近年、ウルトラブック(ULTRABOOK:登録商標)とも称される超薄型のノート型PCが普及しつつあること等に鑑み、各種モータ用の軸受装置として使用される流体動圧軸受装置に対する一層の薄型化の要請がある。流体動圧軸受装置を薄型化するための手段として、ハウジングや軸受部材等の軸方向寸法を短縮することが考えられるが、この場合、ラジアル軸受部の軸受剛性が低下する。回転側の回転に伴って流体動圧軸受装置のラジアル軸受部に作用する荷重(ラジアル荷重)が減少するのであれば、ラジアル軸受部の軸受剛性が低下しても特段問題は生じない。しかしながら、ウルトラブック用のファンモータは、従来のファンモータと同等の冷却性能を確保すべく大型のファン(羽根)を採用する場合が多いため、流体動圧軸受装置のラジアル軸受部で支持すべき荷重は、減少するというよりもむしろ増大する傾向にある。そのため、ラジアル軸受部の軸受剛性を犠牲にする上記の対策を採ることは得策ではない。
そこで、本願発明者は、特許文献3に開示された流体動圧軸受装置において、空気を含む軸方向隙間の隙間幅(軸方向寸法)を小さくすることを検討した。しかしながら、上記軸方向隙間の隙間幅を単に小さくするだけでは、ハウジングの内部空間への注油作業時、さらには流体動圧軸受装置の運転時に、油漏れが生じ易くなる。ハウジングの内部空間への注油量を少なくすれば、油漏れが生じる可能性を可及的に減じることはできるが、特にラジアル軸受隙間に十分量の潤滑油を介在させることができず、必要とされる軸受性能を安定的に発揮することが難しくなる。
以上の実情に鑑み、本発明の課題は、薄型化(軸方向のコンパクト化)を実現しつつも、必要とされる軸受性能を安定的に発揮することのできる流体動圧軸受装置を提供することにある。
上記の課題を解決するために創案された本発明は、多孔質材料で形成され、軸方向両側に端面を有する回転側の軸受部材と、軸方向一方側が閉塞された有底筒状をなし、軸受部材を内周に収容した静止側のハウジングと、軸受部材の軸方向他方側の端面と対向配置され、ハウジングの開口部をシールするためのシール隙間を形成するシール部材と、軸受部材の外周面とハウジングの内周面との間に形成されるラジアル軸受隙間と、軸受部材の軸方向一方側の端面とハウジングの内底面との間に形成されるスラスト軸受隙間とを備え、ラジアル軸受隙間及びスラスト軸受隙間が潤滑油で満たされ、ラジアル軸受隙間及びスラスト軸受隙間に形成される油膜で軸受部材がラジアル方向及びスラスト方向にそれぞれ支持されると共に、互いに対向する軸受部材の軸方向他方側の端面とシール部材の軸方向一方側の端面との間に空気を含む軸方向隙間を介在させた流体動圧軸受装置において、軸受部材の軸方向他方側の端面に潤滑油溜りを設け、潤滑油溜りの外径側の端部を、軸方向他方側の端面の範囲内で終端させ、潤滑油溜りを画成する内壁面のうち、潤滑油溜りの外径部を画成する部分を、潤滑油溜りの開口寸法を軸方向他方側に向けて漸次拡大させる方向に傾斜したテーパ面に形成したことを特徴とする。
上記のように、空気を含む軸方向隙間を形成する軸受部材の軸方向他方側の端面(他端面)に潤滑油溜りを設けておけば、上記軸方向隙間の隙間幅を小さくしても、軸受部材とシール部材との間に多くの潤滑油を保持することができる。特に、潤滑油溜りの外径側の端部を、軸受部材の他端面の範囲内(軸受部材の他端外周縁部に面取りを設ける場合には、面取りよりも内径側)で終端させていることから、潤滑油溜りの形成態様がラジアル軸受隙間の隙間幅等に影響を及ぼすことはない。そのため、潤滑油溜りの深さ寸法は、加工性に悪影響を及ぼさない範囲で任意に設定する(十分に大きくする)ことができる。これにより、軸受部材とシール部材との間には、シール隙間を介しての注油作業時にも油漏れが生じる可能性を可及的に減じることができ、しかも、所定の軸受性能を安定的に発揮可能とするために必要な量の潤滑油を介在させることができる。以上より、上記軸方向隙間の隙間幅を十分に縮小することができ、これを通じて流体動圧軸受装置を軸方向にコンパクト化することができる。
また、軸受部材の他端面に潤滑油溜りを設けておけば、回転側を構成する軸受部材が回転するのに伴って、潤滑油溜りで保持した潤滑油を外径側に飛散させ、ラジアル軸受隙間に供給することができる。これにより、ラジアル軸受隙間における油膜切れを防止してラジアル軸受部の軸受性能を高いレベルで維持することができる。以上のことから、本発明によれば、軸方向のコンパクト化を実現しつつも、必要とされる軸受性能を安定的に発揮することのできる流体動圧軸受装置を提供することができる。
潤滑油溜りを画成する内壁面のうち、潤滑油溜りの外径部を画成する部分は、潤滑油溜りの開口寸法を軸方向他方側に向けて漸次拡大させる方向に傾斜したテーパ面に形成するのが好ましい。潤滑油溜りで保持した潤滑油を、軸受部材が回転するのに伴って外径側に飛散させ易くなり、回転側の回転時におけるラジアル軸受隙間への潤滑油供給能力が向上するからである。
上記態様で潤滑油溜りを設けることにより奏される作用効果を考慮すると、潤滑油溜りは環状溝で構成するのが好ましい。この環状溝は、一本のみ設けても良いし、径方向に相互に離間して複数本設けても良い。
上記構成において、軸受部材に、軸受部材を軸方向一方側に押し付ける外力を作用させれば、軸受部材をスラスト両方向に支持することが可能となる。そのため、スラスト軸受隙間に形成される油膜によるスラスト一方向の荷重支持能力が過大となり、これに伴って、スラスト方向の支持精度が不安定化するような事態を可及的に回避することができる。
上記外力は、例えば磁力で与えることができる。この磁力は、例えば、モータの静止側に設けられるステータコイルと、モータの回転側に設けられるロータマグネットとを軸方向にずらして配置することによって与えることができる。この種の流体動圧軸受装置が組み込まれる各種モータは、通常、ロータマグネットとステータコイルとを必須の構成部材として備える。従って、上記外力を特段のコスト増を招くことなく安価に付与することができる。
以上の構成において、軸受部材を外周に固定した軸部材の外周面と、ハウジングと一体又は別体に設けたシール部材の内周面との間に、ハウジングの開口部をシールするシール隙間を形成することができる。このようにすれば、潤滑油溜りに保持された潤滑油が軸受部材の回転に伴って外径側に飛散した際に、この飛散した潤滑油がシール隙間を介して装置外部に漏れ出すような事態を効果的に防止することができる。
以上の構成において、ラジアル軸受隙間を介して対向するハウジングの内周面と軸受部材の外周面の何れか一方又は双方には、ラジアル軸受隙間内の潤滑油に動圧作用を発生させる動圧発生部(ラジアル動圧発生部)を設けることができる。
ラジアル動圧発生部は、軸受部材の回転時にラジアル軸受隙間内の潤滑油をスラスト軸受隙間側に押し込む形状とするのが好ましい。スラスト軸受隙間における油膜切れを可及的に防止し、スラスト一方向の回転精度の安定化を図ることができるからである。
回転側には、軸受部材の両端面を連通させる連通路を設けることができる。このような連通路を設けておくことにより、軸受装置の運転中に、ハウジングの内部空間に介在する潤滑油を積極的に流動循環させること可能となるので、軸受装置内部の圧力バランスの崩れや、各軸受隙間における潤滑油不足に起因した軸受性能の低下を効果的に防止することができる。
以上で示した本発明に係る流体動圧軸受装置は、以上で示した種々の特徴を有することから、例えばPC用のファンモータや、ディスク駆動装置用のスピンドルモータ等の各種モータに組み込んで好適に使用することができ、しかも各種モータの低コスト化に寄与することができる。
以上より、本発明によれば、一層の薄型化(軸方向寸法の短縮)を実現しつつも、必要とされる軸受性能を安定的に発揮することのできる流体動圧軸受装置を低コストに提供することができる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1が組み込まれたファンモータの構成例を概念的に示す。同図に示すファンモータは、流体動圧軸受装置1と、モータの静止側を構成するモータベース6と、モータベース6に固定されたステータコイル5と、モータの回転側を構成し、ファン(羽根)を有するロータ3と、ロータ3に固定され、ステータコイル5と半径方向のギャップを介して対向するロータマグネット4とを備える。流体動圧軸受装置1のハウジング7は、モータベース6の内周に固定され、ロータ3は、流体動圧軸受装置1の軸部材21の一端に固定されている。このように構成されたファンモータにおいて、ステータコイル5に通電すると、ステータコイル5とロータマグネット4との間の電磁力でロータマグネット4が回転し、これに伴って軸部材21、軸部材21に固定された羽根を有するロータ3及びロータ3に固定されたロータマグネット4等を備えた回転体2が回転する。
なお、回転体2が回転すると、ロータ3に設けられた羽根の形態に応じて図中上向き又は下向きに風が送られる。このため、回転体2の回転中にはこの送風作用の反力として、回転体2に図中下向き又は上向きの推力が作用する。ステータコイル5とロータマグネット4との間には、この推力を打ち消す方向の磁力(斥力)を作用させており、上記推力と磁力の大きさの差により生じたスラスト荷重が流体動圧軸受装置1のスラスト軸受部Tで支持される。上記推力を打ち消す方向の磁力は、例えば、ステータコイル5とロータマグネット4とを軸方向にずらして配置することにより発生させることができる(詳細な図示は省略)。また、回転体2の回転時には、流体動圧軸受装置1の軸部材21及び軸受部材22にラジアル荷重が作用する。このラジアル荷重は、流体動圧軸受装置1のラジアル軸受部Rで支持される。
図2に、本発明の第1実施形態に係る流体動圧軸受装置1を示す。この流体動圧軸受装置1は、回転側(回転体2)を構成する軸部材21及びその外周に固定された軸受部材22と、軸受部材22及び軸部材21を内周に収容した静止側のハウジング7と、シール部材9とを主要な構成部材として備えている。ハウジング7の内部空間には潤滑油11(密な散点ハッチングで示す)が充填されており、図2に示す状態では、少なくともラジアル軸受部Rのラジアル軸受隙間及びスラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間が潤滑油11で満たされている。なお、以下では、説明の便宜上、シール部材9が配置された側を上側、その軸方向反対側を下側とするが、流体動圧軸受装置1の使用態様を限定するものではない。
ハウジング7は、円筒状の筒部7aと、筒部7aの下端開口を閉塞する底部7bとを有する有底筒状をなし、ここでは筒部7aと底部7bが金属又は樹脂で一体に形成されている。筒部7aの内周面は、段部を介して大径内周面7a1と小径内周面7a2とに区画され、大径内周面7a1にはシール部材9が固定される。小径内周面7a2は、軸部材21に固定された軸受部材22の外周面22aとの間にラジアル軸受隙間を形成する円筒状領域を有し、該円筒状領域は凹凸のない平滑面に形成されている。また、底部7bの内底面7b1は、軸受部材22の下端面22cとの間にスラスト軸受隙間を形成する円環状領域を有し、該円環状領域は凹凸のない平滑面に形成されている。
シール部材9は金属又は樹脂で円環状に形成され、ハウジング7の大径内周面7a1に適宜の手段で固定される。シール部材9の内周面9aと、これに対向する軸部材21の外周面21aとの間にはハウジング7の開口部をシールするシール隙間(ラビリンスシール)Sが形成され、軸受部材22の上側は、シール隙間Sを介して大気に開放されている。図示は省略するが、シール隙間Sを介しての潤滑油漏れを効果的に防止するため、シール隙間Sに隣接して大気に接した軸部材21の外周面21aやシール部材9の上端面に撥油膜を形成しても良い。
軸部材21は、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、その外周面21aは平滑な円筒面に形成されている。軸部材21の上端部に、羽根を有するロータ3が固定されている。
軸受部材22は、多孔質体、ここでは銅(銅系合金を含む)あるいは鉄(鉄系合金を含む)の金属粉末を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。軸受部材22は、焼結金属以外の多孔質体、例えば多孔質樹脂で形成することも可能である。この軸受部材22は、その下端面22cが軸部材21の下端面21bよりも軸方向外側(下側)に位置するようにして、軸部21の外周面21aに適宜の手段で固定されている。
軸受部材22を含む回転体2は、軸受部材22の両端面22b,22cを連通させる連通路8を一又は複数備えている。ここでは、図3及び図4に示すように、軸受部材22の内周面22dに形成した軸方向溝22d1と、平滑な円筒面状をなす軸部材21の外周面21aとで連通路8を形成している。もちろん、軸部材21の外周面21aに軸方向溝を設けることで連通路8を形成することもできる。
軸受部材22の外周面22aには、対向するハウジング7の小径内周面7a2との間にラジアル軸受部Rのラジアル軸受隙間を形成する円筒状のラジアル軸受面が設けられる。ラジアル軸受面には、ラジアル軸受隙間内の潤滑油11に動圧作用を発生させるための動圧発生部(ラジアル動圧発生部)Aが形成されている。図示例のラジアル動圧発生部Aは、互いに反対方向に傾斜し、かつ軸方向に離間した複数の動圧溝Aa1,Ab1をヘリングボーン形状に配列して構成されている。上側の動圧溝Aa1の軸方向寸法は、下側の動圧溝Ab1の軸方向寸法よりも大きくなっている。これにより、回転体2の回転時、ラジアル軸受隙間内の潤滑油11は、下向き(スラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間側)に押し込まれる。
ラジアル動圧発生部Aを構成する各動圧溝は、最終的に軸受部材22となる金属粉末の圧粉体を成形するのと同時に型成形することもできるし、圧粉体を焼結してなる円筒状の焼結体にサイジング(寸法矯正)を施すのと同時に型成形することもできる。また、焼結金属の良好な加工性に鑑み、外周面が平滑面に形成された焼結体に転造加工等を施すことで形成することもできる。また、ラジアル動圧発生部Aは、例えば、スパイラル形状の動圧溝を円周方向に複数配列して構成することもできる。
図3に示すように、軸受部材22の下端面22cには、対向するハウジング7の内底面7b1との間にスラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間を形成する環状のスラスト軸受面が設けられる。このスラスト軸受面には、回転体2が回転するのに伴って、スラスト軸受隙間内の潤滑油11に動圧作用を発生させるためのスラスト動圧発生部Bが形成されている。スラスト動圧発生部Bは、スパイラル形状の動圧溝Baを周方向に所定間隔で複数設けて構成されており、回転体2の回転時、スラスト軸受隙間内の潤滑油11を内径側に押し込むポンプイン機能を有する。スラスト動圧発生部Bは、ヘリングボーン形状の動圧溝を周方向に所定間隔で配置して構成することもできる。
軸受部材22の上端面22bと、これに対向するシール部材9の下端面9bとの間には空気を含む軸方向隙間(環状空間)10が設けられる。流体動圧軸受装置1が図2に示す姿勢で配置された状態(シール隙間Sを鉛直方向上側に配置した状態)では、少なくともラジアル軸受部Rのラジアル軸受隙間及びスラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間が潤滑油11で満たされ、ハウジング7の内部空間に充填した潤滑油11の油面が軸方向隙間10の範囲内に保持される。従って、ハウジング7の内部空間に充填される潤滑油11の量(体積)は、ハウジング7の内部空間の容積よりも少なくなっている。
軸受部材22の上端面22bには、潤滑油11を保持した潤滑油溜り12が設けられ、本実施形態では、周方向で無端の環状溝13で潤滑油溜り12が構成される。潤滑油溜り12の外径端部12aおよび内径端部は、軸受部材22の上端面22bの範囲内でそれぞれ終端している。つまり、軸受部材22の上端外周縁部および内周縁部のそれぞれに面取り部22e,22fが設けられている本実施形態において、潤滑油溜り12の外径端部12aは面取り部22eよりも内径側に位置すると共に、潤滑油溜り12の内径端部は面取り部22fよりも外径側に位置している。環状溝13は、その溝幅(開口寸法)を軸方向全域で一定とした矩形状の断面形状に形成しても良いが、本実施形態の環状溝13は、その溝幅を上側に向けて漸次拡大させる方向の断面形状を有する。具体的には、図5(a)に拡大して示すように、環状溝13の外径部を構成し、環状溝13の溝幅を上側に向けて漸次拡大させる方向に傾斜したテーパ面(テーパ状内壁面)13aと、環状溝13の内径部を構成する軸方向と平行な円筒面(円筒状内壁面)13bと、環状溝13の溝底を構成する平端面13cとで画成された、断面台形状の形態を有する。
潤滑油溜り12としての環状溝13の溝深さは、面取り部22e,22fの面取り量よりも大きく設定される。例えば、面取り部22e,22fの面取り量を0.15mmとした場合、環状溝13の溝深さは0.2mmに設定することができる。また、軸受部材22として、内径φ1.5mm×外径φ5mmのものを使用する場合、潤滑油溜り12としての環状溝13は、例えば、内径φ2.75mm×外径φ3.55mmに形成することができる。
なお、環状溝13の断面形状は上記のものに限られるわけではなく、例えば図5(b)に示すように、環状溝13の溝幅を上側に向けて漸次拡大させる方向に傾斜し、環状溝13の外径部を構成するテーパ面(テーパ状内壁面)13aと、環状溝13の内径部を構成する軸方向と平行な円筒面(円筒状内壁面)13bとで画成されるような断面三角形状としても良い。また、図示は省略するが、互いに反対方向に傾斜した2つのテーパ状内壁面で画成されるような断面三角形状としても良い。さらに、環状溝13は、一本のみならず、図6に示すように、径方向に相互に離間して複数本(図示例は2本)設けても良い。
軸受部材22の下端面22c及び上端面22bのそれぞれに設けられる動圧溝Ba及び潤滑油溜り12(環状溝13)は、ラジアル動圧発生部Aを構成する動圧溝と同様に、最終的に軸受部材22となる金属粉末の圧粉体を成形するのと同時に型成形することもできるし、圧粉体を焼結してなる焼結体にサイジング(寸法矯正)を施すのと同時に型成形することもできる。また、焼結金属の良好な加工性に鑑み、両端面が平滑面に成形された焼結体にプレス等の塑性加工を施すことで形成することもできる。
以上の構成を具備する流体動圧軸受装置1は、例えば、軸部材21及びその外周に固定した軸受部材22をハウジング7の内周に挿入し、ハウジング7の大径内周面7a1にシール部材9を固定した後、マイクロピペット等の給油具を用いてシール隙間Sを介してハウジング7の内部空間に潤滑油11を充填(注油)することにより完成する。
以上の構成からなる流体動圧軸受装置1において、軸部材21及び軸受部材22を含む回転体2が回転すると、軸受部材22の外周面22aに設けたラジアル軸受面と、これに対向するハウジング7の小径内周面7a2との間にラジアル軸受隙間が形成される。そして回転体2の回転に伴い、ラジアル軸受隙間に形成される油膜圧力がラジアル動圧発生部Aの動圧作用によって高められ、回転体2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部Rが形成される。これと同時に、軸受部材22の下端面22cに設けられたスラスト軸受面とこれに対向するハウジング7の内底面7b1との間にスラスト軸受隙間が形成される。そして、回転体2の回転に伴い、スラスト軸受隙間の油膜圧力がスラスト動圧発生部Bの動圧作用によって高められ、回転体2をスラスト一方向に非接触支持(上方に浮上支持)するスラスト軸受部Tが形成される。なお、図1を参照しながら説明したように、回転体2には、これを下側に押し付けるための外力(磁力)を作用させており、これにより、回転体2の過浮上が抑止される。
上述したように、回転体2の回転時には、ラジアル軸受隙間内の潤滑油11が下方に押し込まれる。これにより、回転体2の回転時には、軸受部材22の外周面22aとハウジング7の内周面7a2との間の隙間(ラジアル軸受隙間)に介在する潤滑油11は下方に流動し、スラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間→連通路8→軸受部材22の上端面22bとシール部材9の下端面9bとの間の軸方向隙間10という経路を循環して、ラジアル軸受部Rのラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。特に、本実施形態では、スラスト動圧発生部Bがスラスト軸受隙間内の潤滑油11を内径側に押し込むポンプイン機能を有することから、潤滑油11の流動循環が促進される。このような構成とすることで、ハウジング7の内部空間の圧力バランスが保たれると同時に、ラジアル軸受部Rのラジアル軸受隙間及びスラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間における油膜切れを防止することができるので、軸受性能の安定化を図ることができる。
以上に示すように、本発明に係る流体動圧軸受装置1では、シール部材9の下端面9bとの間に空気を含む軸方向隙間10を形成する軸受部材22の上端面22bに潤滑油溜り12としての環状溝13を設けている。このようにすれば、軸方向隙間10の隙間幅を小さくしても、軸受部材22とシール部材9との間の軸方向隙間10に多くの潤滑油11を保持することができる。特に、潤滑油溜り12の外径端部12aを、軸受部材22の上端面22bの範囲内で終端させていることから、潤滑油溜り12の形成態様がラジアル軸受隙間の隙間幅等に影響を及ぼすことはない。そのため、潤滑油溜り12の深さ寸法は、加工性に悪影響を及ぼさない範囲で任意に設定する(十分に大きくする)ことができる。これにより、軸受部材22とシール部材9との間には、シール隙間Sを介しての注油作業時にも油漏れが生じる可能性を可及的に減じることができ、しかも、ラジアル軸受部Rおよびスラスト軸受部Tの軸受性能を安定的に発揮可能とするために必要な量の潤滑油11を介在させることができる。以上より、本発明によれば、軸方向隙間10の隙間幅を十分に縮小することができ、これを通じて流体動圧軸受装置1を軸方向にコンパクト化することができる。
なお、上記の「シール隙間Sを介しての注油作業時にも油漏れが生じる可能性を可及的に減じることができる」とは、「注油量の管理幅が拡大する」ことと同義である。参考までに、内径φ1.5mm×外径φ5mmであって、軸方向寸法1.5mmの軸受部材22を使用する場合に、潤滑油溜り12としての環状溝13を設けない場合には、注油量の管理幅は最大でも0.3mgしか確保できなかった。これに対し、内径φ2.75mm×外径φ3.55mm×深さ寸法0.2mmの環状溝13を上記寸法の軸受部材22に形成すると、注油量の管理幅を1.0mg程度にまで拡大することができる。従って、注油作業を簡便化することができ、これを通じて流体動圧軸受装置1の製造コストを低廉化することができる。
また、軸受部材22の上端面22bに潤滑油溜り12を設けておけば、回転側(回転体2)を構成する軸受部材22が回転するのに伴って、潤滑油溜り12で保持した潤滑油11を外径側に飛散させ、ラジアル軸受部Rのラジアル軸受隙間に供給することができる。特に、本実施形態では、潤滑油溜り12を環状溝13で構成していることから、ラジアル軸受隙間の周方向全域に潤滑油11を万遍なく供給することができ、しかも環状溝13の外径部を構成(区画形成)する内壁面を、環状溝13の溝幅を上側に向けて漸次拡大する方向のテーパ面13aに形成しているので、環状溝13で保持した潤滑油11を、軸受部材22の回転時に外径側に飛散させ易い。そのため、軸受部材22を含む回転体2の回転時には、ラジアル軸受隙間に向けて効率良く潤滑油11を供給することができる。
なお、シール部材9をハウジング7の大径内周面7a1に固定し、シール隙間Sを、軸部材21の外周面21aとシール部材9の内周面9aとの間に形成しているので、回転体2の回転時に潤滑油溜り12で保持した潤滑油11が外径側に飛散しても、この飛散した潤滑油11がシール隙間Sを介して装置外部に漏れ出すことはない。従って、ラジアル軸受部Rのラジアル軸受隙間、さらにはスラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間における油膜切れを防止してラジアル軸受部Rおよびスラスト軸受部Tの軸受性能を高いレベルで維持することができる。
また、軸受部材22には、軸受部材22を下方に押し付ける(スラスト他方向に支持する)外力を作用させるようにした。このようにすれば、軸受部材22をスラスト両方向に支持することが可能となるので、スラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間に形成される油膜によるスラスト一方向の荷重支持能力が過大となり、これに伴って、スラスト方向の支持精度(回転精度)が不安定化するような事態を可及的に回避することができる。本実施形態では、上記外力を、磁力で与えるようにし、しかもこの磁力を、静止側のハウジング7を保持するモータベース6に固定したステータコイル5と、軸受部材22を含む回転体2に固定したロータマグネット4とを軸方向にずらして配置することによって与えるようにした。この種の流体動圧軸受装置1が組み込まれる各種モータは、ロータマグネット4とステータコイル5とを必須の構成部材として備える。従って、上記構成を採用すれば、上記外力を特段のコスト増を招くことなく安価に付与することができる。
以上、本発明の実施形態に係る流体動圧軸受装置1について説明を行ったが、流体動圧軸受装置1の各部には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことができる。
例えば、軸受部材22の上端面22bに設けるべき潤滑油溜り12は、以上で説明した環状溝13以外にも、円弧溝、あるいは無数の凹部(ディンプル)等で構成することもできる。
また、軸受部材22を含む回転体2をラジアル方向に支持するためのラジアル軸受部は、図7に示すように、軸方向の二箇所に離間して設けることもできる(ラジアル軸受部R1,R2)。図7では、軸受部材22の外周面22aの軸方向二箇所に、対向するハウジング7の小径内周面7a2との間にラジアル軸受隙間を形成する円筒状のラジアル軸受面を設けている。二つのラジアル軸受面には、ラジアル軸受隙間内の潤滑油11に動圧作用を発生させるための動圧発生部(ラジアル動圧発生部)A1,A2がそれぞれ形成されている。上側のラジアル軸受面に形成したラジアル動圧発生部A1は、互いに反対方向に傾斜し、かつ軸方向に離間した複数の動圧溝Aa1,Ab1をヘリングボーン形状に配列して構成され、また下側のラジアル軸受面に形成したラジアル動圧発生部A2は、互いに反対方向に傾斜し、かつ軸方向に離間した複数の動圧溝Aa2,Ab2をヘリングボーン形状に配列して構成される。上側のラジアル動圧発生部A1において、上側の動圧溝Aa1の軸方向寸法は、下側の動圧溝Ab1の軸方向寸法よりも大きくなっている。一方、下側のラジアル動圧発生部A2においては、上側の動圧溝Aa2と下側の動圧溝Ab2の軸方向寸法が互いに等しく、かつ上側のラジアル動圧発生部A1を構成する下側の動圧溝Ab1の軸方向寸法と等しくなっている。これにより、回転体2の回転時、軸受部材22の外周面22aとハウジング7の小径内周面7a2との間の隙間(ラジアル軸受隙間)に満たされた潤滑油11は、スラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間側に押し込まれる。
また、以上で説明した実施形態では、筒部7aとその下端開口を閉塞する底部7bとを一体に設けたハウジング7を使用し、ハウジング7の上端開口をシールするシール隙間Sを、ハウジング7(筒部7a)の内周面に固定したシール部材9の内周面9aで形成するようにしたが、ハウジング7は、図8に示すように、筒部7aとその下端開口を閉塞する底部7bとが別体に設けられたものを使用するようにしても構わない。その代わりに、図8では、シール隙間Sを形成するシール部材としてのシール部7cを、筒部7aと一体に設けている。なお、このような構成を、図2に示す流体動圧軸受装置1に適用することもできる。
また、以上で示した実施形態では、モータベース6の内周に、モータベース6と別体に設けたハウジング7を固定するようにしたが、ハウジング7にモータベース6に相当する部位を一体に設けることもできる(図示省略)。
また、以上で示した実施形態では、多孔質体からなる軸受部材22の良好な加工性に鑑み、軸受部材22の外周面22aにラジアル動圧発生部A,A1,A2を形成したが、ラジアル動圧発生部は、対向するハウジング7の内周面7a2に形成しても良い。また、ラジアル軸受部は、いわゆる多円弧軸受、ステップ軸受、および波型軸受等、公知のその他の動圧軸受で構成することもできる。同様に、スラスト動圧発生部Bは、軸受部材22の下端面22cではなく、これに対向するハウジング7の内底面7b1に形成しても良い。また、スラスト軸受部Tは、いわゆるステップ軸受や波型軸受等、公知のその他の動圧軸受で構成することもできる。
また、以上で示した実施形態では、ロータマグネット4とステータコイル5とを軸方向にずらして配置することにより、軸受部材22を含む回転体2を下方に押し付ける(スラスト他方向に支持する)ための外力(磁力)を作用させるようにしたが、このような外力を回転体2に作用させるための手段は上記のものに限られない。図示は省略するが、例えば、磁性部材をロータマグネット4と軸方向に対向配置することにより、上記磁力を回転体2(ロータ3)に作用させることもできる。また、送風作用の反力としての推力が十分に大きく、この推力のみで軸受部材22を下方に押し付けることができる場合、軸受部材22を下方に押し付けるための外力としての磁力(磁気吸引力)は省略しても構わない。
また、以上では、羽根を有するロータ3が軸部材21に固定される流体動圧軸受装置1に本発明を適用した場合について説明を行ったが、本発明は、羽根を有するロータ3に替えて、ディスク搭載面を有するディスクハブ、あるいはポリゴンミラーが軸部材21に固定される流体動圧軸受装置1にも好ましく適用することができる。すなわち、本発明は、図1に示すようなファンモータのみならず、ディスク装置用のスピンドルモータや、レーザビームプリンタ(LBP)用のポリゴンスキャナモータ等、その他の電気機器用モータに組み込まれる流体動圧軸受装置1にも好ましく適用することができる。