の優位性を下記の表2に示す。
(6)実施形態3のクランク軸
図27A及び図27Bは、実施形態3のクランク軸の一例を示す模式図である。これらの図のうち、図27Aはアーム部及びウエイト部をクランク軸の軸方向に沿って見たときの正面図である。図27Bは図27Aの線XXVIIB-XXVIIBにおける断面図である。図27Bに示される断面は、アーム部Aの断面であって、アーム中心面Szと直交する断面(ジャーナル中心面Syと平行な断面)である。
図27A及び図27Bを参照して、実施形態3のクランク軸におけるアーム部A及びウエイト部Cは、実施形態1と同様に、フィン部10と、凹部11と、を備える。さらに、アーム部A及びウエイト部Cは、実施形態2と同様に、溝部12を備える。したがって、実施形態3のクランク軸は、実施形態1と実施形態2を相乗した効果を奏する。
その他、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることは言うまでもない。例えば、フィン部以外にアーム部の形状を変更してもよい。図28A及び図28Bに別の例を示す。
図28A及び図28Bは、本実施形態のクランク軸の別の例を示す模式図である。これらの図のうち、図28Aはアーム部及びウエイト部をクランク軸の軸方向に沿って見たときの正面図である。図28Bは図28Aの線XXVIIIB-XXVIIIBにおける断面図である。図28Bに示される断面は、アーム部Aの断面であって、アーム中心面Szと直交する断面(ジャーナル中心面Syと平行な断面)である。
図28A及び図28Bを参照して、この例のクランク軸におけるアーム部A及びウエイト部Cは、実施形態3と同様に、フィン部10と、凹部11と、溝部12と、を備える。さらに、このアーム部A及びウエイト部Cは、上記の凹部11とは異なる凹部14を備える。この凹部14は、アーム部Aのジャーナル部J側の表面Adに形成される。凹部14は、アーム部Aの縁に沿って延びる。凹部14が存在することによって、アーム部Aの厚さは、アーム部Aの縁の部分では厚く、凹部14の部分では薄く、アーム部Aの中央部分では厚くなる。この場合、剛性を維持しつつ、さらなる軽量化を実現できる。このような凹部14は、実施形態1及び実施形態2のクランク軸に適用してもよい。
以上、本実施形態により、ウエイト部の重心位置の設計許容範囲の拡大と同時に、アーム部の軽量化と高剛性化を、高度に達成するフィン部を備えたクランク軸を提供できる。
本実施形態のクランク軸の製造方法について特定はしない。クランク軸が一体ものでなく、組立品であっても良い。組立品の場合は組立の際の形状制約が少ない。そのため、製造が可能である。一体ものの場合は、鋳造型を用いた鋳造によって製造が可能である。また、型鍛造によって製造が可能である。型鍛造の場合、凹部は折り曲げ鍛造方法等で成形すればよく、溝部はその形状が反映された鍛造型を用いて成形すればよい。