本発明は、ヒト肝臓、腎臓、膵臓、および精巣癌(例えば、胆管肝臓癌)のサブセットで発現される変異ROSキナーゼを提供する。変異ROSキナーゼは、変異ROSキナーゼが発現される癌のサブセットにおいて肝臓、膵臓、腎臓、および精巣癌の増殖および生存を推進し得る。
本明細書で引用される公開特許、特許出願、ウェブサイト、会社名、および科学文献は、当業者が入手可能な情報であり、その全体としてそれぞれが具体的かつ個別に表示されるのと同じ程度まで参照することにより本明細書に組み込まれる。本明細書に記載する文献と本明細書の具体的教示との間に矛盾があるならば、後者を優先して解決する。
本発明のさらなる態様、効果、および実施形態については、後でさらに詳述する。本明細書に引用する特許、公開された出願、および科学文献は、当業者の知識を確証し、それぞれが参照により組み込まれるものとして具体的かつ個別に示されているのと同程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書中のあらゆる引用文献と本明細書の具体的教示との間のいかなる矛盾も後者を支持して解決されるものとする。同様に、技術分野で知られている用語または語句の定義と本明細書中で特に教示する用語または語句の定義との間のいかなる矛盾も後者を支持して解決されるものとする。本明細書で用いられるように、以下の用語は表示された意味を有する。本明細書中で用いられるように、単数形「一(a、an)」および「該(the)」は、その内容が他に明示されない限り、これらが具体的に指す用語の複数形も包含する。「約」という用語は、大体、近辺、およそ、または周辺を意味するために本明細書中で用いられている。数値の範囲に関連して「約」という用語を用いる場合には、記載する数値の上下の境界が拡張されることによってその範囲が変化する。一般に、「約」という用語は、記述した値の上下で20%の変動により数値を加減するために本明細書中で用いられている。
本明細書で用いられる技術用語および科学用語は、特に明記しないかぎり、本発明が関連する技術分野の当業者が通常に理解する意味を有する。本明細書では当業者に公知の様々な手順および物質を記載する。組換えDNA技術の一般的原理を説明する標準的な参考文献としては、Sambrook et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York(1989);Kaufman et al., Eds., Handbook of Molecular and Cellular Methods in Biology in Medicine, CRC Press, Boca Raton(1995);McPherson, Ed., Directed Mutagenesis:A Practical Approach, IRL Press, Oxford(1991)が挙げられる。薬理学の一般的原理を説明する標準的な参考文献には、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, 11th Ed., McGraw Hill Companies Inc., New York(2006)が含まれる。
本発明は、肝臓癌(胆管癌を含む)、膵臓癌、腎臓癌、および精巣癌における変異ROS(すなわち、異常に発現された完全長ROS、切断型(すなわち、完全長より短い)ROS、またはROS融合タンパク質(例えば、FIG−ROS融合、SLC34A2−ROS融合、またはCD74−ROS融合))の発見に関する。本発明はさらに、結果としてFIG遺伝子とROS遺伝子との間に融合を生じさせる新規ROS遺伝子転座の発見に関する。
完全長(野生型)ROSキナーゼは2347アミノ酸長の受容体チロシンキナーゼである。ヒトにおいて、ROSキナーゼRNAは、胎盤、肺および骨格筋で検出され、精巣では低レベルで発現される可能性がある(J. Acquaviva, et al., Biochim. Biophys. Acta 1795(1):37−52, 2009を参照)。しかし、完全長ROSキナーゼは、ヒトの正常な肝臓、腎臓、および膵臓組織で発現されないようである(J. Acquavivaら、前出)。Abeam Inc.(マサチューセッツ州ケンブリッジ)は、IHCによってヒト肺細胞癌組織を染色する(すなわち、特異的に結合する)とされるROS特異的抗体(クローンab5512)を販売し、このab5512はパラフィン包埋HCC78細胞(ROSを発現する肺癌)およびHCC827細胞(ROSを発現しない肺腺癌)を等しい強度で染色することが判明した(ATCCから得られる細胞、データは不掲載)。さらに、ROSキナーゼはヒト精巣組織においては存在しない可能性があるが、その発現は精巣上体に限定されるようである(Acquavivaら、前出を参照)。
したがって、第1の態様において、本発明は、精製されたFIG−ROS融合ポリペプチドを提供する。「FIG−ROS融合ポリペプチド」とは、任意の種、特にウシ、ヒツジ、ブタ、ネズミ、ウマ、およびヒトをはじめとする哺乳動物から得られ、天然、合成、半合成、または組換えに関係なく任意の供給源から得られる、本明細書で記載するFIG−ROS融合ポリペプチド(例えば、FIG−ROS(L)、FIG−ROS(XL)、またはFIG−ROS(S))を意味する。
「精製された」(または「単離された」)とは、その自然環境中に存在する他の成分から分離または除去された、核酸配列(例えば、ポリヌクレオチド)またはアミノ酸配列(例えば、ポリペプチド)を意味する。たとえば、単離されたFIG−ROS融合ポリペプチドは、真核細胞(例えば、小胞体または細胞質タンパク質およびRNA)の他の成分から分離されたものである。単離されたFIG−ROSポリヌクレオチドは、他の核成分(例えば、ヒストン)および/または上流もしくは下流核酸配列から分離されたものである(例えば、単離されたFIG−ROSポリヌクレオチドは、内因性FIG遺伝子プロモータから分離される)。本発明のアミノ酸配列の単離された核酸配列は、表示された核酸配列または酸配列の自然環境中に存在する他の成分が、少なくとも60%、または少なくとも75%、または少なくとも90%、または少なくとも95%ない。
本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドは、変異ROSポリペプチドの非限定的な一例である。
本明細書で用いられる場合、「変異ROS」ポリペプチドまたはポリヌクレオチドという用語は、ROSキナーゼが通常発現されない(もしくは異なるレベルで発現される)組織中の野生型ROSキナーゼポリペプチドもしくはポリヌクレオチド、あるいは野生型(すなわち、完全長)ROSの細胞外ドメインが無いかまたは膜貫通ドメインが無いROSキナーゼのキナーゼドメインをコード化するROSまたはポリヌクレオチドのキナーゼドメインの異常な発現のいずれかを意味し、この場合、キナーゼドメイン(膜貫通ドメインの有無を問わない)は単独(切断型ROSとも呼ぶ)であるか、または第2のタンパク質(例えば、FIGタンパク質)の全部もしくは一部と融合しているかのいずれかである。
野生型ROSキナーゼは、2347アミノ酸長の受容体チロシンキナーゼであり、この場合、最初の約36個のアミノ酸(すなわち、N末端の36個のアミノ酸)がシグナルペプチドである。ヒトROSキナーゼの配列は、GenBank受入番号M34353で見いだすことができ、タンパク質配列(シグナルペプチドを含む)は本明細書では配列番号9として記載する。
本発明の変異ROSポリペプチドの非限定的例には、配列番号12または配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれる。同様に、ある実施形態では、本発明の変異ROSポリヌクレオチドの非限定的例には、配列番号12または配列番号13に記載されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドが含まれる。いくつかの実施形態において、変異ROSポリヌクレオチドは、配列番号5、配列番号6、配列番号7、または配列番号8に記載されるヌクレオチド配列の一部を含む。ある実施形態において、本発明の変異ROSポリペプチドは、配列番号10または配列番号11の配列を含まない。同様に、ある実施形態において、本発明の変異ROSポリヌクレオチドの非限定的例は、配列番号10または配列番号11に記載されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含まない。
したがって、変異ROSは、ROS(またはこれをコード化するヌクレオチド配列)のキナーゼドメイン(膜貫通ドメインの有無を問わない)を含むので、ROSキナーゼのキナーゼドメイン(膜貫通ドメインの有無を問わない)が野生型(すなわち、完全長)ROSキナーゼの他のドメイン(例えば、細胞外ドメイン)から分離される。ROSキナーゼの完全長アミノ酸配列を配列番号9に記載する。ROSキナーゼのキナーゼドメインを配列番号12および13に記載するが、「変異ROS」という用語は、キナーゼドメインと隣接するアミノ酸残基も含む。ただし、隣接するアミノ酸残基は完全長ROSタンパク質の膜貫通ドメインまたは細胞外ドメイン内にないとする。いくつかの実施形態において、変異ROSは配列番号11に記載する配列を含まない。いくつかの実施形態において、変異ROSは配列番号10に記載する配列を含まない。したがって、本明細書に記載する変異ROSは、配列番号3に記載するアミノ酸配列およびこれをコード化するヌクレオチド配列を含む。「変異ROSポリペプチド」という用語は、キメラタンパク質も含み、このキメラタンパク質は、ペプチド結合によってROSポリペプチドのキナーゼドメインと融合した第二のタンパク質の全部または一部を含む。前述のように、キメラタンパク質である変異ROSポリペプチドの非限定的な一例は、本明細書に記載するFIG−ROS(S)融合ポリペプチドである。同様に、「変異ROSポリヌクレオチド」という用語は、ペプチド結合によりROSポリペプチドのキナーゼドメインと融合した第二のタンパク質の全部または一部を含むキメラタンパク質をコード化するポリヌクレオチドも含む。
したがって、本明細書で用いられる場合、変異ROSという用語は、FIG−ROS(L)融合ポリペプチド(配列番号1における核酸配列および配列番号2におけるアミノ酸配列を参照)、FIG−ROS(S)融合ポリペプチド(配列番号3における核酸配列および配列番号4におけるアミノ酸配列を参照)、FIG−ROS(XL)融合ポリペプチド(配列番号16における核酸配列および配列番号17におけるアミノ酸配列を参照)、SLC34A2−ROS(L)融合ポリペプチド(配列番号18における核酸配列および配列番号19におけるアミノ酸配列を参照)、SLC34A2−ROS(S)融合タンパク質(配列番号20における核酸配列および配列番号21におけるアミノ酸配列を参照)、SLC34A2−ROS(VS)融合タンパク質(配列番号22における核酸配列および配列番号23におけるアミノ酸配列を参照)、およびCD74−ROS融合タンパク質(配列番号24における核酸配列および配列番号25におけるアミノ酸配列を参照)を含むが、これらに限定されない。なお、さらなるROS融合ポリペプチドは、PCT公開第WO2007084631号;Rikova, K et al,Cell 131 :1190−1203, 2007、およびPCT公開第WO/2009/051846号(その内容全体は参照することによって本明細書に組み込まれる)に開示されている。
本明細書で用いられる場合、「ポリヌクレオチド」(または「ヌクレオチド配列」または「核酸分子」)とは、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、またはポリヌクレオチド、およびそのフラグメントもしくは一部を意味し、またゲノムまたは合成起源のDNAまたはRNA(1本鎖であっても、または2本鎖であってもよい)を意味し、センス鎖またはアンチセンス鎖を表し得る。
本明細書で用いられる場合、「ポリペプチド」(または「アミノ酸配列」またはタンパク質)とは、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列、およびそのフラグメントまたは一部を意味し、また天然に存在する分子または合成分子を意味する。「アミノ酸配列」および「ポリペプチド」または「タンパク質」などの同様の用語は、示されるアミノ酸配列を、記載したタンパク質分子に関連する完全、天然アミノ酸に限定することを意味しない。
本発明によれば、ヒトFIG−ROS遺伝子転座は、ヒト患者から採取された肝臓癌試料における全体的なホスホペプチドプロファイリングを用いて同定されている(下記実施例を参照)。ヒト染色体(6q22)で起こるこれらの遺伝子転座の結果、2つの変異融合タンパク質、すなわちFIG−ROS(S)融合ポリペプチドおよびFIG−ROS(L)融合ポリペプチド)が発現され、これはFIGのN末端をROSのキナーゼドメインと結合する。
本明細書で用いられる場合、「癌」または「癌性」とは、同じ細胞型の正常な(すなわち、非癌性)細胞と比較して異常な成長を示す細胞を意味する。たとえば、癌性細胞は転移性であってもよいし、または非転移性であってもよい。同じ細胞型の正常な細胞が接触阻止を示す場合、癌性細胞は接触阻止を示さない場合もある。本明細書で用いられる場合、「疑癌」または「癌性であることが疑われる組織」とは、疑癌と同じ細胞または組織型の正常な細胞または組織と比較して、ある異常な特性(例えば、過形成または接触阻止の欠失)を有する細胞または組織であるが、この細胞または組織が医師または病理学者によって癌性であるとまだ確認されていない場合を意味する。
図1および2に示すように、FIG−ROS(L)転座は、FIGのN末端をコード化する核酸配列(アミノ酸1〜412)を、ROSのキナーゼドメインをコード化する核酸配列(ROS由来のアミノ酸1882〜2347に対応するアミノ酸413〜878)(配列番号2を参照)と組み合わせて、融合物、すなわちFIG−ROS(L)融合ポリペプチドを生じさせる。結果として得られるFIG−ROS(L)融合タンパク質(878個のアミノ酸を含む)は、ROSのキナーゼ活性を保持することが見いだされた。いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリペプチドはFIG−ROS(L)融合ポリペプチドである。いくつかの実施形態において、FIG−ROS(L)融合ポリペプチドは配列番号2で記載されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、FIG−ROS(L)融合ポリペプチドは配列番号1に記載される核酸配列によってコード化される。
図1および2において示されるように、FIG−ROS(S)転座は、FIGのN末端をコード化する核酸配列(アミノ酸1〜209)を、ROSのキナーゼドメインをコード化する核酸配列(ROS由来のアミノ酸1927〜2347に対応するアミノ酸210〜630)(配列番号4も参照)と組み合わせて、融合物、すなわちFIG−ROS(S)融合ポリペプチドを生じさせる。結果として得られるFIG−ROS(S)融合タンパク質(630個のアミノ酸を含む)は、ROSのキナーゼ活性を保持することが見いだされた。したがって、いくつかの実施形態において、本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドはFIG−ROS(S)融合ポリペプチドである。いくつかの実施形態において、FIG−ROS(S)融合ポリペプチドは、配列番号4で記載されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、FIG−ROS(S)融合ポリペプチドは、配列番号3に記載される核酸配列によってコード化される。
本発明は、第3のFIG−ROS融合物、すなわちFIG−ROS(XL)をさらに提供し、この転座は、FIGのN末端をコード化する核酸配列(アミノ酸1〜411または1〜412)を、ROSキナーゼの膜貫通およびキナーゼドメインをコード化する核酸配列と組み合わせ、その結果、1009アミノ酸長の融合タンパク質が得られる。
なお、本明細書に記載されるROS融合タンパク質(例えば、FIG−ROS融合タンパク質、SLC34A2−ROS融合タンパク質、およびCF74−ROS融合タンパク質)の全てにおいて、融合ジャンクションでのアミノ酸は(ナンバリングに関係なく)融合のいずれかの野生型タンパク質メンバーにおいて見られるか(例えば、FIG−ROS融合ポリペプチドにおける融合ジャンクションでのアミノ酸は、野生型FIGタンパク質または野生型ROSタンパク質のいずれかで見られる)、またはアミノ酸(両タンパク質メンバーの融合エクソン由来のヌクレオチドを有するコドンによって形成されるもの)は、融合ポリペプチドに独特であり得、融合のいずれかの野生型タンパク質メンバーでは見られない。
本発明は、変異ROSが肝臓癌(胆管癌を含む)、腎臓癌、精巣癌、および膵臓癌において存在し得るとする。これらの発見に基づいて、変異ROSを発現する(例えば、野生型ROSを過剰発現するか、または切断型ROSもしくは本明細書で開示されるFIG−ROS融合ポリペプチドのうちの1つなどのROS融合ポリペプチドを発現する)癌に罹っている患者は、ROS阻害剤の投与に対して有利に反応し得る(例えば、患者の癌の成長は、同じ癌に罹っている未治療の患者と比較して遅延され得るか、または阻止され得る)。
したがって、本発明は、単離されたFIG−ROS融合ポリペプチドおよびそれらのフラグメントを提供する。一実施形態において、本発明は:(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むFIG−ROS融合ポリペプチドをコード化するアミノ酸配列;(b)配列番号17のアミノ酸配列を含むFIG−ROS融合ポリペプチドをコード化するアミノ酸配列;(c)ROSのキナーゼドメインを有するFIGポリペプチドの全部もしくは一部分を含むFIG−ROS融合ポリペプチドをコード化するアミノ酸配列(例えば、配列番号12もしくは13を参照);および(d)FIG−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクションを含む少なくとも6個の連続したアミノ酸を含むポリペプチドをコード化するアミノ酸配列(例えば、FIG−ROS(S)のAGSTLP、FIG−ROS(L)のLQVWHR、またはFIG−ROS(XL)のLQAGVP)からなる群から選択される配列に対して、少なくとも95%同一であるか、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドを提供する。
一実施形態において、本発明は、配列番号4で記載されるアミノ酸配列を有する単離されたFIG−ROS(S)融合ポリペプチドを提供する。一実施形態において、本発明は、配列番号17で記載されるアミノ酸配列を有する単離されたFIG−ROS(XL)融合ポリペプチドを提供する。別の実施形態において、本発明の組換え変異ポリペプチドが提供され、これは、前述のように組換えベクターまたは組換え宿主細胞を使用して産生することができる。
FIG−ROS融合ポリペプチドのいくつかのアミノ酸が、変異タンパク質の構造または機能の著しい影響なしに変化し得ることは、当該技術分野では認識されるであろう。配列におけるこのような差異が想定される場合、タンパク質上には活性を決定する重要な領域(たとえば、ROSのキナーゼドメイン)があることを忘れてはならない。一般的に、三次構造を形成する残基を置換することが可能である。ただし、同様の機能を果たす残基を用いるものとする。他の例では、タンパク質の重要ではない領域で改変が起こるならば、残基の種類は全く重要ではない。
したがって、本発明は、実質的なROSキナーゼ活性を示すか、またはFIGおよびROSタンパク質の領域を含むFIG−ROS融合ポリペプチドのFIG−ROS変異体をさらに含む。いくつかの実施形態において、本発明のFIG−ROS変異体は、FIG−ROS(L)、FIG−ROS(XL)、またはFIG−ROS(S)と比べて保存的置換を含む。いくつかの非限定的保存的置換としては、脂肪族アミノ酸Ala、VaI、LeuおよびIle間での互いの交換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換;酸性残基AspおよびGluの交換;アミド残基AsnおよびGlnの交換;塩基性残基LysおよびArgの交換;ならびに芳香族残基PheおよびTyrの交換が挙げられる。当業者に公知の保存的アミノ酸置換のさらなる例は:芳香族:フェニルアラニン トリプトファン チロシン(例えば、トリプトファン残基をフェニルアラニンと置換する);疎水性:ロイシン イソロイシン バリン;極性:グルタミン アスパラギン;塩基性:アルギニン リシン ヒスチジン;酸性:アスパラギン酸 グルタミン酸;低分子:アラニン セリン トレオニン メチオニン グリシン。詳細に前述したように、どのアミノ酸変化が表現型上抑制されやすいか(すなわち、機能に対して著しい悪影響を及ぼしにくい)に関するさらなるガイダンスは、Bowie et al., Science 247、前出に記載されている。
いくつかの実施形態において、変異体は、「非保存的」変化、たとえばグリシンのトリプトファンでの置換を有し得る。類似の変異体はまた、アミノ酸欠失もしくは挿入、または両者も含み得る。どのアミノ酸残基が生物活性もしくは免疫学的活性を無効にすることなく置換、挿入、または欠失され得るかを決定する際のガイダンスは、当該技術分野で周知のコンピュータプログラム、たとえば、DNASTARソフトウェアを用いて見いだすことができる。
本発明のFIG−ROS融合ポリペプチド、それらのフラグメント、およびそれらの変異体を、単離または精製された形態で提供することができる。組換えにより産生された本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドは、Smith and Johnson,Gene 67:31−40(1988)で記載される一段階法によって実質的に精製することができる。
本発明のポリペプチドは、配列番号2および4、および17に記載する配列を有するFIG−ROS融合ポリペプチド(リーダー配列を含むかどうかに関係ない)、本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクションを含む少なくとも6個の連続したアミノ酸を含むポリペプチドをコード化するアミノ酸配列、ならびに前記のものと少なくとも90%の類似性、さらに好ましくは少なくとも95%の類似性、なお一層好ましくは少なくとも96%、97%、98%または99%の類似性を有するポリペプチドを含む。
2つのポリペプチドの「%類似性」とは、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix(登録商標), Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive, Madison, Wis. 53711)および類似性を決定するためのデフォルト設定を用いて、2つのポリペプチドのアミノ酸配列を比較することによって得られる類似性スコアを意図する。Bestfitは、SmithおよびWatermanの局所的相同性アルゴリズム(Advances in Applied Mathematics 2:482−489(1981))を用いて、2つの配列の間の類似性の最良のセグメントを見つけ出す。
本発明の変異ROSポリペプチドの基準アミノ酸配列と、少なくとも、例えば95%「同一」であるアミノ酸配列を有するポリペプチドとは、そのポリペプチドが、FIG−ROS融合ポリペプチドの基準アミノ酸配列の各100個のアミノ酸につき、5個までのアミノ酸の変更を含み得ることを除き、そのポリペプチドのアミノ酸配列がこの基準配列と同一であることを意図する。言い換えると、基準アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るために、基準配列中のアミノ酸残基の5%までを、欠失させるか、もしくは別のアミノ酸で置換するか、または基準配列中の全アミノ酸残基の5%までの複数のアミノ酸を基準配列中に挿入していてもよい。基準配列のこのような変更は、基準アミノ酸配列のアミノ末端もしくはカルボキシ末端位置で、あるいは基準配列中の残基間で個々にまたは基準配列中で1以上の連続した群のいずれかで点在して、これらの末端位置の間のどこにでも起こり得る。
Bestfitまたは任意の他の配列アラインメントプログラムを用いて、特定の配列が、たとえば本発明の基準配列と95%同一であるかどうかを判定する場合、パラメータは、当然、同一性が基準アミノ酸配列の全長にわたって計算され、基準配列中のアミノ酸残基の合計数の5%までの同一性におけるギャップが許容されるように設定される。
本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドは、たとえば当業者に周知の方法を用いて、SDS−PAGEゲル上またはモレキュラシーブゲル濾過カラム上で分子量マーカーとして使用することができる。
以下でさらに詳細に記載するように、本発明のポリペプチドを用いて、融合ポリペプチド特異的試薬、たとえばポリクローナルおよびモノクローナル抗体を生成させるために用いることもでき、これらは、以下で記載するような変異ROSポリペプチド発現を検出するためのアッセイにおいて、または変異ROSタンパク質機能/活性を増強もしくは阻害できる作動物質および拮抗物質として有用である。さらに、このようなポリペプチドは、本発明の候補作動物質および拮抗物質でもあるFIG−ROS融合ポリペプチド結合タンパク質を「捕捉」するために、酵母2ハイブリッド系において使用することもできる。酵母2ハイブリッド系は、Fields and Song, Nature 340:245−246(1989)に記載されている。
別の態様において、本発明は、例えばFIG−ROS融合ポリペプチド変異体の融合ジャンクションを含むエピトープなどの本発明のポリペプチドのエピトープを有する部分を含むペプチドまたはポリペプチドを提供する。「エピトープ」とは、免疫原性エピトープ(すなわち、免疫反応を誘発できる)または抗原性エピトープ(すなわち、抗体が特異的に結合できるタンパク質分子の領域)のいずれかを意味する。タンパク質の免疫原性エピトープの数は、一般的に、抗原性エピトープの数よりも少ない。例えば、Geysen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3998−4002(1983)を参照。本発明のFIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体の産生を以下でさらに詳細に記載する。
エピトープを有するペプチドまたはポリペプチドと特異的に結合する抗体は、模倣されたタンパク質を検出するのに有用であり、翻訳後プロセッシングを受けるタンパク質前駆体の様々な領域の運命を追跡するために、様々なペプチドに対する抗体を使用できる。ペプチドおよび抗ペプチド抗体は、模倣されたタンパク質の様々な定性的または定量的アッセイで、例えば競合アッセイで使用することができる。なぜなら、短いペプチド(例えば約9アミノ酸)でも免疫沈降アッセイではより大きなペプチドと結合し、置換できるからである。例えば、Wilson et al.,Cell 37:767−778(1984)at 777を参照。本発明の抗ペプチド抗体は、たとえば当該技術分野において周知の方法を用いた吸着クロマトグラフィーによる、模倣されたタンパク質の精製にも有用である。免疫アッセイ様式を以下でさらに詳細に記載する。
組換え変異ROSキナーゼポリペプチドも本発明の範囲内に含まれ、これは前述の様に、本発明の融合ポリヌクレオチドを用いて産生することができる。たとえば、本発明は、組換え宿主細胞(前述のとおり)を融合ポリペプチドの発現およびポリペプチドの回収に適した条件下で培養することによって、組み換えFIG−ROS融合ポリペプチドを産生する方法を提供する。宿主細胞の成長およびかかる細胞からの組換えポリペプチドの発現に適した培養条件は、当業者に周知である。
さらなる態様において、本発明は精製されたFIG−ROS融合ポリヌクレオチドを提供する。「FIG−ROS融合ポリヌクレオチド」または「FIG−ROSポリヌクレオチド」とは、任意の種、特にウシ、ヒツジ、ブタ、ネズミ、ウマ、およびヒトをはじめとする哺乳動物から得られ、天然、合成、半合成、または組換えに関係なく任意の供給源から得られる、FIG−ROS融合ポリペプチド(例えば、本明細書に記載するFIG−ROS(L)、FIG−ROS(XL)、またはFIG−ROS(S))融合ポリペプチド)をコード化するFIG−ROS転座遺伝子(すなわち、転座を受けた遺伝子)またはポリヌクレオチドを意味する。
いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドは、配列番号1に記載されるヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドは、配列番号2で記載されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコード化する。いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドは、配列番号3に記載するヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドは、配列番号4で記載されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコード化する。いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドは配列番号16に記載されるヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドは、配列番号17で記載されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコード化する。
いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドは、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号14、配列番号15、または配列番号26に記載されるヌクレオチド配列の一部を含む。本明細書で用いられる場合、「部分」または「フラグメント」とは、全配列より小さい配列フラグメントを意味する(例えば、50ヌクレオチド配列は、100ヌクレオチド長配列の一部である)。言い換えると、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドは、結果として得られるFIG−ROS融合ポリペプチド中の任意のアミノ酸をコード化しないイントロン配列の部分を含み得る。
したがって、本発明は、一つには、本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドをコード化する単離されたポリヌクレオチド、かかるポリヌクレオチドとハイブリダイズするヌクレオチドプローブ、組換え融合ポリペプチドを産生するためにかかるポリヌクレオチドを利用するための方法、ベクター、および宿主細胞を提供する。特に別段の記載がない限り、本発明においてDNA分子のシーケンシングによって決定される全てのヌクレオチド配列は、自動化DNAシーケンサー(たとえば、Applied Biosystems, Inc.から得られるモデル373)を用いて決定され、本明細書で決定されるDNA分子によってコード化されるポリペプチドの全てのアミノ酸配列は、自動化ペプチドシーケンサーを用いて決定された。この自動化法によって決定される任意のDNA配列について当該技術分野で周知のように、本発明で決定される任意のヌクレオチド配列は若干の誤差を含み得る。自動化によって決定されるヌクレオチド配列は、配列決定されたDNA分子のヌクレオチド配列に対して、典型的には少なくとも約90%同一であり、さらに典型的には少なくとも約95%〜約99.9%同一である。実際の配列は、当該技術分野で周知の手動DNA配列決定法を含む他の方法によってさらに正確に決定することができる。これもまた当該技術分野において公知のように、実際の配列と比べて決定されたヌクレオチド配列中の1つの挿入または欠失は、ヌクレオチド配列の翻訳においてフレームシフトを起こし、したがって決定されたヌクレオチド配列によりコード化される、予想されるアミノ酸配列は、このような挿入または欠失点で始まって、配列決定されたDNA分子により実際にコード化されるアミノ酸配列と完全に異なる。特に別段の記載がないかぎり、本明細書に記載する各ヌクレオチド配列は、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと短縮)の配列として示される。しかし、核酸分子またはポリヌクレオチドの「ヌクレオチド配列」とは、DNA分子またはポリヌクレオチドについてはデオキシリボヌクレオチドの配列であり、RNA分子またはポリヌクレオチドについてはリボヌクレオチド(A、G、CおよびU)の対応する配列であり、この場合、特定のデオキシリボヌクレオチド配列中の各チミジンデオキシリボヌクレオチド(T)はリボヌクレオチドウリジン(U)によって置換されている。例えば、配列番号3の配列を有するかまたはデオキシリボヌクレオチド略号を用いて記載されるRNA分子への言及は、配列番号3の各デオキシリボヌクレオチドA、GまたはCが対応するリボヌクレオチドA、GまたはCによって置換され、各デオキシリボヌクレオチドTがリボヌクレオチドUによって置換された配列を有するRNA分子を示すことが意図される。
一実施形態において、本発明は:(a)配列番号4のアミノ酸配列を含むFIG−ROS融合ポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列(FIG−ROS(S));(b)配列番号1のアミノ酸配列を含むFIG−ROS融合ポリペプチド7をコード化するヌクレオチド配列(FIG−ROS(XL));(c)FIG−ROS(S)融合ポリヌクレオチドの融合ジャンクションを含む少なくとも6個の連続したヌクレオチドを含むヌクレオチド配列(例えば、AAGTAC)、FIG−ROS(XL)融合ポリヌクレオチドの融合ジャンクションを含む少なくとも6個の連続したヌクレオチドを含むヌクレオチド配列(例えば、AAGctg);(d)FIG−ROS(S)融合ポリペプチドの融合ジャンクションを含む少なくとも6個の連続したアミノ酸残基をコード化するヌクレオチド配列(例えば、AGSTLP)、(e)FIG−ROS(XL)融合ポリペプチドの融合ジャンクションを含む少なくとも6個の連続したアミノ酸残基をコード化するヌクレオチド配列(例えば、LQAGVP)および(f)ヌクレオチド配列(a)、(b)、(c)、(d)、または(e)のいずれかに相補的なヌクレオチド配列からなる群から選択される配列と少なくとも約95%同一であるヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。
配列番号1、3、および16に記載されるヌクレオチド配列などの本明細書で提供する情報を用いて、本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドをコード化する本発明の核酸分子は、出発物質としてmRNAを用いてcDNAsをクローニングするためのものなどの、標準的クローニングおよびスクリーニング法を用いて得ることができる。融合遺伝子は、FIG−ROS転座が起こるか、または欠失もしくは別の転座の結果、細胞外ドメインが欠失した切断型ROSキナーゼが発現され、さらに野生型ROSキナーゼの膜貫通ドメインが欠失し得る、他のヒト癌におけるcDNAライブラリでも同定することもできる。
FIG−ROS転座遺伝子の決定されたヌクレオチド配列は、FIG−ROS(S)融合ポリペプチド、FIG−ROS(L)融合ポリペプチド、およびFIG−ROS(XL)融合ポリペプチドをコード化する。FIG−ROS融合ポリヌクレオチドは、タンパク質のN末端をコード化する野生型FIGのヌクレオチド配列の部分とタンパク質のキナーゼドメインをコード化する野生型ROSのヌクレオチド配列の部分とを含む。
示されるように、本発明は、一つには、FIG−ROS融合タンパク質の成熟形態を提供する。シグナル仮説によれば、哺乳動物細胞によって分泌されるタンパク質は、成長するタンパク質鎖が粗面小胞体を越えて排出され始めたら、成熟タンパク質から切断されるシグナルまたは分泌リーダー配列を有する。ほとんどの哺乳動物細胞およびさらには昆虫細胞も、同じ特異性を有する分泌されたタンパク質を切断する。しかし、場合によっては、分泌されたタンパク質の切断は、完全に均一ではなく、その結果、そのタンパク質に関して2以上の成熟種が生じる。さらに、分泌されたタンパク質の切断特異性が最終的に完全タンパク質の一次構造によって決定されること、すなわち、ポリペプチドのアミノ酸配列に固有であることは、かなり前から知られている。したがって、本発明は、一つには、配列番号3の5’末端残基に対して5’側に位置するさらなる核酸残基を有する、配列番号3に記載されるヌクレオチド配列を有する成熟FIG−ROS(S)融合ポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列を提供し、配列番号4のN末端残基のN末端側に位置するさらなるアミノ酸残基を有する、配列番号4で記載されるアミノ酸配列を有するFIG−ROS(S)融合ポリペプチドのアミノ酸配列を含む。本発明はまた、一つには、配列番号16の5’末端残基に対して5’側に位置するさらなる核酸残基を有する、配列番号16に記載されるヌクレオチド配列を有する成熟FIG−ROS(XL)融合ポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列も提供し、配列番号17のN末端残基に対してN末端側に位置するさらなるアミノ酸残基を有する、配列番号17で記載されるアミノ酸配列を有するFIG−ROS(XL)融合ポリペプチドのアミノ酸配列を含む。
示されるように、本発明のポリヌクレオチドは、mRNAなどのRNAの形態であってもよいし、または例えば、クローニングによって得られるかもしくは合成により産生されるcDNAおよびゲノムDNAを含むDNAの形態であってもよい。DNAは2本鎖であってもよいし、または1本鎖であってもよい。1本鎖DNAまたはRNAはコーディング鎖(センス鎖とも呼ばれる)であるか、または非コーディング鎖(アンチセンス鎖とも呼ばれる)であってもよい。
本発明の単離されたポリヌクレオチドは、それらの自然の環境から除去された核酸分子、DNAまたはRNAである。たとえば、ベクター中に含まれる組換えDNA分子は、本発明に関して単離されていると見なされる。単離されたDNA分子のさらなる例には、異種宿主細胞中に維持された組換えDNA分子または溶液中の(部分的もしくは実質的に)精製されたDNA分子が含まれる。単離されたRNA分子には、本発明のDNA分子のインビボまたはインビトロRNA転写物が含まれる。本発明の単離された核酸分子は、合成により産生されるこのような分子をさらに含む。
本発明の単離されたポリヌクレオチドは、(配列番号1、3、および16に記載される配列を有する核酸分子、前述のものと異なるが、遺伝子コードの縮重のために依然として本発明の変異ROSポリペプチドである核酸分子を含む、FIG−ROS(S)、FIG−ROS(L)、およびFIG−ROS(XL)融合タンパク質のコーディング配列を含む核酸分子を含む。遺伝子コードは当該技術分野で周知であり、したがって、このような縮重変異体を生成させることは当業者には慣例的である。
別の実施形態において、本発明は、前記cDNAクローン中に含まれるFIG−ROS転座ヌクレオチド配列を含むFIG−ROS融合ポリペプチドをコード化する単離されたポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態において、このような核酸分子は、成熟FIG−ROS(S)融合ポリペプチド、成熟FIG−ROS(L)融合ポリペプチド、または成熟FIG−ROS(XL)融合ポリペプチドをコード化する。別の実施形態において、本発明は、FIGのN末端アミノ酸配列およびROSのキナーゼドメインを含むFIG−ROS融合ポリペプチドをコード化する単離されたヌクレオチド配列を提供する。一実施形態において、ROSのキナーゼドメインを含むポリペプチドは、配列番号12または配列番号13に記載するアミノ酸配列を含む。別の実施形態において、FIGのN末端アミノ酸配列およびROSのキナーゼドメインは、配列番号1、配列番号3、または配列番号16に記載されるヌクレオチド配列によってコード化される。
本発明は、本発明の変異ROSポリペプチドのうちの1つに相補的な配列を有するヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドをさらに提供する。このような単離された分子、特にDNA分子は、染色体を用いたインサイチュハイブリダイゼーションによる遺伝子マッピング、および例えばノザンブロッティング分析による、ヒト組織におけるFIG−ROS融合タンパク質または切断型ROSキナーゼポリペプチドの発現を検出するためのプローブとして有用である。
本発明はさらに、本明細書に記載する単離された核酸分子のフラグメントに関する。本発明の単離されたFIG−ROSポリヌクレオチドまたは切断型ROSポリヌクレオチドのフラグメントとは、少なくとも約15ヌクレオチド、または少なくとも約20ヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも約30ヌクレオチド、または少なくとも約40ヌクレオチドの長さのフラグメントを意味し、これらのフラグメントは本明細書で議論する診断用プローブおよびプライマーとして有用である。もちろん、配列番号1、3、または16に記載する配列を有するcDNAのFIG−ROSヌクレオチド配列の全部でなくてもほとんどに対応するフラグメントのように、長さが約50〜1500ヌクレオチドのさらに大きなフラグメントも本発明によると有用である。「長さが少なくとも20ヌクレオチドのフラグメント」とは、たとえば、当該フラグメントが由来する各ヌクレオチド配列由来の20以上の連続した塩基を含むフラグメントを意味する。
DNAフラグメントの生成は当業者には慣例的であり、例として、制限エンドヌクレアーゼ切断または本明細書に記載するcDNAクローンから得ることができるかまたは本明細書に開示される配列にしたがって合成されるDNAの超音波処理による剪断によって行うことができる。あるいは、このようなフラグメントは合成により直接生成させることができる。
別の態様において、本発明は、FIG−ROS融合ポリヌクレオチド等の本発明の変異ROSキナーゼポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、単離されたポリヌクレオチド(例えば、ヌクレオチドプローブ)を提供する。当業者には理解されるように、同じかまたは関連するポリヌクレオチド配列を同定または検出するために、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを変更することができる。
基準ポリヌクレオチド(例えば、FIG−ROS(S)融合ポリヌクレオチド)とハイブリダイズするポリヌクレオチドまたはヌクレオチドプローブとは、ポリヌクレオチドまたはヌクレオチドプローブ(例えば、DNA、RNA、もしくはDNA−RNAハイブリッド)が、基準ポリヌクレオチドの全長に沿ってハイブリダイズするか、または少なくとも約15ヌクレオチド(nt)である基準ポリヌクレオチドの一部とハイブリダイズするか、または基準ポリヌクレオチドの少なくとも約20nt、もしくは少なくとも約30nt、もしくは約30〜70ntとハイブリダイズすることを意図する。本発明のこれらのヌクレオチドプローブは、本明細書で議論するような診断用プローブおよびプライマー(例えばPCR用)として有用である。
もちろん、基準ポリヌクレオチド(例えば、配列番号3に記載される配列を有するFIG−ROS(S)融合ポリヌクレオチド)のより大きな部分、例えば、50〜750ntの長さの部分と、またはさらには基準ポリヌクレオチドの全長とハイブリダイズするポリヌクレオチドは、本明細書に記載するcDNAのヌクレオチドまたは配列番号1もしくは3に記載するヌクレオチド配列の全部ではなくてもほとんどに対応するポリヌクレオチドと同様に、本発明のプローブとして有用である。
本明細書で用いられる場合、『「少なくとも15ヌクレオチド」の長さのポリヌクレオチドの部分』とは、たとえば、基準ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列由来の15以上の連続したヌクレオチドを意図する。示されるように、このような部分は、例えば、MOLECULAR CLONING, A LABORATORY MANUAL, 2nd. edition, Sambrook, J., Fritsch, E. F. and Maniatis, T., eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989)(その開示全体は参照することによって本明細書に組み込まれる)に記載されるように、通常のDNAハイブリダイゼーション技術による診断的使用またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による標的配列の増幅用プライマーとして有用である。もちろん、ポリA配列(例えば、FIG−ROS配列の3’末端ポリ(A)トラクト(例えば、配列番号1もしくは3))またはT(もしくはU)残基の相補鎖のみとハイブリダイズするポリヌクレオチドは、本発明の核酸の一部とハイブリダイズするために使用される本発明のポリヌクレオチド中に含まれない。なぜなら、このようなポリヌクレオチドはポリ(A)鎖またはその補体(例えば、実質的に任意の2本鎖cDNAクローン)を含む任意の核酸分子とハイブリダイズするからである。
示されるように、本発明の変異ROSキナーゼポリペプチドをコード化する本発明の核酸分子には、これらに限定されるものではないが、それ自体で成熟ポリペプチドのアミノ酸配列をコード化するもの;成熟ポリペプチドおよびさらなる配列のコーディング配列、例えば例えばプレ、またはプロまたはプレプロタンパク質配列などのリーダーもしくは分泌配列をコード化するもの;前記の追加のコーディング配列の有無に関係なく、成熟ポリペプチドのコーディング配列と、たとえば、これらに限定されるものではないが、転写、スプライシングおよびポリアデニル化シグナルを含むmRNAプロセッシング、例えばmRNAのリボソーム結合および安定性に関与する、転写された非翻訳配列などのイントロンおよび非コーディング5’および3’配列を包含する追加の非コーティング配列;追加の機能を提供するものなどの追加のアミノ酸をコードする追加のコーディング配列が含まれる。
したがって、ポリペプチドをコード化する配列は、マーカー配列、例えば融合ポリペプチドの精製を促進するペプチドをコード化する配列と融合させることができる。本発明のこの態様のある実施形態において、マーカーアミノ酸配列は、ヘキサヒスチジンペプチド、例えば中でもpQEベクター(Qiagen, Inc.)中に提供されるタグであり、その多くは市販されている。Gentz et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:821−824(1989)に記載されるように、例えば、ヘキサヒスチジンは融合タンパク質の便利な精製法を提供する。「HA」タグは、インフルエンザヘマグルチニンタンパク質由来のエピトープに対応する、精製に有用な別のペプチドであり、これはWilson et al.,Cell 37:767(1984)により記載されている。以下で議論するように、他のこのような融合タンパク質には、N末端またはC末端でFcと融合するFIG−ROS融合ポリペプチド自体が含まれる。
本発明はさらに、本明細書で開示されるFIG−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSキナーゼポリペプチドの一部、類似体または誘導体をコード化する本発明の核酸分子の変異体に関する。変異体は、天然の対立遺伝子多型など、天然に存在するものであってよい。「対立遺伝子多型」とは、生命体の染色体上の所定の座位を占める遺伝子のいくつかの代替形のうちの1つである。例えば、GENES II, Lewin, B., ed., John Wiley & Sons, New York(1985)を参照。天然に存在しない変異体は、当該技術分野で公知の突然変異生成技術を用いて産生することができる。
このような変異体には、ヌクレオチド置換、欠失または付加により産生されるものが含まれる。置換、欠失または付加は、1以上のヌクレオチドを含み得る。変異体は、コーディング領域、非コーディング領域、または両方で変更され得る。コーディング領域における変更は、保存的もしくは非保存的アミノ酸置換、欠失または付加をもたらし得る。本発明に含まれるいくつかの変更は、サイレント置換、付加および欠失であり、これらは本明細書で開示されるFIG−ROS融合ポリペプチドの特性および活性(例えばキナーゼ活性)を変更しない。
本発明のさらなる実施形態は、少なくとも90%同一のヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドを含む。本発明のいくつかの実施形態において、ヌクレオチドは、本発明の変異ROSポリヌクレオチド(たとえば、配列番号4に記載される完全アミノ酸配列を有するFIG−ROS(S)融合ポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列、またはFIGのN末端およびROSのキナーゼドメインをコード化するヌクレオチド配列;あるいはこのような例示的配列に相補的なヌクレオチド)と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%同一である。
変異ROSポリペプチドをコード化する基準ヌクレオチド配列と少なくとも、例えば95%「同一」であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドとは、ポリヌクレオチド配列が、変異ROSポリペプチドをコード化する基準ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチドあたり5までの点突然変異を含み得ることを除いて、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が参考配列と同一であることを意味する。言い換えると、基準ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、基準配列中5%までのヌクレオチドを除去するかもしくは別のヌクレオチドと置換するか、または基準配列中の全ヌクレオチドの5%までの複数のヌクレオチドを基準配列中に挿入することができる。基準配列のこれらの突然変異は、基準ヌクレオチド配列の5’末端位置で、または基準配列中のヌクレオチド間で個々にもしくは基準配列内の1以上の連続した群で点在して、それらの末端位置の間のどこかに生じてもよい。
実際問題として、例えば、配列番号1および3に記載されるヌクレオチド配列または本明細書に記載するcDNAクローンのヌクレオチド配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるかどうかは、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix(登録商標), Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive, Madison, Wis. 53711などの公知コンピュータプログラムを用いて通常どおり決定することができる。Bestfitは、Smith and Waterman,Advances in Applied Mathematics 2:482−489(1981)の局所的相同性アルゴリズムを用いて、2つの配列間の相同性が最良のセグメントを見つけ出す。Bestfitまたは任意の他の配列アラインメントプログラムを用いて、特定の配列が,例えば本発明の基準FIG−ROS融合ポリヌクレオチド配列と95%同一であるかどうかを決定する場合、当然、同一性の百分率が基準ヌクレオチド配列の全長にわたって計算され、基準配列中のヌクレオチドの総数の5%までの相同性におけるギャップが許容されるようにパラメータを設定する。
本発明は、その範囲内に、配列番号1もしくは3に記載される核酸配列または配列番号2、4、D、もしくはEに記載されるアミノ酸配列をコード化するヌクレオチドと少なくとも90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%同一である核酸分子を、これらがROSキナーゼ活性を有するポリペプチドをコード化するかどうかに関係なく含む。これは、特定の核酸分子がROSキナーゼ活性を有する融合ポリペプチドをコード化しない場合でも、当業者は、例えばハイブリダイゼーションプローブまたはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーとしてなど、どのように核酸分子を使用するかを知っているであろうからである。キナーゼを有するポリペプチドをコード化しない本発明の核酸分子の使用には、特に、(1)cDNAライブラリ中のFIG−ROS転座遺伝子またはその対立遺伝子多型を単離すること;(2)Verma et al, HUMAN CHROMOSOMES:A MANUAL OF BASIC TECHNIQUES, Pergamon Press, New York(1988)に記載されているような、FIG−ROS転座遺伝子の正確な染色体位置を提供するための中期染色体伸展標本対するインサイチュハイブリダイゼーション(たとえば、「FISH」);および特定組織におけるFIG−ROS融合タンパク質mRNA発現を検出するためのノザンブロッティング分析が含まれる。
FIG−ROS融合ポリペプチドをコード化する核酸配列と少なくとも95%同一である配列を有する核酸分子(たとえば、FIG−ROS(S))または野生型ROSキナーゼの細胞外ドメインが欠失しているか、もしくは野生型ROSキナーゼの細胞外ドメインおよび膜貫通ドメインの両方が欠失した切断型ROSも本発明に含まれる。いくつかの実施形態において、コード化されたFig−ROS融合ポリペプチドおよび/または切断型ROSはキナーゼ活性を有する。このような活性は、特定の生物学的アッセイで測定された場合、本明細書で開示されているFIG−ROS融合タンパク質(完全長タンパク質、成熟タンパク質、またはキナーゼ活性を保持するタンパク質フラグメントのいずれか)の活性と類似している可能性があるが、必ずしも同一である必要はない。たとえば、ROSのキナーゼ活性は、1以上のチロシン含有ペプチド基質、たとえば、多くの受容体および非受容体チロシンキナーゼの基質である「Src関連ペプチド」(RRLIEDAEYAARG)をリン酸化する能力を測定することによって調べることができる。
遺伝子コードの縮重のために、当業者は、本明細書に記載するcDNAの核酸配列と、配列番号1、3、もしくは16に記載する核酸配列と、または配列番号2、4、もしくは17に記載するアミノ酸配列をコード化する核酸配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一である配列を有する多数の核酸分子が、ROSキナーゼ活性を有する融合ポリペプチドをコード化するであろうことを直ちに理解するであろう。実際に、これらのヌクレオチド配列の縮重変異体はすべて同じポリペプチドをコード化するので、これは前記比較アッセイを実施しなくても当業者には明らかであろう。縮重変異体でない核酸分子についても、適度な数がROSキナーゼ活性を保持するポリペプチドをコード化するであろうことは、当該技術分野でさらに理解されるであろう。これは、当業者が、タンパク質機能に著しい影響を及ぼす可能性が低いかまたは影響を及ぼしにくいかのいずれかであるアミノ酸置換(例えば、1つの脂肪族アミノ酸を第2の脂肪族アミノ酸で置換すること)を十分に認識しているからである。たとえば、表現型的にサイレントアミノ酸置換を作製する方法に関する手引きは、アミノ酸配列の変化に対する許容度を研究するための2つの主な方法を記載する、Bowie et al.、“Deciphering the Message in Protein Sequences:Tolerance to Amino Acid Substitutions,” Science 247:1306−1310(1990)に記載されている。このような技術に精通している当業者は、どのアミノ酸変化がタンパク質のある位置で許容状態になりやすいかも理解する。たとえば、ほとんどの埋没(buried)アミノ酸残基は非極性側鎖を必要とするが、表面側鎖の特性は一般的にほとんど保存されない。他のこのような表現型的サイレント置換は、前出のBowieらおよびその中で引用される文献に記載されている。
当該技術分野で周知であり、一般的に利用可能なDNA配列決定法を用いて、本発明の任意のポリヌクレオチドの実施形態を実施することができる。この方法は、DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントSEQUENASE(登録商標)(US Biochemical Corp(オハイオ州クリーブランド))、Taqポリメラーゼ(Invitrogen)、熱安定性T7ポリメラーゼ(Amersham(イリノイ州シカゴ))、またはGibco BRL(メリーランド州ゲイサーズバーグ)により市販されているELONGASE Amplification Systemなどの組換えポリメラーゼおよび校正エキソヌクレアーゼ(proofreading exonuclease)の組み合わせなどの酵素を用いることができる。このプロセスは、Hamilton Micro Lab 2200(Hamilton(ネバダ州リノ))、Peltier Thermal Cycler(PTC200;MJ Research(マサチューセッツ州ウォータータウン))およびABI377DNAシーケンサー(Applied Biosystems)などの機械を用いて自動化することができる。
本発明の変異ROSポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド配列は、部分ヌクレオチド配列を利用し、プロモータおよび調節エレメントなどの上流配列を検出するための当該技術分野で公知の様々な方法を用いて伸長することができる。たとえば、利用できる一方法である、「制限部位」PCRは、既知座位に隣接する未知配列を読み出すためにユニバーサルプライマーを使用する(Sarkar, G., PCR Methods Applic. 2:318−322(1993))。特に、ゲノムDNAをまずリンカー配列に対するプライマーおよび既知領域に対して特異的なプライマーの存在下で増幅させる。典型的なプライマーは、本明細書の実施例4で記載するものである。増幅された配列を次いで同じリンカープライマーおよび最初のものより内側の別の特異的なプライマーを用いて2回目のPCRにかける。各回のPCRの産物を適切なRNAポリメラーゼで転写させ、逆転写酵素を用いて配列決定する。
逆PCRを用いて、既知領域に基づく分岐プライマーを用いて配列を増幅または伸長することもできる(Triglia et al., Nucleic Acids Res. 16:8186(1988))。このプライマーは、OLIGO4.06プライマー分析ソフトウェア(National Biosciences Inc.(ミネソタ州プリマス))、または別の適切なプログラムを用いて、22〜30ヌクレオチドの長さであり、50%以上のGC含有量を有し、標的配列と約68〜72℃の温度でアニーリングするように設計することができる。この方法は、遺伝子の既知領域中で好適なフラグメントを生成するいくつかの制限酵素を使用する。フラグメントを次いで分子内ライゲーションによって環化し、PCRテンプレートとして使用する。
使用することができる別の方法は、ヒトおよび酵母人工染色体DNA中の既知配列に隣接するDNAフラグメントのPCR増幅を含むキャプチャーPCRである(Lagerstrom et al., PCR Methods Applic. 7:111−119(1991))。この方法では、操作された2本鎖配列をDNA分子の未知部分中へ入れるために複数の制限酵素消化およびライゲーションを用いた後、PCRを実施することもできる。未知配列を読み出すために使用できる別の方法は、Parker et al., Nucleic Acids Res. 19:3055−3060(1991))に記載されているものである。さらに、PCR、ネステッドプライマー、およびPROMOTERFINDER(登録商標)ライブラリを用いて、ゲノムDNA歩行を行うことができる(Clontech, Palo Alto, Calif)。このプロセスは、ライブラリをスクリーンする必要がなく、イントロン/エクソンジャンクションを見いだすのに有用である。
完全長cDNAをスクリーニングする場合には、より大きなcDNAを含むようにサイズを選択されたライブラリを使用するか、または遺伝子の5’領域を含むより多くの配列を含むランダムプライム化ライブラリを使用することができる。ランダムプライム化ライブラリは、オリゴd(T)ライブラリにより完全長cDNAが得られない状況に有用である。ゲノムライブラリは、5’および3’非転写調節領域中に配列を伸長するのに有用であり得る。
市販のキャピラリー電気泳動システムを用いて、配列決定もしくはPCRの産物のサイズの分析またはヌクレオチド配列の確認を行うことができる。特に、キャピラリー配列決定は、電気泳動による分離のための流動性ポリマー、レーザー活性化される4つの異なる蛍光色素(各ヌクレオチドについて1つ)、および電荷結合素子カメラによる放射された波長の検出を用いることができる。適切なソフトウェア(例えば、GENOTYPER(商標)およびSEQUENCE NAVIGATOR(商標)、Applied Biosystems)を用いて、出力/光強度を電気的シグナルに変換することができ、試料の装填からコンピュータ分析までの全過程および電子データ表示をコンピュータ制御することができる。キャピラリー電気泳動システムは、特定の試料中に限られた量で存在し得るDNAの小断片の配列決定に特に好ましい。
本発明は、本発明の単離されたポリヌクレオチドを含む組換えベクター、この組換えベクターで遺伝子操作された宿主細胞、および組換えFIG−ROSポリペプチドまたはそのフラグメントの組換え技術による産生も提供する。
感染、形質導入、トランスフェクション、トランスベクション、エレクトロポレーション、および形質転換などの周知の技術を用いて、組換え構築物を宿主細胞に導入することができる。このベクターは、例えば、ファージ、プラスミド、ウイルス、またはレトロウイルスのベクターであってもよい。レトロウイルスベクターは、複製可能であっても、または複製欠損であってもよい。後者の場合、ウイルスの増殖は一般的に宿主細胞を補完する時にのみ起こるであろう。
ポリヌクレオチドを、宿主における増殖用の選択可能なマーカーを含有するベクターに結合させてもよい。一般的には、プラスミドベクターを、リン酸カルシウム沈殿などの沈殿中に、あるいは荷電脂質との複合体中に導入する。ベクターがウイルスである場合、それを、適切なパッケージング細胞株を用いてインビトロでパッケージングし、次いで、宿主細胞に形質導入することができる。本発明は、目的のポリヌクレオチドに対するシス作用性制御領域を含むベクターを用いて実施することができる。適切なトランス作用性因子が、宿主によって供給されてもよいか、相補ベクターによって供給されてもよいか、または宿主への導入によりベクター自体によって供給されてもよい。ある実施形態では、この点に関して、ベクターは特異的な発現を提供し、その発現は誘導可能および/または細胞型特異的であってもよい(例えば、温度および栄養添加剤などの操作が容易な環境因子によって誘導可能なもの)。
本発明のFIG−ROSポリヌクレオチドまたは切断型ROSポリヌクレオチドを含むDNA挿入断片は、適切なプロモータに機能的に連結されなければならず、このプロモータは数例を挙げると、ファージラムダPLプロモータ、大腸菌(E.coli)lac、trpおよびtacプロモータ、SV40初期および後期プロモータならびにレトロウイルスLTRのプロモータなどがある。他の好適なプロモータは当業者に公知である。発現構築物は、転写開始、終結および、転写された領域中に、翻訳用のリボソーム結合部位をさらに含む。構築物により発現される成熟転写物のコーディング部分は、翻訳されるポリペプチドの適切な位置のはじめに翻訳開始および終端に終止コドン(UAA、UGAまたはUAG)を含み得る。
示されるように、発現ベクターは、少なくとも1つの選択可能なマーカーを含み得る。このようなマーカーは、真核細胞培養物に関してはジヒドロ葉酸リダクターゼまたはネオマイシン耐性、そして大腸菌および他の細菌の培養に関してはテトラサイクリンまたはアンピシリン耐性遺伝子を含む。適切な宿主の代表例としては、大腸菌、ストレプトミセス(Streptomyces)細胞およびサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)細胞などの細菌細胞;酵母細胞などの真菌細胞;ショウジョウバエS2細胞およびスポドプテラSf9細胞などの昆虫細胞;CHO細胞、COS細胞、およびBowes黒色腫細胞などの動物細胞;ならびに植物細胞が含まれるが、これらに限定されない。前記の宿主細胞に適切な培地および培養条件は、当該技術分野において公知である。
細菌における使用に好ましい非限定的ベクターとしては、Qiagenより入手可能なpQE70、pQE60、およびpQE−9;Stratageneより入手可能なpBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、およびpNH46A;ならびにPharmaciaより入手可能なptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5が挙げられる。非限定的真核性ベクターとしては、Stratageneより入手可能なpWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、およびpSG;ならびにPharmaciaより入手可能なpSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVLが挙げられる。他の好適なベクターは、当業者には容易に明らかであろう。
本発明における使用に適した非限定的細菌性プロモータとしては、大腸菌のlacIプロモータおよびlacZプロモータ、T3プロモータおよびT7プロモータ、gptプロモータ、ラムダPRプロモータおよびラムダPLプロモータ、ならびにtrpプロモータが挙げられる。好適な真核性プロモータとしては、CMV前初期プロモータ、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期および後期SV40プロモータ、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のものなどのレトロウイルスLTRのプロモータ、ならびにマウスメタロチオネイン−Iプロモータなどのメタロチオネインプロモーターが挙げられる。
酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、アルファ因子、アルコールオキシダーゼ、およびPGHなどの構成的または誘導可能なプロモータを含有する複数のベクターを使用することができる。総説については、Ausubel et al.(1989)CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, John Wiley & Sons, New York, N.Y、およびGrant et al.,Methods Enzymol. 153:516−544(1997)を参照。
宿主細胞への構築物の導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染、またはその他の方法によって行うことができる。このような方法は、Daviset al.,BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY(1986)などの多数の標準的な実験室マニュアルに記載されている。
エンハンサー配列をベクター内に挿入することによって、高等真核生物による、本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドをコード化するDNAの転写を増大させることができる。エンハンサーはDNAのシス作用性エレメントであって、通常、約10〜300bpであり、特定の宿主細胞型においてプロモータの転写活性を増大するように作用する。エンハンサーの例としては、100〜270塩基対の複製起点の後期側に位置するSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが包まれる。
翻訳されたタンパク質を小胞体内腔中、細胞周辺腔中、または細胞外環境中に分泌させるために、発現されたポリペプチド中に適切な分泌シグナルを組み入れることができる。このシグナルは、該ポリペプチドに内因性のものであってもよいし、または異種シグナルであってもよい。
ポリペプチドは、融合タンパク質(例えばGST−融合体)などの修飾した形態で発現させることもでき、分泌シグナルだけでなく、さらなる異種の機能的な領域を含んでいてもよい。例えば、さらなるアミノ酸、特に荷電アミノ酸の領域をポリペプチドのN末端に付加して、宿主細胞内で、精製中、またはその後の取り扱い中および保存中の安定性および持続性を改善することができる。また、ペプチド部分を該ポリペプチドに付加して精製を容易にすることができる。最終的なポリペプチド調製の前に、このような領域を除去することができる。ペプチド部分をポリペプチドに付加し、とりわけ、分泌または排出を引き起こし、安定性を向上させ、精製を容易にすることは、当該技術分野でよく知られた日常的な技術である。
非限定的例において、本発明のFIG−ROS融合ポリペプチド、タンパク質を可溶化するために有用な、免疫グロブリン由来の異種領域を含み得る。例えば、EP−A−O464533(カナダ国第2045869号に対応)は、免疫グロビン分子の定常領域の種々の部分を別のヒトタンパク質またはその一部と共に含む融合タンパク質を開示している。多くの場合、融合タンパク質中のFc部分は、療法および診断における使用に完全に有益であり、その結果、例えば、薬物動態学的特性を改善する(EP−A0232262)。一方、いくつかの用途には、記載される有益な方法で融合タンパク質を発現、検出、および精製した後に、Fc部分を除去できることが望ましいであろう。これは、療法および診断に用いるためにFc部分が障害となることが判明した場合であり、例えば、その融合タンパク質を免疫化のための抗原として使用する場合である。薬剤の発見において、例えば、hIL5−などのヒトタンパク質は、hIL−5の拮抗物質を同定するための高処理スクリーニングアッセイの目的で、Fc部分と融合されている。Bennett et al.,Journal of Molecular Recognition 8:52−58(1995)、およびJohanson et al.,The Journal of Biological Chemistry 270(16):9459−9471(1995)を参照。
FIG−ROSポリペプチドは、硫酸アンモニウム沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンもしくはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィーをはじめとする周知の方法を用いて、組換え細胞培養物から回収し精製することができる。いくつかの実施形態において、高性能液体クロマトグラフィー(「HPLC」)を精製に用いる。本発明のポリペプチドとしては、自然に精製された産物、化学合成法の産物、および組換え技術によって原核生物または真核生物の宿主、例えば、細菌、酵母、高等植物、昆虫、および哺乳動物細胞などから産生された産物が含まれる。組換え産生法に用いる宿主に応じて、本発明のポリペプチドは、グリコシル化され得るか、またはグリコシル化されない場合もある。さらに、本発明のポリペプチドは、場合によっては宿主によって媒介されるプロセスの結果として、開始修飾メチオニン残基をも含み得る。
したがって、一実施形態において、本発明は、(前記のような)組換え宿主細胞をその融合ポリペプチドの発現に好適な条件下で培養することによって組換えFIG−ROS融合ポリペプチドを産生させ、ポリペプチドを回収するための方法を提供する。宿主細胞の成長およびそのような細胞からの組換えポリペプチドの発現に好適な培養条件は、当業者に周知である。例えば、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, Ausubel FM et al, eds., Volume 2, Chapter 16, Wiley Interscienceを参照。
さらなる態様において、本発明は、FIG−ROS融合ポリペプチドと特異的に結合する結合剤を提供する。いくつかの実施形態において、結合剤は、前記FIG−ROS融合ポリペプチド中のFIG部分とROS部分との間の融合ジャンクションと特異的に結合する。いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリペプチドは、FIG−ROS(S)融合ポリペプチド、FIG−ROS(L)融合ポリペプチド、またはFIG−ROS(XL)融合ポリペプチドである。
いくつかの実施形態では、本発明の結合剤を検出可能な標識と結合させる。本明細書で開示するポリペプチド、ポリヌクレオチド、または結合剤に関して「検出可能な標識」とは、これらに限定されるものではないが、目的の分子の存在をこれによって検出できる、蛍光、質量、残基、色素、放射性同位体、標識、またはタグ修飾などの、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、もしくは結合剤の化学的、生物学的、もしくは他の修飾を意味する。検出可能な標識をポリペプチド、ポリヌクレオチド、または結合剤に対して共有または非共有化学結合により結合させることができる。
本発明は、FIG−ROS融合ポリペプチド(たとえば、本発明のFIG−ROS(S)、FIG−ROS(L)、またはFIG−ROS(XL))と特異的に結合する結合剤、たとえば抗体もしくはAQUAペプチド、またはそれらの結合フラクションを提供する。「特異的に結合している」または「特異的に結合する」とは、本発明の結合剤(たとえば、抗体またはAQUAペプチド)がその標的分子(たとえば、FIG−ROS融合ポリペプチド)と相互作用することを意味し、この場合、相互作用は、タンパク質上の特定の構造(すなわち、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存する;言い換えれば、試薬は全てのタンパク質一般ではなく、特定のタンパク質構造を認識し、結合する。「それらの結合フラグメント」とは、標的分子(例えば、抗体のFabフラグメント)と特異的に結合する結合試薬のフラグメントまたは一部を意味する。標的分子と特異的に結合する結合剤を、標的特異的結合剤と呼ぶことができる。たとえば、FIG−ROS(L)ポリペプチドと特異的に結合する抗体を、FIG−ROS(L)特異的抗体と呼ぶことができる。いくつかの実施形態において、本発明の結合剤は、1×10−6M以下のその標的分子(例えば、FIG−ROS融合ポリペプチド)に対する結合親和力(KD)を有する。いくつかの実施形態において、本発明の結合剤は、1×10−1M以下のKD、または1×10−8M以下のKD、または1×10−9M以下のKD、または1×10−10M以下のKD、または1×10−11M以下のKD、または1×10−12M以下のKDでその標的分子と結合する。ある実施形態において、本発明の結合剤のその標的分子に対するKDは、1pM〜500pM、または500pM〜1μM、または1μM〜100nM、または100mM〜10nMである。本発明の結合剤と特異的に結合する標的分子の非限定的例としては、FIG−ROS(L)融合ポリペプチド、FIG−ROS(S)融合ポリペプチド、およびそれらのフラグメント、特に本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドのFIG部分とROS部分との間にジャンクションを含むフラグメントが挙げられる。
開示される方法の実施に有用なものを含む本発明の結合剤には、とりわけ、生体試料中のFIG−ROS融合ポリペプチド発現の検出および定量に対応し、好適なFIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体およびAQUAペプチド(重同位体標識ペプチド)が含まれる。したがって、「FIG−ROS融合ポリペプチド特異的結合剤」は、生体試料中のFIG−ROS融合ポリペプチドの存在/発現レベルとの特異的に結合、検出および/または定量化
可能な任意の(生物学的または化学的)試薬である。この用語は、これらに限定されるものではないが、以下で議論する抗体およびAQUAペプチド試薬を含み、同等の結合剤は本発明の範囲内に含まれる。
いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリペプチドと特異的に結合する結合剤は抗体(すなわち、FIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体)である。いくつかの実施形態において、本発明のFIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体は、本発明のFIG−ROS融合ポリペプチド(例えば、FIG−ROS(L)、FIG−ROS(XL)またはFIG−ROS(S))と特異的に結合するが、野生型FIGもしくは野生型ROSのいずれかと実質的に結合しない、単離された(1つもしくは複数の)抗体である。野生型ROSタンパク質配列の細胞外またはキナーゼドメイン(このドメインは本明細書で開示する切断型ROSキナーゼ中に存在しない)中のエピトープと特異的に結合し、したがって試料中の野生型ROSの存在(または非存在)を検出できるエピトープ特異的抗体などの他の試薬も、本発明の方法の実施に有用である。
ヒトFIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体はまた、他の哺乳動物種、たとえばネズミまたはウサギにおける高度にホモローガスで同等なエピトープペプチド配列とも結合することができ、逆も同様である。本発明の方法の実施に有用な抗体としては、(a)モノクローナル抗体、(b)標的ポリペプチド(例えば、FIG−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクション)と特異的に結合する精製されたポリクローナル抗体、(c)他のヒト以外の種(例えば、マウス、ラット)における同等および高度にホモローガスなエピトープまたはリン酸化反応部位と結合する前記(a)〜(b)において記載する抗体、ならびに(d)本明細書で開示する例示的な抗体により結合される抗体(またはさらに好ましくはエピトープ)と結合する前記(a)〜(c)のフラグメントが挙げられる。
「抗体(antibody)」もしくは「抗体(antibodies)」という用語は、IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEをはじめとするあらゆる種類の免疫グロブリン(それらのフラグメント(すなわち、Fab、およびF(ab’)2フラグメントなどの抗体の標的分子と特異的に結合することができる抗体のフラグメント)を包含する)、ならびに組換え、ヒト化、ポリクローナル、およびモノクローナル抗体および/またはそれらの結合フラグメントを意味する。本発明の抗体は、任意の動物種、たとえば哺乳動物から誘導することができる。非限定的典型的な自然抗体としては、ヒト、ニワトリ、ヤギ、および齧歯類(例えば、ラット、マウス、ハムスターおよびウサギ(ヒト抗体を産生するように遺伝子操作されたトランスジェニック齧歯類を包含する))から誘導される抗体が挙げられる(たとえば、その全体として参照することにより本明細書に組み込まれる、Lonbergら、WO93/12227;米国特許第5,545,806号;およびKucherlapatiら、WO91/10741;米国特許第6,150,584号を参照)。本発明の抗体はキメラ抗体であってもよい。たとえば、M. Walker et al., Molec. Immunol. 26:403−11(1989);Morrision et al, Proc. Natl. Acad. Sci. 81:6851(1984);Neuberger et al., Nature 312:604(1984))を参照。抗体は、米国特許第4,474,893号(Reading)または米国特許第4,816,567(Cabillyら)で開示された方法に従って産生された組換えモノクローナル抗体であってもよい。抗体は、米国特許第4,676,980号(Segelら)で開示された方法に従って作製された化学的に構築された特異的抗体であってもよい。
自然抗体は宿主動物によって産生される抗体であるが、本発明は、そのアミノ酸配列が自然抗体のアミノ酸配列から変化している遺伝子改変抗体も想定する。本出願に対する組換えDNA技術の適合性から、自然抗体に見られるアミノ酸の配列に限定する必要はなく、望ましい特性を得るために抗体を再設計することができる。可能な変形態様は多数あり、ただ1つのまたは少数のアミノ酸を変更することから、例えば可変領域または定常領域の、完全な再設計まで広範囲に及ぶ。定常領域における変更は、一般に、補体結合、膜との相互作用、および他のエフェクター機能のような特性を改善または改変させるためになされるであろう。可変領域における変更は、抗原結合特性を改善するためになされるであろう。「ヒト化抗体」という用語は、本明細書中で用いられるように、本来の結合能力を依然として維持したまま、より厳密にヒト抗体に類似させるために、非抗原結合領域中でアミノ酸を置換した抗体分子のことをいう。特に想定される他の抗体は、オリゴクローナル抗体である。本明細書中で用いられるように、「オリゴクローナル抗体」という表現は、異なるモノクローナル抗体の所定の混合物のことをいう。例えば、PCT公開WO第95/20401号;米国特許第5,789,208号および第6,335,163号を参照。一実施形態では、1以上のエピトープに対する抗体の所定の混合物からなるオリゴクローナル抗体は、単一の細胞内で産生される。他の実施形態では、オリゴクローナル抗体は、複数の特異性を有する抗体を産生するために、一般的な軽鎖と対形成できる複数の重鎖を含む(例えば、PCT公開WO第04/009618号)。オリゴクローナル抗体は、単一の標的分子上の複数のエピトープを標的とすることが望まれる場合に特に有用である。本明細書に開示のアッセイおよびエピトープに鑑みて、当業者は、意図する目的および所望の必要性のために適用可能な抗体または抗体の混合物を作製または選択することができる。
組換え抗体も本発明に含まれる。これらの組換え抗体は、自然抗体と同じアミノ酸配列を有するか、または自然抗体のアミノ酸配列が変更されている。これらは、原核生物および真核生物の両方の発現系を含む任意の発現系において、またはファージディスプレイ法を用いて作製することができる(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Dowerら、WO91/17271、およびMcCaffertyら、WO92/01047;米国特許第5,969,108号を参照)。抗体を、多数の方法によって改変することができる。これらは、単鎖抗体(小モジュール免疫薬剤、すなわちSMIP(商標)を含む)、Fabフラグメント、およびF(ab’)2フラグメントなどとして作製することができる。抗体を、ヒト化、キメラ化、脱免疫化する、あるいは、完全なヒト抗体とすることができる。多数の刊行物に、多種類の抗体およびそのような抗体の操作方法が記載されている。例えば、米国特許第6,355,245号;第6,180,370号;第5,693,762号;第6,407,213号;第6,548,640号;第5,565,332号;第5,225,539号;第6,103,889号;および第5,260,203号を参照。本発明の遺伝子改変抗体は、前記の自然抗体と機能的に同等であるべきである。ある実施形態において、本発明の修飾抗体は、改善された安定性または/および治療有効性をもたらす。修飾抗体の非限定的例には、アミノ酸残基の保存的置換、および抗原結合の有用性をそれほど悪化させることのない1以上のアミノ酸の欠失または付加を有するものが含まれる。置換は、その治療的な有用性が維持される限り、1以上のアミノ酸残基を変更または修飾することから領域を完全に再設計することまでに及んでもよい。本発明の抗体を、翻訳後に修飾(例えば、アセチル化、および/またはリン酸化)することができるか、あるいは合成的に修飾(例えば、標識基の結合)することができる。操作された、または変異定常領域またはFc領域を有する抗体は、例えば抗原依存性細胞傷害作用(ADCC)および補体依存性細胞傷害作用(CDC)などの、エフェクター機能を調節するのに有用であり得る。操作された、または変異定常領域またはFc領域を有するそのような抗体は、親シグナル伝達タンパク質(表1)が正常組織内で発現される場合に有用であり得る;これらの場合、エフェクター機能のない変異抗体は、正常組織を損傷せずに所望の治療反応を誘発できる。したがって、本開示のある態様および方法は、1以上のアミノ酸の置換、挿入、および/または欠失を含む、エフェクター機能が変化している抗体に関する。「生物学的に活性な」という用語は、天然に存在する分子の構造的、調節的、または生化学的な機能を有するタンパク質のことをいう。同様に、「免疫学的に活性な」とは、自然、組換え、もしくは合成FIG−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSポリペプチド、あるいはこれらの任意のオリゴペプチドが、適切な動物内または細胞内で特異的免疫応答を誘導できること、および特異的抗体と結合できることをいう。
また、単鎖抗体、ラクダ科動物抗体など、および重鎖または軽鎖を含むその抗体の成分を含む、4鎖より少ない抗体分子も本発明の範囲内に含まれる。いくつかの実施形態において、免疫グロブリン鎖は、5’側から3’側の順序で可変領域および定常領域を含んでもよい。この可変領域は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4の構造をとるために、分散型のフレームワーク(FR)領域と共に、3つの相補性決定領域(CDR)を含んでもよい。また、重鎖または軽鎖可変領域、フレームワーク領域、およびCDRも本発明の範囲内に含まれる。本発明の抗体は、CH1領域、ヒンジ領域、CH2領域、およびCH3領域の一部もしくは全部を含む重鎖定常領域を含んでもよい。
本発明のFIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体の1つの非限定的エピトープ部位は、ヒトFIG−ROS融合ポリペプチド配列の約11〜17アミノ酸から本質的になるペプチドフラグメントであり、このフラグメントは、分子のFIG部分と分子のROS部分との間に融合ジャンクションを含む。FIG−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクションを含む、より短いかまたはより長いペプチド/エピトープを特異的に結合する抗体は本発明の範囲内に含まれることが理解されるであろう。
本発明は、抗体の使用に限定されるわけではなく、タンパク質結合ドメインまたは核酸アプタマーなどの、融合タンパク質または切断型タンパク質に特異的な方法で、本発明の方法において有用なFIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体またはROS切断点エピトープ特異的抗体が結合するエピトープと本質的に同じエピトープに結合する同等の分子が含まれる。例えば、Neubergerら、Nature 312:604(1984)を参照。このような同等の非抗体試薬は、後で詳述する本発明の方法において好適に用いることもできる。
本発明の方法の実施において有用なポリクローナル抗体は、既知の方法に従って、好適な動物(例えば、ウサギ、ヤギなど)を、所望の融合タンパク質に特異的なエピトープ(たとえば、FIG−ROS融合ポリペプチドにおけるFIGとROSとの間の融合ジャンクション)を含む抗原で免疫化し、その動物から免疫血清を集め、その免疫血清からポリクローナル抗体を分離し、所望の特異性を有するポリクローナル抗体を精製することによって、標準的な技術に従って産生することができる。この抗原は、周知の技術にしたがって選択および構築された、所望のエピトープ配列を含む合成ペプチド抗原であってもよい。例えば、ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL, Chapter 5, p.75−76, HarlowおよびLane Eds, Cold Spring Harbor Laboratory(1988);Czernik, Methods In Enzymology, 201:264−283(1991);Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85:21−49(1962))を参照。本明細書に記載のように産生したポリクローナル抗体を、後で詳述するように、スクリーニングおよび単離することができる。
モノクローナル抗体も、本発明の方法において有益に用いることができ、KohlerおよびMilsteinの周知の技術に従ってハイブリドーマ細胞系において産生することができる。Nature 265:495−97(1975);Kohler and Milstein、Eur.J. Immunol. 6:511(1976);また、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、Ausubel et el. Eds.(1989)も参照。このようにして産生されたモノクローナル抗体はきわめて特異的であり、本発明によって提供されるアッセイ方法の選択性および特異性を改善する。例えば、適切な抗原(たとえば、FIG−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクションを含む合成ペプチド)を含む溶液を、マウスに注射することができ、(従来の技術に合わせて)十分な時間の後に、そのマウスを屠殺して脾細胞を得る。次いで、この脾細胞を、典型的にはポリエチレングリコール存在下で、骨髄腫細胞と融合させることによって不死化して、ハイブリドーマ細胞を産生する。ウサギ融合ハイブリドーマは、例えば米国特許第5,675,063号に記載のように産生することができる。次いで、このハイブリドーマ細胞を、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)などの好適な選択培地中で成長させ、後述するように、所望の特異性を有するモノクローナル抗体についてその上清をスクリーニングした。分泌された抗体を、沈澱、イオン交換、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来法によって組織培養液上清から回収することができる。
モノクローナルFabフラグメントは、当業者に知られている組換え技術によって、大腸菌(Escherichia coli)中で産生することもできる。例えば、W. Huse、Science 246:1275−81(1989);Mullinax et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. 87:8095(1990)を参照。1つのアイソタイプのモノクローナル抗体が特定用途に好ましい場合には、特定のアイソタイプを、最初の融合から選択することによって直接調製することができるか、またはクラススイッチ変異体を単離するためのシブセレクション技術を用いることによって、種々のアイソタイプのモノクローナル抗体を分泌している親ハイブリドーマから二次的に調製することができる(Steplewski et al., Proc. Nat’l. Acad. Sci., 82:8653(1985);Spira et al., J. Immunol. Methods, 74:307(1984))。このモノクローナル抗体の抗原結合部位をPCRによってクローニングすることができ、単鎖抗体をファージディスプレイ組換え抗体または可溶性抗体として大腸菌中で産生させることができる(例えば、ANTIBODY ENGINEERING PROTOCOLS, 1995, Humana Press、Sudhir Paul editorを参照)。
さらに、米国特許第5,194,392号、Geysen(1990)には、目的とする抗体の特定のパラトープ(抗原結合部位)に相補的なエピトープとトポロジー的に同等なもの(すなわち、「ミモトープ」)であるモノマー(アミノ酸または他の化合物)の配列を検出または決定する一般的な方法が記載されている。さらに一般的には、この方法には、目的とする特定の受容体のリガンド結合部位に相補的なリガンドのトポグラフィー的な同等物であるモノマーの配列を検出または決定することが含まれる。同様に、米国特許第5,480,971号、Houghtenら、(1996)は、直鎖状C1〜C−アルキルペルアルキル化オリゴペプチドならびにこのようなペプチドのセットおよびライブラリ、ならびに目的とするアクセプター分子に選択的に結合するペルアルキル化オリゴペプチドの配列を決定するためにこのようなオリゴペプチドのセットおよびライブラリを使用する方法を開示している。したがって、本発明のエピトープを含むペプチドの非ペプチド類似体も、これらの方法によって通常どおりに作製することができる。
本発明の方法において有用な抗体を、ポリクローナルまたはモノクローナルにかかわらず、標準的な技術に従って、エピトープおよび融合タンパク質の特異性についてスクリーニングすることができる。例えば、Czernikら、Methods in Enzymology, 201:264−283(1991)を参照。例えば、所望の抗原に対する特異性および、必要に応じて、野生型FIGまたは野生型ROSとではなく本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドのみとの反応特異性の両方を確実にするために、ELISAによってペプチドライブラリに対してこの抗体をスクリーニングすることができる。標的タンパク質を含む細胞調製物に対するウェスタンブロッティングによって、この抗体を試験し、所望の標的のみとの反応性を確認し、ROSを含む他の融合タンパク質とあまり結合をしないことを確認することができる。融合タンパク質特異的抗体の産生、スクリーニング、および使用は、当業者に知られており、記載されている。例えば、米国特許公開第20050214301号を参照。
本発明の方法において有用なFIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体は、他の融合タンパク質における類似した融合エピトープと、または融合ジャンクションを形成する野生型FIGおよびROSにおけるエピトープと多少の限られた交差反応性を示してもよい。大部分の抗体がある程度の交差反応性を示すので、これは予想外ではなく、抗ペプチド抗体は、多くの場合、免疫化ペプチドと高い相同性または同一性を有するエピトープと交差反応するであろう。例えば、Czernik(上記)を参照。他の融合タンパク質との交差反応性は、既知の分子量のマーカーと並べたウェスタンブロットによって容易に特徴づけられる。交差反応するタンパク質のアミノ酸配列を調べて、抗体が結合するFIG−ROS融合ポリペプチド配列と相同性または同一性が高い部位を特定することができる。望ましくない交差反応性は、ペプチドカラム上の抗体精製を用いるネガティブ選択(例えば、野生型FIGおよび/または野生型ROSのいずれかを結合する抗体を選別すること)によって除去できる。
本明細書中に開示の方法を実施するのに有用な本発明のFIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体は、理想的にはヒトの融合ポリペプチドに特異的であることが理想的であるが、本質的には、ヒト種のみを結合することに限定されない。本発明には、他の哺乳動物種(例えば、マウス、ラット、サル)における保存された相同性の高いまたは同一のエピトープにも結合する抗体の産生および使用が含まれる。他の種における高相同性または同一の配列は、本明細書中で開示されるヒトFIG−ROS融合ポリペプチド配列(配列番号1)との標準的な配列比較(例えばBLASTを用いる配列比較)によって容易に特定できる。
本発明の方法において用いる抗体を、特定のアッセイ様式、例えばFC、IHCおよび/またはICCにおいて用いることによってさらに特徴づけ、特定のアッセイ様式、例えばFC、IHCおよび/またはICCにおいて用いることの妥当性について検証することもできる。このような方法におけるFIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体の使用については、本明細書でさらに記載する。以下でさらに記載するように、本明細書で記載する、単独または後述のアッセイにおいて使用する抗体を、他のシグナル伝達(ホスホAKT、ホスホErk1/2)および/または細胞マーカー(サイトケラチン)抗体と共にマルチパラメータ分析で使用するために、蛍光色素(例えば、Alexa488、フィコエリトリン)、または量子ドットなどの標識と有利に結合させることもできる。
本発明の方法の実施において、所定の生体試料中の野生型FIGおよび/または野生型ROSの発現および/または活性は、有利には、これらの野生型タンパク質の抗体(ホスホ特異的抗体または全抗体のいずれか)を用いて調べることもできる。たとえば、CSF受容体リン酸化部位特異的抗体は市販されている(CELL SIGNALING TECHNOLOGY, INC.(マサチューセッツ州ダンバース)、2005/06カタログ番号3151、3155、および3154;ならびにUpstate Biotechnology、2006年カタログ番号06−457を参照)。このような抗体も、前述のような標準的方法にしたがって産生することができる。ヒトFIGおよびROS両方のアミノ酸配列は、他の種由来のこれらのタンパク質配列と同様に公開されている。
生体試料(例えば腫瘍試料)において、FIG−ROS融合ポリペプチドの発現とともに、野生型FIGおよび野生型ROSの発現および/または活性化を検出することによって、この融合タンパク質が単独で腫瘍を引き起こしているのかどうか、または野生型ROSも活性化されて腫瘍を引き起こしているのかどうかについての情報を得ることができる。このような情報は、この融合タンパク質もしくは野生型タンパク質、またはその両方を標的とするかどうかを評価する際に臨床的に有用であるか、あるいは腫瘍の進行の抑制、および適切な治療薬またはその組合せの選択に最も有益である可能性が高い。本明細書中で開示される切断型ROSキナーゼ中に存在しない野生型ROSキナーゼ細胞外ドメインに特異的な抗体は、変異ROSキナーゼの有無を決定するために特に有用となり得る。
前記の方法の実施において2以上の抗体を使用してもよいと解釈される。例えば、1以上のFIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体を、FIG−ROS融合ポリペプチドが発現している癌において活性化されていることが疑われるかもしくはその可能性がある、別のキナーゼ、受容体、またはキナーゼ基質に特異的な1以上の抗体と共に、そのような癌由来の細胞を含む生体試料中のそのような他のシグナル伝達分子の活性を検出するために、同時に用いることもできる。
当業者は、前記の本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドおよびそれらのエピトープ含有フラグメントを他の分子の部分と結合させて、キメラポリペプチドを形成できることを理解するであろう。たとえば、FIG−ROS融合ポリペプチドのエピトープ含有フラグメントを免疫グロブリン(IgG)の定常ドメインと結合させて、キメラポリペプチドの精製を容易にし、かつキメラポリペプチドのインビボ半減期を増加させることができる(たとえば、EPA394,827におけるCD4−Igキメラタンパク質の例;Traunecker et al., Nature 331:84−86(1988)を参照)。また、ジスルフィド結合した二量体構造(IgG部分由来)を有する融合タンパク質も、他の分子を結合および中和する際に、モノマーFIG−ROS融合ポリペプチド単独よりも有効であり得る(Fountoulakis et al., J Biochem 270:3958−3964(1995)を参照)。
いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリペプチドと特異的に結合する結合剤は、重同位体標識ペプチド(すなわち、AQUAペプチド)である。このようなAQUAペプチドは、生体試料における発現されたFIG−ROS融合ポリペプチドの絶対的定量化に好適であり得る。本明細書で用いられる場合、「重同位体標識ペプチド」という用語は、「AQUAペプチド」と交換可能に用いられる。複雑な混合物中のタンパク質(AQUA)の絶対的定量化または検出のためのAQUAペプチドの産生および使用は記載されている。WO/03016861, “Absolute Quantification of Proteins and Modified Forms Thereof by Multistage Mass Spectrometry,” Gygi et al.およびGerber et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 100:6940−5(2003)(これらの教示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照。このようなAQUAペプチドに関して、「特異的に検出する」という用語は、このペプチドがAQUAペプチド配列を含むポリペプチドおよびタンパク質のみを検出および定量化し、AQUAペプチド配列を含まないポリペプチドおよびタンパク質を実質上検出しないであろうことを意味する。
AQUA法は、ペプチド標準との比較によって、生体試料中の同じ配列およびタンパク質修飾を有するペプチドの絶対量を決定するために、(LC−SRMクロマトグラフィーによって検出可能な固有のサインを有する)既知量の少なくとも1つの重同位体標識ペプチド標準を、消化された生体試料中に導入することを採用する。手短に言うと、AQUA法には、以下の2段階:ペプチド内部標準の選択および検証、ならびに方法開発;ならびに検証したペプチド内部標準を用いた試料中の標的タンパク質の検出および定量化の実施がある。この方法は、細胞溶解物などの複雑な生物学的混合物内の所定のペプチド/タンパク質を検出および定量化するための強力な技術であり、例えば、薬剤治療の結果としてのタンパク質リン酸化の変化を定量化するために、または種々の生物学的状態におけるタンパク質のレベルの差異を定量化するために用いることができる。
一般的には、好適な内部標準を開発するために、標的タンパク質配列内の特定のペプチド(または、修飾ペプチド)を、そのアミノ酸配列および消化するために用いる特定のプロテアーゼに基づいて選択する。次いで、固相ペプチド合成によって、1つの残基が安定な同位体(13C、15N)を含む同じ残基で置換されるようにペプチドを生成させる。結果として、タンパク質分解によって形成される天然のカウンターパートと化学的に同一のペプチドが得られるが、これは、MSにより7Daの質量シフトによって容易に識別可能である。次いで、この新たに合成されたAQUA内部標準ペプチドをLC−MS/MSによって評価する。このプロセスは、逆相クロマトグラフィーによるペプチド保持、イオン化効率、および衝突誘起解離を介したフラグメンテーションに関する定性的な情報を提供する。天然ペプチドおよび内部標準ペプチドのセットの有益かつ豊富なフラグメントイオンを選択し、次いで、ペプチド標準の固有のプロファイルに基づいて、選択反応モニタリング(LC−SRM)法を形成するために、クロマトグラフィーによる保持の関数として、高速で連続して特異的にモニタリングする。
AQUA法の第2段階は、複雑な混合物からのタンパク質または修飾タンパク質の量を測定するためのその実施である。全細胞溶解物を、典型的には、SDS−PAGEゲル電気泳動によって分別して、タンパク質の移動と一致するゲルの領域を切り出す。このプロセスの後に、AQUAペプチドの存在下でのインゲルタンパク質分解およびLC−SRM分析を行う(Gerberら、上記を参照)。タンパク質分解酵素での全細胞溶解物の消化によって得られる複雑なペプチド混合物中にAQUAペプチドをスパイクして、前記のようなイムノアフィニティー精製に付す。消化(例えば、トリプシン処理)によって形成される天然ペプチドの保持時間およびフラグメンテーションパターンは、事前に測定されたAQUA内部標準ペプチドのものと同じであり;したがって、SRM実験を用いたLC−MS/MS分析の結果、きわめて複雑なペプチド混合物から直接に内部標準および分析物がきわめて特異的かつ高感度に測定される。
絶対量のAQUAペプチド(例えば、250fmol)を添加するので、曲線下面積の比率を用いて、もとの細胞溶解物中のタンパク質またはタンパク質のリン酸化形態の正確な発現レベルを測定することができる。加えて、天然ペプチドが形成されるインゲル消化中に、ゲル断片からのペプチド抽出効率、(真空遠心分離を含む)試料取扱い中の絶対的な損失、およびLC−MSシステム中に導入する間の可変性が、測定される天然ペプチドおよびAQUAペプチドの存在比に影響を及ぼさないように、内部標準を入れておく。
IAP−LC−MS/MS法によって事前に同定された標的タンパク質内の既知配列に対してAQUAペプチド標準を作製する。この部位が修飾される場合には、部位内の特定の残基の修飾形態を組み入れた1つのAQUAペプチドを作製することができ、この残基の非修飾形態を組み入れた第2のAQUAペプチドを作製することができる。このように、2つの標準を用いて、生体試料中のその部位の修飾形態および非修飾形態の両方を検出および定量化することができる。
タンパク質の一次アミノ酸配列を調査し、プロテアーゼ切断によって生じるペプチドの境界を決定することによって、ペプチド内部標準を生成させることもできる。あるいは、タンパク質を実際にプロテアーゼで消化してもよく、次いで、生成された特定のペプチドフラグメントの配列を決定することができる。好適なプロテアーゼには、セリンプロテアーゼ(例えば、トリプシン、ヘプシン)、メタロプロテアーゼ(例えば、PUMP1)、キモトリプシン、カテプシン、ペプシン、サーモリシン、カルボキシペプチダーゼなどが含まれるが、これらに限定されない。
標的タンパク質内のペプチド配列は、内部標準としてのペプチドの使用を最適化するために、1以上の基準に従って選択される。好ましくは、このペプチド配列が標的以外の他のタンパク質の他の部分で反復している可能性を最小限にするように、ペプチドのサイズを選択する。したがって、ペプチドは好ましくは少なくとも約6アミノ酸である。イオン化の頻度を最大限にするように、ペプチドのサイズも最適化する。したがって、いくつかの実施形態では、ペプチドは約20アミノ酸より長くない。いくつかの実施形態では、ペプチドは約7〜15アミノ酸の長さである。質量分析中に化学的に反応性となりにくいペプチド配列も選択されるので、システイン、トリプトファン、またはメチオニンを含有する配列が避けられる。
標的領域の修飾領域を含まないペプチド配列を選択してもよく、それによって、このペプチド内部標準を用いて、すべての形態のタンパク質の量を測定できるようになる。あるいは、修飾形態の標的タンパク質のみを検出し、定量化するために、修飾アミノ酸を含むペプチド内部標準が望ましい場合もある。修飾領域および非修飾領域の両方に対するペプチド標準を共に用いて、特定の試料中の修飾の程度を測定すること(すなわち、タンパク質の総量のうちのどのくらいの割合が修飾形態であるかを測定すること)ができる。例えば、特定の部位でリン酸化されることが知られているタンパク質のリン酸化形態および非リン酸化形態の両方に対するペプチド標準を用いて、試料中のリン酸化形態の量を定量化することができる。
1以上の標識されたアミノ酸を使用してペプチドを標識する(すなわち、標識はペプチドの実際の一部である)か、または、あまり好ましくないが、標準的な方法に従って合成後に標識を結合させることもできる。好ましくは、標識は、以下の検討事項に基づいて選択される、質量を変える標識である:質量は、MS分析によって低バックグラウンドでスペクトルの領域に生じるシフトフラグメントの質量に固有であるべきである;イオン質量サイン成分は、好ましくはMS分析において固有のイオン質量サインを示す標識部分の一部である;標識の構成原子の質量の合計は、好ましくはすべての可能なアミノ酸のフラグメントとは独自に異なる。結果として、標識されたアミノ酸およびペプチドは、結果として得られる質量スペクトルにおけるイオン/質量のパターンによって、非標識のものから容易に区別される。好ましくは、イオン質量サイン成分は、20の天然アミノ酸のうちのどの残基の質量とも一致しない質量をタンパク質フラグメントに与える。
該標識は、MSのフラグメンテーション条件下で頑強でなければならず、望ましくないフラグメンテーションを受けてはならない。標識化学反応は、さまざまな条件下、特に変性条件下で効率的であるべきであり、標識されたタグは、好ましくは最適なMS緩衝液系中で可溶性のままである。該標識は、タンパク質のイオン化効率を抑制せず、かつ化学的に反応性でない。各標識フラグメントの位置で固有の質量分光パターンを生じさせるために、該標識は、2以上の同位体的に異なる種の混合物が含んでもよい。安定な同位体、例えば、2H、13C、15N、17O、18O、または34Sが、いくつかの非限定的標識例である。異なる同位体標識を組み入れたペプチド内部標準の対を調製することもできる。重同位体標識が組み入れられ得る非限定的アミノ酸残基としては、ロイシン、プロリン、バリン、およびフェニルアラニンが含まれる。
ペプチド内部標準は、それらの質量電荷(m/z)比によって特徴づけられ、好ましくはクロマトグラフカラム(例えば、HPLCカラム)上でのそれらの保持時間によっても特徴づけられる。同一配列の非標識ペプチドと共溶出する内部標準を、最適な内部標準として選択する。次いで、任意の好適な手段、例えばアルゴンまたはヘリウムを衝突ガスとして用いる衝突誘起解離(CID)などによりペプチドをフラクメンテーションすることによって、内部標準を分析する。ペプチドフラグメンテーションサインを得るために、フラグメントイオンスペクトルを得るための多段階質量分析法(MSn)によって、このフラグメントを分析する。好ましくは、各フラグメントに対応するピークが十分に分離されることが可能になるように、ペプチドフラグメントはm/z比において有意な差を有し、標的ペプチドに固有のサインが得られる。最初の段階で好適なフラグメントサインが得られない場合には、固有のサインが得られるまでMSの追加の段階を行う。
MS/MSおよびMS3のスペクトル中のフラグメントイオンは、典型的には、目的とするペプチドにきわめて特異的であり、さらに、LC法と併せて、何千または何万ものタンパク質を含む細胞溶解物のような複雑なタンパク質混合物中の標的ペプチド/タンパク質を検出および定量化する高度に選択的な方法を可能にする。目的とする標的タンパク質/ペプチドを含んでいる可能性のある任意の生体試料をアッセイすることができる。粗製の細胞抽出物または部分的に精製された細胞抽出物が好ましく用いられる。一般的には、試料は、少なくとも0.01mgのタンパク質を含有し、典型的には0.1〜10mg/mLの濃度であって、これを所望の緩衝液濃度およびpHに調整することができる。
次いで、検出/定量化される標的タンパク質に対応する既知量の標識されたペプチド内部標準、好ましくは約10フェントモルを、細胞溶解物などの生体試料に添加する。次いで、スパイクされた試料を、1以上のプロテアーゼで、消化させるために好適な時間消化させる。次いで、(例えば、HPLC、逆相HPLC、キャピラリー電気泳動、イオン交換クロマトグラフィーなどによって)分離を行い、標識された内部標準およびその対応する標的ペプチドを、試料中の他のペプチドから単離する。ミクロキャピラリーLCは、1つの非限定的方法である。
次いで、単離したそれぞれのペプチドを、MSにおいて、選択された反応のモニタリングによって調べる。これには、このペプチド内部標準の特性化によって得られる従来の知識を用い、次いで、目的とするペプチドおよび内部標準の両方に対するMS/MSスペクトルまたはMSnスペクトル中の特定のイオンを、継続してMSでモニタリングすることが含まれる。溶出後、ペプチド標準および標的ペプチドの両方のピークの曲線下面積(AUC)を計算する。この2つの面積の比から、分析に用いた細胞数およびタンパク質の分子量を標準化できる絶対的な定量化ができ、細胞あたりのタンパク質の正確なコピー数が得られる。このAQUA法についてのさらなる詳細は、Gygiら、およびGerberら(上記)に記載されている。
本発明の変異ROSポリペプチド内の任意の固有部位(例えば、FIG−ROS融合ポリペプチド内の融合ジャンクション)を検出および定量化するために、AQUA内部ペプチド標準(重同位体標識ペプチド)を、望ましくは前記のように産生することができる。例えば、FIG−ROS融合ポリペプチドペプチドの融合ジャンクション配列に対応するAQUAホスホペプチドを調製することもできる。FIG−ROS融合ジャンクションに関してペプチド標準を作製して、生体試料中の融合ジャンクション(すなわち、FIG−ROS融合ポリペプチドの存在)を検出および定量化するために、そのような標準をAQUA法において用いることができる。
例えば、本発明の例示的なAQUAペプチドはアミノ酸配列AGSTLPを含有し、これは、FIG−ROS融合ポリペプチドの第2の(短い)変異体(すなわち、FIG−ROS(S)融合ポリペプチド)における融合ジャンクションの各側のすぐ隣に位置する3つのアミノ酸に対応する。融合ジャンクション配列(およびその下流または上流の追加的な残基)を含むより大きなAQUAペプチドも構築できることは理解されるであろう。同様に、そのような配列の全残基より少ないもの含む(しかし、融合ジャンクション地点自体はまだ含んでいる)、より小さいAQUAペプチドを代わりに構築することもできる。このようなより大きなAQUAペプチドまたはより短いAQUAペプチドは本発明の範囲内に含まれ、AQUAペプチドの選択および産生を前記のように行うことができる(Gygiら、Gerberら(上記)を参照)。
別の態様において、本発明はFIG−ROS遺伝子転座を検出するための方法を提供し、この方法は、生体試料を、FIG−ROS融合ポリペプチド(例えば、FIG−ROS(S)、FIG−ROS(XL)またはFIG−ROS(L)融合ポリペプチド)と特異的に結合する結合剤と接触させることを含み、この場合、生体試料に対する結合剤の特異的結合は、前記生体試料におけるFIG−ROS遺伝子転座(例えば、FIG−ROS(S)、FIG−ROS(XL)またはFIG−ROS(L)融合ポリペプチドをコード化するもの)の存在を示す。
さらなる態様において、本発明は、生体試料を、ストリンジェントな条件下でFIG−ROS融合ポリヌクレオチドとハイブリダイズするヌクレオチドプローブと接触させることによって、FIG−ROS遺伝子転座を検出する方法を提供し、この場合、前記ヌクレオチドプローブの前記生体試料に対するハイブリダイゼーションは、前記生体試料におけるFIG−ROS遺伝子転座(例えば、FIG−ROS(S)、FIG−ROS(XL)、またはFIG−ROS(L)融合ポリペプチドをコード化するもの)を示す。
別の態様において、本発明は、ROS阻害剤に対して反応する可能性がある癌を特定するための方法を提供する。この方法は、少なくとも1つのポリペプチドを含む前記癌の生体試料を、FIG−ROS融合ポリペプチド(例えば、FIG−ROS(S)、FIG−ROS(XL)、もしくはFIG−ROS(L)融合ポリペプチド)または変異ROSポリペプチドのいずれかと特異的に結合する結合剤と接触させることを含み、この場合、前記結合剤の、前記生体試料中の少なくとも1つのポリペプチドに対する特異的結合は、ROS阻害剤に対して反応する可能性がある癌として前記癌を特定する。いくつかの実施形態において、結合剤は抗体またはAQUAペプチドである。いくつかの実施形態において、癌は患者(たとえば癌患者)由来である。さらなる実施形態において、癌は、肝臓癌、膵臓癌、腎臓癌、精巣癌であってもよいし、または腺管癌(例えば、胆管癌もしくは膵管癌)であってもよい。
本明細書で用いられる場合、「反応する可能性がある」とは、癌が、(例えば、ROS阻害剤と接触してまたはROS阻害剤による治療により)ROS阻害剤に反応して成長の遅延または抑止を示す可能性が高いことを意味する。いくつかの実施形態において、ROS阻害剤に反応する可能性がある癌は、ROS阻害剤に反応して死ぬ(例えば、癌細胞アポトーシス)ものである。
本明細書で記載するように、ある正常な細胞(例えば、肝臓細胞)はROSキナーゼを発現せず(またはROSキナーゼ活性を示さず)、一方、その細胞型の癌性細胞は発現する。これは、たとえば、癌性細胞が切断型ROSポリペプチドまたはROS融合タンパク質(例えば、FIG−ROS融合ポリペプチド)を発現するためであり得る。癌性細胞は、単に野生型完全長ROSキナーゼを過剰発現するだけでもあり得る(この場合、「過剰発現」とは、単に、癌性細胞が同じ細胞型の非癌性細胞よりも多くのROSキナーゼを発現することを意味する)。前述のように、ROSのこのような過剰発現は、「変異ROS」という用語に含まれる。たとえば、後述するように、正常な肝臓細胞はROSキナーゼを発現せず(そしてROSキナーゼ活性を示さず)、一方、癌性肝臓細胞は発現する。したがって、本発明のいくつかの実施形態において、ROSを正常に発現しない(またはROSキナーゼ活性を示さない)細胞型におけるROSキナーゼの存在の同定(またはROSキナーゼ活性の存在の同定)は、このようにして同定された細胞がROS阻害剤に対して反応する可能性がある癌であることの指標である。ROSキナーゼ(またはROSキナーゼ活性)の存在の同定に続いて、この細胞内のROSキナーゼのさらなる分析(例えば、細胞中のタンパク質と、変異ROSポリペプチドと特異的に結合する結合剤との結合または細胞由来の核酸分子と、変異ROSポリヌクレオチドとハイブリダイズするプローブとのハイブリダイゼーション)を行ってもよい。
さらに別の態様において、本発明は、ROS阻害剤に対して反応する可能性がある癌を特定するための別の方法を提供する。この方法は、少なくとも1つの核酸分子を含む前記癌の生体試料を、ストリンジェントな条件下でFIG−ROS融合ポリヌクレオチド(例えば、FIG−ROS(S)、FIG−ROS(XL)、もしくはFIG−ROS(L)融合ポリヌクレオチド)または変異ROSポリヌクレオチドのいずれかとハイブリダイズするヌクレオチドプローブと接触させることを含み、この場合、前記ヌクレオチドプローブの、前記生体試料中の少なくとも1つの核酸分子に対するハイブリダイゼーションは、前記癌をROS阻害剤に対して反応する可能性がある癌として特定する。いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドはFIG−ROS(S)融合ポリペプチドをコード化する。いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドはFIG−ROS(L)融合ポリペプチドをコード化する。いくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドはFIG−ROS(XL)融合ポリペプチドをコード化する。いくつかの実施形態において、癌は患者(たとえば癌患者)由来である。さらなる実施形態において、癌は、肝臓癌、膵臓癌、腎臓癌、精巣癌であってもよいし、または腺管癌(例えば、胆管癌もしくは膵管癌)であってもよい。
本発明の方法を、当業者に公知の多様な種々のアッセイ形態で行うこともできる。いくつかの非限定的例方法としては、イムノアッセイならびにペプチドおよびヌクレオチドアッセイが挙げられる。
イムノアッセイ
本発明の方法の実施において有用なイムノアッセイは、ホモジニアスイムノアッセイまたはヘテロジニアスイムノアッセイであってもよい。ホモジニアスアッセイにおいて、この免疫学的反応は、通常、変異ROSポリペプチド特異的試薬(例えば、FIG−ROS融合ポリペプチド特異的抗体)、標識された分析物、および目的とする生体試料を含む。標識から生じるシグナルは、抗体が標識された分析物に結合することによって、直接的または間接的に修飾される。免疫学的な反応およびその程度の検出の両方は、ホモジニアス溶液中で行われる。用いることができる免疫化学標識には、フリーラジカル、放射性同位体、蛍光色素、酵素、バクテリオファージ、補酵素などが含まれる。半導体ナノ結晶標識、または「量子ドット」を有利に用いることもでき、これらの調製および使用については十分に記載されている。一般的には、K. Barovsky,Nanotech. Law & Bus. 1(2):Article 14(2004)およびこの中で引用される特許を参照。
ヘテロジニアスアッセイ法では、試薬は、通常、生体試料、変異ROSキナーゼポリペプチド特異的試薬(例えば、抗体)、および検出可能なシグナルを産生するための好適な手段である。さらに後述するような生体試料を用いることができる。該抗体を、一般的には、ビーズ、プレート、またはスライドなどの支持体上に固定して、液相中に抗原を含むと考えられる試料と接触させる。次いで、この支持体を液相から分離し、支持体相または液相のいずれかを、検出可能なシグナルについて、そのようなシグナルを生じる手段を用いて調べる。このシグナルは、生体試料中の分析物の存在と関連している。検出可能なシグナルを生じる手段には、放射標識、蛍光標識、酵素標識、量子ドットなどの使用が含まれる。例えば、検出すべき抗原が第2の結合部位を含む場合には、その部位と結合する抗体を検出可能な基に結合させて、分離ステップの前に液相反応溶液に添加することができる。固体支持体上の検出可能な基の存在は、この試験試料中に抗原が存在することを示す。好適なイムノアッセイの例には、ラジオイムノアッセイ、免疫蛍光、酵素結合イムノアッセイなどがある。
本明細書で開示される方法を実施するために有用であり得るイムノアッセイ様式およびそれらの変形態様は、当該技術分野で周知である。一般的には、E. Maggio, Enzyme−Immunoassay,(1980)(CRC Press, Inc., Boca Raton, Fla.)を参照;また、例えば、米国特許第4,727,022号(Skold et al.,“Methods for Modulating Ligand−Receptor Interactions and their Application”);米国特許第4,659,678号(Forrest et al.,「Immunoassay of Antigens」);米国特許第4,376,110号(David et al.,“Immunometric Assays Using Monoclonal Antibodies”)も参照。試薬−抗体複合体を形成するための好適な条件は、当業者に周知である。同上を参照。FIG−ROS融合ポリペプチド特異的モノクローナル抗体を、標識モノクローナル抗体および結合モノクローナル抗体の両方の供給源としての役割を果たす単一のハイブリドーマ細胞株を用いた、「ツーサイト(two−site)」アッセイまたは「サンドイッチ」アッセイにおいて用いることができる。このようなアッセイは、米国特許第4,376,110号に記載されている。検出可能な試薬の濃度は、バックグラウンドと比較してFIG−ROS融合ポリペプチドの結合が検出可能であるために十分でなければならない。
本明細書中に開示の方法の実施において有用な抗体を、沈降などの既知技術に従って、診断用アッセイに好適な固体支持体(例えば、ラテックスまたはポリスチレンなどの材料から形成されたビーズ、プレート、スライド、またはウェル)に結合させることができる。抗体または他のFIG−ROS融合ポリペプチド結合試薬を、既知の技術に従って、同様に、放射標識(例えば、35S、125I、131I)、酵素標識(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)、および蛍光標識(例えば、フルオレセイン)などの検出可能な基に結合させることもできる。
フローサイトメトリー(FC)、免疫組織化学(IHC)、または免疫蛍光(IF)などの細胞に基づくアッセイは、本発明の方法の実施において特に望ましい。なぜなら、このようなアッセイ様式は臨床上好適であって、インビボにおける変異ROSポリペプチド発現の検出を可能にし、抽出物を得るために、例えば腫瘍試料から得た細胞の処理によって活性が人為的に変化する危険性を回避するためである。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の方法を、フローサイトメトリー(FC)、免疫組織化学(IHC)、または免疫蛍光(IF)のアッセイ様式で実施する。
フローサイトメトリー(FC)を用いて、ROSキナーゼ活性の阻害を目標とした薬剤を用いた治療前、治療中、および治療後の哺乳動物の腫瘍における変異ROSポリペプチドの発現を測定することができる。例えば、細針吸引から得られた腫瘍細胞を、FIG−ROS融合ポリペプチドの発現および/または活性化について、ならびに、望ましい場合、癌細胞型などを同定するマーカーについて、フローサイトメトリーによって分析することができる。フローサイトメトリーは、標準的な方法に従って行うことができる。例えば、Chowら、Cytometry(Communications in Clnical Cytometry)46:72−78(2001)を参照。手短に言えば、例えば、サイトメトリー分析用の以下のプロトコルを用いることができる:2%パラホルムアルデヒドを用いて37℃で10分間細胞を固定した後、90%メタノール中、氷上でf0分間透過化させる。次いで、細胞を、FIG−ROS融合ポリペプチド特異的一次抗体で染色し、洗浄し、蛍光標識した二次抗体で標識してもよい。次いで、使用する装置の特定のプロトコルに従って、細胞をフローサイトメーター(例えば、Beckman Coulter FC500)で分析する。このような分析は、腫瘍における発現したFIG−ROS融合ポリペプチドのレベルを同定するであろう。ROS阻害治療薬を用いた腫瘍治療後の同様な分析により、ROSキナーゼの標的化阻害剤に対する、FIG−ROS融合ポリペプチドを発現している腫瘍の反応性が明らかになるであろう。
免疫組織化学(IHC)染色を用いて、ROSキナーゼ活性の阻害を目標とした薬剤を用いた治療前、治療中、および治療後の哺乳動物の癌(例えば、肝臓もしくは膵臓癌)における変異ROSキナーゼポリペプチドの発現および/または活性化の状態を測定することもできる。IHCは、周知の技術に従って行うことができる。例えば、ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL Chapter 10, Harlow & Lane Eds., Cold Spring Harbor Laboratory(1988)を参照。手短に言うと、例えば、キシレン、次いで、エタノールで組織切片を脱パラフィン化し;水中で水和し、次いで、PBS中で水和し;クエン酸ナトリウム緩衝液中でスライドを加熱することによって抗原をアンマスキングし;過酸化水素中で切片をインキュベートし;ブロッキング溶液中でブロッキングし;抗FIG−ROS融合ポリペプチド一次抗体中および二次抗体中でスライドをインキュベートし;最後に、製造業者の使用説明書に従って、ABCアビジン/ビオチン法を用いて検出することによって、パラフィン包埋組織(例えば、生検からの腫瘍組織)を免疫組織化学染色用に調製する。
免疫蛍光(IF)アッセイを用いて、ROSキナーゼ活性の阻害を目標とした薬剤を用いた治療前、治療中、および治療後の哺乳動物の癌におけるFIG−ROS融合ポリペプチドの発現および/または活性化の状態を測定することができる。IFは、周知の技術に従って行うことができる。例えば、J. M. polak and S. Van Noorden(1997)INTRODUCTION TO IMMUNOCYTOCHEMISTRY, 2nd Ed.;ROYAL MICROSCOPY SOCIETY マイクロSCOPY HANDBOOK 37, BioScientific/Springer−Verlagを参照。手短に言うと、例えば、患者の試料を、パラホルムアルデヒド中で、次いで、メタノール中で固定し、ウマ血清などのブロッキング溶液でブロッキングし、FIG−ROS融合ポリペプチドに対する一次抗体とともにインキュベートし、続いて、Alexa488などの蛍光色素で標識した二次抗体とともにインキュベートして、落射蛍光顕微鏡を用いて分析することができる。
酵素結合免疫吸着検定(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光励起細胞分取(FACS)をはじめとする、変異ROSキナーゼポリペプチドを測定するための様々な他のプロトコルは、当該技術分野において公知であり、FIG−ROS融合ポリペプチド発現レベルの変化または異常を診断するための基礎を提供する。FIG−ROS融合ポリペプチド発現の正常値または標準値は、正常な哺乳動物対象、好ましくはヒトから採取した体液または細胞抽出物を、複合体形成に好適な条件下で、FIG−ROS融合ポリペプチドに対する抗体と結合させることによって決定する。標準的な複合体形成の量は、種々の方法によって定量化できるが、測光法によることが好ましい。対象、対照、および生検組織から得た疾患試料において発現したFIG−ROS融合ポリペプチドの量を標準値と比較する。標準値と対象者の値との間の偏差によって、疾患を診断するためのパラメータを確立する。
ペプチドおよびヌクレオチドアッセイ
同様に、上段で詳述しているように、腫瘍由来の細胞を含む生体試料における発現した変異ROSポリペプチドの検出/定量化のためのAQUAペプチドを調製して、標準的なAQUAアッセイで用いることができる。したがって、本発明の方法のいくつかの実施形態において、FIG−ROS融合ポリペプチド特異的試薬は、前述のように、FIG−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクションを含むペプチド配列に対応する重同位体標識ホスホペプチド(AQUAペプチド)を含む。
本発明の方法の実施において有用なFIG−ROS融合ポリペプチド特異的試薬は、生体試料中の融合もしくは切断型ポリペプチド発現転写産物に直接ハイブリダイズでき、そして検出できる、mRNA、オリゴヌクレオチド、またはDNAプローブであってもよい。このようなプローブについては、本明細書で詳述している。手短に言うと、例えば、ホルマリン固定してパラフィン包埋した患者の試料を、フルオレセイン標識RNAプローブでプローブし、続いて、ホルムアミド、SSC、およびPBSで洗浄し、蛍光顕微鏡で分析することができる。
変異ROSキナーゼポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを、診断目的で使用することもできる。使用できるポリヌクレオチドには、オリゴヌクレオチド配列、アンチセンスのRNA分子およびDNA分子、ならびにPNAが含まれる。これらのポリヌクレオチドを、FIG−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSポリペプチドの発現が疾患と関連している可能性のある生検組織中の遺伝子発現を検出および定量化するために用いることができる。この診断アッセイを使用して、FIG−ROS融合ポリペプチドの有無、および過剰発現を見分けて、治療介入中のFIG−ROS融合ポリペプチドレベルの調節をモニタリングすることができる。
一実施形態において、FIG−ROS融合ポリペプチドもしくは切断型ROSキナーゼポリペプチド、または密接に関連した分子をコード化する、ゲノム配列をはじめとするポリヌクレオチド配列を検出できるPCRプローブとのハイブリダイゼーションを用いて、変異ROSポリペプチドをコード化する核酸配列を同定することができる。このようなプローブの構築および使用は本明細書で記載している。このプローブの特異性(非常に特異的な領域、例えば、融合ジャンクション中の10個の固有のヌクレオチドから作製されたか、あまり特異的でない領域、例えば、3’コーディング領域から作製されたかは問わない)、およびハイブリダイゼーションまたは増幅のストリンジェンシー(最高、高、中、または低)は、プローブが変異ROSキナーゼのポリペプチド、対立遺伝子、または関連配列をコード化する天然に存在する配列のみを同定するかどうかを決定するであろう。
プローブは、関連配列の検出のために用いることもでき、好ましくは、任意の変異ROSポリペプチドコード化配列由来の少なくとも50%のヌクレオチドを含んでいるべきである。前段でさらに記載しているように、本発明のハイブリダイゼーションプローブは、DNAまたはRNAであってよく、最も好ましくは該融合ジャンクションを含む、配列番号2もしくは配列番号16のヌクレオチド配列由来であってもよいし、または天然に存在するFIGおよびROSポリペプチドのプロモータ、エンハンサーエレメント、およびイントロンを含むゲノム配列由来であってもよい。
本発明のFIG−ROS融合ポリヌクレオチドまたは切断型ROSポリヌクレオチドを、患者の生検由来の液体または組織を利用する、サザン分析もしくはノーザン分析、ドットブロット、または他の膜に基づく技術において;PCR技術において;あるいはディップスティックアッセイ、ピンアッセイ、ELISA、またはチップアッセイにおいて用いて、改変された変異ROSキナーゼポリペプチド発現を検出することができる。このような定性的または定量的な方法は、当該技術分野で周知である。特定の態様において、変異ROSポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列は、肝臓、膵臓、腎臓、および精巣の癌(ならびに胆管などのこれらの組織の腺管で発生する癌)をはじめとする種々の癌の活性化または誘発を検出するアッセイにおいて有用であり得る。変異ROSポリヌクレオチドを、標準的な方法によって標識して、ハイブリダイゼーション複合体の形成に好適な条件下において、患者からの液体または組織の試料に添加することができる。好適なインキュベーション期間後に、試料を洗浄し、シグナルを定量化して標準値と比較する。生検または抽出試料中のシグナルの量が、匹敵する対照試料のシグナルの量から顕著に変化している場合には、このヌクレオチド配列は試料中のヌクレオチド配列とハイブリダイズし、試料中のFIG−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSキナーゼポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列のレベルに変化があることから関連疾患の存在が示唆される。このようなアッセイを、動物試験、臨床試験、または個々の患者の治療のモニタリングにおいて、特定の治療的処置の効力を評価するために用いることもできる。
本発明の別の態様は、ROSキナーゼにより支配される癌または疑癌を有すると患者を診断する方法を提供する。この方法は、前記癌または疑癌の生体試料(生体試料は少なくとも1つの核酸分子を含む)と、ストリンジェントな条件下でFIG−ROS融合ポリヌクレオチド、SLC34A2−ROS融合ポリペプチド、CD74−ROS融合ポリペプチド、および切断型ROSポリヌクレオチドからなる群から選択される核酸分子とハイブリダイズするプローブを接触させることを含み、この場合、前記プローブの、前記生体試料中の少なくとも1つの核酸分子に対するハイブリダイゼーションにより、ROSキナーゼにより支配される癌または疑癌を有すると前記患者が特定される。
本発明のさらに別の態様は、ROSキナーゼにより支配される癌または疑癌を有すると患者を診断する方法を提供する。この方法は、前記癌または疑癌の生体試料(前記生体試料は少なくとも1つのポリペプチドを含む)と、変異ROSポリペプチドと特異的に結合する結合剤を接触させることを含み、この場合、前記結合剤の、前記生体試料中の少なくとも1つのポリペプチドに対する特異的結合により、前記患者がROSキナーゼにより支配される癌または疑癌を有すると特定される。
変異ROSポリペプチド(例えば、FIG−ROS(S)融合ポリペプチド)の発現により特徴づけられる疾患(例えば、癌)の診断の基礎を提供するために、発現の正常または標準的プロファイルを確立する。これは、動物もしくはヒトのいずれかの正常対照から採取された体液または細胞抽出物と、FIG−ROS融合ポリペプチドもしくは切断型ROSキナーゼポリペプチドをコード化する配列もしくはそのフラグメントとを、ハイブリダイゼーションまたは増幅に好適な条件下で組み合わせることによって達成することができる。標準的なハイブリダイゼーションは、正常な対象から得られた値と、既知量の実質的に精製されたポリヌクレオチドを使用する実験から得られた値とを比較することによって定量化することができる。正常な試料から得られた標準値を、疾患の症状を示す患者から得られる値と比較することができる。標準値と対象者の値との間の偏差を用いて、疾患の存在を確証する。
疾患が確立し、療法プロトコルを開始したら、ハイブリダイゼーションアッセイを定期的に繰り返して、患者における発現レベルが、正常患者においてみられるものに近づきはじめるかどうかを評価することができる。連続したアッセイから得られた結果を用いて、数日から数ヶ月に及ぶ期間にわたる治療の効力を示すことができる。
本発明のFIG−ROS融合ポリヌクレオチドおよび切断型ROSポリヌクレオチド(すなわち、野生型ROSの細胞外ドメインをコード化する配列が欠失しているか、または野生型ROSの細胞外および膜貫通ドメインの両方をコード化する配列が欠失しているかのいずれか)に関するさらなる診断的使用には、当業者に標準的な別のアッセイ様式であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の使用が含まれ得る。例えば、MOLECULAR CLONING, A LABORATORY MANUAL, 2nd.edition,Sambrook, J., Fritsch, E. F. and Maniatis, T., eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989)を参照。PCRオリゴマーは、化学的に合成することができるか、酵素で生成させることができるか、または組換え源から産生させることができる。オリゴマーは、好ましくは、特定の遺伝子または条件を同定するために最適化された条件下で用いられる、2種類のヌクレオチド配列(一方はセンス方向(5’から3’)を有し、もう一方はアンチセンス方向(3’から5’)を有する)から構成される。密接に関連したDNAまたはRNAの配列を検出および/または定量化するために、同じ2種類のオリゴマー、オリゴマーのネステッドセット、またはオリゴマーの縮重プールでさえも、ストリンジェンシーの低い条件下で用いることができる。
FIG−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSキナーゼポリペプチドの発現を定量化するためにも用いることができる方法には、ヌクレオチドの放射標識またはビオチニル化、対照核酸の共増幅、および実験結果が内挿された標準曲線が含まれる(Melby et al., J. Immunol. Methods, 159:235−244(1993);Duplaa et al., Anal. Biochem. 229−236(1993))。複数の試料の定量化の速度は、目的とするオリゴマーが様々な希釈率で提供され、分光光度法または比色法による反応によって迅速な定量化ができるELISA様式でアッセイを行うことによって促進され得る。
本発明の別の実施形態では、本発明の変異ROSポリヌクレオチドを用いて、天然に存在するゲノム配列をマッピングするために有用なハイブリダイゼーションプローブを生成させることができる。周知の技術を用いて、配列を特定の染色体にまたは染色体の特定の領域にマッピングすることができる。Price, C. M., Blood Rev. 7:127−134(1993)およびTrask, B. J.、Trends Genet. 7:149−154(1991)に総説されるように、このような技術には、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)、FACS、または人工染色体構築物、例えば、酵母人工染色体、細菌人工染色体、細菌のP1構築物、または単一染色体cDNAライブラリが含まれる。
一実施形態において、(Verma et al., HUMAN CHROMOSOMES:A MANUAL OF BASIC TECHNIQUES、Pergamon Press, New York, N. Y.(1988)に記載されるように)蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)を用いて、これを他の物理的染色体マッピング技術および遺伝子マップデータと関連づけることができる。FISH技術は周知である(たとえば、米国特許第5,756,696号;第5,447,841号;第5,776,688号;および第5,663,319号を参照)。遺伝子マップデータの例は、1994 Genome Issue of Science(265:1981f)で見いだすことができる。FIG−ROS融合ポリペプチドまたは切断型ROSポリペプチドをコード化する遺伝子の物理的染色体マップ上の位置と、特定の疾患、または特定の疾患の疾病素因との間の関連性は、その遺伝的疾患に関連するDNA領域の範囲の決定を補助し得る。本発明のヌクレオチド配列を用いて、健常者、保因者、または罹患者の間の遺伝子配列の相違を検出することができる。
染色体調製物のインサイチュハイブリダイゼーション、および確立された染色体マーカーを使用する連鎖分析のような物理的マッピング技術を用いて、遺伝子マップを拡張することができる。マウスなどの別の哺乳動物種の染色体上における遺伝子の配置は、特定のヒト染色体の番号またはアームが未知の場合であっても、関連マーカーを明らかにし得ることが多い。物理的マッピングによって、新しい配列を、染色体アーム、またはその一部に帰属させることができる。これは、ポジショナルクローニングまたは他の遺伝子発見技術を用いて疾患遺伝子を探索している研究者に貴重な情報を提供する。例えば、ATが11q22〜23に位置付けされているように(Gatti et al., Nature 336:577−580(1988))、疾患または症候群が遺伝的連鎖によって特定のゲノム領域におおまかに位置づけされると、その領域にマッピングされる任意の配列によって、さらに調査するための関連遺伝子または調節遺伝子が表され得る。また、本発明のヌクレオチド配列を用いて、転座、逆転などに起因する、健常者、保因者、または罹患者の間の染色体上の位置における相違を検出することもできる。
変異ROSポリヌクレオチド(例えば、本発明の異常に発現された野生型ROS、FIG−ROS融合ポリヌクレオチド、SLC34A2−ROS融合ポリヌクレオチド、およびCD74−ROS融合ポリヌクレオチド)を検出する方法(例えば、PCRおよびFISH)は全て、変異ROSポリヌクレオチドまたは変異ROSポリペプチドのいずれかを検出する他の方法と組み合わせることができると理解されるべきである。たとえば、生体試料中の遺伝物質におけるFIG−ROSポリヌクレオチド(例えば、循環腫瘍細胞におけるFIG−ROS(S))の検出に続いて、試料のタンパク質のウェスタンブロッティング分析または免疫組織化学(IHC)分析を行って、FIG−ROS(S)ポリヌクレオチドが生体試料においてFIG−ROS(S)融合ポリペプチドとして実際に発現されたかどうかを判定する。このようなウェスタンブロッティングもしくはIHC分析は、検出されたFIG−ROS(S)ポリヌクレオチドによってコード化されるポリペプチドと特異的に結合する抗体を用いて実施することができるか、またはこれらの分析は、完全長FIGと特異的に結合するか(例えば、タンパク質のN末端と結合する)、もしくは完全長ROSと特異的に結合するか(例えば、ROSのキナーゼドメインにおけるエピトープと結合する)のいずれかである抗体を用いて実施することができる。このようなアッセイは、当該技術分野で公知である(たとえば、米国特許第7,468,252号を参照)。
別の例では、DakoのCISH技術により、同じ組織切片に関する免疫組織化学を用いて色素生成インサイチュハイブリダイゼーションが可能になる。CISHとFISHとの比較に関しては、Elliot et al., Br J Biomed Sci 2008;65(4):167−171, 2008を参照。
本明細書全体にわたって用いられる場合、「生体試料」という用語は、最も広義に用いられ、FIG−ROS融合ポリペプチド、FIG−ROS融合ポリヌクレオチド、切断型ROSポリヌクレオチド、切断型ROSポリペプチド(すなわち、野生型ROSの細胞外ドメインをコード化する配列が欠失しているか、または野生型完全長ROSの細胞外および膜貫通ドメインの両方をコード化する配列が欠失しているかのいずれか)、切断型ROSポリヌクレオチド、またはそれらのフラグメントを含む疑いのある任意の生体試料を意味し、細胞、細胞から単離した染色体(例えば、中期染色体の広がり)、(溶液中の、もしくはサザン分析用などの固体支持体に結合した)ゲノムDNA、(溶液中の、もしくはノーザン分析用などの固体支持体に結合した)RNA、(溶液中の、もしくは固体支持体に結合した)cDNA、細胞からの抽出物、血液、尿、骨髄、または組織などを含み得る。
本発明の方法の実施において有用な生体試料は、FIG−ROS融合ポリペプチドの存在により特徴づけられる癌が存在するかもしくは存在し得るか、または進行しているかもしくは進行し得る、任意の哺乳動物から得ることができる。本明細書で用いられる場合、癌および示される分子に関する(例えば、ROS融合または変異ROS)(「〜により特徴づけられる」という表現は、野生型ROSのこのような転座、過剰発現、および/または融合ポリペプチドが存在しない癌もしくは正常組織と比較して、遺伝子転座もしくは突然変異(例えば、野生型ROSの過剰発現を引き起こす)および/または発現されたポリペプチド(例えば、FIG−ROS融合ポリペプチド)が存在する癌を意味する。野生型ROSのこのような転座、過剰発現、および/または融合ポリペプチドの存在が、このような癌または疑癌の成長および生存を、全体的にまたは一部分において支配し得る(すなわち、成長および生存をシミュレートし得るか、または原因物質であり得る)。
一実施形態では、哺乳動物はヒトであり、ヒトは、肝臓、膵臓、腎臓、または精巣癌などの癌の治療のためのROS阻害治療薬の対象であり得る。ヒト対象は、ROSキナーゼ阻害剤で現在治療されているか、またはROSキナーゼ阻害剤での治療を検討している患者であってよい。別の実施形態では、哺乳動物はウマまたはウシのような大型動物であり、一方、他の実施形態では、哺乳動物はイヌまたはネコのような小型動物であり、これらの全てが肝臓、腎臓、精巣、および膵臓癌をはじめとする癌を発症することが知られている。
哺乳動物の癌由来の細胞(または細胞の抽出物)を含むすべての生体試料が、本発明の方法における使用に好適である。一実施形態では、生体試料は、腫瘍生検から得られる細胞を含む。該生検は、標準的な臨床技術に従って、哺乳動物の臓器中で生じている原発性腫瘍から、または他の組織中に転移した二次性腫瘍から得ることができる。別の実施形態では、生体試料は、腫瘍から採取した細針吸引物から得られた細胞を含み、このような吸引物を得るための技術は当該技術分野で周知である(Cristallini et al., Acta Cytol. 36(3):416−22(1992)を参照)。
いくつかの実施形態において、生体試料は循環腫瘍細胞を含む。循環腫瘍細胞(「CTC」)は、商標Vita−Assay(商標)、Vita−Cap(商標)、およびCellSearch(登録商標)(Vitatex、LLC(Johnson and Johnson corporaion)から市販されている)で販売されているキットおよび試薬を用いて精製することができる。CTCを単離するための他の方法が記載されている(たとえば、PCT公開第WO/2002/020825号、Cristofanilli et al, New Engl. J. of Med. 351(8):781−791(2004)、およびAdams et al., J. Amer. Chem. Soc. 130(27):8633−8641(July 2008)を参照)。特定の実施形態では、循環腫瘍細胞(「CTC」)は、肺から単離することができるか、または肺に由来すると特定することができる。
したがって、本発明は、CTCを単離し、次いでCTCをスクリーニングするための方法、CTCにおける本発明の変異ROSポリペプチドまたはポリヌクレオチド(例えば、FIG−ROS融合ポリペプチドもしくはポリヌクレオチド)の存在を同定するための1以上のアッセイ様式を提供する。いくつかの非限定的アッセイ様式としては、ウェスタンブロッティング分析、フローサイトメトリー(FC)、免疫組織化学(IHC)、免疫蛍光(IF)、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が挙げられる。本発明の変異ROSポリペプチドまたはポリヌクレオチド(例えば、FIG−ROS融合ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)を含むと特定された患者からのCTCは、患者由来の癌(例えば、非小細胞肺癌などの肺癌)が少なくとも1つのROSキナーゼ阻害治療薬を含む組成物に反応する可能性があることを示す。
生体試料は、FIG−ROS融合ポリペプチドまたは変異ROSポリペプチド(たとえば、細胞外および膜貫通ドメインが欠失しているもの)が発現および/または活性化されているが、野生型ROSキナーゼが発現および/または活性化されていない癌由来の細胞(または細胞抽出物)を含み得る。あるいは、試料は、変異ROS融合ポリペプチドおよび野生型ROSキナーゼの両方が発現および/または活性化されているか、または野生型ROSキナーゼが発現および/または活性化であるが、ROS融合ポリペプチドは発現および/または活性化されていない癌由来の細胞を含み得る。
前記の生体試料の細胞抽出物を、標準的な技術に従って、調製し、未精製または部分的に(もしくは完全に)精製し、本発明の方法において用いることができる。あるいは、細胞全体を含む生体試料を、上記に詳述しているように、免疫組織化学(IHC)、フローサイトメトリー(FC)、および免疫蛍光(IF)などのアッセイ様式において利用することができる。このような全細胞アッセイは、これらが腫瘍細胞試料の操作を最小限に抑え、したがって、この細胞のインビボシグナル伝達/活性化状態を変化させること、および/または人為的なシグナルを導入する危険性を低減させるという点で有益である。全細胞アッセイはまた、これらが、腫瘍細胞および正常細胞の混合物よりもむしろ、腫瘍細胞のみにおける発現およびシグナル伝達を特徴づけるので、有益である。
FIG−ROSの転座および/または融合ポリペプチドにより特徴づけられる腫瘍の進行を化合物が阻害するかどうかを判定するための開示の方法を実施する際、哺乳動物の異種移植片(または骨髄移植片)由来の細胞を含む生体試料も有益に用いることができる。非限定的異種移植片(または移植レシピエント)は、FIG−ROS融合ポリペプチド(またはキナーゼドメインを含むが、膜貫通および細胞外ドメインが欠失している変異ROSキナーゼ)を発現するヒト腫瘍(または白血病)を有するマウスなどの小型哺乳動物である。ヒト腫瘍を有する異種移植片は当該技術分野で周知であり(Kal, Cancer Treat Res. 72:155−69(1995)を参照)、ヒト腫瘍を有する哺乳動物の異種移植片の産生は、よく記載されている(Winograd et al,In Vivo. 1(1):1−13(1987)を参照)。同様に、骨髄移植モデルの生成および使用はよく記載されている(例えば、Schwaller et al, EMBO J. 77:5321−333(1998);Kelly et al, Blood 99:310−318(2002)を参照)。
哺乳動物の癌腫瘍由来の細胞を含む生体試料中の変異ROSポリヌクレオチドの存在または変異ROSポリペプチドの発現を評価する際に、このような転座および/または融合タンパク質が生じない細胞である対照試料を、比較の目的で望ましく用いることができる。理想的には、対照試料は、突然変異(例えば、FIG−ROS転座)が生じず、および/またはそのような融合ポリペプチドが発現されないサブセットを代表する、特定の癌(例えば、胆管肝臓癌)のサブセット由来の細胞を含む。この対試験生体試料に対して対照試料中のレベルを比較することによって、変異ポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドが存在するかどうかを確認する。あるいは、FIG−ROS融合ポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドは、大部分の癌には存在しない可能性があるため、同様に変異ROSポリペプチドを発現しない(またはこの変異ポリペプチドを有していない)任意の組織を対照として用いることができる。
後述する方法は、変異ROSポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドにより特徴づけられる癌に対する有益な診断的有用性を有し、このような癌の治療を決定するであろう。例えば、FIG−ROSの転座および/または融合ポリペプチドを特徴とする癌を有すると事前に診断されておらず、またそのような癌の治療をまだ受けていない対象から生体試料を得ることができ、該方法を用いて、そのような対象者において、変異ROSポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドが存在/発現している腫瘍(例えば、胆管腫瘍)のサブセットに属するような対象における腫瘍を診断によって同定する。
あるいは、EFGRなどの1種類のキナーゼの存在によって特徴づけられる癌を有すると診断され、そのような癌の治療のために、EGFR阻害剤療法(例えば、Tarceva(商標)、Iressa(商標))のような療法を受けている対象から生体試料を得することができ、本発明の方法を用いて、対象の腫瘍もFIG−ROS転座および/または融合ポリペプチドにより特徴づけられ、したがって、既存の療法に完全に反応性を示す可能性があるかどうか、および/または別のもしくは追加のROS阻害療法が望ましいか、または認可されるかどうかを確認する。ROSキナーゼ阻害治療薬または治療薬の組み合わせを含む組成物を用いて対象を治療した後に、本発明の方法を用いて、変異ROSポリペプチドを発現する癌の進行または阻害をモニタリングすることもできる。
このような診断用アッセイを、事前の評価もしくは外科的なサーベイランス手順の後に、またはその前に行うことができる。本発明のこの同定方法は、FIG−ROS融合タンパク質の存在により特徴づけられる、胆管肝臓癌などの癌を有する患者を同定するための診断法として有益に用いることができ、該患者は、ROSキナーゼ活性を阻害することを目的とした治療薬に反応する可能性が最も高い。そのような患者を選択できることも、将来のROSを標的とした治療薬の効力の臨床評価ならびにそのような薬剤の患者への将来的な処方において有用であろう。
FIG−ROSの転座および/または融合ポリペプチドが存在する癌を選択的に同定できることにより、診断の目的でそのような腫瘍を正確に同定するための重要な新規方法、ならびに、癌の治療のために単剤として投与する場合に、そのような腫瘍がROS阻害治療組成物に反応する可能性があるかどうか、または異なるキナーゼを標的とする阻害剤に部分的にもしくは完全に反応しない可能性があるかどうかを決定する際に有用な情報を得るために重要な新規方法が可能になる。
したがって、一実施形態では、本発明は、癌における変異ROSポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドの存在を検出する方法を提供し、この方法は:(a)癌を有する患者から生体試料を得るステップ;ならびに(b)FIG−ROS融合ポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドが生体試料中に存在するかどうかを決定するために、本発明の変異ROSポリヌクレオチドまたはポリペプチドを検出する少なくとも1つの試薬を利用するステップを含む。
いくつかの実施形態では、癌は、胆管肝臓癌などの肝臓癌である。いくつかの実施形態では、癌は、膵臓癌、腎臓癌、または精巣癌である。他の実施形態では、FIG−ROS融合ポリペプチドの存在によって、少なくとも1つのROS阻害化合物を含む組成物または治療薬に反応する可能性がある癌が特定される。
いくつかの実施形態では、本発明の診断法を、フローサイトメトリー(FC)、免疫組織化学(IHC)、または免疫蛍光(IF)アッセイ様式で実施する。別の実施形態では、FIG−ROS融合ポリペプチドの活性を検出する。他の実施形態では、本発明の診断法は、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイ様式により実施する。
本発明はさらに、化合物がFIG−ROS融合ポリヌクレオチドまたはポリペプチドにより特徴づけられる癌の進行を阻害するかどうかを判定する方法を提供し、前記方法は、前記化合物が前記癌における前記FIG−ROS融合の発現および/または活性を阻害するかどうかを判定するステップを含む。一実施形態において、FIG−ROS融合ポリペプチドの発現および/または活性の阻害は、本発明のFIG−ROS融合ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを検出する少なくとも1つの試薬を用いて決定される。ROSキナーゼ活性の阻害に適した化合物を本明細書でさらに詳細に議論する。
本発明の方法の実施において有用な変異ROSポリヌクレオチドプローブおよびポリペプチド特異的試薬は前段でさらに詳細に記載する。一実施形態において、FIG−ROS融合ポリペプチド特異的試薬は、融合ポリペプチド特異的抗体を含む。別の実施形態において、融合ポリペプチド特異的試薬は、FIG−ROS融合ポリペプチドの融合ジャンクションに対応する重同位体標識ホスホペプチド(AQUAペプチド)を含む。
前記の本発明の方法は、場合によって、前記生体試料中の野生型ROSおよび野生型EGFRなどの他のキナーゼまたは他の下流シグナル伝達分子の発現または活性化のレベルを決定するステップを含んでもよい。所定の生体試料中のFIG−ROS融合ポリペプチドの発現/活性化ならびに他のキナーゼおよび経路の発現/活性化の両方をプロファイリングすることによって、どのキナーゼおよび経路がその疾患を支配するか、そしてどの治療レジメが最も有益である可能性があるかについての有用な情報を得ることができる。
ヒト癌における変異ROSポリペプチド(たとえば、FIG−ROS融合ポリペプチド)の発見によって、これらの変異ROSタンパク質の活性、特にそれらのROSキナーゼ活性を阻害する新規化合物の開発も可能になる。したがって、本発明はまた、部分的には、化合物がFIG−ROS融合ポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドにより特徴づけられる癌の進行を阻害するかどうかを判定する方法も提供し、前記方法は、前記化合物が前記癌において前記FIG−ROS融合ポリペプチドの発現および/または活性を阻害するかどうかを判定するステップを含む。一実施形態では、本発明のFIG−ROS融合ポリヌクレオチドおよび/またはFIG−ROS融合ポリペプチドを検出する少なくとも1つの試薬を用いて、FIG−ROS融合ポリペプチドの発現および/または活性の阻害を判定する。本発明のこのような試薬の非限定的例は前述している。ROSキナーゼ活性の阻害に好適な化合物は、以下でさらに詳細に記載する。
本明細書で用いられる場合、「ROS阻害剤」または「ROS阻害化合物」とは、野生型(完全長)ROSまたはROSのキナーゼドメインのいずれかの発現および/または活性を、単独および/または本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドの一部として、直接的または間接的のいずれかで阻害する、1以上の化学的または生物学的化合物を含む組成物を意味する。このような阻害は、インビトロであっても、またはインビボであってもよい。「ROS阻害剤治療薬」または「ROS阻害治療薬」とは、本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドの存在により特徴づけられる癌(例えば、肝臓、精巣、腎臓、または膵臓癌)を有する患者を治療するための治療薬として用いられるROS阻害化合物を意味する。
本発明のいくつかの実施形態において、ROS阻害剤は、FIG−ROS融合ポリペプチドと特異的に結合する結合剤、変異ROSポリペプチドと特異的に結合する結合剤、FIG−ROS融合ポリヌクレオチド(例えば、FIG−ROS(S)融合ポリヌクレオチド)を標的とするsiRNA、または変異ROSポリヌクレオチドを標的とするsiRNAである。
ROS阻害化合物は、例えば、小分子阻害剤または抗体阻害剤などのキナーゼ阻害剤であってもよい。これは、いくつかの異なるキナーゼに対する活性を有する汎キナーゼ阻害剤、またはキナーゼ特異的阻害剤であってもよい。ROS、ALK、LTK、InsR、およびIGF1Rはチロシンキナーゼの同じファミリーに属するので、これらは、キナーゼドメインにおいて類似した構造を共有し得る。したがって、いくつかの実施形態では、本発明のROS阻害剤は、ALKキナーゼ、LTKキナーゼ、インスリン受容体、またはIGF1受容体の活性も阻害する。ROS阻害化合物は以下でさらに詳細に記載する。阻害剤を用いた治療の前後に患者の生体試料を採取してもよく、次いで、前記の方法を用いて、下流の基質タンパク質のリン酸化を含むROSキナーゼ活性に対する該阻害剤の生物学的影響について分析することができる。このような薬力学的アッセイは、好ましくは最大耐量までとなり得る薬剤の生物学的に活性な量を決定する際に有用となり得る。このような情報は、薬剤の作用機序を実証することによって、薬剤の承認申請にも有用であろう。
本発明によれば、FIG−ROS融合ポリペプチドは、ヒト肝臓、膵臓、腎臓、または精巣癌の少なくとも1つのサブグループにおいて存在し得る。したがって、FIG−ROS融合タンパク質が発現される哺乳動物癌(例えば、肝臓、膵臓、腎臓、または精巣癌)の進行は、このような癌におけるROSキナーゼの活性を阻害することによってインビボで阻害され得る。FIG−ROS融合ポリペプチド(またはキナーゼドメインのみを含む変異ROSポリペプチド)の発現により特徴づけられる癌におけるROS活性は、癌(たとえば腫瘍)をROS阻害治療薬と接触させることによって阻害することができる。したがって、本発明は、癌におけるROSキナーゼの発現および/または活性を阻害することによって、FIG−ROS融合ポリペプチドを発現する癌の進行を阻害するための方法を提供する。
ROS阻害治療薬は、少なくとも1つのROS阻害剤を含む任意の組成物であってよい。このような組成物には、1つのROS阻害化合物のみを含む組成物、ならびに複数の治療薬(他のRTKに対するものを包含する)を含む組成物も含まれ、これらには、化学療法剤または一般的な転写阻害剤などの非特異的治療剤も含まれ得る。
いくつかの実施形態では、本発明の方法の実施において有用なROS阻害治療薬は、標的化される小分子阻害剤である。小分子標的化阻害剤は、典型的には、特異的に、そして多くの場合は不可逆的に、酵素の触媒部位と結合し、および/またはATP結合溝または酵素がその活性に必要なコンフォメーションをとることを妨げるその酵素内の他の結合部位に結合して、それらの標的酵素の活性を阻害するあるクラスの分子である。例示的な小分子標的化キナーゼ阻害剤は、Gleevec(登録商標)(イマチニブ、STI−571)であり、これは、CSF1RおよびBCR−ABLを阻害し、その特性は十分に記載されている。Dewar et al, Blood 105(8):3127−32(2005)を参照。ROSを標的とし得る追加の小分子キナーゼ阻害剤としては、TAE−684(下記実施例を参照)およびPF−02341066(Pfizer, Inc)が挙げられる。
ROSキナーゼ活性のさらなる小分子阻害剤および他の阻害剤(たとえば間接的阻害剤)は、ROS三次元構造のX線結晶学的モデリングまたはコンピュータモデリングを用いて合理的に設計することができるか、または結果としてROSキナーゼ活性の阻害をもたらす、重要な上流調節酵素および/または必要な結合分子の阻害に関する化合物ライブラリのハイスループットスクリーニングによって見つけ出すこともできる。このような方法は当該技術分野で周知であり、記載されている。このような治療薬によるROS阻害は、例えば、キナーゼのパネルにおいて、ROS活性を阻害するが、他のキナーゼ活性は阻害しない化合物の能力を調べることによって、および/または癌細胞(例えば、肝臓、膵臓、腎臓、または精巣癌)を含む生体試料中のROS活性の阻害を調べることによって確認することができる。FIG−ROS転座および/または融合ポリペプチド、および/または変異ROSポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドの発現/存在により特徴づけられる癌を阻害する化合物を同定するための方法を以下でさらに記載する。
本発明の方法において有用なROSキナーゼ阻害治療薬はまた、ROS活性に必要とされる重要な触媒部位もしくは結合部位またはドメインに特異的に結合し、リガンド、基質、または第2の分子のαへのアクセスをブロックすることおよび/または酵素がその活性に必要なコンフォメーションをとるのを妨げることによってキナーゼを阻害する標的化抗体であってもよい。ヒト化標的特異的抗体の作製、スクリーニング、および治療的使用については、十分に記載されている。Merluzzi et al., Adv Clin Path. 4(2):77−85(2000)を参照。ヒト化標的特異的阻害抗体のハイスループット生成およびスクリーニングのために、Morphosys, Inc.のヒトコンビナトリアル抗体ライブラリ(HuCAL(登録商標))のような市販の技術およびシステムを利用することができる。
種々の抗受容体キナーゼ標的化抗体の産生および標的とする受容体の活性を阻害するためのその使用については、記載されている。例えば、米国特許公開第20040202655号、米国特許公開第20040086503号、米国特許公開第20040033543号などを参照。受容体チロシンキナーゼ活性抑制抗体を産生および使用するための標準化された方法は、当該技術分野において公知である。例えば、欧州特許第EP1423428号を参照。
また、ファージディスプレイ法を用いてROS特異的抗体阻害剤を生成させることもでき、バクテリオファージライブラリーの構築および組換え抗体の選択のためのプロトコルは、周知の参考書、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY、Colligan et al.(Eds.), John Wiley & Sons Inc.(1992−2000), Chapter 17, Section 17.1に記載されている。また、米国特許第6,319,690号、米国特許第6,300,064号、米国特許第5,840,479号、および米国特許公開第20030219839号も参照。
バクテリオファージの表面上に提示された抗体フラクションのライブラリを産生して(例えば、米国特許第6,300,064号を参照)、本発明のFIG−ROS融合タンパク質に対する結合についてスクリーニングすることができる。FIG−ROS融合ポリペプチドに結合する抗体フラグメントが細胞におけFIG−ROS融合ポリペプチドの構成的活性化をブロックするための候補分子として同定される。欧州特許第EP1423428を参照。
前記のように抗体ライブラリのスクリーニングで同定されたROS結合標的化抗体を、次に、インビトロキナーゼアッセイおよびインビボで細胞株および/または腫瘍の両方においてROSの活性をブロックするそれらの能力についてさらにスクリーニングすることができる。前記のように、ROS阻害は、例えば、キナーゼのパネルにおいて、ROSキナーゼ活性を阻害する抗体治療薬の能力を調べること、および/または癌細胞を含む生体試料におけるROS活性の阻害を調べることによって確認することができる。いくつかの実施形態において、本発明のROS阻害化合物は、ROSキナーゼ活性を減少させるが、他のキナーゼのキナーゼ活性はあまり(またはほとんど)減少させない。ROSキナーゼ阻害のためのこのような化合物をスクリーニングするための方法は前段でさらに記載している。
開示の方法の実施において有用なROS阻害化合物は、ROSキナーゼそのもの以外のタンパク質または分子の活性を阻害することによって、ROS活性を間接的に阻害する化合物であってもよい。このような阻害治療薬は、ROS自体をリン酸化または脱リン酸化する(したがって、活性化または不活性化する)重要な調節キナーゼの活性を調節するか、またはリガンドの結合を妨げる標的化阻害剤であってもよい。他の受容体チロシンキナーゼと同様に、ROSは、アダプタータンパク質および下流のキナーゼのネットワークを通して下流のシグナル伝達を調節する。結果として、これらの相互作用または下流のタンパク質を標的とすることによって、ROS活性による細胞の成長および生存の誘発を阻害することができる。
ROSがその活性なコンフォメーションをとるために必要な活性化分子の結合を阻害する化合物を用いて、ROSキナーゼ活性を間接的に阻害することもできる。例えば、抗PDGF抗体の産生および使用は記載されている。米国特許公開第20030219839号、“Anti−PDGF Antibodies and Methods for Producing Engineered Antibodies”,Bowdish et alを参照。受容体に結合するリガンド(PDGF)の阻害により、受容体活性が直接的に下方制御される。
ROS阻害化合物または治療薬は、ROSをコード化する遺伝子および/またはFIG−ROS融合遺伝子の転写をブロックすることによってROSキナーゼ活性を阻害する、アンチセンスおよび/または転写阻害化合物も含み得る。癌の治療用のアンチセンス治療薬による、VEGFR、EGFR、およびIGFR、ならびにFGFRをはじめとする種々の受容体キナーゼの阻害は記載されている。例えば、米国特許第6,734,017号;第6,710,174号、第6,617,162号;第6,340,674号;第5,783,683号;第5,610,288号を参照。
アンチセンスオリゴヌクレオチドを、標的遺伝子に対する治療剤として、既知技術に従って設計、構築、および利用することができる。例えば、Cohen, J.,Trends in Pharmacol. Sci. 10(11):435−437(1989);Marcus−Sekura、Anal. Biochem. 172:289−295(1988);Weintraub, H.,Sci AM. pp.40−46(1990);Van Der Krol et al., BioTechniques 6(10):958−976(1988);Skorskiら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1994)91:4504−4508を参照。EGFRのアンチセンスRNA阻害剤を用いたインビボでのヒト癌腫成長の阻害は最近記載されている。米国特許公開第20040047847号を参照。同様に、哺乳動物のROS遺伝子またはFIG−ROS融合ポリヌクレオチドもしくは変異ROSポリヌクレオチドに対する少なくとも1つのアンチセンスオリゴヌクレオチドを含むROS阻害治療薬を、前記の方法に従って調製することができる。ROS阻害アンチセンス化合物を含む医薬組成物を、さらに後述するように調製および投与することができる。
RNA干渉のプロセスによりROSの翻訳を阻害し、したがってROSの活性を阻害する、低分子干渉RNA分子(siRNA)組成物も、本発明の方法において望ましく使用することができる。RNA干渉、および、標的タンパク質をコードするmRNAと相補的な配列を含む外因性の低分子二本鎖RNA分子の導入による、標的タンパク質の発現の選択的なサイレンシングについては、十分に記載されている。たとえば、米国特許公開第20040038921、米国特許公開第20020086356号、および米国特許公開第20040229266号を参照。
二本鎖RNA分子(dsRNA)は、RNA干渉(RNAi)として知られている高度に保存された調節機構で遺伝子発現をブロックすることが示されている。手短に言うと、RNAseIIIダイサーがdsRNAを処理して約22ヌクレオチドの低分子干渉RNA(siRNA)にし、これは、RNA誘導サイレンシング複合体RISCによる標的特異的なmRNA切断を誘発するためのガイド配列としての働きをする(Hammond et al, Nature(2000)404:293−296を参照)。RNAiは触媒型反応に関与し、これによって、より長いdsRNAの連続的な切断により新しいsiRNAが生じる。したがって、アンチセンスとは異なり、RNAiは、不定比的に標的RNAを分解する。細胞または生体に投与する場合には、外因性dsRNAが、RNAiを介して内因性メッセンジャーRNA(mRNA)を配列特異的に分解することが示されている。
哺乳動物細胞におけるこれらの発現および使用のためのベクターおよびシステムをはじめとする多種多様な標的特異的siRNA製品が、現在市販されている。例えば、Promega, Inc.(www.promega.com);Dharmacon, Inc.(www.dharmacon.com)を参照。RNAiに関するdsRNAの設計、構築、および使用についての詳細な技術マニュアルが利用可能である。例えば、Dharmaconの“RNAi Technical Reference & Application Guide”;Promegaの“RNAi:A Guide to Gene Silencing”を参照。また、ROS阻害siRNA製品も市販されており、本発明の方法において好適に用いることができる。例えば、Dharmacon, Inc., Lafayette、CO(カタログ番号M−003162−03、MU−003162−03、D−003162−07〜D−003162−10(siGENOME(商標)SMART and SMARTpool(登録商標)siRNAs)を参照。
哺乳動物においてRNAiを媒介する際には、標的mRNA配列の一部と実質的に同一である少なくとも1つの配列を含む、長さが49ヌクレオチド未満、好ましくは19〜25ヌクレオチドの低分子dsRNAであって、最適には一端に1〜4ヌクレオチドのオーバーハングを少なくとも1つ有するdsRNAが、最も有効であることが最近証明されている。米国特許公開第20040038921号および第20040229266号を参照。インビボでの、このようなdsRNAの構築、および標的タンパク質の発現を停止させるための医薬品におけるその使用については、このような刊行物で詳述されている。
哺乳動物において標的とされる遺伝子の配列が既知の場合には、例えば21〜23ntのRNAを産生して、ヒトまたは他の霊長類の細胞などの哺乳動物細胞においてRNAiを媒介するそれらの能力について試験することができる。それらのインビボでの有効性をさらに評価するために、RNAiを媒介することが示されたこれらの21〜23ntのRNA分子を、必要に応じて、適切な動物モデルで試験することができる。既知の標的部位、例えばリボザイムもしくはアンチセンスなどの他の核酸分子を用いた研究に基づいて有効な標的部位であることが確認された標的部位、または変異もしくは欠失を含む部位などの疾患もしくは病状と関連していることが知られている標的を、同様に用いて、それらの部位を標的とするsiRNA分子を設計することもできる。
あるいは、例えばコンピュータのフォールディングアルゴリズムを用いることにより、目的とする標的mRNAを標的部位についてスクリーニングして、有効なdsRNAの配列を合理的に設計/予測することもできる。特別注文のPerlスクリプト、またはOligo、MacVector、もしくはGCG Wisconsin Packageなどの市販の配列分析プログラムを用いて、標的配列をコンピュータ上で解析して、特定の長さの全てのフラグメントまたは部分配列、例えば23ヌクレオチドフラグメントのリストにすることができる。
様々なパラメータを用いて、標的RNA配列内のどの部位が最も好適な標的部位であるかを決定することができる。これらのパラメータとしては、RNAの二次構造もしくは三次構造、標的配列のヌクレオチド塩基組成、標的配列の様々な領域間の相同性の程度、またはRNA転写産物内の標的配列の相対的な位置が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの決定に基づいて、RNA転写産物内の任意の数の標的部位を選択して、例えばインビトロのRNA切断アッセイ、細胞培養、または動物モデルを用いて、siRNA分子を効力についてスクリーニングすることができる。例えば、米国特許公開第20030170891号を参照。RNAi標的部位を同定および選択するためのアルゴリズムも、最近記載されている。米国特許公開第20040236517号を参照。
一般に用いられる遺伝子移入技術としては、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーション、およびマイクロインジェクション、ならびにウイルス法が挙げられる(Graham et al.(1973)Virol. 52:456;McCutchan et al,(1968),J. Natl. Cancer Inst. 41:351;Chu et al.,(1987),Nucl. Acids Res. 15:1311;Fraley et al.(1980),J. Biol. Chem. 255:10431;Capecchi(1980),Cell 22:479)。カチオン性リポソームを用いてDNAを細胞内に導入することもできる(Feigner et al.(1987)、Proc. Natl. Acad. Sci USA 84:7413)。市販のカチオン性脂質処方としては、Tfx50(Promega)またはリポフェクタミン200(Life Technologies)が挙げられる。あるいは、ウイルスベクターを用いて、細胞にdsRNAを送達して、RNAiを媒介することができる。米国特許公開第20040023390号を参照。
哺乳動物細胞におけるRNAiのためのトランスフェクションおよびベクター/発現系は、市販されており、よく記載されている。例えば、Dharmacon Inc., DharmaFECT(商標)システム;Promega Inc., siSTRIKE(商標)U6 Hairpin ststenを参照;また、Gou et al.(2003)FEBS. 548, 113−118;Sui, G. et al.A DNA vector−based RNAi technology to suppress gene expression in mammalian cells (2002)Proc. Natl. Acad. Sci. 99, 5515−5520;Yu et al.(2002)Proc. Natl. Acad. Sci. 99, 6047−6052;Paul, C. et al.(2002)Nature Biotechnology 19, 505−508;McManus et al.(2002)RNA 8, 842−850も参照。
次いで、dsRNAを含む医薬製剤を哺乳動物に投与することによって、調製したdsRNA分子を用いて哺乳動物においてsiRNA干渉をおこなうこともできる。標的遺伝子の発現を阻害するために十分な用量でこの医薬組成物を投与する。dsRNAを、典型的には1日に体重1キログラムあたり5mg未満の用量で投与することができ、標的遺伝子の発現を阻害または完全に抑制するために十分である。一般的に、dsRNAの好適な用量は、1日に受容者の体重1キログラムあたり0.01〜2.5ミリグラムの範囲、好ましくは1日に体重1キログラムあたり0.1〜200マイクログラムの範囲、さらに好ましくは1日に体重1キログラムあたり0.1〜100マイクログラムの範囲、なお一層好ましくは1日に体重1キログラムあたり1.0〜50マイクログラムの範囲、最も好ましくは1日に体重1キログラムあたり1.0〜25マイクログラムの範囲であろう。dsRNAを含む医薬組成物を、例えば、当該技術分野で周知の徐放性製剤を用いて、1日1回または複数の副用量(sub−dose)で投与する。さらに後述するように、このような医薬組成物の調製および投与は、標準的な技術に従って行うことができる。
次いで、このようなdsRNAを用いて、前記のように、治療有効量のこのようなdsRNAを含む医薬製剤を調製し、FIG−ROS融合タンパク質または変異ポリペプチドを発現している癌(例えば、肝臓、膵臓、腎臓、または精巣癌)を有するヒト対象に製剤を投与することによって、例えば、腫瘍に直接注射することにより、癌におけるROSの発現および活性を阻害することができる。siRNA阻害剤を用いた、VEGFRおよびEGFRなどの他の受容体チロシンキナーゼの同様の阻害が、最近記載されている。米国特許公開第20040209832号、米国特許公開第20030170891号、および米国特許公開第20040175703号を参照。
本発明の方法の実施において有用なROS阻害治療薬組成物は、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、経皮、気道(エアゾル)、直腸、膣および局所(口腔および舌下を包含する)投与をはじめとする経口または腹膜経路を含むが、これらに限定されるものではない当該技術分野で公知の任意の手段により哺乳動物に投与することができる。
経口投与に関して、ROS阻害治療薬は、一般的に、錠剤もしくはカプセル剤の形態で、粉末もしくは顆粒として、または水溶液もしくは懸濁液として提供されるであろう。経口使用のための錠剤には、不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、甘味剤、賦香剤、着色剤、および保存剤などの薬剤的に許容される賦形剤と混合された該活性成分が含まれ得る。好適な不活性希釈剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、ならびにラクトースが挙げられ、一方、コーンスターチおよびアルギン酸が好適な崩壊剤である。結合剤としては、デンプンおよびゼラチンを挙げることができ、潤滑剤は、存在する場合には、一般的に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、または滑石であろう。必要に応じて、錠剤をモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの物質でコーティングして、胃腸管での吸収を遅らせることができる。
経口使用のためのカプセル剤としては、活性成分を固体希釈剤と混合したハードゼラチンカプセル、および活性成分を水、またはピーナッツ油、液体パラフィン、もしくはオリーブ油などの油と混合したソフトゼラチンカプセル剤が挙げられる。筋肉内、腹腔内、皮下、および静脈内の使用には、本発明の医薬組成物は、一般的に、適切なpHおよび等張に緩衝された、滅菌水溶液または懸濁液中で提供される。好適な水性ビヒクルとしては、リンゲル液および等張性塩化ナトリウムが挙げられる。担体は、排他的に水性緩衝液からなっていてもよい(「排他的に」とは、ROS阻害治療薬の摂取に影響を及ぼし得るかまたは摂取を媒介し得る助剤または封入物質が存在しないことを意味する)。このような物質としては、後述のように、例えば、リポソームまたはカプシドなどのミセル構造物が含まれる。水性懸濁液は、セルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、およびトラガカントゴムなどの懸濁化剤、ならびにレシチンなどの湿潤剤を含み得る。水性懸濁液に好適な保存剤としては、p−ヒドロキシ安息香酸エチルおよびp−ヒドロキシ安息香酸n−プロピルが挙げられる。
ROS阻害治療薬組成物は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達系を含む放出制御製剤などの、治療薬(例えば、dsRNA化合物またはFIG−ROS融合ポリペプチドと特異的に結合する抗体)が体内からの急速に除去されるのを防ぐためのカプセル剤を含んでもよい。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを用いることができる。このような製剤の調製方法は、当業者には明らかであろう。Alza Corporation およびNova Pharmaceuticals, Inc.から商業的に入手することもできる。また、リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体で感染した細胞を標的とするリポソームを含む)も、薬剤的に許容される担体として使用することができる。例えば、米国特許第4,522,811号;PCT公開第WO91/06309号;および欧州特許公開第EP−A−43075号に記載されるような当業者に既知の方法に従って、これらを調製することができる。カプセル剤は、ウイルスコートタンパク質を含んでもよい。このウイルスコートタンパク質は、ポリオーマウイルスなどのウイルス由来のものもしくはウイルスに関連したものであり得るか、または部分的にもしくは完全に人工のものであってもよい。例えば、コートタンパク質は、ポリオーマウイルスのウイルスタンパク質1および/またはウイルスタンパク質2、あるいはこれらの誘導体であってもよい。
ROS阻害組成物は、リポソームをはじめとする、対象に投与するための送達ビヒクル、担体および希釈剤、ならびにこれらの塩も含み得、および/または薬剤的に許容される製剤中に存在し得る。例えば、核酸分子の送達方法は、Akhtar et al, 1992、Trends Cell Bio., 2, 139;DELIVERY STRATEGIES FOR ANTISENSE OLIGONUCLEOTIDE THERAPEUTICS ed. Akbtar, 1995、Maurer et al., 1999,Mol. Membr. Biol., 16, 129−140;Hofland and Huang, 1999、Handb. Exp. Pharmacol, 137, 165−192;およびLee et al., 2000,ACS Symp. Ser., 752, 184−192に記載されている。米国特許第6,395,713号およびPCT公開第WO94/02595号は、核酸分子を送達するための一般的な方法をさらに記載している。これらのプロトコルは、実質的に、あらゆる核酸分子の送達に利用することができる。
これらに限定されるものではないが、リポソーム中へのカプセル封入、イオン泳動、もしくは、ハイドロゲル、シクロデキストリン、生分解性ナノカプセル、および生体接着性ミクロスフェアなどの他のビヒクル中に組み入れる方法、またはタンパク性ベクターによる方法(PCT公開第WO00/53722号を参照)をはじめとする、当業者に既知の様々な方法によって、ROS阻害治療薬(すなわち、治療薬として投与されるROS阻害化合物)を哺乳動物の腫瘍に投与することができる。別法として、この治療薬/ビヒクルの組合せを、直接注射によって、あるいは注入ポンプを用いて、局所的に送達する。該組成物の直接注射は、皮下、筋肉内、または皮内を問わず、標準的な針およびシリンジ法を用いて、あるいはConry et al.,1999、Clin. Cancer Res., 5, 2330−2337、およびPCT公開第WO99/31262号に記載されているような、針を使用しない技術によって行うことができる。
ROS阻害治療薬の薬剤的に許容される製剤には、前記化合物の塩、例えば、酸付加塩、例えば、塩化水素、臭化水素、酢酸、およびベンゼンスルホン酸の塩が含まれる。医薬組成物または製剤とは、細胞またはヒトなどの患者への投与、例えば全身投与に適した形態の組成物または製剤を意味する。好適な形態は、部分的には、経口、経皮、もしくは注射によるなどの使用または導入経路に依存する。このような形態は、組成物または製剤が標的細胞に到達するのを妨げてはならない。例えば、血流に注入される医薬組成物は、可溶性でなければならない。他の因子は当該技術分野で公知であり、組成物または該製剤がその効果を発揮するのを妨げる毒性および形態などの問題が挙げられる。
全身性吸収(たとえば、血流中での薬剤の全身性の吸収または蓄積に続いて身体全体にわたる分配)をもたらす投与経路が望ましく、静脈内、皮下、腹腔内、吸入、経口、肺内、および筋肉内が挙げられるが、これらに限定されない。これらの投与経路のそれぞれは、ROS阻害治療薬を到達可能な患部組織または腫瘍に曝露させる。薬剤の循環中への導入率は、分子量またはサイズの関数であることが示されている。本発明の化合物を含むリポソームまたは他の薬剤担体の使用により、例えば、細網内皮系(RES)の組織などのある特定の種類の組織において薬剤を局在化させることができる可能性がある。薬剤とリンパ球およびマクロファージなどの細胞の表面との結合を促進できるリポソーム製剤も有用である。この方法は、癌細胞などの異常細胞のマクロファージおよびリンパ球による免疫認識の特異性を利用することによって、標的細胞への薬剤の送達を向上させることができる。
「薬剤的に許容される製剤」とは、それらの所望の活性に最も適した身体部位で、本発明の核酸分子の効果的な分配を可能にする組成物または製剤を意味する。本発明の核酸分子を含む製剤に好適な薬剤の非限定的例としては以下のものが挙げられる:薬剤のCNS中への侵入を向上させることができるP−糖タンパク質阻害剤(プルロニックP85など)(Jolliet−Riant and Tillement, 1999, Fundam. Clin. Pharmacol., 13, 16−26);大脳内植込後の持続放出性送達のためのポリ(DL−ラクチド−コグリコリド)ミクロスフェアなどの生分解性ポリマー(Emerich et al, 1999,Cell Transplant, 8, 47−58)(Alkermes, Inc.(マサチューセッツ州ケンブリッジ));ならびに血液脳関門を越えて薬剤を送達することができ、ニューロンへの取り込みの機構を変えることができるポリブチルシアノアクリレート製のものなどの負荷ナノ粒子(Prog Neuro−psychopharmacol Biol Psychiatry, 23, 941−949, 1999)。本発明の方法において有用なROS阻害化合物の送達法の他の非限定的例としては、Boado et al, 1998、J. Pharm. Sci, 87, 1308−1315;Tyler et al.,1999, FEBS Lett., 421, 280−284;Pardridge et al, 1995,PNAS USA., 92, 5592−5596;Boado、1995, Adv. Drug Delivery Rev., 15, 73−107;Aldrian−Herrada et al, 1998、Nucleic Acids Res., 26, 4910−4916;およびTyler et al., 1999, PNAS USA., 96, 7053−7058に記載される物質。
ポリ(エチレングリコール)脂質を含む表面修飾リポソーム(PEG修飾、あるいは長時間循環リポソームまたはステルスリポソーム)を含有する治療用組成物も、本発明の方法において好適に用いることができる。これらの製剤は、標的組織中での薬剤の蓄積を増加させるための方法を提供する。この種の薬剤担体は、単核食細胞系(MPSまたはRES)によるオプソニン作用および排除に抵抗し、これにより、カプセルに封入された薬剤の血液循環時間を延長し、組織曝露を向上させることができる(Lasic et al Chem. Rev. 1995, 95, 2601−2627;Ishiwata et al, Chem. Pharm. Bull. 1995, 43, 1005−1011)。このようなリポソームは、おそらく血管新生化標的組織における溢出および捕捉によって腫瘍中に選択的に蓄積されることが示されている(Lasic et al, Science 1995, 267, 1275−1276;Oku et al, 1995、Biochim. Biophys. Acta, 1238, 86−90)。長時間循環リポソームは、特に、MPS組織中に蓄積されることが知られている従来のカチオン性リポソームと比較して、DNAおよびRNAの薬物動態および薬力学を向上させる(Liu et al, J. Biol. Chem. 1995, 42, 24864−24870;PCT公開第WO96/10391号;PCT公開第WO96/10390号;およびPCT公開第WO96/10392号)。また、長時間循環リポソームは、肝臓および脾臓などの代謝的に活発なMPS組織における蓄積を回避するそれらの能力に基づいて、カチオン性リポソームと比べて薬剤をヌクレアーゼ分解から保護する程度が高い可能性がある。
治療用組成物は、薬剤的に許容される担体または希釈剤中、医薬的に有効量の所望の化合物を含み得る。治療用途に許容される担体または希釈剤は、当該医薬技術分野で周知であり、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES, Mack Publishing Co.(A. R. Gennaro edit. 1985)に記載されている。例えば、保存剤、安定剤、色素、および賦香剤を用いることができる。これらとしては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。加えて、酸化防止剤および懸濁化剤を使用できる。
薬剤的に有効な用量とは、疾患状態の予防、発症の阻害、または治療(症状のある程度の緩和、好ましくはすべての症状の緩和)に必要な用量である。薬剤的に有効な用量は、疾患の種類、用いられる組成物、投与経路、治療される哺乳動物の種類、検討される特定の哺乳動物の身体的特徴、併用投薬、医薬分野の当業者が認める他の因子に依存する。一般的には、負に荷電したポリマーの効力に応じて、0.1mg/kg〜100mg/kg体重/日の量の活性成分を投与する。
前記の病状の治療において、1日に体重1kgあたり約0.1mg〜約140mg程度の用量レベルが有効である(1日に患者あたり約0.5mg〜約7g)。担体物質と組み合わせて単一の投与形態を産生できる活性成分の量は、治療される宿主および特定の投与様式によって様々である。単位投与形態は、一般的に、約1mg〜約500mgの活性成分を含有する。任意の特定患者に対する特定の用量レベルは、用いる特定化合物の活性、年齢、体重、全体的な健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、および排出率、薬剤の組合せ、ならびに治療を受けている特定の疾患の重篤度をはじめとする様々な因子に依存すると解釈される。
ヒト以外の動物への投与に関しては、組成物を、動物用の飼料または飲料水に添加することもできる。動物が食餌と共に治療上適切な量の組成物を摂取するように、動物用の飼料および飲料水の組成物を処方することは好都合であり得る。また、飼料または飲料水に添加するためのプレミックスとして該組成物を提供することも好都合であり得る。
本発明の実施において有用なROS阻害治療薬は、前記のような1つの化合物を含んでもよいし、または同じ種類の阻害剤(例えば、抗体阻害剤)であるか、もしくは異なる種類の阻害剤(例えば、抗体阻害剤と小分子阻害剤)であるかどうかに関わらず、複数の化合物の組み合わせを含んでもよい。化合物のこのような組合せは、融合タンパク質を発現している癌の進行の阻害において全体的な治療効果を増大させ得る。例えば、治療組成物は、STI−571(Gleevec(登録商標))単独などの1種類の小分子阻害剤であってもよいし、あるいはROS活性を標的とする他のGleevec(登録商標)類似体および/またはTarceva(商標)またはIressa(商標)などのEGFRの小分子阻害剤との組み合わせであってもよい。治療組成物は、1以上の標的化阻害剤に加えて、1以上の非特異的化学療法剤も含み得る。このような組合せは、多くの癌において相乗的殺腫瘍効果を提供することが最近証明されている。インビボでのROS活性および腫瘍成長の阻害におけるこのような組合せの有効性は、以下で記載するようにして評価することができる。
本発明はまた、部分的には、化合物が癌において変異ROSポリペプチドのROSキナーゼ活性を阻害するかどうかを判定することによって、化合物がFIG−ROSの転座および/または融合ポリペプチドを特徴とするか、あるいは変異ROSポリヌクレオチドまたはポリペプチドを特徴とする癌(たとえば、肝臓、膵臓、腎臓、もしくは精巣癌)の進行を抑制するかどうかを判定する方法も提供する。いくつかの実施形態では、骨髄、血液、または腫瘍由来の細胞を含む生体試料を調べることによって、ROSの活性の阻害を判定する。別の実施形態では、少なくとも1つの本発明の少なくとも1つの変異ROSポリヌクレオチドまたはポリペプチド特異的試薬を用いて、ROSの活性の阻害を判定する。
試験される化合物は、前記のような任意の種類の治療薬または組成物であってよい。化合物の効力をインビトロおよびインビボの両方において評価する方法は、当該技術分野で十分に確立されており、公知である。例えば、ROSキナーゼが活性化している細胞または細胞抽出物を用いて、インビトロでROSを阻害する能力について組成物を調べることができる。化合物のパネルを用いて、(EGFRまたはPDGFRなどの他の標的に対して)ROSに関する化合物の特異性を試験することができる。
PCT公開第WO84/03564号で記載されるように、使用できる別の薬剤スクリーニング技術により、目的とするタンパク質に対して好適な結合親和性を有する化合物のハイスループットスクリーニングを行うことができる。この方法では、本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドに適用される場合、多数の様々な小さな試験化合物を、プラスチックピンまたは他の何らかの表面などの固体基体上で合成する。試験化合物を、FIG−ROS融合ポリペプチドまたはそのフラグメントと反応させ、洗浄する。結合したポリペプチド(たとえば、FIG−ROS(L)、FIG−ROS(XL)、またはFIG−ROS(S)融合ポリペプチド)を次いで、当該技術分野で周知の方法によって、検出する。精製されたFIG−ROS融合ポリペプチドを、前記の薬剤スクリーニング技術で用いるために、プレート上に直接コーティングすることもできる。あるいは、非中和抗体を用いて、ペプチドを捕捉して、これを固体支持体上に固定することができる。
インビトロでROS活性の有効な阻害剤であることが判明した化合物を次いで、FIG−ROS融合ポリペプチドを発現するヒト肝臓、膵臓、腎臓、または精巣腫瘍(たとえば胆管癌)を有する哺乳動物異種移植片を用いて、インビボでFIG−ROS融合ポリペプチドを発現する癌(たとえば肝臓癌、精巣癌、腎臓癌、または膵臓癌)の進行を阻害するその能力について調べることができる。この方法では、FIG−ROS融合タンパク質(たとえば、FIG−ROS(S)、FIG−ROS(XL)、またはFIG−ROS(L))を発現することが知られている癌細胞系を動物(たとえば、ヌードマウスもしくはSCIDマウス、または他の免疫抑制動物)の皮下に設置する。その後、細胞は、視覚的にモニタリングし得る腫瘍塊に成長する。動物を次いで該薬剤で治療することができる。薬剤治療が腫瘍サイズに及ぼす効果を、外部から観察することができる。動物を次いで屠殺し、IHCおよびウェスタンブロットによる分析のために腫瘍を取り出す。同様に、標準的な方法によって、哺乳動物の骨髄移植片を調製して、変異ROSキナーゼを発現している血液学的腫瘍における薬剤反応性を調べることができる。このようにして、薬剤の効果を、患者に最もよく似た生物学的設定において観察することができる。該腫瘍細胞または周囲の間質細胞におけるシグナル伝達を変化させる薬剤の能力を、リン酸化特異的抗体を用いた分析によって測定することができる。また、細胞死の誘発または細胞増殖の阻害における該薬剤の有効性を、切断されたカスパーゼ3および切断されたPARPなどのアポトーシス特異的マーカーを用いた分析によって観察することもできる。
このような化合物の毒性および治療効果を、培養細胞または実験動物において、例えばLD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)を測定するためになどの標準的な薬剤処置により測定することができる。毒性と治療効果との用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。いくつかの実施形態では、化合物は高い治療指数を示す。
以下の実施例は、本発明をさらに例示するためにのみ記載するものであって、本明細書に添付の特許請求の範囲において記載される以外は、本発明の範囲を限定することを意図しない。本発明は、本明細書中で教示される方法の修飾および変形態様を包含し、これらは当業者に明らかであろう。特に別段の記載がない限り、言及される物質、試薬などは、商業的供給源から入手可能である。
実施例1
全体的なホスホペプチドプロファイリングによる肝臓癌患者におけるROSキナーゼ活性の同定
最近記載された、複雑な混合物から修飾ペプチドを単離して質量分析で特性化するための強力な技術(「IAP」技術、米国特許公開第20030044848号、Rush et al, “Immunoaffinity Isolation of Modified Peptides from Complex Mixtures”を参照)を用いて、患者XY3−78Tおよび090665LCを含む数人のヒト肝臓癌患者におけるキナーゼ活性化の全体的なリン酸化反応プロファイルを調べた。リン酸化チロシン特異的抗体(CELL SIGNALING TECHNOLOGY,INC.(マサチューセッツ州ベバリー)、2003/04カタログ番号9411)を用いてIAP技術を実施し、23人のヒト患者から採取した肝臓細胞および類腫瘍組織の抽出物からホスホチロシンを含むペプチドを単離し、次いで、その特性化を行った。
肝臓癌細胞試料
PhosphoScan分析、RNA、およびDNA抽出に十分な材料が入手可能な場合は、患者から外科的切除より肝臓腫瘍(n=23)を集めた。Edmondson分類システムによると、全ての腫瘍試料は分別グレードII〜IIIを有する。集められた腫瘍を標準的な方法にしたがって液体窒素中で凍結した。
ホスホペプチド免疫沈降
合計0.2g〜0.5gの腫瘍組織を尿素溶解緩衝液(20mM HEPES pH8.0、9M尿素、1mMバナジウム酸ナトリウム、2.5mMピロリン酸ナトリウム、1mMベータ−グリセロホスフェート)中、1.25×108細胞/mlで均質化し、溶解し、超音波処理した。超音波処理された溶解液を20,000×gでの遠心分離によって清澄化し、すでに記載されているようにしてタンパク質を還元し、アルキル化した(Rush et al, Nat. Biotechnol. 23(1):94−101(2005)を参照)。試料を20mMのHEPES pH8.0で希釈して、2Mの最終尿素濃度にした。トリプシン(0.001MのHCl中1mg/ml)を清澄化された溶解液に1:100v/vで添加した。試料を室温で一夜消化させた。
消化後、溶解液を酸性化して1%TFAの最終濃度にした。Cell Signaling Technology, Inc.(マサチューセッツ州ダンバース)から市販されているPhosphoScanキットを用いてホスホペプチドを調製した。手短に言うと、すでに記載されているようにして、Sep−Pak C18カラムを用いてペプチド精製を実施した(Rushら、前出を参照)。精製後、全溶出液(0.1%TFA中10%、15%、20%、25%、30%、35%および40%のアセトニトリル)を合し、凍結乾燥した。乾燥ペプチドを1.4mlのMOPS緩衝液(50mMのMOPS/NaOH pH7.2、10mMのNa2HPO4、50mMのNaCl)中に再懸濁させ、12,000×gで10分間遠心分離することによって不溶性物質を除去した。
腹水由来のホスホチロシンモノクローナル抗体P−Tyr−100(Cell Signaling Technology, Inc.(マサチューセッツ州ダンバース))を、タンパク質Gアガロースビーズ(Roche)と4mg/mlビーズで一夜4℃にて非共有結合させた。結合後、抗体−樹脂をPBSで2回、MOPS緩衝液で3回洗浄した。固定化抗体(40μl、160μg)をMOPS IP緩衝液中1:1スラリーとして、可溶化ペプチドフラクションに添加し、混合物を4℃で一夜インキュベートした。固定化抗体ビーズをMOPS緩衝液で3回、ddH2Oで2回洗浄した。ペプチドを、40μlの0.1%TFAでそれぞれ20分間インキュベートすることによって、ビーズから2回溶出させ、フラクションを合した。
LC−MS/MS質量分析法による分析
IP溶出液(40μl)中のペプチドを、溶出した抗体からStopおよびGo抽出チップ(StageTips)を用いて濃縮し、分離した(Rappsilber et al., Anal. Chem., 75(3):663−70(2003)を参照)。ペプチドを、マイクロカラムから1μlの60%MeCN、0.1%TFAを用いて7.6μlの0.4%酢酸/0.005%ヘプタフルオロ酪酸(HFBA)中に溶出させた。試料を、不活性サンプルインジェクションバルブを有するFamosオートサンプラー(Dionex)を用いてMagic C18AQ逆相樹脂(Michrom Bioresources)を充填した1cm×75μmのPicoFritキャピラリーカラム(New Objective)にかけた。カラムを、280nl/分で供給される0.4%酢酸、0.005%HFBA中アセトニトリルの45分の直線的勾配を用いて展開させた(Ultimate, Dionex)。
タンデム質量スペクトルをすでに記載されているようにして集めた(Rikova et al.,Cell 131:1190−1203−, 2007)。手短に言うと、pTyrを含むペプチドを逆相マイクロチップ上で濃縮した。LTQ Orbitrap Mass Spectrometerを用いてLC−MS/MS分析を実施し、10ppmのペプチド質量精度はペプチド同定に用いられるフィルターの1つであった(Thermo Fisher Scientific)。LTQ−Orbitrapハイブリッド質量分析計を使用し、トップテン法を用いて、動的除外反復カウント1、反復期間30秒で試料を集めた。MSスペクトルを質量分析計のOrbitrap成分中に集め、MS/MSスペクトルをLTQ中に集めた。
データベース分析および帰属.
TurboSequest(ThermoFinnigan)(Bio Works 3.0の一部として供給されるSequest Browser package(v.27、rev.12)中)を用いてMS/MSスペクトルを評価した。各MS/MSスペクトルを、Sequest BrowserプログラムCreateDtaを用い、以下の設定で生データファイルから抽出した:下限MW、700;上限MW、4,500;最小イオン数、20;最小TIC、4×105;前駆体荷電状態、非特定。試料注入前の生データファイルの開始から溶出勾配の最後まで、スペクトルを抽出した。Sequest分析用にMS/MSスペクトルをさらに選択するために、IonQuestおよびVuDtaプログラムを使用しなかった。以下のTurboSequestパラメータを用いてMS/MSスペクトルを評価した:ペプチド質量許容値、2.5;フラグメントイオン許容値、0.0;修飾ごとに異なるアミノ酸の最大数、4;マスタイプペアレント、平均;マスタイプフラグメント、平均;内部切断部位の最大数、10;bおよびyイオンからの水およびアンモニアのニュートラルロスは相関分析で考慮した。エラスターゼ消化物から集められたスペクトルを除いてタンパク質分解酵素を特定した。
酸化メチオニン(M+16)およびリン酸化反応(Y+80)を動的修飾として許容して、37742のタンパク質を含む03/04/2008に公開されたNCBIヒトデータベースに対して検索を行った。
プロテオミクス研究において、タンパク質が実際に試料中に存在することを示すために、1回の実験結果で1つのペプチドの観察のみに基づいてタンパク質同定を確認することが望ましい。これは、まだ広く認められていない、ペプチド帰属を確認するための統計的方法の開発につながり、タンパク質およびペプチド同定結果の公開のためのガイドラインの開発につながり(Carr et al., Mol. Cell Proteomics 3:531−533(2004)を参照)、この実施例ではこれらにしたがった。しかし、イムノアフィニティー法は、リン酸化ペプチドを非リン酸化ペプチドから分離するので、タンパク質から1つだけホスホペプチドが観察されるのが共通の結果である。なぜなら、多くのリン酸化タンパク質は1つしかチロシン−リン酸化部位を有さないからである。
このため、ホスホペプチド帰属を確認するためにさらなる基準を使用することが適切である。これらのさらなる基準のいずれかを満たすならば、帰属は正しい可能性が高い:(i)MS/MSスペクトルは荷電状態によって著しく変わるので、同じ配列を様々な荷電状態で共溶出されるイオンに帰属する;(ii)不完全なタンパク質分解またはトリプシン以外のプロテアーゼの使用から起こる配列の重複のために、部位が2以上のペプチド配列で見いだされる;(iii)相同性であるが、同一でないタンパク質イソ形のために2以上のペプチド配列で部位が見いだされる;(iv)種間で相同性であるが、同一でないタンパク質のために、部位が2以上のペプチド配列関係で見いだされる;および(v)イオントラップ質量分析計は高い再現性でMS/MSスペクトルを生じるので、合成ホスホペプチドのMS/MS分析により検証された部位は、帰属された配列に対応する。最後の基準は、特に興味深い新規帰属部位を確認するために通常どおり用いられる。
Sequestによってなされた全スペクトルおよび全配列帰属を関係型データベースに取り込んだ。帰属された配列を、少なくとも1.5のXCorr値および10ppm以内の質量エラー範囲について選別することにより承認した。
前記IAP分析は、多くのチロシンリン酸化タンパク質を同定し、そのほとんどは新規である(データは不掲載)。23人の肝臓癌患者のうち、3人は胆管肝臓癌を有していた。胆管肝臓癌の2人の患者、すなわち患者XY3−78Tおよび090665LCは、チロシンリン酸化ROSキナーゼを含むことが判明した肝臓癌試料を有し、これは、腫瘍に隣接する組織におけるMS分析によって検出されず、残りの21人の患者試料のいずれにおいても検出されなかった。
実施例2
FIG−ROS融合遺伝子の単離および配列決定
2つの肝臓癌患者試料において検出されたROSキナーゼの活性化形態が存在するならば、キメラROS転写物が存在するかどうかを判定するために、ROSのキナーゼドメインをコード化する配列に関してcDNA末端の5’高速増幅を行った。
相補的DNA末端の高速増幅
RNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して、ヒト腫瘍試料からRNAを抽出した。DNeasy Tissue Kit(Qiagen)を使用して、DNAを抽出した。cDNA末端の高速増幅を、cDNA合成用にプライマーROS−GSP1ならびにネステッドPCR反応用にROS−GSP2およびROS−GSP3.1を用い、5’RACEシステム(Invitrogen)を使用して実施し、続いてPCR産物のクローニングおよび配列決定を行った。
5’RACEシステムに関して、以下のプライマーを使用した:
ROS−GSP1:5’ACCCTTCTCGGTTCTTCGTTTCCA(配列番号27)
ネステッドPCR反応に関して、以下のプライマーを使用した。
ROS−GSP2:5’TCTGGCGAGTCCAAAGTCTCCAAT(配列番号28)
ROS−GSP3.1:5’CAGCAAGAGACGCAGAGTCAGTTT(配列番号29)
PCR産物の配列決定によって、XY3−78Tおよび090665LCの患者試料におけるROSキナーゼは、キメラROS転写物の実際の生成物であること、すなわちROS転写物の一部とFIG遺伝子の転写物の一部との融合物であることが明らかになった。配列分析により、患者XY3−78Tおよび090665LCの両方ともFIGのN末端に対するROSのC末端の融合から生じる融合タンパク質を含む肝臓癌細胞を有していたことが明らかになった(図2、パネルBおよびCを参照)。両試料におけるFIG−ROS融合はインフレームであった。患者XY3−78Tでは、短い方の融合タンパク質、すなわちFIG−ROS(S)は、ROSの最後の421アミノ酸に対するFIGの最初の209アミノ酸の融合から生じた。患者090665LCにおいて、長い方の融合タンパク質、すなわちFIG−ROS(L)は、ROSの最後の466アミノ酸に対するFIGの最初の412アミノ酸の融合から生じた。
加えて、第3のFIG−ROS融合が発見され(FIG−ROS(XL)、この場合、融合はFIG遺伝子のエクソン7の後でROS遺伝子のエクソン32の前で起こる。融合遺伝子のコーディング領域の核酸配列を配列番号16に記載し、融合遺伝子によってコード化される融合ポリペプチドを配列番号17に記載する。
実施例3
PCRアッセイを用いたヒト癌試料における変異ROSキナーゼ発現の検出
ヒト癌試料における本発明の変異ROSキナーゼおよび/またはFIG−ROS融合タンパク質(例えば、FIG−ROS(S)またはFIG−ROS(S))の存在は、cDNAまたはゲノム逆転写酵素(RT)および/またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて検出した。これらの方法はすでに記載されている。たとえば、Cools el aV, N. Engl. J. Med. 348:1201−1214(2003)を参照。
PCRアッセイ
FIG−ROS融合が起こったことを確認するために、患者XY3−78Tおよび090665LCの肝臓癌細胞試料から抽出されたRNAに関してRT−PCRを実施した。RT−PCRのために、Superscript(商標)III第1鎖合成システム(Invitrogen)とオリゴ(dT)20を使用して2.5ugの全RNAから第1鎖cDNAを合成した。次いで、プライマー対FIG−F2およびROS−GSP3.1を使用して、FIG−ROS融合遺伝子を増幅した。これらの配列は次のとおりである:
FIG−F2:5’ACTGGTCAAAGTGCTGACTCTGGT(配列番号30)
ROS−GSP3.1:5’CAGCAAGAGACGCAGAGTCAGTTT(配列番号31)
図3に示すように、患者XY3−78Tの肝臓癌細胞試料は、FIG−ROS(S)融合ポリペプチドをコード化すると予想されるmRNAを含んでいた。患者090665LCから得られた肝臓癌細胞試料は、FIG−ROS(L)融合ポリペプチドをコード化すると予想されるmRNAを含んでいた。対照として、FIG−ROS(S)転座を含むことが知られているヒトグリア芽種であるU118MG細胞系から単離されたRNAに関してRT−PCRを実施した。U118MG細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(バージニア州マナッサス)から購入し、10%FBSを含むDEEM中で成長させた。
患者090665LCから得られた肝臓細胞試料、患者XY3−78Tから得られた肝臓細胞試料またはU118MGヒトグリア芽腫細胞系が完全長FIGもしくは完全長ROSを発現したかどうかを確認するために、FIG−F2およびROS−GSP3.1プライマーを用いてRT−PCRを実施して、FIG−ROS転座、ならびに続くプライマー対を増幅して、野生型FIG(すなわち完全長FIG)、野生型ROS、および、対照として、野生型GAPDHを増幅した。
プライマー対FIG−F3およびFIG−R8を使用して、野生型FIG遺伝子を増幅した。
FIG−F3:5’TTGGATAAGGAACTGGCAGGAAGG(配列番号32)
FIG−R8:5’ACCGTCATCTAGCGGAGTTTCACT(配列番号33)
プライマー対ROS−Ex31FおよびROS−GSP2を使用して野生型ROS遺伝子を増幅した。
ROS−Ex31F:5’AGCCAAGGTCCTGCTTATGTCTGT(配列番号34)
ROS−GSP2:5’TCTGGCGAGTCCAAAGTCTCCAAT(配列番号35)
プライマー対GAPDH−FおよびGAPDH−Rを使用して野生型GAPDHを増幅した。
GAPDH−F:5’TGGAAATCCCATCACCATCT(配列番号36)
GAPDH−R:5’GTCTTCTGGGTGGCAGTGAT(配列番号37)
図4に示すように、患者XY3−78Tおよび090665LCから得られた肝臓癌細胞は野生型FIGを発現するが、どちらも野生型ROSを発現しない。U118MG細胞系は、野生型FIGも野生型ROSも発現しない。SLC34A2−ROS転座を含むHCC78ヒト非小細胞肺癌細胞系は、負の対照としての働きをした。HCC78細胞をATCC(バージニア州マナッサス)から購入し、10%FBSを含むDMEM中で維持した。
ゲノムPCRのために、DNeasy Tissue Kit(Qiagen)を用いて細胞試料からDNAを抽出した。XY3−78Tについてはプライマー対FIG−F3およびROS−GSP3.1を用いてLongRange PCRキット(Qiagen)を使用して、融合遺伝子のPCR増幅を実施した。
FIG−F3:5’TTGGATAAGGAACTGGCAGGAAGG(配列番号38)
ROS−GSP3.1:5’CAGCAAGAGACGCAGAGTCAGTTT(配列番号39)
090665LCおよびU118MGに関してはプライマー対FIG−F7およびROS−GSP4.1を用いてLongRange PCRキット(Qiagen)を使用して、融合遺伝子のPCR増幅を実施した。
FIG−F7:5’TGTGGCTCCTGAAGTGGATTCTGA(配列番号40)
ROS−GSP4.1:5’GCAGCTCAGCCAACTCTTTGTCTT(配列番号41)
図5に示すように、患者XY3−78Tおよび090665LCの肝臓癌試料のゲノムにおいてFIG−ROS転座が起こった。U118MG細胞系は患者090665LCの細胞と同じFIG−ROS(L)融合ポリペプチドを発現するが、これら2つの試料間でFIGおよびROS遺伝子における正確なゲノム切断点は異なっている。切断点は次のとおりであることが判明した:
XY3−78T
1〜822bpのFIG−イントロン3
659〜619bpのROS−イントロン35
660〜1228bpのROSイントロン35
090665LC
1〜2402bpのFIG−イントロン7
2317〜2937bpのros−イントロン34
U118MG
1〜2304bpのFIG−イントロン7
583〜2937bpのros−イントロン34
ヒトFIG遺伝子のイントロン3のヌクレオチド配列を以下配列番号5として記載する。ヒトFIG遺伝子のイントロン7のヌクレオチド配列を以下配列番号6として記載する。ヒトROS遺伝子のイントロン34のヌクレオチド配列を以下配列番号7として記載する。ヒトROS遺伝子のイントロン35のヌクレオチド配列を以下配列番号8として記載する。
このアッセイを用いて本発明の変異ROSキナーゼおよび/またはFIG−ROS融合タンパク質(例えば、他の生物学的組織試料におけるヒト癌試料中のFIG−ROS(S)またはFIG−ROS(S))の存在を検出することができる(たとえば、腫瘍試料は、肝臓、膵臓、腎臓、または精巣癌を有する患者から得ることができる)。このような分析により、切断型ROSキナーゼ(および/またはFIG−ROS融合タンパク質)の発現により特徴づけられる癌を有する患者が特定され、この患者はROS阻害剤を用いた治療に反応する可能性が高い。
実施例4
Fig−Ros融合ポリペプチドをコード化する組換えレトロウイルスの生成
FIG−ROS(L)およびFIG−ROS(S)融合遺伝子のオープンリーディングフレームを、それぞれ以下のプライマー対を使用して、患者090665LCおよびXY3−78Tから単離されたcDNAからのPCRによって増幅した(FIG−Fc:5’ATGTCGGCGGGCGGTCCATG(配列番号42);ROS−Rc:5’TTAATC AGACCCATCTCCAT(配列番号43))。これらのPCR産物を、C末端Mycタグ(EQKLISEEDL(配列番号44)を含むレトロウイルスベクターMSCV−Neo中にクローンした;(MSCV−neoベクターおよびMSCV−puroベクターはClontechから市販されている)。追加の組換えレトロウイルス構築物(例えば、空MSCV−neoベクター、MSCV−puro−srcなど)も生成させた。MSCV−Neoベクターを含むFIG−ROS(S)を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(「ATCC」、バージニア州マナッサス)にブダペスト条約のもと2009年1月21日に寄託し、ATCC寄託番号PTA−9721を付与した。
結果として得られる組換えレトロウイルス構築物(すなわち、FIG−ROS(S)またはFIG−ROS(L)を含む)を293T細胞中にトランスフェクトして、細胞に感染(そしてその結果、形質導入)することができる組換えレトロウイルス中にパッケージした。これを行うために、293T細胞(例えば、ATCCから市販)を、1cmの組織培養皿中、10%ウシ胎仔血清を含む10%DMED中に保持した。トランスフェクションの24〜48時間前に、293T細胞を約50〜80%のコンフルエンシーで播種した。製造業者の使用説明書に従ってFuGENE試薬(Roche Diagnosticsから市販)を用いてトランスフェクションを実施した。典型的には、各組換え構築物について、3:1比のFuGENE試薬(ul)とDNA(ug)を使用した(例えば、MSCV−Neo中、1ugのMyc標識されたFIG−ROS(S)に対して3ulのFuGENE)。トランスフェクションの48時間後、培地を除去し、培地中の細胞(この時点で組換えウイルスを含む)を、0.45umシリンジフィルターを通して培地を濾過することによって除去した。培地(ウイルススープとも称する)を−80℃で保存した。
実施例5
3T3細胞におけるFIG−ROS融合タンパク質の発現
3T3細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(バージニア州マナッサス)から購入した。3T3細胞を、10%FBSを含むDMEM培地中で37℃にて成長させた。
1mlの実施例4で記載するようにして生成させたFig−Ros融合ポリペプチドをコード化する組換えレトロウイルスを使用して、50%コンフルエンシーで10cmプレートから3T3細胞を形質導入した。加えて、空レトロウイルス(すなわち、C末端Mycタグを有する空MSCV−Neoベクターから生成させる)を対照として3T3細胞に形質導入した。
3T3細胞を、XY3−78TからのFIG−ROS(S)、090665LCからのFIG−ROS(L)を発現する組換えレトロウイルスで感染させた(すなわち、組換えレトロウイルスで形質導入した)。空レトロウイルスをまた使用して、対照として3T3細胞を感染させた。形質導入の2日後、0.5mg/mlのG418を細胞培養培地に添加した。形質導入した2日後(すなわち、G418における選択の12日後)、1000000個の細胞を溶解させ、ウェスタンブロッティング分析を実施し、電気泳動で分割された細胞溶解物を、ROSのキナーゼドメインと特異的に結合する抗体、ならびにROSに対するホスホ抗体で染色した。細胞溶解物を、p−STAT3(すなわち、リン酸化STAT3)、STAT3、p−AKT(すなわち、リン酸化AKT)、およびAKTを含むROSキナーゼのいくつかの下流シグナル伝達基質に対する抗体を用いてプローブした。b−アクチンも染色して、全てのレーンで等量の溶解液が存在することを確実にした。全ての抗体はCell Signaling Technology, Incから得られるものである。
図6に示すように、組換えレトロウイルスで形質導入された3T3細胞は、FIG−ROS(S)およびFIG−ROS(L)を安定して発現した。予想どおり、NC(空ベクター)細胞はROSを発現しなかった。FIG−ROS(S)およびFIG−ROS(L)の発現は、下流シグナル伝達分子であるSTAT3およびAKTを活性化する。
実施例6
インビトロおよびインビボでの3T3細胞の成長に対するFIG−ROS融合タンパク質の影響
3T3細胞は接触阻止能を有する。つまりこれらは軟寒天中でコロニーを形成しない。これらの細胞における活性なROSキナーゼの存在が接触阻止能を除去するかどうかを確認するために、レトロウイルスにより形質導入された3T3細胞をG418(0.5mg/ml)について7日間選択し、細胞を次いで軟寒天中に3連で17日間培養した。SLC34A2−ROSの短い形態をコード化するレトロウイルスも使用して、3T3細胞を形質導入した。対照として、srcキナーゼをコード化するレトロウイルスも使用して、3T3細胞を形質導入した。軟寒天アッセイ用プロトコルを添付する。
図7に示すように、srcキナーゼまたはFIG−ROS(S)をコード化するレトロウイルスのいずれかで形質導入された3T3細胞は、それらの接触阻止能を大幅に失った。これによって、FIG−ROS(S)の存在により、細胞は癌性成長状態になり得ることが立証される。SLC34A2−ROS(S)と同様に(データは不掲載)FIG−ROS(L)の存在によっても3T3細胞はそれらの接触阻止能を失った(図7、上左パネルを参照)が、その効果はFIG−ROS(S)で見られるほど顕著ではなかった。
加えて、形質導入された3T3細胞が腫瘍をインビボで形成する能力を分析した。免疫不全ヌードマウス(胸腺がないもの、Jackson Laboratory(メイン州バーハーバー)から入手可能)に、空ベクター、FIG−ROS(L)またはFIG−ROS(S)を含有するレトロウイルスで形質導入された1×106の3T3細胞を注射した。マウスを腫瘍形成およびサイズに関して毎日モニタリングし、腫瘍が約1cm×1cmになったら、屠殺した。
図8に示すように、FIG−ROS(S)またはFIG−ROS(L)のいずれかで形質導入された3T3細胞を注射した2週間後で、腫瘍形成は、注射されたヌードマウスにおいて明らかであった。
実施例7
3T3細胞におけるFIG−ROS(L)およびFIG−ROS(S)の細胞内局在化
組換えベクターを生成させて、FIG−ROS(L)およびFIG−ROS(S)のMyc標識された形態を発現させた。この場合、mycタグはFIG−ROS融合ポリペプチドのC末端で組み入れられた。3T3細胞を組換え発現ベクターまたは空「neo」のみのベクター(対照)で安定してトランスフェクトした。
標準的なプロトコル(Cell Signaling Technology, Inc.から公的に入手可能)を用いて免疫蛍光を実施した。手短に言うと、9E1H1D9ROS抗体、Myc−Tag抗体(CST番号2278)およびGolgin−97抗体はCell Signaling Technology, Inc.(マサチューセッツ州ダンバース)から入手した。
図9Aおよび9Bに示すように、本発明の2つの異なるFIG−ROS融合ポリペプチドは細胞の異なる部分に局在化していた。FIG−ROS(L)はゴルジ装置に局在化し、Golgiマーカー(Golgin−97)と共存していた(図9Aおよび9B両方の「Myc−FR(L)」の画像を参照)。驚いたことに、FIG−ROS(S)の染色パターンは細胞質であった(図9Aおよび9B両方の「Myc−FR(S)」の画像を参照)が、これはFIGの第2のコイルド・コイルドメインを含み、このことは、FIGのコイルド・コイルドメインが、ゴルジ装置のFIG−ROS(S)を標的とするために必要であるが、十分ではないことを示唆する。これは、FIGのPDZドメインがFIG−ROS(L)中に存在するが、FIG−ROS(S)中に存在しないためである可能性がある。興味深いことに、SLC34A2−ROS(S)は微小核(para−nuclei)区画に局在していた(図9Aおよび9B両方の「Myc−SR(S)」の画像を参照)。ROSの膜貫通ドメインを含むSLC34A2−ROS(S)融合が、核周辺区画に局在するという事実は、ROSの膜貫通ドメインもその局在化の一因となることを示唆する。
したがって、異なるROS融合は明確な細胞内局在を有し、このことはこれらがインビボで異なる基質を活性化し得ることを示唆する。
実施例8
形質導入されたBaF3細胞におけるFIG−ROS(L)およびFIG−ROS(S)活性
ネズミBaF3細胞は、通常、生存するためにインターロイキン3(IL−3)を必要とする。BaF3細胞をDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(ドイツ国))から入手し、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Sigma)および1.0ng/mlのネズミIL−3(R&D Systems)を含むRPMI−1640培地(Invitrogen)中、37℃で保持した。
本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドの発現により、BaF3細胞がIL−3なしで生存することが可能になるかどうかを判定するために、本発明者等は、BaF3細胞を、FIG−ROS(L)およびFIG−ROS(S)をコード化する実施例4で記載したレトロウイルスで形質導入した。加えて、U118MG由来のFIG−ROS(L)をコード化するレトロウイルスも生成させ、これを用いてBaF3細胞を形質導入した。
図10に示すように、FIG−ROS(S)、FIG−ROS(L)、およびU118MG由来のFIG−ROS(L)は、IL−3と共にまたはIL−3なしで成長させたBaF3細胞中で安定して発現された。実際、図11に示すように、本発明者等は、FIG−ROS(L)またはFIG−ROS(S)の存在により、IL−3の非存在下でBaF3細胞が成長可能になることを見いだした。興味深いことに、FIG−ROS(S)を発現するBaF3細胞は、FIG−ROS(L)を発現するBaF3よりも速い速度で成長した。
次に、インビトロキナーゼアッセイを実施して、FIG−ROS融合ポリペプチドのROSキナーゼ部分が活性かどうかを判定した。FIG−ROS形質導入されたBaF3細胞由来の細胞溶解物を、抗Myc−Tag抗体(Myc標識されたFIG−ROS融合ポリペプチドを分解する)を用いた免疫沈降に付した。分解されたROS免疫複合体を細胞溶解緩衝液、続いてキナーゼ緩衝液(Cell Signaling Technology)で3回洗浄した。ROS免疫複合体を、50uM ATP、0.2uCi/ul[ガンマ32p]ATPを含む25ulのキナーゼ緩衝液中に1mg/mlのいずれかのPoly(EY、4:1)とともに再懸濁させることによって、キナーゼ反応を開始した。反応カクテルをp81濾紙上にスポットすることによって反応を停止させた。試料を次いで洗浄し、シンチレーションカウンターを用いた検出によってキナーゼ活性について分析した。図12に示すように、FIG−ROS(L)およびFIG−ROS(S)はどちらも基質をリン酸化することができるが、FIG−ROS(S)の方がFIG−ROS(L)よりも強力である。言い換えると、FIG−ROS(S)はFIG−ROS(L)よりもはるかに高いキナーゼ活性を有する。等しい装填量のレーンを、ROS特異的抗体を用いたROS免疫複合体のウェスタンブロッティング分析において示す(図12、下パネルを参照)。
FIG−ROS(L)と比べてFIG−ROS(S)の高い効力は、軟寒天アッセイ(図7を参照)およびIL−3非依存性成長アッセイ(図11を参照)から得られたデータと一致する。
実施例9
TAE−684に対するFIG−ROS(L)およびFIG−ROS(S)の感受性
構造:
を有し、ALKキナーゼを阻害することが示されている小分子、TAE−684、5−クロロ−2,4−ジアミノフェニルピリミジン。Galkin, et al., Proc. National Acad. Sci 104(1)270−275, 2007。
この実施例では、本発明者等はTAE−684もFIG−ROS融合ポリペプチドを阻害するかどうかを判定した。これを行うために、BaF3およびKarpas299細胞をDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(ドイツ国))から入手した。BaF3細胞を前述のように保持し、Karpas299細胞(リンパ腫細胞系)を、10%FBSを含むRPMI−1640中で成長させた。
BaF3細胞をFIG−ROS(S)、FIG−ROS(L)、またはFLT−3ITD(FLT3における内部縦列重複変異はAML白血病の原因である)をコード化するレトロウイルスで形質導入し、IL3非依存性成長について選択した。NPM−ALKを発現するKarpas299細胞を正の対照として使用した。
CellTiter 96 Aqueous One Solution Reagent(Promega、カタログ番号G3582)を用いてMTSアッセイを実施した。手短に言うと、24ウェルプレート中、1×105細胞/ウェルを、0nM、3nM、10nM、30nM、100nM、300nMまたは1000nMのTAE−684を含む培地1ml中で成長させた。72時間後、20ulのCellTiter 96 Aqueous One Solution Reagentを96ウェルアッセイプレート(平底)の各ウェル中に添加し、次いで100ulの細胞を処理してまたは処理せずに成長させた。培地のみのウェルを対照として使用した。96ウェルプレートを1〜4時間、37℃でインキュベートし、次いで96ウェルプレートリーダーを用いて490nmでの吸光度を読み取ることにより、生存細胞を計数した。
図13に示すように、FIG−ROSポリペプチドのうちの1つを発現するレトロウイルスで形質導入されたBaF3細胞は、TAE−684の存在下で成長を停止した。興味深いことに、FIG−ROS(S)はFIG−ROS(L)よりもTAE−684に対して影響を受けにくい。Karpas299細胞もTAE−684の存在下で反応し(すなわち、成長を停止する)、このことは、Karpas299細胞がALKを発現し、TAE−684がALKキナーゼを阻害するので予想された。FLT3/ITDで形質導入されたBaF3細胞はTAE−684に対して影響を受けにくかった。
BaF3およびKarpas299細胞の死の機構を次に、切断されたカスパーゼ−3をアポトーシスのマーカーとして使用するフローサイトメトリーアッセイによって切断−カスパーゼ3陽性細胞のパーセンテージを測定することにより再検討した。Cell Signaling Technology, Inc.(マサチューセッツ州ダンバース)から公的に入手可能なプロトコルを用いてこれらの結果を得た。
図14に示すように、TAE−684の存在により、FIG−ROS(S)またはFIG−ROS(L)を発現するBaF3細胞はアポトーシスにより死滅した。興味深いことに、TAE−684の存在下で成長を停止するKarpas299細胞は、アポトーシスにより死なず、単に細胞周期が停止しただけであった。したがって、TAE−684がFIG−ROS融合ポリペプチドを阻害する機構は、TAE−684がALKキナーゼを阻害する機構と異なる可能性が高い。
本発明のFIG−ROS融合ポリペプチドに対するTAE−684の作用機構をさらに特定するために、4つの細胞系全て(すなわち、Karpas299細胞およびFIG−ROS(S)、FIG−ROS(L)、およびFLT−3ITDをコード化するレトロウイルスで形質導入されたBaF3細胞)を0、10、50、または100nMのTAE−684で3時間処理した後にウェスタンブロッティング分析に付した。全ての抗体はCell Signaling Technology、Inc.から入手した。
図15に示すように、FIG−ROS(S)およびFIG−ROS(L)を発現するBaF3細胞におけるFIG−ROS(S)およびFIG−ROS(L)両方のリン酸化反応は、TAE−684によって阻害された。加えて、STAT3、AKT、およびERK、ならびにShp2のリン酸化反応は、FIG−ROS(S)およびFIG−ROS(L)を発現するBaF3細胞において阻害された。STAT3、AKT、およびERK、ならびにShp2のリン酸化反応は、FLT−3ITDレトロウイルスで形質導入されたBaF3細胞においては影響を受けなかった。TAE−684もKarpas299細胞におけるALKおよびERKリン酸化反応を阻害した。ROS、ALK、LTK、InsR、およびIGF1Rはチロシンキナーゼの同じファミリーに属するので、これらはキナーゼドメインにおいて類似した構造を共有し得る。ALK、LTK、InsR、およびIGF1Rに対して設計されたキナーゼ阻害剤または抗体は、ROSキナーゼに対して治療効果を有し得る。
実施例10
FISHアッセイを用いたヒト癌試料における変異ROS発現の検出
肝臓癌(例えば、胆管癌)、膵臓癌、腎臓癌、または精巣癌におけるROS融合ポリヌクレオチド(例えば、FIG−ROS(L)、FIG−ROS(S)、FIG−ROS(XL)、SLC34A2−ROS(S)、SLC34A2−ROS(VS)、SLC34A2−ROS(L)、またはFIG−ROS)の存在を、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)アッセイを用いて検出する。このようなFISHアッセイは当該技術分野で周知である(たとえば、Verma et al. Human Chromosomes:A Manualof Basic Techniques, Pergamon Press, New York, N. Y.(1988)を参照)。
これを行うために、パラフィン包埋ヒト腫瘍試料を調べた。調べたいくつかの組織には、肝臓、膵臓、精巣、および腎臓癌、特にこれらの組織の全ての管を冒す癌が含まれる。
ROS遺伝子が関与する再配列を分析するために、二色分解(dual color break−apart)プローブを設計することができる。図16に示すように、いくつかのBACプローブは染色体6上のFIGおよびROS遺伝子を取り囲む。これらのプローブはFIG遺伝子(GOPC遺伝子とも呼ばれる、図16を参照)とROS遺伝子との間の転座を同定するために理想的であるが、これらのプローブは他のROS遺伝子転座を同定するためにも使用できる。
これらの研究のために、1つの近接プローブ(BACクローンRP1−179P9)および2つの遠位プローブ(BACクローンRP11−323017、RP1−94G16)(これらは全て市販されており、たとえばInvitrogen Inc.(カリフォルニア州カールスバッド)からカタログ番号RPCI1.CおよびRPCI11.Cとして市販されている)を設計する。近接プローブは、Spectrum Orange dUTPで標識することができ、遠位プローブはSpectrum Green dUTPで標識することができる。ニック翻訳およびFFPE組織切片を用いた間期FISHによるプローブの標識を、次の変更を加えて、製造業者の使用説明書(Vysis Inc., Downers Grove, IL)にしたがって行うことができる。手短に言うと、パラフィン包埋組織切片を再水和し、まず0.2NのHCl中で20分間、続いて1Mのチオシアン酸ナトリウム中、80℃で30分間の前処理に付す。
簡単に洗浄した後、切片をプロテアーゼ(8mgのペプシン、2000〜3000U/mg)で45〜60分間、37℃にて消化し、次いで10%NBF中で固定し、脱水した。プローブセットを次いで切片上にロードし、94℃で3分間インキュベートして、プローブおよび標的染色体を変性させる。変性後、スライドを37℃で最低18時間インキュベートする。洗浄後、Vectashieldマウンティング培地(Vector Laboratories(カリフォルニア州バーリンゲーム))中で4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI;mg/ml)を核対比染色に使用する。
FIG−ROS再配列プローブは、異なって標識された3つのプローブを含む。これらのプローブのうちの2つ(RP11−323017、RP1−94G16)は、FIG遺伝子およびROS遺伝子の切断点間の欠失部分を標的とし、他のプローブ(RP1−179P9)はROS遺伝子の残りの部分を標的とする(図16を参照)。FIGおよびROS遺伝子の切断点を含むイントロンの配列を、配列番号5(FIGのイントロン3)、配列番号6(FIGのイントロン7)、配列番号7(ROSのイントロン33)、配列番号8(ROSのイントロン34)、および配列番号26(ROSのイントロン31)に記載する。実施例2で特定された切断点に基づいてプローブを設計する。ハイブリダイズする場合、天然の(すなわち、野生型)ROS領域はオレンジ/緑色の融合シグナル(顕微鏡下では黄色に見える場合もある)に見え、一方、(FIG−ROS融合タンパク質においておこるような)この座位での再配列の結果として、オレンジ色のシグナルのみが得られるであろう。なぜなら、緑色プローブの標的部分は欠失しているからである。
CD74(染色体5上)またはSLC34A2(染色体4上)のいずれかを含むROS遺伝子の再配列に関して、これらの遺伝子は染色体6以外の染色体上にあるので、天然の(すなわち、野生型または非再配列)ROS領域はオレンジ/緑色融合シグナル(顕微鏡下では黄色に見える場合もある)に見え、一方、(SLC34A2−ROS融合タンパク質およびCD74−ROS融合タンパク質において起こるような)この座位での再配列の結果として、独立したオレンジ色シグナル(染色体6上)および独立した緑色シグナル(CD74については染色体5上、SLC34A2については染色体4上)が得られるであろう。
FISH分析によって、肝臓癌(例えば、胆管癌)、膵臓癌、腎臓癌、または精巣癌を有する試料集団におけるROS遺伝子転座の発生率は低いことが明らかになる可能性がある。しかし、研究した癌のサブセットは、ROS転座を含むことが予想される。FIG−ROS転座を含むこれらの癌は、ROS阻害剤に対して反応しやすい癌として同定される。言い換えると、癌細胞は、ROS阻害剤を用いた処置(または接触)により、未処置の癌細胞(すなわち、ROS阻害剤と接触していない細胞)と比べると、成長の遅延、成長抑止(すなわち、成長の停止)または実際には死(例えば、アポトーシスによる)を示すことが予想される。
実施例11
ヒト肝臓癌における変異ROS発現の同定
次に、ROS発現がヒト肝臓癌由来の試料において観察できるかどうかを判定するための研究を実施した。2つの最も一般的な種類の肝臓癌は、全症例の80%を占める肝細胞癌(HCC)、および肝胆汁性腫瘍の10〜15%に相当する胆管癌(CCA、すなわち胆管癌)である(Blechacz et al, Hepatology 48:308−321, 2008およびde Groen, P.C., N Engl J Med 341 :1368−1378, 1999)。これらの研究のために、ROSのC末端と特異的に結合するROS特異的抗体(クローン番号D4D6)を使用した。このような抗体は市販されている(たとえば、Santa Cruz Biotechnology, Inc.(カリフォルニア州サンタクルーズ)から得られるROS(C−20)抗体、カタログ番号sc−6347を参照)。
胆管癌に関する研究のために、19のヒト胆管癌パラフィン包埋組織ブロックおよびスライドをBioChain Institute, Inc.(カリフォルニア州ヘーワード)、Folio Biosciences(オハイオ州コロンバス)およびAnalytical Biological Services, Inc.(デラウェア州ウェルミントン)から入手した。4〜6μmの組織切片を、キシレンを3回(それぞれ5分間)交換することによって脱パラフィン化し、次いで100%エタノールを2回、そして95%エタノールを2回(それぞれ5分間)交換することによって脱水した。
脱パラフィン化したスライドを次いで5分間、それぞれdiH2Oを3回交換してリンスし、次いでDecloaking Chamber(Biocare Medical(カリフォルニア州コンコード))中で抗原回復に付した。スライドをTissue Tekから入手した24フライドホルダー中で、250mlの1.0mM EDTA、pH8.0中に浸漬した。Decloaking Chamberを500mlのdiH2Oで満たし、スライドホルダーをこのチャンバー中、熱シールドと接触して設置し、回復を製造業者による設定どおり以下の設定で実施した:SP1 125℃で30秒間およびSP2 90℃で10秒間。スライドをベンチ上で10分間冷却し、diH2O中でリンスし、3%H2O2に10分間沈め、次いでdiH2O中で2回洗浄した。
加湿チャンバー中で、Tris緩衝塩溶液+0.5%Tween−20(TBST)/5%ヤギ血清中、室温で1時間ブロッキングした後、スライドを、SignalStain(登録商標)Antibody Diluent(カタログ番号8112 Cell Signaling Technology(マサチューセッツ州ダンバース))中で0.19μg/mlに希釈したROS(D4D6)XP(商標)ウサギmAbとともに4℃で一夜インキュベートした。TBST中で3回洗浄した後、加湿チャンバー中、室温で30分間インキュベーションしつつ、SignalStain(登録商標)Boost IHC検出試薬(HRP、ウサギ)(カタログ番号8114 Cell Signaling Technology(マサチューセッツ州ダンバース))を用いて検出を行った。
TBST中で3回洗浄してSignalStain(登録商標)Boost IHC Detection Reagentを除去した後、スライドを次に、製造業者の使用説明書によって調製したNovaRed(Vector Laboratories(カリフォルニア州バーリンゲーム))に暴露した。スライドを1分間展開させ、次いでdiH2O中でリンスした。ヘマトキシリン(Invitrogen(Carlsbad, CA)の既製品、カタログ番号00−8011)中で1分間インキュベートすることによってスライドを対比染色し、30秒間diH2O中でリンスし、青味剤(Richard Allan Scientific(ミシガン州カラマズー)(Thermo Scientific company)、カタログ番号7301)中で20秒間インキュベートし、次いで最後にdiH2O中で30秒間洗浄した。95%エタノールを2回(それぞれ20秒間)交換し、100%エタノールを2回(それぞれ2分間)交換してスライドを脱水した。キシレンを2回(それぞれ20秒間)交換してスライドを洗浄し、次いで空気乾燥した。VectaMount(Vector Laboratories(カリフォルニア州バーリンゲーム))を用いてカバーガラスを載せた。スライドを空気乾燥し、次いで顕微鏡下で評価した。
19個の分析した試料のうち、6個の試料はROS特異的抗体の結合について陽性に染色された。図17は、ROS発現について陽性に染色されたCCA組織試料からのスライドの代表的な画像を示す。ROSは正常な胆管組織で発現されず、正常な肝臓組織でも発現されないので、この発見は注目に値する。
ROS特異的抗体で強力な染色を示す試料の配列決定分析により、変異ROS発現の存在(例えば、正常な胆管癌組織では存在しない、胆管癌組織における野生型の過剰発現)または切断型ROSポリペプチドもしくはROS融合タンパク質(例えば、FIG−ROS融合ポリペプチド)の存在のいずれかが明らかになると予想される。
肝細胞癌について研究するために、4μmで分割した23のパラフィン包埋ヒトHCC組織を、キシレンを3回(それぞれ5分間)交換することにより脱パラフィン化し、100%エタノールを2回、そして95%エタノールを2回(それぞれ5分間)交換することによって脱水した。スライドを5分間、それぞれ3回diH2Oを交換してリンスし、次いで以下のようにしてDecloaking Chamber(Biocare Medical(カリフォルニア州コンコード))中で抗原回復に付した。スライドをTissue Tekから入手した24スライドホルダー中、250mlの1.0mM EDTA、pH8.0中に浸漬した。Decloaking Chamberを500mlのdiH2Oで満たし、スライドホルダーをチャンバー中、熱シールドに接触して設置し、製造業者により設定されているような以下の設定を用いて回復を実施した:SP1 125℃で30秒間およびSP2 90℃で10秒間。スライドをベンチ上で10分間冷却し、diH2O中でリンスし、3%H2O2中に10分間沈め、次いでdiH2O中で2回洗浄した。
加湿チャンバー中、1時間室温にてTris緩衝塩溶液+0.5%Tween−20(TBST)/5%ヤギ血清中でブロッキングした後、スライドをSignalStain(登録商標)抗体希釈剤(#8112Cell Signaling Technology、マサチューセッツ州ダンバース)中で0.19μg/mlで希釈したROS(D4D6)XP(商標)ウサギmAbとともに4℃で一夜インキュベートした。TBST中で3回洗浄した後、30分間加湿チャンバー中、室温でインキュベーションしつつ、SignalStain(登録商標)Boost IHC検出試薬(HRP、ウサギ)(#8114Cell Signaling Technology、マサチューセッツ州ダンバース)を用いて検出を行った。
TBST中で3回洗浄した後、製造業者の使用説明書にしたがって調製したNovaRed(Vector Laboratories(カリフォルニア州バーリンゲーム))にスライドを暴露した。スライドを1分間展開させ、次いでdiH2O中でリンスした。スライドをヘマトキシリン(既製品Invitrogen #00−8011)中で1分間インキュベートすることによって対比染色し、diH2O中で30秒間リンスし、青味剤(Richard Allan Scientific #7301)中で20秒間インキュベートし、次いで最終的にdiH2O中で30秒間洗浄した。スライドを、95%エタノールを2回(それぞれ20秒間)交換し、100%エタノールを2回(それぞれ2分間)交換して脱水した。スライドを、キシレンを2回(それぞれ20秒間)交換して洗浄し、次いで空気乾燥した。VectaMount(Vector Laboratories(カリフォルニア州バーリンゲーム))を用いてカバーガラスを載せた。スライドを空気乾燥し、次いで顕微鏡下で評価した。
分析した23個の試料のうち、1つの試料はROS特異的抗体による染色に対して強力に陽性であり(すなわち、結合し)、9個は弱〜中程度の染色を示した。図18は、ROS発現に対して中程度に陽性染色したHCC組織試料から得られたスライドの代表的な画像を示す。ROSは正常な胆管組織で発現されず、正常な肝臓組織でも発現されないので、この発見は注目に値する。
ROS特異的抗体で強力な染色を示す試料の配列決定分析は、変異ROS発現の存在(例えば、正常な肝臓組織中にはない肝細胞癌組織における野生型ROSの過剰発現)または切断型ROSポリペプチドもしくはROS融合タンパク質(例えば、FIG−ROS融合ポリペプチド)の存在のいずれかを明らかにすると予想される。
使用されるROS抗体がこれらの肝臓組織における変異ROSと結合できるかどうかを判定するために、競合するROSペプチドの存在下または非存在下でHCC78細胞(SLC34A2−ROS融合ポリペプチドを発現することが知られている非小細胞肺癌)に関してIHCアッセイを実施した。
IHCアッセイをHCCおよびCCA組織試料について前記の通り実施した。手短に言うと、パラフィン包埋HCC78細胞ペレットを、キシレンおよび段階的エタノールを3回変更することにより脱パラフィンし、再水和し、次いでdiH2O中でリンスした。スライドを、1.0mMのEDTA(pH8.0)中、マイクロ波中で抗原回復に付した。TBST/5%ヤギ血清中で1時間ブロッキングした後、スライドを、ROS(D4D6)XP(商標)ウサギmAb(0.19μg/ml)とともに、ペプチドの非存在下または13の異なるROSペプチドのうちの1つの存在下(1.9μg/ml)で4℃にて一夜インキュベートした。ROSペプチドは次のとおりであった:
ペプチド番号:M09−6291
ペプチド名:ROS−1
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGCGQGEEKSEG(配列番号45)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド番号:M09−6300
ペプチド名:ROS−10
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGSGKPEGLNYA(配列番号46)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド番号:M09−6301
ペプチド名:ROS−11
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGGLNYACLTHS(配列番号47)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド数:M09−6302
ペプチド名:ROS−12
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGCLTHSGYGDG(配列番号48)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド番号:M09−6303
ペプチド名:ROS−13
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGTHSGYGDGSD(配列番号49)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド番号:M09−6292
ペプチド名:ROS−2
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGEKSEGPLGSQ(配列番号50)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド番号:M09−6293
ペプチド名:ROS−3
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGPLGSQESESC(配列番号51)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド番号:M09−6294
ペプチド名:ROS−4
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGESESCGLRKE(配列番号52)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド番号:M09−6295
ペプチド名:ROS−5
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGGLRKEEKEPH(配列番号53)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド番号:M09−6296
ペプチド名:ROS−6
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGEKEPHADKDF(配列番号54)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド番号:M09−6297
ペプチド名:ROS−7
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGADKDFCQEKQ(配列番号55)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド番号:M09−6298
ペプチド名:ROS−8
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGCQEKQVAYCP(配列番号56)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
ペプチド番号:M09−6299
ペプチド名:ROS−9
ペプチド配列:(ビオチン)AGAGVAYCPSGKPE(配列番号57)
ペプチドカルボキシル末端:CONH2
合成スケール(μmol):5
洗浄後、SignalStain(登録商標)Boost IHC Detection Reagent(HRP、ウサギ)#8114およびNovaRed(Vector Laboratories(カリフォルニア州バーリンゲーム))を用いて検出を実施した。
結果は、ペプチド9のみがIHCスライドの抗体の結合と競合することができたことを示す。図19Aは、ペプチドROS−1を添加したIHCスライドを示し、図19BはペプチドROS−9を添加したスライドを示す。したがって、ROS−9の配列、すなわちAGAGVAYCPSGKPE(配列番号58)は、これらの研究で使用した抗体により特異的に結合されるROSキナーゼフラグメント内にある。この配列はROSキナーゼのキナーゼドメイン内にあるようなので、これらの研究は、ROS特異的抗体との結合に関して陽性染色されたCCAおよびHCC組織がROSのキナーゼドメインを発現したことを強力に示唆する。
本発明は例示された実施形態を特に参照して記載したが、多くの修正は当業者には明らかに理解されるであろう。したがって、前記事項および添付の図面は、本発明の例示であって、限定的な意味を持たないと解釈されるべきである。