以下、本発明の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
[組成物の処理方法]
まず、本発明の組成物の処理方法について説明する。
図1は、本発明の組成物の処理方法の好適な実施形態を示すフローチャートである。
本発明の組成物の処理方法は、反応生成物および第1の有機溶媒を含む第1の混合液に塩を加え、塩添加液を得る塩添加工程と、前記塩添加液と任意の割合では相溶しない第2の有機溶媒を、前記塩添加液と混合し、前記第2の有機溶媒中に前記反応生成物を抽出する抽出工程とを有することを特徴とする(図1参照)。
これにより、反応生成物を効率よく分離することができるとともに、反応溶媒(第1の有機溶媒)も好適に回収することができる。また、本発明の処理方法では、クエンチ剤を含む水溶液を用いたクエンチが不要であるため、クエンチ剤が系内に含まれることを防止することができ、クエンチ剤やクエンチ剤由来物質を除去するための処理を省略することができる。
<塩添加工程>
塩添加工程では、反応生成物および第1の有機溶媒を含む第1の混合液に塩を加え、塩添加液を得る。
これにより、後の抽出工程で第2の有機溶媒による抽出を好適に行うことが可能となる。
本工程で用いる塩は、第1の有機溶媒に可溶性のものである。
これにより、後の抽出工程において、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができる。
本工程で用いる塩としては、金属塩を好適に用いることができる。
これにより、後の抽出工程において、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができる。
本工程で用いることができる金属塩としては、各種のものを用いることができる。
陽イオンの観点からすると、金属塩としては、例えば、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)塩、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウム等)塩等が挙げられる。
陰イオンの観点からすると、金属塩としては、例えば、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)塩、オキソ酸塩(酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等のカルボン酸塩、過塩素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸、次亜塩素酸、過臭素酸塩、臭素酸塩、亜臭素酸、次亜臭素酸、過ヨウ素酸塩、ヨウ素酸塩、亜ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸等のハロゲンオキソ酸、硫酸塩、亜硫酸塩、スルホン酸塩、スルフィン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、クロム酸塩、二クロム酸塩、過マンガン酸塩等)が挙げられる。
本工程では、複数種の塩、複合塩を用いることができる。
本工程では、塩は、実質的な純物質(少量(例えば、1質量%以下)の不純物(例えば、不可避成分としての不純物等)を含有するものを含む)として用いてもよいし、他の成分との混合物(例えば、高濃度(90質量%以上)の溶液または分散液)として用いてもよい。
本工程における塩の使用量は、第1の有機溶媒の種類等により異なるが、第1の有機溶媒100質量部に対し、1質量部以上100質量部以下であるのが好ましく、3質量部以上50質量部以下であるのがより好ましく、5質量部以上25質量部以下であるのがさらに好ましい。
これにより、塩の使用量を抑制しつつ、後の抽出工程において、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができる。
本工程では、第1の混合液を撹拌しつつ、当該第1の混合液に塩を添加するのが好ましい。
これにより、塩を効率よく均一に混合させることができ、後の抽出工程で第2の有機溶媒との分離がよくなり、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができる。
また、本工程は、例えば、加熱した第1の混合液に塩を添加してもよいし、第1の混合液に加熱した塩を添加してもよい。
第1の混合液は、所定の化学反応により生成した反応生成物と、第1の有機溶媒とを含んでいる。
第1の混合液において、第1の有機溶媒は、溶質としての前記反応生成物を溶解する溶媒として機能するものであってもよいし、分散質としての前記反応生成物を分散する分散媒として機能するものであってもよい。
第1の有機溶媒は、特に限定されないが、水と任意の割合で相溶する有機溶媒であるのが好ましい。
このような有機溶媒は、従来の処理方法(水および水との相溶性が低い有機溶媒を用いて、有機相に反応生成物を抽出する方法)において反応溶媒として用いた場合、抽出時に水相に溶け込んでしまい、回収することが実質的に不可能か、多大なコストがかかり困難であった。これに対し、本発明では、第1の有機溶媒として、水と任意の割合で相溶する有機溶媒を用いた場合でも、好適に第1の有機溶媒を回収することができる。したがって、第1の有機溶媒として水と任意の割合で相溶する有機溶媒を用いた場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
第1の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の単価アルコール、エチレングルコール等の多価アルコール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、四塩化炭素等のハロゲン化物系溶媒;ベンゼン等の芳香族炭化水素;シクロペンタン等の脂環式炭化水素;ピリジン等の芳香族性複素環式化合物;ジオキサン等の脂肪族性複素環式化合物;二硫化炭素等の硫黄化合物;アセトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、アルコール系溶媒が好ましく、メタノール、エタノールがより好ましい。
これにより、後の抽出工程で使用する第2の有機溶媒(塩添加液との相溶性が低い第2の有機溶媒)の選択の幅が広がる。また、後に詳述する第1の有機溶媒蒸発工程における第1の有機溶媒の回収がより容易となり、第1の有機溶媒の回収率をより高くすることができる。
また、第1の有機溶媒は、通常、前記反応生成物の合成時に反応溶媒として用いられたものであるが、第1の有機溶媒が前記のようなものであると反応生成物の合成をより好適に進行させることができる。特に、前記反応が3−ハロ−シクロアルカノン化合物から2−シクロアルケノン化合物(中でも、3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物)を合成するものである場合、当該反応をより好適に進行させることができる。
第1の混合液中における第1の有機溶媒の含有率は、20質量%以上98質量%以下であるのが好ましく、30質量%以上95質量%以下であるのがより好ましい。
これにより、後の抽出工程において、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができるとともに、抽出液中に不本意に塩が移行することをより効果的に防止することができる。
なお、本工程に先立ち、第1の混合液中の各成分の含有率を調整する等の目的で、溶媒による希釈や、第1の有機溶媒を蒸発させることによる濃縮等を行ってもよい。
第1の混合液に含まれる反応生成物は、いかなる化合物であってもよいが、通常、有機化合物である。
また、第1の混合液に含まれる反応生成物は、タンパク質の高分子材料であってもよいが、分子量が1000以下の化合物であるのが好ましく、分子量が500以下の化合物であるのがより好ましく、分子量が300以下の化合物であるのがさらに好ましい。
これにより、後の抽出工程において、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができる。
特に、第1の混合液に含まれる反応生成物は、3−ハロ−シクロアルカノン化合物から合成された2−シクロアルケノン化合物であるのが好ましい。
これにより、後の抽出工程において、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができる。また、第1の混合液中に含まれる第1の有機溶媒と抽出工程でも用いる第2の有機溶媒との好適な組み合わせの選択の幅が広がる。
また、2−シクロアルケノン化合物は、下記式(1)で示される化学構造を有しているのが好ましい。
(式(1)中のnは1〜8の整数である。)
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
第1の混合液中における反応生成物の含有率は、1質量%以上70質量%以下であるのが好ましく、4質量%以上60質量%以下であるのがより好ましい。
これにより、後の抽出工程において、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができるとともに、抽出液中に不本意に塩が移行することをより効果的に防止することができる。
第1の混合液は、少なくとも、反応生成物と第1の有機溶媒とを含むものであればよいが、さらに、前記反応生成物の合成過程で生じた塩を含むものであるのが好ましい。
これにより、後の抽出工程において、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができる。
前記反応生成物の合成過程で生じた塩と、本工程で添加する塩とは、異なる物質であってもよいが、同一の物質であるのが好ましい。
これにより、後の工程で回収される塩を塩添加工程に好適に再利用することができる。
第1の混合液中における塩(前記反応生成物の合成過程で生じた塩)の含有率は、1質量部以上100質量部以下であるのが好ましく、1質量部以上50質量部以下であるのがより好ましく、1質量部以上25質量部以下であるのがさらに好ましい。
これにより、後の抽出工程において、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができるとともに、抽出液中に不本意に塩が移行することをより効果的に防止することができる。
<抽出工程>
次に、塩添加液と、当該塩添加液とは任意の割合では相溶しない第2の有機溶媒とを混合する。
これにより、塩添加液(第1の混合液)中に含まれていた反応生成物を、高い収率で、第2の有機溶媒の相中に抽出することができる。その結果、最終的には、反応生成物を高い収率で単離することができる。
本工程で用いる第2の有機溶媒は、塩添加液と任意の割合では相溶しないものであればよいが、塩添加液との相溶性が低いものであるのが好ましい。具体的には、例えば、塩添加液に対する第2の有機溶媒の溶解度(100gの塩添加液に溶解する第2の有機溶媒の質量)は、15以下であるのが好ましく、10以下であるのがより好ましく、5.0以下であるのがさらに好ましい。
これにより、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができる。
また、第2の有機溶媒は、第1の有機溶媒よりも疎水性のものであるのが好ましい。
これにより、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができる。
また、第2の有機溶媒の溶解度パラメータをSP2[(cal/cm3)1/2]と第1の有機溶媒の溶解度パラメータをSP1[(cal/cm3)1/2]としたとき、0<|SP2−SP1|≦19の関係を満足するのが好ましく、3≦|SP2−SP1|≦19の関係を満足するのがより好ましく、5≦|SP2−SP1|≦19の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができる。
溶解度パラメータ(SP値)δ[(cal/cm3)1/2]は、複数の物質の相溶性および親和性の指標として用いられるものであり、下記式(A)に表される式で定義される。
δ=(ΔEV/V0)1/2÷2.046[(cal/cm3)1/2] …… (A)
ただし、ΔEV[106N・m・mol−1]は蒸発熱、V0[m3・mol−1]は1molあたりの体積である。二つの物質の溶解度パラメータの差は、その二つの物質が相溶するために必要なエネルギーと密接な関係が有り、溶解度パラメータの差が小さいほど二つの物質が相溶するために必要なエネルギーは小さなものとなる。すなわち、二つの物質が存在した場合、一般に、溶解度パラメータの差が小さいほど、親和性が高く、相溶性が高いものとなる。
溶解度パラメータは、実験によって求めることもできるが、計算によって求めることもできる。計算によって溶解度パラメータを求める方法は、いくつか提案されており、例えば、比較的高分子量の材料に関しては、Smallの方法(P.A.Small:J.Appl.Chem,3,71(1953))を用いることができる。また、比較的低分子量の材料に関しては、Hildebrandの方法(J.H.Hildebrand and R.L.Scott:The Solubility of Non−Electrolytes,ACS Monograph Series,1950)を用いることができる。これらの方法を用いることにより、溶解度パラメータをより妥当な値として得ることができ、溶解度パラメータを求めることが容易なものとなる。
このため、第1の有機溶媒および第2の有機溶媒の溶解度パラメータは、Hildebrandの方法を用いることで、容易に溶解度パラメータとして妥当な値が得ることができる。また、上述したような方法で計算ができない材料に関しては、「溶解性テスト」(「溶剤ポケットハンドブック」、p22、有機合成化学協会編)に準拠して、溶解度パラメータを求めることができる。なお、材料の溶解度パラメータが公知である場合、溶解度パラメータは、その値を用いるものであってもよい。
第2の有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、デカン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等の炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン化物系溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、脂肪族炭化水素類が好ましく、ヘキサンがより好ましい。
これにより、反応生成物をより効率よく第2の有機溶媒で抽出することができる。特に、第2の有機溶媒の相に前記塩が移行する(抽出される)ことをより効果的に防止しつつ、反応生成物をより効率よく抽出することができる。また、第1の有機溶媒と第2の有機溶媒との好ましい組み合わせの幅が広がる。そのため、例えば、第1の有機溶媒が反応生成物の合成工程において反応溶媒として用いるものである場合に、反応溶媒の選択の幅が広がり、反応生成物の収率のさらなる向上を図ることができる。また、後に詳述する第2の有機溶媒蒸発工程における第2の有機溶媒の回収がより容易となり、また、第2の有機溶媒の回収率をより高くすることができる。
本工程は、例えば、分液漏斗等を用いて行うことができる。
また、本工程は、複数回の抽出処理を行ってもよい。この場合、本工程での抽出処理回数は、2回以上4回以下であるのが好ましい。
また、本工程で複数回の抽出処理を行う場合、複数回の抽出処理により得られた抽出液(第2の有機溶媒の相)を混合して、その後の工程に用いてもよい。
本工程で用いる第2の有機溶媒の抽出一回当たりの使用量は、反応生成物の種類、第1の有機溶媒の種類等により異なるが、第1の混合液100質量部に対し、1質量部以上1900質量部以下であるのが好ましく、5質量部以上900質量部以下であるのがより好ましく、10質量部以上400質量部以下であるのがさらに好ましい。
これにより、第2の有機溶媒の使用量を抑制しつつ、反応生成物をより効率よく抽出することができる。また、第2の有機溶媒の相への塩の移行をより効果的に防止することができる。
前記抽出工程で得られた第2の有機溶媒の相は、一般に、前記塩の含有量が比較的少ないものであるが、第2の有機溶媒の相に対して、脱塩処理を施してもよい。
これにより、例えば、反応生成物の安定性を向上させることができる。また、後に精製処理を行う場合に、その効率(反応生成物の収率)を向上させる上でも有利である。
特に、後に詳述する第2の溶媒蒸発工程に先立って、第2の有機溶媒の相に対して脱塩処理を施すことにより、上記のような効果がより顕著に発揮される。
第2の有機溶媒の相に対する脱塩処理は、例えば、第2の有機溶媒よりも極性が高くかつ第2の有機溶媒と任意の割合で混合しない溶媒を、第2の有機溶媒の相と混合して、分液することにより好適に行うことができる。
このような方法を採用することにより、上記のような効果が得られるとともに、第2の有機溶媒の相に含まれている第1の有機溶媒も効果的に除去することができる。
前記溶媒(第2の有機溶媒よりも極性が高くかつ第2の有機溶媒と任意の割合で混合しない溶媒)としては、第2の有機溶媒の種類等にもよるが、水を好適に用いることができる。
<第2の有機溶媒蒸発工程>
本実施形態では、前述した抽出工程の後に、反応生成物および前記第2の有機溶媒を含む抽出液から、第2の有機溶媒を蒸発させる第2の有機溶媒蒸発工程をさらに有している(図1参照)。
これにより、反応生成物の含有率を高めることができ、反応生成物のその後の取り扱いが容易になる。
本工程で蒸発させた第2の有機溶媒は、回収するのが好ましい。
これにより、第2の有機溶媒を有効活用することができ、省資源、反応生成物の生産コスト(精製コスト)の低減の観点から好ましい。
特に、本工程で蒸発させた第2の有機溶媒は、抽出工程に再利用するのが好ましい。
これにより、第2の有機溶媒の純度(精製度)が必要以上に高くなくても、好適に抽出工程を行うことができ、省資源、反応生成物の生産コスト(精製コスト)の低減の観点から好ましい。
本工程での第2の有機溶媒の除去は、例えば、抽出液を加熱したり、減圧環境下に置いたりすることにより行うことができる。より具体的には、エバポレーターを用いて好適に行うことができる。
本工程では、実質的に完全に第2の有機溶媒を蒸発させてもよいし、一部の第2の有機溶媒が残存するように第2の有機溶媒を蒸発させてもよい。
本工程で第2の有機溶媒が除去された後の前記反応生成物の含有率は、90質量%以上であるのが好ましく、95質量%以上であるのがより好ましく、98質量%以上であるのがさらに好ましい。
また、反応生成物(第2の有機溶媒により抽出された成分)に対しては、例えば、クロマトグラフィー等により、精製処理を行ってもよい。より具体的には、第2の有機溶媒により抽出された成分が、目的とする反応生成物として後に詳述するような(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物を含むとともに、当該化合物の異性体や未反応物を含む場合に、目的とする反応生成物を分離し、その他の異性体や未反応物を後に詳述する付加工程へ返送して再利用してもよい。
これにより、目的とする化合物の収率をさらに向上させることができる。
<第1の有機溶媒蒸発工程(塩濃縮工程)>
また、本実施形態では、前述した抽出工程で反応生成物が抽出され、第1の有機溶媒および塩を含む第2の混合液から第1の有機溶媒を蒸発させる第1の有機溶媒蒸発工程をさらに有している(図1参照)。
これにより、例えば、蒸発により分離(蒸留)された第1の有機溶媒を回収し、これを有効利用することができる。
より具体的には、本工程では、第1の有機溶媒蒸発工程で蒸発させた第1の有機溶媒を回収し、反応生成物の合成時の反応溶媒に再利用することができる。
これにより、反応生成物の合成工程を含めて、第1の有機溶媒をより好適に再利用することができ、省資源、反応生成物の生産コストの低減の観点から特に好ましい。
本工程での第1の有機溶媒の除去は、例えば、第2の混合液を加熱したり、減圧環境下に置いたりすることにより行うことができる。より具体的には、エバポレーターを用いて好適に行うことができる。
本工程では、実質的に完全に第1の有機溶媒を蒸発させてもよいし、残部中に一部の第1の有機溶媒が残存するように第1の有機溶媒を蒸発させてもよい。
本工程で第1の有機溶媒が除去された後の残部中における前記塩の含有率は、80質量%以上であるのが好ましく、85質量%以上であるのがより好ましく、90質量%以上であるのがさらに好ましい。
また、第2の混合液から第1の有機溶媒を除去することにより得られた残部を塩添加工程に再使用してもよい。
このようにして得られる前記残部は、前記塩を主成分して含むものであり、塩添加工程に好適に再利用することができる。
また、前記残部が不純物を含むものであっても、当該不純物は、もともと第1の混合液中に含まれていた成分であることが多い。特に、第1の有機溶媒と第2の有機溶媒との間での分配係数の関係で、前記残部中に不純物として比較的多くの前記反応生成物が含まれていることがあるが、前記残部を塩添加工程に再使用することにより、全体としての反応生成物の収率を向上させることができる。
<合成工程>
前述した第1の混合液は、反応生成物および第1の有機溶媒を含んでいればよく、反応生成物および第1の有機溶媒の種類等は特に限定されないが、通常、第1の有機溶媒は、反応生成物の合成工程において用いられた反応溶媒である。
以下、反応生成物の合成について、より具体的な例を挙げて説明する。以下の説明では、2−シクロアルケノン化合物(特に、下記式(11)で示される(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物)を反応生成物として合成する方法について、代表的に説明する。
上記式(11)で示される2−シクロアルケノン化合物は、香料や生理活性物質等の有用物質の前駆体としての利用が期待されている。
本実施形態に係る合成工程では、3−ハロシクロアルカノン化合物(特に、下記式(6)で示される3−ハロ−3−メチルアルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物)から、ハロゲン化水素を脱離させる(脱離工程)。
(式(6)中のXはハロゲン原子であり、Zは二価基である。)
これにより、3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物が得られる。特に、以下に示すような条件を満足することにより、上記式(11)で示される(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物を高い選択性かつ高収率で得ることができる。そして、生成物中における(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物の含有率(選択性)が高いことにより、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物を、異性体である(Z)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物から容易に分離することができ、より純度の高い目的化合物をより好適に得ることができる。
特に、3−ハロシクロアルカノン化合物として下記式(2)で示される3−ハロ−3−メチルシクロアルカノン化合物を用いた場合に、上記のような傾向が顕著に表れ、下記式(1)で示される(E)−3−メチル−2−シクロアルケノン化合物が特に高い選択性かつ特に高い収率で得られる。
(式(2)中のnは1〜8の整数であり、Xはハロゲン原子である。)
上記式(1)で示される(E)−3−メチル−2−シクロアルケノン化合物は、例えば、(R)−(−)−3−メチルシクロペンタデカノンに比べて、高級な香気の香料、香気が強い香料、香気の持続性に優れた香料や、(R)−(−)−3−メチルシクロペンタデカノンに比べて、ヒアルロン酸合成促進作用(生理活性)が強い生理活性物質、ヒアルロン酸合成促進作用以外の生理活性を有する生理活性物質等への変換が可能な前駆体として期待されている。また、式(1)中のnが1〜5、7または8である化合物は、特に、このような期待の大きい新規化合物である。
本工程は、塩基を用いて行うことができる。
塩基を用いることにより、3−ハロシクロアルカノン化合物からハロゲン化水素が脱離するとともに、中和反応が起こり、塩が形成される。
塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物類;炭酸ナトリウム等の炭酸化物類等の無機塩基や、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルコキシド類;ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド、リチウムジイソプロピルアミド等のアミド類;ジアザビシクロンデンセン、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等のアミン等の有機塩基等が挙げられる。
本工程での塩基の使用量は、3−ハロシクロアルカノン化合物に対し、1.0当量以上3.0当量以下であるのが好ましく、1.0当量以上2.0当量以下であるのがより好ましく、1.0当量以上1.5当量以下であるのがさらに好ましい。
これにより、塩基の使用量を抑制し(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物の生産コストの上昇を抑制しつつ、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物の収率、生産性をより優れたものとすることができる。
また、本工程では、前記のような塩基を溶媒に溶解した状態で用いるのが好ましい。
これにより、副生成物の生成をより効果的に抑制することができる。
溶媒としては、塩基を溶解することができるものであれば、いかなるものを用いてもよく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の単価アルコール、エチレングルコール等の多価アルコール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、四塩化炭素等のハロゲン化物系溶媒;ベンゼン等の芳香族炭化水素;シクロペンタン等の脂環式炭化水素;ピリジン等の芳香族性複素環式化合物;ジオキサン等の脂肪族性複素環式化合物;二硫化炭素等の硫黄化合物;アセトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、アルコール系溶媒が好ましく、メタノール、エタノールがより好ましい。
これにより、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物をより高い選択性かつより高収率で得ることができる。
メタノールとエタノールとを併用する場合、エタノール100質量部に対するメタノールの使用量は、2質量部以上30質量部以下であるのが好ましく、3質量部以上20質量部以下であるのがより好ましく、5質量部以上10質量部以下であるのがさらに好ましい。
これにより、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物を特に高い選択性かつ特に高い収率で得ることができる。
本工程での溶媒の使用量は、特に限定されないが、質量比で、0.3倍量以上50倍量以下であるのが好ましく、0.5倍量以上20倍量以下であるのがより好ましい。
これにより、溶媒の使用量を抑制し生産コストの上昇を抑制し、目的とする反応の反応速度を十分に速いものとしつつ、副反応の進行をより効果的に抑制することができる。
また、本工程での反応温度は、−60℃以上10℃以下であるのが好ましく、−50℃以上5℃以下であるのがより好ましく、−40℃以上0℃以下であるのがさらに好ましい。
これにより、目的とする反応の反応速度を十分に速いものとしつつ、副反応の進行をより効果的に抑制することができる。
本工程での処理時間(反応時間)は、20分以上48時間以下であるのが好ましく、30分以上36時間以下であるのがより好ましく、1時間以上24時間以下であるのがさらに好ましい。
これにより、目的とする反応を十分に進行させ、収率をより高いものとしつつ、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた化合物の生産性をより優れたものとすることができる。
また、本工程は、複数の段階に分けて行ってもよい。
例えば、本工程は、第1の温度で反応を行う第1の段階と、前記第1の段階よりも高い温度である第2の温度で反応を行う第2の段階とを有するものであってもよい。
これにより、副反応の進行をより効果的に抑制しつつ、未反応成分の残存をより効果的に抑制し、目的とする(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物をより高い選択性かつより高い収率で得ることができる。また、本工程全体に要する時間を短縮することができ、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物の生産性をより優れたものとすることができる。
このように本工程を複数の段階に分けて行う場合、前記第1の温度は、−60℃以上−10℃以下であるのが好ましく、−50℃以上−15℃以下であるのがより好ましく、−40℃以上−20℃以下であるのがさらに好ましい。また、前記第2の温度は、−25℃以上10℃以下であるのが好ましく、−20℃以上5℃以下であるのがより好ましく、−15℃以上0℃以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
第1の温度での処理時間は、5分以上12時間以下であるのが好ましく、10分以上8時間以下であるのがより好ましく、20分以上3時間以下であるのがさらに好ましい。また、第2の温度での処理時間は、5分以上12時間以下であるのが好ましく、10分以上8時間以下であるのがより好ましく、20分以上3時間以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
上記のような方法では、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物が高い選択性で合成され、通常、副生成物である(Z)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物等の生成量は、十分に少ないものである。
上記のような方法で得られる生成物中において、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物100質量部に対する(Z)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物の含有量は、20質量部以下であるのが好ましく、14質量部以下であるのがより好ましく、9質量部以下であるのがさらに好ましい。
前述したような合成方法は、各種の(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物の製造に適用することができるが、中でも、10員環以上17員環以下の環状構造を有する環状化合物の製造に適用されるものであるのが好ましい。
これにより、目的とする化合物を、より高い収率、より高い選択性で製造することができる。また、これらの化合物は、香料の前駆体、生理活性物質等の有用物質としての利用が特に期待されている化合物である。
また、前述したような合成方法は、各種の(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物の製造に適用することができるが、中でも、(E)−3−メチル−2−シクロアルケノン類の製造に適用されるものであるのが好ましい。言い換えると、上記のような方法で製造される化合物は、前記環状構造の環部分が炭素原子のみで構成された単素環式化合物であるのが好ましい。
これにより、目的とする化合物を、より高い収率、より高い選択性で製造することができる。また、これらの化合物は、香料の前駆体、生理活性物質等の有用物質としての利用が特に期待されている化合物である。
そして、上記のようにして得られた(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物は、例えば、光学活性な3−メチル−2−アルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物(例えば、光学活性な3−メチル−2−シクロアルカノン化合物)の原料(前駆体)として用いることができる。
これにより、安価で効率よく光学活性な3−メチル−2−アルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物(例えば、光学活性な3−メチル−2−シクロアルカノン化合物)を得ることができる。
具体的には、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物を不斉水素化することで、光学活性な3−メチル−2−シクロアルカノン化合物が得られる。
不斉水素化は、例えば、ルテニウム−光学活性ホスフィン錯体を触媒として不斉水素化する方法等により行うことができる。
次に、上述したような合成工程(脱離工程)に供される3−ハロシクロアルカノン化合物(特に、上記式(6)で示される3−ハロ−3−メチルアルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物)の合成方法について説明する。
3−ハロシクロアルカノン化合物(特に、3−ハロ−3−メチルアルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物)は、3−メチル−3−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物、(Z)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物、および、3−メチレン−アルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物のうち少なくとも1種を含む原料環状化合物にハロゲン化水素を付加させることにより、好適に得ることができる(付加工程)。
原料環状化合物として用いることのできる3−メチル−3−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物、(Z)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物、および、3−メチレン−アルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物は、それぞれ、下記式(3)、下記式(4)、下記式(5)で示すことができる。
この付加工程により、上記式(3)、上記式(4)、上記式(5)で示される化合物は、上記式(6)で示される3−ハロシクロアルカノン化合物(3−ハロ−3−メチルアルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物)に変換される。
特に、上記式(2)で示される3−ハロ−3−メチルシクロアルカノン化合物を製造する場合には、原料環状化合物として、下記式(7)で示される3−メチル−3−シクロアルケノン化合物、下記式(8)で示される(Z)−3−メチル−2−シクロアルケノン化合物、および、下記式(9)で示される3−メチレン−3−シクロアルカノン化合物のうち少なくとも1種を用いることができる。
付加工程に供する原料環状化合物が上記式(7)で示される化合物、上記式(8)で示される化合物、および、上記式(9)で示される化合物のうち少なくとも1種を含むものである場合、当該原料環状化合物は、例えば、下記式(10)で示されるジケトン化合物を原料として用いる分子内縮合反応(分子内縮合工程)により好適に合成することができる。
上記のような分子内縮合反応により、複数種の原料環状化合物を含む混合物(3−メチル−3−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物、(Z)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物、および、3−メチレン−アルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物よりなる群から選択される2種以上の化合物を含む混合物)を収率よく得ることができる。
なお、分子内縮合反応に用いるジケトン化合物は、例えば、脂肪族ジヨウ化物(I(CH2)lIで示される化合物)とケトン類とを無機アルカリ化合物の存在下にて反応させることにより得ることができる。
また、分子内縮合反応により得られる原料環状化合物には、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物(例えば、(E)−3−メチル−2−シクロアルケノン化合物)が含まれていてもよい。ただし、このようにして得られる混合物(複数種の環状化合物を含む混合物)中における(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物の含有率は、通常、低いものであるため、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物を高い純度で得るためには、後に詳述する付加工程および前述した脱離工程による異性化を行うのが好ましい。
分子内縮合反応は、触媒としての元素周期律表第2族の化合物の存在下、上記式(10)で示されるジケトン化合物を気相で縮合反応させることにより効率よく得ることができる。
これにより、縮合反応後に、触媒を除去する処理等を省略または簡略化することができ、原料環状化合物の生産性をより優れたものとすることができる。
元素周期律表第2族の化合物(触媒)としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、酸化亜鉛が好ましい。
これにより、分子内縮合反応をより効率よく進行させることができ、反応時間の短縮化を図ったり、原料環状化合物の収率をより高いものとしたりすることができる。
分子内縮合反応における前記触媒の形態は、特に限定されないが、通常、ペレットまたは錠剤である。
前記触媒のBET比表面積は、10m2/g以下であるのが好ましい。
これにより、原料環状化合物の収率をより高いものとしたりすることができ、また、触媒の劣化をより効果的に抑制することができる。
分子内縮合反応では、副反応としての分子間縮合反応を抑制する等の目的で、通常、溶媒または不活性ガスが用いられる。より具体的には、原料のジケトン化合物を、溶媒に溶解し、当該溶液を不活性ガスのキャリア下にて、蒸発管または蒸発缶等の蒸発部にて気化させた後、触媒を充填した反応管へ導入することにより、分子内縮合反応を好適に進行させることができる。
分子内縮合反応における溶媒としては、例えば、炭化水素類等が挙げられ、特に、炭素数が6以上14以下の脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類等を好適に用いることができる。より具体的には、例えば、トルエン、キシレン、デカリン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカン等が挙げられる。当該溶媒としては、前述した第2の有機溶媒蒸発工程で回収した第2の有機溶媒を用いてもよい。また、分子内縮合反応で用いた溶媒は、前述した抽出工程に再利用してもよいし、他の分子内縮合反応で再利用してもよい。
なお、溶媒の使用量は、特に限定されないが、原料のジケトン化合物に対し、質量比で、10倍量以上100倍量以下であるのが好ましい。
これにより、溶媒の使用量を抑制し生産コストの上昇を抑制しつつ、副反応の進行をより効果的に抑制することができる。
不活性ガスとしては、分子内縮合反応において不活性なものであればよく、例えば、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、窒素等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
不活性ガスの使用量は、原料のジケトン化合物1gに対し、0.2L以上20L以下であるのが好ましい。
これにより、不活性ガスの使用量を抑制し生産コストの上昇を抑制しつつ、副反応の進行をより効果的に抑制することができる。
分子内縮合反応時におけるジケトン化合物の分圧は、50mmH2O以上500mmH2O以下であるのが好ましい。
これにより、副反応の進行をより効果的に抑制しつつ、原料環状化合物の収率をより高くすることができる。
原料のジケトン化合物を含む組成物を蒸発させる部位(蒸発部)の温度は、200℃以上450℃以下であるのが好ましく、300℃以上400℃以下であるのがより好ましく、350℃以上380℃以下であるのがさらに好ましい。
い。
これにより、分子内縮合反応をより効率よく進行させることができ、反応時間の短縮化を図ったり、原料環状化合物の収率をより高いものとしたりすることができる。
触媒が存在する部位への原料のジケトン化合物の供給速度は、特に限定されないが、ジケトン化合物のLHSVが0.002以上0.10以下であるのが好ましい。
これにより、副反応の進行をより効果的に防止しつつ、環状化合物への転化率をより高いものとすることができる。また、触媒活性の低下をより効果的に防止することができ、より長期間にわたって安定的に優れた生産性で、環状化合物を製造することができる。
これに対し、ジケトン化合物の供給速度が遅すぎると、ジケトン化合物の反応率が低下し、環状化合物への転化率が低下する。また、ジケトン化合物の供給速度が速すぎると、副反応が進行しやすくなり、また、触媒活性の低下が生じやすくなる。
ジケトン化合物の原料環状化合物への転化率は、40%以上80%以下であるのが好ましい。
これにより、副反応の進行をより効果的に防止しつつ、環状化合物をより効率よく得ることができる。
これに対し、ジケトン化合物の原料環状化合物への転化率が高すぎると、副反応としての分子間縮合反応も進行しやすくなり、目的としない生成物の除去の処理が煩雑となる。また、ジケトン化合物の原料環状化合物への転化率が低すぎると、副反応としての分子間縮合反応が抑制され原料環状化合物への選択性は向上するものの、未反応のジケトン化合物の残存率が高くなる。
なお、未反応のジケトン化合物は、回収して、分子内縮合反応に再使用することができる。
反応時間の経過とともに、触媒活性が徐々に低下するが、反応温度を徐々に上昇させることにより、触媒再賦活化までの触媒使用時間を長くすることができる。
例えば、反応温度を所定温度(例えば、360℃以上400℃以下の温度)まで上昇させても原料環状化合物への転化率が上がらなくなり、低下してきた時点で、原料としてのジケトン化合物の供給を停止し、触媒の再賦活化を行ってもよい。
触媒の再賦活化は、例えば、触媒が存在する部位(触媒層)へ空気または酸素を導入し、触媒層に蓄積した高沸点副生物を焼却除去することにより行うことができる。なお、空気または酸素の導入速度は、特に限定されない。また、再賦活化の温度は、400℃以上であるのが好ましく、450℃以上500℃以下であるのがより好ましい。
反応生成物は、例えば、20℃以上60℃以下で捕集することにより液状で得られる。なお、この反応生成物の主組成物は、使用した溶媒、前述した原料環状化合物および未反応のジケトン化合物である。
得られた反応生成液をさらに冷却することにより、未反応のジケトン化合物の大部分を晶出分離することができ、回収した未反応のジケトン化合物を好適に再利用(例えば、循環利用)することができる。
付加工程には、例えば、上記のようにして得られた反応生成物をそのまま用いてもよいし、上記のように晶出分離により、反応生成物から未反応のジケトン化合物の少なくとも一部を簡易に除去したものやさらに溶媒の少なくとも一部を除去したものを用いてもよいし、さらに、蒸留等の精製処理により、原料環状化合物以外の大部分が除去されたものを用いてもよい。
なお、上記ジケトン化合物の製造は、例えば、脂肪族ジヨウ化物(I(CH2)lIで示される化合物)とケトン類とを無機アルカリ化合物の存在下にて反応させ、さらにその後、脱炭酸反応を行うことにより得ることができる。
前記ケトン類としては、例えば、アセト酢酸エチル等を用いることができる。
また、前記無機アルカリ化合物としては、炭酸カリウム等を用いることができる。
次に、付加工程の詳細について説明する。
前述したように、付加工程では、3−メチル−3−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物、(Z)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物、および、3−メチレン−アルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物のうち少なくとも1種を含む原料環状化合物にハロゲン化水素を付加させ、3−ハロシクロアルカノン化合物(特に、3−ハロ−3−メチルアルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物)を得る。
ハロゲン化水素としては、例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等が挙げられるが、中でも、塩化水素が好ましい。
これにより、3−ハロシクロアルカノン化合物の安定性をより好適なものとすることができ、また、3−ハロシクロアルカノン化合物、2−シクロアルケノン化合物(特に、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物)の生産コストの抑制の観点から有利である。
ハロゲン化水素の使用量は、原料環状化合物に対し、1.0当量以上100当量以下であるのが好ましく、1.5当量以上30当量以下であるのがより好ましく、2.0当量以上30当量以下であるのがさらに好ましく、2.0当量以上10当量以下であるのがもっとも好ましい。
これにより、ハロゲン化水素の使用量を抑制し3−ハロシクロアルカノン化合物の生産コストの上昇を抑制しつつ、より短時間で効率よく3−ハロシクロアルカノン化合物を製造することができ、3−ハロシクロアルカノン化合物の生産性をより優れたものとすることができる。
ハロゲン化水素は、気体の状態や液体状態(凝縮した状態)で用いてもよいが、溶液の状態で用いるのが好ましい。
これにより、副生成物の生成を抑制することができ、また、3−ハロ−3−メチルアルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物、(E)−3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物の生産コストや、安全性の観点からも有利である。
ハロゲン化水素の溶液を構成する溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン化物系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;酢酸;酢酸エチル等のエステル系溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、酢酸エチル溶液を用いるのが好ましい。特に、ハロゲン化水素の含有率が1質量%以上の酢酸エチル溶液を用いるのが好ましく、ハロゲン化水素の含有率が10質量%以上の酢酸エチル溶液を用いるのがより好ましい。
これにより、3−ハロ−3−メチルアルカノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物(3−ハロシクロアルカノン化合物)の収率を特に優れたものとすることができる。また、より短時間で効率よく3−ハロシクロアルカノン化合物を製造することができるため、3−ハロシクロアルカノン化合物の生産性をより優れたものとすることができる。
また、本工程での反応温度は、5℃以上50℃以下であるのが好ましく、10℃以上40℃以下であるのがより好ましい。
これにより、反応温度の制御をより容易に行うことができ、3−ハロシクロアルカノン化合物の生産コストの上昇を抑制することができるとともに、副反応の進行をより効果的に抑制することができ、また、より短時間で効率よく3−ハロシクロアルカノン化合物を製造することができ、3−ハロシクロアルカノン化合物の生産性をより優れたものとすることができる。
本工程での処理時間(反応時間)は、0.5時間以上12時間以下であるのが好ましく、1時間以上8時間以下であるのがより好ましい。
これにより、目的とする反応を十分に進行させ、収率をより高いものとしつつ、3−ハロシクロアルカノン化合物の生産性をより優れたものとすることができる。
上記のようにして得られた3−ハロシクロアルカノン化合物に対しては、後の脱離工程に先立って、溶媒の除去、精製等の処理を施してもよい。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の組成物の処理方法では、前述した工程以外の工程(例えば、前処理工程、中間処理工程、後処理工程等)を有していてもよい。
または、本発明の組成物の処理方法は、前述した塩添加工程および抽出工程を有していればよく、その他の工程は、省略してもよい。
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の実施例中の処理、測定で、温度条件を示していないものについては、室温(23℃)で行った。
(実施例1)
まず、以下のようにして2−シクロアルケノン化合物(3−メチル−2−アルケノン構造を含む環状構造を備えた環状化合物)としての(E)−3−メチル−2−シクロペンタデセノンを合成した。
まず、直径22mm、長さ40cmカラムにおいて、直径3〜4mmの磁製ラシヒ40mLを上部に充填し、触媒としてBET比表面積が5.2m2/gの酸化亜鉛ペレット(直径3〜5mm)60mLを下部に充填し、ラシヒ層温度が315℃となり、触媒層温度が360℃となるように加熱した。
この加熱したカラムへ、不活性ガスとしての窒素(5L/時間)キャリア下にて、5質量%の2,15−ヘキサデカンジオンを溶解したデカン溶液を25g/時間の速度で導入して分子内縮合反応を行った。また、反応生成物を30〜50℃へ冷却して捕集した。
そして、6時間の連続反応を行い、反応生成液をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、上記式(7)で示される3−メチル−3−シクロペンタデセノン、上記式(8)で示される(Z)−3−メチル−2−シクロヘプタデセノン、および、上記式(9)で示される3−メチレン−3−シクロペンタデカノンを含む複数種の15員環の環状化合物からなる原料環状化合物(いずれも式中のnは6)が生成していることが確認された。
次に、塩化水素ガスを吹き込み、溶解させた酢酸エチル(塩化水素の酢酸エチル溶液)(15.1質量%、143.0g、塩化水素含有量592.2mmol)に、原料環状化合物(27.9g、118.1mmol)を加え、室温で2時間反応させた。
次に、水とn−ヘキサンを加え、有機相を重曹水、水、飽和食塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥した。
次に、有機相の溶媒を減圧留去し、3−ハロシクロアルカノン化合物(3−ハロ−3−メチルシクロアルカノン化合物)としての3−クロロ−3−メチルシクロペンタデカノン(式(2)のnが6である化合物)を30.5g、収率94.8%で得た。
その後、上記のようにして得られた3−ハロシクロアルカノン化合物(3−ハロ−3−メチルシクロアルカノン化合物)としての3−クロロ−3−メチルシクロペンタデカノン(272mg、1.00mmol)にエタノール(3.3mL)を加えたエタノール溶液に、水酸化リチウム一水和物(62.9mg、1.50mmol)を加え、0℃で2時間撹拌することにより、脱離反応を進行させ、反応生成物および第1の有機溶媒を含む第1の混合液(第1の混合液A)を得た。第1の混合液中に含まれる第1の有機溶媒の含有率は、88質量%であり、第1の混合液中に含まれる塩(塩化リチウム)の含有率は、1.5質量%であった。
次に、上記の第1の混合液を撹拌しつつ、塩としての塩化リチウム(250mg)を加え、塩添加液を得た(塩添加工程)。
次に、前記塩添加液に、第2の有機溶媒としてのヘキサンを用いて3回抽出し(抽出工程)、分離したヘキサン相(抽出液)を併せた後、エバポレーターを用いてヘキサンを蒸発させた(第2の有機溶媒蒸発工程)。これにより、固体状の反応生成物を得るとともに、ヘキサンを高い回収率で回収することができた。
抽出工程では、第1の混合液中のエタノール100質量部に対し、一回の抽出あたり150質量部のヘキサンを用いた。
得られた生成物は、(E)−3−メチル−2−シクロアルケノン化合物としての(E)−3−メチル−2−シクロペンタデセノン(式(1)のnが6である化合物)と、(Z)−3−メチル−2−シクロペンタデセノンとの異性体混合物であり、収率は96.8%であった。ガスクロマトグラフィー(GC)により比率を求めたところ、(E)−3−メチル−2−シクロヘプタデセノンが87.3%、(Z)−3−メチル−2−シクロヘプタデセノンが12.7%であった。
(実施例2)
[(R)−(−)−3−メチルシクロペンタデカノンの合成]
実施例1で得られた(E)−3−メチル−2−シクロアルケノンの混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル98/2(容積比))にて分離精製した。得られた(E)−3−メチル−2−シクロペンタデセノン(236mg,1.0mmol)をRu2Cl4[(S)−Tol−BINAP]2NEt3(1mg,0.0005mmol)およびメタノール(1mL)と共に、窒素置換した25mLのオートクレーブに入れ、50atm水素圧下にて、25℃で24時間反応させた。次いで、溶媒を留去した後、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル20/1(容積比))にて精製し、(R)−(−)−3−メチルシクロペンタデカノンを226mg(収率95%)得た。
(比較例1)
まず、前記実施例1と同様にして、第1の混合液を得た。
その後、第1の混合液(第1の有機溶媒としてエタノールを含有する液体)に、塩化アンモニウム水溶液を加え、その後、酢酸エチルで2回抽出した。抽出には、第1の混合液100質量部に対し、一回の抽出当たり100質量部の酢酸エチルを用いた。
次に、有機相を水、飽和食塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥した。
得られた生成物は、(E)−3−メチル−2−シクロアルケノン化合物としての(E)−3−メチル−2−シクロヘプタデセノン(式(1)のnが6である化合物)と、(Z)−3−メチル−2−シクロヘプタデセノンとの異性体混合物であり、収率は97.8%であった。
実施例1および比較例1について、第1の混合液の条件、組成物の処理条件を表1にまとめて示す。
なお、実施例1では、塩添加液に対する第2の有機溶媒の溶解度(100gの塩添加液に溶解する第2の有機溶媒の質量)は、5.0以下であった。
前記実施例では、目的とする反応生成物を効率よく分離することができた。
また、実施例1では、第2の有機溶媒として用いたヘキサンを高い回収率(90%以上)で回収することができた。
また、実施例1で抽出液から蒸発、回収したヘキサン(第2の有機溶媒)は、前記と同様にして得た塩添加液に対しての抽出工程において、好適に再利用することができた。
また、実施例1の抽出工程で反応生成物が抽出された後の第2の混合液(エタノール(第1の有機溶媒)および塩を含む第2の混合液)から、エバポレーターを用いてエタノールを蒸発させ、主として塩で構成された固体と、エタノールとに分離した(第1の有機溶媒蒸発工程)。
また、実施例1では、第1の有機溶媒としてのエタノールを高い回収率(90%以上)で回収することができた。
そして、上記のようにして分離された第1の有機溶媒は、前記と同様の合成工程(脱離工程)において、好適に再利用することができた。
また、上記のようにして分離された塩は、前記と同様の塩添加工程において、好適に再利用することができた。
これに対し、比較例1では、満足のいく結果が得られなかった。例えば、比較例1では、反応溶媒(第1の有機溶媒)であるエタノールが、水相に溶け込んでしまうことにより、エタノール(反応溶媒)の回収ができなかった。