図1ないし図6は、本発明の一実施形態を示すものであって、この実施形態は、本発明を上述したような拡径ビットに適用した場合のものである。本実施形態において、工具本体1は、このような拡径ビットのデバイスであって、軸線Oを中心とした外形略多段の円柱状をなしており、その後端部(図1および図6における右側部分)は最も小径のシャンク部1Aとされている。
このような掘削工具は、上記シャンク部1Aに連結される図示されないダウンザホールハンマによって工具本体1に軸線O方向先端側(図1および図6における左側)への打撃力が与えられるとともに、このダウンザホールハンマに掘削ロッドを介して連結される掘削装置から工具回転方向Tへの軸線O回りの回転力と軸線O方向先端側への推力が与えられ、地盤(岩盤)等を掘削して掘削孔を形成する。
工具本体1のシャンク部1Aよりも先端側の先端部には、その後端側に工具本体1において最も大きな外径の外周側に突出する環状の第1段部1Bが形成されるとともに、この第1段部1Bよりも先端側には、第1段部1Bより一段小径とされた一定の外径を有する円柱部1Cが形成されている。また、工具本体1の先端部の軸線O方向の長さは、円柱部1Cが最も長く、これよりも第1段部1Bは短い。
さらに、工具本体1の外周には、第1段部1Bの外径よりも大きな内径を有する軸線Oを中心とした円筒状のケーシングパイプPが配設されるとともに、このケーシングパイプPの先端には、ケーシングパイプPの内径よりも小さく、円柱部1Cよりは大きな内径を有する多段円筒状のケーシングトップQが、その後端部をケーシングパイプPの先端部内周に嵌め入れた状態で接合されて取り付けられている。このケーシングトップQのケーシングパイプP内周側に突出した部分が、本実施形態におけるケーシングパイプPの先端内周部の第2段部とされており、図1に示す実施形態では、ケーシングトップQの内径は第1段部1Bの外径よりも小さくされている。
工具本体1の先端面は軸線Oに垂直な平坦面とされ、掘削時にはケーシングトップQの先端よりも先端側に位置するように配設される。また、この先端面から第1段部1Bの後端にかけての工具本体1先端部外周には、掘削時に発生する掘削屑を排出するための排出溝1Dが、周方向に等間隔に3条形成されている。これらの排出溝1Dの外周側を向く底面は、工具本体1の先端面から後端側に向かうに従い軸線Oから離間するように傾斜した後、軸線Oに平行に延びて第1段部1Bの後端に達している。
さらに、工具本体1の先端面には、周方向において上記排出溝1Dの間に、先端面から後端側に向けて延びる取付孔部2が、やはり周方向に等間隔に3つ形成されており、これらの取付孔部2は、軸線Oに平行で軸線Oから外周側に偏心した孔部中心線L1を中心とした一定内径の断面円形に形成されている。なお、工具本体1の後端からは軸線Oに沿って掘削時に圧縮空気等を噴出するブロー孔3が形成されており、このブロー孔3は工具本体1の先端部で分岐して、先端面の中央と、排出溝1Dの傾斜した底面と、円柱部1Cの後端側の外周面と、そして上記取付孔部2の底面とに開口している。
本実施形態では、このような取付孔部2に取付軸部4が挿入されて、上記拡径ビットのビットヘッド5が工具本体1に着脱可能に装着されており、このビットヘッド5の先端部には掘削部6が一体に形成されている。この掘削部6の先端面と外周面には、鋼材等からなる工具本体1やビットヘッド5よりも高硬度の超硬合金等からなる掘削チップ7が埋め込まれて多数配設されており、これらの掘削チップ7によって地盤が破砕されて掘削が行われる。
取付軸部4は、軸部中心線L2を中心とした円柱軸状であって、その外径が取付孔部2の内径よりも僅かに小さくなるように形成されるとともに、その長さは取付孔部2の深さと略等しくなるように形成されている。従って、この取付軸部4は取付孔部2に摺動可能に嵌め込まれて軸部中心線L2が孔部中心線L1と同軸に挿入され、その後端面が取付孔部2の底面に当接したところで、掘削部6の後端面が工具本体1の先端面に当接することになり、こうして取付軸部4を取付孔部2に挿入した挿入状態でビットヘッド5は孔部中心線L1回りに回転自在とされる。
掘削部6は、図2、図3および図4(a)に示すように先端視において概略扇形をなしており、すなわち互いに120°の鈍角で交差する2つの側面と、これらの側面の両端を結ぶ凸円弧面状または凸円弧面と平面とを組み合わせた凸側面とを有している。2つの側面は軸部中心線L2に平行な平面状であって、先端視において一方は長い側面(長側面)、他方は短い側面(短側面)とされ、また凸側面のうち長側面に連なる部分は後端側に向かうに従い軸部中心線L2側に向かうように僅かに傾斜している。
このような掘削部6は、ビットヘッド5が軸部中心線L2回りに工具回転方向Tとは反対側に回転させられたときには、図2に示すように周方向に隣接するビットヘッド5同士で、1つの掘削部6の上記短側面が、工具回転方向Tとは反対側に隣接するビットヘッド5の掘削部6における長側面の短側面側の部分に当接して位置決めされる。このとき、凸側面の長側面に連なる部分は、ケーシングパイプPやケーシングトップQの外径よりも大きく工具本体1の外周側に突出して拡径し、先端視において軸線Oを中心とした円弧をなすように配設される。
また、ビットヘッド5が軸部中心線L2回りに工具回転方向Tに回転させられたときには、図3に示すように周方向に隣接するビットヘッド5同士で、1つの掘削部6の上記短側面が、工具回転方向Tとは反対側に隣接するビットヘッド5の掘削部6における長側面の凸側面側の部分に当接して位置決めされることにより縮径させられる。この縮径した状態では、凸側面は、軸線Oから最も離れた部分が、ケーシングトップQの内径よりも小さく、円柱部1Cの外径よりは大きな直径の軸線Oを中心とした円筒面上に位置するように配設される。
さらに、このようなビットヘッド5の取付軸部4の外周面には、軸部中心線L2に直交する平面A、すなわち上記挿入状態における孔部中心線L1に直交する平面Aに沿って凹溝4Aが形成されている。この凹溝4Aは、本実施形態では図4(b)および図5に示すように軸部中心線L2を中心として取付軸部4の外周を1周する環状溝とされており、軸部中心線L2に沿った断面では、軸部中心線L2方向に延びる半割長円状に形成されている。なお、凹溝4Aは、このような環状溝とするのに代えて、例えば軸部中心線L2方向から見て掘削部6の長側面側に形成されて、軸部中心線L2に直交する上記平面Aに沿った断面が略120°に折れ曲がったL字状に形成され、ただしこのL字に折れ曲がる部分は、その両側の直線状に延びる部分に接する軸部中心線L2を中心とした凸円弧状に形成されていてもよい。
一方、工具本体1には、同じく上記挿入状態における孔部中心線L1に直交する上記平面Aに沿って有底のピン孔8が形成されている。このピン孔8は、本実施形態では断面円形のものであって、3つの取付孔部2の内周面にそれぞれ工具回転方向Tの反対側から接して軸線Oに直交する接線をピン孔中心線Cとして延び、工具本体1の円柱部1Cの外周面に開口するように形成されている。従って、これらのピン孔8は、ピン孔中心線Cが取付孔部2の内周面に接する部分で、この取付孔部2の内周面に部分的に開口することになる。
また、ピン孔8の半径は、取付軸部4の外周面から凹溝4Aの溝底までの深さと略等しくされている。さらに、このピン孔8には、ピン孔8の内径よりも僅かに小さな外径の円柱軸状の係止ピン9が円柱部1Cの外周側から挿入されており、上述のように取付孔部2の内周面に部分的に開口した部分でビットヘッド5の取付軸部4における凹溝4Aに係止されて、工具本体1の軸線O側におけるピン孔8の底面に当接させられている。なお、このようにして係止ピン9がピン孔8の底面に当接したところで、係止ピン9の工具本体1外周側の端面は、円柱部1Cの外周面と面一となるように形成されている。
そして、工具本体1の第1段部1Bの先端面と、第2段部であるケーシングトップQの後端面との間には、第1段部1Bの外径より小さく、この第1段部1Bよりも先端側の円柱部1Cの外径より大きい内径と、ケーシングトップQの内径より大きく、このケーシングトップQよりも後端側の上記ケーシングパイプPの内径よりは小さな外径とを有する環状部材10が介装されている。なお、本実施形態では、環状部材10の外径は第1段部1Bの外径と略等しくされている。また、このような環状部材10は、同じ鋼材によって形成されるにしても、工具本体1の材質の硬度に対して同等の硬度または例えばHRC5程度までの低い硬度の材質によって形成される。
さらに、本実施形態の環状部材10は、上述のような内外径を有する後端側の環状部10Aと、この環状部10Aと内径が等しく、ケーシングトップQの内径よりも僅かに小さな外径を有して先端側に延びる円筒部10Bとが同軸に一体に形成されており、従ってこの円筒部10Bは、工具本体1の第1段部1Bよりも先端側の上記円柱部1Cの外周面とケーシングトップQの内周面との間に配設されることになる。また、環状部材10の軸線O方向の長さは、図1に示すように環状部10Aを第1段部1BとケーシングトップQに当接させた状態で、円筒部10Bの先端面がケーシングトップQの先端面と面一となるように設定され、工具本体1の円柱部1Cの長さよりは十分短く設定されている。
さらにまた、この環状部材10の円筒部10Bには、同じく図1に示すように環状部10Aを第1段部1Bに当接させた状態で、軸線O方向においてピン孔8の開口部の後端側に部分的に重なり合う位置に、断面円形の3つの貫通孔11が、周方向に等間隔に形成されており、これらの貫通孔11には、係止ピン9をピン孔8に挿入した状態で該貫通孔11を封止する封止部材12が取り付けられている。さらに、円筒部10Bの外周面には、各貫通孔11に連通するように凹所13がそれぞれ形成されており、この凹所13には、封止部材12を固定する固定部材14が配設されている。
貫通孔11の円筒部10Bの内外周面における開口部の直径は、ピン孔8の直径と等しく設定されている。なお、ピン孔8の円柱部1Cにおける開口部は、は、上述のように環状部10Aを第1段部1BとケーシングトップQに当接させた状態で、円筒部10BとケーシングトップQの先端面よりも後端側に位置して、これら円筒部10BおよびケーシングトップQに覆われるように配設されている。また、凹所13は、本実施形態では貫通孔11の外周側開口部の軸線O方向後端側に連通するように形成されており、ただし環状部材10の内周面に貫通してはいない。
さらに、凹所13は、貫通孔11の外周側開口部がなす円の直径と等しい幅で工具本体1の後端側に延びる延出部13Aと、この延出部13Aの後端側に位置して貫通孔11の中心線と平行な中心線を有する貫通孔11よりも大径の円形部13Bとを備えている。なお、円形部13Bの中心線と貫通孔11の中心線との間隔は、円形部13Bの半径と貫通孔11の外周側開口部の半径との和よりも僅かに大きく設定されている。
また、これら貫通孔11と凹所13の内周部には、環状部材10の内外周面との間に僅かな間隔をあけて溝が形成されており、このうち貫通孔11の内周部に形成された溝は封止部材12を係止する係止部11Aとされている。さらに、凹所13のうち円形部13Bの内周に形成された溝は固定部材14の係止部13Cとされるとともに、延出部13Aに形成された溝はスライド溝13Dとされている。
これら係止部11A、13Cおよびスライド溝13Dは、ピン孔中心線Cに直交する1つの平面に沿うように形成されていて、すなわちピン孔中心線C方向を向いて互いに対向する2つの溝壁面は、それぞれ係止部11A、13Cおよびスライド溝13D同士で面一に形成されている。さらに、これら2つの溝壁面はピン孔中心線Cに垂直に延びるように形成されるとともに、これらの溝壁面の間の貫通孔11と凹所13の内周側を向く溝底面は、溝壁面に垂直すなわちピン孔中心線Cに平行に延びるように形成されていて、係止部11A、13C、およびスライド溝13Dはピン孔中心線Cに沿った断面が矩形状に形成されている。
なお、これら係止部11A、13Cおよびスライド溝13Dがなす溝の溝深さ、すなわち貫通孔11と凹所13の延出部13Aおよび円形部13Bの内周から上記溝底面までの深さは、係止部11Aとスライド溝13Dとで互いに等しい一定の深さとなるように形成されている。これに対して、凹所13の係止部13Cは、これら係止部11Aおよびスライド溝13Dの溝深さよりも浅い一定の溝深さとなるように形成されている。
このうち、貫通孔11の係止部11Aに取り付けられる上記封止部材12は、工具本体1やビットヘッド5と同じく鋼材等の剛性体により、外径が2段の円盤状に一体形成されており、このうち外径が大径となる部分はスライド溝13Dを通して貫通孔11の係止部11Aに嵌め入れ可能な大きさに形成されている。また、封止部材12の外径が小径となる部分は、環状部材10の外周面における貫通孔11の開口部に嵌め入れ可能な大きさに形成されている。
一方、凹所13に配設される固定部材14は、ウレタンゴム等の合成ゴムのような弾性体により、やはり外径が2段の円盤状に一体形成されており、このうち外径が大径となる部分は僅かに縮径するように弾性変形させられた状態で凹所13の係止部13Cに嵌め入れ可能とされ、小径となる部分は環状部材10の外周面における凹所13の開口部に嵌め入れ可能な大きさとされている。さらに、上記大径の部分は、係止部13Cに嵌め入れられた状態で、上述のように係止部11Aに嵌め入れられた封止部材12の大径の部分の外周に弾性変形しつつ密着可能な大きさとされている。
次に、このような掘削工具を組み立てる場合について説明する。まず、工具本体1にビットヘッド5が取り付けられておらず、またケーシングパイプPおよびケーシングトップQが配設されていない状態から、工具本体1先端部の円柱部1Cに先端側から環状部材10を嵌め入れて、3つの貫通孔11が3つのピン孔8と同軸となるように配置する。次いで、取付孔部2に取付軸部4を挿入して掘削部6が工具本体1の先端面に当接するようにビットヘッド5を工具本体1の先端部に配設する。このとき、各ビットヘッド5は、その掘削部6が上述の縮径した状態とされる。
また、貫通孔11はピン孔8と同軸とされて連通可能な位置に配設されているので、工具本体1の外周側から貫通孔11を通して係止ピン9をピン孔8にそれぞれ挿入し、取付軸部4の凹溝4Aに係止する。次に、環状部材10の外周から凹所13に封止部材12を挿入し、スライド溝13Dに沿って貫通孔11の開口部に位置させて係止部11Aよって係止し、さらに凹所13の係止部13Cに固定部材14を嵌め入れて封止部材12を固定する。
こうして係止ピン9と封止部材12、固定部材14が取り付けられたなら、ビットヘッド5の掘削部6を縮径させたまま、工具本体1をケーシングパイプPの後端側から挿入して、ビットヘッド5の掘削部6と工具本体1の円柱部1Cの先端部をケーシングトップQの内周を通して先端に突出させ、第1段部1Bを環状部材10の後端面に、環状部10Aの先端面をケーシングトップQの後端面に当接させ、第1段部1Bの先端面と第2段部であるケーシングトップQの後端面との間に、環状部材10の環状部10Aを介装する。
このとき、環状部材10は、上述のように貫通孔11とピン孔8とが同軸の位置から相対的に工具本体1の後端側にずらされ、ピン孔8の開口部の先端側部分が部分的に環状部材10とケーシングトップQによって被覆されるので、このピン孔8に挿入された係止ピン9はこれら環状部材10とケーシングトップQによって抜け止めされて固定される。なお、係止ピン9をピン孔8に挿入した後は、予め環状部材10を第1段部1Bに当接させてから、工具本体1をケーシングパイプPに挿入してもよい。
このようにして組み立てられた掘削工具に、軸線O方向先端側への打撃力および推力と工具回転方向Tへの回転力を与えて掘削を行うと、図1および図2に示すようにビットヘッド5が回転力による反力によって工具回転方向Tとは反対側に回転して拡径し、掘削部6の外径がケーシングパイプPよりも大きくなるので、掘削部6によって形成された掘削孔にケーシングパイプPを挿入しつつ掘削を行うことができる。
また、所定の深さまで掘削孔が形成されてケーシングパイプPが挿入されることにより掘削が終了した後は、工具本体1を工具回転方向Tとは反対側に回転させることにより、その反力によってビットヘッド5は工具回転方向Tに回転し、図3に示したように掘削部6が縮径するので、ケーシングパイプPを掘削孔に残したまま工具本体1を引き抜いて回収することができる。
ここで、図1ないし図5に示した実施形態では、第1段部1Bの外径がケーシングトップQの内径よりも大きいので、環状部材10の特に環状部10Aがなくても第1段部1Bを直接ケーシングトップQの後端面に当接させて軸線O方向先端側への打撃力および推力をケーシングパイプPに伝達し、掘削孔に挿入してゆくことができるが、大径の掘削孔を形成する場合に、ケーシングパイプPおよびケーシングトップQも、拡径した掘削部6の外径以下の範囲で外径の大きなものを使用するときには、これらケーシングパイプPおよびケーシングトップQの肉厚を必要以上に厚くすることはコスト高を招くので、ケーシングパイプPおよびケーシングトップQの内径も大きくせざるを得ない。
このため、そのようなときには、場合によっては第1段部1Bの外径よりも第2段部としてのケーシングトップQの内径が大きくなって、打撃力および推力をケーシングパイプPに伝達することができなくなるおそれがある。また、第1段部1Bの外径がケーシングトップQの内径より大きくても、その差が小さい場合には、打撃力および推力をケーシングパイプPに確実かつ十分に伝達することができなくなり、掘削効率が著しく低減してしまう。
そこで、そのようなときでも、図1ないし図5に示した工具本体1と同じ工具本体1を用いて掘削を行うには、図6に示すように環状部材10を外径の大きなものに交換する。すなわち、この図6に示す環状部材10は、その環状部10Aと円筒部10Bの内径は、図1ないし図5に示した実施形態と同じく第1段部1Bの外径より小さく、この第1段部1Bよりも先端側の円柱部1Cの外径よりは大きくて、工具本体1の円柱部1Cが嵌め入れ可能な大きさとされているが、円筒部10Bの外径は、内径が大きくされたケーシングトップQの内周に嵌め入れ可能な大きさであり、環状部10Aの外径は、ケーシングトップQの内径よりも大きく、内径が大きくされたケーシングパイプPに嵌め入れ可能な大きさとされていて、第1段部1Bの外径よりも大きい。
従って、上記構成の掘削工具によれば、工具本体1の第1段部1Bの外径と、ケーシングパイプPの第2段部であるケーシングトップQの内径との差が小さい場合はもとより、たとえケーシングトップQの内径が第1段部1Bの外径よりも大きい場合でも、一種の工具本体1を用いて、工具本体1に与えられる軸線O方向先端側への打撃力および推力を、第1段部1Bから環状部材10の環状部10Aを介して確実にケーシングパイプPに伝達することができる。このため、外径の異なる複数種の工具本体を用意する必要がなくなって、構造が環状部材10よりは複雑な工具本体1の管理が容易となるとともに、工具本体1の製造コストの削減を図ることができる。
また、第1段部1Bの外径がケーシングトップQの内径より小さい場合は勿論、第1段部1Bの外径がケーシングトップQの内径より大きくても、ケーシングパイプPの内径に対しては大幅に小さい場合などには、このケーシングパイプPの内径に合わせて、環状部材10の環状部10Aの外径を第1段部1Bの外径よりも大きくすることにより、ケーシングトップQの後端面への打撃力や推力の伝達面積を大きくすることができる。従って、効率的にケーシングパイプPを掘削孔に挿入することができるとともに、環状部材10を打撃する第1段部1Bの応力集中による破損等も防ぐことができる。
さらに、本実施形態においては、環状部材10が工具本体1の材質の硬度以下の硬度の材質によって形成されており、工具本体1に与えられる打撃力や推力、回転力による摩耗を、工具本体1ではなく環状部材10に多く生じるようにすることができる。従って、上述のように環状部材10よりも構造が複雑な工具本体1の摩耗を抑制して工具本体1の長寿命化を図ることができるので、長期に亙って安定した掘削作業を一層低コストで行うことが可能となる。
さらにまた、本実施形態では、環状部材10の先端側に、工具本体1の第1段部1Bよりも先端側の円柱部1Cに嵌め入れ可能な内径とケーシングトップQの内周に嵌め入れ可能な外径を有し、これら円柱部1Cの外周面とケーシングトップQの内周面との間に配設される円筒部10Bが形成されている。従って、この円筒部10Bを介して工具本体1の円柱部1CをケーシングトップQにより支持することができるので、特に円柱部1Cの外径がケーシングトップQの内径よりも著しく小さい場合でも、掘削時の工具本体1およびビットヘッド5の掘削部6の振れを抑えることができ、直進度の高い掘削孔を形成することが可能となる。
一方、本実施形態では、ビットヘッド5を回転自在に係止する係止ピン9が挿入される工具本体1のピン孔8の開口部の少なくとも一部が、上述のように工具本体1とは別部材である環状部材10の円筒部10Bによって被覆可能とされており、こうしてピン孔8の開口部の一部を円筒部10Bによって被覆することにより、係止ピン9を抜け止めして固定することができる。
このため、例えば特許文献1に記載された掘削工具のように、ビットヘッドを回転自在に係止する係止ピンが工具本体に直接取り付けられた固定部材によって抜け止めされるのに比べ、工具本体に与えられる打撃力による衝撃によって固定部材が振動して摩耗することにより、固定部材に緩みやがたつき、破損が生じるような事態を防ぐことができる。そして、これに伴い係止ピン9の脱落を防止して、長期に亙ってビットヘッド5を安定的に取付孔部2に取り付けて円滑な掘削を行うことが可能となる。
また、本実施形態では、ピン孔8が開口する工具本体1の外面が、工具本体1の円柱部1Cの外周面であって、孔部中心線L1に平行な軸線Oを中心とする円筒面状に形成されているのに対し、環状部材10の円筒部10Bはこの外周面に対向する内周面を有する円筒状に形成されているので、円筒部10Bへの嵌め入れ精度を確保し易く、さらに確実に打撃力による衝撃が円筒部10Bに作用するのを避けることができる。
なお、本実施形態では、環状部材10は初めから円筒環状に一体形成されているが、例えば円筒を周方向に複数に分割した分割体を溶接等により接合し、または周方向の突き合わせ部に係合部を設けて係合させて円筒状に形成してもよい。このような場合には、ビットヘッド5を取り付けて係止ピン9を挿入した後でもピン孔8の開口部を被覆することができ、環状部材10に貫通孔11や凹所13を形成したり、封止部材12や固定部材14を取り付けたりする必要もなくなる。
また、本実施形態では、環状部材10に、ピン孔8の開口部に連通可能な位置に貫通孔11が形成されており、この貫通孔11には該貫通孔11を封止する封止部材12が取り付けられている。従って、特に上述のように環状部材10を円筒状に形成した場合でも、貫通孔11を通して係止ピン9を容易にピン孔8に挿入することができるとともに、上述のようにこの環状部材10をずらすことによって貫通孔11の少なくとも一部を被覆して係止ピン9を抜け止めすることができる。さらに、貫通孔11の残りの部分に係止ピン9が露出していても、封止部材12によって貫通孔11を封止することにより、掘削時に生成された掘削屑である繰り粉が貫通孔11に入り込んで係止ピン9を摩滅させるような事態を防ぐことができる。
従って、本実施形態の上記構成は、このように掘削時に工具本体1に打撃力が与えられて衝撃が生じる、工具本体1が軸線O回りに回転されるデバイスであって、その先端部の軸線Oから偏心した位置に上記取付孔部2が開口するとともに、ピン孔8は工具本体1の外周面に開口しており、上記取付孔部2に取り付けられるのは、掘削チップ7が配設された掘削部6が取付軸部4の先端に設けられたビットヘッド5であって、工具本体1の回転に伴い掘削部6の軸線Oからの半径が拡縮径するように軸部中心線L2回りに回転する拡径ビットのような掘削工具に適用して効果的である。
ただし、本実施形態では、このような拡径するビットヘッド5を有する拡径ビットに本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、その工具本体1が、先端部に拡径しない掘削部を有してケーシングトップQ(ケーシングパイプP)の先端に突出する円盤状のインナービットであるとともに、ケーシングトップQ(ケーシングパイプP)の先端部にはこのインナービットと同軸に一体回転する環状のリングビットが取り付けられた、いわゆる二重管式ビットに適用することも可能である。
さらに、本実施形態では、工具本体1先端部の円柱部1Cの外周に、ケーシングパイプPの先端部に取り付けられた円筒状のケーシングトップQが配設されており、このケーシングトップQの内径が、工具本体1の第1段部1Bの外径よりも小さくされるとともに、環状部材10の円筒部10Bの外径は、このケーシングトップQの内径よりも小さくされているので、ケーシングトップQの内周面と円柱部1Cの外周面との間に環状部材10の円筒部10Bが配設されることになる。
このため、本実施形態によれば、掘削時に生成された繰り粉がケーシングトップQの内周面と円柱部1Cの外周面の間に入り込むこと自体を環状部材10によって防ぐことができ、ケーシングトップQや円柱部1Cの摩耗も防ぐことができる。しかも、掘削時に環状部材10の環状部10Aを工具本体1の第1段部1BとケーシングトップQに当接させた状態で、環状部材10の貫通孔11と工具本体1のピン孔8とは、軸線O方向においてケーシングトップQの先端面よりも後端側に配設されるので、上記繰り粉が貫通孔11やピン孔8に入り込んで封止部材12や係止ピン9を摩滅するのも確実に防ぐことが可能となる。