以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両1000の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る車両1000を示す模式図である。図1に示すように、車両1000は、前輪100,102、後輪104,106、後輪104,106を駆動するモータ110,112、パワーステアリング機構(P/S)120、舵角センサ130、ステアリング132、インバータ140,142、バッテリー150、ヨーレートセンサ160、車速センサ170、カメラシステム180、制御装置(ECU)200を有して構成されている。
本実施形態に係る車両1000は、後輪104,106のそれぞれを駆動するためにモータ110,112が設けられている。このため、後輪104,106毎に駆動トルクを制御することができる。従って、前輪100,102の操舵によるヨーレート発生とは独立して、後輪104,106のそれぞれを駆動することで、トルクベクタリング制御によりヨーレートを発生させることができる。後輪104,106は、制御装置200の指令に基づき、後輪104,106に対応するインバータ140,142が制御されることで、駆動トルクが制御される。各インバータ140,142にはバッテリー150から電力が供給される。
パワーステアリング機構120は、トルク制御又は角度制御により前輪100,102の舵角を制御する。舵角センサ130は、運転者がステアリング132を操作して入力した舵角θhを検出する。ヨーレートセンサ160は、車両1000のヨーレートYawを検出する。車速センサ170は、車両1000の車両速度Vを検出する。
図2は、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置の構成を示す模式図である。図2に示すように、本実施形態に係る車両の制御装置は、カメラシステム180、車線追従ヨーレート算出部204、車両規範ヨーレート算出部206、オーバーライド判定部208、変換ゲイン算出部210、目標ヨーレート選択部212、トルクベクタリングモータ制御部214、変換ゲイン乗算部216、アシストゲイン算出部218、パワーステアリングモータ制御部220を有して構成されている。図2に示す構成のうち、カメラシステム180以外の構成は、制御装置200から構成される。
図2に示す構成において、車線追従ヨーレート算出部204は、カメラシステム180から取得した推定進行路情報と車両速度Vとに基づいて、車線追従ヨーレートYtg1を算出する。車両規範ヨーレート算出部206は、車両速度Vとタイヤ舵角とに基づいて、車両規範ヨーレートYtg2を算出する。制御装置200は、車線追従ヨーレートYtg1に基づく制御を行うことで、カメラシステム180から取得した推定進行路に沿って車両1000が進むようにトルクベクタリング制御を行うことで、推定進行路に沿った車線追従制御を行うことができる。
オーバーライド判定部208は、ドライバー(運転者)によるハンドル操舵トルクTq_hと、操舵反力トルクとの比較に基づいて、ドライバー(運転者)により車線追従制御のオーバーライドが行われたか否かを判定する。より具体的には、オーバーライド判定部208は、ハンドル操舵トルクTq_hが操舵反力トルクよりも大きい場合にオーバーライドが行われたことを判定する。ハンドル操舵トルクTq_hは、パワーステアリング機構120に含まれるセンサより検出することができる。また、操舵反力トルクは、ハンドル舵角θhと車両速度Vに応じて操舵反力トルクを規定するマップから求めることができる。
また、オーバーライド判定部208は、ドライバーのステアリング操作による舵角θhの向きと、カメラシステム180から得られる、後述する進行路との横偏差εとの向きとを比較し、両者の向きが一致していない場合はオーバーライドが行われたと判定しても良い。
変換ゲイン算出部210は、ハンドル操舵角θh、発生しているヨーレートYaw、および車両速度Vに基づいて、ハンドル操舵角θhからタイヤ舵角δへ変換する変換ゲインGhを算出する。
目標ヨーレート選択部212には、車線追従ヨーレートYtg1と車両規範ヨーレートYtg2が入力される。目標ヨーレート選択部212は、車線追従制御が行われていない場合は、車両規範ヨーレートYtg2を目標ヨーレートYtgとして選択する。また、目標ヨーレート選択部212は、車線追従制御が行われている場合は、車線追従ヨーレートYtg1を目標ヨーレートYtgとして選択する。このため、目標ヨーレート選択部212は、オーバーライドの判定結果を示す判定フラグをオーバーライド判定部208から受け取り、判定フラグに基づいて、車線追従制御のオーバーライドが行われた場合は車両規範ヨーレートYtg2を目標ヨーレートYtgとして選択する。また、目標ヨーレート選択部212は、車線追従制御のオーバーライドが行われていない場合は、車線追従ヨーレートYtg1を目標ヨーレートYtgとして選択する。目標ヨーレート選択部212は、選択により得られた目標ヨーレートYtgをトルクベクタリング制御部214へ出力する。トルクベクタリングモータ制御部214は、入力された目標ヨーレートYtgに基づいて、モータ110,112のトルクベクタリング制御を行い、車両ヨーレートYawが目標ヨーレートYtgとなるように制御する。
車両規範ヨーレートYtg2は、車両規範ヨーレート算出部206において、一般的な車両モデル(平面2輪モデル)を表す以下の式(1)から算出することができる。車両規範ヨーレートYtg2は、平面2輪モデルの(1)式における車両ヨーレートγに相当する。
なお、(1)〜(3)式において、変数、定数は以下の通りである。
<変数>
γ:車両ヨーレート
V:車両速度
δ:タイヤ舵角
θh:ハンドル操舵角
Gh:ハンドル操舵角からタイヤ舵角への変換ゲイン
<定数>
l:車両ホイールベース
lf:車両重心点から前輪中心までの距離
lr:車両重心点から前輪中心までの距離
m:車両重量
kf:コーナリングパワー定数(フロント)
kr:コーナリングパワー定数(リア)
G_h0:ハンドル操舵角からタイヤ舵角への変換ゲインの初期値(ステアリングギヤ比)
車両規範ヨーレートYtg2(=γ)は、車両速度V、及びタイヤ舵角δを変数として、(1)式から算出される。(1)式のタイヤ舵角δは、直接センシングできないため、(2)式から、ハンドル操舵角θhに変換ゲインGhを乗じることで算出される。通常時には、変換ゲインGhとして、初期値(ステアリングギア比)G_h0が用いられる。ステアリングギヤ比G_h0は、例えば1/15程度の値である。また、(1)式における定数Aは車両の特性を表す定数であり、(3)式から求められる。
図3は、車線追従ヨーレート算出部204による車線追従ヨーレートYtg1の算出方法を説明するための模式図である。カメラシステム180は、CCDセンサ、CMOSセンサ等の撮像素子を有する左右1対のカメラを有して構成され、車両外の外部環境を撮像し、自車両が走行するレーンの白線Wを画像情報として認識することができる。また、カメラシステム180は、撮像した左右1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって対象物までの距離情報を生成して取得することができる。また、カメラシステム180は、三角測量の原理によって生成した距離情報に対して、周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め設定しておいた三次元的な立体物データ等と比較することにより、立体物データや白線データ等を検出する。これにより、カメラシステム180は、先行車両や走行レーンを示す白線Wの他、一時停止の標識、停止線、ETCゲートなども認識することもできる。
図3に示すように、ステレオカメラシステム180は、車両1000が走行する走行レーンの白線Wを検出し、カメラシステム180から前方に向かって前方視点距離Lだけ離れた直線L1と白線Wとの交点P1,P2で白線座標を求める。そして、交点P1,P2の中点P3で進行路座標を求める。また、カメラシステム180の前方向と直線L1との交点P4(前方注視点)の座標を求める。
図3において、進行路との偏差ε’は進行路との横偏差ε(P3−P4間の距離)で近似することができるため、ε’→εとする。そして、カメラシステム180で事前に検知した進行路との横偏差εと前方注視点距離Lとから、操舵量に相当するパラメータ(=旋回支援角度α[rad])を算出する。旋回支援角度αは、以下の式(4)から算出することができる。
α=2×sin−1(ε/2L) ・・・・(4)
コーナー進入時、コーナー走行時等にステアリング132による操舵量が不足した場合には、旋回支援角度αによるリアトルクベクタリング制御(プレビューコーナーリングアシスト制御)を実施する。車線追従ヨーレートYtg1は、旋回支援角度αを平面2輪モデルの(1)式のδに代入することで、求めることができる。すなわち、車線追従ヨーレートYtg1は、以下の式(5)から算出することができる。
なお、本実施形態では、カメラシステム180で撮像した画像から得られる推定走行路に基づいて車線追従ヨーレートを算出するが、他の情報から推定走行路を取得して車線追従ヨーレートYtg1を算出しても良い。
目標ヨーレート選択部212は、入力された車線追従ヨーレートYtg1と車両規範ヨーレートYtg2とを比較し、車線追従制御が行われているか否か(オーバーライド判定の結果)に応じていずれか一方を選択する。
図4は、車線追従ヨーレートYtg1に基づいて、カメラシステム180により得られる推定進行路に沿って車両1000が走行している状態を示す模式図である。図3で説明したように、カメラシステム180により走行レーンを示す白線Wが検出され、旋回支援角度αが求まる。そして、車両速度Vと旋回支援角度αとから車線追従ヨーレートYtg1が算出される。上述したように、本実施形態の車両1000は、ハンドル操作系とは異なるヨーレート発生機構を備えており、後輪104,106のそれぞれを独立のモータ110,112で駆動することにより、車線追従ヨーレートYtg1に基づくトルクベクタリング制御を行うことができる。この場合、ドライバーの操作によるハンドル操舵角θhによらず、所望のヨーレートを得ることができる。
図5及び図6は、トルクベクタリング制御を行った場合に、ドライバーが同じハンドル操舵角θhを設定したにも関わらず、異なるヨーレートが発生する状態を示す特性図である。図5及び図6において、縦軸はハンドル操舵角及び車両ヨーレートを、横軸は時間をそれぞれ示している。ここで、図5は、車線追従制御を行わない場合を示している。図5に示す期間T1では、ハンドル操舵角が−15[deg]程度であり、ヨーセンサにより検出された車両ヨーレートは0.075[rad/sec]となっている。
一方、図6は、車線追従制御を行った場合を示している。図6に示す期間T2では、車両ヨーレートは図5の期間T1と同じ0.075[rad/sec]程度であるが、ハンドル操舵角が−6[deg]程度であり図5よりも小さくなっている。従って、車線追従制御を行わない場合(図5)と、車線追従制御を行った場合(図6)とでは、同じ車両ヨーレートであるにも関わらず、ハンドル操舵角が異なっていることが判る。
換言すれば、図5に示す期間T1と図6に示す期間T2では、車両ヨーレートが同一であるため、同じ半径のカーブを走行しているが、ハンドル操舵角は図6の方がより小さくなっている。これは、車線追従制御を行った場合は、後輪のトルクベクタリング制御により、より少ないハンドル操舵角でコーナーを曲がることができるためである。
図4に示す車両1000が矢印A1方向に進む場合、後輪のトルクベクタリング制御により、白線Wに従って推定走行路に応じた車線追従制御が行われる。つまり、この場合は、車線追従ヨーレートYtg1に基づく制御が行われる。従って、矢印A1方向に進む場合は、ドライバーに違和感を生じさせることなく車両1000が走行することになる。
一方、ドライバーが車両1000を矢印A2方向に操舵しようとすると、車線追従制御による操舵がオーバーライドされて、ハンドル操舵による制御に切り換わる。つまり、白線Wに基づく推定走行路に応じた車線追従制御が終了し、ドライバー自身のハンドル操舵による制御が行われる。この際、オーバーライド判定部208は、ドライバー(運転者)により車線追従制御のオーバーライドが行われたことを判定する。目標ヨーレート選択部212は、オーバーライドが行われたことを示す判定フラグをオーバーライド判定部208から受け取ると、目標ヨーレートをYtg1からYtg2へ切り換える。これにより、車両規範ヨーレートYtg2に基づく制御が行われる。
ところで、車線追従制御を行う場合に、ハンドル操舵に重畳して制御を行う方式(例えば、パワーステアリングモータによる操舵)は、車線追従制御による操舵がドライバーのハンドル操舵と直接干渉するため、操舵フィーリングが悪化する。一方、車線追従ヨーレートYtg1に基づくトルクベクタリング制御を行う場合、ドライバーのハンドル操舵との干渉は発生しない。しかし、車線追従ヨーレートYtg1に基づくトルクベクタリング制御を行う場合、ハンドル操舵系とは異なるヨーレート発生機構によりヨーレートが発生するため、セルフステアとして路面から前輪100,102を介して操舵系への干渉が発生する。通常、このようなセルフステアは、パワーステアリング機構120を利用したドライバーの軽いステアリング操舵力で押し返すことができる。このため、車線追従制御の有効または無効に関わらず、ドライバーは一定の操舵フィーリングを感じることになり、トルクベクタリング制御による介入状況を判別し難くなる。また、このようなセルフステアを押し返す力をオーバーライド判定の条件とした場合、ドライバーによる軽いステアリング操舵力でオーバーライドの条件を満たすことになり、トルクベクタリング制御が容易に中断されてしまうことが想定される。
そこで、本実施形態では、推定走行路に沿った車線追従制御が行われている場合には、パワーステアリング機構120によるアシスト力を低減することで、ドライバーに車線追従制御が行われていることを確実に認識させるとともに、ドライバーの意図しないオーバーライドが頻繁に行われてしまうことを抑止する。
具体的は、変換ゲイン算出部210は、現在のハンドル操舵角θh、発生しているヨーレートYaw、および車両速度Vに基づいて、ハンドル操舵角θhからタイヤ舵角δへの仮想的な変換ゲインGhを車両モデルから逆計算して求める。上述したように、車線追従制御を行った場合は、後輪104,106のトルクベクタリング制御により、より少ないハンドル操舵角θhでコーナーを曲がることができる。従って、求めた仮想的な変換ゲインGhが、変換ゲイン初期値Gh_0(機械的なステアリングギア比に相当)よりも大きい時は、トルクベクタリングによる車線追従制御が行われていると判定することができる。ここで、仮想的な変換ゲインGhとは、車線追従制御を行っている際の車両1000の進行方向から推定される仮想的なタイヤ舵角に基づいて算出され、ハンドル操舵角θhに対する仮想的なタイヤ舵角の比である。車両1000の進行方向から推定される仮想的なタイヤ舵角は、ハンドル舵角による旋回と、後輪のトルクベクタリングによる旋回とによって定まる。
そして、トルクベクタリングによる車線追従制御が行われている間は、パワーステアリング機構120によるアシスト力を低減してステアリング操作を重くする。これにより、ドライバーは、ステアリング操作の重さに基づいて、トルクベクタリング制御が行われていることを容易に認識することができる。また、ステアリング操作が重くなることにより、ドライバーの意図しないオーバーライド判定が頻繁に行われてしまうことを確実に抑止できる。
仮想的な変換ゲインGhの算出方法は以下の通りである。先ず、車両ヨーレートYawをヨーレートセンサ160から検出して(1)式のγに代入し、車両速度Vを(1)式に代入することで、タイヤ舵角δが求まる。そして、求めたタイヤ舵角δと、舵角センサ130が検出したハンドル操舵角θhとを(2)式に代入することで、仮想的な変換ゲインGhが求まる。求めた仮想的な変換ゲインGhが変換ゲイン初期値Gh_0と一致する場合は、トルクベクタリングによる車線追従制御は行われていないことになる。また、仮想的な変換ゲインGhが変換ゲイン初期値Gh_0よりも大きい場合は、トルクベクタリングによる車線追従制御が行われていることになる。
例えば、車線追従制御を行わない場合に、ハンドル舵角からタイヤ舵角への変換ゲイン初期値(ステアリングギヤ比G_h0)が1/15であるものとする。また、図4において、車線追従制御により車両1000が矢印A1方向に進んでいる場合に、ハンドル舵角からタイヤ舵角Ghへの仮想的な変換ゲインが、1/10であるものとする。本実施形態では、車線追従制御を行っている際の仮想的な変換ゲインGh(=1/10)を(1)式、(2)式から随時に逆計算し、車線追従制御を行わない場合の変換ゲイン初期値(=1/15)と比較する。この例では、仮想的な変換ゲインGhが変換ゲイン初期値G_h0よりも大きいため、後輪104,106のトルクベクタリングによる車線追従制御が行われていると判断し、パワーステアリング機構120のアシスト力を低減する。
図2において、アシストゲイン算出部218は、変換ゲイン算出部210が算出した仮想的な変換ゲインGhに基づいて、パワーステアリング機構120のアシスト力を規定するアシストゲインGpsを算出する。アシストゲインGpsは、パワーステアリングモータ制御部220へ入力される。パワーステアリングモータ制御部220は、アシストゲインGpsに基づいて、アシストゲインが小さい程、パワーステアリング機構120によるアシスト力が低下するように、パワーステアリング機構120のモータを制御する。
図7は、アシストゲイン算出部218が、アシストゲインGpsを算出するためのマップを示す特性図である。図7において、縦軸はアシストゲインGpsを、横軸は仮想的な変換ゲインGhを示している。図7に示すように、仮想的な変換ゲインGhが変換ゲイン初期値G_h0以下の場合は、アシストゲインGpsの値は1.0となる。一方、仮想的な変換ゲインGhが変換ゲイン初期値G_h0よりも大きい場合は、変換ゲインGhが大きい程、アシストゲインGpsの値が小さくなる。
また、仮想的な変換ゲインGhが所定値Gh_1より大きくなると、アシストゲインGpsは一定値となる。これにより、ドライバーによるステアリング操舵力が過度に重くならないようにすることができる。
従って、仮想的な変換ゲインGhの値が大きいほど、すなわち、後輪104,106のトルクベクタリングによる制御量が大きいほどアシストゲインGpsの値は小さな値となり、ステアリング操作が重くなる。これにより、ドライバーに適切な操舵反力を与えることが可能となり、ドライバーに後輪トルクベクタリングによる車線追従制御が行われていることを認識させるとともに、操舵フィーリングを向上させることが可能となる。
また、ドライバーに適切な操舵反力を与えることにより、ドライバーが意図しないオーバーライドが行われることを確実に抑止することができ、オーバーライド判定を最適に行うことが可能となる。
図8は、パワーステアリングモータ制御部220の構成を示す模式図である。図8に示すように、パワーステアリングモータ制御部220は、ベース電流算出部220a、アシストゲイン乗算部220b、目標電流決定部220c、駆動回路220d、を有している。を有している。ベース電流算出部220aは、トルクセンサ230が検出したハンドル操舵トルクTq_hと車速センサ170が検出した車両速度Vに基づいて、パワーステアリング機構120のモータ240のベース電流を算出する。アシストゲイン乗算部220bは、ベース電流にアシストゲインGpsを乗算する。目標電流決定部220dは、アシストゲインGpsが乗算されたベース電流に基づいて目標電流を決定する。駆動回路220dは、目標電流に基づいてパワーステアリング機構120のモータ240を駆動する。
次に、車線追従制御による操舵がオーバーライドされた後の制御について説明する。図4において、車線追従制御が行われている場合は、後輪104,106のトルクベクタリング制御により、車線追従制御が行われていない場合よりも少ないハンドル操舵角で車両1000を矢印A1方向に走行させることができる。一方、車線追従制御による操舵がオーバーライドされると、後輪104,106のトルクベクタリング制御が終了するため、車線追従制御におけるオーバーライド前のハンドル操舵角でドライバーが車両1000を走行させると、後輪104,106のトルクベクタリングによる旋回が無い分だけ旋回半径が大きくなり、車両1000は外側に向かって(より直進方向に)走行する。つまり、オーバーライド後は、オーバーライド前と同じハンドル操舵角ではオーバーライド前と同じ方向に進めないことになる。これにより、ドライバーは、車両1000の挙動に違和感を覚えてしまう。
このため、本実施形態に係る車両の制御装置は、車線追従制御からハンドル操舵による追従制御へオーバーライドが行われた場合は、車線追従ヨーレートYtg1に基づく制御から車両規範ヨーレートYtg2に基づく制御に切り換えるとともに、ハンドル操舵角からタイヤ舵角への変換ゲインGhをオーバーライドが生じたタイミングの変換ゲインに維持する制御を行う。
上述したように、図4に示すようなカーブを走行中に、車線追従ヨーレートYtg1に基づく制御から車両規範ヨーレートYtg2に基づく制御に切り換えると、ドライバーの想定よりもタイヤ舵角が小さくなり、ドライバーが意図する方向よりも外側へ車両1000が進もうとする。本実施形態では、オーバーライドが生じた後は、仮想的な変換ゲインGhに基づいて仮想的なタイヤ舵角を算出する。
例えば、上述の例と同様に、車線追従制御を行わない場合に、ハンドル舵角からタイヤ舵角への変換ゲイン(ステアリングギヤ比G_h0)が1/15であり、車線追従制御を行う場合に、ハンドル舵角からタイヤ舵角への仮想的な変換ゲインが1/10であるものとする。この場合に、本実施形態では、オーバーライドが行われると、オーバーライド開始時に逆計算した仮想的な変換ゲインGh(=1/10)により車両規範ヨーレートYtg2を算出し、ハンドル操舵制御を行う。これにより、ステアリングギヤ比G_h0よりも大きな仮想的な変換ゲインGhにより、ハンドル操舵角θhからタイヤ舵角δへの変換が行われるため、ハンドル操舵角θhによって定まる車両1000の進行方向が、オーバーライド前とオーバーライド後で一致し、オーバーライド開始時に車両1000の挙動に違和感が生じることを確実に抑止することができる。
車両規範ヨーレートYtg2に基づく制御への切り換えが行われた後、仮想的な変換ゲインGhに基づいて、(1)式、(2)式から車両規範ヨーレートYtg2(=γ)を求め、求めた車両規範ヨーレートYtg2に基づいてトルクベクタリングモータ制御部114が制御を行う。これにより、オーバーライド開始時に求められた仮想的な変換ゲインθhに基づいてハンドル操舵制御が行われるため、車線追従ヨーレートYtg1に基づく制御から、車両規範ヨーレートYtg2に基づく制御への切り換えを行った際に、ハンドル操舵角θhからタイヤ舵角δへの変換ゲインが最適に調整されることになり、ドライバーのハンドル操舵入力に対応した車両挙動を得ることができる。これにより、オーバーライド時に、車両1000が発生させているヨーレートYawに対してハンドル操舵角θhが小さい場合であっても、ハンドル操舵角θhからタイヤ舵角δへの変換ゲインが最適に調整されるため、車両挙動の変化を抑制することができ、車両の挙動に違和感が生じることを確実に抑止することが可能である。従って、ドライバーは、ハンドル操舵入力に対応した車両挙動を得ることが可能である。
仮想的な変換ゲインGhは、ヨーレートセンサ160から求まる車両ヨーレートYawから逆演算されるため、オーバーライド開始時には、車両規範ヨーレートYtg2は車両ヨーレートYawと等しくなる。その後のオーバーライドの継続中には、ドライバーのハンドル操作に応じて、仮想的な変換ゲインGhに基づいて車両規範ヨーレートYtg2が算出される。従って、目標となる車両規範ヨーレートYtg2の連続性を確保することが可能である。
前述した特許文献2に記載された手法では、例えばカーブを走行中に自動操舵制御からドライバーの操舵に応じた制御へ切り換わると、自動操舵制御により発生する第1ヨーレートと、検出されたハンドル角に対し生じるべき第2ヨーレートとが一致するように制御が行われるため、ハンドル舵角が一定であっても車両のヨーレートが刻々と変化し、ドライバーに違和感が生じてしまう。一方、本実施形態によれば、オーバーライド開始時点で仮想的な変換ゲインGhを求めるため、オーバーライド開始時点でハンドル操舵角θhから車両規範ヨーレートYtg2が一義的に求まり、以降も仮想的な変換ゲインGhに基づいて車両規範ヨーレートYtg2が算出される。従って、ハンドル操舵角に対して車両挙動が一致しない過渡的な期間が発生することがなく、ドライバーがハンドルをきっていれば、ハンドル操舵角に応じて車両ヨーレートが発生し続けることなる。これにより、車両挙動に違和感が生じることを確実に抑止できる。
更に、本実施形態では、オーバーライド判定が行われた後、オーバーライドの継続中に仮想的な変換ゲインGhを徐々に減少させ、Gh_0へ漸減させる制御を行う。図9は、オーバーライド発生後に変換ゲインGhを漸減させるマップを示す特性図である。図9に示すように、オーバーライド発生後は、時間tの経過に伴って仮想的な変換ゲインGhを漸減させ、仮想的な変換ゲインGhは最終的にGh_0に到達する。仮想的な変換ゲインGhを漸減させる際の時定数は一例としてTとする。図9のマップに基づく変換ゲインGhの漸減は制御周期毎に行われ、今回の制御周期で算出される仮想的な変換ゲインGhは、前回の制御周期で算出された仮想的な変換ゲインGh’に対して制御周期の時間Tの減少分を漸減させた値とされる。これにより、オーバーライド判定後、時間の経過に伴って、仮想的な変換ゲインGhをステアリングギア比に相当する値Gh_0に漸近させることができる。従って、オーバーライド判定後、パワーステアリング機構120のアシストゲインGpsは仮想的な変換ゲインGhの減少に伴ってが徐々に増加することになり、ドライバーのステアリング操作が急に軽くなってしまうことを抑止できる。また、オーバーライド判定後、仮想的な変換ゲインGhがGh_0に到達するまでの間、仮想的な変換ゲインGhに基づいて算出される車両規範ヨーレートYtg2の連続性を確保することが可能となり、ドライバーに違和感を与えてしまうことを抑止できる。
なお、本実施形態では、後輪104,106の独立駆動によるトルクベクタリングを用いた車線追従制御を行う車両1000を例示したが、本実施形態に係る車両の制御装置は、ドライバーのハンドル操作とは独立したヨーレート発生機構を有する構成に広く適用することができる。ドライバーのハンドル操作とは独立したヨーレート発生機構としては、本実施形態のように後輪104,106を独立して駆動するものの他、トルクベクタリングデファレンシャルによるもの、後輪操舵機構(4WS)によるもの、摩擦ブレーキによるもの、等を挙げることができる。
図10は、本実施形態に係る車両の制御装置における処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS10では、ハンドル操舵角からタイヤ舵角への仮想的な変換ゲインGhを算出する。上述したように、仮想的な変換ゲインGhの算出は、後輪トルクベクタリング制御が行われている間にオーバーライドが行われたか否かによって異なる。図11は、図10のステップS10の処理、すなわち、オーバーライドの有無に応じて仮想的な変換ゲインGhを算出する処理を示すフローチャートである。図11のステップS20では、後輪トルクベクタリング制御が行われている間にオーバーライドが行われたか否かを判定し、オーバーライドが行われていない場合は、ステップS22へ進む。ステップS22では、(1)式、(2)式より仮想的な変換ゲインGhを算出する。
また、図11のステップS20でオーバーライドが行われたことが判定された場合は、ステップS24へ進む。ステップS24では、オーバーライド発生時は、(1)式、(2)式より算出した値を仮想的な変換ゲインGhとし、オーバーライド発生後は、オーバーライドが発生からの経過時間tに基づいて、図9のマップから変換ゲインGhを算出する。これにより、前回の制御周期で算出された仮想的な変換ゲインGh’を漸減させた仮想的な変換ゲインGhが算出される。ステップS22,S24の後は処理を終了し、図10のステップS12へ進む。
図10のステップS12では、ステップS10で算出した仮想的な変換ゲインGhと変換ゲイン初期値Gh_0を比較し、Gh>Gh_0であるか否かを判定する。そして、Gh>Gh_0の場合はステップS14へ進む。ステップS14では、図7のマップを用いて、仮想的な変換ゲインGhからパワーステアリング機構120のアシストゲインGpsを算出する。
一方、ステップS12でGh>Gh_0でない場合はステップS16へ進む。ステップS16では、図7のマップに基づき、アシストゲインGpsを1.0とする。
ステップS14,S16の後はステップS18へ進む。ステップS18では、ステップS14,S16で算出したアシストゲインGpsに基づいて、パワーステアリング機構120のモータの駆動力を変更する処理を実行する。これにより、アシストゲインGpsに基づいてパワーステアリング機構120による操舵力のアシストが行われる。ステップS18の後は処理を終了する。
図10及び図11の処理は制御周期毎に行われる。従って、オーバーライドが発生した後は、図11のステップS24で算出される仮想的な変換ゲインGhは制御周期毎に減少し、図10のステップS14で算出されるアシストゲインGpsは仮想的な変換ゲインGhの減少に伴って減少する。従って、オーバーライドが発生した後は、仮想的な変換ゲインGhが変換ゲイン初期値Gh_0に到達するまでの間、仮想的な変換ゲインGhの低下に伴ってパワーステアリング機構120のアシスト力は徐々に増加し、ドライバーによるステアリング操作が時間の経過とともに軽くなる。
なお、上述した実施形態では、仮想的な変換ゲインGhと変換ゲイン初期値Gh_0との比較に基づいて、Gh>Gh_0の場合は仮想的な変換ゲインGhの値に応じてアシストゲインGpsの値を定めることで、トルクベクタリング制御が行われている場合にステアリング操作を重くするようにした。一方、他の手法によりトルクベクタリング制御が行われているか否かを判定し、トルクベクタリング制御が行われている場合にステアリング操作を重くするようにしても良い。
図12は、トルクベクタリング制御が行われているか否かを左右輪の駆動トルク差に基づいて判定し、トルクベクタリング制御が行われている場合は、パワーステアリングのアシストゲインを低下させる処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS30では、左右輪の駆動トルク差の絶対値|Tq_l−Tq_r|を算出し、絶対値|Tq_l−Tq_r|が所定のしきい値dよりも大きいか否かを判定する。ここで、Tq_lは左側の後輪104の駆動トルクであり、Tq_rは右側の後輪106の駆動トルクである。
そして、絶対値|Tq_l−Tq_r|がしきい値dよりも大きい場合は、後輪104,106の駆動力差によりトルクベクタリング制御が行われているため、ステップS32へ進み、アシストゲインGpsを0.7とする。これにより、トルクベクタリング制御が行われている場合に、パワーステアリング機構120のアシスト力を低下させ、ステアリング操作を重くすることができる。従って、トルクベクタリング制御が行われている場合に、ドライバーに適切な操舵反力を与えることが可能となり、操舵フィーリングを向上させることが可能となる。
また、絶対値|Tq_l−Tq_r|がしきい値d以下の場合は、後輪104,106の駆動力差によるトルクベクタリング制御が行われていないと判断し、ステップS34へ進む。ステップS34では、アシストゲインを1.0とする。これにより、パワーステアリング機構120によるアシスト力が最大となり、トルクベクタリング制御が行われていない場合にステアリング操作を軽くすることができる。
以上説明したように本実施形態によれば、後輪104,106のトルクベクタリング制御を行っている際に、仮想的な変換ゲインGhと変換ゲイン初期値Gh_0との大小関係を比較し、Gh>Gh_0の場合にパワーステアリング機構120のアシストを低減するようにした。これにより、トルクベクタリング制御の最中にステアリング操作が重くなるため、コーナリング時にドライバーに適切な操舵反力を与えることが可能となり、操舵フィーリングを向上させることができる。また、コーナリング時にドライバーに適切な操舵反力を与えることにより、ドライバーの意図しないオーバーライドが頻繁に行われてしまうことを抑止することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。