図1は、溶射装置1の構成を示す図である。溶射装置1は、基材9上にプラズマ溶射を行う装置であり、溶射ガン11と、ガス供給部12と、材料貯溜部13と、エア供給部14と、材料搬送部15とを備える。溶射ガン11は、プラズマフレア8を発生する。ガス供給部12は、溶射ガン11にアルゴンガスを供給する。ガス供給部12により供給されるガスはアルゴンガスには限定されず、ヘリウムガスや他のガスでもよい。材料貯溜部13は、溶射に用いられる溶射材料を貯溜する。エア供給部14は、材料搬送部15にエアを供給する。材料搬送部15は、エア供給部14からのエアを利用して溶射材料をプラズマフレア8内へと供給する。搬送に利用されるガス(以下、「キャリアガス」という。)は、エアには限定されない。
溶射ガン11は、溶射を行う噴出ノズルである。溶射ガン11内には、アルゴンガスの流路21が設けられる。流路21の中央に陰極22が配置され、陰極22の下流側に流路を囲うように陽極23が配置される。陰極22と陽極23との間の放電により、噴出口24からプラズマフレア8が噴出される。
材料搬送部15は、定量供給部31と、搬送管32とを備える。定量供給部31は、材料貯溜部13から単位時間当たり一定の量の溶射材料を取り出し、キャリアガスに合流させる。搬送管32の端部は噴出口33となっており、噴出口33から溶射材料がキャリアガスと共に噴出する。溶射材料は、プラズマフレア8の進行方向側方からプラズマフレア8の中央に向かって垂直に導入される。
溶射材料は粉体であり、各粒子は搬送管32を詰まらせない大きさを有する。後述するように、各粒子は、さらに微細な微粒子を含む樹脂である。溶射材料に含まれる微粒子は、セラミック粒子または金属粒子である。プラズマフレア8により溶射材料の樹脂が焼失し、溶融状態または半溶融状態の微粒子が基材9に向かってプラズマフレア8と共に流れる。その結果、基材9上に微粒子が堆積し、被膜が形成される。
次に、実際に製造を行った溶射材料の例(以下、「製造例」という。)を参照しつつ溶射材料の製造について説明する。図2は、溶射材料の製造の流れを示す図である。まず、微粒子としてセラミックス粒子または金属粒子が準備され、液状の樹脂として、常温硬化性を有する樹脂が準備される。常温硬化性を有する樹脂は、常温(例えば、気温15〜35度の環境)にて硬化が自然に進行する樹脂である。
製造例にて使用された微粒子は、平均粒径が200nmのジルコニア粒子(共立マテリアル株式会社製、商品名「KZ−8YF」)である。ここでの平均粒径は、レーザ回折・散乱法により求めた粒度分布から算出されるメジアン径(d50)である。以下の説明では、当該ジルコニアの微粒子を単に「微粒子」という。
微粒子の材料は、上述のジルコニア(ZrO2)には限定されず、様々に変更されてよい。例えば、微粒子のセラミックス材料としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ムライト(Al2O3・SiO2)、酸化ジルコニウム、ジルコン(ZrO2・SiO2)、フォルステライト(2MgO・SiO2)、ステアタイト(MgO・SiO2)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化イットリウム、酸化銀、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化バリウム、等を含む酸化物および複合酸化物群;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、等を含む窒化物群;炭化ケイ素等を含む炭化物群;WC/C、WC/Ni、WC/CrC/Ni、WC/Cr/Co、CrC/NiCr、サイアロン(SiN4・Al2O3)等を含むサーメット群の中から選択された一種または複数種が利用可能である。
金属の場合の微粒子の材料としては、アルミニウム、銅等の様々な金属が利用可能である。微粒子の材料として、複数種類の金属が混合されてもよい。さらに、微粒子の材料として、セラミックスと金属とが混合されてもよい。
微粒子の平均粒径も様々に変更されてよい。ただし、微粒子の平均粒径は、溶射装置1におけるエア搬送にて微粒子をそのまま扱うことが困難な程度に小さく、いわゆるナノ粒子のサイズである。具体的には、微粒子の平均粒径は、レーザ回折・散乱法または動的光散乱法による平均粒径が、25nm以上1000nm以下(25×10−9m以上1000×10−9m以下)である。微粒子の平均粒径が25nmを下回ると、樹脂中において単分散状態を保持できる微粒子の量が減少するために溶射材料の比重が小さくなり、プラズマフレアの中心部に供給することが難しくなる。また、微粒子の平均粒径が1000nmを上回ると、樹脂と混合する際に沈降しやすくなり、単分散状態を保持することが困難となる。好ましくは、平均粒径は、入手が容易な50nm以上500nm以下である。レーザ回折・散乱法による測定が困難な場合は、動的光散乱法により測定が行われてもよい。平均粒径は微粒子の製造メーカが示すものをそのまま採用してもよい。
製造例では、液状の常温硬化性樹脂として、主剤と硬化剤(いわゆる、触媒)とを混合することにより常温にて硬化が進行する多成分型樹脂(いわゆる、2液性樹脂)が利用される。当該2液性樹脂は、常温および常温よりもある程度高い温度範囲(例えば、常温以上かつ常温よりも約10度高い温度以下の温度範囲)において、温度上昇により硬化が促進される。製造例にて使用された具体的な樹脂は、ポリエステル系の2液性樹脂(丸本ストルアス株式会社製、商品名「冷間埋込樹脂 No. 105」)である。常温硬化性樹脂としては、有機物を主体とするものであれば様々なものが使用されてよく、アクリル系樹脂やエポキシ系樹脂が使用されてもよい。また、常温硬化性樹脂として、湿気硬化型樹脂や溶剤揮散型樹脂が使用されてもよい。
溶射材料の製造では、まず、常温硬化性樹脂の主剤と硬化剤とが、容器内にて混合されて攪拌されることにより、常温硬化性を有する液状の樹脂が生成される(ステップS11)。液状の樹脂の温度は、例えば、約32度(℃)である。当該液状の樹脂中では、主剤と硬化剤とがおよそ均等に混合されており、樹脂の硬化が開始される。主剤と硬化剤との混合物の攪拌は、例えば、直径50mm、深さ80mmのプラスチック製容器内において攪拌棒を利用して手動で行われる。
続いて、上述の微粒子が、ステップS11にて生成された液状の樹脂中に分散される(ステップS12)。図3は、ステップS12の詳細な流れを示す図である。ステップS12は、図3に示すステップS121〜S123を備える。ステップS12では、まず、上記容器内の常温硬化性を有する液状の樹脂に、上述の微粒子が添加されて中間物質が得られる。中間物質に含まれる微粒子の割合は、例えば、約40体積%である。そして、容器内の中間物質が、予め定められた単位攪拌時間だけ攪拌される(ステップS121)。
ステップS121における中間物質の攪拌は、例えば、自転および公転を伴う攪拌・脱泡装置により行われる。攪拌・脱泡装置における攪拌・脱泡の条件は、自転は350rpm、公転は1060rpmである。また、単位攪拌時間は、例えば、30秒である。ステップS121では、中間物質の温度が、微粒子の摩擦や攪拌・脱泡装置等に起因する熱により上昇する。ステップS121終了後の中間物質の温度は、例えば、約45〜50度である。ステップS121の実行中も、中間物質中の常温硬化性樹脂の硬化は進行し、温度上昇により促進される。
ステップS121が終了すると、中間物質が収容された容器が攪拌・脱泡装置から取り出され、中間物質が冷却される(ステップS122)。ステップS122では、中間物質は、例えば、常温よりも低温の冷媒により冷却される。当該製造例では、中間物質が収容された容器を常温よりも低温の流水または氷に接触させることにより、中間物質の急速冷却が行われる。換言すれば、中間物質は、常温よりも低温の流水または氷に、容器を介して間接的に接触する。これにより、中間物質中の常温硬化性樹脂の硬化が抑制される。
ステップS122における中間物質の冷却は、例えば、中間物質の温度が、予め定められた攪拌再開温度になるまで行われる。攪拌再開温度は、例えば、常温よりも約10度高い温度以下の温度であり、具体的には約40〜45度である。ステップS122における中間物質の冷却は、例えば、予め定められた冷却時間だけ行われてもよい。冷却時間は、例えば、約60秒である。
ステップS122が終了すると、液状の樹脂への微粒子の添加以降に行われた中間物質の攪拌時間の合計(以下、「合計攪拌時間」という。)が、予め定められた必要攪拌時間と比較される(ステップS123)。必要攪拌時間は、単位攪拌時間よりも長い。必要攪拌時間は、例えば、600秒である。そして、合計攪拌時間が必要攪拌時間未満である場合、ステップS121に戻り、中間物質の単位攪拌時間の攪拌、および、攪拌後の中間物質の冷却(ステップS121,S122)が行われる。
ステップS12では、中間物質の合計攪拌時間が必要攪拌時間以上となるまで、ステップS121,S122が繰り返される。これにより、いわゆるナノ粒子である微粒子を均等に単分散させたナノスラリーが得られる。必要攪拌時間は、例えば、約600秒である。必要攪拌時間は、例えば、実験により求められた中間物質の粘度特性の経時変化に基づいて定められる。具体的には、例えば、合計攪拌時間を変化させた場合の攪拌速度と剪断応力との関係を実験により求め、粘度曲線に現れるヒステリシスの状態がほとんど変化しなくなる合計攪拌時間、または、当該合計攪拌時間に予め定められたマージン時間を加えたものが必要攪拌時間とされてもよい。あるいは、中間物質のチクソトロピー性の経時変化が現れなくなる合計攪拌時間、または、当該合計攪拌時間に予め定められたマージン時間加えられたものが必要攪拌時間とされてもよい。
ここで、ナノスラリー中の微粒子の体積比率は様々に変更可能であるが、体積比率が低ければ溶射による成膜速度が遅くなり、成膜効率が低下する。体積比率の上限は、粒径、粒子間に入り込む溶媒分子の大きさに依存する。すなわち、例えば粒径が理想的に150nmの球体で、溶媒分子の厚さが15nm、各粒子が六方最密格子の格子点上に配置した場合では、約51%の充填率が最大となる。したがって、微粒子と溶媒の条件により充填率の最大値が変化する。ただし、実際には微粒子は有意な範囲で粒度分布を持っており、理想的な配置に収まることがないため、現実の充填率は理論値とは異なる。
ステップS12にて生成された混合物であるナノスラリーは、容器から取り出される。ナノスラリー中では、常温硬化性樹脂の硬化がある程度進行しており、ナノスラリーは柔らかい餅状となっている。したがって、容器内のナノスラリーを一体的に扱うことができる。仮に、常温硬化性樹脂に代えて熱硬化性樹脂を利用したとすると、ステップS12にて生成される混合物はホイップクリーム状となり、一体的に扱うことが容易ではない。これに対し、上述のように液状の樹脂として常温硬化性樹脂を使用することにより、ナノスラリーを一体的に扱うことができ、容器からのナノスラリーの取り出しを容易に行うことができる。また、ナノスラリーの取り出しの際に、ナノスラリーの一部が容器内に付着して残留することを防止(または抑制)することができるため、溶射材料の歩留まりを向上することもできる。
容器から取り出されたナノスラリーは、例えば、パラフィン紙上にて薄く伸ばされて成形される。そして、時間経過に従って常温硬化性樹脂が硬化することにより、ナノスラリーが微粒子の単分散状態を保ったまま硬化物となる(ステップS13)。図4は、当該硬化物の断面を走査型電子顕微鏡により観察したものである。図4から、当該硬化物では、微粒子が互いに接触せずに単独で独立した状態で分散した単分散状態になっていることを確認することができる。
上述の硬化物(すなわち、ステップS12で得られた混合物が硬化した硬化物)は、例えば、手動破砕機や振動式のミルを用いて粉砕される。粉砕後の硬化物(以下、「粉砕物」ともいう。)は、篩を用いて分画される。これにより、上述の微粒子よりも粒径が大きい粒子である溶射材料が得られる(ステップS14)。本実施の形態では、粉砕後の硬化物は、予め定められた目標粒度範囲である45μm以上106μm未満(45×10−6m以上106×10−6m未満)の粒度範囲で分画される。
粒度範囲は、溶射装置1にて利用可能であれば様々に変更されてよい。粒度範囲は、分画に使用する篩の目開きにより定義可能である。硬化物の粉砕により得られる粒子の粒径は、含有する微粒子よりも大きいのであれば様々に決定されてよく、好ましくは、粒度範囲は、1μm以上120μm以下(1×10−6m以上120×10−6m以下)の間で適宜決定されてよい。さらに好ましくは、粉砕された粒子の粒径は、微粒子の粒径の5倍以上であり、溶射装置にて容易にエア搬送を行うという観点からは、5μm以上120μm以下である。
図5は、ステップS14の詳細な流れの一例を示す図である。ステップS14は、図5に示すステップS141〜S145を備える。ステップS14では、まず、ステップS13で得られた硬化物が、手動破砕機により粗粉砕され、粒径が400μm未満の粉砕物となる(ステップS141)。ステップS141にて得られた粉砕物は、106μmの目開きの篩上に投入され、篩振盪機を用いた振動ふるいにより分画される(ステップS142)。篩には、好ましくは、タッピングボールやタッピングブロック等のタッピング部材が粉砕物と共に入れられる。これにより、篩が目詰まりすることが抑制され、粉砕物の分画を効率良く行うことができる。篩上に残留した粒径が106μm以上の粒子(すなわち、残留物)は、ミルを用いて再粉砕され(ステップS143,S144)、当該篩を用いて再度分画される(ステップS142)。そして、全ての粉砕物の粒径が106μm未満となるまで、ミルによる粉砕、および、篩による分画が繰り返される(ステップS142〜S144)。
続いて、ステップS142〜S144にて得られた粉砕物が、45μmの目開きの篩上に投入され、篩振盪機を用いた振動ふるいにより分画される。篩には、上記と同様に、タッピング部材が粉砕物と共に入れられることが好ましい。これにより、篩が目詰まりすることが抑制され、粉砕物の分画を効率良く行うことができる。そして、篩上に残留した粒径が45μm以上(かつ106μm未満)の粒子が、目標粒度範囲内の粒子である溶射材料として得られる(ステップS145)。また、篩を通過した粒径が45μm未満の粒子(すなわち、粒径が目標粒度範囲未満の粒子)である過粉砕粒子は、回収され、後述する2回目以降の溶射材料の製造において利用される。過粉砕粒子の粒径は、微粒子の粒径以上であり、通常は微粒子の粒径よりも大きい。過粉砕粒子内においても、微粒子は均等に分散している。ステップS145において篩により溶射材料から分離された過粉砕粒子は、凝集した状態で回収される。
なお、ステップS14では、上述のステップS141にて得られた粉砕物の粒径が400μm未満となっていることを確認するために、ステップS141とステップS142との間にて、当該粉砕物が400μmの目開きの篩上に投入され、篩振盪機を用いた振動ふるいにより分画されてもよい。仮に、当該篩上に粉砕物が残留する場合、残留した粉砕物は、粒径が400μm未満となるまでミル等により粉砕される。
ステップS144におけるミルによる粉砕は、例えば、所定の粉砕時間だけ行われる。硬化物の当該粉砕時間は、ステップS144にて得られる溶射材料および過粉砕粒子の割合(すなわち、ステップS144にてミルに投入される硬化物に対する割合)に基づいて予め決定される。具体的には、粉砕時間を変更しつつ硬化物の粉砕が行われ、複数種類の粉砕時間にそれぞれ対応する粉砕物の粒度分布が測定される。これにより、複数種類の粉砕時間にそれぞれ対応する溶射材料および過粉砕粒子の割合が求められる。粉砕時間が長くなるに従って溶射材料および過粉砕粒子の割合は増加し、粉砕時間が短くなるに従って溶射材料および過粉砕粒子の割合は減少する。
溶射材料の製造では、1回のステップS144にて得られる溶射材料の量を増大させてステップS144の繰り返し回数を減少させることにより、製造作業の効率向上が求められる。また、1回のステップS144で生成される過粉砕粒子の量を抑制することにより、ステップS14にて得られる溶射材料の硬化物全体に対する割合(すなわち、溶射材料の歩留まり)の向上も求められる。これらの要求を両立する適切な粉砕時間が、ステップS144における粉砕時間として決定される。ステップS144における粉砕時間は、例えば、40秒である。
図6は、溶射装置1による溶射の流れを示す図である。上述のステップS11〜S14の製造方法にて製造された溶射材料が準備されると(ステップS21)、当該溶射材料が材料貯溜部13に充填される。(ステップS22)。その後、当該溶射材料を用いてプラズマ溶射が行われる。これにより、加熱された微粒子が基材9上で結合し、基材9上に被膜が形成される(ステップS23)。基材9上では、微粒子が溶融結合し、緻密な被膜が形成される。微粒子は半溶融状態で基材9に到達するように条件が設定されてもよく、この場合は、多孔質状の被膜が形成される。
以上のように、セラミックスまたは金属の微粒子を含む樹脂の粒子を溶射材料として用いることにより、従来と同様の構造を有する溶射装置を利用しつつ、従来扱うことが困難であった、いわゆるナノ粒子と呼ばれる大きさの微粒子であっても、この微粒子を用いて容易に溶射を行うことができる。その結果、溶射に要するコストの増大を抑えることができ、かつ、溶射作業の効率低下も防止される。すなわち、長大物であっても溶射技術により高い生産速度で施工が可能となる。さらに、ナノ粒子の利点を活かしたナノコンポジット材料やナノポーラス材料等の物理的・化学的特性を飛躍的に向上させた材料を工業材料として利用することも実現される。
上述のように、溶射材料の製造では、ステップS12(樹脂中への微粒子の分散)において、常温硬化性を有する液状の樹脂に微粒子が添加された中間物質が、予め定められた単位攪拌時間だけ攪拌された後、中間物質が冷却される(ステップS121,S122)。そして、中間物質の合計攪拌時間が必要攪拌時間以上となるまで、ステップS121,S122が繰り返される(ステップS123)。
仮に、上述の中間物質を必要攪拌時間だけ連続して攪拌したとすると(すなわち、1回の攪拌で必要攪拌時間だけ攪拌したとすると)、攪拌時に中間物質の温度が過度に上昇するため、微粒子の分散が不十分な状態で樹脂が硬化してしまう。微粒子の分散が不十分な硬化物を粉砕した粒子を溶射材料として使用したとすると、基材上に均一な被膜を作ることは難しい。これに対し、上述の溶射材料の製造では、ステップS12においてステップS121〜S123が行われることにより、微粒子の分散前に液状の常温硬化性樹脂が硬化することを抑制し、微粒子が常温硬化性樹脂中に単分散状態にて分散した溶射材料を容易に製造することができる。また、液状の樹脂として常温硬化性を有するものが使用されることにより、微粒子が単分散状態にて分散した中間物質を硬化させる際に、中間物質を加熱したり、中間物質に光を照射する必要がないため、溶射材料をさらに容易に製造することができる。
ステップS122では、中間物質を常温よりも低温の冷媒(例えば、流水または氷)により冷却することにより、中間物質の迅速な冷却を容易に実現することができる。これにより、単位攪拌時間だけ攪拌された後の中間物質の硬化の進行を抑制することができる。また、中間物質を冷媒に間接的に接触させることにより、中間物質をさらに迅速に冷却することができ、攪拌後の中間物質の硬化を、より一層抑制することができる。さらに、ステップS122では、中間物質の温度が攪拌再開温度になるまで中間物質の冷却が行われる。このため、冷却後に中間物質が再度攪拌される際に、中間物質の温度が過度に上昇して硬化が過度に進行することを抑制することができる。
上述の溶射材料の製造では、ステップS12における微粒子の樹脂への添加よりも前に、常温硬化性樹脂の主剤と硬化剤とが混合されて攪拌されることにより、常温硬化性を有する液状の樹脂が生成される(ステップS11)。このように、微粒子を添加するよりも前に主剤と硬化剤とが攪拌されて液状の樹脂が生成されることにより、材質が略均等な常温硬化性樹脂中に、微粒子を略均等に分散させることができる。
実際の溶射材料の製造では、ステップS11〜S14の工程が繰り返される。図7は、2回目以降の溶射材料の製造の流れの一部を示す図である。2回目以降の溶射材料の製造では、実施済みの溶射材料の製造のステップS14における硬化物の粉砕時に得られた過粉砕粒子も、ステップS12において液状の樹脂中に添加して分散させる。それ以外の製造の流れは、図2、図3および図5に示すステップS11〜S14と略同様である。
具体的には、2回目以降の溶射材料の製造では、まず、常温硬化性樹脂の主剤と硬化剤とが、容器内にて混合されて攪拌されることにより、常温硬化性を有する液状の樹脂が生成される(ステップS11)。続いて、ステップS11にて生成された液状の樹脂中に微粒子および過粉砕粒子が分散される(ステップS12)。
詳細には、ステップS12では、まず、図3に示すように、常温硬化性を有する液状の樹脂に、上述の微粒子が添加されて中間物質が得られ、当該中間物質が単位攪拌時間だけ攪拌される(ステップS121)。中間物質に含まれる微粒子の割合は、1回目の溶射材料の製造と同様に、約40体積%である。ステップS121が終了すると、中間物質が冷却される(ステップS122)。そして、中間物質の合計攪拌時間が必要攪拌時間と比較され、合計攪拌時間が必要攪拌時間以上となるまで、ステップS121,S122が繰り返される(ステップS123)。
合計攪拌時間が必要攪拌時間以上となり、中間物質中における微粒子の分散が終了すると、実施済みの溶射材料の製造にて得られた過粉砕粒子が当該中間物質(すなわち、液状の樹脂と微粒子とが混合されたもの)に添加される。添加される過粉砕粒子は、上述のように、凝集した状態である。2回目以降の溶射材料の製造において、中間物質に添加される過粉砕粒子は、好ましくは、直前の溶射材料の製造のステップS14(例えば、2回目の溶射材料の製造では、1回目の溶射材料の製造におけるステップS14)において得られた全ての過粉砕粒子である。過粉砕粒子の添加後の中間物質に対する過粉砕粒子の割合は、例えば、約30重量%以下であり、本実施の形態では、約20重量%である。
続いて、液状の樹脂に微粒子および過粉砕粒子が添加された中間物質が、予め定められた単位攪拌時間だけ攪拌される(ステップS124)。ステップS124における単位攪拌時間は、上述のステップS121における単位攪拌時間と同じであってもよく、異なっていてもよい。ステップS124における中間物質の攪拌は、例えば、ステップS121と同様の攪拌・脱泡装置により行われる。
ステップS124が終了すると、中間物質が冷却される(ステップS125)。ステップS125における中間物質の冷却は、例えばステップS122と同様に、常温よりも低温の冷媒(流水または氷等)により、中間物質の温度が予め定められた攪拌再開温度になるまで行われる。ステップS125における中間物質の冷却は、例えば、予め定められた冷却時間だけ行われてもよい。ステップS125における攪拌再開温度および冷却時間はそれぞれ、ステップS122における攪拌再開温度および冷却時間と同じであってもよく、異なっていてもよい。
2回目以降の溶射材料の製造では、ステップS124における中間物質の合計攪拌時間が必要攪拌時間と比較され、合計攪拌時間が必要攪拌時間以上となるまで、ステップS124,S125が繰り返される(ステップS126)。ステップS124における合計攪拌時間、および、ステップS126における必要攪拌時間はそれぞれ、ステップS121における合計攪拌時間、および、ステップS123における必要攪拌時間と同じであってもよく、異なっていてもよい。
ステップS12(すなわち、ステップS121〜S126)にて生成された混合物であるナノスラリーは、図2に示すように、時間経過に従って常温硬化性樹脂が硬化することにより硬化物となる(ステップS13)。当該硬化物では、微粒子および過粉砕粒子が単分散状態となっている。図8は、当該硬化物の断面を走査型電子顕微鏡により観察したものである。また、図9は、1回目の溶射材料の製造において生成された硬化物(すなわち、過粉砕粒子を含まない硬化物)の断面を、図8と同様に観察したものである。図8中の周囲よりも濃い部分は過粉砕粒子である。図8から、2回目以降の溶射材料の製造において生成された硬化物では、過粉砕粒子が互いに接触せずに単独で独立した状態で分散した単分散状態になっていることを確認することができる。
図10および図11はそれぞれ、図8および図9の一部を拡大して示したものである。図10では、1つの過粉砕粒子の一部を含む領域を示す。図10中の実線71が、過粉砕粒子と周囲の部位との境界を示し、実線71よりも左下側の部位が過粉砕粒子に対応する。図10から、過粉砕粒子に含まれる微粒子と、過粉砕粒子以外の周囲の部位に位置する微粒子とが、およそ同様に均等に分散していることがわかる。また、図10および図11から、液状の樹脂に過粉砕粒子を添加した場合も、過粉砕粒子を添加しない場合とおよそ同様に、微粒子が均等に分散していることがわかる。
ステップS13にて得られた硬化物は、例えば、手動破砕機や振動式のミルを用いて粉砕される。粉砕後の硬化物は、篩を用いて分画される。これにより、粒径が目標粒度範囲(例えば、45μm以上106μm未満)である溶射材料が得られる(ステップS14)。
2回目以降の溶射材料の製造において、ステップS13にて得られた硬化物(すなわち、過粉砕粒子を含む硬化物)に対するステップS14にて得られる溶射材料および過粉砕粒子の重量割合は、過粉砕粒子を含まない硬化物からステップS14にて得られる溶射材料および過粉砕粒子の重量割合とおよそ同様である。具体的には、硬化物が過粉砕粒子を含まない場合の溶射材料および過粉砕粒子の重量割合が約64%および約29%であるのに対し、硬化物が過粉砕粒子を含む場合の溶射材料および過粉砕粒子の重量割合は約67%および約27%である。したがって、過粉砕粒子を含む硬化物がステップS14にて粉砕される際に、過粉砕粒子が硬化物から剥離する等して適切に粉砕されない等の現象は、ほとんど生じていないことがわかる。
2回目以降の製造により得られた溶射材料も、上述の図6と同様に、溶射装置1における溶射に使用される。すなわち、ステップS11〜S14の製造方法にて製造された溶射材料が準備され(ステップS21)、当該溶射材料が材料貯溜部13に充填される。(ステップS22)。その後、当該溶射材料を用いてプラズマ溶射が行われる。これにより、加熱された微粒子が基材9上で結合し、基材9上に被膜が形成される(ステップS23)。これにより、従来と同様の構造を有する溶射装置を利用しつつ、従来扱うことが困難であったナノ粒子レベルの微粒子を用いて容易に溶射を行うことができる。その結果、溶射に要するコストの増大を抑えることができ、かつ、溶射作業の効率低下も防止される。さらに、ナノ粒子の利点を活かしたナノコンポジット材料やナノポーラス材料等の物理的・化学的特性を飛躍的に向上させた材料を工業材料として利用することも実現される。
以上に説明したように、2回目以降の溶射材料の製造では、ステップS12において、液状の樹脂に微粒子を分散させることに加え、実施済みのステップS14における硬化物の粉砕時に得られた過粉砕粒子も、当該液状の樹脂中に添加して分散させることが行われる。このように、溶射装置1において溶射材料として使用するには小さい過粉砕粒子を、次回以降の溶射材料の製造において再利用することにより、微粒子および樹脂から製造される溶射材料の歩留まりを向上することができる。
過粉砕粒子を再利用しない溶射材料の製造では、硬化物のうち、過粉砕粒子および紛失粒子(すなわち、粉砕された粒子が製造室内の空調等により飛散して紛失したもの)を除くものが溶射材料として利用される。これに対し、上述の過粉砕粒子を再利用する溶射材料の製造では、硬化物のうち紛失粒子を除くものが溶射材料として利用されるため、紛失粒子の重量割合が約5%の場合、溶射材料の製造を複数回繰り返した後の溶射材料の歩留まりは約95%と大きく向上する。
ところで、溶射材料の製造において過粉砕粒子を再利用する他の方法として、例えば、過粉砕粒子に含まれる微粒子(本実施の形態では、ジルコニアのナノ粒子)を回収して、ステップS121にて液状の樹脂に混合する微粒子として再利用することが考えられる。この場合、過粉砕粒子を加熱したり、溶剤に溶かす等の工程が必要になるため、微粒子の回収に多大な労力が必要となる。また、回収工程における微粒子への異物の付着および混入を防止することは困難である。過粉砕粒子を再利用するさらに他の方法として、例えば、過粉砕粒子を集めて目標粒度範囲の粒子へと造粒することも考えられるが、造粒時に過粉砕粒子を溶解させる必要があり、溶解後の樹脂の再硬化は技術的に難しい。
これに対し、上述の溶射材料の製造では、ステップS12において液状の樹脂に微粒子および過粉砕粒子を分散させて再利用するため、過粉砕粒子の加熱や溶解等の工程が不要となり、過粉砕粒子の再利用を容易に行うことができる。また、過粉砕粒子の再利用工程において、過粉砕粒子内の微粒子に対する異物の付着および混入を防止することもできる。さらに、過粉砕粒子内における樹脂に対する微粒子の割合は、ステップS121における液状の樹脂に対する微粒子の割合と実質的に同じであるため、過粉砕粒子を再利用する2回目以降の製造で得られた硬化物および溶射材料における微粒子の割合は、過粉砕粒子を再利用しない1回目の製造で得られた硬化物および溶射材料における微粒子の割合と実質的に等しい。このため、いずれの時点で製造された溶射材料を使用した場合であっても、溶射装置1による溶射により基材9上に均一な被膜を形成することができる。
上述のように、2回目以降の溶射材料の製造では、ステップS12において、過粉砕粒子の液状の樹脂への添加(ステップS124)が、微粒子の当該液状の樹脂中への分散(ステップS121)後に行われる。これにより、過粉砕粒子が、微粒子の樹脂中への分散に影響を及ぼすことが防止される。また、過粉砕粒子の添加時には微粒子は樹脂中に単分散状態で分散しているため、過粉砕粒子の樹脂中への分散に対して微粒子が影響を及ぼすことを抑制することができる。その結果、微粒子および過粉砕粒子を共に、液状の樹脂中に容易に均等に分散させることができる。
上述のように、ステップS144における硬化物の粉砕時間は、ステップS14にて得られる溶射材料および過粉砕粒子の割合に基づいて予め決定される。これにより、1回のステップS144にて得られる溶射材料の量を増大させて製造作業の効率を向上させることができるとともに、1回のステップS144で生成される過粉砕粒子の量を抑制してステップS14にて得られる溶射材料の歩留まりを効率良く向上させることもできる。
2回目以降の溶射材料の製造では、ステップS12において液状の樹脂に添加される過粉砕粒子が、実施済みのステップS14において篩により溶射材料から分離されて凝集した状態である。このため、過粉砕粒子の回収や液状樹脂への添加等の際に、過粉砕粒子の取り扱いを容易とすることができる。また、ステップS14にて得られる過粉砕粒子が空調等により飛散して紛失することが抑制される。その結果、溶射材料の歩留まりをさらに向上することができる。
上述のように、ステップS12において液状の樹脂に添加される過粉砕粒子は、直前のステップS14において得られた全ての過粉砕粒子である。これにより、1回の溶射材料の製造において生成された過粉砕粒子を、以降の複数回の溶射材料の製造に亘って貯留および使用する必要がないため、溶射材料の製造を簡素化することができるとともに、溶射材料を効率良く製造することができる。
2回目以降の溶射材料の製造においても、1回目の溶射材料の製造と同様に、ステップS12において、常温硬化性を有する液状の樹脂に微粒子が添加された中間物質が、予め定められた単位攪拌時間だけ攪拌された後、中間物質が冷却される(ステップS121,S122)。そして、中間物質の合計攪拌時間が必要攪拌時間以上となるまで、ステップS121,S122が繰り返される(ステップS123)。これにより、微粒子の分散前に液状の常温硬化性樹脂が硬化することを抑制し、微粒子が常温硬化性樹脂中に単分散状態にて分散した溶射材料を容易に製造することができる。また、液状の樹脂として常温硬化性を有するものが使用されることにより、微粒子が単分散状態にて分散した中間物質を硬化させる際に、中間物質を加熱したり、中間物質に光を照射する必要がないため、溶射材料を、より一層容易に製造することができる。
さらに、2回目以降の溶射材料の製造では、ステップS12において、常温硬化性を有する液状の樹脂に微粒子および過粉砕粒子が添加された中間物質が、予め定められた単位攪拌時間だけ攪拌された後、中間物質が冷却される(ステップS124,S125)。そして、中間物質の合計攪拌時間が必要攪拌時間以上となるまで、ステップS124,S125が繰り返される(ステップS126)。これにより、過粉砕粒子の分散前に液状の常温硬化性樹脂が硬化することを抑制し、過粉砕粒子が常温硬化性樹脂中に単分散状態にて分散した溶射材料を容易に製造することができる。
図12は、溶射装置1aの他の例を示す図である。溶射装置1aは、2つの材料貯溜部13および2つの定量供給部31を有する。2つの定量供給部31から延びる搬送管32は、途中で合流する。2つの材料貯溜部13には異なる溶射材料がそれぞれ収納される。すなわち、2種類の溶射材料では、樹脂粒子に含まれる微粒子の材料が異なる。2種類の溶射材料はそれぞれ、上述の溶射材料の製造方法にて製造される。2種類の溶射材料の製造ではそれぞれ、好ましくは、過粉砕粒子の再利用(ステップS124〜S126)が行われる。いずれの材料貯溜部13からの溶射材料が溶射ガン11に供給されるかは、搬送管32上に設けられた2つの弁34およびエア供給部14の制御により決定される。溶射装置1aの他の構成は、図1の溶射装置1と同様であり、同様の構成要素には同符号を付す。
図13は、図12の溶射装置1aにて溶射を行う際の作業の流れを示す図である。上述の製造方法にて2種類の溶射材料が準備されると(ステップS31)、これらは2つの材料貯溜部13にそれぞれ充填される(ステップS32)。そして、一方の溶射材料を用いて溶射を行うことにより、基材9上に微粒子を結合させて被膜が形成される(ステップS33)。次に、他方の溶射材料を用いて溶射を行うことにより、ステップS33にて形成された既存の被膜上に、異なる種類の他の微粒子を結合させて他の被膜が形成される(ステップS34)。
このように、溶射材料に含まれる微粒子の材料を異なったものとすることにより、供給路の切り替えのみによる溶射材料の変更を容易に行うことが実現される。溶射装置1aでは、3以上の材料貯溜部13を設けて3種類以上の溶射材料により3層以上の被膜が積層されてもよい。また、2種類以上の被膜が繰り返し積層されてもよい。すなわち、溶射装置1aでは、複数種類の被膜を基材9上に容易に積層することができる。
上述の溶射材料の製造および溶射装置1,1aでは、様々な変更が可能である。
ステップS121,S124における中間物質の攪拌は、様々な装置により行われてもよく、攪拌棒等を利用して作業者が手動により行ってもよい。単位攪拌時間は、中間物質中の常温硬化性樹脂の硬化が過度に進行しない範囲で、適宜変更されてよい。ステップS122,S125における中間物質の冷却は、様々な方法により行われてよい。例えば、中間物質に向けて常温または常温よりも低温のガスを噴射することにより、中間物質が冷却されてもよい。また、中間物質の冷却は、中間物質が常温の大気中に放置されることにより行われてもよい。攪拌再開温度や冷却時間は、中間物質中の常温硬化性樹脂の硬化が過度に進行しない範囲で、適宜変更されてよい。
2回目以降の溶射材料の製造では、ステップS124にて液状の樹脂に添加される過粉砕粒子は、必ずしも、直前の溶射材料の製造において得られた全ての過粉砕粒子である必要はなく、当該過粉砕粒子の一部であってもよい。また、液状の樹脂に添加される過粉砕粒子は、複数回前の溶射材料の製造において得られた過粉砕粒子であってもよい。さらに、ステップS124では、凝集状態である過粉砕粒子が解砕された後、液状の樹脂に添加されてもよい。
2回目以降の溶射材料の製造では、ステップS12において、ステップS124〜S126(過粉砕粒子の分散)がステップS121〜S123(微粒子の分散)と並行して行われてもよい。この場合、まず、液状の樹脂に微粒子および過粉砕粒子がほぼ同時に混合され、微粒子および過粉砕粒子を含む液状の樹脂である中間物質が単位攪拌時間だけ攪拌される。続いて、中間物質の温度が攪拌再開温度になるまで、または、所定の冷却時間だけ、中間物質が冷却される。そして、中間物質の合計攪拌時間が必要攪拌時間以上となるまで、中間物質の攪拌および冷却が繰り返される。あるいは、ステップS124〜S126は、ステップS121〜S123よりも前に行われてもよい。いずれの場合であっても、過粉砕粒子を再利用して溶射材料を製造することにより、溶射材料の歩留まりを向上することができる。
上述の製造方法では、常温硬化性樹脂の主剤と硬化剤とが混合されて攪拌されることにより液状の樹脂が生成された後、当該液状の樹脂に微粒子が添加されるが、微粒子の添加は、主剤と硬化剤との混合と並行して行われてもよい。2回目以降の溶射材料の製造では、主剤と硬化剤との混合と並行して、微粒子および過粉砕粒子の添加が行われてもよい。
上述のように、溶射材料の製造が複数回繰り返される場合であっても、2回目以降の溶射材料の製造において、必ずしも過粉砕粒子が再利用されて液状の樹脂に添加される必要はない。
上記実施の形態における溶射は、基材上に被膜が形成された様々な溶射製品の製造に利用することができる。さらには、被膜部分のみを製品として利用することも可能である。溶射による微粒子の結合を焼結に留めてナノポーラス構造を形成する場合、溶射は、触媒の担体、各種電池電極、添加剤、フィルタ、機能性インク、半導体デバイス、遮熱コーティング、断熱カバー等の製造に利用することができる。粒子を溶融させて結合することにより緻密な構造を形成する場合、溶射は、例えば、防食コーティング、機械加工部品(カッター等)、耐熱部品(るつぼやボイラ管等)の製造に利用することができる。
溶射装置1,1aは、フレーム溶射またはレーザ溶射を行う装置であってもよく、溶射ガン11は、他のタイプの溶射ガンであってよい。換言すれば、上述の製造方法にて製造された溶射材料は、フレーム溶射またはレーザ溶射に用いられてもよい。当該溶射材料を用いてフレーム溶射またはレーザ溶射を行うことにより、加熱された微粒子を基材上にて結合させて被膜が形成される。いずれの溶射方法であっても、既存の装置をほとんど変更することなく、または、全く変更することなく、いわゆるナノ粒子を容易に溶射に利用することができる。
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。