電動機部と磁気軸受部を磁気的に一体化させたベアリングレスモータは、回転子が磁気力を発生して浮上しながら回転する電動機であり、回転子に機械的な接触部分がないので、無摩擦、無摩耗、メンテナンスフリーという利点がある。したがって、半導体プロセスで用いられる超純水や薬液を送り出す遠心ポンプ、冷却ファン、人工心臓用の遠心ポンプ、パイオリアクター用撹持装置、電力貯蔵用フライホイール、あるいは揺動ステージなどへの応用が期待されている
ベアリングレスモータにおいて回転子を磁気浮上させるには、回転子の回転方向θz以外の、径方向xおよびy、軸方向z、傾き方向θxおよびθyを、能動的もしくは受動的な磁気支持力により、安定させる必要がある。
一般に、1軸制御ベアリングレスモータの場合、軸方向zのみを能動的に制御し、径方向xおよびyならびに傾き方向θxおよびθyについては永久磁石などを用いて受動的に安定させている(例えば、非特許文献1参照。)。したがって、変位センサは軸方向zを計測する1台のみですみ、またインバータの数も削減できるので、2軸制御ベアリングレスモータや5軸制御ベアリングレスモータに比べて低コストである。
また例えば、1軸制御ベアリングレスモータとして、モータの両端に受動型磁気軸受(PMB)を配置し、さらにその片端にスラスト磁気軸受を配置する磁気軸受モータがある(例えば、非特許文献2参照。)。
同じく、モータの両端に反発受動型磁気軸受(RPMB)を配置した1軸制御ベアリングレスモータがある(例えば、非特許文献3参照。)。
また例えば、回転子の軸長を長くし、ギャップ面に永久磁石を貼り付けることで、モータと受動型磁気軸受が一体化された構造を有するアキシャルギャップ型のシングルドライブベアリングレスモータが提案されている(例えば、非特許文献4参照。)。このモータでは、固定子には一種類の巻線のみが設けられおり、1台のインバータにより、巻線にd軸電流を流すことにより軸方向の能動的な支持力を発生させ、q軸電流を流すことにより回転トルクを発生させることができる。
また例えば、1台のインバータにより駆動可能なシングルドライブベアリングレスモータとして、モータの両端に反発受動型磁気軸受(RPMB)を配置し、半径方向および傾き方向の剛性を向上させたモータが提案されている(例えば、非特許文献5参照。)。これによれば、受動安定方向の剛性を高めるにつれて不安定な軸方向力も増加するという問題があるものの、モータ構造そのものを工夫することにより、不安定力に打ち勝つ能動的な磁気支持力を発生させることが可能である。
図27は、モータの両端に反発受動型磁気軸受を有する1軸制御のシングルドライブベアリングレスモータを説明する断面図である。以下、回転子10の回転軸の方向については「z軸方向」もしくは単に「軸方向」と称する。図27に例示するように、ベアリングレスモータ1は、z軸方向を回転軸とする回転子10と、回転子10に対して半径方向にギャップを隔てて対向した固定子20とを有する。回転子10の回転軸(z軸)となるシャフト14の上下両端に受動型磁気軸受30が設けられる。受動型磁気軸受30は、回転子側永久磁石31と、固定子側永久磁石32とからなる。回転子側永久磁石31と固定子側永久磁石32とがギャップを挟んで径方向に並ぶラジアルギャップで構成する。回転子側永久磁石31は回転子10のシャフト14の周面に設けられる。固定子側永久磁石32は、例えば固定子20が固定されたケース(図示せず)に固定される。変位センサ51により回転子10のz軸方向の変位を検出し、コントローラ52は、変位センサ51が検出する位置情報に基づいて回転子10の軸方向の位置制御を行うための界磁電流指令iq *を生成し、回転子10を回転駆動するための電機子電流指令id *を生成する。三相インバータ53は、界磁電流指令iq *および電機子電流指令id *に基づいて直流電流を変換して巻線に供給するための交流電流を生成する。ベアリングレスモータ1は、電機子電流(q軸電流)により回転子の回転トルクが発生し、界磁電流(d軸電流)により回転子のz軸方向の支持力が発生する。このように、シングルドライブのベアリングレスモータ1では、1台の三相インバータ53で回転子のz軸方向位置の能動制御と回転制御とが可能である。
上述のように1軸制御ベアリングレスモータの応用分野としては冷却ファンや人工心臓用の遠心ポンプなどが考えられているが、これらの分野では、軸長を短縮しなければならないという制約がある。しかしながら、1軸制御ベアリングレスモータは、一般的に、傾き方向θxおよびθyの受動安定化のために軸長を長く設計する場合が多く、軸長の短縮は容易でない。また、回転子の浮上回転中に半径方向の振動が大きくなり、最悪の場合はタッチダウンしてしまう恐れがあることがあり、回転子の半径方向と傾き方向の振動低減が課題となっている。
回転子の半径方向の振動を低減する方法として、回転子の半径方向の剛性を高めたり、回転子に対して磁気的なダンピング力を発生させる方法がある。回転子の半径方向の剛性を高めることで、半径方向の振動振幅を小さくすることはできるが、傾き方向は、軸長が短くなるにつれて慣性モーメントが小さくなるため剛性は小さくなり、振動や変位が大きくなる恐れがある。
このような振動を抑制するために、回転子のz軸方向位置の能動制御と回転制御するための三相インバータに加えて、振動抑制のための三相インバータを別個設ける方法がある。以下、三相インバータが多用されているため三相について説明するが、二相に等価的に変換できることは当業者にとって周知であり、また、四相以上にも拡張でき、これらを含めて多相と記述する。例として中性点注入型およびモータ巻線並列型と呼ばれる電動機システムについて説明する。
図28は、振動抑制のための三相インバータを有する中性点注入型電動機システムを示す回路図であり、図29は、図28の電動機システムにおける電動機の巻線構造を説明する、回転子の軸方向(+z軸方向)からみたxy断面図である。ここでは、電動機1として、図29に示すように、永久磁石11が設けられた回転子10の極数を4極とし、固定子20のスロット数を6とし、巻線を集中巻で構成した場合について説明する。固定子20は、回転子10側に突出したティース21−1が周方向に複数周設され、各ティース21−1はヨーク21−2を介して結合される。
なお、図30は、本願図面において示される巻線電流の向き、力の向き、永久磁石により発生する磁束の向き、および巻線電流により発生する磁束の向きを示す図である。以降の図面においては、巻線に流れる電流の向きについて、一般的な表記方法に従い、紙面の裏側から表側に貫く向きを「正方向」とする場合については丸印に黒点を付したもので示し、紙面の表側から裏側に貫く向きを「正方向」とする場合については丸印に×印を付したもので示す。永久磁石により発生する磁束の向き(永久磁石の着磁方向としてのN極からS極に向かう磁束の向き)については、実線の矢印で示し、巻線に電流が流れることにより発生する磁束の向きについては、破線の矢印で示す。力の向きについては、白抜きの矢印で示す。また、Y結線された三相巻線の各相の巻線に流れる電流の向きについては、三相Y結線の中性点へ流入する方向を「正方向」と定義する。
回転子のz軸方向位置の能動制御と回転制御するための三相インバータ53に加えて、振動抑制用の三相インバータ153が別個設けられる。図28に示す中性点注入型電動機システムにおいては、Y結線された三相巻線の各相巻線に中点がそれぞれ設けられ、これら各中点は振動抑制用の三相インバータ153にそれぞれ結線される。回転子のz軸方向位置の能動制御と回転制御するための三相インバータ53による界磁電流および電機子電流は、巻線22U1、22V1、及び22W1を流れるようにコントローラ(図示せず)により制御されるので、振動抑制用の三相インバータ153による支持電流isu、isvおよびiswは、巻線22U1、22V1、及び22W1には流れず、巻線22U2、22V2、及び22W2を流れることになる。ここで、図28に示すように、振動抑制用の三相インバータ153から巻線22U2に支持電流isuを流して図29のX軸方向に半径方向力を発生させる場合について考える。この場合、振動抑制用の三相インバータ153から流出したU相の支持電流isuはU相巻線の中点を介して巻線22U2を流れ、さらに中性点N1で2分岐されて巻線22V2および巻線22W2に流れ込む。すなわち、V相の支持電流isvが中性点N1から巻線22V2を介して振動抑制用の三相インバータ153へ流れ、W相の支持電流iswが中性点N1から巻線22W2を介して振動抑制用の三相インバータ153へ流れる。このように図28に示す向きに支持電流isu、isvおよびiswが流れることを考慮して、各スロットには図29に示すように巻線22U2、22V2および22W2、ならびに巻線22U1、22V1および22W1を配置する。このような巻線配置によれば、巻線22U2に支持電流isuが流れることにより巻線22U2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向内向き(+x方向)に発生し、巻線22V2に支持電流isvが流れることにより巻線22V2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生し、巻線22W2に支持電流iswが流れることにより巻線22W2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生する。図29に示す位置に回転子10の永久磁石11があるとき、永久磁石11により発生する磁束と各支持電流isu、isvおよびiswにより発生する磁束とでギャップ中の磁束密度に粗密が発生する。この結果、+x方向に半径方向力が発生する。図29に示す巻線配置によれば、振動抑制用の三相インバータ153による支持電流isu、isvおよびiswの流れる方向および大きさを適宜制御すれば、xy平面上のあらゆる方向に半径方向力を発生させることができる。
図31は、振動抑制のための三相インバータを有するモータ巻線並列型電動機システムを示す回路図であり、図32は、図31の電動機システムにおける電動機の巻線構造を説明する、回転子の軸方向(+z軸方向)からみたxy断面図である。ここでは、電動機1として、上述の中点注入型と同様、図32に示すように、永久磁石11が設けられた回転子10の極数を4極とし、固定子20のスロット数を6スロットとし、巻線を集中巻で構成した場合について説明する。固定子20は、回転子10側に突出したティース21−1が周方向に複数周設され、各ティース21−1はヨーク21−2を介して結合される。
図31に示すモータ巻線並列型電動機システムにおいては、回転子のz軸方向位置の能動制御と回転制御するための三相インバータ53と振動抑制用の三相インバータ153との間で、各相の巻線には次のように結線される。すなわち、U相については巻線22U1と巻線22U2とが並列接続され、V相については巻線22V1と巻線22V2とが並列接続され、W相については巻線22W1と巻線22W2とが並列接続される。三相インバータ53に結線された巻線22U1と巻線22V1と巻線22W1とは、中性点N1を介してY結線される。一方、巻線22U2、巻線22V2および巻線22W2は、三相インバータ53と三相インバータ153との間に接続される。このため、三相インバータ53側から見ると巻線が並列接続され、かつ三相インバータ153側から見ると巻線が直列接続された結線状態となる。このような巻線の結線状態の下では、振動抑制用の三相インバータ153による支持電流isu、isvおよびiswは、巻線22U1、巻線22U2、巻線22V1、巻線22V2、巻線22W1および巻線22W2すべてを流れることになる。ここで、図31に示すように、振動抑制用の三相インバータ153から巻線22U2に支持電流isuを流して図32のX軸方向に半径方向力を発生させる場合について考える。この場合、振動抑制用の三相インバータ153から流出したU相の支持電流isuは巻線22U2および巻線22U1を流れ、さらに中性点N1で2分岐されて巻線22V1および巻線22W1に流れ込む。V相の支持電流isvは中性点N1から巻巻線22V1および線22V2を介して振動抑制用の三相インバータ153へ流れ、W相の支持電流iswは中性点N1から巻線22W2を介して振動抑制用の三相インバータ153へ流れる。このように図31に示す向きに支持電流isu、isvおよびiswが流れることを考慮して、各スロットには図32に示すように巻線22U2、22V2および22W2、ならびに巻線22U1、22V1および22W1を配置する。このような巻線配置によれば、巻線22U2に支持電流isuが流れることにより巻線22U2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向き(+x方向)に発生し、巻線22U1に支持電流isuが流れることにより巻線22U1が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向内向き(+x方向)に発生する。また、巻線22V2に支持電流isvが流れることにより巻線22V2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向内向きに発生し、巻線22V1に支持電流isvが流れることにより巻線22V1が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生する。また、巻線22W2に支持電流iswが流れることにより巻線22W2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向内向きに発生し、巻線22W1に支持電流iswが流れることにより巻線22W1が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生する。図32に示す位置に回転子10の永久磁石11があるとき、永久磁石11により発生する磁束と各支持電流isu、isvおよびiswにより発生する磁束とでギャップ中の磁束密度に粗密が発生する。この結果、+x方向に半径方向力が発生する。図32に示す巻線配置によれば、振動抑制用の三相インバータ153による支持電流isu、isvおよびiswの流れる方向および大きさを適宜制御すれば、xy平面上のあらゆる方向に半径方向力を発生させることができる。また、支持電流isu、isvおよびiswは、巻線22U1、巻線22U2、巻線22V1、巻線22V2、巻線22W1および巻線22W2すべてを流れるので、これら各巻線すべてについて磁束が発生し、このため、モータ巻線並列型電動機システムは、中点注入型電動機システムよりも大きな半径方向力を発生させることができる。
以下図面を参照して、本発明によるベアリングレスモータについて説明する。しかしながら、本発明は、図面又は以下に説明される実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。以下、インナーロータ型を例にとり説明するが、アウターロータ型であってもよい。以下、インバータとして三相のものが多用されているため三相について記述するが、二相や四相以上など多相インバータを用いてもよい。また、ベアリングレスモータでなく機械的なベアリングを有する一般的なモータであってもよい。
図1は、本発明の第1の実施例による電動機システムを示す回路図であり、図2は、図1の電動機システムにおける電動機の巻線構造を例示する、回転子の軸方向(+z軸方向)からみたxy断面図である。
本発明の第1の実施例によれば、電動機システム100は、電動機(以下、「ベアリングレスモータ」と称する)1と、三相インバータ2と、接続手段3と、コントローラ(図示せず)とを備える。
ベアリングレスモータ1は、回転子10と、回転子10に対して径方向にギャップを隔てて対向した固定子20とを有する。ベアリングレスモータ1は、回転子10の極数をpr、固定子20に設けられる固定子巻線に零相電流を流したときに発生する磁界の極数をpsとしたとき、式1を満たすものとする。一例として、本発明の第1の実施例では、回転子20の極数prを4極とし、固定子巻線に零相電流を流したときに発生する磁界の極数psを6極としている。なお、固定子20のスロット数は、一般的なモータとして機能する数であればよく、特に制限はない。本発明の第1の実施例では、固定子20のスロット数を例えば6とする。
回転子10では、回転軸zに対して半径方向外向きの磁束および半径方向内向きの磁束が周方向にわたって交互に発生するよう永久磁石11が配置される。固定子20では、回転子10側に突出したティース21−1が周方向に複数周設され、中性点結線された三相巻線の各相の固定子巻線22U1、22U2、22V1、22V2、22W1および22W2が各ティース21−1の間にそれぞれ配置される。
各相において、固定子巻線は互いに並列接続の関係となるように分割される。三相巻線の場合、その並列数は、固定子20のスロット数を3で割った数の約数とする。ただし、スロット数が3より大きい場合は、並列数1を含まない。例えば、本実施例ではスロット数は6であるので、各相において、固定子巻線の並列数を例えば2とする。なお、本実施例以外の並列数の具体例についてはいくつか後述する。図1に示すように、固定子20における各相の固定子巻線は、互いに並列接続の関係となるように2分割され、一方の固定子巻線は、一般的な三相モータ同様Y結線されたときの中性点N1に接続され、もう一方の固定子巻線は、三相インバータ2の直流側の電圧の中点に結線される中性点N2に接続される。すなわち、電動機1の三相巻線の各相において、固定子巻線は、互いに並列接続された巻線の組、固定子巻線22U1および22U2、22V1および22V2、22W1および22W2、からなる。互いに並列接続された巻線の組のうちの1組をY結線したときの中性点N2が、接続手段3により、三相インバータ2の直流側の電圧の中点と接続される。各巻線の組は、本発明の第1の実施例では図2に示すように、中性点N2を介して流れる零相電流により発生する磁束と永久磁石11により発生する磁束とにより回転子10に対して一方向の半径方向力が発生するよう、各ティース21−1の間にそれぞれ配置される。
三相インバータ2は、入力された直流電流を変換して固定子巻線22U1、22U2、22V1、22V2、22W1および22W2に供給するための三相交流電流を生成する。
接続手段3は、三相インバータ2の直流側の電圧の中点すなわち直流コンデンサの中点と、ベアリングレスモータ1の三相巻線が有する中性点N1およびN2のうちの1つであるN2とを接続する。
コントローラは、接続手段3に零相電流が流れるよう三相インバータを制御する。本発明では、接続手段3に零相電流を流すことにより発生する磁束と永久磁石11により発生する磁束とにより、回転子10に対して半径方向力を発生させる。以下、その動作原理について説明する。
一般的な3相モータでは、式2に示すように、モータに流入する3相電流iu、ivおよびiwの和は零(0)となる。
これに対し、図1に示す本発明の第1の実施例によれば、3相電流iu、ivおよびiwと零相電流i0との関係は式3で表される。
通常、回転子10のトルクとz軸方向の磁気支持力を発生される場合は、式3における零相電流i0は0Aとなる。例えば、 U相についていえば、互いに並列接続された固定子巻線22U1および22U2の両方にモータ電流が流れるが、零相電流i0は流れない。接続手段3に零相電流i0が流れた場合、固定子巻線22U2、22V2および22W2に流れる零相電流iu0、iv0およびiw0は式4の関係式を満たす。
図1において正の零相電流i0を流す場合は、コントローラの制御により三相インバータ2の上側アームのスイッチS1、S3およびS5をオンすることで、接続手段3を介して中性点N2に接続されている固定子巻線22U2、22V2および22W2のみにそれぞれ零相電流iu0、iv0およびiw0が流れる。この結果、図2に示すように、固定子巻線22U2に零相電流iu0が流れることにより固定子巻線22U2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向内向き(+x方向)に発生し、固定子巻線22V2に零相電流iv0が流れることにより固定子巻線22V2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向内向きに発生し、固定子巻線22W2に零相電流iw0が流れることにより固定子巻線22W2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向内向きに発生する。よって図2に示す位置に回転子10の永久磁石11があるとき、永久磁石11により発生する磁束と各零相電流is0、is0およびis0により発生する磁束とでギャップの磁束密度に粗密が発生する。この結果、+x方向に半径方向力Frが発生する。
反対に、図1において負の零相電流i0を流す場合は、コントローラの制御により三相インバータ2の下側アームのスイッチS2、S4およびS6をオンすることで、接続手段3を介して中性点N2に接続されている固定子巻線22U2、22V2および22W2のみにそれぞれ零相電流iu0、iv0およびiw0が流れる。この結果、図2に示す向きとは逆向きの磁束が各ティース21−1に発生し、この永久磁石11により発生する磁束と各零相電流is0、is0およびis0により発生する磁束とでギャップの磁束密度に粗密が発生する。この結果、図2に示す向きとは逆向きである−x方向に半径方向力が発生する。
なお、ここでは図2に示す位置に回転子10の永久磁石11があるときを例にとり説明したが、回転子10は回転軸zの周りを回転するので、半径方向力Frはベアリングレスモータ1の電気角に同期して回転する。
このように、本発明の第1の実施例によれば、接続手段3に零相電流を流すことにより発生する磁束と永久磁石11により発生する磁束とにより、回転子10に対して半径方向力Frを発生させることができる。コントローラにより接続手段3に流す交流の零相電流を適宜制御することにより、半径方向力Frの方向および大きさを制御することができる。なお、零細電流i0は交流であるため、中性点N2において電圧の不平衡が生じにくい有利がある。必要があれば分割された電圧を制御してもよい。
図3は、本発明の第1の実施例による電動機システムの電動機の巻線構造の変形例を説明する、回転子の軸方向(+z軸方向)からみたxy断面図である。図3においては、回転子10については永久磁石11、固定子20については各巻線およびティース21−1のみについて示し、これ以外の部品については省略している。図1に示す電動機システムについて、図3に示すような位置に固定子巻線22U1、22U2、22V1、22V2、22W1および22W2を配置すると、図2で示した巻線構造の場合とは同じ向きに半径方向力を発生させることができる。
図4は、図1の電動機システムにおける電動機の回転子の極数を4極とし、固定子巻線に零相電流を流したときに発生する磁界の極数を2極とした場合における巻線構造を例示する、回転子の軸方向(+z軸方向)からみたxy断面図である。図4においては、回転子10については永久磁石11、固定子20については各巻線およびティース21−1のみについて示し、これ以外の部品については省略している。上述のように、本発明が適用できるベアリングレスモータ1は式1を満たすものであるが、ここでは式1を満たすベアリングレスモータ1として、回転子の極数prを4極とし、固定子巻線に零相電流を流したときに発生する磁界の極数psを2極とした例について説明する。例えば図4に示すような位置に固定子巻線22U1、22U2、22V1、22V2、22W1および22W2を配置した場合において、固定子巻線22U2、22V2、および22W2に正の零相電流が流れると、固定子巻線22U2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向き(+x方向)に発生し、固定子巻線22V2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生し、固定子巻線22W2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生する。よって図4に示す位置に回転子10の永久磁石11があるとき、永久磁石11により発生する磁束と各零相電流により発生する磁束とでギャップの磁束密度に粗密が発生する。この結果、+x方向に半径方向力Frが発生する。このように、本変形例は、図1に示した第1の実施例同様、4極回転子であるが、固定子巻線に零相電流を流したときに発生する磁界の極数psを変えたものであり、固定子巻線に零相電流を流したときに発生する磁界の極数が異なると、本変形例で示したように巻線配置が変わる。
図5は、本発明の第2の実施例による電動機システムを示す回路図であり、図6は、図5の電動機システムにおける電動機の巻線構造を例示する、回転子の軸方向(+z軸方向)からみたxy断面図である。図6においては、回転子10については永久磁石11、固定子20については各巻線およびティース21−1のみについて示し、これ以外の部品については省略している。本実施例は、回転子の極数が2極、固定子巻線に零相電流を流したときに発生する磁界の極数が0極である式1を満たすベアリングレスモータ1に本発明を適用したものである。ベアリングレスモータ1については、図6に示すようにスロット数(すなわちティース21−1の数)は3となるので、各ティース21−1に固定子巻線22U1、固定子巻線22V1および固定子巻線22W1が巻かれる。また、図5に示すように、Y結線された固定子巻線22U1、固定子巻線22V1および固定子巻線22W1の中性点N1が、接続手段3により、三相インバータ2の直流側の電圧の中点と接続される。図5において正の零相電流i0を流すと、図6に示すように、固定子巻線22U1に零相電流iu0が流れることにより固定子巻線22U1が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向き(+x方向)に発生し、固定子巻線22V1に零相電流iv0が流れることにより固定子巻線22V1が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生し、固定子巻線22W1に零相電流iw0が流れることにより固定子巻線22W1が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生する。よって図6に示す位置に回転子10の永久磁石11があるとき、永久磁石11により発生する磁束と各零相電流is0、is0およびis0により発生する磁束とでギャップの磁束密度に粗密が発生する。この結果、+x方向に半径方向力Frが発生する。
図7は、本発明の第3の実施例による電動機システムを示す回路図であり、図8は、図7の電動機システムにおける電動機の巻線構造を例示する、回転子の軸方向(+z軸方向)からみたxy断面図である。図8においては、回転子10については永久磁石11、固定子20については各巻線およびティース21−1のみについて示し、これ以外の部品については省略している。本実施例は、回転子の極数が6極、固定子巻線に零相電流を流したときに発生する磁界の極数が4極である式1を満たすベアリングレスモータ1に本発明を適用したものである。このようなベアリングレスモータ1としては固定子20のスロット数(すなわちティース21−1の数)は、例えば9および18などがあるが、ここでは、図8に示すようにスロット数を9としている。上述のように、三相巻線の場合、各相における固定子巻線20の並列数は固定子20のスロット数を3で割った数の約数であるが、本実施例ではスロット数は9であるので、各相において、固定子巻線の並列数を例えば3とする。すなわち、9個のティース21−1に固定子巻線を巻くために、固定子20における各相において、固定子巻線は互いに並列接続の関係となるように3分割される。そして、各相において、巻線の組のうちの2つの固定子巻線は、一般的な三相モータ同様Y結線されたときの中性点N1に接続され、もう1つの固定子巻線は、三相インバータ2の直流側の電源の中点に結線される中性点N2に接続される。すなわち、図7に示すように、固定子巻線22U2、固定子巻線22V2および固定子巻線22W2の中性点N2は、接続手段3により、三相インバータ2の直流側の電圧の中点と接続され、また、2並列の固定子巻線22U1、2並列の固定子巻線22V1および2並列の固定子巻線22W1は中性点N1に接続される。このような結線関係を有する固定子巻線22U1、22U2、22V1、22V2、22W1および22W2を、例えば図8に示すような位置関係にてティース21−1に巻く。図7において正の零相電流i0を流すと、図8に示すように、固定子巻線22U2に零相電流iu0が流れることにより固定子巻線22U2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向き(+x方向)に発生し、固定子巻線22V2に零相電流iv0が流れることにより固定子巻線22V2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生し、固定子巻線22W2に零相電流iw0が流れることにより固定子巻線22W2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生する。よって図8に示す位置に回転子10の永久磁石11があるとき、永久磁石11により発生する磁束と各零相電流is0、is0およびis0により発生する磁束とでギャップの磁束密度に粗密が発生する。この結果、+x方向に半径方向力Frが発生する。
図9は、本発明の第4の実施例による電動機システムを示す回路図であり、図10は、図9の電動機システムにおける電動機の巻線構造を例示する、回転子の軸方向(+z軸方向)からみたxy断面図である。図10においては、回転子10については永久磁石11、固定子20については各巻線およびティース21−1のみについて示し、これ以外の部品については省略している。本実施例は、回転子の極数が8極であり、固定子巻線に零相電流を流したときに発生する磁界の極数が6極である式1を満たすベアリングレスモータ1に本発明を適用したものである。このようなベアリングレスモータ1としては固定子20のスロット数(すなわちティース21−1の数)は、例えば6、12および18などがあるが、ここでは、図10に示すようにスロット数を12としている。上述のように、三相巻線の場合、各相における固定子巻線20の並列数は固定子20のスロット数を3で割った数の約数であるが、本実施例ではスロット数は12であるので、各相において、固定子巻線の並列数を例えば4とする。すなわち、12個のティース21−1に固定子巻線を巻くために、固定子20における各相において、固定子巻線は互いに並列接続の関係となるように4分割される。そして、各相において、巻線の組のうちの3つの固定子巻線は、一般的な三相モータ同様Y結線されたときの中性点N1に接続され、もう1つの固定子巻線は、三相インバータ2の直流側の電圧の中点に結線される中性点N2に接続される。すなわち、図9に示すように、固定子巻線22U2、固定子巻線22V2および固定子巻線22W2の中性点N2は、接続手段3により、三相インバータ2の直流側の電圧の中点と接続され、また、3並列の固定子巻線22U1、3並列の固定子巻線22V1および3並列の固定子巻線22W1は中性点N1に接続される。このような結線関係を有する固定子巻線22U1、22U2、22V1、22V2、22W1および22W2を、例えば図10に示すような位置関係にてティース21−1に巻く。図9において正の零相電流i0を流すと、図10に示すように、固定子巻線22U2に零相電流iu0が流れることにより固定子巻線22U2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向き(+x方向)に発生し、固定子巻線22V2に零相電流iv0が流れることにより固定子巻線22V2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生し、固定子巻線22W2に零相電流iw0が流れることにより固定子巻線22W2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生する。よって図10に示す位置に回転子10の永久磁石11があるとき、永久磁石11により発生する磁束と各零相電流is0、is0およびis0により発生する磁束とでギャップの磁束密度に粗密が発生する。この結果、+x方向に半径方向力Frが発生する。
図11は、本発明の第5の実施例による電動機システムを示す回路図であり、図12は、図11の電動機システムにおける電動機の巻線構造を例示する、回転子の軸方向(+z軸方向)からみたxy断面図である。図12においては、回転子10については永久磁石11、固定子20については各巻線およびティース21−1のみについて示し、これ以外の部品については省略している。本実施例は、回転子の極数が10極であり、固定子巻線に零相電流を流したときに発生する磁界の極数が12極である式1を満たすベアリングレスモータ1に本発明を適用したものである。図12に示すように、ベアリングレスモータ1については、スロット数(すなわちティース21−1の数)を12としている。上述のように、三相巻線の場合、各相における固定子巻線20の並列数は固定子20のスロット数を3で割った数の約数であるが、本実施例ではスロット数は12であるので、各相において、固定子巻線の並列数を例えば4とする。すなわち、12個のティース21−1に固定子巻線を巻くために、固定子20における各相において、固定子巻線は互いに並列接続の関係となるように4分割される。そして、各相において、巻線の組のうちの3つの固定子巻線は、三相インバータ2の直流側の電圧の中点に結線される中性点N2に接続され、もう1つの固定子巻線は、一般的な三相モータ同様Y結線されたときの中性点N1に接続される。すなわち、図11に示すように、3並列の固定子巻線22U2、3並列の固定子巻線22V2および3並列の固定子巻線22W2の中性点N2は、接続手段3により、三相インバータ2の直流側の電圧の中点と接続され、また、固定子巻線22U1、固定子巻線22V1および固定子巻線22W1は中性点N1に接続される。このような結線関係を有する固定子巻線22U1、22U2、22V1、22V2、22W1および22W2を、例えば図12に示すような位置関係にてティース21−1に巻く。図11において正の零相電流i0を流すと、図12に示すように、固定子巻線22U2に零相電流iu0が流れることにより固定子巻線22U2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向き(+x方向)に発生し、固定子巻線22V2に零相電流iv0が流れることにより固定子巻線22V2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生し、固定子巻線22W2に零相電流iw0が流れることにより固定子巻線22W2が巻かれるティース21−1には磁束が半径方向外向きに発生する。よって図12に示す位置に回転子10の永久磁石11があるとき、永久磁石11により発生する磁束と各零相電流is0、is0およびis0により発生する磁束とでギャップの磁束密度に粗密が発生する。この結果、+x方向に半径方向力Frが発生する。
なお、上述の第1〜第5の実施例における回転子の極数、固定子のスロット数は一例であり、本発明を特に限定するものではない。式1を満たすベアリングレスモータであれば本発明を適用することができる。
上述の第1〜第5の実施例では、ベアリングレスモータの巻線構造について、回転子の軸方向(+z軸方向)からみたxy断面図を用いて説明した。これら各実施例は、xz断面から見れば、回転子は、回転軸に対して半径方向外向きの磁束が発生する第1の永久磁石と半径方向内向きの磁束が発生する第2の永久磁石とが周方向に交互に周設される永久磁石層を、xy同一平面上に1層有するものと考えられる。しかしながら、本発明は、固定子の永久磁石層の層数に限定されずに実現することができる。すなわち、図14〜図18を用いて説明する第6の実施例のように、軸方向に積層された複数の永久磁石層を有する多層構造で構成することもできる。ここでは、一例として、永久磁石層を3層に積層した場合について説明する。
図13は、本発明の第6の実施例による電動機システムにおける電動機を説明する分解斜視図であり、図14は、図13の電動機システムにおける電動機のxz断面図である。なお、図14ならびに後述する図15および図17では、一例としてU相巻線が存在する部分で切断したxz断面を示している。一例として12スロット固定子に8極の集中巻が施された表面貼付型回転子を有するベアリングレスモータ1について説明する。
回転子10は、回転軸zに対して半径方向外向きの磁束および半径方向内向きの磁束が周方向にわたって交互に発生する永久磁石11を含む永久磁石層が3層積層された構造を有する。軸方向に隣接した各永久磁束層に含まれる永久磁石11の間には、非磁性体物質からなる非磁性体12の層が設けられる。回転子10の回転軸の近傍には、回転子10の軸方向の位置を検出する変位センサ51が設けられる。固定子20に対して回転子10を半径方向に受動的に磁気支持する受動型磁気軸受(PMB:Passive Magnetic Bearing)30が、回転子10の回転軸zとなるシャフト14の上下両端に設けられる。受動型磁気軸受30は、回転子側永久磁石31と、固定子側永久磁石32とからなる。回転子側永久磁石31は回転子10のシャフト14の周面に設けられる。固定子側永久磁石32は、例えば固定子20が固定されたケース(図示せず)に固定される。回転子側永久磁石31および固定子側永久磁石32は、互いに吸引するものでも反発するものでもどちらでもよい。図示の例では反発型の受動型磁気軸受30を示しており、この場合、回転子側永久磁石31と固定子側永久磁石32とがギャップを挟んで径方向に並ぶラジアルギャップで構成する。なお、図示はしないが吸引型の受動型磁気軸受とする場合には、回転子側永久磁石31と固定子側永久磁石32とがギャップを挟んで軸方向に並ぶアキシャルギャップで構成する。
固定子20において、固定子鉄心21のZ軸方向の外方両端に、回転子10側に突出した補助ティース23−1が、周方向に複数周設される。ティース21−1と補助ティース23−1とはヨーク23−2によって結合される。補助ティース23−1には巻線(以下、「補助巻線」と称する)24Uが巻かれる。これにより、巻線22Uに加え補助巻線24Uにも電流が流すことによりZ軸方向に発生する力をさらに大きくすることができる。
図13および図14に示した構造を有するベアリングレスモータ1について、回転子10の半径方向力の発生原理を説明する前に、回転子10の回転トルクおよびz軸方向の支持力の発生原理について説明すると次の通りである。
図15は、図13および図14の電動機を有する電動機システムを説明する制御ブロック図である。図15に示すように、電動機システム100は、図13および図14に示したベアリングレスモータ1と、回転子の軸方向の位置を検出する変位センサ51と、変位センサ51が検出する位置情報に基づいて回転子の軸方向の位置制御を行うための界磁電流指令を生成し、回転子10を回転駆動するための電機子電流指令を生成するコントローラ52と、界磁電流指令および電機子電流指令に基づいて直流電流を変換して巻線に供給するための交流電流を生成する三相インバータ2とを備える。ベアリングレスモータ1では、電機子電流(q軸電流)により回転子10の回転トルクが発生し、界磁電流(d軸電流)により回転子10のz軸方向の支持力が発生する。このように、1台の三相インバータ2でベアリングレスモータ1の回転子のz軸方向位置の能動制御と回転制御とを行う。
コントローラ52において、回転子10のz軸方向の支持力発生制御として、z軸方向位置の指令値z*と、ベアリングレスモータ1の回転子10の軸方向の検出変位zとから比較器B1で偏差を計算し、PID制御部B2でPID制御を行い、界磁電流指令であるd軸電流指令値id *を作成する。また、ベアリングレスモータ1の回転子10の回転駆動制御として、回転速度指令ω*を指令する。
比較器B3においてd軸電流指令値id *とd軸電流検出値idとの偏差が計算され、PI制御部B4でPI制御が行われ、d軸電圧指令値Vd *が作成される。
微分器B5では、角度センサ(図示せず)によって検出されたベアリングレスモータ1の回転子10の位相角θを微分して回転速度検出値ωを作成する。比較器B6において回転速度指令ω*と回転速度検出値ωとの偏差が計算され、PI制御部B7でPI制御が行われ、電機子電流指令であるq軸電流指令値iq *が作成される。そして、比較器B8においてq軸電流指令値iq *とq軸電流検出値iqとの偏差が計算され、PI制御部B9でPI制御が行われ、q軸電圧指令値Vq *が作成される。
三相二相変換部回路B10は、ベアリングレスモータ1の回転子10の位相角θを用いてd軸電圧指令値Vd *およびq軸電圧指令値Vq *を三相二相変換してuvw各相の電圧指令値Vu *、Vv *およびVw *を出力する。dq座標系から三相座標系への変換式は式5で表される。
uvw各相の電圧指令値Vu *、Vv *およびVw *は三相インバータ2に入力され、三相インバータ2はこれに従って、直流電圧をベアリングレスモータ1の駆動電圧である交流電圧に変換して出力する。出力された交流電圧はベアリングレスモータの三相の各巻線に印加され、ベアリングレスモータ1の各巻線に三相電流iu、ivおよびiwが流れる。
三相インバータ2からベアリングレスモータ1の巻線12に流れるu相電流iuおよびw相電流iwは電流センサ54によって検出されてフィードバックされる。三相二相変換回路B11は、検出されたu相電流iuおよびw相電流iwと、u相電流iuおよびw相電流iwから算出されたv相電流ivと、を三相二相変換して、回転子のZ軸方向の支持力に起因するd軸電流検出値idと、回転子のトルクに起因するq軸電流検出値iqとを出力する。なお、三相座標系からdq座標系への変換式は式5の逆変換で表され、ここでは記載を省略する。
続いて、本発明による電動機システムにおけるベアリングレスモータの回転子の軸方向の力の発生について説明する。図16は、図13の電動機システムにおける電動機の軸方向の力の発生原理を説明するxz断面図である。ここでは、巻線22Uおよび補助巻線24Uにおいて図示したような向きに電流が流れ、永久磁石11において図示したような向きに着磁された場合を考える。
ギャップG1中では、補助ティース23−1から出た永久磁石11に起因する磁束は、斜め下方に通過して永久磁石11に入る。ギャップG3および中では、永久磁石11から出た磁束は、斜め上方に通過してティース21−1もしくは補助ティース23−1に入る。また、巻線22Uおよび補助巻線24Uにおいて、図示した向きに電流が流れると、Z方向の向き(図中、細字の破線の矢印の向き)に磁束が発生する。この結果、ギャップG1およびG3では永久磁石11により発生する磁束ならびに巻線22Uおよび補助巻線24Uにより発生する磁束は強め合い、ギャップG2およびG4では磁束は弱め合う。これにより、回転子10に対し、Z軸正方向に力は発生する。また逆に、巻線22Uおよび補助巻線24Uにおいて、図示した向きとは逆向きに電流が流れると、ギャップG1およびG3では磁束は弱め合い、ギャップG2およびG4では磁束は強め合い、これにより、回転子10に対し、Z軸負方向に力は発生する。
続いて、本発明による電動機システムにおけるベアリングレスモータの回転子の半径方向力の発生原理について、図13および図14に示した構造を有するベアリングレスモータ1を例にとり説明する。図17は、本発明の第6の実施例における半径方向力の発生原理について説明するxz断面図である。図17に示すように、回転子1の回転軸が傾いた場合、この傾きを修正する復元トルクを発生させるためには、上段の永久磁石層と下段の永久磁石層とで逆向きの半径方向カを発生させればよい。すなわち、図17の例では、上段の永久磁石層では+x軸方向に、下段の永久磁石層では−x軸方向に半径方向力を発生させれば、回転子10の回転軸の傾きを修正する復元トルクTθを発生させることができる。
半径方向力の向きと復元トルクに係る回転軸は、直交関係にある。図17に示すように、上段の永久磁石層で発生する半径方向力をFu、下段の永久磁石層で発生する半径方向力をFl、回転子10の重心から上段もしくは下段の永久磁石層までのz軸方向の長さをlsとすると、復元トルクTθは式6で表される。
半径方向力FuおよびFlは、磁気飽和が発生しない領域では、巻線電流(零相電流i0)に比例する。その比例係数をki0とすると、式7で表される。
式7を式6に代入すると、式8で示されるような零相電流i0に比例する復元トルクTθが得られる。
図18は、図13〜図17の電動機システムにおける電動機の巻線構造を例示する、回転子の軸方向(+z軸方向)からみたxy断面図であり、(A)は3層のうちの上段、(B)は3層のうちの中段、(C)は3層のうちの下段を示している。図18は、上段の永久磁石層と下段の永久磁石層とで逆向きの半径方向カを発生させるベアリングレスモータ1の構成の一例を示しており、回転子10の中段と下段の永久磁石11の着磁方向は同じであり、上段の永久磁石11のみこれとは逆の着磁方向としている。また、8極の固定子巻線22U1、22U2、22V1、22V2、22W1および22W2は、上段と下段については巻線方向が同一であり、中段のみこれらとは逆方向の巻線が施されている。回転子20の極数は8極であるので、式1に従うと、6極もしくは10極の固定子磁束を発生させる必要がある。図18(A)に示すように、固定子巻線22U2、22V2および22W2に正の零相電流i0を流すと、励磁された固定子巻線22U2、22V2および22W2が巻かれているティース21−1とこれと対向する回転子10との間のギャップでは、半径方向内向きの磁束が発生する。正の零相電流i0にて励磁されていないティース21−1には、半径方向外向きの磁東が流れ込む。結果的として、ギャップ中には6極の磁界が形成される。図18では一例として回転子10の回転角度が0度の場合を示しているが、この場合、α軸正方向の半径方向カFrが発生する。図18(B)は中段について示しているが、図18(A)に示した上段と同様に、固定子巻線22U2、22V2および22W2に正の零相電流i0を流すことでα軸正方向の半径方向カFrが発生する。図18(C)は下段について示しているが、下段の永久磁石11の着磁方向は上段の永久磁石11の着磁方向と逆方向であるので、α軸負方向の半径方向カFrが発生する。これら各段で発生する半径方向カFrを足し合わせると、回転子10の回転軸の傾きを修正する復元トルクTθが得られる。
続いて、本発明による電動機システムにおけるベアリングレスモータの回転子の半径方向の振動の抑制について説明する。第1〜第6の実施例に基づいて説明したように、本発明によれば、インバータの直流側の電圧の中点と、固定子巻線に設けられたY結線された三相巻線が有する中性点のうちの1つとを接続手段により接続し、この接続手段に零相電流を流すことにより固定子巻線に磁束を発生させ、この磁束と永久磁石により発生する磁束とにより、回転子に対して半径方向力を発生させる。ベアリングレスモータの回転子の半径方向の振動を抑制するために、零相電流を流すことにより発生する半径方向力を用いる。
すなわち、本発明による電動機システムでは、回転子の中心軸からの半径方向の振動に応じて、接続手段に流す零相電流を適宜調整することで、回転子の半径方向の振動を抑制する半径方向力を発生させる。このため、本発明による電動機システムは、回転子の中心軸からの半径方向の振動を検出するセンサを備え、コントローラは、センサが検出した振動に関する情報に基づいて、回転子の振動を抑制する方向に半径方向力を発生させる零相電流が接続手段に流れるよう、三相インバータを制御するための零相電流指令を生成する。センサは、回転子の回転軸の近傍や固定子表面、固定子スロットまたは固定子ヨークなど回転子の振動を検出できる部分に設けられる。第6の実施例を一例として取り上げると、図13および図14に示すように、回転子のz方向の変位を検出する変位センサ51は、回転子10の回転軸zとなるシャフト14の下端近傍に設けられる。
ここでは一例として、図1および図2を参照して説明した第1の実施例による電動機システムにおける4極回転子の半径方向の振動の抑制を行う場合について説明するが、第2〜第6の実施例についても同様に回転子の半径方向の振動抑制が可能であり、またさらに、式1を満たすベアリングレスモータであれば回転子の極数、固定子のスロット数、永久磁石層の積層数に限定されずに、同様に回転子の半径方向の振動抑制が可能である。
図19は、本発明の第1の実施例における電動機システムにおけるベアリングレスモータの回転子の半径方向の振動の抑制を説明する図である。図19において横軸は回転子10の回転角度を示す。本発明の第1の実施例については、図2に示す位置に回転子10の永久磁石11があるときを例に挙げて説明したが、実際は、回転子10は回転軸zの周りを回転するので、図19(A)に示すように、半径方向力Frはベアリングレスモータ1の電気角に同期して回転する。図19(B)において、Fx +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示し、Fx -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示す。また、図19(C)において、Fy +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示し、Fy -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示す。
ここで、図19(D)および図19(E)に示すように例えば一点鎖線で示した波形の振動FxおよびFyが発生した場合を考える。このとき、回転子10対して振動FxおよびFyと逆位相となる半径方向力が発生させる指令値Fx *およびFy *を発生させることができれば、振動FxおよびFyを抑制することが可能である。しかしながら、接続手段3に正負いずれの零相電流を流したとしても回転子10に対して発生する半径方向力Fx +、Fx -、Fy +およびFy -は図19(A)および図19(B)に示したものしか発生させることができない。例えば図19(B)に示すように、回転角度が90度の時に正負いずれの零相電流を接続手段3に流したとしても回転子10に対して発生する半径方向力Fy +およびFy -は0である。つまり、半径方向力の指令値Fx *およびFy *と一致するような半径方向力を直接的に発生させることはできない。そこで、本発明では、半径方向力の指令値Fx *およびFy *を、半径方向力の基本波成分と高調波成分との組み合わせで発生させるようにする。
例えば、回転子10の半径方向の振動が回転角度に対して正弦波状に変化したと仮定する。零相電流の振幅をI0、零相電流の周波数をθ、零相電流の位相をφ、としたとき零相電流i0は式9で表せる。
零相電流に対する力の係数をki0、回転子10の極数をprとすると、回転子10に対するx軸方向の半径方向力Fxは式10で表され、回転子10に対するy軸方向の半径方向力Fyは式11で表される。
式10および式11から分かるように、回転子10に対する半径方向力FxおよびFyは零相電流の周波数θに依存する。つまり、零相電流の基本波成分および高調波成分を制御すれば、半径方向力の基本波成分および高調波成分を制御することができ、その結果として回転子の振動を抑制する方向に半径方向力を発生させることができることがわかる。そこで、本発明では、例えば回転子10の回転軸の近傍に設けられたセンサにより、回転子10の中心軸からの半径方向への振動を検出し、この振動に関する情報に基づいて、回転子の振動を抑制する方向に半径方向力を発生させる零相電流の指令値(基本波成分および高調波成分)を作成する。
図20は、本発明の第1の実施例における電動機システムにおけるベアリングレスモータの回転子の半径方向の1次振動を抑制する指令値の生成を示す図である。図20において横軸は回転子10の回転角度を示す。図20(A)において、Fx +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示し、Fx -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示す。また、図20(B)において、Fy +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示し、Fy -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示す。図20(C)は接続手段3に流す1次成分(基本波成分)の零相電流i0を示す。このとき、図20(D)および図20(E)に示すように、実線で示した波形の半径方向力の指令値をFx *およびFy *とし、図20(C)の零相電流を流すことで、図20(D)および図20(E)に破線で示した半径方向力FxおよびFyを回転子10に対して発生させることができる。
図21は、本発明の第1の実施例における電動機システムにおけるベアリングレスモータの回転子の半径方向の4次振動を抑制する指令値の生成を示す図である。図21において横軸は回転子10の回転角度を示す。図21(A)において、Fx +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示し、Fx -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示す。また、図21(B)において、Fy +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示し、Fy -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示す。図21(C)は接続手段3に流す2次成分の零相電流i0を示す。このとき、図21(D)および図21(E)に示すように、実線で示した波形の半径方向力の指令値をFx *およびFy *とし、図21(C)の零相電流を流すことで、図21(D)および図21(E)に破線で示した半径方向力FxおよびFyを回転子10に対して発生させることができる。
図22は、本発明の第3の実施例における電動機システムにおけるベアリングレスモータの回転子の半径方向の1次振動を抑制する指令値の生成を示す図である。図22において横軸は回転子10の回転角度を示す。図22(A)において、Fx +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示し、Fx -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示す。また、図22(B)において、Fy +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示し、Fy -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示す。図22(C)は接続手段3に流す2次成分の零相電流i0を示す。このとき、図22(D)および図22(E)に示すように、実線で示した波形の半径方向力の指令値をFx *およびFy *とし、図22(C)の零相電流を流すことで、図22(D)および図22(E)に破線で示した半径方向力FxおよびFyを回転子10に対して発生させることができる。
図23は、本発明の第3の実施例における電動機システムにおけるベアリングレスモータの回転子の半径方向の2次振動を抑制する指令値の生成を示す図である。図23において横軸は回転子10の回転角度を示す。図23(A)において、Fx +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示し、Fx -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示す。また、図23(B)において、Fy +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示し、Fy -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示す。図23(C)は接続手段3に流す1次成分の零相電流i0を示す。このとき、図23(D)および図23(E)に示すように、実線で示した波形の半径方向力の指令値をFx *およびFy *とし、図23(C)の零相電流を流すことで、図23(D)および図23(E)に破線で示した半径方向力FxおよびFyを回転子10に対して発生させることができる。
図24は、本発明の第4の実施例における電動機システムにおけるベアリングレスモータの回転子の半径方向の1次振動を抑制する指令値の生成を示す図である。図24において横軸は回転子10の回転角度を示す。図24(A)において、Fx +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示し、Fx -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示す。また、図24(B)において、Fy +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示し、Fy -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示す。図24(C)は接続手段3に流す3次成分の零相電流i0を示す。このとき、図24(D)および図24(E)に示すように、実線で示した波形の半径方向力の指令値をFx *およびFy *とし、図24(C)の零相電流を流すことで、図24(D)および図24(E)に破線で示した半径方向力FxおよびFyを回転子10に対して発生させることができる。
図25は、本発明の第4の実施例における電動機システムにおけるベアリングレスモータの回転子の半径方向の2次振動を抑制する指令値の生成を示す図である。図25において横軸は回転子10の回転角度を示す。図25(A)において、Fx +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示し、Fx -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示す。また、図25(B)において、Fy +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示し、Fy -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示す。図25(C)は接続手段3に流す2次成分の零相電流i0を示す。このとき、図25(D)および図25(E)に示すように、実線で示した波形の半径方向力の指令値をFx *およびFy *とし、図25(C)の零相電流を流すことで、図25(D)および図25(E)に破線で示した半径方向力FxおよびFyを回転子10に対して発生させることができる。
図26は、本発明の第4の実施例における電動機システムにおけるベアリングレスモータの回転子の半径方向の6次振動を抑制する指令値の生成を示す図である。図26において横軸は回転子10の回転角度を示す。図26(A)において、Fx +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示し、Fx -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するx軸方向の半径方向力を示す。また、図26(B)において、Fy +は、正の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示し、Fy -は、負の一定の零相電流を接続手段3に流した時に回転子10に対して発生するy軸方向の半径方向力を示す。図26(C)は接続手段3に流す2次成分の零相電流i0を示す。このとき、図26(D)および図26(E)に示すように、実線で示した波形の半径方向力の指令値をFx *およびFy *とし、図26(C)の零相電流を流すことで、図26(D)および図26(E)に破線で示した半径方向力FxおよびFyを回転子10に対して発生させることができる。
なお、上述した例では、センサで検知した回転子10の振動と逆位相となる半径方向力が発生するよう零相電流を発生させる方法を示したが、この代替例として、センサで検知した回転子10の振動に対して位相をシフトさせた半径方向力が発生するよう零相電流を発生させてもよい。