以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものである。この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
図1は本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。図2は図1のシャトルユニットの要部斜視図である。図3は図1のインクジェット記録装置の制御ブロック図である。図4は図2のインクジェットヘッドのノズル面の説明図である。なお、以下の説明において、図1の矢印で示す上下、左右及び前後が、上下方向、左右方向及び前後方向とそれぞれ定義されている。
(インクジェット記録装置の全体構成)
図1に示すように、インクジェット記録装置1は、シャトルベースユニット2と、フラットベッドユニット3と、シャトルユニット4と、記憶部5と、制御部6とを備える。
シャトルベースユニット2は、シャトルユニット4を支持するとともに、前後方向(副走査方向)にシャトルユニット4を移動させる。シャトルベースユニット2は、架台部11と、副走査駆動モータ12(図3参照)とを備える。
架台部11は、シャトルユニット4を支持する。架台部11は、矩形枠状に形成されている。架台部11の左右の枠上には、前後方向に延びる副走査駆動ガイド13A,13Bがそれぞれ形成されている。副走査駆動ガイド13A,13Bは、前後方向に移動するシャトルユニット4をガイドする。
図3に示す副走査駆動モータ12は、図2に示すインクジェットヘッド41を図1に示すフラットベッドユニット3上の印刷媒体15に対して副走査方向に相対移動させる副走査駆動部である。図3の副走査駆動モータ12は、具体的には、図1のシャトルユニット4を前後方向に移動させる。
図1に示すフラットベッドユニット3は、建材等からなる印刷媒体15を保持する。フラットベッドユニット3は、シャトルベースユニット2の架台部11の内側(枠で囲まれた空間)に配置されている。フラットベッドユニット3は、印刷媒体15が載置される水平面である媒体載置面3aを有する。フラットベッドユニット3は、油圧駆動機構等からなる昇降機構(図示略)により、媒体載置面3aの高さを調整できる。
シャトルユニット4は、印刷媒体15に画像を印刷する。シャトルユニット4は、図2に示すように、筐体21と、主走査駆動部22と、主走査移動テーブル23と、ヘッドユニット24と、カートリッジ装着部25A,25Bと、インク供給部26とを備える。
筐体21は、ヘッドユニット24等の各部を保持する。筐体21は、図1に示すように、フラットベッドユニット3を左右方向に跨ぐ門型に形成されている。筐体21は、その左右の脚部27A,27Bが、シャトルベースユニット2の架台部11に支持され、副走査駆動ガイド13A,13Bに沿って移動可能になっている。筐体21の脚部27A,27B間の水平部28は、ヘッドユニット24から印刷媒体15へインクを吐出するため、下側が開口されている。
図2に示す主走査駆動部22は、ヘッドユニット24を左右方向(主走査方向)に移動させるために、主走査移動テーブル23を左右方向に移動させる。主走査駆動部22は、駆動ベルト31と、一対のプーリ32A,32Bと、主走査駆動モータ33と、主走査駆動ガイド34とを備える。
駆動ベルト31は、周回移動することにより、主走査移動テーブル23を移動させる。駆動ベルト31は、プーリ32A,32B間に掛け渡されている。
プーリ32A,32Bは、駆動ベルト31を支持するとともに、駆動ベルト31を周回移動させる。プーリ32A,32Bは、筐体21の後側の壁に回転可能に支持されている。プーリ32A,32Bは、左右方向に互いに離間して、同じ高さに配置されている。プーリ32Bは、主走査駆動モータ33の出力軸に接続されており、主走査駆動モータ33の回転駆動力を駆動ベルト31に伝達する。
主走査駆動モータ33は、プーリ32Bを回転(正転、逆転)させることで、駆動ベルト31を周回移動させる。主走査駆動ガイド34は、主走査移動テーブル23を左右方向に沿って移動するようガイドする。主走査駆動ガイド34は、左右方向に延びる長尺状に形成されている。主走査駆動ガイド34は、筐体21の後側の壁に設置されている。
主走査移動テーブル23は、ヘッドユニット24が搭載されたテーブルである。主走査移動テーブル23は、駆動ベルト31に固定され、駆動ベルト31の周回移動により主走査駆動ガイド34に沿って左右方向に移動する。
ヘッドユニット24は、4つのインクジェットヘッド41を備える。ヘッドユニット24は、左右方向に移動しつつ、印刷媒体15へインクを吐出して画像を印刷する。ヘッドユニット24は、主走査移動テーブル23に搭載され、主走査移動テーブル23とともに左右方向に移動する。
4つのインクジェットヘッド41は、左右方向に並列して配置されている。インクジェットヘッド41は、図4に示すように、その下面であるノズル面41aに開口する、副走査方向に沿って配置された複数のノズル43を有し、ノズル43からインクを印刷媒体15へ吐出する。4つのインクジェットヘッド41は、それぞれ異なる色(例えば、シアン、ブラック、マゼンタ、イエロー)のインクを吐出する。
インクジェットヘッド41は、図3の主走査駆動モータ33によって主走査方向に移動しつつ、ノズル43から印刷媒体15へインクを吐出させて1パス分の印刷を行う動作と、図3の副走査駆動モータ12によってインクジェットヘッド41を副走査方向に相対移動させる動作とを交互に繰り返して、図1の印刷媒体15に画像を印刷する。
カートリッジ装着部25A,25Bは、筐体21の左右の脚部27A,27Bにそれぞれ設けられている。各カートリッジ装着部25A,25Bは、カートリッジ装着口29およびカートリッジジョイント部70を備える。
カートリッジ装着口29は、カートリッジ装着部25A,25Bにそれぞれ4つずつ形成されている。各カートリッジ装着口29には、後述するインクカートリッジ50がそれぞれ装着される。カートリッジ装着口29に装着されたインクカートリッジ50には、カートリッジジョイント部70が接続される。カートリッジジョイント部70については後述する。
インク供給部26は、カートリッジ装着部25A,25Bにそれぞれ設けられている。各カートリッジ装着部25A,25Bのインク供給部26は、カートリッジ装着口29に装着された各色のインクカートリッジ50から対応する色のインクジェットヘッド41にインクを供給する。インク供給部26は、図5に示すように、排気経路59と、カートリッジ側経路61と、直通経路62と、ヘッド側経路63と、直通経路62をバイパスする分岐経路64と、ポンプ69とを備える。排気経路59、カートリッジ側経路61、直通経路62、ヘッド側経路63、および分岐経路64は、チューブからなる。
カートリッジ側経路61は、インクカートリッジ50と、排気経路59、直通経路62および分岐経路64の分岐地点との間の経路である。カートリッジ側経路61の上流端は、後述するカートリッジジョイント部70を介してインクカートリッジ50に接続され、カートリッジ側経路61の下流端は、分岐ジョイント部65を介して排気経路59の上流端、直通経路62の上流端および分岐経路64の上流端に接続されている。分岐ジョイント部65は、直通経路62および分岐経路64の分岐地点に配置されている。
直通経路62は、分岐経路64の分岐地点と、分岐地点より下流側で分岐経路64が直通経路62に合流する地点である合流地点との間の、インク供給部26上の経路である。直通経路62の上流端は、分岐ジョイント部65を介してカートリッジ側経路61の下流端および分岐経路64の上流端に接続されている。直通経路62の下流端は、合流ジョイント部66を介してヘッド側経路63の上流端および分岐経路64の下流端に接続されている。合流ジョイント部66は、直通経路62および分岐経路64の合流地点に配置されている。
ヘッド側経路63は、直通経路62および分岐経路64の合流地点とインクジェットヘッド41との間の経路である。ヘッド側経路63の上流端は、合流ジョイント部66を介して直通経路62の下流端および分岐経路64の下流端に接続されている。ヘッド側経路63の下流端は、ヘッドジョイント部28を介してインクジェットヘッド41に接続されている。ヘッド側経路63には開閉弁67が配置されている。開閉弁67は、ヘッド側経路63内の流体の流路を開閉する。ヘッド側経路63は、カートリッジ側経路61と直通経路62との合計の長さよりも長い。
直通経路62には直通弁68が配置され、直通経路62内の流体(インク、気泡)の流路を開閉する。
分岐経路64は、ポンプ69を設置するための経路である。分岐経路64の一端(上流端)は、分岐ジョイント部65を介して、カートリッジ側経路61の下流端および直通経路62の上流端に接続されている。分岐経路64の他端(下流端)は、合流ジョイント部66を介して、直通経路62の下流端およびヘッド側経路63の上流端に接続されている。
ポンプ69は、インクカートリッジ50からインクジェットヘッド41へインクを送液する。ポンプ69は、分岐経路64に配置されている。ポンプ69は、チューブポンプからなる。
ここで、分岐経路64を設けてそこにポンプ69を配置したのは、インクジェットヘッド41とインクカートリッジ50との水頭差によりインクジェットヘッド41のノズルに適正な負圧を生成するために、インク経路上にはポンプ69を置かないようにするためである。
排気経路59は、後述する気泡排出動作によりインクカートリッジ50からカートリッジ側経路61に導出される気泡を、直通経路62および分岐経路64に流入させずに大気に放出するための経路である。このため、排気経路59は、分岐ジョイント部65から鉛直方向上方に向けて延設されている。一方、直通経路62および分岐経路64は、少なくとも分岐ジョイント部65よりも鉛直方向の上方に位置しないように延設されている。
排気経路59の下流端には、大気側から排気経路59への異物の侵入を防ぐフィルタ部60Aが設けられており、排気経路59の途中には開閉弁60Bが配置されている。
インク供給部26では、インクジェットヘッド41の使用を開始する際、インクジェットヘッド41にインクを充填する初期充填動作が行われる。初期充填動作の開始時には、開閉弁60Bおよび直通弁68を閉鎖し、開閉弁67を開放した状態で、ポンプ69を駆動させる。これにより、インクカートリッジ50からカートリッジ側経路61へインクが供給され、分岐経路64およびヘッド側経路63を経由してインクジェットヘッド41へ向かってインクが流れる。
ヘッド側経路63の途中までインクが充填されると、直通弁68を開放し、開閉弁67を閉鎖する。開閉弁60Bは閉鎖したままとする。このとき、直通経路62には空気がある。直通弁68が開放され、開閉弁60Bが閉鎖したまま開閉弁67が閉鎖されることで、直通経路62に下流側からインクが流入し、直通経路62の上流側から分岐経路64へ空気が移動する。この後、直通弁68を閉鎖し、開閉弁67を開放する。これにより、分岐経路64から、合流ジョイント部66より下流側のヘッド側経路63へ空気が送られる。
このような直通弁68および開閉弁67の開閉動作を複数回繰り返すことにより、直通経路62にあった空気が合流ジョイント部27より下流側のヘッド側経路63へ送られる。そして、直通弁68を閉鎖し、開閉弁67を開放した状態としてポンプ69の駆動を継続することで、インクジェットヘッド41にインクを充填する。この際、元々直通経路62にあった空気が、インクとともにインクジェットヘッド41へ送られ、ノズルから排出される。これによりインクの初期充填動作が完了し、排気経路59の開閉弁60Bよりも上流側の部分と、カートリッジ側経路61と、直通経路62と、ヘッド側経路63と、分岐経路64とにインクが充填される。
また、インク供給部26では、インク切れのインクカートリッジ50の交換の際に、交換後のインクカートリッジ50内の気泡をカートリッジ側経路61に導出する気泡排出動作が行われる。気泡排出動作の開始時には、開閉弁60Bおよび直通弁68を閉鎖し、カートリッジ側経路61の長さLに応じた容量分のインクをポンプ69によりインクカートリッジ50から導出させる。これにより、カートリッジ側経路61に元々充填されていたインクが分岐経路64に流入し、交換後のインクカートリッジ50のインクがカートリッジ側経路61に導出する。
したがって、交換後のインクカートリッジ50の後述するインク導出部材54の導出口57(図7参照)に溜まった気泡は、インクに混じってカートリッジ側経路61に導出される。続いて、直通弁68を閉鎖したまま開閉弁60Bが一定時間開放される。この一定時間は、インクと共にカートリッジ側経路61に導出された気泡がインクの流れや自身の浮力により分岐ジョイント部65に達し、さらに、排気経路59のインク中を開閉弁60B側まで浮上するのに十分な時間としてもよい。この一定時間の長さは、例えば実験によって定めることができる。一定時間の経過後には、直通弁68を閉鎖したまま開閉弁60Bが閉鎖されて、気泡排出動作が完了する。
これにより、インク供給部26のインクが交換後のインクカートリッジ50から導出したインクに全て置換されるまで、インクカートリッジ50からインクを導出させて元々インク供給部26に充填されていたインクをインクジェットヘッド41のノズルから大量に排出しなくても、交換後のインクカートリッジ50から導出したインクに混入した気泡を排出経路59のフィルタ部60Aから大気に放出できる。よって、気泡排出動作をインクの無駄を減らして行うことができる。
図1に示す記憶部5は、制御部6が行う制御に必要なプログラムやデータ等を記憶している。
図1に示す制御部6は、インクジェット記録装置1の各部の動作を制御する演算処理装置である。制御部6は、インクジェット記録装置1に内蔵されている。或いは、制御部6は、外部に接続されたパーソナルコンピュータやプログラマブルロジックコントローラ(PLC: programmable logic controller)等の専用制御装置で実現することができ、具体的にはCPU、RAM、ROM等の他、必要に応じて通信機能を備えて構成されている。
制御部6は、インクジェットヘッド41を主走査駆動モータ33により主走査方向に移動させつつノズル43から印刷媒体15へインクを吐出させて1パス分の印刷を行う動作と、副走査駆動モータ12によりインクジェットヘッド41と印刷媒体15とを副走査方向に相対移動させる動作とを交互に繰り返して印刷媒体15に画像を印刷するように、主走査駆動モータ33、副走査駆動モータ12及びインクジェットヘッド41を制御する。
また、制御部6は、インクの初期充填動作時の開閉弁67、直通弁68、およびポンプ69の動作を制御する。インクの初期充填動作は、図3に示す操作パネル7からの入力操作により初期充填メニューが選択されて、カートリッジジョイント部70の後述するカートリッジセンサ76の検出結果により図2のカートリッジ装着口29へのインクカートリッジ50の装着が判別された際に、実行される。
さらに、制御部6は、インク切れに伴うインクカートリッジ50の交換の際に実行される交換後のインクカートリッジ50内の気泡排出動作を制御する。気泡排出動作では、インクカートリッジ50のインクを排気経路59と直通経路62と分岐経路64とが分岐する分岐ジョイント部65まで送液するのに必要な期間、つまり、カートリッジ側経路61の長さLに応じた容量分のインクを交換後のインクカートリッジ50から導出させるのに必要な時間、ポンプ69が動作される。これにより、インク導出部材54に溜まったインク中の気泡がインクと共に排気経路59のフィルタ部60Aに移動されて、外部に排出される。
(インクカートリッジの構成)
次に、図2のカートリッジ装着口29に装着されるインクカートリッジ50について説明する。図6は図2のインクカートリッジの斜視図である。図7は図6のパウチ容器の斜視図である。
図6に示すように、インクカートリッジ50は、パウチ容器51と、カートリッジケース52とを備える。
(カートリッジケース)
カートリッジケース52は、図2のカートリッジ装着口29に対応する大きさの端面53を有する矩形状の中空箱体であり、矩形状の外形を維持できる剛性を有している。カートリッジケース52の内部には、インクが封入されたパウチ容器51が収容されている。カートリッジケース52は、図2のカートリッジ装着口29からカートリッジ装着部25A,25Bの内部に、一方の端面53側から挿入される。一方の端面53には嵌合孔55が形成されている。端面53の嵌合孔55の両脇にはガイド孔56がそれぞれ形成されている。
嵌合孔55には、カートリッジケース52の内側から嵌合されたパウチ容器51の後述するインク導出部材(スパウト)54が露出する。また、各ガイド孔56は、図2のカートリッジ装着口29からカートリッジ装着部25A,25Bへのインクカートリッジ50の挿入方向Xに沿って形成されている。
(パウチ容器)
図7に示すように、パウチ容器51は、可撓性フィルムの縁部同士の熱溶着によって、カートリッジケース52に収容可能な大きさの襠(まち)付きの袋状に形成されている。このパウチ容器51の一辺にインク導出部材(スパウト)54が取り付けられている。インク導出部材54は、図6のカートリッジケース52の端面53の嵌合孔55に嵌合される。
インク導出部材54はパウチ容器51の内部と外部を連通する導出口57を貫設した筒状の樹脂成型品である。インク導出部材54は、パウチ容器51の膨張収縮に関係なく導出口57が確保される剛性を有している。導出口57は、弾性材の薄膜58によってシールされている。
(カートリッジジョイント部の構成)
続いて、図6のインクカートリッジ50を図5のインク供給部26のカートリッジ側経路61に接続する、カートリッジ装着部25A,25Bのカートリッジジョイント部70の構成について説明する。図8は図5のカートリッジジョイント部70の説明図である。
図8に示すように、カートリッジジョイント部70は、図2のカートリッジ装着口29からインクカートリッジ50が挿入される脚部27A,27B内のスペースの最奥部に設けられている。カートリッジジョイント部70は、インク供給針71と、ガイドピン72と、挿入深さ規制部材73と、針挿抜ユニット74とを備える。
(インク供給針)
インク供給針71は、脚部27A,27B内のインクカートリッジ50が挿入されるスペースの最奥部の面(突設面)27Cに、インクカートリッジ50の挿入方向Xに沿って突設されている。インク供給針71は、図2のカートリッジ装着口29に装着されたインクカートリッジ50の図6に示す導出口57の鉛直方向の上部において、薄膜58に刺し込まれる。
図9(a)は、図2のカートリッジ装着口29から挿入されて装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置に到達したインクカートリッジ50のインク導出部材54に対する図8のインク供給針71の刺し込み状態を模式的に示す説明図、図9(b)は、図9(a)のI−I線断面図である。
図9(a)に示すように、インク供給針71は、先端が封止された中空針である。インク供給針71の先端寄りの側方には、インク供給針71の内部と連通する開口75が設けられている。図8のカートリッジジョイント部70において、インク供給針71は脚部27A,27B内のインクカートリッジ50が挿入されるスペースの最奥部の面(突設面)27Cに対して、インクカートリッジ50の挿入方向Xの周りに回転可能に支持されている。
(ガイドピン)
ガイドピン72は、脚部27A,27B内の突設面27Cのインク供給針71を挟んだ両側に、インクカートリッジ50の挿入方向Xに沿ってそれぞれ突設されている。各ガイドピン72はインク供給針71よりも長い。各ガイドピン72は、インク供給針71がインクカートリッジ50のインク導出部材54の薄膜58に刺し込まれるよりも先に、図2のカートリッジ装着口29から挿入された図6のインクカートリッジ50の各ガイド孔56にそれぞれ挿入される。各ガイドピン72は、図2のカートリッジ装着口29から挿入されたインクカートリッジ50を、挿入方向Xに移動するようにガイドする。
(挿入深さ規制部材)
図8の挿入深さ規制部材73は、インク供給針71の周囲に配置される円環状の当接面73aを有しており、当接面73aには、図2のカートリッジ装着口29から挿入された図6のインクカートリッジ50のインク導出部材54が当接する。図8に示すように、挿入深さ規制部材73は、インク供給針71およびガイドピン72の突設面27Cに対して、インクカートリッジ50の挿入方向Xに沿って、突設面27Cから離れた装着位置と突設面27Cに接近した使用位置との間で移動可能に構成されている。また、挿入深さ規制部材73は、不図示の付勢部材により使用位置から装着位置に向けて付勢されている。
図2のカートリッジ装着口29から挿入されたインクカートリッジ50のインク導出部材54が、図8の突設面27Cに対して装着位置にある挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接すると、インクカートリッジ50が図2のカートリッジ装着口29に装着された状態となる。この状態では、インク導出部材54に刺し込まれたインク供給針71の開口75は、図9(a)に示すように、薄膜58のすぐ内側に位置する。
また、図2のカートリッジ装着口29に装着された図6のインクカートリッジ50のインク導出部材54に対して、後述する針挿抜ユニット74の針移動部79(図3参照)が、図8のインク供給針71をインク導出部材54側に移動させると、インク導出部材54により当接面73aを押された挿入深さ規制部材73が突設面27Cに対して装着位置から使用位置に移動して止まる。すると、インクカートリッジ50のインク導出部材54に刺し込まれたインク供給針71の開口75の位置が、図9(a)に示す位置から、それよりも薄膜58のさらに奥側の位置に移動する。
(針挿抜ユニット)
図8の針挿抜ユニット74は、図3に示すカートリッジセンサ76と、ロック機構部77と、針回転部78と、針移動部79とを備える。
(カートリッジセンサ)
カートリッジセンサ76は、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aにインク導出部材54が当接したインクカートリッジ50と、使用位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aにインク導出部材54が当接したインクカートリッジ50とを検出する。
カートリッジセンサ76は、挿入深さ規制部材73の装着位置および使用位置において、当接面73aにインク導出部材54が当接したインクカートリッジ50を検出するものであればよく、例えば、リミットスイッチ等のメカスイッチや光学センサや超音波センサ等の非接触センサを用いることができる。
(ロック機構部)
ロック機構部77は、インクカートリッジ50の挿入方向Xへの挿入深さ規制部材73の移動を装着位置において規制(ロック)および規制解除(ロック解除)する。ロック機構部77は、例えば、装着位置から使用位置への挿入深さ規制部材73の移動経路にストッパを出没させるソレノイドを用いて構成することができる。
この場合、図1に示す制御部6は、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aにインク導出部材54が当接したインクカートリッジ50のカートリッジセンサ76による検出結果や、インクの初期充填時の制御結果等に応じて、装着位置の挿入深さ規制部材73のロック機構部77による移動の規制(ロック)および規制解除(ロック解除)を制御する。
(針回転部)
図3の針回転部78は、図2のカートリッジ装着口29から挿入された図6のインクカートリッジ50が、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aにインク導出部材54が当接する位置から、使用位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aにインク導出部材54が当接する位置に移動するのと同時に、またはこれと前後して、図8のインク供給針71を回転させる。インク供給針71を針回転部78によって回転させることで、インク供給針71の開口75の向きを変更することができる。
図3の針回転部78は、モータ等の駆動源を用いる構成とすることもでき、挿入深さ規制部材73の装着位置および使用位置間の移動を回転運動に変換してインク供給針71に伝達する動力伝達機構を用いる機械的な構成とすることもできる。
(針移動部)
図3の針移動部79は、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aにインク導出部材54が当接したことをカートリッジセンサ76が検出しているインクカートリッジ50に対して接近離間するように、カートリッジジョイント部70の可動要素をインクカートリッジ50の挿入方向Xに沿って移動させるものである。
ここで、カートリッジジョイント部70の可動要素とは、図8のインク供給針71およびガイドピン72とそれらの突設面27C、ならびに、脚部27A,27B内の突設面27Cの裏側に配置された針回転ユニット74の針回転部78(図3参照)を含んでいる。図3の針移動部79によるカートリッジジョイント部70の可動要素の移動は、操作パネル7からの入力操作に基づいて、制御部6の制御により行われる。
なお、インクカートリッジ50に接近するようにカートリッジジョイント部70の可動要素が移動すると、可動要素に含まれない図8の挿入深さ規制部材73は、当接面73aに当接したインク導出部材54に押されてインク供給針71およびガイドピン72の突設面27Cの裏側に引っ込む。これにより、挿入深さ規制部材73は装着位置から使用位置に移動する。
また、使用位置の挿入深さ規制部材73は、インクカートリッジ50から離間するようにカートリッジジョイント部70の可動要素が移動すると、インク導出部材54に当接面73aを当接させたままの状態で、不図示の付勢部材の付勢力によりインク供給針71およびガイドピン72の突設面27Cから突出する。これにより、挿入深さ規制部材73は使用位置から装着位置に移動する。
なお、カートリッジジョイント部70の可動要素が移動する際、インクカートリッジ50は、挿入深さ規制部材73の当接面73aからインク導出部材54が離間しないように、インクカートリッジ50の挿入方向Xにおける位置が固定される。
上述した針挿抜ユニット74の針回転部78や針移動部79を、モータ等の駆動源を用いて構成する場合、制御部6は、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aにインク導出部材54が当接したインクカートリッジ50のカートリッジセンサ76による検出結果や、インクの初期充填時の制御結果等に応じて、針挿抜ユニット74の駆動源の動作を制御する。
(インクカートリッジ交換手順)
次に、インク切れのインクカートリッジ50を交換する際の手順とそれに伴って制御部6の制御により実行される動作について、図10のフローチャートを参照して説明する。
まず、制御部6は、カートリッジジョイント部70の可動要素を、インク切れのインクカートリッジ50から離間するように針移動部79により移動させる。これにより、挿入深さ規制部材73が使用位置から装着位置に移動し、インク切れのインクカートリッジ50のカートリッジ装着口29に対する装着状態が解除される。そこで、ユーザが、インク切れのインクカートリッジ50をカートリッジ装着口29から引き抜いて取り出す(ステップS1)。そして、インク切れのインクカートリッジ50が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aから離れたことがカートリッジセンサ76により検出されると、制御部6の制御によりロック機構部77が挿入深さ規制部材73を装着位置でロックする。
次に、ユーザが新しいインクカートリッジ50をカートリッジ装着口29からカートリッジ装着部25A,25Bの内部に挿入する(ステップS3)。挿入したインクカートリッジ50のインク導出部材54は、装着位置でロックされた挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接して、装着位置に到達する。
インク導出部材54が装着位置に到達するまでの間には、まず、カートリッジジョイント部70のガイドピン72がガイド孔56に挿入され、次に、カートリッジジョイント部70のインク供給針71がインク導出部材54の導出口57の上部において薄膜58に刺し込まれる。このとき、インク供給針71は、開口75が鉛直方向の上方を向く回転角度(第1角度)となっている。
薄膜58に刺し込まれたインク供給針71の開口75は、図9(a)に示すように、薄膜58のすぐ内側に到達する。このとき、インク供給針71が導出口57の上部において薄膜58に刺し込まれるので、インク供給針71の開口75は、インク導出部材54の上部の隅部に浮上して溜まった気泡Bに露出し易くなる。
装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aにインク導出部材54が当接する位置までインクカートリッジ50がカートリッジ装着口29に挿入されると、挿入深さ規制部材73が装着位置でロックされていることから、インクカートリッジ50がそれ以上の挿入を規制されて停止する。停止したインクカートリッジ50をカートリッジセンサ76が検出したら、図10に示すように、制御部6の制御によって、上述した気泡排出動作を実行する(ステップS5)。
図11(a)は、図9(a)の装着位置に位置する挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接したインク導出部材54に刺し込まれたインク供給針71を通じてインク導出部材54内の気泡Bをパウチ容器51外に排出した状態を模式的に示す断面図、図11(b)は、図11(a)のII−II線断面図である。
気泡排出動作を実行すると、図11(a),(b)に示すように、インク導出部材54の薄膜58のすぐ内側に溜まった気泡Bがインクと共に、ポンプ69の動力により開口75からインク供給針71の内部に流入し、図5のインク供給部26のカートリッジ側経路61に導出される。カートリッジ側経路61に導出された気泡Bは、分岐ジョイント部65や開閉弁60Bを経て排気経路59のフィルタ部60Aに送られる。そして、フィルタ部60Aから大気中に排出される。
図10のフローチャートに戻って、ステップS5の気泡排出動作が完了すると、制御部6の制御によりロック機構部77が挿入深さ規制部材73の装着位置でのロックを解除する。そこで、当接面73aに当接したインク導出部材54に押された挿入深さ規制部材73が、インク供給針71およびガイドピン72の突設面27Cの裏側に引っ込んで装着位置から使用位置に移動するまで、制御部6の制御により針移動部79がカートリッジジョイント部70の可動要素を、インクカートリッジ50の挿入方向Xに沿って移動させる。すると、インク導出部材54の薄膜58に刺し込まれたインク供給針71の開口75が、薄膜58から離間してインク導出部材54の奥側に移動する。
針移動部79がカートリッジジョイント部70の可動要素を、インクカートリッジ50の挿入方向Xに沿って移動させたら、制御部6の制御により針回転部78がインク供給針71を180゜回転させる(以上、ステップS7)。針回転部78によるインク供給針71の回転は、針移動部79がカートリッジジョイント部70の可動要素をインクカートリッジ50の挿入方向Xに沿って移動させる前または後に行ってもよく、針移動部79によるカートリッジジョイント部70の可動要素の移動と同時に行ってもよい。本実施形態では、針移動部79によるカートリッジジョイント部70の可動要素の移動と同時に、針回転部78によるインク供給針71の回転を行うものとする。
図12(a)は、使用位置の挿入深さ規制部材73に当接する位置に到達したインクカートリッジ50のインク導出部材54に刺し込んだインク供給針71の開口75の向きを模式的に示す断面図、図12(b)は、図12(a)のIII−III線断面図である。
インク供給針71を180゜回転させると、図12(a),(b)に示すように、インク供給針71は、開口75が鉛直方向の下方を向く回転角度となる(第2角度)。これにより、インク供給針71の開口75が、気泡排出動作後にインク導出部材54の薄膜58のすぐ内側に残った気泡B側を向かなくなる。また、図12(a)に示すように、インク供給針71がインク導出部材54の奥側に移動して、薄膜58のすぐ内側に残った気泡Bから開口75の位置が離れる。このため、開口75からインク供給針71の内部に気泡Bが流入しにくくなる。
図10のフローチャートに示した以上の手順および動作を経て、印刷ジョブの入力に伴う印刷処理の実行を待機する状態となり(ステップS9)、インク切れのインクカートリッジ50の交換が終了する。
なお、カートリッジジョイント部70のインク供給針71が刺し込まれる位置は、インク導出部材54の導出口57の上端部としてもよい。そのようにすれば、気泡排出動作の際に、インク導出部材54の上部の隅部に浮上して溜まった気泡Bをより効率的にパウチ容器51外に排出することができる。
図13(a)は、インク導出部材54の導出口57の上端部にインク供給針71を刺し込む場合の、インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときのインク供給針71の開口75の向きの別例を模式的に示す断面図、図13(b)は、同じくインク導出部材54が使用位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときのインク供給針71の開口75の向きの別例を模式的に示す断面図である。
インク導出部材54の導出口57の上端部にインク供給針71が刺し込まれる場合は、図13(a)に示すように、インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときのインク供給針71を、開口75の向きが水平方向となる回転角度(第1角度)としてもよい。これにより、導出口57の内周壁で開口75が塞がれて気泡Bがインク供給針71の内部に流入しにくくなるのを避けることができる。この場合も、インク導出部材54が使用位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときのインク供給針71は、図13(b)に示すように、開口75の向きが鉛直方向の下方となる回転角度(第2角度)とすることができる。
なお、特許請求の範囲において発明の要素として記載したインク供給針の開口とは、その開口を通じたインク供給針の外部と内部との間でのインク又は気泡の流出入が実質的に可能となるものを指す。したがって、以上に説明した各実施形態では、インク供給針71に設けた開口75が、インク供給針71の第1角度及び第2角度の双方において、特許請求の範囲におけるインク供給針の開口に該当する。
また、インク供給針71の開口75は、インク供給針71を径方向に貫通するように形成してもよい。
図14(a)は、インク供給針71の開口75をインク供給針71の径方向に貫通するように形成する場合の、インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときのインク供給針71の開口75の向きの一例を模式的に示す断面図、図14(b)は、同じくインク導出部材54が使用位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときのインク供給針71の開口75の向きの一例を模式的に示す断面図である。
インク供給針71を径方向に貫通するようにインク供給針71に開口75を形成する場合は、図14(a)に示すように、インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときのインク供給針71を、開口75の向きが水平方向となる回転角度(第1角度)としてもよい。また、図14(b)に示すように、インク導出部材54が使用位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときのインク供給針71は、開口75の向きが鉛直方向の上方および下方となる回転角度(第2角度)とすることができる。
この場合、鉛直方向上方の開口75は、導出口57の内周壁で殆ど塞がれるので、インク供給針71の内部と連通する開口75は、実質的に、鉛直方向下方の開口75のみとなる。したがって、気泡排出動作後にインク導出部材54の薄膜58のすぐ内側に残った気泡Bが、鉛直方向上方の開口75からインク供給針71の内部に流入することは、おおよそ避けることができる。
なお、特許請求の範囲において発明の要素として記載したインク供給針の開口とは、その開口を通じたインク供給針の外部と内部との間でのインク又は気泡の流出入が実質的に可能となるものを指す。したがって、図14(b)に示すように導出口57の内周壁で殆ど塞がれる、第2角度におけるインク供給針71の鉛直方向上方の開口75は、特許請求の範囲におけるインク供給針の開口には該当しない。
但し、その開口75は、図14(a)に示すインク供給針71の第1角度においては、特許請求の範囲におけるインク供給針の開口に該当する。インク供給針71の第1角度において、その開口75は導出口57の内周壁から離間し、開口75を通じたインク供給針71の外部と内部との間でのインク又は気泡の流出入が実質的に可能となるからである。
ちなみに、インク供給針71の外部と内部との間でのインク又は気泡の流出入が実質的に可能となる、特許請求の範囲におけるインク供給針の開口に該当する開口75とは、インク又は気泡の通過が実質的に不可能なほど開口径が極端に小さいものを除くと、おおよそ、開口75の一部(目安としては全体の開口面積の10%以上)が塞がれずに開放されているものとすることができる。
以上に説明した本実施形態のインクジェット記録装置1によれば、カートリッジ装着部25A,25Bにインクカートリッジ50が装着されると、インクカートリッジ50のパウチ容器51のインク導出部材54をシールする薄膜58の上部に、開口75を鉛直方向の上方に向けた第1角度のインク供給針71が水平方向に刺し込まれる。
このため、インク導出部材54内の鉛直方向上部に気泡Bが溜まっている場合、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接したインク導出部材54の薄膜58に刺し込まれたインク供給針71が第1角度であると、インク供給針71の開口75が鉛直方向の上方を向いて、インク導出部材54内に溜まった気泡Bに露出し易くなる。よって、気泡排出動作を行って、ポンプ69によりパウチ容器51のインクをインク供給針71を通じてパウチ容器51の外に導出させると、インク導出部材54内の上部に溜まった気泡Bが開口75からインク供給針71の中に流入し易くなる。これにより、インク導出部材54内の上部の気泡Bが減って、インク導出部材54内の上部に溜まった気泡Bの体積が小さくなる。
よって、気泡排出動作の後に、インク供給針71が180゜の回転により第1角度から第2角度に移動して、インク供給針71の開口75の向きが鉛直方向の下方に変わると、インク供給針71の開口75は、インク導出部材54の上部に溜まった気泡Bから確実に離間する。
このため、インク導出部材54の上部の隅部に気泡Bが残っていても、第1角度から第2角度に回転した後のインク供給針71の開口75は、インク導出部材54の上部の隅部に残った気泡Bよりもパウチ容器51内のインクに露出し易くなる。よって、インク供給針71が第1角度に位置しているパウチ容器51のインクを気泡排出動作においてパウチ容器51の外に導出する前よりも、気泡排出動作によりパウチ容器51の外にインクを導出した後にインク供給針71が回転して第2角度に位置しているときの方が、インク供給針71の開口75からインク供給針71の内部にパウチ容器51内のインクが気泡Bの混じっていない状態で流入し易くなる。
そして、インク供給針71の中に流入したインクは、インク供給針71が第1角度に位置していたときに開口75からインク供給針71の中に先に流入していた気泡Bを押しながら、インク供給針71を通じてパウチ容器51の外に導出される。インクに押されてパウチ容器51の外に導出された気泡Bは、インク供給部26の排出経路59において、容易に大気に放出することができる。そのため、パウチ容器51の外に導出された気泡Bが外部に排出されずにインクジェットヘッド41やインク供給部26に残ることはない。
したがって、カートリッジ装着部25A,25Bにインクカートリッジ50が装着される際に、最初の段階でパウチ容器51のインク導出部材54の上部に溜まった気泡Bを、気泡排出動作の際に、第1角度のインク供給針71を通じてパウチ容器51の外に導出することができる。また、気泡排出動作により気泡Bをパウチ容器51の外に導出した後の段階で、インク供給針71の第1角度から第2角度への回転により、インク導出部材54の上部に残った少量の気泡Bからインク供給針71の開口75を遠ざけて、気泡Bが混じっていないインクだけを、インク供給針71を通じてパウチ容器51の外に導出することができる。
このため、カートリッジ装着部25A,25Bへのインクカートリッジ50の装着時にパウチ容器51のインク導出部材54内の上部に溜まった気泡Bやインク導出部材54からパウチ容器51内に混入した気泡Bを効率よくパウチ容器51から抜き取りつつ、装着後のインクカートリッジ50のインク導出部材54内に残った気泡Bがインクに混じってパウチ容器51の外に導出されるのを抑制することができる。
また、本実施形態のインクジェット記録装置1によれば、開口75を鉛直方向の上方に向けてインク導出部材54に刺し込んだインク供給針71を第2角度に回転させることで、インク供給針71の開口75がインク導出部材54の中心側に移動してインク導出部材54の内周壁から離間するようにした。
このため、インク導出部材54の上部に限らずインク供給針71の回転方向におけるインク導出部材54のどこかの隅部に気泡Bが残っていても、気泡排出動作の後にインク供給針71を180゜回転させると、インク供給針71の開口75が気泡Bから遠ざけられる。気泡Bから遠ざけられたインク供給針71の開口75は、インク導出部材54内に存在するインクだけに露出し易くなる。
よって、インク供給針71の開口75を鉛直方向の上方に向けてインク導出部材54の隅部の気泡Bをパウチ容器51の外に導出させた後に、インク供給針71を180゜回転させてインク供給針71の開口75を鉛直方向の下方に向けることで、インク供給針71を通じてパウチ容器51の外に導出されるインクに気泡Bがより一層混じり難くすることができる。
さらに、本実施形態のインクジェット記録装置1によれば、薄膜58の内側に位置するインク供給針71の開口75が薄膜58から離間するように、針移動部79によりインク供給針71がインク導出部材54の薄膜58の奥側にさらに刺し込まれるのと同時に、又はこれと前後して、針回転部78によりパウチ容器51に対してインク供給針71が回転されて第1角度から第2角度に移動するようにした。
このため、気泡排出動作において、第1角度のインク供給針71を通じてインク導出部材54の上部の気泡Bをパウチ容器51の外に導出して、インク導出部材54の上部に溜まった気泡Bの体積を小さくした後に、インク供給針71が第1角度から第2角度に回転されることになる。したがって、気泡排出動作が終わると、インク供給針71の開口75の向きが、インク導出部材54の上部の隅部に溜まった気泡Bが流入し易い鉛直方向の上方から、気泡Bが流入しにくい鉛直方向の下方に変わることになる。
また、これと同時に、またはこれと前後して、インクカートリッジ50の挿入方向Xにインク供給針71がパウチ容器51に対して相対移動することで、インク供給針71の開口75をインク導出部材54の気泡Bから遠ざけることになる。
このため、気泡排出動作の後に、インク導出部材54の上部の隅部に気泡Bが仮に残っていたとしても、その気泡Bがインクに混じってパウチ容器51の外に導出されるのを抑制することができる。
さらに、インクカートリッジ50のインク導出部材54が、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあり、図9(a),(b)、図11(a),(b)、図13(a)、図14(a)の各図に示すように、インク供給針71が、開口75が鉛直方向の上方に位置する回転角度であるときに、図15の説明図に示すように、インク導出部材54が鉛直方向の一番上方に位置するように、インクカートリッジ50を傾斜させるようにしてもよい。
そのようにすることで、インクカートリッジ50のパウチ容器51内のインク中に析出した気泡Bが、浮力により鉛直方向の一番上方にあるインク導出部材54に誘導されるようにして、開口75を鉛直方向の上方に位置させた回転角度のインク供給針71を通じてパウチ容器51の外にインク導出部材54内の気泡Bを導出する効率を高めることができる。
以下、インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるインクカートリッジ50を傾斜させる構成を追加した、本発明の他の実施形態に係るインクジェット記録装置の要部について、図面を参照して説明する。
(インクカートリッジの傾斜ユニット)
本実施形態のインクジェット印刷装置には、インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置に到達したインクカートリッジ50を傾斜させるユニットが追加して設けられる。図16(a),(b)は、インクカートリッジを傾斜させる傾斜ユニットの構成を模式的に示す説明図である。なお、図16(a)はインクカートリッジ50を水平位置とした状態を示し、図16(b)はインクカートリッジ50を傾斜位置とした状態を示している。
図16(a),(b)に示す傾斜ユニット80(揺動ユニット)は、載置台81と、基台82と、支持アーム83と、伸縮シリンダ84とを備える。
載置台81は、インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置に到達したインクカートリッジ50が載置されるもので、基台82上の支持アーム83により、揺動軸85の周りに揺動可能に支持されている。
伸縮シリンダ84は、基台82に立設されたソレノイド等で構成されており、伸縮シリンダ84のシリンダアーム86の先端は、軸87及び長孔88を介して載置台81に接続されている。
このように構成された傾斜ユニット80は、伸縮シリンダ84のシリンダアーム86を伸縮させることで、パウチ容器51のインク導出部材54の薄膜58にインク供給針71が刺し込まれたインクカートリッジ50を、薄膜58のインク供給針71が刺し込まれた箇所を中心として、図16(a)の水平位置と図16(b)の傾斜位置との間で揺動させることができる。図16(b)の傾斜位置では、インク導出部材54がパウチ容器51の中で最も鉛直方向の上方に位置する。
なお、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接するインク導出部材54に刺し込まれたインク供給針71は、図16(b)の傾斜位置においても、インク導出部材54の内周壁と干渉することはない。
(インクカートリッジを傾斜させる交換手順)
次に、新しいインクカートリッジ50を傾斜ユニット80により傾斜させてインク切れのインクカートリッジ50と交換する際の手順とそれに伴って制御部6の制御により実行される動作について、図17のフローチャートを参照して説明する。
まず、制御部6が、カートリッジジョイント部70の可動要素を、インク切れのインクカートリッジ50から離間するように針移動部79により移動させて、インク切れのインクカートリッジ50のカートリッジ装着口29に対する装着状態を解除させた後、ユーザが、インク切れのインクカートリッジ50をカートリッジ装着口29から引き抜いて取り出し(ステップS11)、ユーザが新しいインクカートリッジ50をカートリッジ装着口29からカートリッジ装着部25A,25Bの内部に挿入する(ステップS13)。
ここまでは、新しいインクカートリッジ50を傾斜させずにインク切れのインクカートリッジ50と交換する際の、図10のステップS1およびステップS3と同じである。したがって、カートリッジ装着口29から挿入したインクカートリッジ50のインク導出部材54は、装着位置でロックされた挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接して、装着位置に到達する。インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置に到達したインクカートリッジ50は、図16(a)の水平位置にある傾斜ユニット80の載置台81上に載置される。
なお、インクカートリッジ50のインク導出部材54が装着位置に到達するまでの間に、まず、カートリッジジョイント部70のガイドピン72がガイド孔56に挿入され、次に、カートリッジジョイント部70のインク供給針71がインク導出部材54の導出口57の上部において薄膜58に刺し込まれる。
そして、インクカートリッジ50のインク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置に到達すると、インクカートリッジ50がそれ以上の挿入を規制されて停止する。このとき、インク供給針71は、図9(a),(b)に示すように、開口75が鉛直方向の上方を向く回転角度となっている(第1角度)。鉛直方向の上方を向いて薄膜58に刺し込まれたインク供給針71の開口75の位置は、インク導出部材54の上部の隅部に浮上して溜まった気泡Bに近いので、気泡Bに開口75が露出し易くなる。
そして、インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置に到達してインクカートリッジ50が傾斜ユニット80の水平位置にある載置台81上に載置されると、そのインクカートリッジ50をカートリッジセンサ76が検出する。カートリッジセンサ76がインクカートリッジ50を検出すると、図17に示すように、制御部6の制御によって、傾斜ユニット80の載置台81を図16(a)の水平位置から図16(b)の傾斜位置に揺動させて、インクカートリッジ50を傾斜させる(ステップS15)。
そして、傾斜ユニット80の載置台81が水平位置から傾斜位置に移動したら、制御部6の制御によって、上述した気泡排出動作を実行する(ステップS17)。
気泡排出動作を実行すると、制御部6の制御によによって、傾斜ユニット80の載置台81を図16(b)の傾斜位置から図16(a)の水平位置に揺動させて、インクカートリッジ50を水平な姿勢に戻す(ステップS19)。
インクカートリッジ50が水平な姿勢に戻ったら、制御部6の制御によりロック機構部77が挿入深さ規制部材73の装着位置でのロックを解除する。そこで、図8の当接面73aに当接したインク導出部材54に押された挿入深さ規制部材73が、インク供給針71およびガイドピン72の突設面27Cの裏側に引っ込んで装着位置から使用位置に移動するまで、制御部6の制御により針移動部79がカートリッジジョイント部70の可動要素を、インクカートリッジ50の挿入方向Xに沿って移動させる。すると、図9(a)に示すように、インク導出部材54の薄膜58に刺し込まれたインク供給針71の開口75が、薄膜58から離間してインク導出部材54の奥側に移動する。
また、図3の針移動部79がカートリッジジョイント部70の可動要素を、インクカートリッジ50の挿入方向Xに沿って移動させたら、図17に示すように、制御部6の制御により針回転部78がインク供給針71を180゜回転させる(以上、ステップS21)。本実施形態においても、針回転部78によるインク供給針71の回転は、針移動部79がカートリッジジョイント部70の可動要素をインクカートリッジ50の挿入方向Xに沿って移動させる前または後に行ってもよく、針移動部79によるカートリッジジョイント部70の可動要素の移動と同時に行ってもよい。本実施形態では、針移動部79によるカートリッジジョイント部70の可動要素の移動と同時に、針回転部78によるインク供給針71の回転を行うものとする。
上記のステップS21は、新しいインクカートリッジ50を傾斜させずにインク切れのインクカートリッジ50と交換する際の、図10のステップS7と同じである。したがって、180゜回転後の図12(a),(b)に示すように、インク供給針71は、開口75が鉛直方向の下方を向く回転角度となる(第2角度)。これにより、インク供給針71の開口75が、気泡排出動作後にインク導出部材54の薄膜58のすぐ内側に残った気泡B側を向かなくなる。また、図12(a)に示すように、インク供給針71がインク導出部材54の奥側に移動して、薄膜58のすぐ内側に残った気泡Bから開口75の位置が離れる。このため、開口75からインク供給針71の内部に気泡Bが流入しにくくなる。
図17のフローチャートに示した以上の手順および動作を経て、印刷ジョブの入力に伴う印刷処理の実行を待機する状態となり(ステップS23)、インク切れのインクカートリッジ50の交換が終了する。
なお、本実施形態において、カートリッジジョイント部70のインク供給針71が刺し込まれる位置は、図16(b)の傾斜位置にインクカートリッジ50を傾斜させたときにインク供給針71がインク導出部材54の内周壁と干渉するのを避けるため、インク導出部材54の導出口57の中央寄りとするのが好ましい。
また、インク導出部材54の導出口57の中央寄りにインク供給針71を刺し込むのが好ましい本実施形態では、インク供給針71の開口75を図14(a),(b)に示すようにインク供給針71を径方向に貫通するように形成した場合、開口75の向きを鉛直方向の上方及び下方とすると、鉛直方向上方の開口75は、インク導出部材54の内周壁から離間するので塞がれない。
このため、インク導出部材54が装着位置にあるときのインク供給針71の回転角度は、一方の開口75が鉛直方向の上方を向く回転角度(第1角度)とし、インク導出部材54が使用位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときのインク供給針71の回転角度は、開口75の向きが水平方向となる回転角度(第2角度)とするのが好ましい。
これにより、インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときのインク供給針71の鉛直方向における上方を向いた開口75の位置よりも、インク導出部材54が使用位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときのインク供給針71の水平方向を向いた開口75の位置が、鉛直方向における下方になる。
よって、インク導出部材54の上部の隅部に浮上して溜まった気泡Bに対してインク供給針71の開口75が、インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときには露出し易くなり、インク導出部材54が使用位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときには離間される。このため、空気排出動作時には開口75からインク供給針71の内部に気泡Bが流入し易くなり、その後のインク供給の際には開口75からインク供給針71の内部に流入するインクに気泡Bが混じりにくくなる。
以上に説明した本実施形態のインクジェット記録装置1によれば、インク導出部材54が装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接する位置にあるときにインクカートリッジ50を傾斜ユニット80により傾斜させると、インクカートリッジ50のパウチ容器51内のインクに溜まった気泡Bが、パウチ容器51の中で鉛直方向における最も上方に位置するインク導出部材54に誘導される。
このため、パウチ容器51内の気泡Bがインク導出部材54の薄膜58の内側に集中して移動して、鉛直方向の上方を向いているインク供給針71の開口75からインク供給針71の中に気泡Bが流入し易くなる。よって、パウチ容器51の外への気泡Bの導出効率を向上させることができる。
なお、上述した各実施形態では、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aにインク導出部材54が当接したインクカートリッジ50に対して、針移動部79が、カートリッジジョイント部70の可動要素をインクカートリッジ50の挿入方向Xに沿って移動させる構成とした。しかし、カートリッジジョイント部70の可動要素を固定配置とし、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aにインク導出部材54が当接したインクカートリッジ50を針移動部79が挿入方向Xに沿って移動させる構成としてもよい。
また、針移動部79を省略した構成としてもよい。その場合は、例えば、カートリッジジョイント部70の可動要素を固定配置とし、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aにインク導出部材54が当接したインクカートリッジ50を、ユーザがさらに奥に挿入する。これにより、当接面73aに当接したインク導出部材54により挿入深さ規制部材73を、装着位置から使用位置に移動するまで押して、インク供給針71をインク導出部材54の薄膜58の奥に刺し込むことができる。
さらに、針移動部79にラックを設けると共に、このラックに噛合するピニオンを針回転部78に設け、挿入深さ規制部材73の装着位置および使用位置間の移動をラックおよびピニオンにより回転運動に変換して、インクカートリッジ50の挿入方向Xに沿った挿入深さ規制部材73の移動に連動して、インク供給針71を第1角度と第2角度との間で回転させる構成としてもよい。
また、上述した各実施形態では、インク供給針71を針回転部78により第1角度から第2角度に回転させるのと同時に、あるいはこれと前後して、インク供給針71を針移動部79により、インクカートリッジ50の挿入方向Xに沿ってインク導出部材54にさらに近づくように移動させるものとした。しかし、そのための構成は省略してもよい。
その場合は、図11(a)に示すように、装着位置の挿入深さ規制部材73の当接面73aに当接したインク導出部材54に刺し込まれたインク供給針71を通じてインク導出部材54内の気泡Bをパウチ容器51外に排出した後、インクカートリッジ50の挿入方向Xにインク供給針71を移動させない。そして、図11(b)に示す第1角度のインク供給針71を、針回転部78により図18(b)に示す第2角度に回転させて空気排出動作を終了する。このように構成しても、空気排出動作後のインク供給針71の開口75を、図18(a)に示すように、鉛直方向の下方に向けて、インク導出部材54の上部に残った少量の気泡Bから遠ざけることができる。
さらに、上述した実施形態では、フラットベッドユニット3の印刷媒体15に対してシャトルユニット4が前後方向(副走査方向)に移動し、ヘッドユニット24が左右方向(主走査方向)に移動して、印刷媒体15に画像を形成する、シャトル方式のインクジェット記録装置1を例に取って説明した。
しかし、本発明は、上述したシャトル方式に似たシリアル方式のインクジェットプリンタや、ワンパスで画像を形成するライン式のインクジェットプリンタにも適用可能である。
また、本発明は、上述した実施形態のように、インクカートリッジ50のインクをインクジェットヘッド41に片道供給するインク供給経路を備えたインクジェット記録装置1に限らず、例えば、インクカートリッジからインクタンクを経てインクジェットヘッドに供給されたインクの余剰分をインクタンクに回収する循環方式のインク供給経路を備えたインクジェット記録装置にも適用可能である。