以下、本発明法により製造される非水電解液電池の詳細について説明する。
本発明に係る非水電解液電池は、セパレータとして、含有水分量が300〜1500ppmの多孔質膜を用い、非水電解液として、フッ素を含有する無機Li塩を電解質塩とし、かつ前記一般式(1)で表される基を分子内に有するリン酸化合物またはホウ酸化合物を0.1〜8質量%の範囲で含有する電解液を用いることにより製造される。
なお、本発明法により製造される非水電解液電池は、一次電池(非水電解液一次電池)としての形態を取ることもでき、また、二次電池(非水電解液二次電池)としての形態を取ることも可能である。
前記一般式(1)で表される基を分子内に有するリン酸化合物は、炭素材料を負極活物質に使用した非水電解液電池において、非水電解液に添加されることで、その安全性を高める作用を有していることが知られている。
一方、Li(リチウム)またはLi合金を有する負極を用いた非水電解液電池において、前記一般式(1)で表される基を分子内に有するリン酸化合物またはホウ酸化合物を添加した非水電解液を使用した場合には、高温での貯蔵を経た後の電池の特性劣化を抑制することが可能となる。
非水電解液に前記リン酸化合物または前記ホウ酸化合物が添加されている場合、負極のLiまたはLi合金の表面に、薄くかつ良質な被膜を形成すると考えられる。従って、高温貯蔵での負極の劣化が抑制されると共に、形成される被膜が薄いため、その被膜による負荷特性の低下を抑制することが可能となり、高温貯蔵後においても、負荷特性に優れた電池を構成することができるものと推測される。
一方、前記構成の非水電解液電池について更に検討を進めた結果、前記リン酸化合物またはホウ酸化合物の作用が、組み合わせるセパレータや電解質塩に依存しており、セパレータとして、含有水分量が300〜1500ppmの多孔質膜を用い、非水電解液の電解質塩として、フッ素を含有する無機Li塩を用いることにより、前記添加剤の効果がより優れたものとなることが判明した。
ポリオレフィン多孔質フィルムに耐熱性を付与するため、無機粒子をバインダで結着して構成される多孔質層を前記多孔質フィルム上に積層した積層膜をセパレータとして用いたり、耐熱性の高いアラミド樹脂などで多孔質フィルムを構成してセパレータとして用いたりするような場合、セパレータの含有水分量が多くなるため、これをそのまま電池の作製に用いた場合には、電池内に多くの水分が持ち込まれることになる。
セパレータに吸着された前記水分は、例えば、非水電解液の電解質塩として汎用されているLiPF6などのフッ素を含有する無機Li塩と反応しやすく、電池内でフッ化水素を発生させる原因となる。
これに対し、非水電解液が、前記一般式(1)で表される基を分子内に有するリン酸化合物またはホウ酸化合物を含有している場合、発生したフッ化水素により、これらの添加剤が負極表面に保護被膜を形成する反応が促進されるため、一定量の水分を含有するセパレータを用いることにより、却って、前記添加剤の効果が生じやすくなる。
本発明の非水電解液電池において、非水電解液には、フッ素を含有する無機Li塩を電解質塩を、例えば下記の非水系溶媒中に溶解させることで調製した溶液が使用できる。そして、非水電解液には、前記一般式(1)で表される基を分子内に有するリン酸化合物またはホウ酸化合物を含有させて使用する。
前記リン酸化合物は、リン酸が有する水素原子のうちの少なくとも1つが、前記一般式(1)で表される基で置換された構造を有している。
また、前記ホウ酸化合物は、ホウ酸が有する水素原子のうちの少なくとも1つが、前記一般式(1)で表される基で置換された構造を有している。
前記一般式(1)において、XはSi、GeまたはSnであるが、前記リン酸化合物としては、XがSiであるリン酸シリルエステルが好ましく用いられ、前記ホウ酸化合物としては、XがSiであるホウ酸シリルエステルが好ましく用いられる。
また、前記一般式(1)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基または炭素数6〜10のアリール基であるが、メチル基またはエチル基がより好ましい。また、R1、R2およびR3は、その水素原子の一部または全部がフッ素で置換されていてもよい。そして、前記一般式(1)で表される基としては、トリメチルシリル基が特に好ましい。
前記リン酸化合物においては、リン酸が有する水素原子のうちの1つのみが前記一般式(1)で表される基で置換されていてもよく、リン酸が有する水素原子のうちの2つが前記一般式(1)で表される基で置換されていてもよく、リン酸が有する水素原子の3つ全てが前記一般式(1)で表される基で置換されていてもよいが、リン酸が有する水素原子の3つ全てが前記一般式(1)で表される基で置換されていることが、より好ましい。
このような前記リン酸化合物としては、例えば、リン酸モノ(トリメチルシリル)、リン酸ジ(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸ジメチルトリメチルシリル、リン酸メチルビス(トリメチルシリル)、リン酸ジエチルトリメチルシリル、リン酸ジフェニル(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリエチルシリル)、リン酸トリス(ビニルジメチルシリル)、リン酸トリス(トリイソプロピルシリル)、リン酸トリス(ジメチルエチルシリル)、リン酸トリス(ジメチルエチルシリル)、リン酸トリス(ブチルジメチルシリル)、リン酸トリス(ビニルジメチルシリル)、リン酸トリス(トリフェニルシリル)などを挙げることができ、リン酸モノ(トリメチルシリル)、リン酸ジ(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸ジメチルトリメチルシリル、リン酸メチルビス(トリメチルシリル)が好ましく、リン酸トリス(トリメチルシリル)が、特に好ましい。
また、前記ホウ酸化合物においては、ホウ酸が有する水素原子のうちの1つのみが前記一般式(1)で表される基で置換されていてもよく、ホウ酸が有する水素原子のうちの2つが前記一般式(1)で表される基で置換されていてもよく、ホウ酸が有する水素原子の3つ全てが前記一般式(1)で表される基で置換されていてもよいが、ホウ酸が有する水素原子の3つ全てが前記一般式(1)で表される基で置換されていることが、より好ましい。
このような前記ホウ酸化合物としては、例えば、ホウ酸モノ(トリメチルシリル)、ホウ酸ジ(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸ジメチルトリメチルシリル、ホウ酸メチルビス(トリメチルシリル)、ホウ酸ジエチルトリメチルシリル、ホウ酸ジフェニル(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリエチルシリル)、ホウ酸トリス(ビニルジメチルシリル)ホウ酸トリス(トリイソプロピルシリル)、ホウ酸トリス(ジメチルエチルシリル)、ホウ酸トリス(ジメチルエチルシリル)、ホウ酸トリス(ブチルジメチルシリル)、ホウ酸トリス(ビニルジメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリフェニルシリル)などを挙げることができ、ホウ酸モノ(トリメチルシリル)、ホウ酸ジ(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸ジメチルトリメチルシリル、ホウ酸メチルビス(トリメチルシリル)が好ましく、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)が、特に好ましい。
非水電解液中の、前記一般式(1)で表される基を分子内に有するリン酸化合物またはホウ酸化合物の添加量は、その使用による前記の効果を良好に確保する観点から、0.1質量%以上であり、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.7質量%以上であることが特に好ましく、1質量%以上であることが最も好ましい。また、その含有量が多くなりすぎると、負極表面に形成され得る被膜の厚みが増大し、これにより抵抗が大きくなり負荷特性が低下する虞があることから、非水電解液中の、前記一般式(1)で表される基を分子内に有するリン酸化合物またはホウ酸化合物の添加量は、8質量%以下であり、7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、3質量%以下であることが最も好ましい。
前記リン酸化合物と前記ホウ酸化合物とを共に含有する場合には、その合計量が前記範囲となるように調整すればよい。
非水電解液に含有させる電解質塩としては、セパレータにより電池内に持ち込まれる水分と反応して効果的にフッ化水素を発生し、前記添加剤が負極表面に保護被膜を形成する反応を促進することのできるフッ素を含有する無機Li塩が用いられる。
フッ素を含有する無機Li塩としては、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiN(FSO2)2などが好ましく用いられ、LiBF4がより好ましく用いられる。これらのLi塩の非水電解液中の濃度としては、0.6〜1.8mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.6mol/lとすることがより好ましい。
また、フッ素を含有する無機Li塩以外のLi塩を、フッ素を含有する無機Li塩と併用することも可能であり、このようなLi塩としては、LiClO4、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfOSO2)2〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などが例示される。
フッ素を含有する無機Li塩、またはフッ素を含有する無機Li塩と併用可能なLi塩は、2種以上を用いることもできる。
フッ素を含有する無機Li塩と併用可能なLi塩を用いる場合の非水電解液中の濃度は、例えば、Li塩全体の濃度がフッ素を含有する無機Li塩の好適濃度として先に記載した範囲内となるよう調整すればよい。
非水電解液に係る溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、燐酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトンなどの非プロトン性有機溶媒を1種単独で、または2種以上を混合した混合溶媒として用いることができる。
更に、非水電解液には、必要に応じて、前記一般式(1)で表される基を分子内に有するリン酸化合物またはホウ酸化合物以外の添加剤を含有させることもできる。このような添加剤としては、1,3−プロペンスルトンなどの不飽和環状スルトン化合物;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトンなどの飽和環状スルトン化合物;無水マレイン酸、無水フタル酸などの酸無水物;スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリルなどのジニトリル;LiB(C2O4)2;などが挙げられる。
更に、非水電解液は、公知のポリマーなどのゲル化剤を用いてゲル状(ゲル状電解質)としてもよい。
非水電解液電池において、正極と負極との間に介在させるセパレータとして用いる多孔質膜には、その含有水分量を300〜1500ppmの範囲に調整しやすくするために、少なくとも一部に親水性を有する材料を含有させることが好ましく、無機粒子を含有する多孔質膜や、親水性の樹脂を含有する多孔質膜が例示される。
無機粒子を含有する多孔質膜に係る無機粒子としては、例えば、酸化鉄、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、TiO2、BaTiO3、ZrO2などの無機酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの無機窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;モンモリロナイトなどの粘土;などの微粒子が挙げられる。ここで、前記無機酸化物は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物などであってもよい。
前記無機粒子を含有する多孔質膜は、例えば、有機バインダなどにより前記無機粒子を結着することにより構成することができる。また、シャットダウン特性と耐熱性を両立さるため、ポリオレフィン製の微多孔フィルムと無機粒子を含有する多孔質膜との積層体とすることも好ましい。
有機バインダとしては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA。酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの。)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ−N−ビニルアクリルアミド(PNVA)、アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられるが、特に、150℃以上の耐熱温度を有する耐熱性のバインダが好ましく用いられる。
多孔質膜中の無機粒子の量は、セパレータの強度を向上させ高温での短絡などを防ぐため、および含有水分量を一定以上とするために、70体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。
無機粒子の形態としては、例えば、球状に近い形状を有していてもよく、板状の形状を有していてもよいが、少なくとも一部が板状粒子であることが好ましく、無機粒子の全てが板状粒子でもよい。多孔質膜に板状粒子を使用することで、短絡防止作用をより向上させることができる。
無機粒子の粒径は、平均粒子径として、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。すなわち、粒径が小さすぎる粒子を用いると、多孔質膜の細孔径が小さくなり過ぎたり、含有水分量が多くなり過ぎたりする虞がある。一方、多孔質膜の細孔径が大きくなり過ぎたり、多孔質膜の強度が低下したりすることを防ぐため、無機粒子の平均粒子径は、5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
前記無機粒子を含有する多孔質膜は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の樹脂フィルムなどの基体に、無機粒子や有機バインダなどを含有する多孔質膜形成用組成物(スラリーなどの液状組成物など)を塗布し乾燥させた後、得られた塗膜を剥離することにより得ることができる。また、電極上やポリオレフィン製の微多孔フィルム上に前記多孔質膜形成用組成物を塗布し乾燥させることにより、電極またはポリオレフィン製の微多孔フィルムと前記無機粒子を含有する多孔質膜との積層体とすることができる。
また、前記親水性の樹脂を含有する多孔質膜としては、前記親水性の樹脂の粒子を含有する多孔質膜や、前記親水性の樹脂により構成される微多孔フィルムなどを例示することができる。
前記親水性の樹脂としては、ポリアミド(ナイロン、アラミドなど)、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロース、ポリビニルアルコールなどが例示される。
前記樹脂粒子を含有する多孔質膜は、例えば、PET製の樹脂フィルムなどの基体に、樹脂粒子や有機バインダなどを含有する多孔質膜形成用組成物(スラリーなどの液状組成物など)を塗布し乾燥させた後、得られた塗膜を剥離することにより得ることができる。また、電極上やポリオレフィン製の微多孔フィルム上に前記多孔質膜形成用組成物を塗布し乾燥させることにより、電極またはポリオレフィン製の微多孔フィルムと前記樹脂粒子を含有する多孔質膜との積層体とすることができる。
親水性の樹脂により構成される微多孔フィルムは、市販されているものを用いることができる。
セパレータの含有水分量は、無機粒子または樹脂粒子を用いる場合には、その粒径や粒子形状、またはその含有割合などを調整することにより適宜調節することが可能であるが、含有水分量が少なすぎる場合には、電池の組み立て前に、飽和水分量に近い高湿度に調整された雰囲気下で保管して吸着水分を多くすることによって調節することもでき、また、含有水分量が多すぎる場合には、電池の組み立て前に、乾燥処理を行って吸着水分を低減することによって調節することも可能である。
なお、本発明におけるセパレータの含有水分量は、セパレータ全体の質量に対する水分の質量の割合として表される。
セパレータの厚みは、例えば、10〜30μmであることが好ましい。
非水電解液電池に係る負極には、黒鉛などの炭素材料や、Li(金属Li)、Li合金などを負極活物質として用いることができ、高温貯蔵後における負荷特性の点から、Li(金属Li)またはLi合金が負極活物質として好ましく用いられる。
負極活物質としてLiを含有する負極の場合、Liで構成された箔をそのまま用いた構造の負極や、Liで構成された箔を集電体の片面または両面に貼り付けた構造の負極などが使用できる。
Li合金を負極活物質として使用する負極の場合、前記Li合金としては、Liと合金化可能な元素(Al、Si、Snなど)とLiとの合金が挙げられる。これらの負極活物質の中でも、LiとAlとの合金が好ましい。
前記の各種合金を負極活物質として用いるには、前記合金の粉末をバインダなどと共に合剤化し、これを集電体となる金属箔の表面に塗布して負極を構成する方法や、Liと合金化可能な元素からなる粉末をバインダなどと共に合剤化し、これを集電体となる金属箔の表面に塗布して負極を構成するための電極を作製し、電池を組み立てた後で非水電解液と接触させることや、更に充電する(化成処理を施す)ことにより、前記電極の前記粉末をLiと合金化させる方法などが挙げられる。
また、例えば、Li−Al合金を負極活物質とする場合には、Li箔とAl箔とを貼り合わせて電池内に導入し、非水電解液の共存下でLiとAlとを反応させてLi−Al合金を形成する方法などを用いることも可能である。更に、二次電池の場合には、電池の組み立て後に、充電によりAlをLiと合金化させる工程を経て、目的とする負極のLi−Al合金を形成することにより、高温貯蔵後の負荷特性をより向上させることが可能となる。
電池の組み立て後に、充電によりAlをLiと合金化させる場合は、前記のようにAlの粉末を用いて負極を作製したり、Al箔などを用いて負極を作製したりし、電池の組み立て後に電池を充電して電気化学的にAlをLiと反応させればよい。
なお、Al箔を用いる場合、集電体を用いるケースでは、集電体となる金属箔〔Cu(銅)箔やCu合金箔など〕を、Li箔とAl箔との積層体に単に重ねただけで電池内に挿入すると、貯蔵後(特に高温環境下での貯蔵後)に電池の内部抵抗が増大して、十分な特性が得られない場合がある。
これは、電池内において、Li箔とAl箔との積層体でLi−Al合金が形成される際に体積変化が生じたり、Li−Al合金が形成されて微粉化が生じることで負極が非水電解液を吸収しやすくなって体積変化が生じたりして、Li−Al合金の層(Al箔)と集電体との密着性が確保できなくなるためである。
そこで、本発明においては、合金化の際の体積変化による負極の変形などを抑制するため、Li−Al合金を形成するためのAl金属層(Al箔など)と、集電体として作用するLiと合金化しない金属基材層(Cu箔など)とをあらかじめ接合した積層体(積層金属箔)を電池の組み立てに用いることが好ましい。更に、前記Al金属層の少なくとも表面側をLiと合金化させることによりLi−Al合金とし、前記金属基材層とLi−Al合金層との積層体で構成された負極とすることを好ましい実施態様とする。
前記負極を構成するにあたり、Al金属層の少なくとも表面側におけるLi−Al合金は、前記積層体(積層金属箔)を用いて電池を組み立てた際に、前記積層体と非水電解液とが接触することで形成されるが、本発明法により製造される非水電解液電池が二次電池の場合、組み立てた前記電池を化成処理する工程においてLi−Al合金を形成させることが好ましい。
まず、金属基材層の表面にAl金属層が接合された積層金属箔と、正極とを、セパレータを介して積層することなどより電極体を構成する。次いで、前記電極体を外装体内に装填し、更に外装体内に非水電解液を注入した後、外装体の開口部を封止することにより、前記負極となる前の電極(負極前駆体)を有する電池が組み立てられる。
そして、組み立てられた電池内において、負極前駆体が非水電解液と接触することでLi−Alが形成されて負極に変化するが、特に非水電解液電池が二次電池の場合には、組み立てられた電池は、充電を行う工程(充電工程)を有し、好ましくは更に放電を行う工程(放電工程)も有する化成処理の工程を経ることにより、負極前駆体を負極に変化させ、非水電解液電池としてより良好な機能を生じさせることができる。すなわち、前記充電工程において、前記Al金属層のAlが非水電解液中のLiイオンと電気化学的に反応し、正極と対向するAl金属層の少なくとも表面側にLi−Al合金が形成され、前記金属基材層とLi−Al合金層との積層体を有する負極が構成される。
負極を形成するための好ましい実施態様として先に記載した前記金属基材層(以下、単に「基材層」という)は、Cu、Ni、Ti、Feなどの金属、またはそれら元素と他の元素との合金(ただし、ステンレス鋼などの、Liと反応しない合金)により構成することができるが、基材層の厚みを薄くしても充電時の負極の膨張を充分に抑制するためには、基材層を、ニッケル、チタンおよび鉄より選択される金属またはその合金のように、引っ張り強さが高い材料で構成すればよく、室温での引っ張り強さが400N/mm2以上の材料で構成することが好ましい。
すなわち、電極の面積が比較的小さいコイン形電池などでは、Cu(引っ張り強さ:220N/mm2)のように引っ張り強さが低い材料により基材層を構成しても、負極の膨張による影響が小さいため、例えば、基材層を封口板に抵抗溶接することにより、所定の特性の電池を構成することができるが、電極の面積が大きくなった場合、または複数の負極が積層された場合などでは、負極の膨張による特性低下が大きくなってしまう。一方、Ni(490N/mm2)、Ti(410N/mm2)、SUS304(600N/mm2)など、Ni、TiおよびFeより選択される金属か、またはその合金で基材層を構成することにより、厚みが薄くても優れた膨張抑制の効果を得ることができ、特に、Al活性層の面積(複数ある場合は、総面積)が、10cm2以上となる場合には、前記材料とすることによる効果がより顕著となる。
一方、負極のインピーダンスを低くするためには、室温での体積固有抵抗が低い材料で基材層を構成するのがよく、体積固有抵抗が80×10−6Ω・cm以下の材料であることが好ましく、体積固有抵抗が30×10−6Ω・cm以下の材料であることがより好ましく、体積固有抵抗が15×10−6Ω・cm以下の材料であることが特に好ましい。
前記材料の体積固有抵抗は、それぞれNi:6.8×10−6Ω・cm、Ti:55×10−6Ω・cm、SUS304:72×10−6Ω・cmであり、体積固有抵抗の点からは、Niまたはその合金によって基材層を構成することが特に好ましい。
前記基材層は、具体的には、前記金属または合金の箔や蒸着膜、めっき膜などにより構成される。
また、前記Al金属層は、AlまたはAl合金の箔や蒸着膜、めっき膜などにより構成され、基材層とAl金属層とを接合して形成した積層金属箔としては、基材層を構成する金属の箔とAlまたはAl合金の箔とのクラッド材や、基材層を構成する金属の箔の表面にAlまたはAl合金を蒸着してAl金属層を形成した積層膜などが好ましく用いられる。
なお、Al金属層は、基材層の片面に設けることも、両面に設けることも可能であるが、基材層の両面にAl金属層を接合し、それぞれのAl金属層の少なくとも表面側に、Li−Al合金を形成する場合には、基材層の片面のみにAl金属層の接合およびLi−Al合金の形成を行う場合に比べて、負極の変形(湾曲など)や、それに伴う電池の特性劣化をより一層抑制することが可能となることから、基材層の両面にAl金属層がそれぞれ接合された積層金属箔を用いて電池を組み立てることが望ましい。
以下では、基材層がCu(Cu箔)である場合、および基材層がNi(Ni箔)である場合を例示して説明するが、基材層がCuやNi以外の材料である場合も同様である。
Cu層とAl金属層とを接合して形成した積層金属箔に係るCu層としては、Cu(および不可避不純物)からなる層や、合金成分としてZr、Cr、Zn、Ni、Si、Pなどを含み、残部がCuおよび不可避不純物であるCu合金(前記合金成分の含有量は、例えば、合計で10質量%以下、好ましくは1質量%以下)からなる層などが挙げられる。
Ni層とAl金属層とを接合して形成した積層金属箔に係るNi層としては、Ni(および不可避不純物)からなる層や、合金成分としてZr、Cr、Zn、Cu、Fe、Si、Pなどを含み、残部がNiおよび不可避不純物であるNi合金(前記合金成分の含有量は、例えば、合計で20質量%以下)からなる層などが挙げられる。
更に、Cu層とAl金属層とを接合して形成した積層金属箔やNi層とAl金属層とを接合して形成した積層金属箔に係るAl金属層としては、Al(および不可避不純物)からなる層や、合金成分としてFe、Ni、Co、Mn、Cr、V、Ti、Zr、Nb、Moなどを含み、残部がAlおよび不可避不純物であるAl合金(前記合金成分の含有量は、例えば、合計で50質量%以下)からなる層などが挙げられる。
Cu層とAl金属層とを接合して形成した積層金属箔やNi層とAl金属層とを接合して形成した積層金属箔においては、負極活物質となるLi−Al合金の割合を一定以上とするために、基材層であるCu層やNi層の厚みを100としたときに、Al金属層の厚み(ただし、基材層であるCu層やNi層の両面にAl金属層を接合させた場合には、片面あたりの厚み。以下同じ。)は、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、50以上であることが更に好ましく、70以上であることが特に好ましい。また、集電効果を高め、Li−Al合金を十分に保持するためには、Cu層とAl金属層とを接合して形成した積層金属箔やNi層とAl金属層とを接合して形成した積層金属箔において、基材層であるCu層やNi層の厚みを100としたときに、Al金属層の厚みは、180以下であることが好ましく、150以下であることがより好ましく、120以下であることが特に好ましく、100以下であることが最も好ましい。
なお、基材層であるCu層やNi層の厚みは、10〜50μmであることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。また、Al金属層の厚み(ただし、基材層であるCu層やNi層の両面にAl金属層を接合させた場合には、片面あたりの厚み)は、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることが特に好ましく、また、100μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが特に好ましく、30μm以下であることが最も好ましい。
Cu層とAl金属層とを接合して形成した積層金属箔やNi層とAl金属層とを接合して形成した積層金属箔の厚みは、負極の容量を一定以上とするために、50μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましく、また、正極活物質との容量比を適切な範囲とするために、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、120μm以下であることが特に好ましい。
なお、正極活物質の種類に応じ、あるいは、Li−Al合金の不可逆容量を調整するために、Al金属層の表面にあらかじめLi箔を貼り合わせておき、Li箔が更に積層された積層金属箔を用いて電池を組み立て、組み立て後の電池を充電して、目的とする組成のLi−Al合金層を形成することも可能である。
また、負極を形成するための負極前駆体として使用する前記積層体におけるCu層やNi層には、電池の組み立て前に、常法に従って負極リード体を設けることができる。
非水電解液電池に係る正極には、例えば、正極活物質、導電助剤およびバインダなどを含有する正極合剤層を、集電体の片面または両面に有する構造のものが使用できる。正極活物質には、リチウム含有複合酸化物(Liイオンを吸蔵および放出可能なリチウム含有複合酸化物)や、リチウム含有複合酸化物以外の正極活物質を使用することができる。
正極活物質として使用されるリチウム含有複合酸化物としては、Li1+xM1O2(−0.1<x<0.1、M1:Co、Ni、Mn、Al、Mgなど)で表される層状構造のリチウム含有複合酸化物、LiMn2O4やその元素の一部を他元素で置換したスピネル構造のリチウムマンガン酸化物、LiM2PO4(M2:Co、Ni、Mn、Feなど)で表されるオリビン型化合物などが挙げられる。前記層状構造のリチウム含有複合酸化物としては、LiCoO2などのコバルト酸リチウムやLiNi1−aCoa−bAlbO2(0.1≦a≦0.3、0.01≦b≦0.2)などの他、少なくともCo、NiおよびMnを含む酸化物(LiMn1/3Ni1/3Co1/3O2、LiMn5/12Ni5/12Co1/6O2、LiNi3/5Mn1/5Co1/5O2など)などを例示することができる。
また、リチウム含有複合酸化物以外の正極活物質としては、二酸化マンガン、五酸化バナジウム、クロム酸化物などの金属酸化物や、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどの金属硫化物を例示することができる。
正極活物質には、前記例示の化合物のうちの1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよいが、製造される電池が二次電池の場合には、高容量で貯蔵安定性に優れていることから、リチウム含有複合酸化物を使用することが好ましく、コバルト酸リチウムを使用することがより好ましい。
正極合剤層に係る導電助剤には、例えば、アセチレンブラック;ケッチェンブラック;チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維;などの炭素材料の他、金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;銅、ニッケルなどの金属粉末類;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などを用いることができる。
正極合剤層に係るバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。
正極は、例えば、正極活物質、導電助剤およびバインダなどを含有する正極合剤を、溶剤(NMPなどの有機溶剤や水)に分散させて正極合剤含有組成物(ペースト、スラリーなど)を調製し、この正極合剤含有組成物を集電体の片面または両面などに塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理を施す工程を経て製造することができる。
また、前記正極合剤を用いて成形体を形成し、この成形体の片面の一部または全部を正極集電体と貼り合わせて正極としてもよい。正極合剤成形体と正極集電体との貼り合わせは、プレス処理などにより行うことができる。
正極の集電体としては、AlやAl合金などの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、Al箔が好適に用いられる。正極集電体の厚みは、10〜30μmであることが好ましい。
正極合剤層の組成としては、例えば、正極活物質を80.0〜99.8質量%とし、導電助剤を0.1〜10質量%とし、バインダを0.1〜10質量%とすることが好ましい。また、正極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、30〜300μmであることが好ましい。
正極の集電体には、常法に従って正極リード体を設けることができる。
非水電解液電池において、正極と負極(負極前駆体を含む)とは、例えば、セパレータを介して重ねて構成した電極体、前記電極体を更に渦巻状に巻回して形成された巻回電極体、または複数の正極と複数の負極とを交互に積層した積層電極体の形態で使用される。
非水電解液電池の外装体には、スチール製やアルミニウム製、アルミニウム合金製の外装缶や、金属を蒸着したラミネートフィルムで構成される外装体などを用いることができる。
前記の通り、非水電解液電池がLi合金を負極活物質とする二次電池の場合には、前記負極前駆体を用いた場合において、Liと合金化可能な元素とLiとの合金を形成するために、組み立て後の電池に少なくとも1回の充電工程を有するか、または充電工程に加えて放電工程も有する化成処理を施すことが好ましい。
前記充電工程において、負極前駆体が含有するLiと合金化可能な元素が、非水電解液中のLiイオンと電気化学的に反応してLiと合金化可能な元素とLiとの合金が形成されることで、負極前駆体が負極に変化する。
なお、前記化成処理においては、Li−Al合金が形成されるときにAl金属層が大きな体積膨張を生じるため、Li−Al合金層に多数のクラックを生じ、化成処理を行わない場合と比較して、高温貯蔵後の負荷特性をより向上させることができる。充電条件などの化成処理の条件は、必要とされる特性に応じて適宜設定することができる。
本発明法によって製造される非水電解液電池は、高温環境下で貯蔵しても劣化が少なく、また、高温環境下での貯蔵を経ても低温下においても優れた負荷特性を発揮できるものであることから、こうした特性を生かして、例えば車両緊急通報システムの電源用途のように、高温環境下に置かれた後に、低温下でも良好に放電できることが求められる用途に好ましく適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
実施例1
<セパレータの作製>
板状ベーマイト粒子(平均粒径1μm、アスペクト比10)1000gを水1000gに分散させ、更に有機バインダとしてアクリル樹脂のエマルジョンおよびカルボキシメチルセルロース(CMC)の水溶液を加えて均一に分散させて、多孔質膜形成用組成物を調製した。前記組成物中のアクリル樹脂の含有量は、ベーマイト粒子100質量部に対し3質量部とし、CMCの含有量は、ベーマイト粒子100質量部に対し1質量部とした。
厚みが12μmのポリエチレン製微多孔フィルムの片面に、前記の多孔質膜形成用組成物をブレードコーターにより塗布して乾燥し、厚みが4μmの多孔質膜を形成することにより、ポリエチレン製の微多孔フィルムとベーマイト粒子を含有する多孔質膜との積層体よりなる、総厚が16μmのセパレータを作製した。
<正極の作製>
正極活物質であるLiNi0.8Co0.15Al0.05O2:97質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:1.5質量部と、バインダであるPVDF:1.5質量部とを、NMPに分散させたスラリーを調製し、これを厚さ12μmのAl箔の両面に塗布し、乾燥し、プレス処理を行うことにより、Al箔集電体の片面におよそ12.7mg/cm2の質量の正極合剤層を形成した。更に、正極合剤層のプレス処理を行うと共に、アルミニウム製のリード体を取り付けることにより、長さ974mm、幅43mmの帯状の正極を作製した。
<負極の作製>
厚さ35μmのCu箔の両面に、それぞれ、厚さ20μmのAl箔を積層した988mm×44.5mmの大きさのクラッド材(積層金属箔)を負極の作製に用いた。前記クラッド材には、電池外部との導電接続のためのニッケル製のリード体を取り付けて負極(負極前駆体)とした。
<電池の組み立て>
前記セパレータを、25℃相対湿度60%の雰囲気中で24時間保持して含有水分量を調整した後、前記正極と前記負極とを、前記セパレータを介して積層し、渦巻状に巻回した後、押しつぶして扁平状の電極体を形成した。前記電極体の作製の際には、セパレータのベーマイトを含有する多孔質膜側が正極と対向するようにした。
なお、窒素ガスをフローした150℃の加熱炉に、前記含有水分量を調整したセパレータを入れて保持し、フローした窒素ガスをカールフィッシャー水分計の測定セルに導入し、滴定終点までの積算値から前記セパレータの電池組み立て前の含有水分量を求めた。
また、プロピレンカーボネート(PC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DEC)との体積比17:63:20の混合溶媒に、LiBF4を1.2mol/lの濃度で溶解させ、更にリン酸トリス(トリメチルシリル)(TMSP):3質量%、1,3−プロペンスルトン(PRS):0.5質量%となる量で添加することにより、非水電解液を調製した。
前記電極体を、厚さ0.8mmのアルミニウム合金製の角形電池容器に挿入し、前記非水電解液を注入した後、電池容器を封止することにより、規格容量が1200mAhであり、図1および図2に示す構造で、103450サイズの角形非水電解液二次電池を組み立てた。
ここで図1および図2に示す電池について説明すると、図1はその部分断面図であって、正極1と負極2はセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状の巻回電極体6として、角形(角筒形)の電池容器4に非水電解液と共に収容されている。ただし、図1では、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の各層や非水電解液などは図示していない。
電池容器4はアルミニウム合金製で電池の外装体を構成するものであり、この電池容器4は正極端子を兼ねている。そして、電池容器4の底部にはポリエチレンシートからなる絶縁体5が配置され、正極1、負極2およびセパレータ3からなる扁平状巻回電極体6からは、正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、電池容器4の開口部を封口するアルミニウム合金製の封口用蓋板9にはポリプロピレン製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
そして、この蓋板9は電池容器4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、電池容器4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、図1の電池では、蓋板9に非水電解液注入口14が設けられており、この非水電解液注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている。更に、蓋板9には、電池の温度が上昇した際に内部のガスを外部に排出する機構として、開裂ベント15が設けられている。
この実施例1の電池では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって電池容器4と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、電池容器4の材質などによっては、その正負が逆になる場合もある。
図2は前記図1に示す電池の外観を模式的に示す斜視図であり、この図2は前記電池が角形電池であることを示すことを目的として図示されたものであって、この図1では電池を概略的に示しており、電池の構成部材のうち特定のものしか図示していない。また、図1においても、電極体の内周側の部分は断面にしていない。
(実施例2)
無機粒子として、平均粒子径が0.8μmの水酸化マグネシウムを用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解液二次電池を組み立てた。
(実施例3)
無機粒子として、平均粒子径が1.5μmのゼオライトを用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解液二次電池を組み立てた。
(実施例4)
リン酸トリス(トリメチルシリル)の添加量を0.5質量%に変更した以外は実施例1と同様にして非水電解液を調製し、この非水電解液を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解液二次電池を組み立てた。
(実施例5)
リン酸トリス(トリメチルシリル)の添加量を6質量%に変更した以外は実施例1と同様にして非水電解液を調製し、この非水電解液を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解液二次電池を組み立てた。
(実施例6)
電解質塩として、LiBF4に代えてLiPF6を用いた以外は実施例1と同様にして非水電解液を調製し、この非水電解液を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解液二次電池を組み立てた。
(比較例1)
セパレータとして、厚みが16μmのポリエチレン製微多孔フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして角形非水電解液二次電池を組み立てた。
(比較例2)
無機粒子として、平均粒子径が1.5μmのゼオライトを用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製した。このセパレータを、25℃相対湿度90%の雰囲気中で24時間保持して含有水分量を調整した以外は、実施例1と同様にして角形非水電解液二次電池を組み立てた。
(比較例3)
リン酸トリス(トリメチルシリル)を添加しなかった以外は実施例1と同様にして非水電解液を調製し、この非水電解液を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解液二次電池を組み立てた。
(比較例4)
リン酸トリス(トリメチルシリル)の添加量を10質量%に変更した以外は実施例1と同様にして非水電解液を調製し、この非水電解液を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解液二次電池を組み立てた。
(比較例5)
電解質塩として、LiBF4に代えてLiClO4を用いた以外は実施例1と同様にして非水電解液を調製し、この非水電解液を用いた以外は実施例1と同様にして角形非水電解液二次電池を組み立てた。
実施例および比較例の各電池に対して、3.8Vまで定電流−定電圧充電し、その後、2.0Vまで定電流で放電を続ける充放電を3回行うことにより、化成処理を行った。
化成処理後の各電池に対し、0.2C(240mA)の定電流で3.8Vまで充電し、その後、3.8Vの定電圧で0.01C(12mA)に電流値が減少するまで充電を続ける定電流−定電圧充電を行い、充電状態とした各電池を85℃の恒温槽に入れ30日間保持した。
保持した後の各電池の一部に対し、恒温槽から取り出してすぐに電池を分解し、電池内部のガス量を測定した。
また、前記分解した電池とは別の電池に対し、室温まで放冷させ、更に−20℃まで冷却した後に、−20℃の環境下で1.5C(1800mA)の定電流放電を行い、電池電圧が2.0Vに低下するまでの放電時間を測定した。
前記の各評価結果を、用いたセパレータの含有水分量と共に表1に示す。
表1に示す通り、含有水分量が適正なセパレータと、フッ素を含有する無機Li塩からなる電解質塩、および適正な量の前記リン酸化合物を含む非水電解液とを用いて作製した実施例1~6の非水電解液二次電池は、高温貯蔵後のガス発生が抑制されており、また、高温貯蔵後の低温での放電時間が長く、高温貯蔵特性および高温貯蔵後の低温での負荷特性が良好であった。
これに対し、含有水分量が少ないセパレータを用いた比較例1の電池、含有水分量が多すぎるセパレータを用いた比較例2の電池、前記リン酸化合物を含有しない非水電解液を用いた比較例3の電池、およびフッ素を含有する無機Li塩を含まない非水電解液を用いた比較例5の電池は、高温貯蔵後の低温での放電時間が短く、高温貯蔵後の低温での負荷特性が劣っていた。また、前記一般式(1)で表される基を分子内に有するリン酸化合物の含有量が多すぎる非水電解液を用いた比較例4の電池は、高温貯蔵後のガス発生量が多く、高温貯蔵特性が劣っていた。