本発明の一側面は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒、ならびに高分子電解質を含む燃料電池用電極触媒層であって、前記触媒担体のBET比表面積が1000(m2/g担体)超であり、前記高分子電解質がスルホン酸基を含み、前記スルホン酸基の密度が0.26(mmol/cc触媒層)以上である、燃料電池用電極触媒層に関する。なお、本明細書では、「燃料電池用電極触媒層」を「電極触媒層」または「触媒層」とも、「触媒担体」を「担体」とも、また、「触媒」を「電極触媒」とも称する。「/g担体」は、「担体1g当たり」を意味する。「/cc触媒層」は、「触媒層の単位体積(1cm3)当たり」を意味する。
本発明にかかる燃料電池用電極触媒層によれば、低湿度環境下(例えば、40%RH)において優れた発電性能を得ることができる。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、これは、以下のメカニズムによるものと推測される。
本発明者らは、触媒および高分子電解質(アイオノマー)を含む燃料電池用電極触媒層において、触媒が電解質と接触しない場合であっても、水により三相界面を形成することによって、触媒を有効に利用できることを見出した。したがって、多孔質で比表面積の大きな触媒担体を電極触媒に用いることにより、電解質が進入できない比較的大きな空孔に触媒金属を収納し、酸素等のガスに比して触媒表面に吸着し易い電解質が触媒金属と接触することを抑えることができる。これにより触媒表面の反応活性面積が減少することを防止し、さらに、水により三相界面を形成することによって、触媒を有効に利用できることを見出した。特許文献1に記載の触媒では、さらに、比較的小さい空孔が大容積で存在する触媒担体を用いることでガスの輸送パスを確保し、ガス輸送性を向上させている。なお、本明細書中では、半径が1nm未満の空孔を「ミクロ孔」とも称する。また、本明細書中では、半径1nm以上の空孔を「メソ孔」とも称する。
一方、特許文献1に記載のような比表面積が大きい触媒担体を電極触媒に用いた場合であっても、低湿度環境下(例えば、40%RH)において十分な発電性能が得られないときがあるという課題を本発明者らは見出した。これに対し、本発明者らは鋭意研究を行ったところ、燃料電池用電極触媒層のスルホン酸基密度を所定値以上とすることにより上記課題が解決できることを見出した。本発明者らは、この理由を以下のように推測した。すなわち、メソ孔内部に触媒金属が担持された場合、上記のように、ガス(酸素等)/水/触媒金属、の三相界面により触媒反応が進行すると考えられる。しかしながら、低湿度環境下(例えば、40%RH)では三相界面反応においてプロトン輸送に必要な水が不足してメソ孔内部に担持された触媒金属が十分有効に利用されず、触媒金属の有効表面積が低下すると推測した。しかしながら、上記のように電池用電極触媒層がスルホン酸基を高密度で有すると、低湿度環境下であってもスルホン酸基由来のプロトン濃度を高くすることができると考えられる。さらに、高密度のスルホン酸基の存在により、電池用電極触媒層の親水性が高くなり、触媒層内の含水率を向上できると考えられる。以上の理由により、スルホン酸基密度が所定値以上である電池用電極触媒層を用いることにより、低湿度環境下であってもメソ孔内の触媒金属による反応が進行するのに十分な水が確保され、三相界面反応が効率的に進行し、高い発電性能が得られるものと推測される。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の触媒層の一実施形態、その製造方法、並びにこれを使用した膜電極接合体(MEA)、燃料電池および車両の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。本形態の燃料電池は、耐久性に優れ、かつ高い発電性能を発揮できる。
図1は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体(CCM)はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
なお、図1に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
上記のような、本発明のMEAを有する燃料電池は、優れた発電性能を発揮する。ここで、燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられることが特に好ましい。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
また、燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。本発明の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、本発明の燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。
以下、本形態の燃料電池を構成する部材について簡単に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
[触媒(電極触媒)]
本発明かかる燃料電池用電極触媒層は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒、ならびに高分子電解質を含む。触媒担体はBET比表面積が1000(m2/g担体)超であれば特に制限されないが、好ましくは、後述のように半径1nm以上の空孔(メソ孔)を有する。より好ましくは、触媒担体は半径が1nm未満の空孔(ミクロ孔)を有する。
(触媒金属担持後の)触媒のBET比表面積[担体1gあたりの触媒のBET比表面積(m2/g担体)]は、実質的に担体のBET比表面積と同等である。(触媒金属担持後の)触媒のBET比表面積は、特に制限されないが、好ましくは1000m2/g担体超であり、より好ましくは1000m2/g担体超3000m2/g担体以下であり、特に好ましくは1100〜1800m2/g担体である。上記したような比表面積であれば、十分なメソ孔及びミクロ孔を確保できるため、ガス輸送を行うのに十分なミクロ孔(より低いガス輸送抵抗)を確保しつつ、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)した触媒となる。また、かような触媒であれば、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離すことができる(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。加えて、ミクロ孔がガスの輸送パスとして作用して、水により三相界面をより顕著に形成して、触媒活性をより向上できる。
なお、本明細書において、触媒および触媒担体の「BET比表面積(m2/g担体)」は、窒素吸着法により測定される。詳細には、試料 約0.04〜0.07gを精秤し、試料管に封入する。この試料管を真空乾燥器で90℃×数時間予備乾燥し、測定用サンプルとする。秤量には、島津製作所株式会社製電子天秤(AW220)を用いる。なお、塗布シートの場合には、これの全重量から、同面積のテフロン(登録商標)(基材)重量を差し引いた塗布層の正味の重量約0.03〜0.04gを試料重量として用いる。次に、下記測定条件にて、BET比表面積を測定する。吸着・脱着等温線の吸着側において、相対圧(P/P0)約0.00〜0.45の範囲から、BETプロットを作成することで、その傾きと切片からBET比表面積を算出する。
触媒は、触媒の粒子の表面または空孔の表面に酸性基を有することが好ましい。本発明の一実施形態では、触媒の酸性基の量が0.2(mmol/g担体)以上である燃料電池用電極触媒層が提供される。該酸性基は、電離してプロトンを放出しうる官能基であれば特に制限されないが、ヒドロキシル基、ラクトン基、およびカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。担体がカーボンを含む場合、酸性基は、好ましくはヒドロキシル基、ラクトン基、またはカルボキシル基を含み、担体が金属酸化物を含む場合、酸性基は、好ましくはヒドロキシル基を含む。このような酸性基は親水性基であり、触媒表面を親水性にすることができ、電極触媒層の含水性をより向上し得る。
触媒の担体当たりの酸性基量は、好ましくは0.25mmol/g担体以上であり、より好ましくは0.3mmol/g担体以上である。なお、酸性基の量の上限値は特に制限されないが、カーボン耐久性の観点から、3.0mmol/g担体以下であることが好ましく、2.5mmol/g担体以下であることがより好ましい。
当該酸性基の量は、アルカリ化合物を用いた滴定法により測定することができ、具体的には、以下の方法により測定することができる。
(酸性基量の測定)
まず、2.5gの酸性基を有する触媒粉末を1Lの温純水にて洗浄、乾燥する。乾燥後、酸性基を有する触媒に含まれるカーボン量が0.25gとなるよう計量し、55mlの水と10分間攪拌後、2分間超音波分散を行う。次に、この触媒分散液を窒素ガスにてパージしたグローブボックスへ移動させ、窒素ガスを10分間バブリングする。そして、触媒分散液に0.1Mの塩基水溶液を過剰に投入し、この塩基性溶液に対して0.1Mの塩酸にて中和滴定を行ない、中和点から官能基量を定量する。ここで、塩基水溶液は、NaOH、Na2CO3、NaHCO3の3種類を用い、それぞれについて中和滴定作業を行う。これは使用する塩基毎に中和される官能基の種類が異なるからであり、NaOHの場合はカルボキシル基、ラクトン基、ヒドロキシル基と、Na2CO3の場合はカルボキシル基、ラクトン基と、NaHCO3の場合はカルボキシル基と中和反応するからである。そして、これら滴定で投入した3種類の塩基種類と量、および消費した塩酸量の結果により、酸性基の量を算出する。尚、中和点の確認には、pHメーターを使用し、NaOHの場合はpH7.0、Na2CO3の場合はpH8.5、NaHCO3の場合はpH4.5を中和点とする。これにより、触媒に付加しているカルボキシル基、ラクトン基、およびヒドロキシル基の総量を求める。
燃料電池用電極触媒層の触媒は、下記(a)〜(c):
(a)触媒は半径が1nm未満の空孔および半径1nm以上の空孔を有し、前記半径が1nm未満の空孔の空孔容積は0.3cc/g担体以上であり、かつ触媒金属は前記半径1nm以上の空孔の内部に担持されている;
(b)触媒は半径が1nm以上5nm未満の空孔を有し、該空孔の空孔容積は0.8cc/g担体以上であり、かつ触媒金属の比表面積は60m2/g担体以下である;
(c)触媒は半径が1nm未満の空孔および半径1nm以上の空孔を有し、前記半径が1nm未満の空孔の空孔分布のモード半径が0.3nm以上1nm未満であり、かつ触媒金属は前記半径1nm以上の空孔の内部に担持されている、
の少なくとも一を満たすことが好ましい。なお、本明細書では、上記(a)を満たす触媒を「触媒(a)」と、上記(b)を満たす触媒を「触媒(b)」と、上記(c)を満たす触媒を「触媒(c)」と、も称する。
以下、上記好ましい形態である触媒(a)〜(c)について詳述する。
(触媒(a)および(c))
触媒(a)は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなり、下記構成(a−1)〜(a−3)を満たす:
(a−1)前記触媒は半径が1nm未満の空孔(一次空孔)および半径1nm以上の空孔(一次空孔)を有する;
(a−2)前記半径が1nm未満の空孔の空孔容積は0.3cc/g担体以上である;および
(a−3)前記触媒金属は前記半径1nm以上の空孔の内部に担持されている。
また、触媒(c)は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなり、下記構成(a−1)、(c−1)および(a−3)を満たす:
(a−1)前記触媒は半径が1nm未満の空孔および半径1nm以上の空孔を有する;
(c−1)前記半径が1nm未満の空孔の空孔分布のモード半径が0.3nm以上1nm未満である;および
(a−3)前記触媒金属は前記半径1nm以上の空孔の内部に担持されている。
上述したように、本発明者らは、触媒金属が電解質と接触しない場合であっても、水により三相界面を形成することによって、触媒金属を有効に利用できることを見出した。このため、上記触媒(a)及び(c)について、上記(a−3)触媒金属を電解質が進入できないメソ孔内部に担持する構成をとることによって、触媒活性を向上できる。一方、触媒金属を電解質が進入できないメソ孔内部に担持する場合には、酸素等のガスの輸送距離が増大してガス輸送性が低下するため、十分な触媒活性を引き出せずに、高負荷条件では触媒性能が低下してしまう。これに対して、上記(a−2)電解質や触媒金属がほとんどまたは全く進入できないミクロ孔の空孔容積を十分確保するまたは上記(c−1)ミクロ孔のモード径を大きく設定することによって、ガスの輸送パスを十分確保できる。ゆえに、メソ孔内の触媒金属に酸素等のガスを効率よく輸送できる、すなわち、ガス輸送抵抗を低減できる。当該構成により、ガス(例えば、酸素)がミクロ孔内を通過して(ガス輸送性が向上して)、ガスを効率よく、触媒金属と接触させることができる。したがって、触媒(a)及び(c)を触媒層に使用する場合には、ミクロ孔が大容積で存在するため、メソ孔に存在する触媒金属の表面に当該ミクロ孔(パス)を介して反応ガスを輸送できるため、ガス輸送抵抗をより低減できる。ゆえに、触媒(a)及び(c)を含む触媒層は、より高い触媒活性を発揮できる、すなわち、触媒反応をより促進できる。このため、触媒(a)及び(c)を用いた触媒層を有する膜電極接合体および燃料電池は、発電性能をさらに向上できる。
図2は、触媒(a)及び(c)の形状・構造を示す概略断面説明図である。図2に示されるように、触媒(a)及び(c)20は、触媒金属22および触媒担体23からなる。また、触媒20は、半径が1nm未満の空孔(ミクロ孔)25および半径1nm以上の空孔(メソ孔)24を有する。ここで、触媒金属22は、メソ孔24の内部に担持される。また、触媒金属22は、少なくとも一部がメソ孔24の内部に担持されていればよく、一部が触媒担体23表面にされていてもよい。しかし、触媒層での電解質と触媒金属の接触を防ぐという観点からは、実質的にすべての触媒金属22がメソ孔24の内部に担持されることが好ましい。ここで、「実質的にすべての触媒金属」とは、十分な触媒活性を向上できる量であれば特に制限されない。「実質的にすべての触媒金属」は、全触媒金属において、好ましくは50重量%以上(上限:100重量%)、より好ましくは80重量%以上(上限:100重量%)の量で存在する。
本明細書において、「触媒金属がメソ孔の内部に担持される」ことは、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用いて確認できる。
また、(触媒金属担持後の触媒の)半径1nm未満の空孔(ミクロ孔)の空孔容積は0.3cc/g担体以上であるおよび/または(触媒金属担持後の触媒の)ミクロ孔の空孔分布のモード半径(最頻度径)が0.3nm以上1nm未満である。好ましくは、ミクロ孔の空孔容積は0.3cc/g担体以上でありかつミクロ孔の空孔分布のモード半径が0.3nm以上1nm未満である。ミクロ孔の空孔容積および/またはモード径が上記したような範囲にあれば、ガス輸送を行うのに十分なミクロ孔が確保でき、ガス輸送抵抗が小さい。このため、当該ミクロ孔(パス)を介して十分量のガスをメソ孔に存在する触媒金属の表面に輸送できるため、高い触媒活性を発揮できる、即ち、触媒反応を促進できる。また、ミクロ孔内には電解質(アイオノマー)や液体(例えば、水)が侵入できず、ガスのみを選択的に通す(ガス輸送抵抗を低減できる)。ガス輸送性の向上効果を考慮すると、より好ましくは、ミクロ孔の空孔容積は、0.3〜2cc/g担体であり、0.4〜1.5cc/g担体であることが特に好ましい。また、より好ましくは、ミクロ孔の空孔分布のモード半径は、0.4〜1nmであり、0.4〜0.8nmであることが特に好ましい。なお、本明細書では、半径1nm未満の空孔の空孔容積を単に「ミクロ孔の空孔容積」とも称する。同様にして、本明細書では、ミクロ孔の空孔分布のモード半径を単に「ミクロ孔のモード径」とも称する。
触媒(a)または(c)における半径1nm以上5nm未満の空孔(メソ孔)の空孔容積は、特に制限されないが、0.4cc/g担体以上、より好ましくは0.4〜3cc/g担体であり、特に好ましくは0.4〜1.5cc/g担体である。空孔容積が上記したような範囲にあれば、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くのメソ孔の存在により、触媒反応をより効果的に促進できる。加えて、ミクロ孔がガスの輸送パスとして作用して、水により三相界面をより顕著に形成して、触媒活性をより向上できる。なお、本明細書では、半径1nm以上の空孔の空孔容積を単に「メソ孔の空孔容積」とも称する。
触媒(a)または(c)における半径1nm以上の空孔(メソ孔)の空孔分布のモード半径(最頻度径)は、特に制限されないが、1〜5nm、より好ましくは1〜4nmであり、特に好ましくは1〜3nmであることが好ましい。上記したようなメソ孔の空孔分布のモード径であれば、メソ孔内により十分量の触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、大容積のメソ孔の存在により、触媒反応をより効果的に促進できる。加えて、ミクロ孔がガスの輸送パスとして作用して、水により三相界面をより顕著に形成して、触媒活性をより向上できる。なお、本明細書では、メソ孔の空孔分布のモード半径を単に「メソ孔のモード径」とも称する。
本明細書において、「ミクロ孔の空孔の半径(nm)」は、窒素吸着法(MP法)により測定される空孔の半径を意味する。また、「ミクロ孔の空孔分布のモード半径(nm)」は、窒素吸着法(MP法)により得られる微分細孔分布曲線においてピーク値(最大頻度)をとる点の空孔半径を意味する。ここで、ミクロ孔の空孔半径の下限は、窒素吸着法により測定可能な下限値、すなわち、0.42nm以上である。同様にして、「メソ孔の空孔の半径(nm)」は、窒素吸着法(DH法)により測定される空孔の半径を意味する。また、「メソ孔の空孔分布のモード半径(nm)」は、窒素吸着法(DH法)により得られる微分細孔分布曲線においてピーク値(最大頻度)をとる点の空孔半径を意味する。ここで、メソ孔の空孔半径の上限は、特に制限されないが、5nm以下である。
本明細書において、「ミクロ孔の空孔容積」は、触媒に存在する半径1nm未満のミクロ孔の総容積を意味し、担体1gあたりの容積(cc/g担体)で表される。「ミクロ孔の空孔容積(cc/g担体)」は、窒素吸着法(MP法)によって求めた微分細孔分布曲線の下部の面積(積分値)として算出される。同様にして、「メソ孔の空孔容積」は、触媒に存在する半径1nm以上5nm未満のメソ孔の総容積を意味し、担体1gあたりの容積(cc/g担体)で表される。「メソ孔の空孔容積(cc/g担体)」は、窒素吸着法(DH法)によって求めた微分細孔分布曲線の下部の面積(積分値)として算出される。
本明細書において、「微分細孔分布」とは、細孔径を横軸に、触媒中のその細孔径に相当する細孔容積を縦軸にプロットした分布曲線である。すなわち、窒素吸着法(ミクロ孔の場合にはMP法;メソ孔の場合にはDH法)により得られる触媒の空孔容積をVとし、空孔直径をDとした際の、差分空孔容積dVを空孔直径の対数差分d(logD)で割った値(dV/d(logD))を求める。そして、このdV/d(logD)を各区分の平均空孔直径に対してプロットすることにより微分細孔分布曲線が得られる。差分空孔容積dVとは、測定ポイント間の空孔容積の増加分をいう。
ここで、窒素吸着法(MP法)によるミクロ孔の半径及び空孔容積の測定方法は、特に制限されず、例えば、「吸着の科学」(第2版 近藤精一、石川達雄、安部郁夫 共著、丸善株式会社)、「燃料電池の解析手法」(高須芳雄、吉武優、石原達己 編、化学同人)、R. Sh. Mikhail, S. Brunauer, E. E. Bodor J.Colloid Interface Sci.,26, 45(1968)等の公知の文献に記載される方法が採用できる。本明細書では、窒素吸着法(MP法)によるミクロ孔の半径及び空孔容積は、R. Sh. Mikhail, S. Brunauer, E. E. Bodor J.Colloid Interface Sci.,26, 45(1968)に記載される方法によって、測定された値である。
また、窒素吸着法(DH法)によるメソ孔の半径及び空孔容積の測定方法もまた、特に制限されず、例えば、「吸着の科学」(第2版 近藤精一、石川達雄、安部郁夫 共著、丸善株式会社)や「燃料電池の解析手法」(高須芳雄、吉武優、石原達己 編、化学同人)、D. Dollion, G. R. Heal : J. Appl. Chem., 14, 109 (1964)等の公知の文献に記載される方法が採用できる。本明細書では、窒素吸着法(DH法)によるメソ孔の半径及び空孔容積は、D. Dollion, G. R. Heal : J. Appl. Chem., 14, 109 (1964) に記載される方法によって、測定された値である。
上記したような特定の空孔分布を有する触媒の製造方法は、特に制限されないが、通常、担体の空孔分布(ミクロ孔及びメソ孔)を上記したような空孔分布とすることが重要である。具体的には、ミクロ孔及びメソ孔を有し、かつミクロ孔の空孔容積が0.3cc/g担体以上である担体の製造方法としては、特開2010−208887号公報(米国特許出願公開第2011/318254号明細書、以下同様)や国際公開第2009/75264号(米国特許出願公開第2011/058308号明細書、以下同様)などの公報に記載される方法が好ましく使用される。また、ミクロ孔及びメソ孔を有し、かつミクロ孔の空孔分布のモード半径が0.3nm以上1nm未満である担体の製造方法としては、特開2010−208887号公報や国際公開第2009/75264号などの公報に記載される方法が好ましく使用される。
(触媒(b))
触媒(b)は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなり、下記構成(b−1)〜(b−3)を満たす:
(b−1)半径が1nm以上5nm未満の空孔を有する;
(b−2)半径が1nm以上5nm未満の空孔の空孔容積は0.8cc/g担体以上である;および
(b−3)触媒金属の比表面積は60m2/g担体以下である。
上記(b−1)〜(b−3)の構成を有する触媒によれば、特に高湿度環境下において、触媒の空孔内が水で満たされることが抑制された上で、反応ガスの輸送に寄与する空孔が十分に確保される。その結果、ガス輸送性に優れた触媒を提供することができる。詳細には、ガス輸送に有効なメソ孔の容積が十分確保され、さらに、触媒金属の比表面積を小さくすることで、特に高湿度環境下において、触媒金属が担持されたメソ孔内に保持される水の量を十分減らすことができる。ゆえに、メソ孔内が水で満たされることが抑制されるため、メソ孔内の触媒金属に酸素等のガスをより効率よく輸送することができる。すなわち、触媒におけるガス輸送抵抗をより低減することができる。その結果、本実施形態の触媒(b)は、触媒反応が促進され、より高い触媒活性を発揮することができる。このため、本実施形態の触媒(b)を用いた触媒層を有する膜電極接合体および燃料電池は、特に高湿度環境下において、発電性能をさらに向上できる。
図3は、触媒(b)の形状・構造を示す概略断面説明図である。図3に示されるように、触媒20’は、触媒金属22’および触媒担体23’からなる。また、触媒20’は、半径1nm以上5nm未満の空孔(メソ孔)24’を有する。ここで、触媒金属22’は、主としてメソ孔24’の内部に担持される。また、触媒金属22’は、少なくとも一部がメソ孔24’の内部に担持されていればよく、一部が触媒担体23’表面に担持されていてもよい。しかし、触媒層での電解質(電解質ポリマー、アイオノマー)と触媒金属の接触を防ぎ、触媒活性を向上させるという観点からは、実質的にすべての触媒金属22’がメソ孔24’の内部に担持されることが好ましい。触媒金属が電解質と接触すると、触媒金属表面の面積比活性が減少する。これに対し、上記構成により、電解質が触媒担体23’のメソ孔24’内に入り込まないようにすることができ、触媒金属22’と電解質とが物理的に分離される。そして、水により三相界面を形成することができる結果、触媒活性が向上する。ここで、「実質的にすべての触媒金属」とは、十分な触媒活性を向上できる量であれば特に制限されない。「実質的にすべての触媒金属」は、全触媒金属において、好ましくは50重量%以上(上限:100重量%)、より好ましくは80重量%以上(上限:100重量%)の量で存在する。
触媒(b)における半径1nm以上5nm未満の空孔(メソ孔)の空孔容積は0.8cc/g担体以上である。メソ孔の空孔容積は、好ましくは0.8〜3cc/g担体であり、0.9〜2cc/g担体であることがより好ましい。空孔容積が上記したような範囲にあれば、反応ガスの輸送に寄与する空孔が多く確保されるため、反応ガスの輸送抵抗を低減することができる。したがって、メソ孔内に格納される触媒金属の表面に反応ガスが速やかに輸送されるため、触媒金属が有効に利用される。さらに、メソ孔の容積が上記範囲にあれば、メソ孔内に触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に分離することができる(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。このように、メソ孔内の触媒金属と、電解質との接触が抑制される上記態様であれば、担体表面に担持される触媒金属の量が多い時と比較して、触媒の活性をより有効に利用できる。
また、触媒(b)において、触媒金属(触媒成分)は、比表面積が60m2/g担体以下である。触媒金属の比表面積は、好ましくは5〜60m2/g担体であり、より好ましくは5〜50m2/g担体であり、更に好ましくは15〜50m2/g担体であり、特に好ましくは25〜45m2/g担体である。触媒金属の表面は親水性であり、水が保持されやすくなる。メソ孔内に水が過度に保持されると、ガスの輸送経路が狭くなり、かつ、水中の反応ガスの拡散速度は遅いため、ガスの輸送性が低下する。これに対し、触媒金属の比表面積を上記範囲のように比較的小さくすることにより、特に高湿度環境下において、触媒金属の表面に吸着する水の量を減らすことができる。したがって、特に高湿度環境下において、反応ガスの輸送抵抗を低減させることができ、触媒金属が有効に利用される。なお、本発明における「触媒金属の比表面積」は、例えば、Journal of Electroanalytical Chemistry 693 (2013) 34−41等に記載される方法によって測定できる。本明細書では、「触媒金属の比表面積」は、以下の方法によって測定された値を採用する。
なお、上記の触媒金属の比表面積は、例えば担体表面に担持される触媒金属の量を少なくすることによって小さくすることができる。
(触媒金属の比表面積の測定方法)
カソード触媒層について、サイクリックボルタンメトリーによる電気化学的有効表面積(ECA:Electrochemical surface area)を求める。ここで、対向するアノードには、測定温度において飽和するよう加湿した水素ガスを流通させ、これを参照極および対極として用いる。カソードには同様に加湿した窒素ガスを流通させておき、測定を開始する直前に、カソード入口および出口のバルブを閉じ、窒素ガスを封入する。この状態で、電気化学測定装置(北斗電工(株)製、型番:HZ−5000)を用いて下記条件にて測定する。
上記したような特定の空孔容積を有する触媒の製造方法は、特に制限されないが、担体のメソ孔容積を上記したような空孔分布とすることが重要である。具体的には、メソ孔を有し、かつメソ孔の空孔容積が0.8cc/g担体以上である担体の製造方法としては、特開2010−208887号公報(米国特許出願公開第2011/318254号明細書、以下同様)、国際公開第2009/75264号(米国特許出願公開第2011/058308号明細書、以下同様)などの公報に記載される方法が好ましく使用される。
担体のBET比表面積が1000m2/g担体超であればその材質は特に制限されないが、充分な電子伝導性を有するものが好ましい。好ましくは、主成分がカーボンである。具体的には、カーボンブラック(ケッチェンブラック(登録商標)、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなど)、活性炭などからなるカーボン粒子が挙げられる。「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念であり、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
より好ましくは、担体内部に所望の空孔領域を形成し易いことから、特開2010−208887号公報や国際公開第2009/75264号等の公報に記載される方法によって製造される担体を使用する。
上記カーボン材料の他、Sn(錫)やTi(チタン)などの多孔質金属、さらには導電性金属酸化物なども担体として使用可能である。これらの担体を複数組み合わせて用いてもよい。
担体のBET比表面積は、1000(m2/g担体)超であれば特に制限されない。BET比表面積が1000(m2/g担体)以下の触媒担体では、比較的大きな空孔に触媒金属を収納して電解質との接触を抑えることが困難になる場合がある。担体のBET比表面積は、好ましくは1000(m2/g担体)超3000(m2/g担体)以下、より好ましくは1100〜2000(m2/g担体)である。上記したような比表面積であれば、十分なメソ孔及びミクロ孔を確保できるため、ガス輸送を行うのに十分なミクロ孔(より低いガス輸送抵抗)を確保しつつ、メソ孔内により多くの触媒金属を格納(担持)できる。また、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くのミクロ孔及びメソ孔の存在により、本発明による作用・効果をさらに顕著に発揮して、触媒反応をより効果的に促進できる。また、触媒担体上での触媒金属の分散性と有効利用率とのバランスが適切に制御できる。加えて、ミクロ孔がガスの輸送パスとして作用して、水により三相界面をより顕著に形成して、触媒活性をより向上できる。
なお、本発明においては、BET比表面積が1000(m2/g担体)を超えるものである限り、必ずしも上記したような粒状の多孔質担体を用いる必要はない。
すなわち、担体として、非多孔質の導電性担体やガス拡散層を構成する炭素繊維から成る不織布やカーボンペーパー、カーボンクロスなども挙げられる。このとき、触媒金属をこれら非多孔質の導電性担体に担持したり、膜電極接合体のガス拡散層を構成する炭素繊維から成る不織布やカーボンペーパー、カーボンクロスなどに直接付着させたりすることも可能である。
本発明で使用できる触媒金属は、電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する。アノード触媒層に用いられる触媒金属は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒金属もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、銅、銀、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。すなわち、触媒金属は、白金であるまたは白金と白金以外の金属成分を含むことが好ましく、白金または白金含有合金であることがより好ましい。このような触媒金属は、高い活性を発揮できる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒金属およびカソード触媒層に用いられる触媒金属は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒金属についての説明は、両者について同様の定義である。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒金属は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒金属(触媒成分)の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。形状としては、例えば、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、好ましくは粒状である。この際、触媒金属(触媒金属粒子)の平均粒径(直径)は、特に制限されないが、2.5nm超、より好ましくは3〜30nm、特に好ましくは3nm超10nm以下であることが好ましい。触媒金属の平均粒径が3nm以上であれば、触媒金属がメソ孔内に比較的強固に担持され、触媒層内で電解質と接触するのをより有効に抑制・防止される。また、ミクロ孔が触媒金属で塞がれずに残存し、ガスの輸送パスがより良好に確保されて、ガス輸送抵抗をより低減できる。また、電位変化による溶出を防止し、経時的な性能低下をも抑制できる。このため、触媒活性をより向上できる、すなわち、触媒反応をより効率的に促進できる。一方、触媒金属粒子の平均粒径が30nm以下であれば、担体のメソ孔内部に触媒金属を簡便な方法で担持することができ、触媒金属の電解質被覆率を低減することができる。なお、本発明における「触媒金属粒子の平均粒径」は、X線回折における触媒金属成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡(TEM)より調べられる触媒金属粒子の粒子径の平均値として測定されうる。
担体における触媒金属の担持量(担持率とも称する場合がある)は、触媒(つまり、担体および触媒金属)の全量に対して、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは20〜70重量%とするのがよい。担持量が前記範囲であれば、十分な触媒金属の担体上での分散度、発電性能の向上、経済上での利点、単位重量あたりの触媒活性が達成できるため好ましい。
燃料電池用電極触媒層において、単位触媒塗布面積当たりの触媒金属含有量(mg/cm2)(触媒金属の「単位触媒塗布面積当たりの含有量」を、「目付量」とも称する。)は、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能が得られる限り特に制限されない。目付量は、例えば、0.01〜1mg/cm2である。ただし、触媒が白金または白金含有合金を含む場合、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量が0.5mg/cm2以下であることが好ましい。白金(Pt)や白金合金に代表される高価な貴金属触媒の使用は燃料電池の高価格要因となっている。したがって、高価な白金の使用量(白金含有量)を上記範囲まで低減し、コストを削減することが好ましい。下限値は発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01mg/cm2以上である。より好ましくは、当該白金含有量は0.02〜0.4mg/cm2であり、さらに好ましくは0.02〜0.3mg/cm2である。本発明にかかる燃料電池用電極触媒層は触媒重量あたりの活性が高く、高価な触媒の使用量を低減することが可能となる。
なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒金属(白金)含有量(mg/cm2)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒金属(白金)含有量(mg/cm2)」に調節することも当業者であれば容易に可能であり、例えばスラリーの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量を調整することができる。
[触媒層]
本発明の燃料電池用電極触媒層(触媒層)は、カソード触媒層またはアノード触媒層のいずれに存在してもいてもよいが、カソード触媒層で使用されることが好ましい。上述したように、本発明の燃料電池用電極触媒層は、電解質と接触しなくても、水との三相界面を形成することによって、触媒を有効に利用できるが、カソード触媒層で水が形成するからである。
本発明の燃料電池用電極触媒層は、イオン伝導性の高分子電解質を含む。上記高分子電解質は、燃料極側の触媒活物質周辺で発生したプロトンを伝達する役割を果たすことから、プロトン伝導性高分子とも呼ばれる。また、本発明の燃料電池用電極触媒層に用いる高分子電解質は、イオン交換基としてスルホン酸基を含む。高分子電解質に含まれるスルホン酸基により、電池用電極触媒層の親水性が高くなり、含水率を向上できると考えられる。また、燃料電池用電極触媒層の単位体積当たりのスルホン酸基当量(スルホン酸基の密度)を所定値以上とすることにより、スルホン酸基由来のプロトン濃度を高くすることができると考えられる。
高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。
スルホン酸基を含むフッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性、耐久性、機械強度に優れるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が用いられる。
スルホン酸基を含む炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質が好ましく用いられる。
なお、上述したイオン交換樹脂は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料を用いてもよい。
このほか、燃料電池用電極触媒層には、スルホン酸基を含む高分子電解質と併用して、スルホン酸基を含まない高分子電解質を、本発明の目的効果を損なわない範囲で任意の割合で用いてもよい。スルホン酸基を含まない高分子電解質としては、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル等が挙げられる。スルホン酸基を含まない高分子電解質を併用する場合、燃料電池用電極触媒層に含まれる高分子電解質全体に対して、スルホン酸基を含まない高分子電解質の割合は、例えば0を超えて20重量%(乾燥重量)である。
プロトンの伝達を担う高分子電解質においては、プロトンの伝導度が重要となる。ここで、高分子電解質のEWが大きすぎる場合には触媒層全体でのイオン伝導性が低下する。したがって、本形態の触媒層は、EWの小さい高分子電解質を含むことが好ましい。具体的には、本形態の触媒層は、好ましくはEWが1000g/mol未満の高分子電解質を含み、より好ましくは900g/mol未満の高分子電解質を含み、特に好ましくは800g/mol以下の高分子電解質を含む。
一方、EWが小さすぎる場合には、親水性が高すぎて、水の円滑な移動が困難となる。かような観点から、高分子電解質のEWは400g/mol以上であることが好ましく、より好ましくは500g/mol以上である。なお、EW(Equivalent Weight)は、プロトン伝導性を有する交換基の当量重量を表している。当量重量は、イオン交換基1当量あたりのイオン交換膜の乾燥重量であり、「g/mol」の単位で表される。
本発明の燃料電池用電極触媒層では、EWが異なる2種類以上の高分子電解質を用いてもよい。この場合、高分子電解質全体としてのEWが上記数値範囲内であることが好ましい。
スルホン酸基を含む高分子電解質と併用してスルホン酸基を含まない高分子電解質を用いる場合、上記EWの数値は、プロトン伝導性を有する交換基中、スルホン酸基についての当量重量である。スルホン酸基を含む高分子電解質と併用してスルホン酸基を含まない高分子電解質を用いる場合、後述の数式1において用いられるEWの数値としても、プロトン伝導性を有する交換基中、スルホン酸基についての当量重量である。
EWの異なる複数の高分子電解質を用いる場合や、スルホン酸基を含む高分子電解質と併用してスルホン酸基を含まない高分子電解質を用いる場合、下記数式1に用いられるEWの値は、以下のように算出される。すなわち、スルホン酸基1当量あたりの、燃料電池用電極触媒層に含まれる高分子電解質全体の乾燥重量として算出される。例えば、EW=700である高分子電解質(1)1重量部に対し、EW=1000である高分子電解質(2)を2重量部となる量で併用する場合、下記数式1に用いられるEWの値は(700×1/3)+(1000×2/3)=900である。
また、触媒層は、EWが異なる2種類以上の高分子電解質を発電面内に含み、この際、高分子電解質のうち最もEWが低い高分子電解質が流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いてもよい。このような材料配置を採用することにより、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能の向上を図ることができる。
さらに、EWが最も低い高分子電解質を冷却水の入口と出口の平均温度よりも高い領域に用いることが望ましい。これによって、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能のさらなる向上を図ることができる。
さらには、燃料電池システムの抵抗値を小さくするとする観点から、EWが最も低い高分子電解質は、流路長に対して燃料ガス及び酸化剤ガスの少なくとも一方のガス供給口から3/5以内の範囲の領域に用いることが望ましい。
本形態の触媒層は、触媒と高分子電解質との間に、触媒と高分子電解質とをプロトン伝導可能な状態に連結しうる液体プロトン伝導材を含んでもよい。液体プロトン伝導材が導入されることによって、触媒と高分子電解質との間に、液体プロトン伝導材を介したプロトン輸送経路が確保され、発電に必要なプロトンを効率的に触媒表面へ輸送することが可能となる。これにより、触媒の利用効率が向上するため、発電性能を維持しながら触媒の使用量を低減することが可能となる。この液体プロトン伝導材は触媒と高分子電解質との間に介在していればよく、触媒層内の多孔質担体間の空孔(二次空孔)や多孔質担体内の空孔(ミクロ孔またはメソ孔:一次空孔)内に配置されうる。
液体プロトン伝導材としては、イオン伝導性を有し、触媒と高分子電解質と間のプロトン輸送経路を形成する機能を発揮しうる限り、特に限定されることはない。具体的には水、プロトン性イオン液体、過塩素酸水溶液、硝酸水溶液、ギ酸水溶液、酢酸水溶液などを挙げることができる。
液体プロトン伝導材として水を使用する場合には、発電を開始する前に少量の液水か加湿ガスにより触媒層を湿らせることによって、触媒層内に液体プロトン伝導材としての水を導入することができる。また、燃料電池の作動時における電気化学反応によって生じた生成水を液体プロトン伝導材として利用することもできる。したがって、燃料電池の運転開始の状態においては、必ずしも液体プロトン伝導材が保持されている必要はない。例えば、触媒と電解質との表面距離を、水分子を構成する酸素イオン径である0.28nm以上とすることが望ましい。このような距離を保持することによって、触媒と高分子電解質との非接触状態を保持しながら、触媒と高分子電解質の間(液体伝導材保持部)に水(液体プロトン伝導材)を介入させることができ、両者間の水によるプロトン輸送経路が確保されることになる。
イオン性液体など、水以外のものを液体プロトン伝導材として使用する場合には、触媒インク作製時に、イオン性液体と高分子電解質と触媒とを溶液中に分散させることが望ましいが、触媒を触媒層基材に塗布する際にイオン性液体を添加してもよい。
触媒の高分子電解質と接触している総面積が、この触媒が液体伝導材保持部に露出している総面積よりも小さいことが好ましい。
これら面積の比較は、例えば、上記液体伝導材保持部に液体プロトン伝導材を満たした状態で、触媒−高分子電解質界面と触媒−液体プロトン伝導材界面に形成される電気二重層の容量の大小関係を求めることによって行うことができる。すなわち、電気二重層容量は、電気化学的に有効な界面の面積に比例するため、触媒−電解質界面に形成される電気二重層容量が触媒−液体プロトン伝導材界面に形成される電気二重層容量より小さければ、触媒の電解質との接触面積が液体伝導材保持部への露出面積よりも小さいことになる。
ここで、触媒−電解質界面、触媒−液体プロトン伝導材界面にそれぞれ形成される電気二重層容量の測定方法、言い換えると、触媒−電解質間及び触媒−液体プロトン伝導材間の接触面積の大小関係(触媒の電解質との接触面積と液体伝導材保持部への露出面積の大小関係の判定方法)について説明する。
すなわち、本形態の触媒層においては、
(1)触媒−高分子電解質(C−S)
(2)触媒−液体プロトン伝導材(C−L)
(3)多孔質担体−高分子電解質(Cr−S)
(4)多孔質担体−液体プロトン伝導材(Cr−L)
の4種の界面が電気二重層容量(Cdl)として寄与し得る。
電気二重層容量は、上記したように、電気化学的に有効な界面の面積に正比例するため、CdlC−S(触媒−高分子電解質界面の電気二重層容量)及びCdlC−L(触媒−液体プロトン伝導材界面の電気二重層容量)を求めればよい。そして、電気二重層容量(Cdl)に対する上記4種の界面の寄与については、以下のようにして分離することができる。
まず、例えば100%RHのような高加湿条件、及び10%RH以下のような低加湿条件下において、電気二重層容量をそれぞれ計測する。なお、電気二重層容量の計測手法としては、サイクリックボルタンメトリーや電気化学インピーダンス分光法などを挙げることができる。これらの比較から、液体プロトン伝導材(この場合は「水」)の寄与、すなわち上記(2)及び(4)を分離することができる。
さらに触媒を失活させること、例えば、Ptを触媒として用いた場合には、測定対象の電極にCOガスを供給してCOをPt表面上に吸着させることによる触媒の失活によって、その電気二重層容量への寄与を分離することができる。このような状態で、前述のように高加湿及び低加湿条件における電気二重層容量を同様の手法で計測し、これらの比較から、触媒の寄与、つまり上記(1)及び(2)を分離することができる。
以上により、上記(1)〜(4)全ての寄与を分離することができ、触媒と高分子電解質及び液体プロトン伝導材両界面に形成される電気二重層容量を求めることができる。
すなわち、高加湿状態における測定値(A)が上記(1)〜(4)の全界面に形成される電気二重層容量、低加湿状態における測定値(B)が上記(1)及び(3)の界面に形成される電気二重層容量になる。また、触媒失活・高加湿状態における測定値(C)が上記(3)及び(4)の界面に形成される電気二重層容量、触媒失活・低加湿状態における測定値(D)が上記(3)の界面に形成される電気二重層容量になる。
したがって、AとCの差が(1)及び(2)の界面に形成される電気二重層容量、BとDの差が(1)の界面に形成される電気二重層容量ということになる。そして、これら値の差、(A−C)−(B−D)を算出すれば、(2)の界面に形成される電気二重層容量を求めることができる。なお、触媒の高分子電解質との接触面積や、伝導材保持部への露出面積については、上記の他には、例えば、TEM(透過型電子顕微鏡)トモグラフィなどによっても求めることができる。
触媒層には、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などの撥水剤、界面活性剤などの分散剤、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などの増粘剤、造孔剤等の添加剤が含まれていても構わない。
触媒層の厚み(乾燥膜厚)は、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜15μm、さらに好ましくは3μm以上10μm未満である。なお、上記厚みは、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかし、カソード触媒層及びアノード触媒層の厚みは、同じであってもあるいは異なってもよい。
本発明にかかる燃料電池用電極触媒層は、触媒層の単位体積当たりのスルホン酸基当量(スルホン酸基の密度)が0.26(mmol/cc触媒層)以上である。かようなスルホン酸基密度が高い電極触媒層を燃料電池用電極接合体に用いることにより、高比表面積の触媒担体を用いた場合であっても、低湿度環境下(例えば、40%RH)において優れた発電性能を得ることができる。
本明細書において、燃料電池用電極触媒層のスルホン酸基密度は、以下の式により算出される値である。
上記数式1に示す通り、燃料電池用電極触媒層のスルホン酸基密度は、触媒金属目付量、触媒金属担持率、高分子電解質/触媒担体の重量比(IC)、触媒層の厚さ、および高分子電解質のEWを任意に設定することにより制御できる。例えば、燃料電池用電極触媒層のスルホン酸基密度を高くするためには、高分子電解質/触媒担体の重量比(IC)において高分子電解質の割合を高くしたり、EWの低い高分子電解質を燃料電池用電極触媒層の調製に用いたりすればよい。高分子電解質/触媒担体の重量比(IC)において高分子電解質の割合を高くしたり、EWの低い高分子電解質を用いたりすることにより、触媒金属目付量を低くして高価な貴金属の使用量を抑えつつ、低湿度環境下において優れた発電性能を得ることができる。
低湿度環境下(例えば、40%RH)での発電性能の観点から、燃料電池用電極触媒層のスルホン酸基密度は、0.30(mmol/cc触媒層)を超えることが好ましい。より好ましくは、スルホン酸基密度は、0.35(mmol/cc触媒層)以上であり、さらに好ましくは0.4(mmol/cc触媒層)以上である。スルホン酸基密度の上限は特に制限されないが、高湿度環境での発電性能の観点から、例えば0.75(mmol/cc触媒層)以下である。
なお、燃料電池用電極触媒層のスルホン酸基密度は、元素分析によって分析することもできる。元素分析手法としては、例えばICP−AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy, 誘電結合プラズマ発光分光分析法)、フッ素NMR (Nuclear Magnetic Resonance, 核磁気共鳴法)などが挙げられる。燃料電池用電極触媒層のスルホン酸基密度について、上記数式1で算出される値と分析値とに誤差がある場合、本発明におけるスルホン酸基密度としては数式1で算出される値を採用する。
(触媒層の製造方法)
本発明の燃料電池用電極触媒層は、好ましくは、EWが900g/mol未満である高分子電解質を、触媒担体に対して0.9以上の重量比で含む触媒インクを用いて製造する。すなわち、本発明の一側面では、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒、ならびに高分子電解質を含む燃料電池用電極触媒層の製造方法であって、前記触媒担体に対する前記高分子電解質の重量比が0.9以上となる割合で前記触媒と前記高分子電解質とを含む触媒インクを調製する工程を含み、前記触媒担体のBET比表面積が1000(m2/g担体)超であり、前記高分子電解質のEW(Equivalent Weight)が900g/mol未満である、製造方法を提供する。ただし、本発明にかかる燃料電池用電極触媒層の製造方法が、上記の方法に制限されるものではない。以下、触媒層を製造するための好ましい実施形態を記載するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。また、触媒層の各構成要素の材質などの諸条件については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
まず、上記のBET比表面積が1000(m2/g担体)を超える触媒担体(本明細書では、「多孔質担体」とも称する)を準備する。
次いで、多孔質担体に触媒金属を担持させて、触媒粉末とする。多孔質担体への触媒金属の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。なお、触媒金属の平均粒径を所望の範囲とするために、触媒金属を担体に担持させた後、還元雰囲気下で加熱処理を行ってもよい。このとき、加熱処理温度は、300〜1200℃の範囲であると好ましく、500〜1150℃の範囲であるとより好ましく、700〜1000℃の範囲であると特に好ましい。また、還元雰囲気とは、触媒金属の粒成長に寄与するものであれば特に制限されないが、還元性ガスと不活性ガスとの混合雰囲気下で行うことが好ましい。還元性ガスは、特に制限されないが、水素(H2)ガスが好ましい。また、不活性ガスは、特に制限されないが、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、及び窒素(N2)などが使用できる。上記不活性ガスは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合ガスの形態で使用されてもよい。また、加熱処理時間は、0.1〜2時間であると好ましく、0.5〜1.5時間であるとより好ましい。
触媒粉末は、酸性基を付与するため、酸化性溶液で処理してもよい。酸化性溶液で処理することによって、担体に酸性基を付与することができ、担体の親水性を上げることができるすなわち、本発明の一実施形態は、触媒担体および触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒を酸化性溶液で処理し、触媒に酸性基を付与する工程を含む。
使用する酸化性溶液としては、硫酸、硝酸、亜リン酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩酸、塩素酸、次亜塩素酸、クロム酸などの水溶液が好ましい。なお、この酸化性溶液処理は、触媒を酸化性溶液に1回以上接触させることによって行われる。複数回の酸化性溶液処理を行う場合は、処理ごとに溶液の種類を変更してもよい。酸化性溶液処理の条件としては、上記酸化剤を0.1〜10.0mol/L含む水溶液が好ましく、溶液に触媒を浸漬することが好ましい。浸漬時間は、1〜10時間が好ましく、処理温度は50〜90℃が好ましい。窒素吸着量に対する水蒸気吸着量の体積比または担体の酸性基量は、触媒のBET比表面積、酸化性溶液の種類、濃度、処理時間、処理温度を調節することで制御することができる。
得られた触媒粉末、高分子電解質および溶媒を含む触媒インクを作製する。溶媒としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶媒が同様にして使用できる。具体的には、水道水、純水、イオン交換水、蒸留水等の水、シクロヘキサノール、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、及びtert−ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール、プロピレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの他にも、酢酸ブチルアルコール、ジメチルエーテル、エチレングリコール、などが溶媒として用いられてもよい。これらの溶媒は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合液の状態で使用してもよい。好ましくは、高分子電解質の分散性の観点から、溶媒としては、5〜45重量%の濃度で上記炭素数1〜4の低級アルコールを含む水溶液を用いる。なお、触媒インクにおいて、触媒粉末や高分子電解質は、溶媒に溶解していてもよいが、溶解していない部分があってもよい。
触媒インクは、触媒層のスルホン酸基密度の観点から、好ましくは、触媒粉末中の触媒担体に対して重量比が0.9以上となる割合で高分子電解質を含む。より好ましくは、触媒担体に対する高分子電解質の重量比は1.0以上であり、さらに好ましくは1.1以上である。触媒担体に対する高分子電解質の重量比について、上限は特に制限されないが、高湿度環境での発電性能の観点から、例えば2.0以下である。
触媒インクを構成する溶媒の量は、電解質を完全に溶解できる量であれば特に制限されない。具体的には、触媒粉末および高分子電解質などの溶媒以外の成分の濃度が、電極触媒インク中、1〜50重量%とするのが好ましく、より好ましくは5〜30重量%程度である。
なお、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤等の添加剤を使用する場合には、触媒インクにこれらの添加剤を添加すればよい。この際、添加剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されない。例えば、添加剤の添加量は、それぞれ、電極触媒インクの全重量に対して、好ましくは5〜20重量%である。
次に、基材の表面に触媒インクを塗布する。基材への塗布方法は、特に制限されず、公知の方法を使用できる。具体的には、スプレー(スプレー塗布)法、ガリバー印刷法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法など、公知の方法を用いて行うことができる。
触媒インクの塗布は、乾燥後の触媒層の厚みが、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜15μm、さらに好ましくは3μm以上10μm未満となるように塗布する。なお、上記厚みは、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかし、カソード触媒層及びアノード触媒層の厚みは、同じであってもあるいは異なってもよい。
この際、触媒インクを塗布する基材としては、固体高分子電解質膜(電解質層)やガス拡散基材(ガス拡散層)を使用することができる。かような場合には、固体高分子電解質膜(電解質層)またはガス拡散基材(ガス拡散層)の表面に触媒層を形成した後、得られた積層体をそのまま膜電極接合体の製造に利用することができる。あるいは、基材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)[テフロン(登録商標)]シート等の剥離可能な基材を使用し、基材上に触媒層を形成した後に基材から触媒層部分を剥離することにより、触媒層を得てもよい。
最後に、触媒インクの塗布層(膜)を、空気雰囲気下あるいは不活性ガス雰囲気下、室温〜150℃で、1〜60分間、乾燥する。これにより、触媒層が形成される。
[膜電極接合体、燃料電池、車両]
本発明のさらなる実施形態によれば、上記燃料電池用電極触媒層を含む、燃料電池用膜電極接合体が提供される。すなわち、固体高分子電解質膜2、前記電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層と、前記電解質膜2ならびに前記アノード触媒層3aおよび前記カソード触媒層3cを挟持する一対のガス拡散層(4a,4c)とを有する燃料電池用膜電極接合体が提供される。そしてこの膜電極接合体において、前記カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方が上記に記載した実施形態の触媒層である。
ただし、プロトン伝導性の向上および反応ガス(特にO2)の輸送特性(ガス拡散性)の向上の必要性を考慮すると、少なくともカソード触媒層が上記に記載した実施形態の触媒層であることが好ましい。ただし、上記形態に係る触媒層は、アノード触媒層として用いてもよいし、カソード触媒層およびアノード触媒層双方として用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
本発明のさらなる実施形態によれば、上記形態の膜電極接合体を含む燃料電池が提供される。すなわち、本発明の一実施形態は、上記形態の膜電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータおよびカソードセパレータを有する燃料電池である。
以下、図1を参照しつつ、上記実施形態の触媒層を用いたPEFC1の構成要素について説明する。ただし、本発明は触媒層に特徴を有するものである。よって、燃料電池を構成する触媒層以外の部材の具体的な形態については、従来公知の知見を参照しつつ、適宜、改変が施されうる。
(電解質膜)
電解質膜は、例えば、図1に示す形態のように固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜2を構成する電解質材料としては特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、先に高分子電解質として説明したフッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を用いることができる。この際、触媒層に用いた高分子電解質と必ずしも同じものを用いる必要はない。
(ガス拡散層)
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層(4a、4c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、重量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、固体高分子電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層の微多孔質層側(微多孔質層を含まない場合には、基材層の片面に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
(セパレータ)
セパレータは、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
上述したPEFCや膜電極接合体は、発電性能および耐久性に優れる触媒層を用いている。したがって、当該PEFCや膜電極接合体は発電性能および耐久性に優れる。
本実施形態のPEFCやこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。本発明の一実施形態は、上記の燃料電池を含む車両が提供される。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
(比較例1)
BET比表面積が720m2/g担体であるケッチェンブラック(登録商標)EC300J(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製)(担体A)を準備した。
担体Aを用い、これに触媒金属として平均粒径(直径)が2.5nmの白金(Pt)を担持率が50重量%となるように担持させて、触媒粉末Aを得た。すなわち、白金濃度4.6質量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体Aを46g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体Aに担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持率が50重量%の触媒粉末Aを得た。
このようにして得られた触媒粉末Aについて、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード半径、BET比表面積、ならびに酸性基量を測定した。その結果、ミクロ孔の空孔容積が0.23cc/g担体;メソ孔の空孔容積が0.30cc/g担体;BET比表面積が720m2/g担体;および酸性基量が0.42mmol/g担体であった。触媒粉末Aでは、メソ孔またはミクロ孔のモード半径は明確に検出されなかった。
高分子電解質としてのフッ素系高分子電解質(Nafion(登録商標)D2020,EW=1100g/mol、DuPont社製)と触媒粉末Aとを、高分子電解質と触媒担体との重量比が1.0となるよう混合した。さらに、溶媒として40重量%ノルマルプロピルアルコール溶液を固形分率(Pt+カーボン担体+アイオノマー)が15重量%となるよう添加して、カソード触媒インクを調製した。
担体として、ケッチェンブラック(登録商標)(粒径:30〜60nm)を用い、これに触媒金属として平均粒径2.5nmの白金(Pt)を担持率が50重量%となるように担持させて、触媒粉末を得た。この触媒粉末と、高分子電解質としてのアイオノマー分散液(Nafion(登録商標)D2020,EW=1100g/mol、DuPont社製)とをカーボン担体とアイオノマーの重量比が1.3となるよう混合した。さらに、溶媒としてノルマルプロピルアルコール溶液(50重量%)を固形分率(Pt+カーボン担体+アイオノマー)が5重量%となるよう添加して、アノード触媒インクを調製した。
次に、高分子電解質膜(Dupont社製、NAFION NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人Dupont社製、テオネックス、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置した。電解質膜片面にアノード触媒インクをスプレー塗布法により塗布した。スプレー塗布を行うステージを60℃に1分間保つことでアノード触媒インクを乾燥してアノード触媒層を形成した。別途、スクリーン印刷で転写基材(PTFE)にカソード触媒インクを5cm×2cmのサイズに塗布した。その後、80℃で15分間、カソード触媒インクを乾燥し、高分子電解質膜の片面の露出部にホットプレスにて転写し(転写条件:150℃、0.8MPa、10分)、電極触媒層(カソード触媒層)を形成した(触媒層厚さ:11μm)。以上により、膜触媒層接合体(1)(CCM(1))を得た。カソード触媒層の白金目付量は0.35mg/cm2であり、スルホン酸基密度は0.29mmol/cc触媒層である。
(比較例2)
カソード触媒インクの高分子電解質と触媒担体との重量比を1.2に変更した以外は比較例1と同様にして、膜触媒層接合体(2)(CCM(2))を得た。膜触媒層接合体(2)におけるカソード触媒層の白金目付量は0.35mg/cm2であり、スルホン酸基密度は0.35mmol/cc触媒層である。
(比較例3)
国際公開第2009/75264号に記載の方法により、炭素材料1を作製した。得られた炭素材料1を、アルゴンガスの雰囲気下で、1800℃で5分間、加熱して、担体Bを作製した。
このようにして得られた担体BについてのBET比表面積は、1200m2/g担体であった。
担体Bを用い、これに触媒金属として平均粒径(直径)が3.2nmの白金(Pt)を担持率が30重量%となるように担持させて、触媒粉末B−1を得た。すなわち、白金濃度4.6質量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を429g(白金含有量:19.7g)に担体Aを46g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体Aに担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持率が30重量%の触媒粉末を得た。その後、水素雰囲気において、温度900℃に1時間保持し、触媒粉末B−1を得た。
このようにして得られた触媒粉末B−1について、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード半径、BET比表面積、ならびに酸性基量を測定した。その結果、ミクロ孔の空孔容積が0.69cc/g担体;メソ孔の空孔容積が0.80cc/g担体;ミクロ孔のモード半径が0.75nm;メソ孔のモード半径が1.66nm;BET比表面積が1230m2/g担体;および酸性基量は検出限界以下であった。触媒粉末B−1において、メソ孔の内部に触媒金属が担持されていることを電子顕微鏡にて確認した。
触媒粉末Aに代えて触媒粉末B−1を用い、カソード触媒インクの高分子電解質と触媒担体との重量比を0.9に、カソード触媒層厚さを15μmに変更した以外は比較例1と同様にして、膜触媒層接合体(3)(CCM(3))を得た。膜触媒層接合体(3)におけるカソード触媒層の白金目付量は0.15mg/cm2であり、スルホン酸基密度は0.19mmol/cc触媒層である。
(比較例4)
カソード触媒インクの高分子電解質と触媒担体との重量比を0.6に変更した以外は比較例3と同様にして、膜触媒層接合体(4)(CCM(4))を得た。膜触媒層接合体(4)におけるカソード触媒層の白金目付量は0.15mg/cm2であり、スルホン酸基密度は0.13mmol/cc触媒層である。
(比較例5)
カソード触媒インクにおける高分子電解質を、フッ素系高分子電解質(EW=700g/mol)に変更した以外は比較例4と同様にして、膜触媒層接合体(5)(CCM(5))を得た。膜触媒層接合体(5)におけるカソード触媒層の白金目付量は0.15mg/cm2であり、スルホン酸基密度は0.20mmol/cc触媒層である。
(実施例1)
カソード触媒インクの高分子電解質と触媒担体との重量比を0.9に変更した以外は比較例5と同様にして、膜触媒層接合体(6)(CCM(6))を得た。膜触媒層接合体(6)におけるカソード触媒層の白金目付量は0.15mg/cm2であり、スルホン酸基密度は0.30mmol/cc触媒層である。
(実施例2)
担体Bを用い、これに触媒金属として平均粒径(直径)が3.2nmの白金(Pt)を担持率が50重量%となるように担持させて、触媒粉末B−2を得た。すなわち、白金濃度4.6質量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体Aを46g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体Aに担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持率が50重量%の触媒粉末を得た。その後、水素雰囲気において、温度900℃に1時間保持し、触媒粉末B−2を得た。
このようにして得られた触媒粉末B−2について、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード半径、BET比表面積、ならびに酸性基量を測定した。その結果、ミクロ孔の空孔容積が0.71cc/g担体;メソ孔の空孔容積が0.91cc/g担体;ミクロ孔のモード半径が0.75nm;メソ孔のモード半径が1.64nm;BET比表面積が1190m2/g担体;および酸性基量は検出限界以下であった。触媒粉末B−2において、メソ孔の内部に触媒金属が担持されていることを電子顕微鏡にて確認した。
触媒粉末B−1に代えて触媒粉末B−2を用い、カソード触媒インクの調製に溶媒として10重量%イソプロパノール水溶液を用い、カソード触媒インクの高分子電解質と触媒担体との重量比を1.3に、カソード触媒層厚さを8μmに変更した以外は実施例1と同様にして、膜触媒層接合体(7)(CCM(7))を得た。膜触媒層接合体(7)におけるカソード触媒層の白金目付量は0.20mg/cm2であり、スルホン酸基密度は0.46mmol/cc触媒層である。
(実施例3)
触媒粉末B−2について、酸性基付加のための酸化性溶液処理を行った。触媒粉末B−2を、3.0mol/Lの硝酸水溶液中で、80℃で6時間浸漬させた後、濾過、乾燥し、酸性基を有する触媒粉末B−3を得た。
このようにして得られた触媒粉末B−3について、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード半径、BET比表面積、ならびに酸性基量を測定した。その結果、ミクロ孔の空孔容積が0.80cc/g担体;メソ孔の空孔容積が1.10cc/g担体;ミクロ孔のモード半径が0.75nm;メソ孔のモード半径が1.64nm;BET比表面積が1260m2/g担体;および酸性基量は0.32mmol/g担体であった。
触媒粉末B−2に代えて触媒粉末B−3を用い、カソード触媒インクの調製に溶媒として40重量%イソプロパノール水溶液を用い、カソード触媒インクの高分子電解質と触媒担体との重量比を1.2に変更した以外は実施例2と同様にして、膜触媒層接合体(8)(CCM(8))を得た。膜触媒層接合体(8)におけるカソード触媒層の白金目付量は0.20mg/cm2であり、スルホン酸基密度は0.43mmol/cc触媒層である。
実験1:発電性能の評価
膜触媒層接合体(1)〜(8)について、下記評価条件下、IR補正後の電圧が0.9Vである時の電流密度(mA/cm2Pt)を測定し、発電性能評価を行った。結果を下記表1に示す。
上記表1から、本発明の電極触媒層を使用したCCMは、発電性能に優れることが分かる。また、比較例4、比較例5および実施例1の比較から、触媒担体に対する前記高分子電解質の重量比を0.9以上とし、EWが900g/mol未満の高分子電解質を用いることで、スルホン酸基密度が高くなることが分かる。また、これにより、低湿度環境下においても発電性能に優れた電極触媒層を製造できることが分かる。