本発明の実施形態における第1の構成の構造部材は、四角形の断面を有する管状の構造部材である。前記構造部材は、前記断面の四角形の辺のうち一辺に相当する頂面部と、前記頂面部の両端から延び、互いに対向する一対の側壁と、前記頂面部に対向する底部であって、前記一対の側壁の前記頂面部側の一方端部とは反対側の他方端部の間に形成される底部と、を備える。前記一対の側壁の各々は、前記頂面部に垂直な方向における前記側壁の中央を含む高強度領域と、前記側壁の中央の降伏強度の60〜85%の降伏強度の低強度領域とを含み、前記低強度領域は、前記頂面部に垂直な方向において、前記側壁の前記一方端部から前記他方端部へ向かって前記側壁の高さの20〜40%の距離の位置に至るまで、かつ、前記側壁の長手方向において、前記側壁の高さ以上の距離に渡って形成される。
すなわち、前記一対の側壁の各々における前記低強度領域は、前記側壁の一方端部から所定距離(前記側壁の高さの20〜40%の距離)の位置に至るまでの領域に形成される。すなわち、前記低強度領域は、前記側壁の一方端部から、前記強強度領域と前記低強度領域との境界にわたって形成される。前記側壁の一方端部から、前記境界のうち前記側壁の高さ方向の境界との距離は、側壁の高さの20〜40%である。
また、前記一対の側壁各々における前記低強度領域の前記各側壁の長手方向における幅は、各側壁の高さ方向の幅(すなわち側壁の高さ)以上である。
なお、第1の構成において、前記各側壁の高さ方向は、前記頂面部に垂直な方向である。また、前記側壁の高さは、前記頂面部に垂直な方向における前記側壁の一方端部から他方端部までの距離である。なお、後述の第2及び第4の構成においても、側壁の高さ方向は、前記頂面部に垂直な方向である。
各側壁の長手方向は、構造部材の長手方向であり、頂面部の長手方向でもある。構造部材は、長手方向(長軸)を持つ細長い部材である。各側壁の長手方向は、各側壁と頂面部との間に形成される稜線(第1の稜線)の延在方向と同じとする。側壁の長手方向は、側壁の高さ方向と概ね垂直になる。
前記一対の側壁各々における前記低強度領域の降伏強度は、前記頂面部に垂直な方向における側壁の中央の降伏強度の60〜85%である。ここで、頂面部に垂直な方向における側壁の中央は、前記側壁の高さの2分の1の位置である。
前記高強度領域は、前記側壁の高さ方向において、前記低強度領域と前記高強度領域との境界から前記側壁の他方端部(前記底部側の端部)にわたって設けられる。
上記第1の構成は、下記の第2の構成に言い換えることができる。第2の構成における構造部材は、四角形の断面を有する管状の構造部材である。前記構造部材は、前記断面の四角形の辺のうち一辺に相当する頂面部と、前記頂面部の両端部にある2つの第1の稜線と、前記頂面部に対向する底部と、前記底部の両端部にある2つの第2の稜線と、前記2つの第1の稜線と前記2つの第2の稜線の間に、それぞれ位置する2つの側壁とを備える。前記2つの側壁の各々は、前記第1の稜線から前記第2の稜線に向かって、前記頂面部に垂直な方向における前記第1の稜線と前記第2の稜線の距離の20〜40%まで、かつ前記第1の稜線の延在方向に、前記頂面部に垂直な方向における前記第1稜線と前記第2の稜線との距離以上の長さの領域に設けられ、前記頂面部に垂直な方向における前記側壁の中央の降伏強度の60〜85%の降伏強度を有する、低強度領域を備える。なお、前記第1の稜線と前記第2の稜線の中央は、前記頂面部に垂直な方向における側壁の中央と同じである。
前記2つの側壁の各々は、前記低強度領域と、前記低強度領域より降伏強度の高い高強度領域を備える。前記高強度領域は、前記各側壁の前記頂面部に垂直な方向において、前記第2の稜線から前記低強度領域と前記高強度領域の境界に至るまでの領域に設けられる。前記頂面部に垂直な方向における側壁の中央の側壁は、高強度領域に含まれる。
上記第1、及び第2の構成において、構造部材において互いに対向する2つの側壁は、側壁の高さ方向の中央を含む高強度領域と、高強度領域より低い降伏強度を持つ低強度領域とを備える。低強度領域は、各側壁の頂面部側の一方端部(第1の稜線)から、各側壁の高さの20〜40%の距離の位置に至るまで、かつ、低強度領域の各側壁の長手方向(すなわち第1の稜線の延在方向)において、各側壁の高さ(すなわち第1の稜線から第2の稜線までの頂面部に垂直な方向における距離)以上の距離にわたって形成される。発明者らは、このような低強度領域によって、頂面部に衝撃が加わった場合の構造部材の衝撃エネルギーの吸収効率を高められることを見出した。具体的には、頂面部に対して垂直方向に衝撃が加わった場合、各側壁の頂面部側20〜40%の領域に形成された低強度領域において、衝撃による応力を衝撃方向に垂直な方向(側壁の長手方向)に分散させるとともに、各側壁の高さ方向中央を含む高強度領域の剛性を生かして、構造部材の変形を抑えることができることが見出された。さらに、各側壁の低強度領域の降伏強度を、各側壁の高さ方向の中央の位置における降伏強度の60〜85%とすることで、構造部材の衝撃エネルギー吸収効率を、要求されるレベルに高められることが見出された。すなわち、上記第1及び第2の構成の構造部材では、衝撃を受けたとき、効率良く衝撃エネルギーを吸収することができる。
上記第1又は第2の構成において、前記一対の側壁のうち一方の側壁の降伏強度分布と、他方の側壁の降伏強度分布とは、互いに鏡像関係にある構成とすることが望ましい。なぜなら、四角管において互いに対向する一対の側壁の強度分布を鏡像関係に形成することで、頂面部から衝撃を受けたときの衝撃エネルギー吸収効率をより高めることができるからである。
上記第1〜第3の構成において、前記頂面部に垂直な方向における前記側壁の中央の位置における引張強度は、980MPa以上とすることが望ましい。なぜなら、このような高強度の構造部材において、衝撃エネルギーの吸収効率向上の効果が好適に得られるからである。
上記第1〜第4の構成において、前記構造部材は、長手方向において前記頂面部側へ凸となるように湾曲している構成としてもよい。この構成では、湾曲していない場合に比べて、頂面部へ衝撃荷重が入力された際に、構造部材が折れ曲がりにくくなる。
上記第1〜第5の構成において、前記低強度領域は、前記側壁の長手方向中央に配置されることが望ましい。その理由は次の通りである。側壁の長手方向中央は、長手方向両端部から離れている。これら両端部の付近は、他の部材に連結される支持されることが多い。両端部が支持された状態で中央に荷重が作用した場合、曲げモーメントが大きくなる。低強度領域を、側壁の長手方向中央に配置することにより、衝撃による変形が大きくなりやすい位置に低強度領域が配置される。その結果、衝撃エネルギーの吸収効率をより高めることができる。側壁の長手方向は、側壁と頂面部の間の第1の稜線の延在方向とする。
上記第1〜第6の構成において、前記頂面部又は前記底部は、前記側壁の長手方向において互いに離れた位置において他の部材と連結される少なくとも2つの連結部を含んでも良い。前記低強度領域は、前記側壁の長手方向において前記少なくとも2つの連結部の間の中央に配置されることが望ましい。その理由は次の通りである。2つの連結部の中央は、他の部材に支持される位置から離れている。2つの連結部の中央に荷重が作用した場合、曲げモーメントが大きくなる。そのため、少なくとも2つの連結部で支持された構造部材において、少なくとも2つの連結部の中央に低強度領域を設けることで、衝撃による変形が大きくなりやすい位置に低強度領域が配置される。その結果、衝撃エネルギーの吸収効率をより高めることができる。
上記第1〜第7の構成のいずれかの構造部材を備える車両も、本発明の実施形態に含まれる。このような車両において、前記構造部材は、前記頂面部が前記車両の外側に、前記底部が前記車両の内側になるよう配置されることが望ましい。これにより、車両の外側から、構造部材の頂面部に対して衝撃が加わった場合に、構造部材によって効率よく衝撃を吸収することができる。
[実施形態]
図1Aは、本発明の実施形態の構造部材の断面図であり、図1Bは、図1Aに示す構造部材の平面図、図1Cは、図1Aに示す構造部材の側面図である。
図1A〜図1Cに示す構造部材10は、四角形の断面を有する。構造部材10は、長手方向を軸方向とする管状に形成される。構造部材10は、断面の四角形の各辺に相当する4つの壁を有する。
図1Aに示すように、構造部材10は、上記4つの壁として、頂面部1a、一対の側壁1b及び底部1cを有する。頂面部1aは、断面の四角形の4辺のうち一辺に相当する。一対の側壁1bは、頂面部1aの両端から延び、互いに対向する。底部1cは、頂面部1aに対向し、一対の側壁1bの頂面部1a側の一方端部とは反対側の他方端部の間に形成される。すなわち、一対の側壁1bのうち一方の側壁1bの他方端部と、他方の側壁1bの他方端部との間に、底部1cが形成される。
図1に示す構成では、頂面部1a、一対の側壁1b、底部1cの4つの壁いずれにおいても、両端部が、隣接する壁の端部と連続している。すなわち、これら4つ壁は、連続した1つの部材で構成される。例えば、構造部材10の4つの壁は、1枚の板材を変形して形成された溶接管とすることができる。この場合、1枚の板材を折り曲げて形成された四角管が構造部材10となる。構造部材10は、この四角管の外周から外側へ突出する部材(例えば、フランジ等)を有しない。
図1Bに示すように、頂面部1aと一対の側壁1bとの境界部分(肩部)1abは、長手方向に延びる稜を形成する(以下、第1の稜線1abと称する。)。第1の稜線1abは、構造部材10の屈曲している部分(屈曲部)である。頂面部1aの長手方向に垂直な方向(x方向)における両端が一対の第1の稜線1abとなる。一対の第1の稜線1abから一対の側壁1bがそれぞれ延びる。一対の側壁1bは、同じ方向(z方向)へ延びる。すなわち、構造部材10において、頂面部1aと一対の側壁1bで形成される稜(第1の稜線1ab)の延びる方向すなわち管の軸方向(y方向)における寸法は、一対の側壁1bが互いに対向する方向(x方向)における寸法より長くなっている。構造部材10の長手方向は、頂面部1aと側壁1bとの間に形成される第1の稜線1abの延在方向と同じになっている。
図1A及び図1Cに示すように、底部1cと一対の側壁1bの各々との境界部分1bcは、長手方向に延びる稜(以下、第2の稜線1bcと称する。)を形成する。第2の稜線1bcは、構造部材10の屈曲している部分(屈曲部)である。一対の側壁1bの各々において、各側壁1bの両端部のうち頂面部1a側の一方端とは反対側の他方端に第2の稜線1bcが形成される。すなわち、一対の側壁1bの各他方端における一対の第2の稜線1bcの間に、底部1cが形成される。
図1A及び図1Cに示すように、一対の側壁1bの各々は、側壁1bの一方端部から距離Shの位置に至るまでの領域に、低強度領域1sを有する。低強度領域1sは、周辺よりも強度が低い領域である。一対の側壁1bにおいて、低強度領域1s以外の部分は、低強度領域1sより強度が高い高強度領域となる。各側壁1bの高さ方向(頂面部1aに垂直な方向)において、低強度領域1sは、頂面部1a側の一方端部(第1の稜線1ab)から、第1の稜線1abから距離Shの位置に至るまでの部分に形成される。すなわち、第1の稜線1abから距離Shの位置に低強度領域1sと高強度領域の境界1skがある。この境界1skと、第1の稜線abとの側壁1bの高さ方向における距離が距離Shである。低強度領域1sと高強度領域の境界1skから第2の稜線1bc(底部1c)に至るまでの部分は、高強度領域となる。
また、図1Cに示すように、低強度領域1sは、側壁1bの長手方向(第1の稜線1abの延在方向(y方向))において、側壁1bの高さH以上の距離に渡って形成される。すなわち、低強度領域1sの側壁1bの長手方向の長さSnは、側壁1bの高さH以上である。ここで、側壁1bの高さは、頂面部1aに垂直な方向(z方向)における第1の稜線1ab(側壁1bの一方端部)から第2の稜線1bc(側壁1bの他方端部)までの距離とする。このように、低強度領域1sは、第1の稜線1abから側壁1bの高さ方向に距離Shの位置まで、かつ、側壁1bの長手方向において、側壁1bの高さH以上の距離にわたって設けられる。
このように、構造部材10において、側壁1bの頂面部1a側の一部に低強度領域1sを設けることで、構造部材10に衝撃が加わった場合の、曲げ方向の変形の度合いをより小さくすることができる。これは、発明者らが構造部材の衝撃による変形の様子を注意深く観察した結果得られた、下記の知見に基づくものである。発明者らは、断面四角形の管状に構成される構造部材に圧子を衝突させる衝突試験(シミュレーション)を行い、構造部材の変形挙動を観察した。図2は、衝突試験の様子を模式的に示す図である。衝突試験では、構造部材10aを2つの台12に掛け渡して配置する。2つの台12の中間の位置において、構造部材10aに対して圧子11を衝突させる。
図3は、一様な強度分布を持つ構造部材10bに衝撃を加えたときの変形を示す図である。図4は、図1A〜図1Cと同様の低強度領域を有する構造部材10cに図3と同様の衝撃を加えたときの変形を示す図である。図3に示すように、強度分布が一様な構造部材10bの場合、折れ曲がる箇所が、鋭く突出するように折れ曲がる。この変形モードを折れと称する。これに対して、側壁に低強度部を有する構造部材10cの場合、図4に示すように、衝撃を受けた頂面部とその両端部から延びる側壁の一部が衝撃によりつぶれる。この変形モードを断面潰れと称する。図3の場合に比べて、図4の場合の方が、同じ衝撃荷重を受けた際に変形して衝撃吸収に貢献する部材の領域が広く、その結果、構造部材の変形部分の曲げ方向への突出度合いが小さい。
図5は、一様な強度分布を持つ構造部材10bの変形挙動を説明するための図である。図6は、図1A〜図1Cに示すような低強度領域を有する構造部材10cの変形挙動を説明するための図である。図5及び図6は、構造部材の側面、すなわち側壁側から見た構成を示す。
図5に示すように、一様な強度分布を持つ構造部材10bでは、衝撃により、曲げ変形起点Pで発生した変形は、頂面部及び側壁が側面視でくさび状になるように、側壁の高さ方向に進行する。その結果、曲げ方向(側壁の高さ方向)に鋭く突出するように折れ曲がる。場合によっては、側壁にひびが入ることもある。
図6に示すように、側壁の頂面部側に低強度領域1sc(図6ではドットで示される領域)を有する構造部材10cでは、曲げ変形起点Pから内側へ進行する変形は、低強度領域1scの境界に達すると、低強度領域1scよりも強度が強い領域へ向かわずに、比較的強度の低い横方向(構造部材10cの長手方向)に進行しやすくなる。そのため、変形は長手方向に広がり、曲げ方向(側壁の高さ方向)への変形度合いが小さくなる。
また、断面四角形の管状に構成される構造部材が、頂面部に垂直な方向に曲げ変形する場合、側壁の高さ方向の中央付近が折れやすい。すなわち、側壁の高さの2分の1の位置付近が折れ変形の起点となりやすい。図7A及び図7Bは、頂面部1daとその両端から延びる側壁1dbと、頂面部1daに対向し、側壁1dbと連続する底部1dcを有する構造部材10dが、衝撃荷重を受けて変形する様子を示す図である。頂面部1daに衝撃荷重が入力されると、構造部材10dの肩部(頂面部1daと側壁1dbの境界の折れ曲がり部)の角度が変形し、側壁1dbの高さ方向の中央域が折れ曲がり、その結果、構造部材10dが潰れる。この側壁1dbの折れ曲がりが容易に発生するのを避けるため、図1A〜図1Cに示す構造部材10では側壁1bの高さ方向の中央域の強度を高強度化している。
すなわち、構造部材10では、側壁1bの高さの中央(2分の1)の位置1midの強度をある程度強くして、側壁1bの高さ方向中央の位置1midよりも頂面部1a側に、中央の位置1midより強度の低い低強度領域1sを設ける。低強度領域1sの範囲及び、高さ方向中央の位置1midに対する低強度領域1sの強度比を適切に設定することにより、中央の位置1midでの側壁1bの折れが容易に発生しないようにし、さらに、中央の位置1midより頂面部1a側での側壁1bの長手方向のつぶれの度合を大きくすることができる。その結果、図6に示すように、曲げ方向への変形度合が小さくなるような変形挙動とすることができる。
なお、図7A及び図7Bに示す変形挙動は、圧子を構造部材の頂面部に衝突させた場合に限られない。例えば、構造部材を長手方向に圧縮する軸力により曲げ変形する場合や、3点曲げ試験のように、頂面部に圧子を押し付けて長手方向に垂直な方向の力を静的に加えたときの曲げ変形も、同様の変形挙動となり得る。
また、図6のように、曲げ方向への変形度合が小さくするには、低強度領域1sの長手方向(第1の稜線2の延在方向)の幅も重要であることが発明者らによって見出されている。図7Cは、低強度領域1scの長手方向の長さSnを、側壁1bの高さHの2分の1(H/2)より短くした場合の変形挙動を説明するための図である。図7Cに示すように、低強度領域の長手方向の幅が狭い場合、曲げ変形起点Pから内側へ進行する変形が、長手方向における低強度領域1scと高強度領域の境界に達するのが早くなる。その結果、長手方向のつぶれが制限され、高さ方向の変形が進行しやすくなる。
発明者らは、様々な条件で構造部材の曲げ試験及び解析を行った結果、構造部材が曲げ変形する際、長手方向の変形の範囲は、側壁の高さと同程度になることを見出した。さらに、発明者らは、低強度領域1scの長手方向の幅を、側壁の高さ以上にすることで、衝撃による変形を長手方向に分散させ、曲げ方向への変形度合を小さくできることを見出した。
発明者らは、上記の知見に基づき、以下のように構造部材10を構成することに想到した。図1A及び図1Cに示す一対の側壁1bの各々は、側壁1bの一方端部から距離Shの位置に至るまでの領域に、低強度領域1sを有する。側壁1bの低強度領域1sの距離Shは、側壁1bの高さHの20〜40%とすることができる。低強度領域1sの降伏強度は、側壁1bの高さHの2分の1の位置1mid(すなわち、高さ方向中央の位置1mid)における降伏強度の60〜85%とすることができる。
すなわち、構造部材10の断面において、側壁1bのうち頂面部1a側端部から側壁1bの高さHの20〜40%の長さまでの間、側壁1bの高さHの50%(すなわち側壁1bの高さ方向中央)の位置の箇所より降伏強度が60〜85%の低強度領域が連続している。言い換えれば、低強度領域1sは、第1の稜線1abから第2の稜線1bcに向かって、頂面部1aに垂直な方向における第1の稜線1abと第2の稜線1bcの間の距離の20〜40%の位置まで設けられる。低強度領域1sの降伏強度は、第1の稜線1abと第2の稜線1bcの中央における側壁1bの降伏強度の60〜85%である。
これにより、例えば、頂面部1aに衝撃が加わった場合の変形挙動が、図4に示すような断面つぶれになりやすくなる。その結果、頂面部1aに垂直な方向への曲げ変形の度合を小さくすることができる。このように、構造部材10は、衝撃を受けたとき、小さい変形でより大きい衝撃エネルギーを吸収することができる。すなわち、構造部材10は、衝撃エネルギーを効率よく吸収することができる。
また、図1A〜図1Cに示す構成では、構造部材10の対向する一対の側面1bの両方に上記の低強度領域1sが設けられる。そのため、頂面部1aに衝撃が加わった場合、一対の側面1bのうち一方の側面1bだけが折れ曲がる可能性が低くなる。
なお、低強度領域1sの距離Shは、側壁1bの高さHの35%以下であるとより好ましく、30%以下だとなお好ましい。また、距離Shは、側壁1bの高さHの25%以上であるとより好ましい。側壁1bにおける低強度領域1sの強度と、高さ方向中央の位置1midの強度との比(強度比)は、83%以下であると好ましく、80%以下であるとより好ましい。また、この強度比は、70%以上であるとより好ましい。
一対の側壁1bのうち一方の側壁の強度分布と、他方の側壁の強度分布とは、互いに鏡像関係にある構成とすることが望ましい。これにより、一対の側壁1bのうちどちらか片方が先に潰れてしまう可能性がより低くなる。
例えば、図1に示す例では、一対の側壁1bのうち一方の側壁1bの低強度領域1sの距離Shと、対向する他方の側壁1bの低強度領域1sの距離Shは同じである。また、一対の側壁1bは、互いに同じ高さであり、頂面部1aとの角度も同じである。そのため、図1に示す長手方向に垂直な断面において、頂面部1aの垂直二等分線Aを軸として、構造部材10の強度分布は、左右対称となっている。これにより、衝撃による応力の偏りが少なくなる。
また、低強度領域1sは、側壁1bの長手方向において、側壁1bの高さH以上の距離に渡って形成されることが好ましい。すなわち、低強度領域1sは、第1の稜線1abの延在方向に、頂面部1aに垂直な方向における第1稜線1abと第2の稜線1bcの間の距離以上の長さの領域に設けられる。これにより、長手方向への変形を進行させやすくして、曲げ方向への変位をより抑えることができる。低強度領域1sの第1の稜線1abの延在方向の寸法は、側壁1bの高さの1.5倍(3H/2)以上とすることが好ましく、側壁1bの高さの2倍(2H)以上とすることがさらに好ましい。
側壁1bの高さ方向中央の位置1midにおける引張強度は、例えば、980MPa以上(降伏強度500MPa以上)とすることが望ましい。これにより、側壁1bの高さ方向中央の位置1midの強度を確保し、この位置1midで側壁1bが折れにくくすることができる。なお、構造部材10の低強度領域1s以外の領域は、この高さ方向中央の位置1midと同様の強度にすることができる。
第1の稜線1abと第2の稜線1bcの間において、低強度領域1sの端部から第2の稜線1bc(フランジ1c)までの領域は、高強度領域である。高強度領域の降伏強度は、低強度領域1sの降伏強度より高い。なお、高強度領域における強度分布は、均一でなくてもよい。
頂面部1aの少なくとも一部に低強度領域を設けてもよいし、頂面部1aに低強度領域を設けなくてもよい。構造部材10の折れ曲がり変形では、側壁1bの強度の影響が支配的であることが発明者らによって見いだされた。頂面部1aの強度は、側壁1bの強度に比べて、折れ曲がり変形に与える影響が少ない。
図1Aに示すように、構造部材10は、頂面部1a、頂面部1aの両端から折れ曲がって縦に延びる一対の側壁1b、及び、一対の側壁1bの頂面部1a側の一方端部とは反対側の他方端部から内側に折れ曲がって、当該一対の側壁1bの他方端部の間をつなぐ底部1cを備える。図1Aに示す例では、側壁1bは頂面部1a及び底部1cに対して垂直となっている。すなわち、構造部材10の長手方向に垂直な面の断面は、長方形となっている。
構造部材10の構成は、図1Aに示す例に限られない。例えば、側壁1bと底部1cとの角度は、90度(直角)でなくてもよい。同様に、側壁1bと頂面部1aとの角度も90度(直角)に限られない。例えば、構造部材10の長手方向に垂直な断面は、台形であってもよい。この場合、断面形状は、左右対称の台形として、一対の側壁1bの強度分布を互いに鏡像関係とすることができる。なお、断面形状を左右対称でない台形としてもよい。例えば、一対の側壁1bは、長さが互いに異なっていてもよい。その結果、頂面部1aと底部1cは、平行でなくてもよい。
また、側壁1bと頂面部1aの境界となる角(肩部)の断面形状には、R(丸みすなわち湾曲部)を形成してもよい。同様に、側壁1bと底部1cの境界の角(肩部)の断面形状に、R(丸みすなわち湾曲部)を形成してもよい。また、頂面部1a、側壁1b及び底部1cのすくなくとも1つの表面は、平面でなく曲面とすることができる。すなわち、頂面部1a、側壁1b及び底部1cの少なくとも1つは、湾曲していてもよい。なお、側壁1bと頂面部1aの角におけるRの曲率半径が大きすぎると、側壁1bが高さ方向の荷重を支える機能が低下する。そのため、側壁1bと頂面部1aの角のR(湾曲)の内側の曲率半径は、例えば、15mm以下とする。或いは、側壁1bと頂面部1aの角のR(湾曲)の内側の曲率半径を、例えば、側壁1bの高さHの3分の1以下、(R≦H/3)とする。
一対の側壁1bの少なくとも一方に、凹部(溝)、凸部(稜)、段差又は孔が設けられてもよい。頂面部1a又は底部1cに、凹部(溝)、凸部(稜)、段差又は孔が設けられてもよい。但し、これらの頂面部1a、側壁1b又は底部1cに設けられる凹部(溝)、凸部(稜)、段差又は孔は、構造部材10の変形挙動に重大な影響を与えない程度の大きさとする必要がある。例えば、頂面部1aに凸部を形成してもよい。
側壁1bと頂面部1aの境界の角又は側壁1bと底部1cの境界の角にR(丸みすなわち湾曲部)を形成した場合、長手方向に垂直な断面において、Rが形成された部分のうち、側壁1bの高さ方向中央の位置1midから遠い方のR止まり(湾曲部の端)部分を側壁1bの端部として、上記側壁1bの高さH及び低強度領域の距離Shを決定する。
すなわち、側壁1bと頂面部1aの間の湾曲した部分(湾曲部)の頂面部1a側の端(R止まり)を側壁1bの一方端部として、側壁1bの高さH及び低強度領域1sの高さ方向の距離Shを決定する。また、側壁1bとフランジ1cの間の湾曲した部分(湾曲部)のフランジ1c側の端(R止まり)を側壁1bの他方端部として、側壁1bの高さH及び低強度領域1sの高さ方向の距離Shを決定する。
同様にして、第1の稜線1ab及び第2の稜線1bcを基準に、側壁1bの高さH及び低強度領域1sの高さ方向の距離Shを決定する。この場合、具体的には、第1の稜線1abは、側壁1bと頂面部1aとの間のR(湾曲部)の頂面部1a側の端(R止まり)、すなわち、R(湾曲部)の側壁1bの高さ方向中央の位置1midから遠い方のR止まり(湾曲部の端)とする。第2の稜線1bcは、側壁1bとフランジ1cとの間のR(湾曲部)のフランジ1c側の端(R止まり)、すなわち、R(湾曲部)の側壁1bの高さ方向中央の位置1midから遠い方のR止まり(湾曲部の端)とする。
ここで、側壁1bの高さは、側壁1bの一方端部から他方端部までの高さ方向における寸法である。言い換えれば、側壁1bの高さは、側壁1bの第1の稜線1abから第2の稜線1bcまでの頂面部1aに垂直な方向における寸法である。低強度領域1sの距離Shは、側壁1bの一方端部から側壁1bの低強度領域1sの境界までの高さ方向における寸法である。すなわち、低強度領域1sの距離Shは、第1の稜線1abから側壁1bの低強度領域1sと高強度領域との境界までの頂面部1aに垂直な方向における寸法である。側壁1bの高さの2分の1の位置1midは、側壁1bの高さ方向における中央の位置である。すなわち、側壁1bの高さの2分の1の位置1midは、頂面部1aに垂直な方向における第1の稜線1abと第2の稜線1bcの中央の側壁1bの位置である。
側壁1bの高さ方向は、頂面部1aに垂直な方向とする。頂面部1aに垂直な方向とは、具体的には、頂面部1aの表面の平面に垂直な方向とする。頂面部1aが、長手方向に垂直な断面において、凹部、凸部、段差又は湾曲部を含む場合、2つの第1の稜線1abを結ぶ仮想平面に垂直な方向を、頂面部に垂直な方向とする。
図8Aは、肩部にRを形成した場合の、側壁1bの高さH及び低強度領域1sの距離Shの例を示す図である。図8Aに示す例では、側壁1bの高さHは、構造部材10の断面における側壁1bの一方端部から他方端部までの、z方向(底部1cに垂直な方向)における寸法(高さ)とし、低強度領域1sの距離Shは、側壁1bの低強度領域1sのz方向における寸法(高さ)とする。
側壁1bに凹部、凸部、段差又は孔(以下、凹部等と称する)がある場合も、長手方向に垂直な断面において、凹部等が形成された部分のうち、側壁1bの中央の位置1midから遠い方のR止まり(湾曲部の端)を側壁1bの端部として、側壁1bの高さH及び低強度領域の距離Shを決定する。図8Bは、側壁1bの両端部に、凹部(溝)を形成した場合の、側壁1bの高さH及び低強度領域の距離Shの例を示す図である。この場合、長手方向に垂直な断面において、凹部等が形成された部分のうち、側壁1bの中央の位置1midから最も遠い部分(凹部の端)を側壁1bの端部とする。図8Bに示す例では、側壁1bの一方端部から他方端部までのz方向の寸法すなわち、側壁1bの最も低い位置から最も高い位置までの高さをHとし、側壁1bの低強度領域1sの最も低いから最も高い位置までの高さをShとする。
図8Cは、頂面部1aが傾いている場合の側壁1bの高さ方向を説明するための図である。図8Cに示す構造部材10において、頂面部1aと、底部1cは、平行でない。また、一方の側壁1brと他方の側壁1bhのz方向の長さは異なる。側壁1br、1bhの高さ方向は、頂面部1aに垂直な方向とする。各側壁1br、1bhの高さHL、HR及び、各低強度領域1sr、1shの一方端部(第1の稜線1bcr、1bch)から境界1skr、2skhまでの距離ShR、ShLは、側壁1br、1bhの高さ方向を基準として決められる。そのため、側壁1br、1bhの表面における一方端部(第1の稜線1abr、1anh)から他方端部(第2の稜線1bcr、1bch)までの距離と、高さHR、HLとは異なっている。
上記実施形態において、第1の稜線及び第2の稜線の少なくとも一方は、曲線であってもよい。例えば、第1の稜線及び第2の稜線の少なくとも一方は、側壁の高さ方向に湾曲してもよいし、側壁に垂直な方向に湾曲してもよい。また、側壁の高さ(第1の稜線と第2の稜線の距離)が、長手方向(第1の稜線の延在方向)において変化していてもよい。側壁の高さが長手方向の位置によって異なる場合、低強度領域の高さ方向の距離Sh及び長手方向の距離Snの基準となる側壁の高さは、低強度領域が形成される部分における側壁の高さの平均値とする。
図1Bに示す例では、構造部材10は、長手方向に直線状に延びて形成される。これに対して、構造部材10は、長手方向において湾曲していてもよい。例えば、側面(x方向)から見て、頂面部1a側(z+方向)に凸となるよう湾曲した形状にすることができる。また、上(z方向)から見て構造部材10を湾曲させてもよい。また、頂面部1aの幅(長手方向に垂直な方向(x方向)の長さ)は、一様でなくてもよい。側壁1bの高さ(z方向の長さ)も一様でなくてもよい。
図9A〜図9Dは、長手方向において湾曲した構造部材10の例を示す側面図である。図9A〜図9Dに示す例では、構造部材10は、側面(x方向)から見て、頂面部1a側(z+方向)に凸となるよう湾曲している。すなわち、構造部材10は、長手方向において頂面部1aへ凸となるように湾曲している。図9Aでは、構造部材10の長手方向全体にわたって一定の曲率で湾曲している。図9B及び図9Cでは、構造部材10の長手方向の位置に応じて曲率が変化している。図9Dでは、構造部材10は、長手方向の一部において湾曲している。
底部1cから頂面部1aへ向かって凸となるように、構造部材10を湾曲させることで、頂面部1aへ衝撃荷重が入力された際に、湾曲していない場合(長手方向に直線状の構成)に比べて、構造部材10が折れ曲がりにくくなる。
[車両への適用例]
上記の構造部材10を備える車両も、本発明の実施形態に含まれる。車両において、構造部材10は、頂面部1aが車両の外側に、底部1cが車両の内側になるよう配置することができる。すなわち、衝撃入力面が車両の外側になるように構造部材10が取り付けられる。これにより、車両の外側から衝撃を受けた場合に、構造部材10が車両の内側へ突出する度合が小さくなる。そのため、車両内の装置又人に構造部材10が接触する可能性がより低くなる。例えば、構造部材が、衝突時に客室内に向かって折れることが避けられる。これにより、安全性がより向上する。
構造部材10は、上記のように、頂面部1a側へ向かって凸となるように湾曲していてもよい。この場合、頂面部1aを外側に配置し、構造部材10の両端部を支持する構成とすることができる。これにより、車両の外側から衝撃を受けた場合に、構造部材10を折れにくくすることができる。
また、構造部材10は、長手方向に離間した2箇所で支持された状態で用いることもある。この場合、構造部材10は、他の部材に連結される部分である連結部を2つ有する。すなわち、構造部材10は、連結部において他の部材に支持される。連結部は、支持部と称することもある。連結部は、側壁1b、頂面部1a及び底部1cの少なくとも1つに設けられる。
連結部では、構造部材10は、他の部材に対して固定される。構造部材10の連結部は、例えば、締結部材又は溶接により他の部材と接合される。なお、連結部は、3つ以上であってもよい。
また、連結部は、構造部材10の内部空間に挿入された状態で、構造部材10を支持する構成であってもよい。例えば、構造部材10の場合、底部1cに貫通孔をあけ、貫通孔から他の部材を挿入して、他の部材の端部を頂面部1aの内側の面に接合してもよい。このように、構造部材10の頂面部1aの部材内側に連結部を設けてもよい。或いは、頂面部1aに貫通孔をあけ、貫通孔から他の部材を挿入して、他の部材の端部を底部1cの内側の面に接合してもよい。このように、構造部材10の底部1cの部材内側に連結部を設けてもよい。
低強度領域1sは、2つの連結部の間に設けることが好ましい。すなわち、2つの連結部の間の側壁1bに低強度領域1sの少なくとも一部が形成されることが好ましい。これにより、連結部により支持されていない構造部材の部分に衝撃が加わった場合の曲げ変形を少なくすることができる。また、低強度領域1sは、2つの連結部の中央に設けられることが望ましい。すなわち、2つの連結部の中央における側壁1bに、低強度領域1sが形成されることが好ましい。これにより、強い衝撃がかかる可能性の高い位置の衝撃エネルギー吸収効率を高めることができる。その結果、衝撃による構造部材の曲げ変形の度合を小さくすることができる。
また、構造部材10の長手方向中央に低強度領域1sを配置することが望ましい。なぜなら、構造部材10は、長手方向中央から離れた両端部付近で他の部材と連結されるからである。これにより、連結部が有る場合とない場合のいずれの場合においても、構造部材10において、衝撃によるモーメントが最も大きくなり折れ易い箇所(構造部材の長手方向中央或いは連結部間の中間箇所)の折れ変形を効果的に抑えることができる。
このように、構造部材10は、高強度の車両用構造部材に用いることができる。車両用構造部材には、例えば、Aピラー、Bピラー、サイドシル、ルーフレール、フロアメンバー、フロントサイドメンバーといった車体を構成する部材、及び、ドアインパクトビームやバンパーといった車体に取り付けられ、外部からの衝撃から車両内の装置や乗員を守る部材が含まれる。車両用構造部材は、車両の衝突時の衝撃エネルギーを吸収する。
図10は、車両に配置される構造部材の一例を示す図である。図10に示す例では、Aピラー15、Bピラー16、サイドシル17、ルーフレール18、バンパー19、フロントサイドメンバー20、ドアインパクトビーム21、フロアメンバー22、及び、リアサイドメンバー23が車両用構造部材として用いられる。これらの車両用構造部材の少なくとも1つに、上記の構造部材10のように低強度領域1sを設けることができる。
図11は、本実施形態における構造部材によって構成されたバンパー19を示す図である。図11に示す例では、パンパ−19は、頂面部19a、一対の側壁19b、底部19cを有する。頂面部19aの長手方向に垂直な方向における両端から一対の側壁19bが互いに対向して延びる。一対の側壁19bの頂面部19a側の一方端とは反対側の他方端の間に底部19cが形成される。頂面部19a、一対の側壁19b及び底部19cは、連続した1枚の板材で構成される。車両の外側に頂面部19aが配置される。底部19cは、車両の内側に配置される。側壁19bの頂面部19a側の一部には低強度領域19sが設けられる。低強度領域19sは、頂面部19aと側壁19bの境界から、側壁19bの一方端部から他方端部までの間の長さの20〜40%の距離の位置までの領域に設けられる。低強度域19sの降伏強度は、その他の領域の降伏強度(側壁19bの高さ方向中央位置の降伏強度)の60〜85%である。
構造部材10は、モノコック構造の車両のみならず、フレーム構造の車体に適用することもできる。図12は、特開2011−37313に開示されたスペースフレーム構造の車体を有する車両である。スペースフレーム構造の車体は、複数のパイプ31と、パイプ31を連結するジョイント32を備える。パイプ31は、車体の表面を覆うボディ30の内部に配置される。複数のパイプ31は、上下方向に延びるパイプ、前後方向に延びるパイプ、及び、左右方向に延びるパイプを含む。複数のパイプ31の少なくとも一部を、上記の鋼管1で形成することができる。このように、スペースフレーム構造の車体を構成するパイプ(管材)に上記の鋼管1を適用すると、パイプが、乗員やエンジンのある車体内側に深く折れ曲がることが無いため、効果的である。
衝撃エネルギーを吸収する車両用構造部材は、軸圧縮変形する物と折れ曲がり変形する物の2種類に大別される。折れ曲がり変形する物は、折れや断面潰れ変形により衝撃エネルギーを吸収する。Bピラー、サイドシル等の部材は高強度材を用いることで衝撃エネルギー吸収効率を高めることが求められる。そのため、本実施形態の構造部材10に、側壁1bの高さ方向中央の位置1midの引張強度(低強度領域以外の領域の引張強度)が980MPa以上(降伏強度500Mpa以上)の超高強度鋼を適用すると、上記の効果が顕著に現れる。また、構造部材10の側壁1bの中央の位置1midの強度(低強度領域1s以外の領域の強度)を、引張強度で1GPa以上とすることで、より効果を奏することができる。
なお、構造部材10は、図10に示す自動車のような4輪車両に限られず、例えば、二輪車両の構造部材として用いることができる。また、構造部材10の用途は、車両用に限られない。例えば、耐衝撃性容器、建築物、船舶、又は、航空機等の構造部材として、構造部材10を用いることができる。
[製造工程]
構造部材10は、全体を同一素材で形成することができる。構造部材10は、例えば、鋼板で形成することができる。1枚の鋼板を折り曲げて、鋼板の一方の端部と、対向する他方の端部とを溶接等により接合することで、四角形の断面を有する管状の構造部材(四角管)を形成することができる。四角管を湾曲させる場合は、例えば、プレス曲げ、引張り曲げ、圧縮曲げ、ロール曲げ、押し通し曲げ、又は偏心プラグ曲げ等の曲げ加工方法を用いることができる。
構造部材10の製造工程には、素材に低強度領域を形成する工程が含まれる。低強度領域を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、レーザー又は高周波加熱等の方法で、材料を局所的に加熱、焼き入れを行うことで、硬化領域を含む構造部材10を作り出すことができる。この場合、焼き入れを行わない領域が、相対的に強度が低い低強度領域となる。また、焼き入れを行って四角管の全体を強化した後に、部分的に焼鈍処理を行って低強度領域を形成することもできる。
或いは、管状部材を、軸方向に移動させながら、加熱、曲げモーメント付与、及び冷却を順次施すことで、長手方向において湾曲した構造部材10を作製することができる。この方法では、管状部材の外周に、誘導加熱コイルを配置して、管状部材を局部的に塑性変形可能温度に加熱する。この加熱部を管状方向に移動させながら、誘導加熱コイルより下流の管状部材に設けられた可動ローラダイス等の可動把持手段を動かすことにより、曲げモーメントを付与する。このようにして湾曲させた部分を、誘導加熱コイルと可動把持手段との間の冷却装置により冷却する。この工程において、例えば、加熱及び冷却の条件を管状部材の外周方向において異ならせることで、管状部材に低強度領域を形成することができる。
なお、構造部材10の製造方法は、上記例に限られない。テーラードブランク、その他公知の方法を用いて、低強度領域を有する構造部材10を形成することができる。
本実施例では、四角形の断面を有する管状の構造部材に圧子を衝突させた場合の構造部材の変形をシミュレーションで解析した。図13は、シミュレーションにおける解析モデルの構成を模式的に示す図である。本シミュレーションでは、構造部材30を2つの台120に架け渡した状態で、構造部材30の長手方向の中央部に、圧子110を、衝突させた場合の変形挙動を解析した。圧子110の曲率半径は150mmとし、圧子の初速度は、4m/秒とした。
図14は、シミュレーションに用いた構造部材30の長手方向に垂直な断面における各寸法を示すである。構造部材30は、頂面部3a、一対の側壁3b及び底部3cを有する。一対の側壁3bは、頂面部3aの両端から延び、互いに対向する。底部3cは、頂面部3aに対応し、一対の側壁3bの頂面部3a側の一方端部とは反対側の他方端部の間に形成される。一対の側壁3bの各々は、側壁3bの一方端部から距離Shの位置に至るまでの領域に、低強度領域3sを有する。
図14において、側壁の高さH=50mm、頂面部(底部)の幅W1=50mm、板厚t=1.4mmとした。低強度領域3sの距離Shを変化させて、衝突シミュレーションを行った。また、低強度領域3sと、その他の領域の強度を変化させて、衝突シミュレーションを行った。なお、低強度領域3sの長手方向の長さSL(図13参照)は、H/2とした。
図15は、Sh=(2/5)Hとして、低強度領域3sと他の領域の強度比を変えて衝撃荷重を入力した場合の、曲げ変形による変形量を示すグラフである。図15において、縦軸は、頂面部3aに垂直な方向(z方向)の構造部材の侵入量(突出量)を示す。横軸は、低強度領域3sの強度の他の高強度領域(=側壁3bの中央の位置3mid)の強度に対する比(強度比=低強度領域の強度/高強度領域の強度)を示す。図15のグラフでは、ひし形のプロットは、高強度領域の降伏強度を120kgfとした場合の結果を示し、四角のプロットは、高強度領域の降伏強度を145kgfとした場合の結果を示す。
強度比が、0.60〜0.85の区間では、強度比の増加に伴って侵入量は減少している(矢印Y1)。この区間では、変形モードは、図4に示す断面潰れとなっている。この区間では、低強度領域の強度が低い(強度比が0.60以下)場合、断面潰れの変形になるものの、侵入量が大きく、強度比が0.85を越える場合の侵入量と略同じとなった。強度比が0.85を超えると、侵入量は、急激に増加した(矢印Y2)。さらに、強度比0.85以上で強度比を増やすと、侵入量は、強度比の増加に応じて大きくなった(矢印Y3)。これは、強度比0.85を境に、変形モードが、図4に示す断面つぶれから、図3に示す折れに変化したためと考えられる。このように、低強度領域の強度が高すぎる(強度比が高い)と折れ曲がって変形し、侵入量が大きくなった。図15の結果から、衝撃による曲げ変形の侵入量を少なくする観点から、強度比は60〜85%が好ましく、強度比は70〜85%がより好ましいことが確認された。
下記表1は、上記強度比を0.83(低強度領域の降伏強度を、YP100MPa、その他の領域の降伏強度を、YP120MPa)とし、低強度領域の高さShを変化させた場合の変形挙動を示す。表1において、上矢印は、直上の欄と同じ値を表す。変形挙動欄の丸(○)は、図4に示す断面潰れを示し、ばつ(×)は、図3に示す折れを示す。
上記表1に示す結果では、低強度領域を設けない場合(Sh=0)、Sh=H/2(ShがHの50%)、及び、Sh=H/10(ShがHの10%)の場合に、変形挙動は、折れ(図3参照)となった。Sh=2H/5(ShがHの40%)、Sh=H/3(ShがHの約33%)、及び、Sh=H/5(ShがHの20%)の場合は、変形挙動は、断面つぶれ(図4)となった。この結果から、低強度領域3sの側壁3bの頂面部3a側の一方端部からの距離Shを、側壁3bの高さHの20〜40%とすることで、変形挙動を断面つぶれとして、侵入量を小さくできることが確認された。
さらに、図13に示す解析モデルにおいて、構造部材の強度分布をさらに変えて、圧子110を、衝突させた場合の変形挙動を解析した。具体的には、低強度領域3sの長手方向(y方向)の寸法を変えて解析を行った。図16Aは、解析に用いた構造部材30の断面形状を示す図である。図16Bは、解析に用いた構造部材30の側面形状を示す図である。図16Aに示すように、構造部材30の断面形状は台形とした。図16Aにおいて、側壁の高さH=50mm、頂面部の幅W1=70mm、底部の幅W2=90mm、板厚t=1.4mm、第1の稜線のRの内側の曲率半径R=5mmとした。図16Bに示すように、低強度領域3sの高さ方向(z方向)の寸法を、H/5とした。低強度領域3sの長手方向(y方向)の寸法を、0、2H/3、4Hと変えて解析を行った。すなわち、下記case1〜case3の条件でシミュレーションを行った。なお、低強度領域3sの降伏応力は、1100MPaとした。低強度領域以外の領域すなわち高強度領域の降伏応力は、1400MPaとした。
case1:SL=0、Sh=0(低強度領域なし)
case2:SL=H/3、Sh=H/5
case3:SL=2H、Sh=H/5
図17は、case1〜case3の解析結果を示すグラフである。図17は、case1〜case3の荷重−ストローク線(F−S線)のグラフである。図17の解析結果について説明する。case1〜case3何れの条件でも、ストローク0mmから20mmまではストロークに対する荷重の値はほぼ同じである。しかし、Case2では、ストローク20mmの辺りから、他の条件より荷重が低くなる。Case2では、ストローク25mm辺りで荷重がピークになり、その後、ストロークが大きくなるに従い荷重が低下する。これは、Case2では、ストローク25mm辺りで、構造部材が、折れてしまったからである。Case1とCase3では、Case3の方が荷重のピークのストロークが大きい。これはCase1よりCase3の方が高いストロークで折れたからである。Case3では他の条件に比べ、荷重のピークが高く、荷重のピークが現れるストロークが大きいのは、構造部材が、断面潰れしながら荷重に耐えた後折れるからである。構造部材の衝撃エネルギー吸収性能を意味する荷重のストロークでの積分は、Case3が最も高い。この事から、低強度領域3sの長手方向の幅を、側壁の高さ4Hとした方が、2H/3とするよりも、衝撃エネルギー吸収効率が高く、折れが抑制されることがわかった。
図18は、case2及びcase3の変形挙動の解析結果を示す。図18に示す解析結果においては、SL=2Hとしたcase3の場合に、SL=H/3としたcase2の場合に比べて、変形が長手方向に広がり、折れが抑制されている。すなわち、case3とcase2の変形モードは、異なる。case3の変形モードは、断面潰れである。case2の変形モードは、折れである。
以上、本発明の一実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。