以下、図面を参照して、本発明の実施形態による有機ELデバイスの製造方法、成膜方法および成膜装置を説明する。なお、本発明の実施形態は、以下に例示する実施形態に限定されない。
本発明のある実施形態による成膜方法は、図1に示すように、基板上に光硬化性樹脂の液膜を形成する工程Aと、基板上の第1領域に選択的に例えば赤外線を照射することによって、第1領域内の光硬化性樹脂を気化させる工程Bと、工程Bの後で、光硬化性樹脂が感光性を有する光(例えば紫外線)を基板上の第1領域を含む第2領域に照射し、第2領域内光硬化性樹脂を硬化させることによって、光硬化樹脂膜(硬化された樹脂膜)を得る工程Cとを包含する。本実施形態によると、光硬化樹脂膜は、基板上の第2領域の内、第1領域を除く領域に形成される。第2領域は、例えば、基板の全面であってよい。すなわち、本実施形態によると、特定の領域に選択的に赤外線を照射することによって、その領域に光硬化樹脂膜が形成されないようにすることができる。なお、後述するように、赤外線と紫外線とを出射する光源(例えば紫外線ランプ)と、コールドミラー構造を有する赤外線透過部(紫外線遮光部)と、コールドフィルター構造を有する赤外線遮光部(紫外線透過部)とを備えるフォトマスクを用いると、工程Bと工程Cとを同時に行うことができる。
液状の光硬化性樹脂を気化(蒸発)させるために照射する光は、光硬化性樹脂を加熱するための光であり、光硬化性樹脂が吸収する光の内で、光硬化性樹脂の重合反応(硬化反応)を開始させない波長を選択すればよい。光硬化性樹脂の重合反応が開始される波長(感光波長)は、光硬化性樹脂に含まれる光重合開始剤の種類によって調整され得る。有機化合物は一般に、波長が約1μm〜約30μm(特に1μm〜2μm)の赤外線を吸収する。したがって、約1μm〜約30μmの波長範囲の赤外線を照射することよって、光硬化性樹脂を効果的に加熱することができる。光硬化性樹脂の重合反応が開始される波長(感光波長)は、光硬化性樹脂に含まれる光重合開始剤の種類によって調整され得る。光硬化性樹脂は、一般に、可視光(例えば400nmから500nm以下)または紫外線によって反応を開始する光重合開始剤が用いられる。したがって、赤外線に代えて、また、赤外線とともに照射する可視光の波長は550nm超が好ましい。
以下の説明において、液状の光硬化性樹脂を気化させるために照射する赤外線および/または可視光(波長:550nm超)を「第1の光」と呼び、光硬化性樹脂を硬化させるために照射する紫外線および/または可視光(例えば400nmから500nm以下)を「第2の光」と呼ぶことがある。
第1の光の照射によって、照射された領域(第1領域)内の液状の光硬化性樹脂を効果的に気化(蒸発)させ、下地の表面(例えば基板の表面)を露出させるためには、光硬化性樹脂の液膜の厚さは、500nm以下であることが好ましい。液膜の厚さの下限に特に制限はないが、例えば、上記薄膜封止構造の有機バリア層として用いる場合には、光硬化性樹脂の液膜の厚さは100nm以上であることが好ましい。ここで、光硬化性樹脂の液膜(または光硬化樹脂膜)の厚さは、平坦部における厚さをいう。液膜は平坦な(水平な)表面を形成するので、下地に凹部があると、その部分の液膜の厚さは大きくなる。また、液膜は、表面張力(毛細管現象を含む)によって曲面を形成するので、凸部の周辺の液膜の厚さが大きくなる。このような局所的に厚さが大きくなった部分は、500nmを超えてもよい。
工程Bにおいて照射する光は、光硬化性樹脂の重合反応を開始させない波長を選択すればよい。光硬化性樹脂の重合反応が開始される波長(感光波長)は、光硬化性樹脂に含まれる光重合開始剤の種類によって調整され得る。光硬化性樹脂としては、反応性等の観点から紫外線硬化性樹脂が好ましい。照射する紫外線は、近紫外線(200nm以上400nm以下)の中でも特に波長315nm以上400nm以下のUV−A領域のものが好ましいが、300nm以上315nm未満の紫外線を用いてもよい。また、400nm以上450nm以下の青紫色から青色にかけての可視光線を照射することによって硬化する光硬化性樹脂を用いることもできる。
光硬化性樹脂は、例えば、ビニル基含有モノマーを含む。その中でも、アクリルモノマーが好適に用いられる。アクリルモノマーには必要に応じて、光重合開始剤が混合され得る。公知の種々のアクリモノマーを用いることができる。複数のアクリルモノマーを混合してもよい。例えば、2官能モノマーと3官能以上の多官能モノマーを混合してもよい。また、オリゴマーを混合してもよい。光硬化性樹脂として、紫外線硬化型のシリコーン樹脂を用いることもできる。シリコーン樹脂(シリコーンゴムを含む)は可視光透過性および耐候性に優れ、長期間の使用でも黄変しにくいという特徴がある。可視光の照射で硬化する光硬化性樹脂を用いることもできる。光硬化性樹脂の硬化前の室温(例えば25℃)の粘度は、10Pa・sを超えないことが好ましく、1〜100mPa・sであることが特に好ましい。粘度が高いと、厚さが500nm以下の薄い液膜を形成することが難しいことがある。
光硬化性樹脂の液膜は、例えば、蒸気または霧状の光硬化性樹脂を含むチャンバー内で、基板上で蒸気または霧状の光硬化性樹脂を凝縮させることによって形成される。例えば、内部の空間が所定の圧力(真空度)および温度に制御されたチャンバー内に、蒸気または霧状のアクリルモノマー(光重合開始剤を含み得る。)を供給する。チャンバー内の温度は例えば室温よりも高く制御され、アクリルモノマーも室温より高い温度に制御され得る。チャンバー内のアクリルモノマーのほとんどすべてが蒸気(気体)であってもよい。チャンバー内にアクリモノマーを供給する前に、予め気化用容器(例えば、図7中の容器202参照)内で、液状のアクリルモノマーを蒸気または霧状にしてもよい。
基板は、例えば、室温よりも低い温度に調整されており、基板の上面において、アクリルモノマーの蒸気は凝縮され液体となる。アクリルモノマーの供給量が十分に多いと、基板の上面の全面を覆うアクリルモノマーの液膜が形成される。
光硬化性樹脂の液膜が形成された基板上の選択された領域(第1領域)に赤外線および/または可視光(波長:550nm超)を照射によって、照射された領域(第1領域)内の液状の光硬化性樹脂を気化(蒸発)させる。冷却されて基板の上面で凝縮されていた光硬化性樹脂はわずかに加熱されるだけで気化し、基板の第1領域の表面が露出される。基板上の第1領域内の光硬化性樹脂が気化した後で、光硬化性樹脂の感光波長を有する光(例えば紫外線)を照射することによって、第1領域に開口部または切欠き部(すなわち、樹脂が存在しない部分)を有する光硬化樹脂膜が得られる。
本発明の実施形態による上記の成膜方法は、量産性および耐湿信頼性が改善された、比較的薄い有機バリア層を有する薄膜封止構造を備える有機ELデバイスの製造方法に好適に用いられる。以下では、OLED表示装置の製造方法を例に、本発明の実施形態による有機ELデバイスの製造方法およびそれに用いられる成膜装置を説明する。
まず、図2(a)および(b)を参照して、本発明の実施形態によるOLED表示装置100の基本的な構成を説明する。図2(a)は、本発明の実施形態によるOLED表示装置100のアクティブ領域の模式的な部分断面図であり、図2(b)は、OLED3上に形成されたTFE構造10の部分断面図である。後に説明する実施形態1および実施形態2によるOLED表示装置も基本的に同じ構成を有しており、特に、TFE構造に関する構造以外の構造はOLED表示装置100と同じであってよい。
OLED表示装置100は、複数の画素を有し、画素ごとに少なくとも1つの有機EL素子(OLED)を有している。ここでは、簡単のために、1つのOLEDに対応する構造について説明する。
図2(a)に示す様に、OLED表示装置100は、フレキシブル基板(以下、単に「基板」ということがある。)1と、基板1上に形成されたTFTを含む回路(「駆動回路」または「バックプレーン回路」ということがある。)2と、回路2上に形成されたOLED3と、OLED3上に形成されたTFE構造10とを有している。OLED3は例えばトップエミッションタイプである。OLED3の最上部は、例えば、上部電極またはキャップ層(屈折率調整層)である。TFE構造10の上にはオプショナルな偏光板4が配置されている。
基板1は、例えば厚さが15μmのポリイミドフィルムである。TFTを含む回路2の厚さは例えば4μmであり、OLED3の厚さは例えば1μmであり、TFE構造10の厚さは例えば1.5μm以下である。
図2(b)は、OLED3上に形成されたTFE10の部分断面図である。OLED3の直上に第1無機バリア層(例えばSiN層)12が形成されており、第1無機バリア層12の上に有機バリア層(例えばアクリル樹脂層)14が形成されており、有機バリア層14の上に第2無機バリア層(例えばSiN層)16が形成されている。
例えば、第1無機バリア層12および第2無機バリア層16は、例えば厚さが400nmのSiN層であり、有機バリア層14は厚さが100nm未満のアクリル樹脂層である。第1無機バリア層12および第2無機バリア層16の厚さはそれぞれ独立に、200nm以上1000nm以下であり、有機バリア層14の厚さは50nm以上200nm未満である。TFE構造10の厚さは400nm以上2μm未満であることが好ましく、400nm以上1.5μm未満であることがさらに好ましい。
TFE構造10は、OLED表示装置100のアクティブ領域(図3中のアクティブ領域R1参照)を保護するように形成されており、少なくともアクティブ領域には、上述したように、OLED3に近い側から順に、第1無機バリア層12、有機バリア層14、および第2無機バリア層16を有している。なお、有機バリア層14は、アクティブ領域の全面を覆う膜として存在しているのではなく、開口部を有している。有機バリア層14の内、開口部を除く、実際に有機膜が存在する部分を「中実部」ということにする。また、「開口部」(「非中実部」ということもある。)は、中実部で包囲されている必要はなく、切欠きなどを含み、開口部においては、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触している。有機バリア層14が有する開口部は、少なくとも、アクティブ領域を包囲するように形成された開口部を含み、アクティブ領域は、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触している部分(以下、「無機バリア層接合部」という。)で完全に包囲されている。TFE構造10の外形は、第1無機バリア層12および第2無機バリア層16によって画定される。
(実施形態1)
図3から図5を参照して、本発明の実施形態1によるOLED表示装置の構造および製造方法を説明する。
図3に本発明の実施形態1によるOLED表示装置100Aの模式的な平面図を示す。
OLED表示装置100Aは、フレキシブル基板1と、フレキシブル基板1上に形成された回路(駆動回路またはバックプレーン回路)2と、回路2上に形成された複数のOLED3と、OLED3上に形成されたTFE構造10Aとを有している。複数のOLED3が配列されている層をOLED層3ということがある。なお、回路2とOLED層3とが一部の構成要素を共有してもよい。TFE構造10Aの上にはオプショナルな偏光板(図2中の参照符号4を参照)がさらに配置されてもよい。また、例えば、TFE構造10Aと偏光板との間にタッチパネル機能を担う層が配置されてもよい。すなわち、OLED表示装置100Aは、オンセル型のタッチパネル付き表示装置に改変され得る。
回路2は、複数のTFT(不図示)と、それぞれが複数のTFT(不図示)のいずれかに接続された複数のゲートバスライン(不図示)および複数のソースバスライン(不図示)とを有している。回路2は、複数のOLED3を駆動するための公知の回路であってよい。複数のOLED3は、回路2が有する複数のTFTのいずれかに接続されている。OLED3も公知のOLEDであってよい。
OLED表示装置100Aは、さらに、複数のOLED3が配置されているアクティブ領域(図3中の破線で囲まれた領域)R1の外側の周辺領域R2に配置された複数の端子38Aと、複数の端子38Aと複数のゲートバスラインまたは複数のソースバスラインのいずれかとを接続する複数の引出し配線30Aを有しており、TFE構造10Aは、複数のOLED3の上および複数の引出し配線30Aのアクティブ領域R1側の部分の上に形成されている。すなわち、TFE構造10Aはアクティブ領域R1の全体を覆い、かつ、複数の引出し配線30Aのアクティブ領域R1側の部分の上に選択的に形成されており、引出し配線30Aの端子38A側および端子38Aは、TFE構造10Aでは覆われていない。
なお、図3における領域NR1および領域NR2は、有機バリア層14を形成する工程において、光硬化性樹脂を硬化させる前に、第1の光(例えば赤外線)を照射し、光硬化性樹脂を気化させた領域を示し、すなわち、有機バリア層14の中実部(実際に有機膜が存在する部分)が存在しない領域を示している。
以下では、引出し配線30Aと端子38Aとが同じ導電層を用いて一体に形成された例を説明するが、互いに異なる導電層(積層構造を含む)を用いて形成されてもよい。
次に、図4(a)〜(e)を参照して、OLED表示装置100AのTFE構造10Aを説明する。図4(a)に図3中の4A−4A’線に沿った断面図を示し、図4(b)に図3中の4B−4B’線に沿った断面図を示し、図4(c)に図3中の4C−4C’線に沿った断面図を示し、図4(d)に図3中の4D−4D’線に沿った断面図を示し、図4(e)に図3中の4E−4E’線に沿った断面図を示す。なお、図4(d)および(e)は、TFE構造10Aが形成されていない領域の断面図であるが、有機バリア層14Aは端子38Aが形成されている領域(端子領域)まで延設され得るので併せて示している。
図4(a)〜(c)に示す様に、TFE構造10Aは、OLED3上に形成された第1無機バリア層12Aと、第1無機バリア層12Aに接する有機バリア層14Aと、有機バリア層14Aに接する第2無機バリア層16Aとを有している。第1無機バリア層12Aおよび第2無機バリア層16Aは、例えば、SiN層であり、マスクを用いたプラズマCVD法で、アクティブ領域R1を覆うように所定の領域だけに選択的に形成される。ここでは、第1無機バリア層12Aおよび第2無機バリア層16Aは、それぞれ独立に、アクティブ領域R1の上および複数の引出し配線30Aのアクティブ領域R1側の部分の上に選択的に形成される。なお、信頼性の観点からは、第2無機バリア層16Aは、第1無機バリア層12Aと同じ(外縁が一致する)か、第1無機バリア層12Aの全体を覆うように形成されることが好ましい。
図4(a)は、図3中の4A−4A’線に沿った断面図であり、パーティクルPを含む部分を示している。パーティクルPは、OLED表示装置の製造プロセス中に発生する微細なゴミで、例えば、ガラスの微細な破片、金属の粒子、有機物の粒子である。マスク蒸着法を用いると、特にパーティクルが発生しやすい。
図4(a)に示す様に、有機バリア層(中実部)14Aは、パーティクルPの周辺にのみ形成され得る。これは、第1無機バリア層12Aを形成した後に付与されたアクリルモノマーが、パーティクルP上の第1無機バリア層12Aaの表面(例えばテーパー角が90°超)の周辺に凝縮され、偏在するからである。第1無機バリア層12Aの平坦部上は、有機バリア層14Aの開口部(非中実部)となっている。
ここで、図5(a)および(b)を参照して、パーティクルPを含む部分の構造を説明する。図5(a)は図4(a)のパーティクルPを含む部分の拡大図であり、図5(b)はパーティクルPを覆う第1無機バリア層(例えばSiN層)の模式的な断面図である。
図5(b)に示す様に、パーティクル(例えば直径が約1μm以上)Pが存在すると、第1無機バリア層にクラック(欠陥)12Acが形成されることがある。これは、後に説明するように、パーティクルPの表面から成長するSiN層12Aaと、OLED3の表面の平坦部分から成長するSiN層12Abとが衝突(インピンジ)するために生じたと考えられる。このようなクラック12Acが存在すると、TFE構造10Aのバリア性が低下する。
OLED表示装置100AのTFE構造10Aでは、図5(a)に示す様に、有機バリア層14Aが、第1無機バリア層12Aのクラック12Acを充填するように形成され、かつ、有機バリア層14Aの表面は、パーティクルP上の第1無機バリア層12Aaの表面と、OLED3の平坦部上の第1無機バリア層12Abの表面とを連続的に滑らかに連結する。したがって、パーティクルP上の第1無機バリア層12Aおよび有機バリア層14A上に形成される第2無機バリア層16Aに欠陥が形成されることなく、緻密な膜が形成される。このように、有機バリア層14Aによって、パーティクルPが存在しても、TFE構造10Aのバリア性を保持することができる。
有機バリア層14Aは、例えばアクリル樹脂から形成されることが好ましい。特に、室温(例えば25℃)における粘度が、1〜100mPa・s程度のアクリルモノマー(アクリレート)を光硬化(例えば紫外線硬化)することによって形成されたものが好ましい。このように低粘度のアクリルモノマーは、クラック12AcおよびパーティクルPのオーバーハング部分に容易に浸透することができる。また、アクリル樹脂は可視光の透過率が高く、トップエミッションタイプのOLED表示装置に好適に用いられる。なお、上述した他の光硬化性樹脂を用いることもできる。
次に、図4(b)および(c)を参照して、引出し配線30A上のTFE構造10Aの構造を説明する。図4(b)は、図3中の4B−4B’線に沿った断面図であり、引出し配線30Aのアクティブ領域R1側の部分32Aの断面図であり、図4(c)は図3中の4C−4C’線に沿った断面図であり、領域NR1内に存在する部分34Aの断面図である。
引出し配線30Aは、例えば、ゲートバスラインまたはソースバスラインと同じプロセスでパターニングされるので、ここでは、アクティブ領域R1内に形成されるゲートバスラインおよびソースバスラインも、図4(b)に示した引出し配線30Aのアクティブ領域R1側の部分32Aと同じ断面構造を有する例を説明する。
本発明の実施形態によるOLED表示装置100Aは、例えば、高精細の中小型のスマートフォンおよびタブレット端末に好適に用いられる。高精細(例えば500ppi)の中小型(例えば5.7型)のOLED表示装置では、限られた線幅で、十分に低抵抗な配線(ゲートバスラインおよびソースバスラインを含む)を形成するために、アクティブ領域R1内における配線の線幅方向に平行な断面の形状は矩形(側面のテーパー角が約90°)に近いがことが好ましい。一方、OLED表示装置100Aのアクティブ領域R1は、第1無機バリア層12Aと第2無機バリア層16Aとが直接接触する無機バリア層接合部によって実質的に包囲されているので、有機バリア層14Aが水分の侵入経路となって、OLED表示装置のアクティブ領域R1に水分が到達することがない。上記無機バリア層接合部は、領域NR1内に存在する引出し配線30A上に形成される。
OLED表示装置100Aは、例えば高精細な中小型の表示装置であり、ゲートバスラインおよびソースバスラインの線幅方向に平行な断面の形状における側面のテーパー角は約90°である。引出し配線30Aのアクティブ領域R1側の部分32Aも、ゲートバスラインまたはソースバスラインと同様に、線幅方向に平行な断面の形状における側面のテーパー角は約90°である。引出し配線30Aの部分32Aを覆う第1無機バリア層12Aの最下部(引出し配線30Aの側面を覆う部分と、基板1の平坦部上に形成された部分との境界部)に、有機バリア層(中実部)14Aが形成されている。これは、第1無機バリア層12Aの表面が90°以下の角度を成す箇所に、液状の光硬化性樹脂(例えばアクリルモノマー)が偏在するからである。
一方、図4(c)に示す、引出し配線30Aの部分34Aは、領域NR1内に形成されている。したがって、引出し配線30Aの部分34Aを覆う第1無機バリア層12Aの最下部に凝縮した液状の光硬化性樹脂が、第1の光(例えば赤外線)の照射によって気化されているので、領域NR1内には光硬化樹脂(有機バリア層14Aの中実部)が形成されない。その結果、引出し配線30Aは、図3中の4C−4C’線に沿った断面において、第1無機バリア層12Aと第2無機バリア層16Aとが直接接触している無機バリア層接合部で覆われている。
したがって、上述したように、引出し配線に沿って形成された有機バリア層が大気中の水蒸気をアクティブ領域内へ導く経路となることがない。耐湿信頼性の観点からは、引出し配線30Aの部分34Aの長さ、すなわち、無機バリア層接合部の長さは、少なくとも0.01mmであることが好ましい。無機バリア層接合部の長さに特に上限は無いが、0.1mm超としても耐湿信頼性を向上させる効果はほぼ飽和しており、それ以上長くしても、むしろ、額縁幅を増大させるだけなので、0.1mm以下が好ましく、例えば0.05mm以下とすればよい。インクジェット法で有機バリア層を形成する従来のTFE構造では、有機バリア層の端部が形成される位置のばらつきを考慮して0.5mm〜1.0mm程度の長さの無機バリア層接合部が設けられている。これに対し、本発明の実施形態によると、無機バリア層接合部の長さは0.1mm以下でよいので、有機EL表示装置を狭額縁化できる。
次に、図4(d)および(e)を参照する。図4(d)および(e)は、TFE構造10Aが形成されていない領域の断面図である。図4(d)に示す引出し配線30Aの部分36Aは、図4(b)に示した引出し配線30Aの部分32Aと同様の断面形状を有しており、その側面の最下部に有機バリア層14Aが形成されている。一方、図4(e)に示す端子38Aは、領域NR2内に形成されているので、図4(c)に示した引出し配線30Aの部分34Aと同様に、端子38Aの側面には有機バリア層(中実部)14Aが存在しない。また、平坦部上にも有機バリア層(中実部)14Aが存在しない。
有機バリア層14Aは、上述したように、蒸気または霧状の光硬化性樹脂(例えばアクリルモノマー)を供給する工程を包含するので、第1無機バリア層12Aおよび第2無機バリア層16Aの様に所定の領域にのみ選択的に形成することができない。したがって、端子38A上にも有機バリア層(中実部)14Aが形成され得ることになる。そうすると、端子38A上の有機バリア層(中実部)14Aを除去する必要が生じ、量産性が低下する。端子38Aを含む領域NR2に第1の光を照射することによって、端子38Aの側面および上面に有機バリア層(中実部)14Aが形成されるのを抑制することができる。
図6を参照して、TFE構造10Aの形成方法を説明する。
図6に示す様に、TFE構造10Aの形成方法は、素子基板のアクティブ領域を含む所定の領域に選択的に第1無機バリア層を形成する工程S1と、蒸気または霧状の光硬化性樹脂を含むチャンバー内において第1無機バリア層12A上で光硬化性樹脂を凝縮させる工程S2と、赤外線を第1領域に選択的に照射することによって第1領域内の光硬化性樹脂を気化させる工程S3と、光を第1領域を含む第2領域に照射し第2領域内の光硬化性樹脂を硬化させることによって有機バリア層14Aを形成する工程S4と、第1無機バリア層12Aが形成された領域に選択的に第2無機バリア層16Aを形成する工程S5とを包含する。
工程S1における所定の領域は、例えば、アクティブ領域R1の上および複数の引出し配線30Aのアクティブ領域R1側の部分の上である。
工程S2は、例えば、第1無機バリア層12Aが有する凸部の周辺にだけ液状の光硬化性樹脂を偏在させる工程である。すなわち、液状の光硬化性樹脂は、例えば、引出し配線30Aおよび/またはパーティクルP上に形成された第1無機バリア層12Aの部分(第1無機バリア層12Aが有する凸部)の周辺にだけ偏在する。なお、後述する実施形態2においては、工程S2において、第1無機バリア層が有する凸部の周辺だけでなく、第1無機バリア層を含む、素子基板の表面全体にわたる光硬化性樹脂の液膜を形成してもよい。
工程S3で、第1領域内の光硬化性樹脂を選択的に気化させる。第1領域は、複数の引出し配線30Aと交差する分断領域を含む。複数の引出し配線30Aと交差する分断領域は、例えば、図3に示した領域NR1の様に、複数の引出し配線30Aと交差する1つの線状領域である。第1領域の形状はこれに限れない。例えば、第1領域は複数の領域を含んでもよく、例えば、複数の領域のそれぞれが、1または2以上の引出し配線30Aと交差するように形成されてもよい。ここで、引出し配線30Aと交差するとは、引出し配線30Aの上面(頂面)およびその両側に位置する2つの側面と連続的に重なることをいい、引出し配線30Aと交差する分断領域が線状であることを要しない。例えば、図3に示した実線状の領域NR1に代えて、複数の島状の領域が点線状に配列された領域としてもよい。
第1領域は、また、例えば図3に示した領域NR2を含んでもよい。領域NR2は、複数の端子38Aを含む1つの線状領域であるが、これに限られない。複数の領域のそれぞれが、1または2以上の端子38Aを含むようにしてもよい。
さらに、第1領域は、図3に示した領域NR1と領域NR2とを含む連続した1つの領域としてもよい。
工程S3において液状の光硬化性樹脂を気化(蒸発)させるために照射する光は、上述したように、赤外線および/または可視光(波長が550nm超)が好ましい。工程S4において光硬化性樹脂を硬化させるために照射する光は、光硬化性樹脂が感光性を有する光であり、紫外線および/または可視光(例えば波長が400nmから500nm以下)が好ましい。工程S4で照射する第2領域は、例えば、素子基板の全面である。工程S4を経て、光硬化樹脂からなる有機バリア層が形成される。この有機バリア層は、第1領域内に光硬化樹脂を有しない。
工程S4の後に、第1無機バリア層12Aが形成された領域に選択的に第2無機バリア層16Aを形成することによって、第1無機バリア層12Aと第2無機バリア層16Aとが直接接触する無機バリア層接合部を第1領域内に有するTFE構造が得られる。無機バリア層接合部は、第1領域の内、少なくとも複数の引出し配線30Aと交差する分断領域に形成されればよい。例えば、図3に示したTFE10Aは、領域NR1に無機バリア層接合部を有している。TFE10Aの領域NR2においては、複数の端子38Aが露出されている。
次に、図7(a)および(b)を参照して、有機バリア層14Aの形成に用いられる成膜装置200Aおよびそれを用いた成膜方法を説明する。図7(a)および(b)は、成膜装置200Aの構成を模式的に示す図であり、図7(a)は、上記工程S2およびその後に行われる工程S3における成膜装置200Aの状態を併せて示しており、図7(b)は、上記工程S4における成膜装置200Aの状態を示している。
成膜装置200Aは、チャンバー210と、チャンバー210の内部を2個の空間に分割する隔壁234とを有している。チャンバー210の内部のうち隔壁234で仕切られた一方の空間には、ステージ212と、シャワープレート220とが配置されている。隔壁234で仕切られた他方の空間には、紫外線照射装置230Uと赤外線照射装置230Rとが配置されている。チャンバー210は、その内部の空間を所定の圧力(真空度)および温度に制御される。ステージ212は、第1無機バリア層が形成されたOLED3を複数有する素子基板20を受容する上面を有し、上面を例えば−20℃まで冷却することができる。
シャワープレート220は、隔壁234との間に、間隙部224を形成するように配置されており、複数の貫通孔222を有している。間隙部224の鉛直方向サイズは、例えば100mm以上1000mm以下であり得る。間隙部224に供給されたアクリルモノマー(蒸気または霧状)は、シャワープレート220の複数の貫通孔222から、チャンバー210内のステージ212側の空間に供給される。必要に応じてアクリルモノマーは加熱される。蒸気または霧状のアクリルモノマー26pは、素子基板20の第1無機バリア層に付着または接触する。アクリルモノマー26は、容器202からチャンバー210内に所定の流量で供給される。容器202には、配管206を介してアクリルモノマー26が供給されるとともに、配管204から窒素ガスが供給される。容器202へのアクリルモノマーの流量は、マスフローコントローラ208によって制御される。シャワープレート220、容器202、配管204、206およびマスフローコントローラ208などによって原料供給装置が構成されている。
紫外線照射装置230Uは、紫外線光源とオプショナルな光学素子とを有している。紫外線光源は、例えば、紫外線ランプ(例えば、水銀ランプ(高圧、超高圧を含む)、水銀キセノンランプまたはメタルハライドランプ)であってもよいし、紫外線LEDや紫外線半導体レーザなどの紫外線発光半導体素子であってもよい。光学素子は、例えば、反射鏡、プリズム、レンズ、光ファイバー、回折素子、空間光変調素子、およびホログラム素子である。例えば、紫外線レーザから出射されたビームは、公知の種々の光学素子を用いて成形される。例えば、ライン状の断面形状を有するビームを形成することができる。紫外線光源の種類や大きさに応じて、複数の紫外線光源を用いてもよい。例えば、複数の半導体レーザ素子を一列に配列してもよいし、2次元アレイ状に配列してもよい。また、1本または2本以上のレーザビームをスキャンしてもよい。
赤外線照射装置230Rは、赤外線光源とオプショナルな光学素子とを有している。赤外線光源は、例えば、赤外線LEDや赤外線半導体レーザ素子などの赤外線発光半導体素子を好適に用いることができる。例えば−20℃に冷却された素子基板上の液状の光硬化性樹脂を蒸発(気化)させるためには、例えば、光硬化性樹脂の温度を0℃以上の温度まで上昇させればよい。すなわち、素子基板上の液状の光硬化性樹脂の温度を20℃以上上昇させればよく、30℃〜50℃以上上昇させることがさらに好ましい。素子基板上の液状の光硬化性樹脂(例えば厚さが100nm)の温度を20℃以上上昇させるために必要な熱量は、例えば、1mJ/cm2から10mJ/cm2程度であり得る。したがって、例えば、通信用の半導体レーザ(例えば、1.3μm帯、および/または、1.55μm帯、出力が250mW超)を用いることができる。赤外線ランプ(例えばハロゲンランプ)のように出力の大きな赤外線光源を用いる必要はない。
赤外線半導体レーザ素子から出射されたビームは、公知の種々の光学素子を用いて成形される。例えば、ライン状の断面形状を有するビームを形成することができる。また、複数の半導体レーザ素子を用いてもよい。例えば、複数の半導体レーザを一列に配列してもよいし、2次元アレイ状に配列してもよい。1本または2本以上のレーザビームを一括して照射してもよいし、1本または2本以上のレーザビームをスキャンしてもよい。また、矩形(例えば、0.05mm×100mm)の断面形状を有するビームを形成し、ステップスキャンしてもよい。これらは、照射する領域(第1領域)の大きさや配置等に応じて適宜変更され得る。
紫外線照射装置230Uと赤外線照射装置230Rとは切り替えられるように構成されている。紫外線照射装置230Uおよび赤外線照射装置230Rはそれぞれ所定の位置に配置されたときに、所定の波長および強度を有する光をステージ212の上面に向けて出射する。隔壁234およびシャワープレート220は、紫外線および赤外線の透過率が高い材料、例えば、石英で形成されていることが好ましい。
成膜装置200Aを用いて、例えば以下の様にして、有機バリア層14Aを形成することができる。
チャンバー210内に、アクリルモノマー26pを供給する。素子基板20は、ステージ212上で、例えば−15℃に冷却されている。アクリルモノマー26pは素子基板20の第1無機バリア層12上で凝縮される。このときの条件を制御することによって、第1無機バリア層12Aが有する凸部の周囲にだけ液状のアクリルモノマーを偏在させる。
その後、チャンバー210内を排気し、蒸気または霧状のアクリルモノマー26pを除去した後、赤外線照射装置230Rを用いて、所定の領域(第1領域:図3中の領域NR1およびNR2)に選択的に赤外線232Rを照射することによって、赤外線232Rを照射した領域内のアクリルモノマーを気化(蒸発)させる。そうすることによって、第1無機バリア層12Aの第1領域の表面が露出される。すなわち、第1領域内の無機バリア層12Aが有する凸部(例えば、引出し配線30A上に形成された部分)の周囲に偏在した液状の光硬化性樹脂が気化され、第1無機バリア層12Aの第1領域の表面が露出される。
続いて、紫外線照射装置230Uを用いて、第1領域を含む第2領域(典型的には、素子基板20の上面の全体)に紫外線232Uを照射することによって、第1無機バリア層12A上のアクリルモノマーを硬化させる。紫外線光源としては、例えば、365nmにメインピークを持つ高圧水銀ランプを用い、紫外線強度として例えば、12mW/cm2で、約10秒照射する。
このようにして、アクリル樹脂からなる有機バリア層14Aが形成される。有機バリア層14Aは、第1領域(領域NR1および領域NR2)内に、アクリル樹脂を有しない。この有機バリア層14Aの形成工程のタクトタイムは例えば、約30秒未満であり、非常に量産性が高い。
この後、第2無機バリア層16Aを形成するためのCVDチャンバーに搬送し、例えば、第1無機バリア層12Aと同じ条件で、第2無機バリア層16Aを形成する。第2無機バリア層16Aは、第1無機バリア層12Aが形成された領域に形成されるので、第1領域の内の領域NR1には、第1無機バリア層12Aと第2無機バリア層16Aとが直接接触する無機バリア層接合部が形成される。したがって、上述したように、引出し配線に沿って形成された有機バリア層が大気中の水蒸気をアクティブ領域内へ導く経路となることがない。
なお、第1無機バリア層12Aおよび第2無機バリア層16Aは、例えば、以下の様にして形成される。SiH4およびN2Oガスを用いたプラズマCVD法で、例えば、成膜対象の基板(OLED3)の温度を80℃以下に制御した状態で、400nm/minの成膜速度で、厚さ400nmの無機バリア層を形成することができる。この様にして得られる無機バリア層の屈折率は1.84で、400nmの可視光の透過率は90%(厚さ400nm)である。また、膜応力の絶対値は50MPaである。
なお、無機バリア層として、SiN層の他、SiO層、SiON層、SiNO層、Al2O3層などを用いることもできる。有機バリア層を形成する樹脂としては、アクリル樹脂の他、ビニル基含有モノマーなどの光硬化性樹脂を用いることができる。また、光硬化性樹脂として、紫外線硬化型のシリコーン樹脂を用いることもできる。
成膜装置200Aに代えて、図8(a)および(b)に示す成膜装置200Bまたは200Cを用いることもできる。
図8(a)に示す成膜装置200Bは、赤外線照射装置230Rをステージ212の下側に有している。ステージ212は、例えば、赤外線を透過するガラスで形成されており、赤外線照射装置230Rは、ステージ212の下面に向けて赤外線232Rを出射する。
図8(b)に示す成膜装置200Cが有する光照射装置230は、紫外線光源として、例えば、紫外線ランプを有し、紫外線と赤外線とを出射する。成膜装置200Cは、ステージ212の上面に配置された素子基板20の表面に近接して配置されるフォトマスク52をさらに有している。フォトマスク52は、光照射装置230と素子基板20との間の光路から退避可能に設けられている。
フォトマスク52は、第1領域に対応する赤外線透過部を備えており、それによって、第1領域に選択的に赤外線を照射することができる。フォトマスク52を所定の位置に配置した状態で、第1領域のアクリルモノマーを気化させた後、フォトマスク52を退避させることによって、紫外線を素子基板20の上面の全体に照射することができる。
素子基板20に赤外線(第1の光)を照射する光学系を第1照射光学系と呼び、素子基板20に紫外線(第2の光)を照射する光学系を第2照射光学系と呼ぶと、成膜装置200Cにおいて、第1照射光学系は、紫外線ランプとフォトマスクとを備え、第2照射光学系は、第1照射光学系からフォトマスク52を退避させることによって構成されることになる。
フォトマスク52は、例えば、赤外線の透過率が高い基板(例えばガラス基板)の赤外線透過部となる領域の表面にコールドミラー構造を有し、その他の領域の表面に金属膜を有するものを用いることができる。コールドミラー構造は、誘電体多層膜で構成されており、赤外線(例えば約800nm以上約2000nm以下)を選択的に透過し、可視光および紫外線を反射する。金属膜は、例えば、厚さが500nm以上のCr膜(クロム膜)を用いることができる。十分な遮光性を得るために、金属膜(例えばCr膜)の厚さは1μm以上であることが好ましい。金属膜の厚さに特に上限はないが、例えば3μmを超えると遮光性に差がない。
また、金属膜に代えて、コールドフィルター構造を設けてもよい。コールドフィルター構造は、誘電体多層膜で構成されており、コールドミラー構造とは逆に、赤外線を反射し、可視光および紫外線を透過する。コールドミラー構造を有する赤外線透過部(紫外線遮光部)と、コールドフィルター構造を有する赤外線遮光部(紫外線透過部)とを備えるフォトマスク52を用いると、上記工程S3と工程S4とを同時に行うことができる。したがって、このようなフォトマスク52を用いると、第1照射光学系および第2照射光学系の両方が紫外線ランプとフォトマスクとで構成されることになる。
フォトマスクを有しない成膜装置200Aおよび200Bは、赤外線照射装置230Rが第1照射光学系を構成し、紫外線照射装置230Uが第2照射光学系を構成する。なお、成膜装置200Aにおいて、赤外線照射装置230Rが有する赤外線光源として、例えば赤外線ランプを用い、赤外線透過部を有するフォトマスク52を用いることによって、第1照射光学系を構成してもよい。
図9を参照して、第1照射光学系によって第1の光を照射する第1領域の例を説明する。図9(a)および(b)は、第1の光を照射する第1領域の例を示す模式的な斜視図である。
素子基板20は、それぞれがOLED表示装置となる複数のOLED表示装置部100pを有している。素子基板20に薄膜封止構造が形成された後、個々のOLED表示装置部100pに分断され、必要に応じて、後工程を経て、OLED表示装置が得られる。
図3に示したOLED表示装置100Aにおいて、第1領域は領域NR1および領域NR2を含んでおり、いずれも、OLED表示装置100A内の一部の領域であるが、第1領域は、種々に改変され得る。
例えば、図9(a)に示す第1領域42aのように、行方向に配列された6個のOLED表示装置部100pにわたる1つの領域としてもよい。図9(a)の第1領域42aは、例えば、図3に示した領域NR1およびNR2を含んでよい。このように、複数のOLED表示装置部にわたる1つの第1領域とすることによって、第1照射光学系を単純にできる。
また、図9(b)に示す第1領域42bのように、OLED表示装置部100pのアクティブ領域を包囲する環状領域としてもよい。第1領域42bを環状領域とすることによって、アクティブ領域を無機バリア層接合部でより確実に包囲することができる。例えば、TFE構造10Aの形成方法では、光硬化性樹脂を第1無機バリア層が有する凸部の周辺に偏在させるので、パーティクルPを除くと、引出し配線30Aを覆う第1無機バリア層12Aの最下部(引出し配線30Aの側面を覆う部分と、基板1の平坦部上に形成された部分との境界部)にだけ光硬化性樹脂が偏在する。したがって、図3に示した領域NR1(分断領域)を第1領域とすれば、有機バリア層14Aを介して水分がアクティブ領域に侵入することを防止できる。しかしながら、本来存在しない領域に光硬化性樹脂が付着することが皆無とは言えないので、万全を期して、環状の第1領域42bを形成してもよい。なお、環状の第1領域42bは、光硬化性樹脂の液膜を第1無機バリア層のほぼ全面に形成する工程を包含する、実施形態2によるOLED表示装置の製造方法に好適に用いられる。
図9(a)および(b)に示す第1領域42aおよび42bは、例えば、半導体レーザ素子と、光学素子(レンズ、回折素子など)とを有する第1照射光学系(赤外線照射装置230R)を用いて、照射され得る。なお、ビームを走査する場合、第1領域42aまたは42bの全体の温度が十分に上昇した状態を維持している必要があるので、ビーム強度や走査条件を調整する必要がある。そこで、例えば、成膜装置にステージの上面に向けられたサーモビュア(赤外線サーモグラフィ装置)をさらに設けてもよい。サーモビュアで素子基板上の温度分布をモニターしながら、赤外線照射装置230Rにおけるビーム強度や走査条件を最適化すればよい。
図10(a)および(b)に、第1の光を照射する際に用いられるフォトマスク52Aおよび52Bを模式的に示す。紫外線ランプ(例えば高圧水銀ランプ)や赤外線ランプ(例えばハロゲンランプ)の様な指向性を有しない赤外線を出射する場合、フォトマスク52Aまたは52Bを用いることによって、第1領域に選択的に赤外線を照射することができる。
次に、図11および図12を参照して、本発明の実施形態1による他のOLED表示装置100Bの構造を説明する。
図11は、OLED表示装置100Bの構造を模式的に示す平面図である。図12(a)および(b)は、OLED表示装置100Bの模式的な断面図であり、図12(a)は図11中の12A−12A’線に沿った断面図であり、図12(b)は図11中の12B−12B’線に沿った断面図である。
図11に示すOLED表示装置100Bは、引出し配線30Bが領域NR1と重なる部分34Bおよび端子38Bの断面構造が、図3に示したOLED表示装置100Aと異なる。図11において、OLED表示装置100Aと実質的に同じ機能を有する構成要素は共通の参照符号を付して、説明を省略することがある。
OLED表示装置100Aについて、図4(b)を参照して説明した様に、第1無機バリア層12Aの表面が90°以下の角度を成す箇所には、光硬化性樹脂が偏在しやすい。逆に言うと、第1無機バリア層12Aの表面が90°超の角度を成す箇所には、光硬化性樹脂は偏在しにくい。
そこで、OLED表示装置100Bでは、図12(a)および(b)に示す様に、OLED表示装置100Aにおける領域NR1および領域NR2と重なる引出し配線30Bの部分34Bおよび端子38Bが、側面のテーパー角が90°未満である順テーパー側面部分(傾斜側面部分)TSFを有する構造とし、光硬化性樹脂が偏在することを抑制している。
順テーパー側面部分TSFのテーパー角は85°以下が好ましく、70°以下が好ましい。このように、順テーパー側面部分TSFを有する部分では、第1無機バリア層12Bの表面が90°以下の角度を形成しないので、光硬化性樹脂が偏在し難い。第1無機バリア層12Bの表面が90°超の角度を成す箇所に有機材料が偏在したとしても、その量は、第1無機バリア層12Bの表面が90°以下の角度を成す箇所に比べて少ない。したがって、領域NR1および領域NR2に第1の光を照射することによって、より確実に、領域NR1内および領域NR2内に、光硬化性樹脂が存在しない領域を形成することができる。すなわち、領域NR1内に第1無機バリア層12Bと第2無機バリア層16Bとが直接接触している無機バリア層接合部をより確実に形成することができる。
なお、図11中の部分32Bを含む4B−4B’線に沿った断面図および部分36Bを含む4D−4D’線に沿った断面図は、それぞれ図4(b)および図4(d)に示した断面図と同じであってよい。この場合、引出し配線30Bを形成する工程において、多階調マスク(ハーフトーンマスクまたはグレートーンマスク)を用いるフォトリソグラフィ工程によって、1回の露光工程で、順テーパー側面部分TSFを有する部分を含む引出し配線30Bを形成することができる。なお、本明細書において、「フォトリソグラフィ工程」は、レジスト付与、露光、現像、レジストをマスクとしたエッチング、レジスト剥離を含む。
次に、図13(a)および(b)を参照する。図13(a)および(b)はそれぞれ実施形態1による他のOLED表示装置が有するTFE構造10Cおよび10Dの模式的な部分断面図である。
図13(a)は、TFE構造10Cの図3中の4B−4B’線に沿った模式的な断面図であり、引出し配線のアクティブ領域R1側の部分32Cの断面図である。
例えば、図4(b)に示した断面形状を有する引出し配線30Aを形成しようとしても、プロセス条件の変動によって、図13(a)に示したような、逆テーパー側面を有する部分32Cが形成されることがある。逆テーパー側面が形成されると、第1無機バリア層12Cは不連続となる。このような場合でも、引出し配線の部分32Cの側面の最下部に有機バリア層14Cが形成され、その上に欠陥の無い第2無機バリア層16Cを形成することができる。このように、有機バリア層14Cは、パーティクルPが存在する場合や、逆テーパー状の断面形状を有するパターンが形成された場合に、耐湿信頼性が低下することを抑制することができる。
図13(b)は、TFE構造10Dの図3中の4C−4C’線に沿った模式的な断面図である。図12(a)に示したTFE構造10Bにおいては部分34Bの側面の全体を順テーパー側面部分TSFとしたが、図13(b)に示す部分34Dの様に、側面の少なくとも最下部にだけ順テーパー側面部分TSFを形成してもよい。光硬化性樹脂(例えばアクリルモノマー)が偏在するのは、側面の最下部(平坦部との境界)なので、この部分に光硬化性樹脂が偏在することを抑制すればよい。順テーパー側面部分TSFの高さ(基板法線方向の長さ)は、光硬化性樹脂の厚さよりも大きいことが好ましく、例えば、50nm以上、好ましくは100nm以上ある。順テーパー側面部分を含む配線の部分は、逆テーパー部を有しないことが好ましい。このような断面形状を有する部分34上には有機バリア層が存在しなくても、欠陥の無い第1無機バリア層12Cおよび第2無機バリア層16Cを形成することができる。
プロセスマージンを考慮すると、順テーパー側面部分のテーパー角は85°未満、好ましくは70°以下とし、それ以外の配線部分のテーパー角は85°超90°以下に設定することが好ましく、テーパー角の差は15°以上あることが好ましい。なお、順テーパー側面部分のテーパー角の下限に特に制限はないが、30°以上であることが好ましい。テーパー角を30°未満としても有機材料の偏在を抑制する効果に特段の差がなく、配線間の距離を一定とするならば、配線の抵抗が大きくなる、または、配線抵抗を一定とするならば、配線間距離が小さくなるだけだからである。このような断面形状を有するゲートバスライン、ソースバスラインおよび引出し配線ならびに端子は、ドライエッチングプロセスを用いて形成することが好ましい。なお、順テーパー側面部分のテーパー角は、多階調マスク(ハーフトーンマスクまたはグレートーンマスク)のパターンで調整することができ、それ以外の部分のテーパー角はドライエッチング条件で調整することができる。
次に、図14および図15を参照して、OLED表示装置100Aに用いられるTFTの例と、TFTを作製する際のゲートメタル層およびソースメタル層を用いて形成した引出し配線および端子の例を説明する。
高精細の中小型用OLED表示装置には、移動度が高い、低温ポリシリコン(「LTPS」と略称する。)TFTまたは酸化物TFT(例えば、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)、O(酸素)を含む4元系(In−Ga−Zn−O系)酸化物TFT)が好適に用いられる。LTPS−TFTおよびIn−Ga−Zn−O系TFTの構造および製造方法はよく知られているので、以下では簡単な説明に留める。
図14(a)は、LTPS−TFT2PTの模式的な断面図であり、TFT2PTはOLED表示装置100Aの回路2に含まれ得る。LTPS−TFT2PTは、トップゲート型のTFTである。
TFT2PTは、基板(例えばポリイミドフィルム)1上のベースコート2Pp上に形成されている。上記の説明では省略したが、基板1上には無機絶縁体で形成されたベースコートを形成することが好ましい。
TFT2PTは、ベースコート2Pp上に形成されたポリシリコン層2Pseと、ポリシリコン層2Pse上に形成されたゲート絶縁層2Pgiと、ゲート絶縁層2Pgi上に形成されたゲート電極2Pgと、ゲート電極2Pg上に形成された層間絶縁層2Piと、層間絶縁層2Pi上に形成されたソース電極2Pssおよびドレイン電極2Psdとを有している。ソース電極2Pssおよびドレイン電極2Psdは、層間絶縁層2Piおよびゲート絶縁層2Pgiに形成されたコンタクトホール内で、ポリシリコン層2Pseのソース領域およびドレイン領域にそれぞれ接続されている。
ゲート電極2Pgはゲートバスラインと同じゲートメタル層に含まれ、ソース電極2Pssおよびドレイン電極2Psdはソースバスラインと同じソースメタル層に含まれる。ゲートメタル層およびソースメタル層を用いて、引出し配線および端子が形成される(図15を参照して後述する)。
TFT2PTは、例えば、以下の様にして作製される。
基板1として、例えば、厚さが15μmのポリイミドフィルムを用意する。
ベースコート2Pp(SiO2膜:250nm/SiNx膜:50nm/SiO2膜:500nm(上層/中間層/下層))およびa−Si膜(40nm)をプラズマCVD法で成膜する。
a−Si膜の脱水素処理(例えば450℃、180分間アニール)を行う。
a−Si膜をエキシマレーザーアニール(ELA)法でポリシリコン化する。
フォトリソグラフィ工程でa−Si膜をパターニングすることによって活性層(半導体島)を形成する。
ゲート絶縁膜(SiO2膜:50nm)をプラズマCVD法で成膜する。
活性層のチャネル領域にドーピング(B+)を行う。
ゲートメタル(Mo:250nm)をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィ工程(ドライエッチング工程を含む)でパターニングする(ゲート電極2Pgおよびゲートバスライン等を形成する)。
活性層のソース領域およびドレイン領域にドーピング(P+)を行う。
活性化アニール(例えば、450℃、45分間アニール)を行う。このようにしてポリシリコン層2Pseが得られる。
層間絶縁膜(例えば、SiO2膜:300nm/SiNx膜:300nm(上層/下層))をプラズマCVD法で成膜する。
ゲート絶縁膜および層間絶縁膜にコンタクトホールをドライエッチングで形成する。このように、層間絶縁層2Piおよびゲート絶縁層2Pgiが得られる。
ソースメタル(Ti膜:100nm/Al膜:300nm/Ti膜:30nm)をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィ工程(ドライエッチング工程を含む)でパターニングする(ソース電極2Pss、ドレイン電極2Psdおよびソースバスライン等を形成する)。
図14(b)は、In−Ga−Zn−O系TFT2OTの模式的な断面図であり、TFT2OTはOLED表示装置100Aの回路2に含まれ得る。TFT2OTは、ボトムゲート型のTFTである。
TFT2OTは、基板(例えばポリイミドフィルム)1上のベースコート2Op上に形成されている。TFT2OTは、ベースコート2Op上に形成されたゲート電極2Ogと、ゲート電極2Og上に形成されたゲート絶縁層2Ogiと、ゲート絶縁層2Ogi上に形成された酸化物半導体層2Oseと、酸化物半導体層2Oseのソース領域上およびドレイン領域上にそれぞれ接続されたソース電極2Ossおよびドレイン電極2Osdとを有している。ソース電極2Ossおよびドレイン電極2Osdは、層間絶縁層2Oiに覆われている。
ゲート電極2Ogはゲートバスラインと同じゲートメタル層に含まれ、ソース電極2Ossおよびドレイン電極2Osdはソースバスラインと同じソースメタル層に含まれる。ゲートメタル層およびソースメタル層を用いて、引出し配線および端子が形成され、図15を参照して後述する構造を有し得る。
TFT2OTは、例えば、以下の様にして作製される。
基板1として、例えば、厚さが15μmのポリイミドフィルムを用意する。
ベースコート2Op(SiO2膜:250nm/SiNx膜:50nm/SiO2膜:500nm(上層/中間層/下層))をプラズマCVD法で成膜する。
ゲートメタル(Cu膜:300nm/Ti膜:30nm(上層/下層))をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィ工程(ドライエッチング工程を含む)でパターニングする(ゲート電極2Ogおよびゲートバスライン等を形成する)。
ゲート絶縁膜(SiO2膜:30nm/SiNx膜:350nm(上層/下層))をプラズマCVD法で成膜する。
酸化物半導体膜(In−Ga−Zn−O系半導体膜:100nm)をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィ工程(ウエットエッチング工程を含む)でパターニングすることによって、活性層(半導体島)を形成する。
ソースメタル(Ti膜:100nm/Al膜:300nm/Ti膜:30nm(上層/中間層/下層))をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィ工程(ドライエッチング工程を含む)でパターニングする(ソース電極2Oss、ドレイン電極2Osdおよびソースバスライン等を形成する)。
活性化アニール(例えば、300℃、120分間アニール)を行う。このようにして酸化物半導体層2Oseが得られる。
この後、保護膜として、層間絶縁層2Oi(例えば、SiNx膜:300nm/SiO2膜:300nm/(上層/下層))をプラズマCVD法で成膜する。
次に、図15(a)〜(d)を参照して、実施形態1による他のOLED表示装置の構造を説明する。このOLED表示装置の回路(バックプレーン回路)は、図14(a)に示したTFT2PTまたは図14(b)に示したTFT2OTを有し、TFT2PTまたはTFT2OTを作製する際のゲートメタル層およびソースメタル層を用いて引出し配線30A’および端子38A’が形成されている。図15(a)〜(d)はそれぞれ図4(b)〜(e)に対応し、対応する構成要素の参照符号に「’」を付すことにする。また、図15中のベースコート2pは、図14(a)中のベースコート2Ppおよび図14(b)中のベースコート2Opに対応し、図15中のゲート絶縁層2giは、図14(a)中のゲート絶縁層2Pgiおよび図14(b)中のゲート絶縁層2Ogiに対応し、図15中の層間絶縁層2iは、図14(a)中の層間絶縁層2Piおよび図14(b)中の層間絶縁層2Oiにそれぞれ対応する。
図15(a)〜(d)に示す様に、ゲートメタル層2gおよびソースメタル層2sは、基板1上に形成されたベースコート2p上に形成されている。図4では省略したが、基板1上には無機絶縁体で形成されたベースコート2pを形成することが好ましい。
図15(a)および(b)を参照して、TFE構造10A’の構造を説明する。図15(a)は、図3中の4B−4B’線に沿った断面図に対応し、引出し配線30A’のアクティブ領域側の部分32A’の断面図であり、図15(b)は図3中の4C−4C’線に沿った断面図に対応し、領域NR1と重なる部分34A’の断面図である。
図15(a)〜(c)に示すように、引出し配線30A’は、ゲートメタル層2gとソースメタル層2sとの積層体として形成されている。引出し配線30A’のゲートメタル層2gで形成された部分は、例えばゲートバスラインと同じ断面形状を有し、引出し配線30A’のソースメタル層2sで形成された部分は、例えばソースバスラインとお同じ断面形状を有している。例えば、500ppiの5.7型の表示装置の場合、ゲートメタル層2gで形成された部分の線幅は例えば10μmであり、隣接間距離は16μm(L/S=10/16)あり、ソースメタル層2sで形成された部分の線幅は例えば16μmであり、隣接間距離は10μm(L/S=16/10)である。
図15(a)に示す引出し配線30A’のアクティブ領域側の部分32A’の線幅方向に平行な断面の形状における側面のテーパー角は、ゲートバスラインまたはソースバスラインと同様に、約90°である。引出し配線30A’の部分32A’を覆う第1無機バリア層12A’の最下部(引出し配線30A’の側面を覆う部分と、基板1の平坦部上に形成された部分との境界部)に、有機バリア層(中実部)14A’が形成されている。
一方、図15(b)に示す、引出し配線30A’の部分34A’は、図3中の4C−4C’線に沿った断面において、第1無機バリア層12A’と第2無機バリア層16A’とが直接接触している無機バリア層接合部で覆われている。領域NR1内には光硬化樹脂(有機バリア層)が存在しないからである。なお、図12(a)を参照して説明した様に、部分34A’の側面のテーパー角が90°未満である順テーパー側面部分(傾斜側面部分)TSFを有する構成としてもよい。
図15(c)および(d)を参照する。図15(c)および(d)は、TFE構造10A’が形成されていない領域の断面図である。図15(c)に示す引出し配線30A’の部分36A’は、図15(a)に示した引出し配線30A’の部分32A’と同様の断面形状を有しており、その側面の最下部に有機バリア層14A’が形成されている。一方、図15(d)に示す端子38A’は、領域NR2内に存在するので、光硬化樹脂(有機バリア層)が存在しない。なお、図12(b)を参照して説明した様に、端子38A’の側面のテーパー角が90°未満である順テーパー側面部分(傾斜側面部分)TSFを有する構成としてもよい。
図15(b)では、引出し配線30A’の第1無機バリア層12A’に接する2つの側面の全体が順テーパー側面部分TSFの例を示したが、図5(b)を参照して説明した様に、第1無機バリア層12A’に接する2つの側面の少なくとも最下部に順テーパー側面部分TSFを有すれば、上述の効果を得ることができる。同様に、図15(d)では、端子38A’ 露出された全ての側面の全体が順テーパー側面部分TSFの例を示したが、露出された全ての側面の少なくとも最下部に順テーパー側面部分を有すれば、上述の効果を得ることができる。
(実施形態2)
実施形態1によるOLED表示装置の製造方法は、アクリルモノマーを偏在させるので、プロセスマージンが狭いという問題がある。以下に説明する実施形態2のOLED表示装置の製造方法は、少なくとも平坦部上の一部にも樹脂層(例えばアクリル樹脂層)を形成し、樹脂層を部分的にアッシングすることによって有機バリア層を形成する工程を包含している。なお、最初に形成する樹脂層の厚さを調整する(例えば、100nm未満とする)、および/または、アッシング条件(時間を含む)を調整することによって、種々の形態の有機バリア層を形成することができる。すなわち、実施形態1で説明したOLED表示装置100Aが有する有機バリア層14Aを形成することもできるし、平坦部の一部または全部を覆う有機バリア層(中実部)を形成することもできる。また、実施形態1のOLED表示装置100Aの製造方法において、有機バリア層14Aを形成した後、有機バリア層14Aを部分的にアッシングしてもよい。アッシングすることによって、後述するように、第2無機バリア層との密着性を向上させることができる。あるいは、最終的に残存させる有機バリア層14Aの領域や形態を調整することができる。
なお、有機バリア層の面積が大きいと、耐屈曲性を向上させる効果が得られる。以下では、主に、平坦部の一部または全部を覆う有機バリア層(中実部)を有するTFE構造を有するOLED表示装置およびその製造方法を説明する。なお、TFE構造を形成する前の素子基板の構造、特に、引出し配線および端子の構造ならびにTFTの構造は、実施形態1で説明したいずれであってもよい。
図16に本発明の実施形態2によるOLED表示装置100Eの平面構造を模式的に示す。OLED表示装置100Aの構成要素と実質的に同じ機能を有する構成要素には同じ参照符号を付して、説明を省略する。
OLED表示装置100Eの引出し配線30Eの部分32E、34E、36Eおよび端子38Eの構造およびこれらを含む積層構造は、OLED表示装置100Aの引出し配線30Aの部分32A、34A、36Aおよび端子38Aについて、図4(b)〜(e)に示した構造と同じであってよいので、ここでは説明を省略する。ただし、OLED表示装置100Eは、上述したように、平坦部にも有機バリア層(中実部)を有し得るので、図4(b)および図4(d)に示した有機バリア層14Aを平坦部に延設した形態であってもよい。
また、OLED表示装置100Eは、平坦部にも有機バリア層を有し得るので、アクティブ領域R1を包囲する無機バリア層接合部を形成するために、領域NR1に第1の光を照射することによって、領域NR1内に光硬化樹脂が存在しないようにしている。
以下では、OLED表示装置100Aの図4(a)に示した断面構造における有機バリア層の形態の違いを主に説明する。
図17(a)は、本発明の実施形態2によるOLED表示装置におけるTFE構造10Eの模式的な部分断面図であり、パーティクルPを含む部分を示している。図5(b)を参照して説明した様に、パーティクルPが存在すると、第1無機バリア層12Eにクラック(欠陥)12Ecが形成されることがある。これは、図18に示す断面SEM像から、パーティクルPの表面から成長するSiN層12Eaと、OLED3の表面の平坦部分から成長するSiN層12Ebとが衝突(インピンジ)するために生じたと考えられる。このようなクラック12Ecが存在すると、TFE構造10Eのバリア性が低下する。なお、図18のSEM像は、ガラス基板上に、パーティクルPとして、直径が1μmの球状シリカを配置した状態で、SiN膜をプラズマCVD法で成膜した試料の断面SEM像である。断面はパーティクルPの中心を通っていない。また、最表面は断面加工時の保護のためのカーボン層(C−depo)である。このように、直径が1μmの比較的小さな球状のシリカが存在するだけで、SiN層12Eにクラック(欠陥)12Ecが形成される。
実施形態2のOLED表示装置におけるTFE構造10Eでは、図17(a)に示す様に、有機バリア層14Ecが、第1無機バリア層12Eのクラック12EcおよびパーティクルPのオーバーハング部分を充填するように形成されているので、第2無機バリア層16Eによってバリア性を保持することができる。これは、図19に示す断面SEM像で確認することができる。図19においては、第1無機バリア層12E上に第2無機バリア層16Eが直接形成された箇所には界面は観察されていないが、模式図では分かり易さのために、第1無機バリア層12Eと第2無機バリア層16Eとを異なるハッチングで示している。
図19に示す断面SEM像は、図18の断面SEM像と同様に、ガラス基板上に、直径が2.15μmの球状シリカを配置した状態で、TFE構造10Eを成膜した試料の断面SEM像である。図19と図18と比較すれば分かるように、図19に示す直径が約2倍のパーティクルPであっても、アクリル樹脂層の上に形成されたSiN膜は欠陥の無い緻密な膜であることがわかる。また、図18の場合と同様に、パーティクルP(直径が2.15μmおよび4.6μmの球状シリカ)を覆うようにSiN膜をプラズマCVD法で成膜した後、有機バリア層14Eとしてアクリル樹脂層を形成し、その後、再び、SiN膜をプラズマCVD法で成膜した試料においても、アクリル樹脂層の上に欠陥の無い緻密なSiN膜が形成されていることをSEM観察で確認した。
図17(a)に示した有機バリア層14Eは、例えばアクリル樹脂から形成されることが好ましい。特に、室温(例えば25℃)における粘度が、1〜100mPa・s程度のアクリルモノマー(アクリレート)を光硬化(例えば紫外線硬化)することによって形成されたものが好ましい。このように低粘度のアクリルモノマーは、クラック12EcおよびパーティクルPのオーバーハング部分に容易に浸透することができる。
クラック12EcおよびパーティクルPのオーバーハング部分に充填された有機バリア層14Ecの表面は、パーティクルP上の第1無機バリア層12Eaの表面と、OLEE3の表面の平坦部上に形成された有機バリア層14Ebとの表面を連続的に滑らかに連結する。したがって、パーティクルP上の第1無機バリア層12Eおよび有機バリア層14E上に形成される第2無機バリア層(SiN層)16Eに欠陥が形成されることなく、緻密な膜が形成される。
また、有機バリア層14Eの表面14Esは、アッシング処理によって酸化されており、親水性を有しており、第2無機バリア層16Eとの密着性が高い。
耐屈曲性を向上させるためには、有機バリア層14Eは、パーティクルP上に形成された第1無機バリア層12Eaの凸状部分を除いて、ほぼ全面に有機バリア層14Eが残存するように、アッシングすることが好ましい。平坦部上に存在している有機バリア層14Ebの厚さは10nm以上であることが好ましい。
特許文献2、3には、有機バリア層を偏在させた構成が記載されているが、本発明者が種々実験したところ、有機バリア層14Eは平坦部上のほぼ全面、すなわち第1無機バリア層12Eaの凸状部分を除いたほぼ全面に形成されていてもよく、耐屈曲性の観点からはその厚さは10nm以上であることが好ましい。
有機バリア層14Eが第1無機バリア層12Eと第2無機バリア層16Eとの間に介在すると、TFE構造10E内部での各層間の密着性が高まる。特に、有機バリア層14Eの表面が酸化されているので、第2無機バリア層16Eとの密着性が高い。
また、平坦部上の有機バリア層14Ebが全面に形成されていると(有機バリア層14Eが開口部14Eaを有しないと)、OLED表示装置に外力が掛かったときに、TFE構造10E内に生じる応力(またはひずみ)が均一に分散される結果、破壊(特に、第1無機バリア層12Eおよび/または第2無機バリア層16Eの破壊)が抑制される。第1無機バリア層12Eと第2無機バリア層16Eと密着してほぼ均一に存在する有機バリア層14Eは、応力を分散および緩和するように作用すると考えられる。このように有機バリア層14Eは、OLED表示装置の耐屈曲性を向上させる効果も奏する。
ただし、有機バリア層14Eの厚さが200nm以上になると、かえって耐屈曲性が低下することがあるので、有機バリア層14Eの厚さは200nm未満であることが好ましい。
有機バリア層14Eは、アッシング処理を経て形成される。アッシング処理は面内でばらつくことがあるので、平坦部に形成された有機バリア層14Ebの一部が完全に除去され、第1無機バリア層12Eの表面が露出される場合がある。このとき、有機バリア層14Eの内、OLED3の平坦部上に形成されている有機バリア層(中実部)14Ebは、開口部14Eaよりも面積が大きくなるように制御する。すなわち、中実部14Ebの面積は平坦部上の有機バリア層(開口部を含む)14Eの面積の50%超となるように制御する。中実部14Ebの面積は平坦部上の有機バリア層14Eの面積の80%以上であることが好ましい。ただし中実部14Ebの面積は平坦部上の有機バリア層の面積の約90%を超えないことが好ましい。言い換えると、平坦部上の有機バリア層14Eは合計で約10%程度の面積の開口部14Eaを有することが好ましい。開口部14Eaは、第1無機バリア層12Eと有機バリア層14Eとの界面および有機バリア層14Eと第2無機バリア層16Eとの界面での剥離を抑制する効果を奏する。平坦部上の有機バリア層14Eの面積の80%以上90%以下の面積の開口部14Eaを有すると、特に優れた耐屈曲性が得られる。
また、平坦部の全面に有機バリア層14Eを形成すると、平坦部の有機バリア層14Eが水分の侵入経路となって、OLED表示装置の耐湿信頼性を低下させることになる。これを防止するために、アクティブ領域R1を実質的に包囲する領域NR1Eに第1の光を照射することによって、領域NR1E内に有機バリア層14Eを形成されないようにしている。これに加えて、図17(b)に示すように、有機バリア層14Eの下地表面(例えば、OLED3の表面)に、領域NR1Eと重なるように、アクティブ領域R1を実質的に包囲するバンク3EBを設けてもよい。バンク3EBは、幅方向に平行な断面の形状における側面のテーパー角が90°未満である順テーパー側面部分TSFを露出された2つの側面の少なくとも最下部に有する。順テーパー側面部分TSFの高さ(基板法線方向の長さ)は、有機材料の厚さ(有機バリア層14E厚さとほぼ等しい)よりも大きいことが好ましく、例えば、50nm以上、好ましくは100nm以上ある。
バンク3EBは、種々の方法で形成することができる。例えば、回路2を形成する工程で、OLEE3で構成される各画素を規定するためのバンクを感光性樹脂(例えばポリイミドまたはアクリル樹脂)を用いて形成する際に、同時に、アクティブ領域R1を包囲するバンク3EBを形成すればよい。あるいは、ゲートメタル層および/またはソースメタル層をパターニングして、ゲートバスラインおよび/またはソースバスラインを形成する際に、アクティブ領域を包囲するパターン(バンク3EB用のパターン)を併せて形成すればよい。このとき、バンクEB用のパターンを形成するために開口部を多階調マスクとすることによって、順テーパー側面部分を有するパターンを形成することができる。
図20および図21を参照して、有機バリア層14Eおよび第2無機バリア層16Eの形成工程、特に、アッシング工程を説明する。図20に有機バリア層14Eの形成工程を示し、図21に第2無機バリア層16Eの形成工程を示す。
図20(a)に模式的に示す様にOLED3の表面のパーティクルPを覆う第1無機バリア層12Eを形成した後、第1無機バリア層12E上に有機バリア層14Eを形成する。有機バリア層14Eは、例えば、蒸気または霧状のアクリルモノマーを、冷却された素子基板上で凝縮させ、その後、光(例えば紫外線)を照射することによって、アクリルモノマーを硬化させることによって得られる。低粘度のアクリルモノマーを用いることよって、第1無機バリア層12Eに形成されたクラック12Ec内にアクリルモノマーを浸透させることができる。
なお、図20(a)では、パーティクルP上の第1無機バリア層12Ea上に有機バリア層14Edが形成されている例を示しているが、パーティクルPの大きさや形状、およびアクリルモノマーの種類に依存するが、アクリルモノマーがパーティクルP上の第1無機バリア層12Ea上に堆積(または付着)しない、あるいは、極微量しか堆積(または付着)しないことがある。有機バリア層14Eは、例えば、前述の図7および図8に示した成膜装置200A、200Bまたは200Cを用いて形成され得る。
本発明の実施形態2によるOLED表示装置100Eの製造方法におけるにTFE構造10Eの形成方法は、図6に示したTFE構造10Aの形成方法のフローチャートの工程S2において、第1無機バリア層上で光硬化性樹脂を凝縮させる際に、光硬化性樹脂の液膜を形成する。また、工程S4の後、工程S5の前に、光硬化性樹脂の液膜に光を照射することによって形成された光硬化樹脂層を部分的にアッシングする工程を包含する。このアッシング工程を経て、有機バリア層14Eが得られる。
成膜装置200Aを用いる場合、例えば、アクリルモノマー26pの供給量およびチャンバー210内の温度、圧力(真空度)を制御することによって、アクリルモノマー(液状)の堆積速度を調整し得る。例えば、アクリルモノマーは、500nm/minで堆積することができる。したがって、約24秒で厚さが約200nmのアクリルモノマーの液膜を形成することができる。液膜の厚さは、100nm以上500nm以下が好ましい。
当初の有機バリア層14Eの厚さは平坦部上で100nm以上500nm以下となるように調整される。形成された当初の有機バリア層14Eの表面14Esaは滑らかに連続しており、疎水性を帯びている。なお、簡単のために、アッシング前の有機バリア層にも同じ参照符号を付す。
次に、図20(b)に示すように、有機バリア層14Eをアッシングする。アッシングは、公知のプラズマアッシング装置、光励起アッシング装置、UVオゾンアッシング装置を用いて行い得る。例えば、N2O、O2およびO3の内の少なくとも1種のガスを用いたプラズマアッシング、または、これらにさらに紫外線照射とを組合せて行われ得る。第1無機バリア層12Eおよび第2無機バリア層16EとしてSiN膜をCVD法で成膜する場合、原料ガスとして、N2Oを用いるので、N2Oをアッシングに用いると装置を簡略化できるという利点が得られる。
有機バリア層14Eのアッシングは、例えば、N2Oガスを用いたプラズマアッシング法で行う。アッシングは、アッシング用のチャンバーで行う。アッシングレートは例えば500nm/minである。上述のように、厚さが200nmの有機バリア層14Eを形成したとき、平坦部上の有機バリア層(中実部)14Ebの厚さ(最大値)が20nm程度となるように、約22秒間、アッシングを行う。
このときの条件を調整することによって、図4(a)、(b)に示した有機バリア層14Aを形成することができる。また、引出し配線上の有機バリア層14Eの厚さは、他の部分よりも小さいので、引出し配線上の有機バリア層14Eを除去し、平坦部上の有機バリア層14Eの面積の50%超を残すこともできる。
アッシングを行うと、有機バリア層14Eの表面14Esが酸化され、親水性に改質される。また、表面14Esがほぼ一様に削られるとともに、極めて微細な凹凸が形成され、表面積が増大する。アッシングを行ったときの表面積増大効果は、無機材料である第1無機バリア層12Eに対してよりも有機バリア層14Eの表面に対しての方が大きい。したがって、有機バリア層14Eの表面14Esが親水性に改質されることと、表面14Esの表面積が増大することから、第2無機バリア層16Eとの密着性が向上させられる。
さらに、アッシングを進めると、図20(c)に示す様に、有機バリア層14Eの一部に開口部14Eaが形成される。
さらに、アッシングを進めると、図5(a)に示した有機バリア層14Aの様に、第1無機バリア層12Eのクラック12EcおよびパーティクルPのオーバーハング部分の近傍にだけ有機バリア層14Ecを残すことができる。このとき、有機バリア層14Ecの表面は、パーティクルP上の第1無機バリア層12Eaの表面と、OLED3の表面の平坦部の表面とを連続的に滑らかに連結する。
なお、第1無機バリア層12Eと有機バリア層14Eとの密着性を改善するために、有機バリア層14Eを形成する前に、第1無機バリア層12Eの表面にアッシング処理を施しておいてもよい。
アッシング後は、N2Oガスを排気し、第2無機バリア層16Eを形成するためのCVDチャンバーに搬送し、例えば、第1無機バリア層12Eと同じ条件で、第2無機バリア層16Eを形成する。
次に、図21を参照して、有機バリア層14E上に第2無機バリア層16Eを形成した後の構造を説明する。
図21(a)は、図20(a)に示した有機バリア層14Eの表面14Esaをアッシングすることによって酸化し、親水性を有する表面14Esに改質した後に、第2無機バリア層16Eを形成した構造を模試的に示している。ここでは、有機バリア層14Eの表面14Esaをわずかにアッシングした場合を示しており、パーティクルP上の第1無機バリア層12Ea上に形成された有機バリア層14Edも残存している例を示しているが、パーティクルP上の第1無機バリア層12Ea上には有機バリア層14Eが形成されない(または残存しない)こともある。
図21(a)に示す様に、有機バリア層14E上に形成された第2無機バリア層16Eには欠陥が無く、また、有機バリア層14Eとの密着性にも優れる。
図21(b)〜(c)に示す様に、それぞれ図20(b)〜(c)に示した有機バリア層14E上に第2無機バリア層16Eを形成すると、欠陥が無く、有機バリア層14Eとの密着性に優れた第2無機バリア層16Eが得られる。OLED3の平坦部上の有機バリア層14Eが完全に除去されても、有機バリア層14Ecの表面が、パーティクルP上の第1無機バリア層12Eaの表面と、OLED3の表面の平坦部の表面とを連続的に滑らかに連結していれば、欠陥が無く、有機バリア層14Eとの密着性に優れた第2無機バリア層16Eが得られる。
有機バリア層14Eは、図21(b)に示す様に、パーティクルP上に形成された第1無機バリア層12Eaの凸状部分を除いて全面に有機バリア層14Eが薄く残存するように、アッシングされてもよい。耐屈曲性の観点から、上述したように、平坦部上の有機バリア層14Ebの厚さは10nm以上200nm未満であることが好ましい。
アッシング処理は面内でばらつくので、平坦部に形成された有機バリア層14Eの一部が完全に除去され、第1無機バリア層12Eの表面が露出されることがある。また、パーティクルPの材質、大きさもばらつくので、図21(c)に示す構造または先の図5(a)に示した構造を有する箇所が存在し得る。平坦部に形成された有機バリア層14Eの一部が完全に除去される場合でも、有機バリア層14Eの内、OLED3の平坦部上に形成されている有機バリア層(中実部)14Ebは、開口部14Eaよりも面積が大きくなるように制御することが好ましい。上述したように、中実部14Ebの面積は平坦部上の有機バリア層14Eの面積の80%以上であることが好ましく、約90%を超えないことが好ましい。
有機バリア層14Eをアッシングしすぎると図22に示す様に、OLED3の平坦部上に形成された有機バリア層14Ebが完全に除去されるだけでなく、パーティクルPによって形成されたクラック12Ecに充填された有機バリア層14Edが小さくなり、第2無機バリア層16Eが形成される下地の表面を滑らかな連続的な形状にする作用を有しなくなる。その結果、図23に示す様に、第2無機バリア層16Eに欠陥16Ecが形成され、TFE構造のバリア特性を低下させることになる。たとえ欠陥16Ecが形成されなくとも、第2無機バリア層16Eの表面に鋭角な凹部16Edが形成されると、その部分に応力が集中しやすく、外力によってクラックが発生しやすい。
また、例えば、パーティクルPとして凸レンズ状シリカ(直径4.6μm)を用いた実験では、凸レンズ状シリカの端部において、有機バリア層がエッチングされ過ぎた結果、第2無機バリア層の膜厚が部分的に極端に薄くなることがあった。このような場合、たとえ第2無機バリア層に欠陥が生じなくても、OLED表示装置の製造プロセスにおいて、または製造後に、TFE構造に外力が掛かった際に、第2無機バリア層にクラックが生じるおそれがある。
TFE構造10に外力が掛けられる場合として、次のような場合を挙げることができる。例えば、OLED表示装置のフレキシブルな基板1を支持基板であるガラス基板から剥離する際、TFE構造10を含むOLED表示装置には曲げ応力が作用する。また、曲面ディスプレイを製造する過程で、所定の曲面形状に沿ってOLED表示装置を曲げる際にも、TFE構造10に曲げ応力が作用する。もちろん、OLED表示装置の最終的な利用形態が、OLED表示装置のフレキシビリティを利用する形態(例えば折り畳む、曲げる、あるいは、丸める)のときは、ユーザーが使用している間に種々の応力がTFE構造10に掛かることになる。
これを防止するためには、OLED3の平坦部上に形成されている有機バリア層の50%超が残存するように(有機バリア層(中実部)14Ebが開口部14Eaよりも面積が大きくなるように)、アッシング条件を調節することが好ましい。OLED3の平坦部上に残存する有機バリア層(中実部)14Ebは80%以上であることがさらに好ましく、90%程度であることがさらに好ましい。ただし、10%程度は開口部14Eaが存在する方が、第1無機バリア層12Eと有機バリア層14Eとの界面および有機バリア層14Eと第2無機バリア層16Eとの界面での剥離を抑制する効果が得られるのでより好ましい。図21(a)〜(c)に示した様に、適度に残存する有機バリア層14E上に形成された第2無機バリア層16Eの表面には90°以下を角度なす部分(図23の凹部16Ed参照)が存在しないので、外力が掛かっても応力が集中することが抑制される。
本発明の実施形態1および2によると、アクティブ領域を包囲する無機バリア接合部を有する薄膜封止構造を備えるOLED表示装置を製造することができる。有機バリア層14Eをどの程度残存させるかは、OLED表示装置の用途や要求性に応じて、適宜変更され得る。
上記では、フレキシブル基板を有するOLED表示装置の製造方法ならびにそれに用いられる成膜方法および成膜装置の実施形態を説明したが、本発明の実施形態は例示したものに限られず、基板に形成された有機EL素子と、有機EL素子上に形成された薄膜封止構造とを有する有機ELデバイス(例えば、有機EL照明装置)に広く適用できる。