本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。
<三相の回転電機について>
図1は、本実施形態に係る2相以上の回転電機1と、これを制御する回転電機の制御装置5とを示す図である。回転電機とは、電動機の動作と発電機の動作とを行う電磁機械である。回転電機1の制御装置(以下、適宜制御装置という)5は、回転電機1のシャフト1Sの回転速度及びトルクの少なくとも一方を制御するための制御信号を生成する。制御装置5は、例えば、生成した制御信号を駆動装置6に与えることにより、駆動装置6を介して回転電機1のシャフト1Sの回転を制御する。制御装置5は、例えば、マイクロコンピュータが用いられるが、これに限定されるものではない。制御装置5は、本実施形態に係る回転電機の制御方法を実行する。駆動装置6としては、例えば、複数のスイッチング素子を有する装置が用いられる。
図2は、本実施形態に係る回転電機1を示す正面図である。本実施形態において、回転電機1は、3相のSRM(Switched Reluctance Motor)であり、固定子の極数と回転子の極数との比は6:4であるが、相数及び極数は前述の値に限定されない。例えば回転電機1の相、すなわち固定子2の独立した巻線の数は2以上であればよく、3に限定されない。また例えば3相のSRMであれば、極数を6:4の整数倍等にしてもよい。
回転電機1は、固定子2と、回転子3と、巻線4と、回転角度センサ11とを有する。固定子2は、環状の構造体である。固定子2は、例えば、複数の電磁鋼板を積層したものである。固定子2は、内周面から径方向内側に向かって突出する複数のティース2Tを有する。本実施形態において、固定子2は、6個のティース2Tを備えるが、ティース2Tの数はこれに限定されるものではない。
回転子3は、固定子2の内周部に配置される。回転子3は、回転中心軸Zrを中心として固定子2の内周部で回転する。回転子3の回転方向は、例えば、図2の矢印Rで示す方向又は矢印Rとは反対方向である。本実施形態において、回転電機1はSRMなので、回転子3は、例えば、複数の電磁鋼板が回転中心軸Zrと平行な方向に積層された構造体である。回転子3は、外周面から径方向外側に向かって突出する複数のティース3Tを備える。本実施形態において、回転子3は、4個のティース3Tを備えるが、ティース3Tの数はこれに限定されるものではない。回転角度センサ11は、回転子3の回転角である機械角θmを計測し、図1に示される制御装置5へ出力する。図1に示される制御装置5は、回転角度センサ11によって検出された値を取得する。
巻線4は、固定子2が備えるそれぞれのティース2Tに巻き回された導線である。巻線4は、例えば、銅の導線である。巻線4は、図2の矢印Rに向かって、+A相、−B相、+C相、−A相、+B相、−C相の順、又は+A相、+B相、+C相、−A相、―B相、−C相の順に配置される。本実施形態はいずれの順番でも成立するので、前者を例として説明する。また、A相と、B相と、C相とにそれぞれ印加される回転電機1の電流Ic及び電圧Vは、それぞれ位相が120度ずれている。
以下において、それぞれの相を区別する場合、巻線4を、巻線4A+、4B−、4C+、4A−、4B+、4C−と記載し、固定子2のティース2Tを、ティース2TA+、2TB−、2TC+、2TA−、2TB+、2TC−と記載する。巻線4A+と巻線4A−とは、回転子3の回転角度で互いに180度異なる位置に配置され、巻線4B+と巻線4B−とは、回転子3の回転角度で互いに180度異なる位置に配置され、巻線4C+と巻線4C−とは、回転子3の回転角度で互いに180度異なる位置に配置される。
巻線4A+及び巻線4A−はA相であり、極性のみが異なる。これらの極性を区別しない場合は巻線4Aと称する。巻線4B+及び巻線4B−はB相であり、極性の区別のみが異なる。これらの極性を区別しない場合は巻線4Bと称する。巻線4C+及び巻線4C−はC相であり、極性の区別のみが異なる。これらの極性を区別しない場合は巻線4Cと称する。
図3は、本実施形態に係る駆動装置6の一例を示す図である。本実施形態において、駆動装置6は、電源9からの電力を回転電機1の巻線4A,4B,4Cに授受する。電源9は、直流電源である。駆動装置6は、A相の巻線4Aに電力を授受する第1駆動部7Aと、B相の巻線4Bに電力を授受する第2駆動部7Bと、C相の巻線4Cに電力を授受する第3駆動部7Cと、各巻線4A,4B,4Cに流れる電流を計測する電流センサ12A,12B,12Cと、電源9の電圧を計測する電圧センサ13とを有する。図1に示される制御装置5は、電流センサ12A,12B,12C及び電圧センサ13によって検出された値を取得する。第1駆動部7A、第2駆動部7B及び第3駆動部7Cは、いずれも複数のスイッチング素子を有する。本実施形態において、複数のスイッチング素子はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であるが、これに限定されず、例えばFET(Field Effect Transistor)であってもよい。
図1に示される制御装置5は、取得した回転角度センサ11によって検出された値、電流センサ12A,12B,12Cによって検出された値、又は電圧センサ13によって検出された値のうち少なくとも1つを用いて、回転電機1のシャフト1Sの回転速度及びトルクの少なくとも一方を制御するための制御信号を生成する。
第1駆動部7Aは、4個のスイッチング素子8Aa,8Ab,8Ac,8Adを有する。スイッチング素子8Aaのコレクタは電源9の正極と接続される。スイッチング素子8Aaのエミッタはスイッチング素子8Abのコレクタに接続されるとともに、巻線4Aの第1端に接続される。スイッチング素子8Abのエミッタは電源9の負極に接続される。スイッチング素子8Acのコレクタは電源9の正極と接続される。スイッチング素子8Acのエミッタはスイッチング素子8Adのコレクタに接続されるとともに、巻線4Aの第2端に接続される。スイッチング素子8Adのエミッタは電源9の負極に接続される。それぞれのスイッチング素子8Aa,8Ab,8Ac,8Adは、エミッタからコレクタに電流を流すようにダイオードが並列に接続される。本実施形態において、スイッチング素子8Ab及びスイッチング素子8Acは常時オフであり、並列のダイオードのみが使用される。
第2駆動部7Bは、4個のスイッチング素子8Ba,8Bb,8Bc,8Bdを有する。スイッチング素子8Baのコレクタは電源9の正極と接続される。スイッチング素子8Baのエミッタはスイッチング素子8Bbのコレクタに接続されるとともに、巻線4Bの第1端に接続される。スイッチング素子8Bbのエミッタは電源9の負極に接続される。スイッチング素子8Bcのコレクタは電源9の正極と接続される。スイッチング素子8Bcのエミッタはスイッチング素子8Bdのコレクタに接続されるとともに、巻線4Bの第2端に接続される。スイッチング素子8Bdのエミッタは電源9の負極に接続される。それぞれのスイッチング素子8Ba,8Bb,8Bc,8Bdは、エミッタからコレクタに電流を流すようにダイオードが並列に接続される。本実施形態において、スイッチング素子8Bb及びスイッチング素子8Bcは常時オフであり、並列のダイオードのみが使用される。
第3駆動部7Cは、4個のスイッチング素子8Ca,8Cb,8Cc,8Cdを有する。スイッチング素子8Caのコレクタは電源9の正極と接続される。スイッチング素子8Caのエミッタはスイッチング素子8Cbのコレクタに接続されるとともに、巻線4Cの第1端に接続される。スイッチング素子8Cbのエミッタは電源9の負極に接続される。スイッチング素子8Ccのコレクタは電源9の正極と接続される。スイッチング素子8Ccのエミッタはスイッチング素子8Cdのコレクタに接続されるとともに、巻線4Cの第2端に接続される。スイッチング素子8Cdのエミッタは電源9の負極に接続される。それぞれのスイッチング素子8Ca,8Cb,8Cc,8Cdは、エミッタからコレクタに電流を流すようにダイオードが並列に接続される。本実施形態において、スイッチング素子8Cb及びスイッチング素子8Ccは常時オフであり、並列のダイオードのみが使用される。
駆動装置6の第1駆動部7A、第2駆動部7B及び第3駆動部7Cは、図1に示される制御装置5の指令によってそれぞれのスイッチング素子をオン、オフさせることにより、それぞれの巻線4A,4B,4Cに順次電圧Vを印加する。この処理によって、駆動装置6は、巻線4A,4B,4Cの磁界を変化させ、回転子3のティース3Tを適切なタイミングで吸引することで、回転電機1を回転させる。
図4は、回転電機1の固定子2と回転子3との位置関係を示す図である。図4に示される例において、回転子3は、矢印Rで示される方向に、回転電機1とシャフト1Sを介して締結された内燃機関等によって、回転させられているものとする。このため、回転電機1が、矢印Rと同じ方向にトルクを発生する場合には動力を発生、すなわち力行する。また回転電機1が、矢印Rと反対方向にトルクを発生する場合には電力を発電、すなわち回生する。
電気角θeは、電流波形の1周期を360度とした回転角であり、機械角θmと回転子3の極数とで定義される。本実施形態において、回転電機1は回転子3の極数が4なので、電気角θeと機械角θmとの関係は、θe=4×θmとなる。本実施形態において、回転子3の1つのティース3Taと固定子2の1つのティース2Tとが対向する状態の電気角θeを0度とする。回転子3が回転して、回転子3のティース3Taと隣接する次のティース3Tbが固定子2のティース2Tに対向する状態の電気角θeを360度とする。
電気角θeが0度≦θe<360度の範囲において、回転子3のティース3Taに着目すると、ティース3Taがティース3Tbよりも固定子2のティース2Tに近い場合にティース2Tの巻線4に通電すると、回転電機1は電力を発電、すなわち回生する。これは電気角θeが0度<θe<180度の範囲である。回転子3のティース3Tbに着目すると、ティース3Tbがティース3Taよりも固定子2のティース2Tに近い場合にティース2Tの巻線4に通電すると、回転電機1は動力を発生、すなわち力行する。これは電気角θeが180度<θe<360度の範囲である。また電気角θeが0度と180度の場合には、巻線4に通電しても、トルクは発生しない。
図5−1、図5−2及び図6は、本実施形態に係る制御装置5の制御例を説明するための図である。図5−1、図5−2は、縦軸が巻線4を流れる電流Ic、横軸が電気角θeである。図5−1は回転電機1が回生している状態を表し、図5−2は回転電機1が力行している状態を表す。図6は、縦軸が鎖交磁束ψ、横軸が巻線4を流れる電流Icである。図5−1、図5−2及び図6は、回転電機1の1つの相の電流Ic及び鎖交磁束ψを示している。鎖交磁束ψは、巻線4への印加電圧を時間積分した値で表される。図6中の点線OPは固定子2のティース2Tと回転子3のティース3Tとが対向している状態(電気角θe=0度)であり、点線IMは回転子3のティース3Ta,3Tbの中間に固定子2のティース2Tがある状態(電気角θe=180度)である。電気角θe=180度は、非対向位置又は非対向状態である。以下の例も同様である。回転電機1が回生する場合、巻線4の鎖交磁束ψと巻線4を流れる電流Icによる軌跡は、図6の矢印Gで示す方向(図6において時計回り)に変化する。回転電機1が力行する場合、巻線4の鎖交磁束ψと巻線4を流れる電流Icによる軌跡は、図6の矢印Pで示す方向(図6において反時計回り)に変化する。スイッチトリラクタンスモータは、他種類のモータと比較して、鎖交磁束ψと電流との比率であるインダクタンスが大きく変動する。このため、本実施形態では、磁界を制御するためのスイッチングのタイミングを、電流ではなく、巻線4への印加電圧と印加時間とから決定することで、鎖交磁束ψを直接制御する。
図7から図9は、本実施形態に係る制御装置5の指令に基づいて動作する駆動装置6の動作を説明するための図である。図10は、トルクが発生しやすい回転角度の例とトルクが発生しにくい回転角度の例とを示す図である。図7から図9において、第1駆動部7A、第2駆動部7B及び第3駆動部7Cを区別しない場合、駆動部7と称し、それぞれのスイッチング素子は符号8a,8b,8c,8dで表す。
制御装置5は、電気角θeに基づいて回転電機1を制御する。回転電機1を制御するにあたり、第1期間Δθe1、第2期間Δθe2、第3期間Δθe3及び第4期間Δθe4を1周期、すなわち電気角θeで360度として、各期間に対応する電圧Vを、駆動装置6を介して各相の巻線4A,4B,4Cに印加する。制御装置5は、各相の巻線4A,4B,4Cに印加する電圧Vを、それぞれ電気角θeで360度を相数で除した値だけ、位相をずらして印加する。本実施形態では相数は3なので、位相を120度ずらして印加する。位相のずれと相数の積とは360度となるので、巻線4A,4B,4Cのそれぞれに印加される電流Icの1周期と一致する。
第1期間Δθe1は、各相に第1の電圧を印加して鎖交磁束ψを増加させる期間である。第2期間Δθe2は、第1期間Δθe1の後に、各相に0ボルトを印加して、鎖交磁束ψを保持する期間である。第3期間Δθe3は、第2期間Δθe2の後に、各相に第1の電圧とは反対方向に第2の電圧を印加して鎖交磁束ψを減少させる期間である。第4期間Δθe4は、第3期間Δθe3の後から次周期の第1期間Δθe1まで、各相に0ボルトを印加して、鎖交磁束ψを保持する期間である。本実施形態において、第4期間Δθe4は0であってもよい。また鎖交磁束ψは、第2期間Δθe2で最大となるので、第2期間Δθe2は、図10に示されるように、トルクが発生しやすい回転角度に設定することが望ましい。これは、図6において、第2期間Δθe2を、横方向に変化しやすい回転角度に設定することに相当する。
第1の電圧は、駆動装置6に供給される電源9の電圧であってもよいし、電源9の電圧が昇圧又は降圧された電圧であってもよい。第2の電圧は、第1の電圧とは極性が反対で絶対値が同じ電圧であり、巻線4A,4B,4Cに印加されたとき、極性が第1の電圧とは反対となる。本実施形態では、同じ周期における、第1の電圧の変動及び第2の電圧の変動は無視できるとして、同じ値として説明するが、第1の電圧の変動及び第2の電圧の変動が無視できない場合には、電圧の変動の大きさに応じて各期間の長さを微調整してもよい。
制御装置5は、第2期間Δθe2を、第1の値から、第2の値の間の値に制御する。すなわち、第2期間Δθe2は、第1の値以上かつ第2の値以下の値に設定される。第2の値は、第1の値よりも大きく、かつ巻線4A,4B,4Cに印加される電圧Vの1周期を回転電機1の相数で除した値である。本実施形態において、回転電機1は3相なので、第2の値は電気角で120度である。第1の値は第2の値の半分程度、例えば電気角で60度程度(本実施形態では60度)であるがこれに限定されず、回転電機1の仕様及び使用環境等によって変更される。
回転電機1の各相の巻線4A,4B,4Cに印加される電圧の1周期は、力行及び回生のいずれの場合においても、第1期間Δθe1,第2期間Δθe2、第3期間Δθe3、第4期間Δθe4の順で表される。
第1期間Δθe1では、図7に示されるように、駆動部7のスイッチング素子8a,8dをオン、スイッチング素子8b,8cをオフとすることで、電源9の電圧が巻線4に印加される。本実施形態においては、スイッチング素子8b及びスイッチング素子8cはすべての期間でオフであり、並列のダイオードのみが使用される。このとき、巻線4のスイッチング素子8a側には電源9の正極の電圧(+)が印加され、巻線4のスイッチング素子8d側には電源9の負極の電圧(−)が印加される。巻線4に電源9の電圧が印加されることにより、図6に示されるように巻線4の鎖交磁束ψが増加して(励磁)、図5−1及び図5−2に示されるように巻線4の電流Icが増加する。
第2期間Δθe2では、図8に示されるように、第1期間Δθe1の状態から駆動部7のスイッチング素子8a,8dのいずれか一方のみをオフすることで、駆動部7のスイッチング素子8a,8cに並列なダイオードがオン、又はスイッチング素子8d,8bに並列なダイオードがオンとなることで、巻線4の両端の電圧が等しくなる。その結果、巻線4には0ボルトが印加される。
巻線4の印加電圧が0ボルトの場合には、鎖交磁束ψの大きさが変化しないので、第1期間Δθe1の最後の鎖交磁束ψの値が維持される。この状態を還流という。第2期間Δθe2の鎖交磁束ψを図6に示すと、縦軸が一定値の直線となる。また図6の横軸が電流Icであることから、軌跡が矢印Gの方向(図6において時計回り)となる回生では、電気角θeの増加とともに、直線部分である第2期間Δθe2の電流Icが図5−1に示されるように増加する。同様に軌跡が矢印Pの方向(図6において反時計回り)となる力行では、電気角θeの増加とともに、直線部分である第2期間Δθe2の電流Icが図5−2に示されるように減少する。
第3期間Δθe3では、図9に示されるように、第2期間Δθe2の状態から駆動部7のスイッチング素子8a,8dの両方をオフとすることで、駆動部7のスイッチング素子8bに並列なダイオードと、スイッチング素子8cに並列なダイオードがオンとなることにより、電源9の電圧が巻線4に印加される。このとき、巻線4のスイッチング素子8c側には電源9の正極の電圧(+)が印加され、巻線4のスイッチング素子8b側には電源9の負極の電圧(−)が印加される。すなわち、巻線4に印加される電圧の極性は、第1期間Δθe1とは反対になる。巻線4に電源9の電圧が反対方向に印加されることで、図6に示されるように巻線4の鎖交磁束ψが減少して(消磁)、図5−1及び図5−2に示されるように巻線4の電流Icが減少する。
第4期間Δθe4は、第3期間Δθe3の最後における鎖交磁束ψの値によって、スイッチング素子8a,8b,8c,8d、及びそれぞれに並列なダイオードが異なる状態となるが、いずれの場合でも巻線4の両端には0ボルトが印加される。このため第2期間Δθe2と同様に、鎖交磁束ψの値は変化しない。まず第3期間Δθe3の最後に鎖交磁束ψが0、つまり電流Icが0となった場合には、ダイオードが自動的にオフとなり、第4期間Δθe4に切り替わる。この場合にはすべてのスイッチング素子8a,8b,8c,8dと、それぞれに並列なダイオードがオフなので、巻線4の両端には電圧が印加されず0ボルトとなる。第3期間Δθe3の最後に鎖交磁束ψが残留しており、電流Icが流れている場合には、スイッチング素子8a,8dのいずれか片方をオンにすることで、第4期間Δθe4に切り替わる。この場合には第2期間Δθe2と同様に、図8に示される状態となるので、巻線4の両端電圧が等しくなり、0ボルトが印加される。本実施形態において、第4期間Δθe4は0であってもよい。
本実施形態において、制御装置5は、第1期間Δθe1中に駆動装置6のスイッチング素子を動作させた後は、第1期間Δθe1の終了時までは駆動装置6のスイッチング素子のオンオフ状態を変化させない。制御装置5は、第2期間Δθe2の開始時に駆動装置6のスイッチング素子を動作させ後は、第2期間Δθe2の終了時までは駆動装置6のスイッチング素子のオンオフ状態を変化させない。制御装置5は、第3期間Δθe3の開始時に駆動装置6のスイッチング素子を動作させた後は、第3期間Δθe3の終了時、又は第4期間Δθe4が0である場合は第1期間Δθe1の開始前の所定期間前まで、駆動装置6のスイッチング素子のオンオフ状態を変化させない。制御装置5は、第4期間Δθe4の開始時に駆動装置6のスイッチング素子を動作させた後は、第4期間Δθe4の終了時までは駆動装置6のスイッチング素子のオンオフ状態を変化させない。
本実施形態において、第2期間Δθe2を設けることで、この期間の鎖交磁束ψは一定になる。また、巻線4に印加される電圧の1周期において、第2期間Δθe2の鎖交磁束ψが最大値になる。制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、第2期間Δθe2にも巻線4に電圧を印加する制御、例えば巻線4を流れる電流Icが矩形波となる場合と比較して、各相の巻線4A,4B,4Cに発生する鎖交磁束ψの最大値を小さくすることができるとともに、鎖交磁束ψの変化量も小さくすることができる。鎖交磁束ψを巻線4のターン数で除した値は磁束なので、制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、第2期間Δθe2にも巻線4に電圧を印加する制御、及び第2期間Δθe2に最小値が規定されていない制御と比較して、磁束の最大値も小さく、変化量も小さい。このように、制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、第2期間Δθe2にも巻線4に電圧を印加する制御、及び第2期間Δθe2に最小値が規定されていない制御と比較して磁束の変化量が小さいので、鉄損が小さく回転電機1の効率の低下を抑制することができる。
回転電機1の騒音の起振力は、各ティースにおける電磁力の半径方向成分の脈動であり、これを起振力Frとする。各ティースにおける起振力Frの瞬時値は、対向状態では公知の式(1)となる。また式(1)を変形すると、式(2)となる。
Fr=(B2×A)/(2×μ)・・・(1)
Fr=ψ2/(2×μ×N2×A)・・(2)
式(1)及び式(2)において、Bは磁束密度、μは真空の透磁率、Nは巻線4の極対のターン数、Aは固定子2のティース2Tの断面積である。固定子2及び回転子3のティースが重ならない非対向付近においては、起振力Frがほとんど発生しない。対向状態から非対向付近までの区間では、ティースが重なる面積が減少すると電磁力の大きさは増加するが、電磁力が半径方向から接線方向に近づくことで、近似的には式(2)が成立する。
式(2)から分かるように、各ティースにおける起振力Frの脈動における最大値は、非対向付近を除いた、各相における鎖交磁束ψの最大値の2乗に比例すると近似できる。起振力Frは非対向付近において、ほぼ発生しないので、脈動の最小値は0と近似できる。制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、第2期間Δθe2にも巻線4に電圧を印加する制御、及び第2期間Δθe2に最小値が規定されていない制御と比較して、鎖交磁束ψの最大値が小さいので、起振力Frの脈動が小さくなるので、各ティースにおける騒音及び振動が抑制される。
図11は、巻線4を流れる電流Icが矩形波となる制御におけるA相、B相及びC相の起振力Frの一例を示す図である。図11は、比較例を示す。図12は、制御装置5による本実施形態の回転電機の制御方法におけるA相、B相及びC相の起振力Frの一例を示す図である。Δθetは起振力Frの1周期である。図11は、本実施形態よりも回転電機の極数が多く、各相の起振力Frが同じ箇所に集中するとみなせる場合に、巻線4を流れる電流Icが矩形波となる制御におけるA相、B相及びC相における起振力Frの合力の一例を示している。図12は同様に、制御装置5による本実施形態の回転電機の制御方法におけるA相、B相及びC相における起振力Frの合力の一例を示している。図11に示される場合、A相、B相及びC相における起振力Frの合力は脈動が大きい。また高周波成分が多いので、機械的な共振が問題となりやすい。これに対して図12に示される、制御装置5による本実施形態の回転電機の制御方法におけるA相、B相及びC相における起振力Frの合力は脈動が小さいので、騒音及び振動が抑制される。また高周波成分が少ないので、機械的な共振が問題となりにくい。よって、制御装置5による本実施形態の回転電機の制御方法は、回転電機の極数が少なく、起振力Frが各相で独立に近い場合と、回転電機1の極数が多く、起振力Frが各相の合力に近い場合の両方とで、騒音及び振動が抑制される。
回転電機1の固定子2のコア及び回転子3のコアの断面積は、少なくとも最大磁束が通過できる大きさが必要である。制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、第2期間Δθe2にも巻線4に電圧を印加する制御、及び第2期間Δθe2に最小値が規定されていない制御と比較して最大磁束が小さいので、固定子2のコア及び回転子3のコアを小型化できる。
回転電機1の平均トルクは図6に示される鎖交磁束ψと巻線4に流れる電流Icによる軌跡で囲まれる面積(図6に示される例では実線RTで囲まれた領域、以下ψIc面積と称する)に比例する。ψIc面積の高さは、図6に示されるように、印加電圧及び第1期間Δθe1に比例するので、印加電圧又は第1期間Δθe1を増加させることで、平均トルクを増加させることができる。制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、実線RTで囲まれた領域が、鎖交磁束ψが小さい領域から充填するように巻線4に電流Icを流すことで、ψIc面積、すなわち平均トルクあたりの鎖交磁束ψの変化量を、大幅に低減させることが可能である。
制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、巻線4に印加する電圧Vの1周期において、第4期間Δθe4でスイッチング素子8a,8dのいずれもオンさせない場合には、スイッチング素子8a,8dのオン、オフは各1回のみである。また第4期間Δθe4でスイッチング素子8a,8dのいずれかをオンさせる場合でも、次周期の第1期間Δθe1でスイッチング素子8a,8dのいずれかをオンさせる回数が減少するので、スイッチング素子8a,8dのオン、オフは各1回のままであるとみなせる。このため、制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、駆動装置6のスイッチング損失を最小値に近づけることが可能なので、駆動装置6を高効率に制御できる。また、スイッチングに伴う磁束変動やψIc面積の減少も除去できるため、回転電機1の鉄損をさらに低減可能である。
第1期間Δθe1を長くすることにより、第2期間Δθe2における鎖交磁束ψが増加するので、回転電機1が発生するトルクが大きくなる。このため、第2期間Δθe2を設定した場合でも、トルクを大きくするために第1期間Δθe1を長くし過ぎると、第2期間Δθe2が短くなる。すなわち、巻線4に印加する電圧Vの1周期において、環流の期間が短くなるため、鎖交磁束ψが一定の期間が短くなる。その結果、磁束が変化しない期間が減少して回転電機1の鉄損が増加する。また最大磁束が増加するので、固定子2のコア及び回転子3のコアが大きくなる。このため、本実施形態では、第2期間Δθe2に最小値を設けることにより、高トルク時においても環流の期間及び鎖交磁束ψが一定となる期間を確保して、回転電機1の鉄損の増加を抑制する。
スイッチトリラクタンスモータについては、先行技術として多くの電流波形が提案されているが、複雑な電流波形を生成する場合には、直流電源の電圧及びスイッチング周波数を充分に高く設定する必要がある。また、すべての回転速度及びトルクにおいて、電流波形を確実に生成できることを確認するためには、多大な労力を必要とする。本実施形態は、すべての回転速度及びトルクにおいて、簡易な制御ロジックのみで、駆動条件の範囲内で実現可能な高効率かつ低騒音な電流波形を、確実に生成できる。また、本実施形態は、直流電源の電圧が変動した場合においても、各期間で印加する電圧と印加時間の積を変動前と同程度とするように、各期間の長さを調整することで、容易に補正が可能である。
図13は、本実施形態に係る制御装置5が回転電機1を制御したときの各相を流れる電流Icの一例を示す図である。制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法では、第1期間Δθe1と第2期間Δθe2との和Δθetが第2の値、本実施形態では巻線4に印加する電圧Vの1周期を回転電機1の相数で除した値とすることが好ましい。回転電機1が3相である場合、第1期間Δθe1と第2期間Δθe2との和であるΔθetは、電気角で120度となる。本実施形態において、第1期間Δθe1は励磁の期間であり、第2期間Δθe2は環流の期間なので、励磁の期間と環流の期間との和Δθetが、巻線4に印加する電圧Vの1周期を回転電機1の相数で除した値になる。
3相の回転電機1においては、A相とB相とC相との位相が電気角で120度ずれている。第1期間Δθe1と第2期間Δθe2との和Δθetが、巻線4に印加する電圧Vの1周期を回転電機1の相数で除した値となることで、A相の第3期間Δθe3とB相の第1期間Δθe1とが重なり、B相の第3期間Δθe3とC相の第1期間Δθe1とが重なり、C相の第3期間Δθe3とA相の第1期間Δθe1とが重なる。すなわち、A相の消磁のタイミングとB相の励磁のタイミングとが重なり、B相の消磁のタイミングとC相の励磁のタイミングとが重なり、C相の消磁のタイミングとA相の励磁のタイミングとが重なる。このようにすると、回転電機1全体の磁束の合計が一定となる。鉄損は磁束変化によって発生するので、回転電機1全体の磁束の合計を一定とすることで、各相の磁束変化の一部が回転子3及び固定子2で打ち消し合い、その結果、回転電機1の鉄損は低減される。
第1期間Δθe1と第2期間Δθe2との和Δθetが、巻線4に印加する電圧Vの1周期を回転電機1の相数で除した値に定められている場合、第1期間Δθe1を長くすると相対的に第2期間Δθe2は短くなる。このため、前述したように、第2期間Δθe2に最小値を設けることにより、環流の期間及び鎖交磁束ψが一定となる期間を確保して、回転電機1の鉄損の増加及び騒音の増加を抑制できる。
第1期間Δθe1と第2期間Δθe2との和Δθetを、巻線4に印加する電圧Vの1周期を回転電機1の相数で除した値とする場合、理想的には励磁と消磁とが完全に重なる。実際には巻線4の抵抗等によって、励磁のタイミングと消磁のタイミングとには僅かに誤差が発生する可能性がある。このため、制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、前述した誤差を考慮して、第1期間Δθe1と第2期間Δθe2との和Δθetを微調整してもよい。
回転電機1のトルクを増加させるために第1期間Δθe1を長くしていくと、第1期間Δθe1と第2期間Δθe2との和Δθetが第2の値を超過する。この場合には第2期間Δθe2を最小値に固定した状態で、第1期間Δθe1を次第に長くしてトルクを増加させることが好ましい。この場合には、Δθetが第2の値を超過した時点で、鎖交磁束ψが既に大きな値となっている。このため励磁と消磁とが完全に重ならないことによる鎖交磁束ψの影響が、相対的には小さくなり、回転電機1の鉄損の増加や騒音の増加を抑制する効果が得られる。
図14及び図15は、第4期間Δθe4が0となる連続通電時において、巻線4を流れる電流Icと電気角θeとの関係を示した図である。図16及び図17は、第4期間Δθe4が0となる連続通電時において、巻線4を流れる電流Icと鎖交磁束ψとの関係を示した図である。図14及び図16は、次周期の第1期間Δθe1の開始時における鎖交磁束ψを増加させており、回転電機1のトルクを増加させることができる。図15及び図17は、次周期の第1期間Δθe1の開始時における鎖交磁束ψを減少させており、回転電機1の増加させたトルクを元に戻すことができる。
巻線4に印加する電圧Vの1周期のうち、第1期間Δθe1の開始時における鎖交磁束ψが0よりも大きくなる場合には、電流Icが途絶えずに流れ続ける。これを連続通電と称する。このとき、第4期間Δθe4は図14及び図15に示されるように0でもよい。
各相の巻線4A,4B,4Cが前述の連続通電となっている状態の制御において、制御装置5は、第3期間Δθe3から第4期間Δθe4への切り替えを、それまでよりも、例えば前回の制御周期よりも早めることで、次周期の第1期間Δθe1の開始時における鎖交磁束ψを増加できる。また第4期間Δθe4が0の場合には、第3期間Δθe3の最後を第4期間Δθe4に変更することで、同様に次周期の第1期間Δθe1の開始時における鎖交磁束ψを増加できる。例として、図14に示される期間Δθeuの間を第4期間Δθe4に変更することで、図16に示されるように鎖交磁束ψが増加する方向(矢印Uで示される方向)に移動し、巻線4の鎖交磁束ψと巻線4を流れる電流Icとの関係も、全体として増加する方向に移動する(図14の実線から一点鎖線への移動)。その結果、ψIc面積が大きくなる。前述したように、回転電機1のトルクはψIc面積によって決まるので、制御装置5は、第3期間Δθe3と第4期間Δθe4の切り替えを早める、又は第3期間Δθe3の最後を第4期間Δθe4に変更することで回転電機1のトルクを増加させることができる。
各相の巻線4A,4B,4Cが前述の連続通電となっている状態の制御において、前述したように鎖交磁束ψが増加されている場合に、第4期間Δθe4から次周期の第1期間Δθe1への切り替えを、それまでよりも、例えば前回の制御周期よりも遅延させることで、次周期において鎖交磁束ψの増加を元に戻すことができる。また、第4期間Δθe4が0の場合には、次周期の第1期間Δθe1の最初を第4期間Δθe4に変更することで、次周期において鎖交磁束ψの増加を元に戻すことができる。例として、図15に示される期間Δθedの間、第1期間Δθe1を第4期間Δθe4に変更することで、図17に示されるように鎖交磁束ψが減少する方向(矢印Dで示される方向)に移動し、巻線4の鎖交磁束ψと巻線4を流れる電流Icとの関係も、全体として減少する方向に移動する(図15の一点鎖線から実線への移動)。その結果、増加していたψIc面積が小さくなる。制御装置5は、第4期間Δθe4と次周期の第1期間Δθe1との期間の切り替えを、それまでよりも、例えば前回の制御周期よりも遅延させる、又は第4期間Δθe4が0の場合には、次周期の第1期間Δθe1の最初を第4期間Δθe4に変更することで、増加させていた回転電機1のトルクを減少させることができる。
本実施形態では各相の巻線4A,4B,4Cのすべてを同様に連続通電としたが、本実施形態は全相を同様に連続通電とする場合に限定されない。例えば、巻線4Aのみを連続通電としてもよいし、各相で鎖交磁束ψの増加量が異なってもよい。
制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、励磁の開始前又は消磁の最後のみを変化させるので、回転電機1のトルクを決定するψIc面積の変化が鎖交磁束ψ及び電流Icがともに0の付近の小さな領域のみとすることができる。その結果、制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、連続通電を実行しても回転電機1のトルクの誤差を小さくすることができる。また、制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、励磁の開始前又は消磁の最後で巻線4に印加する電圧を0として巻線4に環流を発生させる部分を除けば、巻線4に印加する電圧の指令値は変化しない。このため、制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、連続通電において、簡易な制御ロジックで確実にトルクを調整することができる。さらに、鎖交磁束ψを調整する量は、巻線4に印加する電圧と期間Δθeu,Δθed、すなわち還流させる期間の変化量との積となるので、制御における計算が容易になるという利点もある。さらに、制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、連続通電においても回転電機1の磁束変化を小さくでき、かつ駆動装置6のスイッチング回数を少なくすることができるので、回転電機1及び駆動装置6の効率低下を抑制し、かつ回転電機1の騒音及び振動を抑制できる。
制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、鎖交磁束ψを1回で調整してもよいし、複数回に分けて調整してもよい。巻線4の抵抗等によって、巻線4を流れる実際の電流Icと、電流Icの指令値とは僅かに異なる可能性がある。このため、制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、実測した電流Icと電流Icの指令値との差が0になるように、電流Icの指令値をフィードバック制御することで、巻線4を流れる実際の電流Icと電流Icの指令値との差が0になるようにしてもよい。
図18は、回転電機1の1つの相における巻線4を流れる電流Icと電気角θeとの関係を示す図である。図19は、回転電機1のA相、B相、C相の巻線4を流れる電流Icと電気角θeとの関係を示す図である。図20は、回転電機1の回転速度を一定としてトルクを変化させたときの結果の一例を、還流の中点における鎖交磁束ψと巻線4を流れる電流Icとの関係で表した図である。
本実施形態において、制御装置5及び本実施形態の回転電機の制御方法は、回転電機1の回転速度及びトルクの少なくとも一方を変更する場合、第2期間Δθe2の中点Δθe2cの単位トルクあたりの変化量及び単位回転速度あたりの変化量に制限を設ける。第2期間Δθe2の中点Δθe2cは、図18に示されるように、第2期間Δθe2の開始時点の角度θesと、第2期間Δθe2の終了時点の角度θefとの中間の角度である。中点Δθe2cは、(θes+θef)/2で求めることができる。角度θes,θefは、第2期間Δθe2を決定するための指令値なので、制御装置5は、第2期間Δθe2の中点Δθe2cを簡易に求めることができる。
本実施形態において、制御装置5は、第2期間Δθe2の中点Δθe2cの単位トルクあたりの変化量を、例えば1度/Nmとしたり、単位回転速度あたりの変化量を、例えば0.1度/rpm(revolution per minute)としたりすることができる。単位トルクあたりの変化量及び単位回転速度あたりの変化量は、この例に限定されない。制御装置5は、回転電機1の回転速度及びトルクの少なくとも一方を変更する場合、第2期間Δθe2の中点Δθe2cの単位トルクあたりの変化量を前述した変化量以下とすることにより、第2期間Δθe2の中点Δθe2cの単位トルクあたりの変化量に制限を設ける。
このようにすることで、第2期間Δθe2の中点Δθe2cは、回転電機1の回転速度及びトルクの少なくとも一方が変化した場合に、急変が抑制される。その結果、回転電機1の回転速度及びトルクの少なくとも一方が変化した場合でも、巻線4の励磁の期間と消磁の期間とが安定して一定量重複するので、回転電機1の効率低下及び騒音が抑制され、結果として回転電機1は高効率かつ低騒音となる。また、制御装置5は、中点Δθe2cを基準にすることにより、第2期間Δθe2の長さが変化しても、巻線4の励磁の期間と消磁の期間とを一定量重複させて、回転電機1の効率低下及び騒音が抑制されるので、結果として回転電機1は高効率かつ低騒音となる。
本実施形態において、制御装置5は、A相、B相及びC相の第2期間Δθe2_A,Δθe2_B,Δθe2_Cの中点Δθe2c_A,Δθe2c_B,Δθe2c_Cの単位トルクあたりの変化量及び単位回転速度あたりの変化量に制限を設ける。すると、回転電機1の回転速度及びトルクの少なくとも一方が変化した場合に、期間θeAと期間θeBとの差の急変が抑制される。期間θeAは、A相の第2期間Δθe2_Aの中点Δθe2c_AとB相の第2期間Δθe2_Bの中点Δθe2c_Bとの間の期間であり、θeBは、B相の第2期間Δθe2_Bの中点Δθe2c_BとC相の第2期間Δθe2_Cの中点Δθe2c_Cとの間の期間である。
その結果、回転電機1が定常状態である場合に限らず、回転電機1が過渡応答時である場合においても、巻線4の励磁の期間と消磁の期間とを安定して重ねることができる。その結果、回転電機1全体の磁束変動が抑制されるので、回転電機1の効率低下及び騒音が抑制され、結果として回転電機1は高効率かつ低騒音となる。
図20に示されるように、回転電機1が同じ回転速度の状態でトルクが変化すると、第2期間Δθe2の中点Δθe2cを示すT1,T2,T3,T4は、単調増加の曲線CV上にプロットされる。T1のトルク<T2のトルク<T3のトルク<T4のトルクである。回転速度が変化した場合、制御装置5は、第2期間Δθe2の中点Δθe2cを変化させなくてもよいし、変化させてもよい。例えば、制御装置5は、第2期間Δθe2の中点Δθe2cを固定又は単位トルクあたりの変化量及び単位回転速度あたりの変化量に制限を設けて、第2期間Δθe2のみを変化させてもよい。
本実施形態に係る回転電機の制御方法及びこれを実現する回転電機の制御装置の例を説明したが、本実施形態ではスイッチング素子の最大電流定格は充分に大きい場合について説明した。本実施形態に係る回転電機の制御方法等の適用対象は、スイッチング素子の最大電流定格が充分に大きい場合に限定されない。図6に示されるように、本実施形態における最大電流は、第2期間Δθe2の鎖交磁束ψが一定となる直線部の右端で発生する。このため、スイッチング素子の最大電流定格が不足した場合に、例えば第2期間Δθe2の鎖交磁束ψが一定となる直線部の右端でスイッチングを追加することで、最大電流をスイッチング素子の定格以内に保持してもよい。この場合、図6の直線部の右端における、微小な領域のみが変化するため、回転電機1は前述のように高効率かつ低騒音な制御を維持できる。
<作業機械に対する適用例>
図21は、本実施形態に係る回転電機の制御方法を実現する回転電機の制御装置を備えた作業機械の一例を示す図である。次においては、作業機械として、ハイブリッド油圧ショベル10を例として説明するが、本実施形態に係る回転電機の制御方法及びこれを実現する制御装置5の適用対象は、ハイブリッド油圧ショベル10に限定されるものではなく、ハイブリッドホイールローダー又は電気式ダンプトラック等であってもよい。
ハイブリッド油圧ショベル10は、駆動源としてのエンジン17、油圧ポンプ18及び回転電機1を有する。回転電機1は、発電機及び電動機として機能する。回転電機1は、SRMである。エンジン17としてディーゼルエンジンが用いられ、油圧ポンプ18として可変容量型油圧ポンプが用いられる。エンジン17の駆動軸20には、油圧ポンプ18及び回転電機1が機械的に連結されており、エンジン17が回転することで、油圧ポンプ18及び回転電機1が回転する。
ハイブリッド油圧ショベル10の油圧駆動系は、操作弁33、ブーム用油圧シリンダ14、アーム用油圧シリンダ15、バケット用油圧シリンダ16、右走行用油圧モータ34及び左走行用油圧モータ35等を有している。油圧ポンプ18は、油圧駆動系への作動油供給源となってこれらの油圧機器を駆動する。
電気駆動系は、第1駆動装置21と、第2駆動装置22と、昇圧器26と、蓄電装置25と、旋回モータ23等とを含む。第1駆動装置21は、回転電機1にパワーケーブルを介して接続される。第2駆動装置22は、第1駆動装置21にバスバー等の大電流用配線を介して接続される。昇圧器26は、第1駆動装置21と第2駆動装置22との間に、バスバー等の大電流用配線を介して設けられる。蓄電装置25は、昇圧器26に接続される。旋回モータ23は、第2駆動装置22にパワーケーブルを介して接続される。本実施形態において、第1駆動装置21及び第2駆動装置22は、例えば、インバータ内部の構成部品として設置される。
旋回モータ23は、機械的にスイングマシナリ24に連結している。回転電機1が発電した電力及び蓄電装置25に蓄えられた電力の少なくとも一方が旋回モータ23を駆動させる電力となる。旋回モータ23は、回転電機1と蓄電装置25との少なくとも一方から供給される電力で駆動されて力行動作することで上部旋回体28を旋回させる。また、旋回モータ23は、上部旋回体28が旋回減速する際に回生動作し、その回生動作により発電された電力(回生エネルギ)を蓄電装置25に供給(充電)、又は回転電機1を電動機として使用する場合の電力として供給する。
回転電機1は、エンジン17によって駆動されて発電した電力を蓄電装置25に供給(充電)するとともに、状況に応じて旋回モータ23に電力を供給する。回転電機1は、エンジン17の出力が不足する場合は電動機として機能し、エンジン17の出力をアシストする。本実施形態において、回転電機1はSRMである。回転電機1は、シャフトがエンジン17の駆動軸20に機械的に結合されている。このような構造により、回転電機1は、エンジン17の駆動によって回転電機1の回転子3が回転し、発電、又はアシストする。
昇圧器26は、回転電機1及び旋回モータ23と蓄電装置25との間に設けられる。昇圧器26は、第1駆動装置21又は第2駆動装置22を介して回転電機1又は旋回モータ23に供給される電力(蓄電装置25に蓄えられた電気エネルギ)の電圧を昇降圧する。昇降圧された電圧は、旋回モータ23を力行動作(旋回加速)させる際には旋回モータ23に印加され、エンジン17の出力をアシストする際には回転電機1へ印加される。
回転電機1及び旋回モータ23は、ハイブリッドコントローラC2による制御のもと、それぞれ第1駆動装置21及び第2駆動装置22によって回転速度又はトルクが制御される。ハイブリッドコントローラC2は、本実施形態に係る回転電機の制御方法を実行して、回転電機1を制御する。このように、ハイブリッドコントローラC2は、本実施形態に係る回転電機の制御装置として機能する。ハイブリッドコントローラC2は、回転電機1のみならず、任意の機器を併せて制御してもよい。
ハイブリッドコントローラC2は、蓄電装置25の充電量(蓄電装置25の電圧等)を監視して、回転電機1が発電する電力を蓄電装置25へ供給(充電)するか、旋回モータ23へ供給(力行作用のための電力供給)するかといったエネルギマネージメントを実行する。
蓄電装置25は、前述したように、回転電機1が発電した電力を蓄電する。また、蓄電装置25は、上部旋回体28が旋回減速する際に旋回モータ23が回生動作することによって発電された電力を蓄電する。さらに、旋回モータ23としては、例えば、永久磁石式同期回転電機が用いられるが、これに限定されるものではない。例えば、旋回モータ23にもSRMを用いてもよい。
コントローラC1は、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置及びメモリ(記憶装置)を組み合わせたものであり、例えば、マイクロコンピュータである。コントローラC1は、エンジン17及び油圧ポンプ18を制御する。エンジン17は、コントローラC1によって燃料噴射量が適切に制御されることで、目標とするエンジン出力を得ることが可能である。すなわち、コントローラC1は、ハイブリッド油圧ショベル10の負荷状態に応じて、エンジン17の回転速度及び出力可能なトルクを設定して、エンジン17を駆動する。
ハイブリッドコントローラC2は、CPU等の演算装置及びメモリ(記憶装置)を組み合わせたものであり、例えば、マイクロコンピュータである。ハイブリッドコントローラC2は、コントローラC1との協調制御のもと、前述したように第1駆動装置21、第2駆動装置22及び昇圧器26を制御して、回転電機1、旋回モータ23及び蓄電装置25の電力の授受を制御する。ハイブリッドコントローラC2は、本実施形態に係る回転電機の制御方法の処理手順をマイクロコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムを記憶装置に記憶している。ハイブリッドコントローラC2は、本実施形態に係る回転電機の制御方法を実行する場合、前述したコンピュータプログラムを記憶装置から読み出し、これに記述されている命令を実行することにより、本実施形態に係る回転電機の制御方法によって回転電機1を制御する。
ハイブリッド油圧ショベル10は、本実施形態に係る回転電機の制御装置として機能するハイブリッドコントローラC2を有するので、回転電機1の効率低下及び騒音を抑制できるので、結果として回転電機を高効率かつ低騒音で制御できる。回転電機1、エンジン17及び油圧ポンプ18は、ハイブリッド油圧ショベル10の車体内に搭載されるが、車体内のスペースには限りがあるため、回転電機1の大きさは極力小さい方が好ましい。本実施形態に係る回転電機の制御装置によって制御される回転電機1は、前述したように固定子2のコア及び回転子3のコアが小型化できるので、回転電機1も小型化できる。このため、本実施形態に係る回転電機の制御装置及びこれによって制御される回転電機1は、ハイブリッド油圧ショベル10に好適である。
本実施形態に係る回転電機の制御方法及びこれを実現する回転電機の制御装置を作業機械に適用した例を説明したが、本実施形態に係る回転電機の制御方法等の適用対象はこれに限定されない。本実施形態に係る回転電機の制御方法等は、例えば、電動自動車等の電動車両の走行用回転電機又は圧縮機若しくはポンプの駆動用回転電機等に適用されてもよい。
以上、本実施形態を説明したが、前述した内容により本実施形態が限定されるものではない。本実施形態の構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、本実施形態の構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、本実施形態の要旨を逸脱しない範囲で本実施形態の構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。