JP6436109B2 - 車両用変速機のクラッチ装置及びその製造方法 - Google Patents

Description

本発明は、車両用変速機のクラッチ装置に関する。

一般に、車両用自動変速機に設けられているクラッチドラムは、回転に伴う遠心力やトルク伝達による径方向外向きの荷重によって径方向外向きに広がろうとする。このため、特許文献１には、クラッチドラムが径方向外向きに広がることを抑制するために、外周部に環状のバンド部材を備えるクラッチドラムが提案されている。

特開２０１２−２１９９７６号公報

クラッチドラムの高剛性化及び軽量化を実現するためにバンド部材を樹脂材料によって形成することが考えられる。しかしながら、金属製のクラッチドラムと樹脂製のバンド部材とでは熱膨張率が異なる。このため、バンド部材を樹脂材料によって形成した場合、温度変化に起因して、径方向において、クラッチドラムとバンド部材との間に隙間が生じ、バンド部材がクラッチドラムに対してずれることによって、バンド部材が外れる可能性がある。具体的には、低温環境下では、金属製のクラッチドラムは収縮するのに対してＣＦＲＰ製のバンド部材は収縮しないために、上述した課題が発生し得る。

本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、バンド部材がクラッチドラムに対してずれることを抑制可能な車両用変速機のクラッチ装置を提供することにある。

本発明に係る車両用変速機のクラッチ装置は、径方向外向きに突出するスプライン大径部と径方向内向きに突出するスプライン小径部とを周方向に交互に有する有底円筒状のクラッチドラムと、前記クラッチドラムの外周部に巻き回された円環状のＣＦＲＰ製バンド部材と、を備える車両用変速機のクラッチ装置であって、前記スプライン大径部は、径方向外向きに突出する凸部を備え、前記ＣＦＲＰ製バンド部材は、前記凸部に対向する位置に該凸部に嵌合する凹部を備えることを特徴とする。

本発明に係る車両用変速機のクラッチ装置は、上記発明において、前記ＣＦＲＰ製バンド部材は、ＣＦＲＰ繊維の主配向方向が周方向に平行になるように構成されていることを特徴とする。

本発明に係る車両用変速機のクラッチ装置は、上記発明において、前記凸部及び前記凹部の組が、前記ＣＦＲＰ製バンド部材の幅方向で異なる位置に複数配置されていることを特徴とする。このような構成によれば、クラッチドラムの回転に伴い発生する遠心力に起因するクラッチドラムからの応力によってＣＦＲＰ製バンド部材が周方向に沿って破損することを抑制できる。

本発明に係る車両用変速機のクラッチ装置は、上記発明において、前記スプライン大径部には、前記クラッチドラムの内部の油を外部に流出させるための油抜孔が形成され、前記ＣＦＲＰ製バンド部材は、前記油抜孔の少なくとも一部を開放する位置に配置されていることを特徴とする。このような構成によれば、ＣＦＲＰ製バンド部材によって油抜孔が閉塞されないので、クラッチドラムの内部の油を外部に流出できなくなることを抑制できる。

本発明に係る車両用変速機のクラッチ装置によれば、スプライン大径部に設けられた凸部とバンド部材に設けられた凹部とが嵌合しているので、バンド部材がクラッチドラムに対してずれることを抑制できる。

図１は、本発明の一実施形態である車両用自動変速機のクラッチ装置の全体構成を示す分解斜視図である。 図２は、図１に示すクラッチドラム及びＣＦＲＰリングの構成を示す部分断面図である。 図３は、凸部の配置位置の一例を示す図である。 図４は、凸部の形状の一例を示す図である。 図５は、油抜孔の構成例を示す図である。 図６は、クラッチドラムへのＣＦＲＰリングの組み付け方法の一例を示す図である。 図７は、クラッチドラムへのＣＦＲＰリングの組み付け方法の他の例を示す図である。 図８は、凸部及び凹部の形成方法を説明するための図である。 図９は、凸部及び凹部の形成方法を説明するための図である。 図１０は、凸部及び凹部の形成方法を説明するための図である。

以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である車両用自動変速機のクラッチ装置の構成及びその組み付け方法について説明する。なお、本実施形態は、本発明を車両用自動変速機のクラッチ装置に適用したものであるが、本発明は、車両用自動変速機以外の車両用変速機のクラッチ装置にも適用することができる。

〔全体構成〕
初めに、図１を参照して、本発明の一実施形態である車両用自動変速機のクラッチ装置の全体構成について説明する。図１は、本発明の一実施形態である車両用自動変速機のクラッチ装置の全体構成を示す分解斜視図を示す。

図１に示すように、本発明の一実施形態である車両用自動変速機のクラッチ装置１は、クラッチドラム２、クラッチプレート３、スナップリング４、及びＣＦＲＰリング５を備えている。ＣＦＲＰリング５は、本発明に係るＣＦＲＰ製バンド部材として機能する。

クラッチドラム２は、有底円筒状の部材によって構成され、その外周部には径方向外向きに突出するスプライン大径部２１と径方向内向きに突出するスプライン小径部２２とが周方向に沿って交互に形成されている。

クラッチプレート３は、円環状の部材によって構成され、その外周部には、径方向外向きに突出するスプライン大径部３１が形成されている。クラッチプレート３は、クラッチドラム２の開口端２１ａ側からクラッチドラム２の内部に挿入し、スプライン大径部３１をクラッチドラム２のスプライン大径部２１に嵌合させることによって、クラッチドラム２の内周面にスプライン嵌合される。

スナップリング４は、円環状の部材によって形成され、円環状の部材の一部には切り欠き部４１が形成されている。スナップリング４は、切り欠き部４１を収縮させることによって、クラッチプレート３がスプライン嵌合された状態でクラッチドラム２の内周面に嵌め込まれる。スナップリング４は、クラッチプレート３のストッパとして作用し、クラッチプレート３が軸方向に移動してクラッチドラム２の開口端２１ａ側から脱落することを抑制する。

ＣＦＲＰリング５は、円環状の炭素繊維強化プラスチック（Carbon Fiber Reinforced Plastic）部材によって形成されている。本実施形態では、ＣＦＲＰリング５は、炭素繊維強化プラスチック部材によって形成されていることとしたが、炭素繊維強化プラスチック以外の樹脂材料によって形成されていてもよい。ＣＦＲＰリング５は、クラッチドラム２の外周部の外側におけるスナップリング４の配置位置近傍に嵌め込まれ、クラッチドラム２の径方向外向きの広がりを抑制する。

〔クラッチドラム及びＣＦＲＰリングの構成〕
次に、図２〜図５を参照して、クラッチドラム２及びＣＦＲＰリング５の構成について説明する。図２（ａ），（ｂ）はそれぞれ、クラッチドラム２及びＣＦＲＰリング５の回転軸方向の部分断面図及び図２（ａ）のＡ−Ａ線を通過する平面を切断面とした時のクラッチドラム２及びＣＦＲＰリング５の断面図を示す。図３は、凸部２３の配置位置の一例を示す図である。図４（ａ）〜（ｃ）は、凸部の形状の一例を示す図である。なお、図２ではクラッチプレート３及びスナップリング４の図示を省略している。

図２（ｂ）に示すように、本発明の一実施形態である車両用自動変速機のクラッチ装置１では、クラッチドラム２のスプライン大径部２１には径方向外向きに突出する凸部２３が形成され、ＣＦＲＰリング５の凸部２３に対向する位置には凸部２３と嵌合する凹部５３が形成されている。凸部２３の高さ及び凹部５３の深さは、想定している温度環境や動作環境内で発生し得る、径方向におけるクラッチドラム２とＣＦＲＰリング５との間の隙間以上の大きさに設計されている。このような構成によれば、径方向においてクラッチドラム２とＣＦＲＰリング５との間に隙間が発生した場合であっても、凸部２３と凹部５３とが嵌合しているので、ＣＦＲＰリング５がクラッチドラム２に対してずれることを抑制できる。

なお、ＣＦＲＰリング５を形成するＣＦＲＰ繊維の主配向方向が周方向に平行であることが望ましい。これにより、ＣＦＲＰリング５においてクラッチドラム２の周方向の強度が高くなるので、クラッチドラム２の回転によってＣＦＲＰリング５の凹部５３にかかる周方向の応力に対する耐久性を向上させることができる。

また、ＣＦＲＰリング５を形成するＣＦＲＰ繊維の主配向方向が周方向に平行である場合、クラッチドラム２からＣＦＲＰリング５の凹部５３に応力が作用すると、ＣＦＲＰリング５が周方向に沿って割れる可能性がある。このため、凸部２３及び凹部５３の組は、ＣＦＲＰリング５の幅方向で異なる位置に複数配置されていることが望ましい。これにより、凹部５３にかかる回転軸方向の応力を分散させることができるので、ＣＦＲＰリング５が周方向に割れることを抑制できる。

また、ＣＦＲＰリング５の幅方向端部５１側における凸部２３及び凹部５３の組（以下、開口端側凹凸部と表記）とＣＦＲＰリング５の幅方向端部５２側における凸部２３及び凹部５３の組（以下、閉口端側凹凸部と表記）とを、図３（ａ）に示すように同じスプライン大径部２１に配置してもよいし、図３（ｂ）に示すように周方向に千鳥状に配置してもよい。開口端側凹凸部と閉口端側凹凸部とを周方向に千鳥状に配置した場合、開口端側凹凸部と閉口端側凹凸部とを同じスプライン大径部２１に配置した場合と比較して、ＣＦＲＰリング５に作用するクラッチドラム２からの応力を周方向に分散できるので、ＣＦＲＰリング５が周方向に沿って割れることを抑制できる。

また、凸部２３及び凹部５３の形状は嵌合可能であればどのような形状であっても構わない。例えば図４（ａ）に示すように、閉口端側凹凸部を形成する位置において、クラッチドラム２のスプライン大径部２１の軸方向２箇所に周方向に伸びる切り込み２４ａ，２４ｂを入れ、切り込み２４ａと切り込み２４ｂとの周方向の位置が同じ端部同士を結ぶ軸方向に伸びる切り込み２５を入れ、これらの切り込みによって区画された部分を径方向外向きに変形させることによって形成された切り起こし片２６を凸部２３としてもよい。この場合、クラッチドラム２の開口端２１ａ側には、図２（ｂ）に示した凸部２３を形成する。

また、例えば図４（ｂ）に示すように、閉口端側凹凸部を形成する位置において、クラッチドラム２のスプライン大径部２１の周方向２箇所に軸方向に伸びる切り込み２５ａ，２５ｂを入れ、切り込み２５ａと切り込み２５ｂとの軸方向の位置が同じ端部同士を結ぶ周方向に伸びる切り込み２４を入れ、これらの切り込みによって区画された部分を径方向外向きに変形させることによって形成された切り起こし片２７を凸部２３としてもよい。この場合、クラッチドラム２の開口端２１ａ側には、図２（ｂ）に示した凸部２３を形成する。

また、例えば図４（ｃ）に示すように、閉口端側凹凸部を形成する位置において、クラッチドラム２のスプライン大径部２１の開口端２１ａ側から軸方向に伸びる溝部２８を形成し、この溝部２８に楔形の部材２９を配置し、この楔形の部材２９を凸部２３としてもよい。この場合、クラッチドラム２の開口端２１ａ側にも同様の楔形の部材２９を配置する。

また、図５に示すように、クラッチドラム２のスプライン大径部２１にクラッチドラム２１の内部の油を外部に流出させるための油抜孔６１が形成されている場合、ＣＦＲＰリング５は、油抜孔６１の少なくとも一部を開放する位置に配置することが望ましい。このような構成によれば、ＣＦＲＰリング５によって油抜孔６１が閉塞されないので、クラッチドラム２の内部の油を外部に流出できなくなり、引き摺り損失の増大等の弊害が発生することを抑制できる。

〔組み付け方法〕
最後に、図６〜図１０を参照して、クラッチドラム２へのＣＦＲＰリング５の組み付け方法について説明する。図６は、クラッチドラム２へのＣＦＲＰリング５の組み付け方法の一例を示す図である。図７は、クラッチドラム２へのＣＦＲＰリング５の組み付け方法の他の例を示す図である。図８〜図１０は、凸部及び凹部の形成方法を説明するための図である。

図６（ａ）〜図６（ｃ）に示すように、クラッチドラム２にＣＦＲＰリング５を組み付ける際には、クラッチドラム２を冷却する。冷却に伴い温度が低下すると、金属製のクラッチドラム２の外径は長さΔＴだけ収縮するのに対して、樹脂製のＣＦＲＰリング５は収縮しないので、クラッチドラム２の外径はＣＦＲＰリング５の内径よりも小さくなる。これにより、クラッチドラム２の開口端２１ａ側からＣＦＲＰリング５を挿入し、クラッチドラム２にＣＦＲＰリング５を組み付けることができる。冷却温度は、少なくとも凸部２３における収縮量が凸部２３の高さより大きくなる温度とする。

なお、図７（ａ）〜図７（ｃ）に示すように、クラッチドラム２にＣＦＲＰリング５を組み付ける際、クラッチドラム２の開口端２１ａ側を弾性変形させることによって、クラッチドラム２の外径をＣＦＲＰリング５の内径よりも小さくさせてもよい。これにより、クラッチドラム２の開口端２１ａ側からＣＦＲＰリング５を挿入し、クラッチドラム２にＣＦＲＰリング５を組み付けることができる。弾性変形量は、少なくとも凸部２３における弾性変形量が凸部２３の高さより大きくなる変形量とする。

また、図８（ａ），（ｂ）に示すように、凸部２３及び凹部５３は、クラッチドラム２にＣＦＲＰリング５を組み付けた後、凸部２３及び凹部５３を形成するクラッチドラム２の内周面２ａの位置に先端が尖った治具７１の先端部を突き当て、治具７１の後端部をハンマー７２で打撃することによって形成できる。なお、このようにして凸部２３及び凹部５３を形成した場合、クラッチドラム２の内周面２ａ側には凹部が形成されるが、クラッチドラム２の内周面２ａ側に凸部が形成されない限り、凸部２３及び凹部５３はどのような方法で形成してもよい。

すなわち、例えば図９（ａ）に示すように、成形加工によってクラッチドラム２の外周面２ｂ及びＣＦＲＰリング５の内周面５ａにそれぞれ凸部２３及び凹部５３を形成してもよい。また、例えば図９（ｂ）に示すように、成形加工によってクラッチドラム２の外周面２ｂ側に凸部２３を形成し、治具７１を利用してＣＦＲＰリング５の内周面５ａに凹部５３を形成してもよい。さらに、例えば図９（ｃ）に示すように、治具７１を利用してクラッチドラム２の外周面２ｂに凸部２３を形成し、成形加工によってＣＦＲＰリング５の内周面５ａに凹部５３を形成してもよい。

クラッチドラム２の内周面２ａ側に凸部を形成しないようにすることによって、クラッチドラム２内にクラッチプレート３を挿入する際、クラッチプレート３が内周面２ａ側の凸部に引っかかり、クラッチプレート３を挿入できなくなることを抑制できる。

さらに、凸部２３の形状が図４（ａ），（ｂ）に示した形状である場合には、図１０（ｃ）に示すように、クラッチドラム２の開口端２１ａの凸部２３を形成する位置に治具７１の先端部を突き当て、治具７１の後端部をハンマー７２で打撃することによって、クラッチドラム２の開口端２１ａの凸部２３及び凹部５３を形成するとよい。

以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。

１ クラッチ装置
２ クラッチドラム
３ クラッチプレート
４ スナップリング
５ ＣＦＲＰリング
２１，３１ スプライン大径部
２２ スプライン小径部
２３ 凸部
５３ 凹部
６１ 油抜孔

Claims (7)

1. 径方向外向きに突出するスプライン大径部と径方向内向きに突出するスプライン小径部とを周方向に交互に有する有底円筒状のクラッチドラムと、前記クラッチドラムの外周部に巻き回された円環状のＣＦＲＰ製バンド部材と、を備える車両用変速機のクラッチ装置であって、
   前記スプライン大径部は、径方向外向きに突出する凸部を備え、
   前記ＣＦＲＰ製バンド部材は、前記凸部に対向する位置に該凸部と嵌合する凹部を備え、
   前記凸部の高さ及び前記凹部の深さは、想定している温度環境内で発生し得る、径方向における前記クラッチドラムと前記ＣＦＲＰ製バンド部材との間の隙間以上の大きさを有する
   ことを特徴とする車両用変速機のクラッチ装置。
2. 径方向外向きに突出するスプライン大径部と径方向内向きに突出するスプライン小径部とを周方向に交互に有する有底円筒状のクラッチドラムと、前記クラッチドラムの外周部に巻き回された円環状のＣＦＲＰ製バンド部材と、を備える車両用変速機のクラッチ装置であって、
   前記スプライン大径部は、径方向外向きに突出する凸部を備え、
   前記ＣＦＲＰ製バンド部材は、前記凸部に対向する位置に該凸部と嵌合する凹部を備え、
   前記凸部の高さ及び前記凹部の深さは、想定している温度環境内で発生し得る、径方向における前記クラッチドラムと前記ＣＦＲＰ製バンド部材との間の隙間以上の大きさを有し、
   前記凸部の一部は、前記ＣＦＲＰ製バンド部材を幅方向で挟み込む位置に配置されている
   ことを特徴とする車両用変速機のクラッチ装置。
3. 前記ＣＦＲＰ製バンド部材は、ＣＦＲＰ繊維の主配向方向が周方向に平行になるように構成されていることを特徴とする請求項１又は２に記載の車両用変速機のクラッチ装置。
4. 前記凸部及び前記凹部の組が、前記ＣＦＲＰ製バンド部材の幅方向で異なる位置に複数配置されていることを特徴とする請求項３に記載の車両用変速機のクラッチ装置。
5. 前記スプライン大径部には、前記クラッチドラムの内部の油を外部に流出させるための油抜孔が形成され、前記ＣＦＲＰ製バンド部材は、前記油抜孔の少なくとも一部を開放する位置に配置されていることを特徴とする請求項１〜４のうち、いずれか１項に記載の車両用変速機のクラッチ装置。
6. 請求項１〜５のうち、いずれか１項に記載の車両用変速機のクラッチ装置の製造方法であって、
   前記凸部の高さ以上に前記クラッチドラムの外径を収縮させて前記クラッチドラムに前記ＣＦＲＰ製バンド部材を組み付ける組み付けステップを含むことを特徴とする車両用変速機のクラッチ装置の製造方法。
7. 請求項６に記載の車両用変速機のクラッチ装置の製造方法であって、
   前記組み付けステップは、前記クラッチドラムを冷却することによって前記凸部の高さ以上に前記クラッチドラムの外径を収縮させるステップを含むことを特徴とする車両用変速機のクラッチ装置の製造方法。

Images