以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。また、図面において同一の構成要素は、同じ番号を付し、説明は、適宜省略する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る無線測位システムの全体構成を模式的に示す図である。以下では図1を参照し、無線測位システムの概要について説明する。
図1の無線測位システムは、基地局1a、1b、1cと、端末2と、本実施形態に係る位置推定装置である測位サーバ3とを備える。基地局1a、1b、1cは測位サーバとネットワーク5により接続されている。ネットワーク5は、データの送信が可能な電気的な媒体であればよく、有線LAN(Local Area Network)でも、無線LANでも、その他のインタフェースでも、それらの組み合わせでもよい。図1には3つの基地局が示されているが、これより多くの基地局が設置されていてもよい。また、図1に示されている端末は1台だが、端末の数は2台以上であってもよい。測位サーバは1台のみ図示されているが、複数台用意し、負荷分散や可用性の向上を図ることもできる。
基地局1a、1b、1cは、一例としてIEEE802.11シリーズ又はその後継規格の無線LANアクセスポイント、あるいは、IEEE802.16シリーズ又はその後継規格の移動体通信向け基地局であるが、Bluetoothなどその他の方式によるものでもよい。基地局やLANアクセスポイントという装置名は例示であり、基地局やアクセスポイント以外の無線通信装置をもって代用させることも可能である。従って基地局やアクセスポイント以外の無線通信装置を、基地局1a、1b、1cの代わりに配置してもよい。基地局1a、1b、1cは、端末2から送信される測距信号を受信する受信機としての役割を有する。測距信号は、後述する所定の信号(パターン信号)を含む信号であり、端末2の位置推定を行うために用いられる。
端末2は、測距信号を基地局に向けて送信可能な無線通信装置を搭載している。データの送受信に用いる無線通信方式は、一例として、IEEE802.11シリーズ又はその後継規格の無線LAN、IEEE802.16シリーズ又はその後継規格の移動体通信方式であるが、Bluetoothなどその他の方式によるものでもよい。ただし、端末2の用いる無線通信方式は基地局1a、1b、1cが対応している無線通信方式と同一又は互換性のあるものである必要がある。
端末2の形態としては、タブレット、パソコン、スマートフォン、フィーチャーフォン、ゲーム機、デジタルカメラ、ビデオカメラ、スマートウォッチ、ヘルスバンド、経路誘導装置、生体情報モニタ、非常用発信器、テレメトリー発信器、センサが搭載されたロボット、センサが搭載された車両、センサが搭載されたドローンなどが想定されるが、その他の形態のものであってもよい。
端末2が送信する測距信号のうち、基地局1aが受信するものを信号s1、基地局1bが受信するものを信号s2、基地局1cが受信するものを信号s3とする。基地局1a、1b、1cはそれぞれ信号s1、s2、s3より相互相関信号100a、100b、100cを生成し、ネットワーク5を介して測位サーバ3へ相互相関信号100a、100b、100cを送信する。相互相関信号の生成方法については後述する。
測位サーバ3は、1以上のCPU(中央処理装置)、記憶装置、通信部を備え、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションが動作する計算機などの情報処理装置である。測位サーバ3は物理的な計算機であってもよいが、仮想計算機(Virtual Machine:VM)、コンテナ(container)又はこれらの組み合わせにより実現されるものであってもよい。1つ以上の物理計算機、仮想計算機、コンテナに測位サーバ3の機能を分担させてもよい。可用性の向上と負荷分散のために測位サーバ3の台数を増やした構成を用いることも排除されない。測位サーバの設置場所は、基地局の近傍であっても、リモートサイトのデータセンターなどであっても、複数個所に分散されていてもよく、特に問わない。
図2は、第1の実施形態に係る無線測位システムの機能ブロック図である。以降では図2を参照しながら、無線測位システムを構成する各装置内の構成要素について説明をする。
基地局1aは、無線送受信部10aと、時刻管理部11aと、記憶部12aと、相互相関算出部13aと、通信部14aと、アンテナ6aとを備える。
無線送受信部10aは、無線通信機能を有する。IEEE802.11シリーズなどの無線LANを用いる場合、無線送受信部10aは無線LANモジュールとなる。IEEE802.16シリーズなどの移動体通信を用いる場合、無線送受信部10aはベースバンドプロセッサ、RFトランシーバ、増幅器、フィルタなどから構成される。これらの無線通信規格は例示であり、その他の無線通信方式を用いることもできる。無線送受信部10aは、アンテナ6aに接続されており、アンテナ6aを介して電波の送受信を行う。アンテナ6aは、無線送受信部10aに内蔵されていてもよいし、無線送受信部10aに外付けされていてもよい。
時刻管理部11aは、クロックまたはタイマなどを用いて、現在時刻の管理、時刻の調整及び経過時間の計測などの機能を提供し、更に無線測位システム全体での時刻同期に対応している。時刻の同期を行う手段は特に問わない。例えば、Precision Time Protocol(PTP)により高精度な時刻を持つマスタを参照する方法、Network Time Protocol(NTP)により外部のサーバと時刻同期を行う方法又は通信規格が備える時刻同期機能を使う方法などがある。時刻管理部11aは、ソフトウェアにより実現されるものでも、ハードウェアにより実現されるものでも、それらの組み合わせによるもののいずれでもよい。測位の精度を担保するためには、時刻管理部11aの計測誤差と、時刻同期時の誤差の双方を抑制する必要がある。
記憶部12aには、無線測位システムで測位の対象となる端末2に対して割り当てられた所定の信号であるパターン信号を保存することができる。なお、複数の端末が存在する場合、各端末のパターン信号は同一でも異なってもよい。記憶部は、例えばNANDフラッシュメモリ、NORフラッシュメモリ、MRAM、ReRAM,ハードディスク、光ディスクなどの不揮発性記憶デバイス又はDRAMなどの揮発性記憶デバイスのいずれか又はそれらの組み合わせから構成される。
相互相関算出部13aは、無線送受信部10aで受信された端末からの送信信号と、記憶部12aに保存された端末のパターン信号を用いて相互相関の計算を行う。相互相関の計算方法には様々なものが存在するが、一例として、下記の式(1)により求めることができる。
この式(1)は連続関数についての相互相関の一例である。f(t)が端末のパターン信号であり、g(t)は無線送受信部10aで受信された端末からの送信信号であるとする。
図3を参照し、相互相関の意味について説明する。ここでは都合上、連続関数を例にとり説明しているが、以下の議論は連続関数を離散データに置き換えても当てはまる。図3における横軸のt及びτは、時刻を表す。パターン信号90は式(1)におけるf(t)に該当し、端末のパターン信号である。一方、信号92は式(1)におけるg(t)に該当し、無線送受信部10aで受信された端末からの送信信号である。
相互相関算出部13aはパターン信号90をf(t−τ)のようにτだけずらし、シフトさせたパターン信号91を求めることができる。相互相関算出部13aは更にシフトさせたパターン信号91と信号92を乗じ、積分することにより、相互相関93を算出することができる。相互相関算出部13aは複数の値τについて相互相関93の計算を行うことが可能であるが、図3に示したようにパターン信号90をτ1だけずらすと、シフトさせたパターン信号91が信号92のパターン信号部分とマッチングすることがわかる。τ=τ1のときに最もよくパターン信号がマッチングしているため、相互相関93もτ=τ1のときにピークが出ている。
受信した信号をデータとして取り出すためには、A/Dコンバータなどで周期的に信号をサンプリングする必要があるため、g(t)にあたる信号92は離散的となる。従って図3でパターン信号90、シフトされたパターン信号91、信号92及び相互相関93はすべて連続関数として描かれているが、実際の相互相関算出部13aの処理でこれらは離散的なデータとして扱われる。
このように、計算対象のデータが離散的である場合、式(1)の連続関数の相互相関の代わりに、下記の式(2)の離散系における相互相関の式を使うことができる。
離散データにおいては上記の式(2)を用いて、複数のτについて相互相関I(τ)を求める必要がある。ここでτはパターン信号90にあたるf(t)をシフトさせる量を表す。信号92にあたるg(t)がサンプリングされた周期に合わせ、ずらす量τも離散的な値をとるため、シフトさせたパターン信号91にあたるf(t−τ)も離散的に分布する。この結果、算出される相互相関I(τ)は信号g(t)のサンプリング周期に依存した離散的なデータ(サンプル)となる。すなわち、一定時間間隔の時刻と相互相関値(強度値)とを含むサンプル群となる。このような離散的な相互相関データを、以降では相互相関信号と呼ぶことにする。
相互相関の計算精度を上げるため、離散的なデータを複数の計算領域に分割し、各計算領域についての平均値で減算し、標準偏差で割った下記の式(3)に示す正規化相互相関(normalized cross correlation:NCC)を用いることもできる。
式(3)を用いることにより受信信号の強度に依存した相互相関の計算値の変動を抑制することができる。このように相互相関には種々の計算法や変形が存在するが、信号g(t)中のパターン信号f(t)の検出が可能であれば、そのいずれを用いてもよい。複数の相互相関の計算式による計測を繰り返し、最も誤検出が少なく正確なピーク検出ができる計算式を選択する処理を行ってもよい。
相互相関計算部13aはマイクロプロセッサ、ASIC、FPGA、PLDなどのハードウェア、ハードウェア上で動作するソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現されるものとする。相互相関計算部13aは更に相互相関信号の計算又は計算結果の保持のためにバッファを備えていてもよい。バッファは例えばNANDフラッシュメモリ、NORフラッシュメモリ、MRAM、ReRAM,ハードディスク、光ディスクなどの不揮発性記憶デバイス又はDRAMなどの揮発性記憶デバイスのいずれか又はそれらの組み合わせから構成される。
通信部14aは、データを含む信号を送受信する機能を有する。図2には示されていないが、冗長性確保のため基地局1aは複数の通信部を備えてもよい。物理インタフェースとしては、IEEE802.3シリーズで規格化されている有線のイーサネットでもよいし、無線LANなどの無線通信を用いるインタフェースでもよい。この場合、無線送受信部10aに係るハードウェアと通信部14aのハードウェアを共用させることができる。
ここまで基地局1aの構成要素及び機能について説明したが、基地局1b及び基地局1cの構成及び機能については基地局1aと同様であるとする。
端末2は、無線送受信部20と、時刻管理部21と、記憶部22とを備える。
無線送受信部20は、無線により信号を送受信する機能を有する。IEEE802.11シリーズなどの無線LANを用いる場合、無線送受信部20は無線LANモジュールとなる。IEEE802.16シリーズなどの移動体通信を用いる場合、無線送受信部20はベースバンドプロセッサ、RFトランシーバ、増幅器、フィルタなどから構成される。これらの無線通信規格は例示であり、その他の無線通信方式を用いることもできる。ただし、各基地局の備える無線送受信部が対応している無線通信方式と同一又は互換性を有する方式を用いる必要がある。
無線送受信部20は、アンテナ7に接続されており、アンテナ7を介して電波の送受信を行う。アンテナ7は、無線送受信部20に内蔵されていてもよいし、無線送受信部20に外付けされていてもよい。
時刻管理部21は、クロックまたはタイマを用いて、現在時刻の管理、時刻の調整及び経過時間の計測などの機能を提供し、更に測位システム全体での時刻同期に対応している。時刻の同期を行う手段は特に問わない。例えば、Precision Time Protocol(PTP)により高精度な時刻を持つマスタを参照する方法、Network Time Protocol(NTP)により外部のサーバと時刻同期を行う方法又は通信規格が備える時刻同期機能を使う方法などがある。時刻管理部21は、ソフトウェアにより実現されるものでも、ハードウェアにより実現されるものでも、それらの組み合わせによるもののいずれでもよい。測位の精度を担保するためには、時刻管理部21の計測誤差と、時刻同期時の誤差の双方を抑制する必要がある。
記憶部22には、所定の信号であるパターン信号が保存されている。このパターン信号は、各基地局との間で共通に認識されているものであれば、パターン信号の種類については特に問わない。パターン信号は、後述する他の実施形態のようにチャネル推定(伝搬路推定)に用いるパイロット信号でもよい。記憶部22は、例えばNANDフラッシュメモリ、NORフラッシュメモリ、MRAM、ReRAM,ハードディスク、光ディスクなどの不揮発性記憶デバイス又はDRAMなどの揮発性記憶デバイスのいずれか又はそれらの組み合わせから構成される。
ネットワーク5は、基地局1aと、基地局1bと、基地局1cと、測位サーバ3とを接続する。物理インタフェースは、有線のイーサネットでもよいし、無線LANなどその他の方式であってもよい。データ通信に使用する通信プロトコルはTCP/IPを想定するが、その他のプロトコル又はそれらの組み合わせであってもよい。図2に示されていないが、ネットワーク5の途中にスイッチ、ルータ、ロードバランサなどのネットワーク機器があってもよい。通信経路の冗長化のためにチーミングやポートトランキングを行ってもよい。
測位サーバ3は、通信部30と、受信タイミング特定部31と、位置推定部32と、記憶部33とを備える。ネットワーク5が無線ネットワークの場合は、測位サーバ3はアンテナも備える。
通信部30は、データを含む信号を送受信する機能を有する。図2には示されていないが、冗長性確保のため測位サーバ3は複数の通信部を備えてもよい。物理インタフェースとしては、IEEE802.3シリーズで規格化されている有線のイーサネットでも、無線LANなどの無線通信を用いるモジュールでもよい。また、通信部30は冗長化されていてもよい。
受信タイミング特定部31は、相互相関信号のピークの時刻τを特定し、この時刻を該当する基地局が測距信号を受信したタイミングとして決定する。ここでは、図4を参照しながら受信タイミング特定部31で行われる処理について説明する。
まず、受信タイミング特定部31は通信部30より、基地局の識別子が付与された相互相関信号を受け取る。この識別子を参照することで、相互相関信号がどの基地局で受信された測距信号から生成されたものなのかを把握する。ここでは図4に示すように、測距信号s1より基地局1aで求められた相互相関信号100a、測距信号s2より基地局1bで求められた相互相関信号100b、測距信号s3より基地局1cで求められた相互相関信号100cがそれぞれ得られる。
次に受信タイミング特定部31は相互相関信号100a、100b、100cのそれぞれについて、候補ピーク(時刻と強度値の組)の抽出処理を行う。候補ピークは、候補サンプルに対応する。多重波伝搬(マルチパス)が発生すると、相互相関信号に複数のピークが生ずる場合がある。この場合、これらのピークには、直接波以外の伝搬路やノイズより生じたピークも含まれ得る。ここでは、それぞれの相互相関信号について、直接波に起因するピークの候補となる複数の候補ピークの抽出を行う。
候補ピークの抽出処理が完了すると、基地局ごとに抽出した候補ピークに関するデータをまとめたテーブルが得られる。個々のデータは、時刻、受信機ID、端末ID及び相互相関値(強度値)を含む。得られたテーブルの例を、図5に示す。横1行がデータである。例えばデータ112は、時刻が000000433ナノ秒、受信機IDがs3、端末IDがXXXX、相互相関値(強度値)が0.90である。図5のテーブル111は図4における抽出された候補ピーク群110に相当する。以降では図5を参照しながら説明をする。
受信機IDは、相互相関を算出する対象となった測距信号がどの基地局で受信されたのかを示す基地局の識別子である。基地局を識別可能な値であれば、受信機IDは何でもよい。受信機IDは、一例として、MACアドレスでもよいし、使用する通信規格で定義される識別子(IEEE802.11の場合、アソシエーションIDなど)でもよい。図では、便宜上、測距信号と同じパターン信号s1、s2、s3を用いて受信機IDを表している。
端末IDは相互相関を算出する対象となった測距信号を送信した端末の識別子である。端末IDは、一例として、MACアドレスでもよいし、使用する通信規格で定義される識別子(IEEE802.11の場合、アソシエーションIDなど)でもよい。テーブル111の例においては、便宜上、端末IDがすべてXXXXとなっているが、実際には端末の識別子が入れられる。
次の候補クラスタ生成処理では、テーブル111に基づき、基地局(受信機)ごとに複数の候補ピークからピーク(時刻と相互相関値の組)を選択し、ひとまとまりの組にする。すなわち、テーブル111において、受信機IDであるs1、s2及びs3のそれぞれについて、1つのデータを選択し一組とする。ここでは、このような基地局(受信機)ごとに選ばれた候補ピークの組み合わせをクラスタと呼ぶ。このピーク選択処理により選択された候補クラスタ群を模式的に示したのが図4における選択された候補クラスタ群110である。
各候補ピーク群からの候補クラスタの選択は、各候補クラスタのピークの関係を解析することに基づき行われる。具体例として、図4に示したように、各受信機IDに対応する候補ピークがひとつずつ含まれるように候補ピークの組み合わせを生成する。クラスタ(ここではクラスタ110A、110B、110C)を生成し、クラスタ単位で比較を行い、1つのクラスタを選択する。クラスタ110A、110B、110Cの例では時刻が最も近接する、受信機IDの異なる候補ピークがクラスタとしてまとめられている。ここでは同じ候補ピークが複数のクラスタに属さない場合を想定するが、同じ候補ピークが複数のクラスタに属する場合を許容してもよい。このようにクラスタを構成するのは、一般的に時刻が近接しているデータは類似した伝搬路に対応していると推測されるからである。例えば、異なる基地局によって受信されていても、複数回の反射を経て、直接波より長い伝搬路をたどった測距信号は、到達時刻が直接波の測距信号より後になる。
候補クラスタの選択方法の別の例として、相互相関信号のうち相互相関の値(強度値)がしきい値以上となるサンプル(時刻と強度値の組)同士を、候補クラスタとして組み合わせる方法がある。しきい値は、固定値であっても、入力される相互相関信号に応じて値が変動するもののいずれでもよい。例えば、正規化されていない相互相関を用いる場合は、入力される相互相関信号によって、ピークの高さが変動することが予想されるため、一例として、入力された相互相関信号の平均値をしきい値として用いることができる。
候補クラスタの選択方法の別の例として、時刻による絞込みをしてもよい。例えば、時刻の早いものから順番にピークを選び組み合わせる方法、一定の時刻より前のピークのみを選択し組み合わせる方法がある。このように時刻が相対的に遅いピークを選択から外すことにより、直接波に比べて長い経路となるその他の伝搬路より生じたピークを取り除くことができる。
更に、ピークどうしの時刻差である時間軸上の距離を比較し、しきい値以上であっても他のピークより大きく離れたピークについては、組み合わせる候補ピークとしての選択から除外する方法もある。この方法を用いることにより、直接波以外の伝搬路だけでなくノイズにより生じたピークを除外することができる。
他に、ピークを含む一定時間範囲内(たとえば隣接するサンプルを含まない近傍の範囲)において時間積分をし、積分値が相対的に小さくなるピークについては組み合わせるための選択肢から外す方法もある。第1の実施形態において相互相関信号は離散データであるため、例えば時間積分は区分求積法を用いて近似的な計算を行う。この方法によっても、ノイズにより偶発的に生じたピークを除くことが可能である。
以上のような処理を経てなおピークが密集して(たとえば一定の短い距離の範囲内に)複数個存在する場合は、密集しているサンプルのうち、相互相関の値が最大のピークのみを選択して組み合わせてもよい。
次の最終的な位置推定に用いられるクラスタの選択処理では、生成された候補クラスタ群から、最終的に1つのクラスタを選択する。すなわち、テーブル111において、受信機IDであるs1、s2及びs3のそれぞれについて、1つのデータを選択する。クラスタ選択処理により選択されたピーク群を模式的に示したのが図4における選択されたクラスタ120である。この選択されたクラスタ120に含まれるピーク群が、端末2の測位に用いられるピークである。すなわち、これらのピークを用いて、位置推定部32において各基地局と端末との間の距離の計測と端末2の位置推定が行われる。
各候補クラスタ群からの最終的な位置推定に用いられるクラスタの選択は、各候補クラスタ内のピーク群の関係を解析することに基づき行われる。
クラスタを生成した際に、クラスタ内に他の2つの候補ピークに比べて、大きく離れた(たとえば一定距離以上離れた)候補ピークが発生する場合がある。例えば、クラスタ内において、受信機ID_s3の候補ピークが孤立して最も遅い時刻に存在している場合がある。そのような候補ピークは、他の基地局から受信された測距信号より多くの反射が発生しており、長い伝搬路をたどっていると推測される。従って、そのような候補ピークを含むクラスタは選択から除外すことも考えられる。
クラスタ単位での比較には、いくつかの基準を用いることができる。1つは、クラスタ内の候補ピークの相互相関の値の平均値、最小値または最大値が最大のクラスタを選択する方法がある。平均値、最小値または最大値が最大のクラスタは直接波に対応している可能性が高いという推測に基づいている。電磁波が物質に当たると、その一部は物質に吸収され、その一部は物質を透過し、残りが反射することが知られている。電磁波の一種である電波の反射波は、反射率が高い場合でも入射波に比べてエネルギーが減衰するから、相互相関の値が小さいクラスタは反射波に対応している可能性が高いと推測される。この基準を適用する場合、図4ではクラスタ110Bが選択される。
2つめは、クラスタ内の相互相関の値の平均値、最小値または最大値が小さいクラスタを選択から除外する方法がある。例えば、平均値が最小のクラスタのみを選択から除外する処理ある。他には、各クラスタ内の相互相関の値の平均値に加え、全クラスタの相互相関の値の平均値も求め、前者の値が後者の値を下回ったクラスタを選択対象から除外する方法もある。他のクラスタに比べ、相互相関の値の平均値が低い場合、誤検出が発生している可能性がある。この方法を用いることにより、誤検出されたピークを除去することができる。この基準を適用する場合、例えば図4のクラスタ110Cが選択から除外される。
3つめは、最早時刻、最遅時刻、または平均時刻が、最も時刻が早いまたは遅いクラスタを選択し、それを代表的なデータ行として選ぶ方法である。例えば、クラスタに含まれるデータの最早時刻を特定し、クラスタ間で最早時刻を比較し、最も早い最早時刻のクラスタを選択する。直接波に比べ、反射波は長い伝搬路となるため、時刻が早いクラスタは直接波に対応していると推測できる場合に、この基準が適用できる。この基準を適用する場合、図4ではクラスタ110Aが選択される。
4つめは、クラスタ内のサンプルの時刻差を基準に選択を行う方法である。具体的には各クラスタ内において時間軸上で隣接する候補ピークの時刻差を求め、これらの時刻差の平均値または最小値または最大値が、最小または最大となるクラスタを選ぶ処理を行う。例えば時刻差の平均値が最小のクラスタを選択する。もし、基地局1a、1b、1cの設置場所が互いに近接しているが、端末2がいずれの基地局からも大きく離れており、基地局1aと端末2間の距離と、基地局1bと端末2間の距離と、基地局1cと端末2間の距離がほぼ等しいと仮定できる場合、この選択を行うことで、正しいピークを選択できる場合がある。例えば時刻差の平均値が最小のクラスタを選択する場合、図4ではクラスタ110Cが選択される。
以上で述べた基準のいずれかを単体で適用することもできるが、複数の基準を組み合わせて適用してもよい。例えば、まず2つめの基準を適用し、相互相関の値が小さいクラスタを取り除いた後、3つめの基準を適用し、時刻が早いクラスタを取り出す処理を実行することができる。測位サーバの設定により、適用する基準を切り替えられる実装を行ってもよい。設定の切り替えは、保守員の操作を契機に行われるものでも、測位サーバが測位システムの設置環境を診断したときの診断結果に基づいて行われるもののいずれでもよい。
このように異なる基地局(受信機)間で候補ピークを組み合わせて複数のクラスタを生成し、端末と基地局との間の直接波を反映していると推測されるクラスタを選択することにより、直接波以外の伝搬路や他の端末の測距信号より生じたピークを誤選択する可能性を低減できる。
位置推定部32では、受信タイミング特定部31で選択したピーク群120を用いて端末の位置推定を行う。例としてTOA方式の場合の位置推定を示す。各基地局と端末とは時刻同期されているため、端末が測距信号を送信した送信時刻は予め分かっている。この時刻は、各基地局が測位サーバ3に通知してもよいし、測位サーバ3で事前に把握していてもよい。また、各基地局で測距信号が受信された受信時刻は、ピーク群120に含まれる各基地局に対応するピークの時刻である。よって、受信時刻と送信時刻の差分に基づき、測距信号が端末から送信されてから、各基地局で受信されるまでの所要時間が分かる。この所要時間を光速度cで乗じることにより、端末と各基地局との間の距離を求めることができる。各種の計算は、測位サーバ3上のプログラムがCPU、記憶領域などの計算資源を使って行うことができるが、処理の高速化のために専用のハードウェアなどを用いてもよい。
各基地局と端末との間の距離と、各基地局の位置情報とを用いることで、端末の位置を計算することが可能である。例えば、各基地局の位置を中心とし、各基地局で求めた端末との距離を半径とした円を描いたとき、すべての円が交差する点を端末位置として推定することができる。2次元のTOA方式では、位置推定に3つの基地局が端末からの測距信号を受信する必要があるところ、本実施形態では基地局1a、1b、1cと3つの基地局が存在するため、端末2の位置を推定することができる。4つ以上の基地局が存在する場合は、そのうち端末2と無線通信が可能な3つ以上の基地局を利用すればよい。存在する基地局が2つの場合は、端末2の位置を2つの候補に(2つの円が交差する2つの点に)絞り込むことができる。本実施形態は、基地局が2つの場合に、端末の位置を2つの候補に絞り込むのに用いることにも有効である。
基地局および端末が例えば1つの部屋のように大きな起伏や段差がない環境に設置されている場合、2次元の位置推定を行えば足りることが多いと考えられる。しかし、複数のフロアや、大きな起伏または段差のある環境では、高低差まで含めた3次元的な位置推定が必要な場合がある。このような場合、TOA方式では、円モデルの代わりに球モデルを用いると、端末の高さまで推定することができる。たとえばこの場合TOA方式を用いて位置を推定したい場合、4つ以上の基地局を利用することで、端末の位置を1つの位置に推定することができる。
TDOA方式による端末の位置の推定を行うこともできる。TDOA方式を用いる場合、2つの基地局の組を生成し、組ごとに、2つの基地局の位置を焦点とする双曲線を描き、各基地局のピークの到達時間差を元に、双曲線の交点の中から端末の位置を推定することができる。2次元の位置推定を行う場合、理論的な解を求めるために4つ以上の基地局が測距信号を受信する必要である。3次元の位置推定をする場合は双曲線の代わりに双曲面を描く必要があり、測距信号を受信する基地局は5つ必要となる。
2次元のTDOA方式の場合に端末からの測距信号を受信する基地局の数が4台より多い場合に、これらの基地局の中から4つ以上の基地局の組み合わせを複数生成し、それぞれの組み合わせごとの位置推定結果を用いて、位置推定の精度の検証を行って、精度の高い位置推定を実現してもよい。また、通信可能な基地局全てを用いてもよい。
例えば、5つの基地局が、ある端末からの測距信号を受信し、そこから3つの基地局からの情報を用いてTOA方式で位置推定を行う場合、基地局の組み合わせは5C3=10通り存在する。このように複数の組み合わせについて位置推定を行い、安定した位置推定が実現できているかを検証してもよい。または、複数の位置推定結果を比較し、他の計算結果から逸脱した組み合わせを除外してもよい。あるいは、複数の位置推定の結果の平均値を利用したりすることもできる。また3つ以上の受信機を用いてもよい。ここで述べたことは、TOA方式およびTDOA方式のいずれの場合についても当てはまる。
TOA方式およびTDOA方式は例示であり、他に位置推定に用いることができる方法があれば、それを利用してもよい。
記憶部33は、位置推定部32で計算した端末の位置情報を保存する。端末の位置情報は、測位サーバ3又はその他の計算機上で動作するプログラムにより参照可能な形式で保存されるものとする。プログラムの種類および用途については特に問わない。保存フォーマットは任意でよく、XML、JSON、CSVなどでもよいし、その他の形式でもよい。
位置推定部32は、推定した端末の位置情報を含む端末位置マップを生成してもよい。図6に端末位置マップ330の例を示す。端末位置マップは、推定した端末の位置を視覚的に表している。短い周期で端末の位置推定を行って、端末位置マップ330をリアルタイムに更新することで、端末の移動履歴を表示してもよい。位置推定は、周期的に実行されるものでも、ユーザの指令を受けて実行されるものでも、所定のイベントの発生が検出されたときに実行されるものであってもよい。図6の端末位置330aは端末2の位置を表している。
記憶部33は、例えばNANDフラッシュメモリ、NORフラッシュメモリ、MRAM、ReRAM,ハードディスク、光ディスクなどの不揮発性記憶デバイス又はDRAMなどの揮発性記憶デバイスのいずれか又はそれらの組み合わせから構成される。図2において記憶部33は測位サーバ3の内部に配置されているが、記憶部33はサーバ3の内部のものである必要はない。例えば、外付けのストレージ装置、サーバ3とネットワークで接続されたストレージサーバ、外部のデータセンター内のクラウドストレージなど各種の記憶領域を利用することも可能である。
これまで、例として端末2が送信した測距信号s1、s2、s3を用いて位置推定を行う場合について説明を行った。しかし本発明の実施形態に係る無線測位システムは1つの端末だけでなく、複数の端末が存在する場合に、これらの端末についても並列的に位置推定を行うことができる。
図7は第1の実施形態に係る無線測位システム全体の処理を表したフローチャートである。本処理の前提として、無線測位システム内のいくつかの時刻が同期されているものとする。例えば、2次元のTOA方式の位置推定で端末の位置を1つに特定する場合、少なくとも3つの基地局と、端末との時刻が同期されている必要がある。したがって、基地局1a、1b、1cのそれぞれにおける端末2からの測距信号の受信時刻と、端末2からの測距信号の送信時刻とに基づき、端末との距離を求められる。また、3次元のTOA方式の位置推定の場合は、少なくとも4つの基地局と端末との時刻が同期されている必要がある。2次元のTDOA方式の位置推定で端末の位置を1つに特定する場合では、少なくとも4つの基地局を用い、その中で少なくともTDOA取得のために組になる基地局同士は同期されている必要がある。3次元のTDOA方式の位置推定の場合は、少なくとも5つの基地局を用い、その中で少なくともTDOA取得のために組になる基地局同士は時刻が同期されている必要がある。
また、事前に端末のパターン信号が各基地局と共有されている。端末のパターン信号は予め、使用する無線通信規格で定められていても良いし、基地局間で連携して、端末に対して使用するパターン信号を決定してもよい。または、端末がパターン信号を決定して、各基地局に通知してもよい。なお、この場合、セキュリティ確保のため、パターン信号の情報を端末で暗号化して送信し、各基地局で復号してもよい。暗号化方式については特に問わない。各基地局では位置推定の対象となる端末のパターン信号を記憶部に保持する。
ステップS101で、位置推定の対象となる端末2は、パターン信号を含む測距信号を各基地局(1a〜1c)へ送信する。パターン信号は、例えばフレームのプリアンブルやヘッダに配置して送信することができる。
ステップS102で、各基地局は端末2からの測距信号を受信し、測距信号と、予め記憶部に保持しているパターン信号とに基づき、相互相関の演算を行うことにより、相互相関信号を得る。相互相関の計算の詳細については、相互相関算出部13aの説明で述べた通りである。
ステップS103で、各基地局は、相互相関信号に端末2の識別子を付加して、測位サーバ3へ送信する。端末2の識別子に加えて、端末2が測距信号を送信した送信時刻を表す情報を付加してもよい。この送信時刻は、予め各基地局で把握していてもよいし、端末2が送信する測距信号にこの送信時刻が付加されていてもよい。測距サーバ3でこの送信時刻を事前に把握していてもよい。
ステップS104で、測位サーバ3は、各基地局から受信した相互相関信号のそれぞれから候補ピーク群を抽出する。抽出する候補ピークの個数は予め定められていてもよい。ステップS104で実行される具体的な処理は、測位サーバ3の受信タイミング特定部31の説明で述べた通りである。
ステップS105で、測位サーバは、候補ピーク群を基地局間で比較して候補クラスタ群を生成し、その中から測位に用いるクラスタを1つ選択する。一例として、候補ピークを基地局間で組み合わせて、候補ピークの複数の組み合わせ(クラスタ)を生成し、その中から最終的に1つの組み合わせを選択する。ステップS105で実行される具体的な処理は、測位サーバ3の受信タイミング特定部31の説明で述べた通りである。
ステップS106で、測位サーバ3は端末の測位(位置推定)を行うことにより、端末2の位置情報を求める。測位サーバ3は、求めた端末2の位置情報を記憶部33に保存する。端末2の測位の具体的な処理は、測位サーバ3の位置推定部32の処理に係る説明で述べた通りである。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、パターン信号を利用して相互相関信号を生成し、相互相関信号を利用して端末の位置推定を行った。第2の実施形態では、パターン信号としてパイロット信号を用い、伝搬路推定(チャネル推定)を行って求めた伝搬路の周波数特性を逆フーリエ逆変換(IFFT)して得られるインパルス応答を利用して、端末の位置推定を行う。なお、逆フーリエ変換を高速に行うため、実行する逆フーリエ変換は、逆離散フーリエ変換でもよい(以下同様)。
図8は、第2の実施形態に係る無線測位システムの機能ブロック図である。以下では第1の実施形態に係る図2の機能ブロック図と比較をしながら図8について説明をする。
基地局1aについては、図2の記憶部12a及び相互相関算出部13aは、図8では記憶部15a、チャネル推定部16a及びIFFT部17aに置き換わっている。基地局1b、1cについても、同様に構成要素が置き換えられている。
端末2についてみると、図2の記憶部22が、図8ではパイロット信号を記憶する記憶部23に置き換わっている。測位サーバ3については構成要素の変更はない。
記憶部15aには、予め定めたパターンのビット列またはシンボル列を含むパイロット信号が保存される。端末と基地局との間でパイロット信号のパターンは事前に共有されている。パイロット信号は、使用する無線通信規格で定められたものでもよい。記憶部15aは、例えばNANDフラッシュメモリ、NORフラッシュメモリ、MRAM、ReRAM,ハードディスク、光ディスクなどの不揮発性記憶デバイス又はDRAMなどの揮発性記憶デバイスのいずれか又はそれらの組み合わせから構成される。
チャネル推定部16aは、端末からの受信信号に含まれるパイロット信号を、記憶部15aに保存されている既知のパイロット信号と比較し、端末および基地局間の伝搬路を推定する。これにより複数の周波数ごとに振幅および位相の変動に関する情報を含む伝搬路の周波数特性を得る。位置推定を高精度の行うため、周波数領域での補間を行ってもよい。周波数領域に補間には、線形補間、FIRフィルタを用いた補間が存在するが、特に補間方式は問わない。
IFFT部17aでは、伝搬路の周波数特性を逆フーリエ変換することでインパルス応答を導出する。導出されるインパルス応答は、時間軸での遅延、信号の減衰及び位相回転の情報を含む。インパルス応答は、到来時刻にピークがたつような関数になる。従って、インパルス応答を、第1の実施形態の相互相関信号の代わりに利用できる。逆フーリエ変換は各種の高速フーリエ変換アルゴリズムを用いて行ってもよい。逆フーリエ変換を行う際に、IFFTのポイント数を増やすことで分解能を上げてもよい。インパルス応答は、分解能に応じた時間間隔で配置された複数の振幅値(強度値)の列として構成される。
伝搬路の推定は、受信信号に含まれるパイロット信号は、記憶部15aに保存されている既知のパイロット信号との演算の一例に相当する。また、インパルス応答または伝搬路の周波数特性の信号は、当該演算により得られる信号の一例に相当する。
端末2の記憶部23には、パイロット信号のパターンが保存されている。記憶部23は、例えばNANDフラッシュメモリ、NORフラッシュメモリ、MRAM、ReRAM,ハードディスク、光ディスクなどの不揮発性記憶デバイス又はDRAMなどの揮発性記憶デバイスのいずれか又はそれらの組み合わせから構成される。
測位サーバ3の受信タイミング特定部31は、各基地局から受信したインパルス応答から候補ピーク群を抽出する。測位サーバ3は、抽出された候補ピーク群から、基地局(受信機)ごとにピーク(時刻と相互相関値の組)を選択しひとまとまりの組(候補クラスタ)にする。各候補ピーク群からの候補クラスタの選択は、各受信機の候補ピーク群の関係を解析することに基づき行われてもよい。この処理は、先に第1の実施形態に係る測位サーバ3の受信タイミング特定部31の説明で述べたものと同様である。
受信タイミング特定部31は、各候補クラスタ群から測位に用いるクラスタを1つ選択する。この処理は、先に第1の実施形態に係る測位サーバ3の受信タイミング特定部31の説明で述べたものと同様である。
図9は第2の実施形態に係る無線測位システム全体の処理を表したフローチャートである。以下では第1の実施形態に係る図7のフローチャートと比較をしながら図9について説明をする。図7と同じ説明は適宜省略する。
ステップS201で端末2は、パイロット信号を含む測距信号を各基地局(1a〜1c)へ送信する。パイロット信号は例えばフレームのヘッダやプリアンブルに含めてもよいし、スキャッタードパイロットシンボルのように、データシンボル中にパイロット信号を分散させてもよく、方法は特に問わない。
ステップS202で各基地局は受信信号に含まれるパイロット信号と、予め記憶部(15a〜15c)に保存されているパイロット信号のパターンとを用いて、伝搬路推定(チャネル推定)をすることにより、端末2から各基地局への伝搬路の周波数特性を得る。チャネル推定の処理の詳細は、先にチャネル推定部16aの説明で述べた通りである。
ステップS203で各基地局は、ステップS202で得られた周波数特性に逆フーリエ変換を実行することによりインパルス応答を導出する。ステップS203で行われる処理の詳細については、IFFT部17aの説明で述べた通りである。
ステップS204で各基地局はインパルス応答の信号に、端末2の識別子を付加して測位サーバ3へ送信する。
ステップS205で測位サーバ3は、各基地局から受信したインパルス応答から候補ピーク群を抽出する。
測位サーバ3は、基地局間で候補ピーク群を比較し、候補ピーク群を基地局間で比較して候補クラスタ群を生成し、各候補クラスタ群から測位に用いるクラスタを1つ選択する。ステップS205で実行される処理は、先に第1の実施形態に係る測位サーバ3の受信タイミング特定部31の説明で述べたものと同様である。
なお、測位サーバ3において、IFFTを低分解能で行った場合に、得られたインパルス応答に、2次補間、多項式補間などの補間処理を行ってもよい。これにより、候補ピークの抽出処理・ピーク選択処理における分解能の向上をはかることができる。また、ピーク選択を第1の実施形態で説明した候補ピークに対する時間積分を利用して行う場合に、候補ピーク群に対して補間を行い、補間されたピークを利用して、当該候補ピークに対する積分値を算出してもよい。この補間処理は候補クラスタ生成後に行ってもよい。
ステップS206で測位サーバ3の位置推定部32は、端末の測位(位置推定)を行って端末の位置情報を取得する。測位サーバ3は、端末の位置情報を記憶部33に保存する。
第2の実施形態の位置推定は、第1の実施形態でピークの誤検出が発生したり、計測試験を繰り返したりしても、明確なピークを抽出できない場合の代替処理として実行することもできる。また、第2の実施形態の位置推定をまず実行し、インパルス応答で明確なピークを抽出できない場合に、代替処理として第1の実施形態の位置推定を実行してもよい。無線測位システムの設置環境に合わせ、より誤差の少ない位置推定ができる処理を保守員に選択させることも可能である。
チャネル推定の機能は無線LANや移動体通信を含む多くの無線通信機器が備えるものになっている。また、高速伝送のために変調方式としてOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を無線通信方式に採用する例が増えてきており、フーリエ変換及び逆フーリエ変換は多くの無線通信装置内で行われている。特に無線LANの物理層回路(OFDM送信回路)は逆フーリエ変換をする機能を備えている。無線LANや移動体通信の場合は、既存の無線通信チップなどが有する機能を活用し、最小限のカスタム化で第2の実施形態の位置推定をすることができる。
(第3の実施形態)
第1の実施形態において、相互相関信号のサンプル間隔は測距信号のサンプリング周期により定まっていた。つまり、相互相関信号のサンプル間隔は、装置に実装されているA/Dコンバータの性能に依存する。
例えば、A/Dコンバータのサンプリング周波数が160MHzである場合、サンプル間隔は6.25ナノ秒となり、最大で約1.9mの測定誤差が生じてしまう可能性がある。このように、高いサンプリング周波数のA/Dコンバータを使ったとしても、サンプリング周波数に応じた測定誤差が出てしまう。
第3の実施形態においては、このような測定誤差の影響を軽減するために、相互相関信号に対して補間を行い、相互相関信号の時間分解能を上げる。
図10は第3の実施形態に係る無線測位システムの機能ブロック図である。
第3の実施形態に係る無線測位システムの構成は、測位サーバ3の受信タイミング特定部31の中に補間部31aが追加されている点を除けば、図2に示した第1の実施形態に係る無線測位システムと同一である。
補間部31aは、受信タイミング特定部31における候補クラスタの生成処理が実行される前に、各基地局から受信した相互相関信号の補間処理を行う。補間処理を行う範囲は、相互相関信号の全体であっても、相互相関の値がしきい値以上の値をとるサンプルの周辺のみでもよい。図11に補間の例を示す。しきい値以上のサンプル71の周辺(隣接するサンプルとの間の領域)にのみ補間を行うことで、サンプル72、72が追加されている。なお、補間を行うことで、当該サンプルよりも強度値が大きいサンプルが補間される場合もありうる。補間対象となる範囲またはサンプルを限定することにより、処理負荷を軽減させることができる。補間の方法には2次関数を用いた補間、多項式を用いた補間、スプライン補間などがあるが、その他の補間を行ってもよい。
補間部31aは、候補クラスタの生成処理後、最終的に位置推定に用いるクラスタの選択処理を行う前に、補間処理を行ってもよい。すなわち基地局ごとに、候補ピーク群の全体、または特定の条件を満たす候補ピークの周辺で、補間を行ってもよい。特定の条件を満たす候補ピークの例としては、強度値がしきい値未満、またはしきい値以上の候補ピークがある。また候補ピーク群の平均以上の強度値、または平均未満の強度値を有する候補ピークがある。なお、補間を行うことで、元々存在していたサンプル(時刻と強度値の組)よりも強度値が大きいサンプルが補間される場合もありうる。
このように、相互相関信号または候補ピーク群に補間を行うことで、ピークの検出精度が更に上がることが期待できる。
図12は、第3の実施形態に係る無線測位システム全体の処理を表したフローチャートである。ここでは相互相関信号の補間を行う場合を例に説明する。
ステップS304で測位サーバが相互相関信号を補間してから候補ピーク群の抽出処理を実行される点を除けば、図12のフローチャートは第1の実施形態に係る処理を表した図7のフローチャートと処理は同様である。
このように候補クラスタの生成及びクラスタ選択を行う前に、相互相関信号に対して補間を行うことにより、より正確なピークの時刻を特定することができるようになり、位置推定の精度を向上させることができる。これによりA/Dコンバータのサンプリング間隔の起因する測定誤差の影響を軽減することが可能である。
なお、図10では測位サーバ3に補間部31aが配置されているが、代わりに各基地局において、相互相関信号を補間し、補間後の信号を測位サーバ3に送信してもよい。
(第4の実施形態)
第1の実施形態及び第3の実施形態では、各基地局で相互相関信号の算出を行い、相互相関信号を測位サーバへ送信し、測位サーバが相互相関信号を用いた処理を行っていた。第4の実施形態では、各基地局の処理の一部を、測位サーバ側に集約させる。
具体的には、各基地局は端末から受信した測距信号をそのまま、測位サーバへ転送する。測位サーバ側で相互相関信号の算出、補間、ピークの抽出・選択から端末位置の計算までの処理を実行する。
図13は、第4の実施形態に係る無線測位システムの機能ブロック図である。以下では第3の実施形態に係る図10のブロック図との差異を中心に説明する。
第4の実施形態に係る無線測位システムにおいて、基地局1a、1b、1cは相互相関算出部を備えていない。
図13の基地局1a、1b、1cは端末から受信した測距信号に、自局を識別する受信機IDを付与して、測位サーバ3へ転送する。
第4の実施形態に係る測位サーバ3には、記憶部34及び相互相関算出部35が追加されている。
記憶部34は、端末のパターン信号を記憶する。具体的には、端末の識別子にパターン信号を対応づけて記憶する。パターン信号が全端末で共通の場合は、端末の識別子をパターン信号に対応づけなくてよい。
以降の処理の流れは第3の実施形態に係る無線測位システムと同様である。
このように、各基地局の処理の一部を測位サーバ側に集約することにより、測位サーバ3の有するCPU時間、記憶領域などの計算資源を有効に活用した処理の高速化が期待できる。また、相互相関算出部35、補間部31a、受信タイミング特定部31、位置推定部32がすべて測位サーバ3にまとめられているため、各基地局のメンテナンスにかかる負担を軽減でき、全体的なシステム保守が容易になる。例えば、これらの機能がサーバ3上のプログラムにより実現されている場合、処理の修正や変更は測位サーバ3上のプログラムの改変のみで対応ができる。
第4の実施形態では、相互相関信号を用いた測位を例に説明したが、第2の実施形態で説明したインパルス応答を用いた測位の場合についても、同様に基地局の処理の一部を測位サーバ側に集約できる。例えば、基地局で行っていたチャネル推定、補間、逆フーリエ変換などの処理の一部を測位サーバ3に行わせることが可能である。
(第5の実施形態)
これまで説明した第1から第4の実施形態では、端末が測距信号を各基地局に向けて送信し、測位サーバ側で端末の位置推定を行っていた。第5の実施形態では逆に各基地局から端末に向けて測距信号が送信され、端末側で自端末の位置推定を行う。
図14は第5の実施形態に係る無線測位システムの機能ブロック図である。
第5の実施形態に係る無線測位システムは基地局1a、基地局1b、基地局1c、端末2及び管理サーバ4から構成される。3台の基地局から測距信号を送信することで、端末2で自端末の位置推定を行う。すなわち本実施形態に係る端末は、自端末の位置を推定する位置推定装置を搭載している。
TOA方式2次元の位置推定を行う場合を想定する。TOA方式で3次元の位置推定を行う場合は、少なくとも4つの基地局から測距信号を送信する必要がある。その場合、不足する台数の基地局を追加すればよい。基地局の数は4つ又は5つ以上あってもよい。基地局の数がこれより多い場合は、全ての基地局、またはそのうち一部の基地局が端末へ測距信号を送信することもできる。または、TDOA方式で3次元の位置推定を行う場合では、少なくとも5つの基地局から測距信号を送信する必要があり、その場合も同様に不足する台数の基地局を追加すればよい。
各方式で必要な台数よりも多くの基地局から端末に向けて測距信号を送信することも可能である。例えば、TOA方式により2次元の位置推定を行う場合に5つの基地局から端末に向けて測距信号が送信されている場合、そこから3台の基地局のみを位置推定に用いるときの基地局の組み合わせは5C3=10通り存在することになる。複数の組み合わせについて位置推定を行い、位置推定結果の検証、他の推定結果からの乖離が著しい組み合わせの特定、すべての推定結果の平均値の計算などを行ってもよい。これはTDOA方式を用いる場合についても同様である。また、基地局の数を限定せず通信可能な基地局全ての情報を用いてもよい。
図14では1台の端末が示されているが、端末は2台以上であってもよい。
図14では、第1から第4の実施形態で存在していた測位サーバ3に代わり、管理サーバ4が設置されている。管理サーバ4は、基地局1a、1b、1cとネットワーク5で接続されている。ネットワーク5は、イーサネットのような有線ネットワークでもよいし、無線LANなどその他の手段又はそれらの組み合わせからなるものであってもよい。
管理サーバ4は、通信部40と基地局制御部41とを備える。基地局制御部41は、端末から送信された位置推定処理開始指令を受信し、当該指令の受信を契機に、各基地局に対する測距信号の送信指令を生成する。通信部40は、生成した送信指令を各基地局に送信する。管理サーバ4が、各基地局の測距信号送信時刻を指定可能な場合、当該時刻を端末へ事前に通知してもよい。管理サーバ4は、端末から位置推定処理開始指令を受けずに、送信指令を送信してもよい。例えば、管理サーバ4は、予め定めた条件を満たした場合に、当該送信指令を送信してもよい。この場合、管理サーバ4が端末2と通信可能である必要はない。予め定めた条件として、一定の時間が経過するごとに、当該送信指令を送信してもよい。
また、TDOA方式により位置推定をする場合、各基地局は管理サーバ4からの送信指令を待たずに互いに時刻の同期をしてもよい。複数台の基地局が時刻同期されているのであれば、同時に測距信号を送信できるため、端末は信号を受信した時刻差からTDOAを求められる。基地局が、位置推定処理開始指令を受けて、時刻同期と測距信号の送信を開始できるのであれば、基地局は管理サーバ4の役割を兼ねることができる。TDOA方式によって2次元の位置推定をする場合には4台以上の基地局、3次元の位置推定をする場合には5台以上の基地局が必要となる。
管理サーバ4は、各基地局からの測距信号の送信時間が重ならないように、各基地局の送信タイミングを制御する。ただし、端末2が基地局1a〜1cと多重通信可能である場合は、基地局1a〜1cが同時に測距信号を送信する構成であってもかまわない。多重通信の方式は、空間分割多重、時分割多重、周波数分割多重またはこれらの組み合わせのいずれでもかまわない。
管理サーバ4はCPU、記憶装置を備え、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションが動作する計算機などの情報処理装置を想定しているが、VMやコンテナなどその他の構成により実現されるものであってもよい。
各基地局の無線送受信部10a〜10cは、管理サーバ4の測距信号送信指令を受けると、これを契機に、端末2に向けて測距信号を送信する。測距信号は、予め定めたパターン信号を含む。このパターン信号は、各基地局の記憶部12a〜12cに保存されており、各基地局の無線送受信部10a〜10cは、記憶部12a〜12cからパターン信号を読み出すことにより、測距信号を生成する。
端末2は無線送受信部20と、時刻管理部21と、記憶部22と、相互相関算出部24と、受信タイミング特定部25と、位置推定部26と、記憶部27とを備える。これらの要素の全部または一部(例えば受信タイミング特定部25と位置推定部26)により、本実施形態に係る位置推定装置が構成される。
無線送受信部20と、時刻管理部21との機能及び構成はこれまでの実施形態に係る端末と同様である。記憶部22は、基地局1a〜1cのそれぞれに対して予め定められたパターン信号を保存している。これらのパターン信号は、基地局1a〜1cの記憶部12a〜12cに記憶されているパターン信号と同じものである。各基地局でパターン信号は同じであっても、異なってもよい。
相互相関算出部24は、第1の実施形態に係る基地局の相互相関算出部と同じように相互相関の計算を行う。より詳細には、相互相関算出部24は、測距信号の送信元基地局の識別を行い、当該識別した基地局に対応するパターン信号を利用して、測距信号に対する相互相関信号を計算する。相互相関算出部24は、計算した相互相関信号を受信タイミング特定部25へ送る。相互相関算出部24の機能は、A/Dコンバータなどのハードウェア、CPU上で動作するプログラム又はこれらの組み合わせにより実現されていてもよい。
受信タイミング特定部25は、これまでの実施形態の測位サーバ3の受信タイミング特定部31と同様に、候補ピークの抽出から、候補クラスタの生成及び最終的に位置推定に用いるクラスタの選択処理を実行する。候補クラスタの生成処理または最終クラスタ選択処理を行う前に、第3の実施形態に係る補間部31aと同様の補間を行ってもよい。この場合、補間部の機能を受信タイミング特定部25に追加すればよい。
位置推定部26は、第1の実施形態の測位サーバ3の位置推定部32と同様の位置推定を行う。位置推定はTOA方式又はTDOA方式のいずれを用いてもよい。位置推定を行うためには、端末2は予め各基地局の位置情報を得ている必要がある。例えば、端末2が各基地局に初期接続した際またはその後の任意のプロセスにおいて各基地局の位置情報を取得し、取得した位置情報を、記憶部27または記憶部22に保存してもよい。または、各基地局の位置情報が、測距信号に含められていてもよい。この場合は、端末は、受信した測距信号から位置情報を読み出せばよい。または、端末2は、各基地局の位置情報を管理サーバ4から取得してもよい。
位置推定部26は、推定した端末2の位置情報を、記憶部27に保存する。保存フォーマットはXML、JSONやCSVでもその他の形式であってもよい。記憶部27は、例えばNANDフラッシュメモリ、NORフラッシュメモリ、MRAM、ReRAM,ハードディスク、光ディスクなどの不揮発性記憶デバイス又はDRAMなどの揮発性記憶デバイスのいずれか又はそれらの組み合わせから構成される。
受信タイミング特定部25及び位置推定部26の機能は、CPUで動作するプログラムによる実装で実現しても、専用のハードウェアによる実装で実現してもよい。
図15は、第5の実施形態に係る測位システムの全体構成を模式的に示す図である。基地局1aから測距信号U1が送信され、端末2で受信される。基地局1bから測距信号U2が送信され、端末2で受信される。基地局1cから測距信号U3が送信され、端末2で受信される。
端末2は、基地局1a〜1cから受信した測距信号に基づき、自端末の位置推定を行う。位置推定部26は、推定した端末の位置情報を追加した端末位置マップ(前述した図6参照)を作成してもよい。端末位置マップは、端末の現在位置を表示する地図アプリケーション、経路誘導アプリケーション、ゲームなど各種プログラムにより端末2の画面に表示されてもよい。
図16は、第5の実施形態に係る無線測位システム全体の処理を表したフローチャートである。
ステップS311で、各基地局は、予め定められたパターン信号を含む測距信号を端末2へ送信する。
ステップS312で、端末2は、各基地局から受信した測距信号と、予め保持している各基地局用のパターン信号とに基づき、各基地局について、相互相関を計算する。相互相関の計算方法は、第1の実施形態の相互相関算出部13aの説明で述べた処理と同様である。
ステップS313で、端末2は、基地局ごとに、相互相関信号から候補ピーク群を抽出する。第3の実施形態のような相互相関信号の補間を行う場合、候補ピーク群抽出後かつ候補クラスタ生成前に補間を行ってもよい。あるいは、候補クラスタ生成後、かつ最終クラスタ選択前に補間を行う構成も可能である。候補ピーク抽出処理は、第1の実施形態の説明で述べたものと同様である。
ステップS314で、端末2は、基地局ごとに取得した候補ピーク群を互いに比較し、測位に用いるピークを各候補ピーク群から1つ選択する。ここで行われる処理は、第1の実施形態のピーク選択処理と同様である。
ステップS315で、端末2は、選択したピークに基づき、自端末の位置について測位を行い、推定した自端末の位置情報を記憶部27に保存する。測位の処理の詳細は、位置推定部26の説明で述べた通りである。
第5の実施形態では、端末側で自端末の位置情報を求めることができるため、端末はモバイルアプリケーションで位置情報取得用APIを呼び出し、リアルタイムに位置情報を更新するといった処理が可能である。これにより、例えば、GPSが使えない環境下での経路誘導を行うことができる。
第1から第4の実施形態ではサーバ側で端末の位置情報を得るため、端末の管理、監視、追跡を行うシステムや、サーバサイドのアプリケーションで端末の位置情報を活用することができる。端末から測距信号だけでなく、端末に搭載されたセンサの計測情報もサーバに送信するようにしてもよい。これにより、例えば端末の位置情報が示す地点で計測された情報(温度、湿度など)を当該地点と関連づけて表示するサービスなどをサーバ側で提供できる。複数の端末の位置情報と計測情報を利用すれば、広い領域の各地点における計測情報を可視化したマップを表示することも可能である。
(第6の実施形態)
第6の実施形態は、第5の実施形態と同様、端末側で測位を行う。第5の実施形態では、相互相関信号を用いて測位と位置推定を行ったが、第6の実施形態では周波数特性を逆フーリエ変換して得られるインパルス応答を使って測位と位置推定を行う。
本実施形態では、各基地局からパイロット信号を含む測位信号を端末に送信し、測位信号を受信した端末でチャネル推定および逆フーリエ変換が行われ、その後、さらに、候補ピーク抽出、ピーク選択および位置推定が行われる。それぞれの処理は第2の実施形態と共通している。
図17は第6の実施形態に係る無線測位システムの機能ブロック図である。図14の第5の実施形態に係るブロック図と比較しながら、図17について説明をする。
図17には3つの基地局が示されているが、これより多くの基地局があってもよいのは第5の実施形態と同様である。
第6の実施形態に係る基地局1aには、図14の記憶部12aに代わり、パイロット信号を記憶する記憶部15aがある。記憶部15aには、パイロット信号のパターンが保存されている。記憶部15aに用いる記憶デバイスの具体例は第3の実施形態と同じでよい。基地局1b、1cの機能及び構成は基地局1aと同様である。パイロット信号のパターンは複数の基地局1a〜1cで共通でもよいし、基地局ごとに異なってもよい。
第6の実施形態に係る端末2は、図14の記憶部22及び相互相関算出部24に代わり、各基地局のパイロット信号を記憶する記憶部23、チャネル推定部28及びIFFT部29を備える。
記憶部23には、各基地局のパイロット信号のパターンが保存される。各基地局のパイロット信号が同じ場合は、共通の1つのパイロット信号を記憶しておけばよい。記憶部23の用いる記憶デバイスの具体例は第3の実施形態と同じでよい。
チャネル推定部28では、各基地局からの受信信号に含まれるパイロット信号を、記憶部23に保存されているパイロット信号のパターンと比較し、伝搬路を推定することで、伝搬路の周波数特性を求める。処理は第2の実施形態に係るチャネル推定部16aと同様である。
IFFT部29では、伝搬路の周波数特性を逆フーリエ変換し、時系列データであるインパルス応答を求める。この処理は第2の実施形態に係るIFFT部17aと同様である。
チャネル推定部28およびIFFT部29は専用ハードウェア、又はプロセッサとソフトウェアの組み合わせにより実現される。第2の実施形態と同様に、端末が元々備える無線通信用チップなどの機能を利用してもよい。
受信タイミング特定部25、位置推定部26、記憶部27の実装は第5の実施形態と同様である。
図18は、第6の実施形態に係る無線測位システム全体の処理を表したフローチャートである。
ステップS401で、各基地局は、パイロット信号を含む測距信号を端末へ送信する。パイロット信号はフレームのプリアンブルやヘッダにパターン信号を含めて送信してもよいし、スキャッタードパイロットシンボルのように、データ中に分散させてもよく、方式は特に問わない。
ステップS402で、端末は各基地局から受信した測距信号を用いてチャネル推定を行う。チャネル推定の処理は、第2の実施形態に係る基地局が行うものと同様である。
ステップS403で、端末は、チャネル推定により得られた周波数特性に逆フーリエ変換を実行することにより、各基地局との間の伝搬路に対応するインパルス応答を得る。この処理は、第2の実施形態に係る基地局が行うものと同様である。
ステップS404で、端末は各基地局のインパルス応答から、候補ピーク群を抽出し、各候補ピーク群を比較することで、各候補ピーク群から1つのピークを選択する。この処理は、第2の実施形態に係る測位サーバ3が行う候補ピーク抽出処理及びピーク選択処理に相当する。
ステップS405で、端末は、各選択したピーク(すなわちピークに対応する時刻)を用いて、自端末の位置について測位を行うことにより、自端末の位置を推定する。端末は、推定した自端末の位置を示す位置情報を保存する。この処理は第5の実施形態に係るステップS305の処理と同様である。
第6の実施形態によれば、第5の実施形態と同様に、端末側で当該端末の位置情報を求めることができる。
(第7の実施形態)
第1から第6の実施形態においては、測位サーバ3又は管理サーバ4はすべて基地局から独立して存在しており、各基地局とネットワークで接続されていた。第7の実施形態においては、測位サーバ3又は管理サーバ4の機能は基地局と統合されている形態を示す。
図19は第7の実施形態に係る無線測位システムの全体を示す図である。
第7の実施形態に係る無線測位システムは、端末2、基地局1b、基地局1c、サーバ機能付き基地局300を備える。図19では、基地局が2つ、端末が1つ、サーバ機能付き基地局が1つとなっているが、それぞれの装置の数がこれより多くてもよい。特にサーバ機能として測位機能を備えた基地局が2つ以上ある場合は、測位機能を冗長化させることができる。サーバ機能付き基地局の測位機能を利用せずに、単なる基地局として動作させてもよい。
サーバ機能付き基地局300の構成は、測位サーバ3と基地局を合わせたもの、又は管理サーバ4と基地局を合わせたものであるとする。前者の場合、基地局は、本実施形態に係る位置推定装置を搭載する。
サーバ機能付き基地局300は、他の基地局1b、1cと互いに無線通信を行うことができる。
第7の実施形態の無線測位システムにおいて、相互相関信号を利用して端末の位置推定を行ってもよいし、インパルス応答を利用して端末の位置推定を行ってもよい。
第1から第4の実施形態のように、端末から基地局300、1b、1cに測距信号を送信し、サーバ機能付き基地局300が他の基地局1b、1cから測距信号に基づく情報を取得することで、端末の位置を推定してもよい。また、第5および第6の実施形態のように、複数の基地局300、1b、1cから端末2に向けて測距信号を送信し、端末2が自端末の位置の推定をしてもよい。
本実施形態によれば、サーバ機能を基地局に統合したことにより、サーバと各基地局間を接続するネットワークを構築したり、別途サーバ用のマシンを用意したりする必要がない。基地局からアクセス可能な情報インフラが近くに存在しない環境においても、端末の測位を実施することができる。
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって種々の発明を形成できる。また例えば、各実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除した構成も考えられる。さらに、異なる実施形態に記載した構成要素を適宜組み合わせてもよい。