自動車、自動二輪車、農業機械、船舶等のレシプロエンジンには、ピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を取り出すために、クランク軸が不可欠である。クランク軸は、型鍛造または鋳造によって製造できる。特に、高強度と高剛性がクランク軸に要求される場合、それらの特性に優れることから、型鍛造によって製造されたクランク軸(以下、「鍛造クランク軸」ともいう)が多用される。
一般に、鍛造クランク軸は、ビレットを原材料とし、そのビレットは、横断面が丸形または角形で全長にわたって断面積が一定である。鍛造クランク軸の製造では、予備成形工程、型鍛造工程、バリ抜き工程および整形工程がその順に設けられる。通常、予備成形工程は、ロール成形と曲げ打ちの各工程を含み、型鍛造工程は、荒打ちと仕上げ打ちの各工程を含む。
図1は、従来の一般的な鍛造クランク軸の製造工程を説明するための模式図である。同図に例示するクランク軸1(図1(f)参照)は、4気筒エンジンに搭載され、4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸である。そのクランク軸1は、5つのジャーナル部J1〜J5、4つのピン部P1〜P4、フロント部Fr、フランジ部Fl、および、8枚のクランクアーム部(以下、単に「アーム部」ともいう)A1〜A8から構成される。アーム部A1〜A8は、ジャーナル部J1〜J5とピン部P1〜P4をそれぞれつなぐ。また、8枚の全部のアーム部A1〜A8は、カウンターウエイト部(以下、単に「ウエイト部」ともいう)W1〜W8を一体で有する。
以下では、ジャーナル部J1〜J5、ピン部P1〜P4、アーム部A1〜A8およびウエイト部W1〜W8のそれぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「J」、ピン部で「P」、アーム部で「A」、ウエイト部で「W」とも記す。ピン部Pおよびこのピン部Pにつながる一組のアーム部A(ウエイト部Wを含む)をまとめて「スロー」ともいう。
図1に示す製造方法では、以下のようにして鍛造クランク軸1が製造される。先ず、図1(a)に示すような所定の長さのビレット2を誘導加熱炉やガス雰囲気加熱炉によって加熱した後、ロール成形を行う。ロール成形工程では、例えば孔型ロールを用いてビレット2を圧延して絞ることにより、その体積を長手方向に配分し、中間素材であるロール荒地3を成形する(図1(b)参照)。次に、曲げ打ち工程では、ロール荒地3を長手方向と直角な方向から部分的にプレス圧下する。これにより、ロール荒地3の体積を配分し、更なる中間素材である曲げ荒地4を成形する(図1(c)参照)。
続いて、荒打ち工程では、曲げ荒地4を上下に一対の金型を用いてプレス鍛造することにより、荒鍛造材5を得る(図1(d)参照)。その荒鍛造材5には、クランク軸(最終製品)のおおよその形状が成形されている。さらに、仕上げ打ち工程では、荒鍛造材5を上下に一対の金型を用いてプレス鍛造することにより、仕上げ鍛造材6を得る(図1(e)参照)。その仕上げ鍛造材6には、最終製品のクランク軸と合致する形状が成形されている。これら荒打ちおよび仕上げ打ちのとき、互いに対向する金型の型割面の間から、余材がバリとして流出する。このため、荒鍛造材5および仕上げ鍛造材6には、いずれも、成形されたクランク軸の周囲にバリBが大きく付いている。
バリ抜き工程では、バリ付きの仕上げ鍛造材6を例えば一対の金型によって挟んで保持した状態で、刃物型によってバリBを打ち抜き除去する。これにより、バリ無し鍛造材が得られ、そのバリ無し鍛造材は、図1(f)に示す鍛造クランク軸1とほぼ同じ形状である。
整形工程では、バリ無し鍛造材の要所を上下から金型で僅かに圧下し、バリ無し鍛造材を最終製品の寸法形状に矯正する。ここで、バリ無し鍛造材の要所は、例えば、ジャーナル部J、ピン部P、フロント部Fr、フランジ部Flなどといった軸部、さらにはアーム部Aおよびウエイト部Wが該当する。こうして、鍛造クランク軸1が製造される。
図1に示す製造工程は、図1(f)に示す4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸に限らず、様々なクランク軸に適用できる。例えば、4気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸にも適用できる。
4気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸の場合、8枚のアーム部A1〜A8のうち、一部のアーム部にウエイト部Wが一体で設けられる。例えば先頭の第1アーム部A1、最後尾の第8アーム部A8および中央の2枚のアーム部(第4アーム部A4、第5アーム部A5)にウエイト部Wが一体で設けられる。また、残りのアーム部、具体的には、第2、第3、第6および第7のアーム部(A2、A3、A6、A7)は、ウエイト部を有さず、その形状が小判状となる。以下では、ウエイト部を有さないアーム部を、「小判状のアーム部」ともいう。
その他に、3気筒エンジン、直列6気筒エンジン、V型6気筒エンジン、8気筒エンジン等に搭載されるクランク軸であっても、製造工程は同様である。なお、ピン部の配置角度の調整が必要な場合は、バリ抜き工程の後に、捩り工程が追加される。
近年、特に自動車用のレシプロエンジンには、燃費の向上のために軽量化が求められている。このため、レシプロエンジンに搭載されるクランク軸にも、軽量化の要求が著しくなっている。
鍛造クランク軸の軽量化を図る従来技術として、ウエイト部を一体で有するアーム部において、そのピン部側表面に凹状の肉抜き部を設ける技術がある。その凹状の肉抜き部は、型鍛造によって成形されることから、金型の分割面(型割面)と直角な方向、すなわち、ピン部の偏心方向と直角な方向に伸びる。この技術に関し、特許文献1および2がある。
特許文献1では、凹状の肉抜き部の底面を、少なくともジャーナル部の軸心よりピン部側の領域において、ピン部およびジャーナル部の各々とウェブとの接合面間をつなぐ仮想円柱状体の外周面に沿って、ピン部側からジャーナル部側へ漸次深さを増すように形成することが提案されている。これにより、クランク軸の剛性を低下させることなく、質量を軽減できるとしている。
特許文献2では、ピン部のスラスト受け部の外周縁と、ジャーナル部のスラスト受け部の外周縁との間でジャーナル部の軸線を通過する仮想線を想定する。その仮想線とジャーナル部の軸線との間でアーム部に薄肉部を形成し、この薄肉部は金型の分割面と直角な方向、すなわち、ピン部の偏心方向と直角な方向でアーム部の全幅にわたって延在する。このような薄肉部を設けることにより、ピストンの往復動作によってピン部に荷重が加わった際に、アーム部自体が撓むことにより応力を分散させることが可能となり、ピン部の長寿命化が図れるとしている。特許文献2では、肉抜き部をさらに設ければ、質量も軽減できるとしている。
以下に、本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
1.クランク軸の形状
本実施形態が対象とする鍛造クランク軸は、回転中心となるジャーナル部と、そのジャーナル部に対して偏心したピン部と、ジャーナル部とピン部をつなぐアーム部と、を備える。また、鍛造クランク軸は、アーム部のうちの全部または一部にウエイト部を一体で有する。このような鍛造クランク軸として、例えば、図2〜4に示す鍛造クランク軸を採用できる。
図2は、本発明が対象とするクランク軸について、アーム部のピン部側表面の形状例を示す模式図であり、同図(a)は斜視図、同図(b)はピン部側表面を示す図、同図(c)は側面を示す図、同図(d)はI−I断面図である。同図では、クランク軸のアーム部のうちで、ウエイト部を一体で有するアーム部を1つだけ抽出して示しており、残りのクランク軸のアーム部を省略する。なお、同図(c)は、同図(b)の破線矢印で示す方向からの投影図である。また、本発明において、ピン部の偏心方向のうちのピン部P側をトップ側(同図(b)の符号T参照)、ウエイト部W側をボトム側(同図(b)の符号B参照)という。
ウエイト部Wを一体で有するアーム部Aは、同図に示すように、ピン部P側の表面のうち、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の内側に、第1窪み部Atを有する。また、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)がピン部P側に膨らみ、それらの両側部(Ac、Ad)の厚みは、第1窪み部Atの厚みと比べ、厚肉である。ここで、側部(Ac、Ad)とは、アーム部Aの幅方向(ピン部の偏心方向と直角な方向)の側面およびその周辺部分を意味し、換言すると、アーム部Aの幅方向の端部を意味する。
また、アーム部Aのピン部P側の表面、より具体的には、第1窪み部Atの底面に凹部Auが設けられる。その凹部Auは、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)同士の間、すなわち、一方の側部Acと他方の側部Adの間に配置される。凹部Auは、曲面状であり、例えば、球面状や楕円面状、回転放物面状とすることができる。凹部Auの幅方向の位置は、例えば、両側部(Ac、Ad)の中央とすることができる。
このようにアーム部Aは、ピン部P側表面に第1窪み部Atおよび凹部Auを有するので、本実施形態が対象とする鍛造クランク軸は、軽量化を図ることができる。また、アーム部Aは、そのジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚みが厚く維持されるので、本実施形態が対象とする鍛造クランク軸は、剛性の確保を図ることができる。その理由を以下に説明する。
本発明者らが、剛性について検討したところ、両側部(Ac、Ad)の内側(間)の厚みは剛性への影響が小さいが、両側部(Ac、Ad)の厚みは剛性への影響が大きいことが明らかになった。具体的には、前述の特許文献1および2に記載されるような肉抜き部をアーム部のピン部側表面に設ける場合、凹状の肉抜き部がアーム部の幅方向の両側面まで貫通する。このため、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚みも薄くなるので、剛性が低下する。なお、ここでいう剛性は、捩り剛性を意味する。
これに対し、本実施形態が対象とする鍛造クランク軸は、第1窪み部Atをジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の内側に成形するとともに、凹部Auを両側部(Ac、Ad)の間に成形する。このため、両側部(Ac、Ad)の厚みを厚く維持できるので、鍛造クランク軸の剛性の低下を抑制できる。その結果、本実施形態に係る鍛造クランク軸によれば、肉抜き部を設ける場合と比べ、剛性を効率的に確保しながら、第1窪み部Atとともに凹部Auを成形することによってさらなる軽量化を図ることができる。
ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚みが厚い部位は、剛性を効率的に確保する観点から、ピンスラスト部(図示なし)のボトム側の外縁からジャーナル部の中心に至る範囲を含むのが好ましい。ここで、ピンスラスト部とは、アーム部のピン部側表面に設けられ、コネクティングロッドのスラスト方向の移動を制限する部位である。
後述の本実施形態の製造方法では、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)から突出する第1余肉部を押し潰すことにより、両側部(Ac、Ad)の厚みを増加させる。この場合、押し潰し時の変形の安定性を確保する観点から、ピン部P側表面の第1窪み部Atは、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚みが厚い部位に応じ、その厚みが厚い部位の範囲と一致するように配置するのが好ましい。押し潰しの際に両側部の直近に第1窪み部Atが存在することで第1窪み部Atより側部側のみが、具体的には、両側部および第1余肉部のみが容易に変形可能となるためである。
凹部Auは、その一部がジャーナル部Jの真裏に位置するのが好ましく、全部がジャーナル部の真裏に位置するのがより好ましい。これにより、軽量化しつつ鍛造クランク軸の剛性の低下をより抑制できる。
例えば、凹部Auの深さは、0.5mm以上アーム部の厚み以下とし、凹部Auの最大直径は、ジャーナル部の直径以下とすることができる。加えて、第2金型の押し込みに要する力を低減する観点から、凹部Auの深さD(mm)を浅くするとともに、軽量化効果を確保するために凹部Auの面積S(mm2)を広くするのが好ましい。具体的には、D/(S)1/2を(3π)-1/2以下とするのが好ましい。この場合、凹部Auの接線の角度θ1(前記図2(c)参照)を例えば60°以下とすることが可能となり、これによっても押し込みに要する力を低減できる。また、疵の危険性も低減できる。
続いて、ウエイト部を一体で有するアーム部Aにおけるジャーナル部J側表面の形状について、その好ましい態様を説明する。
図3は、本発明が対象とするクランク軸について、アーム部のジャーナル部側表面の形状例を示す模式図であり、同図(a)は斜視図、同図(b)はジャーナル部側表面を示す図、同図(c)はII−II断面図である。
ウエイト部Wを一体で有するアーム部Aは、同図に示すように、ジャーナル部J側の表面のうち、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の内側に第2窪み部Asを有するのが好ましい。また、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)がジャーナル部J側に膨らみ、それらの両側部(Aa、Ab)の厚みは、第2窪み部Asの厚みと比べ、厚肉であるのが好ましい。この場合、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の厚み維持によって剛性を確保しながら、第2窪み部Asによってさらに軽量化を図ることができる。
続いて、ウエイト部を一体で有さないアーム部、すなわち、小判状のアーム部について、その好ましい態様を説明する。
図4は、本発明が対象とするクランク軸について、小判状のアーム部の形状例を示す模式図であり、同図(a)はピン部側表面を示す図、同図(b)はIII−III断面図である。同図では、クランク軸のアーム部のうちで、小判状のアーム部を1つだけ抽出して示しており、残りのクランク軸のアーム部を省略する。
同図に示すように、小判状のアーム部Aは、前記図2に示すウエイト部を一体で有するアーム部と同様に、ピン部P側表面のうち、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の内側に、第1窪み部Atを有するのが好ましい。また、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)がピン部P側に膨らみ、それらの両側部(Ac、Ad)の厚みは、第1窪み部Atの厚みと比べ、厚肉であるのが好ましい。この場合、アーム部Aのジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚み維持によって剛性を確保しながら、アーム部Aのピン部P側表面の第1窪み部Atによってさらに軽量化を図ることができる。
図示を省略するが、小判状のアーム部Aは、前記図3に示すウエイト部を一体で有するアーム部と同様に、ジャーナル部J側表面のうち、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の内側に第2窪み部(図示なし)を有するのが好ましい。また、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)がジャーナル部J側に膨らみ、それらの両側部の厚みは、第2窪み部の厚みと比べ、厚肉であるのが好ましい。この場合、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の厚み維持によって剛性を確保しながら、ジャーナル部J側表面の第2窪み部によってさらに軽量化を図ることができる。
続いて、押し込み工程前、換言すると、バリ抜き工程後のクランク軸(バリ無し鍛造材)の形状について、ウエイト部を一体で有するアーム部と、小判状のアーム部とを順に説明する。
図5は、ウエイト部を一体で有するアーム部について、押し込み工程前のピン部側表面の形状例を示す模式図であり、同図(a)はピン部側表面を示す図、同図(b)は側面を示す図、同図(c)はIV−IV断面図である。同図では、クランク軸のアーム部のうちで、ウエイト部を一体で有するアーム部を1つだけ抽出して示しており、残りのクランク軸のアーム部を省略する。なお、同図(b)は、同図(a)の破線矢印で示す方向からの投影図である。
同図に示すように、ウエイト部Wを一体で有するアーム部Aにおいて、ピン部P側表面のうちでジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の内側領域は、押し込み工程後の第1窪み部の底面と合致する形状である。ただし、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の内側領域には、凹部が設けられていないので、凹部が設けられる領域は除かれる。また、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の領域には、その内側領域の形状が滑らかに広がっている。これにより、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚みは、押し込み工程後の厚みよりも薄い。
加えて、ウエイト部Wを一体で有するアーム部Aは、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の外周に第1余肉部(Aca、Ada)を有する。その第1余肉部(Aca、Ada)は、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の外周からアーム部Aの幅方向に突出する。また、第1余肉部(Aca、Ada)は、板状であり、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の外周に沿って設けられる。第1余肉部(Aca、Ada)の厚みは、その根元の両側部(Ac、Ad)の厚みと比べ、同程度であるかまたは薄い。
図6は、ウエイト部を一体で有するアーム部について、押し込み工程前のジャーナル部側表面の形状例を示す模式図であり、同図(a)はジャーナル部側表面を示す図、同図(b)はV−V断面図である。同図は、ウエイト部Wを一体で有するアーム部Aにおいて、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の厚みを厚く維持するとともに、ジャーナル部J側の表面に第2窪み部Asを成形する場合の形状例を示す。
この場合、ジャーナル部J側の表面のうちでピン部P近傍の両側部の内側領域は、押し込み工程後(最終製品)の第2窪み部Asの底面と合致する形状である。また、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の領域は、その内側領域の形状が滑らかに広がっている。これにより、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の厚みは、押し込み工程後の厚みよりも薄い。
また、アーム部Aは、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の外周にそれぞれ第2余肉部(Aaa、Aba)を有する。その第2余肉部(Aaa、Aba)は、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の外周からアーム部Aの幅方向に突出する。また、第2余肉部(Aaa、Aba)は、板状であり、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の外周に沿って設けられる。第2余肉部(Aaa、Aba)の厚みは、その根元の両側部(Aa、Ab)の厚みと比べ、同程度であるかまたは薄い。
図7は、小判状のアーム部について、押し込み工程前のピン部側表面の形状例を示す模式図であり、同図(a)はピン部側表面を示す図、同図(b)はVI−VI断面図である。同図は、小判状のアーム部Aにおいて、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚みを維持するとともに、ピン部P側の表面に第1窪み部Atを成形する場合の形状例を示す。
この場合、前記図5のウエイト部Wを一体で有するアーム部Aと同様に、ピン部P側の表面のうちでジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の内側領域は、押し込み工程後の第1窪み部の底面と合致する形状である。また、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)には、前記図5のウエイト部Wを一体で有するアーム部Aと同様に、第1余肉部(Aca、Ada)を有する。
前述の通り、小判状のアーム部Aにおいて、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の厚みを厚く維持するとともに、ジャーナル部J側の表面に第2窪み部Asを成形するのが好ましい。この場合、前記図6のウエイト部Wを一体で有するアーム部Aと同様に、ジャーナル部J側の表面のうちでピン部P近傍の両側部の内側領域は、押し込み工程後の第2窪み部の底面と合致する形状である(図示なし)。また、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)には、前記図6のウエイト部Wを一体で有するアーム部Aと同様に、第2余肉部(Aaa、Aba)を有する。
2.鍛造クランク軸の製造方法
本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、型鍛造工程と、バリ抜き工程と、押し込み工程とをその順で含む。型鍛造工程の前工程として、例えば、予備成形工程を設けることができる。押し込み工程の後工程として、例えば、整形工程を設けることができる。また、整形工程で、押し込み工程を実施することもできる。なお、ピン部の配置角度の調整が必要な場合は、バリ抜き工程と整形工程の間に、捩り工程が追加される。これらの工程は、いずれも、熱間で一連に行われる。
予備成形工程は、ロール成形工程と曲げ打ち工程とで構成できる。ロール成形工程および曲げ打ち工程では、ビレット(原材料)の体積を配分し、曲げ荒地を成形する。
型鍛造工程では、曲げ荒地からクランク軸の形状が成形されたバリ付き鍛造材を得る。そのバリ付きの鍛造材には、例えば、前記図5〜7に示すバリ無し鍛造材と同様に、ジャーナル部J、ピン部Pおよびアーム部Aの形状が型鍛造によって成形される。また、バリ付きの鍛造材は、ウエイト部Wを一体で有するアーム部Aにおいて、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の外周に第1余肉部(Aca、Ada)を有する。
このようなバリ付き鍛造材を得る型鍛造工程は、荒打ち工程および仕上げ打ち工程をその順で設けることによって構成できる。型鍛造工程の型抜き勾配は、アーム部のピン部P側表面に対応する部位、および、第1余肉部(Aca、Ada)に対応する部位のいずれでも、逆勾配にならない。このため、荒打ちと仕上げ打ちのいずれの型鍛造も、支障なく行え、バリ付きの鍛造材を得ることができる。
バリ抜き工程では、例えば、バリ付き鍛造材を一対の金型によって挟み込んだ状態で、その鍛造材からバリを除去する。これにより、バリ無し鍛造材を得ることができる。
押し込み工程では、バリ無し鍛造材を一対の第1金型で圧下する。その際に、第1金型で第1余肉部を押し潰し、アーム部のジャーナル部近傍の両側部の厚みを増加させる。その後、バリ無し鍛造材を一対の第1金型で圧下した状態で、ウエイト部を一体で有するアーム部において、ピン部側表面に第2金型を押し込んで凹部を成形する。その凹部を、アーム部のピン部側表面のうちでジャーナル部近傍の両側部の間に成形する。このような押し込み工程の詳細は、後述する。
整形工程では、バリ無し鍛造材を一対の金型で圧下し、最終製品の寸法形状に矯正する。前述の通り、整形工程で押し込み工程を実施することもできる。従来と同様の製造工程を採用できるので、整形工程で押し込み工程を実施するのが好ましい。整形工程で押し込み工程を実施する場合、バリ無し鍛造材を第1金型で圧下する際に、バリ無し鍛造材を矯正する。
ピン部の配置角度の調整が必要な場合は、捩り工程でピン部の配置角度を調整する。このような工程により、本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、鍛造クランク軸を得る。
3.押し込み工程の処理フロー例
図8〜12は、押し込み工程の処理フロー例を示す模式図である。そのうちの図8は、アーム部のピン部側表面を示し、同図(a)は保持時、同図(b)は圧下終了時、同図(c)は押し込み終了時を示す。また、図9は、アーム部のジャーナル部側表面を示し、同図(a)は保持時、同図(b)は圧下終了時、同図(c)は押し込み終了時を示す。図8および9には、バリ無し鍛造材30と、上下で一対の第1金型10とを示し、図面の理解を容易にするため、第2金型および治具の図示を省略する。また、バリ無し鍛造材30は、アーム部のうちでウエイト部を一体で有するアーム部を1つだけ抽出して示す。
図10は、アーム部の側面を示す図であり、同図(a)は保持時、同図(b)は圧下終了時、同図(c)は押し込み終了時を示す。同図には、バリ無し鍛造材30と、第2金型22と、治具26とを示し、図面の理解を容易にするため、第1金型の図示を省略する。
図11は、ジャーナル部位置の断面図であり、同図(a)は保持時(図8(a)のVII−VII位置)、同図(b)は圧下終了時(図8(b)のVIII−VIII位置)、同図(c)は押し込み終了時(図8(c)のIX−IX位置)を示す。同図には、バリ無し鍛造材30と、一対の第1金型10と、第2金型22とを示す。
図12は、ピン部位置の断面図であり、同図(a)は保持時(図9(a)のX−X位置)、同図(b)は圧下終了時(図9(b)のXI−XI位置)、同図(c)は押し込み終了時(図9(c)のXII−XII位置)を示す。同図には、バリ無し鍛造材30と、一対の第1金型10と、第3金型23とを示す。
押し込み工程では、一対の第1金型10を用いる。第1金型10は、上型11と下型12とで構成でき、上型11および下型12には、それぞれ型彫刻部が彫り込まれている。その型彫刻部には、クランク軸の最終製品形状のうちの一部が反映されている。具体的には、ウエイト部Wを一体で有するアーム部Aにおいて、第1余肉部(Aca、Ada)を押し潰すため、そのアーム部Aのジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の形状が型彫刻部に反映されている。
また、ウエイト部Wを一体で有するアーム部Aに第2余肉部(Aaa、Aba)を設ける場合、その第2余肉部(Aaa、Aba)を押し潰すため、そのアーム部Aのピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)の形状が型彫刻部にさらに反映される。
図示を省略するが、小判状のアーム部Aに第1余肉部を設ける場合、その第1余肉部を押し潰すため、そのアーム部Aのジャーナル部J近傍の両側部の形状が型彫刻部にさらに反映される。また、小判状のアーム部Aに第2余肉部を設ける場合、その第2余肉部を押し潰すため、そのアーム部Aのピン部P近傍の両側部の形状が型彫刻部にさらに反映される。
整形工程で押し込み工程を実施する場合、バリ無し鍛造材を最終製品の寸法形状に矯正するため、例えば、上述の両側部以外のアーム部形状がさらに型彫刻部に反映される。また、ジャーナル部Jやピン部Pの形状も型彫刻部に反映される。一方、押し込み工程で整形加工を行わない場合、第2金型を押し込む過程で、第1金型を用いて圧下することによりバリ無し鍛造材を保持するため、例えば、ジャーナル部やピン部の形状がさらに型彫刻部に反映される。
ただし、型抜き勾配が逆勾配となるのを防止するため、図11に示すように、第1金型(11、12)は、アーム部Aのピン部P側表面のうちで、少なくとも第1窪み部となる部分が開放されている。この開放された部分には、第2金型22が収容され、後述の第6金型(図示なし)をさらに収容しても良い。第2金型22には、型彫刻部が彫り込まれており、その型彫刻部には、凹部Auの形状が反映されている。また、第2金型22は、第1金型(11、12)から独立し、アーム部Aのピン部P側表面に対して進退移動が可能である。
ここで、第2金型22は、隣り合うアーム部の間に配置され、その配置スペースは狭小となる。そこで、第2金型22は、図10に示すように、ピン部の偏心方向に沿って移動可能な治具26と連結する構成を採用しても良い。この構成について、以下に詳述する。
第2金型22の進退移動を実現するため、第2金型22は、案内部材(図示なし)によって案内方向(同図の実線矢印参照)に沿って移動可能に保持される。また、第2金型22は、スライド方向(同図の破線矢印参照)に沿ってスライド可能な状態で治具26と連結される。治具26は、油圧シリンダ等と連結され、その動作に伴ってピン部の偏心方向(同図のハッチングを施した矢印参照)に沿って移動可能である。
このように治具26と第2金型22とを連結すれば、治具26がピン部の偏心方向に沿って移動するのに伴い、第2金型22が案内方向(同図の実線矢印参照)に沿って移動する。その際、第2金型22は、治具26に対してスライド方向(同図の破線矢印参照)に相対移動する。
ウエイト部Wを一体で有するアーム部Aに第2余肉部(Aaa、Aba)を設ける場合、第1金型(11、12)は、図12に示すように、アーム部Aのジャーナル部J側表面の第2窪み部に対応する部位が開放されている。これにより、型抜き勾配が逆勾配となるのを防止できる。その開放された部分には、第3金型23を収容しても良い。第3金型23には、型彫刻部が彫り込まれており、その型彫刻部には、第2窪み部Asの形状が反映されている。この第3金型23は、進退移動が可能であり、その進退移動は連結される油圧シリンダ等の動作によって実現される。
第3金型23は、第1金型10の圧下方向に移動可能としても良い。圧下方向への第3金型23の移動は、進退移動の駆動源とは別個にスプリングや油圧シリンダ等の適宜手段を用いて実行される。
図示を省略するが、小判状のアーム部に第1余肉部を設ける場合、第1金型は、アーム部のピン部側表面の第1窪み部に対応する部位が開放されている。この開放された部分には、前述の第3金型と同様の第4金型を収容しても良い。また、小判状のアーム部に第2余肉部を設ける場合、アーム部のジャーナル部側表面の第2窪み部に対応する部位が開放されている。この開放された部分には、前述の第3金型と同様の第5金型を収容しても良い。
このような第1金型10および第2金型22を用いる本実施形態の押し込み工程の処理フロー例を説明する。先ず、第2金型22を後退させて退避させるとともに、第1金型10の上型11と下型12とを離間させる。第3金型〜第5金型を用いる場合、第3金型〜第5金型も後退させて退避させる。その状態でバリ無し鍛造材30を上型11と下型12の間に配置する。
次いで、第3金型〜第5金型を用いる場合、第3金型〜第5金型をそれぞれ進出させ、アーム部Aの各表面に押し付ける(図10(a)および図12(a)参照)。これにより、アーム部Aの各表面をそれぞれ保持する。ただし、アーム部の表面のうちで、第1余肉部が設けられたジャーナル部J近傍の両側部の領域と、第2余肉部が設けられたピン部P近傍の両側部の領域とについては、第3金型〜第5金型のいずれも押し当てない。それらの領域に金型を押し当てて保持すると、ジャーナル部近傍およびピン部近傍の両側部で厚みを増加させることが不可能となるからである。
この状態で、第1金型10の上型11と下型12とが近接するように移動させ、より具体的には、上型11を下死点まで下降させる。これにより、バリ無し鍛造材30が第1金型10によって圧下される。その圧下の際に、図11(b)等に示すように、第1余肉部(Aca、Ada)を押し潰して第1金型10の型彫刻部に沿う形状とし、ピン部P側に張り出させる。その結果、アーム部のジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚みが増加する。このため、得られるクランク軸は、アーム部のジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)で厚みが厚くなる。
同様に、ウエイト部を一体で有するアーム部に第2余肉部を設ける場合、圧下の際に、第1金型10で第2余肉部(Aaa、Aba)を押し潰してジャーナル部J側に張り出させ、ピン部P近傍の両側部(Aa、Ab)で厚みを増加させる(図12(b)等参照)。
図示を省略するが、小判状のアーム部に第1余肉部を設ける場合、圧下の際に、第1金型10で第1余肉部を押し潰してピン部P側に張り出させ、アーム部のジャーナル部J近傍の両側部で厚みを増加させる。また、小判状のアーム部に第2余肉部を設ける場合、圧下の際に、第1金型10で第2余肉部を押し潰してジャーナル部J側に張り出させ、ピン部P近傍の両側部で厚みを増加させる。
整形工程で押し込み工程を実施する場合、圧下の際にクランク軸の形状を矯正し、最終製品から凹部が除かれた形状とする。
続いて、バリ無し鍛造材30を第1金型10の上型11と下型12で圧下した状態で、すなわち、第1金型10で挟み込んで保持した状態で、第2金型22を進出させる。これにより、第2金型22が、アーム部Aのピン部P側表面のうちで両側部(Ac、Ad)の中間、より具体的には、第1窪み部Atの底面に押し込まれ、凹部Auが成形される(図11(c)等参照)。
凹部Auを成形した後、第2金型22を後退させて退避させる。第3金型〜第5金型を用いる場合、第3金型〜第5金型もそれぞれ後退させて退避させる。続いて、第1金型10の上型11と下型12とを離間させ、より具体的には、上型11を上死点まで上昇させる。その状態で、加工済みのバリ無し鍛造材を搬出する。
このような本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法によれば、ウエイト部を一体で有するアーム部Aにおいて、ジャーナル部J近傍の両側部(Ac、Ad)の厚みを厚く維持しながら、ピン部P側の表面に第1窪み部Atおよび凹部Auを設けることが可能となる。このため、本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、軽量化と剛性確保を同時に図った鍛造クランク軸を製造することができる。
押し込み工程では、第2金型22に代えて、形状が円柱状であるポンチ、または、先端に円錐状部が設けられた円柱状のポンチを用いることも考えられる。しかしながら、ポンチは、押し込みに多大な力が必要であり、設備負荷やポンチの寿命が問題となることから、不適である。第2金型22の押し込みに要する力を低減する観点から、第2金型の型彫刻部の形状は、凸な曲面状とするのが好ましく、例えば、球面状や楕円面状、回転放物面状とすることができる。
第2金型22の押し込み方向と、凹部Auが成形される面(第1窪み部Atの底面)とがなす角度θ2(図10(a)参照)は、鋭角とするのが好ましい。θ2を鋭角とすれば、単位押し込み量あたりの加工度が低下することから、第2金型22の押し込みに要する力をより低減できる。この効果は、θ2を70°以下とすれば、顕著となる。一方、θ2が30°未満であれば、凹部Auが成形される面(第1窪み部Atの底面)を削ぐような(せん断するような)変形が過多となり、所望の変形が得られないおそれがある。これらから、θ2を30〜70°とするのがより好ましい。ここで、押し込み量は、第2金型の押し込み方向の移動量(mm)を意味する。
ピン部P側の第1窪み部Atを精密に仕上げる観点から、前述の第6金型を用いるのが好ましい。
図13は、第6金型を用いる場合のジャーナル部位置の断面図であり、同図(a)は保持時、同図(b)は圧下終了時、同図(c)は押し込み終了時を示す。同図は、前記図11に第6金型24を追加したものである。
第6金型24には、型彫刻部が彫り込まれており、その型彫刻部には、第1窪み部Atの形状が反映されている。ただし、図13に示すように、第6金型24は、アーム部Aのピン部P側表面のうちで、少なくとも凹部Auとなる部分が開放されている。その開放された部分には、前述の第2金型22が収容される。
この第6金型24は、進退移動が可能であり、その進退移動は、例えば、連結される油圧シリンダ等の動作によって実現される。第6金型24は、第1金型10の圧下方向(ピン部の偏心方向と直角な方向)に移動可能としても良い。圧下方向への第6金型24の移動は、例えば、進退移動の駆動源とは別個にスプリングや油圧シリンダ等の適宜手段を用いて実行される。押し込み工程において、第6金型24は、前述の第3金型〜第5金型と同様に、進退移動を行えばよい。
このような第6金型24を用いる場合、押し込み工程では、アーム部のピン部側表面を第6金型24の押し当てによって保持する。ただし、アーム部のピン部側表面のうちで、第1余肉部が設けられたジャーナル部近傍の両側部の領域は、第6金型24を押し当てない。その領域に第6金型を押し当てて保持すると、ジャーナル部近傍の両側部で厚みを増加させることが不可能となるからである。
アーム部のピン部側表面を第6金型で保持する際、ピン部P側の第1窪み部Atをより精密に仕上げる観点から、第1金型(11、12)の圧下に追従して第6金型24を第1金型(11、12)の圧下方向に移動させ、アーム部への第6金型24の押し当て位置を一定の位置に維持するのが好ましい。
ウエイト部を一体で有するアーム部において、型鍛造工程では、前述の第2余肉部をさらに成形し、押し込み工程では、第1金型で第2余肉部を押し潰し、ピン部近傍の両側部の厚みを増加させるのが好ましい。これにより、剛性を確保しながら、さらに軽量化を図ることができる。この場合、ジャーナル部側表面の凹み形状を精密に仕上げる観点から、前述の第3金型を用いるのが好ましい。
小判状のアーム部において、型鍛造工程では、前述の第1余肉部をさらに成形し、押し込み工程では、第1金型で第1余肉部を押し潰し、ジャーナル部近傍の両側部の厚みを増加させるのが好ましい。これにより、剛性を確保しながら、さらに軽量化を図ることができる。この場合、ピン部側表面の凹み形状を精密に仕上げる観点から、前述の第4金型を用いるのが好ましい。
また、小判状のアーム部において、型鍛造工程では、前述の第2余肉部をさらに成形し、押し込み工程では、第1金型で第2余肉部を押し潰し、ピン部近傍の両側部の厚みを増加させるのが好ましい。これにより、剛性を確保しながら、さらに軽量化を図ることができる。この場合、ジャーナル部側表面の凹み形状を精密に仕上げる観点から、前述の第5金型を用いるのが好ましい。
図8〜図12に示す処理フロー例は、4気筒エンジンに搭載されるクランク軸を対象とし、そのクランク軸は、ピン部の偏心方向がアーム部ごとに180°の等間隔にシフトする。このように180°の等間隔にシフトする場合、いずれのアーム部も、第1金型によってピン部の偏心方向と直角な方向から圧下される。この場合、第1金型の圧下方向は、クランク軸の軸方向とも直角である。
ただし、第1金型による圧下方向は、ピン部の偏心方向と直角な方向に限定されない。例えば、3気筒エンジンに搭載されるクランク軸の場合、ピン部の偏心方向がアーム部ごとに120°または60°の等間隔にシフトする。このように180°の等間隔にシフトしない場合、第1金型による圧下方向は、一部のアーム部でピン部の偏心方向と直角な方向にならない。この場合であっても、本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法を適用できる。すなわち、第1金型で第1余肉部を押し潰すことにより、アーム部の両側部の厚みを増加させることができる。したがって、第1金型による圧下方向は、第1金型で第1余肉部を押し潰すことによってアーム部の両側部の厚みを増加させることができる限り、限定されない。