以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施例1の電圧異常検出装置の機能ブロック図である。
図示の例の電圧異常検出装置10は、実状態ベクトル変換部11、理想状態ベクトル生成部12、誤差状態ベクトル算出部13、振幅位相成分分解部14、評価値計算・異常判定部15等の各種処理部を有する。
尚、電圧異常検出装置10は、電力変換装置の制御基板上のマイクロコンピュータやパソコン、サーバ装置等の汎用の一般的なコンピュータ上で実現される。よって、特に図示しないが、この様な一般的なコンピュータのハードウェア構成を有している。例えば、CPU等の演算プロセッサ、ハードディスク、メモリ等の記憶装置、入出力インタフェース等(何れも不図示)を有している。記憶装置には予め所定のアプリケーションプログラムが記憶されている。演算プロセッサが、このアプリケーションプログラムを実行することで、上記各種処理部11〜15の後述する処理機能や、後述する実施例2における後述する振幅位相成分分解部21、誤差状態ベクトル算出部22の処理機能等が実現される。
電圧異常検出装置10は、監視対象の交流電圧の検出信号Vs(t)を入力して、正常/異常の判定結果等を出力する。入力される交流電圧検出信号Vs(t)は、上記実状態ベクトル変換部11と理想状態ベクトル生成部12とに入力される。
理想状態ベクトル生成部12は、上記監視対象の交流電圧検出信号Vs(t)を元に、正常時の波形に対応して規格化した理想状態ベクトルxr(t)を生成する。尚、この規格化は、ここでは一例として後述する振幅‘1’の信号を生成するものであるが、後述するように、この例に限るものではない。
理想状態ベクトル生成部12は、交流電圧検出信号Vs(t)から、この交流電圧波形に追従する形で(但し、追従が遅い)交流電圧波形に同期した信号である振幅‘1’の理想位置信号xrp(t)を生成する。更に、理想位置信号xrp(t)を時間微分して規格化した信号、換言すれば理想位置信号xrp(t)の位相を90°進めた信号である振幅‘1’の理想速度信号xrv(t)を求め、これらを成分とする下記の大きさ‘1’で単位円上を動く理想状態ベクトルxr(t)を得る。
そして、これら理想位置信号xrp(t)と理想速度信号xrv(t)を用いて例えば後述する図2の右側や図3に示すような状態平面上のベクトルとして表わしたものが、上記理想状態ベクトルxr(t)と見做すこともできる。詳しくは後述するが、図3等に示す状態平面は、横軸(X軸)が上記の規格化した速度(規格化した電圧変化速度;電圧変化速度/(定格振幅×定格角振動数))、縦軸(Y軸)が上記の規格化した位置(規格化した電圧;電圧値/定格振幅)である二次元平面である。そして、上記理想状態ベクトルxr(t)は後述するようにこの状態平面上で単位円上をほぼ等速円運動する。この理想状態ベクトルxr(t)は交流理論で用いられる複素平面上の回転ベクトルとよく似ているが意味合いが異なるものである。
尚、上記のように状態平面上で円運動する理想状態ベクトルxr(t)は、理想位置信号xrp(t)と理想速度信号xrv(t)を成分として、時間経過に従って状態平面上を推移する状態ベクトルとして成る理想状態ベクトルxr(t)と言うこともできる。これは、後述する実状態ベクトルxs(t)についても同様である。
尚、ここでは、規格化の一例として理想状態ベクトルに関しては振幅が‘1’の信号とする場合(換言すれば、定格値基準で規格化した場合)を例にするが、勿論、この例に限らず、例えば振幅が‘2’や‘3’の信号を生成するような規格化であってもよい。尚、上記定格値基準とは、例えば監視対象の交流電圧の振幅(定格振幅)を基準とすることであり、上記“電圧値/定格振幅”等は、定格値基準で規格化する例であると見做して構わない。
尚、上記振幅‘1’等は、単位法により表される値であり、換言すれば、無次元の値(基準値(定格)に対する比を用いた無次元量)である。
ここで、上記“規格化した電圧変化速度”が“電圧変化速度/(定格振幅×定格角振動数)”となる理由は、例えば下記の考え方によるものである。
すなわち、まず、入力される交流電圧の定格振幅(定格電圧×√2)をA、定格角振動数をωとし、この交流電圧信号がx(t)=Asinωtで表されるものとした場合、まず、上記“規格化した電圧”は、上記の通り“電圧値/定格振幅”であるので、
x(t)/A=(A/A)×sinωt=1sinωt
となる。つまり、振幅が‘1’の信号となる。
また、上記交流電圧信号x(t)を微分すると、
dx(t)/dt=ωAcosωt
となり、これが上記電圧変化速度に相当する。これを規格化するには、ωAで除算すればよい。すなわち、(ωA/ωA)×cosωt=1cosωtとすればよい。これは、すなわち、上記電圧変化速度を、上記“定格振幅×定格角振動数”で除算することになり、これによって上記“電圧変化速度/(定格振幅×定格角振動数)”が得られる。
尚、後述する実状態ベクトルxs(t)は、上記理想状態ベクトルxr(t)と同一の規格化により作成する。すなわち、後述する実位置信号xsp(t)が上記単振動における定格振幅により規格化した位置(電圧値/定格振幅)を示し、この単振動における規格化した速度(電圧変化速度/(定格振幅×定格角振動数))を示すものが後述する実速度信号xsv(t)であると見做してよい。そして、これら実位置信号xsp(t)と実速度信号xsv(t)を用いて例えば後述する図3や図2の右側に示すような状態平面上のベクトルとして表わしたものが、実状態ベクトルxs(t)であると見做して構わない。
実状態ベクトルxs(t)と理想状態ベクトルxr(t)との違いは、実状態ベクトルxs(t)が現在の交流電圧検出信号Vs(t)の状態を示すものであるのに対して、理想状態ベクトルxr(t)は過去の交流電圧検出信号Vs(t)に同期した正常な振動状態を示すものと言える。交流電圧が正常な状態から何らかの異常状態になった直後であれば、実状態ベクトルxs(t)が異常状態を示すのに対して、理想状態ベクトルxr(t)は未だ正常であったときの状態を継続して示すものとなる。
理想位置信号xrp(t)は、交流電圧検出波形に対する位相同期ループ(PLL)等により生成できる。つまり、理想状態ベクトル生成部12は、例えば不図示のPLL回路(位相同期回路)を有するものであってもよい。このPLL回路(位相同期回路)は、既存の一般的なもの、すなわち入力信号波形に追従して入力信号波形と同期する信号を生成出力するものであるが、但し、追従に遅延を持つ必要がある。
交流電圧検出Vs(t)波形が、正常な状態では、PLL回路は、当然、この正常な波形に同期追従する形で理想位置信号xrp(t)を生成・出力する。但し、正常な波形に遅れて追従する過渡状態を経て、定常的には完全な同期追従状態となる。そのため、同期追従に至るまでの過渡状態では異常判定はおこなえない。一方で、定常的な同期追従状態に達していれば、交流電圧検出Vs(t)波形が異常な状態になっても、暫くの間は正常な状態を継続し、異常な波形に遅れて追従することになる。暫くの間とは、上記の追従遅れ時間に相当する。
この様に、理想状態ベクトル生成部12が有する不図示の位相同期回路は、監視対象の交流電圧が正常状態から異常状態になっても、追従遅れ時間が経過するまでは引き続き正常状態に応じた波形を出力し続けることになる。
尚、どの程度追従を遅くするのかは、設計的事項であり、開発者等が適宜決定すればよいが、基本的には、交流電圧検出信号Vs(t)の入力から異常判定部15による異常判定結果が得られるまでに掛かる時間(処理時間)以上の遅延が、望ましい。
また、理想位置信号xrp(t) は規格化した理想的な正弦波形状であることから、位相を90°進めることにより、規格化した理想速度信号xrv(t)を求めることができる。例えば、位相同期ループにおいて、理想位置信号xrp(t)を生成する内部発信器の位相信号から、それを90°進めた位相信号を作り、それを別の内部発信器に位相信号として入力することで理想速度信号xrv(t)を得ることもできる。
また、理想状態ベクトル生成部12は、実状態ベクトル変換部11と同様に、例えばハイパスフィルタ等を用いることでも、実現できる。波形にノイズ成分が含まれる場合に、ノイズ成分を過剰に増幅しないように交流電圧の基本波成分の周波数帯域で微分特性を持ち、それよりも高い周波数帯域でのゲイン上昇を抑えた擬似微分(不完全微分)特性を持つことが望ましい。よって、ハイパスフィルタは、“擬似微分特性を持つフィルタ”であることが望ましい。実状態ベクトル変換部11については“擬似微分特性を持つフィルタ”を持つことが望ましい。一方、理想状態ベクトル生成部12は、例えば不図示のハイパスフィルタ等(擬似微分特性を持つフィルタ)を有する構成であっても構わないが、擬似微分特性を持つフィルタを有しない構成であっても構わない。
また、理想速度信号xrv(t)は、理想位置信号xrp(t)の微分により求めることから、時刻tにおける理想位置信号xrp(t)の変動(変化速度)を意味することになる。つまり、交流電圧波形の電圧値の変化速度を意味することになる。
尚、電圧変化速度算出部11aは、何らかの微分回路機能を有する回路(“擬似微分特性を持つフィルタ”;一例が上記ハイパスフィルタ)を用いることで実現してもよい。交流電圧検出信号Vs(t)を、電圧変化速度算出部11aによって時間微分したうえで規格化部11bによって定格振幅、定格周波数基準で規格化することで、実速度信号xsv(t)を生成する。但し、この例に限らず、まず規格化してから時間微分することでも実速度信号xsv(t)を生成できる。
なお、交流電圧検出信号Vs(t)は一般にノイズ成分を含むことからノイズ成分を過剰に増幅しないように交流電圧の基本波成分の周波数帯域で微分特性を持ち、それよりも高い周波数帯域でのゲイン上昇を抑えた擬似微分(不完全微分)特性を持つことがより重要となる。これより、電圧変化速度算出部11aは、基本的に、上記“擬似微分特性を持つフィルタ”;上記ハイパスフィルタ等)によって実現すべきである。一方で、理想状態ベクトルは、上記の通りハイパスフィルタで生成しても構わないが、他の方法で生成してもよく、例えば後述する図9の構成で生成してもよい。
ここで、図2に、正常時すなわち定格時の交流電圧の振動状態を、状態平面上の規格化されたベクトルに変換する様子を示す。
図2において、図示の実線で示す信号波形x(t)は、理想位置信号xrp(t)あるいは実位置信号xsp(t)に相当する。図示の点線で示す信号波形v(t)は、理想速度信号xrv(t)あるいは実速度信号xsv(t)に相当する。
以下の説明では、信号波形x(t)が理想位置信号xrp(t)、信号波形v(t)が理想速度信号xrv(t)である場合を例にして説明するが、信号波形x(t)が実位置信号xsp(t)、信号波形v(t)が実速度信号xsv(t)の場合もこれと同様であり、同一の規格化を施す。
上記のことから、ここでは、図2が、上記理想状態ベクトルxr(t)(理想位置信号xrp(t)、理想速度信号xrv(t))の具体例と、これを状態平面上に展開する様子を示すものであるものとして説明するが、上記の通り、実状態ベクトルxs(t)についても理想状態ベクトルxr(t)と略同様であると見做して構わない。
入力される上記交流電圧検出信号Vsに同期した信号が、PLL回路で生成・出力され、これが上記理想位置信号xrp(t)(図示の実線で示す信号波形x(t))である。PLL回路のVCO(電圧制御発振器)は、図示の信号波形x(t)のように、規格化された理想位置信号xrp(t)を生成・出力する。
また、上記のように、理想位置信号xrp(t)の位相を90°進めることにより、規格化された理想速度信号xrv(t)を求める。これが、図2では、図示の点線で示す信号波形v(t)である。
そして、図示の通り、これらの2種類の信号の各時刻t毎の値を用いて状態平面上で、
理想状態ベクトルxr(t)=(v(t),x(t))
とする。つまり、横軸を電圧変化速度、縦軸を電圧値とする二次元平面上のベクトルとする。なお、本発明では基本的に縦ベクトルを基準に記述しているが、ここでは記述を簡単にするために横ベクトルとして説明する。つまり、下記の(0,1)、(−1,0)等は、正確には、[0,1]T、[−1,0]Tと記すべきものであるが、ここでは簡略化して記してある。本明細書全体においても、簡略化して記している場合があるものとする。
ここで、図2には、波形の時刻tが図示のS1、S2、S3、S4、S5、S6、S7、S8、S9の各タイミングのときの理想状態ベクトルxr(t)を、状態平面上の図示の各ベクトルS1、S2、S3、S4、S5、S6、S7、S8、S9として示す。
例えば、t=S1の場合には、図示の波形の例では明らかに、v(S1)=1、x(S1)=0である。従って、理想状態ベクトルxr(S1)=(1,0)となる。
同様にして、理想状態ベクトルxr(S3)=(0,1)、理想状態ベクトルxr(S5)=(−1,0)、理想状態ベクトルxr(S7)=(0,−1)、理想状態ベクトルxr(S9)=(1,0)となる。
ここでは正常/異常の判定結果が得られるまでを考えればよいものとするならば、理想位置信号xrp(t)は、常に、交流電圧の検出信号Vs(t)が正常な状態であるときを反映させた信号であると見做してよいので、理想状態ベクトルxr(t)の状態平面上の軌道は、常に、図2に示すように円周上となると見做して構わない。
また、実状態ベクトルxs(t)も、交流電圧の検出信号Vs(t)が正常な状態であるときは、状態平面上の軌道は上記理想状態ベクトルxr(t)と似たものになると考えてよい。
一方で、上記正常状態であった交流電圧に何らかの変化があった場合、それが異常と言えるレベルとは限らないとしても、変化があった瞬間から理想状態ベクトルxr(t)とは異なる軌道となり、例えばある時点で図3に示すような状態となる。図3については後述するものとする。
以上、図2について、理想状態ベクトルxr(t)を例にして説明した。
図1の説明に戻る。
実状態ベクトル変換部11は、上記入力される交流電圧検出信号Vs(t)を、その現在の状態を示す定格値基準で規格化した実状態ベクトルxs(t)に変換する。
実状態ベクトル変換部11は、電圧変化速度算出部11a、規格化部11b、規格化部11cを有する。規格化部11bと規格化部11cは、同じ機能を有し、入力信号が異なる点が相違点である。すなわち、規格化部11bと規格化部11cは、何れも、入力信号を、交流電圧の定格値基準で規格化した信号に変換する機能を有する。規格化部11cの入力は上記交流電圧検出信号Vs(t)であり、規格化部11bの入力は電圧変化速度算出部11aの出力である。
規格化部11cは、入力される交流電圧検出信号Vs(t)を、交流電圧の定格振幅で除して定格値基準の信号に変換する規格化部11cにより規格化することで、実位置信号xsp(t)を生成する。例えば一例としては、交流電圧検出信号Vs(t)を、交流電圧の定格振幅値(例えば定格電圧実効値100Vに相当する定格振幅100√2V)で除算することで、定格値基準の振幅を持つ上記実位置信号xsp(t)に変換する。
尚、上記理想位置信号xrp(t)と理想速度信号xrv(t)は、正常時すなわち定格時の理想的な信号を示すもので、規格化された信号とすることが望ましく、ここでは規格化の一例として振幅‘1’相当の信号とするものとする。これは、例えばPLL回路が振幅‘1’相当の信号を生成・出力する構成とすること等で実現できる。
また、電圧変化速度算出部11aは、入力される交流電圧検出信号Vs(t)を、基本波成分について時間微分した信号を生成する。時間微分は、監視対象の交流電圧の周波数を含む周波数領域で微分特性を持つハイパスフィルタ等(上記“擬似微分特性を持つフィルタ”)により実現できる。
電圧変化速度算出部11aの出力信号を、交流電圧の定格値(例えば定格電圧実効値100Vに相当する定格振幅100√2Vと、定格周波数50Hzに相当する定格角振動数2π×50rad/s)で除して定格値基準で規格化された振幅の信号に変換する規格化部11bにより規格化することで、実速度信号xsv(t)を生成する。
尚、上記電圧変化速度算出部11a及び規格化部11bによる処理は、図2に示す信号波形v(t)を求める処理であると見做して構わない。尚、規格化部11bにより規格化を先に行ってから、電圧変化速度算出部11aによって時間微分を行うことで、実速度信号xsv(t)を生成するようにしても構わない。
以上の処理により、実状態ベクトル変換部11は、下記の実状態ベクトルxs(t)を生成・出力する。
なお、実状態ベクトルx
s(t)も、上記理想状態ベクトルx
r(t)と同様に、上記図2で説明した、横軸を規格化された電圧変化速度、縦軸を規格化された電圧値とする二次元平面上のベクトルである。
これより、例えば図3に示すような、実状態ベクトルxs(t)と理想状態ベクトルxr(t)とが生成され、これらに基づいて誤差状態ベクトル算出部13が例えば図3に示すような誤差状態ベクトルΔxe(t)を生成する。
誤差状態ベクトル算出部13は、実状態ベクトルxs(t)から理想状態ベクトルxr(t)を減算することで(実状態ベクトルxs(t)と理想状態ベクトルxr(t)との差分を求めることで)、誤差状態ベクトルΔxe(t)を算出する。
誤差状態ベクトル算出部13は、実状態ベクトル変換部11から得られた実状態ベクトルxs(t)と、理想状態ベクトル生成部12から得られた理想状態ベクトルxr(t)とから、下記の誤差状態ベクトルΔxe(t)を求める。
ここで、実状態ベクトルx
s(t)のベクトルの長さは監視対象の交流電圧波形の定格振幅基準の値となる。つまり、振幅が定格値と等しい場合はベクトルの長さは‘1’となり、振幅が定格値よりも大きければベクトルの長さは‘1’よりも大きくなる。理想状態ベクトルx
r(t)の長さは、監視対象の交流電圧が正常な状態のときの振幅を反映するものであり、ここでは常に‘1’となっている。一方、実状態ベクトルx
s(t)の長さは、監視対象の交流電圧の現在の状態における振幅を反映するものと見做してよい。
図3に示す例では、実状態ベクトルxs(t)の長さは、理想状態ベクトルxr(t)の長さに比べて短いものとなっている。従って、監視対象の交流電圧は、現在、正常時よりも振幅が小さくなっていることになる。
また、実状態ベクトルxs(t)、理想状態ベクトルxr(t)の回転角の相違は、現在の監視対象の交流電圧の位相の正常時とのずれを反映させたものとなる。図3の例では、実状態ベクトルxs(t)の回転角θsは、理想状態ベクトルxr(t)の回転角θrより大きいので(θs>θr)、現在の監視対象の交流電圧は、正常時に比べて位相が進んでいることになる。尚、逆に、“θs<θr”であるならば、現在の監視対象の交流電圧は、正常時に比べて位相が遅れていることになる。
上述した実状態ベクトルxs(t)の長さ及び回転角(つまり、振幅と位相)に関する正常時からのずれ量が、誤差状態ベクトルΔxe(t)の長さに反映されることになり、従って誤差状態ベクトルΔxe(t)の長さがある程度以上長い場合には監視対象の交流電圧が異常であると判定するようにすることも考えられる。
但し、上述したように、誤差状態ベクトルΔxe(t)には、振幅のずれと位相のずれの両方が反映されることになるので、本手法では、誤差状態ベクトルΔxe(t)を、振幅のずれと位相のずれとに区分したうえで、異常を判定するようにする。すなわち、本手法では、誤差状態ベクトルΔxe(t)に基づいて、上記振幅位相成分分解部14と評価値計算・異常判定部15とによって、監視対象の交流電圧の正常/異常を判定する。
これについて、以下、説明する。
振幅位相成分分解部14では、上記誤差状態ベクトルΔxe(t)を、振幅に係わる成分(振幅誤差)と、位相に係わる成分(位相誤差)とに分解する。ここで、図3で説明したことから、理想状態ベクトルxr(t)の方向は、振幅に対応するものと考えられる。また、理想状態ベクトルxr(t)の方向に直交する方向(一般には理想状態ベクトルxr(t)の時間微分方向)は、位相に対応するものと考えられる。これより、本例では、誤差状態ベクトルΔxe(t)を、理想状態ベクトルxr(t)の方向の成分と、その位相を90°進めた方向(直交する方向)の成分とに分解して成る、振幅誤差Δrと位相誤差Δθを求める。
これら振幅誤差Δrと位相誤差Δθは、例えば下記の(A)式のように求める。
尚、(A)式におけるθrは、図3に示す通り、理想状態ベクトルxr(t)の回転角である。
Rot(θ
r)は反時計回りの回転座標変換であり、振幅位相成分分解は、回転座標変換でも表せることがわかる。振幅誤差Δr(t)と位相誤差Δθ(t)は検出周期毎にこれらの演算をすれば瞬時値として個別に監視できる。これらの振幅誤差Δr(t)と位相誤差Δθ(t)に基づいて、評価値計算・異常判定部15により誤差の評価値の計算や異常の判定ができる。尚、本説明では、表記を簡単にするために(t)を省略して記す場合があり、例えばΔr(t)、Δθ(t)を、Δr、Δθ等と記す場合もあるものとする。
ここで、上記(A)式のうち、特に下記の部分((A)’式とする)は、一般的によく知られている回転座標変換に相当する。
上記一般的によく知られている座標変換について、図4を用いて説明する。
図4では、図示のx−y座標系と、このx−y座標系を反時計回り方向へ図示の角度θcだけ回転させて成る図示のx’−y’座標系とがあり、更に図示のベクトルPがある。
このベクトルPは、x−y座標系では図示のようにP=(px,py)となっている。
このベクトルPは、x’−y’座標系では図示のようにP=(px’,py’)となっている。
この例において、上記ベクトルPを、x−y座標系からx’−y’座標系に座標変換する式は、下記の通りとなる。
上記(A)式や(A)’式におけるΔx
evがp
x、Δx
epがp
yに対応し、Δrがp
x’、Δθがp
y’に対応すると見做してよい。つまり、上記(A)式は、誤差状態ベクトルΔx
e(t)を、図3に示す「x軸が電圧変化速度でy軸が電圧位置の座標系」から、「x軸が理想状態ベクトルx
r(t)の方向で、この方向に直交する方向をy軸とする座標系」へと座標変換するものと見做してよい。
尚、誤差状態ベクトルΔxe(t)=(Δxev,Δxep)は、図5に示すものとなると見做してよい。
また、上記(A)式や(A)’式における角度θrは、理想状態ベクトルxr(t)から求めることができる。すなわち、理想状態ベクトルxr(t)の長さは常に‘1’と見做してよいので、1×sinθr=xrp(t)、1×cosθr=xrv(t)と見做してよいことになる。これより、理想状態ベクトルxr(t)に基づいて、角度θrを求めることができるが、上記のように見做すことは、(A)’式の右側に示す意味となるので、結局、角度θrを求めなくても、下記のように、振幅誤差Δrと位相誤差Δθを求めることができる。
Δr=xrvΔxev+xrpΔxep
Δθ=−xrpΔxev+xrvΔxep
例えばこのようにして、振幅位相成分分解部14は、誤差状態ベクトルΔxe(t)を、理想状態ベクトルxr(t)の方向の成分と、この方向に直交する方向の成分とに分解して成る、上記振幅誤差Δrと位相誤差Δθを求める。
評価値計算・異常判定部15は、振幅誤差Δrや位相誤差Δθを用いて、監視対象の交流電圧の正常/異常を判定する。この判定方法は、例えば一例としては、予め振幅誤差Δrに対応する閾値(振幅用閾値と呼ぶ)と、位相誤差Δθに対応する閾値(位相用閾値と呼ぶ)とを、開発者等が任意に設定しておく。評価値計算・異常判定部15は、上記振幅位相成分分解部14が求めた上記振幅誤差Δrと位相誤差Δθを、それぞれ、対応する閾値と比較することで、例えば閾値を超えた場合に異常と判定する。すなわち、振幅誤差Δrが振幅用閾値を超えた場合には、振幅に関して異常ありと判定する。同様に、位相誤差Δθが位相用閾値を超えた場合には、位相に関して異常ありと判定する。
あるいは、これに加えて更に、誤差状態ベクトル用の閾値も任意に設定しておき、上記誤差状態ベクトルΔxe(t)の大きさを求めて、この大きさが閾値を超えた場合には、監視対象の交流電圧が全体的に考えて異常と判定するようにしてもよいが、この例に限らない。
あるいは、振幅誤差Δrや位相誤差Δθを、そのまま不図示のディスプレイ等にモニタ表示することで監視させるようにしてもよい。また、この場合、例えば、評価値計算・異常判定部15は、誤差状態ベクトルとそれに対応する閾値のみを用いて、正常/異常を判定し、異常と判定した場合にユーザが上記モニタ表示を確認して、振幅と位相のどちらに異常があったのかを確認する、等といった運用方法も可能である。
上記正常/異常の判定方法は、後述する実施例2においても同様であってよい。
上述したように、本手法によれば、交流電圧波形の異常を、振幅変化と位相変化に区分して判定できると共に、発生位相に関わらず常時、定量的に監視し、高速に異常を検出できる。
ここで、上記誤差状態ベクトル算出部13及び振幅位相成分分解部14を、纏めて、不図示の振幅位相誤差算出部の一例であると見做すこともできるものとする。この不図示の振幅位相誤差算出部は、例えば、概略的には、理想状態ベクトルに対する実状態ベクトルの誤差を求める処理機能部であって、振幅に係わる誤差である振幅誤差、または/及び、位相に係わる誤差である位相誤差を求める処理機能部であるものと言うことができる。そして、実施例1の場合、不図示の振幅位相誤差算出部は、上記誤差状態ベクトル算出部13と振幅位相成分分解部14とによって実現するものと言える。また、後述する実施例2の場合には、不図示の振幅位相誤差算出部は、後述する振幅位相成分分解部21と誤差状態ベクトル算出部22とによって実現するものと言える。
以上、実施例1について説明した。
以下、実施例2について説明する。
図6は、実施例2の電圧異常検出装置の機能ブロック図である。
図示の例の電圧異常検出装置10は、実状態ベクトル変換部11、理想状態ベクトル生成部12、振幅位相成分分解部21、誤差状態ベクトル算出部22、評価値計算・異常判定部15等の各種処理部を有する。
ここで、図6の構成のなかで図1に示す実施例1の構成と同様の構成については図1と同一の符号を付してある。従って、図6に示す実状態ベクトル変換部11、理想状態ベクトル生成部12、評価値計算・異常判定部15は、図1に示す構成と同じであってよく、その説明は省略する。
従って、振幅位相成分分解部21、誤差状態ベクトル算出部22についてのみ、以下、説明するものとする。
振幅位相成分分解部21は、理想状態基準で規格化された実状態ベクトルを求める処理機能部である。
振幅位相成分分解部21は、その処理機能自体は振幅位相成分分解部14と同様であり、入力(処理対象ベクトル)が異なるだけと見做しても構わない。すなわち、振幅位相成分分解部21は、実状態ベクトルxs(t)を、理想状態ベクトルxr(t)の方向とその位相を90°進めた方向(直交する方向)とに分解して成る、振幅成分r(t)と位相成分θ’(t)を求める。これら振幅成分rと位相成分θ’は、例えば下記の(B)式のように求める。
尚、上記(A)式と同様に、上記(B)式は下記のような一般的な回転座標変換の式((B)’式とする)と見做して構わない。
振幅位相成分分解部21は、例えば上記(B)’式を用いて、実状態ベクトルx
s(t)に係わる上記振幅成分rと位相成分θ’を求める。すなわち、例えば、下記のようにして求める。
r = xrvxsv+xrpxsp
θ’= −xrpxsv+xrvxsp
尚、本明細書や図面において、表記を簡単にするために(t)を省略して示す場合があるものとする。例えば、上記振幅成分rは、振幅成分r(t)の(t)を省略して示したものと見做しても構わない。省略しているが、本処理は、各時刻t毎に対応したものとなる。
上述した処理は、実状態ベクトルxsに対して理想状態ベクトルxrを基準とした回転座標変換を行ったものと言える。これは、理想状態ベクトルxrの方向をx軸とする座標系(理想基準座標系と呼ぶものとする)に変換したものと言うこともできる。
図7は、理想基準座標系における各ベクトルを示す図である。これは、一例として図3に示す各ベクトルの理想基準座標系における状態を示すものとする。
図示のように理想基準座標系における実状態ベクトルをxs’とし、
xs’=(xsr,xsθ)
とするならば、上記(B)’式による座標変換における上記r、θ’が、xsr、xsθに相当することになる((r,θ’)=(xsr,xsθ))
また、理想状態ベクトルxr自体は、当然、理想基準座標系ではX軸と同じになり、また、その長さは常に‘1’であることから、理想基準座標系における理想状態ベクトルをxr’とすると、図示のように、
xr’=(1,0)
となる。
従って、誤差状態ベクトルは、図示のように、この理想状態ベクトルxr’=(1,0)と、上記実状態ベクトルxs’との差として求められることになる。すなわち、誤差状態ベクトル算出部22によって下記のように求めることができる。
つまり、位相成分θ’が、そのまま位相誤差Δθとなる。
検出周期毎にこれらの演算をすれば瞬時値として個別に監視できる。実施例2においても実施例1と同様に、これらの振幅誤差Δrと位相誤差Δθをもとに評価値計算・異常判定部15により誤差の評価値の計算や異常の判定ができる。
上記振幅位相成分分解部21は、例えば、実状態ベクトルから、理想状態ベクトルの方向の成分である振幅成分(r;xsr)、または/及び、該理想状態ベクトル方向に直交する方向の成分である位相成分(θ’;xsθ)を求める処理部であると言うこともできる。
上記誤差状態ベクトル生成部22は、例えば、上記振幅成分(rs;xsr)、または/及び、上記位相成分(θ’;xsθ)について、それぞれ、理想状態ベクトルの同成分との差分を求めることで、上記振幅誤差Δr、または/及び、上記位相誤差Δθを求める処理部であると言うこともできる。
尚、上記“理想状態ベクトルの同成分”とは、理想状態ベクトルに関する、理想状態ベクトルの方向の成分と、この方向に直交する方向の成分のことであり、上述した理想基準座標系における理想状態ベクトル(=xr’)に相当するものである。従って、上記一例の場合、上記“同成分”は常に(1,0)となるが、この例に限るものではない。
また、尚、上記理想基準座標系は、例えば図7に示すように、x軸は理想状態ベクトル基準の振幅成分(理想状態ベクトル基準の電圧振幅成分)であり、y軸は理想状態ベクトル基準の位相成分(理想状態ベクトル基準の電圧位相成分)であると言うこともできる。尚、「理想状態ベクトル基準の」には「規格化された」という意味が含まれているものとする。
尚、実施例1、2の何れにおいても、理想状態ベクトル生成部12にて理想速度信号xrv(t)を求める際には、理想位置信号xrp(t)の位相を90°進めるのではなく、実状態ベクトル変換部11で実速度信号xsv(t)を求める際に用いている高域通過フィルタと同一の進相処理を、理想位置信号xrp(t)に施すことで求めてもよい。
また、上述した実施例1、2は、何れも単相交流電圧に対する異常検出方法であるが、この異常検出方法を多相交流電圧の各相に対して個別に適用し、各相に対する正論理の異常検出判定の論理和により多相交流電圧全体の異常判定を行うことで、多相交流電圧についても拡張適用して異常判定ができる(応用例)。
つまり、この応用例では、例えば図1に示す電圧異常検出装置10を、多相交流電圧の各相に対してそれぞれ設けて、各異常判定部15による異常判定結果出力の論理和を求める。尚、ここでは、異常判定部15は、異常と判定した場合には‘1’を出力するものとする。これより、上記論理和の出力は、上記多相交流電圧の各相の何れか1つでも異常があった場合には‘1’となり、これは異常を意味するものとなる。
また、上記応用例においては、正常時の交流電圧検出から電圧波形に同期した正弦波である理想位置信号を得る場合には、相数分の理想位置信号が必要になるが、一相に対して得た理想位置信号を多相交流電圧の正常時の各相の位相差分だけシフトする操作によって他の相の理想位置信号を生成することもできる。
以上説明したように、本手法では、交流電圧の振動状態を単振動の状態平面上の状態ベクトルに変換し、正常時の交流電圧の状態を示す理想状態ベクトルと、現在の状態を示す実状態ベクトルとを求めて、これら2つのベクトルの差(正常時と現在との差)を示す誤差ベクトルを求める。そして、誤差ベクトルから、理想状態ベクトル方向の成分としての振幅誤差を求めると共に、理想状態ベクトルに対して90°位相が進んだベクトル方向の成分としての位相誤差を求める。そして、これら振幅誤差、位相誤差を検出周期毎に監視すると共に、振幅誤差、位相誤差に対して別途定義した評価関数(閾値など)に基づいて交流電圧波形の異常を検出する(以上、実施例1)。
但し、この例に限らず、例えば、実状態ベクトルを、理想状態ベクトル方向の成分と理想状態ベクトルに対して90°位相が進んだベクトル方向の成分に分解してから、理想状態ベクトルの同成分との差分を求めることで、上記振幅誤差、位相誤差を求めてもよい(実施例2)。
なお、ここで本発明で用いている単振動の状態平面上の状態ベクトル表現について説明する。単振動の微分方程式を動的システムとして捉え、状態変数を定義して状態方程式を導き、その解を示す。位置をx(t)、角振動数をωとすると、単振動は外力項と減衰項を持たない二次の線形常微分方程式
次数が2なので二つの状態変数
を定義する。x
rvは角振動数で規格化した速度、x
rpは単振動の位置である。
すると状態変数をまとめた状態(変数)ベクトルx
rは
となる。状態変数は、任意の時点で動的システム全体の状態を完全に表せるシステム変数群の最小の組合せとなっている。単振動では、位置と速度が初期値として決まれば上記微分方程式によりその後の位置と速度の時間応答が完全に求まる。つまり、単振動の位置情報だけでは、単振動の挙動を完全に記述できず、速度情報を加えた速度と位置の二つの状態変数の組である状態ベクトルが単振動の状態を表す必要十分な情報となっている。
状態ベクトルを微分して、それを元の状態ベクトルで表すと
したがって単振動の状態変数の挙動を記述する状態方程式は
の自由応答系となる。
この状態方程式の一般解(初期値応答)を求めるためにラプラス変換すると
よって
ここでsはラプラス演算子、X
r(s)はx
r(t)のラプラス変換、x
r(0)は状態ベクトルの初期値である。逆ラプラス変換して時間領域に戻すと状態方程式の一般解は
上式の状態推移(遷移)行列e
Atのラプラス変換は
となる。
よって状態推移行列は上式をラプラス逆変換して
となり、θ=ωtの反時計回りの回転変換Rot(θ)となっていることがわかる。本式が回転変換で表せるのは
において状態変数x
rvを角振動数で規格化した速度としている工夫による。
これより、状態平面上で初期状態x
r(0)を与えると、初期状態ベクトルを半径とし原点を中心とする円上を反時計回りに角速度ωで等速回転する状態軌道を描くことがわかる。真円上の状態軌道となるのは上記のように状態変数x
rvを角振動数で規格化した速度としていることによる。例えば、時刻t=0で速度x
rv(t)=1、位置x
rp(t)=0の初期状態
からの状態軌道は
この様子を単振動の状態平面上での表現として図8に示す。
図8は、状態平面上での単振動の表現を示す図である。
このとき、状態軌道の規格化した速度軸上への射影が単振動の速度xrv(t)=cosωtを、位置軸上への射影が単振動の位置xrp(t)=sinωtを表している。ここでは規格化された振動状態を考えるので初期状態ベクトルは単位円上にとって、単位円上の状態軌道のみを考える。
このように、理想的な単振動の状態ベクトルは上記のような状態平面上において等速円運動することがわかる。そこで、実際の電圧振動(単振動)から位置の振動情報に加えて速度の振動情報に相当する電圧変化速度情報を抽出し、実際の状態ベクトルを求め、振動状態に関する全ての情報を表現できる状態平面上で理想的な状態ベクトルと比較すれば理想波形と実際波形の相違について豊富な情報を得られることが期待できる。
ここで、図9に、上記理想状態ベクトル生成部12の構成例を示す。但し、図9には、構成の全てを示してはいない。理想状態ベクトル生成部12は、図示の2つのsinθテーブル121、123と、90°位相回路122を有する。これらは何れも既存の一般的な構成であり、特に詳細には説明しないが、sinθテーブル121、123には、各位相θそれぞれに対応する振幅値(sin波形電圧値;例えば振幅1に規格化されたsin電圧波形に対応するもの)が、予め登録されている。また、sinθテーブル121と123とは、同じ機能を有する。また、90°位相回路122は、単に、入力に対してπ/2を加算して出力する機能を有する。
まず、理想状態ベクトル生成部12は、既存のPLL回路の機能等により、入力される上記交流電圧検出信号Vs(t)の現在の位相θ(=ωt)を得る。この位相θを、上記sinθテーブル121に入力することで、sinθ信号(理想位置信号)が生成・出力される。また、上記位相θ(=ωt)は、上記90°位相回路122にも入力されて、90°位相が進んだ“θ+π/2”が生成され、これが上記sinθテーブル123に入力される。これより、sinθテーブル123は、sin(θ+π/2)信号(理想速度信号)が生成・出力される。尚、よく知られているように、sin(θ+π/2)=cosθである。本発明は、電圧検出器、A/D変換器、ディジタル・シグナル・プロセッサ等のプロセッサ、メモリ等のハードウェア、および演算アルゴリズムを実装するソフトウェアにより実現することができる。
以上に示した本発明の実施形態は、本発明の好適な実施例の一例を示すだけであり、これに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。
(発明の効果)
従来は、交流電圧の位相のずれを含めた電圧波形の正常時からの変化を定量的に監視したり異常を検出したりできなかった。これに対して、本発明によれば、交流電圧波形の異常を、振幅変化と位相変化に区分して判定できると共に、発生位相に関わらず常時、定量的に監視することができ、以って高速に異常を検出できる。
本発明では、監視対象の交流電圧の振動状態(電圧値(振幅)と、その変化度合い(電圧変化速度))を、単振動の状態平面上のベクトルに変換する。これは、交流電圧の現在の状態を示す実状態ベクトルと、正常な定常状態を示す理想状態ベクトルとに変換するものである。つまり、監視対象の交流電圧が正常から異常になっても、暫くの間は、理想状態ベクトルは正常な定常状態を示すものとなる。
そして、上記実状態ベクトルと理想状態ベクトルとの差を示す誤差状態ベクトルを求め、この誤差状態ベクトルに係わる評価値(大きさ等)と閾値とに基づいて、交流電圧の正常/異常を判定する。この判定は、随時行うことができる。
ここで、上記誤差状態ベクトルは、振幅誤差と位相誤差を含んでいるため、正常時の交流電圧からの電圧低下という振幅変化だけではなく、正常時からの位相のずれも同時に評価して電圧異常を判定することができる。これに関して、例えば上記実施例1の場合には、誤差ベクトルから、理想状態ベクトル方向の成分としての振幅誤差を求めると共に、理想状態ベクトル方向と直交する成分としての位相誤差を求める。そして、これら振幅誤差、位相誤差に対して別途定義した評価関数(閾値など)に基づいて交流電圧波形の異常を検出する。この例に限らず、上記実施例2の方法によって、上記振幅誤差と位相誤差を求めるようにしてもよい。
何れにしても、本手法によれば、交流電圧の振幅変化と位相変化を符号を含めた瞬時値として同時に得ることができ、これらを定量的に監視・評価することで電圧低下のみでなく、電圧上昇・低下、位相の進み・遅れおよびこれらが組合わさった異常を高速検出できるという効果を奏する。
また、状態平面上では、理想状態ベクトルは、単位円上を滑らかに動き、大きさは位相にかかわらず常に1である。状態平面上では、正常時であれば実状態ベクトルも、ほとんど単位円上を動き、大きさは位相にかかわらずほぼ1である。したがって、誤差ベクトルとその評価値の計算は、位相にかかわらず数値的に安定しており、従来の瞬時値比較方式において見られたような交流電圧の零クロス点近傍の位相で発生した電圧異常の判定が困難になるといった特異点がない。つまり、異常発生時の位相にかかわらず安定して高速に異常判定ができる。例えば、通常、位相変化(周波数変化)は電圧の零クロスのタイミング毎に検出するので、1周期から半周期は検出が遅れることがあるが、本発明では高速に検出可能である。
また、実施例2は、実施例1に比べて、処理負荷が軽減できる効果も得られる。すなわち、実施例2では、上述した通り、誤差状態ベクトル算出部22は、振幅に関しては‘1.0’との差分を求めるだけであり、位相に関しては実質的に何も処理を行わないで済むので(位相成分θ’がそのまま位相誤差Δθとなるので)、処理負荷が少なくて済む。
次に、以下、実施例3について説明する。これは、図10、図11、図12の一例を用いて実施例3について説明するものとするが、この例に限らない。実施例3は、上記実施例1または実施例2に対して、オフセット除去機能を追加したものである。図10は実施例1(図1)にオフセット除去機能を追加した例を示す。但し、この例に限らず、実施例2(図6)に対してオフセット除去機能を追加した構成であっても構わないが、これについては特に図示・説明はしないものとする。
図10は、実施例3の構成図であり、上記の通り実施例1(図1)にオフセット除去機能を追加した構成例を示すものである。これより、図10において図1の構成と略同様の構成要素には同一符号を付してあり、その説明は省略するものとする。
但し、説明の都合上、一部の記号については図1とは異なる表記とする。すなわち、図1でも図10でも、評価値計算・異常判定部15に対する入力(及び外部への出力)が“振幅誤差Δrと位相誤差Δθ”であると言う点では同じである。しかし、図1においては振幅位相成分分解部14の出力がそのまま“振幅誤差Δrと位相誤差Δθ”となっていた。これに対して、図10の場合、振幅位相成分分解部14の出力に対してオフセット除去部41、42によってオフセット除去したものが“振幅誤差Δrと位相誤差Δθ”となる。これより、図10においては振幅位相成分分解部14の出力を図示のように“元の振幅誤差Δr’、元の位相誤差Δθ’”と表記するものとする。
つまり、図10の場合、振幅位相成分分解部14の出力“元の振幅誤差Δr’”に対して、オフセット除去部41によってオフセット除去されたものが、振幅誤差Δrであり、この振幅誤差Δrが、評価値計算・異常判定部15に入力したり、外部へ出力されることになる。同様に、図10においては、振幅位相成分分解部14の出力“元の位相誤差Δθ’”に対して、オフセット除去部42によってオフセット除去されたものが、位相誤差Δθであり、この位相誤差Δθが、評価値計算・異常判定部15に入力したり、外部へ出力されることになる。
以下、上述したオフセット除去について、更に説明する。
図1や図10において、振幅位相成分分解部14から出力される振幅誤差や位相誤差に、直流的なオフセットが重畳される場合がある。このような直流的なオフセットの重畳は、フィルタ特性に起因するものと考えられ(例えば“擬似微分特性を持つフィルタ”の特性)、実際に本発明者などにより確認されている現象である。尚、各種近似計算をしていること等により、オフセットが生じている可能性も考えられる。正常時においては誤差ベクトルを構成する振幅誤差Δr、位相誤差Δθの何れもほぼ‘0’となるはずであるが、実際には‘0’にはならず、任意の値が観測される
図1においては、振幅位相成分分解部14から出力される振幅誤差や位相誤差が、そのまま、評価値計算・異常判定部15に入力されるので、オフセットの影響により、所望の電圧異常判定動作が困難になることがある。例えば、オフセットの重畳により異常判定閾値に到達しやすくなったり、逆に到達し難くなったりすることで、意図せず電圧異常検出感度が変化することがある。
実施例3では、例えば図10に示すように、振幅位相成分分解部14から出力される“元の振幅誤差Δr’、元の位相誤差Δθ’”にオフセットが重畳していても、オフセットを除去するオフセット除去部41、42を設けたことで、上記の問題を解決できる。つまり、図10では、評価値計算・異常判定部15に入力される振幅誤差Δr、位相誤差Δθは、何れも、オフセットの影響は除去されている(正常時であれば、ほぼ‘0’となっているはずである)ので、上記の問題が解消される。
尚、上記の通り、図10は本手法を実施例1(図1)に適用した構成を示すが、本手法は実施例2(図6)に適用してもよく、その場合は図示しないが、図6の誤差状態ベクトル算出部22の出力が上記“元の振幅誤差Δr’”、“元の位相誤差Δθ’”であるものとし、これら“元の振幅誤差Δr’”、“元の位相誤差Δθ’”がオフセット除去部41、42に入力される構成とする。勿論、この場合も、図10と同様に、オフセット除去部41、42の出力が振幅誤差Δr、位相誤差Δθとして例えば評価値計算・異常判定部15に入力されることになる。
オフセット除去部41、42の構成例を、図11、図12に示す。尚、オフセット除去部41、42は、両方とも同一の構成であってよく、両方とも図11の構成であっても、両方とも図12の構成であってもよいが、これらの例に限らない。
図11、図12の何れにおいても、入力は“元の振幅誤差Δr’”または“元の位相誤差Δθ’”であり、出力は振幅誤差Δrまたは位相誤差Δθとなる。勿論、入力が“元の振幅誤差Δr’”の場合に出力が振幅誤差Δrとなり、入力が“元の位相誤差Δθ’”の場合に出力が位相誤差Δθとなる。
図11に示す第1の構成例は、正常時の各誤差(Δr’またはΔθ’)の定常値を計測して記憶し、記憶された定常値を元の誤差信号(Δr’またはΔθ’)から減じることでオフセット除去する構成である。
図12に示す第2の構成例は、各誤差(Δr’またはΔθ’)の定常値を常時計測して、計測した定常値を元の誤差信号(Δr’またはΔθ’)から減じることでオフセット除去する構成である。
尚、定常値の計測方法は、一般的な任意の方法であってよく、入力される“元の振幅誤差Δr'”または“元の位相誤差Δθ'”のサンプリングデータから、例えばその平均値(移動平均など)を算出してもよいし、ローパスフィルタを用いても良い。
オフセット除去処理の第1の構成例では、“元の振幅誤差Δr'”または“元の位相誤差Δθ'”に対して、図11に示すように正常時フラグに基づいて、“正常時の定常値計測・記憶部”43によって、元の誤差信号の定常値を計測する。これは、例えば、“正常時の定常値計測・記憶部”43は、正常時フラグがONの状態のときに入力された“元の振幅誤差Δr'”、“元の位相誤差Δθ'”は記憶して定常値計測に用い、正常時フラグがOFFの状態のときに入力された“元の振幅誤差Δr'”、“元の位相誤差Δθ'”は破棄する(定常値計測には用いない)。
また、“正常時の定常値計測・記憶部”43は、記憶する“元の振幅誤差Δr'”、“元の位相誤差Δθ'”の数が、予め設定される上限値に達していたら、最も古いデータを削除することで、最新のデータを記憶するようにしてもよい。そして、現在記憶しているデータに基づいて、例えば平均値を算出すること等によって定常値を計測する。
正常時フラグをONするタイミング(定常値を計測するタイミング)は、ユーザ等が任意に決めて設定してもよいし、装置が判定してもよい。装置が判定する場合、例えば、“元の振幅誤差Δr'”または“元の位相誤差Δθ'”が安定している(変動量が所定値以下など)場合にはフラグONするが、この例に限らない。あるいは、ユーザが、経験上、安定運転していると考えられる時間帯の時刻をタイマにセットして、タイマアップしたらフラグONする構成とすることで、定期的に正常時の元の誤差信号を記憶させて定常値を計測させるようにしてもよい。
上記“正常時の定常値計測・記憶部”43が求めた定常値は、減算器44に入力される。減算器44には“元の振幅誤差Δr'”または“元の位相誤差Δθ'”が入力している。減算器44によって“元の振幅誤差Δr'”または“元の位相誤差Δθ'”から定常値が減算されることで、振幅誤差Δrまたは位相誤差Δθが生成される。
上記のように、第1の構成例では、正常時における“元の振幅誤差Δr'”または“元の位相誤差Δθ'”の定常値を計測して、減算器44によって“元の振幅誤差Δr'”または“元の位相誤差Δθ'”から定常値を減じることで、オフセットを打ち消すことができ、正常時において最終的に出力される振幅誤差Δrおよび位相誤差Δθを、それぞれほぼ‘0’にすることができる。定常値の計測については、一次遅れフィルタを代表とする低域通過フィルタや移動平均処理により実現できる。
尚、ここでいう“正常時”とは、正常状態と見做されるときであり、上記の通り例えばユーザ等が任意に判断してよいものであり、従って必ずしも正常状態であることが保証されるわけではない。また、経験上、異常状態となるのは極く短時間であり、殆どの時間は正常状態であると見做してよいことになる。この様な観点から考えると、定常値の計測は、必ずしも正常時とする必要はないことになる。
以上の観点から、図12に示す第2の構成例では、定常値計算部45が行う定常値の計測は、例えば常時行うものとする。尚、常時とは、常に行うことを意味するとは限らず、例えば定期的に(10分毎、1時間毎など)に行うものであっても構わない。第1の構成例の“正常時の定常値計測・記憶部”43では正常時フラグがONのときに定常値の計測を行ったのに対して、第2の構成例の定常値計算部45では正常時フラグの入力が無いことから、この様な制約がないことを“常時”と言っているものである。
オフセット除去処理の第2の構成例では、オフセットが重畳している“元の振幅誤差Δr'”または“元の位相誤差Δθ'”に対して、図12に示すように定常値計算部45により、常時、誤差信号(Δr’またはΔθ’)の定常値を計算する。
上述したように通常の運転時は殆どが正常時に相当すると見做してよいことから、“元の振幅誤差Δr'”または“元の位相誤差Δθ'”の定常値を常時算出して、減算器46によって“元の振幅誤差Δr'”または“元の位相誤差Δθ'”から定常値を減じることで、オフセットを打ち消すことができ、最終的に出力される振幅誤差Δrまたは位相誤差Δθを、正常時であればほぼ‘0’にすることができる。尚、上記の通り、正常時においては誤差ベクトルを構成する振幅誤差Δr、位相誤差Δθの何れもほぼ‘0’となるはずである。
尚、定常値の計測については、第1の構成例と同様に、一次遅れフィルタを代表とする低域通過フィルタや移動平均処理により実現できる。
オフセット除去処理の第1の構成例は、オフセットに時間的変動が少ない場合に適しており、誤差のゆっくりとした変動を捉えることができる。一方、オフセット除去処理の第2の構成例は、常時、オフセットを定常値として計算していることから、オフセットが時間変動する場合のオフセット除去性能が高いが、ゆっくりとした変動を捉えにくい傾向がある。ただし、定常値計算部45の低域通過フィルタのカットオフ周波数や移動平均処理の平均区間長により、ある程度調整が可能である。調整の方向としてはオフセットの時間的変動が速い場合はカットオフ周波数を高く、移動平均区間長を短くし、オフセットの時間的変動が遅い場合はカットオフ周波数を低く、移動平均区間長を長くする。第1の構成例では、定常値の計測と記憶の頻度を上げることでオフセットの時間的変動に対処することも可能である。
次に、以下、実施例4について説明する。これは、図13の一例を用いて実施例4について説明するものとするが、この例に限らない。実施例4は、上記実施例1または実施例2に対して、リプル除去機能を追加したものである。図13は実施例1(図1)にリプル除去機能を追加した例を示すが、この例に限らず、実施例2(図6)に対してリプル除去機能を追加した構成であっても構わないが、これについては特に図示・説明はしないものとする。
図13は、実施例4の構成図であり、上記の通り実施例1(図1)にリプル除去機能を追加した構成例を示すものである。これより、図13において図1の構成と略同様の構成要素には同一符号を付してあり、その説明は省略するものとする。
但し、説明の都合上、一部の記号については図1とは異なる表記とする。これは上記実施例3の場合と同様であり、従ってここでの説明は省略するが、図13に示す通り、振幅位相成分分解部14の出力を図示のように“元の振幅誤差Δr’、元の位相誤差Δθ’”と表記するものとし、これらがリプル除去部51、52に入力され、リプル除去部51、52の出力を振幅誤差Δr、位相誤差Δθとして例えば評価値計算・異常判定部15に入力される構成であるものとする。
尚、本手法は実施例2(図6)に適用した場合、図6の誤差状態ベクトル算出部22の出力が上記“元の振幅誤差Δr’”、“元の位相誤差Δθ’”であるものとし、これら“元の振幅誤差Δr’”、“元の位相誤差Δθ’”がリプル除去部51、52に入力される構成とする。勿論、この場合も、図13と同様に、リプル除去部51、52の出力が振幅誤差Δr、位相誤差Δθとして例えば評価値計算・異常判定部15に入力されることになる。
以下、リプル除去について詳しく説明する。
例えば、図1や図13において、振幅位相成分分解部14から出力される振幅誤差や位相誤差に、交流的なリプル(例えば正弦波状のリプル)が重畳する場合がある。図1においては、振幅位相成分分解部14から出力される振幅誤差や位相誤差が、そのまま、評価値計算・異常判定部15に入力されるので、リプルの影響により、所望の電圧異常判定動作が困難になることがある。例えば、リプルの重畳により異常判定閾値に到達しやすくなり、意図せず電圧異常検出感度が高くなることがある。
リプル除去部51、52は、入力される上記“元の振幅誤差Δr’”、“元の位相誤差Δθ’”に重畳するリプルを除去して上記図13における振幅誤差Δr、位相誤差Δθとして出力する。これは、例えば、重畳するリプルの周波数帯域を除去するものである。
ここで、上記“リプル”とは、ここでは所定の周波数の振動(信号成分)を意味するものとする。本発明者により、振幅位相成分分解部14から出力される上記“元の振幅誤差Δr’”、“元の位相誤差Δθ’”に、所定の周波数の振動(正弦波状の信号成分)が重畳することを確認されている。リプルは、フィルタ特性に起因すると考えられる。
上記リプル除去部51、52は、上記“元の振幅誤差Δr’”、“元の位相誤差Δθ’”から、上記所定の周波数の信号成分を除去する機能を有するものである。具体例としては、例えば、上記リプル除去部51、52は、その中心周波数が上記所定の周波数である帯域除去フィルタである。これより、リプル除去部51、52は、上記“元の振幅誤差Δr’”、“元の位相誤差Δθ’”から、重畳するリプルの信号成分を除去することができる。但し、この例に限らない。
尚、リプル除去部51、52は、両方とも同一の構成であっても構わないが、図示の例では、リプル除去部51は“元の振幅誤差Δr’”を入力として振幅誤差Δrを生成・出力し、リプル除去部52は“元の位相誤差Δθ’”を入力として位相誤差Δθを生成・出力する。これら振幅誤差Δr、位相誤差Δθは、例えば評価値計算・異常判定部15に入力されるが、リプル除去されていることから上述した問題は生じない。
なお,帯域除去フィルタとしては,例えば以下の二次の伝達関数G(s)を持つものを用いれば良い。
ここで,ω
0=2πf
0は中心角周波数,f
0は中心周波数,Qは帯域除去特性の鋭さを示すクオリティ・ファクタで,リプルの除去結果と誤差状態ベクトルの変化時の振動度合いのバランスを見て調整する。ζは減衰係数(減衰比)でQ=1/(2ζ)の関係がある。
ここで、上記の通り、リプルは、フィルタ特性に起因すると考えられ、本例のように上記“擬似微分特性を持つフィルタ”等を用いる場合、上記リプルに係わる上記所定の周波数が、系統の定格周波数(監視対象の交流電圧の定格周波数;上記一例では50Hz)の2倍の周波数となることが、本発明者により確認されている。これより、例えば、上記リプル除去部51、52は、その中心周波数が、系統の定格周波数の2倍の周波数である帯域除去フィルタとすることが望ましいが、この例に限らない。
上記のように振幅誤差や位相誤差に交流的なリプル(例えば正弦波状のリプル)が重畳することで,所望の電圧異常判定動作が困難になることがある。例えば,リプルの重畳により異常判定閾値に到達しやすくなり,意図せず電圧異常検出感度が高くなることがある。本実施例ではリプル除去することで、この様な問題を解消できる効果を奏する。
尚、特に図示しないが、実施例3と実施例4とを組み合わせた形態であっても構わない。つまり、上記オフセット除去部41,42とリプル除去部51,52とを有し、振幅位相成分分解部14の出力に対して、オフセット除去とリプル除去の両方を行ったものを、振幅誤差Δr、位相誤差Δθとして出力する構成であっても構わない。
次に、以下、実施例5について説明する。
実施例5は、図1や図6や図10や図13における「評価値計算・異常判定部15」の処理の一例を提案するものである。
実施例5における「評価値計算・異常判定部15」は、分散型電源の単独運転や分散型電源の系統擾乱時の運転継続を判定するものである。尚、実施例5における「評価値計算・異常判定部15」は、特に「評価値計算・異常判定部15’」と記すものとする。「評価値計算・異常判定部15’」は、「評価値計算・異常判定部15」の一例であるが、「評価値計算・異常判定部15」はこの例に限らない。
「評価値計算・異常判定部15’」は、「単独運転」であるか否かの判定や、「系統擾乱」であるか否かの判定を行うものである。まず、「単独運転」、「系統擾乱」について説明するが、これらは本技術分野おいては一般的な話であるので、簡単に説明するものとする。
例えば太陽光発電等の発電設備(分散型電源)が、商用電源系統に接続している場合、分散型電源が連系する系統やその上位系統において、事故が発生して系統の引き出し口遮断器が開放された場合、作業時又は火災などの緊急時に線路途中に設置される開閉装置などを開放した場合などに、分散型電源が系統から解列されずに商用電源から分離された部分系統内で運転を継続すると、本来無電圧であるべき範囲が充電されることになる。このように商用電源から切り離された系統内において、分散型電源の運転によって生ずる電力供給のみで当該系統に電気が通じている状態を「単独運転」という。
「単独運転」になった場合には、人身及び設備の安全に対して大きな影響を与える恐れがあるとともに、事故点の被害拡大や復旧遅れなどにより供給信頼度の低下を招く可能性がある。この為、単独運転を検出して分散型電源を系統から解列できるような単独運転防止対策を採ることが義務付けられている。この為、「単独運転」時には分散型電源等の発電設備を系統から解列する必要がある。
従来の「単独運転」判定方法の一例が、例えば参考文献1(特開2016−131467号公報)に開示されている。
一方、「系統擾乱」とは、FRTに係わるものである。FRTとは“Fault Ride Through”の略であり、系統擾乱時における運転継続性能を意味する。商用電源系統に関して、落雷等によって一時的に大きな電圧降下が生じる場合がある。この様な場合に、上記分散型電源のような発電設備が系統から一斉に解列すると、電力品質に大きな影響を与えることになり、停電を招く場合がある。この為、「系統擾乱」時には分散型電源等の発電設備を系統から解列しないようにする必要がある。
上記のように、例えば太陽光発電等の発電設備(分散型電源)を、実質的に、「単独運転」時には発電停止し、「系統擾乱」時には発電継続する必要がある。従って、実際には単独運転の状態であるにも係わらず「系統擾乱」と誤判定したり、実際には系統擾乱の状態であるにも係わらず「単独運転」と誤判定した場合、問題となる。
また、当然のことながら、“「単独運転」且つ「系統擾乱」”等と判定されることは、矛盾したものとなり、発電停止すべきか発電継続すべきか分からなくなる。
尚、特に図示しないが、一般的に、例えば太陽光発電設備により発電した直流電流を交流電流に変換する装置(PCS;パワーコンディショナー(Power Conditioning System))が設けられている。このPCSは例えば上記部分系統に接続されており、この部分系統に接続された任意の負荷に電力供給する。また、部分系統は変圧器を介して商用電源系統に接続している。
本手法は、例えばこの様なPCSに適用することで、例えば「単独運転」と判定された場合には、当該PCSが係わる分散型電源を系統から解列する制御を行う構成とするが、この例に限らない。
単独運転状態になった局所系統の系統電圧、および、系統擾乱時の系統電圧は、正常時の系統電圧とは異なった状態に変化することから、実施例5では、交流電圧の振幅変化と位相変化の二つの要素を瞬時値として取得し、これら二つの要素を、組み合わせを含めて定量的に監視・評価することで、「系統擾乱」と「単独運転」とを区別して高速検出することができる。
図14には、実施例5の「評価値計算・異常判定部15’」の異常判定方式を図式的に示している。
図14には、振幅誤差を横軸、位相誤差を縦軸とした二次元平面(誤差状態平面と呼ぶものとする)が、示されている。誤差状態平面上には、誤差状態がその領域に入れば特定の電圧異常と判定するための2種類の判定領域が設定れている。一つは正負に分割された単独運転判定領域であり、もう一つは系統擾乱時運転継続判定領域である。これら各判定領域は、例えば開発者等が任意に決めて設定する。
「評価値計算・異常判定部15’」は、予め設定される上記各判定領域と、入力される上記振幅誤差Δr、位相誤差Δθとに基づいて、「単独運転」であるか否か、「系統擾乱」であるか否かを判定する。「評価値計算・異常判定部15’」に入力される上記振幅誤差Δrと位相誤差Δθとによって示される座標が、単独運転判定領域内であれば、「単独運転」と判定する。同様に、「評価値計算・異常判定部15’」に入力される上記振幅誤差Δrと位相誤差Δθとによって示される座標が、系統擾乱時運転継続判定領域内であれば、「系統擾乱」と判定する。上記振幅誤差Δrと位相誤差Δθとによって示される座標が、単独運転判定領域、系統擾乱時運転継続判定領域の何れにも該当しない場合には、正常状態と判定する。
尚、単独運転判定領域と系統擾乱時運転継続判定領域とは、相互に排他的とする(重複する部分はない)ように設定することが望まれる。
概略的には、位相誤差Δθまたは/及び振幅誤差Δrを、上記各判定領域に対応する所定の各種閾値と比較することで、振幅誤差Δrと位相誤差Δθとによって示される座標が、単独運転判定領域や系統擾乱時運転継続判定領域の領域内にあるか否かを判別する。これによって、「系統擾乱」や「単独運転」を判別する。尚、各判定領域(対応する各閾値)は、例えば開発者等が予め任意に設定してよいが、この例に限らない。
図14に示す例では、単独運転判定領域は、振幅誤差Δrの値は関係なく、位相誤差Δθの値が所定の正の閾値ΔθthISLD以上の領域と所定の負の閾値−ΔθthISLD以下の領域である。従って、上記振幅誤差Δrと位相誤差Δθとによって示される座標が、これら2つの領域の何れかに含まれる場合には、「単独運転」である判定と判定する。また、図14に示す例では、「単独運転」判定に関しては、振幅誤差Δrに関しては特に条件はなく、位相誤差Δθのみを用いて判定してよいことになる。すなわち、位相誤差Δθが「ΔθthISLD以上であるか、または−ΔθthISLD以下である」場合に、「単独運転」である判定と判定する。
また、図14に示す例では、系統擾乱時運転継続判定領域は「位相誤差Δθが図示の−ΔθthLVRT〜ΔθthLVRTの範囲内、且つ、振幅誤差Δrが図示のΔrthLVRT以下」の領域である。上記振幅誤差Δrと位相誤差Δθとによって示される座標が、例えばこの様な系統擾乱時運転継続判定領域内である場合に、「系統擾乱」であると判定することになる。つまり、図14の例では、「系統擾乱」判定に関しては「位相誤差Δθが−ΔθthLVRT〜ΔθthLVRTの範囲内であって、且つ、振幅誤差ΔrがΔrthLVRT以下」である場合に、「系統擾乱」であると判定する。尚、図示の例では、ΔrthLVRTは負の値となっている。
図15は、図14に示した異常判定方法をロジック表現した図であり、振幅誤差と位相誤差に対する条件判断と条件判断結果に対する論理演算から構成している。
図14で説明したように、この例では「単独運転」判定には位相誤差Δθのみを用い、図15に示すように位相誤差Δθの絶対値が閾値ΔθthISLD以上であるか否かを判定するものである。位相誤差Δθの絶対値が閾値ΔθthISLD以上である場合には「単独運転」であると判定する。
また、図15に示すように、「系統擾乱」の判定は、振幅誤差Δrに係わる判定結果と、位相誤差Δθに係わる判定結果との論理積として表わされる。振幅誤差Δrに係わる判定は、振幅誤差Δrが閾値ΔrthLVRT以下であるか否かであり、この条件が満たされる場合に判定結果が‘1’となる。位相誤差Δθに係わる判定は、位相誤差Δθの絶対値が閾値ΔθthLVRT以下であるか否かであり、この条件が満たされる場合に判定結果が‘1’となる。
そして、上記2つの判定結果の両方が‘1’である場合のみ、すなわち振幅誤差Δrが閾値ΔrthLVRT以下で、且つ、位相誤差Δθの絶対値が閾値ΔθthLVRT以下である場合のみ、これらの論理積61が‘1’となり、以って「系統擾乱である」と判定される。
尚、上記の通り、単独運転判定領域や系統擾乱時運転継続判定領域の設定は、図14の例に限らないのであり、他の設定例を図16に示す。図16には、単独運転判定領域と系統擾乱時運転継続判定領域とが、相互に排他的になっているが相互に隣接している例を示している。尚、これより、図16では、図示はしていないが実質的に「ΔθthLVRT=ΔθthISLD」となっている。
また、尚、「単独運転」「系統擾乱」の判定ロジックは、図15に示す判定ロジック例に限るものではなく、他の一例を図17に示す。図17は、評価値計算・異常判定部15’の異常判定ロジックの他の例であると見做しても構わない。
図17に示す例では、上記振幅誤差Δr、位相誤差Δθだけでなく従来の位置情報も用いる。従来の位置情報については後に図18、図19で説明するが、例えばゼロクロス検知によって得られる、監視対象電圧(系統電圧等)の位相(周期情報または周波数情報等も同等)に係わる情報である。
図17において、「系統擾乱」の判定ロジックは、図15の例と同じであるので、ここでは特に説明しないが、この判定に係わる論理積63の出力は、「単独運転」の判定に用いられる。「単独運転」の判定に係わる論理積62の2つの入力の一方に、論理積63の出力が否定入力している。つまり、論理積63の出力が‘1’のとき論理積62の上記一方の入力は‘0’となる。論理積62の他方の入力は、位相情報を用いた判定結果となる。尚、「系統擾乱」の判定ロジックで「系統擾乱」であると判定される場合に、論理積63の出力が‘1’となる。
位相情報を用いた判定は、図17に示すように、位相情報の絶対値が、予め任意に設定される所定の閾値(位相情報閾値)以上であるか否かにより判定する。判定結果は上記論理積62の他方の入力となる。位相情報の絶対値が位相情報閾値以上である場合に、判定結果が‘1’となるが、もし、論理積63の出力が‘1’であれば(「系統擾乱」と判定される場合)、論理積62の出力は‘1’とはならず、以って「単独運転」とは判定されない。位相情報の絶対値が位相情報閾値以上であって、且つ、論理積63の出力が‘0’ の場合(「系統擾乱」ではないと判定される場合)のみ、論理積62の出力は‘1’となる(「単独運転」と判定される)ことになる。
上記の通り、「単独運転」の領域と「系統擾乱」の領域とは相互に排他的とする必要があるので、“「系統擾乱」で且つ「単独運転」”と判定されることが無いようにする為に、例えば図17に示すロジックとしている。
以下、上記「単独運転」、「系統擾乱」に係わる既存の電圧異常判定方法について説明するものとする。
図18は、既存の電圧異常判定方法を示すブロック図、図19は図18の電圧異常判定方法をロジック表現した図である。
図18、図19に示す既存の判定方法では、図示のように、振幅情報と位相情報とを入力して判定に用いている。位相情報は、系統電圧のゼロクロス検知などから得られる、監視対象電圧(系統電圧等)の位相に係わる情報であり(周波数情報または周期情報等であってもよい)、振幅情報は、系統電圧のピーク値や全波整流値に基づいて得られる系統電圧の振幅情報である。これらは不図示の既存の構成によって得られるものである。尚、図17に示す位相情報も、この不図示の既存の構成によって得られたものが、評価値計算・異常判定部15’に入力しているものである。
尚、上記交流電圧検出信号Vs(t)が上記系統電圧を示す信号である。上記交流電圧検出信号Vs(t)から、不図示の既存の構成によって、上記位相情報や上記振幅情報が得られるものである。
図18には、横軸を振幅情報、縦軸を位相情報とする二次元平面(振幅位相平面と呼ぶものとする)が、示されている。この振幅位相平面上で、例えば図示のように、「単独運転」や「系統擾乱」を判定する為の所定の領域が、2種類設定されている。一つは正負に分割された単独運転判定領域であり、もう一つは系統擾乱時運転継続判定領域である。これら各判定領域は、例えば開発者等が任意に決めて設定する。
尚、図18では、系統擾乱時運転継続判定領域を、図示の領域Iと領域IIとに分けているが、これは後述する“他の例”に係わるものであり、ここでは領域Iと領域IIとを区分することなく説明するものとする。
振幅情報と位相情報と上記各判定領域に基づいて、「単独運転」や「系統擾乱」を判定する。振幅情報と位相情報とによって示される座標が、単独運転判定領域内であれば「単独運転」であると判定し、系統擾乱時運転継続判定領域内であれば「系統擾乱」であると判定する。
系統擾乱時運転継続判定領域は、図示のように、振幅情報が図示の“振幅情報閾値”以下である全領域であり、従って判定の際には位相情報の値は関係なく振幅情報が“振幅情報閾値”以下である場合には「系統擾乱」であると判定すればよいことになる。
また、単独運転判定領域は、振幅情報が図示の“振幅情報閾値”以上であって、且つ、位相情報が図示の位相情報閾値(正側)以上もしくは位相情報閾値(負側)以下である領域である。
上記のことから、図18の例に応じた判定ロジックは、例えば図19に示すようになる。
図19に示す例では、「系統擾乱」判定には振幅情報を用い、「単独運転」判定には振幅情報と位相情報を用いる。
「系統擾乱」判定は、振幅情報が予め設定される所定の閾値(振幅情報閾値)以下であるか否かによって判定する。振幅情報が振幅情報閾値以下である場合、「系統擾乱」であると判定して‘1’を出力するが、この判定結果は「単独運転」判定に用いられる。
すなわち、「単独運転」の判定に係わる論理積71の2つの入力の一方に、上記「系統擾乱」の判定結果が否定入力している。つまり、「系統擾乱」であると判定された場合(‘1’出力)、論理積71の上記一方の入力は‘0’となる。論理積71の他方の入力は、位相情報を用いた判定結果となる。
位相情報を用いた判定は、図19に示すように、位相情報の絶対値が、予め任意に設定される所定の閾値(位相情報閾値)以上であるか否かにより判定する。判定結果は上記論理積71の他方の入力となる。位相情報の絶対値が位相情報閾値以上である場合に、判定結果が‘1’となるが、もし、「系統擾乱」であると判定されているならば論理積71の出力は‘1’とはならず、以って「単独運転」とは判定されない。位相情報の絶対値が位相情報閾値以上であって、且つ、振幅情報が振幅情報閾値以下ではない場合のみ、論理積71の出力は‘1’となる(「単独運転」と判定される)ことになる。
上記の通り、「単独運転」と「系統擾乱」とは相互に排他的とする必要があるので、“「系統擾乱」で且つ「単独運転」”と判定されることが無いようにする為に、例えば図19に示すロジックとしている。
このように既存手法では、系統電圧のピーク値や全波整流値に基づいて得られる系統電圧の振幅情報のみを用いて、系統擾乱時(この場合は電圧低下時)の運転継続領域に入っているかどうかを判定し、運転継続(「系統擾乱」)と判断されれば、単独運転検出をマスク(阻止)している。運転継続(「系統擾乱」)と判定されているのに単独運転が検出されて分散型電源の運転が停止しては困るからである。
しかしながら、例えば、分散型電源の多数台連系時に単独運転が発生した場合、出力の大きな分散型電源(群)が単独運転を検出して解列すると、単独運転局所系統に連系したままの残りの分散型電源が負荷を背負うことになり、単独運転状態でありながら系統電圧が低下する状態があり得る。このような状態では、残りの分散型電源は単独運転と判定できずに運転継続してしまうことになり、実際の事例も報告されている。
図18の運転継続判定領域は領域Iと領域II(正側)、領域II(負側)から構成されているが、上記の電圧低下した単独運転状態は領域II(正側、負側)に相当しており、本来は運転継続と判断すべき領域ではないと考えることもできる。
例えばこの様な考え方に応じた判定を行うようにしてもよい。すなわち、図18に示す領域II(正側)や領域II(負側)も、単独運転判定領域とするようにしてもよい。この例(“他の例”とする)については特に図示しないが、“他の例”の場合、振幅の値は関係なく、位相ズレがある程度以上ある場合には、「単独運転」であると判定することになる。つまり、位相情報のみを用いて、位相情報の絶対値が上記位相情報閾値以上である場合には、「単独運転」であると判定する。
一方、「系統擾乱」判定に関しては、位相情報と振幅情報の両方を用いる点では図18と同じであるが、図18とは異なり、領域Iに該当する場合のみ「系統擾乱」であると判定する。上記の通り、領域IIは「単独運転」であると判定されるものである。
つまり、“他の例”では、「系統擾乱」判定は、振幅情報が振幅情報閾値以下であり、且つ、位相情報の絶対値が位相情報閾値以下である場合に、「系統擾乱」であると判定する。
尚、位相情報は、位相(周波数や周期も同等)の正常値からのズレ量を意味するものであってもよく、この例の場合、例えば周波数であれば、50Hzが正常であるのに対して55Hzや46Hzであった場合、それぞれ位相情報は+5(正側)、−4(負側)等となる。
この様に、上記“他の例”の場合、振幅低下かつ位相誤差が小さいという条件から領域Iのみで(領域IIは除外して)系統擾乱判定する。このようにすると、電圧低下時の単独運転状態でも単独運転を検出して停止することができるという効果を奏する。尚、上記図14〜図17も、この様な“他の例”の効果と同様の効果が得られるものである。
一方で、例えば図14〜図16の例のように、実施例1〜4によって求めた瞬時の振幅誤差、瞬時の位相誤差を用いて電圧異常判定を行う方法は、上記図18、図19や上記“他の例”に比べて、異常状態の高速検知が可能となるという効果を更に奏する。
すなわち、図14〜図16の例の場合、実施例1〜4により求めた瞬時の振幅誤差、瞬時の位相誤差を用いることから、系統電圧のゼロクロス検知などから得られる位相情報(周波数情報または周期情報も同等)や、系統電圧のピーク値や全波整流値に基づいて得られる系統電圧の振幅情報よりも、系統電圧の状態変化を高速に捉えられるため、異常状態の高速検知が可能となるという効果を奏する。
その一方で、実施例1〜4で求めた瞬時の振幅誤差、瞬時の位相誤差は、変化検出には優れるが、ゆっくりとした位相変化が捉え難いことがある。一方、系統電圧のゼロクロス検知などから得られる位相情報(周波数情報、または周期情報も同等)、系統電圧のピーク値や全波整流値に基づいて得られる系統電圧の振幅情報等は、応答は遅いが正確性が高い。そこで、図17の例のようにこれらの情報を併用して領域判定することで、電圧異常検出の正確性を高められるという効果を奏する。
尚、図14、図15の例では、領域間に距離を隔てて配置したり、各領域の自由度の高い配置や領域の形状設計が可能である。各領域の配置や形状は、単独運転と系統擾乱時の誤差状態の変化特性に応じて設計できる。
また、上記電圧異常検出装置10は、例えば以下に説明する本発明の電圧異常検出装置の一例であると見做すこともできる。
本発明の電圧異常検出装置は、監視対象の交流電圧の異常を検出する電圧異常検出装置であって、例えば不図示の下記の各種機能部を有する。尚、本発明の電圧異常検出装置は、上記電圧異常検出装置10と同様、演算プロセッサ、記憶装置などを有し、記憶装置には予め所定のアプリケーションプログラムが記憶されている。演算プロセッサが、このアプリケーションプログラムを実行することで、下記の各種処理機能部の処理機能が実現される。
・入力した上記交流電圧の検出信号に追従させて該交流電圧検出信号波形に同期した信号である第1信号を生成すると共に、該第1信号の時間微分信号である第2信号を生成して、該第1信号及び第2信号を成分として、時間経過に従って状態平面上を推移する状態ベクトルとして成る理想状態ベクトルを生成する理想状態ベクトル生成機能部(不図示);
上記交流電圧の検出信号を入力して、該交流電圧検出信号に相当する第3信号を生成すると共に、該交流電圧検出信号の時間微分信号である第4信号を生成して、該第3信号及び第4信号を成分として、時間経過に従って状態平面上を推移する状態ベクトルとして成る実状態ベクトルを生成する実状態ベクトル生成機能部(不図示);
ここで、上記「交流電圧検出信号に相当する第3信号」とは、例えば、交流電圧検出信号とは振幅のみが異なる信号(よって、信号の内容自体は同一)であることを意味するが、この例に限らず、交流電圧検出信号と同一の信号であっても構わない。また、これより、「交流電圧検出信号に相当する」信号の一例が、例えば、「交流電圧検出信号に比例する」信号であると言うこともできる。勿論、この例に限らない。
更に、上記「交流電圧検出信号に比例する」信号を生成する方法の一例が、上記規格化部11b、11cによる「交流電圧の定格値基準で規格化した信号」であるが、この例に限らない。また、規格化する場合であっても、“定格値基準で規格化”に限らず、例えば予め任意に決定され設定された何らかの所定値を用いて、“所定値基準で規格化”するものであっても構わない。つまり、上述した振幅が‘1’の信号に限らず、振幅が‘2’、‘3’、・・・、‘10’等であってもよく、振幅は何でもよい。
また、上記第4信号も、振幅に関しては上記第3信号と同様であってよく、例えば一例としては、振幅に関しては上記規格化部11bによる「交流電圧の定格値基準で規格化した」信号であってもよいが、この例に限らず、振幅に関しては例えば「交流電圧検出信号を所定値基準で規格化した」信号であってもよいし、「交流電圧検出信号に比例する」信号であってもよいし、「交流電圧検出信号に相当する」信号であってもよい。
そして、一例としては、上記第1信号、第2信号、第3信号、第4信号の全信号が、同一基準でスケーリングされた信号であることが望ましい。換言すれば、上記第1信号、第2信号、第3信号、第4信号の全信号を、同じ“土俵”で扱えるようにすることが望ましい。上記「同一基準でスケーリングされた信号」の一例が、図1、図2等で説明した上記理想位置信号xrp(t)、理想速度信号xrv(t)、実位置信号xsp(t)、実速度信号xsv(t)である。上記のように、これら4つの信号xrp(t)〜実速度信号xsv(t)は、一例としては正常時は振幅が‘1’の信号であり、これより例えば上記図3で示したような状態平面上の理想状態ベクトルと実状態ベクトルとを生成することができる(同じ土俵で扱うことができる)。勿論、既に述べたように、振幅が‘1’の例に限らない。上記「同一基準でスケーリングされた信号」とは、例えば一例としては、上記4つの信号xrp(t)〜実速度信号xsv(t)の正常時の振幅を揃えることであるが、この例に限らない。
尚、上記第1信号の一例が上記理想位置信号xrp(t)、上記第2信号の一例が上記理想速度信号xrv(t)、上記第3信号の一例が上記実位置信号xsp(t)、上記第4信号の一例が上記実速度信号xsv(t)であると考えてもよいが、この例に限らない。
・上述したことから、上記実状態ベクトル生成機能部(不図示)は、一例としては、上記交流電圧の検出信号を入力して、該検出信号を定格値を基準に規格化した信号に変換して成る第3信号を生成すると共に、該検出信号の定格値を基準に規格化した時間微分信号である第4信号を生成して、該第3信号及び第4信号を成分として、時間経過に従って状態平面上を推移する状態ベクトルとして成る実状態ベクトルを生成するものである。
本発明の電圧異常検出装置は、更に、下記の各種機能部も有する。
上記理想状態ベクトルに対する上記実状態ベクトルの誤差を求める処理機能部であって、振幅に係わる誤差である振幅誤差、または/及び、位相に係わる誤差である位相誤差を求める振幅位相誤差算出機能部(不図示);
上記振幅誤差、または/及び、上記位相誤差を用いて、上記監視対象の交流電圧が異常であるか否かを判定する異常判定機能部(不図示)。
また、上記振幅位相誤差算出機能部は、例えば、上記各時刻毎の上記実状態ベクトルと上記理想状態ベクトルとの差を示す誤差状態ベクトルを生成する第1誤差状態ベクトル生成機能部(不図示)と、該誤差状態ベクトルから、上記理想状態ベクトルの方向の成分である上記振幅誤差、または/及び、該理想状態ベクトル方向に直交する方向の成分である上記位相誤差を求める第1振幅位相成分分解機能部(不図示)とから成るものであってもよい。
あるいは、上記振幅位相誤差算出機能部は、例えば、上記実状態ベクトルから、上記理想状態ベクトルの方向の成分である振幅成分、または/及び、該理想状態ベクトル方向に直交する方向の成分である位相成分を求める第2振幅位相成分分解機能部(不図示)と、上記振幅成分、または/及び、上記位相成分について、それぞれ、上記理想状態ベクトルの同成分との差分を求めることで、上記振幅誤差、または/及び、上記位相誤差を求める第2誤差状態ベクトル生成機能部(不図示)とから成るものであってもよい。
尚、上記“同成分”とは、理想状態ベクトルに関する、上記理想状態ベクトルの方向の成分と、この方向に直交する方向の成分のことであり、上記一例では常に(1,0)となるが、この例に限らない。
また、例えば、図1の理想状態ベクトル生成部12が、上記理想状態ベクトル生成機能部(不図示)の一例であると見做してもよい。この場合、上記第1信号の一例が上記理想位置信号xrp(t)であり、上記第2信号の一例が上記理想速度信号xrv(t)であり、上記理想状態ベクトルの一例が上記理想状態ベクトルxr(t)であると見做してもよい。
また、例えば、図1の実状態ベクトル変換部11が、上記実状態ベクトル生成機能部(不図示)の一例であると見做してもよい。この場合、上記第3信号の一例が上記実位置信号xsp(t)であり、上記第4信号の一例が上記実速度信号xsv(t)であり、上記実状態ベクトルの一例が上記実状態ベクトルxs(t)であると見做してもよい。
また、例えば、図1の誤差状態ベクトル算出部13が、上記第1誤差状態ベクトル生成機能部(不図示)の一例であり、図1の振幅位相成分分解部14が、上記第1振幅位相成分分解機能部(不図示)の一例であると見做しても構わない。
あるいは、図6の振幅位相成分分解部21が、上記第2振幅位相成分分解機能部(不図示)の一例であり、図6の誤差状態ベクトル算出部22が、上記第2誤差状態ベクトル生成機能部(不図示)の一例であると見做しても構わない。
また、例えば、図1または図6に示す評価値計算・異常判定部15が、上記異常判定機能部(不図示)の一例であると見做しても構わない。
尚、例えば、上記第1信号と第2信号も、同一の基準に基づき規格化された信号とすることが望ましい。
また、例えば、上記理想状態ベクトル生成機能部(不図示)は、追従の遅い位相同期回路を有し、該位相同期回路によって上記第1信号を生成するものであってもよい。
また、例えば、上記位相同期回路は、上記監視対象の交流電圧が正常状態から異常状態になっても、追従の遅いことによる遅れ時間分の間、正常状態に応じた上記第1信号を継続して出力するものであってもよい。
また、例えば、上記理想状態ベクトル生成機能部(不図示)は、上記第1信号の位相を90°進めることで上記第2信号を生成するものであってもよい。
また、例えば、上記理想状態ベクトル生成機能部(不図示)、または/及び、上記実状態ベクトル生成機能部(不図示)は、“擬似微分特性を持つフィルタ”(一例としてはハイパスフィルタ)を用いて、上記時間微分信号を求めるものであってもよい。
ここで、上記理想状態ベクトル生成機能部と上記実状態ベクトル生成機能部が、それぞれ、上記“擬似微分特性を持つフィルタ”を備える場合において、理想状態ベクトル生成機能部の“擬似微分特性を持つフィルタ”と、実状態ベクトル生成機能部の“擬似微分特性を持つフィルタ”とが、同一の微分特性を持つものであってもよい。
また、上記電圧異常検出装置を、多相交流電圧の各相に対してそれぞれ設けて、該各電圧異常検出装置の上記異常判定機能部による判定結果の論理和により上記多相交流電圧全体の異常判定を行うようにしてもよい。
また、上記本発明の電圧異常検出装置が、更に、上記振幅位相誤差算出機能部によって求められた振幅誤差または位相誤差に重畳されるオフセットを、除去するオフセット除去機能部(不図示)を有する構成であってもよい。この例の場合、上記異常判定機能部(不図示)は、該オフセット除去機能部によるオフセット除去後の振幅誤差または/及び位相誤差を用いて、監視対象の交流電圧が異常であるか否かを判定する。
尚、オフセット除去機能部の一例が上述したオフセット除去部41,42であり、一例としては直流的なオフセットを除去するものであるが、この例に限らない。一例としては、オフセット除去機能部は、上記振幅位相誤差算出機能部(不図示)によって求められた振幅誤差または位相誤差について、定常値を計測して、該計測した定常値を振幅誤差または位相誤差から減じることで、オフセットを除去する。この様な定常値の計測方法の一例が、上述した図11や図12に示す方法であるが、これらの例に限らない。
また、上記本発明の電圧異常検出装置が、更に、上記振幅位相誤差算出機能部によって求められた振幅誤差または位相誤差に重畳されるリプルを除去するリプル除去機能部(不図示)を有する構成であってもよい。この例の場合、上記異常判定機能部(不図示)は、該リプル除去機能部によるリプル除去後の振幅誤差または/及び位相誤差を用いて、監視対象の交流電圧が異常であるか否かを判定する。
上述したように、例えば、振幅誤差や位相誤差に交流的なリプル(例えば正弦波状のリプル)が重畳する場合がある。つまり、所定の周波数の振動(正弦波状の信号成分)が、振幅誤差や位相誤差に重畳する場合がある。
上記リプル除去機能部(不図示)は、例えば一例としては、その中心周波数が上記リプルに対応する所定の周波数である帯域除去フィルタを有するものであるが、この例に限らない。また、例えば、上記所定の周波数は、系統の(監視対象の交流電圧の)定格周波数の2倍の周波数である。
また、上記の通り、上記異常判定機能部(不図示)は、上記監視対象の交流電圧が異常であるか否かを判定するものであるが、その一例として例えば、「単独運転」であるか否か、または/及び、「系統擾乱」であるか否かを、判定するものであっても構わない。尚、「単独運転」、「系統擾乱」については既に説明済みである。
上記異常判定機能部(不図示)による上記「単独運転」や「系統擾乱」の判定方法として、例えば一例としては、上記図14や図16に示すように、振幅誤差を横軸、位相誤差を縦軸とした二次元平面(誤差状態平面と呼ぶものとする)上に、予め、「単独運転」判定、「系統擾乱」判定のための2種類の判定領域(「単独運転判定領域」、「系統擾乱時運転継続判定領域」)が、設定されている。これら判定領域の設定は、任意であってよいが、相互に排他的に設定されることが望ましい。
そして、異常判定機能部(不図示)は、例えば一例としては、入力される上記振幅誤差と位相誤差とによって示される座標が、「単独運転判定領域」内であれば「単独運転」と判定し、「系統擾乱時運転継続判定領域」内であれば「系統擾乱」と判定する。
あるいは、異常判定機能部(不図示)は、例えば、位相誤差の絶対値が、予め設定される第1閾値以上である場合に「単独運転」であると判定する。この第1閾値の一例が上記「ΔθthISLD」であるが、この例に限らない。
あるいは、異常判定機能部(不図示)は、例えば、位相誤差の絶対値が予め設定される第2閾値以下であり、且つ、振幅誤差が予め設定される第3閾値以下である場合に「系統擾乱」であると判定する。
尚、上記第2閾値の一例が上記「ΔθthLVRT」であり、上記第3閾値の一例が上記「ΔrthLVRT」であるが、これらの例に限らない。
また、異常判定機能部(不図示)は、例えば、振幅誤差と位相誤差と、位相情報とに基づいて、「単独運転」や「系統擾乱」の判定を行うものであっても構わない。
この例の場合、異常判定機能部(不図示)は、例えば、位相誤差の絶対値が上記第2閾値以下であるか否かの判定結果と、振幅誤差が上記第3閾値以下であるか否かの判定結果との論理積により「系統擾乱」であるか否かを判定すると共に、該論理積と、位相情報の絶対値が予め設定される第4閾値以上であるか否かの判定結果とに基づいて、「単独運転」であるか否かを判定するが、この例に限らない。
上記第4閾値の一例が上述した位相情報閾値であるが、この例に限らない。
また、上記位相情報は、例えば従来のゼロクロス検知により求めた、監視対象電圧の位相に係わる情報(周波数情報や周期情報等も同等)である。
尚、本説明において、“/”は、“または”や“あるいは”を意味する。これより、例えば、「または/及び」は、「または、あるいは、及び」を意味する。
尚、よく知られているように、1次フィルタへの入力に対するフィルタ出力の位相差は、ハイパスフィルタでは、高周波になるにつれて0°低周波になるにつれて+90°(位相進みが90°)に漸近するのに対して、ローパスフィルタでは、低周波になるにつれて0°高周波になるにつれて−90°(位相遅れが90°)に漸近する。位相が90°進んでいるということは、微分特性を意味する。逆に、位相が90°遅れているということは、積分特性を意味する。つまり、1次のハイパスフィルタは、低周波領域では、微分特性を持っている。このように、部分的に微分の特性を持っていることから、1次ハイパスフィルタは不完全微分あるいは擬似微分特性を持つフィルタ等と呼ばれる場合がある。一方、1次のローパスフィルタは、高周波領域で積分特性を有する。したがって、1次ローパスフィルタの別名は、不完全積分等である。
また、上述した“規格化”や“定格値基準で規格化”することは、本発明において必須ではない。また、規格化する場合であっても、それによって上記“振幅1”の信号を生成することは、一例であって、この例に限るものではない。
但し、上述した“規格化”や“定格値基準で規格化”を行うことで、下記のメリットが得られる。
すなわち、上記の通り予め設定される閾値を用いて交流電圧の正常・異常を判定するが、この閾値の設定に関するメリットが得られる。つまり、上述した“規格化”や“定格値基準で規格化”を行う場合には、閾値を例えば「定格基準でm%未満(m;任意の整数や実数など)」という形式で定格値にかかわらず同じ閾値に設定することが可能となる。一方、“規格化”や“定格値基準で規格化”を行なわない場合には、上記と等価な設定をするためには、監視対象の交流電圧の定格値に応じて、それぞれ、異なった閾値を設定する必要がある。例えば、監視対象の交流電圧の定格値が、50(V)の場合と、100(V)の場合と、200(V)の場合とで、それぞれ、異なった閾値を設定する必要がある。上述した“規格化”や“定格値基準で規格化”を行うことで、この様な閾値の設定作業負担を軽減できるというメリットが得られる。
また、ここでは、“/”は、“または”や“あるいは”を意味するものとする。これより、例えば、「及び/または」は、「及び、あるいは、または」を意味することになる。同様に、「または/及び」は、「または、あるいは、及び」を意味することになる。