以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
1.転写材
本発明では、基材上にインク受容層を設け、そのインク受容層の表面に接着層を設けた転写材において、インク受容層を空隙吸収型とし、そのインク受容層の表面に接着層を離散的に設けて、インク受容層の表面が直接露出した部分を残すように構成する。このような構成により、インク受容層に速やかにインクを吸収させる。本明細書では、インク受容層の表面に直接露出した部分を残すように、接着剤を離散的に設けた接着層の構成を「海島構造」あるいは「海島状の接着層」と記述する場合がある。また、接着層に離散的に設けられた接着剤の一つの集まりを「接着部」あるいは「島部」と記述し、インク受容層の表面が直接露出した部分を「(インク受容層の)露出部」と記述し、接着層の中でも接着剤の無いバイパス部を「海部」あるいは「バイパス部」と記述する場合がある。したがって、海部(バイパス部)の下部はインク受容層の露出部となっている。
[1−1]接着層の構造(海島構造)
本実施形態の転写材は、図1に示すように、基材50の表面に空隙吸収型のインク受容層53が配され、そのインク受容層53の表面に、接着剤1002の接着層1012が配されている。接着剤1002は、インクをほぼ吸収しない、もしくはインクを吸収したとしても吸収速度が遅いものである。一方、空隙吸収型のインク受容層53は、インク吸収性が良好でインク吸収速度の速いものである。インク受容層53の表面に接着剤1002を離散的に設けることにより、接着層1012は、接着剤1002が集まった接着部としての島部1000と、接着剤1002のないバイパス部としての海部1014と、を含む。海部1014に対応するインク受容層53の表面は、直接露出する露出部1001を構成する。接着層1012に着弾したインクの一部は、接着材1002をほぼ介すことなく、海部1014を介してバイパス的にインク受容層53の露出部1001にすばやく接し、その露出部1001に引きずり込まれるように吸収される。そのため、本実施形態の転写材は、高解像の画像をにじみがなく記録して、画像の記録特性が高めることができる。また、離散的に設けた接着剤1002の表面および内部には、インクジェット記録後のインクがほぼ残留しない。そのため、本実施形態の転写材は、接着剤を介して様々な画像支持体と良好に接着することができる。
転写材の記録面である接着層側に着弾したインクは、接着層の接着部(島部)およびバイパス部(海部)に着弾することになる。バイパス部に一部が架かったインク滴は、インク吸収速度の速いインク受容層の露出部に接することになるため、接着部に吸収されることなく、インク受容層に引き込まれるようにして速やかに吸収される。一方、接着層の接着部の中心付近に着弾したインク滴は、着弾直後には、そのインク滴の一部がインク受容層の露出部に接触できない場合がある。しかし、そのインク滴は、着弾衝撃によって拡がることにより、接着部に吸収される前に、着弾衝撃により変形した一部がバイパス部を介してインク受容層の露出部に接触することができる。
図2は、接着層1012における接着部1000の中心付近に着弾したインク滴が吸収されるメカニズムの説明図である。インクジェット記録においては、記録面に着弾したインクは、そのインク滴の直径よりも大きな範囲で広がることが知られている。図2(a),(b)のように、接着層1012における接着部1000に着弾して広がったインク1003は、接着部1000からはみ出す。そのはみ出したインク1003の一部は、図2(c)のように、接着部1000の相互間の空間(バイパス部1014)をバイパス的に通過して、インク受容層53の露出部1001に垂れ込む。このように垂れ込むインクの一部は、接着部1000の中を通ることなく、インク受容層53の露出部1001に直接接することができる。インクジェット記録用のインクは、表面張力や粘度が適切に制御されている。そのため、図2(d),(e),(f)のように、露出部1001に接したインクの一部がインク吸収速度の速いインク受容層53に吸収され始めると、それに連なる他の部分のインクも途切れることなく、インク受容層53に引き込まれてゆく。つまり、露出部1001に接したインクの一部に連なる他の部分のインクも、接着部1000の外側を順次バイパス的に通過して、インク受容層53に引き込まれる。このようにインク受容層53に吸収されたインクは、そのインク受容層53の内部に順次浸透していく。
このように、接着部1000の表面に着弾したインク1003は、その着弾時に広がって、インク1003の一部が露出部1001にインクの一部が接することにより、インク吸収速度の速いインク受容層53に順次吸収される。インク1003は接着部1000にほぼ吸収されず、インク吸収速度の速い空隙吸収型のインク受容層53の露出部1001に引きずり込まれるように、主体的に素早く吸収されるため、接着部1000の表面もしくは内部には残留しにくい。
本発明者による検討によれば、接着部の表面もしくは内部にインクの一部が残存していると、後述する加熱転写時に接着剤を溶融させた場合に、その残存インクが接着剤の表面に浮き出て画像支持体と接着剤との境界面にて膜化し、接着不良を生ずることがある。また、接着部の表面もしくは内部にインクの一部が残存していると、加熱転写時に接着剤を溶融させた場合に、残留したインクの成分の一部が蒸発し、画像支持体と接着剤との間に蒸気層などを形成して接着不良を生じることがある。本実施形態の転写材では、上述したように、接着部の表面もしくは内部にインクがほぼ残留しないので、インクジェット記録後の転写時において接着阻害が生じにくく、良好な接着性を得ることができる。
本実施形態の転写材1においては、インク受容層53に主体的に吸収された多量のインクによって接着が阻害されないように、インク受容層53の構造を制御することが好ましい。すなわち、転写時にインク受容層53の空隙構造が壊れて、インクの液体成分がインク受容層53の表面に染み出して膜化したり、インクの液体成分が突沸して画像支持体との間の接着面に空気層などが生じたりしないように、インク受容層53の構造を制御する。このように、転写時にインク受容層の空隙構造が崩れずに、インク受容層53と画像支持体との接着を阻害しないように制御することが好ましい。特に、無機微粒子を水溶性樹脂のバインダーで結合させることによって空隙が設けられたインク受容層は、接着後も空隙構造を保持することが可能である。このようなインク受容層は、接着剤およびバインダーが溶融しても、吸収したインクをその内部に保持することができ、また、蒸気が発生してもその内部に封じ込めることができるため、接着性が特に良好となり好ましい。同様に、無機微粒子の代わりに、加熱圧着時に溶融変形しにくいように、溶融温度Tgが転写温度よりも高い樹脂粒子をバインダー樹脂で結合させることによって空隙が形成された、空隙吸収型のインク受容層を用いても良い。加熱圧着後に空隙構造が維持されていれば、加熱圧着時の熱によって、インクの液体成分が個々の空隙内で突沸して蒸気が発生しても、各々の空隙内に蒸気を封じ込めておけるため、接着面に空気層などが形成されることなく接着性を良好とすることができる。また、転写時に空隙構造が維持されていれば、圧力で空隙が潰れたり、加熱で空隙が溶解したりして、インクの液体成分である水などの主要溶媒や不揮発性溶剤が表面に染み出すことはなく、接着性を良好とすることができる。
インク受容層の浸透異方性は、インクジェット記録画像の根幹となるインクドットの拡がりを適切に制御できるように設計されている。すなわち、大きめのインクドットを必要とする場合は、インク受容層の膜厚方向の浸透性よりも水平方向(インク受容層の表面に沿う方向)の浸透性を高くする。逆に、小さめのインクドットを必要として、インクの吸収可能量を大きくする場合には、インク受容層の水平方向の浸透性よりも膜厚方向の浸透性を高めると共に、インク受容層の膜厚を厚めに構成すれば良い。また、インク受容層の生産性を向上させるために、インク受容層に浸透異方性を持たせず、インクを等方的に浸透させるようにしてもよい。この場合には、所望のインクドットの拡がりが得られるようにインク受容層全体の浸透性を制御して、所望のインク吸収可能量に応じて膜厚などを調整すれば良い。
転写材に高濃度の画像を記録するためには、インク受容層のほぼ全域をインクの色材で埋める(エリアファクターほぼ100%となる)ことが重要である。本発明のように、インク受容層の表面に接着層の接着剤を離散的に配した転写材においては、インク受容層の表面に、インクをほぼ吸収しない接着剤が離散的に存在するため、接着剤が存在するインク受容層の表面からはインク浸透が制限される。インク受容層のほぼ全域をインクの色材で埋めるようにするためには、図3(a),(b)のように、インク受容層53の浸透異方性を制御することが好ましい。すなわち、インク1003がインク受容層53の露出部1001と接触したインク接触点P1を中心として、インク1003が水平方向に浸透し、接着剤1002の下部のインク受容層53もインクの色材で埋まるように、浸透異方性を制御する。要は、インク受容層53内にてインクが水平方向に浸透し、接着剤1002および接着部1000の下部のインク受容層53、つまり接着部1000の下部のインク受容層53をインクの色材で埋めることができれば良い。場合によっては、インク受容層の厚み方向と水平方向の浸透速度が異なっても良く、浸透異方性に応じて、厚み方向の浸透速度と水平方向の浸透速度を調整することができる。したがって、本実施形態の転写材1は、インクジェット方式によって画像が記録される面側に接着層1012を設けても、良好な画像の記録特性を得ることができる。図3(a)において、線1004はインク滴の着弾点を通る軸線であり、線1005はインク接触点P1を通る軸線である。また図3(b)において、線1006はインクドットの中心を通る軸線である。
本実施形態の転写材では、基材側とは反対側から、つまりインク受容層の表面側に接着剤を海島状に設けた接着層側からインクジェット記録を行うことになる。転写材の用途によっては、インクジェット記録後に、基材の一部もしくは全部が剥離される場合、あるいは基材が剥離されずにそのまま残る場合がある。また、接着層の利用法も様々であり、例えば、インクジェット記録後に画像支持体に接着される場合、あるいは、他に接着されることなく、接着層自体を自己接着的に溶融膜化させて保護層として利用する場合などがある。そのため、インク受容層に記録されたインクジェット記録画像を利用して種々の記録物を製造するために、基材、インク受容層、および接着層を様々に組合せて、記録物に透明性、不透明、あるいは半透明性をもたせることも必要となる。
例えば、転写材の基材としては、転写材の搬送性を確保するための搬送層と、この搬送層から剥離可能な保護層と、からなるものがある。このような基材を含む転写材は、インクジェット記録により反転画像が記録されてから、画像支持体へ接着転写され、その後、インク受容層および接着層から搬送層が剥離される。このような転写材の場合には、通常、基材の一部である保護層には十分な透明性が要求され、インク受容層にもある程度の透明性が要求される。接着層に関しては、透過性が求められたり、画像支持体の種類によっては、透明性とは逆に情報を隠す隠蔽性が求められることがある。また、インクジェット記録により反転画像を記録してから、転写材を画像支持体に接着転写した後に、基材を全て剥離して、接着層とは反対側の基材側のインク受容層を露出させることにより、その露出させたインク受容層に再びインクジェット記録が可能となる。この場合には、インク受容層に十分な透明性が要求されることになる。また、基材上のインク受容層に画像記録した後に、接着層自体を自己接着的に溶融膜化して保護層として利用することにより、インクジェット記録後の転写材を他の部材に接着させることなく、保護層付のプレート状の記録物を作製することができる。この場合には、接着層に高い透明性が要求されることになる。このように本実施形態の転写材における基材、インク受容層、および接着層の透過性は、適宜材料や構成を変更することにより、転写材の用途に応じて設定することができる。
[1−2]インク受容層の露出部の面積
本発明において、インク受容層の露出部の面積は、インクの粘度、表面張力、および浸透異方性等を考慮して、エリアファクターがほぼ100%になるように、インク受容層の全表面に対する露出部の面積の比率(面積比率)を調整すれば良い。例えば、インク受容層内にほぼ等方的にインクが浸透する場合、インクジェット方式により安定に吐出可能な水系インクのにじみ率は約2倍となり、インク滴の直径は、着弾して浸透すると約2倍に広がることが知られている。ほぼ等方的に浸透したインクは、インク受容層内において水平方向に約25%程度広がるため、インク受容層の露出部の面積比率が50%以上であれば、エリアファクターをほぼ100%として、白抜けが無く、高濃度の濃度を得ることができる。また、インクの水平方向の浸透が厚み方向の浸透よりも大きい場合には、インク受容層の露出部の面積比率は50%より小さくしてもよい。また、インクの水平方向の浸透が厚み方向の浸透よりも小さい場合は、インク受容層の露出部の面積比率は50%よりさらに大きくしてもよい。
また、インクの色材が顔料であって、その色材がインク受容層の表面で固液分離してインク受容層の表面に残りやすくてインク受容層内に浸透しにくい場合には、エリアファクターを考慮して、インク受容層の露出部の面積がさらに広くなるように調整すれば良い。あるいは、インク受容層の空隙を大きくして、色材をインク受容層に浸透しやすくしてもよい。
エリアファクターがほぼ100%となるようにインクジェット記録を行うためには、インク受容層は、着弾したインクを完全に吸収できる吸収容量を持つように厚みを設定することが重要である。空隙吸収型のインク受容層のインク吸収時間のオーダーを約1秒とした場合、インクが蒸発する割合は数パーセント程度であるため、インクの蒸発は、ンク受容層のインクの吸収にはあまり影響しない。インク受容層の空隙によるインクの吸収だけを考慮し、使用が想定されるインクとインク受容層の範囲において、空隙吸収型のインク受容層の吸収率を80%として単色記録を行う場合を想定する。この場合、2plあるいは4plのインク滴を1滴着弾させて、そのインクを完全に吸収させるためには、インク受容層の厚みIを、想定されるインク滴の直径Dの約3分の1より十分に大きくすればよい。多色記録を行う場合には、2色あるいは3色に相当するインクの受容が必要となるため、インク受容層の厚みIはさらに厚くして、想定されるインク滴の直径Dの約3分の2、若しくはインク滴の直径Dよりも大きくすればよい。
[1−3]接着部(接着剤)の構造
インク受容層上に接着層を設け、その接着層の接着剤を離散的に設けた構造においては、インク吸収性を高めるために、インク受容層の露出部、および接着層の接着部がインク受容層の表層と接する部分の面積を次のように設定することが好ましい。すなわち、インクを吸収するインク受容層の露出部は可能な限り大きくし、一方、インク吸収をほぼ吸収しない、もしくはインクを吸収したとしても吸収速度が遅い接着剤がインク受容層の表層と接着される部分の面積は、可能な限り小さくすることが好ましい。このように、接着剤がインク受容層の表層と接着される部分の面積を可能な限り小さくすることにより、インク受容層の露出部が可能な限り大きくなり、多量のインクを素早く吸収することができる。
例えば、図4(a),(b),(c)に示すように、空隙吸収型のインク受容層53の表層と接する接着剤1002の面積をBとし、転写材を記録面側から視たときに直接臨める接着剤1002の面積をAとした場合に、面積Bを面積Aよりも小さくする。面積Aは、接着層の厚み方向からの接着剤1002の投影面積に相当する。図4(a),(b),(c)は、接着剤1002の粒子の断面形状が円形、三角形、および菱形の場合の例を示し、図5は、粒子の断面形状が円形の接着剤1002によって接着層が形成された転写材の表面の、インクジェット記録前のSEM画像である。面積Bを面積Aよりも小さくすることにより、多量のインクを素早く吸収するようにインク受容層53の露出部1001の面積Cを可能な限り大きくして、インク吸収性を確保しつつ接着性を向上させることができる。インク受容層53の露出部1001は、インク受容層53の表面において、接着剤1002と直接接触していない領域の全てである。露出部1001としては、接着剤1002とは接触していないが、接着剤1002によって覆われるインク受容層53の領域なども含まれる。したがって、粒子状の接着剤1002が上方に離れて位置するインク受容層53の領域も露出部1001に含まれる。
このように面積Bを面積Aよりも小さくした転写材においては、インクジェット記録時に、着弾したインクが接着剤1002の下部のインク受容層53へ回り込みやすくなる。すなわち、接着剤1002がインク受容層53の表層と接する部分の面積Bを小さくすることにより、インクジェット記録後に、接着剤1002が上方に離れて位置するインク受容層53の露出部1001にまでインクが回り込む。さらに、その回り込んだインクは、図3(a),(b)のように、インク受容層53の露出部1001と接触したインク接触点P1を中心として、インク受容層53の浸透異方性に応じて、接着剤1002の下部にも浸透する。このようにインク滴が水平方向に広がることによって、そのインク滴に対応するインク受容層53の全域をインクによって覆うことができ、この結果、白抜けが無く、画像濃度の低下が起こりにくくなり、画像の記録特性が向上する。特に、インクが顔料インクであって、その色材がインク受容層53の表面で固液分離して、インク受容層53の表面に残りやすい場合には、接着剤1002が上方に離れて位置する領域にまで露出部1001を拡げることが有効である。露出部1001の構造は、接着性とエリアファクターとを考慮して調整すれば良い。また、インク受容層53の空隙を大きくして、色材をインク受容層53に浸透しやすくしてもよい。例えば、インクの色材が顔料の場合には、図6および図7に示すように、接着剤1002がインク受容層53の表層と接する部分の面積を小さくすることにより、インクジェット記録後に、接着剤1002が上方に離れて位置するインク受容層53の露出部1001にまでインクが回り込む。これにより、エリアファクターが大きくなり、画像濃度を高めることができる。
一方、インク受容層に接着層の接着剤を離散的に配した構造において、インク受容層と画像支持体との接着性を高めるには、画像支持体と接する面における接着剤の面積を可能な限り広くすることが好ましい。さらに、接着剤の下部に色材が入り込みやすくし、かつ接着性を向上させるためには、上述したように、転写材を記録面側から視たときに直接臨める接着剤の面積Aよりも、インク受容層と接する接着剤の面積Bを小さくすればよい。すなわち、面積Bよりも面積Aを大きくすることにより、インク吸収性を損なうことなく、接着性を向上させることができる。仮に、接着性を向上させるために、接着剤の厚みを大きくしたり、接着剤をインク受容層の表面上に広く設けたりした場合、インクジェット記録時に接着層に着弾したインクの一部は、瞬時にインク受容層に接することができない。そのため、インクの吸収速度が低下するおそれがある。
[1−4]接着剤の形状
接着部の形状は、それを構成する接着剤の形状によって決まるため、接着剤の形状は、インクの色材が接着部の下部のインク受容層に回り込めるような形状を選べばよい。前述したように、インク吸収性を良好とするためには、空隙吸収型のインク受容層の表層と接する部分の面積Bを最小とすることが好ましい。そのためには、例えば、図4(a),(b),(c)に示すような粒子形状を主体とする接着剤、あるいは多面体形状を主体とする接着剤等を用いることができる。このような接着剤を用いることにより、空隙吸収型のインク受容層の露出部の面積を最大にしつつ、インク吸収性を可能な限り良好とし、さら接着性を担保することができる。接着剤としては、特別な配向処理などを必要とせずに、生産性を向上させることができる粒子形状のものが好ましい。このような粒子形状を主体とする接着剤としては、樹脂粒子、あるいは樹脂粒子を水などの溶媒に均一に分散した樹脂エマルジョンなどが挙げられる。このような粒子形状と同様に、高次の多面体も好ましく用いることができる。しかし、図4(d),(e)のような4面体や6面体などの低次の多面体形状を主体とする接着剤は、その配置によっては、前述した面積Aが面積Bよりも大きくならず、空隙吸収型のインク受容層の露出部の面積が最大とならならない場合がある。このような場合には、接着剤の配置を制御する特別な配向操作が必要となる。
[1−5]接着層の面積比率
インク吸収性を良好とするためには、想定されるインク滴の直径の変化範囲を考慮し、インクが必ず接着層から十分にはみ出てインク受容層の露出部に垂れ込むように、接着層を形成する島状の接着部の水平方向の大きさを制御すればよい。着弾したインクを必ず接着部からはみ出させるためには、想定されるインク滴の直径の範囲を考慮し、インク滴が着弾したときのインクの径(着弾径)よりも、接着剤および接着部の水平方向の径が小さくなるように制御することが重要である。後述するように、想定されるインクの着弾径よりも接着部の大きさを小さくし、かつ、その接着部を十分に離散的に島状に配置して、インク受容層の全表面積に対して、記録面側から直接臨める接着層の面積の比率(面積比率)を50%以下にすれば良い。想定されるインクの粘度と表面張力を考慮して、着弾したインクを必ず接着部からはみ出させて、インク受容層の露出部に垂れ込ませることが重要である。着弾したインクの一部が必ず接着部からはみ出してインク受容層の露出部に垂れ込むことにより、前述したように、インク受容層の露出部にインクの一部が接して、インク吸収速度の速い空隙吸収型インク受容層の露出部にインクが引きずり込まれる。これにより、インクが主体的に吸収されてインク吸収性が良好となり、接着層の表面および内部にインクが残留しにくくなる。
図8から図10は、接着層の面積比率の説明図である。図8は、離散的に配した接着部1000を記録面側から見た図である。図8においては、粒子状の接着剤1002を円柱状に複数集約させて接着部1000を形成し、さらに、インク受容層の全表面積に対して、記録面側から直接臨める接着部の面積の比率(面積比率)を50%以下とした場合を想定している。このように接着部の面積比率が50%以下の場合、接着部1000の仮想的な直径Rは、想定される記録画像の1画素の一辺Pの約0.8倍よりも小さくなる。
図8においては、インクジェット記録装置にて安定に吐出可能な水系インクを用い、そのインク滴が着弾して円形に広がった場合を想定する。インク滴の吐出速度、インクの粘度、およびインクの表面張力などの影響はあるものの、着弾したインク滴1009の直径は、着弾前のインク滴1008の直径Dの約2倍となる。また、図9のように、着弾したインク滴1009の厚みTは、着弾前のインク滴1008の直径Dの約1/6となる。
このように、着弾したインク滴の直径が着弾前のインク滴の直径Dの2倍程度となる。したがって、インクが記録面の全面を埋めるようなエリアファクターを確保するためには、インク滴1008の直径Dを記録画素の一辺Pの約0.7倍よりも大きくすれば良い。
図8のように、接着部の面積比率が50%以下になるように接着部1000を離散的に配置すれば、接着部1000の仮想的な円柱の直径Rは、インク滴の直径Dとほぼ同じ、もしくは直径Dより小さくなる。上述したように、インク滴は着弾時の衝撃によって水平方向に約2倍程度広がるため、接着部から十分にはみ出して、インク受容層の露出部に垂れ込むことができる。
このように、接着部の面積比率を50%以下とすることにより、島状に離散的に配置した接着部の大きさは、インクが着弾したときの着弾径よりも小さくなる。インクの粘度および表面張力の影響もあるものの、着弾したインクの一部を必ず接着部からはみ出させて、インク受容層の露出部に垂れ込むませることができる。インク受容層の露出部にインクの一部が接すれば、インクの吸収速度の速い空隙吸収型のインク受容層の露出部に対して、インクが引きずり込まれるように主体的に吸収される。したがって、インク吸収性を良好とし、かつ接着剤の表面および接着剤の内部にインクを残留しにくくすることができる。
[1−6]接着層の厚み
着弾したインクを引きずり込むようにインク受容層の露出部に主体的に吸収させる上においては、着弾して広がったインクの一部が接着部からはみ出してインク受容層の露出部に垂れ込むときに、そのインクが千切れないように接着層の厚みを制御することが好ましい。すなわち、インクの粘度および表面張力を考慮して、接着層上のインクと、インク受容層の露出部に接したインクと、が千切れないように接着層の厚みを制御することが好ましい。
図11においては、接着剤1002を円柱状に集約して形成した接着部1000に、インク1008が着弾して円柱状に広がった場合を想定する。この場合、接着部1000上のインクと、インク受容層53の露出部1001に接したインクと、が千切れないためには、インクの粘度および表面張力にもよるものの、接着部1000の厚みHを、着弾したインク滴1009の厚さTよりも小さくすればよい。厚みHは接着層の厚さに相当するため、以下、接着層の厚みHともいう。図11(a),(b),(c)のように、接着層の厚みHをインク滴1009の厚さT2よりも小さくすることにより、インク滴1009は千切れることなくインク受容層53に吸収される。前述したように、安定的に吐出可能な水系のインク滴が着弾して、円柱状に広がったと仮定した場合、インク滴の吐出速度、インクの粘度、インクの表面張力などにもよるものの、着弾したインクの厚さTは着弾の衝撃によって着弾前のインク滴の直径Dの約1/6となる。したがって、接着部1000上のインクと、露出部1001に接したインクと、が千切れないためには、インクの表面張力や粘度によるインクの伸びを考慮すると、接着部1000の厚みHは、着弾したときに変形したインク滴の厚みTの2倍を越えないようにすればよい。これにより、接着剤上に着弾してからはみ出したインクがさらに伸びて千切れる前に、そのインクの一部がインク受容層の表面に接触できる。前述したように、面積比率を50%以下になるように接着剤を十分に離散的に配置することにより、接着剤の仮想的な円柱の直径Rは、想定した画素の長さPの0.8倍よりも小さくなる。一方、インク滴の着弾の衝撃によって形成される円柱状のインクがインク滴の直径Dの2倍に拡がって、エリアファクターが100%以上となる場合、円柱状のインクは、想定した画素の長さPの1.4倍よりも大きくなる。すなわち、着弾して拡がったインクの直径は、接着剤の仮想的な円柱の直径Rのほぼ倍になる。着弾の衝撃によって直径Dの2倍程度に拡がったインクは、直径Dとほぼ同程度に形成された接着剤の仮想的な円柱からはみ出すことになる。そのはみ出し量は、直径が直径Dの2分の1、厚みTが直径Dの約6分の1に相当する量であるため。そのため、接着剤の厚みHを直径Dの約3分の1よりも小さくすることにより、接着剤からはみ出したインクの一部は、インク吸収特性に優れた海部のインク受容層の露出部に速やかに接触することができる。
一方、インク受容層は、着弾したインクを完全に吸収できる吸収容量を持つように厚みを設定することが重要である。空隙吸収型のインク受容層のインク吸収時間のオーダーを約1秒と考えると、インクの蒸発は数パーセント程度であり、インクの吸収にあまり影響しない。ここで、インク受容層の空隙によるインクの吸収だけを考慮し、空隙吸収型のインク受容層の吸収率を80%として、単色記録を行う場合を想定する。この場合、2plあるいは4plのインク滴を1滴着弾させて、そのインクを完全に吸収させるためには、インク受容層の厚みIを想定されるインク滴の直径Dの約3分の1よりも大きくすればよい。
このような接着層の厚みHとインク滴の直径Dとの関係、およびインク受容層の厚みIとインク滴の直径Dとの関係から、単色記録の場合には、接着層の厚みHとインク受容層の厚みIが次のような関係となる。すなわち、インクを完全に吸収させるためには、インク受容層の厚みIは、インク滴の直径Dの約3分の1よりも十分に大きくし、接着部の厚みHは、直径Dの約3分の1よりも小さくすればよい。これにより、着弾したインクの一部は、千切れずにインク受容層に速やかに到達することができる。したがって、接着部の厚みHはインク受容層の厚みIよりも小さくすればよい。
このように単色記録の場合には、想定されるインク滴の大きさDに応じて、接着部の厚みHをインク受容層の厚みIよりも小さく設定することにより、接着部の厚みHを、着弾したインク滴の厚みTよりも小さくすることができる。これにより、インクの粘度や表面張力にもよるものの、着弾して広がったインクが接着部からはみ出すときに、接着部上のインクと、インク受容層の露出部に接したインクと、が千切れないようにして、インク吸収性を良好にすることができる。さらに、接着部の表面および内部にインクが残留しにくくなるため、接着性を向上させることもできる。また、多色のカラー記録の場合には、インク色の数に応じてインク受容層を厚くする必要がある。個々のインク滴が千切れないための接着剤の厚さの制限は変わらないため、接着剤の厚さHは。インク受容層の厚みIに対して十分に小さくする必要がある。空隙吸収型のインク受容層のインク吸収率を80%とし、2あるいは3色相当のインクの受容を想定した場合、接着剤の厚みHは、インク受容層の厚みIの約2分の1もしくは約3分の1程度よりも小さくすればよい。
図11(d),(e),(f)のように、接着層の厚みHがインク滴の厚みTの2倍よりも大きい場合には、接着層とインク受容層の露出部との境目においてインクが千切れてしまう。そのため、接着層の表面上のインクをインク受容層の露出部に引きずり込めず、接着層の表面にインクが残留して、接着不良が生じるおそれがある。
また、インクの色材が顔料の場合には、インクジェット記録後にインクが固液分離して、インク受容層の表面に色材が残るおそれがある。このような場合には、インク受容層の表面に残った色材を接着時に接着剤が覆うことができるように、接着部の厚みを調整すればよい。前述したように、インク受容層は、所定の空隙率を有することによって、インクジェット記録された単色若しくは複数色のインクを全て受容できるように構成されている。空隙吸収型のインク受容層の吸収率が80%のときに、単色記録の場合には、インク受容層の厚みIはインク滴の直径Dの3分の1よりも十分に大きくし、カラー記録の場合には、インク受容層の厚みIは、インク滴の直径Dの3分の2、あるいはインク滴の直径Dよりも大きくなるように設定する。
また、インクが顔料インクであって、色材である顔料がインク受容層の表面で固液分離して、その全てがインク受容層の表面に残る場合を想定する。インクジェット記録方式において安定して吐出可能な水系インクは、通常、顔料などの固形分の重量濃度が10%以内である。そのため、固液分離してインク受容層の表面に残留する固形分は、インク体積の8%程度となる。このように残留する色材が島部である接着部の高さHよりも低くなるように、海部であるインク受容層の露出部がインクを受容できれば、残留する色材は接着性の阻害要因とはなりにくい。島部の高さ(接着剤の高さH)をインク受容層の厚みIの100分の6よりもやや高くすることにより、単色の色材をインク受容層の露出部にて全て受容することができる。この結果、接着剤の高さよりも色材が高く突き出すことがなく、インク受容層の表層に残留する色材が接着性の阻害要因とはならずに、良好な接着性を実現することができる。実際には、インク受容層の表面の一部が接着剤で覆われていて、その分、インク受容層の表面に残留する固形分はやや厚くなるため、好ましくは、インク受容層の厚みIの100分の7よりも接着剤の高さHを高くしておけば良い。カラー記録において、2あるいは3色分相当のインクを想定した場合、インク受容層の厚みHをより厚くする必要があると共に、インク受容層の表面に残留する固形分も増えるためほぼ同じ割合で接着剤の厚みもより厚くする必要がある。このような場合、接着剤の高さHは、インク受容層の厚みIの100分の7よりも高くすれば良い。
また、加熱転写時に溶融した十分な量の接着剤によってインク受容層の表層に残留した色材を覆って、色材と画像支持体との間に、溶融した接着剤による接着膜を形成することにより、さらに高い接着性を得ることができる。例えば、顔料濃度が10%の顔料インクを用いる場合に、接着部の厚みHをインク受容層の厚みIの10分の1よりもさらに大きくすることにより、高い接着性を実現することができる。前述したように、インクが丁度、接着部上に着弾した場合に、そのインクの一部をインク受容層の露出部に速やかに接触させて、インクの液体成分のほぼ全てをインク受容層の内部に吸収させるためには、接着部の厚みHをインク受容層の厚みIの約2分の1もしくは約3分の1程度よりも小さくすれば良い。したがって、顔料インクなどのように、インク中の色材などの固形分がインク受容層の表層に残留しやすいインクを用いた場合には、上述したように、空隙吸収型のインク受容層の吸収率を80%とし、2もしくは3色相当のインクの受容を想定して、接着部の厚みHをインク受容層の厚みIの100分の7から2分の1程度の範囲に設定すればよい。
より好ましくは、接着層の高さHは、インク受容層の厚みIの10分の1から3分の1の範囲に設定することにより、十分な接着性が得られる。すなわち、インク滴の体積が2〜4pl、空隙吸収型のインク受容層の空隙率が80%、カラー画像の記録を考慮した場合、インク受容層の厚みIは8〜16μm程度、接着部の厚みHは0.5μmから8μm程度が好ましい。さらに、インク滴の体積の環境によるばらつき、およびインク受容層の空隙率の製造上のばらつきなどを考慮すると、接着部の厚みHは、より好ましくは1μmから5μmにすればよい。インクの顔料濃度が5%程度の場合には、接着層の厚みHは、インク受容層の厚みIの100分の3から2分の1程度の範囲が好ましい。すなわち、インク滴の体積が2〜4pl、空隙吸収型のインク受容層の空隙率が80%、カラー画像の記録を考慮した場合、インク受容層の厚みIは8〜16μm程度、接着部の厚みHは0.3μmから8μm程度が好ましい。インク滴の体積の環境によるばらつき、およびインク受容層の空隙率の製造上のばらつきなどを考慮すると、接着部の厚みHは、より好ましくは0.5μmから5μmにすればよい。
インク受容層で固液分離する顔料インクであっても、空隙吸収型のインク受容層の空隙が顔料分散体よりもやや大きくて、インク受容層の表層に顔料分散体自体が若干浸透できる場合には、接着層の厚みHをさらに薄くしても良好な接着性が実現できる。また、顔料が樹脂分散顔料であった場合には、分散樹脂の溶融温度が接着温度より低ければ、分散樹脂が接着に寄与するため、顔料を接着剤によって完全に覆わなくても良好に接着性が実現できる。この場合、接着剤の厚みは上記の厚みより小さくもよい。
また、接着部の上面が平坦な形状でなく、着弾したインク滴が接着部の表面を流れ落ちやすい傾斜面をもつ形であれば、接着部の部分的な高さが上記の厚みより大きくても構わない。要は、島状の接着剤の表面にインクが残りにくく、着弾したインク滴の一部が千切れることなくすみやかにインク受容層の露出部に接触して、インク滴を主体的に吸収できればよい。
また、染料インクの場合には、インク受容層の露出部の表面に色材が残りにくいため、接着部の厚みを薄くすることができる。例えば、インク受容層の製造上のばらつきを考慮して、インク受容層の表面の凹凸を吸収するように接着剤を十分に充填するために、接着部の厚みは無機微粒子の粒径以上とすることが好ましい。接着粒子が無機微粒子より小さく、接着部の空隙がインク受容層の空隙よりも小さく場合には、接着部のインク吸収速度がインク受容層のインク吸収速度より速くなるため、前述したようにインクをバイパス的に吸収することができず、接着部の内部にインクが残りやすくなる。接着部の内部にインクが残った場合には、転写時に接着部が潰れ、インクの水分や溶媒成分が接着面に染み出て接着を阻害する場合がある。表面に色材が残りにくい染料インクであっても、インク吸収と接着性の観点から、インク受容層の無機微粒子よりも接着粒子を大きくすることが好ましい。
要は、転写材と画像支持体とを良好に接着することができれば良く、インク受容層の空隙率、使用するインクの色材および色材濃度、および記録画像(単色画像、カラー画像など)などに応じて、適宜、接着層の厚みとインク受容層の厚みを調整すればよい。
本実施形態の接着転写可能な転写材は、前述したように、吸収速度が遅い接着剤を離散的に設けることにより、インクの吸収性が良好でインク吸収速度の速い空隙吸収型のインク受容層の表面に、接着剤が無い露出した部分(海部または露出部)が構成されている。これにより、着弾したインクの一部は、島状に離散的に配された接着剤をほぼ介さずに、接着剤をバイパス的に通過して、インク受容層が直接露出した露出部にすばやく接する。そして、そのインクは、インク受容層の露出部との接触点から引きずり込まれるようにして、インク受容層に主体的に吸収される。これにより、接着剤の表面もしくは内部にはインクがほぼ残留せず、インクジェット記録後の転写に際して、インク残留による接着阻害が生じにくく、良好な接着性を実現することができる。このように、接着剤を島状に離散的に配して、インクのバイパス的な通過を許容する海部を接着層内に形成することにより、インクジェット記録時に、インク吸収性能に優れたインク受容層の表面に速やかにインクが吸収されやすくなる。また、インクのバイパス的な通過を許容する海部は、上述したように、顔料インクの固液分離によってインク受容層の表面に色材などの固形物の残留した場合に、その固形物が島状の接着剤の接着機能を阻害しないように、その固形物を収納する収納庫としての第2の機能を発揮することができる。さらに、このような接着層における海部は、画像支持体などへの接着・転写時に、互いに密着される画像支持体と接着層との間に空気溜りが不如意に発生した場合に、その空気を外部へ排出するための空気排出口としても機能させることができる。前述したように、空隙吸収型のインク受容層は、接着時にも空隙構造をほぼ維持するように構成されているため、接着層が画像支持体との密着時に若干潰れて、海部内の空気が圧縮されたとしても、その空気をインク受容層内の空隙においてある程度吸収することが可能である。一方、接着層と画像支持体との密着時に、それらの平面性、伸縮性、もしくは密着圧力の不均一などに起因して大きな空気溜りが発生した場合には、それをインク受容層内に空隙では吸収しきれなくなるおそれがある。その場合には、転写材の接着・転写後に、転写材の表面に空気溜りが出現したり、接着力の不均一などによる接着性の低下が生じたりする。このような場合には、接着層と画像支持体とを密着させるときに、それらの密着領域において不如意に発生した大きな空気溜り内の空気を、接着層と画像支持体との未密着部へと順次排出させるように、互いに連通する接着層の海部が潰れるようにすればよい。転写材あるいは記録物の用途によっては、海部は、潰れながらも連通した空隙として若干残ってもよい。また、本実施形態の接着可能な転写材においては、空隙吸収型のインク受容層が全面に亘って配されているため、互いに連通した海部による空気の排出効果と合わせて、インク受容層内において互いに連通した空隙によっても、不如意に発生した空気溜り内の空気を転写材の端部もしくは未密着部の海部に向かって排出することができる。すなわち、インク受容層の表面に接着剤を島状に離散的に配して接着層内に海部を設け、それらの海部をほぼ連通させることにより、それらの海部は、空隙吸収型のインク受容層における連通した空隙と共に、接着層と画像支持体との密着時に空気を排出する第3の機能を発揮する。
また、接着部内において、接着粒子が部分的に凝集して複次粒子を形成する場合には、インクなどの液体は通過しにくくても、空気を通しやすい連通した空隙が形成される。そのため、接着剤が溶融する前であれば、接着層の空隙を介しても空気溜り内の空気を排出することができ、海部の第3の機能の補助的な効果も期待できる。
このような海部の第3の機能の面においては、球体や高次の多面体などの粒子状の接着剤を用いることが有効であり、接着部を適切な面積比率で離散的に島状に形成することにより、効果的な海部を接着層内に確実に設けることができる。また、接着粒子が部分的に凝集して接着部内に複次粒子を形成する場合には、その接着部には、インクなどの液体は通過しにくくても、空気は通しやすい連通した空隙が形成される。その接着部の空隙には、空気溜り内の空気を排出する効果が期待できるため、粒子状の接着剤を用いることが好ましい。
[1−7]接着剤の粒子径
接着剤の平均粒子径は特に限定されないが、下記2つの条件を満たすように設定することが好ましい。
第1の条件は、前述したように、接着層の上に着弾したインクを千切ることなく、インク受容層の露出部に引きずり込んで吸収させるという条件であり、このような条件を満たすように接着剤の平均粒子径を設定する。具体的には、接着層の厚みは接着剤の平均粒子径と量によって決まるため、接着部の厚みがインク受容層の厚みよりも小さくなるように、接着剤の平均粒子径を設定することが好ましい。さらに、カラー記録の場合には、接着部の厚みがインク受容層の3分の1よりも薄くなるように接着剤の平均粒子径を設定すれば良い。接着剤が複数層の接着部を構成する場合には、さらに接着剤の平均粒子径を小さくしておけば良い。第2の条件は、接着剤がインク受容層の空隙に入り込まずに、接着剤が空隙を埋めてしまうことによるインク吸収性の低下を生じさせないという条件であり、このような条件を満たすように接着剤の平均粒子径を設定する。すなわち、空隙吸収型のインク受容層の空隙径より小さくならないように、接着剤の平均粒子径を設定することが好ましい。これら2つの条件を満たすように、接着剤の平均粒子径は、インク受容層の空隙径よりも大きく、かつインク受容層の厚みの半分以下として、画像の記録性と接着性を両立させることが好ましい。接着剤が塗工液として分散している場合、接着粒子はほぼ単粒子として分散されており、塗工成膜時には、分散液の蒸発によって接着粒子の濃度が高まり、それに伴って、複数の接着粒子が凝集することにより接着部が島状に離散的に形成される。接着強度に関しては、単一の接着粒子であっても凝集した接着粒子であってもほぼ変わらない。しかし、引き剥がし強度に関しては、単一の接着粒子が孤立して島状の接着部を形成している場合には、各々の島部の強度が低く、引き剥がし時に順次島部が破壊されていくため引き剥がし強度が低い。これに対して、複数の接着粒子が凝集して島状の接着部を形成している場合には、各々の島部の接着強度は、単一の接着粒子が孤立した島状の接着部よりも個々の島部の接着強度が高く、引き剥がし強度に優れている。
インクの色材が顔料の場合には、インクジェット記録後に固液分離してインク受容層の残った色材を、接着時に接着剤によって覆うことができるように、接着剤の平均粒子径と接着剤の量を調整すればよい。例えば、インクジェット記録において安定して吐出可能な水系インクの顔料濃度が10%以内の程度であって、多少の顔料がインク受容層に浸透することを考慮して、インク受容層の厚みの10分の1程度よりも大きくなるように平均粒子径を設ければよい。顔料濃度が10%より大きい場合には、平均粒子径をインク受容層の厚みの10分の1よりもさらに大きくしてもよく、使用するインクの顔料濃度に応じて、適宜、接着剤の平均粒子径と量を調整すればよい。
すなわち、単色の顔料インクを想定した場合、接着剤の平均粒子径は、インク受容層の空隙径よりも大きく、また、インク受容層の厚みの10分の1よりも大きくして、インク受容層の厚み以下とすることが好ましく、これにより画像記録性と接着性とを両立させることができる。また、カラー記録の場合、接着剤の平均粒子径は、インク受容層の空隙径よりも大きく、また、インク受容層の厚みの10分の1よりも大きくして、インク受容層の厚みの3分の1よりも小さくすれば良い。顔料が樹脂分散顔料である場合には、分散樹脂の溶融温度が接着温度より低ければ、分散樹脂が接着に寄与することができるため、接着剤によって顔料を完全に覆わなくても良好に接着することが可能であり、接着剤の厚みは上記の厚みよりも薄くしてもよい。要は、色材によって接着が阻害されることなく、転写材と画像支持体とを良好に接着させることができれば良く、インク受容層の空隙率、使用するインクの色材や色材濃度、および単色記録や多色記録などの要因に応じて、適宜、接着層の厚みとインク受容層の厚みを調整すればよい。
具体的に、接着剤の平均粒子径としては、10nmよりも大きく、5μmよりも小さいことが好ましい。接着剤の平均粒子径を10nmよりも大きくすることにより、接着剤の粒子径が空隙吸収型のインク受容層の空隙径より十分大きくなるため、接着剤がインク受容層の空隙の中に入り込みにくくなる。これにより、インク吸収性の低下を防止して、インク吸収性を良好とすることができる。また、接着剤の平均粒子径を5μmよりも小さくすることにより、接着部の厚みをインク受容層の厚みよりも小さくして、接着層の上に着弾したインクを千切ることなくインク受容層の露出部に引きずり込んで吸収させることができる。この結果、接着層の表面および内部にインクを残りにくくして、接着性を向上させることができる。
一方、接着剤の平均粒子径が10nm以下であると、接着剤の平均粒子径が空隙吸収型のインク受容層の空隙径よりも小さくなる場合がある。この場合には、接着剤がインク受容層の空隙の中に入り込み、空隙を埋めてインク吸収性を低下させるおそれがある。ただし、接着剤の粒子が凝集しやすい粒子であった場合には、平均粒子径が10nm以下でも、粒子が凝集して大きな2次粒子を形成するため、インク受容層の空隙を埋めることはない。したがって、このような場合には平均粒子径が10nmよりも小さくてもよい。要は、接着剤の性質に応じて、インク受容層の空隙を埋めないように、適宜、接着剤の平均粒子径を調整すればよい。
また、接着剤の平均粒子径が5μm以上であると、接着部の厚みがインク受容層の厚みよりも大きくなる場合がある。この場合、インクが接着部に着弾したときに、接着部とインク受容層の露出部との境目でインクがちぎれて、インクの一部がインク受容層に接するため、接着部の表面上のインクは、インク受容層の露出部に引きずり込まれない。そのため、インクが接着部の表面に残留し、インクの吸収性が低下する。また、接着を阻害するインクが接着部の表面および内部に残留しやすくなり、接着性が低下する場合もある。ただし、インクが流れ落ちる形状の接着剤、つまり球状あるいは多面体状の接着剤を使用した場合には、接着部の厚みがインク受容層の厚みよりも大きくても、インクはちぎれずにインク受容層の露出部に流れ込み、その露出部に主体的に吸収される。このような場合、接着剤の平均粒子径は5μm以上であってもよい。接着剤の形状や性質、およびインクの表面張力や粘度に応じて、インクの一部がちぎれずにインク受容層の露出部に流れ込むように、条件を適宜設定すればよい。
要は、インクの吸収性の観点からは、インク受容層上に接着層を離散的に配した構成において、インクが接着層に着弾したときに、インクがちぎれることなくインク受容層の露出部に瞬時に接して、その露出部に引きずり込まれるように主体的に吸収されればよい。また、接着性の観点からは、インクの色材によって接着が阻害されることなく、転写材と画像支持体とを良好に接着できればよい。インク受容層の空隙率、接着剤の形状や性質、使用するインクの色材や色材濃度、および単色記録や多色記録などの要因に応じて、適宜、接着剤の粒径を調整すればよい。
[1−8]接着剤の量(体積)
接着剤の量は用途に応じて調整すればよい。例えば、強い接着力を必要とする場合は、画像支持体とインク受容層の接着面の凹凸を吸収するできる量であることが好ましい。さらに好ましくは、接着時に接着剤が溶融してほぼインク受容層の全面を覆って、その全面を画像支持体に接着できるように、接着剤の量および溶融後の接着面積を調整する。一方、弱い接着力でよい場合には、インク受容層の露出部の面積を大きくして、インクによる画像の記録特性を向上させることができる。
[1−9]インク受容層の露出部の密度
インク受容層の露出部の間隔は、エリアファクターがほぼ100%となるように調整すればよい。インク受容層上に離散的に接着層が設けられている場合には、インクを吸収しない、或いは吸収しても吸収速度の遅い接着層によって、インク受容層の表面が覆われる。そのため、接着層と接触しているインク受容層の表面からは、インクが吸収されにくく、インクを吸収できるインク受容層のエリアが制限される場合がある。したがって、画像の形成に必要なエリアファクターを維持するためには、インク吸収の基点となるインク受容層の露出部を適切な間隔で配することが重要である。
図12は、インク受容層の露出部の密度についての説明図である。前述したように、インクの着弾衝撃によって広がるインク円柱は、その直径がインク滴の直径Dの2倍であり、その厚みはインク滴の直径Dの6分の1である。直径2Dの円柱の底面内に内接する正方形の一辺は√2分の2Dであり、海部が内接する正方形の中に、直径2Dの円柱が少なくとも一つ以上が存在すれば、着弾したインクの一部はインク受容層の露出部に速やかに接触できる。したがってインク受容層の露出部の密度は、Dの2乗の2倍の面積に一つ以上の海部が存在する密度であればよい。
前述したように、エリアファクターを100%以上とするためには、インク滴の直径Dは、想定される記録画素の1辺Pの2分の√2倍(22/1倍)よりも大きく設定すればよく、すなわち、Pの2乗の面積に海部が1つ以上存在すればよい。つまり、想定されるインクジェット記録の1画素に、海部が少なくとも1つ以上、すなわち、インク吸収速度の速いインク受容層の露出部が1つ以上存在すればよい。これにより、インクは島状の接着部の上に残らず、インク受容層に速やかに吸収されて接着不良を引き起こさない。また、1画素に1つ以上の海部が存在することにより、着弾したインクは、所定の画素から大きく外れずにインク受容層に吸収されるため、画像の記録特性も良好となる。
上述したように、着弾したインクによってエリアファクター100%を実現して、所望の画像濃度を得るためには、インク滴の直径Dは、想定される記録画素の1辺Pの2分の√2倍よりも大きくすればよい。これにより、内接する正方形内に少なくとも1つ以上の海部が存在して、インク受容層の画像記録面をインクによって覆うことが可能となる。この場合、インク受容層は、エリアファクター100%を満足させるインクの全てを吸収できるように構成される。例えば、前述したように、使用が想定されるインクとインク受容層の範囲において、空隙吸収型のインク受容層の吸収率を80%とし、単色記録時に、2plあるいは4plのインク滴を1滴着弾させた場合を想定する。この場合、インクを完全に吸収させるためには、インク受容層の厚みIを、想定されるインク滴の直径Dの約3分の1より十分に大きくすればよい。また、カラー記録の場合、インク受容層の厚みIは、インク滴の直径Dとほぼ同等以上が必要となる。したがって、海部が存在すべき領域は、インク受容層の厚みIと対応付けることができる。単色記録を想定し、エリアファクター100%を実現するインクを受容できるインク受容層の厚みを厚みIとした場合、その厚みIの√2分の1の6倍を一辺とする正方形の中に、少なくとも1つの海部が存在すればよい。カラー記録も想定した場合、エリアファクター100%以上を実現するためには、インク受容層の厚みIの√2分の1の2倍を一辺とする正方形の中に、少なくとも1つの海部があればよい。
以上においては、良好な画像の記録特性を実現させるための条件として、エリアファクター100%以上を実現する場合を例に説明した。しかし、転写材および記録物の用途によっては、エリアファクターが100%以下であっても所望の画像濃度が得られる場合がある。したがって実際には、インク液滴の大きさ、およびインク受容層の空隙率などを転写材および記録物の用途に応じて設計した上、インク受容層の厚み、接着剤の厚み、および接着剤の分布を適切に調整すればよい。本実施形態の転写材は、インク受容層の表面に、接着層の接着剤を離散的に設けることにより、インク受容層の表面が直接露出した部分を残すように構成される。これにより、着弾したインクの一部は、接着剤を介さずに、インク吸収速度の速い空隙吸収型のインク受容層の表面にバイパス的に瞬時に接して、インク受容層に引きずり込まれるように主体的に吸収される。この結果、接着剤の下部も含むインク受容層に、適切なインクドットを形成することができ、接着剤の表面および内部にインクを残りにくくして、記録特性と接着性を両立させることができる。
また、以上においては、1画素を1つのインク滴によって記録する例について説明した。しかし、本実施形態の転写材は、単色記録およびカラー記録において、1画素を複数のインク滴によって記録する場合にも有効である。前述したように、インクの蒸発速度は、インク受容層のインク吸収速度、およびインクジェット記録速度に比べて遅い。そのため、所望のエリアファクターを実現するインクジェット記録において、接着部の表面に着弾したインクの挙動は、1画素を複数のインク滴によって記録する場合、および1画素を1つのインク滴によって記録する場合のいずれにおいてもほぼ同様である。すなわち、インク吸収速度の遅い接着剤の表面に着弾したインク滴は、1画素内に複数の液滴が短い時間差で着弾しても蒸発や吸収が遅いため、それら複数のインク滴が合体した1つのインク滴として考えることができる。このように、吸収速度の速いインク受容層の露出部との接触にかかわるインクの挙動は、1画素を複数のインク滴によって記録する場合、および1画素を1つのインク滴によって記録する場合のいずれにおいてもほぼ同様である。
[1−10]その他の構成
接着剤は一種でも複数種使用してもよいが、少なくともインク受容層と接する接着剤は粒子形状をほぼ保持していることが重要である。インク受容層と接する接着剤が粒子形状をほぼ保持していることにより、インクの色材が接着剤の下部に回りこみやすくなり、インクジェットによる画像の記録特性が向上する。
例えば、粒径の異なる接着剤を複数使用してもよい。粒径の大小は接着剤の体積に関係する。粒径が大きいと、接着剤の体積も大きくなり、画像支持体との接着面積も大きくなるため、接着性を向上させることができる。したがって、粒径の大きい接着剤は、画像支持体への親和性に優れたものとし、粒径の小さい接着剤は、粒径の大きい接着剤同士、および粒径の大きい接着剤とインク受容層とのバインダーとすることもできる。粒径の小さい接着剤をバインダーとすることにより、粒径の大きい接着剤の粒子間の空隙構造をほぼ維持しつつ、接着層を成膜することが可能となる。一方、インクジェット記録前に接着層の大部分の粒子構造が崩れて、溶融した接着剤がインク受容層の表面を覆った場合には、接着剤の下部のインク受容層にインクが浸透吸収されにくくなり、インクジェットによる画像の記録特性が低下するおそれがある。
接着性を良好にするために、接着剤を複数の熱可塑性樹脂粒子で構成することもできる。Tgの異なる大小の粒径の熱可塑性樹脂粒子を組み合わせる場合は、大粒径の熱可塑性樹脂粒子の粒子構造を保持するように、小粒径の熱可塑性樹脂粒子を大粒径の熱可塑性樹脂粒子のバインダーとすることが好ましい。また、成膜性を良好にするためには、小粒径の熱可塑性樹脂粒子のガラス転移温度が大粒径の熱可塑性樹脂のガラス転移温度より低いことが好ましい。ただし、大小の粒径の熱可塑性樹脂粒子が同程度のTgであっても、小粒径の熱可塑性樹脂粒子は、比表面積が大きくて熱が伝わりやすい。そのため、大小の粒径の熱可塑性樹脂粒子を熱風乾燥によって同じ温度で乾燥させた場合、大粒径の熱可塑性粒子はある程度の粒子形状を維持し、一方、小粒径の熱可塑性樹脂粒子は溶解してバインダーとして作用する。したがて、接着層とインク受容層との密着性を向上させることができる。その際には、インクジェット記録性を損なわないように、小径の微粒子によってインク受容層の表面の空隙が埋め尽くされないような条件で成膜することが重要である。すなわち、本実施形態の転写材においては、空隙吸収型のインク受容層の表面に、粒子状の形態を維持した接着樹脂粒子を密着させて成膜し、さらに、空隙吸収型のインク受容層の空隙に接着層の樹脂がほぼ入りこまないようにすることが重要である。例えば、空隙吸収型のインク受容層の空隙よりも大きい粒径の熱可塑性樹脂粒子のみを用いる場合には、熱可塑性樹脂粒子の表面のみが軟化溶融することにより、熱可塑性樹脂粒子の形状をほぼ維持したまま、インク受容層の表面に接着層を形成すれば良い。熱可塑性樹脂粒子により成膜する際には、インク受容層の水溶性樹脂を軟化溶融させて、熱可塑性樹脂粒子の膜化を補助してもよい。
さらに、用途に応じた記録物の耐候性を考慮して、複数の材質の接着剤を用いることができる。例えば、接着層のバインダーとして作用する小粒径の接着剤、極性溶媒でも剥離しにくい大粒径の接着剤、および非極性溶媒でも剥離しにくい大粒径の接着剤等の複数種類の材質の樹脂を用いても良い。また、大粒径の接着剤として、特定の画像支持体に対して優れた接着性を示す材質の樹脂を複数種用いても良い。表面が粗い紙などの画像支持体に接着する場合には、接着剤が一部軟化溶融して、粗い表面にも密着できるようなクッション性の良い接着剤を用いてもよい。
また、接着層は単層でも複層でもよい。例えば、インク受容層側の層はインク受容層に接着しやすい構成とし、一方、画像支持体側の層は画像支持体に接着しやすい構成として、それぞれの層に機能を分離してもよい。そのために、インク受容層側の層には、インク受容層との接着性を高めるために、画像支持体に接着しやすい接着剤の量よりも、インク受容層に接着しやすい接着剤の量を多くしてもよい。また、画像支持体側の層には、画像支持体との接着性を高めるために、インク受容層に接着しやすい接着剤の量よりも、画像支持体に接着しやすい接着剤の量を多くしてもよい。このように、それぞれの層に機能を分離させることにより、インク受容層および画像支持体のそれぞれに強力に接着(転写)させて、接着性を向上させることができる。なお、熱的に離れた接着層の最表層の接着剤のガラス転移温度は、水溶性樹脂よりも小さい方が好ましい。ただし、画像支持体との接着性によっては、高Tgの接着樹脂粒子を用いる場合がある。一般的には、転写材の基材から加熱して転写するため、熱的に離れた接着剤は低Tgの方が好ましい。また、複数層の接着層の場合、最表層の接着層の接着剤は、粒子状でなくて完全に膜化して平滑化されていても良い。しかし、インク受容層に接する接着層の接着剤は、粒子形状を保持していることが重要である。少なくともインク受容層と接する接着剤の粒子形状を保持することにより、インクジェット記録時に、接着剤の下部のインク受容層に対してもインクが回り込みやすくなり、インクジェットによる画像の記録特性が向上する。
[2]基材
[2−1]基材の機能
本実施形態の転写材1は、図1に示すように基材50を備えている。基材50は、インク受容層53と、そのインク受容層53の表面に離散的に設けられた接着剤の接着層1012と、の支持体となるシート体である。この基材50は、インクジェット記録時および画像支持体との接着時において、転写材1のカールを抑制し、転写材1の搬送性を良好にする搬送層としての機能を有する。
また基材は、このような搬送性を良好にする機能に加えて、他の機能も有していても良い。例えば、転写材のインクジェット記録面に画像を記録した後、接着処理を施して記録物を製造した場合に、(1)基材の搬送層を剥離しないで記録物上に残すことによって、基材はインクジェット記録後の記録画像の保護層として機能する。一方、(2)接着処理後に、搬送層を含む基材全てを剥離することにより、基材はセパレーターとして機能する。さらに、(3)基材が透明保護層、ホログラム層、あるいは記録層等の機能層を含む場合に、接着処理後に、搬送層のみを剥離する(基材の一部を剥離)することにより、基材は、搬送層(基材の一部)がセパレーターとして機能し、および他の部分がインクジェット記録後の記録画像の保護層あるいはセキュリティー層として機能する。このように、基材の搬送層は剥離してもしなくてもよく、転写材および記録物の用途に応じて、「基材の搬送層を剥離しない場合」と「基材の搬送層を剥離する場合」とを使い分けることができる。以下においては、「基材の搬送層を剥離する場合」を「基材の全てあるいは一部を剥離」と記述する場合がある。基材の搬送層が剥離される場合には、搬送層の剥離機能を良好にするために、基材の搬送層は離型層を含んでいてもよい。離型層は、離型剤を含有する組成物からなる層であり、搬送層に設けられる。離型層を備えることによって、搬送層を容易に剥離することができる。このように離型層を備える場合には、搬送層が離型層を含むものとする。
[2−2]基材の搬送層を剥離しない場合
基材の搬送層を剥離させない転写材を用いて、製造される記録物について説明する。
[2−2−1]基材が剥離しない転写材を用いて製造される記録物
基材の搬送層を剥離させない転写材は、図13(a)のように、基材50上に空隙吸収型のインク受容層53を設け、そのインク受容層53の表面に、接着層1012の接着剤1002を離散的に設けることにより構成される。インク受容層53の表面には、接着層1012の接着部1000が位置する部分と、接着部のないバイパス部と、が形成される。
記録物を製造する際には、まず図13(b)のように、記録ヘッド600により転写材の記録面にインクを付与して、画像72を記録する。このとき、インクの一部は、接着層1012における接着部1000の相互間の空間をバイパス的に通過して、吸収速度の速いインク受容層53の露出部1001に接する。これにより、インクは、接着部1000内を通ることなく、インク受容層53に引きずり込まれるように吸収される。次に、図13(c)のように、離散的に配した接着剤1002によってインク受容層53を画像支持体55に接着(転写)させることにより、図13(d)のような記録物を得る。この記録物は、画像支持体55上に、接着層1012、インク受容層53、および基材50が順次積層された構造となる。画像72は、基材50または画像支持体55の少なくとも一方が透明であれば、その透明な基材50側あるいは画像支持体55側を通して視認可能である。基材の搬送層を剥離しない転写材は、建材および壁紙等の記録物を製造するために好ましく使用できる。なお、透明な基材側から画像を視認する場合には、転写材のインクジェット記録面に反転画像を記録し、一方、画像支持体側から画像を視認する場合には、転写材のインクジェット記録面に正像画像を記録する。
[2−2−2]基材の搬送層を剥離しない自己溶融型の転写材を用いて製造される記録物
基材の搬送層を剥離しない自己溶融型の転写材は、図14(a)のように、基材50上に空隙吸収型のインク受容層53を設け、そのインク受容層53の表面に、自己溶融型の接着剤1002を離散的に設けることにより構成される。インク受容層53の表面には、接着層1012の接着部1000が位置する部分と、接着部のないバイパス部と、が形成される。記録物を製造する際には、図14(a)のように、転写材の記録面にインク1003を付与して画像を記録した後、図14(b)のように、離散的に配された接着剤1002を自己溶融させて、隣接する接着剤1002同士を接着させる。このように、インクジェット記録後のインク受容層53の表面に、接着剤1002の皮膜を形成することにより記録物が製造される。このような自己溶融型の転写材は、サインディスプレイ用プレート、およびポスターなどの用途の記録物の製造に好ましく使用できる。
このように、インク受容層の表面に自己溶融型の接着剤を離散的に設けた転写材に、画像を記録した後に加熱処理を行うことにより、離散的に配された接着剤が自己溶融して隣接する接着剤同士が接着する。このように接着剤同士が接着することにより、空隙吸収型のインク受容層の表面は接着剤の皮膜によって被覆される。接着剤の皮膜は強固となるため、インク受容層に形成された画像の保護膜として機能する。特に、インクが顔料インクの場合には、図14(a)のように色材の顔料が空隙吸収型のインク受容層の露出部の表面に残りやすく、インク受容層内に浸透しにくい場合がある。この場合、インク受容層と、その表面にある顔料インクと、の接着性が弱いため、顔料インクは、擦過等によりインク受容層の表面から剥がれ落ちやすい。しかし、図14(b)のように、自己溶融型の接着剤を用いて熱処理することにより、溶融した接着剤は、インク受容層の露出部の表面に残留する顔料インクの色材を被覆して、顔料インクの保護膜として機能する。なお、透明な基材側から画像を視認する場合には、転写材のインクジェット記録面に反転画像を記録し、一方、接着剤の被膜形成面から画像を視認する場合には、転写材のインクジェット記録面に正像画像を記録する。
[2−2−3]基材の両面にヒートシール層を備えた転写材を用いて製造される記録物
基材は、例えば、剥離されない搬送層を含むものであり、その基材の両面にヒートシール層を備えた転写材としては、図15(a)のように、基材にヒートシール層を備えた構成を挙げることができる。基材50には、インク受容層53側の面とは反対の面(図15(a)中の下面)に、接着性に優れたヒートシール層1200(1)が備えられている。基材50とインク受容層53との間のヒートシール層1200(2)は、必ずしも備える必要はない。転写材は、このような基材50上に空隙吸収型のインク受容層53を設け、そのインク受容層53の表面に、接着層1012の接着剤1002を離散的に設けることにより構成される。インク受容層53の表面には、接着層の接着部が位置する部分と、接着部のないバイパス部と、が形成される。このような転写材の記録面にインクを付与して画像を記録することにより、記録物が製造される。
このような記録物に対しては、例えば、転写材を折り返すことにより、インク受容層53の表面に離散的に配した接着剤を介して、他の層、あるいは他の転写材および記録物などの部材を接着することができる。例えば、図15(b)のように、インク受容層53にヒートシール層1200(1)が接着可能、あるいは図15(c)にように、インク受容層53に他のインク受容層53が接着可能である。もしくは、図15(d)のように、ヒートシール層1200(1)に他のヒートシール層1200(1)が接着可能である。
このような転写材および記録物は、箱体を包装する包装材などの用途において好ましく使用することができる。包装材として使用する場合、基材は、インクジェット記録後の画像の保護層としての機能に加え、箱体を包装して包装体を製造する場合に箱体を保護する保護層としても機能する。基材50とインク受容層53との間にもヒートシール層1200(2)を備えてもよい。この場合、ヒートシール層1200(2)の構成材料のSP値をインク受容層53の水溶性樹脂のSP値に近い値とすることにより、インク受容層との接着性を向上させて、包装材として用いた場合の耐折り曲げ性を向上させることができる。
[2−2−3−1]キャラメル包装
図16は、このような転写材を包装材料として用いる場合の一例を示す。図13(a)は、包装体の一例を模式的に示す斜視図である。図16(a)の包装体2100は、転写材によって被包装物をキャラメル包装したものである。包装体2100の表面は、インク受容層であってもヒートシール層のいずれであってもよく、用途に応じて使い分けることができる。重なり部2200および2300は、インク受容層上に離散的に配された接着剤を介して、インク受容層とヒートシール層とが接着される部分である。インク受容層とヒートシール層との重なり部2200および2300を加熱圧着して、それらを接着することにより包装体2100が作製される。
図16(b)は、包装体2100の作製例の説明図、図16(c)は、包装体2100の他の作製例の説明図である。図16(b)の場合には、包装体2100の表面にインク受容層53が位置する。そのため、包装体2100を作製した後に、その表面に画像を記録することができる。また、図16(c)の場合には、包装体2100の表面にヒートシール層1200が位置する。そのため、包装体2100を形成する前に画像を記録することができる。包装体を形成する過程において、図13(b)における重なり部3700ではインク受容層53同士が接し、一方、図13(c)における重なり部3800ではヒートシール層1200同士が接する。このように、基材の片方の面にヒートシール層を設けることにより、ヒートシール層同士を接着することができる。また、図16(a)における重なり部2300の接着性が良好となり、接着不良によって重なり部に発生する浮きを防止することができる。
また、図16(b)の場合には、三角状の重なり部3700ではインク受容層53同士が接するため、それらのインク受容層53同士を離散的に配した接着剤によって相互に熱接着させることができる。そのため、その後における折り返し台形部分などの熱接着(インク受容層53とヒートシール層1200との熱接着、およびヒートシール層1200同士の熱接着)を正確に実施して、包装体を折り目正しく安定的に作製することができる。一方、図16(c)の場合には、三角状の重なり部3800ではヒートシール層1200同士が接するため、それらのヒートシール層1200同士を相互に熱接着させることができる。そのため、その後における折り返し台形部分などの熱接着(ヒートシール層1200とインク受容層53との熱接着、およびインク受容層53同士の熱接着)を正確に実施して、包装体を折り目正しく安定的に作製することができる。
[2−2−3−1]合掌貼り
図17は、包装体の他の例を模式的に示す上面図である。本例の包装体は、袋タイプの包装体である。袋タイプの包装体は、インク受容層が内面に位置し、かつヒートシール層が外面に位置するように、転写材を折り部2900にて折り返す。そして、インク受容層同士が重なった重なり部2700を加熱圧着(合掌貼り)することによって、離散的に配した接着剤を介して、インク受容層同士を接着させて、包装体を作製することができる。この場合、転写材のインクジェット記録面には反転画像を記録する。また、転写材のインクジェット記録面と内容物との接触に起因する記録面の剥がれ、およびインク受容層の脱離(粉落ち)を抑制するために、インクジェット記録後には、離散的に配した接着剤を溶融させて、記録面やインク受容層の表面の全てを接着層の保護膜によって保護することが好ましい。
なお、内容物が粉体2800などである場合は、記録面の剥がれ、およびインク受容層の脱離(粉落ち)をより確実に抑制することが必要となる。このような場合には、ヒートシール面が内側に位置し、かつ、インク受容層が外側に位置するように、転写材を折り部2900にて折り返す。また、ヒートシール層同士が重なる重なり部2700を加熱圧着(合掌貼り)して、包装体を形成してもよい。この場合は、包装体を作製後、外面側のインク受容層53に正像画像72を記録する。その画像の記録方式として、非接触で画像を記録可能なインクジェット方式を採用することにより、熱による内容物へのダメージを低減することができ、また熱転写方式とは異なり、内容物(紛体2800)を封入後に画像が記録できるため好ましい。なお、擦れによる記録面の剥がれを抑制するために、熱による内容物へのダメージが生じない範囲において記録面を熱処理して、離散的に配した接着剤が溶融させることにより、記録面およびインク受容層の表面を接着層の保護膜によって保護することができる。
[2−3]基材の搬送層を剥離する場合
搬送層を含む基材の全てが剥離される転写材と、この転写材を用いて作成した記録物について説明する。
[2−3−1]画像を記録したインク受容層を画像支持体上に積層した記録物
搬送層を含む基材の全てが剥離される転写材は、図18(a)のように、基材50上に空隙吸収型のインク受容層53を設け、そのインク受容層53の表面に、接着層1012の接着剤1002を離散的に設けることにより構成される。インク受容層53の表面には、接着層1012の接着部1000が位置する部分と、接着剤のないバイパス部と、が形成される。記録物を作成する際には、まず、図18(b)のように、インクジェット記録ヘッド600から吐出されるインクによって、転写材の記録面に反転画像72を記録することができる。その際、インクの一部は、接着層1012における接着部1000の相互間の空間をバイパス的に通過してインク受容層53の露出部1001に接し、これにより、インクはインク受容層53に引きずり込まれるように吸収される。次に、図18(c)のように、画像が記録された転写材を、離散的に配した接着剤1002によって画像支持体55に接着(転写)させる。その後、図18(d)のように、搬送層(基材の全部)を剥離することにより、図18(e)のような記録物を得る。このような搬送層を含む基材の全てが剥離される転写材は、IDカード、社員証、マイナンバー、パスポート等の公的文書の通知等の用途において好ましく使用することができる。
このようにして作製した記録物は、図18(e)のように最表層がインク受容層53となるため、この記録物の表面には画像の形成が可能である。また、前述したように、インク受容層が空隙吸収型であるため、転写しても空隙が維持されている。例えば、図18(a),(d)のように、転写材にインク受容層53側から、予めセキュリティー性の高い文字情報等を反転記録して、図18(e)のような記録物を作成した後、必要に応じて、その記録物の表面に正像画像を形成することができる。具体的には、図18(f)、(g)のように、記録ヘッド600を用いたインクジェット記録、あるいは加筆や捺印等により、記録物に画像72などの情報を容易に追記することができる。
[2−3−2]多層記録物(マルチレイヤー)
記録物として、画像支持体上にインク受容層を多層形成した多層記録物を作製することもできる。 図19(a)のように、基材50上に空隙吸収型のインク受容層53を設け、そのインク受容層53の表面に、接着層1012の接着剤1002を離散的に設けた転写体を用意する。インク受容層53の表面には、接着層1012の接着部1000が位置する部分と、接着剤のないバイパス部とが形成される。まず、この転写材に記録ヘッド600から吐出されるインクによって反転画像を形成することができる。次に、図19(b),(c)のように、画像が記録された転写材を、離散的に配した接着剤1002よって、前述した図18(g)の記録物に接着(転写)させる。なお、図18(g)の記録物は、予め画像支持体の表面にインク受容層が転写されており、必要に応じて加筆、もしくは正像画像が記録されている。その後、図19(d)のように、搬送層(基材の全部)を剥離することにより、画像支持体55上にインク受容層53が多層に形成された多層記録物を作製することができる。なお、転写材を繰り返し転写することにより、画像支持体上にインク受容層を何度でも形成することができる。すなわち、画像支持体上にインク受容層を複数層形成することもできる。
基材上に空隙吸収型のインク受容層のみが設けられ、そのインク受容層の表面には接着層が設けられていない転写材を用いた場合には、その転写材と、その転写材を画像支持体上に転写させた記録物と、を積層することは難しい。つまり、記録物の画像支持体上における空隙吸収型のインク受容層の上に、転写材のインク受容層を積層して、多層構造とすることは難しい。一般的なインク受容層は、無機微粒子が9割程度であって、その無機微粒子を結着するバインダーとして機能する水溶性樹脂を1割程度加えることによって構成されている。バインダーとして機能する樹脂成分を粒子より大幅に少なくすることにより、空隙を多く形成して十分なインク吸収性を確保している。その空隙吸収型のインク受容層の表面には、それ自体に接着性のない剥き出しの無機粒子によって無数の凹凸が形成される。このように、画像支持体に積層された記録物側のインク受容層と、転写材側のインク受容層と、のそれぞれには無数の凹凸が形成される。これらのインク受容層同士を接着させるためには、それらを密着させて加熱圧着する際に、それぞれのインク受容層のバインダーである樹脂成分同士が共にTg(溶解温度)を超えて溶融・流動した状態で接着する必要がある。
しかしながら、記録物側および転写材側のインク受容層においては溶融流動する水溶性樹脂の量が少ないため、それらのインク受容層の表面の凹凸により生ずる接着面間の空間を水溶性樹脂成分によって十分に充たすことは難しい。そのため、良好な接着性が得られなくなるおそれがある。水溶性樹脂の量を増やして接着性を向上させた場合には、無機微粒子の間の空隙が埋まり易くなり、インクジェット記録時にインク吸収性が低下して、良好な画像の記録特性が得られなくなる。
本発明の実施形態の転写材は、基材上に空隙吸収型のインク受容層を設け、そのインク受容層の表面に接着層の接着剤を離散的に設けて、インク受容層の表面が直接露出する露出部分を形成するように構成されている。このような転写材を用いることにより、接着剤層が加熱圧着により容易に溶解して、記録物側および転写材側のインク受容層の表面の間に生ずる空間を埋めることができる。空隙吸収型のインク受容層同士を接着させることが可能となるため、画像支持体上にインク受容層を多層に形成した多層記録物を作製することができる。
インク受容層を多層に形成した記録物の表面はインク受容層となるため、図19(e),(f)のように、記録ヘッド600を用いたインクジェット記録、あるいは加筆や捺印等により、記録物に画像72などの情報を追記することができる。この場合には正像の画像を記録する。また、前述したように、転写材を繰り返し転写することにより、何度も繰り返してインク受容層を記録物上に形成できる。したがって、記録物の使用用途に応じて、情報追記が必要なったときにインク受容層を記録物上に形成して、情報追記を繰り返すことができる。
[2−3−3]一部が剥離する転写材を用いた記録物
基材の搬送層(基材一部)のみが剥離される転写材を用いて製造される記録物として、クレジットカード等の各種セキュリティーカード分野、およびパスポート等においては、より高いレベルでの耐久性やセキュリティー性が要求される。このような記録物の場合には、基材に、透明保護層、ホログラム層、あるいは予め画像が記録された記録層などの機能層を単層あるいは複層で設けてもよい。
基材が機能層を含む転写材は、図20(a)のように、機能層52を含む基材50上に空隙吸収型のインク受容層53を設け、そのインク受容層53の表面に、接着層1012の接着剤1002を離散的に設けることにより構成される。機能層52は、例えば、透明保護層、ホログラム層、あるいは予め画像が記録された記録層などである。インク受容層53の表面には、接着層1012の接着部1000が位置する部分と、接着剤のないバイパス部と、が形成される。記録物を作成する際には、まず、図20(b)のように、インクジェット記録ヘッド600から吐出されるインクによって、転写材の記録面に反転画像72を記録することができる。その際、インクの一部は、接着層1012における接着部1000の相互間の空間をバイパス的に通過してインク受容層53の露出部1001に接し、これにより、インクはインク受容層53に引きずり込まれるように吸収される。次に、図20(c)のように、画像が記録された転写材を、離散的に配した接着剤1002によって画像支持体55に接着(転写)する。その後、図20(d)のように、搬送層(基材の一部)のみを剥離することにより、図20(e)のように、透明保護層、ホログラム層、あるいは記録層などの機能層52が積層された記録物を作製することができる。このような記録物は、その最表層が保護層、ホログラム層、あるいは記録層などの機能層52であるため、高い耐久性やセキュリティー性を得ることができる。
[2−3−3−1]透明保護層
転写材の基材は、画像の記録面の耐候性、耐摩擦性、および耐薬品性などの耐久性を向上させるために、透明保護層を含んでいても良い。透明保護層は、JIS K7375に準拠して測定される全光線透過率が50%以上、好ましくは90%以上のシートに相当する。したがって、透明保護層には、無色透明の保護層の他、半透明の保護層、着色された透明の保護層なども含まれる。
透明保護層の種類は特に限定されない。透明保護層としては、耐候性、耐摩擦性、および耐薬品性などの耐久性に優れ、インク受容層との相溶性が高い材質からなるシートおよびフィルムが好ましい。
画像を記録するインクとして染料インクを用いる場合には、紫外線による染料の分解(光劣化)を防止するために、透明保護層は、UVカット剤を含有するものであることが好ましい。UVカット剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物などの紫外線吸収剤;酸化チタン、酸化亜鉛などの紫外線散乱剤;などを挙げることができる。
また、透明保護層は、1種あるいは複数のエマルション粒子を用いて形成してもよい。好ましくは、異なるガラス転移温度を有する2種類のエマルジョン(エマルジョンE1、エマルジョンE2)を含有する。エマルジョンE1のガラス転移温度Tg1は、50℃より大きくかつ90℃未満であり、エマルジョンE2のガラス転移温度Tg2は、90℃以上かつ120℃以下であり、少なくともエマルジョンE2は、透明保護層中に粒子状態で残存していることが好ましい。
このような構成の転写材は、図21(a)のように、ヒートローラ21と加圧ローラ22を用いて画像支持体55に加熱圧着させることができる。転写材は、インク受容層53、透明保護層52、および基材50を含み、画像支持体55に接着される接着部分963と、画像支持体55に接着されない非接着部分964と、が存在する。したがって、透明保護層52には、接着部分963に対応する部分980と、非接着部分964に対応する部分981と、が存在する。熱圧圧着時に、透明保護層52における部分980,981の膜状態が異なるように制御することができる。
すなわち、ヒートローラ21と加圧ローラ22などによって転写材と画像支持体55とを加熱圧着して、それらを接着するときに、透明保護層52の部分980にはヒートローラ21の熱が伝わりやすい。そのため、透明保護層52の部分980に関しては、透明保護層52のエマルジョンE2の粒子981の一部が膜化して、図21(b)のように一部の粒子981が残存する状態、あるいは図21(c)のようにエマルジョンE2が完全に皮膜化した状態になる。このように、一部あるいは完全に膜化したエマルジョンE2は、予め膜化しているエマルジョンE1との結合力が強化されて、透明保護層52の膜強度を高める。一方、透明保護層52の部分981にはヒートローラ21の熱が伝わらないため、エマルジョンE2は粒子状態のままとなる。このように、透明保護層52の部分980と部分981においては膜の状態が異なるため、基材50を剥離する剥離工程では、それらの部分980,981の境界部982を基点として、透明保護層52にクラックが入りやすくなる。このように、2種類のエマルジョンを用いて、エマルジョンE2の膜状態を加熱圧着時の温度を利用して変化させることにより、剥離工程において透明保護層52の箔切れ性を向上させて、その端部におけるバリの発生を抑制することができる。
エマルジョンE1とエマルジョンE2の比率(E1/E2)は、下式(3)を満たすことが好ましく、より好ましくは5.0≦E1/E2≦50.0、さらにより好ましくは10.0≦E1/E2≦35.0を満たすことが好ましい。比率E1/E2を65.0以下、さらに好ましくは50.0以下、より好ましくは35.0以下として、エマルジョンE2を増加させて、その粒子成分が増やすことにより、エマルジョンE2を粒子状態で残存させることが容易になる。この結果、透明保護層52の境界部982においてクラックが生じやすくなり、剥離工程において透明保護層52の箔切れ性を向上させることができる。
3.0≦E1/E2≦65.0 (3)
[2−3−3−2]水膨潤性樹脂
画像が記録された記録物を水に長時間浸漬したときに、透明保護層52に発生するひび割れを抑制するために、透明保護層52に膨潤性樹脂を含有させて、水分を系外に排出する機構を持たせてもよい。図22は、透明保護層52が水分の排出機構を持たない一般的な記録物を長時間水に浸漬させた後、それを水から取り出したときの変化を示す。記録物が長時間水に浸漬されたときには、図22(a)のように、空隙吸収型のインク受容層53は、その端部517から水を大量に吸収して大きく膨張する。図22(b)中の部分519は、膨張したインク受容層53の部分である。空隙吸収型のインク受容層53は、それ単独では、48時間の浸漬により約1.5倍程度膨張する場合がある。その後、図22(c)のように記録物を水から取り出すことにより、空隙吸収型のインク受容層53中の水分の蒸発が始まる。空隙吸収型のインク受容層53の表面は透明保護層52によって覆われているため、空隙吸収型のインク受容層53の表面からは水分が蒸発せず、外部に露出している端部517からのみ水分が蒸発する。このような水分の蒸発に伴って、吸水時に膨張した空隙吸収型のインク受容層53の部分519は、図22(c)の部分520のように収縮する。空隙吸収型のインク受容層53は、その端部517から収縮が始まるため、図22(c)中の矢印Eのように、収縮時の応力が透明保護層52の中央部518に集中する。そのため、透明保護層52の部分518にひび割れが生じ、場合によっては、その部分518の一部が破断して、その表面にクラックが発生するおそれもある。
このように、一旦全面に亘って吸水膨張した空隙吸収型のインク受容層は、その端部から順次乾燥収縮して柔軟性を失いつつ、画像支持体に固定されてゆく。これにより、未だ吸水膨潤している空隙吸収型のインク受容層の中心側に歪みが徐々に蓄積され、乾燥収縮が徐々に空隙吸収型のインク受容層の中心部に向かって進行する。この結果、遅れて乾燥収縮する空隙吸収型のインク受容層と透明保護層の部分に、順次蓄積されてきた歪みが集中し、収縮時の応力に耐え切れなくなった透明保護層の部分に、ひび割れやクラックが生ずるものと考えられる。
透明保護層は、水膨潤性樹脂を含有することにより、水分を系外に排する機構を有し、透明保護層の水膨潤性樹脂は、空隙吸収型のインク受容層に含まれる不要な水分を吸収して、透明保護層の表面から蒸発させることができる。図23は、記録物73を長時間、水に浸漬させた後、水から取り出した状態における記録物73の断面図である。記録物73を水から取り出すと、空隙吸収型のインク受容層53に吸収された水分663はインク受容層53の端部からだけでなく、透明保護層52の水膨潤性樹脂660を介して、透明保護層52の表面全体からも水蒸気550として蒸発する。透明保護層の表面全体から空隙吸収型のインク受容層内の水分を蒸発させることにより、空隙吸収型のインク受容層の収縮の応力は、透明保護層の表面全体に広く分散され、この結果、透明保護層のひび割れの発生を抑制することができる。このように、透明保護層に膨潤性樹脂を含有させることによって、透明保護層に、ひび割れやクラックを生ずることなく、記録物の系内の水分を効率的に系外に排出するポンプとしての機能を持たせることができる。同様に、水膨潤性樹脂は、インクジェット記録時に空隙型インク受容層に吸収したインク中の水分の蒸発を促進させることができる。すなわち、空隙型インク受容層に吸収したインク中の水分は、水膨潤性樹脂を介して透明保護層の表面全体からも蒸発する。透明保護層の表面全体からインク受容層内のインク中の水分を蒸発させることにより、インクの乾燥を促進させることもできる。
水膨潤性樹脂の量は、透明保護層全体の0.05質量%以上かつ2.00質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.09質量%以上かつ1.00質量%以下であって、さらにより好ましくは0.15質量%以上かつ0.60質量%以下である。水膨潤性樹脂の量を透明保護層全体の0.05質量%以上、好ましくは0.09質量%以上、さらに好ましくは0.15質量%以上とすることにより、水膨潤性樹脂が透明保護層内に均一に分散される。しかも、十分な量の水膨潤性樹脂によって、透明保護層の表面とインク受容層とが連通された状態となる。この結果、透明保護層の表面からより多くの水分を蒸発させ、収縮の応力を広く分散させて、透明保護層のひび割れの発生を抑制することができる。また、水膨潤性樹脂の量を透明保護層全体の2.00質量%以下、好ましくは1.00質量%以下、さらに好ましくは0.6質量%以下とすることにより、溶解や過剰な膨潤による透明保護層の機械的強度を低下させることなく、透明保護層のひび割れが抑制できる。一方、水膨潤性樹脂が透明保護層全体の2.00質量%よりも大きいと、透明保護層の機械的強度が低下して、収縮の応力によってひびが入りやすくなり、また擦過性が低下するおそれもある。また、透明保護層が粒子状のエマルジョンを含有する場合、水膨潤性樹脂の量が多いと、水膨潤性樹脂がエマルションの分散に寄与して、エマルションの粒径が大きく変化し、透明保護層の透明性が低下するおそれがある。さらには透明保護層の吸水性が高すぎて、液体状の汚れが付いたときに汚染されやすくなる場合もある。反対に、水膨潤性樹脂が透明保護層全体の0.05質量%よりも小さいと、透明保護層からの水分蒸発が不十分となって、透明保護層のひび割れが発生しやすくなる場合がある。
[2−3−3−2]ホログラム層
高いレベルでの記録物のセキュリティー性を向上させるために、基材は、ホログラム層を含んでも良い。ホログラム層は、三次元像が記録された層である。ホログラム層を備えることにより、記録物(クレジットカードなど)の偽造を防止する効果が付与される。ホログラム層の構成は特に限定されず、一般的な構成を採用することができる。例えば、レリーフホログラムなどを挙げることができる。ホログラム形成層は、平面型ホログラムでも体積型ホログラムでもよく、平面型ホログラム、なかでもレリーフホログラムは量産性およびコストの面から好ましい。
その他、ホログラム層としては、フレネルホログラム、フラウンホーファーホログラム、レンズレスフーリエ変換ホログラム、イメージホログラム等のレーザー再生ホログラム、および、レインボーホログラム等の白色光再生ホログラムを用いることができる。さらに、それらの原理を利用したカラーホログラム、コンピュータホログラム、ホログラムディスプレイ、マルチプレックスホログラム、ホログラフィックステレオグラム、ホログラフィック回折格子等を用いることができる。
[2−3−3−3]記録層
記録物のセキュリティー性を向上させるために、基材は、画像が記録された剥離されない記録層を含んでも良い。基材上に補助的な画像(プレプリント)を施すことにより、機能性の高い画像を予め基材に付与して、記録物のセキュリティー性をさらに向上させることができる。
[2−3−4]多層記録物(マルチレイヤー)
記録物は、図24のように、インク受容層が多層に形成された多層記録物とすることもできる。
図24(a)のように、基材50上に、透明保護層、ホログラム層、あるいは記録層などの機能層52が単層あるいは複数層に形成されている。転写材は、機能層52上に空隙吸収型のインク受容層53を設け、そのインク受容層53の表面に、接着層1012の接着剤1002を離散的に設けることにより構成される。多層記録物を作製する際には、まず、図24(b)のように、転写材の記録面に反転画像72を形成することができる。その後、図24(c)のように、画像が記録された転写材を、離散的に配した接着剤1002によって、前述した図20(e)の記録物の表面に接着(転写)させる。図20(e)の記録物には、予め画像支持体の表面にインク受容層と、機能層としての透明保護層およびホログラム層と、が積層されている。その記録物は、画像支持体55、接着層1012、画像が記録されたインク受容層53、および機能層52を含み、その機能層52は、例えば、透明保護層、ホログラム層、あるいは記録層などである。その後、図24(d)のように、搬送層、透明保護層、ホログラム層、および記録層などの機能層を含む基材から、搬送層(基材の一部)のみを剥離することにより、図24(f)のように、画像支持体55上に、透明保護層、ホログラム層、記録層などの機能層52と、画像が記録されたインク受容層53と、が多層に形成された多層記録物を作製することができる。なお、記録物の最表面は、透明保護層、ホログラム層、あるいは印刷層となるため、記録物の記録画像を保護することができ、またセキュリティー機能を付与することができる。また、転写材を繰り返し転写することにより、画像支持体上に、透明保護層、ホログラム層、および記録層と一体化した画像が記録されたインク受容層を、複数層形成することもできる。すなわち、記録物の使用用途に応じて、記録物の表面に保護機能あるいはセキュリティー機能が必要なったとき、何度でも記録物の表面に保護層あるいはセキュリティー層を形成することができる。
転写材として、例えば、基材上に、透明保護層、ホログラム層、あるいは印刷層などの機能層と、空隙吸収型のインク受容層が設けられ、そのインク受容層の表面には接着層が設けられていない転写材を想定する。このような転写材は、画像が記録されたインク受容層53、および機能層52が積層された記録物の表面に転写させることが難しい場合がある。すなわち、転写材のインク受容層を構成する水溶性樹脂成分のSP値と、記録物の最表面の機能層を構成する材料のSP値と、が離れているものが多く存在する。そのため、記録物の最表面に位置する透明保護層の材質、干渉縞を形成するためのホログラム層の材質、あるいはプレプリントに用いたインクの材料と、転写材のインク受容層を構成する水溶性樹脂と、の組み合わせによっては、それらが接着しにくい場合がある。
しかしながら、本発明においては、転写材のインク受容層の表面に接着層の接着剤を離散的に設けるため、その接着剤によって、記録物の最表面の材料の影響を受けることなく、転写材のインク受容層を記録物の最表面に接着することができる。
[2−3−5]多層記録物(マルチレイヤー)の他の構成
上述したように、基材の搬送層(基材の一部)のみが剥離される基材上に、機能層を単層あるいは複数層形成し、この機能層を含む基材上に空隙吸収型のインク受容層を設け、インク受容層の表面に接着層の接着剤を離散的に設けることにより、インク受容層の表面が直接露出する露出部分を残すことができる。その転写材の記録面には、反転画像を形成することができる。次に、画像が記録された転写材を、離散的に配した接着剤1002によって、上記[2−3−1]の記録物のインク受容層上に接着(転写)してから、搬送層、透明保護層、ホログラム層、および記録層などの機能層を含む基材から、搬送層(基材の一部)のみを剥離することにより、多層記録物を作製することができる。これにより、画像支持体上に、インク受容層と、透明保護層、ホログラム層、あるいは記録層と、が多層に形成された多層記録物が得られる。この場合、記録物の最表面は、透明保護層、ホログラム層、あるいは記録層となるため、記録物の記録画像を保護することができ、あるいはセキュリティー機能を付与することができる。また、前述したように、転写材を繰り返し転写することにより、画像支持体上に、透明保護層、ホログラム層、および印刷層と一体化した画像が記録されたインク受容層を、複数層形成することもできる。すなわち、記録物の表面に保護機能やセキュリティー機能が必要なったとき、使用用途に応じて、何度でも記録物の表面に保護層およびセキュリティー層を形成することができる。
基材の搬送層(基材の一部)のみが剥離される転写材を用いて製造される多層記録物の他の形態ついて説明する。
転写材は、基材上に空隙吸収型のインク受容層を設け、そのインク受容層の表面に接着層の接着剤を離散的に設けることにより、インク受容層の表面が直接露出する露出部分を残すように構成される。その転写材の記録面には、反転画像を記録することができる。画像が記録された転写材を、離散的に配した接着剤1002よって、上記[2−3−3]の記録物のインク受容層上に接着(転写)してから、基材の全てを剥離することにより、多層記録物を作製することができる。これにより、画像支持体上に、インク受容層と、透明保護層、ホログラム層、あるいは記録層と、が多層に形成された多層記録物を作製することができる。
なお、このようなインク受容層を含む多層記録物においては、最表層がインク受容層となるため、この多層記録物の表面にはさらに画像形成が可能である。この場合には正像画像を記録する。多層記録物のインク受容層の表面には、加筆、捺印、およびインクジェット記録が可能なため、更なる情報の追記を容易に行うことができる。また、転写材を繰り返し転写することにより、何度も繰り返してインク受容層を記録物上に形成できるため、使用用途に応じて情報追記が必要なったとき、インク受容層を記録物上に形成して、情報追記を繰り返し行うことができる。
転写材を繰り返し転写することにより得られる多層記録物は、種々の転写材と自由に組み合わせることにより、様々な多層記録物を製造することができる。例えば、[2−3−1]に記載の、基材の全てが剥離される転写材、あるいは[2−3−3]に記載の、基材の一部が剥離する転写材と組み合わせることができる。組み合わせる転写材は、記録物の使用用途に応じて自由に選択することができる。例えば、記録物に情報の追記を行いたい場合には、[2−3−1]に記載の、基材の全てが剥離される転写材を用いて、多層記録物の最表面にインク受容層を形成するように多層記録物を製造する。また、記録物の最表面に、セキュリティーおよび記録面の保護などの機能性を持たせたい場合には、[2−3−3]に記載の、基材の一部が剥離する転写材を用いて、多層記録物の最表面に、透明保護層、ホログラム層、および記録層などの機能層を形成するように多層記録物を製造する。
[3]材料
[3−1]空隙吸収型のインク受容層
インク受容層は、例えば、インクジェット記録方式によって付与されるインクを受容する層である。本実施形態におけるインク受容層は空隙吸収型であり、転写材は、図1のように、インク受容層の表面に接着層の接着剤を離散的に設けることにより、インク受容層の表面に直接露出する露出部を残すように構成される。図3のように、インクジェット記録により着弾して拡がったインクの一部が、接着部からはみ出してインク受容層の露出部に垂れ込むときに、接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過して、インク受容層の露出部に直接接することができる。インクジェット記録用のインクは、表面張力や粘度が適切に制御されているため、インク受容層の露出部に接したインクの一部がインク受容層に吸収され始めると、それに連なる他の部分のインクも途切れることなく順次インク受容層に引き込まれてゆく。インク受容層に引き込まれたインクは、接着部の下部を含むインク受容層の領域に適切なインクドットを形成する。また、接着層の表面若しくは内部にインクが残りにくくなり、記録特性と接着性とを両立させることができる。
一方、インク受容層として膨潤吸収型を用いた場合には、図25(a),(b)のように、膨潤吸収型のインク受容層53がインク1003を吸収することにより、図25(c)のように、その部分1013のインク受容層53が膨らむおそれがある。このような場合には、接着層1012の表面に凹凸が生じて、接着性が低下する場合がある。また、膨潤吸収型のインク受容層53は、それを薄くしてもインクの吸収容量を大きくすることができるが、分子間にインクを吸収して膨潤するためにインクの吸収速度が遅い。そのため、着弾して拡がったインクの一部が接着部からはみ出して、接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過してインク受容層53の露出部1001に接したとしても、そのインクが他のインクをインク受容層53内に引きずり込む力は弱い。したがって、接着層の表面にインクが残留して接着不良を生じるおそれがある。また、膨潤吸収型のインク受容層は吸収速度が遅いため、図25(b)のように、インク受容層53にインク1003が吸収される速度より、インク受容層53の表面にインク1003が拡がる速度の方が速くなる。そのため、図25(c)のように、インク1003がインク受容層53の表面にインクが拡がり、結果として、画像中心1006が着弾点P1(図25(a))から露出部1001の中心部にまでずれて、画像の乱れが生じやすくなる。また、インクの乾燥速度よりもインクの吸収速度が遅いと、インクが吸収される前に接着層の表面のインクが乾燥して、色材が接着層の表面に残って接着性を低下させるおそれがある。したがって、インク受容層のインクの吸収速度は、インクの乾燥速度よりも十分に速くすることが重要である。すなわち、接着層の表面にインクが残らないように、インクをインク受容層の露出部に引きずり込む速度を早くすることが重要である。このような観点から、空隙吸収型のインク受容層を用いることが好ましい。
空隙吸収型のインク受容層は、インクを吸収する空隙を有していればよい。例えば、珪藻土、スポンジ、マイクロファイバー、吸水性ポリマー、樹脂粒子と水溶性樹脂で構成されたもの、無機微粒子と水溶性樹脂から構成されたもの等が挙げられる。このような材料により構成されるインク受容層がインクを吸収する速度は、接着剤がインクを吸収する速度よりも速い。これにより、インク受容層の露出部にインクの一部が接触したときに、接着層の表面もしくは内部に存在するインクをインク受容層に速やかに引きずり込むことができる。また、インク受容層の表面から吸収されたインクは、順次インク受容層の内部に浸透して、インク受容層の浸透異方性に応じて、膜厚方向および水平方向に拡がりながら吸収される。インク受容層の浸透異方性は、インクジェット記録画像の根幹となるインクドットの拡がりを適切に制御できるように、設計すればよい。すなわち、比較的大きいインクドットを必要とする場合は、膜厚方向の浸透性よりも水平方向の浸透性を高くればよい。逆に、比較的小さいインクドットを必要として、インクの吸収可能量を大きくする場合には、水平方向の浸透性よりも膜厚保方向の浸透性を高めるように設定すればよい。
空隙吸収型のインク受容層は、無機微粒子と水溶性樹脂とを含有させて、微細な空隙構造にインクを受容する構成とすることが好ましい。無機微粒子と水溶性樹脂より構成される空隙吸収型のインク受容層は、粒子を樹脂で結合させた隙間に、インクを吸収するための空隙を形成することにより、その空隙に多量のインクを吸収することができる。また、水溶性樹脂によって結着された無機微粒子間の空隙が、インク受容層内の全域にほぼ均一に配置されることによって、インクをほぼ等方的に浸透させることができる。
また、無機微粒子と水溶性樹脂より構成される空隙吸収型のインク受容層は、インク受容層に主体的に吸収された多量のインクが接着を阻害しないように、インク受容層の構造が制御しやすい。転写時にインク受容層の空隙構造が壊れて、インクの液体成分がインク受容層の表面に染み出して膜化したり、インクの液体成分が突沸してインク受容層と画像支持体との間の接着面に空気層などを生じたりした場合には、それらの接着が阻害されるおそれがある。無機微粒子と水溶性樹脂より構成される空隙吸収型のインク受容層は、転写時にインク受容層の空隙構造がほぼ崩れないように、その構造が制御しやすい。
無機微粒子を水溶性樹脂のバインダーで結合させることによって空隙が設けられたインク受容層は、無機微粒子が非常に硬い材質であるため、圧力や熱によっても空隙構造が壊れにくく、接着後も空隙構造をほぼ保持することが可能である。また、このようなインク受容層は、接着剤およびバインダーが溶融しても、吸収したインクをその内部に保持することができ、また蒸気が発生してもその内部に封じ込めることができるため、接着性が特に良好となり好ましい。加熱圧着時の熱によっても空隙構造が維持されていれば、インクの液体成分が個々の空隙内で突沸して蒸気が発生したとしても、接着面に空気層などが形成されないように、それを各々の空隙内で封じ込めて接着性を良好とすることができる。また、加熱圧着時の圧力によっても空隙構造がほぼ維持されていれば、空隙が潰れたり加熱によって溶解したりせずに、インクの液体成分である水などの主要溶媒や不揮発性溶剤を表面に染み出させることなく、接着性を良好とすることができる。また、無機微粒子と水溶性樹脂より構成される空隙吸収型のインク受容層は、特別な配向処理なくても作製できるため、生産性も良好である。
本発明者らの検討によれば、無機微粒子および水溶性樹脂によって構成される空隙吸収型のインク受容層の空隙容量は、0.1cm3/g〜約3.0cm3/g程度であった。細孔容積が0.1cm3/g未満の場合には、十分なインク吸収性能が得られず、インクが溢れて、インク受容層に未吸収のインクが残存するおそれがある。また、細孔容積が3.0cm3/gを超える場合には、インク受容層の強度が弱くなり、インク受容層内にクラックや粉落ちが生じ易くなる。要は、着弾したインクの一部が接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過してインク受容層の表面に接触した後、インクの他の部分がインク受容層に引きずり込むように吸収され、その吸収したインクをインク受容層の内部に保持するだけの空隙容量があればよい。その空隙容量は、加熱圧着による転写によっても、転写前の状態がほぼ維持されればよい。
無機微粒子および水溶性樹脂で構成される空隙吸収型のインク受容層において、上記の空隙容量を有する場合、インク受容層の空隙率は60%〜90%程度であった。インク受容層の空隙率が60%以下の場合には、十分なインク吸収性能が得られず、インクが溢れて、インク受容層に未吸収のインクが残存するおそれがある。また、空隙率が90%を超える場合には、インク受容層の強度が弱くなり、インク受容層内にクラックや粉落ちが生じ易くなるおそれがある。要は、着弾したインクの一部が、接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過してインク受容層の表面に接触した後、インクの他の部分がインク受容層に引きずり込むように吸収され、その吸収したインクをインク受容層の内部に保持するだけの空隙率があればよい。その空隙率は、加熱圧着による転写によっても、転写前のまま維持されればよい。
また、本発明者らの検討によれば、無機微粒子および水溶性樹脂によって構成される空隙吸収型のインク受容層の細孔直径の平均(平均細孔直径)は、10nm〜60nmの程度であった。平均細孔直径が10nm未満の場合には、十分なインク吸収性能が得られず、インクが溢れて、インク受容層に未吸収のインクが残存するおそれがある。また、平均細孔直径が60nm以上の場合には、画像の発色性や解像性が不十分となったり、インク受容層の強度が弱くなったり、インク受容層内にクラックや粉落ちが生じ易くなるおそれがある。要は、着弾したインクの一部が、接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過してインク受容層の表面に接触した後、インクの他の部分がインク受容層に引きずり込むように吸収され、その吸収したインクをインク受容層の内部に保持するだけの平均細孔直径があればよい。その平均細孔直径は、加熱圧着による転写によっても、転写前の状態が維持されればよい。
また、接着剤がインク受容層の空隙に入り込んで接着剤が空隙を埋めた場合には、インク吸収性が低下する。そのため、接着剤の平均粒子径がインク受容層の空隙径より小さくならないように、接着剤の平均粒子径およびインク受容層の平均細孔直径を設定することが好ましい。また、無機微粒子と水溶樹脂とにより形成される細孔の径は、無機微粒子の粒子径が大きくなると大きくなる。無機微粒子の粒子径を大きくする場合には、インク受容層の強度を確保するために、無機微粒子を固定化する水溶性樹脂のバインダー量も多くすればよい。すなわち、無機微粒子の粒子径に応じてバインダーを量を調整し、インクがインク受容層に引きずり込まれるように吸収されて、吸収されたインクがインク受容層の内部に保持されるように、細孔の平均直径が設定できればよい。
また、インクの色材が顔料である場合に、その色材の平均粒子径を空隙吸収型のインク受容層の平均細孔直径よりも大きくすると、色材成分がインク受容層の露出部の表面に残りやすくなる。さらに、インク中の水成分や溶媒成分がインク受容層の内部に浸透するため、顔料の色材成分と、水分や溶媒成分と、が固液分離して、インク受容層の表面に色材が残りやすくなる。このような場合には、顔料インクの濃度に応じて接着剤の厚みを調整すればよい。すなわち、顔料の色材をインク受容層の露出部に全て収納して、インク受容層の表面に残留する色材が接着性の阻害要因とならないようにすればよい。
例えば、色材である顔料がインク受容層の表面で固液分離して、その全てがインク受容層の表面に残る場合を想定し、インクジェット方式により安定して吐出可能な水系インクにおける顔料などの固形分の重量濃度として、インクの顔料濃度を5%程度とする。このような場合には、接着層の厚みをインク受容層の厚みの100分の3から2分の1程度の範囲とすれば、接着剤の高さよりも色材が高く突き出ることがなく、インク受容層の表面に残留する色材が接着性の阻害要因とならず、良好な接着性を実現できる。また、加熱転写時に溶融した十分な量の接着剤により、インク受容層の表面に残留した色材を覆って、色材と画像支持体との間に、溶融した接着剤による接着膜を形成するできるため、さらに高い接着性を得ることができる。例えば、インク滴の体積が2〜4pl、空隙吸収型のインク受容層の空隙率が80%、記録画像がカラー画像である場合には、インク受容層の厚みは8〜16μm程度、接着部の厚みは0.3μmから8μm程度が好ましい。インク滴の体積の環境によるばらつき、およびインク受容層の空隙率の製造上のばらつきなどを考慮すると、接着部の厚みは、0.5μmから5μmがより好ましい。
一方、インク受容層の空隙径を想定される顔料色材の平均粒子径よりも大きくすることにより、顔料などの固形成分の一部もインク受容層の内部に浸透することが可能となり、接着層の厚みを小さくすることができる。但し、インク受容層の空隙径が顔料の平均粒子系よりも格段に大きく、かつインク受容層の空隙がインクの液体成分によってある程度満たされている場合には、記録物の保存条件によっては、画像滲み(色材マイグレーション)を誘発するおそれがある。すなわち、残留したインクの液体成分と共に、色材である顔料成分も徐々にインク受容層内を浸透拡散するおそれがある。したがって、インク受容層の空隙径は、色材である顔料の平均粒子径よりもやや大きい程度、または顔料の二次粒子若しくは複合粒子よりもやや大きい程度にとすることにより、インク受容層内での顔料の浸透性を制御することができる。この結果、画像の記録特性に優れ、かつ保存性に優れた転写材を提供することができる。
上述の色材マイグレーションは、色材がインク中に溶解されているために固形分がない染料インクの場合には、特に注意が必要となる。そのためには、例えば、インク受容層の空隙内に一旦吸収充填されたインクの一部が若干でも乾燥したときに、空隙間のインクの連結を分断して、空隙内に残留するインクが各々孤立しやすいように、空隙の連結部をより狭くする。
図26(a)のように、無機微粒子1501と水溶性樹脂とで構成される空隙吸収型のインク受容層の空隙1500に染料インク1503が吸収された直後、そのインク1503は分断されることなく、連なって空隙1500の内部に浸透する。このとき、インク受容層の空隙の全てはインクによっては置き換えられず、一部は空気が存在したままとなる。インクの一部が若干でも蒸発すると、図26(b)のように、空隙1500の連結部の部分に残存した空気の一部が移動して、空気層1502ができる。空隙1500内に連なって浸透したインク1503は、空気層1502により分断され、空隙1500内のインクは各々孤立した状態となる。空気層1502により分離されたて孤立したインク1503は、空気層1502が抵抗となり、移動しにくくなる。これらの作用によって、染料インクを用いた場合においても、画像滲み(色材マイグレーション)を抑制することができる。
具体的には、図27のように、空隙間のインクの連結を分断したときに空隙内に残留するインクが各々孤立しやすいように、インク受容層の空隙の連結部1504をより狭くすることが好ましい。無機微粒子1501と水溶性樹脂とによって構成される空隙吸収型のインク受容層においては、無機微粒子1401が図27(a)のような球状、図27(b)のような平板状、あるいはスピンドル構造である場合が多い。そのため、インク受容層の形成時に無機微粒子1401が不規則に配向し、インク受容層の空隙の連結部1504を狭くしやすい。この結果、空隙間のインクの連結を分断したとき空隙内に残留するインクが孤立しやすくなる。
しかしながら、図28(a)のように、繊毛状の繊維1505等によって空隙型のインク受容層が構成されている場合には、繊維1505が規則的に配向するため、インク受容層の空隙の連結部は連続した形状をとりやすい。そのため、インク1503が若干乾燥しても、図28(b)のように空隙間のインク1503の連結を分断し難く、空隙内に残留するインクは、インク吸収直後と同様に連なった状態になり、マイグレーションが発生しやすくなる。したがって、本発明のように、無機微粒子と水溶性樹脂によって構成される空隙吸収型のインク受容層を用いることは、インクが染料インクの場合にも有効である。
本発明において、空隙容量、空隙率、および空隙の細孔直径は、BET法により算出できる。「BET法」とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、細孔容積は、窒素脱着等温線よりBJH法によって計算された細孔半径0.7〜100nmの細孔容積である。また、平均細孔直径とは、窒素脱着等温線よりBJH法によって求められた累積細孔容積分布曲線において、細孔半径0.7〜100nmの累積細孔容積の1/2の累積細孔容積を有する直径である。空隙率は、細孔容積の全細孔容積に対する割合である。吸着気体としては、通常、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表す方法としてはBET式(Brunauer、Emmett、Tellerの式)が知られており、比表面積決定に広く用いられている。
無機微粒子の代わりに、加熱圧着時に溶融変形しにくいように溶融温度Tgが転写温度よりも高い樹脂粒子を用いて、この樹脂粒子をバインダー樹脂により結合して、空隙が形成された空隙吸収型のインク受容層を形成しても良い。樹脂粒子の中でも溶融温度Tgが転写温度よりも高い樹脂粒子は、転写時の熱によっても粒子構造が維持されるため、転写時の熱で樹脂粒子が溶融して空隙が潰れることがない。また、転写温度よりも溶融温度が高い樹脂粒子は、高Tgを有するものであり、このような高Tgの樹脂粒子は、一般に、樹脂粒子を構成する分子構造が剛直であるものが多く、比較的硬い粒子である。そのため、圧力によって空隙が潰れることがない。このように、圧力によって空隙が潰れたり、加熱によって空隙が溶解することがないため、インクの液体成分である水などの主要溶媒や不揮発性溶剤が表面に染み出すことがなく、接着性を良好とすることができる。
以下、空隙吸収型のインク受容層の一例として、水溶性樹脂と、少なくとも無機微粒子と、を含有したインク受容層の構成材料について詳細に説明する。
[3−1−1]無機微粒子
無機微粒子は、無機材料からなる微粒子である。無機微粒子は、インク受容層に色材を受容する空隙を形成する機能を有する。
無機微粒子を構成する無機材料の種類としては、特に制限はない。ただし、インク吸収能が高く、発色性に優れ、高品位の画像が形成可能な無機材料であることが好ましい。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ケイソウ土、アルミナ、コロイダルアルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物、リトポン(硫酸バリウムと硫化亜鉛の混合物)、ゼオライト等を挙げることができる。
これらの無機材料からなる無機微粒子の中でも、アルミナ及びアルミナ水和物からなる群より選択される少なくとも1種の物質からなるアルミナ微粒子が好ましい。アルミナ水和物としては、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物等を挙げることができる。アルミナ、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物は、インク受容層の透明性および画像の記録濃度を向上させることができる点において好ましい。
ベーマイト構造のアルミナ水和物は、長鎖のアルミニウムアルコキシドに対して、酸を添加して加水分解・解膠を行うことによって得ることができる(特開昭56−120508号公報参照)。解膠には有機酸、無機酸のいずれを用いてもよい。ただし、硝酸を用いることが好ましい。硝酸を用いることにより、加水分解の反応効率を向上させて、形状が制御されたアルミナ水和物、および、その分散性が良好な分散液を得ることができる。
また、無機微粒子の形状としては、球状あるいは平板状であって、平均アスペクト比が1以上10以下のものが好ましい。なお、この「平均アスペクト比」は、特公平5−16015号公報に記載されている方法で求めることができる。すなわち、平均アスペクト比は、粒子の「厚さ」に対する「直径」の比で示される。ここで「直径」とは、無機微粒子を顕微鏡または電子顕微鏡で観察したときの粒子の投影面積と等しい面積、を有する円の直径を表す。平均アスペクト比が1未満の無機疑粒子を使用した場合、インク受容層の構成材料によっては、インク受容層の細孔分布範囲が狭くなり、無機微粒子が繊毛状となる。そのため、無機見粒子が規則的に配向しやすく、インク受容層の細孔径がインク吸収性を阻害する程度にまで小さくなる場合がある。また、平均アスペクト比が10を超える無機微粒子を使用した場合、無機微粒子の粒子径を揃えて製造するのが困難になる。
本発明においては、無機微粒子を平板状であって平均アスペクト比が1以上10以下とすることにより、インク受容層の形成時に無機微粒子が不規則的に配向やすくなり、またインク受容層の細孔径がインク吸収性を阻害する程度にまでは小さくならない。すなわち、インク受容層の空隙の連結部がより狭くした形状となりやすくなるため、空隙間のインクの連結を分断して空隙内に残留するインクを各々孤立しやすくして、マイグレーションに対して有効となる。
無機微粒子は、その平均粒子径を精密に制御することが好ましい。無機微粒子の平均粒子径を小さくすることにより、光散乱を抑制して、インク受容層の透明性を向上させることができる。例えば、保護層付の接着転写可能な転写材を用いて、透明保護層の側からの画像を視認する場合には、通常、基材層の一部である保護層には十分な透明性が必要となると共に、インク受容層自体にもある程度の透明性が必要となる。そのため、インク受容層に、平均粒子径が小さい無機微粒子を用いることが有効である。また、無機微粒子の平均粒子径を小さくした場合には、インク受容層の空隙径が小さくなってインクの吸収容量が低下するため、インク受容層の厚みを充分に大きくする必要がある。
一方、インク受容層における無機微粒子の平均粒子径を大きくした場合には、インク受容層の空隙径を大きくすることができる。そのため、顔料インクを用いた場合には、顔料などの固形成分の一部をインク受容層の内部に浸透させることが可能となる。また、インク受容層は、無機微粒子による光散乱によって透明性が低下するため、記録情報の隠蔽性が求められる場合には、無機微粒子の粒子径を大きくすることが有効となる。一方、無機微粒子の粒子径を大きくした場合には、インク受容層の強度が低下する。このような場合、インク受容層の強度を確保するためには、無機微粒子を固定化する水溶性樹脂のバインダー量を多くすればよい。このように、無機微粒子の平均粒子径は、インク受容層の吸収性とインク受容層の透明性を考慮して、転写材および記録物の使用用途に応じて最適に選択すればよい。このような無機微粒子の平均粒子径は、120nm〜10μmであることが好ましく、より好ましくは120nm〜1μm、さらに好ましくは140nm〜200nmである。
無機微粒子は、公知の無機微粒子をそのまま用いてもよいし、粉砕分散機等を用いて公知の無機微粒子の平均粒子径および多分散指数を調整したものを用いてもよい。粉砕分散機の種類としては特に制限はない。例えば、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、湿式メディア型粉砕機(サンドミル、ボールミル)、連続式高速撹拌型分散機、超音波分散機等の従来公知の粉砕分散機を用いることができる。
粉砕分散機をより具体的に例示すると、以下全て商品名で、マントンゴーリンホモジナイザー、ソノレータ(以上、同栄商事製);マイクロフルイタイザー(みずほ工業製);ナノマイザー(月島機械製);アルティマイザー(伊藤忠産機製);パールミル、グレンミル、トルネード(以上、浅田鉄鋼製);ビスコミル(アイメックス製);マイティーミル、RSミル、SΓミル(以上、井上製作所製);荏原マイルダー(荏原製作所製);ファインフローミル、キャビトロン(以上、太平洋機工製);等を挙げることができる。
また、無機微粒子は、平均粒子径の範囲を満たし、かつ、多分散指数(μ/<Γ>2)が0.01〜0.20であることが好ましく、0.01〜0.18とすることがさらに好ましい。上述の範囲に設定することにより粒子の大きさを一定に保つことが可能になるため、インク受容層の光沢性及び透明性を向上させることができる。したがって、画像の記録濃度を向上させて、記録後の画像のくすみを抑制することができる。
なお、本明細書にいう平均粒子径および多分散指数は、動的光散乱法によって測定された値を、「高分子の構造(2)散乱実験と形態観察 第1章 光散乱」(共立出版 高分子学会編)、またはJ.Chem.Phys.,70(B),15 Apl.,3965(1979)に記載のキュムラント法によって解析することにより求めることができる。動的光散乱の理論によれば、異なる粒径を持つ微粒子が混在している場合、散乱光からの時間相関関数の減衰に分布を有する。この時間相関関数をキュムラント法により解析することにより、減衰速度の平均(<Γ>)と分散(μ)が求まる。減衰速度(Γ)は粒子の拡散係数と散乱ベクトルの関数で表わされるため、ストークス−アインシュタイン式を用いて、流体力学的平均粒径を求めることができる。したがって、減衰速度の分散(μ)を平均の二乗(<Γ>2)で除した多分散指数(μ/<Γ>2)は、粒径の散らばりの度合いを表わしており、値が0に近づく程、粒径の分布は狭くなることを意味する。本実施形態において定義される平均粒子径および多分散指数は、例えば、レーザ粒径解析装置PARIII(大塚電子製)等を用いて容易に測定することができる。
無機微粒子は、1種を単独で用いたり、または2種以上を混合して用いることができる。「2種以上」とは、材質自体が異なるものの他、平均粒子径、多分散指数等の特性が異なるものも含まれる。
[3−1−2]水溶性樹脂
水溶性樹脂は、25℃において、水と十分に混和する樹脂、あるいは水に対する溶解度が1(g/100g)以上の樹脂である。また、空隙吸収型の場合、水溶性樹脂は、無機微粒子を結着するバインダーとして機能する。また、転写材と画像支持体との接着の際には、水溶性樹脂が接着時にガラス転移温度以上に溶解することにより画像支持体と接着する。
水溶性樹脂としては、例えば、澱粉、ゼラチン、カゼイン及びこれらの変性物;
メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;
ポリビニルアルコール(完全けん化、部分ケン化、低けん化等)又はこれらの変性物(カチオン変性物、アニオン変性物、シラノール変性物等);
尿素系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、エピクロルヒドリン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸又はその共重合体樹脂、アクリルアミド系樹脂、無水マレイン酸系共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂等の樹脂;等を挙げることができる。
水溶性樹脂の中でも、ポリビニルアルコール、特に、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより得られる、けん化ポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールのSP値は、後述するPVCやPET−GのSP値に近い。したがって、転写時の熱によって水溶性樹脂および画像支持体が溶融すると、両者の相溶性が高まり、水溶性樹脂が画像支持体に強固に接着される。ポリビニルアルコールは、画像支持体としてPVCやPET−Gを使用した場合に、画像支持体とインク受容層との密着性(転写性能)を向上させることができ、特に好ましく用いられる。
インク受容層は、けん化度70〜100mol%のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。けん化度とは、ポリビニルアルコールの酢酸基と水酸基の合計モル数に対する水酸基のモル数の百分率を意味する。
けん化度を、好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは86mol%以上とすることにより、インク受容層に適度な硬さを付与することができる。特に、搬送層が剥離可能、かつ透明保護層などの機能層が剥離されない基材、を用いた転写材においては、剥離工程においてインク受容層の箔切れ性が向上し、端部のバリの発生を抑制することができる。また、無機微粒子とポリビニルアルコールとを含む塗工液の粘度を低下させることができる。したがって、透明保護層に対して塗工液を塗工し易くなり、転写材の生産性を向上させることができる。一方、けん化度を、好ましくは100mol%以下、さらに好ましくは90mol%以下とすることにより、インク受容層に適度な柔軟性を付与することができる。これにより、特に、搬送層が剥離可能、かつ透明保護層などの機能層が剥離されない基材、を用いた転写材においては、透明保護層とインク受容層との接着強度を向上させて、接着強度の不足による透明保護層からのインク受容層の剥離を抑制することができる。また、インク受容層に適度な親水性を付与することができ、インクの吸収性が良好となる。したがって、インク受容層に高品位の画像を記録することが可能となる。
けん化度の範囲を満たす、けん化ポリビニルアルコールとしては、完全けん化ポリビニルアルコール(けん化度98〜99mol%)、部分けん化ポリビニルアルコール(けん化度87〜89mol%)、低けん化ポリビニルアルコール(けん化度78〜82mol%)等を挙げることができる。それらの中でも、部分けん化ポリビニルアルコールが好ましい。
インク受容層は、重量平均重合度が2,000〜5,000のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。
重量平均重合度を、好ましくは2,000以上、さらに好ましくは3,000以上とすることにより、インク受容層に適度な柔軟性を付与することができる。したがって、剥離工程においてインク受容層の箔切れ性を向上させて、端部のバリの発生を抑制することができる。一方、重量平均重合度を、好ましくは5,000以下、さらに好ましくは4,500以下とすることにより、インク受容層に適度な硬さを付与することができる。これにより、透明保護層とインク受容層との接着強度を向上させて、接着強度の不足による透明保護層からのインク受容層の剥離を抑制することができる。また、無機微粒子とポリビニルアルコールとを含む塗工液の粘度を低下させることができる。したがって、透明保護層に対して塗工液を塗工し易くなり、転写材の生産性を向上させることができる。また、インク受容層の細孔が埋まることを防止して細孔の開口状態を良好に保つことができ、インクの吸収性が良好となる。したがって、インク受容層に高品位の画像を記録することが可能となる。
重量平均重合度の値は、JIS−K−6726に記載の方法に準拠して算出された値である。
水溶性樹脂は、1種を単独で用いることができ、または2種以上を混合して用いることができる。「2種以上」とは、けん化度、重量平均重合度等の特性が異なるものも含まれる。
水溶性樹脂の量は、無機微粒子の100質量部に対して、3.3〜20質量部とすることが好ましい。水溶性樹脂の量を、好ましくは3.3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上とすることにより、空隙が圧力や熱によっても崩れることがない、適度な強度を有するインク受容層を形成することができる。一方、水溶性樹脂の量を、好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下とすることにより、インク受容層内の空隙のバインダー量を最適な量にすることができる。そのため、インクの吸収性を良好とし、水溶性樹脂によって結着された無機微粒子間の空隙をインク受容層内の全域にほぼ均一に配置して、インクをほぼ等方的に浸透させることができる。なお、水溶性樹脂の量を3.3質量部以下にした場合には、無機微粒子を結着するためのバインダー量が少ないために、インク受容層の強度が低下して、インク受容層のひび割れおよび粉落ちが発生するおそれがあるため、好ましくない。一方、水溶性樹脂の量を20質量部以上とした場合には、水溶性樹脂の量が多くなるため、水溶性樹脂がインク受容層の空隙を埋めて、インクの吸収性が損なわれるため好ましくない。
[3−1−3]カチオン性樹脂
本実施形態のインク受容層は、カチオン性樹脂を含有してもよい。カチオン性樹脂としては特に限定されない。好ましくは、このようなカチオン性樹脂として、例えば、ポリアリルアミン(例えば、アリルアミン系重合物、ジアリルアミン系重合物等)およびウレタン系重合物から選択される少なくとも1種の重合物を用いることが好ましい。カチオン性樹脂は、一般的にマイナスに帯電しているインクと静電気的に結合するため、インク受容層あるいはインク受容層の表面において染料インクや顔料インクの色材成分を定着させることができる。
このようなカチオン性樹脂としては、例えば、ポリアリルアミン(例えば、アリルアミン系重合物、ジアリルアミン系重合物等)およびウレタン系重合物から選択される少なくとも1種の重合物を用いることが好ましい。これらの中でも、特に、後述する低分子のポリアリルアミンは、分子構造が小さいために、インク受容層表面において単位面積当たりのカチオン基を多く存在させることができる。そのカチオン性樹脂が一般的にマイナスに帯電しているインクと静電気的に結合する等の理由から、後述する低分子のポリアリルアミンは、特に好ましく用いることができる。
なお、ポリアリルアミンは、下記一般式(8)で示される少なくとも1種のポリアリルアミンであることが好ましい。
(式中、R3、R4、R5は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、アルケニル基、アルカノール基、アリルアルキル基、アリルアルケニル基を示す。また、R3、R4、R5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。X−は、無機系、有機系の陰イオンを示す。nは重合度を示す整数である。)
カチオン性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜15,000、さらに好ましくは1,000〜10,000、特に好ましくは1,000〜5,000である。重量平均分子量をこれらの範囲内とすることにより、塗工液の安定性を向上させることができることに加えて、インク受容層の空隙を減少しにくくして、色材の吸収性を維持することができる。さらに、カチオン性樹脂の分子量を5,000以下とすることにより、インク受容層の表面にカチオン基(すなわち、静電気的な結合を行う吸着サイト)をより多く分布させて、インク受容層あるいはインク受容層の表面にインクを強固に定着することができる。なお、カチオン性樹脂の重量平均分子量が15000より大きくなると、画像支持体と接するインク受容層の表面にカチオン基(すなわち、静電気的な結合を行う吸着サイト)が少なくなるため、インク受容層との密着性(転写性能)が低下する。一方、カチオン性樹脂の重量平均分子量が1000より小さいと、記録時にインク溶媒と共にインク受容層の内部にカチオン性樹脂が移動して、インク受容層の表面に分布するカチオン基の量が少なくなるため好ましくない。
カチオン性樹脂の使用量は、無機微粒子(アルミナ水和物等)に対して0.01〜5質量%とすることが好ましく、0.01〜3質量%とすることがさらに好ましい。カチオン性樹脂の使用量が上記の範囲を超えた場合には、無機微粒子の分散液、およびその分散液にバインダーを添加した塗工液の粘度が高くなり、分散液および塗工液の保存性や塗工性が低下するおそれがある。
[3−2]接着剤の材質
本実施形態の転写材は、上述したように、基材上に空隙吸収型のインク受容層を設け、そのインク受容層の表面に接着層の接着剤を離散的に設けることにより、インク受容層の表面は、直接露出する露出部が残るように構成されている。接着層の接着剤は、インクをほぼ吸収しない接着剤、もしくはインクを吸収したとしても吸収速度が遅い接着剤であることが好ましい。着弾したインクの一部は、接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過して、インク受容層の露出部に直接接し、そして、インク受容層に吸収され始めると、それに連なる他の部分のインクも途切れることなく順次インク受容層に引き込まれてゆく。すなわち、インクは、接着剤をほぼ介さずに、インク受容層の露出部にすばやく接することにより、その露出部との接触点を中心として、インク吸収速度の速い海部のインク受容層に引きずり込まれるように吸収される。したがって、接着部の表面および接着部の内部にはインクが残りにくい。このように、接着剤はインクの吸収には直接的に関与しないため、その接着剤の材質はインクとは関係なく、画像支持体との接着性を重視して選定することができる。したがって、本実施形態の転写材は、様々な画像支持体と接着することが可能となる。具体的に、使用者は、転写材と接着される特定の画像支持体の材質に応じて、その画像支持体に対する接着性に優れた接着剤を公知の接着剤の中から選択して用いることができる。例えば、接着剤として、PET、PVC、PET−G、アクリル、ポリカーボネート、POM、ABS、PE、PPといったプラスチック、紙、ガラス、木材、金属等の特定の画像支持体との接着性に優れたものを選択して用いることができる。
公知の接着剤としては、具体的には、有機天然系の材質として、しょうふ、デキストリン、そくい等のでんぷん系、にかわ、カゼイン、大豆タンパク等のたんぱく系、天然ゴム系、漆、松やに、ろう、アスファルトなどが挙げられる。
有機合成系の材質としては、酢酸ビニル系、ポリオール系、ポリビニルアセタール系、酢酸ビニル共重合系、エチレン酢酸ビニル系、塩化ビニル系、アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、セルロース系、オレフィン系、スチレン系、ユリア系、メラミン系、フェノール系、レゾルシノール系、エポキシ系、ポリウレタン系、シリコーン系、ポリアミド系、ポリ弁図イミダゾール系、ポリイミド系、イソシアネート系、クロロプレンゴム系、二トリルゴム系、スチレンブタジエンゴム系、ポリサルファイド系、ブチルゴム系、シリコーンゴム系、アクリルゴム系、変性シリコーンゴム系、ウレタンゴム系、シリル化ウレタン樹脂系などが挙げられる。
また、無機系の材質としては、ケイ酸ソーダ等の水ガラス系、ポルトランドセメント、しっくい、石膏、マグネシアセメント、リサージセメント等のセメント系、セラミックス系などが挙げられる。接着剤は、上記の材質のみに限定されない。
接着剤は、1種もしくは複数種選択してもよい。図1の接着剤1002のように、特定の画像支持体への接着性に優れた接着剤1002(1)と、インク受容層への親和性に優れた接着剤1002(2)と、を選択しても良く、これにより、画像支持体とインク受容層のどちらにも良好に接着することができる。例えば、画像支持体が樹脂の場合、その画像支持体への親和性に優れた接着剤としては、例えば、画像支持体の材質とSP値が近い材料を選択することが好ましい。また、インク受容層への親和性に優れた接着剤としては、例えば、インク受容層を構成する水溶性樹脂とSP値が近い材料を選択することが好ましい。
特定の画像支持体への接着性に優れた接着剤としては、外的刺激によって特定の画像支持体への接着性が発現するような刺激活性型の接着剤を用いてもよい。刺激活性型の接着剤としては特に限定されず、公知の刺激活性型の接着剤を用いることができる。例えば、熱、圧力、水、光、反応剤等を外的刺激とする刺激活性型接着剤が挙げられる。
例えば、刺激活性型接着剤として、熱を外的刺激とし、接着剤のガラス転移温度以上に加熱することによって樹脂が溶融して、画像支持体との接着性が発現する熱可塑性樹脂を主成分とする感熱型接着剤を用いても良い。または、刺激活性型接着剤として、圧力を外的刺激とし、常温で短時間、わずかな圧力を加えるだけで画像支持体に接着可能な感圧型接着剤、すなわち粘着剤を用いても良い。または、刺激活性型接着剤として、水を外的刺激とし、乾燥状態の接着剤に水を塗布して湿潤状態にすることより接着性を発現させる水活性型接着剤、すなわち再湿性接着剤を用いてもよい。ただし、水活性型接着剤を用いる場合には、接着時に接着面に水が付着するため、インクの色材としては耐水性のものが好ましく、例えば、耐水染料でもよく、より好ましくは顔料である。
また、転写材を特定の画像支持体に接着せずに用いる場合は、インクジェット記録された記録面を保護することを目的として、自己溶融接着型の接着剤を用いても良い。自己溶融接着型の接着剤とは、インク受容層上に設けられた接着剤が溶融して、隣接する接着剤同士が接着する接着剤である。自己溶融型接着剤を用いることにより、インク受容層上に設けられた接着剤が溶融して、隣接する接着剤同士がインクジェット記録された記録面に覆いながら接着する。これにより、インクジェット記録された記録面が自己溶融接着型の接着剤で保護されて、記録物の耐擦過性が向上する。
接着剤の色および透明性は、転写材および記録物の使用目的に応じて決めればよい。接着剤は透明であってもよく、半透明または不透明であってもよく、あるいは着色されていてもよい。例えば、記録内容を基材側と接着層側の両面から視認可能とする場合には、接着剤は透明であってもよい。また、記録内容を基材側から視認可能とする場合には、接着剤は透明であってもよい。また、記録内容を接着層側から視認を可能とする場合には、接着剤は透明であってもよく、あるいは背景色を出すために接着剤は着色してあってもよい。また、後述するように、記録情報を隠蔽するために接着剤を白色としてもよく、その場合には、接着剤の粒子系を可視光波長よりも大きくすればよい。
[3−3]基材の材質
基材の材質、転写材および記録物の用途に応じて選択することができ、特に限定されない。
例えば、基材を構成する樹脂フィルムとして、
ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル樹脂;
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂;
ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、エチレン−4フッ化エチレン共重合体等のポリフッ化エチレン系樹脂;
ナイロン6、ナイロン6,6等の脂肪族ポリアミド樹脂;
ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ビニロン等のビニル重合体樹脂;
三酢酸セルロース、セロハン等のセルロース系樹脂;
ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂;
ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド等の、その他の合成樹脂;
等が挙げられる。樹脂フィルムは、1種を単独で用いること、または2種以上を複合あるいは積層して用いることができるその他、ガラス、金属板、木材なども挙げることができる。
基材が、離型剤を含有する組成物からなる離型層を含む場合には、離型剤の種類は特に限定されない。好ましくは、離型性に優れ、ヒートローラの熱およびインクジェット記録ヘッド(特に、吐出エネルギー発生素子として電気熱変換素子(ヒータ)を用いたサーマル式のインクジェット記録ヘッド)が発生する熱によって容易に溶融しない材料である。例えば、シリコーンワックスなどのワックス類に代表されるシリコーンワックス、シリコーン樹脂などのシリコーン系材料;フッ素樹脂などのフッ素系材料;は、離型性に優れる点において好ましい。
[3−3−1]搬送層が剥離されない基材の材質
基材の搬送層が剥離されない転写材が、建材、ポスター、壁紙、サインディスプレイ用プレートなどの作製に使用される場合には、上述した基材の中でもPET、アクリル、ポリカーボネート、POM等が好ましく用いられる。
また、転写材を包装材として用いる場合には、好ましい基材の材料としては、上述した基材の中でも、ポリプロピレン系樹脂からなる樹脂フィルムを用いることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂としては、結晶性ポリプロピレン(ホモポリプロピレン)の他、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン等を共重合したコポリマーやターポリマーであっても、ある程度の剛性を確保できるものであれば使用することができる。
また、転写材を包装材として使用する場合、基材は、インク受容層の形成面とは逆面にヒートシール層を備えてもよい。ヒートシール層を構成するヒートシール性樹脂材料としては、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂の少なくともいずれかを用いることが好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、HDPE、LDPE、L・LDPEを挙げることができる。一方、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン−α−オレフィン共重合体、およびこれらの混合物を挙げることができる。また、ヒートシール性、フィルムの透明性、および耐傷付き性等を勘案すると、α−オレフィンに由来する構成単位の含有率が3〜50モル%のものが好適である。樹脂としては、ランダム共重合体およびブロック共重合体のいずれでもよいが、ランダム共重合体が好ましい。上記のα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等の炭素数2〜10のものを挙げることができる。これらのα−オレフィンは、2種以上を用いてもよい。
プロピレン系樹脂は比較的低温度で接着可能であるため、ヒートシール性樹脂材料として好ましい。また、ヒートシール性樹脂材料は、基材を形成しうるポリプロピレン系樹脂等よりも融点が低いことが好ましい。このような材料としては、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン−1共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体を金属イオンにより架橋したアイオノマー、ポリブテン−1、ブテン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ペンテン共重合体、これらのうちの2種以上の混合物、およびポリプロピレンとこれらとの混合物が好まし。なお、目的・用途に応じた接着性が得られるものであれば、ヒートシールの材料は何ら制限を受けるものではない。
ヒートシール層の厚さは特に限定されない。但し、ヒートシール層の厚さは、0.5μm以上かつ40μm以下であることが好ましい。ヒートシール層の厚さを0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上とすることにより、加熱圧着させる際の熱伝導を良好として、インク受容層とヒートシール層との接着性をさらに向上させることができる。一方、ヒートシール層の厚さを40μm以下、さらに好ましくは10μm以下とすることにより、ヒートシール層の透明性を向上させることができる。
ヒートシール層は、ヒートシール性樹脂材料を、ドライラミネートや押出しラミネート等によって基材に積層して形成することができる。押出しラミネートによってヒートシール層を形成する方法としては、(i)基材に対して、有機チタネート系、ポリエチレン・イミン、ウレタン系、ポリエステル系等のアンカー剤を塗布し、このアンカー剤の塗布面に、PP、EVA、アイオノマー等によるヒートシール層をフィルム状に溶融押出し成形する押出しラミネート法;(ii)2台以上の押出し機を用いて基材になる樹脂と、ヒートシール層になる樹脂と、を溶融状態でダイ内部またはダイの開口部で接合させる共押し出しラミネート法等を利用することができる。
[3−3−2]搬送層が剥離される基材の材質
基材の搬送層が剥離される転写材は、IDカード、社員証、クレジットカード等の各種セキュリティーカード分野、マイナンバーおよびパスポート等の公的文書通知、包埋カセット等の薬理/病理分野で用いることができる。このような用途において、好ましい基材の材料としては、上述した基材の中でもPETが好ましい。また、剥離可能な基材は、透明保護層やホログラム層を含んでいてもよい。
[3−3−3]透明保護層の材質
以下、透明保護層の構成材料について説明する。透明保護層は、1種あるいは複数のエマルション粒子を用いて形成してもよいが、異なるガラス転移温度を有する2種類のエマルジョン(エマルジョンE1、エマルジョンE2)を含有していることが好ましい。
エマルジョンE1の材質としては、アクリル系樹脂、酢ビ樹脂、塩ビ樹脂、エチレン/酢ビ共重合樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の樹脂、またはそれらの共重合体樹脂が好ましい。上記の中でもアクリル系樹脂は、比較的低温での造膜が可能であって、塗膜の透明性が高く、かつ水溶性樹脂として含有されるけん化ポリビニルアルコールへとのSP値が近く密着性を向上させることができるため、特に好ましく使用される。
エマルジョンE2の材質としては、エマルジョンE2の材質と同じものを用いることができるが、好ましくはウレタン系樹脂を用いることにより、適度なやわらかさを付与し、かつ、べたつきを抑えることができる。さらには、膜の脆さや薬品への溶解性を改善して、アルコールなど薬品に浸漬しても割れやはがれ等が起きにくくなり、耐薬品性を向上させることができる。エマルジョンE2は、エマルジョンE1と異なる種類の樹脂を用いることが好ましく、種類の異なる樹脂を用いることにより、樹脂同士の相溶が起こりにくくなり、転写前の状態で膜と粒子との共存状態が維持しやすくて、箔切れ性が良好となる。エマルジョンE1としてアクリル系樹脂を用いた場合、エマルジョンE2として特に好ましくはウレタン系樹脂である。
透明保護層は、インクジェット記録物を水に長時間浸漬したときに発生する透明保護層のひび割れを防止するために、水膨潤性樹脂を含有して、水分を系外に排出する機構を備えてもよい。水膨潤性樹脂としては、水により膨潤して、水に溶解するタイプの水溶性樹脂、および水に不溶なタイプの吸水性樹脂が含まれる。
水溶性樹脂の種類は、特に限定されない。例えば、前述したインク受容層の水溶性樹脂と同じものを用いることができる。それらの中でもポリビニルアルコールとして、完全けん化、部分ケン化、低けん化等、あるいは、これらの変性物(カチオン変性物、アニオン変性物、シラノール変性物等)を特に好ましく用いることができる。特に、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより得られる、けん化ポリビニルアルコールが好ましい。
ポリビニルアルコールは、けん化度が75〜100mol%のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。けん化度を好ましくは86mol%以上、より好ましくは98mol%以上とすることにより、ポリビニルアルコールが吸水により膨潤する量を最適化し、透明保護層の表面から水分を蒸発させて、ひび割れの発生をより抑制することができる。さらに、水分の吸収速度を抑えて、液体汚れからの記録情報の汚染を防止することもできる。けん化度が86mol%よりも小さいと、記録物を水に浸漬したときに、ポリビニルアルコールの吸水により膨潤する量が大きくなって、ひび割れが発生しやすくなる。また、水分の吸収速度が速くなり、液体汚れによる汚染が起こりやすくなる。さらに、ポリビニルアルコールの強度が低下し、透明保護層の擦過性が低下するおそれがある
透明保護層は、重量平均重合度が1,500〜5,000のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。重量平均重合度を好ましくは1,500以上、さらに好ましくは2,000以上とすることにより、ポリビニルアルコールが吸水により膨潤する量を最適化し、透明保護層の表面から水分を蒸発させて、ひび割れの発生をより抑制することができる。さらに、水分の吸収速度を抑えて、液体汚れからの記録情報の汚染を防止することもできる。一方、重量平均重合度を好ましくは5,000以下、さらに好ましくは4,500以下とすることにより、透明保護層を過度に硬くすることがなく、透明保護層に応力が掛ったときにもひび割れを起こりにくくすることができる。重量平均重合度の値は、JIS−K−6726に記載の方法に準拠して算出された値である。
透明保護層の重量平均重合度が1500より小さいと、記録物を水に浸漬したときに、ポリビニルアルコールの吸水により膨潤する量が大きくなって、ひび割れが発生しやすくなる。また、水分の吸収速度が速くなり、液体汚れによる汚染が起こりやすくなる。さらには、ポリビニルアルコールの強度が低下して、透明保護層の擦過性が低下するおそれがある。重量平均重合度が5000より大きいと、ポリビニルアルコール分子内の水素結合量が多くなるため、吸水により膨潤しづらくなり、水分を排出するためのポンプのとしての作用が低下して、透明保護層に応力がかかったときにひび割れが起こりやすくなる。
[3−3−4]ホログラム層の材質
次に、ホログラム層の構成材料について説明する。干渉縞を記録するためのホログラム形成用感光材料としては、銀塩、重クロム酸ゼラチン、サーモプラスチックス、ジアゾ系感光材料フォトレジスト、強誘電体、フォトクロミックス材料、カルコゲンガラス等が使用できる。また、ホログラム形成層の構成材料として、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(例、ポリメチルメタアクリレート)、ポリスチレン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が使用可能である。また、不飽和ポリエステル、メラミン、エポキシ、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン系アクリレート等の熱硬化性樹脂を硬化させたものが使用可能である。さらに、それらの熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合物も使用可能である。
さらに、ホログラム層58の材質として、ラジカル重合性不飽和基を有する熱成形性物質が使用可能である。ホログラム層58は、従来既知の方法によって形成することができる。例えば、透明型ホログラムがレリーフホログラムである場合、干渉縞が凹凸の形で記録されたホログラム原版をプレス型として用いる。そして、このホログラム原版上にホログラム形成用樹脂シートを置き、加圧ローラなどの手段によって両者を加熱圧着し、ホログラム形成用樹脂シートの表面にホログラム原版の凹凸模様を複製する。このような方法によって、レリーフ形成面を有するホログラム形成層を得ることができる。
[3−3−5]基材の厚み
基材の厚みは、搬送性や材料強度を考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。基材の厚みは5〜300μmであることが好ましい。
基材の厚みは好ましくは5μm以上、より好ましくは15μmとすることにより、転写材に画像を記録する場合、およびインクジェット記録後に転写材を画像支持体に接着する場合に、転写材の搬送性を向上させることができる。転写材をカットシートやプレート状にして用いる場合、基材は強度や固さに優れほうがよく、厚いほうが好ましい。この場合、基材厚みは30μm以上とすることが好ましい。一方、基材の厚みを300μ以下、より好ましくは100μ以下、さらに好ましくは50μm以下とすることにより、インクジェット記録後に転写材を画像支持体に加熱して接着する際に、熱伝達性を良好とすることができる。
[3−4]画像支持体の材質
画像支持体の材質は、特に制限されない。画像支持体としては、例えば、樹脂を構成材料とする画像支持体(樹脂ベース支持体)、紙を構成材料とする画像支持体(紙ベース支持体)等を挙げることができる。樹脂ベース支持体を構成する樹脂は、画像支持体の用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限されず、基材と同様の材質のものを用いることができる。
例えば、
ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル樹脂;
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂;
ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、エチレン−4フッ化エチレン共重合体等のポリフッ化エチレン系樹脂;
ナイロン6、ナイロン6,6等の脂肪族ポリアミド樹脂;
ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ビニロン等のビニル重合体樹脂;
三酢酸セルロース、セロハン等のセルロース系樹脂;
ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂;
ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド等の、その他の合成樹脂;
を挙げることができる。
樹脂ベース支持体を構成する樹脂は、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、セルロースアセテート、ポリカプロラクトン等の生分解性樹脂であってもよい。また、樹脂ベース支持体は、樹脂を主たる構成材料としているものであればよく、例えば、属箔等の樹脂以外の材料を含むものであってもよい。
紙ベース支持体を構成する紙の種類は、特に制限されない。例えば、コンデンサーペーパー、グラシン紙、硫酸紙、サイズ度の高い紙、合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系)、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、壁紙、裏打用紙、合成樹脂、エマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、板紙、セルロース繊維紙、セルロースナノファイバー等を挙げることができる。
樹脂ベース支持体および紙ベース支持体は、必要に応じて、エンボス、サイン、ICメモリ(ICチップ)、光メモリ、磁気記録層、偽変造防止用記録層(パール顔料層、透かし記録層、マイクロ文字等)、エンボス記録層、ICチップ隠蔽層等を備えてもよい。また、樹脂ベース支持体および紙ベース支持体は、上記の材質からなる単層体として構成してもよく、あるいは材質や厚さの異なるシートやフィルムを2層以上貼り合わせた複層体として構成してもよい。その他、ベース支持体として、ガラス、金属板、木材、上記の樹脂で構成したプレートなども挙げることができる。要は、画像支持体の材質や用途に応じて適宜選定した接着剤によって接着層が設けられた転写材、つまり、選定された接着剤によって、インク受容層の表面に離散的に接着層が設けられた転写材を用いることにより、画像支持体は制限されることなく、使用用途に応じて最適な材料を自由に選択することができる。
[4]転写材の製造方法
本発明の転写材は、例えば、無機微粒子、水溶性樹脂、およびカチオン性樹脂を含有する塗工液を基材上に塗工して、基材上にインク受容層を形成し、さらに、このインク受容層上に接着剤を含有する塗工液を塗工することによって、製造することができる。以下の記載においては、既に説明した事項については割愛し、製造方法固有の事項のみについて説明する。
[4−1]基材の製造方法
基材は、用途に応じて、基材の搬送層が剥離されない構成、基材の搬送層が剥離される構成などとすることができ、公知の方法によって製造可能である。
[4−1−1]透明保護層の形成方法
基材が透明保護層を含み、接着処理後に搬送層のみを剥離する場合(基材の一部を剥離する場合)の透明保護層の形成方法について説明する。透明保護層は、エマルジョンE1とエマルジョンE2を混合した透明保護層用塗工液を調整し、これを基材の表面に塗布して乾燥(加熱)させることによって形成することができる。
塗工液の媒体としては、水性媒体を用いることが好ましい。水性媒体としては、水;水と水溶性有機溶剤との混合溶媒;等を挙げることができる。水溶性有機溶剤としては、例えば、
メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;
テトラヒドロフラン等のエーテル類;
等を挙げることができる。
透明保護層用の塗工液には、本発明の効果を妨げない限り、各種添加剤を含有させることができる。
[4−1−1−1]塗工
透明保護層は、エマルジョンを含む塗工液を、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、スプレーコーティング法、エアーナイフコーティング法、スロットダイコーティング法等により塗工して、乾燥させることにより形成することができる。
透明保護層用の塗工液の塗工量は、固形分換算で1〜40g/m2とすることが好ましく、さらに好ましくは2〜30g/m2、さらにより好ましくは4〜20g/m2である。塗工量を好ましくは1g/m2以上、さらに好ましくは2g/m2以上、さらにより好ましくは4g/m2以上とすることにより、透明保護層の耐水性や耐擦過性を確保することができる。一方、塗工量を、好ましくは40g/m2以下、さらに好ましくは30g/m2以下、さらにより好ましくは20g/m2以下とすることにより、透明保護層の透明性を向上させることができる。さらに、加熱圧着の際の熱伝導を良好として、透明保護層とインク受容層との密着性(転写性能)を向上させることもできる。さらに、後述するように画像支持体としてプラスチックカードを用いた場合には、記録物全体の厚さをJIS6301に記載される総厚さ0.84mm以下に抑制することが容易になるため好ましい。
[4−1−1−2]透明保護層の形成時の乾燥
本実施形態においては、透明保護層の形成時に、透明保護層に含有されているエマルジョンE1を造膜させて、エマルジョンE2を粒子状態とするための乾燥(加熱)工程を含む。
透明保護層の形成時の乾燥温度を、エマルジョンE1のガラス転移温度Tg1以上、かつエマルジョンE2のガラス転移温度Tg2より小さくすることにより、エマルジョンE1を造膜させて、エマルジョンE2が粒子として残存している透明保護層が製造できる。透明保護層の形成時に、Tg2以上の温度で加熱乾燥すると、エマルジョンE1およびE2が両方とも造膜状態となり、転写時にクラックが入りにくくなる。そのため、透明保護層の十分な端部の切れ性、および基材からの剥離性が低下し、べたつきも防止できなくなる。一方、透明保護層の形成時に、Tg1よりも低い温度で加熱した場合には、マルジョンE1およびE2が両方とも粒子状態となって、膜が形成しにくくなる。仮に、膜が形成できたとしても平滑性が低下し、インク受容層への十分な接着性が得られなくなり、また透明保護層の強度が著しく低下して、薬品などに浸漬したときに剥がれなどが発生しやすくなる。透明保護層の形成時の乾燥温度が高いと塗工スピードを高めることができるため、生産性の面においては、透明保護層の形成時の乾燥温度を上記の範囲内にてできるだけ高くするほうが好ましい。
[4−1−1−4]その他
基材は、予め表面改質が行われたものを用いてもよい。基材の表面を粗面化する表面改質を行うことにより、基材の濡れ性を向上させて、透明保護層との密着性を向上させることができる。表面改質の方法としては、特に制限はない。例えば、透明保護層の表面に、予めコロナ放電処理やプラズマ放電処理を行う方法;基材の表面にIPAやアセトン等の有機溶剤を塗工する方法;等を挙げることができる。これらの表面処理は、基材と透明保護層との結着性を高めて、それらの強度を向上させ、基材から透明保護層が剥離する不具合を防止することができる。また、基材の搬送層が剥離される場合には、搬送層の剥離機能を良好にするために、基材の搬送層上に離型層を形成することもできる。離型層は、基材に前述した離型剤を含有する組成物を、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、スプレーコーティング法、エアーナイフコーティング法、スロットダイコーティング法等により塗工して、乾燥することにより、得ることができる。
[4−2]インク受容層の形成
[4−2−1]インクジェット塗工液
インク受容層は、少なくとも無機微粒子、水溶性樹脂、およびカチオン性樹脂を適当な媒体と混合して塗工液を調製し、これを基材の表面に塗布して乾燥させることによって形成することができる。
その他の添加剤としては、例えば、界面活性剤、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、インク定着剤、ドット調整剤、着色剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、pH調整剤などを挙げることができる。
塗工液中の無機微粒子の濃度は、塗工液の塗工性などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。但し、塗工液の全質量に対して、10質量%以上かつ30質量%以下とすることが好ましい。
[4−2−2]インクジェット塗工液の塗工
インク受容層は、前述した基材の表面に、塗工液を塗工することにより形成することできる。その塗工後は、必要により塗工液の乾燥を行う。
塗工方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ブレードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、スロットダイコーティング法、バーコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法などを挙げることができる。
塗工液の塗工量は、固形分換算で10g/m2以上かつ40g/m2以下とすることが好ましい。塗工量を10g/m2以上、好ましくは15g/m2以上とすることにより、インク中の水分の吸収性に優れたインク受容層を形成することができる。これにより、記録された画像中のインクが流れたり、画像が滲んだりする不具合を抑制することができる。一方、塗工量を40g/m2以下、より好ましくは20g/m2以下とすることにより、塗工層を乾燥させる際に、転写材にカールが発生し難くなる。
[4−3]接着層の形成
[4−3−1]接着剤の塗工液
本発明の転写材は、基材上に積層された空隙吸収型のインク受容層の表面に、調製した接着剤の塗工液を塗布して、インク受容層の表面に接着層の接着剤を離散的に設けることにより、インク受容層の表面に直接露出する露出部が残こるように構成することができる。
塗工液中の接着剤の濃度は、塗工液の塗工性などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。塗工液の全質量に対して、2質量%以上かつ40質量%以下とすることが好ましい。
[4−3−2]接着剤の塗工
転写材は、例えば、基材上に形成されたインク受容層の表面に、接着剤の塗工液を塗工することにより構成する。その塗工後は、必要により塗工液の乾燥を行う。
塗工方法としては、空隙吸収型のインク受容層の表面に、接着層の接着剤を離散的に設ける必要があるため、グラビアコーティング法で行うことが好ましい。その場合、グラビアロールの溝の線数は、好ましく200線、より好ましくは300線、さらに好ましくは600線とすることが好ましい。その線数が多くなるほど、インクジェット記録による画像の1画素内に、1つ以上の空隙吸収型のインク受容層の露出部を容易に形成することができる。
[4−3−3]形成時の乾燥
基材上に形成されたインク受容層の表面に、接着剤の塗工液を塗工する場合、その接着剤は、それが溶融するガラス転移温度以下で乾燥することが好ましい。ガラス転移温度以上で乾燥した場合には、接着剤が溶融、流動して接着剤同士が接着し、インク受容層の露出部を含むインク受容層の表面全体を被覆して、インクの吸収性を低下させるおそれがある。接着剤に複数種の粒子を含ませ、ある1つの粒子に、粒子状で残存する接着粒子のバインダーとしての機能、およびインク受容層の水溶性樹脂との接着性を向上させる機能を持たせてもよい。このような場合には、バインダーとして機能する接着剤のガラス転移度以上、かつ粒子状で残存する接着粒子のガラス転移温度以下で乾燥することが好ましい。このように、接着剤の性質に応じて乾燥温度を適宜選択することにより、インクジェットの記録特性と接着性とを両立させることができる。
接着剤塗工液は、乾燥の過程において接着剤塗工液中の水分が蒸発するため、塗工成膜時には接着剤塗工液の濃度が高くなる。そのため、乾燥前においては、接着剤塗工液を構成する接着剤粒子はほぼ単粒子として分散されており、乾燥の過程において接着剤塗工液の濃度が高くなると、接着剤粒子の分散が破壊されやすくなり、接着剤粒子同士の衝突・合一により、複数の粒子が凝集することになる。接着剤塗工液は、このように複数の粒子が凝集した状態で成膜されることにより、インク受容層の表面に、接着層の接着剤を離散的に設けることができる。したがって、接着剤を単粒子で離散的に設ける場合には、乾燥前の接着剤塗工液の濃度を低くすればよく、一方、接着剤を複数の粒子が凝集した状態で離散的に設ける場合には、乾燥前の接着剤塗工液の濃度を高くすればよい。このように、乾燥前の接着剤塗工液の濃度を適宜調整することにより、成膜時における接着層の接着剤の離散状態を調整することができる。接着層の接着剤の離散状態は、転写材および記録物の用途に応じて制御することができる。接着剤を単粒子で離散的に設けた場合には、離散的に配された各々の接着剤の強度が低く、引き剥がし時に順次島部が破壊されていくため、引き剥がし強度が低い。一方、接着剤を複数の粒子が凝集した状態で離散的に設けた場合には、離散的に配された各々の接着剤の強度が高く、引きはがし強度が高い。
[5]記録物の製造方法
[5−1]インクジェット方式による画像記録
本発明の転写材に、画像を記録する画像記録方法について説明する。
転写材は、前述したように、基材上に積層された空隙吸収型のインク受容層の表面に、接着層の接着剤を離散的に設けることにより、インク受容層の表面に直接露出する露出部が残こるように構成することができる。このような転写材の記録面に対して、インクジェット記録方式により画像を記録する。
インクジェット記録方式とは、記録ヘッドに形成された複数のノズルから、転写材のインクジェット記録面に対してインク(インク滴)を吐出して画像を記録する方式である。インクジェット記録方式の種類は特に限定されず、サーマルインクジェット方式やピエゾ方式のどちらも使用できる。サーマルインクジェット方式は、駆動パルスに応じた熱エネルギーをノズル内のインクに付与して、そのインクに膜沸騰により気泡を形成させ、この気泡によってノズルからインク滴を吐出させる。このようなサーマルインクジェット記録方式は、高解像度で高品位な画像を高速記録できるため好ましい。
インクジェット記録方式は、インクジェット記録装置(インクジェットプリンタ)により実施することができる。インクジェットプリンタは、画像記録時に、記録ヘッドとインク受容層付きの画像支持体とが接触しないため、極めて安定した画像を記録することができる。インクジェットプリンタの種類は特に限定されず、その記録方式は、シリアルスキャン方式およびフルライン方式などであってもよい。シリアルスキャン方式の場合には、記録ヘッドがインクを吐出しつつ主走査方向に移動する動作と、記録媒体としての転写体を主走査方向と交差(例えば、直交)する副走査方向に搬送する動作と、を繰り返すことによって画像を記録する。このようなシリアルスキャン方式においては、記録ヘッドから吐出するインク滴を小さくして、高品位な画像を容易に記録することができる。また、このようなシリアルスキャン方式のプリンタとしては、公知の小型のインクジェットプリンタ、あるいは大判プリンタを使用することができる。また、記録ヘッドの数回の走査に分けて画像を記録するシリアルスキャン方式において、同一の記録領域に対して、複数回の走査によって所定の時間差をもってインクを複数回着弾(分割重複走査)させた場合にも、インクの蒸発速度に比べてインク受容層のインクの吸収速度が十分に速いため、接着剤上にインクは残留しにくい。一方、フルライン方式の場合には、インクの吐出口およびインク流路などからなるノズルを複数集積した長尺なマルチノズルヘッドを用いる。そして、吐出口の配列方向と交差(例えば、直交)する方向に、記録媒体としての転写体を連続的に搬送しつつ、マルチノズルヘッドからインクを吐出することによって画像を記録する。このようなフルライン方式のプリンタは、高解像度で高品位な画像を高速に記録することができる。なお、転写材に画像を記録する際には、画像を視認する方向に応じて、反転画像あるいは正像画像を記録すればよく、その画像は使用用途に応じて選択することができる。
[5−2]使用するインク
本実施形態の転写材は、空隙吸収型のインク受容層の表面に接着層の接着剤を離散的に設け、インク受容層は、その表面に直接露出する露出部を残すように構成されている。このような転写材の記録面に着弾したインクの一部は、前述したように、接着層からはみ出して垂れ込むことにより、接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過してインク受容層の露出部に直接接する。インクジェット記録用のインクは、表面張力および粘度が適切に制御されているため、インク受容層の露出部に接したインクの一部がインク受容層に吸収され始めると、それに連なる他の部分のインクも途切れることなく順次インク受容層に引き込まれてゆく。これにより、接着層の下部も含む範囲のインク受容層に適切なインクドットを形成し、かつ接着層の表面および内部にインクを残りにくくして、記録特性と接着性とを両立させることができる。このようなインクとしては、染料インクまたは顔料インクのどちらも使用できる。記録画像の画像品位、および記録画像の耐久性を考慮すると、顔料インクが好ましく用いられる。
[5−2−1]染料インク
染料インクは、空隙吸収型のインク受容層の内部にまで染料色材成分、インク中の水成分、および溶媒成分が浸透して定着する。本発明において、染料インクは、その一部がインク吸収速度の速いインク受容層の露出部に接すると、インク受容層に引きずりこまれるようにして吸収される。インク受容層の露出部から吸収された染料インクは、適切に設計制御されたインク受容層の浸透異方性に応じて、インク受容層の内部に浸透して所望のインクドットを形成する。インク受容層内では、浸透異方性に応じてインクが浸透して拡がるため、接着部の下部に亘ってインクドットを形成することができる。したがって、画像形成に必要なエリアファクターを維持して、高解像度の画像を記録することができる。しかしながら、染料色材、インク中の水分および溶媒がインク受容層の内部に浸透することから、記録物の保存条件によっては、残留したインクの液体成分と染料色材がともにインク受容層内を浸透拡散し、保存による画像滲み(色材マイグレーション)を誘発するおそれもある。また、染料インクは耐光性が弱く、長い間、太陽光等に暴露されると染料が分解して、記録画像が退色する場合がある。
このような色材マイグレーションは、色材がインク中に溶解されているために固形分がない染料インクの場合には、特に注意が必要となる。そのためには、例えば、インク受容層の空隙内に一旦吸収充填されたインクの一部が若干でも乾燥したときに、空隙間のインクの連結を分断して、空隙内に残留するインクが各々孤立しやすいように、空隙の連結部をより狭くする。より具体的には、図26および図27を用いて前述したように、空隙1500の連結部の部分に残存した空気の一部を移動させて、空気層1502を形成する。空隙1500内に連なって浸透したインク1503は、空気層1502により分断され、空隙1500内のインクは各々孤立した状態となる。空気層1502により分離されたて孤立したインク1503は、空気層1502が抵抗となり、移動しにくくなる。これらの作用によって、染料インクを用いた場合においても、画像滲み(色材マイグレーション)を抑制することができる。
[5−2−2]顔料インク
一方、顔料インクにおいては、インクの顔料色材の平均粒子径と、インク受容層の平均細孔直径と、に応じてインクの吸収状態が異なる。例えば、インクの顔料色材の平均粒子径が空隙吸収型のインク受容層の平均細孔直径よりも大きいと、顔料色材成分がインク受容層の表面に残り、インク中の水成分や溶媒成分がインク受容層の内部に浸透して、顔料色材成分と水分や溶媒成分が固液分離する。この場合には、インク受容層の表層に残留する色材が接着性の阻害要因とならないように、固液分離してインク受容層の表面に残った色材をインク受容層の露出部が全て収納し、色材を接着層よりも高く突き出させないように接着層の厚さを適切に調整すればよい。さらに好ましくは、加熱転写時に溶融した十分な量の接着剤によって、インク受容層の表面に残留した色材を覆い、色材と画像支持体との間に、溶融した接着剤による接着膜を形成することにより、さらに高い接着性を得ることができる。
例えば、色材である顔料がインク受容層の表面で固液分離して、その全てがインク受容層の表面に残る場合を想定し、インクジェット方式により安定して吐出可能な水系インクにおける顔料などの固形分の重量濃度として、インクの顔料濃度を5%程度とする。このような場合には、接着層の厚みをインク受容層の厚みの100分の3から2分の1程度の範囲とすれば、接着剤の高さよりも色材が高く突き出ることがなく、インク受容層の表面に残留する色材が接着性の阻害要因とならず、良好な接着性を実現できる。また、加熱転写時に溶融した十分な量の接着剤により、インク受容層の表面に残留した色材を覆って、色材と画像支持体との間に、溶融した接着剤による接着膜を形成するできるため、さらに高い接着性を得ることができる。例えば、インク滴の体積が2〜4pl、空隙吸収型のインク受容層の空隙率が80%、記録画像がカラー画像である場合には、インク受容層の厚みは8〜16μm程度、接着部の厚みは0.3μmから8μm程度が好ましい。インク滴の体積の環境によるばらつき、およびインク受容層の空隙率の製造上のばらつきなどを考慮すると、接着部の厚みは、0.5μmから5μmがより好ましい。
一方、インク受容層の空隙径を想定される顔料の平均粒子径よりも大きくすることにより、顔料などの固形成分の一部もインク受容層の内部に浸透することが可能となり、接着層の厚みを小さくすることができる。但し、インク受容層の空隙径が顔料の平均粒子系よりも格段に大きく、かつインク受容層の空隙がインクの液体成分によってある程度満たされている場合には、記録物の保存条件によっては、画像滲み(色材マイグレーション)を誘発するおそれがある。すなわち、残留したインクの液体成分と共に、色材である顔料成分も徐々にインク受容層内を浸透拡散するおそれがある。したがって、インク受容層の空隙径は、色材である顔料の平均粒子径よりもやや大きい程度、または顔料の二次粒子若しくは複合粒子よりもやや大きい程度にとすることにより、インク受容層内での顔料の浸透性を制御することができる。この結果、画像の記録特性に優れ、かつ保存性に優れた転写材を提供することができる。
また、顔料インクにおいては、適切に設計制御されたインク受容層の浸透異方性に応じて、インク受容層の内部にインクの水成分や溶媒成分のみが浸透する。そのため、接着部の下部のインク受容層には、発色に寄与する顔料色材が浸透しにくいため、染料インクに比べると高解像度の画像形成能に劣る。しかし、接着部の下部の領域までインク受容層の露出部を拡げたり、接着性とエリアファクターとを考慮して接着剤の構造を調整したり、インク受容層の空隙を大きくして、色材をインク受容層に浸透しやすくすることにより、実質上、問題のない高解像度の画像の記録が可能になる。すなわち、インクと接する接着部の部分の面積を小さくすることにより、インクジェット記録後に接着部の下部のインク受容層にまでインクが回り込み、エリアファクターが大きくなって画像濃度が向上する。
また、顔料インクの粒子径が大きい場合あるいは小さい場合のいずれにおいても、着色剤としての顔料の粒子径は、インク受容層の空隙径とほぼ同じオーダーの大きさであって、その表面は親水性が高い。そのため、固液分離してインク受容層に残留した顔料の層は、顔料インク中の水成分や溶媒成分を透過し易い。したがって、カラー記録において顔料が接着剤を先に覆ったとしても、顔料インクの水成分や溶媒成分は、接着剤粒子よって形成される接着剤の空隙径に比べて十分に小さいため、接着剤に対してよりも、インク受容層に対して速く吸収される。
また、顔料インクは、インク受容層の表面において、色材成分と、水成分あるいは溶媒成分と、が固液分離し易く、水成分あるいは溶媒成分がインク受容層の内部に浸透することから、インク受容層の表面は乾燥しやすい状態になる。このため、接着時には、インク受容層の表面は水分量が少ない状態になり、その結果、水分の蒸発に起因する接着不良を抑制して、接着性を向上させることができる。
顔料インク中の顔料成分としては、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン基のうちの少なくとも1種の官能基またはその塩を結合された自己分散顔料、あるいは顔料粒子の周りを樹脂で被覆した樹脂分散型の顔料を用いることができる。本実施形態の転写材においては、接着部の厚みを適切に調整することにより、固液分離してインク受容層の表面に残った顔料色材をインク受容層の露出部にて全て収納し、接着剤の高さよりも色材を高く突き出させないようにして、インク受容層の表層に残留する色材が接着性の阻害要因とならないようにすることができる。このように、接着部の厚みを調整することにより、加熱転写時に溶融した十分な量の接着剤によって、インク受容層の表面に残留した色材を覆い、色材と画像支持体との間に、溶融した接着剤による接着膜を形成できる。このような接着部は、顔料粒子自体に接着性をもたない自己分散顔料を用いる場合に好適である。
また、樹脂分散型の顔料は、インク媒体と分離した後の顔料粒子同士の結着力を高めて、インク受容層の表面に顔料膜を形成することができる。この場合、顔料膜の表面上の水分は少量となる。これは、顔料膜がインク受容層中の下層の水分をほぼ遮断し、さらに下層からの水分補給もほぼ遮断するからである。そのため、樹脂分散型の顔料成分は、インク受容層の表面が乾燥しやすい状態とするため好ましい。また、分散樹脂のSP値は、インク受容層の水溶性樹脂のポリビニルアルコール、および接着層の接着剤の構成材料、などのSP値と近い。そのため、転写時の熱によって分散樹脂、水溶性樹脂、および接着剤が溶融すると、両者の相溶性が高まり、樹脂分散顔料はインク受容層にも強固に接着される。さらには、分散樹脂のSP値は画像支持体の構成材料のSP値と近いため、転写時の熱によって分散樹脂および画像支持体の構成材料が溶融すると、両者の相溶性が高まり、樹脂分散顔料は画像支持体にも強固に接着される。したがって、樹脂分散顔料を用いることにより、接着層の厚みが薄くて、インク受容層の表面に残った色材をインク受容層の露出部にて全て収納することができず、色材の一部が接着層の高さよりも高く突き出た場合にも、分散樹脂が溶解することにより、画像支持体に良好に接着することができる。
顔料粒子の周りを被覆する樹脂としては、酸価が100〜160mgKOH/gである(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が好ましい。酸価を100mgKOH/g以上とすると、サーマル方式でインクを吐出するインクジェット記録方式において、インクの吐出安定性が向上する。一方、酸価を160mgKOH/g以下とすると、顔料粒子に対して相対的に疎水性を有するようになり、インクの定着性および耐滲み性が良好となる。したがって、インクの高速定着および高速記録に適する。
ここで酸価とは、1gの樹脂を中和するために必要となるKOHの量(mg)であり、その親水性を示す指標となり得るものである。また、この場合の酸価は、樹脂分散剤を構成する各モノマーの組成比から計算により求めることもできる。具体的な顔料分散体の酸価の測定方法としては、電位差滴定により酸価を求める、Titrino(Metrohm製)等を使用することができる。
[5−2−3]白インク
本発明においては、転写材のインク受容層に画像を記録後、さらに、そのインク受容層の少なくとも一部に、白インク(白色のインク)を用いてインクジェット記録を行うことができる。白インクを用いることにより、インク受容層に記録された画像の少なくとも一部が接着層側から見えないように、インク受容層の画像形成面の少なくとも一部を隠蔽して、記録情報の隠蔽性を高めることができる。すなわち、転写材の基材が透明である場合には、インク受容層に記録された画像を基材側から見たときに、白インクが背景となるため画像の視認性を向上させることができる。また、このような白インクは、画像支持体が着色されている場合に、画像支持体の着色の影響による記録画像の視認性の低下を防止することができる。本発明の転写材をラベルとして用いた場合、白インクによる記録情報の隠蔽は、画像支持体の着色の影響を受けにくく、ラベルの視認性を向上させるため、有効な手段となる。白インクの粒子径は、可視光の波長よりも大きくすることが好ましい。白インクの粒子径が可視光の波長よりも大きくなると、隠蔽性が向上し、基材側からの見た場合の画像の視認性を向上させることができる。
本発明の転写材の記録面に白インクによって画像を記録したときに、着弾した白インクの一部は、前述した染料インクや顔料インクの一部と同様に、接着部からはみ出して、インク受容層の露出部に垂れ込むようにすることができる。白インクの一部は、接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過して、吸収速度の速いインク受容層の表面の露出部に接触した後、インク受容層に引きずり込まれるように吸収される。白インクの白色顔料色材の平均粒子径がインク受容層の平均細孔直径よりも大きい場合には、インク受容層の表面の露出部において、白色顔料成分と、水成分および溶媒成分と、が固液分離する。すなわち、白インクの白色顔料成分は、インク受容層の表面の露出部にて定着する。一方、白インクの白色顔料色材の平均粒子径がインク受容層の平均細孔直径よりも小さい場合には、顔料などの固形成分の一部もインク受容層の内部に浸透する。いずれの場合も、前述の染料インクや顔料インクにより画像が記録された記録面が、白色顔料によって覆われるため、転写材の基材側から記録画像をみたときの視認性を向上させることができる。接着層における接着部(島部)の高さが十分あれば、転写材と画像支持体との溶融接着の際に、接着層によって白インク顔料成分も被覆されるため、白インクの顔料が表面に残らず、画像支持体との接着性が良好になる。なお、後述する白インクを用いた場合、白インク等において記録情報の隠蔽機能をもつ粒子(隠蔽粒子)は、光学的な観点から、その粒子を大きくする必要がある。そのため、前述した顔料インクの顔料色材の大きさよりも隠蔽粒子は大きくなり、記録面が隠蔽粒子によって先に覆われた場合には、インクの吸収速度が遅くなる。したがって、顔料インクによる画像の記録の後に、白インクによって画像を記録することが好ましい。
本発明方法においては、白色インク組成物として、インクジェット記録方法において通常使用されている任意の白色インク組成物を用いることができる。このような白色顔料としては、例えば、無機白色顔料や有機白色顔料、白色の中空ポリマー微粒子を挙げることができる。
無機白色顔料としては、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、微粉ケイ酸、合成ケイ酸塩等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等が挙げられる。
有機白色顔料としては、特開平11−129613号に示される有機化合物塩や特開平11−140365号公報、特開2001−234093号公報に示されるアルキレンビスメラミン誘導体が挙げられる。上記白色顔料の具体的な商品としては、ShigenoxOWP、ShigenoxOWPL、ShigenoxFWP、ShigenoxFWG、ShigenoxUL、ShigenoxU(以上、ハッコールケミカル社製、何れも商品名)などが挙げられる。
白色の中空ポリマー微粒子としては、例えば、米国特許第4,880,465号や特許第3,562,754号などの記載されている中空ポリマー微粒子などが挙げられる。
本発明においては、インクジェット記録用のインクの表面張力や粘度が適切に制御されることによって、インク受容層の表面の露出部に接したインクの一部がインク吸収速度の速いインク受容層に吸収され始めると、それに連なる他の部分のインクも途切れることなくインク受容層に引き込まれてゆく。このようなインクの粘度ηは、1.5〜10.0mPa・sであることが好ましく、さらに好ましくは、1.6〜5.0mPa・s、特に好ましくは1.7〜3.5mPa・sである。一方、インクの表面張力γは、25〜45mN/mであることが好ましい。
すなわち、インクの表面張力や粘度は、転写材の記録面に着弾したインクの一部が接着部からはみ出してインク受容層の露出部に垂れ込む場合に、接着層表面においてインクが千切れないように制御すればよい。さらに、インクの表面張力や粘度は、インクの一部が接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過して、吸収速度の速いインク受容層の表面の露出部に接した後、そのインクがインク受容層に引きずり込まれて吸収されるように、制御すればよい。インクの粘度を上記の範囲に調整することにより、インクの吐出時におけるインクの流動性が向上し、ノズルへのインク供給性、ひいてはインクの吐出安定性も向上する。また、インクの表面張力を上記の範囲に調整することにより、インクを吐出時に、インク吐出口のメニスカスを維持することができる。
インクの粘度は、JIS Z 8803に準拠し、温度25℃の条件下、E型粘度計(例えば、東機産業製「RE−80L粘度計」等)を用いて測定した値を意味するものとする。インクの粘度は、界面活性剤の種類や量の他、水溶性有機溶媒の種類や量等により調整することができる。
インクの表面張力は、温度25℃の条件下において自動表面張力計(例えば、協和界面科学製「CBVP−Z型」等)を用い、白金プレートを用いたプレート法により測定した値を意味するものとする。インクの表面張力は、界面活性剤の添加量、水溶性有機溶剤の種類及び含有量等により調整することができる。
本実施形態において、インク中の色材濃度は特に規定はされない。但し、好ましくは0.5%以上10%以下、より好ましくは1%以上5%以下である。色材濃度をこのような範囲とすることにより、画像の視認性と接着性とを両立させることができる。特に、顔料インクの場合、インク受容層の表面に残った色材顔料をインク受容層の露出部にて収納するためには、色材濃度を厳密に制御する必要がある。すなわち、接着剤の高さよりも色材を高く突き出させず、かつ画像の視認性を向上させることができる範囲において、顔料濃度をできる限り高くすることが好ましい。インク濃度を上述した範囲に制御することにより、インクの粘度を最適に制御して、インクの吐出時におけるインクの流動性を向上させて、記録ヘッドのノズルへのインク供給性、延いてはインクの吐出安定性を向上させることができる。
[5−3]転写方法
基材が剥離されない転写材を用いる場合、本発明の記録物を作製する際には、まず、その転写材のインクジェット記録面に、例えば、画像を視認する方向に応じて正像画像あるいは反転画像を記録する。次に、離散的に配された接着剤を介して転写材を画像支持体に転写、あるいは離散的に配した自己溶融接着剤を自己溶融させることによって記録物を得る。
また、搬送層を含む基材の全てが剥離される転写材を用いる場合、本発明の記録物を作製する際には、その転写材の記録面に、例えば反転画像を記録する。次に、離散的に配された接着剤を介して、転写材を画像支持体に転写してから、搬送層(基材の全部)を剥離すことにより、画像支持体にインク受容層を積層した記録物を得る。
さらに、基材が透明保護層、ホログラム層、および記録層などの機能層を備えている場合は、まず、それらの機能層を含む転写材の記録面に、例えば反転画像を記録する。次に、離散的に配された接着剤を介して、転写材を画像支持体に転写してから、搬送層、透明保護層、ホログラム層、記録刷層などの機能層を含む基材から搬送層のみ(基材の一部)を剥離することにより、機能層が一体化され、かつ画像が記録されたインク受容層を画像支持体上に積層した記録物を得ることができる。
本発明においては、転写工程において、インク受容層が水分を十分に含んだ状態でも良好に転写することができる。空隙型のインク受容層は、前述したように、インクを多量に吸収でき、かつ転写時にインク受容層の空隙構造が壊れにくく、転写後も空隙構造を保持することが可能である。そのため、転写時に接着剤およびバインダーが溶融しても、吸収したインクをインク受容層の内部に保持し、また、蒸気が発生してもその内部に封じ込めるため、水分を十分に含んだ状態でも良好に転写することができる。また、インク受容層上に離散的に配された接着剤の接着層において、接着層の接着剤は、インクをほぼ吸収しない、もしくはインクを吸収したとしても吸収速度が遅い接着剤であるため、接着層の表面および接着層の内部にはインクが残りにくい。このため、接着層に転写を阻害するインクが残留しにくく、転写材を画像支持体に良好に転写することができる。
本発明において好ましく用いる接着方法は、接着剤の特性に応じて選択することができる。例えば、接着剤に刺激応答性の材料を使用した場合に、接着剤が水活性型であれば、転写材に画像を形成した後、水塗布装置を用いる水塗布工程によって水を塗布することにより、離散的に配した接着剤の接着層に接着性を発現させることができる。また、接着剤が紫外線活性型であれば、転写材に画像を形成した後、紫外線照射装置を用いる紫外線照射工程によって紫外線を照射することにより、離散的に配した接着剤の接着層に接着性を発現させることができる。
接着剤が熱活性型および自己溶融型であれば、転写材に画像を形成した後、加熱装置を用いる加熱工程によって加熱することにより、離散的に配した接着剤の接着層に接着性を発現させることができる。加熱装置としては、加熱ファン、加熱ベルト、熱転写ヘッド等を用いる装置が挙げられるが、これに限られるものではない。
接着剤が粘着型であれば、離散的に配した接着剤の接着層はそれ自体が接着性を発現している状態にあるため、圧着工程によって圧着することにより、離散的に配した接着剤の接着層に接着性を発現させることができる。
上記の転写工程において、接着剤が複数の材料により構成されている場合には、複数の装置を組み合わせによる複数の工程を含んでもよい。
本発明においては、接着剤として、熱や圧力によって接着性を発現する熱可塑性の粒子を用いることが特に好ましいため、上記の転写方法の中でも、加熱と圧着とを併用した加熱圧着工程により転写する方法が好ましい。このような転写のための構成としては、ヒートローラと加圧ローラを併用した構成が挙げられる。
本発明においては、転写材のインク受容層に画像を形成した後、そのインク受容層を画像支持体と重ね合わせてから、それらを、加熱したヒートローラと加圧ローラとの間を通して搬送することにより、離散的に配した接着剤の接着層を介して転写材と画像支持体とを接着させ、記録物を得ることができる。あるいは、転写材のインク受容層面に画像を記録した後、その転写材を加熱したヒートローラと加圧ロールとの間を通すことにより、離散的に配された自己溶融接着剤の接着層を自己溶融させた記録物を得ることができる。この場合、ヒートローラによる加熱は基材側から行うことが好ましい。基材側から加熱を行うことにより、インク受容層の水溶性樹脂をそれが接着性を発現するガラス転移温度以上にしたり、離散的に配された接着剤の接着層が接着性を発現する温度以上にしたりすることが容易となる。
また本発明において、加熱圧着により、インク受容層に画像が記録された転写材を画像支持体に転写する場合、加熱圧着後にもインク受容層の空隙構造が維持されるように、加熱圧着時の熱や圧力を制御することが重要である。空隙構造を維持することにより、加熱圧着時の熱や圧力によってインクの液体成分が個々の空隙内で突沸して蒸気が発生したとしても、各々の空隙内に蒸気を封じ込めることができ、この結果、接着面に空気層などが形成されず、接着性を良好とすることができる。また、転写時に空隙構造が維持することにより、圧力による空隙の潰れ、および加熱による空隙が溶解を抑制し、インクの液体成分である不揮発性溶剤が表面に染み出すことを防止して、接着性を良好とすることができる。
また、基材の透明保護層が2種類のエマルションを含む転写材を使用した場合、前述したエマルジョンE2は、転写条件(例えば、転写温度や転写速度)を調整することにより、十分に皮膜化した状態、または、一部粒子が残った状態で転写することもできる。図21(a)のように、加熱圧着時に、画像支持体55とインク受容層53とが接着している部分963に対応する透明保護層52の部分980と、画像支持体55とインク受容層53とが接着していない部分964に対応する透明保護層52の部分981と、の膜状態が異なるように制御することができる。すなわち、加熱圧着時において、透明保護層52の部分980は、ヒートローラ21の熱が伝わりやすいため、図21(b)のように、透明保護層52のエマルジョンE2の一部が膜化して、一部の粒子が残存した状態、あるいは図21(c)のように、透明保護層52のエマルジョンE2が完全に皮膜化した状態になる。一部あるいは完全に膜化したエマルジョンE2は、予め膜化しているエマルジョンE1との結合力が強化されて、透明保護層52の膜強度を高めることができる。一方、透明保護層52の部分981は、ヒートローラ21の熱が伝わらないため、エマルジョンE2を粒子状態のままにすることができる。このように、透明保護層52の部分980と部分981では膜の状態が異ならせることにより、剥離工程において、それらの境界部982を基点としてクラックが入りやすくなる。したがって、2種類のエマルジョンを用いて、エマルジョンE2の膜状態を加熱圧着時の温度を利用して変化させることにより、箔切れを良好することができる。
加熱圧着の温度は、離散的に配した接着剤の熱可塑性樹脂が接着性を発現するガラス転移温度以上になるように制御することが好ましい。熱可塑性樹脂が接着性を発現するガラス転移温度以上にすることにより、離散的に配した接着剤を介して、画像支持体に転写材を転写させることができる。より好ましくは、転写材のインク受容層を形成する水溶性樹脂が溶解するガラス転移温度以上に、加熱圧着の温度を制御することにより、インク受容層の水溶性樹脂と接着剤とが互いに溶融して接着し、接着性が向上する。さらに好ましくは、透明保護層を構成するエマルション粒子E2が溶融する温度以上に、加熱圧着の温度を制御することにより、箔切れ性を良好にすることができて好ましい。
また、加熱圧着温度は、画像支持体と転写材を加熱圧着させる際に、インク受容層の空隙構造を必要以上に潰すことなく、接着後も空隙構造を維持するように制御することも重要である。すなわち、加熱によって、空隙が溶解してインクの液体成分である不揮発性溶剤が表面に染み出さないように、空隙を構成する成分の溶解温度以下で転写させることが好ましい。また、インクの水や溶媒成分が個々の空隙内で突沸や蒸気しないように、特に水の沸点以下で転写させることが好ましい。
加熱圧着の圧力は、0.5kg/cm以上かつ7.0kg/cm以下とすることが好ましい。加熱圧着の圧力を0.5kg/cm以上とすることにより、転写材の画像を記録したインク受容層面を画像支持体に密着させて、画像支持体と転写材とを圧着させることができる。すなわち、空隙吸収型のインク受容層の微細な凹凸により画像支持体との間に生じる空間を、離散的に配した接着剤の溶融した熱可塑性樹脂によって十分に満たすことができる。一方、加熱圧着の圧力を7.0kg/cm以下とすることにより、画像支持体と転写材とを加熱圧着させる際に、インク受容層の空隙構造を必要以上に潰すことなく空隙を維持し、インクの液体成分である不揮発性溶剤が表面に染み出すことを防止して、接着性を良好とすることができる。
また、画像支持体55側に接する加圧ローラ22としては、シリコーンローラを使用することが好ましい。シリコーンローラはSP値が8.7付近になるため、ヒートローラ21と加圧ローラ22との間に画像支持体55が存在しないとき、つまり離散的に配した接着剤の接着層を有するインク受容層の表面が加圧ローラ22に接するときに、インク受容層の表面が転写し難くなる。したがって、離散的に配した接着剤を介して、インク受容層の表面が加圧ローラ22への接着することを防止することができる。
本発明において、搬送層を含む基材の全てが剥離される転写材を用いる場合には、離散的に配した接着剤を介して、反転画像を記録することができる。その後、画像が記録された転写材を画像支持体に転写(接着)した後、剥離工程により、搬送層(基材の全部)を剥離する。これにより、画像が記録されたインク受容層が、離散的に配された接着剤を介して画像支持体に積層された記録物を得ることができる。また、基材が透明保護層、ホログラム層、記録層などの機能層をさらに備えている場合には、転写材と画像支持体とを接着した後の剥離工程において、基材の搬送層(基材の一部)のみを剥離すことにより、それらの機能層と一体化した画像が記録されたインク受容層が、離散的に配された接着剤を介して画像支持体に積層された記録物を得ることできる。
[5−4]剥離方法
基材が熱時剥離である場合には、加熱圧着後、温度が下がらないうちに、直ちに基材を剥離することが好ましい。熱時剥離タイプの場合は、分離爪を備えた剥離機構、または剥離ロールを用いて、基材を剥離することが好ましい。このような剥離方法は、転写材をロール・ツー・ロール(roll to roll)によって供給する場合、つまりロール状の転写材を繰り出して供給し、その転写材から剥離した基材をロール状に巻き取る場合に、生産性を高めることができて有効である。
基材が冷時剥離型の場合は、温度が下がっても基材を剥離することができる。そのため、ロールやピール機構による剥離だけでなく、手動による剥離も可能になるため、特に、基材がカットシート状に加工されている場合に好適である。
基材を剥離する際の剥離角度θは0〜165°であり、さらに好ましくは90°〜165°である。この剥離角度θを設定することにより、箔切れ性を良好にすることができる。搬送角度θは、上記の角度のみに限定されない。
加熱圧着および剥離工程においては、公知の2本ロールタイプ、あるいは4本ロールタイプのラミネート機を使用してもよい。4本ロールタイプは、2本ロールタイプに比べて加熱圧着時の熱が伝わりやすく、剥離工程を容易に行うことができるため、好ましく使用される。
[6−1]第1の製造装置
基材の搬送層が剥離される転写材を用いて記録物を製造する製造装置25を、図29に基づいて説明する。
この製造装置25は、インクジェット記録方式などにより画像を記録する記録部6と、画像が記録されたインク受容層を画像支持体に転写させる転写部29と、基材50を剥離する剥離部151と、を備えている。これらの記録部6、転写部29、および剥離部151の機構は、全て一体型的に構成されていてもよく、それぞれが分離して独立した構成であってもよい。
以下においには、それらの記録部、転写部、および剥離部の各々の機構が全て一体的に構成された製造装置の一例について説明する。図29は、基材の搬送層が剥離される転写材を用いて、記録物を製造する製造装置25の第1の構成例(以下、「第1の製造装置」ともいう)を模式的に示す側面図である。
[6−1−1]主要な構成
製造装置25は、供給部4と、記録部6と、を備える。供給部4は、転写材1を搬送経路へと送り出す。記録部6は、搬送経路へ送り出された転写材1に、色材、水、および不揮発性の有機溶媒等を含有する水系インクを直接吐出して、反転画像を記録する。
さらに、製造装置25は、反転画像が記録されたインク受容層を画像支持体55に転写させる転写部29と、基材を剥離する剥離部151、および画像が記録された画像支持体55を排出して集積する排出部26と、を備える。
[6−1−2]動作
供給部4は、インク受容層が外側に位置するように巻かれたロール状の転写材1を図中の矢印に回転させることにより、転写材1を記録部6へ送り出す。転写材1は、不図示のガイド板によって案内されると共に、グリップローラ3とニップローラ2により挟持されて、平坦な状態で記録部6へと搬送される。
供給部4からの転写材1の搬送が開始されると、転写材1に付されたマーキングをセンサ部31が検出し、その転写材1のインク受容層に記録部6が反転画像を記録する。必要に応じて、記録部1100を設けて、反転画像が記録された転写材1に、さらに白インクによって記録を行ってもよい。これにより、インク受容層に反転画像が記録された転写材1が得られる。このときに、前述したマーキングの記録も行う。
供給部12は、転写部29に画像支持体55を1枚ずつ供給する。レジストガイド14が画像支持体55と転写材1とを位置合わせし、その画像支持体55の上に転写材1が積層される。画像支持体55と転写材1との積層体は、転写部29に搬送される。転写部29は、一対のヒートローラ21,加圧ローラ22を備えており、それらのローラ間を積層体が通過する際に、画像支持体55と転写材とが加熱圧着される。
その後、画像支持体55と転写材との積層体は、剥離部151において、転写材1の搬送層(基材の全部あるいは一部)が剥離されて巻取りロール24に巻き取られる。
[6−1−3]第1の製造装置とコントローラとの接続
製造装置25は、図30のように、ネットワーク47を経由してコントローラ41に接続される。この製造装置25は、ネットワーク47を介さずに、シリアル・ポート、パラレル・ポート、またはUSBポート等を介して、コントローラ41に接続することも可能である。製造装置25の制御部に備わるCPUは、記録部、転写部、剥離部、画像の反転部に接続されていて、それらの動作を制御する。
ネットワーク47は、インターネット、ローカルエリアネットワーク(LAN)等のネットワークであり、有線、無線を問わない。コントローラ41は、製造装置25を制御するためのコンピュータである。コントローラ41において、制御部44、表示部45、入出力部46、記憶部42、および通信部43は、システム・バス48を介して互いに接続されている。コントローラ41には、デジタルカメラ、画像データ等を読み込むためのドライブ装置、および製版装置等を接続してもよい。
制御部44は、CPU、RAM、およびROM等を有する。CPUは、ROM等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、演算処理および動作制御を行って、システム全体を制御する。ROMは不揮発性メモリであり、プログラムおよびデータ等を恒久的に保持する。RAMは揮発性メモリであり、プログラム、およびデータ等を一時的に保持する。
表示部45は、CRTモニタ、または液晶パネル等のディスプレイ装置であり、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を含む。入出力部46は、データの入出力を行う部分である。データの入力を行うものとしては、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等であり、これらの入力部を介して、コントローラ41に対して、操作指示、動作指示、データ入力、維持管理等を行うことができる。また、入出力部46に不図示のスキャナやドライブ装置等を接続することにより、これらの外部装置からの入力データを制御部44に転送したり、データを外部装置に出力したりすることができる。
記憶部42はデータを記憶する装置であり、磁気ディスク、メモリ、光ディスク装置等を用いることができる。記憶部42には、制御部44が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(Operating System)等が格納される。また、製造装置25の記録部6によって記録されるパターンを格納することもできる。通信部43は、コントローラ41とネットワーク47間の通信を媒介する通信インターフェースであり、通信制御装置および通信ポート等を有する。コントローラ41の代りに、パーソナルコンピュータ等を用いることも可能である。
[6−1−4]制御系
図31は、図30の記録部に備わる制御系の構成を示すブロック図である。ホストPC120から送信された記録データやコマンドは、インターフェイスコントローラ102を介してCPU100に受信される。CPU100は、記録部6の記録データの受信、記録動作、転写材のハンドリング等、全般的な制御を司る演算処理装置である。CPU100は、受信したコマンドを解析した後、記録データの各色成分の画像データをイメージメモリ106にビットマップ展開する。画像の記録前に、出力ポート114およびモータ駆動部116を介してキャッピングモータ122とヘッドアップダウンモータ118を駆動し、記録ヘッド22(22K、22C、22M、22Y)をキャッピング位置(待機位置)から記録位置(画像形成位置)に移動させる。記録ヘッド22K、22C、22M、22Yは、それぞれブラック(Bk)、シアン(C),マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインクを吐出する記録ヘッドである。その後、一定速度で搬送される転写材に対して、インクを吐出し始めるタイミング(記録タイミング)を決定するために、センサ部31(先端検出センサ)によって転写材の位置を検出する。その後、転写材の搬送に同期して、CPU100は、イメージメモリ106から各インク色に対応する記録データを順次に読み出し、その記録データを、記録ヘッド制御回路112を介して対応する記録ヘッド22K、22C、22M、22Yに転送する。これにより、記録ヘッドの各ノズルに設けられた吐出エネルギー発生素子(ヒータやピエゾ素子など)が記録データに基づいて駆動され、駆動された吐出エネルギー発生素子に対応するノズルからインク滴が吐出される。吐出されたインク滴は、記録ヘッドの対向位置にある転写材のインク受容層へ着弾して、所望の画像が記録される。
このようなCPU100の動作は、プログラムROM104に記憶された処理プログラムに基づいて実行される。プログラムROM104には、制御フローに対応する処理プログラム及びテーブル等が記憶されている。また、作業用のメモリとしてワークRAM108が使用される。
[6−1−5]第1の製造装置の動作フロー
次に、図32(a),(b)のフローチャートにしたがって、図29の製造装置(第1の製造装置)25の動作フローについて説明する。この動作フローにしたがう処理は、例えば、図31の記録部のCPU100によって実行される。
記録部のCPUは、記録データがコントローラからネットワークまたは各種ポートを介して送信されたか否かを判定し(ステップS101)、記録データが送信されたときに、供給部からの画像が未記録の転写材の供給を開始させる(ステップS102)。そして、マーキングをセンサ部が検出していなければ、つまりセンサ部がOFFであれば、記録部が転写材に対する記録動作を開始する(ステップS103,S104)。その後、レジストガイドにおいて、画像支持体と転写材とを位置合わせする(ステップS107)。その位置合わせの完了後、転写部において転写材を画像支持体に転写(接着)させる(ステップS108,S109)。以上の動作は、いずれもセンサ部がマーキングを検出した時点を基準としている。
一方、CPUによって、記録データが送信されたと判定されたときに、画像支持体の供給部から転写部へ画像支持体が給送される(ステップS107A,S108A)。レジストガイドにおいて、画像支持体と転写材とを位置合わせする(ステップS111)。その位置合わせの完了後、転写部において転写材を画像支持体に転写させる(ステップS112,S113)。その後、剥離部へと搬送されるに伴って、転写材の搬送層(基材の全部あるいは一部)が剥離され、記録物(最終記録物)を排出部に排出して積載させる(ステップS114)。
[6−1−6]第1の製造装置により実行される処理
[6−1−6−1]転写材の位置検出
図29のセンサ部31は、転写部151の動作との同期をとるために転写材1の位置を検出し、CPUは、その検出結果に基づいて各部の制御を行う。マーキングの検出には、反射型又は透過型の光センサを用いる。
[6−1−6−2]記録処理
前述したように、インクジェット方式の記録装置によれば、記録ヘッドと転写材とが非接触であるため画像を安定的に記録することができる。
図29の製造装置25において、転写材1は、グリップローラ3とニップローラ2とに挟持されつつ、不図示のガイド板上を通過して記録部6に入る。記録部6は、画像データに応じて記録ヘッド6からインクを吐出することにより、転写材1のインク受容層に反転画像を記録する。
[6−1−5]転写工程
図29のように、反転画像が記録された転写材1は不図示のガイド板に案内されて、ヒートローラ21と加圧ロール22を含む転写部29に移動する。枚葉状のシート形態の画像支持体55は、供給部12に積載されており、レジストガイド14によって位置を補正されてから、転写材の搬送に合わせて転写部29に供給される。供給部12は、画像支持体55における画像の転写面へのゴミ付着、およびピックアップ時によるゴムロールからの汚染を防止するため、下側に位置するものから供給される。
画像が記録された転写材1と画像支持体55とを重ねて、それらをヒートローラ21と加圧ロール22と間に搬送して加熱することにより、転写材1を画像支持体55に転写(接着)させる。その後、転写材1の搬送層(基材の全部あるいは一部)を剥離する。これにより、画像支持体55は、画像が記録されたインク受容層(基材が透明保護層やホログラム層などの機能層を含んでいる場合は、インク受容層と機能層)が転写された状態となる。つまり、画像支持体55上には、インク受容層が最上層に位置する(基材が機能層を含んでいる場合は、その機能層が最上層に位置する)。
加熱圧着時における転写材の加熱は、プラスチックカード等の厚めの画像支持体側からではなく、主として転写材の基材側からの熱伝達によって行う。転写部29による転写工程において、インク受容層の最大到達温度は、離散的に配した接着剤のガラス転移温度以上とし、かつインクの主成分たる水の蒸発温度を超えないように制御すればよい。つまり、転写材1と画像支持体55とを接着させる際のヒートローラの表面温度は、離散的に配した接着剤が接着性を発現する温度以上とし、かつ水が蒸発して転写材1と画像支持体55との間に気泡を生じさせない温度であればよい。また、搬送速度等が速くて、熱源による加熱時間が十分に確保できない場合には、熱源とインク受容層とに温度差が生じるおそれがある。この場合には、ヒートローラの表面温度を通常よりも高くなるように制御してもよい。また、閉空間内において加熱した場合には、圧力上昇によって沸点が上昇して、インク受容層では水の蒸発温度が上昇するため、密着性および端部の箔切れ性に考慮して、ヒートローラの表面温度をさらに高い温度となるように制御してもよい。なお、ヒートローラの表面温度は、100〜180℃とすることが好ましい。
[6−1−6]剥離処理
図29のように、転写部29を通過した転写材における基材50は、画像の記録領域以外の部分が剥がされて、巻取りロール24に巻き取られる。また画像が転写された画像支持体55は、排出部26に搬送されて一枚ずつ集積される。
上記の記録物は、インク受容層が最上層となるように画像支持体上に積層された場合、この記録物のインク受容層の表面に対してさらに画像の記録が可能である。そのために、記録部6をさらに設けて、記録物のインク受容層の表面に正像の画像を記録してもよい。
[6−2]第2の製造装置
基材の搬送層が剥離されない転写材を用いて記録物を製造する製造装置25を、図33に基づいて説明する。
この製造装置25は、インクジェット方式等により画像を記録する記録部6と、画像が記録されたインク受容層を画像支持体に転写させる転写部29と、を備えている。これらの記録部6および転写部29の機構は、全て一体的に構成されていてもよく、各々を分離させて独立に構成してもよい。
以下においには、それらの記録部と転写部の機構が体的に構成された製造装置の一例について説明する。図33は、基材の搬送層が剥離されない転写材を用いて、記録物を製造する製造装置25の第2の構成例(以下、「第2の製造装置」ともいう)を模式的に示す側面図である。
[6−2−1]主要な構成
製造装置25は、供給部4と、記録部6と、を備える。供給部4は、転写材1を搬送経路へと送り出す。記録部6は、搬送経路へ送り出された転写材1に、色材、水、および不揮発性の有機溶媒等を含有する水系インクを直接吐出して、画像を記録する。その画像としては、用途に応じて反転画像または正像画像を選択することができる。
また、製造装置25は、画像が記録されたインク受容層を画像支持体に55転写させる転写部29を備える。第1の製造装置との相違点は、基材の剥離部を備えていないことにある。第1の製造装置と同様の部分についての説明は省略する。
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、下記の実施例によっていかなる制限を受けるものではない。なお、以下の記載における「部」、「%」は特に断らない限り質量基準である。
(実施例1)
[アルミナ水和物分散液の調製]
ベーマイト構造(擬ベーマイト構造)を有するアルミナ水和物A(商品名「Disperal HP14」、サソール製)20部を純水79.4部中に添加し、さらに酢酸0.4部を添加して解膠処理を行うことにより、20%のアルミナ水和物分散液を得た。アルミナ水和物分散液におけるアルミナ水和物微粒子の平均粒子径は140nmであった。
[ポリビニルアルコール水溶液の調製]
これとは別に、ポリビニルアルコール(商品名「PVA235」、クラレ製)をイオン交換水に溶解し、固形分含量が8%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。なお、ポリビニルアルコールは、重量平均重合度が3,500、けん化度が87〜89mol%であった。
[インク受容層形成用の塗工液1の調製]
アルミナ水和物分散液100部に、ポリビニルアルコール水溶液27.8部を加え、さらにカチオン性樹脂としてポリアリルアミン3.0部を加え、スタティックミキサーにより混合し、インク受容層形成用塗工液1を得た。ポリアリルアミンとしては、重量平均重合度が1,600のポリアリルアミン(商品名「PAA−01」、日東紡製)を用いた。
[積層シートの製造]
インク受容層形成用塗工液1をPET基材(商品名「テトロンG2」帝人デュポンフィルム株式会社製)の表面(厚さ19μm)に塗工した後、乾燥することにより、基材とインク受容層とを含む転写材の構成素材としての積層シートを製造した。塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は15g/m2とした。乾燥温度は60℃とした。インク受容層の厚さは15μmであった。
[接着剤水溶液1の調製]
サイデン化学株式会社製サイビノールRMA−63(平均粒子径1μm)5部に、イオン交換水45部を加え、接着剤水溶液1を得た。
[転写材1の製造]
積層シートのインク受容層表面に、接着剤水溶液1を塗工して乾燥させることにより、インク受容層表面に接着層の接着剤を離散的に設け、インク受容層の表面は、直接露出した部分が残るようにした転写材1を製造した。塗工液の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分とした。乾燥温度は60℃とした。このとき、グラビアロールの溝の線数は200線とした。転写材は、インク受容層を外側、基材を内側にしてロール状に巻くことにより、ロール状転写材とした。島状に形成される接着層の厚さは2μmであった。後述する転写材10,13,17は、転写材1と同様に製造した。
転写材1の断面をSEMによって観察し、接着部における接着剤粒子がインク受容層と接している部分の面積を測定した。その際には、まず、インク受容層と接している接着剤粒子100個の直径の平均値を算出し、その平均値から、接着材粒子の1つがインク受容層と接している部分の面積を算出した。次に、記録面側からの転写材のSEMによる投影図から、測定範囲の接着部において、インク受容層と接する接着剤粒子の数を算出して、接着部における接着剤がインク受容層と接する部分の全面積(図6中の面積B)を接触面積として求めた。転写材のSEMの投影図による測定範囲の全面積から面積Bを引くことにより、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)を算出した。また、記録面側からのSEMの投影図によって、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)を確認した。その結果、接触面積は、接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層全面積の75%であった。また、インクジェット記録における1画素に、少なくとも一つ海部があることを確認した。転写材1の主要な構成は表2に記載した。
また、転写材1と同様の転写材10,13,17の主要な構成は、表6および表7に記載した。また、後述する各実施例における転写材は、転写材1と同様にSEMにより観察して、接触面積、露出部面積、および接着部面積を算出した。
このようにして得られた実施例1の転写材1に、上述した第1の製造装置を用いて、樹脂分散顔料インクにより、解像度1200dpiおよびインク吐出量4plの条件において記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した。その後、その転写材1を画像支持体に加熱圧着させてからPET基材を剥離することにより、実施例1の記録物を得た。樹脂分散顔料インクの調製法については、後述する。製造装置の記録部としては、シリアルヘッドを搭載した顔料インクジェットプリンタ(商品名「PIXUS PRO−1」、キヤノン株式会社製)を用いた。このプリンタに、樹脂分散顔料インクを搭載し、普通紙モード(吐出量4pl、解像度1200dpi、単色記録)によって、記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した。画像支持体としては、塩化ビニル製のカード(商品名「C−4002」、エボリス製)を用いた。加熱圧着の条件は、温度160℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。
[顔料インクの調製]
<(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の合成>
撹拌装置と、滴下装置と、温度センサと、上部に窒素導入装置を有する還流装置と、を取り付けた反応容器に、メチルエチルケトン1,000部を仕込み、そのメチルエチルケトンを撹拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸2−ヒドロキシエチル63部、メタクリル酸141部、スチレン417部、メタクリル酸ベンジル188部、メタクリル酸グリシジル25部、重合度調整剤(商品名「ブレンマーTGL」、日本油脂社製)33部、及びペルオキシ−2−エチルヘキサン酸−t−ブチル 67部を混合して得た混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で10時間反応を継続させて、酸価110mgKOH/g、ガラス転移点(Tg)89℃、重量平均分子量8,000の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液(樹脂分:45.4%)を得た。
<水性顔料分散体の調製1>
冷却機能を備えた混合槽に、フタロシアニン系ブルー顔料1,000部、上記の合成により得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液、25%水酸化カリウム水溶液、及び水を仕込み、撹拌及び混合して混合液を得た。なお、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)は、フタロシアニン系ブルー顔料に対して、不揮発分で40%の比率となる量を用いた。また、25%水酸化カリウム水溶液としては、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)が100%中和される量を用いた。さらに、水は、得られる混合液の不揮発分を27%とする量を用いた。得られた混合液は、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置に通し、循環方式により4時間分散させた。分散液の温度は40℃以下に保持した。
混合槽から分散液を抜き取った後、水10,000部で混合槽と分散装置との流路を洗浄し、洗浄液と分散液とを混合して希釈分散液を得た。得られた希釈分散液を蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を留去して、濃縮分散液を得た。室温まで放冷した濃縮分散液を撹拌しながら2%塩酸を滴下して、pH4.5に調整した後、ヌッチェ式濾過装置にて固形分を濾過して水洗した。得られた固形分(ケーキ)を容器に入れ、水を加えた後、分散撹拌機を使用して再分散させ、25%水酸化カリウム水溶液によってpH9.5に調整した。その後、遠心分離器を使用し、6000Gで30分間かけて粗大粒子を除去した後、不揮発分を調整して水性シアン顔料分散体(顔料分:14% 酸価110)を得た。
フタロシアニン系ブルー顔料を、カーボンブラック系ブラック顔料、キナクリドン系マゼンタ顔料又はジアゾ系イエロー顔料に変更したことを除いては、水性シアン顔料分散体と同様にして、水性ブラック顔料分散体、水性マゼンタ顔料分散体、又は水性イエロー顔料分散体を得た。
<インクの調製>
下表1に示す組成(合計:100部)となるように、水性顔料分散体および各成分を容器に投入し、プロペラ撹拌機を使用して30分以上撹拌した。その後、孔径0.2μmのフィルター(日本ポール社製)で濾過して、顔料インクを調製した。なお、表1中の「AE−100」は、アセチレングリコール10モルエチレンオキサイド付加物(商品名「アセチレノールE100」、川研ファインケミカル製)を示す。
(実施例2)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例1と同様にして実施例2の記録物を得た。
実施例1および実施例2においては、インク受容層を形成する無機微粒子の平均粒子径および細孔径は最適である。そのため、顔料インクを用いた実施例1においては、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しないため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性は良好である。一方、染料インクを用いた実施例2においては、染料インクがインク受容層の内部でほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好であるものの、画像の保存性はやや劣る。
(実施例3)
[シリカ分散液の調製]
シリカ微粒子(商品名「スノーテックスMP−4540M」、日産化学化学株式会社製)12部を純水中に添加して攪拌することにより、シリカ分散液を得た。このシリカ分散液におけるシリカ微粒子の平均粒子径は450nmであった。
[インク受容層形成用塗工液2の調製]
シリカ分散液100部に、ポリビニルアルコール水溶液27.8部を加え、さらにカチオン性樹脂としてポリアリルアミン1.8部を加えて、スタティックミキサーにより混合することにより、インク受容層形成用塗工液2を得た。ポリアリルアミンとしては、重量平均重合度が1,600のポリアリルアミン(商品名「PAA−01」、日東紡製)を用いた。
[転写材2の製造]
インク受容層形成用塗工液1の代わりにインク受容層形成用塗工液2を用いた以外は、実施例1と同様にして転写材2を得た。
転写材2を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接する接着部の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層の全面積の75%であった。インクジェット記録における1画素に、少なくとも1つの海部があることが確認できた。転写材の主要な構成は表2に記載した。
転写材1の代わりに転写材2を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2の記録物を得た。
(実施例4)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例3と同様にして実施例4の記録物を得た。
実施例3および実施例4においては、実施例1に比べて、インク受容層を形成する無機微粒子の平均粒子径が大きいため、インク受容層の細孔径が大きい。そのため、顔料インクを用いた実施例3において、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しやすくなるため、エリアファクターは100%になりやすい。しかし、インク受容層の強度が弱くなるため、バインダーの量を増やす必要があり、そのバインダーによりインク吸収比率が低減する。また、細孔径が大きいために、インク受容層の空隙の毛管力が小さくなり、インクの吸収速度はわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、顔料インクのために画像の保存性も良好である。一方、染料インクを用いた実施例4においては、染料インクがインク受容層の内部でほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好であるが、画像の保存性はやや劣る。
(実施例5)
[樹脂微粒子分散液の調製]
アクリル樹脂微粒子(商品名「MP−300」、綜研化学株式会社製)20部を純水中に添加して攪拌することにより、樹脂微粒子分散液を得た。樹脂微粒子分散液における樹脂微粒子の平均粒子径は、100nmであった。
[インク受容層形成用塗工液3の調製]
樹脂微粒子分散液100部に、ポリビニルアルコール水溶液27.8部を加え、さらにカチオン性樹脂としてポリアリルアミン1.8部を加えて、スタティックミキサーにより混合することにより、インク受容層形成用塗工液3を得た。ポリアリルアミンとしては、重量平均重合度が1,600のポリアリルアミン(商品名「PAA−01」、日東紡製)を用いた。
[転写材3の製造]
インク受容層形成用塗工液1の代わりにインク受容層形成用塗工液3を用いた以外は、実施例1と同様にして転写材3を得た。
転写材3を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接する接着部の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層の全面積の75%であった。転写材3の主要な構成は表3に記載した。
転写材1の代わりに転写材3を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5の記録物を得た。
(実施例6)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例5と同様にして実施例6の記録物を得た。
実施例5および実施例6においては、空隙吸収型のインク受容層が樹脂微粒子で構成されている。そのため、顔料インクを用いた実施例5においては、実施例1と同様に、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しないため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性がわずかに劣るものの、実使用上は問題がない。加熱圧着による転写時に、樹脂微粒子によって構成されているインク受容層が破壊されて、インク受容層の内部に保持されているインク中の溶媒や水成分が染み出やすいため、接着性はやや劣ものの、顔料インクのために画像の保存性は良好である。
一方、染料インクを用いた実施例6においては、染料インクがインク受容層の内部でほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターが100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。しかし、加熱圧着による転写時に、樹脂微粒子によって構成されているインク受容層が破壊されて、インク受容層の内部に保持されているインク中の溶媒や水成分が染み出やすいため、接着性はやや劣る。また、染料インクであるために画像の保存性はやや劣る。
(実施例7)
[接着剤水溶液4の調製]
サイデン化学株式会社製サイビノールRMA−63(平均粒子径1μm)5部に、イオン交換水20部を加え、接着剤水溶液4を得た。
[転写材4の製造]
接着剤水溶液1の代わりに接着剤水溶液4を用いた以外は実施例1と同様にして、転写材4を得た。
転写材4を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接着部とが接する部分の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層全面積の55%であった。これらの観察結果および主要な構成は、表3に記載した。転写材1の代わりに転写材4を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例7の記録物を得た。
(実施例8)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例7と同様にして実施例8の記録物を得た。
実施例7および実施例8においては、実施例1に比べて、直接露出する海部の面積がやや小さいものの、インク受容層を形成する無機微粒子の平均粒子径が最適であり、細孔径も最適である。そのため、顔料インクを用いた実施例7の場合は、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しないため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性がわずかに劣るものの、実使用上は問題がない。また、画像の保存性は良好である。一方、染料インクを用いた実施例8の場合は、染料インクがインク受容層の内部でほぼ等方的に拡がって浸透し、エリアファクターが100%になりやすいため、画像の記録特性は良好であるが、画像の保存性はでやや劣る。
(実施例9)
[接着剤水溶液5の調製]
サイデン化学株式会社製サイビノールRMA−63(平均粒子径1μm)5部に、イオン交換水10部を加え、接着剤水溶液5を得た。
[転写材5の製造]
接着剤水溶液1の代わりに接着剤水溶液5を用いた以外は実施例1と同様にして、転写材5を得た。
転写材5を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接着部とが接する部分の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層全面積の45%であった。インク受容層の表面には、インクジェット記録の1画素分の領域に露出部(海部)が1つも無い部分もあった。これらの観察結果および主要な構成は、表4に記載した。転写材1の代わりに転写材5を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例9の記録物を得た。
(実施例10)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例11と同様にして実施例10の記録物を得た。
実施例9および実施例10の転写材は、直接露出する海部の面積が小さくなる(50%以下となる)ように構成されている。そのため、顔料インクを用いた実施例9の場合は、直接露出する海部の面積が小さく、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しないため、エリアファクターが100%とならず、画像の記録特性がやや劣る。しかしながら、顔料インクであるため画像の保存性は良好である。
一方、染料インクを用いた実施例10の場合は、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するものの、インク受容層と接する面積が大きく直接露出する面積も小さいため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性はやや劣る。また、染料インクであるため、画像の保存性もやや劣る。
(実施例11)
[接着剤水溶液6の調製]
サイデン化学株式会社製サイビノールRMA−63(平均粒子径1μm)5部に、イオン交換水10部を加え、接着剤水溶液6を得た。
[転写材6の製造]
接着剤水溶液1の代わりに接着剤水溶液6を用いて、グラビアロールの溝の線数を150線とした以外は、実施例1と同様にして転写材6を得た。なお、接着部の厚みは6μmであった。
転写材6を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接する接着部の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層の全面積の75%であった。インクジェット記録における1画素に、少なくとも1つの海部があることが確認できた。転写材6の主要な構成は表4に記載した。転写材1の代わりに転写材6を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例11の記録物を得た。
(実施例12)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクよって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例11と同様にして実施例12の記録物を得た。
実施例11および実施例12における転写材は、実施例1に比べて、接着層の高さが大きくになるように構成されている。そのため、顔料インクを用いた実施例11の場合は、実施例1に比べて接着層が高くなるため、インクを垂れ込ませる垂れ込み性能が僅かに劣るものの、実使用上は問題がない。また、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しないため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性がわずかに劣るものの、実使用上は問題がない。また、画像の保存性は良好である。一方、染料インクを用いた実施例12の場合は、接着層が高くなるため、インクの垂れ込み性能はごく僅かに劣るものの、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく画像の記録特性は良好である。また、染料インクのため、画像の保存性はやや劣る。
(実施例13)
[接着剤水溶液7の調製]
第一工業製薬社製スミカフレックス766(平均粒子径0.5μm)5部に、イオン交換水10部を加えて、接着剤水溶液7を得た。
[転写材7の製造]
接着剤水溶液1の代わりに接着剤水溶液7を用いた以外は実施例1と同様にして、転写材7を得た。なお、接着剤の厚みは1μmであった。
転写材7を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接する接着部の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層の全面積の75%であった。転写材7の主要な構成は表4に記載した。転写材1の代わりに転写材7を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例13の記録物を得た。
(実施例14)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例13と同様にして実施例14の記録物を得た。
実施例13および実施例14における転写材は、実施例1に比べて、接着層の厚みが小さくなるように構成されている。そのため、顔料インクを用いた実施例13の場合は、実施例1に比べて接着層が薄くなるため、転写時に接着剤が溶融して顔料色材を被覆する性能は、僅かに低下するものの実使用上は問題がない。また、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しないため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性がわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性も良好である。一方、染料インクを用いた実施例14の場合は、染料インクのために画像の保存性がやや劣る。しかしながら、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターが100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。
(実施例15)
[接着剤水溶液8の調製]
三井化学株式会社製ケミパールV300(平均粒子径6μm)5部に、イオン交換水10部を加えて、接着剤水溶液8を得た。
[転写材8の製造]
接着剤水溶液1の代わりに接着剤水溶液8を用いた以外は実施例1と同様にして、転写材8を得た。なお、接着層の厚みは12.0μであった。
転写材8を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接する接着部の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層の全面積の75%であった。インクジェット記録における1画素に、少なくとも1つの海部があることが確認できた。転写材8の主要な構成は表5に記載した。転写材1の代わりに転写材8を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例15の記録物を得た。
(実施例16)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例15と同様にして実施例16の記録物を得た。
実施例15および実施例16における転写材は、接着層の高さが大きくなるように構成されている。そのため、顔料インクを用いた実施例15の場合は、接着層が高くなるため、接着部にインクが垂れ込むときに、インクが千切れてインクが接着面に残留しやすいため、画像の記録特性がやや劣り、接着性能も劣る。しかし、画像の保存性は良好である。一方、染料インクを用いた実施例16の場合、接着層が高くなるため、接着部にインクが垂れ込むときに、インクが千切れて接着面に残留しやすいため、接着性能がやや劣る。また染料インクのために、画像の保存性でもやや劣る。しかしながら、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するため、画像の記録特性は僅かに劣とるものの、実使用上は問題がない。
(実施例17)
[接着剤水溶液9の調製]
三井化学株式会社製スーパーフレックス500M(平均粒子径0.15μm)5部に、イオン交換水10部を加えて、接着剤水溶液9を得た。
[転写材9の製造]
接着剤水溶液1の代わりに接着剤水溶液9を用いた以外は実施例1と同様にして、転写材9を得た。なお、接着層の厚みは0.3μであった。
転写材9を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接する接着部の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層の全面積の75%であった。転写材9の主要な構成は表5に記載した。転写材1の代わりに転写材9を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例17の記録物を得た。
(実施例18)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例17と同様にして実施例18の記録物を得た。
実施例17および実施例18における転写材は、インク受容層の空隙率を80%、解像度を1200dpi、インク吐出量を4pl、インクの色材濃度を5%としたときに、接着部の厚みHがインク受容層の厚みの100分の3より小さくなるように構成されている。顔料インクを用いる実施例17の場合は、表面に残留する色材の顔料が、島部である接着部の高さHよりも高くなって、接着部が顔料を覆いつくすくことができないため、接着性能がやや劣る。また、顔料はインク受容層の内部に浸透しにくく、インク受容層の内部において拡がりにくいため、エリアファクターは100%になりにくく、画像の記録特性がわずかに劣るものの、実使用上は問題がない。また、画像の保存性は良好である。一方、染料インクを用いた実施例18の場合は、色材の染料は表面に残留しにくく、接着を阻害しないため接着性は良好である。また染料インクであるため、画像の保存性はやや劣る。しかしながら、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターが100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。
(実施例19)
画像支持体としては、塩化ビニル製のカード(商品名「C−4002」、エボリス製)の代わりにリサイクル紙(商品名「GF―R100」、キヤノン株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして記録物を得た。加熱圧着の条件は、温度160℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。
(実施例20)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例19と同様にして実施例20の記録物を得た。
実施例19および実施例20においては、転写材を紙の画像支持体へ転写する。紙との接着性に優れた接着剤を用いて海島状の接着層を構成することにより、良好な接着性が得られる。顔料インクを用いた実施例19の場合は、色材である顔料がインク受容層の内部に浸透しにくく、インク受容層内で拡がりにくいため、エリアファクターは100%になりにくく、画像の記録特性がわずかに劣るものの、実使用上は問題がない。また、顔料インクであるために画像の保存性は良好である。また、染料インクを用いた実施例20の場合は、染料インクのために画像の保存性はやや劣る。しかし、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターが100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。
(実施例21)
[接着剤水溶液11の調製]
DIC株式会社製ボンディック1940NE(平均粒子径0.62μm)5部に、イオン交換水10部を加えて、接着剤水溶液11を得た。
[転写材11の製造]
接着剤水溶液1の代わりに接着剤水溶液11を用いた以外は実施例1と同様にして、転写材11を得た。
転写材1の代わり転写材11を用い、また画像支持体として、塩化ビニル製のカード(商品名「C−4002」、エボリス製)の代わりにスライドガラス(商品名「スライドガラス」、武藤化学株式会社製)を用いること以外は、実施例1と同様にして実施例21の記録物を得た。加熱圧着の条件は、温度160℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。
(実施例22)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例21と同様にして実施例22の記録物を得た。
実施例21および実施例22においては、転写材をガラスの画像支持体へ転写する。ガラスとの接着性に優れた接着剤を用いて海島状の接着層を構成することにより、良好な接着性が得られる。顔料インクを用いる実施例21の場合は、色材である顔料がインク受容層の内部に浸透しにくく、インク受容層内で拡がりにくいため、エリアファクターは100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がない。また、顔料インクであるため、画像の保存性は良好である。また、染料インクを用いる実施例22の場合は、染料インクのために画像の保存性はやや劣る。しかしながら、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターが100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。
(実施例23)
[接着剤水溶液12の調製]
日信化学株式会社製ビニブラン2685(平均粒子径0.21μm)5部に、イオン交換水10部を加えて、接着剤水溶液12を得た。
[転写材12の製造]
接着剤水溶液1の代わりに接着剤水溶液12を用い、インク受容層の厚みを10μmで塗工した以外は、実施例1と同様にして転写材12を得た。
転写材1の代わり転写材12を用いること、および画像支持体として、塩化ビニル製のカード(商品名「C−4002」、エボリス製)の代わりにPET製のカード(商品名「ペットカード」、合同技研株式会社製)を用いること以外は、実施例1と同様にして記録物を得た。加熱圧着の条件は、温度160℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。
(実施例24)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例23と同様にして実施例24の記録物を得た。
実施例23および実施例24においては、転写材をPETの画像支持体へ転写する。PETとの接着性に優れた接着剤を用いて海島状の接着層を構成することにより、良好な接着性が得られる。顔料インクを用いる実施例23の場合は、色材である顔料がインク受容層の内部に浸透しにくく、インク受容層内で拡がりにくいため、エリアファクターは100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がない。また、顔料インクであるために、画像の保存性は良好である。また、染料インクを用いる実施例24の場合は、染料インクのために画像の保存性がやや劣る。しかしながら、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターが100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。
(実施例25)
転写材13に、上述した第1の製造装置を用いて、顔料インクにより記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した。その後、その転写材を実施例1の記録物1のインク受容層に加熱圧着させてから、転写材13のPET基材を剥離して、多層の記録物を得た以外は、実施例1と同様にして多層記録物を得た。この多層記録物のインク受容層に、顔料インクにより記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録することにより実施例25の記録物を得た。
(実施例26)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例25と同様にして実施例26の記録物を得た。
実施例25および実施例26においては、空隙吸収型のインク受容層の上に、転写材のインク受容層を積層して多層構造を構成する。転写材として、基材上に空隙吸収型のインク受容層が設けられ、そのインク受容層の表面に接着層の接着剤が離散的に設けられて、インク受容層の表面に、直接露出する露出部分が形成された転写材を用いる。このような転写材を用いることにより、接着剤層が加熱圧着により容易に溶解して、記録物側のインク受容層と、転写材側のインク受容層と、間に生ずる空間を埋めることができる。このように、空隙吸収型のインク受容層同士を接着させることが可能となるため、画像支持体上に、インク受容層を多層に形成した多層記録物を作製することができる。
顔料インクを用いる実施例25の場合は、色材である顔料がインク受容層の内部に浸透しにくく、インク受容層内で拡がりにくいため、エリアファクターは100%になりにくく、画像の記録特性がわずかに劣るものの、実使用上は問題がない。また、顔料インクであるために、画像の保存性は良好である。また、染料インクを用いる実施例26の場合は、染料インクのために、画像の保存性はやや劣る。しかしながら、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターが100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。
(実施例27)
[PVA水溶液2の合成]
ポリビニルアルコール(商品名「PVA123」、クラレ製)をイオン交換水に溶解して、固形分含量が8%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。ポリビニルアルコールは、重量平均重合度が2300、けん化度が98〜99mol%であった。
[透明シート形成用塗工液の合成]
アクリルエマルジョン水溶液(BASF社製ジョンクリル352D、Tg56℃、固形分濃度45%)を9部と、ウレタンエマルジョン水溶液(第一工業製薬社製スーパーフレックス130、Tg103℃、固形分濃度35%)を1部と、PVA水溶液2を0.5部と、加えて5分攪拌混合し、透明シート形成用の塗工液を得た。
[積層シート(転写材の構成素材)の製造]
透明シート形成用の塗工液をPET基材(商品名「テトロンG2)帝人デュポンフィルム株式会社製」)の表面(厚さ19μm)に塗工した後、乾燥させることにより、積層シートを製造した。その塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は5g/m2とした。乾燥温度は90℃とした。
次に、積層シートにおける透明シートの表面に、インク受容層形成用塗工液1を塗工した後、乾燥することにより、基材、透明保護層、およびインク受容層を含む転写材の構成素材としての積層シートを製造した。塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は15g/m2とした。乾燥温度は100℃とした。インク受容層の厚さは15μmであった。
[転写材14の製造]
積層シートのインク受容層表面に、接着剤水溶液1を塗工して乾燥させることにより、インク受容層表面に接着層の接着剤を離散的に設けて、インク受容層の表面に、直接露出する部分を残した転写材を製造した。塗工液の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分とした。乾燥温度は60℃とした。このとき、グラビアロールの溝の線数は200線とした。転写材は、インク受容層を外側、基材を内側にしてロール状に巻くことにより、ロール状転写材とした。島状の接着層の厚さは2μmであった。
転写材14を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接する接着部の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層の全面積の75%であった。インクジェット記録における1画素に、少なくとも1つの海部があることが確認できた。転写材14の主要な構成は表7に記載した。
[記録物]
転写材1の代わりに転写材14を用い、加熱圧着後に、転写材のPET基材のみを剥離(基材の一部を剥離)し、塩化ビニル製のカード上に透明シートとインク受容層を積層した以外は、実施例1と同様にして実施例27の記録物を得た。
(実施例28)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例27と同様にして実施例28の記録物を得た。
実施例27および実施例28における転写材は、基材の一部が剥離されるように構成されている。加熱圧着後に、搬送層であるPET基材が剥離されて、透明保護層がインク受容層の記録面に積層される。顔料インクを用いる実施例27の場合は、色材である顔料がインク受容層の内部に浸透しにくく、インク受容層内で拡がりにくいため、エリアファクターは100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がない。また、顔料インクであるために、画像の保存性は良好である。また、染料インクを用いる実施例28の場合は、染料インクのために、画像の保存性でやや劣る。しかしながら、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。
(実施例29)
[積層シート(転写材の構成素材)の製造]
インク受容層形成用塗工液1をアクリル基材(商品名「パラピュア クラレ株式会社製)の表面(厚さ50μm)に塗工した後、乾燥させることにより、基材と、インク受容層を含む転写材の構成素材としての積層シートを製造した。その塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の厚みは15μmとした。乾燥温度は90℃とした。
[転写材15の製造]
積層シートのインク受容層の表面に、接着剤水溶液1を塗工して乾燥させることにより、インク受容層の表面に、接着層が形成された転写材を製造した。接着層は、インク受容層の表面に接着剤を海島状に配することによって形成され、接着剤から成る接着部としての島部と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部に対応する海部と、を含む。塗工液の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分とした。乾燥温度は60℃とした。このとき、グラビアロールの溝の線数は200線とした。転写材は、インク受容層を外側、基材を内側にしてロール状に巻くことにより、ロール状転写材とした。島状の接着層の厚さは2μmであった。
転写材15を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接する接着部の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層の全面積の75%であった。インクジェット記録における1画素に、少なくとも1つの海部があることが確認できた。転写材15の主要な構成は表7に記載した。
[記録物]
実施例29においては、第1の製造装置の代わりに製造装置2を用い、かつ転写材1の代わりに転写材15を用いて、その転写材15を画像支持体としてのアクリル板 商品名「アクリルサンデー板(サイズSS) アクリルサンデー社製」上に加熱圧着して転写し、その後、アクリル基材を剥離せずにそのまま残して、基材とインク受容層を画像支持体上に積層した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例29の記録物を得た。
(実施例30)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例29と同様にして実施例30の記録物を得た。
実施例29および実施例30の転写材は、基材が剥離しないように構成されている。このように基材を剥離せずにそのまま残して、基材とインク受容層とを画像支持体上に積層することにより、搬送層をインク受容層の保護層とすることができる。顔料インクを用いた実施例31の場合は、色材である顔料がインク受容層の内部に浸透しにくく、インク受容層内で拡がりにくいため、エリアファクターは100%になりにくく、画像の記録特性がわずかに劣るものの、実使用上は問題がない。また、顔料インクであるため、画像の保存性は良好である。また、染料インクを用いた実施例32の場合は、染料インクであるため、画像の保存性がやや劣る。しかし、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。
(実施例31)
[転写材16の製造]
基材シートとして、PET基材シート(商品名「テトロンG2」帝人デュポンフィルム株式会社製)の代わりに、厚さが25μmのポリプロピレン系の基材の一方の表面にポリプロピレン系の接着層が形成され、その基材の他方の表面にヒートシール層が形成されたシート(商品名「アルファンBDH−224」、王子エフテック社製)を用い、また第1の製造装置の代わりに製造装置2を用いた以外は、実施例1と同様にして転写材16を得た。
転写材16を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接する接着部の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層の全面積の75%であった。インクジェット記録における1画素に、少なくとも1つの海部があることが確認できた。転写材16の主要な構成は表7に記載した。
転写材16のインクジェット記録面に、上述した第1の製造装置を用いて、樹脂分散顔料インクにより解像度1200dpi、吐出量4plの条件下において記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した。製造装置の記録部としては、シリアルヘッドを搭載した顔料インクジェットプリンタ(商品名「PIXUS PRO−1」、キヤノン株式会社製)を用いた。このプリンタに樹脂分散顔料インクを搭載し、普通紙モード(吐出量4pl、解像度1200dpi、単色記録)によって、記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した。そして、インク受容層とヒートシール層とを接着して包装体を製造した。この包装体を製造する際の加熱圧着は、温度150℃、圧力0.5kg/cmで行った。
(実施例32)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、実施例31と同様にして実施例32の記録物を得た。
実施例31および実施例32の転写材は、基材の搬送層が剥離されない両面にヒートシール層を備えた構造となっている。このような記録物における転写材を折り返すことにより、インク受容層の表面に離散的に配した接着剤を介して、インク受容層と、その逆面に備えたヒートシール層と、を接着して、包装体を製造することができる。もちろん他の形態として、インク受容層同士が接着可能な包装体、および、互いに逆の面に備えられたヒートシール層同士が接着可能な包装体を製造することもできる。顔料インクを用いた実施例31の場合は、色材である顔料がインク受容層の内部に浸透しにくく、インク受容層内で拡がりにくいため、エリアファクターは100%になりにくく、画像の記録特性がわずかに劣るものの、実使用上は問題がない。また、顔料インクであるため、画像の保存性は良好である。また、染料インクを用いた実施例32の場合は、染料インクのために画像の保存性がやや劣る。しかしながら、染料インクがインク受容層の内部においてほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。
(実施例33)
転写材1の代わりに転写材17に用い、第1の製造装置の代わりに製造装置2を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例19の記録物を得た。なお、画像の記録後における転写材のインクジェット記録面を110℃の温度で5分間の加熱処理をおこなった。
実施例33の転写材は、接着剤として自己溶融型の接着剤を含む構成となっている。自己溶融型接着剤を用いることにより、インク受容層上に設けられた接着剤が溶融して、隣接する接着剤同士がインクジェット記録された記録面を覆いながら接着する。これにより、表面に色材が残りやすい顔料インクを用いた場合でも、その顔料インクによりインクジェット記録された記録面が自己溶融接着型の接着剤によって保護されるため、記録物の耐擦過性が向上する。また、色材である顔料がインク受容層の内部に浸透しにくく、インク受容層内において拡がりにくいため、エリアファクターは100%になりにくい。
(比較例1)
[転写材18の製造]
接着剤水溶液1の代わりにイオン交換水で希釈していないサイデン化学株式会社製サイビノールRMA−63(平均粒子径1μm)用いて、ダイコーターによってインク受容層上に接着層を2μmの厚みで設けた以外は実施例1と同様にして、インク受容層の表面に露出部(海部)がない転写材18を得た。
転写材18を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接着部とが接する部分の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。インク受容層の全面が接着剤で埋められ、インク受容層の表面には、接着剤が無いインク受容層の露出部は存在しなかった。これらの観察結果および主要な構成は、表5に記載した。転写材1の代わりに転写材18に用いて、実施例1と同様に、比較例1の記録物を得た。
(比較例2)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、比較例1と同様にして比較例2の記録物を得た。
(比較例3)
[転写材19の製造]
インク受容層形成用の塗工液の代わりに、高松油脂株式会社製NS−625XCを用いた以外は実施例1と同様にして、インク受容層が膨潤吸収型の転写材19を得た。
転写材19を記録面側からSEMによって観察し、空隙吸収型のインク受容層の表層と接着部とが接する部分の面積(接触面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、表面に接着剤が無いインク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、を確認した。接触面積は接着部面積よりも小さく、露出部面積はインク受容層全面積の75%であった。これらの観察結果および主要な構成は、表9に記載した。この転写材19を転写材1の代わりに用いて、実施例1と同様に、比較例3の記録物を得た。
(比較例4)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した以外は、比較例3と同様して比較例4の記録物を得た。比較例1と比較例3と比較例4においては、接着性が悪く、転写材を画像支持体に転写できなかったため記録物が作成できず、画像の保存性の評価を行うことができなかった。
(比較例5)
[転写材20の製造]
積層シートのインク受容層表面に、接着剤水溶液1を塗工しない以外は実施例33と同様にして、接着剤から成る島部を持たない転写材20を得た。主要な構成は表10に記載した。この転写材20を転写材1の代わりに用いて、実施例33と同様に、画像を記録した後に、転写材のインクジェット記録面を110℃の温度で5分間の加熱処理を行って、比較例5の記録物を得た。
<評価>
(画像特性)
上述した実施例および比較例の転写材を用いて、画像の記録特性(画像特性)を評価した。画像特性は、インク吸収性と白抜け度合い(画像濃度)を総合して評価した。インク吸収性と白抜け度合い(画像濃度)のうち、最も悪い結果を評価結果は表10に示した。
(インク吸収性)
上述した実施例および比較例の転写材に対して、インク吸収性を評価した。具体的には、転写材に画像を記録してから1秒後に、画像の記録面に紙を重ねた。そして、転写材に吸収されていない未吸収のインクが紙へ移る様子を目視により確認し、以下の基準に基づいてインク吸収性を評価した。
◎:紙へのインク移りが5%未満である。
○:紙へのインク移りが5%以上10%未満である。
△:紙へのインク移りが10%以上20%未満である。
×:紙へのインク移りが20%以上である。
(白抜け度合い(画像濃度))
上述した実施例および比較例の転写材を用いて、画像の白抜け度合いを評価した。具体的には、転写材の記録面にベタ画像を記録した後、その記録面とは反対側面から、ベタ画像の記録部を顕微鏡により観察し、以下の基準に基づいて白抜け度合いを評価した。
◎:エリアファクター95%以上である。
○:エリアファクター70%以上95%未満である。
△:エリアファクター50%以上70%未満である。
×:エリアファクターが50%未満である。
(接着特性)
上述した実施例および比較例の転写材の接着性を評価した。接着性は、転写材を画像支持体に加熱圧着してから、その転写材を画像支持体に接着させたときの接着性を以下の基準に基づいて評価した。なお、実施例31、32においては、転写材の表面側のインク受容層と、その裏面側のヒートシール層と、の接着性を以下の基準に基づいて評価した。また、実施例33および比較例5においては、インクジェット記録された記録面の表面状態を顕微鏡により観察して、以下の基準に基づいて評価した。これらの評価結果は表8および表10に示した。
○:画像支持体に良好に転写(接着)する。あるいは、記録面の表面が接着剤によって完全に被覆される。
△:画像支持体に一部に転写(接着)しない部分がある。あるいは、記録面の表面に、接着剤によって完全に被覆されない部分がある。
×:画像支持体に全く転写(接着)しない。記録面の表面が接着剤によって被覆されない。
(画像の保存性)
画像の保存性に関しては、耐マイグレーション性、耐水性、および耐光性を総合して評価した。耐マイグレーション性、耐水性、および耐光性のうち、最も悪い評価結果を表9および表10に示した。
(耐マイグレーション性)
上述した実施例および比較例の記録物に対してマイグレーション試験を行った。記録物を高温・高湿度(30℃、80%RH)の環境下において72時間放置した後、記録物に記録された画像の滲み(マイグレーション)を目視により確認し、以下の基準に基づいて画像の存性(耐マイグレーション)を評価した。
○:画像の滲みがない。
△:一部の画像が滲む(画像が若干にじむ)。
×:画像が滲む。
(耐水性)
上述した実施例および比較例の記録物に対して耐水試験を行った。記録物を純水に48時間浸漬させて放置した後、その記録物に記録された画像の滲みを目視により確認し、以下の基準に基づいて画像の保存性(耐水性)を評価した。
○:画像の滲みがない。
△:一部の画像が滲む(画像が若干にじむ)。
×:画像が滲む。
(耐光性)
上述した実施例および比較例の記録物に対して耐光性試験を行った。記録物をアトラスフェー
ドオメーター(条件:波長340nmにおける照射強度0.39W/m2、温度45℃、湿度50%)に投入し、100時間後に、画像の光学濃度を光学反射濃度計(商品名「RD−918」、グレタマクベス製)を用いて測定し、下記式(A)より残存OD率を算出して評価した。
残存OD率=(試験後のOD/試験前のOD)×100%
○:残OD率が90%以上。
△:残OD率が60%以上90%未満。
×:残OD率が60%未満。
(擦過性)
上述した実施例20および比較例4の記録物の擦過性を評価した。記録物の記録面を、200gの荷重を掛けたシルホン紙によって50回擦過した。記録画像の擦れと、シルホン紙への記録部分(ベタ画像)の転写状態と、を目視により確認し、以下の基準に基づいて擦過性を評価した。それらの評価結果は表6と表9に示した。
○:画像の擦れがなく、シルボン紙に対する記録画像の付着もない。
×:画像の擦れが若干ある。