以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る電子機器の概略構成を示す模式図である。電子機器100は、装着部110と、測定部120とを備える。図1は、被検部に接触する裏面120aから電子機器100を観察した図である。
電子機器100は、被検者が電子機器100を装着した状態で、被検者の生体情報を測定する。電子機器100が測定する生体情報は、測定部120で測定可能な被検者の脈波である。本実施の形態においては、電子機器100は、一例として、被検者の手首に装着して、脈波を取得するものとして、以下説明を行う。
本実施の形態において、装着部110は直線状の細長い帯状のバンドである。脈波の測定は、例えば被検者が電子機器100の装着部110を手首に巻きつけた状態で行われる。具体的には、被検者は、測定部120の裏面120aが被検部位に接触するように装着部110を手首に巻きつけて、脈波の測定を行う。電子機器100は、被検者の手首において、尺骨動脈又は橈骨動脈を流れる血液の脈波を測定する。
図2は、図1の測定部120の概略構成を示す断面図である。図2では、測定部120とともに、測定部120の周辺の装着部110についても図示している。
測定部120は、装着時に被検者の手首に接触する裏面120aと、裏面120aと反対側の表面120bとを有する。測定部120は、裏面120a側に開口部111を有する。センサ部130は、弾性体140が押圧されていない状態において、開口部111から裏面120a側に一端が突出した状態で、測定部120に支持される。センサ部130の一端には、脈あて部132が備えられている。センサ部130の一端は、裏面120aの平面とほぼ垂直な方向に変位可能である。センサ部130の一端が変位可能なように、センサ部130の他端は、支持部133により測定部120に支持されている。
センサ部130の一端は、弾性体140を介して測定部120と接触し、変位可能である。弾性体140は、例えばばねである。但し、弾性体140は、ばねに限らず、他の任意の弾性体、例えば樹脂、スポンジ等とすることができる。
なお、図示しないが、測定部120には制御部、記憶部、通信部、電源部、報知部、及びこれらを動作させる回路、接続するケーブル等が配置されていてもよい。
センサ部130は、センサ部130の変位を検出する角速度センサ131を備える。角速度センサ131はセンサ部130の角度変位を検出できればよい。センサ部130が備えるセンサは、角速度センサ131に限らず、例えば加速度センサ、角度センサ、その他のモーションセンサとしてもよいし、これら複数のセンサを備えていてもよい。
電子機器100は、測定部120の表面120b側に、入力部141を備える。入力部141は、被検者からの操作入力を受け付けるものであり、例えば、操作ボタン(操作キー)から構成される。入力部141は、例えばタッチスクリーンにより構成されていてもよい。
図3は、被検者による電子機器100の使用状態の一例を示す図である。被検者は、電子機器100を手首に巻きつけて使用する。電子機器100は、測定部120の裏面120aが被検部に接触した状態で装着される。装着部110を手首に巻きつけた状態で、測定部120は、尺骨動脈又は橈骨動脈が存在する位置に脈あて部132が接触するように、その位置を調整できる。
図3では、電子機器100の装着状態において、センサ部130の一端は、被検者の左手の親指側の動脈である橈骨動脈上の皮膚に接触している。測定部120とセンサ部130との間に配置される弾性体140の弾性力により、センサ部130の一端は、被検者の橈骨動脈上の皮膚に接触している。センサ部130は、被検者の橈骨動脈の動き、すなわち脈動に応じて変位する。角速度センサ131は、センサ部130の変位を検出することにより、脈波を取得する。脈波とは、血液の流入によって生じる血管の容積時間変化を体表面から波形としてとらえたものである。
再び図2を参照すると、センサ部130は、弾性体140が押圧されていない状態において、開口部111から一端が突出した状態である。被検者に電子機器100を装着した際、センサ部130の一端は被検者の橈骨動脈上の皮膚に接触しており、脈動に応じて、弾性体140は伸縮し、センサ部130の一端は変位する。弾性体140は、脈動を妨げず、かつ脈動に応じて伸縮するように、適度な弾性率を有するものが用いられる。開口部111の開口幅Wは、血管径、本実施の形態では橈骨動脈径より十分大きい幅を有する。測定部120に開口部111を設けることにより、電子機器100の装着状態において、測定部120の裏面120aは橈骨動脈を圧迫しない。そのため、電子機器100はノイズの少ない脈波の取得が可能となり、測定の精度が向上する。
図3では、電子機器100を手首に装着し、橈骨動脈における脈波を取得する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、電子機器100は、被検者の首において、頸動脈を流れる血液の脈波を取得してもよい。具体的には、被検者は、脈あて部132を頸動脈の位置に軽く押し当てて、脈波の測定を行ってもよい。また、被検者は、脈あて部132が頸動脈の位置にくるように、装着部110を首に巻きつけて装着してもよい。
図4は、電子機器100の概略構成を示す機能ブロック図である。電子機器100は、センサ部130と、入力部141と、制御部143と、電源部144と、記憶部145と、通信部146と、報知部147とを備える。本実施の形態では、制御部143、電源部144、記憶部145、通信部146及び報知部147は、測定部120又は装着部110の内部に含まれる。
センサ部130は、角速度センサ131を含み、被検部位から脈動を検出して脈波を取得する。
制御部143は、電子機器100の各機能ブロックをはじめとして、電子機器100の全体を制御及び管理するプロセッサである。また、制御部143は、取得された脈波から、被検者の血糖値を推定するプロセッサである。制御部143は、制御手順を規定したプログラム及び被検者の血糖値を推定するプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサで構成され、かかるプログラムは、例えば記憶部145等の記憶媒体に格納される。また、制御部143は、算出した指標に基づいて、被検者の糖代謝又は脂質代謝等に関する状態を推定する。制御部143は、報知部147へのデータの報知を行ったりする。
電源部144は、例えばリチウムイオン電池並びにその充電及び放電のための制御回路等を備え、電子機器100全体に電力を供給する。
記憶部145は、プログラム及びデータを記憶する。記憶部145は、半導体記憶媒体、及び磁気記憶媒体等の任意の非一過的(non-transitory)な記憶媒体を含んでよい。記憶部145は、複数の種類の記憶媒体を含んでよい。記憶部145は、メモリカード、光ディスク、又は光磁気ディスク等の可搬の記憶媒体と、記憶媒体の読み取り装置との組み合わせを含んでよい。記憶部145は、RAM(Random Access Memory)等の一時的な記憶領域として利用される記憶デバイスを含んでよい。記憶部145は、各種情報や電子機器100を動作させるためのプログラム等を記憶するとともに、ワークメモリとしても機能する。記憶部145は、例えばセンサ部130により取得された脈波の測定結果を記憶してもよい。
通信部146は、外部装置と有線通信又は無線通信を行うことにより、各種データの送受信を行う。通信部146は、例えば、健康状態を管理するために被検者の生体情報を記憶する外部装置と通信を行い、電子機器100が測定した脈波の測定結果や、電子機器100が推定した健康状態を、当該外部装置に送信する。
報知部147は、音、振動、及び画像等で情報を報知する。報知部147は、スピーカ、振動子、及び液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機ELディスプレイ(OELD:Organic Electro-Luminescence Display)、又は無機ELディスプレイ(IELD:Inorganic Electro-Luminescence Display)等の表示デバイスを備えていてもよい。本実施の形態において、報知部147は、例えば、被検者の糖代謝又は脂質代謝の状態を報知する。
電子機器100は、回帰分析により作成した推定式に基づいて、被検者の血糖値を推定する。電子機器100は、脈波に基づいて血糖値を推定するための推定式を、例えばあらかじめ記憶部145に記憶している。電子機器100は、これらの推定式を用いて、血糖値を推定する。
ここで、脈波に基づく血糖値の推定に関する推定理論について説明する。食後、血中の血糖値が上昇することにより、血液の流動性の低下(粘性の増加)、血管の拡張及び循環血液量の増加が発生し、これらの状態が平衡するように血管動態及び血液動態が定まる。血液の流動性の低下は、例えば血漿の粘度が増加したり、赤血球の変形能が低下したりすることにより生じる。また、血管の拡張は、インスリンの分泌、消化ホルモンの分泌、及び体温の上昇等により生じる。血管が拡張すると、血圧低下を抑制するため、脈拍数が増加する。また、循環血液量の増加は、消化及び吸収のための血液消費を補うものである。これらの要因による、食前と食後との血管動態及び血液動態の変化は、脈波にも反映される。そのため、電子機器100は、脈波を取得し、取得した脈波の波形の変化に基づいて、血糖値を推定することができる。
上記推定理論に基づき、血糖値を推定するための推定式は、複数の被験者から得た、食前及び食後の血糖値及び脈波のサンプルデータに基づいて、回帰分析を行うことで作成することができる。推定時には、被検者の脈波に基づく指標に、作成された推定式を適用することにより、被検者の血糖値を推定できる。推定式の作成において、特に、血糖値のばらつきが正規分布に近いサンプルデータを用いて回帰分析を行って推定式を作成することにより、食前又は食後にかかわらず、検査対象となる被検者の血糖値を推定することができる。
図5は、脈波の変化に基づく推定方法の一例を説明する図であり、脈波の一例を示す。血糖値を推定するための推定式は、例えば脈波の立ち上がりを示す指標(立上り指標)Slと、AI(Augmentation Index)と、脈拍数PRとに関する回帰分析により作成される。
立上り指標Slは、図5の領域D1で示す波形に基づいて導出される。具体的には、立上り指標Slは、脈波を2回微分して導出される加速度脈波における、最初の極大値に対する最初の極小値の比である。立上り指標Slは、例えば図6に一例として示す加速度脈波では、−b/aにより表される。立上り指標Slは、食後における血液の流動性の低下、インスリンの分泌及び体温の上昇による血管の拡張(弛緩)等により、小さくなる。
AIは、脈波の前進波と反射波との大きさの比で表される指標である。AIの導出方法について、図7を参照しながら説明する。図7は、電子機器100を用いて手首で取得された脈波の一例を示す図である。図7は、角速度センサ131を脈動の検知手段として用いた場合のものである。図7は、角速度センサ131で取得された角速度を時間積分したものであり、横軸は時間、縦軸は角度を表す。取得された脈波は、例えば被検者の体動が原因のノイズを含む場合があるので、DC(Direct Current)成分を除去するフィルタによる補正を行い、脈動成分のみを抽出してもよい。
脈波の伝播は、心臓から押し出された血液による拍動が、動脈の壁や血液を伝わる現象である。心臓から押し出された血液による拍動は、前進波として手足の末梢まで届き、その一部は血管の分岐部、血管径の変化部等で反射され反射波として戻ってくる。AIは、この反射波の大きさを前進波の大きさで除したものであり、AIn=(PRn−PSn)/(PFn−PSn)で表される。ここで、AInは脈拍毎のAIである。AIは、例えば、脈波の測定を数秒間行い、脈拍毎のAIn(n=1〜nの整数)の平均値AIaveを算出したものであってもよい。AIは、図5の領域D2で示す波形に基づいて導出される。AIは、食後における血液の流動性の低下及び体温上昇による血管の拡張等により、低くなる。
脈拍数PRは、図5に示す脈波の周期TPRに基づいて導出される。脈拍数PRは、食後において上昇する。
電子機器100は、これら立上り指標Sl、AI及び脈拍数PRに基づいて作成した推定式により、血糖値が推定可能である。
図8は、脈波の変化に基づく推定方法の他の一例を説明する図である。図8(a)は脈波を示し、図8(b)は図8(a)の脈波をFFT(高速フーリエ変換:Fast Fourier Transform)した結果を示す。血糖値を推定するための推定式は、例えばFFTにより導出される基本波及び高調波成分(フーリエ係数)に関する回帰分析により作成される。図8(b)に示すFFTの結果におけるピーク値は、脈波の波形の変化に基づいて変化する。そのため、フーリエ係数に基づいて作成した推定式により、血糖値が推定可能である。
電子機器100は、上述した立上り指標Sl、AI及び脈拍数PR、並びにフーリエ係数等に基づいて、推定式を使用して、被検者の血糖値を推定する。
ここで、電子機器100が、被検者の血糖値を推定する場合に用いる推定式の作成方法について説明する。推定式の作成は、電子機器100で実行される必要はなく、事前に別のコンピュータ等を用いて作成されてもよい。本明細書では、推定式を作成する機器を、推定式作成装置と称して説明する。作成された推定式は、被検者が電子機器100により血糖値の推定を行う前に、例えばあらかじめ記憶部145に記憶される。
図9は、図1の電子機器100が用いる推定式の作成フロー図である。推定式は、被験者の食前及び食後の脈波を脈波計を用いて測定するとともに、被験者の食前及び食後の血糖値を血糖計を用いて測定し、測定により取得したサンプルデータに基づいて、回帰分析を行うことにより作成される。なお、食前は、被験者の空腹時をいい、食後は、食後所定時間後の血糖値が上昇する時間(例えば食事を開始してから1時間程度)をいう。取得するサンプルデータは、食前及び食後に限られず、血糖値の変動が大きい時間帯のデータであればよい。
推定式の作成において、まず、それぞれ血糖計及び脈波計により測定された、食前の被験者の血糖値及び血糖値に対応付けられた脈波に関する情報が推定式作成装置に入力される(ステップS101)。
また、それぞれ血糖計及び脈波計により測定された、食後の被験者の血糖値及び血糖値に対応付けられた脈波に関する情報が推定式作成装置に入力される(ステップS102)。ステップS101及びステップS102において入力される血糖値は、例えば採血を行うことにより、血糖計によって測定される。また、ステップS101又はステップS102において、各サンプルデータの被験者の年齢も入力される。
推定式作成装置は、ステップS101及びステップS102において入力されたサンプルデータのサンプル数が、回帰分析を行うために十分なN以上となったか否かを判断する(ステップS103)。サンプル数Nは適宜決定することができ、例えば100とすることができる。推定式作成装置は、サンプル数がN未満であると判断した場合(Noの場合)、サンプル数がN以上となるまで、ステップS101及びステップS102を繰り返す。一方、推定式作成装置は、サンプル数がN以上となったと判断した場合(Yesの場合)、ステップS104に移行して、推定式の算出を実行する。
推定式の算出において、推定式作成装置は、入力された食前及び食後の脈波を解析する(ステップS104)。本実施の形態では、推定式作成装置は、食前及び食後の脈波の立上り指標Sl、AI及び脈拍数PRについて解析を行う。なお、推定式作成装置は、脈波の解析として、FFT解析を行ってもよい。
そして、推定式作成装置は、回帰分析を実行する(ステップS105)。回帰分析における目的変数は、食後の血糖値である。また、回帰分析における説明変数は、ステップS101又はステップS102で入力された年齢と、ステップS104で解析された食前及び食後の脈波の立上り指標Sl、AI及び脈拍数PRとである。なお、推定式作成装置がステップS104でFFT解析を行う場合、説明変数は、例えばFFT解析の結果として算出されるフーリエ係数であってもよい。
推定式作成装置は、回帰分析の結果に基づいて、食後の血糖値を推定するための推定式を作成する(ステップS106)。食後の血糖値を推定するための推定式の一例を下式(1)に示す。
式(1)において、GLaは、食後の血糖値を示す。また、ageは年齢、PRbは食前の脈拍数PR、AIbは食前のAI、Slbは食前の立上り指標Sl、PRaは食後の脈拍数PR、AIaは食後のAI、Slaは食後の立上り指標Sl、BLGは、被検者が入力した(採血して測定した)血糖値を、それぞれ示す。被検者が入力する血糖値BLGは、推定される血糖値GLaとは異なるタイミングで測定された血糖値である。本実施形態においては、被検者が入力する血糖値BLGは、食前に採血して測定された血糖値である。採血して測定された血糖値BLGを推定式に用いることにより、血糖値の推定精度は向上する。
次に、推定式を用いた被検者の血糖値の推定のフローについて説明する。図10は、図9のフローにより作成された推定式を用いて被検者の食後の血糖値を推定するフロー図である。ここでは、被検者が、血糖計を用いて測定した食前の血糖値を、電子機器100の入力部141から入力する場合について説明する。
まず、電子機器100は、被検者による入力部141の操作に基づいて、被検者の年齢を入力する(ステップS201)。
また、電子機器100は、被検者による入力部141の操作に基づいて、被検者が血糖計を用いて測定した食前の血糖値を入力する(ステップS202)。
また、電子機器100は、被検者による操作に基づいて、被検者の食前の脈波を測定する(ステップS203)。
そして、電子機器100は、被検者が食事をした後、被検者による操作に基づいて、被検者の食後の脈波を測定する(ステップS204)。
次に、電子機器100は、測定した脈波を解析する(ステップS205)。具体的には、電子機器100は、例えば測定した脈波に関する立上り指標Sl、AI及び脈拍数PRについて解析を行う。
電子機器100は、ステップS202で入力された食前の血糖値と、ステップS205で解析した立上り指標Sl、AI及び脈拍数PRと、被検者の年齢とを、例えば上述の式(1)に適用して、被検者の食後の血糖値を推定する(ステップS206)。推定された食後の血糖値は、例えば電子機器100の報知部147から被検者に報知される。
図11は、図9のフローにより作成された推定式を用いて推定した食後の血糖値と、実測した食後の血糖値との比較を示す図である。図11に示すグラフでは、横軸に食後の血糖値の測定値(実測値)が、縦軸に食後の血糖値の推定値が示されている。なお、血糖値の測定値は、テルモ社製血糖測定器メディセーフフィット用いて測定された。図11に示すように、測定値と推定値とは、概ね±20%の範囲内に含まれている。すなわち、推定式による推定精度は、20%以内であると言える。
このようにして、電子機器100は、被検者が採血して測定した食前の血糖値に基づいて、非侵襲かつ短時間で食後の血糖値を推定できる。本実施形態では、食前及び食後の血糖値及び脈波用いて推定式を作成したが、推定式の作成はこれに限らず、食前又は食後のいずれか一方の血糖値及び脈波を用いて推定式を作成してもよい。また、電子機器100は、食後の血糖値に限らず、任意のタイミングにおける被検者の血糖値を推定してもよい。電子機器100は、任意のタイミングにおける血糖値についても、非侵襲かつ短時間で推定できる。
本実施の形態に係る電子機器100は、血糖値の推定においてステップS202及びステップS203で取得した被検者の食前の血糖値及び脈波に基づいて、記憶部145に記憶された推定式を更新してもよい。すなわち、電子機器100は、血糖値の推定に際して取得した食前の血糖値及び脈波を、推定式を更新するためのサンプルデータとして用いることができる。これにより、推定式は、被検者が血糖値の推定を行うたびに更新され、推定式を用いた食後の血糖値の推定精度が高まる。
(第2実施の形態)
第1実施の形態では、被験者の食前及び食後の血糖値及び脈波に基づいて推定式が作成される場合について説明した。第2実施の形態では、推定式が、被検者自身の食前及び食後の血糖値及び脈波に基づいて作成される場合の一例について説明する。
図12は、本実施の形態に係る電子機器100が用いる推定式の作成フロー図である。本実施の形態では、推定式は、電子機器100により作成されるとして説明する。なお、推定式は、第1実施の形態で説明したように、電子機器100とは異なる推定式作成装置により作成されてもよい。
まず、電子機器100は、被検者による入力部141の操作に基づいて、被検者が血糖計を用いて測定した食前の血糖値を入力する(ステップS301)。
また、電子機器100は、被検者による操作に基づいて、被検者の食前の脈波を測定する(ステップS302)。
そして、電子機器100は、被検者が食事をした後、被検者による入力部141の操作に基づいて、被検者が血糖計を用いて測定した食後の血糖値を入力する(ステップS303)。ステップS301及びステップS303において入力される血糖値は、例えば被検者が採血を行うことにより、血糖計によって測定される。
また、電子機器100は、被検者による操作に基づいて、被検者の食後の脈波を測定する(ステップS304)。
電子機器100は、ステップS301乃至ステップS304において入力されたサンプルデータのサンプル数が、回帰分析を行うために十分なN以上となったか否かを判断する(ステップS305)。サンプル数Nは適宜決定することができ、例えば5とすることができる。推定式作成装置は、サンプル数がN未満であると判断した場合(Noの場合)、サンプル数がN以上となるまで、ステップS301乃至ステップS304を繰り返す。一方、推定式作成装置は、サンプル数がN以上となったと判断した場合(Yesの場合)、ステップS306に移行して、推定式の算出を実行する。
ステップS306乃至ステップS308における推定式の算出方法は、図9のステップS104乃至ステップS106と同様であるため、ここではその詳細な説明を省略する。図12に示すフローにより電子機器100が作成する推定式は、例えば式(1)において、各係数がそれぞれ異なる式である。
次に、推定式を用いた被検者の血糖値の推定のフローについて説明する。図13は、図12のフローにより作成された推定式を用いて被検者の食後の血糖値を推定するフロー図である。ここでは、被検者が、血糖計を用いて測定した血糖値を、電子機器100の入力部141から入力する場合について説明する。
まず、電子機器100は、被検者による入力部141の操作に基づいて、被検者の年齢を入力する(ステップS401)。
また、電子機器100は、被検者による入力部141の操作に基づいて、被検者が血糖計を用いて測定した食前の血糖値を入力する(ステップS402)。
また、電子機器100は、被検者による操作に基づいて、被検者の食前の脈波を測定する(ステップS403)。
そして、電子機器100は、被検者が食事をした後、被検者による操作に基づいて、被検者の食後の脈波を測定する(ステップS404)。
次に、電子機器100は、測定した脈波を解析する(ステップS405)。具体的には、電子機器100は、例えば測定した脈波に関する立上り指標Sl、AI及び脈拍数PRについて解析を行う。
電子機器100は、ステップS405で解析した立上り指標Sl、AI及び脈拍数PRと、被検者の年齢とを、図12のフロー図で作成した推定式に適用して、被検者の食後の血糖値を推定する(ステップS406)。推定された食後の血糖値は、例えば電子機器100の報知部147から被検者に報知される。
このようにして、電子機器100は、被検者が採血して測定した食前の血糖値に基づいて、非侵襲かつ短時間で食後の血糖値を推定できる。本実施の形態では、食後の血糖値を推定するための推定式は、被検者から取得したサンプルデータに基づいて作成されているため、当該被検者の食後の血糖値の推定精度が向上する。
本実施の形態に係る電子機器100についても、第1実施の形態で説明したのと同様に、血糖値の推定においてステップS402及びステップS403で取得した被検者の食前の血糖値及び脈波に基づいて、記憶部145に記憶された推定式を更新してもよい。これにより、推定式は、被検者が血糖値の推定を行うたびに更新され、推定式を用いた食後の血糖値の推定精度が高まる。
また、電子機器100は、被検者から十分なサンプル数のサンプルデータが収集できた場合には、採血して測定した血糖値を用いずに、被検者の脈波に基づいて、血糖値を推定してもよい。例えば、電子機器100は、被検者の食前の脈波に基づいて、被検者の食前の血糖値を推定する。このようにすると、被検者が電子機器100を用いて食前の脈波を測定することにより、電子機器100は、食前の脈波に基づいた推定式を用いて、被検者の食前の血糖値を推定できる。この場合、電子機器100は、食前の血糖値についても、非侵襲かつ短時間で推定できる。なお、十分なサンプルデータとは、食前の脈波に基づいて被検者の食前の血糖値を所定の精度以上の精度で推定可能な推定式が作成され得る程度の量のデータをいう。また、推定する血糖値は、食前に限らず、食後の脈波に基づいて、食後の血糖値を推定してもよい。また、推定する血糖値は、食事前後に限らず、任意のタイミングで測定された脈波に基づいて、任意のタイミングにおける血糖値を推定してもよい。
(第3実施の形態)
第1実施の形態では、電子機器100が被検者の食後の血糖値を推定する場合について説明した。第3実施の形態では、電子機器100が被検者の食後の脂質値を推定する場合の一例について説明する。ここで、脂質値は、中性脂肪、総コレステロール、HDLコレステロール及びLDLコレステロール等を含む。本実施の形態の説明において、第1実施の形態と同様の点については、適宜その説明を省略する。
電子機器100は、脈波に基づいて脂質値を推定するための推定式を、例えばあらかじめ記憶部145に記憶している。電子機器100は、これらの推定式を用いて、脂質値を推定する。
脈波に基づく脂質値の推定に関する推定理論については、第1実施の形態において説明した血糖値の推定理論と同様である。すなわち、血中の脂質値の変化は脈波の波形の変化にも反映される。そのため、電子機器100は、脈波を取得し、取得した脈波の変化に基づいて、脂質値を推定することができる。電子機器100は、脂質推定時の脈波と共に血糖値を入力することにより、脂質値の推定精度が向上する。
図14は、本実施の形態に係る電子機器100が用いる推定式の作成フロー図である。本実施の形態においても、推定式は、サンプルデータに基づいて、回帰分析を行うことにより作成される。本実施の形態では、サンプルデータとして、食前の脈波、脂質値及び血糖値に基づいて、推定式が作成される。本実施の形態において、食前は、被験者の空腹時をいう。また、食後は、食後所定時間後の脂質値が高くなる時間(例えば食事を開始してから3時間程度)をいう。推定式の作成において、特に、脂質値のばらつきが正規分布に近いサンプルデータを用いて回帰分析を行って推定式を作成することにより、食前又は食後にかかわらず、検査対象となる被検者の任意のタイミングでの脂質値を推定することができる。
推定式の作成において、まず、それぞれ血糖計、脈波計及び脂質測定装置により測定された、食前の被験者の血糖値、並びに血糖値に対応付けられた脈波及び脂質値に関する情報が推定式作成装置に入力される(ステップS501)。
また、それぞれ血糖計、脈波計及び脂質測定装置により測定された、食後の被験者の血糖値、並びに血糖値に対応付けられた脈波及び脂質値に関する情報が推定式作成装置に入力される(ステップS502)。ステップS501及びステップS502において入力される血糖値は、例えば採血を行うことにより、血糖計によって測定される。また、ステップS501又はステップS502において、各サンプルデータの被験者の年齢も入力される。
推定式作成装置は、ステップS501及びステップS502において入力されたサンプルデータのサンプル数が、回帰分析を行うために十分なN以上となったか否かを判断する(ステップS503)。サンプル数Nは適宜決定することができ、例えば100とすることができる。推定式作成装置は、サンプル数がN未満であると判断した場合(Noの場合)、サンプル数がN以上となるまで、ステップS501及びステップS502を繰り返す。一方、推定式作成装置は、サンプル数がN以上となったと判断した場合(Yesの場合)、ステップS504に移行して、推定式の算出を実行する。
推定式の算出において、推定式作成装置は、入力された食前及び食後の脈波を解析する(ステップS504)。本実施の形態では、推定式作成装置は、食前及び食後の脈波の立上り指標Sl、AI及び脈拍数PRについて解析を行う。なお、推定式作成装置は、脈波の解析として、FFT解析を行ってもよい。
そして、推定式作成装置は、回帰分析を実行する(ステップS505)。回帰分析における目的変数は、食後の脂質値である。また、回帰分析における説明変数は、ステップS501又はステップS502で入力された年齢と、ステップS504で解析された食前及び食後の脈波の立上り指標Sl、AI及び脈拍数PRとである。なお、推定式作成装置がステップS504でFFT解析を行う場合、説明変数は、例えばFFT解析の結果として算出されるフーリエ係数であってもよい。
推定式作成装置は、回帰分析の結果に基づいて、食後の脂質値を推定するための推定式を作成する(ステップS506)。
次に、推定式を用いた被検者の脂質値の推定のフローについて説明する。図15は、図14のフローにより作成された推定式を用いて被検者の食後の脂質値を推定するフロー図である。ここでは、被検者が、血糖計を用いて測定した血糖値を、電子機器100の入力部141から入力する場合について説明する。
まず、電子機器100は、被検者による入力部141の操作に基づいて、被検者の年齢を入力する(ステップS601)。
また、電子機器100は、被検者による入力部141の操作に基づいて、被検者が血糖計を用いて測定した食前の血糖値を入力する(ステップS602)。
また、電子機器100は、被検者による操作に基づいて、被検者の食前の脈波を測定する(ステップS603)。
そして、電子機器100は、被検者が食事をした後、被検者による操作に基づいて、被検者が血糖計を用いて測定した食後の血糖値を入力する(ステップS604)。
また、電子機器100は、被検者による操作に基づいて、被検者の食後の脈波を測定する(ステップS605)。
次に、電子機器100は、測定した脈波を解析する(ステップS606)。具体的には、電子機器100は、例えば測定した脈波に関する立上り指標Sl、AI及び脈拍数PRについて解析を行う。
電子機器100は、ステップS606で解析した立上り指標Sl、AI及び脈拍数PRと、被検者の年齢とを、図14のフロー図で作成した推定式に適用して、被検者の食後の脂質値を推定する(ステップS607)。推定された食後の脂質値は、例えば電子機器100の報知部147から被検者に報知される。
図16は、図14のフローにより作成された推定式を用いて推定した食後の脂質値と、実測した食後の脂質値との比較を示す図である。図16に示すグラフでは、横軸に食後の脂質値の測定値(実測値)が、縦軸に食後の脂質値の推定値が示されている。なお、脂質値の測定値は、ロシュ・ダイアグノスティックス社製のコバスb101を用いて測定された。図16に示すように、測定値と推定値とは、概ね±20%の範囲内に含まれている。すなわち、推定式による推定精度は、20%以内であると言える。
このようにして、電子機器100は、被検者が採血して測定した食前及び食後の血糖値に基づいて、食後の脂質値を推定できる。
また、電子機器100は、食前及び食後の血糖値を用いて脂質値を推定する。そのため、電子機器100は、食後において血糖値が脈波に与える影響を補正(除去)して、脂質値を推定することができる。これにより、電子機器100によれば、脂質値の推定精度が向上する。
本実施形態では、食前及び食後の血糖値、脈波、脂質値を用いて推定式を作成したが、推定式の作成はこれに限らず、食前又は食後のいずれか一方の血糖値、脈波、脂質値を用いて推定式を作成してもよい。また、電子機器100は、食後の脂質値に限らず、任意のタイミングにおける被検者の脂質値を推定してもよい。電子機器100は、任意のタイミングにおける脂質値についても、非侵襲かつ短時間で推定できる。
本実施の形態に係る電子機器100についても、第1実施の形態で説明したのと同様に、脂質値の推定においてステップS602乃至ステップS605で取得した被検者の食前の血糖値及び脈波と、食後の血糖値及び脈波とに基づいて、記憶部145に記憶された推定式を更新してもよい。これにより、推定式は、被検者が血糖値の推定を行うたびに更新され、推定式を用いた食後の脂質値の推定精度が高まる。
なお、上記第1及び第2実施の形態では、電子機器100を用いて食後の血糖値を推定させる際に、被検者が、血糖計を用いて測定した食前の血糖値を、電子機器100の入力部141を使用して入力する場合の例について説明した。しかしながら、食前の血糖値は、例えば血糖計から電子機器100に自動的に入力されてもよい。
図17は、電子機器100と血糖計160との通信を模式的に示す図である。血糖計160は、通信部を備え、電子機器100の通信部146を介して、情報を送受信可能である。血糖計160は、例えば、被検者の操作に基づいて血糖値(食前の血糖値)を測定した場合、測定結果としての血糖値を電子機器100に送信する。電子機器100は、血糖計160から取得した血糖値を用いて、例えば図10又は図13等に記載したフローによって、被検者の食後の血糖値を推定する。
なお、第3実施の形態の場合も同様に、電子機器100は、通信可能な血糖計160から血糖値を取得してもよい。この場合、電子機器100は、血糖計160から取得した血糖値に基づいて、脂質値を推定できる。
また、上記実施の形態では、血糖値及び脂質値の推定を電子機器100が実行する場合の例について説明したが、血糖値及び脂質値の推定は、必ずしも電子機器100によって実行されなくてもよい。血糖値及び脂質値の推定を、電子機器100以外の他の装置が実行する場合の一例について説明する。
図18は、本発明の一実施の形態に係るシステムの概略構成を示す模式図である。図18に示した実施の形態のシステムは、電子機器100と、サーバ151と、携帯端末150と、通信ネットワークを含んで構成される。図18に示したように、電子機器100が測定した脈波は、通信ネットワークを通じてサーバ151に送信され、被検者の個人情報としてサーバ151に保存される。サーバ151では、被検者の過去の取得情報や、様々なデータベースと比較することにより、被検者の血糖値又は脂質値を推定する。サーバ151はさらに被検者に最適なアドバイスを作成してもよい。サーバ151は、被検者が所有する携帯端末150に推定結果及びアドバイスを返信する。携帯端末150は受信した推定結果及びアドバイスを携帯端末150の表示部から報知する、というシステムを構築することができる。電子機器100の通信機能を利用することで、サーバ151には複数の利用者からの情報を収集することができるため、さらに推定の精度が上がる。また、携帯端末150を報知手段として用いるため、電子機器100は報知部147が不要となり、さらに小型化される。また、被検者の血糖値又は脂質値の推定をサーバ151で行うために、電子機器100の制御部143の演算負担を軽減できる。また、被検者の過去の取得情報をサーバ151で保存できるために、電子機器100の記憶部145の負担を軽減できる。そのため、電子機器100はさらに小型化、簡略化が可能となる。また、演算の処理速度も向上する。
本実施の形態に係るシステムはサーバ151を介して、電子機器100と携帯端末150とを通信ネットワークで接続した構成を示したが、本発明に係るシステムはこれに限定されるものではない。サーバ151を用いずに、電子機器100と携帯端末150を直接通信ネットワークで接続して構成してもよい。
本発明を完全かつ明瞭に開示するために特徴的な実施例に関し記載してきた。しかし、添付の請求項は、上記実施の形態に限定されるべきものでなく、本明細書に示した基礎的事項の範囲内で当該技術分野の当業者が創作しうるすべての変形例及び代替可能な構成を具現化するように構成されるべきである。
例えば、上述の実施の形態においては、センサ部130に角速度センサ131を備える場合について説明したが、本発明に係る電子機器100はこれに限ることはない。センサ部130は、発光部と受光部からなる光学脈波センサを備えていてもよいし、圧力センサを備えていてもよい。また、電子機器100の装着は手首に限らない。首、足首、太もも、耳等、動脈上にセンサ部130が配置されていればよい。