本発明の酢酸の製造方法では、酢酸と酢酸よりも高沸点の不純物を含む粗酢酸液を蒸留して酢酸を精製する際、蒸留塔の塔底温度を165℃以下(例えば165℃未満)とする。塔底温度とは塔底液の温度をいう。蒸留塔の塔底温度を165℃以下(例えば165℃未満)とすることにより、蒸留塔装置の腐食を著しく抑制できるので、高耐食性材質(ジルコニウム等)ではない材質であっても蒸留塔の材質として使用できる。蒸留塔の塔底温度が165℃を超えると、塔底液中に酢酸塩、無水酢酸、プロピオン酸が存在しない場合であっても、ステンレス鋼及び一部のニッケル基合金の腐食速度は速く、これらの材質は蒸留塔装置の材質として適さないことになる。
前記蒸留塔の塔底温度は、好ましくは160℃以下、より好ましくは155℃以下、さらに好ましくは150℃以下、特に好ましくは140℃以下である。蒸留塔の塔底温度が160℃以下、特に155℃以下であれば、塔底液中に酢酸塩、無水酢酸、プロピオン酸がかなりの量存在していても、ステンレス鋼を蒸留装置の材質として使用できる。さらに、蒸留塔の塔底温度を155℃以下、特に150℃以下にすれば、蒸留装置の材質がステンレス鋼であっても腐食を著しく抑制できる。塔底温度の下限は、例えば125℃、好ましくは130℃、さらに好ましくは135℃である。
蒸留に付す前記粗酢酸液としては、酢酸と酢酸よりも高沸点の不純物を含むものであればよいが、主成分として酢酸を含むものが好ましく、前記粗酢酸液中の酢酸濃度としては、好ましくは90質量%以上(例えば95質量%以上)、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
前記酢酸よりも高沸点の不純物としては、特に限定されないが、本発明は、特に、前記高沸点不純物として、酢酸塩、無水酢酸及びプロピオン酸からなる群より選択された少なくとも1つの化合物が含まれている場合に大きな効果が得られる。前記酢酸塩としては、酢酸カリウム等のアルカリ金属酢酸塩などが挙げられる。
前記蒸留塔の塔底液における酢酸塩濃度は、例えば34質量%以下、好ましくは23質量%以下、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。塔底液中の酢酸塩濃度が低いほど腐食速度は遅くなる。前記塔底液中の酢酸塩濃度の下限は、例えば0質量ppm(あるいは1質量ppm)である。メタノール法カルボニル化プロセスでは、前述したように、反応系で副生した腐食性の高いヨウ化水素を中和するため、水酸化カリウム等のアルカリを添加している。添加したアルカリはヨウ化水素と反応するだけでなく、酢酸と反応して酢酸塩(例えば酢酸カリウム)を生成させる。このような酢酸塩を含む粗酢酸液を蒸留すると蒸留塔の塔底に貯まる。したがって、蒸留塔の塔底液中の酢酸塩濃度は、例えば、前記アルカリの添加量を加減することにより調整することができる。
前記蒸留塔の塔底液における無水酢酸濃度は、例えば90質量%以下、好ましくは74質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。塔底液中の無水酢酸濃度が低いほど腐食速度は遅くなる。前記塔底液中の無水酢酸の濃度の下限は、例えば0質量ppm(あるいは1質量ppm)である。蒸留塔の塔底液中の無水酢酸濃度は、例えば、当該蒸留塔の上流に位置する配管や装置、あるいは当該蒸留塔内に水を添加して、無水酢酸を加水分解することにより調整することができる。
前記蒸留塔の塔底液におけるプロピオン酸濃度は、例えば90質量%以下、好ましくは75質量%以下、より好ましくは55質量%以下、さらに好ましくは29質量%以下、特に好ましくは10質量%以下(とりわけ1質量%以下)である。塔底液中のプロピオン酸濃度が低いほど腐食速度は遅くなる。前記塔底液中のプロピオン酸の濃度の下限は、例えば0質量ppm(あるいは1質量ppm)である。蒸留塔の塔底液中のプロピオン酸濃度は、例えば、反応条件を変えてプロピオン酸の副生を低減させたり、プロセス液の一部を反応系にリサイクルする際、プロピオン酸副生の原因となるアセトアルデヒドを当該プロセス液から分離除去した後に反応系にリサイクルしたり、当該蒸留塔の上流にプロピオン酸を分離除去する蒸留塔又は蒸発器(脱プロピオン酸塔)を設けることにより低減できる。
前記蒸留塔の塔底圧力は、所望する塔底温度及び塔底液組成によって適宜調整する。前記塔底圧力は、例えば0.255MPaG未満、好ましくは0.24MPaG以下、さらに好ましくは0.23MPaG以下、特に好ましくは0.21MPaG以下である。なお、「G」はゲージ圧を示す。塔底液中の高沸点不純物の濃度が高いほど沸点は高くなるため、所望の塔底温度とするためには、塔底液中の高沸点不純物の濃度が高いほど塔底圧力を低くする必要がある。塔底圧力は低ければ低いほど塔底温度が低下し、腐食性は低下するが、塔底圧力が低いとガス密度が低下するので、一定の酢酸生産量を維持するためには蒸留塔の塔径などを大きくする必要が生じるため経済的に不利である。したがって、蒸留塔の塔底圧力の下限は、例えば0.01MPaG、好ましくは0.02MPaG、さらに好ましくは0.03MPaG、特に好ましくは0.05MPaGである。本発明によれば、塔底温度を特定値以下に調整するので、加圧下でも装置の腐食を防止しつつ酢酸を蒸留により精製できる。したがって、本発明は、酢酸の生産効率を高めるため蒸留を加圧下で行う場合に特に有用である。
本発明において、蒸留塔の材質としては、ジルコニウム、ニッケル基合金(ハステロイB2、ハステロイCなど)、ステンレス鋼[例えば、SUS304、SUS316、SUS316L(SUS316よりカーボン比率が低いSUS材)、SUS317、SUS317L(SUS317よりカーボン比率が低いSUS材)など]、又はそれらと同等若しくはそれ以下の耐腐食性材料(例えば、アルミニウム、チタンなど)を使用できる。一般に、材料の価格は、ジルコニウム>ハステロイB2>ハステロイC>ステンレス鋼の順に低下する。本発明によれば、腐食を著しく低減できるので、蒸留塔の材質として比較的安価なステンレス鋼も十分使用できる。
本発明においては、特に、蒸留塔の塔底液の酢酸塩濃度が34質量%以下、無水酢酸濃度が90質量%以下、プロピオン酸濃度が90質量%以下であり、蒸留塔の塔底圧力が0.255MPa未満であり、且つ蒸留塔の材質が、ニッケル基合金、ステンレス鋼、アルミニウム及びチタンからなる群より選択された少なくとも1種であることが好ましい。
本発明において、蒸留の形式はバッチ式蒸留及び連続式蒸留の何れであってもよいが、生産効率等の点で連続式蒸留がより好ましい。
本発明の酢酸の製造方法は、特にメタノール法カルボニル化プロセスにおいて有用である。すなわち、メタノールと一酸化炭素とを反応させて酢酸を生成させるカルボニル化反応工程、前記カルボニル化反応工程で得られた反応混合物を蒸気流と残液流とに分離する蒸発工程、前記蒸気流を蒸留に付して低沸成分に富むオーバーヘッド流と酢酸に富む酢酸流とに分離する脱低沸工程、及び前記酢酸流を蒸留して酢酸を精製する酢酸蒸留工程を含む酢酸製造プロセスにおいて、前記酢酸蒸留工程が、酢酸と酢酸よりも高沸点の不純物を含む粗酢酸液を蒸留塔の塔底温度165℃以下の条件で蒸留して精製酢酸を得る工程を少なくとも1つ有していることが好ましい。
この場合、前記酢酸蒸留工程は、蒸留に付す前記粗酢酸液中の酢酸濃度が97質量%以上である蒸留工程を少なくとも1つ有しており、そのような工程全てにおいて、前記粗酢酸液を蒸留塔の塔底温度165℃以下の条件で蒸留して精製酢酸を得ることが好ましい。
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態を示す酢酸製造フロー図(メタノール法カルボニル化プロセス)の一例である。この酢酸製造フローに係る酢酸製造装置は、反応槽1と、蒸発槽2と、蒸留塔3と、デカンタ4と、蒸留塔5と、蒸留塔6と、イオン交換樹脂塔7と、スクラバーシステム8と、アセトアルデヒド分離除去システム9、コンデンサ1a,2a,3a,5a,6aと、熱交換器2bと、リボイラー3b,5b,6bと、ライン11〜56、ポンプ57とを備え、酢酸を連続的に製造可能に構成されている。本実施形態の酢酸の製造方法では、反応槽1、蒸発槽2、蒸留塔3、蒸留塔5、蒸留塔6、及びイオン交換樹脂塔7において、それぞれ、反応工程、蒸発工程(フラッシュ工程)、第1蒸留工程、第2蒸留工程、第3蒸留工程、及び吸着除去工程が行われる。第1蒸留工程は脱低沸工程、第2蒸留工程は脱水工程、第3蒸留工程は脱高沸工程ともいう。第1蒸留工程、第2蒸留工程、第3蒸留工程は、本発明における「酢酸を精製する酢酸蒸留工程」に含まれる。なお、本発明において、工程は上記に限らず、特に、蒸留塔5、イオン交換樹脂塔7、アセトアルデヒド分離除去システム9(脱アセトアルデヒド塔など)の設備は付帯しない場合がある。また、後述するように、イオン交換樹脂塔7の下流に製品塔を設けてもよい。この製品塔も本発明における「酢酸を精製する酢酸蒸留工程」に含まれる。
反応槽1は、反応工程を行うためのユニットである。この反応工程は、下記の化学式(1)で示される反応(メタノールのカルボニル化反応)によって酢酸を連続的に生成させるための工程である。酢酸製造装置の定常稼働状態において、反応槽1内には、例えば撹拌機によって撹拌されている反応混合物が存在する。反応混合物は、原料であるメタノール及び一酸化炭素と、金属触媒と、助触媒と、水と、製造目的である酢酸と、各種の副生成物とを含み、液相と気相とが平衡状態にある。
CH3OH + CO → CH3COOH (1)
反応混合物中の原料は、液体状のメタノール及び気体状の一酸化炭素である。メタノールは、メタノール貯留部(図示略)からライン11を通じて反応槽1に所定の流量で連続的に供給される。一酸化炭素は、一酸化炭素貯留部(図示略)からライン12を通じて反応槽1に所定の流量で連続的に供給される。一酸化炭素は必ずしも純粋な一酸化炭素でなくてもよく、例えば窒素、水素、二酸化炭素、酸素等の他のガスが少量(例えば5質量%以下、好ましくは1質量%以下)含まれていてもよい。
反応混合物中の金属触媒は、メタノールのカルボニル化反応を促進するためのものであり、例えばロジウム触媒やイリジウム触媒を使用することができる。ロジウム触媒としては、例えば、化学式[Rh(CO)2I2]-で表されるロジウム錯体を使用することができる。イリジウム触媒としては、例えば化学式[Ir(CO)2I2]-で表されるイリジウム錯体を使用することができる。金属触媒としては金属錯体触媒が好ましい。反応混合物中の触媒の濃度(金属換算)は、反応混合物の液相全体に対して、例えば200〜5000質量ppmであり、好ましくは400〜2000質量ppmである。
助触媒は、上述の触媒の作用を補助するためのヨウ化物であり、例えば、ヨウ化メチルやイオン性ヨウ化物が使用される。ヨウ化メチルは、上述の触媒の触媒作用を促進する作用を示し得る。ヨウ化メチルの濃度は、反応混合物の液相全体に対して例えば1〜20質量%である。イオン性ヨウ化物は、反応液中でヨウ化物イオンを生じさせるヨウ化物(特に、イオン性金属ヨウ化物)であり、上述の触媒を安定化させる作用や、副反応を抑制する作用を示し得る。イオン性ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどのアルカリ金属ヨウ化物などが挙げられる。反応混合物中のイオン性ヨウ化物の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば1〜25質量%であり、好ましくは5〜20質量%である。また、例えばイリジウム触媒などを用いる場合は、助触媒として、ルテニウム化合物やオスミウム化合物を用いることもできる。これらの化合物の使用量は総和で、例えばイリジウム1モル(金属換算)に対して、0.1〜30モル(金属換算)、好ましくは0.5〜15モル(金属換算)である。
反応混合物中の水は、メタノールのカルボニル化反応の反応機構上、酢酸を生じさせるのに必要な成分であり、また、反応系の水溶性成分の可溶化のためにも必要な成分である。反応混合物中の水の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば0.1〜15質量%であり、好ましくは0.8〜10質量%、さらに好ましくは1〜6質量%、特に好ましくは1.5〜4質量%である。水濃度は、酢酸の精製過程での水の除去に要するエネルギーを抑制して酢酸製造の効率化を進めるうえでは15質量%以下が好ましい。水濃度を制御するために、反応槽1に対して所定流量の水を連続的に供給してもよい。
反応混合物中の酢酸は、酢酸製造装置の稼働前に反応槽1内に予め仕込まれた酢酸、及び、メタノールのカルボニル化反応の主生成物として生じる酢酸を含む。このような酢酸は、反応系では溶媒として機能し得る。反応混合物中の酢酸の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば50〜90質量%であり、好ましくは60〜80質量%である。
反応混合物に含まれる主な副生成物としては、例えば酢酸メチルが挙げられる。この酢酸メチルは、酢酸とメタノールとの反応によって生じ得る。反応混合物中の酢酸メチルの濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば0.1〜30質量%であり、好ましくは1〜10質量%である。反応混合物に含まれる副生成物としては、ヨウ化水素も挙げられる。このヨウ化水素は、上述のような触媒や助触媒が使用される場合、メタノールのカルボニル化反応の反応機構上、不可避的に生じることとなる。反応混合物中のヨウ化水素の濃度は、反応混合物の液相全体に対して、例えば0.01〜2質量%である。また、副生成物としては、例えば、水素、メタン、二酸化炭素、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、2−エチルクロトンアルデヒド、ジメチルエーテル、アルカン類、ギ酸、プロピオン酸、並びに、ヨウ化ヘキシル及びヨウ化デシルなどのヨウ化アルキル等が挙げられる。また、反応混合物には、装置の腐食により生じる鉄、ニッケル、クロム、マンガン、モリブデンなどの金属(以下、「腐食性金属」と称する場合がある)、及びその他の金属としてコバルトや亜鉛、銅などが含まれ得る。上記腐食性金属とその他の金属とを併せて「腐食金属等」と称する場合がある。
以上のような反応混合物が存在する反応槽1内において、反応温度は例えば150〜250℃に設定され、全体圧力としての反応圧力は例えば2.0〜3.5MPa(絶対圧)に設定され、一酸化炭素分圧は、例えば0.4〜1.8MPa(絶対圧)、好ましくは0.6〜1.5MPa(絶対圧)に設定される。
装置稼働時の反応槽1内の気相部の蒸気には、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸及びプロピオン酸などが含まれる。この蒸気は、反応槽1内からライン13を通じて抜き取ることが可能である。蒸気の抜き取り量の調節によって、反応槽1内の圧力を制御することが可能であり、例えば、反応槽1内の圧力は一定に維持される。反応槽1内から抜き取られた蒸気は、コンデンサ1aへと導入される。
コンデンサ1aは、反応槽1からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸及びプロピオン酸などを含み、コンデンサ1aからライン14を通じて反応槽1へと導入され、リサイクルされる。ガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド及びギ酸などを含み、コンデンサ1aからライン15を通じてスクラバーシステム8へと供給される。スクラバーシステム8では、コンデンサ1aからのガス分から有用成分(例えばヨウ化メチル、水、酢酸メチル、酢酸など)が分離回収される。この分離回収には、本実施形態では、ガス分中の有用成分を捕集するための吸収液を使用して行う湿式法が利用される。吸収液としては、少なくとも酢酸及び/又はメタノールを含む吸収溶媒が好ましい。吸収液には酢酸メチルが含まれていてもよい。例えば、吸収液として後述の蒸留塔6からの蒸気の凝縮分を使用できる。分離回収には、圧力変動吸着法を利用してもよい。分離回収された有用成分(例えばヨウ化メチルなど)は、スクラバーシステム8からリサイクルライン48を通じて反応槽1へと導入され、リサイクルされる。有用成分を捕集した後のガスはライン49を通じて廃棄される。なお、ライン49から排出されるガスは、後述する蒸発槽2の底部あるいは残液流リサイクルライン18,19へ導入するCO源として利用することができる。スクラバーシステム8での処理及びその後の反応槽1へのリサイクル及び廃棄については、他のコンデンサからスクラバーシステム8へと供給される後記のガス分についても同様である。本発明の製造方法においては、プロセスからのオフガスを、少なくとも酢酸を含む吸収溶媒で吸収処理して、一酸化炭素に富むストリームと酢酸に富むストリームとを分離するスクラバー工程を有することが好ましい。
装置稼働時の反応槽1内では、上述のように、酢酸が連続的に生成する。そのような酢酸を含む反応混合物が、連続的に、反応槽1内から所定の流量で抜き取られてライン16を通じて次の蒸発槽2へと導入される。
蒸発槽2は、蒸発工程(フラッシュ工程)を行うためのユニットである。この蒸発工程は、ライン16(反応混合物供給ライン)を通じて蒸発槽2に連続的に導入される反応混合物を、部分的に蒸発させることによって蒸気流(揮発相)と残液流(低揮発相)とに分けるための工程である。反応混合物を加熱することなく圧力を減じることによって蒸発を生じさせてもよいし、反応混合物を加熱しつつ圧力を減じることによって蒸発を生じさせてもよい。蒸発工程において、蒸気流の温度は例えば100〜260℃、好ましくは120〜200℃であり、残液流の温度は例えば80〜200℃、好ましくは100〜180℃であり、槽内圧力は例えば50〜1000kPa(絶対圧)である。また、蒸発工程にて分離される蒸気流及び残液流の割合に関しては、質量比で、例えば10/90〜50/50(蒸気流/残液流)である。本工程で生じる蒸気は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸及びプロピオン酸などを含み、蒸発槽2内からライン17(蒸気流排出ライン)に連続的に抜き取られる。蒸発槽2内から抜き取られた蒸気流の一部はコンデンサ2aへと連続的に導入され、当該蒸気流の他の一部はライン21を通じて次の蒸留塔3へと連続的に導入される。前記蒸気流の酢酸濃度は、例えば40〜85質量%(好ましくは50〜85質量%)、さらに好ましくは50〜75質量%(例えば55〜75質量%)であり、ヨウ化メチル濃度は、例えば2〜50質量%(好ましくは5〜30質量%)、水濃度は、例えば0.2〜20質量%(好ましくは1〜15質量%)、酢酸メチル濃度は、例えば0.2〜50質量%(好ましくは2〜30質量%)である。本工程で生ずる残液流は、反応混合物に含まれていた触媒及び助触媒(ヨウ化メチル、ヨウ化リチウムなど)や、本工程では揮発せずに残存する水、酢酸メチル、酢酸、ギ酸及びプロピオン酸などを含み、ポンプ57を用い、連続的に蒸発槽2からライン18を通じて熱交換器2bへと導入される。熱交換器2bは、蒸発槽2からの残液流を冷却する。降温した残液流は、連続的に熱交換器2bからライン19を通じて反応槽1へと導入され、リサイクルされる。なお、ライン18とライン19とを併せて残液流リサイクルラインと称する。前記残液流の酢酸濃度は、例えば55〜90質量%、好ましくは60〜85質量%である。
コンデンサ2aは、蒸発槽2からの蒸気流を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸及びプロピオン酸などを含み、コンデンサ2aからライン22,23を通じて反応槽1へと導入され、リサイクルされる。ガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド及びギ酸などを含み、コンデンサ2aからライン20,15を通じてスクラバーシステム8へと供給される。上述の反応工程での酢酸の生成反応は発熱反応であるところ、反応混合物に蓄積する熱の一部は、蒸発工程(フラッシュ工程)において、反応混合物から生じた蒸気に移行する。この蒸気のコンデンサ2aでの冷却によって生じた凝縮分が反応槽1へとリサイクルされる。すなわち、この酢酸製造装置においては、メタノールのカルボニル化反応で生じる熱がコンデンサ2aにて効率よく除去されることとなる。
蒸留塔3は、第1蒸留工程を行うためのユニットであり、本実施形態ではいわゆる脱低沸塔に位置付けられる。第1蒸留工程は、蒸留塔3に連続的に導入される蒸気流を蒸留処理して低沸成分を分離除去する工程である。より具体的には、第1蒸留工程では、前記蒸気流を蒸留して、ヨウ化メチル及びアセトアルデヒドから選択された少なくとも一種の低沸成分に富むオーバーヘッド流と、酢酸に富む酢酸流とに分離する。蒸留塔3は、例えば、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。蒸留塔3として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.5〜3000である。蒸留塔3の内部において、塔頂圧力は例えば80〜160kPaGに設定され、塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば85〜180kPaGに設定される。蒸留塔3の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での酢酸の沸点より低い温度であって90〜130℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点以上の温度であって120〜165℃(好ましくは125〜160℃)に設定される。
蒸留塔3に対しては、蒸発槽2からの蒸気流がライン21を通じて連続的に導入され、蒸留塔3の塔頂部からは、オーバーヘッド流としての蒸気がライン24に連続的に抜き取られる。蒸留塔3の塔底部からは、缶出液がライン25に連続的に抜き取られる。3bはリボイラーである。蒸留塔3における塔頂部と塔底部との間の高さ位置からは、側流としての酢酸流(第1酢酸流;液体)がライン27より連続的に抜き取られる。
蒸留塔3の塔頂部から抜き取られる蒸気は、酢酸よりも沸点の低い成分(低沸点成分)を蒸留塔3からの上記缶出液及び側流と比較して多く含み、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド及びギ酸などを含む。この蒸気には酢酸も含まれる。このような蒸気は、ライン24を通じてコンデンサ3aへと連続的に導入される。
コンデンサ3aは、蒸留塔3からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド及びギ酸などを含み、コンデンサ3aからライン28を通じてデカンタ4へと連続的に導入される。デカンタ4に導入された凝縮分は水相(上相)と有機相(ヨウ化メチル相;下相)とに分液される。水相には、水と、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド及びギ酸などが含まれる。有機相には、例えば、ヨウ化メチルと、例えば、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド及びギ酸などが含まれる。本実施形態では、水相の一部はライン29を通じて蒸留塔3に還流され、水相の他の一部は、ライン29,30,23を通じて反応槽1に導入されてリサイクルされる。有機相の一部はライン31,23を通じて反応槽1に導入されてリサイクルされる。有機相の他の一部、及び/又は、水相の他の一部は、ライン31,50、及び/又は、ライン30,51を通じてアセトアルデヒド分離除去システム9に導入される。
アセトアルデヒド分離除去システム9を用いたアセトアルデヒド分離除去工程では、有機相及び/又は水相に含まれるアセトアルデヒドを公知の方法、例えば、蒸留、抽出又はこれらの組み合わせにより分離除去する。分離されたアセトアルデヒドはライン53を通じて装置外へ排出される。また、有機相及び/又は水相に含まれる有用成分(例えばヨウ化メチルなど)は、ライン52,23を通じて反応槽1へとリサイクルされて再利用される。
図2はアセトアルデヒド分離除去システムの一例を示す概略フロー図である。このフローによれば、例えば前記有機相をアセトアルデヒド分離除去工程にて処理する場合は、有機相をライン101を通じて蒸留塔(第1脱アセトアルデヒド塔)91に供給して蒸留し、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流(ライン102)と、ヨウ化メチルに富む残液流(ライン103)とに分離する。前記オーバーヘッド流をコンデンサ91aにて凝縮させ、凝縮液の一部を蒸留塔91の塔頂部に還流させ(ライン104)、凝縮液の他の部分を抽出塔92に供給する(ライン105)。前記抽出塔92に供給された凝縮液はライン109から導入された水によって抽出処理される。抽出処理により得られた抽出液はライン107を通じて蒸留塔(第2脱アセトアルデヒド塔)93に供給して蒸留し、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流(ライン112)と水に富む残液流(ライン113)とに分離する。そして、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流をコンデンサ93aにて凝縮させ、凝縮液の一部を蒸留塔93の塔頂部に還流させ(ライン114)、凝縮液の他の部分は系外に排出する(ライン115)。また、第1脱アセトアルデヒド塔91の缶出液であるヨウ化メチルに富む残液流、抽出塔92で得られたヨウ化メチルに富むラフィネート(ライン108)、及び第2脱アセトアルデヒド塔93の缶出液である水に富む残液流は、それぞれ、ライン103,111,113を通じて反応槽1へリサイクルされるか、あるいはプロセスの適宜な箇所にリサイクルされ、再利用される。例えば、抽出塔92で得られたヨウ化メチルに富むラフィネートはライン110を通じて蒸留塔91にリサイクルすることができる。113の液は、通常、排水として外部に排出される。コンデンサ91a、93aで凝縮しなかったガス(ライン106,116)はスクラバーシステム8で吸収処理されるか、あるいは廃棄処分される。
また、図2のフローにより前記水相をアセトアルデヒド分離除去工程にて処理する場合は、例えば、水相をライン101を通じて蒸留塔(第1脱アセトアルデヒド塔)91に供給して蒸留し、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流(ライン102)と、水に富む残液流(ライン103)とに分離する。前記オーバーヘッド流をコンデンサ91aにて凝縮させ、凝縮液の一部を蒸留塔91の塔頂部に還流させ(ライン104)、凝縮液の他の部分を抽出塔92に供給する(ライン105)。前記抽出塔92に供給された凝縮液はライン109から導入された水によって抽出処理される。抽出処理により得られた抽出液はライン107を通じて蒸留塔(第2脱アセトアルデヒド塔)93に供給して蒸留し、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流(ライン112)と水に富む残液流(ライン113)とに分離する。そして、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド流をコンデンサ93aにて凝縮させ、凝縮液の一部を蒸留塔93の塔頂部に還流させ(ライン114)、凝縮液の他の部分は系外に排出する(ライン115)。また、第1脱アセトアルデヒド塔91の缶出液である水に富む残液流、抽出塔92で得られたヨウ化メチルに富むラフィネート(ライン108)、及び第2脱アセトアルデヒド塔93の缶出液である水に富む残液流は、それぞれ、ライン103,111,113を通じて反応槽1へリサイクルされるか、あるいはプロセスの適宜な箇所にリサイクルされ、再利用される。例えば、抽出塔92で得られたヨウ化メチルに富むラフィネートはライン110を通じて蒸留塔91にリサイクルすることができる。113の液は、通常、排水として外部に排出される。コンデンサ91a、93aで凝縮しなかったガス(ライン106,116)はスクラバーシステム8で吸収処理されるか、あるいは廃棄処分される。
前記の水、酢酸(AC)、ヨウ化メチル(MeI)及びアセトアルデヒド(AD)を少なくとも含むプロセス流に由来するアセトアルデヒドは、上記方法のほか、抽出蒸留を利用して分離除去することもできる。例えば、前記プロセス流を分液させて得られた有機相及び/又は水相(仕込液)を蒸留塔(抽出蒸留塔)に供給するとともに、蒸留塔内のヨウ化メチル及びアセトアルデヒドが濃縮される濃縮域(例えば、塔頂から仕込液供給位置までの空間)に抽出溶媒(通常、水)を導入し、前記濃縮域から降下する液(抽出液)を側流(サイドカット流)として抜き取り、この側流を水相と有機相とに分液させ、前記水相を蒸留することによりアセトアルデヒドを系外に排出することができる。なお、蒸留塔内に比較的多くの水が存在する場合は、前記抽出溶媒を蒸留塔に導入することなく、前記濃縮域から降下する液を側流として抜き取ってもよい。例えば、この蒸留塔に前記濃縮域から降下する液(抽出液)を受けることのできるユニット(チムニートレイなど)を配設し、このユニットで受けた液(抽出液)を側流として抜き取ることができる。抽出溶媒の導入位置は前記仕込液の供給位置よりも上方が好ましく、より好ましくは塔頂付近である。側流の抜き取り位置は、塔の高さ方向において、抽出溶媒の導入位置よりも下方であって、前記仕込液の供給位置よりも上方が好ましい。この方法によれば、抽出溶媒(通常、水)によって、ヨウ化メチルとアセトアルデヒドの濃縮物からアセトアルデヒドを高濃度に抽出できるとともに、抽出溶媒の導入部位とサイドカット部位との間を抽出域として利用するので、少量の抽出溶媒によりアセトアルデヒドを効率よく抽出できる。そのため、例えば、抽出蒸留による抽出液を蒸留塔(抽出蒸留塔)の塔底部から抜き取る方法と比較して蒸留塔の段数を大幅に低減できるとともに、蒸気負荷も低減できる。また、少量の抽出溶媒を用いて、上記図2の脱アルデヒド蒸留と水抽出とを組み合わせる方法よりも、水抽出液中のアセトアルデヒドに対するヨウ化メチルの割合(MeI/AD比)を小さくできるので、ヨウ化メチルの系外へのロスを抑制できる条件でアセトアルデヒドを除去可能である。前記側流中のアセトアルデヒド濃度は、前記仕込液及び缶出液(塔底液)中のアセトアルデヒド濃度よりも格段に高い。また、前記側流中のヨウ化メチルに対するアセトアルデヒドの割合は、仕込液及び缶出液中のヨウ化メチルに対するアセトアルデヒドの割合よりも大きい。なお、前記側流を分液させて得られる有機相(ヨウ化メチル相)をこの蒸留塔にリサイクルしてもよい。この場合、前記側流を分液させて得られる有機相のリサイクル位置は、塔の高さ方向において前記側流抜き取り位置よりも下方が好ましく、前記仕込液の供給位置よりも上方が好ましい。また、前記プロセス流を分液させて得られた有機相を構成する成分(例えば酢酸メチルなど)に対する混和性溶媒をこの蒸留塔(抽出蒸留塔)に導入してもよい。前記混和性溶媒として、例えば、酢酸、酢酸エチルなどが挙げられる。前記混和性溶媒の導入位置は、塔の高さ方向において、前記側流抜き取り位置よりも下方が好ましく、前記仕込液の供給位置よりも上方が好ましい。また、前記混和性溶媒の導入位置は、上記側流を分液させて得られる有機相をこの蒸留塔にリサイクル場合はそのリサイクル位置よりも下方が好ましい。前記側流を分液させて得られる有機相を蒸留塔へリサイクルしたり、前記混和性溶媒を蒸留塔へ導入することにより、側流として抜き取られる抽出液中の酢酸メチル濃度を低下させることができ、前記抽出液を分液させて得られる水相中の酢酸メチル濃度を低減でき、もって水相へのヨウ化メチルの混入を抑制できる。
前記蒸留塔(抽出蒸留塔)の理論段は、例えば1〜100段、好ましくは2〜50段、さらに好ましくは3〜30段、特に好ましくは5〜20段であり、従来の脱アセトアルデヒドに用いる蒸留塔や抽出蒸留塔の80〜100段と比較して、少ない段数で効率よくアセトアルデヒドを分離除去できる。抽出溶媒の流量と仕込液(プロセス流を分液させて得られた有機相及び/又は水相)の流量との質量割合(前者/後者)は、0.0001/100〜100/100の範囲から選択してもよいが、通常、0.0001/100〜20/100、好ましくは0.001/100〜10/100、より好ましくは0.01/100〜8/100、さらに好ましくは0.1/100〜5/100である。前記蒸留塔(抽出蒸留塔)の塔頂温度は、例えば、15〜120℃、好ましくは20〜90℃、より好ましくは20〜80℃、さらに好ましくは25〜70℃である。塔頂圧力は、絶対圧力で、例えば0.1〜0.5MPa程度である。前記蒸留塔(抽出蒸留塔)の他の条件は、従来の脱アセトアルデヒドに用いる蒸留塔や抽出蒸留塔と同様であってもよい。
図3は上記の抽出蒸留を利用したアセトアルデヒド分離除去システムの一例を示す概略フロー図である。この例では、前記プロセス流を分液させて得られた有機相及び/又は水相(仕込液)を供給ライン201を通じて蒸留塔94の中段(塔頂と塔底との間の位置)に供給するとともに、塔頂付近より水をライン202を通じて導入し、蒸留塔94(抽出蒸留塔)内で抽出蒸留を行う。蒸留塔94の前記仕込液の供給位置より上方には、塔内のヨウ化メチル及びアセトアルデヒドが濃縮される濃縮域から降下する液(抽出液)を受けるためのチムニートレイ200が配設されている。この抽出蒸留においては、チムニートレイ200上の液を好ましくは全量抜き取り、ライン208を通じてデカンタ95に導入して分液させる。デカンタ95における水相(アセトアルデヒドを含む)をライン212を通じて冷却クーラー95aに導入して冷却し、水相に溶解していたヨウ化メチルを2相分離させ、デカンタ96にて分液させる。デカンタ96における水相をライン216を通じて蒸留塔97(脱アセトアルデヒド塔)に供給して蒸留し、塔頂の蒸気をライン217を通じてコンデンサ97aに導いて凝縮させ、凝縮液(主にアセトアルデヒド及びヨウ化メチル)の一部は蒸留塔97の塔頂に還流させ、残りは廃棄するか、あるいはライン220を通じて蒸留塔98(抽出蒸留塔)に供給する。蒸留塔98の塔頂付近から水をライン222を通じて導入し、抽出蒸留する。塔頂の蒸気はライン223を通じてコンデンサ98aに導いて凝縮させ、凝縮液(主にヨウ化メチル)の一部は塔頂部に還流させ、残りはライン226を通じて反応系にリサイクルするが、系外除去する場合もある。デカンタ95における有機相(ヨウ化メチル相)は、好ましくは全量をライン209,210を通じて蒸留塔94のチムニートレイ200の位置より下方にリサイクルする。デカンタ95の水相の一部、及びデカンタ96の有機相は、それぞれ、ライン213,210、ライン214,210を通じて蒸留塔94にリサイクルするが、リサイクルしない場合もある。デカンタ95の水相の一部は蒸留塔94における抽出溶媒(水)として利用してもよい。デカンタ96の水相の一部はライン210を通じて蒸留塔94にリサイクルしてもよい。場合により(例えば、前記仕込液中に酢酸メチルが含まれている場合など)、前記プロセス流を分液させて得られた有機相を構成する成分(例えば酢酸メチルなど)に対する混和性溶媒(酢酸、酢酸エチル等)をライン215を通じて蒸留塔94に仕込み、蒸留効率を向上させることもできる。混和性溶媒の蒸留塔94への供給位置は前記仕込液供給部(ライン201の接続部)よりも上方で且つリサイクルライン210の接続部よりも下方である。蒸留塔94の缶出液は反応系にリサイクルする。蒸留塔94の塔頂の蒸気はライン203を通じてコンデンサ94aに導いて凝縮させ、凝縮液をデカンタ99で分液させ、有機相はライン206を通じて蒸留塔94の塔頂部に還流させ、水相はライン207を通じてデカンタ95に導く。蒸留塔97の缶出液(水が主成分)や蒸留塔98(抽出蒸留塔)の缶出液(少量のアセトアルデヒドを含む水)は、それぞれライン218,224を通じて系外除去するか、反応系にリサイクルする。コンデンサ94a、97a,98aで凝縮しなかったガス(ライン211,221,227)はスクラバーシステム8で吸収処理されるか、あるいは廃棄処分される。
図4は上記の抽出蒸留を利用したアセトアルデヒド分離除去システムの他の例を示す概略フロー図である。この例では、蒸留塔94の塔頂の蒸気の凝縮液をホールドタンク100に導き、その全量をライン206を通じて蒸留塔94の塔頂部に還流する。これ以外は図3の例と同様である。
図5は上記の抽出蒸留を利用したアセトアルデヒド分離除去システムのさらに他の例を示す概略フロー図である。この例では、チムニートレイ200上の液を全量抜き取り、ライン208を通じて、デカンタ95を経ることなく、直接冷却クーラー95aに導入して冷却し、デカンタ96に供給する。これ以外は図4の例と同様である。
前記図1において、コンデンサ3aで生じるガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド及びギ酸などを含み、コンデンサ3aからライン32,15を通じてスクラバーシステム8へと供給される。スクラバーシステム8に至ったガス分中のヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド及びギ酸などは、スクラバーシステム8にて吸収液に吸収される。ヨウ化水素は吸収液中のメタノールまたは酢酸メチルとの反応によってヨウ化メチルが生じる。そして、当該ヨウ化メチル等の有用成分を含有する液分がスクラバーシステム8からリサイクルライン48,23を通じて反応槽1へとリサイクルされて再利用される。
蒸留塔3の塔底部から抜き取られる缶出液は、酢酸よりも沸点の高い成分(高沸点成分)を蒸留塔3からの上記のオーバーヘッド流及び側流と比較して多く含み、例えば、プロピオン酸、並びに、飛沫同伴の上述の触媒や助触媒を含む。この缶出液には、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水なども含まれる。本実施形態では、このような缶出液の一部は、ライン25,26を通じて蒸発槽2へと連続的に導入されてリサイクルされ、缶出液の他の一部は、ライン25,23を通じて反応槽1へと連続的に導入されてリサイクルされる。
蒸留塔3から側流として連続的に抜き取られる第1酢酸流は、蒸留塔3に連続的に導入される蒸気流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第1酢酸流の酢酸濃度は前記蒸気流の酢酸濃度よりも高い。第1酢酸流の酢酸濃度は、例えば90〜99.9質量%、好ましくは93〜99質量%である。また、第1酢酸流は、酢酸に加えて、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸及びプロピオン酸などを含みうる。第1酢酸流において、ヨウ化メチル濃度は、例えば8質量%以下(例えば0.1〜8質量%)、好ましくは0.2〜5質量%、水濃度は、例えば8質量%以下(例えば0.1〜8質量%)、好ましくは0.2〜5質量%、酢酸メチル濃度は、例えば8質量%以下(例えば0.1〜8質量%)、好ましくは0.2〜5質量%である。なお、蒸留塔3に対するライン27の連結位置は、蒸留塔3の高さ方向において、図示されているように、蒸留塔3に対するライン21の連結位置より上方であってもよいが、蒸留塔3に対するライン21の連結位置より下方であってもよいし、蒸留塔3に対するライン21の連結位置と同じであってもよい。蒸留塔3からの第1酢酸流は、所定の流量で連続的に、ライン27を通じて次の蒸留塔5へと導入される。なお、蒸留塔3の側流として抜き取られる第1酢酸流や、蒸留塔3の塔底液あるいは蒸留塔3の塔底部の蒸気の凝縮液は、蒸留塔5(脱水工程)を経ずにそのまま後述する蒸留塔6に連続的に導入することもできる。
ライン27を通流する第1酢酸流に、ライン55(水酸化カリウム導入ライン)を通じて、水酸化カリウムを供給ないし添加することができる。水酸化カリウムは、例えば水溶液等の溶液として供給ないし添加できる。第1酢酸流に対する水酸化カリウムの供給ないし添加によって第1酢酸流中のヨウ化水素を減少できる。具体的には、ヨウ化水素は水酸化カリウムと反応してヨウ化カリウムと水が生じる。そのことによって、ヨウ化水素に起因する蒸留塔等の装置の腐食を低減できる。なお、水酸化カリウムは本プロセスにおいてヨウ化水素が存在する適宜な場所に供給ないし添加することができる。なお、プロセス中に添加された水酸化カリウムは酢酸とも反応して酢酸カリウムを生じさせる。
蒸留塔5は、第2蒸留工程を行うためのユニットであり、本実施形態ではいわゆる脱水塔に位置付けられる。第2蒸留工程は、蒸留塔5に連続的に導入される第1酢酸流を蒸留処理して酢酸を更に精製するための工程である。蒸留塔5においては、本発明で規定するように、ライン27を通じて供給される第1酢酸流を塔底温度165℃以下の条件で蒸留して精製酢酸を得ることが好ましい。蒸留塔5は、例えば、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。蒸留塔5として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.2〜3000である。第2蒸留工程にある蒸留塔5の内部において、塔頂圧力及び塔底圧力は、塔底温度が165℃以下となるよう、塔底液組成に応じて設定することが好ましい。塔頂圧力は、例えば0.10〜0.28MPaG、好ましくは0.15〜0.23MPaG、さらに好ましくは0.17〜0.21MPaGである。塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば0.13〜0.31MPaG、好ましくは0.18〜0.26MPaG、さらに好ましくは0.20〜0.24MPaGである。第2蒸留工程にある蒸留塔5の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での水の沸点より高く且つ酢酸の沸点より低い温度であって110〜160℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点以上の温度であって120〜165℃(好ましくは125〜160℃、さらに好ましくは130〜155℃)に設定される。
蒸留塔5の塔頂部からは、オーバーヘッド流としての蒸気がライン33に連続的に抜き取られる。蒸留塔5の塔底部からは、缶出液がライン34に連続的に抜き取られる。5bはリボイラーである。蒸留塔5における塔頂部と塔底部との間の高さ位置から、側流(液体または気体)がライン34に連続的に抜き取られてもよい。
蒸留塔5の塔頂部から抜き取られる蒸気は、酢酸よりも沸点の低い成分(低沸点成分)を蒸留塔5からの上記の缶出液と比較して多く含み、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド及びギ酸などを含む。このような蒸気は、ライン33を通じてコンデンサ5aへと連続的に導入される。
コンデンサ5aは、蒸留塔5からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、例えば水及び酢酸などを含む。凝縮分の一部は、コンデンサ5aからライン35を通じて蒸留塔5へと連続的に還流される。凝縮分の他の一部は、コンデンサ5aからライン35,36,23を通じて反応槽1へと連続的に導入され、リサイクルされる。また、コンデンサ5aで生じるガス分は、例えば一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド及びギ酸などを含み、コンデンサ5aからライン37,15を通じてスクラバーシステム8へと供給される。スクラバーシステム8に至ったガス分中のヨウ化水素は、スクラバーシステム8にて吸収液に吸収され、吸収液中のヨウ化水素とメタノールまたは酢酸メチルとの反応によってヨウ化メチルが生じ、そして、当該ヨウ化メチル等の有用成分を含有する液分がスクラバーシステム8からリサイクルライン48,23を通じて反応槽1へとリサイクルされて再利用される。
蒸留塔5の塔底部から抜き取られる缶出液(あるいは側流)は、酢酸よりも沸点の高い成分(高沸点成分)を蒸留塔5からの上記のオーバーヘッド流と比較して多く含み、例えば、プロピオン酸、酢酸カリウム(ライン27等に水酸化カリウムを供給した場合)、並びに、飛沫同伴の上述の触媒や助触媒などを含む。この缶出液には酢酸も含まれうる。このような缶出液は、ライン34を通じて、第2酢酸流をなして次の蒸留塔6に連続的に導入されることとなる。
第2酢酸流は、蒸留塔5に連続的に導入される第1酢酸流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第2酢酸流の酢酸濃度は第1酢酸流の酢酸濃度よりも高い。第2酢酸流の酢酸濃度は、第1酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて、例えば99.1〜99.99質量%である。また、第2酢酸流は、上記のように、酢酸に加えて、例えば、プロピオン酸、ヨウ化水素などを含みうる。本実施形態では、側流を抜き取る場合、蒸留塔5からの側流の抜き取り位置は、蒸留塔5の高さ方向において、蒸留塔5への第1酢酸流の導入位置よりも低い。
ライン34を通流する第2酢酸流に、ライン56(水酸化カリウム導入ライン)を通じて、水酸化カリウムを供給ないし添加することができる。水酸化カリウムは、例えば水溶液等の溶液として供給ないし添加できる。第2酢酸流に対する水酸化カリウムの供給ないし添加によって第2酢酸流中のヨウ化水素を減少できる。具体的には、ヨウ化水素は水酸化カリウムと反応してヨウ化カリウムと水が生じる。そのことによって、ヨウ化水素に起因する蒸留塔等の装置の腐食を低減できる。
蒸留塔6は、第3蒸留工程を行うためのユニットであり、本実施形態ではいわゆる脱高沸塔に位置付けられる。第3蒸留工程は、蒸留塔6に連続的に導入される第2酢酸流を精製処理して酢酸を更に精製するための工程である。蒸留塔6においては、本発明で規定するように、ライン34を通じて供給される第2酢酸流を塔底温度165℃以下の条件で蒸留して精製酢酸を得ることが好ましい。蒸留塔6は、例えば、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。蒸留塔6として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.2〜3000である。第3蒸留工程にある蒸留塔6の内部において、塔頂圧力及び塔底圧力は、塔底温度が165℃以下となるよう、塔底液組成に応じて設定することが好ましい。塔頂圧力は、例えば0.005〜0.24MPaG、好ましくは0.01〜0.22MPaG、さらに好ましくは0.02〜0.20MPaG、特に好ましくは0.04〜0.19MPaGである。塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば0.01MPaG以上0.255MPaG未満、好ましくは0.02〜0.24MPaG、さらに好ましくは0.03〜0.23MPaG、特に好ましくは0.05〜0.21MPaGである。第3蒸留工程にある蒸留塔6の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での水の沸点より高く且つ酢酸の沸点より低い温度であって50〜160℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点より高い温度であって70〜165℃(好ましくは120〜160℃、さらに好ましくは130〜155℃)に設定される。
蒸留塔6の塔頂部からは、オーバーヘッド流としての蒸気がライン38に連続的に抜き取られる。蒸留塔6の塔底部からは、缶出液がライン39に連続的に抜き取られる。6bはリボイラーである。蒸留塔6における塔頂部と塔底部との間の高さ位置からは、側流(液体または気体)がライン46に連続的に抜き取られる。蒸留塔6の高さ方向において、蒸留塔6に対するライン46の連結位置は、図示されているように、蒸留塔6に対するライン34の連結位置より上方であってもよいが、蒸留塔6に対するライン34の連結位置より下方であってもよいし、蒸留塔6に対するライン34の連結位置と同じであってもよい。
蒸留塔6の塔頂部から抜き取られる蒸気は、酢酸よりも沸点の低い成分(低沸点成分)を蒸留塔6からの上記の缶出液と比較して多く含み、酢酸のほか、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール及びギ酸などを含む。このような蒸気は、ライン38を通じてコンデンサ6aへと連続的に導入される。
コンデンサ6aは、蒸留塔6からの蒸気を、冷却して部分的に凝縮させることによって凝縮分とガス分とに分ける。凝縮分は、酢酸のほか、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、メタノール及びギ酸などを含む。凝縮分の少なくとも一部については、コンデンサ6aからライン40を通じて蒸留塔6へと連続的に還流される。凝縮分の一部(留出分)については、コンデンサ6aからライン40,41,42を通じて、蒸留塔5へと導入される前のライン27中の第1酢酸流へとリサイクルすることが可能である。これと共に或はこれに代えて、凝縮分の一部(留出分)については、コンデンサ6aからライン40,41,43を通じて、蒸留塔3へと導入される前のライン21中の蒸気流へとリサイクルすることが可能である。また、凝縮分の一部(留出分)については、コンデンサ6aからライン40,44,23を通じて、反応槽1へリサイクルしてもよい。さらに、コンデンサ6aからの留出分の一部については、前述したように、スクラバーシステム8へと供給して当該システム内で吸収液として使用することが可能である。スクラバーシステム8では、有用分を吸収した後のガス分は装置外に排出され、そして、有用成分を含む液分がスクラバーシステム8からリサイクルライン48,23を通じて反応槽1へと導入ないしリサイクルされて再利用される。加えて、コンデンサ6aからの留出分の一部については、装置内で稼働する各種ポンプ(図示略)へと図外のラインを通じて導いて当該ポンプのシール液として使用してもよい。更に加えて、コンデンサ6aからの留出分の一部については、ライン40に付設される抜き取りラインを通じて、定常的に装置外へ抜き取ってもよいし、非定常的に必要時において装置外へ抜き取ってもよい。凝縮分の一部(留出分)が蒸留塔6での蒸留処理系から除かれる場合、その留出分の量(留出量)は、コンデンサ6aで生ずる凝縮液の例えば0.01〜30質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.3〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。一方、コンデンサ6aで生じるガス分は、例えば、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、窒素、酸素、ヨウ化メチル、ヨウ化水素、水、酢酸メチル、酢酸、ジメチルエーテル、メタノール、アセトアルデヒド及びギ酸などを含み、コンデンサ6aからライン45,15を通じてスクラバーシステム8へと供給される。
蒸留塔6の塔底部からライン39を通じて抜き取られる缶出液は、酢酸よりも沸点の高い成分(高沸点成分)を蒸留塔6からの上記のオーバーヘッド流と比較して多く含み、例えば酢酸カリウム等の酢酸塩(ライン34等に水酸化カリウム等のアルカリを供給した場合)、無水酢酸、プロピオン酸などを含む。また、蒸留塔6の塔底部からライン39を通じて抜き取られる缶出液は、この酢酸製造装置の構成部材の内壁で生じて遊離した金属などの腐食金属等、及び腐食性ヨウ素に由来するヨウ素と当該腐食金属等との化合物も含む。このような缶出液は、本実施形態では酢酸製造装置外に排出される。
本発明では、蒸留塔の腐食抑制の観点から、蒸留塔6の塔底液中の酢酸塩、無水酢酸、プロピオン酸の濃度はそれぞれ少ないほど好ましい。蒸留塔6の塔底液中の酢酸塩濃度は、例えば1質量ppm〜34質量%、好ましくは100質量ppm〜25質量%、さらに好ましくは0.1〜20質量%(例えば1〜15質量%)である。蒸留塔6の塔底液中の無水酢酸濃度は、例えば1質量ppm〜91質量%、好ましくは10質量ppm〜74質量%、より好ましくは100質量ppm〜44質量%、さらに好ましくは0.1〜20質量%、特に好ましくは0.2〜10質量%(例えば0.5〜5質量%)である。蒸留塔6の塔底液中のプロピオン酸濃度は、例えば100質量ppm〜91質量%、好ましくは0.1〜75質量%、より好ましくは0.3〜55質量%、さらに好ましくは0.5〜29質量%、特に好ましくは1〜15質量%である。蒸留塔6の塔底液中の酢酸塩濃度は、例えば、前記ヨウ化水素の中和に用いるアルカリの添加量を減らすことにより低減できる。また、蒸留塔6の塔底液中の無水酢酸濃度は、例えば、蒸留塔6の上流に位置する配管や装置、あるいは蒸留塔6内に水を添加して、無水酢酸を加水分解することにより低減できる。蒸留塔6の塔底液中のプロピオン酸濃度は、例えば、反応条件を変えて反応槽でのプロピオン酸の副生を低減させたり、プロセス液の一部を反応系にリサイクルする際、プロピオン酸副生の原因となるアセトアルデヒドを当該プロセス液から分離除去した後に反応系にリサイクルしたり、蒸留塔6の上流にプロピオン酸を分離除去する蒸留塔又は蒸発器(脱プロピオン酸塔)を設けることにより低減できる。
蒸留塔6からライン46に連続的に抜き取られる側流は、第3酢酸流として、次のイオン交換樹脂塔7に連続的に導入されることとなる。この第3酢酸流は、蒸留塔6に連続的に導入される第2酢酸流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第3酢酸流の酢酸濃度は第2酢酸流の酢酸濃度よりも高い。第3酢酸流の酢酸濃度は、第2酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて、例えば99.8〜99.999質量%である。本実施形態では、蒸留塔6からの側流の抜き取り位置は、蒸留塔6の高さ方向において、蒸留塔6への第2酢酸流の導入位置よりも高い。他の実施形態では、蒸留塔6からの側流の抜き取り位置は、蒸留塔6の高さ方向において、蒸留塔6への第2酢酸流の導入位置と同じかそれよりも低い。なお、蒸留塔6は、単蒸留器(蒸発器)でも代用可能であり、また、蒸留塔5で不純物除去を十分に行えば、蒸留塔6は省略できる。
イオン交換樹脂塔7は、吸着除去工程を行うための精製ユニットである。この吸着除去工程は、イオン交換樹脂塔7に連続的に導入される第3酢酸流に微量含まれる主にヨウ化アルキル(ヨウ化ヘキシルやヨウ化デシルなど)を吸着除去して酢酸を更に精製するための工程である。イオン交換樹脂塔7においては、ヨウ化アルキルに対する吸着能を有するイオン交換樹脂が塔内に充填されてイオン交換樹脂床をなす。そのようなイオン交換樹脂としては、例えば、交換基たるスルホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基等における脱離性のプロトンの一部が銀や銅などの金属で置換された陽イオン交換樹脂を挙げることができる。吸着除去工程では、例えばこのようなイオン交換樹脂が充填されたイオン交換樹脂塔7の内部を第3酢酸流(液体)が通流し、その通流過程において、第3酢酸流中のヨウ化アルキル等の不純物がイオン交換樹脂に吸着されて第3酢酸流から除去される。吸着除去工程にあるイオン交換樹脂塔7において、内部温度は例えば18〜100℃であり、酢酸流の通液速度[樹脂容積1m3当たりの酢酸処理量(m3/h)]は、例えば3〜15m3/h・m3(樹脂容積)である。
イオン交換樹脂塔7の下端部からライン47へと第4酢酸流が連続的に導出される。第4酢酸流の酢酸濃度は第3酢酸流の酢酸濃度よりも高い。すなわち、第4酢酸流は、イオン交換樹脂塔7に連続的に導入される第3酢酸流よりも酢酸が富化されている。第4酢酸流の酢酸濃度は、第3酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて例えば99.9〜99.999質量%またはそれ以上である。本製造方法においては、この第4酢酸流を図外の製品タンクに貯留することができる。
この酢酸製造装置においては、イオン交換樹脂塔7からの上記の第4酢酸流を更に精製するための精製ユニットとして、蒸留塔であるいわゆる製品塔ないし仕上塔が設けられてもよい。このような製品塔においても、本発明で規定するように、ライン47を通じて供給される第4酢酸流を塔底温度165℃以下の条件で蒸留して精製酢酸を得ることが好ましい。そのような製品塔が設けられる場合、当該製品塔は、例えば、棚段塔及び充填塔などの精留塔よりなる。製品塔として棚段塔を採用する場合、その理論段は例えば5〜50段であり、還流比は理論段数に応じて例えば0.5〜3000である。精製工程にある製品塔の内部において、塔頂圧力及び塔底圧力は、塔底温度が165℃以下となるよう、塔底液組成に応じて設定することが好ましい。塔頂圧力は、例えば0.005〜0.24MPaG、好ましくは0.01〜0.22MPaG、さらに好ましくは0.02〜0.20MPaG、特に好ましくは0.04〜0.19MPaGである。塔底圧力は、塔頂圧力より高く、例えば0.01MPaG以上0.255MPaG未満、好ましくは0.02〜0.24MPaG、さらに好ましくは0.03〜0.23MPaG、特に好ましくは0.05〜0.21MPaGである。精製工程にある製品塔の内部において、塔頂温度は、例えば、設定塔頂圧力での水の沸点より高く且つ酢酸の沸点より低い温度であって50〜160℃に設定され、塔底温度は、例えば、設定塔底圧力での酢酸の沸点より高い温度であって70〜165℃(好ましくは120〜160℃、さらに好ましくは130〜155℃)に設定される。なお、製品塔ないし仕上塔は、単蒸留器(蒸発器)でも代用可能である。
製品塔を設ける場合、イオン交換樹脂塔7からの第4酢酸流(液体)の全部または一部が、製品塔に対して連続的に導入される。そのような製品塔の塔頂部からは、微量の低沸点成分(例えば、ヨウ化メチル、水、酢酸メチル、ジメチルエーテル、クロトンアルデヒド、アセトアルデヒド及びギ酸など)を含むオーバーヘッド流としての蒸気が連続的に抜き取られる。この蒸気は、所定のコンデンサにて凝縮分とガス分とに分けられる。凝縮分の一部は製品塔へと連続的に還流され、凝縮分の他の一部は反応槽1へとリサイクルされるか、系外に廃棄されるか、あるいはその両方であってもよく、ガス分はスクラバーシステム8へと供給される。製品塔の塔底部からは、微量の高沸点成分を含む缶出液が連続的に抜き取られ、この缶出液は、例えば蒸留塔6へ導入される前のライン34中の第2酢酸流へとリサイクルされる。製品塔における塔頂部と塔底部との間の高さ位置からは、側流(液体)が第5酢酸流として連続的に抜き取られる。製品塔からの側流の抜き取り位置は、製品塔の高さ方向において、例えば、製品塔への第4酢酸流の導入位置よりも低い。第5酢酸流は、製品塔に連続的に導入される第4酢酸流よりも酢酸が富化されている。すなわち、第5酢酸流の酢酸濃度は第4酢酸流の酢酸濃度よりも高い。第5酢酸流の酢酸濃度は、第4酢酸流の酢酸濃度より高い限りにおいて例えば99.9〜99.999質量%またはそれ以上である。この第5酢酸流は、例えば、図外の製品タンクに貯留される。なお、イオン交換樹脂塔7は、蒸留塔6の下流に設置する代わりに(又はそれに加えて)、製品塔の下流に設置し、製品塔出の酢酸流を処理してもよい。
本発明では、蒸留塔の腐食抑制の観点から、前記製品塔の塔底液中の酢酸塩、無水酢酸、プロピオン酸の濃度はそれぞれ少ないほど好ましい。製品塔の塔底液中の酢酸塩濃度は、例えば0.1質量ppb〜1質量%、好ましくは1質量ppb〜0.1質量%、さらに好ましくは10質量ppb〜0.01質量%(例えば100質量ppb〜0.001質量%)である。製品塔の塔底液中の無水酢酸濃度は、例えば0.1質量ppm〜60質量%、好ましくは1質量ppm〜10質量%、さらに好ましくは10質量ppm〜2質量%(例えば50質量ppm〜0.5質量%)であり、あるいは0.2〜10質量%(例えば0.5〜5質量%)であってもよい。製品塔の塔底液中のプロピオン酸濃度は、例えば1質量ppm〜10質量%、好ましくは10質量ppm〜5質量%、さらに好ましくは50質量ppm〜1質量%(例えば100質量ppm〜0.1質量%)である。製品塔の塔底液中の酢酸塩濃度は、例えば、前記ヨウ化水素の中和に用いるアルカリの添加量を減らすことにより低減できる。また、製品塔の塔底液中の無水酢酸濃度は、例えば、製品塔の上流に位置する配管や装置、あるいは製品塔内に水を添加して、無水酢酸を加水分解することにより低減できる。製品塔の塔底液中のプロピオン酸濃度は、例えば、反応条件を変えて反応槽でのプロピオン酸の副生を低減させたり、プロセス液の一部を反応系にリサイクルする際、プロピオン酸副生の原因となるアセトアルデヒドを当該プロセス液から分離除去した後に反応系にリサイクルしたり、製品塔の上流にプロピオン酸を分離除去する蒸留塔又は蒸発器(脱プロピオン酸塔)を設けることにより低減できる。
上記の実施形態において、蒸留塔5、蒸留塔6及び前記製品塔のうち、例えば、蒸留塔5の塔底温度を165℃以下(例えば165℃未満)に設定してもよく、蒸留塔6の塔底温度を165℃以下(例えば165℃未満)に設定してもよく、前記製品塔の塔底温度を165℃以下(例えば165℃未満)に設定してもよく、蒸留塔5及び蒸留塔6の塔底温度を165℃以下(例えば165℃未満)に設定してもよく、蒸留塔6及び前記製品塔の塔底温度を165℃以下(例えば165℃未満)に設定してもよく、蒸留塔5、蒸留塔6及び前記製品塔の3つの蒸留塔全ての塔底温度を165℃以下(例えば165℃未満)に設定してもよい。前記の塔底温度は、それぞれ、好ましくは160℃以下、さらに好ましくは155℃以下、特に好ましくは150℃以下(例えば140℃以下)である。なお、前記のように、蒸留塔6や前記製品塔(特に後者)は具備しなくてもよい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例3は参考例として記載するものである。
比較例1
ジルコニウム製オートクレーブ1000mlに、プロピオン酸459g、酢酸46g入れ、ジルコニウム(Zr)、ニッケル基合金であるハステロイB2(小田鋼機社製、「HB2」)、ニッケル基合金であるハステロイC(小田鋼機社製、「HC276」)、ステンレス鋼であるSUS316(ウメトク社製、「SUS316」)の各種材質のテストピース(サイズ:36mm×25mm×2.5mm)をオートクレーブ内にセットして蓋を閉め、オートクレーブ内の液を窒素でバブリングして液中に溶解している酸素を置換した後、窒素で大気圧を1MPaGまで昇圧後、大気圧まで減圧する操作を3回実施後、窒素ガスを4MPaGまで張り込み、大気圧まで放圧した。その後、オートクレーブ内の液温が165℃となるようにオイルバスでオートクレーブを加熱した。加熱後の定常圧力は131kPaGで推移した。定常条件で500時間経過後、室温まで冷却し、放圧後、テストピースを取り出して重量測定により腐食速度を計算し、局部腐食の有無を外観検査で判定した。仕込組成、腐食テストの条件及びその結果を表1、表2に示す。圧力の単位において「G」はゲージ圧を示す。
比較例2
仕込組成を酢酸100%に変えた以外は、比較例1と同様の方法にて腐食テストを行った。仕込組成、腐食テストの条件及びその結果を表1、2に示す。
実施例1〜15
仕込組成と温度を変更した以外は、比較例1と同様の方法にて腐食テストを行った。仕込組成、腐食テストの条件及びその結果を表1、2に示す。
なお、比較例、実施例全てにおいて、テストピースの部分腐食などはなく、全体的な均一腐食のみが見受けられた。表2において、単位「mm/Y」とは一年間あたりのテストピースの腐食速度(厚みの減肉量)をmmに換算したものを意味する。
[結果の考察]
比較例、実施例を通して、ジルコニウム(Zr)は全て完全耐食を示した。
比較例1、2の結果より、温度165℃を超える温度では、HB2以上、Zrなどの耐久材質しか使用できないレベルの腐食速度となった。実施例1〜15より、HB2は全てにおいて良好な耐食性を示した。また、HC276もHB2ほどではないが、使用に十分な耐食性を示し、165℃では条件によっては使用可能であり、160℃では使用可能なレベルである。SUS316は実施例5〜15の155℃以下の条件で使用可能であり、160℃では条件によっては使用可能であり、165℃を超える温度では使用不可能であった。全条件を通し、比較例2、実施例2、6、10、14の純酢酸のみの同じ温度での腐食データと比較した場合、実施例3、7、11の酢酸カリウムが混入した組成では、若干腐食性は悪くなる傾向となるが、それよりも、温度による腐食への影響が顕著であることがわかる。実施例4、8、12の無水酢酸が混入した組成では、純酢酸データよりも、若干腐食速度への影響がある。比較例1、実施例1、5、9、13のプロピオン酸が混入した組成は、純酢酸と同等レベルであった。
比較例2、実施例2、6、10、14以外は、全て同じ圧力90kPa程度での沸点となる条件である。同じ操作圧力下では、純酢酸に対し、沸点が上昇する酢酸カリウム、無水酢酸、プロピオン酸の濃度が低いほど腐食速度は低下する。また、純酢酸であっても、圧力が上昇し沸点が上昇すると腐食は増加することから、高沸点不純物の濃度管理のみならず、運転圧力管理を組み合わせることで、適切で経済的な耐腐食性材質での運転が可能となる。また、同じ温度であっても、混入する不純物によって腐食速度に若干の違いがあることも分かった。よって、圧力管理による温度管理のみならず、不純物濃度自体の管理を行うことで、腐食速度を低下させてより低級材質の設備設計が可能である。
運転圧力は低ければ低いほど運転温度が低下し、腐食性は低下するが、ガス密度が低下することで蒸留塔などの塔径が大きくなるため経済的ではなくなる。よって、経済性の観点から運転圧力の下限を設けることが好ましい。
なお、一般的にはZr>HB2>HC276>SUSの順で価格は低下し、耐腐食性もこの順で低下する。腐食速度と材質選定の目安は以下の通りである。下記はあくまで目安であり、材質の初期肉厚や更新頻度により左右する。
0.05mm/Y未満 :使用に適している
0.05〜0.1mm/Y :使用可能なレベルである
0.1mm/Y〜0.2mm/Y :条件によっては使用可能である
0.2mm/Y超 :使用には適さない
以上のまとめとして、本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記しておく。
[1]酢酸と酢酸よりも高沸点の不純物を含む粗酢酸液を蒸留して酢酸を精製する工程を含む酢酸の製造方法であって、前記粗酢酸液の蒸留を蒸留塔の塔底温度165℃以下(好ましくは155℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下)の条件で行うことを特徴とする酢酸の製造方法。
[2]前記粗酢酸液中の酢酸濃度が90質量%以上(例えば95質量%以上、好ましくは97質量%以上、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上)である[1]記載の酢酸の製造方法。
[3]前記酢酸よりも高沸点の不純物が、酢酸塩、無水酢酸及びプロピオン酸からなる群より選択された少なくとも1つの化合物を含む[1]又は[2]に記載の酢酸の製造方法。
[4]前記蒸留塔の塔底液の酢酸塩濃度が34質量%以下(好ましくは23質量%以下、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは1質量%以下)である[1]〜[3]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[5]前記蒸留塔の塔底液の無水酢酸濃度が90質量%以下(好ましくは74質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは1質量%以下)である[1]〜[4]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[6]前記蒸留塔の塔底液のプロピオン酸濃度が90質量%以下(好ましくは75質量%以下、より好ましくは55質量%以下、さらに好ましくは29質量%以下、特に好ましくは10質量%以下、とりわけ1質量%以下)である[1]〜[5]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[7]前記蒸留塔の塔底圧力0.255MPaG未満(好ましくは0.24MPaG以下、さらに好ましくは0.23MPaG以下、特に好ましくは0.21MPaG以下)の条件で蒸留を行う[1]〜[6]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[8]前記蒸留塔の塔底圧力0.01MPaG以上(好ましくは0.02MPaG以上、さらに好ましくは0.03MPaG以上、特に好ましくは0.05MPaG以上)の条件で蒸留を行う[7]記載の酢酸の製造方法。
[9]前記蒸留塔の塔底圧力0.01MPaG以上0.255MPaG未満の条件で蒸留を行う[1]〜[8]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[10]メタノールと一酸化炭素とを反応させて酢酸を生成させるカルボニル化反応工程、前記カルボニル化反応工程で得られた反応混合物を蒸気流と残液流とに分離する蒸発工程、前記蒸気流を蒸留に付して低沸成分に富むオーバーヘッド流と酢酸に富む酢酸流(第1酢酸流)とに分離する脱低沸工程、及び前記酢酸流を蒸留して酢酸を精製する酢酸蒸留工程を含み、前記酢酸蒸留工程が、前記粗酢酸液の蒸留を蒸留塔の塔底温度165℃以下の条件で行う工程を少なくとも1つ有している[1]〜[9]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[11]前記第1酢酸流に、水酸化カリウム導入ラインを介して、水酸化カリウムを供給ないし添加する[10]記載の酢酸の製造方法。
[12]前記酢酸蒸留工程が、蒸留に付す前記粗酢酸液中の酢酸濃度が97質量%以上である蒸留工程を少なくとも1つ有しており、そのような工程全てにおいて、前記粗酢酸液の蒸留を蒸留塔の塔底温度165℃以下(好ましくは155℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下)の条件で行う[10]又は[11]に記載の酢酸の製造方法。
[13]前記酢酸蒸留工程が、前記第1酢酸流を蒸留して、前記第1酢酸流よりも酢酸が富化されている第2酢酸流と、酢酸よりも沸点の低い成分を前記第2酢酸流と比較して多く含むオーバーヘッド流の蒸気とに分離する脱水工程を含む[10]〜[12]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[14]前記第1酢酸流の蒸留を蒸留塔の塔底温度165℃以下(好ましくは155℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下)の条件で行う[13]記載の酢酸の製造方法。
[15]前記第2酢酸流に、水酸化カリウム導入ラインを介して、水酸化カリウムを供給ないし添加する[13]又は[14]に記載の酢酸の製造方法。
[16]前記酢酸蒸留工程が、前記第2酢酸流を蒸留して、酢酸よりも沸点の低い成分を缶出液と比較して多く含むオーバーヘッド流としての蒸気と、酢酸よりも沸点の高い成分をオーバーヘッド流と比較して多く含む缶出液と、前記第2酢酸流よりも酢酸が富化されている第3酢酸流とに分離する脱高沸工程を含む[13]〜[15]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[17]前記第2酢酸流の蒸留を蒸留塔の塔底温度165℃以下(好ましくは155℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下)の条件で行う[16]記載の酢酸の製造方法。
[18]前記脱高沸工程における前記蒸留塔の塔底液中の酢酸塩濃度が1質量ppm〜34質量%(好ましくは100質量ppm〜25質量%、さらに好ましくは0.1〜20質量%(例えば1〜15質量%))である[17]記載の酢酸の製造方法。
[19]前記脱高沸工程における前記蒸留塔の塔底液中の酢酸塩濃度を、ヨウ化水素の中和に用いるアルカリの添加量を減らすことにより低減する[18]記載の酢酸の製造方法。
[20]前記脱高沸工程における前記蒸留塔の塔底液中の無水酢酸濃度が1質量ppm〜91質量%(好ましくは10質量ppm〜74質量%、より好ましくは100質量ppm〜44質量%、さらに好ましくは0.1〜20質量%、特に好ましくは0.2〜10質量%(例えば0.5〜5質量%))である[17]〜[19]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[21]前記脱高沸工程における前記蒸留塔の塔底液中の無水酢酸濃度を、前記蒸留塔の上流に位置する配管や装置あるいは前記蒸留塔内に水を添加して、無水酢酸を加水分解することにより低減する[20]記載の酢酸の製造方法。
[22]前記脱高沸工程における前記蒸留塔の塔底液中のプロピオン酸濃度が100質量ppm〜91質量%(好ましくは0.1〜75質量%、より好ましくは0.3〜55質量%、さらに好ましくは0.5〜29質量%、特に好ましくは1〜15質量%)である[17]〜[21]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[23]前記脱高沸工程における前記蒸留塔の塔底液中のプロピオン酸濃度を、反応条件を変えて反応槽でのプロピオン酸の副生を低減させること、プロセス液の一部を反応系にリサイクルする際プロピオン酸副生の原因となるアセトアルデヒドを当該プロセス液から分離除去した後に反応系にリサイクルすること、及び前記蒸留塔の上流にプロピオン酸を分離除去する蒸留塔又は蒸発器を設けること、からなる群より選択される1以上の方法により低減する[22]記載の酢酸の製造方法。
[24]さらに、前記第3酢酸流をイオン交換樹脂塔に導入し、前記第3酢酸流中のヨウ化アルキルを吸着除去して第4酢酸流を得るイオン交換樹脂処理工程を含む[16]〜[23]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[25]さらに、前記第4酢酸流を蒸留塔である製品塔の塔底温度165℃以下の条件で蒸留して精製酢酸を得る工程を含む[24]記載の酢酸の製造方法。
[26]前記製品塔の塔底液中の酢酸塩濃度が0.1質量ppb〜1質量%(好ましくは1質量ppb〜0.1質量%、さらに好ましくは10質量ppb〜0.01質量%(例えば100質量ppb〜0.001質量%))である[25]記載の酢酸の製造方法。
[27]前記製品塔の塔底液中の酢酸塩濃度を、ヨウ化水素の中和に用いるアルカリの添加量を減らすことにより低減する[26]記載の酢酸の製造方法。
[28]前記製品塔の塔底液中の無水酢酸濃度が0.1質量ppm〜60質量%(好ましくは1質量ppm〜10質量%、さらに好ましくは10質量ppm〜2質量%(例えば50質量ppm〜0.5質量%)である[25]〜[27]のいずれか1つ記載の酢酸の製造方法。
[29]前記製品塔の塔底液中の無水酢酸濃度が0.2〜10質量%(例えば0.5〜5質量%)である[25]〜[27]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[30]前記製品塔の塔底液中の無水酢酸濃度を、製品塔の上流に位置する配管や装置あるいは製品塔内に水を添加して、無水酢酸を加水分解することにより低減する[28]又は[29]に記載の酢酸の製造方法。
[31]前記製品塔の塔底液中のプロピオン酸濃度が1質量ppm〜10質量%(好ましくは10質量ppm〜5質量%、さらに好ましくは50質量ppm〜1質量%(例えば100質量ppm〜0.1質量%))である[25]〜[30]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[32]前記製品塔の塔底液中のプロピオン酸濃度を、反応条件を変えて反応槽でのプロピオン酸の副生を低減させること、プロセス液の一部を反応系にリサイクルする際プロピオン酸副生の原因となるアセトアルデヒドを当該プロセス液から分離除去した後に反応系にリサイクルすること、及び前記製品塔の上流にプロピオン酸を分離除去する蒸留塔又は蒸発器を設けること、からなる群より選択される1以上の方法により低減する[31]記載の酢酸の製造方法。
[33]前記蒸留塔の材質がニッケル基合金、ステンレス鋼、アルミニウム及びチタンからなる群より選択された少なくとも1種である[1]〜[32]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。
[34]前記蒸留塔の塔底液の酢酸塩濃度が34質量%以下、無水酢酸濃度が90質量%以下、プロピオン酸濃度が90質量%以下であり、前記蒸留塔の塔底圧力が0.255MPa未満であり、且つ前記蒸留塔の材質がニッケル基合金、ステンレス鋼、アルミニウム及びチタンからなる群より選択された少なくとも1種であり、塔底温度は165℃未満である[1]〜[33]のいずれか1つに記載の酢酸の製造方法。