図1は、本発明が適用される建設機械の一例であるショベルを示す側面図である。
ショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載される。上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられる。ブーム4の先端にはアーム5が取り付けられ、アーム5の先端にはバケット6が取り付けられる。ブーム4、アーム5、及びバケット6は掘削アタッチメントを構成し、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。上部旋回体3には、キャビン10が設けられ、且つエンジン等の動力源が搭載される。
図2は、本発明の実施形態によるショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。図2において、機械的動力系は二重線、高圧油圧ラインは太実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御系は細実線でそれぞれ示されている。
エンジン11、電動発電機12、及びメインポンプ14は変速機13を介して連結される。本実施例では、エンジン11の回転軸には変速機13の第1入力軸が連結され、電動発電機12の回転軸には変速機13の第2入力軸が連結される。そのため、電動機として機能する電動発電機12はエンジン11の回転をアシストできる。また、発電機として機能する電動発電機12はエンジン11の出力を利用して発電できる。また、変速機13の出力軸にはメインポンプ14の回転軸が連結される。そのため、メインポンプ14はエンジン11及び電動発電機12の少なくとも一方によって駆動され得る。なお、メインポンプ14には高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続される。また、変速機13の出力軸にはメインポンプ14と同様にパイロットポンプ15が連結されてもよい。但し、上述の連結関係は一例を示すものであり、必ずしも2つのポンプが変速機13の出力軸に連結される必要はない。例えば、メインポンプ14は、電動機によって駆動されてもよい。
コントロールバルブ17は、ショベルにおける油圧系の制御を行う制御装置である。下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9等の油圧アクチュエータは、高圧油圧ラインを介してコントロールバルブ17に接続される。なお、油圧系は、下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、メインポンプ14、コントロールバルブ17を含む。
電動発電機12にはインバータ18を介して蓄電器としてのキャパシタ19を含む蓄電系120が接続される。また、蓄電系120にはインバータ20を介して旋回用電動機21が接続される。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回変速機24が接続される。また、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続される。旋回用電動機21と、インバータ20と、レゾルバ22と、メカニカルブレーキ23と、旋回変速機24とで負荷駆動系としての電動旋回系が構成される。
操作装置26は、レバー26A、レバー26B、ペダル26Cを含む。レバー26A、レバー26B、及びペダル26Cは、油圧ライン27及び油圧ライン28を介してコントロールバルブ17及び圧力センサ29に接続される。圧力センサ29は、電気系の駆動制御を行うコントローラ30に接続される。
コントローラ30は、ショベルの駆動制御を行う主制御部としての制御装置である。本実施例では、コントローラ30は、CPU及び内部メモリを含む演算処理装置で構成され、CPUが内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムを実行することにより各種機能が実現される。
また、コントローラ30は、圧力センサ29から供給される信号を速度指令に変換し、旋回用電動機21の駆動制御を行う。この場合、圧力センサ29から供給される信号は、旋回機構2を旋回させるために操作装置26を操作した場合の操作量を表す信号に相当する。
次に、図3を参照し、旋回複合操作が行われた場合にコントローラ30が駆動源出力としてのエンジン出力を油圧出力と旋回出力とに配分する処理(以下、「駆動源出力配分処理」とする。)について説明する。なお、図3は、駆動源出力配分処理におけるコントローラ30に対する入力と出力との関係を示す図である。また、旋回複合操作は、例えば、旋回用電動機21の操作(旋回操作)と油圧アクチュエータの操作(油圧操作)との複合操作である。旋回操作と2つ以上の油圧アクチュエータの操作との複合操作であってもよい。以下では、旋回操作と油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ7の操作との旋回複合操作が実行される場合を一例として説明する。また、油圧出力は、例えば、メインポンプ14の出力(吸収馬力)を制御するためのポンプ馬力指令である。また、旋回出力は、例えば、旋回に必要な電動発電機出力(発電電力)を制御するための旋回指令である。
概略的には、コントローラ30は、例えば、油圧出力及び旋回出力のそれぞれに関する入力情報又は検出情報に基づいて油圧出力及び旋回出力のそれぞれに関する指令を出力する。また、油圧出力と旋回出力の合計が駆動源出力を超える場合に少なくとも一方の出力制限を実行する。出力制限を実行する際には、検出情報又は入力情報に基づいて油圧出力又は旋回出力を優先出力として設定し、その設定に基づいて油圧出力及び旋回出力のそれぞれの出力配分を決定する。優先出力として設定された方の出力配分は、優先出力として設定されない場合の出力配分より高くなるように、或いは、所定の基準出力配分より高くなるように設定される。以下、コントローラ30の構成及び機能の具体例について説明する。
コントローラ30は、油圧出力推定部31、旋回出力推定部32、優先出力設定部33、ポンプ馬力指令生成部34、旋回指令生成部35、及び出力配分決定部36を含む。
油圧出力推定部31は、油圧レバー入力から要求油圧出力を推定する機能要素である。なお、推定した要求油圧出力は必要に応じて制限される。油圧レバー入力は、油圧アクチュエータの操作量に関連する。例えば、ブームレバーに対する操作入力であり、圧力センサ29が生成する圧力信号が採用される。油圧出力推定部31は、メインポンプ14の吐出圧、油圧アクチュエータの負荷圧等を追加的に考慮して要求油圧出力を推定してもよい。
旋回出力推定部32は、旋回レバー入力から要求旋回出力を推定する機能要素である。なお、推定した要求旋回出力は必要に応じて制限される。旋回レバー入力は、旋回の操作量に関連する。例えば、旋回レバーに対する操作入力であり、圧力センサ29が生成する圧力信号が採用される。旋回出力推定部32は、メインポンプ14の吐出圧、油圧アクチュエータの負荷圧等を追加的に考慮して要求旋回出力を推定してもよい。
優先出力設定部33は、操作者の意図する優先軸(優先出力)を決定する機能要素である。優先出力設定部33は、例えば、圧力センサ29が検出する圧力等の検出情報、又は、コントローラ30の演算結果等の入力情報に基づいて油圧出力又は旋回出力を優先出力として設定する。本実施例では、旋回複合操作の際に旋回レバーが最初に操作された場合に旋回出力を優先出力として設定し、旋回複合操作の際にブームレバーが最初に操作された場合に油圧出力を優先出力として設定する。
また、優先出力設定部33は、必要に応じて優先出力をリセットする機能を有する。例えば、旋回出力が優先出力として設定されている場合、旋回レバーが中立位置に戻された場合にその優先出力の設定をリセットする。或いは、油圧出力が優先出力として設定されている場合、ブームレバーが中立位置に戻された場合にその優先出力の設定をリセットする。
ここで、図4を参照し、優先出力設定部33が優先出力を設定する処理(以下、「優先出力設定処理」とする。)について説明する。図4は、優先出力設定処理の流れを示すフローチャートである。
最初に、優先出力設定部33は、旋回レバー及びブームレバーの何れが先に操作されたかを判定する(ステップS1)。
旋回レバーが先に操作されたと判定した場合(ステップS1の旋回レバー)、優先出力設定部33は、旋回出力を優先出力として設定する(ステップS2)。
また、ブームレバーが先に操作されたと判定した場合(ステップS1のブームレバー)、優先出力設定部33は、油圧出力を優先出力として設定する(ステップS3)。
なお、優先出力設定部33は、旋回レバーとブームレバーが同時に操作されたと判定した場合、優先出力を設定しなくてもよい。
その後、優先出力設定部33は、先に操作されたレバーが中立位置に戻されたかを判定する(ステップS4)。先に操作されたレバーが中立位置に戻されるまでは現在の優先出力の設定を維持する。例えば、旋回レバーが先に操作されていた場合、旋回レバーが中立位置に戻されるまでは旋回出力を優先出力とする。或いは、ブームレバーが先に操作されていた場合、ブームレバーが中立位置に戻されるまでは油圧出力を優先出力とする。
先に操作されたレバーが中立位置に戻されたと判定した場合(ステップS4のYES)、優先出力設定部33は、優先出力の設定をリセットする(ステップS5)。
このようにして優先出力設定部33は、旋回複合操作の際に油圧出力及び旋回出力の一方を優先出力として設定する。そのため、優先出力を優先させたい操作者の意思をショベルの制御に反映させることができる。なお、以下では、油圧出力及び旋回出力のうち優先出力として設定されなかった方を「非優先出力」とする。
図3に戻って説明を続ける。ポンプ馬力指令生成部34は、油圧出力推定部31が出力する要求油圧出力に基づいてポンプ馬力指令を生成する機能要素である。ポンプ馬力指令生成部34は、例えば、記憶媒体等に予め記憶された参照テーブルを参照し、現在の要求油圧出力に対応するポンプ馬力指令を導き出す。そして、そのポンプ馬力指令をメインポンプ14のレギュレータ(図示せず。)に対して出力する。また、ポンプ馬力指令生成部34は、出力配分決定部36からポンプ馬力指令上限値を受ける。そして、導き出したポンプ馬力指令がそのポンプ馬力指令上限値以上であれば、ポンプ馬力指令上限値を最終的なポンプ馬力指令として出力する。なお、導き出したポンプ馬力指令がそのポンプ馬力指令上限値未満であれば、そのポンプ馬力指令をそのまま最終的なポンプ馬力指令として出力する。
旋回指令生成部35は、旋回出力推定部32が出力する要求旋回出力に基づいて旋回指令を生成する機能要素である。旋回指令生成部35は、例えば、記憶媒体等に予め記憶された参照テーブルを参照し、現在の要求旋回出力に対応する旋回指令を導き出す。そして、その旋回指令を電動発電機12に対して出力する。また、旋回指令生成部35は、出力配分決定部36から旋回指令上限値を受ける。そして、導き出した旋回指令がその旋回指令上限値以上であれば、旋回指令上限値を最終的な旋回指令として出力する。なお、導き出した旋回指令がその旋回指令上限値未満であれば、その旋回指令をそのまま最終的な旋回指令として出力する。
出力配分決定部36は、油圧出力と旋回出力の合計が駆動源出力を超える場合に、その合計が駆動源出力以下となるよう油圧出力と旋回出力の少なくとも一方の出力制限を実行すべく、油圧出力及び旋回出力のそれぞれの出力配分を決定する機能要素である。油圧出力、旋回出力、及び駆動源出力は、例えば、電力[kW]に換算して表される。
具体的には、出力配分決定部36は、例えば、油圧出力推定部31、旋回出力推定部32、及び優先出力設定部33のそれぞれの出力に基づいてポンプ馬力指令上限値及び旋回指令上限値を決定する。そして、ポンプ馬力指令上限値をポンプ馬力指令生成部34に対して出力し、旋回指令上限値を旋回指令生成部35に対して出力する。
ここで、図5を参照し、出力配分決定部36が油圧出力及び旋回出力のそれぞれの出力配分を決定する処理(以下、「出力配分決定処理」とする。)の一例について説明する。図5は、出力配分決定処理の一例の流れを示すフローチャートである。
概略的には、出力配分決定部36は、要求油圧出力と要求旋回出力との合計である合算出力が所定の基準値を上回る場合に、合算出力が基準値と等しくなるように要求油圧出力及び要求旋回出力のうちの少なくとも一方を制限する。また、合算出力が所定の基準値以下の場合にはそのときの要求油圧出力及び要求旋回出力をそのまま採用する。以下、出力配分決定処理の一例の詳細について説明する。
最初に、出力配分決定部36は、合算出力が基準値を上回るかを判定する(ステップS11)。合算出力は、例えば、油圧出力推定部31が出力する要求油圧出力と、旋回出力推定部32が出力する要求旋回出力の合計である。合算出力が基準値以下であると判定した場合(ステップS11のNO)の処理については後述する。
合算出力が基準値を上回ると判定した場合(ステップS11のYES)、出力配分決定部36は理想バランス点に対応する暫定バランス点を導き出す(ステップS12)。理想バランス点は、要求油圧出力と要求旋回出力とを成分とする2次元値である。暫定バランス点は、理想バランス点と同様、要求油圧出力と要求旋回出力とを成分とする2次元値であり、且つ、合算出力が基準値と等しくなる2次元値である。
図6は、暫定バランス点の導出方法の一例を説明するグラフであり、縦軸に油圧出力を配し、横軸に旋回出力を配する。また、油圧出力及び旋回出力のそれぞれは、最大出力に対する比率[%]で表される。具体的には、現在の油圧出力が50[kW]で最大油圧出力が100[kW]であれば、現在の油圧出力は50[%]として表される。また、説明の便宜上、最大油圧出力及び最大旋回出力を何れも100[kW]とする。以下のグラフについても同様である。
図6は、一例として、ブームレバーをフルレバー操作し、且つ、旋回レバーをハーフレバー操作した場合の状態を示す。この場合、油圧出力推定部31が出力する要求油圧出力は100[%]となり、旋回出力推定部32が出力する要求旋回出力は20[%]となる。点P0はこのときの理想バランス点に相当する。
線分BLは基準値としての最大駆動源出力を表す基準値境界線である。したがって、点P0がハッチングで示す領域の外にあれば、合算出力が基準値を上回ることを意味する。点Q0はこのときの暫定バランス点の一例であり、理想バランス点P0と原点とを結ぶ線分と基準値境界線BLとの交点に位置する。そのため、暫定バランス点Q0が示す暫定油圧出力H0[%]と暫定旋回出力S0[%]の比は、理想バランス点P0が示す要求油圧出力100[%]と要求旋回出力20[%]の比に等しい。但し、暫定バランス点は、他の方法を用いて導き出されてもよい。例えば、理想バランス点P0と原点とを結ぶ線分と基準値境界線BLとの交点以外の基準値境界線BL上の点として導き出されてもよい。例えば、理想バランス点P0を通る横軸に平行な線分と基準値境界線BLとの交点、理想バランス点P0を通る縦軸に平行な線分と基準値境界線BLとの交点、又は、理想バランス点P0を通る所定の傾きを有する線分と基準値境界線BLとの交点として導き出されてもよい。
図5に戻って説明を続ける。暫定バランス点を導き出した後、出力配分決定部36は、油圧出力及び旋回出力の何れの出力が優先出力として設定されているかを判定する(ステップS13)。例えば、出力配分決定部36は、優先出力設定部33の出力に基づいてこの判定を行う。
油圧出力が優先出力として設定されている(油圧優先時である)と判定した場合(ステップS13の油圧出力)、出力配分決定部36は、暫定バランス点の暫定油圧出力が油圧優先時下限値を下回るかを判定する(ステップS14)。油圧優先時下限値は、油圧優先時に維持されるべき最低限の油圧出力の値であり、例えば、記憶媒体等に予め記憶される。これにより、油圧優先時の油圧出力は、合算出力が基準値を上回る限り、油圧優先時下限値を下回らないように設定される。操作者が優先させたいと思っている出力を大きめに維持するためである。なお、油圧優先時下限値はリアルタイムで算出されてもよい。
そのため、暫定油圧出力が油圧優先時下限値を下回ると判定した場合(ステップS14のYES)、出力配分決定部36は、油圧優先時限界点が示す出力配分を採用する(ステップS15)。油圧優先時限界点は、油圧優先時下限値を暫定油圧出力とする暫定バランス点に相当する。
また、暫定油圧出力が油圧優先時下限値以上であると判定した場合(ステップS14のNO)、出力配分決定部36は、そのときの暫定バランス点が示す出力配分を採用する(ステップS16)。
ここで、図7を参照し、油圧優先時における理想バランス点及び暫定バランス点の推移について説明する。図7は、油圧優先時における理想バランス点及び暫定バランス点の推移の一例を示すグラフであり、ブームレバーをフルレバー操作した後で旋回レバーの操作を開始してその操作量を徐々に増加させていくときの推移を示す。図7において、理想バランス点は点P1(要求油圧出力100%:要求旋回出力0%、以下、両者の値を同様に示す。)、点P2(100%:10%)、点P3(100%:20%)、点P4(100%:60%)、点P5(100%:80%)の順で推移し、それに応じて暫定バランス点も推移する。また、暫定バランス点Q4は油圧優先時限界点Qhに相当し、暫定バランス点Q4の暫定油圧出力H4は油圧優先時下限値Htに相当する。なお、理想バランス点Prは、要求油圧出力と要求旋回出力とが共に100[%]で等しいときの点(基準理想バランス点)であり、暫定バランス点Qrは理想バランス点Prに対応する点(基準暫定バランス点)である。また、油圧優先時限界点Qhは、その暫定油圧出力としての油圧優先時下限値Htが、暫定バランス点Qrに対応する暫定油圧出力よりも大きくなるように設定される。また、油圧優先時限界点Qhは、ブームレバーの操作開始時と旋回レバーの操作開始時との間の間隔が大きいほど暫定バランス点Qrから遠い位置に設定されてもよい。
図7に示すように、理想バランス点が点P1(100%:0%)から点P4(100%:60%)まで推移すると暫定バランス点は点Q1から点Q4に推移して油圧優先時限界点Qhに至る。そのため、油圧出力及び旋回出力のそれぞれの出力配分として、暫定バランス点Q1〜Q4のそれぞれが示す暫定油圧出力及び暫定旋回出力が採用される。
しかしながら、理想バランス点が点P4(100%:60%)から点P5(100%:80%)に推移しても、暫定バランス点は点Q4から点Q5に推移せずに点Q4に留まる。点Q5に推移すると暫定油圧出力が油圧優先時下限値Htを下回ってしまうためである。そのため、油圧出力及び旋回出力のそれぞれの出力配分として、油圧優先時限界点Qhとしての暫定バランス点Q4が示す暫定油圧出力及び暫定旋回出力が採用される。
図5に戻って説明を続ける。旋回出力が優先出力として設定されている(旋回優先時である)と判定した場合(ステップS13の旋回出力)、出力配分決定部36は、暫定バランス点の暫定旋回出力が旋回優先時下限値を下回るかを判定する(ステップS17)。旋回優先時下限値は、旋回優先時に維持されるべき最低限の旋回出力の値であり、例えば、記憶媒体等に予め記憶される値である。これにより、旋回優先時の旋回出力は、合算出力が基準値を上回る限り、旋回優先時下限値を下回らないように設定される。操作者が優先させたいと思っている出力を大きめに維持するためである。なお、旋回優先時下限値はリアルタイムで算出されてもよい。
そのため、暫定旋回出力が旋回優先時下限値を下回ると判定した場合(ステップS17のYES)、出力配分決定部36は、旋回優先時限界点が示す出力配分を採用する(ステップS18)。旋回優先時限界点は、旋回優先時下限値を暫定旋回出力とする暫定バランス点に相当する。
また、暫定旋回出力が旋回優先時下限値以上であると判定した場合(ステップS17のNO)、出力配分決定部36は、そのときの暫定バランス点が示す出力配分を採用する(ステップS16)。
ここで、図8を参照し、旋回優先時における理想バランス点及び暫定バランス点の推移について説明する。図8は、旋回優先時における理想バランス点及び暫定バランス点の推移の一例を示すグラフであり、旋回レバーをフルレバー操作した後でブームレバーの操作を開始してその操作量を徐々に増加させていくときの推移を示す。図8において、理想バランス点は点P6(要求油圧出力0%:要求旋回出力100%)、点P7(10%:100%)、点P8(20%:100%)、点P9(60%:100%)、点P10(80%:100%)の順で推移し、それに応じて暫定バランス点も推移する。また、暫定バランス点Q9は旋回優先時限界点Qsに相当し、暫定バランス点Q9の暫定旋回出力S9は旋回優先時下限値Stに相当する。また、旋回優先時限界点Qsは、その暫定旋回出力としての旋回優先時下限値Stが、暫定バランス点Qrに対応する暫定旋回出力よりも大きくなるように設定される。また、旋回優先時限界点Qsは、旋回レバーの操作開始時とブームレバーの操作開始時との間の間隔が大きいほど暫定バランス点Qrから遠い位置に設定されてもよい。
図8に示すように、理想バランス点が点P6(0%:100%)から点P9(60%:100%)まで推移すると暫定バランス点は点Q6から点Q9に推移して旋回優先時限界点Qsに至る。そのため、油圧出力及び旋回出力のそれぞれの出力配分として、暫定バランス点Q6〜Q9のそれぞれが示す暫定油圧出力及び暫定旋回出力が採用される。
しかしながら、理想バランス点が点P9(60%:100%)から点P10(80%:100%)に推移しても、暫定バランス点は点Q9から点Q10に推移せずに点Q9に留まる。点Q10に推移すると暫定旋回出力が旋回優先時下限値Stを下回ってしまうためである。そのため、油圧出力及び旋回出力のそれぞれの出力配分として、旋回優先時限界点Qsとしての暫定バランス点Q9が示す暫定油圧出力及び暫定旋回出力が採用される。
なお、出力配分決定部36は、油圧出力及び旋回出力の双方が優先出力として設定されていると判定した場合、或いは、油圧出力及び旋回出力が何れも優先出力として設定されていないと判定した場合、そのときの暫定バランス点が示す出力配分を採用してもよい。この場合、暫定バランス点は油圧優先時限界点又は旋回優先時限界点を超えて基準暫定バランス点Qrまで移動可能であってもよい。
図5に戻って説明を続ける。合算出力が基準値以下であると判定した場合(ステップS11のNO)、出力配分決定部36は、暫定バランス点を導き出すことなく、そのときの理想バランス点が示す出力配分を採用する(ステップS12)。油圧出力と旋回出力の合計が駆動源出力を下回るため、油圧出力及び旋回出力の出力制限を実行する必要がないためである。
次に、図9を参照し、出力配分決定処理の別の一例の流れについて説明する。なお、図9の出力配分決定処理は、ステップS20及びステップS21を有する点で図5の出力配分決定処理と相違するがその他の点で共通する。そのため、共通部分の説明を省略し、相違部分を詳細に説明する。
合算出力が基準値を上回ると判断され(ステップS11のYES)、且つ、油圧優先時限界点、暫定バランス点、又は旋回優先時限界点が示す出力配分を採用した後(ステップS15、S16、又はS18)、出力配分決定部36は、非優先出力が増加しているか否かを判定する(ステップS20)。
非優先出力が増加していると判定した場合(ステップS20のYES)、出力配分決定部36は、優先出力の減少量を制限する(ステップS21)。例えば、油圧優先時に非優先出力としての旋回出力が増加する方向に旋回レバーが操作されると、暫定バランス点は、暫定油圧出力が減少し且つ暫定旋回出力が増加する方向に基準値境界線BL上を移動する。このとき、出力配分決定部36は、例えば、単位時間当たりの暫定油圧出力の減少量を所定の最大変動量に制限する。操作者が優先させたいと思っている出力が急減してしまうのを防止するためである。その結果、単位時間当たりの暫定旋回出力の増加量も制限される。
但し、優先出力を積極的に減少させる場合はこの限りではない。例えば、油圧優先時に優先出力としての油圧出力が減少する方向にブームレバーが操作された場合、出力配分決定部36は、単位時間当たりの暫定油圧出力の減少量を最大変動量で制限しない。そして、油圧優先時限界点又は暫定バランス点に基づいて出力配分を決定する。操作者の意思にしたがって油圧出力を減少させるためである。
また、非優先出力が増加していないと判定した場合も(ステップS20のNO)、出力配分決定部36は、非優先出力の変化量を制限しない。例えば、油圧優先時に非優先出力としての旋回出力が減少する方向に旋回レバーが操作されると、暫定バランス点は、暫定油圧出力が増加し且つ暫定旋回出力が減少する方向に基準値境界線BL上を移動する。このとき、出力配分決定部36は、単位時間当たりの暫定油圧出力の増加量を所定の最大変動量で制限せずに暫定バランス点に基づいて出力配分を決定する。操作者の意思にしたがって旋回出力を減少させるためである。また、操作者が優先させたいと思っている油圧出力が増加するのを防止する必要はないためである。
ここで、図10を参照し、非優先出力が変化する場合の優先出力の変化量の制御方法の一例について説明する。図10は、旋回優先時に非優先出力(油圧出力)が変化する場合の理想バランス点及び暫定バランス点の推移の一例を示すグラフであり、旋回レバーをフルレバー操作し且つブームレバーをハーフレバー操作した状態からブームレバーの操作量を変化させたときの推移を示す。
図10において、旋回優先時に油圧出力が増加する方向にブームレバーが操作されると、理想バランス点は点P11(要求油圧出力30%:要求旋回出力:100%)から点P12(50%:100%)に推移し、それに応じて暫定バランス点は点Q11から点Q12に推移する。
このとき、暫定旋回出力は、S11[%]からS12[%]に減少し、暫定旋回出力の減少量はΔS1で表される。この減少量ΔS1は最大変動量ΔTより大きいため、出力配分決定部36は、暫定旋回出力の減少量を最大変動量ΔTで制限し、最終的な旋回出力をS14(=S12−ΔT)[%]とする。また、出力配分決定部36は、旋回出力S14[%]に対応する基準値境界線BL上の点Q14を導き出し、さらにその点Q14に対応する油圧出力H14[%]を導き出す。このように、出力配分決定部36は、非優先出力が増加している場合、各制御周期における優先出力の減少量を最大変動量で制限して油圧出力及び旋回出力のそれぞれの出力配分を導き出す。操作者が優先させたいと思っている出力が急減してしまうのを防止するためである。
また、図10において、旋回優先時に油圧出力が減少する方向にブームレバーが操作されると、理想バランス点は点P11(30%:100%)から点P13(10%:100%)に推移し、それに応じて暫定バランス点は点Q11から点Q13に推移する。
このとき、暫定旋回出力は、S11[%]からS13[%]に増加し、暫定旋回出力の増加量はΔS2で表される。この増加量ΔS2は最大変動量ΔTより大きいが、出力配分決定部36は、暫定旋回出力の増加量を最大変動量ΔTで制限せずに、旋回出力S13[%]をそのまま最終的な旋回出力とする。また、出力配分決定部36は、そのときの暫定バランス点Q13から油圧出力H13[%]を導き出す。このように、出力配分決定部36は、非優先出力が減少している場合には、各制御周期における優先出力の増加量を最大変動量で制限せずに、そのときの暫定バランス点に基づいて油圧出力及び旋回出力のそれぞれの出力配分を導き出す。操作者の意思にしたがって非優先出力を減少させるためである。また、優先出力が増加するのを防止する必要はないためである。
上述の通り、本発明の実施例に係るショベルは、油圧出力と旋回出力の合計が駆動源出力を超える場合に少なくとも一方の出力制限を実行する。そして、出力制限を実行する際に、検出情報又は入力情報に基づいて油圧出力又は旋回出力を優先出力として設定し、その設定に基づいて油圧出力及び旋回出力のそれぞれの出力配分を決定する。優先出力として設定された方の出力配分は、優先出力として設定されない場合の出力配分より高く、或いは、所定の基準出力配分より高い。例えば、合算出力が基準値を上回る限り、油圧優先時の油圧出力の出力配分は、旋回優先時の油圧出力の出力配分より高く、或いは、基準暫定バランス点Qr(図7参照。)に対応する油圧出力の出力配分(油圧優先時下限値Ht)より高い。また、合算出力が基準値を上回る限り、旋回優先時の旋回出力の出力配分は、油圧優先時の旋回出力の出力配分より高く、或いは、基準暫定バランス点Qr(図8参照。)に対応する旋回出力の出力配分(旋回優先時下限値St)より高い。そのため、操作者の意思をより適切に出力パワーの配分に反映できる。その結果、車体位置より高い位置を掘削する場合には旋回出力を優先させる等、作業内容に適した出力パワーの配分を実現できる。
また、本発明の実施例に係るショベルは、出力制限を実行する際に、油圧出力に関する操作入力と旋回出力に関する操作入力とに基づいて油圧出力又は旋回出力を優先出力として設定する。例えば、旋回レバーとブームレバーのうち旋回レバーが先に操作されている場合には旋回出力を優先出力とし、ブームレバーが先に操作されている場合には油圧出力を優先出力とする。
また、優先出力に設定された方に関する操作入力が中止された場合に優先出力の設定がリセットされる。例えば、旋回出力が優先出力として設定されている場合に旋回レバーが中立位置に戻されたとき、或いは、油圧出力が優先出力として設定されている場合にブームレバーが中立位置に戻されたときにその優先出力の設定がリセットされる。
また、優先出力として設定されなかった方の出力配分を大きくする場合、優先出力として設定された方の出力配分の減少率が制限される。例えば、油圧優先時に非優先出力としての旋回出力が増加する方向に旋回レバーが操作された場合であっても、優先出力としての油圧出力の減少量は所定の最大変動量で制限される。操作者が優先させたいと思っている出力が急減してしまうのを防止するためである。
また、優先出力として設定された方の出力配分の増加率は制限されない。例えば、油圧優先時に非優先出力としての旋回出力が減少する方向に旋回レバーが操作された場合であっても、単位時間当たりの暫定油圧出力の増加量は所定の最大変動量で制限されない。操作者の意思にしたがって旋回出力を減少させるためである。また、操作者が優先させたいと思っている油圧出力が増加するのを防止する必要はないためである。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述の実施例では、油圧出力が最大100[kW]で旋回出力が最大100[kW]でエンジン出力が最大100[kW]としたが、例えば、合算出力がエンジン出力の最大120[kW]を超えない限りにおいて、油圧出力の最大値が90[kW]から60[kW]の間で設定され、且つ、旋回出力の最大値が30[kW]から60[kW]の間で設定されてもよい。或いは、合算出力がエンジン出力の最大120[kW]を超えない限りにおいて、油圧出力の最大値が90[kW]から30[kW]の間で設定され、且つ、旋回出力の最大値が30[kW]から90[kW]の間で設定されてもよい。
また、上述の実施例では、駆動源出力はエンジン出力であるが、駆動源出力は、例えば、エンジン出力とキャパシタ出力の合計であってもよい。この場合、キャパシタ出力は、旋回用電動機21とエンジン11をアシストする電動発電機12とに供給される。