以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用された車両10の概略構成を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源として機能するエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間に設けられた動力伝達装置16とを備えている。動力伝達装置16は、非回転部材としてのハウジング18内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としての公知のトルクコンバータ20、トルクコンバータ20の出力回転部材であるタービン軸と一体的に設けられた入力軸22、入力軸22に連結された無段変速機構としての公知のベルト式無段変速機24(以下、無段変速機24)、同じく入力軸22に連結された前後進切換装置26、前後進切換装置26を介して入力軸22に連結されて無段変速機24と並列に設けられた伝動機構としてのギヤ機構28、無段変速機24およびギヤ機構28の共通の出力回転部材である出力軸30、カウンタ軸32、出力軸30およびカウンタ軸32に各々相対回転不能に設けられて噛み合う一対のギヤから成る減速歯車装置34、カウンタ軸32に相対回転不能に設けられたギヤ36に連結されたデフギヤ38、デフギヤ38に連結された1対の車軸40等を備えている。このように構成された動力伝達装置16において、エンジン12の動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義)は、トルクコンバータ20、無段変速機24(或いは前後進切換装置26およびギヤ機構28)、減速歯車装置34、デフギヤ38、および車軸40等を順次介して1対の駆動輪14へ伝達される。
このように、動力伝達装置16は、エンジン12(ここではエンジン12の動力が伝達される入力回転部材である入力軸22でも同意)と駆動輪14(ここでは駆動輪14へエンジン12の動力を出力する出力回転部材である出力軸30でも同意)との間の動力伝達経路に並列に設けられた、無段変速機24およびギヤ機構28を備えている。よって、動力伝達装置16は、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機24を介して駆動輪14側(すなわち出力軸30)へ伝達する第1動力伝達経路と、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ機構28を介して駆動輪14側(すなわち出力軸30)へ伝達する第2動力伝達経路とを備え、車両10の走行状態に応じてその第1動力伝達経路とその第2動力伝達経路とが切り換えられるように構成されている。その為、動力伝達装置16は、上記第1動力伝達経路と上記第2動力伝達経路とを選択的に切り替えるクラッチ機構として、上記第1動力伝達経路における動力伝達を断続するクラッチ機構としてのCVT走行用クラッチC2と、上記第2動力伝達経路における動力伝達を断続するクラッチ機構としての前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1とを備えている。CVT走行用クラッチC2、前進用クラッチC1、および後進用ブレーキB1は、断接装置に相当するものであり、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる公知の油圧式摩擦係合装置(摩擦クラッチ)である。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は、後述するように、それぞれ前後進切換装置26を構成する要素の1つである。
前後進切換装置26は、入力軸22まわりにその入力軸22に対して同軸心に設けられており、ダブルピニオン型の遊星歯車装置26p、前進用クラッチC1、および後進用ブレーキB1を主体として構成されている。遊星歯車装置26pのキャリヤ26cは入力軸22に一体的に連結され、遊星歯車装置26pのリングギヤ26rは後進用ブレーキB1を介してハウジング18に選択的に連結され、遊星歯車装置26pのサンギヤ26sは入力軸22まわりにその入力軸22に対して同軸心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ42に連結されている。また、キャリヤ26cとサンギヤ26sとは、前進用クラッチC1を介して選択的に連結される。このように構成された前後進切換装置26では、前進用クラッチC1が係合されると共に後進用ブレーキB1が解放されると、入力軸22が小径ギヤ42に直結され、上記第2動力伝達経路において前進用動力伝達経路が成立(達成)させられる。また、後進用ブレーキB1が係合されると共に前進用クラッチC1が解放されると、小径ギヤ42は入力軸22に対して逆方向へ回転させられ、上記第2動力伝達経路において後進用動力伝達経路が成立させられる。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、上記第2動力伝達経路は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。
ギヤ機構28は、小径ギヤ42と、ギヤ機構カウンタ軸44に相対回転不能に設けられてその小径ギヤ42と噛み合う大径ギヤ46とを含んで構成されている。従って、ギヤ機構28は、1つのギヤ段(ギヤ比)が形成される伝動機構である。ギヤ機構カウンタ軸44まわりには、アイドラギヤ48がギヤ機構カウンタ軸44に対して同軸心に相対回転可能に設けられている。ギヤ機構カウンタ軸44まわりには、更に、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48との間に、これらの間を選択的に断接する噛合式クラッチD1が設けられている。従って、噛合式クラッチD1は、動力伝達装置16に備えられた、上記第2動力伝達経路における動力伝達を断続するクラッチ機構として機能する。具体的には、噛合式クラッチD1は、ギヤ機構カウンタ軸44に形成された第1ギヤ50と、アイドラギヤ48に形成された第2ギヤ52と、これら第1ギヤ50および第2ギヤ52と嵌合可能(係合可能、噛合可能)な内周歯が形成されたハブスリーブ54とを含んで構成されている。このように構成された噛合式クラッチD1では、ハブスリーブ54がこれら第1ギヤ50および第2ギヤ52と嵌合することで、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48とが接続される。また、噛合式クラッチD1は、第1ギヤ50と第2ギヤ52とを嵌合する際に回転を同期させる、同期機構としての公知のシンクロメッシュ機構S1を更に備えている。アイドラギヤ48は、そのアイドラギヤ48よりも大径の出力ギヤ56と噛み合っている。出力ギヤ56は、出力軸30と同じ回転軸心まわりにその出力軸30に対して相対回転不能に設けられている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の一方が係合され且つ噛合式クラッチD1が係合されると、エンジン12の動力が入力軸22から前後進切換装置26、ギヤ機構28、アイドラギヤ48、および出力ギヤ56を順次経由して出力軸30に伝達される、第2動力伝達経路が成立(接続)させられる。
無段変速機24は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路上に設けられている。無段変速機24は、入力軸22に設けられた有効径が可変のプライマリプーリ58と、出力軸30と同軸心の回転軸60に設けられた有効径が可変のセカンダリプーリ62と、その一対の可変プーリ58,62の間に巻き掛けられた伝動ベルト64とを備え、一対の可変プーリ58,62と伝動ベルト64との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる、よく知られたプッシュ式の無段変速機である。
プライマリプーリ58は、入力軸22に対して同軸に取り付けられた入力側固定回転体としての固定シーブ58aと、入力軸22に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた入力側可動回転体としての可動シーブ58bと、それらの間のV溝幅を変更するために可動シーブ58bを移動させるための推力を発生させるプライマリ側油圧アクチュエータ58c(以下、油圧アクチュエータ58cと称す)とを、備えている。
セカンダリプーリ62は、出力側固定回転体としての固定シーブ62aと、その固定シーブ62aに対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた出力側可動回転体としての可動シーブ62bと、それらの間のV溝幅を変更するために可動シーブ62bを移動させるための推力を発生させるセカンダリ側油圧アクチュエータ62c(以下、油圧アクチュエータ62cと称す)とを、備えて構成されている。
無段変速機24では、一対の可変プーリ58,62のV溝幅が変化して伝動ベルト64の掛かり径(有効径)が変更されることで、変速比(ギヤ比)γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられる。例えば、プライマリプーリ58のV溝幅が狭くされると、ギヤ比γが小さくされる(すなわち無段変速機24がアップシフトされる)。また、プライマリプーリ58のV溝幅が広くされると、ギヤ比γが大きくされる(すなわち無段変速機24がダウンシフトされる)。出力軸30は、回転軸60まわりにその回転軸60に対して同軸心に相対回転可能に配置されている。CVT走行用クラッチC2は、無段変速機24よりも駆動輪14側に設けられており(すなわちセカンダリプーリ62と駆動輪14(出力軸30)との間に設けられており)、セカンダリプーリ62と出力軸30(駆動輪14)との間を選択的に断接する。このCVT走行用クラッチC2が係合されると、エンジン12の動力が入力軸22から無段変速機24を経由して出力軸30に伝達される、第1動力伝達経路が成立(接続)させられる。
動力伝達装置16の作動について、以下に説明する。図2は、動力伝達装置16の各走行パターン毎の係合要素の係合表を用いて、その走行パターンの切り換わりを説明する為の図である。図2において、C1は前進用クラッチC1の作動状態に対応し、C2はCVT走行用クラッチC2の作動状態に対応し、B1は後進用ブレーキB1の作動状態に対応し、D1は噛合式クラッチD1の作動状態に対応し、「○」は係合(接続)を示し、「×」は解放(遮断)を示している。
先ず、ギヤ機構28を介してエンジン12の動力が出力軸30に伝達される走行パターン(すなわち第2動力伝達経路を通って動力が伝達される走行パターン)であるギヤ走行について説明する。このギヤ走行では、図2に示すように、例えば前進用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合される一方、CVT走行用クラッチC2および後進用ブレーキB1が解放される。
具体的には、前進用クラッチC1が係合されると、前後進切換装置26を構成する遊星歯車装置26pが一体回転させられるので、小径ギヤ42が入力軸22と同回転速度で回転させられる。また、小径ギヤ42はギヤ機構カウンタ軸44に設けられている大径ギヤ46と噛み合わされているので、ギヤ機構カウンタ軸44も同様に回転させられる。更に、噛合式クラッチD1が係合されているので、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48とが接続される。このアイドラギヤ48は出力ギヤ56と噛み合わされているので、出力ギヤ56と一体的に設けられている出力軸30が回転させられる。このように、前進用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合されると、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20、前後進切換装置26、ギヤ機構28、およびアイドラギヤ48等を順次介して出力軸30に伝達される。なお、このギヤ走行では、例えば後進用ブレーキB1および噛合式クラッチD1が係合される一方、CVT走行用クラッチC2および前進用クラッチC1が解放されると、後進走行が可能となる。
次いで、無段変速機24を介してエンジン12の動力が出力軸30に伝達される走行パターン(すなわち第1動力伝達経路を通って動力が伝達される走行パターン)であるCVT走行について説明する。このCVT走行では、図2のCVT走行(高車速)に示すように、例えばCVT走行用クラッチC2が係合される一方、前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、および噛合式クラッチD1が解放される。
具体的には、CVT走行用クラッチC2が係合されると、セカンダリプーリ62と出力軸30とが接続されるので、セカンダリプーリ62と出力軸30とが一体回転させられる。このように、CVT走行用クラッチC2が係合されると、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20および無段変速機24等を順次介して出力軸30に伝達される。このCVT走行(高車速)中に噛合式クラッチD1が解放されるのは、例えばCVT走行中のギヤ機構28等の引き摺りをなくすと共に、高車速においてギヤ機構28等が高回転化するのを防止する為である。
前記ギヤ走行は、例えば車両停止中を含む低車速領域において選択される。この第2動力伝達経路におけるギヤ比γ1(すなわちギヤ機構28により形成されるギヤ比EL)は、無段変速機24により形成される最大ギヤ比(すなわち最も低車速側のギヤ比である最ローギヤ比)γmaxよりも大きな値(すなわちロー側のギヤ比)に設定されている。例えばギヤ比γ1は、動力伝達装置16における第1速ギヤ段のギヤ比である第1速ギヤ比γ1に相当し、無段変速機24の最ローギヤ比γmaxは、動力伝達装置16における第2速ギヤ段のギヤ比である第2速ギヤ比γ2に相当する。その為、例えばギヤ走行とCVT走行とは、公知の有段変速機の変速マップにおける第1速ギヤ段と第2速ギヤ段とを切り換える為の変速線に従って切り換えられる。また、例えばCVT走行においては、公知の手法を用いて、アクセル開度θacc、車速Vなどの走行状態に基づいてギヤ比γが変化させられる変速(例えばCVT変速、無段変速)が実行される。ここで、ギヤ走行からCVT走行(高車速)、或いはCVT走行(高車速)からギヤ走行へ切り換える際には、図2に示すように、CVT走行(中車速)を過渡的に経由して切り換えられる。
例えばギヤ走行からCVT走行(高車速)へ切り換えられる場合、ギヤ走行に対応する前進用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合された状態から、CVT走行用クラッチC2および噛合式クラッチD1が係合された状態であるCVT走行(中車速)に過渡的に切り換えられる。すなわち、前進用クラッチC1を解放してCVT走行用クラッチC2を係合するようにクラッチを掛け替える変速(例えばクラッチツゥクラッチ変速(以下、CtoC変速という))が実行される。このとき、動力伝達経路は第2動力伝達経路から第1動力伝達経路へ変更され、動力伝達装置16においては実質的にアップシフトさせられる。そして、動力力伝達経路が切り換えられた後、不要な引き摺りやギヤ機構28等の高回転化を防止する為に噛合式クラッチD1が解放される(図2の被駆動入力遮断参照)。このように噛合式クラッチD1は、駆動輪14側からの入力を遮断する被駆動入力遮断クラッチとして機能する。
また、例えばCVT走行(高車速)からギヤ走行へ切り換えられる場合、CVT走行用クラッチC2が係合された状態から、ギヤ走行への切換準備として更に噛合式クラッチD1が係合される状態であるCVT走行(中車速)に過渡的に切り換えられる(図2のダウンシフト準備参照)。このCVT走行(中車速)では、ギヤ機構28を介して遊星歯車装置26pのサンギヤ26sにも回転が伝達された状態となる。このCVT走行(中車速)の状態からCVT走行用クラッチC2を解放して前進用クラッチC1を係合するようにクラッチを掛け替える変速(例えばCtoC変速)が実行されると、ギヤ走行へ切り換えられる。このとき、動力伝達経路は第1動力伝達経路から第2動力伝達経路へ変更され、動力伝達装置16においては実質的にダウンシフトさせられる。
図3は、車両10における各種制御の為の制御機能および制御系統の要部を説明する図である。図3において、車両10には、例えば動力伝達装置16の走行パターンを切り換える車両10の制御装置を含む電子制御装置80が備えられている。よって、図3は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、また、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン12の出力制御、無段変速機24の変速制御やベルト挟圧制御、走行パターンをCVT走行またはギヤ走行に切り換える切換制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置80には、車両10が備える各種センサ(例えばエンジン回転速度センサ82、入力軸回転速度センサ84、出力軸回転速度センサ86、アクセル開度センサ88、スロットル弁開度センサ90、フットブレーキスイッチ92、Gセンサ94、油圧センサ98、99など)による検出信号に基づく各種実際値(例えばエンジン回転速度Ne、タービン回転速度Ntに対応するプライマリプーリ58の回転速度である入力軸回転速度Nin、車速Vに対応するセカンダリプーリ62の回転速度である出力軸回転速度Nout、運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度θacc、スロットル弁開度θth、常用ブレーキであるフットブレーキが操作された状態を示す信号であるブレーキオンBon、車両10の前後加速度G、プライマリプーリ58の油圧アクチュエータ58cに供給されるプライマリ圧Pin、セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62cに供給されるセカンダリ圧Poutなど)が、それぞれ供給される。
電子制御装置80からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、無段変速機24の変速に関する油圧制御の為の油圧制御指令信号Scvt、動力伝達装置16の走行パターンの切換えに関連する前後進切換装置26、CVT走行用クラッチC2、および噛合式クラッチD1を制御する為の油圧制御指令信号Sswt等が、それぞれ出力される。具体的には、エンジン出力制御指令信号Seとして、スロットルアクチュエータを駆動して電子スロットル弁の開閉を制御する為のスロットル信号や燃料噴射装置から噴射される燃料の量を制御する為の噴射信号や点火装置によるエンジン12の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、油圧制御指令信号Scvtとして、プライマリプーリ58の油圧アクチュエータ58cに供給されるプライマリ圧Pinを調整するソレノイド弁を駆動する為の指令信号、セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62cに供給されるセカンダリ圧Poutを調整するソレノイド弁を駆動する為の指令信号などが油圧制御回路96へ出力される。また、油圧制御指令信号Sswtとして、前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、CVT走行用クラッチC2、ハブスリーブ54を作動させるアクチュエータなどに供給される各油圧を制御する各ソレノイド弁を駆動する為の指令信号などが油圧制御回路96へ出力される。
電子制御装置80は、エンジン出力制御部100(エンジン出力制御手段)、変速制御部102(変速制御手段)、スリップ率算出部104(スリップ率算出手段)、滑り速度算出部106(滑り速度算出手段)、滑り速度判定部108(滑り速度判定手段)、学習制御部110(学習制御手段)、および回転変動判定部112(回転変動判定手段)を、機能的に備えている。なお、変速制御部102が、本発明の制御部に対応している。
エンジン出力制御部100は、例えばエンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号Seをそれぞれスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置へ出力する。エンジン出力制御部100は、例えば予め定められた不図示の関係(駆動力マップ)から実際のアクセル開度θaccおよび車速Vに基づいて運転者による駆動要求量としての要求駆動出力Pdemを算出し、その要求駆動出力Pdemが得られる為の目標エンジントルクTetgtを設定し、その目標エンジントルクTetgtが得られるようにスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射装置により燃料噴射量を制御したり、点火装置により点火時期を制御する。
変速制御部102は、CVT走行において、アクセル開度θacc、車速V、ブレーキ信号Bonなどに基づいて算出される目標ギヤ比γtgtとなるように無段変速機24のギヤ比γを制御する油圧制御指令信号Scvtを油圧制御回路96へ出力する。具体的には、変速制御部102は、無段変速機24のベルト挟圧を最適な値に調整しつつ、エンジン12の動作点が所定の最適ライン(例えばエンジン最適燃費線)上となる無段変速機24の目標ギヤ比γtgtを達成する予め定められた関係(例えばCVT変速マップ)を記憶しており、その関係からアクセル開度θaccおよび車速Vなどに基づいて、アクチュエータ58cに供給されるプライマリ圧Pinの指令値としてのプライマリ指示圧Pintgtと、油圧アクチュエータ62cに供給されるセカンダリ圧Poutの指令値としてのセカンダリ指示圧Pouttgtとを決定し、プライマリ指示圧Pintgtおよびセカンダリ指示圧Pouttgtを油圧制御回路96へ出力して、CVT変速を実行する。
また、変速制御部102は、ギヤ機構28を介してエンジン12の動力が出力軸30に伝達されるギヤ走行と、無段変速機24を介してエンジン12の動力が出力軸30に伝達されるCVT走行とを切り換える切換制御を実行する。具体的には、変速制御部102は、車両走行中の走行パターンを切り換えるか否かを判定する。例えば、変速制御部102は、ギヤ走行におけるギヤ比ELに対応する第1速ギヤ比γ1とCVT走行における最ローギヤ比γmaxに対応する第2速ギヤ比γ2とを切り換える為のアップシフト線およびダウンシフト線を用いて、車速Vおよびアクセル開度θaccに基づいて変速(ギヤ比の切換え)を判断し、その判断結果に基づいて車両走行中の走行パターンを切り換えるか否かを判定する。上記アップシフト線およびダウンシフト線は、予め定められた変速線であり、所定のヒステリシスを有している。
変速制御部102は、走行パターンの切換えを判定すると、走行パターンの切換えを実行する。例えば、変速制御部102は、ギヤ走行中にアップシフトを判断すると、ギヤ走行からCVT走行(高車速)へ切り換える。変速制御部102は、ギヤ走行からCVT走行(高車速)へ切り換える場合、先ず、前進用クラッチC1を解放すると共にCVT走行用クラッチC2を係合するCtoC変速によりアップシフトを実行する。この状態は、図2の過渡的に切り換えられるCVT走行(中車速)に対応しており、動力伝達装置16における動力伝達経路は、ギヤ機構28を介して動力が伝達される第2動力伝達経路から無段変速機24を介して動力が伝達される第1動力伝達経路へ切り換えられる。次いで、変速制御部102は、係合中の噛合式クラッチD1を解放するようにシンクロ機構S1のハブスリーブ54を作動させる指令を出力して、CVT走行(高車速)へ切り換える。ハブスリーブ54は、図示しない油圧アクチュエータによって駆動され、その油圧アクチュエータに供給される油圧によってハブスリーブ54への押圧力が調整される。
また、変速制御部102は、CVT走行(高車速)中にダウンシフトを判断すると、CVT走行(高車速)からギヤ走行へ切り換える。変速制御部102は、CVT走行(高車速)からギヤ走行へ切り換える場合、先ず、解放中の噛合式クラッチD1を係合するようにシンクロ機構S1のハブスリーブ54を作動させる指令を出力して、CVT走行(中車速)へ切り換える。次いで、変速制御部102は、CVT走行用クラッチC2を解放すると共に前進用クラッチC1を係合するCtoC変速によりダウンシフトを実行する。この状態は、図2のギヤ走行に対応しており、動力伝達装置16における動力伝達経路は、無段変速機24を介して動力が伝達される第1動力伝達経路からギヤ機構28を介して動力が伝達される第2動力伝達経路へ切り換えられる。このように、変速制御部102は、車両10の走行中に無段変速機24を介した動力伝達からギヤ機構28を介した動力伝達へ切り替える場合には、噛合式クラッチD1を係合側に作動させてからCVT走行用クラッチC2を解放する。
ところで、CVT走行中において、無段変速機24の各プーリ58、62と伝動ベルト64との間で滑り(ベルト滑り)が生じることによる自励振動が発生し、さらに、この自励振動に起因して発生する車両振動およびノイズが問題となっている。これを抑制するため、従来では、ベルト挟圧を増加してベルト滑りを低減することで自励振動を低減していた。しかしながら、このベルト挟圧の増加量は、車両毎のばらつきや安全代等を考慮すると、車両毎の最適な値よりも過剰な値に設定する必要がある。従って、ベルト挟圧が常時大きくなるため、油圧アクチュエータ58c、62cに供給される油圧も高くなり、燃費が悪化する。また、耐久性の高い伝動ベルトを使用する必要が生じ、製造コストが増加する虞もある。
上記不具合を解消するため、本実施例では、無段変速機24のベルト挟圧を以下に説明するように制御することで、自励振動に起因する車両振動およびノイズを抑制しつつ燃費悪化を抑制する。
車両状態判定部103は、自励振動が問題となる走行状態にあるか否かを判定する。自励振動は、CVT走行中において常時問題とはならず、車両が所定の走行状態にある場合において顕著となる。そこで、車両状態判定部103は、自励振動が顕著となる走行状態を予め記憶しており、車両がその走行状態になると、後述する車両振動およびノイズを抑制する制御を実行するよう判定する。この自励振動が顕著となる走行状態は、予め実験的に求められており、例えば無段変速機24のギヤ比γ、入力トルクTin、各種回転速度(入力軸回転速度Nin等)などから規定されている。車両状態判定部103は、例えば無段変速機24のギヤ比γが自励振動が顕著となる所定の範囲に入ったことを検出すると、車両振動およびノイズを抑制する制御を実行するよう判定する。このように、自励振動が顕著となる走行状態を予め実験(または解析)によって求めておき、その走行状態になった場合に限って、後述する車両振動およびノイズを抑制する制御を実行することで、電子制御装置80にかかる制御負荷が低減される。なお、無段変速機24に入力される入力トルクTinは、エンジントルクTeとトルクコンバータ14のトルク比との積で算出される。
車両状態判定部103によって、車両振動およびノイズを抑制する制御を実行するよう判定されると、スリップ率算出部104が実行される。スリップ率算出部104は、CVT走行中のプーリ58、62と伝動ベルト64との間のスリップ率ηを算出する。
スリップ率算出部104は、先ず、無段変速機24のギヤ比γが最大ギヤ比γmaxか否かを判定する。ギヤ比γが最大ギヤ比γmaxか否かは、図4に示すギヤ比γの判定マップを用いて判定される。図4に示す判定マップは、横軸がセカンダリプーリ62のセカンダリ圧Poutを示し、縦軸がプライマリプーリ58のプライマリ圧Pinを示している。図4中に示される曲線は、最大ギヤ比γmaxとなる領域と最大ギヤ比γmax以外のギヤ比γとなる領域との境界線を示しており、この境界線に対して右側は、最大ギヤ比γmaxとなる領域を示し、境界線に対して左側は、最大ギヤ比γmax以外のギヤ比γとなる領域を示している。図4より、セカンダリ圧Poutが高い領域では、最大ギヤ比γmaxとなり、プライマリ圧Pinが高い領域では、最大ギヤ比γmax以外のギヤ比γとなる。なお、図4の判定マップは、予め実験または解析によって求められて記憶されている。スリップ率算出部104は、図4の判定マップを用いて、実際のプライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutに基づいて現在のギヤ比γが何れの領域にあるかを判定する。スリップ率算出部104は、例えば最大ギヤ比γmaxの領域内にある場合には、ギヤ比γが最大ギヤ比γmaxと判定し、最大ギヤ比γmax以外のギヤ比γの領域内にある場合には、ギヤ比γが最大ギヤ比γmax以外のギヤ比γと判定する。
また、スリップ率算出部104は、ギヤ比γが最大ギヤ比γmaxと判断された場合、下式(1)に基づいてスリップ率ηを算出する。なお、理論γmaxは、無段変速機24の構造に基づいて一義的に定められる最大ギヤ比γである。式(1)は、ギヤ比が最大ギヤ比γmaxにある場合、スリップ率ηが、実際の入力軸回転速度Ninと、出力軸回転速度Noutから算出される入力軸回転速度(Nout×理論γmax)との差分(Nin−Nout×理論γmax)を、入力軸回転速度Ninで除算することで求められることを示している。
η=(Nin−Nout×理論γmax)/Nin・・・(1)
また、スリップ率算出部104は、ギヤ比γが最大ギヤ比γmax以外と判断された場合、予め実験または解析によって求められる関係式または関係マップを用いて推定的にスリップ率ηを算出する。前記関係式または関係マップは、例えば、無段変速機24に入力される入力トルクTin、 プライマリプーリ58側のベルト挟圧に相当するプライマリ圧Pin、セカンダリプーリ62側のベルト挟圧に相当するセカンダリ圧Pout、およびギヤ比γをパラメータとして構成されている。これら入力トルクTin、プライマリ圧Pin、セカンダリ圧Pout、ギヤ比γは、何れもスリップ率ηに相関するパラメータであり、これらのパラメータに基づいてスリップ率ηを推定することが可能となる。スリップ率算出部104は、実際の入力トルクTin、プライマリ圧Pin、セカンダリ圧Pout、およびギヤ比γを、上記関係式または関係マップに適用することで、スリップ率ηを推定的に算出する。
滑り速度算出部106は、スリップ率算出104によって算出されたスリップ率ηおよびプライマリプーリ58の回転速度である入力軸回転速度Ninに基づいて滑り速度ΔNを算出する。滑り速度ΔNは、下式(2)に基づいて滑り速度ΔNを算出する。式(2)より、滑り速度ΔNは、スリップ率ηと入力軸回転速度Ninとの積で算出されることを示している。
ΔN=η×Nin・・・(2)
滑り速度判定部108は、滑り速度算出部106によって算出された滑り速度ΔNが、予め設定されている所定の範囲外にあるか否かを判定する。図5は、滑り速度ΔNが前記所定の範囲外か否かを判定するために用いられる、予め実験または解析によって求められた滑り速度ΔNの判定マップである。図5において、横軸がエンジン回転速度Neを示し、縦軸が滑り速度ΔNを示している。図5中に示されている「○」は、プーリ58、62と伝動ベルト64との間で発生する自励振動の大きさが所定値以下になった滑り速度ΔNを示している。なお、自励振動の大きさが所定値以下か否かは、セカンダリプーリ62の回転速度である出力軸回転速度Noutの回転変動ΔNoutが予め設定されている所定値β以下である場合に、自励振動の大きさが所定値以下になったものと判断され、この所定値βは、自励振動によって発生する車両振動およびノイズによって運転者が違和感を感じない程度の値に設定されている。
図5に示す「×」は、プーリ58、62と伝動ベルト64との間の自励振動が所定値よりも大きくなった(すなわち出力軸回転速度Noutの回転変動ΔNoutが所定値βを越えた)滑り速度ΔNを示している。また、図5に示す「□」は、自励振動が所定値よりも大きいものの、その自励振動が問題にならない滑り速度ΔNを示している。ここで、自励振動が問題にならないとは、その自励振動が所定値よりも大きいものの、その自励振動に起因して発生する車両振動およびノイズによって運転者が影響を受けないことを示している。
車両振動は、ステアリング、シート、フロア等で発生する振動であって、検出の際には、例えばステアリング、シート、フロア等にそれぞれ取り付けられた加速度センサによって検出される。そして、各センサによって検出される振動が、運転者に影響を与える規定値に到達していない場合には、車両振動が問題ないものと判定される。また、ノイズについては、例えば車内に設けられたマイクロホンによって検出され、運転者に影響を与える規定値に到達していない場合には、ノイズについても問題ないものと判断される。よって、「□」で示す滑り速度ΔNは、自励振動が所定値よりも大きいものの、車両振動およびノイズが前記規定値を越えないことを示している。なお、「×」で示す滑り速度ΔNは、自励振動が所定値よりも大きく、且つ、車両振動およびノイズの少なくとも一方が規定値を越えることを示している。また、「○」で示す滑り速度ΔNは、自励振動が所定値よりも小さく、車両振動およびノイズが規定値を越えないことを示している。
図5に示すように、「×」で示す自励振動が所定値以上となる滑り速度ΔNと、「○」で示す自励振動が所定値以下となる滑り速度ΔNとの境界の値は、エンジン回転速度Neが変化しても略一定の値をとることが確認された。この境界の値が所定値A(下限値)として設定されている。この所定値Aは、言い換えれば、自励振動が所定値よりも小さく(セカンダリプーリ62の回転速度Noutが所定値β以下)、且つ、車両振動およびノイズが規定値を超えない値に設定されている。
一方、自励振動が所定値以上となるものの、車両振動およびノイズに影響を与えない「□」で示す滑り速度ΔNは、エンジン回転速度Neによって変化している。具体的には、エンジン回転速度Neが低下するほど、「□」で示す滑り速度ΔNが高くなっている。この「□」で示す自励振動が所定値を越えるものの車両振動およびノイズが問題とならない滑り速度ΔNと、「×」で示す滑り速度との境界の値が、エンジン回転速度Neに応じて直線的に変化する所定値B(上限値)として設定されている。なお、所定値Aと所定値Bとは、エンジン回転速度Neが所定の速度まで上昇すると一致している。このゼロよりも大きい所定値Aと、所定値Aよりも大きい所定値Bとの間の領域が、滑り速度ΔNの所定の範囲として設定されている。
ここで、滑り速度ΔNが所定値B以上の領域において、自励振動が所定値よりも大きくなっても、その自励振動が問題にならないのは、自励振動の周波数が変化するためである。滑り速度ΔNが所定値B以上の領域では、自励振動の周波数が変化することで、車両振動およびノイズの周波数域から外れることとなる。結果として、自励振動によって共振することがなくなるため、車両振動およびノイズが自励振動の影響を殆ど受けなくなる。従って、滑り速度ΔNを所定値A以下にするだけでなく、滑り速度ΔNを所定値B以上にすることでも、車両振動およびノイズが抑制される。このことから、所定値Bは、自励振動(ベルト滑りによって発生する振動)の周波数が、車両振動の周波数域から外れる値に設定されている。
滑り速度判定部108は、図5の滑り速度ΔNの判定マップを用い、現在の滑り速度ΔNが、所定値A以下、または、所定値B以上か否かを判定する。滑り速度ΔNが、所定値A以下、または、所定値B以上の領域にある場合には、滑り速度ΔNが所定の範囲外にあるものと判定される。一方、滑り速度ΔNが、所定値Aよりも大きく、且つ、所定値Bよりも小さい場合には、滑り速度ΔNが所定の範囲内にあるものと判定される。
変速制御部102は、滑り速度判定部108によって滑り速度ΔNが所定の範囲内にあるものと判定されると、滑り速度ΔNがその所定の範囲から外れるように伝動ベルト64のベルト挟圧(すなわちプライマリ圧Pin、セカンダリ圧Pout)をフィードバック制御する。すなわち、滑り速度ΔNが所定値A以下、または、滑り速度ΔNが所定値B以上となるように、ベルト挟圧をフィードバック制御する。
変速制御部102は、例えば、現在の滑り速度ΔNと所定値Aとの差分L1(=ΔN−A)、および、滑り速度ΔNと所定値Bとの差分L2(=B−ΔN)を算出し、差分が小さい側に滑り速度ΔNを変化させる。具体的には、変速制御部102は、差分L1が差分L2よりも小さい場合には、滑り速度ΔNが所定値A以下となるようにベルト挟圧をフィードバック制御し、差分L2が差分L1よりも小さい場合には、滑り速度ΔNが所定値B以上となるようにベルト挟圧をフィードバック制御する。
変速制御部102は、滑り速度ΔNの目標値ΔN*を設定すると、滑り速度ΔNがその目標値ΔN*に追従するようにベルト挟圧をフィードバック制御を実行する。なお、滑り速度ΔNの目標値ΔN*は、前記差分の小さい側の所定値(所定値Aまたは所定値B)に対して、さらに車両のばらつき等を考慮して予めマージン分を考慮した値に設定される。変速制御部102は、目標値ΔN*と現在の滑り速度ΔNとの偏差(=ΔN*−ΔN)に、予め設定されているゲイン(比例ゲインK等)を積算して求められる制御量、具体的には、プライマリプーリ58のプライマリ圧Pinのプライマリ指示圧Pintgtおよびセカンダリプーリ62のセカンダリ圧Poutのセカンダリ指示圧Pouttgtを算出する。そして、変速制御部102は、算出されたプライマリ指示圧Pintgtおよびセカンダリ指示圧Pouttgrtを油圧制御回路96に出力する。
例えば、変速制御部102は、滑り速度ΔNを低下(または上昇)させるセカンダリ指示圧Pouttgtをフィードバック制御の制御量として算出すると、セカンダリ圧Poutの変化に対して無段変速機24のギヤ比γを維持するプライマリ指示圧Pintgtを予め定められた関係に基づいて算出する(この場合には、実質的にはセカンダリ圧Poutがフィードバック制御される)。上記制御によって、滑り速度ΔNが所定の範囲から外れることから、車両振動およびノイズが抑制される。特に、滑り速度Δを所定値B以上にする場合には、伝動ベルト64にかかるベルト挟圧が小さくなることから、不要なベルト挟圧の増加が抑制される。よって、油圧アクチュエータ58c、62cに供給される供給油圧が低くなることから、燃費の悪化も抑制される。
上記制御では、滑り速度ΔNが、車両振動およびノイズが問題となる所定の範囲内にある場合において、滑り速度ΔNと所定値Aおよび所定値Bとのうち差分L1、L2の小さい側に滑り速度ΔNを移動するものであった。しかしながら、滑り速度ΔNを所定の範囲から外す限りにおいて、差分L1、L2の小さい側に限定されない。例えば、滑り速度ΔNを所定の範囲から外れるのに必要な到達時間が短い側に移動するものであっても構わない。具体的には、現在の滑り速度ΔNが所定値Aに到達するのに必要な到達時間T1、および滑り速度ΔNが所定値Bに到達するのに必要な到達時間T2を、それぞれ実験または解析によって求めておき、到達時間T1、T2の短い側に滑り速度ΔNを移動させる。例えば、現在の滑り速度ΔNから所定値Aに到達するまでの到達時間T1が、所定値Bに到達するまでの到達時間T2よりも短い場合には、滑り速度ΔNを所定値A以下に制御する。また、到達時間T2が到達時間T1よりも短い場合には、滑り速度ΔNを所定値B以上に制御する。なお、到達時間T1、T2は、入力トルクTin、ギヤ比γ、油温等をパラメータとした各種条件の下で実験的に求められる。
ところで、前記所定値Aおよび所定値Bは、予め求められた初期値が設定されているものの、車両の個体差や経年変化によって最適な値は変化する。これに対して学習制御部110は、自励振動と関係が深いセカンダリシーブ62の回転変動ΔNoutに基づいて、車両の個体差や経年変化に拘わらず車両振動およびノイズが抑制されるように、所定値Aの学習制御を実行する。
回転変動判定部112は、滑り速度判定部108によって滑り速度ΔNが所定の範囲から外れていると判定された場合であって、特に、滑り速度ΔNが所定値A以下の場合には、セカンダリプーリ62の回転速度、すなわち出力軸回転速度Noutに基づいて、出力軸回転速度Noutの回転変動ΔNoutを算出し、算出された回転変動ΔNoutが予め設定されている所定値β以下か否かを判定する。なお、回転変動ΔNoutは、単位時間当たりの出力軸回転速度Noutの変化量であり、随時検出される出力軸回転速度Noutを時間微分することで算出される。
学習制御部110は、回転変動判定部112によってセカンダリプーリ62の回転変動ΔNoutが所定値βよりも大きいと判定される場合、所定値Aを小さくする。例えば、学習制御部110は、滑り速度ΔNが所定値A以下において、回転変動ΔNoutが所定値βよりも大きいと判定される場合、現在の滑り速度ΔNを新たな所定値Aとして学習する。結果として、所定値Aが学習前の所定値Aよりも小さい値に更新される。学習制御部110によって、所定値Aが更新されると、変速制御部102は、滑り速度ΔNが更新された所定値Aよりも小さくなるようにベルト挟圧のフィードバック制御を実行する。よって、車両の個体差や経年変化に拘わらず、自励振動が抑制される。
図6は、電子制御装置80の制御作動の要部、具体的には、CVT走行中に発生する自励振動に起因する車両振動およびノイズを抑制する制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、CVT走行中において繰り返し実行される。
先ず、車両状態判定部103の機能に対応するステップS1(以下、ステップを省略)において、車両の走行状態が、ギヤ比γ、入力トルクTin、各種回転速度等で設定されている、自励振動が顕著となる走行状態か否かが判定される。自励振動が顕著となる走行状態ではないと判定される場合、S1が否定されて本ルーチンが終了させられる。自励振動が顕著となる走行状態と判定される場合、S1が肯定されてS2に進む。
スリップ率算出部104の機能に対応するステップS2では、プライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutに基づいて無段変速機24のギヤ比γが最大ギヤ比γmaxか否かが判定される。ギヤ比γが最大ギヤ比γmaxではないと判定される場合、S2が否定されてS3に進む。スリップ率算出部104の機能に対応するS3では、入力トルクTin、ベルト挟圧(プライマリ圧Pin、セカンダリ圧Pout)、ギヤ比γで構成される関係式または関係マップに基づいてスリップ率ηが推定的に算出される。一方、S2において、ギヤ比γが最大ギヤ比γmaxと判定される場合、S2が肯定されてS4に進む。スリップ算出部104の機能に対応するS4では、上述した式(1)に基づいてスリップ率ηが算出される。
滑り速度算出部106の機能に対応するS5では、S2またはS3で算出されたスリップ率ηに入力軸回転速度Ninを掛けることで、滑り速度ΔNが算出される。滑り速度判定部108の機能に対応するS6では、算出された滑り速度ΔNが所定値A以下、または、所定値B以上か否かが判定される。滑り速度ΔNが所定値Aよりも大きく、且つ、所定値Bよりも小さい場合、S6が否定されてS9に進む。変速制御部102に対応するS9では、滑り速度ΔNの目標値ΔN*が設定され、滑り速度ΔNがその目標値ΔN*に追従するように、ベルト挟圧(プライマリ圧Pin、セカンダリ圧Pout)のフィードバック制御が実行される。よって、滑り速度ΔNが所定値A以下、または所定値B以上となるまでS2〜S6、S9の制御が繰り返し実行される。
S6において、滑り速度ΔNが所定値A以下、または、所定値B以上と判定される場合、S6が肯定されてS7に進む。回転変動判定部112の機能に対応するS7では、セカンダリプーリ62の回転変動ΔNoutが算出される。次いで、回転変動判定部112に対応するS8では、S7において算出された回転変動ΔNoutが所定値β以下か否かが判定される。回転変動ΔNoutが所定値βよりも大きい場合、S8が否定されてS10に進む。学習制御部110の機能に対応するS10では、滑り速度ΔNが所定値A以下にある場合において、現在の滑り速度ΔNが新たな所定値Aとして更新(設定)される。すなわち、所定値Aが下げる側に変更される。そして、S6に戻って、再度滑り速度ΔNが所定値A以下、または所定値B以上か否かが判定される。S8に戻り、回転変動ΔNoutが所定値β以下である場合、本ルーチンが終了させられる。
上述のように、本実施例によれば、滑り速度ΔNが所定の範囲内にある場合には、滑り速度ΔNが所定の範囲から外れるようにベルト挟圧がフィードバック制御される。無段変速機24の駆動中に生じる振動のうち、伝動ベルト46とプーリ58、62との間で生じる自励振動については、ベルト挟圧を増加して滑り速度ΔNを低減するだけでなく、ベルト挟圧を減少させて滑り速度ΔNを増加しても自励振動の振動モード(周波数)が変化して車両振動およびノイズが低減されることが見出された。そこで、走行状態に応じて適宜ベルト挟圧を減少させ、滑り速度ΔNを増加することで、滑り速度ΔNが所定の範囲から外れ、自励振動に起因する車両振動およびノイズが低減されるとともに、不要なベルト挟圧の増加が防止されることで、燃費の悪化が抑制される。
また、本実施例によれば、滑り速度ΔNが所定の範囲にある場合には、車両の走行状態に応じて、滑り速度ΔNが所定値Bよりも大きくされる、または所定値Aよりも小さくされるため、滑り速度ΔNが所定の範囲から外れることとなる。従って、車両振動およびノイズが低減される。また、車両の走行状態によっては、滑り速度ΔNを所定値Bよりも大きくことで、ベルト挟圧が小さくなるため、ベルト挟圧の増加が防止され、燃費の悪化が抑制される。
また、本実施例によれば、滑り速度ΔNと所定値Bとの差分L2が、滑り速度ΔNと所定値Aとの差分L1よりも小さい場合には、滑り速度ΔNを所定値B以上にするため、滑り速度ΔNが所定値Aおよび所定値Bのうち近い側に移動することとなり、滑り速度ΔNを速やかに所定の範囲から外すことが可能となる。
また、本実施例によれば、現在の滑り速度ΔNから所定値Aおよび所定値Bに到達させるのに要する到達時間T1、T2のうち短い側に滑り速度ΔNが移動させることでも、滑り速度ΔNを速やかに所定の範囲から外すことが可能となる。
また、本実施例によれば、滑り速度ΔNが所定値A以下の場合において、セカンダリプーリ62の回転変動ΔNoutが所定値βよりも大きい場合には、所定値Aが小さくなる。自励振動は、セカンダリプーリ62の回転変動ΔNoutと関係が深く、セカンダリプーリ58の回転変動ΔNoutが大きくなるほど自励振動が大きくなる傾向にある。また、自励振動は、車両毎の個体差や径時的な変化によっても特性が変化する。そこで、滑り速度ΔNが所定値A以下であるにも拘わらず、セカンダリプーリ62の回転変動ΔNoutが所定値βよりも大きい場合には所定値Aを小さくし、滑り速度ΔNが新たな所定値A以下となるように制御されることで、車両毎の個体差や径時的な変化によって車両振動およびノイズが大きくなることが防止される。
また、本実施例によれば、所定値Aは、セカンダリプーリ62の回転変動ΔNoutが予め設定されている所定値β以下となる値に設定されているため、滑り速度ΔNが所定値A以下に制御されることで自励振動が低減され、自励振動に起因する車両振動およびノイズが低減される。
また、本実施例によれば、所定値Bは、ベルト滑りによって発生する自励振動の周波数が、車両振動の周波数域から外れる値に設定されているため、滑り速度ΔNが所定値B以上に制御されることで、ベルト滑りによって発生する自励振動の周波数が、車両振動の周波数域から外れることとなる。従って、ベルト滑りによる自励振動に起因して車両振動が大きくなることもないため、車両振動およびノイズが低減される。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。