本発明に係るエルボークラッチ1の実施形態を、図1乃至図21に示す。エルボークラッチ1は、図1に示すように、基本的な構成要素として、脚部4と腕部5と、ハンドグリップ6と、カフ部2とを備える。脚部4と腕部5を合わせた部分を以下便宜的にシャフト3という。脚部4は通常直線状であるが、必ずしも直線状である必要はなく歩行補助に適する範囲で適当に曲がっていてもよい。
シャフト3は、金属などの剛性の高い材料で形成された外見棒状であり実態は軽量化のため筒体が好ましい。ハンドグリップ6から下方の脚部4と、ハンドグリップ6から上方の腕部5に分かれている。脚部4には、図27(a)に示すように長さ調整部14が設けられていることが好ましい。長さ調節部14とは例えば脚部4の筒中に内筒を入れて二重筒とし内筒を出し入れして脚部4全体の長さを調節し、ネジ又はピン等で所望の長さに固定するものをいう。また脚部4の下の先端部には石突き9が付いていることが好ましい。シャフト3の脚部5の長さは、成人が使用する場合、脚部5の先を外側前方イ15cmのところに置いたときに肘関節が30度の屈曲したときの長さに設定するのが好ましい。この30度が最も力を出しやすい角度と一般的にいわれている。これにより、エルボークラッチ1を使用しているときには、肘関節はほとんど屈曲している状態になるが、肘関節が屈曲している方が地面からの衝撃の軽減や、エルボークラッチ1への荷重時に力を入れやすい等の効果がある。
また、シャフト3の腕部5は、脚部4に対して後方ロに傾斜させており、通常、腕部5は脚部4から「く」の字状に脚部4と腕部5のなす角が0〜数十度曲がっており、脚部4の軸と腕部5の軸とは1平面上にあるが、本実施例の場合、腕部5の脚部4に対する傾斜角であるサポート角は約10度である。腕部5を傾斜させることによって、使用者の前腕24が腕部5に沿いやすくなり使用者はエルボークラッチ1を操作しやすくなる。
ハンドグリップ6は、前記シャフト3の脚部4の上端であって腕部5との境目に前方イ側に突出する状態で固定されている。ハンドグリップ6は金属などの硬質材料の表面を樹脂などの軟質材料で覆い、握り心地の良い構成することが好ましい。
次に、カフ部2は、ハンドグリップ6の上方であってシャフト3の腕部5の上方で前方イ側に付設されている。
発明者は、一般的に杖の使用時に肘23が屈曲して上腕22部分が前傾していることに着目し、従来の杖の場合には患足20にかかる荷重を杖側に移動させるとすべてハンドグリップ6を握る手にかかっていたが、この手にかかる荷重を上腕22に分散させるという発想から本発明に至った。
該カフ部2には、開口部10を後方ロへ設けられ(上腕22の上腕三頭筋側が開口されて)、略水平断面が略U字形体で、側面視で前記略U字形体部の内壁面が使用者の上腕骨の骨幹部域の上腕二頭筋側、上腕二頭筋とは、腕を曲げたときによく浮き出る力こぶと呼ばれる部分であるが、この筋腹に接する部分を有する上部カフ部11が設けられている。
ここで、断面が略U字形体とは、軸方向に垂直な断面が略U字形体であって、U字の上方に相当する開口側から上腕22又は前腕24が容易に抜けうる開口幅を有し、U字の底部に相当する底部は開口側と反対側の上腕22又は前腕24の外周をできるだけ隙間なく包み込んで接触し、U字の左右に相当する側部は上腕22又は前腕24をしっかり保持できるようにできるだけ隙間なくされた、上腕22又は前腕24の断面外周に沿う形体であって、かつ、骨軸方向に長さを有する形状物をいう。したがって、U字形状の文字通り開口側の両側の内側面は平行であるものに限られず、開口部10に向けてやや狭くなる傾斜を有するもの、逆にやや広くなる傾斜を有するものも含まれる。換言すればU字形状とは、上腕22又は前腕24を囲繞する断面外周に沿う形体から、上腕22又は前腕24を出し入れする一方向に設けた開口部10を取り除いた形体である。上部カフ部11の上縁は肘より上の上腕骨の骨幹部に至っている必要があり、いわゆる力こぶの頂点以上の上側(肩側)で脇までの間にあることが好ましい。
上部カフ部11は、図15乃至図19に示すように、肘23から上方の上腕22の前側に当接させるようになっており、前述のように腕を曲げたときによく浮き出る力こぶと呼ばれる上腕二頭筋側の筋腹側に当接させるようにする。上部カフ部11は、図4(a)、(b)、図5(a)に示すように開口部10を後方ロへ設けた略水平断面が略U字形体であるので、歩行時に上部カフ部11の左右方向の側面がしっかりと上部カフ部11の前側を上腕二頭筋側に当接させることができる。これにより、歩行時、特に上半身が前傾し、肩より肘23が後ろにある場合に、上腕二頭筋側が上部カフ部11の内面(U字断面底部)を押すことで、後述する作用により手首にかかる負荷が軽減される。上部カフ部11は後方ロを開口させているので、腕をカフ部2に挿入しやすく、異常な外力が加わったときにも上腕22を上部カフ部11から抜きやすい。
また、本発明のエルボークラッチ1は、カフ部2の位置が従来品のロフストランドクラッチ60のカフ部の位置に比べて高い上腕22部分にあるため、体重心の動揺をより効率的に抑制することが出来る。つまり、動揺性に対する安定感に寄与している。そのため、使用者にとっての内外側方向への動揺を抑えることが出来る。このことにより、体重心は内外側方向へ動揺することなく、より安定した直進性を持った歩行を獲得することが出来る。
そして、カフ部2には、図2乃至図4、図15乃至図19に示すように、前記上部カフ部11の下方に、前腕24の尺骨側が接し、開口部10を橈骨側に前方イへ設けた略U字形状の形態を有する下部カフ部13が設けられている。下部カフ部13は、図5(c)に示すように開口部10を前方イへ設けた軸方向に垂直な断面が略U字形体を有する。
下部カフ部13は、前腕24の後方ロを支持する形態であり、かつ前腕24の内外両側を覆っているため、前額面に垂直な方向の前腕24の回転運動に対するトルクを効率よく受けることが出来る。このことにより離脱機構7に対して効率的に力を伝達することができる。下部カフ部13は、開口部10を前方イへ設けた略U字形体を有するので使用者が転倒時等に骨折などの被害に遭わないように、腕をシャフト3の腕部5から容易に離脱させることができる。下部カフ部13の下縁の位置は限られないが、肘23と手首の間であって、肘23から肘23と手首の間の距離の二分の一から三分の一程度が好ましい。短いと、上部カフ部11の位置ずれ防止効果が十分でなく、また、前腕24に負荷を分散する効果も発揮しがたい。長すぎるとエルボークラッチ1の操作がしにくくなる。
更に、下部カフ部13は、上部カフ部11に対する荷重のカウンターとして作用している。つまり、上部カフ部11に掛かる荷重は、上下カフ接続部12を介して下部カフ部13によって腕部5へと伝達されることから、下部カフ部13は、腕部5への力の伝達効率に寄与している。
さらに、カフ部2には、図2乃至図4、図15乃至図19に示すように、上部カフ部11と下部カフ部13とを連結する、使用者の肘23の左右側の両側又は片側に接する上下カフ接続部12を設ける。上下カフ接続部12は、上部カフ部11の下方で下部カフ部13の上方に、側面視で使用者の肘23の周部に、図5(b)に示すように開口部10を前後方向イ、ロに設け、使用者の肘23の左右側の両側又は片側に、前記上部カフ部11の略側面形状を前記上部カフ部11下端から下方に延設させた形体を有する。
上下カフ接続部12は、後方ロが開口した上部カフ部12と、前方イが開口した下部カフ部13とを接続させて上部カフ部11をしっかりと支持する。上下カフ接続部12は、少なくとも前後方向イ、ロを開口させているので、腕を上部カフ部11から下部カフ部13に挿入しやすく、異常な外力が加わったときに上腕22及び前腕24をカフ部2から抜きやすい。上部カフ部11と下部カフ部13とが、使用者の肘23の左右側の両側又は片側に接する上下カフ接続部12で連結されていると、側面視で使用者の肘23の前方イ、後方ロともに開口がされているため、肘23を曲げることが自由にできるため、例えば、手をハンドグリップ6から外して肘23で屈曲させた状態にして、自販機からの物品の購入や券売機からの切符の購入などの作業をすることが容易にできる。
カフ部2は、上方から下方に向けて、上部カフ部11、上下カフ接続部12、下部カフ部13からなる構成を備えることが好ましい。相互に接続固定されてもよいが、一体的に製造されることが、強度や、接続面がなく平滑になる等のためより好ましい。カフ部2は、上腕22のみならず、肘23、前腕24に接する部分においても使用者の腕にできるだけ隙間なく沿うような対応した形状に形成することが好ましい。このためには使用者の上腕22から前腕24にかけてギブス包帯を巻いて型をとり、その型から石膏モデルを作成し、さらに当該石膏モデルをもとに作製した鋳型にアクリル樹脂、エポキシ樹脂等の高分子材料を流し込んで形成したり、FRPやc−FRP等の複合材により積層して硬化させ形成することができる。また寸法は個人よって異なるため、カフ部2は採寸して腕の形状にできるだけ合わせたものが好ましいが、大凡L、M、S等のサイズの既製品のカフを用い、カフ部2と上腕22、前腕24との間に、適宜な厚さのクッション材等をかませて使用してもよい。このことは、怪我の直後から本発明であるエルボークラッチ1を使用する場合等において、腕に合わせたカフが迅速入手不可能な場合等に有用である。
前記シャフト3の脚部4の長さは、前腕24と上腕22とは肘関節30度屈曲の肢位で調整されるため、シャフト3の腕部5の長手方向に対して、前方イに約30度傾斜させている。このことにより、肘関節には自然な姿勢を保持することが出来る。また、シャフト3の腕部5は脚部4の長手方向に対して後方ロに約10度の傾斜をさせている。
次に、シャフト3の腕部5とカフ部2とを連結させる機構について説明する。連結させるに当たって、安全に離脱するための離脱機構7や使い勝手をよくするための角度等を調整するカフ部姿勢調整機構8が用いられることが好ましい。
離脱機構7について説明する。離脱機構7は、カフ部2と腕部5とを接続しているが、前記カフ部2と前記腕部5との間のねじれ方向の荷重が所定値を上回った場合等の異常時に、カフ部2と腕部5とを緊急的に分離する機構である。離脱機構7とは、一の物体と他の物体とを接合するために用いられ、異常な力がかかった場合に一の物体と他の物体とを瞬時に破損することなく分離できる接合構造の1種であって、離脱機構7は本体と本体から離脱可能な離脱部分とを備え、離脱部分が本体に仮嵌合する等により仮固定されており、本体と離脱部分の間に所定値以上の力がかかったときに、離脱部分が本体から離脱するようにされているものをいう。所定値以上の力は特定方向からの力のみに限定することもできる。
離脱機構7の例として、自転車のペダル用ビンディングである、株式会社シマノの製品:SPD−SL ペダル 型番:PD−5800と同じく株式会社シマノの製品:SPD−SLクリート 型番:SM−SH10を組み合わせたものを転用して用いた。使用時には自転車に取り付けたペダル中の凹部に、使用者の靴裏に取り付けたクリートを、靴を踏み込むことによりクリートの凸部を嵌合させて靴とペダルを一体化して固定し、効率よくペダルを回転できるようになっており、非常時等には足首を回転させてクリートをペダルからはずすことにより、足をペダルから離せるようになっているものである。
ハンドグリップ6より上方かつ斜め後方ロに前記脚部4を延長させて屈曲させた部分である腕部5の上部と、及び前記下部カフ部13の略U字形体の後側との間の連結部分に、離脱機構7を設置する。離脱機構7としては前記腕部5と前記下部カフ部13との間に加わるねじれ方向の荷重、すなわち腕部5と下部カフ部13との締結面が相互に回転する方向にかかる荷重、が所定値を上回ったときに、前記腕部5から前記下部カフ部13を離脱させる機構が挙げられる。その他腕の前後方向にかかる荷重が腕部5と下部カフ部13との締結面に及ぼす荷重については、通常締結面にかかる荷重方向であるので転倒や衝突等の衝撃時には体重の数倍以上の荷重がかかれば離脱するようにされていることが好ましい。
離脱機構7は、エルボークラッチ1を使用中に、例えば、腕部5と下部カフ部13との間に加わるねじれ方向の荷重が所定値を上回ったときに、カフ部2を腕部5から離脱させるものであって、スプリング等の弾性体によって付勢力を有する係止手段によって2つの部材を連結させておき、所定以上の荷重が加わったときに係止手段の付勢力に打ち勝って係止手段が緩み又は開放し2つの部材が離脱する構造であることが好ましい。
例えば、図6乃至図9、図面代用写真図31に示すように、カフ部姿勢調整機構8の直上に設けた第一離脱部材41と、カフ部2の後面に設けた第二離脱部材42とで構成され、第一離脱部材41と第二離脱部材42とで嵌合させて使用する。本例では第一離脱部材41が本体に相当し、第二離脱部材42が離脱部分に相当する。因みに第一離脱部材41には前述のペダルを、第二離脱部材42には前述のクリートを用いた。クリートは平面状の固定面を有しており、下部カフの後壁面の体側側にクリートをねじを用いて取り付けた。したがってカフ部2から離脱機構7を介して腕部5には体側側の位置から荷重がかかることになる。
第一離脱部材41はその一端側に孔部41aを有し、他端側に顎形状でバネ等の弾性体で押さえ方向に付勢力を有する第一突起部41bを備える。第二離脱部材42は、第一離脱部材41の孔部41aに嵌入して係止する孔係止部42aと、第一突起部41bに係合して押さえ込まれる第二突起部42bを有する。
そして、図9に示すように、使用者の腕の方向である、腕部5の長手方向やカフ部2の長手方向に対して、第一離脱部材41の孔部41aと第一突起部41bを結ぶ方向や、第二離脱部材42の孔係止部42aと第二突起部42bとを結ぶ方向を垂直方向に取り付ける。そして、腕部5と下部カフ部13との間に加わるねじれ方向の荷重が、第一突起部41bの第二突起部42bを抑える付勢力を上回ったときに、第一離脱部材41と第二離脱部材42とが離脱する。なお、腕部5等に対する離脱機構7の取付方向はいずれの方向でもよい。
また、本発明にかかるエルボークラッチ1が、カフ部2が離脱機構7により着脱可能に設けられている場合には、離脱機構7の本体と離脱可能な離脱部分の互換的共通化を行えば、既製品としてのL、M、Sサイズのカフあるいは、個人に合わせて作成したカフのカフ部2に接続された本体又は、離脱部を一体として、交換が可能となるため、使用者の必要に応じてカフ部2の交換が容易である。
下部カフ部13の後壁面の体側側に腕部5との接合のため離脱機構7を配設すれば、歩行時に離脱機構7が嵩張らず、周囲への本エルボークラッチ1の接触などを防止する効果を奏し、歩行時に身体に離脱機構7が接触しにくく邪魔になりにくい。また、杖を使用した歩行時のバランスを崩すと離脱機構7にねじれトルクが発生する。使用者にとってバランスを崩しやすい方向は、左右方向と前後方向であることから、ねじれトルクを正確に作動させるために離脱機構7を左右方向と前後方向の両方に反応するような位置に配置する必要がある。側壁面は、前後方向のトルクに正確に反応し、後壁面は、左右方向のトルクに正確に反応する。このことから、本発明であるエルボークラッチ1は、水平面上の側壁面と後壁面との遷移位置に配置すれば両方向のねじれトルクに反応しやすく、体側側に腕部5との接合のため離脱機構7を配設すれば、歩行時に身体に離脱機構7が接触しにくく邪魔になりにくいため、図8(b)のように身体方向ハの側壁面方向寄りに設置することが良い。図8(b)において、平面視で離脱機構7の前後方向に対する取付角度である角度φは0度〜45度である。好ましくは、上記のねじれトルクに対する反応のし易さ及び省スペース化のため10度〜45度であり、より好ましくは20度〜45度である。
次に、カフ部姿勢調整機構8の説明に入る前にそもそも本発明のエルボークラッチ1の各部品のあるべき三次元配置につき説明する。
従来のロフストランドクラッチ60は、カフ部61とハンドグリップ61と杖先15は使用者がハンドグリップ61を握った状態で一直線上にあった。しかし、人間の肘関節は生理的な外反を有しており、手関節の部分と上腕部分は一直線上ではない。このため、手関節の背屈でハンドグリップ部分とカフ部分の位置関係を調整しないとカフ部分が片当たりの状態となり、しっかりとした安定感を得ることが出来ない。このことから、手関節の背屈無しでは使用者の意図する位置に杖先15を置くことが出来ない。
これに対し本発明のエルボークラッチ1は、使用者が自然な肘23の角度で手首を背屈することなく、杖先15を突きたいと思う位置に突くための角度のものであることが好ましい。さらに荷重を手首から分散し、身体に無理なく使用でき、杖先15の指定操作が容易で、バランスを崩したとき等の非常時においても安全であるような全体の構造になっているべきである。このためには、エルボークラッチ1の各部品の三次元的配置が適切であることが必要十分条件である。このような理想的に配置された形状のものであれば、カフ部姿勢調整機構8は必ずしも必要とはしない。以下カフ部姿勢調整機構8による調整を要せずとも各部品の三次元的配置が適切であるクラッチを実施例2として説明する。
エルボークラッチ1の各部品の三次元的配置が適切であるとは、カフ部2、ハンドグリップ6、杖先15の三次元的相対的位置関係が以下のように配置されていることであり、使用者の肘角などの体格に角度設定を合わせることで使用者の上肢の関節が自然な肢位でも手関節背屈をさせなくとも使用者が意図する場所に杖先を配置できることであり、使用者の腕の形状に合わせたカフ部2の形状を有することである。
人間の肘は、図32(a)に示すように、腕を降ろして手のひらを正面に向けると肘から先が身体から離れるという生理的な外反を伴っている構造であるため上腕骨長軸(図32(a)において直線で示す。)と前腕骨長軸(図32(a)において点線で示す。)は、直線的な関係ではない。上腕骨長軸と前腕骨長軸とのなす角度を肘角と言い成人男性で約10度である。この肘角の角度αは、小児や女性では大きく約15度である。
そのため、従来のロフストランドクラッチ60のようなハンドグリップ61を握る際、前腕部分は図32(b)のように、前腕部分の回内により中間位をとる。この場合も、上腕骨長軸(図32(b)において直線で示す。)と前腕骨長軸(図32(b)において点線で示す。)に同様な角度βが生じる。
更に、従来のロフストランドクラッチ60のようなハンドグリップ61を握る際、矢状面も同様に上腕骨長軸(図32(c)において直線で示す。)と前腕骨長軸(図32(c)において点線で示す。)に角度γが生じている。
これらの角度α、β、γを考慮しない場合、上腕部より掛かる荷重がハンドグリップ6部分においてモーメントの発生原因となり、それにより不安定感が生じる。これは、ハンドグリップ6を握る手関節への負担につながると考えられる。
したがって、前記角度α、β、γを考慮した、単純な、すなわち離脱機構7、カフ部姿勢調整機構8を含まずに、脚部4、ハンドグリップ6、腕部5、上部カフ部11と下部カフ部13が一体となったカフ部2を備えるエルボークラッチ1の全体像を、図27(a)乃至(f)及び図28に示す。図27(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は右側面図、(d)は左側面図、(e)は平面図、(f)は底面図を示している。図28は、本発明のエルボークラッチ1の全体の形態を6面図に表したものである。
なお、本実施例2において脚部4には長さ調整部14が設けられている。エルボークラッチ1が使用者に対しその体格等に合わせたカスタムメイドであれば長さ調整部14は必要ないが、エルボークラッチ1がレディーメイドであれば、極く簡易な操作で体格等に合わせた調整ができ便利なため、長さ調整部14が設けられている。本例の長さ調節部14は脚部4の筒中に内筒を入れて二重筒とし内筒を出し入れして脚部4全体の長さを調節し、輪状のネジで所望の長さに固定するものである。また脚部4の下の先端部には石突き9が付いている
エルボークラッチ1の正面図を表した図33(a)に示すように、前額面に平行な平面における脚部4に対する上部カフ部11のなす角度を角度θ1とする。角度θ1及び角度θ2は、投射された平面における角度を示す。角度θ1は、上腕骨長軸と杖先を前額面において適切な関係にするためのものであって、角度範囲は0度〜10度であり、より好ましくは3度〜7度である。
次に、前額面における脚部4に対する下部カフ部13のなす角度をθ2とする。この角度θ2は、前腕骨長軸の向きをハンドグリップ6に向けさせるためのものであって、角度範囲は0度〜10度であり、より好ましくは3度〜5度である。
次に、エルボークラッチ1の右側面図を表した図33(b)に示すように、矢状面に平行な平面における脚部4に対する上部カフ部11のなす角度を角度θ3とする。角度θ3乃至角度θ5は、投射された平面における角度を示す。この角度θ3は、使用中のカフ部2への荷重応答性を良くするためのものであり、角度範囲25度〜35度であり、より好ましくは28度〜32度である。
次に、矢状面に平行な平面における脚部4に対する下部カフ部13のなす角度を角度θ4とする。この角度θ4は、上部カフ部11に掛かる荷重に対するカウンターとしての役割を果たすため効率よく荷重を受けるためのものであって、角度範囲は20度〜30度であり、より好ましくは23度〜28度である。
次に、矢状面に平行な平面における脚部4に対する腕部5のなす角度をθ5とする。この角度θ5は、上腕骨長軸の向きを杖先15の方向に矢状面において合わせるためのものであり、角度θ5は10度前後が好ましい。
以上のように、本発明のエルボークラッチ1は、手関節に負荷が掛からないよう中間位を維持するため上記のような角度特徴を持ったカフ形状を有している。又より安定した歩行を獲得する為に、カフ部2、ハンドグリップ6、杖先15の三次元的相対的位置関係を角度、回旋によって調整し理想的な配置を実現するものである。
次に、カフ部2とハンドグリップ6との角度について説明する。エルボークラッチ1の平面図の図34(a)に示すように、上部カフ部11の底面(上腕二頭筋側)の中心で上部カフ部11の上腕方向に沿う直線と、脚部4の軸心とハンドグリップ6の軸心でなる平面とのなす角の脚部4軸心から軸心と垂直な水平面に投射した角度を角度θ6とする。この角度θ6は、ハンドグリップ6の握りやすさと、手関節の安静肢位へ合わせるために、上部カフ部11に対してハンドグリップ6を回内方向へ傾けた回内角度をさす。このときの回内角度範囲は角度0度〜10度が好ましく、本実施例では5度にした。
次に、図34(b)に示すように、下部カフ部13の底面(尺骨側)の中心で下部カフ部13の前腕24方向に沿う直線と、脚部4の軸心とハンドグリップ6の軸心でなる平面とのなす角の脚部4軸心から軸心と垂直な水平面に投射した角度を角度θ7とする。この角度θ7は、ハンドグリップ6の握りやすさと、手関節の安静肢位へ合わせるために、下部カフ部13に対してハンドグリップ6を回内方向へ傾けた回内角度をさす。このときの回内角度範囲は角度0度〜10度が好ましく、本実施例では5度にした。
次に、図34(c)に示すように、カフ部2の内径の中心とハンドグリップ6軸中心との距離を距離L1とする。この距離L1は、手関節を中間位でハンドグリップ6を握る為に必要であり、距離30mm程度までの範囲が好ましい。
エルボークラッチ1のカフ部2の脚部4やハンドグリップ6等に対する三次元的配置は、使用者の体格、歩行姿勢、筋力その他使用時の運動能力に合わせた微調整ができることがより好ましい。
そのため、本実施例1におけるような直線状の脚部4に対し脚部4の軸と腕部5の軸が一平面内にありハンドグリップ6がその軸も同一平面内にやや上向きに形成されており、腕部5の上部に離脱機構7を介して下部カフ部13が接続されるようなシンプルな構成においては、上記三次元的配置を行うためには、少なくとも、カフ部姿勢調整機構8が腕部5の上部にあって離脱機構7と接続され、カフ部姿勢調整機構8は離脱機構7を介して接続する下部カフ部13に対し、腕部5の軸方向に対する前後左右の傾斜角度及び腕部5の軸方向に対する回旋方向の角度を調整しかつ固定できることが好ましい。
次に、カフ部姿勢調整機構8について以下詳細に説明する。カフ部姿勢調整機構8は、カフ部2を腕部5に接続するにおいて、前記腕部5に対する前記カフ部2の回旋方向の角度及び傾斜角度を調整可能に固定するものである。
カフ部姿勢調整機構8としては、義足の構成部品であるオットーボック・ジャパン株式会社の製品「チューブクランプアダプター 型番:4R69」を転用して用いた。義足の構成部品は切断された足を収納する「ソケット」、関節の役割を担う「継手」、足の役割を担う「足部」から成り立っている。これらの部品を適切な位置関係に繋ぎあわせるために、長さ調整用のチューブと、角度と向きを調整する為のクランプを用いる。クランプの調整機構によりチューブの傾斜角度を前額面及び矢状面で行うことが出来、チューブとの接合部は回旋することもできる。この結果足部の前後左右方向の傾斜角度と、つま先の開き角度、すなわち矢状面に対する角度を調整することができるようにされている。
図2に示すようにカフ部2は離脱機構7にて腕部5の先端に取り付けられたカフ部姿勢調整機構8に接続されている。以下に述べる様にカフ部姿勢調整機構8により腕部5側の離脱機構7を前記腕部5に対して傾斜させることで、前記カフ部2の腕部5に対する傾斜方向及び傾斜角度を調整可能とする。更に本実施例1のカフ部姿勢調整機構8では、前記腕部5側の離脱機構7を前記腕部5に対する水平方向の向きや上下方向の位置を可変させて、前記カフ部2の水平方向の向きや上下方向の位置も調整可能としている。
カフ部姿勢調整機構8は、図10乃至図13に示すように、筒状のシャフト3の腕部5の上方から嵌め込み、内壁が腕部5の筒状の外周壁に摺設可能状態にでき着脱自在に嵌合する第一調整部材51と、離脱機構7の第一離脱部材41の下面から垂設された被傾動部材48とを備える。第一調整部材51はその略下半部を伸縮回転域52とし、その側面に縦スリット52bを形成すると共に、側面に突設した突部52cにボルト52aを挿通し、略上半部は前記被傾動部材48の傾動調整域55とする。
当該ボルト52aを緩めることによってスリット52bを開放状態とし、筒状の腕部5に対して第一調整部材51を回動可能状態にし、これによりハンドグリップ6の向きに対するカフ部2の向きを使用者の体格や症状に合わせて調整することができる。また、スリット52bを開放状態にしたときに、筒状の腕部5に対して第一調整部材51を摺動させることができ、これにより、ハンドグリップ6の高さに対するカフ部2の高さを使用者の体格や症状に合わせて調整することができる。第一調整部材51をシャフト3の腕部5に対して摺動および回動させた後、ボルト52aを締めることによってスリット52bを狭め、腕部5に第一調整部材51を固定し、これにより、ハンドグリップ6の高さや向きに対してカフ部2の高さや向きが使用者に合わせた状態で固定される。
次に、腕部5側の離脱機構7を前記腕部5に対して傾斜させて、前記カフ部2の傾斜方向及び傾斜角度を調整可能とする機構について説明する。図11に示すように、第一調整部材51の上部は受け部53とし、その上面に円弧凹面53aを形成し、その下位の側面に等間隔で4本のネジ53bを螺入させている。
離脱機構7の第一離脱部材41の下面から垂設された被傾動部材48は、その上半部を円弧凸面を有する円弧部48bとしている。円弧部48bの外周面は円弧凹面53aと摺接する。被傾動部材48の下半部は、同一形態である四つの縦面を有し、それぞれの縦面が台形状であって下方に向けて同じ末広がり状に傾斜した角柱部48aを形成する。当該角柱部48aは第一調整部材51の上部から受け部53側に挿入し、角柱部48aの4面それぞれが対応するネジ53bの先端部にそれぞれ押圧され押し込みされることにより、該ネジ53bごとの押し込み量によって、被傾動部材48の第一調整部材51に対する傾斜方向、及び、傾斜角度を変更することができ、これにより、シャフト3の腕部5の長手方向に対するカフ部2の傾斜方向を、前後方向だけでなく全方向に調整設定することができ、また傾斜角度も任意の角度に調整設定することができる。
このため、カフ部2の傾斜方向と傾斜角度を変更できることから、脚部4先端とカフ部2の三次元的な相対的位置関係を的確に適合させ、カフ部2からの力を効率的に床面に伝えられ歩行が安定する。調整の傾斜角度は数度であっても調整部分から脚部先端までの約1mの距離においては十分な変化量を得ることが出来ため、調整部品の小型化が容易である。さらに、第一調整部材51でカフ部2の高さや向きも使用者に合わせて調整が可能であることから、体格や使い勝手にあわせることができる。
カフ部姿勢調整機構8の事例を説明したが、カフ部を傾動でき、カフ部の回動及び/又は摺動可能な機構であればいずれの機構でもよい。また腕部5からカフ部2に接続する順序は本実施形態では腕部5−カフ部姿勢調整機構8−離脱機構7−カフ部2であるが、離脱と、角度調整機能が損なわれないような取り付けができるのであれば、腕部5−離脱機構7−カフ部姿勢調整機構8−カフ部2の順であってもよい。
本実施の形態では腕部5−カフ部姿勢調整機構8−離脱機構7−カフ部2の順で接続されている。本実施例1における、三次元的各部分の位置関係を参考的に示すため、図面代用写真を図29(a)〜(d)、図30に示す。この場合カフ部姿勢調整機構8−離脱機構7を有するため、前記角度θ1〜θ7は、角度θ1は7度、角度θ2は5度、角度θ3は30度、角度θ4は25度、角度θ5は10度であり、角度θ6は5度、角度θ7は5度であった。距離L1は25mmである。このように本実施例1のエルボークラッチ1は、手関節に負荷が掛からないよう中間位を維持するため上記のような角度特徴を持ったカフ形状を有している。
次に、腕部5の先端に調整機構が備わった場合における使い勝手を向上させるための微調整の仕方である。正面視のエルボークラッチ1を表した図35(a)に示すように、ハンドグリップ6とカフ部2の前額面上での内外転の調整ができる。点線Tの位置を中央の位置とすると、図35(a)の右側の図が内転の微調整をした図を示し、図35(a)の左側の図が外転の微調整をした図を示している。
また、ハンドグリップ6とカフ部2の矢状面上での屈曲伸展の調整ができる。点線Uの位置を中央の位置とすると、図35(b)の右側の図が伸展の微調整をした図を示し、図35(b)の左側の図が屈曲の微調整をした図を示している。このように、前額面上での内外転の調整及び矢状面上での屈曲伸展の調整ができることにより、上腕とカフの適合を適切に行うことが出来る。
次に、実施例1のエルボークラッチ1の使用方法を説明する。本実施形態に係るエルボークラッチ1は、次のようにして使用することができる。図6、図9乃至図11を参照して説明する。まず、カフ部姿勢調整機構8を操作することによって、ハンドグリップ6の高さに対してカフ部2の高さ調整、ハンドグリップ6の向きに対してカフ部2の向き調整、シャフト3の腕部5に長手方向に対してカフ部2の傾斜角度や傾斜向きの調整を、使用者の体格等に合わせて実施する。また、必要に応じて、離脱機構7の第一離脱部材41と第二離脱部材42とが正しく係合されているかを確認する。高さの調整については、脚部4や腕部5に設けられた長さ調整機構で行ってもよい。脚部4や腕部5が二重筒にされ孔が間隔をあけて設けられ内外筒の相互位置をずらして、孔にピン止めするようなものが例示される。
次に、本発明のエルボークラッチ1の使用方法として二足歩行の例を説明する。使用者は健足21側の腕をカフ部2に挿入し、手でハンドグリップ6を握って歩行を開始する。まず、図15に示すように、シャフト3の脚部4の先端部を当該使用者の前方イの地面に持っていき、カフ部2を後方ロにした傾斜状態のエルボークラッチ1の先端部を前方イの地面に突き当てる。このとき前記先端部を使用者から遠く離れた地点にすると、使用者はエルボークラッチ1側に荷重を移動させるので脚部4の先端が地面上を滑り転倒の危険があることから、使用者に近い地点に脚部4の先端部を突き当てるようにする。使用者に近い地点に脚部4の先端部を突き当てるためには、エルボークラッチ1の脚部4の傾斜角度は脚部4の先端の地面の接地点における垂直線に対して約20度以下がよい。
次に、歩行の一歩を、図15乃至図19に示す歩行姿勢の変化に従って説明する。使用者は、健足21に荷重を残しながら、患足20とエルボークラッチ1の脚部4の先端を前方イに移動し始め、脚部4の先端を地面に突き当てた後はエルボークラッチ1に荷重を掛けながら患足20を前方イに踏み出して、図15の歩行姿勢aに達する。このときのカフ部の姿勢30は地面又は床面に対して垂直である。
次に、図16の歩行姿勢bに示すように、患足20への荷重を減少させてエルボークラッチ1に荷重をさらにかけながら、健足21を前方イに移動させる。図16の歩行姿勢bに示すフ部の姿勢30は地面又は床面に対して前方イに10度傾斜させた状態である。
次に、図17の歩行姿勢cに示すように、エルボークラッチ1に荷重をさらにかけながら、健足21を患足20と交差又はすれ違いさえて前方イに移動させる。図17の歩行姿勢cに示すフ部の姿勢30は地面又は床面に対して前方イに20度傾斜させた状態である。この姿勢の近傍におけるエルボークラッチ1に係る荷重が最大値に達する。
次に、図18の歩行姿勢dに示すように、エルボークラッチ1に荷重をさらにかけながら、健足21を前方イに移動させて地面又は床面等に着地させようとしている段階である。図18の歩行姿勢dに示すフ部の姿勢30は地面又は床面に対して前方イに30度傾斜させた状態である。
次に、図19の歩行姿勢eに示すように、エルボークラッチ1に荷重をさらにかけながら、健足21を前方イに移動させて地面又は床面等に着地させた段階である。図19の歩行姿勢eに示すフ部の姿勢30は地面又は床面に対して前方イに40度傾斜させた状態である。この歩行姿勢eで一歩が完了する。
本発明であるエルボークラッチ1は、肩関節に近い上肢、肘関節及び手関節を使用することから、松葉杖と同様の使用をすることができ、二足歩行の例に限らずに三足歩行についても有効に使用することができる。また、本発明であるエルボークラッチ1は、肩関節に近い上肢、肘関節及び手関節を使用することから、松葉杖と同様の使用をすることができ、また、従来品のロフストランドクラッチ60等と比べ手首への負担を少なく体重をエルボークラッチ1にかけることができるため、片腕で使用するだけでなく、両腕で使用する場面でも有効に使用することができる。
上記の歩行における荷重の係るメカニズムについて説明する。まず、図25に示すような従来品のロフストランドクラッチ60は、前腕24の尺骨側に接しかつ前方イに開口部10を備えたカフ部62を備えているだけであり、カフ部62自体に免荷の機能を有するが僅かにとどまるため、肩関節からの荷重F2の殆どがハンドグリップ61にかかる。
本発明であるエルボークラッチ1は、上腕22の前部の、上腕二頭筋側をカフ部2が沿うように覆われるため、歩行中の前傾姿勢時における、荷重が上腕の上腕二頭筋側からカフ部2の内面を押しつける力として作用し、カフ部2に掛った力は、カフ部2が直接的または間接的に腕部5に接続されているため、最終的に脚部4に伝達される。したがって上腕22からカフ部2に掛る力の分だけ、手首に掛る力が減免されることになる。
図21に模式的に示す。上部カフ部11は前方向イに壁面を形成し、上下カフ接続部12は前後方向イ、ロに開口部10を形成し、下部カフ部13は前方に開口部10を形成しており、下部カフ部13が離脱機構7、カフ部姿勢調整機構8を介して腕部5に接続されている。したがって上腕22に掛る力F2のうちカフ部2の内面を押し付ける力F1はカフ部2が剛体に近いため、離脱機構7、カフ部姿勢調整機構8を介して腕部に伝えられる。よって肩関節からの荷重F2のうちF1相当分が軽減され残りがハンドグリップ6にかかる。カフ部2の軸線が鉛直方向となす角度をθとすると、この角度θは、歩行時の姿勢の変化に応じて変動する。
例えば、エルボークラッチ1の脚部4と腕部5のなす角度は10度、腕部5とカフ部姿勢30とのなす角度は30度とし共に一定とする。次にエルボークラッチ1を用いた健足21と患足20における2足歩行の例を示す。
一歩の歩行をするときのエルボークラッチ1の傾きをみると、例えば、図15の歩行姿勢aに示すようにエルボークラッチ1が床面に接地する際の角度を後方ロに20度傾斜し、図19の歩行姿勢eに示すように歩行の一歩が完了し次の一歩に連続して入るときの床面から離床する際の角度を前方イに20度傾斜するものとする。この場合の図15の歩行姿勢aから図19の歩行姿勢eの間におけるエルボークラッチ1の各部位の傾きを表1に示す。また、図20に、歩行姿勢a〜eの間における前記エルボークラッチ1の傾きの変化を示す。
表1及び図20から、エルボークラッチ1での歩行中の角度θは0度〜40度となり、脚部5の先端部である杖先を中心とした40度の回転運動を成している。そして、カフ部2は歩行時は前傾姿勢の状態で使用されることが多いことが示されている。またこの時、エルボークラッチ1への荷重が顕著に掛かっているのは、歩行動作が、健足21が患足20とすれ違うときである歩行姿勢b〜dの間である。歩行姿勢eでは健足21が体重を支えているためエルボークラッチ1にかかる荷重は小さくなる。
本発明のエルボークラッチ1のカフ部2の特徴の一つは、側面視で前記略U字形状部が使用者の上腕骨の骨幹部域の範囲に位置する形態を有するため、少なくとも上腕骨の骨幹部域で荷重を受け止める機能と、上腕22をカフ部2に定置させる機能とを有する上部カフ部11を備えていることである。上半身の荷重が上腕の上腕二頭筋側に接する上部カフを押し付ける方向に掛ることにより、ハンドグリップ6を握る手首への負担を軽減させることができ、使用者を肩関節近傍という高い位置で支持できるため、エルボークラッチ1の取り扱い操作が楽にでき、歩行時の安定感が増す。
次に、本発明者らは本発明に係るエルボークラッチ1を使用すると、荷重をハンドグリップ6とカフ部2に分散させることが可能であるので、エルボークラッチ1にかかる荷重の比較を本発明品と従来品とで行った。このため実験は、図25に示すような、カフ部が前腕を支持し、かつカフ部の前方に開口部を備える従来品のロフストランドクラッチ60との比較において、シャフト3の先端から地面にかかる荷重を測定した。
荷重の測定には、計測器として、任天堂製の Wii Balance Board(登録商標)RVL−021を用いた。サンプリング周波数は50Hz。計測器より得た荷重データから、荷重値と床反力作用点軌跡の評価を行った。使用者は同一被験者であり、被験者が手首に負担を掛けない限度で使用状態が維持できる範囲で実施した。シャフト3およびハンドグリップ6の形態は同じで、カフ部の形態が異なるのみである。その結果を、表2および図22のグラフに示す。被験者の体重は73kgであった。
また、図22は、エルボークラッチ1又はロフストランドクラッチ60の杖と患足20をほぼ同時に前方イに移動開始して杖に荷重をかけた瞬間を歩行経過時間0%とし、図15の歩行姿勢aに示すように杖と患足20を着地させて、次に図16の歩行姿勢bに示すように杖にさらに荷重をかけながら健足21を前方イに移動開始し、図19の歩行姿勢eに示すように健足21を地面に着地し一歩の歩行が完了した瞬間を歩行経過時間100%として、時間経過ごとの杖の先端にかかる荷重の変化を示している。杖に最大荷重がかかるときは、図17の歩行姿勢cに示すように健足21が患足20と交差又はすれ違うときである。
表2及び図22から、従来品のロフストランドクラッチ60の荷重値の平均は152Nであった。一方、本発明のエルボークラッチ1の平均荷重値は187Nであり、従来品より35N大きく、従来品より約1.23倍大きくなる結果が得られた。このことは、肩関節からの荷重を上部カフ部11で担うことができるため、従来品より多くの荷重を杖にかけることができ患足20への負担を軽減できることを示している。
また、杖の先端の床反力作用点の総軌跡長を比較すると、従来品のロフストランドクラッチ60の総軌跡長は5.77cmであった。本発明のエルボークラッチ1の総軌跡長は5.32cmであり、従来品より0.45cm短く、有意な値が有られた(P値:有意水準5%)。総軌跡長が従来品を使用した時より短いことから、杖の動揺が少なく体重の移動がスムースに行えていることを示している。
また、本発明者らは、本発明に係るエルボークラッチ1と従来品であるロフストランドクラッチ60の、使用者の手首に係る荷重の比較実験を実施した。この実験は、上記の実験と同様の本発明に係るエルボークラッチ1と、従来品としてカフ部2が前腕24を支持するロフストランドクラッチ60を使用し、同一の被験者に800歩、歩行してもらうことによって行った。
また、この実験では、図26に示すように、ハンドグリップ6にかかる荷重F4により加圧すると赤く発色する圧力測定フィルム35(富士フィルム製プレシート(超低圧用)で測定可能圧力帯が0.5〜2.5MPaのもの)をハンドグリップ6に巻き付けて行った。該圧力測定フィルムは、荷重がかかる側から表面側のフィルム35a、発色剤層35b、顕色剤層35c及び裏面側のフィルム35dからなり、発色剤層35bのマイクロカプセルが圧力によって破壊され、その中の発色剤が顕色剤に吸着され、化学反応で赤く発色するものである。すなわち約5.1kg/cm2以上の圧力を受けたマイクロカプセル部分が赤色に発色するものと思われる。
そして、変色した状況を図23に示し、表3に変色部分である圧迫箇所36と変色していない部分である非圧迫箇所37のピクセル数をカウントした結果を示し、図24に表3に記載した圧迫箇所36と非圧迫箇所37のピクセル数の割合を円グラフに示す。
表3、図23及び図24から、全域中ピクセル数に対する圧迫個所のピクセル数の比率が、従来品は32.8%であるのに対して本発明品は4.1%と約1/8に激減していることが示された。本発明に係るエルボークラッチ1は、従来品と比較して、圧迫箇所が少なく、非圧迫箇所が多いことが明らかに示されている。すなわち、従来品のハンドグリップには大きな荷重がかかっているが、本発明のエルボークラッチ1のハンドグリップ6には荷重が減少されていることが明確に示され、使用者の手首への負担が大幅に軽減されている。
以上のように、本発明のエルボークラッチ1は、スマートクラッチのような運動能力や筋力に優れていないと扱いにくいという杖先設定等の操作上の困難性がなく、通常の運動能力や筋力を有する者にとっても扱いが容易であり、ロフストランドクラッチよりも手首の負担が軽減できる。